【実施例1】
【0015】
始めに、実施例1の車両用シート1の構成について、
図1〜
図6を用いて説明する。本実施例の車両用シート1は、
図1に示すように、自動車の助手席シートとして構成されており、背凭れとなるシートバック2と、着座部となるシートクッション3と、頭部の凭れ部となるヘッドレスト6と、を有する。シートクッション3は、車両のフロア上に設置されており、シートバック2は、その左右両サイドの下端部が、それぞれ、シートクッション3の左右両サイドの後端部に対し、回転止め可能な回転軸装置として機能する円盤状のリクライニング装置4を間に介して連結された構成となっている。これにより、シートバック2は、シートクッション3に対して、背凭れ角度の調節が行える状態に連結された状態とされている。
【0016】
上記シートバック2は、常時は、各リクライニング装置4が回転止めされた状態とされていることにより、その背凭れ角度が固定された状態に保持されている。上記シートバック2の背凭れ角度の固定状態は、シートクッション3の車両外側(図示右側)の側部に設けられた操作レバー4Aを引き上げる操作によって解除されるようになっている。具体的には、操作レバー4Aが引き上げ操作されることにより、各リクライニング装置4の回転止め状態が一斉に解除されて、シートバック2の背凭れ角度が自由に変えられる状態に切り替えられる。
【0017】
ここで、上述したシートバック2とシートクッション3との間には、シートバック2に対して、常時、前回転させる方向の附勢力をかける渦巻きばね5が掛着されている。この渦巻きばね5の附勢力により、シートバック2は、その背凭れ角度の固定状態が解かれることで、着座乗員の背部に押し当てられる位置まで起こし上げられた状態となり、着座乗員の背部を前後に傾動させる動きに追従してその背凭れ角度位置が変えられるようになっている。なお、各リクライニング装置4の基本構造は、特開2011−116303号公報等の文献に開示されたものと同じ構成となっているため、その具体的な構成についての説明は省略することとする。上述したヘッドレスト6は、シートバック2の上部に装着されて固定されている。
【0018】
ところで、上述した車両用シート1には、着座乗員の身体を拘束する図示しないシートベルト装置が装備されており、シートバック2の車両外側の肩口部には、上記シートベルト装置のウェビング(図示省略)をシートバック2の背部に設けられたリトラクタ(図示省略)から肩口を通して前側に引き出すためのベルト引出口2Bが設定されている。このベルト引出口2Bから引き出されたウェビングは、着座乗員の身体に装着される使用時には、上記ベルト引出口2Bから前側に引き出されて着座乗員の身体に斜めに掛けられた状態とされて、同ウェビングに通された図示しないタングにより、シートクッション3の車両内側(図示左側)の側部に設けられた図示しないバックルに装着されて固定されるようになっている。なお、上述したいわゆるシートバック2付けのシートベルト装置に関する基本構造は、特開2011−131697号公報等の文献に開示されたものと同じ構成となっているため、その具体的な構成についての説明は省略することとする。
【0019】
上記シートベルト装置が着座乗員の身体に装着された状態では、例えば、車両の前部衝突が発生して、着座乗員の身体が上述した図示しないウェビングに強く圧し掛かる荷重が作用すると、このウェビングの引出口となるベルト引出口2Bには、上記ウェビングを介して前方向に強く引張られようとする力がかけられる。そして、この力の作用によって、ベルト引出口2Bが設定されたシートバック2の車両外側のサイドフレーム21には、そのリクライニング装置4により支持固定された下端部を支点に、肩口部が前側に強く曲げられようとする負荷がかけられる。そのため、本実施例の車両用シート1では、上記大荷重作用時に強い曲げの負荷がかけられる車両外側のサイドフレーム21に、曲げ変形しにくい高い構造強度を持たせた構成となっている。ここで、サイドフレーム21が、本発明の「サイドフレーム」に相当する。
【0020】
以下、上記シートバック2のフレーム構造を成すシートバックフレーム20の構成について説明する。シートバックフレーム20は、シートバック2の左右両側部の骨格を成す縦長状の鋼板材より成るサイドフレーム21,22と、これらサイドフレーム21,22の上端部間に架け渡されて結合された、シートバック2の上側部の骨格を成すアッパフレーム23と、によって逆U字形状に組まれて構成されている。上記アッパフレーム23は、
図1及び
