特許第5835086号(P5835086)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5835086
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】クロマトグラフ質量分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20060101AFI20151203BHJP
【FI】
   G01N27/62 D
   G01N27/62 C
   G01N27/62 X
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-105688(P2012-105688)
(22)【出願日】2012年5月7日
(65)【公開番号】特開2013-234860(P2013-234860A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2014年8月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】眞珠 健
【審査官】 藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−031201(JP,A)
【文献】 特開2012−043721(JP,A)
【文献】 特開2005−274352(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/083403(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0237458(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロマトグラフ部で試料中の成分を時間的に分離し、その分離された成分を質量分析部に導入して順次質量分析するクロマトグラフ質量分析装置であって、質量較正用成分を含む較正用試料を前記クロマトグラフ部に導入し、その質量分析結果に基づいて前記質量分析部における質量較正を行うクロマトグラフ質量分析装置において、
a)クロマトグラフ部の分離部により分離を要する較正用試料がクロマトグラフ部に導入された後、所定時間が経過した時点以降に前記質量分析部で得られるデータに基づいて、前記クロマトグラフ部からの成分の溶出を認識する成分検出手段と、
b)該成分検出手段により成分溶出が検出されたならば、前記質量分析部における分析条件を順次変更しつつ質量分析を実行し、それぞれの分析結果に基づいて各分析条件の下での質量較正情報を算出する質量較正実行手段と、
を備えることを特徴とするクロマトグラフ質量分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載のクロマトグラフ質量分析装置であって、
前記質量分析部は四重極型質量分析部であり、所定質量電荷比範囲のスキャン測定を実行することで得られるマススペクトルに基づいて該質量分析部における質量較正を行うクロマトグラフ質量分析装置において、
前記成分検出手段は、前記較正用試料がクロマトグラフ部に導入された後、所定時間が経過した時点以降にクロマトグラムの信号強度に基づいてクロマトグラフ部からの成分の溶出を認識することを特徴とするクロマトグラフ質量分析装置。
【請求項3】
請求項2に記載のクロマトグラフ質量分析装置であって、
前記質量較正実行手段は、前記成分検出手段により成分溶出が検出されたならば、スキャン測定のスキャンスピードを順次変更しつつ質量分析を実行し、それぞれの分析結果により得られるマススペクトルに基づいて各スキャンスピードの下での質量較正情報を取得することを特徴とするクロマトグラフ質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は ガスクロマトグラフ(GC)や液体クロマトグラフ(LC)などのクロマトグラフと四重極型質量分析装置とを組み合わせたクロマトグラフ質量分析装置に関し、さらに詳しくは、質量電荷比が既知である成分を含む試料を用いて質量電荷比の較正を行う機能を有するクロマトグラフ質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析器として四重極マスフィルタを用いた四重極型質量分析装置では、質量精度を確保するために、四重極マスフィルタを構成するロッド電極に印加される電圧と、四重極マスフィルタを通り抜けるイオンの質量電荷比との対応関係を、予め較正する必要がある。通常、この較正は質量較正と呼ばれる。また、ロッド電極への印加電圧と通過イオンの質量電荷比との関係を表すテーブルは質量較正テーブルと呼ばれる。質量較正テーブルにおける印加電圧と質量電荷比との関係はスキャン測定における印加電圧の変化の速度、即ちスキャンスピード、によって変わるため、特許文献1に開示されているように、一般に、質量較正テーブルはスキャンスピードを複数段階に変えた実測結果に基づいて作成される。
