特許第5835091号(P5835091)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5835091
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20151203BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20151203BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20151203BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20151203BHJP
   B62D 137/00 20060101ALN20151203BHJP
【FI】
   B62D6/00
   B62D5/04
   B62D101:00
   B62D119:00
   B62D137:00
【請求項の数】17
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2012-109110(P2012-109110)
(22)【出願日】2012年5月11日
(65)【公開番号】特開2013-233907(P2013-233907A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2014年5月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078776
【弁理士】
【氏名又は名称】安形 雄三
(74)【代理人】
【識別番号】100121887
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 好章
(72)【発明者】
【氏名】今村 洋介
(72)【発明者】
【氏名】菅原 孝義
(72)【発明者】
【氏名】前田 将宏
【審査官】 田々井 正吾
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−121383(JP,A)
【文献】 特開2011−088491(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/119333(WO,A1)
【文献】 特開平11−304635(JP,A)
【文献】 特開昭60−161257(JP,A)
【文献】 特開2006−188183(JP,A)
【文献】 特開2009−090953(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/078084(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D 101/00
B62D 119/00
B62D 137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の操舵系にモータによるアシスト力を付与するようにした電動パワーステアリング装置において、
操舵トルク及び車速に基づいて、電流指令値を決定する電流指令値決定部と、
補償したい所定の振幅の範囲内で、振動成分を含む信号である電動パワーステアリング状態量に応じて、操舵者に還元すべき振動成分と抑制すべき振動成分の区分けを行いながら、所定の周波数帯域を有する振動成分を抽出する振動抽出フィルタと、
前記振動抽出フィルタにて抽出した振動成分に基づいて、振動抑制補償値を算出する補償値算出部とを備え、
前記補償値算出部で算出された振動抑制補償値を、前記電流指令値決定部で決定された電流指令値に還元することで、前記モータの振動を抑制するようになっており、
前記振動抽出フィルタは、前記電動パワーステアリング状態量に基づいて、前記所定の周波数帯域の逆特性に応じて振動中心値を算出するウィンドウ付抽出逆特性フィルタを備えており、前記振動中心値と、前記電動パワーステアリング状態量との差分にて、前記所定の振幅及び前記所定の周波数帯域を有する振動成分を抽出するようになっており、
前記ウィンドウ付抽出逆特性フィルタは、前記所定の周波数帯域の逆特性を有する逆特性フィルタと、前記所定の振幅が予め設定されている振幅ウィンドウ判定部とを備えており、
前記ウィンドウ付抽出逆特性フィルタでは、前記電動パワーステアリング状態量を前記逆特性フィルタに通してから、前記逆特性フィルタの出力を前記振幅ウィンドウ判定部に出力し、
前記振幅ウィンドウ判定部にて、前記電動パワーステアリング状態量、前記逆特性フィルタの出力、及び、前記振動中心値の過去値に基づき、前記電動パワーステアリング状態量が前記振動中心値の過去値±前記所定の振幅という振幅ウィンドウの範囲内にあるか否かを判定する、振幅ウィンドウ判定処理を行い、
前記電動パワーステアリング状態量が前記振幅ウィンドウの範囲内にあると判定された場合に、前記逆特性フィルタの出力は前記振動中心値として出力され、
前記電動パワーステアリング状態量が前記振幅ウィンドウの範囲外にあると判定された場合に、前記電動パワーステアリング状態量に前記所定の振幅を加減算した値は、前記振動中心値として出力されることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
車両の操舵系にモータによるアシスト力を付与するようにした電動パワーステアリング装置において、
操舵トルク及び車速に基づいて、電流指令値を決定する電流指令値決定部と、
補償したい所定の振幅の範囲内で、振動成分を含む信号である電動パワーステアリング状態量に応じて、操舵者に還元すべき振動成分と抑制すべき振動成分の区分けを行いながら、所定の周波数帯域を有する振動成分を抽出する振動抽出フィルタと、
前記振動抽出フィルタにて抽出した振動成分に基づいて、振動抑制補償値を算出する補償値算出部とを備え、
前記補償値算出部で算出された振動抑制補償値を、前記電流指令値決定部で決定された電流指令値に還元することで、前記モータの振動を抑制するようになっており、
前記振動抽出フィルタは、前記電動パワーステアリング状態量に基づいて、前記所定の周波数帯域の逆特性に応じて振動中心値を算出するウィンドウ付抽出逆特性フィルタを備えており、前記振動中心値と、前記電動パワーステアリング状態量との差分にて、前記所定の振幅及び前記所定の周波数帯域を有する振動成分を抽出するようになっており、
前記ウィンドウ付抽出逆特性フィルタは、前記所定の周波数帯域の逆特性を有する逆特性フィルタと、予め設定された前記所定の振幅をモータ電流量に関連する電動パワーステアリング状態量に応じて増減させる手段を具備する振幅ウィンドウ判定部とを備えており、
前記ウィンドウ付抽出逆特性フィルタでは、前記電動パワーステアリング状態量を前記逆特性フィルタに通してから、前記逆特性フィルタの出力を前記振幅ウィンドウ判定部に出力し、
前記振幅ウィンドウ判定部にて、前記モータ電流量に関連する電動パワーステアリング状態量に応じて前記所定の振幅を増減させることにより、前記所定の振幅を設定した後に、
前記電動パワーステアリング状態量、前記逆特性フィルタの出力、及び、前記振動中心値の過去値に基づき、前記電動パワーステアリング状態量が前記振動中心値の過去値±前記所定の振幅という振幅ウィンドウの範囲内にあるか否かを判定する、振幅ウィンドウ判定処理を行い、
前記電動パワーステアリング状態量が前記振幅ウィンドウの範囲内にあると判定された場合に、前記逆特性フィルタの出力は前記振動中心値として出力され、
前記電動パワーステアリング状態量が前記振幅ウィンドウの範囲外にあると判定された場合に、前記電動パワーステアリング状態量に前記所定の振幅を加減算した値は、前記振動中心値として出力されることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
前記モータ電流量に関連する電動パワーステアリング状態量は、前記電流指令値又は前記操舵トルクである請求項2に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
前記モータ電流量に関連する電動パワーステアリング状態量は前記電流指令値であり、
前記振幅ウィンドウ判定部では、前記電流指令値の増大に応じて、前記所定の振幅を大きくするように設定する請求項2に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
前記補償値算出部では、モータ電流量に関連する電動パワーステアリング状態量、及び、速度に関連する電動パワーステアリング状態量に応じて、振動抑制補償の割合を変更する感応ゲインを算出し、算出した各感応ゲインを前記振動抽出フィルタにて抽出した振動成分に基づいて算出された振動抑制補償値に乗算して得られた値を、前記振動抑制補償値とする請求項2乃至請求項4のいずれかに記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項6】
前記補償値算出部では、
前記モータ電流量に関連する電動パワーステアリング状態量が所定の閾値以下の場合に、前記モータ電流量に関連する電動パワーステアリング状態量に係る前記感応ゲインを小さくすることで、前記振動抑制補償値の割合を小さくし、
前記速度に関連する電動パワーステアリング状態量が所定の閾値以上の場合に、前記速度に関連する電動パワーステアリング状態量に係る前記感応ゲインを小さくすることで、前記振動抑制補償値の割合を小さくする請求項5に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項7】
前記モータ電流量に関連する電動パワーステアリング状態量は、前記電流指令値又は前記操舵トルクであり、
前記速度に関連する電動パワーステアリング状態量は、操舵速度又はモータ角速度である請求項5又は請求項6に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項8】
車両の操舵系にモータによるアシスト力を付与するようにした電動パワーステアリング装置において、
操舵トルク及び車速に基づいて、電流指令値を決定する電流指令値決定部と、
補償したい所定の振幅の範囲内で、振動成分を含む信号である電動パワーステアリング状態量に応じて、操舵者に還元すべき振動成分と抑制すべき振動成分の区分けを行いながら、所定の周波数帯域を有する振動成分を抽出する振動抽出フィルタと、
前記振動抽出フィルタにて抽出した振動成分に基づいて、振動抑制補償値を算出する補償値算出部とを備え、
前記補償値算出部で算出された振動抑制補償値を、前記電流指令値決定部で決定された電流指令値に還元することで、前記モータの振動を抑制するようになっており、
前記振動抽出フィルタは、前記電動パワーステアリング状態量に基づいて、前記所定の周波数帯域の逆特性に応じて振動中心値を算出するウィンドウ付抽出逆特性フィルタを備えており、前記振動中心値と、前記電動パワーステアリング状態量との差分にて、前記所定の振幅及び前記所定の周波数帯域を有する振動成分を抽出するようになっており、
前記ウィンドウ付抽出逆特性フィルタは、前記所定の周波数帯域の逆特性を有する逆特性フィルタと、予め設定された前記所定の振幅を前記車速に応じて増減させる手段を具備する振幅ウィンドウ判定部とを備えており、
前記ウィンドウ付抽出逆特性フィルタでは、前記電動パワーステアリング状態量を前記逆特性フィルタに通してから、前記逆特性フィルタの出力を前記振幅ウィンドウ判定部に出力し、