図3に示すように、円鋼管をL字状に曲げ加工して形成されており、その図示下方側へと折り曲げられた車両内側(図示左側)の一端が、同側のサイドフレーム22の上側部に半パイプ状に絞り込まれて形成された部分に嵌合されて溶着されており、図示右方側へと折り曲げられた車両外側の他端が、同側のサイドフレーム21の上端部に当てられて溶着された状態とされている。
【0021】
上述した各サイドフレーム21,22は、それぞれ、高さ方向に長尺状に延びる形に形成されているが、詳しくは、それらの下端部から上端部にかけての形状が、全体的に後方側に弓状に湾曲した形に形成されている。このような湾曲形状とされていることにより、各サイドフレーム21,22は、着座乗員の腰部の両サイド位置に、それらの形状が前方側に大きく張り出した状態として形成されており、腰部の両サイド位置に腰部を両外側から支持するサイドサポート部を大きく設定したり、腰部をより前方側の位置で強く支えるように設定したりすることができるようになっている。また、シートバック2が後方側に沿った形となっていることにより、後席に座る乗員が足を前に伸ばすことのできる膝元スペースをより広く確保することができるようになっている。
【0022】
ここで、前述した車両内側(図示左側)のサイドフレーム22は、一枚の長尺状の鋼板材を上述した弓状の形にカットして、その前側と後側の各縁部を、それぞれシート内側に折り曲げた、断面「コ」字状の形に形成されている。一方、車両外側(図示右側)のサイドフレーム21は、一枚の長尺状の鋼板材を断面矩形状の形となるように短手方向に折り曲げて、その折り曲げられて合わされた縁部同士の継ぎ目21Eを溶接により閉じ断面形状となるように繋ぎ合わせた、角筒状の形に形成されている。
【0023】
上記車両外側のサイドフレーム21は、上記角筒状の形に形成された後、更なるプレス加工により上述した弓状の形に曲げ加工されている(
図2及び
図4参照)。ここで、上記車両外側のサイドフレーム21には、曲げや捩りに対する構造強度の高い高張力鋼板が採用されており、このような高強度材から成る角筒状の構造物を上記のような弓状の形に曲げ加工すると、高強度材の性質である延性の低下により「皺」や「割れ」等の成形不具合が発生するおそれが懸念される。そこで、上記車両外側のサイドフレーム21には、上記曲げ加工時の成形不具合の発生を抑えるために、その内側の側部面21Aと外側の側部面21Bと後側の縁部面21Dとに、それぞれ、長手方向に沿って筋状に凹んだ形の凹条21F,21G,21Hが形成されている(
図6参照)。
【0024】
ここで、上記車両外側のサイドフレーム21は、
図2に示すように、その前側に面を向けられた前側の縁部面21Cに上述した継ぎ目21Eが位置するように向けられた状態として、後方側に弓状に湾曲した形に曲げられて形成されている。上記各凹条21F,21G,21H(
図6参照)のそれぞれは、上記サイドフレーム21の弓状に曲げられた時の内周側となる後側の縁部面21Dと、サイドフレーム21の内外側の各側面を成す内側の側部面21Aと外側の側部面21Bとに、形成されている。詳しくは、各凹条21F,21G,21Hは、サイドフレーム21の高さ領域のうち、特に後方側に湾曲して形成される部位となる着座乗員の腰部近傍の高さ領域に形成されており、湾曲の少ない上部領域や下部領域には形成されておらず、サイドフレーム21の上記上部領域や下部領域の外周面は、凹みのない平坦な面形状に形成されている。上記各凹条21F,21G,21Hは、具体的には、
図6に示すように、サイドフレーム21の延びる長手方向に沿って断面形状を凹ませる側に筋状に突出するように押し曲げられて形成されている。これら凹条21F,21G,21Hは、それぞれ、サイドフレーム21を上述した閉断面形状の形に折り曲げて溶接する前の段階で、プレス加工により筋状に突出する形に押し曲げられて形成されている。
【0025】
上記各凹条21F,21G,21Hにより、
図2に示すように、車両外側のサイドフレーム21が弓状に湾曲した形に曲げ加工される際に、かかる曲げ力によって後側の縁部面21Dと内側の側部面21Aと外側の側部面21Bとがそれぞれ面方向の圧縮力を受けて局所的に寄せられる方向に変形しようとする各圧縮変形が、上記各凹条21F,21G,21Hに逃がされるようになっている。この逃がしにより、サイドフレーム21は、上記弓状に湾曲した形に曲げ加工されても、上述した面方向の圧縮力を受ける各部位に「皺」や「割れ」等の成形不具合が生じないようになっており、弓状に滑らかに湾曲した良好な形に形成されている。以上により、車両外側のサイドフレーム21が、構造強度の高い高張力鋼板によって、閉断面形状の形に形成されると共に、弓状に滑らかに湾曲した形に形成されている。
