特許第5835146号(P5835146)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5835146
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】捲回型電極体の製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/04 20060101AFI20151203BHJP
【FI】
   H01M10/04 W
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-172286(P2012-172286)
(22)【出願日】2012年8月2日
(65)【公開番号】特開2014-32821(P2014-32821A)
(43)【公開日】2014年2月20日
【審査請求日】2014年9月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080621
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 寿一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100124730
【弁理士】
【氏名又は名称】正津 秀明
(72)【発明者】
【氏名】秋山 直久
【審査官】 冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−228188(JP,A)
【文献】 特開昭55−075815(JP,A)
【文献】 特開昭62−089529(JP,A)
【文献】 特開平09−092339(JP,A)
【文献】 特開2001−351669(JP,A)
【文献】 特開2004−345781(JP,A)
【文献】 特開2010−055962(JP,A)
【文献】 特開2001−303249(JP,A)
【文献】 特開平02−150706(JP,A)
【文献】 特開2011−116439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つ以上の中間ローラによって電極シートを搬送し、前記電極シートを捲回する捲回型電極体の製造装置であって、
前記各中間ローラのうち、少なくとも一つ以上の前記中間ローラの撓み量を測定する測定手段と、
前記測定手段の測定結果に基づいて、前記撓み量を測定した中間ローラの軸方向の傾きを補正する補正手段と、
を具備
前記補正手段は、
前記電極シートに対して設定される搬送速度パターンを用いて、前記軸方向の傾きを補正する前記中間ローラの撓み量を推測し、前記推測した撓み量に基づいて前記中間ローラの軸方向の傾きを補正する、
捲回型電極体の製造装置。
【請求項2】
前記電極シートを搬送するときの加速度は、
1.2m/s2以上である、
請求項1に記載の捲回型電極体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一つ以上の中間ローラによって電極シートを搬送し、電極シートを捲回する捲回型電極体の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、二次電池には、セパレータが挟まれた状態で電極シート(正極および負極)をロール状に捲回した捲回型電極体が用いられている。このような捲回型電極体は、例えば、図10に示すような製造装置によって製造される。
製造装置は、掛軸より巻き出される電極シートおよびセパレータを中間ローラによって搬送し、巻軸によって電極シートを捲回する。そして、製造装置は、所定量だけ電極シートを捲回した後で、切断機構によって電極シートおよびセパレータを切断する。
【0003】
捲回型電極体の生産性を向上させるためには、電極シートを短時間で搬送することが好ましい。この場合には、製造装置において、高い加速度を設定して電極シートを搬送する必要があるため、加速度が上昇して中間ローラに対して高い回転トルクが作用する。
また、中間ローラは、電極シートの搬送条件および製造装置の周辺環境等の影響で、その軸方向一端部だけが支持される片持ち構造が採用される場合がある。
このような片持ち構造が採用される中間ローラは、剛性が充分に確保されていないため、高い回転トルクが作用したときに、電極シートの幅方向に対して平行度を保つことができなくなってしまう可能性がある。この場合には、電極シートに対して幅方向に沿った力がかかり、電極シートが搬送方向に対して斜行したり、電極シートが蛇行したりしてしまい、その結果、電極シートの巻きズレが発生してしまう。