前記振幅ウィンドウ判定部にて、前記車速に応じて前記所定の振幅を増減させることにより、前記所定の振幅を設定した後に、
前記電動パワーステアリング状態量、前記逆特性フィルタの出力、及び、前記振動中心値の過去値に基づき、前記電動パワーステアリング状態量が前記振動中心値の過去値±前記所定の振幅という振幅ウィンドウの範囲内にあるか否かを判定する、振幅ウィンドウ判定処理を行い、
前記電動パワーステアリング状態量が前記振幅ウィンドウの範囲内にあると判定された場合に、前記逆特性フィルタの出力は前記振動中心値として出力され、
前記電動パワーステアリング状態量が前記振幅ウィンドウの範囲外にあると判定された場合に、前記電動パワーステアリング状態量に前記所定の振幅を加減算した値は、前記振動中心値として出力されることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項9】
前記補償値算出部では、前記車速に応じて、振動抑制補償の割合を変更する車速感応ゲインを算出し、算出した車速感応ゲインを前記振動抽出フィルタにて抽出した振動成分に基づいて算出された振動抑制補償値に乗算して得られた値を、前記振動抑制補償値とする請求項8に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項10】
前記車速が所定の車速以上の場合に、
前記振幅ウィンドウ判定部にて、前記車速に応じて前記所定の振幅を減少させることにより、前記所定の振幅を設定し、
前記補償値算出部では、前記車速感応ゲインを小さくすることで、前記振動抑制補償値の割合を小さくする請求項9に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項11】
前記所定の周波数帯域は、前記電動パワーステアリング装置として、操舵者に伝達したい周波数帯域の振動成分以外の周波数帯域である請求項1乃至請求項10のいずれかに記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項12】
前記所定の周波数帯域は、前記電動パワーステアリング装置として操舵者に伝達したい周波数帯域、及びサンプリング等で制限される振動抽出精度が悪化する周波数以上の周波数帯域以外の周波数帯域である請求項1乃至請求項10のいずれかに記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項13】
前記操舵者に伝達したい周波数帯域は、路面情報、タイヤコンディション等が含まれる約10[Hz]以下の周波数帯域である請求項11又は請求項12に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項14】
前記電動パワーステアリング状態量は、モータ電流量に関連する電動パワーステアリング状態量、又は、速度に関連する電動パワーステアリング状態量である請求項1乃至請求項13のいずれかに記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項15】
前記モータ電流量に関連する電動パワーステアリング状態量は、前記操舵トルク、前記電流指令値、又は検出されたモータ電流である請求項14に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項16】
前記速度に関連する電動パワーステアリング状態量は、操舵速度又はモータ角速度である請求項14に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項17】
前記電動パワーステアリング状態量は、
操舵エネルギーとなる前記操舵トルクと操舵速度の乗算値、
モータ運動エネルギーとなる前記電流指令値、トルク定数及びモータ角速度の乗算値、
又は、モータ電気的エネルギーとなる検出されたモータ電流と電源電圧の乗算値である請求項1乃至請求項13のいずれかに記載の電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の操舵系にモータによるアシスト力を付与するようにした電動パワーステアリング装置に関し、特に、電動パワーステアリング状態量に応じて所定の振幅範囲と所定の周波数帯域を有するトルクリップル振動成分を抽出し、抽出した振動成分に基づいて算出された振動抑制補償値、又は、抽出した振動成分及び振動抑制補償の割合を変更する電動パワーステアリング状態量感応ゲインに基づいて算出された振動抑制補償値を制御系にフィードバックすることで、効率よくトルクリップルを抑制できると共に、ハンドル粘性感増加などの操舵性能劣化を最小限とすることもできるようにした電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のステアリング機構にモータの回転力で操舵補助力(アシスト)を付与する電動パワーステアリング装置は、モータの駆動力を減速機を介してギア又はベルト等の伝達機構により、ステアリングシャフト或いはラック軸に操舵補助力を付与するようになっている。かかる従来の電動パワーステアリング装置は、操舵補助力のトルクを正確に発生させるため、モータ電流のフィードバック制御を行っている。フィードバック制御は、操舵補助指令値(電流指令値)とモータ電流検出値との差が小さくなるようにモータ印加電圧を調整するものであり、モータ印加電圧の調整は、一般的にPWM(パルス幅変調)制御のデューティの調整で行っている。
【0003】
電動パワーステアリング装置の一般的な構成を図1に示して説明すると、操向ハンドル1のコラム軸(ステアリングシャフト)2は減速ギア3、ユニバーサルジョイント4a及び4b、ピニオンラック機構5、タイロッド6a,6bを経て、更にハブユニット7a,7bを介して操向車輪8L,8Rに連結されている。また、コラム軸2には、操向ハンドル1の操舵トルクを検出するトルクセンサ10が設けられており、操向ハンドル1の操舵力を補助するモータ20が減速ギア3を介してコラム軸2に連結されている。電動パワーステアリング装置を制御するコントロールユニット30には、バッテリ13から電力が供給されると共に、イグニションキー11を経てイグニションキー信号が入力される。コントロールユニット30は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクTrと車速センサ12で検出された車速Velとに基づいてアシスト(操舵補助)指令の操舵補助指令値の演算を行い、操舵補助指令値に補償等を施した電流制御値Eによってモータ20に供給する電流を制御する。なお、車速VelはCAN(Controller Area Network)等から受信することも可能である。
【0004】
コントロールユニット30は主としてCPU(又はMPUやMCU)で構成されるが、そのCPU内部においてプログラムで実行される一般的な機能を示すと、図2のようになっている。
【0005】
図2を参照してコントロールユニット30の機能及び動作を説明すると、トルクセンサ10で検出された操舵トルクTr及び車速センサ12からの車速Velは操舵補助指令値演算部101に入力され、アシストマップを用いて操舵補助指令値Iref0が演算される。演算された操舵補助指令値Iref0は過熱保護条件等に基づいて最大出力制限部102で出力を制限され、最大出力を制限された電流指令値Irefは減算部103に入力される。以下、操舵補助指令値演算部101と最大出力制限部102を合わせて電流指令値決定部108と称する。
【0006】
なお、操舵補助指令値演算部101での操舵補助指令値Iref0の演算は、操舵トルクTr及び車速Velに加えて更に操舵角を用いて演算することも可能である。
【0007】
減算部103は、電流指令値Irefとフィードバックされているモータ20のモータ電流Imとの偏差ΔI(=Iref−Im)を求め、偏差ΔIはPI制御(比例積分制御)等の電流制御部104で制御され、制御された電流制御値EはPWM(パルス幅変調)制御部105に入力されてデューティを演算され、デューティを演算されたPWM信号PSによってモータ駆動回路106を介してモータ20を駆動する。モータ20へ供給されるモータ電流Imはモータ電流検出回路107で検出され、検出されたモータ電流Imが減算部103に入力されてフィードバックされる。
【0008】
電流制御値Eでモータ電流を制御し、モータ20を駆動するモータ駆動回路106には、半導体スイッチング素子(FET)とモータとをブリッジ接続したブリッジ回路を使用し、電流制御値Eに基づいて決定されたPWM信号のデューティにより半導体スイッチング素子をON/OFF制御してモータ電流を制御するように構成されたモータ駆動回路が使用されている。
【0009】
ところで、電動パワーステアリング装置は、自動車部品の中では、特に運転者に直接フィールを伝えやすい、いわゆるマン・マシン・インターフェース機構であることから、モータやメカ機構によるトルクリップルが、操舵フィーリング性能の問題として取り上げられている。
【0010】
特に、モータやメカ機構によるトルクリップルが起因となり、車両固有値を励起することで起きるフロア振動は、車両システムの作動音問題にも絡むため、大きな問題となっている。
【0011】
しかし、トルクリップル要因は多種多様であるため、要因別にトルクリップル対策を講じると、効率的ではないという問題がある。
【0012】
このような問題を解決するものとして、特開昭60−161257号公報(特許文献1)、特開2006−188183号公報(特許文献2)、特開2009−090953号公報(特許文献3)、及び国際公開第2009/078074号パンフレット(特許文献4)に示すものがある。
【0013】
特許文献1に開示された「車両の運動制御装置」における振動抽出方法は、車両挙動を検出するセンサー値(操舵角)より、フーリエ変換を用いて特定(任意)の周波数帯域の振動成分を抽出し、抽出した任意の周波数帯域の振動成分に応じて、制御パラメータを変更することで振動を抑制する構成となっている。
【0014】
しかし、フーリエ変換を実現する構成は特に複雑であるため、マイコンリソースを大きく消費するので、特許文献1の振動抽出方法が効率的な方法とは言えない。また、制御パラメータを変更する際に、どの制御パラメータを変更すればよいのか、及び、他の性能への背反事項の確認が非常に複雑となりがちであるとの問題点もある。
【0015】
特許文献2に開示された「電動パワーステアリング装置」における振動抽出方法は、操舵トルクに対し、移動平均することで算出した振動中心値と、バンドパスフィルタで特定の振動周波数を抽出した値との差分より、意図した任意の周波数帯域の振動成分を抽出し、抽出した任意の周波数帯域の振動成分に応じて、制御パラメータを変更することで振動を抑制する構成となっている。
【0016】
しかし、特許文献2の振動抽出方法でも、制御パラメータを変更する際に、どの制御パラメータを変更すればよいのか、及び、他の性能への背反事項の確認が非常に複雑となりがちであるとの問題点がある。
【0017】
特許文献3に開示された「電動パワーステアリング装置」における振動抽出方法は、操舵角(ピニオン角)に対し、バンドパスフィルタ処理とRMS(平均自乗平方根)演算を行うことで、逆入力応力の印加に起因する操舵系の振動に対応する特定の周波数成分(14〜16Hz)を抽出し、抽出した周波数成分の実効値を求め、求めた実効値をローパスフィルタ処理した後の値(パワースペクトル)に応じて、制御パラメータを変更する構成となっている。