【0026】
上記車両外側のサイドフレーム21は、
図1で上述したように、車両内側のサイドフレーム22と幅方向に対向して配置されており、これらの上端部間に跨って架け渡されるアッパフレーム23により互いに一体的な状態に組み付けられて結合された状態とされている。上述した両サイドフレーム21,22の間には、更に、円鋼管をクランク状に折り曲げた形の2本の補強パイプ24,25が、両サイドフレーム21,22の中間部間と下部間とにそれぞれ幅方向に架け渡されて結合された状態とされている。
【0027】
詳しくは、上記両サイドフレーム21,22の中間部間に架け渡された補強パイプ24は、その図示左方側となる車両内側の端部が、板状に押し潰された形とされて、同側のサイドフレーム22のフランジ状に折り曲げられた後側の縁部にあてがわれて溶接により結合された状態とされている。また、補強パイプ24の図示右方側となる車両外側の端部は、同側のサイドフレーム21の内側の側部面21Aと外側の側部面21Bとにそれぞれ貫通するように嵌め込まれた状態として、これら嵌合部に溶接により結合された状態とされている。
【0028】
また、両サイドフレーム21,22の下部間に架け渡された補強パイプ25は、その図示左方側となる車両内側の端部が、同側のサイドフレーム22に貫通して嵌め込まれた状態として、同嵌合部に溶接されて結合された状態とされている。また、補強パイプ25の図示右方側となる車両外側の端部は、同側のサイドフレーム21の内側の側部面21Aと外側の側部面21Bとにそれぞれ貫通して嵌め込まれた状態として、これら嵌合部に溶接により結合された状態とされている。なお、厳密には、上記補強パイプ25は、後述する板状のブラケット27にも貫通して嵌め込まれた状態として設けられているが、これについては後に詳しく説明することとする。
【0029】
上述した各補強パイプ24,25の結合により、シートバックフレーム20は、全体として、梯子状の形に組まれた状態として、曲げやねじりに対する構造強度が高められた構成とされている。上記車両外側のサイドフレーム21の上端部とアッパフレーム23との結合部には、上述したシートベルト装置のベルト引出口2Bが一体的に結合された状態として設けられている。また、上記車両外側のサイドフレーム21の外側の側部面21Bには、図示しないアームレスト装置を装着して支持するための支持ブラケット26が一体的に結合された状態とされている。
【0030】
上述したシートバックフレーム20は、その左右の両サイドフレーム21,22の下端部が、それぞれ、円盤状の各リクライニング装置4を介して、シートクッション3のフレーム構造を成すシートクッションフレーム30の左右の両サイドフレーム31,32の後端部に連結されて支持されている。具体的には、
図1及び
図3に示すように、シートバックフレーム20の車両内側のサイドフレーム22は、その下端部が、シートクッションフレーム30の同側のサイドフレーム32の後端部に対して内側に位置して、互いの板面が幅方向に対向した配置とされており、これら内外に対向する板面の間に配設されたリクライニング装置4により回転止め可能に軸連結された状態とされている。
【0031】
一方、
図2に示すように、シートバックフレーム20の車両外側のサイドフレーム21は、詳しくは、その下端部に、サイドフレーム21よりも板厚の大きい鋼板材より成るブラケット27が結合されており、このブラケット27を介して、リクライニング装置4により、
図1及び
図3に示すようにシートクッションフレーム30の同側のサイドフレーム31に回転止め可能に軸連結された状態とされている。上記ブラケット27は、
図2に示すように、車両外側のサイドフレーム21の内側の側部面21Aの下部にあてがわれて溶接により一体的に結合された状態とされている。上記ブラケット27は、
図1及び
図3に示すように、そのサイドフレーム21の下方側に延出した先の部分が、シートクッションフレーム30の同側のサイドフレーム31の後端部に対して内側に位置して、互いの板面が幅方向に対向した配置とされており、これら内外に対向する板面の間に配設されたリクライニング装置4により回転止め可能に軸連結された状態とされている。
【0032】
上記ブラケット27は、
図2及び