【0004】
特許文献1に開示される電極シートの巻き取り装置は、シート変位検知手段によって電極シートの幅方向の端部の位置が正規の位置からずれたことを検知する。そして、特許文献1に開示される電極シートの巻き取り装置は、前記検知結果に基づいて、所定のロールの軸芯の角度を調整し、電極シートの幅方向の端部の位置を補正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−228188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電極シートを短時間で搬送する場合において、特許文献1に開示される電極シートの巻き取り装置では、中間ローラに起因する電極シートの巻きズレを、軸芯の角度を調整可能なロールによって間接的に補正することとなる。つまり、特許文献1に開示される電極シートの巻き取り装置では、電極シートの巻きズレ量を効果的に抑制できない。
従って、特許文献1に開示される電極シートの巻き取り装置では、電極シートを短時間で搬送したときに、巻きズレを充分に補正できない可能性がある。つまり、特許文献1に開示される電極シートの巻き取り装置では、電極シートを短時間で搬送できず、結果、捲回型電極体の生産性が低下してしまう可能性がある。
【0007】
本発明は、以上の如き状況を鑑みてなされたものであり、捲回型電極体の生産性を向上できる捲回型電極体の製造装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る捲回型電極体の製造装置は、少なくとも一つ以上の中間ローラによって電極シートを搬送し、前記電極シートを捲回する捲回型電極体の製造装置であって、前記各中間ローラのうち、少なくとも一つ以上の前記中間ローラの撓み量を測定する測定手段と、前記測定手段の測定結果に基づいて、前記撓み量を測定した中間ローラの軸方向の傾きを補正する補正手段と、を具備前記補正手段は、前記電極シートに対して設定される搬送速度パターンを用いて、前記軸方向の傾きを補正する前記中間ローラの撓み量を推測し、前記推測した撓み量に基づいて前記中間ローラの軸方向の傾きを補正する、ものである。
【0009】
本発明に係る捲回型電極体の製造装置は、前記電極シートを搬送するときの加速度は、1.2m/s2以上である、ものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、捲回型電極体の生産性を向上できる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】捲回型電極体の製造装置の全体的な構成を示す説明図。
図2】搬送方向中途部に配置される中間ローラの構成を示す説明図。
図3】電極シートの搬送速度パターンを示す図。
図4】加速状態における搬送方向中途部に配置される中間ローラを示す説明図。(a)搬送速度を示す図。(b)補正前の状態を示す図。(c)補正後の状態を示す図。
図5】静止時および加速時の、搬送方向中途部に配置される中間ローラに対して作用する荷重および撓み量を示す図。
図6】等速状態および減速状態における搬送方向中途部に配置される中間ローラを示す説明図。(a)搬送速度を示す図。(b)補正前後の状態を示す図。
図7】電極シートの搬送速度パターンから回転トルクを予測する様子を示す説明図。
図8】補正機構によって搬送方向中途部に配置される中間ローラの撓みを補正した結果を示す図。(a)撓み量を示す図。(b)巻きズレ量を示す図。
図9】搬送方向中途部に配置される中間ローラの撓みを補正せずに電極シートを搬送した結果を示す図。(a)撓み量を示す図。(b)巻きズレ量を示す図。
図10】従来技術における捲回型電極体の製造装置の全体的な構成を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下では、本実施形態の捲回型電極体1の製造装置10(以下、単に「製造装置10」と表記する)について説明する。
【0013】
まず、捲回型電極体1について説明する。
捲回型電極体1は、例えば、二次電池の発電要素として用いられるものである。図1に示すように、捲回型電極体1は、電極シート2およびセパレータ3によって構成される。
【0014】
電極シート2は、集電体(正極集電体または負極集電体)の表面に合剤層(正極合剤層または負極合剤層)が形成されるシート状の正極および負極である。電極シート2は、集電体の表面に合剤(正極合剤または負極合剤)を塗工して乾燥させ、プレス加工を施すこと等によって構成される。