【0018】
しかし、電動パワーステアリング装置では、操舵者(運転者)の操舵パターンを特定することはできないため、操舵入力される操舵周波数が上記特定の周波数帯域(14〜16Hz)に同期した場合に、当該特定の周波数帯域中に操舵者が意図して入力した操舵成分(操舵周波数)が混在する可能性がある。そのため、特許文献3の振動抽出方法によれば、このような操舵パターン時に、それを阻害する方向に補償が働き、違和感を伴う可能性があるという問題が発生する。
【0019】
また、特許文献1と同様に、特許文献3の振動抽出方法でも、制御パラメータを変更する際に、どの制御パラメータを変更すればよいのか、及び、他の性能への背反事項の確認が非常に複雑となりがちであるとの問題点がある。
【0020】
特許文献4に開示された「電動パワーステアリング制御装置」における振動抽出方法は、トルクリップルや路面外乱等の振動成分が、操舵者の操舵成分より小振幅であることを利用した手法であり、具体的に、電動パワーステアリング装置または自動車の動的状態量(モータの回転速度または操舵トルク)に対し、任意の振幅を有する振動成分に対応するヒステリシス幅を持ったヒステリシス関数処理を行って得られた出力と、上記動的状態量との差分により、任意の振幅を有する振動成分(小振動成分)を抽出し、抽出した振動成分に応じて振動補償値(振動抑制電流)を算出して帰還制御ループを構成するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開昭60−161257号公報
【特許文献2】特開2006−188183号公報
【特許文献3】特開2009−090953号公報
【特許文献4】国際公開第2009/078074号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
しかしながら、例えば、高速走行時では、微小なライン取りが必要となるため、操舵者はハンドルを微小に操舵することがある。このような操舵パターン(以下、「微小ライン取り操舵パターン」と称する)時の振幅は、非常に微小であるため、特許文献4の振動抽出方法によれば、微小ライン取り操舵パターン時の振幅がヒステリシス幅の範囲内となってしまうため、操舵者の意図を阻害する振動補償を行ってしまうことになり、よって、ハンドル粘性感が増加するという問題が発生してしまう。
【0023】
また、タイヤからの車両反力成分には、路面情報(アスファルト路面や砂利路面等)などが含まれている。路面情報の振幅は比較的に小さいが、操舵者にとっては必要な情報となる。このような情報は、電動パワーステアリング装置としては、抑制せず操舵者に伝達することが望まれることが非常に多いが、路面情報も振幅が小さいため、特許文献4の振動抽出方法によれば、その振幅がヒステリシス幅の範囲内となってしまい、路面情報が補償されてしまう可能性がある。
【0024】
本発明は、上述のような事情よりなされたものであり、本発明の目的は、電動パワーステアリング状態量に応じて任意の振幅と任意の周波数帯域を有するトルクリップル振動成分を抽出し、抽出した振動成分、又は、抽出した振動成分及び振動抑制補償の割合を変更する電動パワーステアリング状態量感応ゲインに応じて算出された振動抑制補償値を電流指令値に還元することで、効率よくトルクリップルを抑制できると共に、ハンドル粘性感増加などの操舵性能劣化を最小限とすることもできる電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明は、車両の操舵系にモータによるアシスト力を付与するようにした電動パワーステアリング装置に関し、本発明の上記目的は、操舵トルク及び車速に基づいて、電流指令値を決定する電流指令値決定部と、補償したい所定の振幅の範囲内で、振動成分を含む信号である電動パワーステアリング状態量に応じて、操舵者に還元すべき振動成分と抑制すべき振動成分の区分けを行いながら、所定の周波数帯域を有する振動成分を抽出する振動抽出フィルタと、前記振動抽出フィルタにて抽出した振動成分に基づいて、振動抑制補償値を算出する補償値算出部とを備え、前記補償値算出部で算出された振動抑制補償値を、前記電流指令値決定部で決定された電流指令値に還元することで、前記モータの振動を抑制するようになっており、前記振動抽出フィルタは、前記電動パワーステアリング状態量に基づいて、前記所定の周波数帯域の逆特性に応じて振動中心値を算出するウィンドウ付抽出逆特性フィルタを備えており、前記振動中心値と、前記電動パワーステアリング状態量との差分にて、前記所定の振幅及び前記所定の周波数帯域を有する振動成分を抽出するようになっており、前記ウィンドウ付抽出逆特性フィルタは、前記所定の周波数帯域の逆特性を有する逆特性フィルタと、前記所定の振幅が予め設定されている振幅ウィンドウ判定部とを備えており、前記ウィンドウ付抽出逆特性フィルタでは、前記電動パワーステアリング状態量を前記逆特性フィルタに通してから、前記逆特性フィルタの出力を前記振幅ウィンドウ判定部に出力し、前記振幅ウィンドウ判定部にて、前記電動パワーステアリング状態量、前記逆特性フィルタの出力、及び、前記振動中心値の過去値に基づき、前記電動パワーステアリング状態量が前記振動中心値の過去値±前記所定の振幅という振幅ウィンドウの範囲内にあるか否かを判定する、振幅ウィンドウ判定処理を行い、前記電動パワーステアリング状態量が前記振幅ウィンドウの範囲内にあると判定された場合に、前記逆特性フィルタの出力は前記振動中心値として出力され、前記電動パワーステアリング状態量が前記振幅ウィンドウの範囲外にあると判定された場合に、前記電動パワーステアリング状態量に前記所定の振幅を加減算した値は、前記振動中心値として出力されることにより達成される。
【0027】
また、本発明の上記目的は、車両の操舵系にモータによるアシスト力を付与するようにした電動パワーステアリング装置において、操舵トルク及び車速に基づいて、電流指令値を決定する電流指令値決定部と、補償したい所定の振幅の範囲内で、振動成分を含む信号である電動パワーステアリング状態量に応じて、操舵者に還元すべき振動成分と抑制すべき振動成分の区分けを行いながら、所定の周波数帯域を有する振動成分を抽出する振動抽出フィルタと、前記振動抽出フィルタにて抽出した振動成分に基づいて、振動抑制補償値を算出する補償値算出部とを備え、前記補償値算出部で算出された振動抑制補償値を、前記電流指令値決定部で決定された電流指令値に還元することで、前記モータの振動を抑制するようになっており、前記振動抽出フィルタは、前記電動パワーステアリング状態量に基づいて、前記所定の周波数帯域の逆特性に応じて振動中心値を算出するウィンドウ付抽出逆特性フィルタを備えており、前記振動中心値と、前記電動パワーステアリング状態量との差分にて、前記所定の振幅及び前記所定の周波数帯域を有する振動成分を抽出するようになっており、前記ウィンドウ付抽出逆特性フィルタは、前記所定の周波数帯域の逆特性を有する逆特性フィルタと、予め設定された前記所定の振幅をモータ電流量に関連する電動パワーステアリング状態量に応じて増減させる手段を具備する振幅ウィンドウ判定部とを備えており、前記ウィンドウ付抽出逆特性フィルタでは、前記電動パワーステアリング状態量を前記逆特性フィルタに通してから、前記逆特性フィルタの出力を前記振幅ウィンドウ判定部に出力し、前記振幅ウィンドウ判定部にて、前記モータ電流量に関連する電動パワーステアリング状態量に応じて前記所定の振幅を増減させることにより、前記所定の振幅を設定した後に、前記電動パワーステアリング状態量、前記逆特性フィルタの出力、及び、前記振動中心値の過去値に基づき、前記電動パワーステアリング状態量が前記振動中心値の過去値±前記所定の振幅という振幅ウィンドウの範囲内にあるか否かを判定する、振幅ウィンドウ判定処理を行い、前記電動パワーステアリング状態量が前記振幅ウィンドウの範囲内にあると判定された場合に、前記逆特性フィルタの出力は前記振動中心値として出力され、前記電動パワーステアリング状態量が前記振幅ウィンドウの範囲外にあると判定された場合に、前記電動パワーステアリング状態量に前記所定の振幅を加減算した値は、前記振動中心値として出力されることにより達成される。
【0028】
また、本発明の上記目的は、車両の操舵系にモータによるアシスト力を付与するようにした電動パワーステアリング装置において、操舵トルク及び車速に基づいて、電流指令値を決定する電流指令値決定部と、補償したい所定の振幅の範囲内で、振動成分を含む信号である電動パワーステアリング状態量に応じて、操舵者に還元すべき振動成分と抑制すべき振動成分の区分けを行いながら、所定の周波数帯域を有する振動成分を抽出する振動抽出フィルタと、前記振動抽出フィルタにて抽出した振動成分に基づいて、振動抑制補償値を算出する補償値算出部とを備え、前記補償値算出部で算出された振動抑制補償値を、前記電流指令値決定部で決定された電流指令値に還元することで、前記モータの振動を抑制するようになっており、前記振動抽出フィルタは、前記電動パワーステアリング状態量に基づいて、前記所定の周波数帯域の逆特性に応じて振動中心値を算出するウィンドウ付抽出逆特性フィルタを備えており、前記振動中心値と、前記電動パワーステアリング状態量との差分にて、前記所定の振幅及び前記所定の周波数帯域を有する振動成分を抽出するようになっており、前記ウィンドウ付抽出逆特性フィルタは、前記所定の周波数帯域の逆特性を有する逆特性フィルタと、予め設定された前記所定の振幅を前記車速に応じて増減させる手段を具備する振幅ウィンドウ判定部とを備えており、前記ウィンドウ付抽出逆特性フィルタでは、前記電動パワーステアリング状態量を前記逆特性フィルタに通してから、前記逆特性フィルタの出力を前記振幅ウィンドウ判定部に出力し、前記振幅ウィンドウ判定部にて、前記車速に応じて前記所定の振幅を増減させることにより、前記所定の振幅を設定した後に、前記電動パワーステアリング状態量、前記逆特性フィルタの出力、及び、前記振動中心値の過去値に基づき、前記電動パワーステアリング状態量が前記振動中心値の過去値±前記所定の振幅という振幅ウィンドウの範囲内にあるか否かを判定する、振幅ウィンドウ判定処理を行い、前記電動パワーステアリング状態量が前記振幅ウィンドウの範囲内にあると判定された場合に、前記逆特性フィルタの出力は前記振動中心値として出力され、前記電動パワーステアリング状態量が前記振幅ウィンドウの範囲外にあると判定された場合に、前記電動パワーステアリング状態量に前記所定の振幅を加減算した値は、前記振動中心値として出力されることにより達成される。
【0029】