【0003】
例えばガスクロマトグラフの検出器として四重極型質量分析装置を用いたガスクロマトグラフ質量分析装置(GC/MS)では、通常の分析でよく使用される質量電荷比範囲をカバーするような質量較正は、各装置に装備されている標準試料を用いて行われる。この場合、標準試料ガスがGCのカラムを経ることなく質量分析装置のイオン源に直接導入される。そのため、或る程度の長い時間に亘って安定的に、成分濃度が一定である標準試料ガスを導入し続けることが可能であり、目的成分に対する安定したマススペクトルを長い時間に亘り得ることができる。したがって、その間に、複数段階のスキャンスピードに対するマススペクトルをそれぞれ取得し、それに基づく較正処理を確実に行うことができる。こうした標準試料を用いた質量較正は、従来より、分析者の手を煩わすことなく自動的に行われるようになっており、分析者はその結果を確認したり或いは必要に応じて結果を適宜修正する程度の作業を行ったりすればよい。
【0004】
一方、ユーザによっては、標準試料を用いては正確な質量較正が行えないような質量電荷比範囲の測定を行いたい場合があり、そうした場合には、装置に装備された標準試料以外の試料を用いた質量較正が必要となる。その場合、装置の製造メーカ(或いは場合によってはユーザ自身)が用意した質量電荷比が既知である成分を含む試料を、通常のGC/MS分析と同様に試料気化室に注入し、GCのカラムを通して質量分析装置に導入することになる。こうした場合の質量較正の一般的な手順は次のとおりである(図4参照)。
【0005】
(1)GCの試料気化室内に質量較正用試料を注入し、該試料中に含まれる成分をカラム中で分離する。
(2)質量分析装置では、測定したい質量電荷比をカバーし得るような質量電荷比範囲に亘るスキャン測定を繰り返し実行し、このスキャン測定により得られるデータに基づいて作成されるマススペクトル(一般的にはセントロイド処理前のプロファイルスペクトル)をリアルタイムで表示する。
(3)試料中の目的成分がカラムから溶出して質量分析装置に導入され始めると、マススペクトル上に該成分由来のピークが現れ始める。分析者はこれを目視で確認し、目的成分が質量分析装置に導入され始めたことを認識すると、スキャンスピードを適宜設定してマススペクトルを取得し、適当なマススペクトルが得られた時点で質量較正テーブルの作成指示を行う。この指示に応じて、その時点で得られているマススペクトルに基づいて、質量較正テーブルが自動的に作成される。
(4)目的成分由来のマススペクトルが得られる時間は限られている(長くても1分程度である)から、その間に、分析者は、複数段階のスキャンスピードを設定した上記のような操作・作業を手早く行い、スキャンスピード毎に質量較正テーブルを求める。
【0006】
上述したような質量較正の作業には次のような問題がある。即ち、試料気化室へ試料を注入した時点以降、分析者は目的成分が溶出したか否かを判断するために、リアルタイムで変化するマススペクトルを観測し続ける必要がある。しかしながら、目的成分が溶出し始める迄には数分から十分以上時間が掛かることもあるため、非効率的であるとともに、分析者が目的成分の溶出を見逃してしまうこともあった。
【0007】
また、一般に、試料気化室へ試料を注入した時点以降、カラム出口から目的成分が溶出するよりも前に試料溶媒が溶出する。そのため、分析者がリアルタイムで観測するマススペクトルにも溶媒由来のピークが現れるが、分析者はこの溶媒由来のピークを目的成分由来のピークであると間違わないように注意を払う必要があった。また、上述したように、目的成分が溶出している時間は限られているため、分析者は目的成分の溶出を確認したならば、迅速に手動で操作・作業を行う必要があり、或る程度の熟練や慣れが必要であった。さらにまた、分析者が目的成分の溶出を見逃してしまったり目的成分が溶出している時間内に質量較正作業が終了しなかったりした場合には、再度、同試料を注入して質量較正をやり直す必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−332994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