捲回型電極体1を製造する前の時点において、電極シート2は、巻芯2aに捲回され、ロール状に形成される。
【0015】
セパレータ3は、ポリエチレン、ポリプロピレンといったポリオレフィン樹脂等から成る絶縁体である。
捲回型電極体1を製造する前の時点において、セパレータ3は、巻芯に捲回され、ロール状に形成される。
【0016】
製造装置10は、このようなロール状に形成される電極シート2およびセパレータ3を巻き出して、電極シート2の間にセパレータ3が挟まれた状態で電極シート2を捲回し、捲回型電極体1を製造する。
【0017】
次に、製造装置10の構成について説明する。
図1および図2に示すように、製造装置10は、掛軸20、中間ローラ30〜39、補正機構40、テンションローラ50、撓み量測定センサ60、切断機構70、および捲回機構80等を具備する。
【0018】
掛軸20は、ロール状に形成される電極シート2の巻芯2aを支持するものである。掛軸20は、モータからの駆動力が伝達され、回転駆動可能に構成される。巻芯2aは、掛軸20の回転に伴って一体的に回転する。電極シート2は、巻芯2aの回転によって掛軸20より巻き出される。
掛軸20は、その軸方向両端部が所定の一対の支持部材に回転可能に支持される両持ち構造が採用されることで、その剛性が充分に確保されている。
【0019】
中間ローラ30〜39は、掛軸20から捲回機構80までの間において(つまり、電極シート2の搬送経路上に)複数箇所に配置され、電極シート2が順に架け渡される。中間ローラ30〜39は、モータからの駆動力が伝達され、回転駆動可能に構成される。
掛軸20から巻き出される電極シート2は、中間ローラ30〜39の回転によって捲回機構80まで搬送される。すなわち、製造装置10は、少なくとも一つ以上の中間ローラ30〜39によって電極シート2を搬送する。
【0020】
本実施形態において、搬送方向中途部に配置される中間ローラ36を除く中間ローラ30〜35・37〜39は、例えば、強度が高い材料を用いて構成する、両持ち構造が採用される、あるいは、軸方向の長さを短くすること等により、その剛性が充分に確保されている。
【0021】
一方、搬送方向中途部に配置される中間ローラ36は、電極シート2の搬送条件および製造装置10の周辺環境等の影響で、剛性が必ずしも充分に確保できないような位置に配置されている。すなわち、中間ローラ36は、強度が比較的低い材料を用いて構成され、軸方向一端側(図2では右側)だけが所定の部材等に支持される片持ち構造が採用され、その軸長もある程度長くなっている。
このため、中間ローラ36は、電極シート2を搬送するときに作用する荷重の影響で、軸方向他端部(図2では左端部)が撓んでしまう可能性がある(図4(b)参照)。
【0022】
補正機構40は、搬送方向中途部に配置される中間ローラ36の軸方向の傾きを補正するものである。
補正機構40は、例えば、中間ローラ36の軸方向一端側にサーボモータ41を配置して、サーボモータ41の回転運動を既存の変換機構によって直線運動に変換し、当該直線運動によって軸方向一端側の所定の位置を基準に中間ローラ36を回転させること等によって、中間ローラ36の軸方向の傾きを補正する。
【0023】
以下では、このような搬送方向中途部に配置される中間ローラ36を「補正機能付き中間ローラ36」と表記する。
【0024】
なお、補正機構の構成は、本実施形態に限定されるものでない。すなわち、補正機構は、例えば、シリンダの伸縮動作によって搬送方向中途部に配置される中間ローラの軸方向の傾きを補正しても構わない。
【0025】
テンションローラ50は、掛軸20よりも搬送方向下流側、かつ、補正機能付き中間ローラ36よりも搬送方向上流側に配置される。テンションローラ50は、モータからの駆動力が伝達され、回転駆動可能に構成されるとともに、電極シート2を図1における左右方向に押圧して、電極シート2に対して一定の張力を付与する。テンションローラ50は、両持ち構造が採用されること等により、その剛性が充分に確保されている。
【0026】
測定手段としての撓み量測定センサ60は、補正機能付き中間ローラ36の軸方向他端部の変位量を測定する変位センサによって構成される。すなわち、撓み量測定センサ60は、補正機能付き中間ローラ36の軸方向他端部の変位量に基づいて、補正機能付き中間ローラ36の撓み量N(図4(b)参照)を測定する。