また、本発明の上記目的は、前記所定の周波数帯域は、前記電動パワーステアリング装置として、操舵者に伝達したい周波数帯域の振動成分以外の周波数帯域であることにより、或いは、前記所定の周波数帯域は、前記電動パワーステアリング装置として操舵者に伝達したい周波数帯域、及びサンプリング等で制限される振動抽出精度が悪化する周波数以上の周波数帯域以外の周波数帯域であることにより、或いは、前記操舵者に伝達したい周波数帯域は、路面情報、タイヤコンディション等が含まれる約10[Hz]以下の周波数帯域であることにより、或いは、前記電動パワーステアリング状態量は、モータ電流量に関連する電動パワーステアリング状態量、又は、速度に関連する電動パワーステアリング状態量であることにより、或いは、前記モータ電流量に関連する電動パワーステアリング状態量は、前記操舵トルク、前記電流指令値、又は検出されたモータ電流であることにより、或いは、前記速度に関連する電動パワーステアリング状態量は、操舵速度又はモータ角速度であることにより、或いは、前記電動パワーステアリング状態量は、操舵エネルギーとなる前記操舵トルクと操舵速度の乗算値、モータ運動エネルギーとなる前記電流指令値、トルク定数及びモータ角速度の乗算値、又は、モータ電気的エネルギーとなる検出されたモータ電流と電源電圧の乗算値であることにより、より効果的に達成される。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る電動パワーステアリング装置によれば、電動パワーステアリング状態量に応じて振動抽出フィルタにより任意の振幅と任意の周波数帯域を持つトルクリップル振動成分を抽出することができるため、トルクリップルのような操舵成分より振幅が小さい振動成分を効率よく抽出でき、且つ路面情報等の操舵者に還元すべき振動成分と、トルクリップルやジャダー振動等の抑制すべき振動成分の区分けを行いながらの振動抽出が可能となるため、操舵性能の劣化を最小限としながらも、効率よくトルクリップル振動を抑制することができる。
【0031】
また、本発明では、抽出した振動成分に基づいて、振動抑制補償値を算出する際に、モータ電流量に関連する電動パワーステアリング状態量(例えば、電流指令値)、及び、速度に関連する電動パワーステアリング状態量(例えば、モータ角速度)に応じて、振動抑制補償値の割合を可変とするようにしているので(振動抑制補償の割合を変更する電動パワーステアリング状態量感応ゲインを算出するようにしているので)、モータ電流量に関連する信号が少ない状態で発生する、オンセンタ付近での切り出し時の粘性感を抑制できるとともに、速度に関連する信号が高回転を示す場合に発生する、振動波形の抽出精度の悪化による影響を解消することもできる。
【0032】
さらに、本発明では、抽出した振動成分に基づいて、振動抑制補償値を算出する際に、モータ電流量に関連する電動パワーステアリング状態量と、速度に関連する電動パワーステアリング状態量にだけでなく、車速にも応じて振動抑制補償値の割合を可変とするようにしているので、車速に応じて変化する振動成分の振幅変化に対し、振動抑制効果を確実に高めることができると共に、頻繁に行われるオンセンタ付近の微操舵に起因する粘性感を解消することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】電動パワーステアリング装置の概要を示す構成図である。
図2】コントロールユニットの一般的な構成例を示すブロック図である。
図3】本発明に係る電動パワーステアリング装置の実施例1の構成図を示すブロック図である。
図4】振動成分の周波数分布例を示す図である。
図5】本発明に係る電動パワーステアリング装置の実施例1において、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタの特性設定例(抽出したい所定の周波数帯域がハイパス特性である場合の例)を示す図である。
図6】本発明に係る電動パワーステアリング装置の実施例1において、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタの構成図を示すブロック図である。
図7】本発明による振動抽出結果と、従来の振動抽出方法による振動抽出結果を示す図である。
図8】本発明に係る電動パワーステアリング装置の実施例1において、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタの特性設定例(抽出したい所定の周波数帯域がバンドパス特性である場合の例)を示す図である。
図9】本発明による振動補償機能の有無によるハンドル振動抑制効果を示す図である。
図10】本発明による振動補償機能の有無による、操舵舵角に対する操舵トルクのリサージュ波形を示す図である。
図11】本発明に係る電動パワーステアリング装置の実施例2の構成図を示すブロック図である。
図12】本発明に係る電動パワーステアリング装置の実施例2において、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタの構成図を示すブロック図である。
図13】本発明に係る電動パワーステアリング装置の実施例2における振動抽出フィルタにおいて、電流指令値に応じて所定振幅を可変とする可変振幅設定例を示す図である。
図14】本発明に係る電動パワーステアリング装置の実施例3の構成図を示すブロック図である。
図15】本発明に係る電動パワーステアリング装置の実施例3における補償値算出部の構成図を示すブロック図である。
図16】本発明に係る電動パワーステアリング装置の実施例3における補償値算出部において、電流感応ゲイン設定例と角速度感応ゲイン設定例を示す図である。
図17】本発明に係る電動パワーステアリング装置の実施例4の構成図を示すブロック図である。
図18】本発明に係る電動パワーステアリング装置の実施例4において、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタの構成図を示すブロック図である。
図19】本発明に係る電動パワーステアリング装置の実施例4における補償値算出部の構成図を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は、フロア振動の要因であるトルクリップル(トルク振動)が、電動パワーステアリング状態量であるモータ角速度信号に顕著に現れることを利用し、モータ角速度信号(モータ角速度)に含まれる振動成分を振動抽出フィルタ(振動抽出フィルタ機能)により抽出し、抽出した振動成分(振動成分信号)に基づいて、トルクリップルを抑制するための振動抑制補償値を算出し、算出した振動抑制補償値を電流指令値に還元することで、様々な要因で起きるトルクリップルを効率よく抑制することができるようにした電動パワーステアリング装置に関する。
【0035】
また、本発明に係る電動パワーステアリング装置では、振動抑制補償値を算出する際に、抽出した振動成分だけでなく、電流指令値及びモータ角速度信号に基づいて、振動抑制補償値を算出するようにしても良い。
【0036】
更に、本発明に係る電動パワーステアリング装置では、振動抑制補償値を算出する際に、抽出した振動成分だけでなく、電流指令値、モータ角速度信号、及び車速にも基づいて、振動抑制補償値を算出するようにしても良い。
【0037】
そして、本発明に係る電動パワーステアリング装置において、振動抽出フィルタは、所定の振幅範囲内のみに機能し、且つ、振動抽出フィルタに入力された電動パワーステアリング状態量(モータ角速度信号)に対し、任意の周波数帯域の逆特性のトルクリップル振動成分を出力する逆特性フィルタ(例えば、加重平均、ローパス、ハイパス、バンドパス等)を有する、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタを備えており、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタの出力(即ち、振動中心値)と、振動抽出フィルタに入力された電動パワーステアリング状態量(モータ角速度信号)の差分を用いて、任意の振幅と任意の周波数帯域を有するトルクリップル振動成分を抽出するように構成される。
【0038】
つまり、本発明の振動抽出フィルタは、電動パワーステアリング状態量が所定の振幅範囲内であれば、電動パワーステアリング状態量を逆特性フィルタに通して得られた所定の周波数帯域の逆特性に応じて、振動中心値を算出するウィンドウ付抽出逆特性フィルタを備えており、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタで算出された振動中心値と、電動パワーステアリング状態量との差分にて、所定の振幅及び所定の周波数帯域を有する振動成分を抽出するようにしている。
【0039】
振動抽出フィルタを有する本発明に係る電動パワーステアリング装置により、電動パワーステアリング状態量に応じて任意の振幅と任意の周波数帯域を持つトルクリップル振動成分を抽出することができるため、トルクリップルのような操舵成分より振幅が小さい振動成分を効率よく抽出でき、且つ路面情報等の操舵者に還元すべき振動成分と、トルクリップルやジャダー振動等の抑制すべき振動成分の区分けを行いながらの振動抽出が可能となるため、本発明に係る電動パワーステアリング装置を適用した時に、操舵性能の劣化(例えば、微小ライン取り操舵パターン時に発生したハンドル粘性感の増加)を最小限としながらも、効率よくトルクリップル振動を抑制することができる。
【0040】
要するに、本発明は、振動成分を検出できる電動パワーステアリング状態量より、所定の振幅範囲内であるか否かを判断し、所定の振幅範囲内であれば、任意の周波数帯域の逆特性を出力するフィルタ(即ち、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタ)にて振動中心値を更新し、また、所定の振幅範囲外であれば、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタを通さず振動中心値を更新し、更新した振動中心値と、元の電動パワーステアリング状態量との差分を取ることで、任意の振動周波数帯域と任意の振幅範囲での振動成分を抽出するようにしている。
【0041】
ここで、本発明で用いられる電動パワーステアリング状態量として、上述したモータ角速度信号以外に、振動成分を検出できる信号であれば、例えば、トルクセンサで検出された操舵トルク、操舵速度、電源電圧やモータ印加電圧等の信号を用いることが勿論可能である。
【0042】
本発明では、振動成分を検出できる電動パワーステアリング状態量に応じて、振動抽出フィルタにて任意の振幅と任意の周波数帯域を持つトルクリップル振動成分を抽出する際に、電動パワーステアリング装置として操舵者に伝達したい周波数帯域の振動成分(即ち、路面情報、やタイヤコンディション等が含まれる約10[Hz]以下の振動成分)を抽出せず、電動パワーステアリング装置として操舵者へ伝達したくない周波数帯域の振動成分(即ち、システム固有値励起に起因するフロア振動、やモータトルクリップル等の振動成分)を抽出するようにしており、この任意の周波数帯域とは、電動パワーステアリング装置として操舵者へ伝達したくない情報の周波数帯域である。
【0043】
このように、本発明は、簡単な構成で任意の振幅と任意の周波数帯域を持つトルクリップル振動成分を抽出できるため、マイコンリソースを効率的に使用しながら、電動パワーステアリング装置として、操舵違和感を生じさせることなく、トルクリップルやメカ共振等に起因する振動成分を効率よく抑制することが可能となる。
【0044】
以下に、図面を参照しながら、本発明の具体的な実施形態を詳細に説明する。
【実施例1】
【0045】
図3は本発明に係る電動パワーステアリング装置の実施例1の構成図を示すブロック図であり、電動パワーステアリング装置の部分は、図1及び図2に対応させて示しており、同一構成には同一符号で付して説明を省略する。また、図4に振動成分の周波数分布例を示している。そして、図5は、本発明に係る電動パワーステアリング装置の実施例1において、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタの特性設定例(抽出したい所定の周波数帯域がハイパス特性である場合の例)を示す図である。なお、実施例1では、電動パワーステアリング状態量をモータ角速度(モータ角速度信号)としている。