装置に装備されている標準試料以外の試料を用いた較正を行う場合には、上述したような様々な問題があった。特に近年、測定対象試料の広がりや複雑化に伴い、分析者が測定したい質量電荷比範囲はますます広がる傾向にある。そのため、標準試料を用いた質量較正だけでは必要な質量電荷比範囲をカバーできないことも多く、GCのカラムを通した試料導入による質量較正の作業性の改善が強く望まれている。
【0010】
本発明はこうした要請に応えるために成されたものであり、その目的とするところは、GC等のクロマトグラフを通して試料を導入する場合の質量較正の作業や操作を簡単にして分析者の負担を軽減するとともに、正確な質量較正を可能とするクロマトグラフ質量分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために成された本発明は、クロマトグラフ部で試料中の成分を時間的に分離し、その分離された成分を質量分析部に導入して順次質量分析するクロマトグラフ質量分析装置であって、質量較正用成分を含む較正用試料を前記クロマトグラフ部に導入し、その質量分析結果に基づいて前記質量分析部における質量較正を行うクロマトグラフ質量分析装置において、
a)クロマトグラフ部の分離部により分離を要する較正用試料がクロマトグラフ部に導入された後、所定時間が経過した時点以降に前記質量分析部で得られるデータに基づいて、前記クロマトグラフ部からの成分の溶出を認識する成分検出手段と、
b)該成分検出手段により成分溶出が検出されたならば、前記質量分析部における分析条件を順次変更しつつ質量分析を実行し、それぞれの分析結果に基づいて各分析条件の下での質量較正情報を算出する質量較正実行手段と、
を備えることを特徴としている。
【0012】
本発明に係るクロマトグラフ質量分析装置において、クロマトグラフ部は例えばガスクロマトグラフ又は液体クロマトグラフである。また、較正用試料に含まれる質量較正用成分は質量電荷比の理論値や保持時間が既知でありさえすれば、その種類は特に問わない。この既知である質量較正用成分の保持時間に基づいて、成分検出手段における「所定時間」を予め決めておく。より具体的には、質量較正用成分が溶出し始める(質量分析部に導入され始める)と推測される時間よりも所定のマージン分だけ少ない時間を上記所定時間とすればよい。
【0013】
前述のように、較正用試料の大部分を占める試料溶媒(例えばメタノール、アセトンなど)は一般にクロマトグラフのカラムを短時間で通過し、他の成分よりも早く溶出する。本発明に係るクロマトグラフ質量分析装置において、成分検出手段は、較正用試料がクロマトグラフ部に導入されてから上述したように定められた所定時間が経過するまでは成分の溶出を認識しない。したがって、成分検出手段は時間的に最も早く溶出する試料溶媒を検出せず、それ以降に溶出する質量較正用成分の溶出を確実に認識することができる。
【0014】
なお、較正用試料がクロマトグラフ部に導入された時点から所定時間が経過するまでの期間に成分の溶出を認識しないようにするためには様々な手法が考えられる。例えば、質量分析部の検出器にイオンが入射しないようにすればよいから、イオン源でのイオンの生成を停止させたり、イオン源と検出器との間のイオン輸送経路上でイオンをその軌道から逸脱させたりすることが考えられる。また、質量分析部の検出器にイオンが入射しても検出信号が出力されないように検出器の動作を停止したり、或いは得られたデータを廃棄したりしてもよい。
【0015】
質量較正実行手段は、質量較正用成分の溶出が認識されたならば、質量分析部における分析条件を順次変更しつつ質量分析を実行し、それぞれの分析結果に基づいて各分析条件の下での質量較正情報を取得する。このときの分析条件は予め分析者が設定しておけばよい。これにより、各分析条件に対する質量較正情報を自動的に取得することができる。
【0016】
本発明に係るクロマトグラフ質量分析装置の一態様として、前記質量分析部は四重極型質量分析部であり、所定質量電荷比範囲のスキャン測定を実行することで得られるマススペクトルに基づいて該質量分析部における質量較正を行うクロマトグラフ質量分析装置において、前記成分検出手段は、前記較正用試料がクロマトグラフ部に導入された後、所定時間が経過した時点以降にクロマトグラムの信号強度に基づいてクロマトグラフ部からの成分の溶出を認識する構成とすることができる。