図5に示すように、車両外側のサイドフレーム21を前後方向に挟み込むように、サイドフレーム21の前側の縁部面21Cと後側の縁部面21Dとにそれぞれあてがわれるように延出する前側のフランジ部27Aと後側のフランジ部27Bとを有した形状に形成されている。これら前側のフランジ部27Aや後側のフランジ部27Bは、
図2に示すように、ブラケット27の前後側の各縁部が車両外側にフランジ状に折り曲げられた形状とされた一部から、更に車両外側に部分的に延出した形状として形成されている。上記前側のフランジ部27Aは、
図5に示すように、上述したサイドフレーム21の前側の縁部面21Cの中央部に形成された継ぎ目21Eを覆い隠す位置まで延出した形状となっており、その継ぎ目21Eを覆い隠す位置まで延出した先の位置で、前側の縁部面21Cに面当接した状態で溶接されて結合された状態とされている。後側のフランジ部27Bは、上述した前側のフランジ部27Aと同程度の位置まで延出した形状となっており、サイドフレーム21の後側の縁部面21Dに面当接した状態で溶接されて結合された状態とされている。
【0033】
このように、ブラケット27の前側のフランジ部27Aを、サイドフレーム21の継ぎ目21Eを覆い隠した先の位置で溶接して固定したことにより、サイドフレーム21の継ぎ目21Eにかかる負荷がブラケット27に逃がされて軽減されるようになっており、サイドフレーム21の構造強度が更に高められている。ここで、サイドフレーム21の前側の縁部面21Cが本発明の「一方の縁部面」に相当し、後側の縁部面21Dが本発明の「他方の縁部面」に相当し、ブラケット27が本発明の「ブラケット」に相当し、ブラケット27の前側のフランジ部27A及び後側のフランジ部27Bがそれぞれ本発明の「フランジ部」に相当する。
【0034】
図2に示すように、上記ブラケット27があてがわれるサイドフレーム21の内側の側部面21Aの下部は、上述したように、凹条21F,21G,21Hが形成されておらず、凹みのない平坦な面形状に形成された部位となっている。したがって、これら平坦な面形状とされたサイドフレーム21の前側の縁部面21Cや後側の縁部面21Dに対し、ブラケット27の前側のフランジ部27Aや後側のフランジ部27Bを広く面当接させた状態として、溶接長を良好に確保して溶接することができるようになっている。
【0035】
また、上記ブラケット27は、
図2に示すように、上記前側のフランジ部27Aや後側のフランジ部27Bの他、サイドフレーム21の内側の側部面21Aとあてがわれている上側の縁部位や下側の縁部位も、それぞれ溶接されて結合された状態とされている。これにより、上記ブラケット27が、上記サイドフレーム21に対して強固に一体的に結合された状態とされている。このように、車両外側のサイドフレーム21が、これよりも板厚の大きい鋼板材より成るブラケット27を介してリクライニング装置4に連結された構成となっていることにより、前述した大荷重作用時に最も大きな曲げの応力負荷を受ける下端側の固定端部分の構造強度がブラケット27によって効果的に高められた構成となっている。これにより、大荷重作用時に、サイドフレーム21に局所的な応力集中に伴う座屈変形等の局所変形が伴いにくくなっており、サイドフレーム21によって高い構造強度が発揮される構成となっている。
【0036】
また、上記サイドフレーム21は、その内側の側部面21Aにブラケット27があてがわれて結合されており、ブラケット27に対し、サイドフレーム21とリクライニング装置4とが同じ側(外側)の側面にあてがわれて結合された構成となっている。これにより、閉じ断面形状とされたサイドフレーム21の幅方向の厚みとリクライニング装置4の厚みとが同じ幅方向位置に並ぶ構成となっており、これら3つの部材が並ぶ幅方向の設置スペースが小さく抑えられた構成となっている。このように、閉じ断面形状とされた構造強度の高いサイドフレーム21を備えるフレーム構造を、幅方向にコンパクトに構成することができる。
【0037】
なお、
図1において前述した両サイドフレーム21,22の下部間に架け渡された補強パイプ25の車両外側の端部は、詳しくは、
図2に示すように、ブラケット27に対しては板厚方向に貫通して挿通されており、車両外側のサイドフレーム21に対しては、その上側半分のパイプ部分が貫通するように挿通された状態とされている。具体的には、補強パイプ25の車両外側の端部は、ブラケット27に板厚方向に貫通して形成された丸孔27Cと、このブラケット27の丸孔27Cと重なるようにサイドフレーム21の下縁部に板厚方向に貫通して形成された半月形状の半月孔21Jと、に跨って挿通されており、これら挿通された各部に溶接されて結合された状態とされている。