【0046】
図3図4及び図5を参照して、本発明の実施例1に係る電動パワーステアリング装置の機能及び全体動作を詳細に説明する。
【0047】
図3に示されるように、トルクセンサ10で検出された操舵トルクTrと、車速センサ12で検出された車速Velに基づいて、電流指令値決定部108により電流指令値Irefが決定される。決定された電流指令値Irefは、減算部220に入力される。
【0048】
一方、モータ20へ供給されるモータ電流Imは、モータ電流検出回路107で検出され、検出されたモータ電流Imは減算部103に入力される。
【0049】
また、モータ20のロータ位置を検出するロータ位置検出センサ200(例えば、レゾルバやホールセンサなどのロータ位置検出器)により、ロータ位置信号であるロータの回転角θが検出される。角速度算出部210では、ロータ位置検出センサ200により検出されたロータの回転角θに基づいて、モータ角速度ωを算出する。そして、算出したモータ角速度ωは、本発明の要部である振動抽出フィルタ400に入力される。
【0050】
振動抽出フィルタ400では、入力されたモータ角速度ωに基づき、所定の振幅及び所定の周波数帯域を有する振動成分を抽出し、抽出した振動成分VSは、本発明のもう1つの要部である補償値算出部300に入力される。
【0051】
次に、補償値算出部300では、抽出した振動成分VSに基づき、振動抑制補償値CVを算出し、算出した振動抑制補償値CVは、減算部220に入力される。
【0052】
そして、振動抑制補償値CVを減算部220にて電流指令値Irefから減算することにより、即ち、振動抑制補償値CVを電流指令値Irefにフィードバックし構成されることにより、振動補償された電流指令値Iを算出する。算出した振動補償された電流指令値Iは、減算部103に入力される。
【0053】
そして、減算部103では、振動補償された電流指令値Iとフィードバックされているモータ20のモータ電流Imとの偏差ΔI(=I−Im)を求め、求めた偏差ΔIは電流制御部104で制御され、制御された電流制御値EはPWM制御部105に入力されてデューティを演算され、デューティを演算されたPWM信号PSによってモータ駆動回路106を介してモータ20を駆動する。
【0054】
ここで、本発明の振動抽出フィルタ400にて抽出する、「所定の振幅」と「所定の周波数帯域」を有する振動成分(即ち、本発明が補償しようとする振動成分)について説明する。
【0055】
本発明が補償しようとする振動成分は、主にモータにて発生するトルクリップル、及び車両フレーム等の振動固有励起で発生する共振振動、タイヤからの車両反力成分等である。これらの振動成分は、操舵者の操舵成分に対して振幅は小さい。即ち、トルクリップルや路面外乱等の振動成分が、操舵者の操舵成分より小振幅である。
【0056】
前述したように、特許文献4の振動抽出方法でも、このことを利用し、所定の振幅範囲内の振動波形を抽出することで、これらの振動成分の抜き出しを行うようにしている。
【0057】
しかしながら、例えば、高速走行時では、微小なライン取りが必要となるため、操舵者は、オンセンタ付近でハンドルを微小に操舵することがある。この微小ライン取り操舵パターン時の振幅は非常に微小であるため、特許文献4の振動抽出方法によれば、振幅のみで振動成分を抽出するようにしているので、この微小ライン取り操舵パターンも振動成分として捉え補償してしまうため、結果的に、操舵粘性感が増加するとともに、操舵フワフワ感になってしまうという問題が発生する。
【0058】
また、タイヤからの車両反力成分には、路面情報(アスファルト路面や砂利路面等)などが含まれている。路面情報の振幅は比較的に小さいが、操舵者にとっては必要な情報となる。このような情報は、電動パワーステアリング装置としては、抑制せず操舵者に伝達することが望まれることが非常に多いが、路面情報も振幅が小さいため、特許文献4の振動抽出方法によれば、その振幅がヒステリシス幅の範囲内となってしまい、路面情報が補償されてしまう問題がある。
【0059】
図4に周波数と振動成分の振幅の分布例を示している。図4に示されたように、本発明にて補償したい振動成分は、運転者に違和感として感じられるメカ、車両の固有振動成分、モータトルクリップルであり、一方、本発明にて補償したくない振動成分(即ち、運転者へフィードバックしたい情報)は、運転者の操舵成分、路面情報等であり、これらの補償したくない振動成分は、おおよそ10[Hz]以下に分布している。
【0060】
本発明では、振動抽出フィルタにて、抑制する振動成分を「所定の振幅」と「所定の周波数帯域」を有する振動成分に限定することにより、電動パワーステアリング装置として、操舵感に影響を及ぼさずに、違和感となる振動成分を効率よく抑制することで、操舵性能を向上させる。本発明で言う「所定の周波数帯域」は、本発明にて補償したい振動成分の周波数帯域を意味する。
【0061】
ここで、振動抽出フィルタ400の機能及び動作について説明する。
【0062】
図3に示されたように、振動抽出フィルタ400は、減算部410と、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタ420を備えている。振動抽出フィルタ400にて行われる処理(動作)は、次のようになる。
【0063】
まず、振動抽出フィルタ400は、角速度算出部210からのモータ角速度ωに対し、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタ420にて、「所定の振幅」と「所定の周波数帯域」の逆特性を有する振動成分を抽出する。
【0064】
ここで、「所定の振幅」と「所定の周波数帯域」の逆特性を有する振動成分は、振動中心値VCVとして、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタ420から出力される。
【0065】
次に、振動抽出フィルタ400は、減算部410にて、抽出した「所定の振幅」と「所定の周波数帯域」の逆特性を有する振動成分(即ち、振動中心値VCV)と、モータ角速度ωとの差分計算を行うことにより、「所定の振幅」と「所定の周波数帯域」を有する振動成分VSを抽出する。
【0066】
ここで、振動抽出フィルタ400により抽出した「所定の振幅」と「所定の周波数帯域」を有する振動成分VSは、補償値算出部300に入力される。
【0067】
本発明で言う「逆特性」とは、例えば図4で示した補償したくない情報の周波数は通過させ、補償したい周波数はカットするような特性である。図4の例では、約10[Hz]以下の振動成分を抽出しないことから、本発明の「逆特性」は、約10[Hz]をカットオフとするローパス特性となる。
【0068】
図5に、振動抽出フィルタ400にて抽出する「所定の周波数帯域」がハイパス特性である場合のウィンドウ付抽出逆特性フィルタ420の特性設定例を示す。ちなみに、図5(A)に、振動抽出フィルタ400にて抽出する、ハイパス特性を持つ周波数帯域の特性線図を示している。また、図5(B)に、図5(A)に示されたようなハイパス特性を持つ周波数帯域の逆特性の特性線図(即ち、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタ420が持つ逆特性の特性線図)を示している。
【0069】
図6は、本発明に係る電動パワーステアリング装置の実施例1において、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタ420の構成図を示すブロック図である。図6に基づいて、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタ420の機能及び動作を説明する。
【0070】
図6に示されたように、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタ420は、「所定の周波数帯域」の逆特性を有する逆特性フィルタ421と、「所定の振幅」が予め設定されている振幅ウィンドウ判定部422と、振動中心過去値を保持している過去値保持部423とを備えている。
【0071】
入力されたモータ角速度ωに対し、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタ420にて行われる処理(動作)は、次のようになる。
【0072】
まず、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタ420は、モータ角速度ωを逆特性フィルタ421に通し、逆特性フィルタ421を通した出力(即ち、逆特性フィルタ421の出力)ICOを振幅ウィンドウ判定部422に出力する。ここで、逆特性フィルタ421が持っている「所定の周波数」の逆特性とは、例えば、図5(B)に示すような抽出したい周波数特性の逆特性である。
【0073】
次に、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタ420は、振幅ウィンドウ判定部422にて、モータ角速度ω、逆特性フィルタ421の出力ICO、及び、過去値保持部423からの振動中心過去値VCPV(即ち、振動中心値VCVの過去値)に基づき、モータ角速度ωが振幅ウィンドウの範囲内にあるか否かを判定する、振幅ウィンドウ判定処理を行う。
【0074】
振幅ウィンドウ判定処理より、モータ角速度ωが振幅ウィンドウの範囲内にあると判定された場合に、振幅ウィンドウ判定部422は、逆特性フィルタ421の出力ICOを振動中心値VCVとして出力する。
【0075】
一方、振幅ウィンドウ判定処理より、モータ角速度ωが振幅ウィンドウの範囲外にあると判定された場合に、振幅ウィンドウ判定部422は、モータ角速度ωに「所定の振幅」を加減算した値を振動中心値VCVとして出力する。
【0076】
本発明で言う「振幅ウィンドウ」とは、振動中心過去値VCPV±「所定の振幅」という範囲を意味している。
【0077】
また、振幅ウィンドウ判定部422では、振幅ウィンドウ判定部422からの振動中心値VCVを減算部410に出力するとともに、過去値保持部423にも出力するようになっている。過去値保持部423では、入力された振動中心値VCVを振動中心過去値VCPVとして保持するようになっている。
【0078】
このように、本発明では、振動抽出フィルタ400にて、所定の振幅及び所定の周波数帯域にて振動成分を抽出することができるとともに、操舵成分が劣化することなく振動補償を行うことができる。
【0079】
本発明の振動抽出フィルタ400の優れた振動抽出効果を実証するために、本発明の振動抽出フィルタ400による振動抽出結果と、従来の振動抽出方法による振動抽出結果を図7に示す。
【0080】
ちなみに、従来の振動抽出方法として、特許文献4の振動抽出方法を用いた。また、本発明の振動抽出フィルタ400による振動抽出結果を示す図7(B)における「振幅ウィンドウ」は、振動中心値±「所定の振幅」を意味している。
【0081】