撓み量測定センサ60は、補正機能付き中間ローラ36の撓み量Nの測定結果を入力可能に、補正機構40と電気的に接続される。
【0027】
なお、撓み量測定センサの構成は、本実施形態に限定されるものでない。すなわち、撓み量測定センサは、例えば、補正機能付き中間ローラのひずみ量に基づいて、補正機能付き中間ローラの撓み量を測定しても構わない。
【0028】
図1に示すように、切断機構70は、中間ローラ39よりもやや搬送方向下流側に配置される。切断機構70は、一対のローラ71およびカッター72等を備える。
【0029】
一対のローラ71は、電極シート2の表面を挟んで対向配置され、モータからの駆動力が伝達されて回転駆動可能に構成される。すなわち、一対のローラ71は、電極シート2を挟持した状態で、電極シート2を搬送する。一対のローラ71は、両持ち構造が採用されること等により、その剛性が充分に確保されている。
【0030】
カッター72は、一対のローラ71よりもやや搬送方向下流側に配置される。カッター72は、例えば、基端部(図1では電極シート2に対して離間する側の端部)にシリンダのロッドが連結され、前記シリンダのロッドの伸縮動作によって、電極シート2に対して近接離間可能に構成される。
【0031】
切断機構70は、電極シート2の搬送が終了したときに、カッター72を電極シート2に接近させ、電極シート2の幅方向に沿って電極シート2を切断する。
【0032】
捲回機構80は、一対の支持部材81および三つの巻軸82を備える。
【0033】
一対の支持部材81は、電極シート2の幅方向に沿って所定の間隔を空けて対向配置され、三つの巻軸82を回転可能に支持する。一対の支持部材81は、モータからの駆動力が伝達され、その中心を基準として回転駆動可能に構成される。
【0034】
巻軸82には、巻芯4が着脱可能に取り付けられる。巻軸82は、モータからの駆動力が伝達され、それぞれが独立して回転駆動可能に構成される。巻軸82は、両持ち構造が採用されること等により、その剛性が充分に確保されている。
図1において掛軸20に最も接近する巻軸82が回転することで、電極シート2は、セパレータ3に挟まれた状態で、巻芯4に捲回される。このとき、他の巻軸82は、回転することなく待機している。
【0035】
なお、本実施形態において、巻軸に取り付けられる巻芯は、略円筒形状に形成されるものとするが、これに限定されるものでない。
【0036】
製造装置10は、図1および図2に示す掛軸20、中間ローラ30〜39、補正機構40、テンションローラ50、および撓み量測定センサ60と同様に構成される掛軸、中間ローラ、補正機構、テンションローラ、および撓み量測定センサを設置して、電極シート2である正極および負極を捲回機構80の巻軸82まで搬送可能に構成される。
また、製造装置10は、図1に示す掛軸20、中間ローラ30〜39、およびテンションローラ50と同様に構成される掛軸、中間ローラ、およびテンションローラを設置して、セパレータ3を捲回機構80の巻軸82まで搬送可能に構成される。
【0037】
製造装置10は、図1に示す切断機構70と同様に構成される切断機構を、電極シート2およびセパレータ3の搬送経路上に設け、電極シート2である正極および負極とセパレータ3との搬送が終了したときに、電極シート2およびセパレータ3を切断可能に構成される。
【0038】
次に、製造装置10による電極シート2の捲回動作について説明する。
【0039】
なお、製造装置10は、説明の便宜上、図3に示す搬送速度パターンに基づいて電極シート2を搬送するものとする。
すなわち、製造装置10は、有る時点から所定時間経過後に電極シート2の搬送を開始する。そして、製造装置10は、所定の速度での搬送を一定時間維持した後で、搬送速度を下げて電極シート2の搬送を終了する。また、製造装置10は、このような電極シート2の搬送速度パターンに合わせてセパレータ3を搬送する。
【0040】
図1および図4(a)に示すように、電極シート2の搬送を開始するとき、製造装置10は、モータの動力を掛軸20および中間ローラ30〜39等に伝達させ、電極シート2の搬送速度を所定の速度まで上げる(図4(a)に示す加速状態参照)。
【0041】
図5に示すように、電極シート2の搬送を開始する前、つまり、静止状態において、補正機能付き中間ローラ36には、搬送張力に対応する荷重だけが作用する。すなわち、静止状態において、補正機能付き中間ローラ36に作用する荷重は小さい。この場合、補正機能付き中間ローラ36の撓み量Nは小さなものとなる。
【0042】
一方、加速状態において、補正機能付き中間ローラ36には、搬送張力に加えて回転トルクが作用する。