質量較正用成分の濃度が既知であれば、或いはその較正用試料を既に測定したことがあれば、質量較正用成分が溶出したときの信号強度値はおおよそ分かるから、その信号強度値から閾値を定めておき、実測のクロマトグラムの信号強度がその閾値以上になったときに質量較正用成分が溶出したと判断することができる。
【0017】
また上記態様ではさらに、前記質量較正実行手段は、前記成分検出手段により成分溶出が検出されたならば、スキャン測定のスキャンスピードを順次変更しつつ質量分析を実行し、それぞれの分析結果により得られるマススペクトルに基づいて各スキャンスピードの下での質量較正情報を取得する構成とするとよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るクロマトグラフ質量分析装置によれば、分析者自身がマススペクトル等の分析結果を観測し続け、質量較正用成分が溶出し始めたと判断して手動で質量較正を実施する必要がなくなる。また、質量較正用成分由来のピークよりも前に出現する溶媒ピークを分析者が判断する必要もなくなる。したがって、分析者の負担が大きく軽減され、質量較正を効率的に行うことができるとともに、誤った質量較正を行うことも防止することができる。また、複数の分析条件に対する質量較正が自動的に行われるので、質量較正用成分が溶出している時間が限られていても、その間に、確実に質量較正を終了させることができる。そのため、質量較正をやり直す必要もなくなり、較正用試料の使用量も少なくて済む。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施例であるGC/MSの要部の構成図。
図2】本実施例のGC/MSにおける特徴的な質量較正の制御及び処理動作を示すフローチャート。
図3】本実施例のGC/MSにおける特徴的な質量較正の処理動作を示す模式図。
図4】従来のGC/MSにおいてGCのカラムで試料中の成分を分離する場合の一般的な質量較正の処理動作を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るクロマトグラフ質量分析装置の一実施例であるGC/MSについて、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。図1は本実施例によるGC/MSの要部の構成図である。
【0021】
ガスクロマトグラフ(GC)部1において、カラムオーブン11に内装されたカラム12の入口には試料気化室10が設けられ、キャリアガス流路13から供給されるHe等のキャリアガスが略一定流量でカラム12に流される。マイクロシリンジ14により試料気化室10中に微量の液体試料が注入されると、該試料は即座に気化し、キャリアガス流に乗ってカラム12中に送られる。カラム12を通過する間に試料中の各種成分は時間的に分離され、カラム12出口から溶出して質量分析(MS)部2のイオン源21に導入される。MS部2において、真空チャンバ20の内部には、上記イオン源21のほか、イオン輸送光学系22、四重極マスフィルタ23、検出器24が配置されている。
【0022】
イオン源21に導入された成分分子は電子イオン化法(EI)や化学イオン化法(CI)などのイオン化法によりイオン化され、発生したイオンはイオン輸送光学系22を経て四重極マスフィルタ23に導入される。四重極マスフィルタ23を構成する4本のロッド電極には直流電圧と高周波電圧とを重畳した電圧が印加され、該印加電圧に応じた質量電荷比を有するイオンのみがその長軸方向の空間を通過し、検出器24に到達して検出される。
【0023】
カラム12出口とイオン源21との間には流路切替バルブ25が設けられ、該流路切替バルブ25により、カラム12出口から溶出した試料ガスに代えて標準ガス供給部26から供給される標準試料ガスをイオン源21に導入することを可能としている。
【0024】
検出器24は到達したイオンの量に応じた検出信号を出力し、この信号はA/D変換器27でデジタル化されてデータ処理部3へと入力される。データ処理部3は入力されたデータに基づいて、マススペクトル、マスクロマトグラム、トータルイオンクロマトグラムなどを作成するほか、定性分析や定量分析等の各種の解析処理を実行する。また、データ処理部3は後述する特徴的な質量較正処理を実行するために、質量較正用データ収集部31、質量較正処理部32などの機能ブロックを含む。さらに、データ処理部3には質量較正テーブルなどを保存するための記憶部33が接続されている。