本発明の振動抽出フィルタ400による振動抽出結果と、特許文献4の振動抽出方法による振動抽出結果を比較するために、特許文献4の振動抽出方法におけるヒステリシス幅と、本発明の振動抽出フィルタ400における所定の振幅を同じ値になるように設定した。また、振動成分を抽出する際に、必要となるモータ角速度信号も同じ信号を用いた。
【0082】
図7から分かるように、本発明の振動抽出フィルタ400による振動抽出結果では、抽出した振動成分に、低周波数の操舵成分の重畳が抑制されている。これにより、振動抑制機能による操舵感への影響を抑制しつつも、振動抑制が可能となる。
【0083】
なお、本発明では、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタにて行われる処理において、使用する過去値には、振動中心値の過去値を利用するのが好ましい。これにより、振幅ウィンドウ判定部422による出力の切り替わりに対し、逆特性フィルタ421の出力が滑らかにつながり、所定の振幅の範囲内外が頻繁に切り替わっても違和感とならない利点がある。
【0084】
また、本発明では、逆特性フィルタ421において、加重平均を用いると、振動中心過去値の反映に対して、容易な構成で実現できるという利点がある。
【0085】
また、実施例1では、振動抽出フィルタ400にて抽出する「所定の周波数帯域」を10[Hz]のカットオフを持つハイパス特性としたが、本発明はそれに限定されるものではなく、振動抽出フィルタにて抽出する「所定の周波数帯域」をバンドパス特性とするようにしても良い。図8に、本発明の振動抽出フィルタにて抽出する「所定の周波数帯域」がバンドパス特性である場合のウィンドウ付抽出逆特性フィルタの特性設定例を示す。
【0086】
ちなみに、図8(A)に、振動抽出フィルタにて抽出する、バンドパス特性を持つ周波数帯域の特性線図を示している。また、図8(B)に、図8(A)に示されたようなバンドパス特性を持つ周波数帯域の逆特性の特性線図(即ち、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタが持つ逆特性の特性線図)を示している。
【0087】
ここで、補償値算出部300について説明する。
【0088】
図3に示されたように、補償値算出部300は、振動抽出フィルタ400にて抽出された「所定の振幅」と「所定の周波数帯域」を有する振動成分VSに基づき、振動抑制補償値CVを算出する。
【0089】
ここで、振動抽出フィルタ400にて抽出された「所定の振幅」と「所定の周波数帯域」を有する振動成分VSは、実施例1に係る電動パワーステアリング装置を適用した場合に、電動パワーステアリング状態量をモータ角速度(モータ角速度信号)としているため、モータ角速度の次元である。
【0090】
しかし、振動抑制補償値CVは電流の次元であるため、補償値算出部300にて、モータ角速度の次元を電流の次元へ変換する必要がある。変換方法については、単純にゲインにて構成するようにしても十分効果は得られる。
【0091】
また、モータ及び電動パワーステアリング装置は、回転慣性系であることから、下記数1で表す運動方程式を用いて、モータ角速度の次元から電流の次元へ変換するようにしてもよい。ちなみに、下記数1の運動方程式の分母は、ノイズ等の影響を加味した近似微分特性としている。
【0092】
【数1】
ここで、Jはモータ(システム)イナーシャ項であり、Dはモータ(システム)粘性項であり、Ktはトルク定数であり、Tは近似微分時定数である。また、位相進み/遅れ特性フィルタ、及びPID制御器を構成するようにしても良い。
【0093】
ここで、本発明による振動補償機能を実証するために、本発明による振動補償機能の有無によるハンドル振動抑制効果を図9に示す。ちなみに、図9(A)に、本発明による振動補償機能なしの場合のハンドル振動抑制効果を示しており、また、図9(B)に、本発明による振動補償機能ありの場合のハンドル振動抑制効果を示している。
【0094】
図9(A)と図9(B)を比較することにより、本発明による振動補償機能を電動パワーステアリング装置に適用することで、操舵トルク振動が低減し、モータ角速度に現れていた振動成分も抑制されていることがよく分かる。
【0095】
図10は、本発明による振動補償機能の有無による、操舵舵角に対する操舵トルクのリサージュ波形を示す図である。図10から、発明による振動補償機能を電動パワーステアリング装置に適用した場合と、発明による振動補償機能を電動パワーステアリング装置に適用しない場合のリサージュ波形の変化が殆どないことから、本発明による振動補償機能の操舵への影響がないことが確認できる。
【0096】
図9図10の結果から、本発明によれば、操舵感への影響を抑制しつつも、運転者に違和感として認知される振動成分を抑制することが可能となることを確認することができる。
【実施例2】
【0097】
電動パワーステアリング装置において、補償しようとする振動成分は、モータのトルクリップル成分が主な要因となり、モータのトルクリップルは、一般的にモータに通電する電流量に応じて、リップル幅が大きくなる傾向がある。
【0098】
ところで、「所定の振幅」の値は、トルクリップルという振動成分を抽出できる振幅の値に設定されなければ、効率的な振動補償が行えないため、高電流時のトルクリップル量を目安に「所定の振幅」を設定するが、逆にオンセンタ付近、即ち、低電流付近では、高電流時のトルクリップル量を目安にして予め設定された「所定の振幅」の値は、大きすぎることとなる。
【0099】
前述した実施例1のウィンドウ付抽出逆特性フィルタ420により、任意の周波数帯域(所定の周波数帯域)のみの振動成分を抽出することができるが、低周波数帯域の運転者の操舵成分を完全に取り去ることはできないことがあり、予め設定された「所定の振幅」の値が大きい場合に、オンセンタ操舵時に、ある程度操舵速度が大きいと、実施例1の振動抽出フィルタ400による振動抽出結果に、操舵成分が多少重畳してしまうことがある。
【0100】
これにより、操舵する方向の逆方向へ振動補償が働くため、結果的に、オンセンタ付近で粘性感を増加する可能性がある。
【0101】
この問題を解決するために、実施例2では、操舵トルク又は電流指令値のようなモータ電流量に関連する電動パワーステアリング状態量(以下、「モータ電流量に関連する信号」とも言う。)に応じて、振幅ウィンドウ判定部に予め設定された「所定の振幅」の値を可変とすることにより、「モータ電流量に関連する信号」に応じて、変化する振動成分に合わせて最適な「所定の振幅」の値を設定することができるようにした。
【0102】
つまり、実施例2では、モータ電流量に関連する電動パワーステアリング状態量(操舵トルク又は電流指令値)に応じて、振幅ウィンドウ判定部に予め設定された「所定の振幅」を増減させる(拡大/縮小させる)ことで、トルクリップル成分の抽出精度を向上させ、高精度な振動補償を行うことが可能になる。
【0103】
これにより、本発明の実施例2を適用した場合に、オンセンタ付近での粘性感増加を発生させることなく、振動成分を効率よく抑制することも可能となる。
【0104】
以下、モータ電流量に関連する電動パワーステアリング状態量(モータ電流量に関連する信号)を電流指令値とした場合に、本発明の実施例2に係る電動パワーステアリング装置について説明する。
【0105】
図11は本発明に係る電動パワーステアリング装置の実施例2の構成図を示すブロック図であり、電動パワーステアリング装置の部分は、図1及び図2に対応させて示しており、同一構成には同一符号で付して説明を省略する。なお、実施例2でも、電動パワーステアリング状態量をモータ角速度(モータ角速度信号)としている。
【0106】
振動抽出フィルタを除いて、図11に示す本発明の実施例2に係る電動パワーステアリング装置の構成は、図3に示す本発明の実施例1に係る電動パワーステアリング装置の構成と同じであるため、同一構成についての説明は省略する。
【0107】
振動抽出フィルタについて、図3に示す本発明の実施例1に係る電動パワーステアリング装置は振動抽出フィルタ400を備えているのに対し、図11に示す本発明の実施例2に係る電動パワーステアリング装置は振動抽出フィルタ500を備えている。
【0108】
ここで、振動抽出フィルタ500の機能及び動作について説明する。
【0109】
図11に示されたように、振動抽出フィルタ500は、減算部510と、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタ520を備えている。振動抽出フィルタ500にて行われる処理(動作)は、次のようになる。
【0110】
まず、振動抽出フィルタ500は、角速度算出部210からのモータ角速度ωに対し、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタ520にて、「所定の振幅」と「所定の周波数帯域」の逆特性を有する振動成分を抽出する。
【0111】
ここで、「所定の振幅」と「所定の周波数帯域」の逆特性を有する振動成分は、振動中心値VCVとして、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタ520から出力される。
【0112】
次に、振動抽出フィルタ500は、減算部510にて、抽出した「所定の振幅」と「所定の周波数帯域」の逆特性を有する振動成分(即ち、振動中心値VCV)と、モータ角速度ωとの差分計算を行うことにより、「所定の振幅」と「所定の周波数帯域」を有する振動成分VSを抽出する。
【0113】
ここで、振動抽出フィルタ500により抽出した「所定の振幅」と「所定の周波数帯域」を有する振動成分VSは、補償値算出部300に入力される。
【0114】
図12は、本発明に係る電動パワーステアリング装置の実施例2において、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタ520の構成図を示すブロック図である。図12に基づいて、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタ520の機能及び動作を説明する。
【0115】
図12に示されたように、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタ520は、「所定の周波数」の逆特性を有する逆特性フィルタ421と、電流指令値に応じて予め設定された「所定の振幅」を増減させる手段を具備する振幅ウィンドウ判定部522と、振動中心過去値を保持している過去値保持部423とを備えている。
【0116】
入力されたモータ角速度ωに対し、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタ520にて行われる処理(動作)は、次のようになる。
【0117】
まず、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタ520は、モータ角速度ωを逆特性フィルタ421に通し、逆特性フィルタ421を通した出力(即ち、逆特性フィルタ421の出力)ICOを振幅ウィンドウ判定部522に出力する。ここで、逆特性フィルタ421が持っている「所定の周波数」の逆特性とは、例えば、図5(B)に示すような抽出したい周波数特性の逆特性である。
【0118】