回転トルクは、加速度に応じて高くなる。また、本実施形態の製造装置10は、1.2m/s2以上の加速度で、つまり、高い加速度で電極シート2の搬送速度を上昇させる。
従って、補正機能付き中間ローラ36には、搬送張力および高い回転トルクに対応する荷重、つまり、大きな荷重が作用する。
【0043】
前述のように、補正機能付き中間ローラ36は、電極シート2の搬送条件および製造装置10の周辺環境等の影響で、その剛性が充分に確保されていない。
従って、図4(b)および図5に示すように、補正機能付き中間ローラ36は、加速時にかかる大きな荷重によって軸方向他端部、つまり、電極シート2が掛け渡される部分が大きく撓んでしまう。
【0044】
このように、補正機能付き中間ローラ36が大きく撓んだ場合、補正機能付き中間ローラ36は、電極シート2の幅方向に対する平行度を保てなくなる。つまり、補正機能付き中間ローラ36は、その軸方向が電極シート2の幅方向に対して平行な状態を維持できなくなる。
この場合には、電極シートに対して幅方向に沿った力がかかり、電極シート2が搬送方向に対して斜行したり、電極シートが蛇行したりしてしまう(図4(b)に示す電極シート2参照)。
【0045】
図1に示すように、加速状態においては、掛軸20、中間ローラ30〜35・37〜39、テンションローラ50、一対のローラ71、および巻軸82にも、搬送張力および高い回転トルクに対応する大きな荷重が作用する。
前述のように、掛軸20、中間ローラ30〜35・37〜39、テンションローラ50、一対のローラ71、および巻軸82は、両持ち構造が採用されること等により、その剛性が充分に確保されているため、加速状態において大きく撓まない。
【0046】
また、セパレータ3を搬送する中間ローラ等にも、搬送張力および高い回転トルクに対応する荷重が作用するが、セパレータ3の搬送張力は、電極シート2の搬送張力と比較して小さい(図5参照)。
このため、セパレータ3を搬送する中間ローラ等は、電極シート2の搬送条件および製造装置10の周辺環境等の影響で、その剛性が充分に確保されていない場合でも、加速状態において撓みにくい。
【0047】
すなわち、本実施形態においては、加速時に作用する荷重によって、補正機能付き中間ローラ36の軸方向他端部だけが大きく撓み、その結果、電極シート2の巻きズレが発生する可能性がある。
【0048】
そこで、図4(b)に示すように、製造装置10は、電極シート2を搬送するときに、撓み量測定センサ60によって補正機能付き中間ローラ36の撓み量Nを測定し、撓み量Nの測定結果を補正機構40に入力する。
このとき、補正機構40は、撓み量Nの測定結果に基づいて、サーボモータ41を動作させる。
【0049】
すなわち、図4(c)に示すように、補正機構40は、補正機能付き中間ローラ36の軸方向他端部が撓んだ方向と反対の方向に、撓み量Nと同じ量だけ、補正機能付き中間ローラ36の軸方向他端部が移動するように、補正機能付き中間ローラ36の軸方向の傾きを補正する。
つまり、製造装置10は、補正機構40によって補正機能付き中間ローラ36の軸方向他端部の位置を、撓む前の位置に戻す。
これにより、製造装置10は、補正機能付き中間ローラ36の軸方向他端部の撓みを補正できる。従って、製造装置10は、電極シート2の巻きズレを補正できる。
【0050】
つまり、製造装置10は、電極シート2の幅方向のずれ量に基づいて電極シート2の巻きズレを補正するのではなく、撓み量Nに基づいて電極シート2の巻きズレが発生する要因を除去することで、電極シート2の巻きズレを補正するのである。
【0051】
これによれば、製造装置10は、加速時に発生する電極シート2の巻きズレ量を効果的に抑制できるため、高い加速度、具体的には、1.2m/s2以上の加速度を設定した場合でも、電極シート2の巻きズレを充分に補正できる。
従って、製造装置10は、高い加速度を設定できる、つまり、電極シート2の搬送時間を短縮できるため、捲回型電極体1の生産性を向上できる。このため、製造装置10は、ライン辺りの製造装置10の設置台数を低減できる。つまり、製造装置10は、捲回型電極体1の製造コストを低減できる。
【0052】
このように、補正機構40は、撓み量測定センサ60の測定結果に基づいて、撓み量測定センサ60で撓み量Nを測定した中間ローラ36の軸方向の傾きを補正する。
【0053】
所定の速度まで搬送速度を上げた後で、製造装置10は、図6(a)に示すように、所定の速度を維持した状態で、電極シート2の搬送を行う(図6(a)に示す等速状態参照)。