【0025】
分析制御部4はGC部1及びMS部2の各部の制御を司る。また、分析制御部4は質量較正処理を実行するために較正時制御部41を機能ブロックとして含む。中央制御部5には例えばキーボードやマウス等のポインティングデバイスである入力部6及び液晶ディスプレイ等の表示部7が接続され、入出力制御や分析制御部4よりもさらに上位のシステムの制御を司る。なお、データ処理部3、分析制御部4、及び中央制御部5はパーソナルコンピュータをハードウエア資源とし、該パーソナルコンピュータに予めインストールされた専用の処理・制御ソフトウエアを該コンピュータ上で実行することにより各部の機能を実現するようにすることができる。
【0026】
本実施例のGC/MSにおいて、通常の質量電荷比範囲の質量較正は、標準ガス供給部26から供給される標準試料ガスを用いて実施される。一方、通常の質量電荷比範囲を超える質量電荷比範囲の質量較正は、所定の較正用試料をマイクロシリンジ14から試料気化室10内に注入して行われるGC/MS分析の分析結果に基づいて実施される。
【0027】
以下、その質量較正の際に分析者により行われる操作や本装置における制御・処理について、図2及び図3を参照して説明する。図2は本実施例のGC/MSの質量較正の制御及び処理の手順を示すフローチャート、図3は質量較正の処理動作を示す模式図である。
【0028】
分析者はまず入力部6より、質量較正を実施する際の複数段階のスキャンスピードを入力設定する(ステップS1)。もちろん、1種類のスキャンスピードについてのみ質量較正を行えばよい場合には、その1つのスキャンスピードを設定すればよい。その後、分析者は入力部6により自動質量較正の開始ボタンを押すことにより、較正開始を指示する(ステップS2)。
【0029】
この指示を受けて較正時制御部41は、マイクロシリンジ14に用意された較正用試料を試料気化室10に注入する(ステップS3)。このとき、流路切替バルブ25はカラム12出口とイオン源21とを接続する状態である。較正用試料は質量電荷比が既知である質量較正用成分を含む。また、較正時制御部41は、MS部2に対してはイオンを生成しないようにイオン源21の動作を停止させ、また質量較正用データ収集部31に対してはデータ収集を行わないようにそれぞれ制御する(ステップ4)。イオン源21がEIイオン源である場合、熱電子を生成するフィラメントへの通電を遮断することで、イオン源21の動作を停止させることができる。なお、イオン源21の動作を停止させる代わりに、検出器24の動作を停止させたり、全てのイオンが四重極マスフィルタ23を通過し得ないように該フィルタ23へ電圧を印加したりしてもよい。
【0030】
試料気化室10に注入された較正用試料は即座に気化し、カラム12中に送り込まれる。較正用試料の大部分を占める試料溶媒はカラム12中の固定相に殆ど吸着されないため、質量較正用成分に比べて十分に速くカラム12を通過し溶出する。較正時制御部41は、試料注入時点から所定時間が経過したか否かを繰り返し判定する(ステップS5)。このときの所定時間は、試料溶媒が溶出する時間(試料溶媒の保持時間)と既知である質量較正用成分が溶出する時間(質量較正用成分の保持時間)とに基づいて、試料溶媒の溶出終了時点から質量較正用成分の溶出開始時点までの間に定められる。キャリアガスの流速の変動やカラム12の状態(例えば経時的な劣化状態など)などによって溶出時間は或る程度変動するから、そうした変動を見込んで上記所定時間は実験的に定められるようにするとよい。
【0031】
試料注入時点から所定時間が経過するまで処理はステップS5に留まるから、早くとも試料溶媒がカラム12から溶出し終わるまでは、イオン源21は停止されデータは収集されない状態が維持される。したがって、カラム12から溶出した試料溶媒がMS部2に導入されても質量分析は行われず、試料溶媒由来のイオンに対するデータは収集されない。
【0032】