次に、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタ520は、振幅ウィンドウ判定部522にて、電流指令値決定部108からの電流指令値Irefに応じて予め設定された「所定の振幅」を増減させることにより、「所定の振幅」を設定した後に、モータ角速度ω、逆特性フィルタ421の出力ICO、及び、過去値保持部423からの振動中心過去値VCPVに基づき、モータ角速度ωが振幅ウィンドウの範囲内にあるか否かを判定する、振幅ウィンドウ判定処理を行う。
【0119】
振幅ウィンドウ判定処理より、モータ角速度ωが振幅ウィンドウの範囲内にあると判定された場合に、振幅ウィンドウ判定部522は、逆特性フィルタ421の出力ICOを振動中心値VCVとして出力する。
【0120】
一方、振幅ウィンドウ判定処理より、モータ角速度ωが振幅ウィンドウの範囲外にあると判定された場合に、振幅ウィンドウ判定部522は、モータ角速度ωに「所定の振幅」を加減算した値を振動中心値VCVとして出力する。
【0121】
また、振幅ウィンドウ判定部522では、振幅ウィンドウ判定部522からの振動中心値VCVを減算部410に出力するとともに、過去値保持部423にも出力するようになっている。過去値保持部423では、入力された振動中心値VCVを振動中心過去値VCPVとして保持するようになっている。
【0122】
ちなみに、振幅ウィンドウ判定部522で言う「振幅ウィンドウ」とは、振動中心過去値VCPV±「所定の振幅」という範囲を意味しており、当該「所定の振幅」とは、電流指令値Irefに応じて予め設定された「所定の振幅」を増減させることにより得られた(設定された)「所定の振幅」である。
【0123】
実施例2のウィンドウ付抽出逆特性フィルタ520において、振幅ウィンドウ判定部522が電流指令値Irefに応じて所定の振幅を可変とする可変振幅設定例を図13に示す。振幅ウィンドウ判定部522では、例えば、図13に示されたように、電流指令値Irefの増大に応じて所定の振幅を大きくするように、所定の振幅を設定するようにしている。
【0124】
これにより、実施例2を適用すれば、オンセンタ付近での粘性感増加を発生させることなく、トルクリップル成分の抽出精度を向上させ、高精度な振動補償を行うことが可能になる。
【実施例3】
【0125】
上記のように、実施例2では、電流指令値又は操舵トルクに応じて所定の振幅を可変とする構成を採用している。しかしながら、実施例2に示されたこの構成を採用した場合でも、モータ無負荷回転での振動、即ち、モータのコギングトルク、ロストルク変動、メカ機構の振動等の振動を補償するため、低電流付近でも、電流指令値に応じて設定される「所定の振幅」をある程度の値に設定する可能性がある。
【0126】
この場合、特にセンタから切り出し操舵した時に、粘性感が発生する場合がある。また、高速操舵した場合に、実現上のサンプリングの関係より、振動成分の波形が精度よく抽出できないことがある。更には、高速操舵時は、トルクリップル等の振動周波数が非常に高くなるため、運転者が振動として検知しにくく、そのような振動に対し、補償自体を行う必要性がなくなることも考えられる。
【0127】
これらの問題を解決するために、実施例3では、振動抑制補償値CVを算出する補償値算出部にて、モータ電流量に関連する電動パワーステアリング状態量、及び、速度に関連する電動パワーステアリング状態量に応じて、補償割合を変更する感応ゲインを算出し、算出した各感応ゲインを、振動抽出フィルタにて抽出された「所定の振幅」と「所定の周波数帯域」を有する振動成分VSに基づいて算出された振動抑制補償値CV0に乗算することで、振動抑制補償値CVを求めるようにした。
【0128】
ちなみに、モータ電流量に関連する電動パワーステアリング状態量は、モータ電流量に関連する信号を意味しており、即ち、操舵トルク又は電流指令値を意味する。また、速度に関連する電動パワーステアリング状態量は、速度に関連する信号、即ち、操舵速度又はモータ角速度を意味する。
【0129】
具体的に、実施例3では、モータ電流量に関連する信号が少ない状態では、即ち、モータ電流量に関連する電動パワーステアリング状態量が所定の閾値以下の場合に、モータ電流量に関連する信号に係る感応ゲインを小さくし、振動抑制補償値の割合を小さくすることにより、オンセンタ付近での切り出し時の粘性感を抑制するようにしている。
【0130】
また、速度に関連する信号が高回転を示す場合には、即ち、速度に関連する電動パワーステアリング状態量が所定の閾値以上の場合に、速度に関連する信号に係る感応ゲインを小さくし、振動抑制補償値の割合を小さくすることにより、振動波形の抽出精度の悪化による影響を緩和するようにしている。
【0131】
つまり、速度に関連する信号(操舵速度又はモータ角速度)が高くなると、トルクリップル等の振動周波数が高くなる。サンプリング時間との関係上、振動周波数が高くなると、振動波形の抽出精度が低下するため、結果的に、振動補償の精度が低下し、逆に意図しないリップルや操舵違和感を発生させる可能性もある。
【0132】
しかし、実施例3では、速度に関連する信号(操舵速度又はモータ角速度)に応じて補償割合を増減させるようにしているので、振動補償の精度低下前に、振動抑制補償値を低下させることで、上記問題を回避することができる。
【0133】
以下、モータ電流量に関連する電動パワーステアリング状態量を電流指令値とし、また、速度に関連する電動パワーステアリング状態量をモータ角速度とした場合に、本発明の実施例3に係る電動パワーステアリング装置について説明する。
【0134】
図14は本発明に係る電動パワーステアリング装置の実施例3の構成図を示すブロック図であり、電動パワーステアリング装置の部分は、図1及び図2に対応させて示しており、同一構成には同一符号で付して説明を省略する。なお、実施例3でも、電動パワーステアリング状態量をモータ角速度(モータ角速度信号)としている。
【0135】
補償値算出部を除いて、図14に示す本発明の実施例3に係る電動パワーステアリング装置の構成は、図11に示す本発明の実施例2に係る電動パワーステアリング装置の構成と同じであるため、同一構成についての説明は省略する。
【0136】
補償値算出部について、図11に示す本発明の実施例2に係る電動パワーステアリング装置は補償値算出部300を備えているのに対し、図14に示す本発明の実施例3に係る電動パワーステアリング装置は、補償値算出部310を備えている。
【0137】
図15は補償値算出部310の構成図を示すブロック図である。また、図16は、図15に示された補償値算出部310において、電流感応ゲイン設定例と角速度感応ゲイン設定例を示す図である。以下、図15図16を参照しながら、補償値算出部310の機能及び動作について説明する。
【0138】
図15に示されたように、補償値算出部310は、電流指令値感応ゲイン算出部311と、角速度感応ゲイン算出部312と、補償値演算部313と、乗算部314と、乗算部315を備えている。補償値算出部310にて行われる処理(動作)は、次のようになる。
【0139】
まず、補償値算出部310は、電流指令値決定部108からの電流指令値Irefに対し、電流指令値感応ゲイン算出部311にて電流指令値感応ゲインGを算出するとともに、角速度算出部210からのモータ角速度ωに対し、角速度感応ゲイン算出部312にて角速度感応ゲインGωを算出し、さらに、振動抽出フィルタ500にて抽出した振動成分VSに基づいて、補償値演算部313にて振動抑制補償値CV0を算出する。
【0140】
ここで、電流指令値感応ゲイン算出部311では、例えば、図16(A)の電流感応ゲイン設定例に基づき、電流指令値Irefに対応する電流指令値感応ゲインGを算出するようにしても良い。
【0141】
また、角速度感応ゲイン算出部312では、例えば、図16(B)の角速度感応ゲイン設定例に基づき、モータ角速度ωに対応する角速度感応ゲインGωを算出するようにしても良い。
【0142】
ちなみに、補償値演算部313は、実施例1における補償値算出部300の構成と同じなので、その説明は省略する。ただし、実施例1における補償値算出部300にて算出した補償値は振動抑制補償値CVとするのに対し、実施例3における補償値演算部313にて算出した補償値は振動抑制補償値CV0とする。
【0143】
次に、補償値算出部310は、乗算部314及び乗算部315にて、振動抑制補償値CV0に電流指令値感応ゲインG及び角速度感応ゲインGωを乗算することで、振動抑制補償値CVを求める。
【0144】
ここで、補償値算出部310により算出した振動抑制補償値CVは、減算部220に入力される。
【0145】
これにより、実施例3を適用すれば、モータ電流量に関連する信号が少ない状態で発生する、オンセンタ付近での切り出し時の粘性感を抑制できるとともに、速度に関連する信号が高回転を示す場合に発生する、振動波形の抽出精度の悪化による影響を解消することもできる。
【実施例4】
【0146】
一般的に、電動パワーステアリング装置において、車速が高くなると、抑制したい振動成分の振幅が増す傾向がある。これに対し、本発明の振動抽出フィルタにおいて、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタにおける振幅ウィンドウ判定部に予め設定された「所定の振幅」の値が十分でないと、振動抑制効果が期待できない場合がある。
【0147】
このような問題を解決するために、実施例4では、車速に応じて、振動成分を抽出する際に、振幅ウィンドウ判定部に予め設定された「所定の振幅」の値を可変とすることにより、車速に応じて変化する振動成分に合わせて、最適な「所定の振幅」の値を設定することができるようにした。
【0148】
車速に応じて「所定の振幅」の値を可変とする設定例としては、車速が高くなるにつれて、「所定の振幅」を大きくするように、「所定の振幅」を設定する。
【0149】
また、実施例4では、車速に応じて、振動抑制補償の割合を可変とするようにしても良い。これにより、車速に応じて変化する振動成分の振幅変化に対し、振動抑制効果を高めることができる。
【0150】
つまり、電動パワーステアリング装置において、高車速時には、固有値振動等の補償したい振動成分の振幅も大きくなる傾向があるため、実施例4では、振動成分を抽出する際に、車速に応じて、振幅ウィンドウ判定部に予め設定された「所定の振幅」の値を増減させると共に、抽出した振動成分に応じて振動抑制補償値CVを算出する際に、車速に応じて、振動抑制補償の割合を変更する車速感応ゲインも増減させるようにした。
【0151】
また、高車速になると、操舵者はオンセンタ付近の微操舵を頻繁に行うため、前述した実施例1〜3を適用する際に、粘性感を感じやすくなることがある。
【0152】
このような問題を解決するために、実施例4では、高車速の時(即ち、所定の車速以上の場合)に、振動抑制補償の割合だけでなく、所定の振幅も小さく設定するようにしても良い。
【0153】
以下、モータ電流量に関連する電動パワーステアリング状態量を電流指令値とし、また、速度に関連する電動パワーステアリング状態量をモータ角速度とした場合に、本発明の実施例4に係る電動パワーステアリング装置について説明する。
【0154】
図17は本発明に係る電動パワーステアリング装置の実施例4の構成図を示すブロック図であり、電動パワーステアリング装置の部分は、図1及び図2に対応させて示しており、同一構成には同一符号で付して説明を省略する。また、図18は、実施例4において、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタ620の構成図を示すブロック図である。そして、図19は、実施例4における補償値算出部320の構成図を示すブロック図である。なお、実施例4でも、電動パワーステアリング状態量をモータ角速度(モータ角速度信号)としている。