そして、製造装置10は、搬送速度を下げて電極シート2の搬送を終了する(図6(a)に示す減速状態参照)。このとき、図1に示すように、製造装置10は、切断機構70によって電極シート2を切断する。
これにより、製造装置10は、電極シート2の間にセパレータ3が挟まれた状態で電極シート2を捲回し、捲回型電極体1を製造する。
【0054】
等速状態および減速状態において、補正機能付き中間ローラ36には、加速時の回転トルクよりも低い回転トルクが作用する。
従って、図6(b)に示すように、等速状態および減速状態において、補正機能付き中間ローラ36は、搬送張力および低い回転トルクに対応する荷重、つまり、小さい荷重が作用する。この場合、補正機能付き中間ローラ36の軸方向他端部は大きく撓まない。
【0055】
このような等速状態および減速状態においても、撓み量測定センサ60は、補正機能付き中間ローラ36の撓み量Nを測定している。
従って、仮に、等速状態および減速状態において補正機能付き中間ローラ36の軸方向他端部が大きく撓んだ場合でも、製造装置10は、補正機構40によって補正機能付き中間ローラ36の撓みを補正できる。
【0056】
また、図1に示すように、掛軸20、中間ローラ30〜35・37〜39、テンションローラ50、一対のローラ71、および巻軸82は、その剛性が充分に確保されているため、等速状態および減速状態において大きく撓まない。
そして、セパレータ3を搬送する中間ローラ等は、小さい搬送張力および低い回転トルクに対応する小さい荷重が作用するため、その剛性が充分に確保されていない場合でも、等速状態および減速状態において大きく撓まない。
【0057】
捲回型電極体1を製造した後で、製造装置10は、一対の支持部材81を回転させ、待機している巻軸82の一方を、図1において電極シート2が捲回される巻軸82の位置まで移動させる。
その後、製造装置10は、移動させた巻軸82に取り付けられる巻芯4に向けて電極シート2およびセパレータ3を搬送し、移動させた巻軸82に取り付けられる巻芯4に電極シート2を捲回して、捲回型電極体1の製造を継続して行う。
【0058】
ここで、前述のように、補正機能付き中間ローラ36等に対して作用する回転トルクの大きさは、加速度に応じて高くなる。
そこで、製造装置10は、以下のようにして補正機能付き中間ローラ36の撓みを補正しても構わない。
【0059】
すなわち、図7に示すように、製造装置10は、実際に電極シート2を搬送する前に、電極シート2の搬送速度パターンを補正機構40に入力する。
補正機構40は、入力される搬送速度パターンから加速度を算出し、加速度の算出結果から補正機能付き中間ローラ36に対して作用する回転トルクの大きさを予測する。
補正機構40は、回転トルクの予測結果から補正機能付き中間ローラ36の撓み量Nを推測する。つまり、補正機構40は、実際に電極シート2を搬送する前に、補正機能付き中間ローラ36がどのタイミングでどの程度撓むかを事前に推測する。
【0060】
このような構成において、実際に電極シート2が搬送されるとき、補正機構40は、推測した撓み量Nを補正するようにサーボモータ41を動作させ、補正機能付き中間ローラ36の軸方向の傾きを補正する。
【0061】
これによれば、補正機構40は、補正機能付き中間ローラ36が撓むタイミングに合わせて、補正機能付き中間ローラ36の軸方向の傾きを補正できる。従って、製造装置10は、補正機能付き中間ローラ36の撓みに起因する電極シート2の巻きズレ量を、より効果的に抑制できる。
このため、製造装置10は、電極シート2の搬送速度パターンにおける加速度をより高い加速度に設定した場合でも、電極シート2の巻きズレを充分に補正できる。従って、製造装置10は、より高い加速度を設定できる、つまり、電極シート2の搬送時間をさらに短縮できるため、捲回型電極体1の生産性をより向上できる。
【0062】
このように、補正機構40は、電極シート2に対して設定される搬送速度パターンを用いて、軸方向の傾きを補正する補正機能付き中間ローラ36の撓み量Nを推測し、推測した撓み量Nに基づいて補正機能付き中間ローラ36の軸方向の傾きを補正する。
【0063】
また、このような場合においても、製造装置10は、図4(b)および図4(c)に示すように、撓み量測定センサ60によって、補正機能付き中間ローラ36の撓み量Nを測定する。
そして、製造装置10は、撓み量測定センサ60の測定結果を補正機構40に入力し、補正機構40によって実際に発生する撓み補正機能付き中間ローラ36の撓みを補正する。