試料注入時点から所定時間が経過してステップS5でYesと判定されると、較正時制御部41は、イオン源21を動作させるとともに質量較正用データ収集部31によるデータの収集を開始させる(ステップS6)。これにより、カラム12から溶出してイオン源21に導入された成分はイオン化され、生成されたイオンに対してスキャン測定が繰り返し実行される。そして、スキャン測定毎に得られたマススペクトルデータが質量較正用データ収集部31に入力される。質量較正処理部32は、質量較正用データ収集部31により収集されたマススペクトルデータに基づいてトータルイオンクロマトグラム(TIC)をリアルタイムで作成する。そして、そのTICの信号強度が所定の閾値以上であるか否かを繰り返し判定する(ステップS7)。較正用試料中の質量較正用成分濃度を決めておけば、上記閾値も予め実験的に定めておくことができる。また、成分濃度が不明である場合でも、予備的な測定を行い、その結果に基づいてノイズを検出することがないような適当な閾値を決めることができる。
【0033】
質量較正用成分がカラム12から溶出し質量分析により検出され始めると、図3に示すように、TICに質量較正用成分由来のピークが出現し始める。そのため、TICの信号強度は閾値Th以上となり、ステップS7でYesと判定される。これにより、質量較正処理部32は質量較正成分由来のピークであると認識し(ステップS8)、較正時制御部41と連動して自動的に質量較正のための測定及び処理を開始する。即ち、較正時制御部41は、四重極マスフィルタ23におけるスキャンスピードをステップS1で設定されている複数のスキャンスピードに順次変更しながら、各スキャンスピードに対するスキャン測定を実行する。質量較正用データ収集部31はそうして実行された各スキャン測定に対するマススペクトルデータを収集する(ステップS9)。
【0034】
質量較正処理部32は、或る1つのスキャンスピードに対するマススペクトルデータが得られたならば、例えば、該マススペクトル上のピークに対応した質量電荷比の実測値と四重極マスフィルタ23への印加電圧に応じた質量電荷比の理論値との差を算出し、その質量電荷比差に基づいて複数の質量電荷比毎の電圧補正値を示す質量較正テーブルを作成し記憶部33に格納する(ステップS10)。質量較正テーブルは、図4に示したように、単に質量電荷比と印加電圧との対応関係を示したものでもよい。また、それ以外でも、実際の質量電荷比と理論的な質量電荷比のずれをデータ処理上で補正する、又はスキャン測定の際に印加電圧を補正することにより実際の質量電荷比と理論的な質量電荷比のずれを解消することが可能であれば、質量較正テーブルの情報内容は問わない。
【0035】
図3に示す例では、時刻t1においてスキャンスピードが100[u/s]であるマススペクトルが得られ、時刻t2においてスキャンスピードが200[u/s]であるマススペクトルが得られる。こうして質量較正用成分由来のクロマトグラムピークが得られている期間中に、設定されている全てのスキャンスピードにおけるマススペクトルが得られ、そのマススペクトル毎に、つまりはスキャンスピード毎に質量較正テーブルが作成され記憶部33に格納される。
【0036】
以上のようにして、本実施例のGC/MSでは、カラム12から質量較正用成分が溶出し該成分に対応するクロマトグラムピークが得られている期間中に、実測マススペクトルに基づいて複数段階のスキャンスピードに対する質量較正テーブルが自動的に作成される。これにより、従来の手動操作による質量較正に比べて分析者の負担は大幅に軽減され、作成される質量較正テーブルの信頼性も高まる。
【0037】
なお、上記実施例は本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜変形や修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
【0038】
例えば上記実施例は本発明をGC/MSに適用した例であるが、本発明がLC/MSに適用できることは明らかである。また、上記実施例におけるGC/MSでは、MS部2は単一の四重極マスフィルタを備えた四重極型質量分析装置であったが、MS部2をタンデム四重極型質量分析装置(三連四重極型質量分析装置)とし、前段四重極マスフィルタ及び後段四重極マスフィルタのそれぞれの質量較正に本発明の手法を適用することもできる。
【符号の説明】
【0039】
1…ガスクロマトグラフ(GC)部
10…試料気化室
11…カラムオーブン
12…カラム
13…キャリアガス流路
14…マイクロシリンジ
2…質量分析(MS)部
20…真空チャンバ
21…イオン源
22…イオン輸送光学系
23…四重極マスフィルタ
24…検出器
25…流路切替バルブ
26…標準ガス供給部
27…A/D変換器
3…データ処理部
31…質量較正用データ収集部
32…質量較正処理部
33…記憶部
4…分析制御部
41…較正時制御部
5…中央制御部
6…入力部
7…表示部
図1
図2
図3
図4