【0155】
図17図18及び図19を参照して、本発明の実施例4に係る電動パワーステアリング装置の機能及び全体動作を詳細に説明する。
【0156】
図17に示されるように、トルクセンサ10で検出された操舵トルクTrと、車速センサ12で検出された車速Velに基づいて、電流指令値決定部108により電流指令値Irefが決定される。決定された電流指令値Irefは、減算部220に入力される。
【0157】
一方、モータ20へ供給されるモータ電流Imは、モータ電流検出回路107で検出され、検出されたモータ電流Imは減算部103に入力される。
【0158】
また、モータ20のロータ位置を検出するロータ位置検出センサ200により、ロータ位置信号であるロータの回転角θが検出される。角速度算出部210では、ロータ位置検出センサ200により検出されたロータの回転角θに基づいて、モータ角速度ωを算出する。そして、算出したモータ角速度ωは、本発明の要部である振動抽出フィルタ600に入力される。
【0159】
振動抽出フィルタ600では、入力されたモータ角速度ω、電流指令値Iref及び車速Velに基づき、所定の振幅及び所定の周波数帯域を有する振動成分を抽出し、抽出した振動成分VSは、本発明のもう1つの要部である補償値算出部320に入力される。
【0160】
次に、補償値算出部320では、抽出した振動成分VS、モータ角速度ω、電流指令値Iref及び車速Velに基づき、振動抑制補償値CVを算出し、算出した振動抑制補償値CVは、減算部220に入力される。
【0161】
そして、振動抑制補償値CVを減算部220にて電流指令値Irefから減算することにより、即ち、振動抑制補償値CVを電流指令値Irefにフィードバックし構成されることにより、振動補償された電流指令値Iを算出する。算出した振動補償された電流指令値Iは、減算部103に入力される。
【0162】
そして、減算部103では、振動補償された電流指令値Iとフィードバックされているモータ20のモータ電流Imとの偏差ΔI(=I−Im)を求め、求めた偏差ΔIは電流制御部104で制御され、制御された電流制御値EはPWM制御部105に入力されてデューティを演算され、デューティを演算されたPWM信号PSによってモータ駆動回路106を介してモータ20を駆動する。
【0163】
ここで、振動抽出フィルタ600の機能及び動作について説明する。
【0164】
図17に示されたように、振動抽出フィルタ600は、減算部610と、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタ620を備えている。振動抽出フィルタ600にて行われる処理(動作)は、次のようになる。
【0165】
まず、振動抽出フィルタ600は、角速度算出部210からのモータ角速度ωに対し、電流指令値Iref及び車速Velをも用いて、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタ620にて、「所定の振幅」と「所定の周波数帯域」の逆特性を有する振動成分を抽出する。
【0166】
ここで、「所定の振幅」と「所定の周波数帯域」の逆特性を有する振動成分は、振動中心値VCVとして、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタ620から出力される。
【0167】
次に、振動抽出フィルタ600は、減算部610にて、抽出した「所定の振幅」と「所定の周波数帯域」の逆特性を有する振動成分(即ち、振動中心値VCV)と、モータ角速度ωとの差分計算を行うことにより、「所定の振幅」と「所定の周波数帯域」を有する振動成分VSを抽出する。
【0168】
ここで、振動抽出フィルタ600により抽出した「所定の振幅」と「所定の周波数帯域」を有する振動成分VSは、補償値算出部320に入力される。
【0169】
実施例4で言う「逆特性」は、実施例1で言う「逆特性」と同じであるため、その説明は省略する。
【0170】
図18に基づいて、実施例4のウィンドウ付抽出逆特性フィルタ620の機能及び動作を説明する。
【0171】
図18に示されたように、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタ620は、「所定の周波数」の逆特性を有する逆特性フィルタ421と、電流指令値及び車速に応じて予め設定された「所定の振幅」を増減させる手段を具備する振幅ウィンドウ判定部622と、振動中心過去値を保持している過去値保持部423とを備えている。
【0172】
入力されたモータ角速度ωに対し、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタ620にて行われる処理(動作)は、次のようになる。
【0173】
まず、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタ620は、モータ角速度ωを逆特性フィルタ421に通し、逆特性フィルタ421を通した出力(即ち、逆特性フィルタ421の出力)ICOを振幅ウィンドウ判定部622に出力する。ここで、逆特性フィルタ421が持っている「所定の周波数」の逆特性とは、例えば、図5(B)に示すような抽出したい周波数特性の逆特性である。
【0174】
次に、ウィンドウ付抽出逆特性フィルタ620は、振幅ウィンドウ判定部622にて、電流指令値決定部108からの電流指令値Iref及び車速Velに応じて予め設定された「所定の振幅」を増減させることにより、「所定の振幅」を設定した後に、モータ角速度ω、逆特性フィルタ421の出力ICO、及び、過去値保持部423からの振動中心過去値VCPVに基づき、モータ角速度ωが振幅ウィンドウの範囲内にあるかを判定する、振幅ウィンドウ判定処理を行う。
【0175】
振幅ウィンドウ判定処理より、モータ角速度ωが振幅ウィンドウの範囲内にあると判定された場合に、振幅ウィンドウ判定部622は、逆特性フィルタ421の出力ICOを振動中心値VCVとして出力する。
【0176】
一方、振幅ウィンドウ判定処理より、モータ角速度ωが振幅ウィンドウの範囲外にあると判定された場合に、振幅ウィンドウ判定部622は、モータ角速度ωに「所定の振幅」を加減算した値を振動中心値VCVとして出力する。
【0177】
また、振幅ウィンドウ判定部622では、振幅ウィンドウ判定部622からの振動中心値VCVを減算部610に出力するとともに、過去値保持部423にも出力するようになっている。過去値保持部423では、入力された振動中心値VCVを振動中心過去値VCPVとして保持するようになっている。
【0178】
ちなみに、振幅ウィンドウ判定部622で言う「振幅ウィンドウ」とは、振動中心過去値VCPV±「所定の振幅」という範囲を意味しており、当該「所定の振幅」とは、電流指令値Iref及び車速Velに応じて予め設定された「所定の振幅」を増減させることにより得られた(設定された)「所定の振幅」である。
【0179】
このように、実施例4では、振動抽出フィルタ600にて、所定の振幅及び所定の周波数帯域にて振動成分を抽出することができる。
【0180】
以下、図19を参照しながら、補償値算出部320の機能及び動作について説明する。
【0181】
図19に示されたように、補償値算出部320は、車速感応ゲイン算出部321と、電流指令値感応ゲイン算出部311と、角速度感応ゲイン算出部312と、補償値演算部313と、乗算部314と、乗算部315と、乗算部322を備えている。補償値算出部320にて行われる処理(動作)は、次のようになる。
【0182】
まず、補償値算出部320は、車速Velに対し、車速感応ゲイン算出部321にて車速感応ゲインGを算出し、電流指令値決定部108からの電流指令値Irefに対し、電流指令値感応ゲイン算出部311にて電流指令値感応ゲインGを算出するとともに、角速度算出部210からのモータ角速度ωに対し、角速度感応ゲイン算出部312にて角速度感応ゲインGωを算出し、さらに、振動抽出フィルタ500にて抽出した振動成分VSに基づいて、補償値演算部313にて振動抑制補償値CV0を算出する。
【0183】
ちなみに、補償値演算部313は、実施例1における補償値算出部300の構成と同じなので、その説明は省略する。ただし、実施例1における補償値算出部300にて算出した補償値は振動抑制補償値CVとするのに対し、実施例4における補償値演算部313にて算出した補償値は振動抑制補償値CV0とする。
【0184】
次に、補償値算出部320は、乗算部314、乗算部315及び乗算部322にて、振動抑制補償値CV0に、角速度感応ゲインGω、電流指令値感応ゲインG、及び車速感応ゲインGを乗算することで、振動抑制補償値CVを求める。ここで、補償値算出部320により算出した振動抑制補償値CVは、減算部220に入力される。
【0185】
これにより、実施例4を適用すれば、車速に応じて、所定の振幅だけでなく、振動抑制補償の割合も可変とするとようにしているので、車速に応じて変化する振動成分の振幅変化に対し、振動抑制効果を高めることができ、また、頻繁に行われるオンセンタ付近の微操舵に起因する粘性感を解消することもできる。

なお、上述した実施例(実施例1〜実施例4)では、電動パワーステアリング状態量をモータ角速度信号としたが、本発明で用いられる電動パワーステアリング状態量は、それに限定されるものではなく、振動成分を検出できる信号であれば、その信号を電動パワーステアリング状態量とすることができる。
【0186】
例えば、トルクセンサで検出された操舵トルク、操舵速度、電源電圧、又はモータ印加電圧等の信号を電動パワーステアリング状態量とすることができる。
【0187】
また、本発明では、例えば、
操舵エネルギーとなる操舵トルクと操舵速度の乗算値、
モータ運動エネルギーとなる電流指令値、トルク定数及びモータ角速度の乗算値、
検出されたモータ電流、トルク定数、及びモータ角速度の乗算値、
電流指令値と電源電圧の乗算値、又は、
検出されたモータ電流と電源電圧の乗算値などのエネルギー算出値を、電動パワーステアリング状態量として使用することが勿論可能である。
【符号の説明】
【0188】
1 操向ハンドル
10 トルクセンサ
12 車速センサ
13 バッテリ
20 モータ
30 コントロールユニット
101 操舵補助指令値演算部
102 最大出力制限部
103 減算部
104 電流制御部
105 PWM制御部
106 モータ駆動回路
107 モータ電流検出回路
108 電流指令値決定部
200 ロータ位置検出センサ
210 角速度算出部
220 減算部
300,310,320 補償値算出部
311 電流指令値感応ゲイン算出部
312 角速度感応ゲイン算出部
313 補償値演算部
314,315,322 乗算部
321 車速感応ゲイン算出部
400,500,600 振動抽出フィルタ
410,510,610 減算部
420,520,620 ウィンドウ付抽出逆特性フィルタ
421 逆特性フィルタ
422,522,622 振幅ウィンドウ判定部
423 過去値保持部
図1
図2
図3
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