【0064】
これによれば、製造装置10は、推測した補正機能付き中間ローラ36の撓み量Nに対する実際の補正機能付き中間ローラ36の撓み量Nのずれを補正できる。つまり、製造装置10は、より精度よく電極シート2の巻きズレを補正できる。
【0065】
次に、図8および図9を参照して、加速状態での補正機能付き中間ローラ36の撓み量Nを測定した結果、および加速状態での電極シート2の巻きズレ量を測定した結果について説明する。
【0066】
図8は、補正機構40によって補正機能付き中間ローラ36の撓みを補正した場合の測定結果を示すものである。
測定において、補正機構40は、電極シート2の搬送速度パターンから推測した補正機能付き中間ローラ36の撓み量Nを補正するとともに、撓み量測定センサ60の測定結果に基づいて実際に発生する補正機能付き中間ローラ36の撓みを補正した(図4および図7参照)。
【0067】
図9は、補正機能付き中間ローラ36の撓みを補正しなかった場合の測定結果を示すものである。
【0068】
測定では、補正機能付き中間ローラ36の撓みを補正しなかった場合に、ある程度大きな巻きズレが発生する程度に高い加速度で、電極シート2を搬送した。
【0069】
図8(a)および図9(a)に示す撓み量Nの測定結果は、撓み量測定センサ60を用いて測定した。
【0070】
また、図8(b)および図9(b)に示す巻きズレ量の測定結果は、補正機能付き中間ローラ36よりも搬送方向下流側に位置する中間ローラ(例えば、中間ローラ39)の近傍にエッジセンサを設置して、前記エッジセンサによって電極シート2の幅方向の位置を測定し、当該測定結果を巻きズレ量としたものである。
【0071】
図8および図9に示すように、補正機構40によって補正機能付き中間ローラ36の撓みを補正した場合には、補正機能付き中間ローラ36の撓みを補正しなかった場合と比較して、撓み量Nの最大値が10分の1程度小さくなった。
これに伴い、電極シート2の巻きズレ量の最大値は3分の1程度小さくなった。
【0072】
なお、測定では、実際に撓み量Nおよび巻きズレ量を測定する前に、所定量だけ電極シート2を捲回していた。
このため、図9に示すように、補正機能付き中間ローラ36の撓みを補正しなかった場合には、測定前に発生した巻きズレ量が積み重なってしまい、測定を開始する際に(時間0の時点で)ある程度大きな巻きズレが発生している。
一方、図8に示すように、補正機構40によって補正機能付き中間ローラ36の撓みを補正した場合には、電極シート2の巻きズレ量が小さいため、測定前に発生した巻きズレ量が積み重なっても、測定を開始する際に大きな巻きズレが発生しない。
【0073】
以上より、製造装置10は、高い加速度を設定して電極シート2を搬送した場合でも、補正機能付き中間ローラ36の撓みに起因する巻きズレを、充分に補正できることがわかる。
また、製造装置10は、巻きズレ量が積み重なることなく電極シート2を捲回できることがわかる。
【0074】
なお、本実施形態では、撓み量測定センサによって一つの中間ローラ(補正機能付き中間ローラ)の撓み量を測定したが、これに限定されるものでない。
すなわち、製造装置は、複数の撓み量測定センサを設置して、複数の中間ローラの撓み量を測定しても構わない。この場合、製造装置は、複数の撓み量測定センサで撓み量を測定する中間ローラの軸方向の傾きを補正可能に、複数の補正機構を設置すればよい。
【0075】
このように、撓み量測定センサ60は、各中間ローラ30〜39のうち、少なくとも一つ以上の中間ローラ30〜39の撓み量Nを測定する。
また、撓み量測定センサ60は、電極シート2の搬送条件および製造装置10の周辺環境等の影響で、剛性が充分に確保できないような位置に配置され、加速時に発生する撓みによって巻きズレが発生してしまう中間ローラの撓み量Nを測定する。
【0076】
なお、製造装置は、補正機構および撓み量測定センサをセパレータの搬送経路上に設置して、セパレータを搬送する中間ローラの撓みを補正しても構わない。これによれば、製造装置は、加速時にセパレータを搬送する中間ローラが撓んだ場合でも、セパレータの巻きズレを補正できる。
従って、製造装置は、より精度よく電極シートを捲回できる。
【符号の説明】
【0077】
1 捲回型電極体
2 電極シート
10 製造装置
30〜39 中間ローラ
40 補正機構(補正手段)
60 撓み量測定センサ(測定手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10