特許第5835170号(P5835170)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5835170
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/28 20060101AFI20151203BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20151203BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20151203BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20151203BHJP
   H01L 29/78 20060101ALI20151203BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20151203BHJP
   H01L 21/337 20060101ALI20151203BHJP
   H01L 21/338 20060101ALI20151203BHJP
   H01L 29/808 20060101ALI20151203BHJP
   H01L 29/812 20060101ALI20151203BHJP
   H01L 29/778 20060101ALI20151203BHJP
【FI】
   H01L21/28 301B
   H01L21/302 104C
   H01L21/31 B
   H01L21/28 A
   H01L21/28 B
   H01L29/78 301B
   H01L29/78 652T
   H01L29/78 653A
   H01L29/78 301F
   H01L29/80 V
   H01L29/80 H
   H01L29/78 301P
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-202128(P2012-202128)
(22)【出願日】2012年9月13日
(65)【公開番号】特開2014-57012(P2014-57012A)
(43)【公開日】2014年3月27日
【審査請求日】2014年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087723
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 修
(72)【発明者】
【氏名】村上 倫章
(72)【発明者】
【氏名】岡 徹
【審査官】 河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2006/123580(WO,A1)
【文献】 特開2009−200332(JP,A)
【文献】 特開2004−071657(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/013912(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/28
H01L 21/3065
H01L 21/31
H01L 21/336
H01L 21/337
H01L 21/338
H01L 29/12
H01L 29/778
H01L 29/78
H01L 29/808
H01L 29/812
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と半導体層とを有し、
前記基板と前記半導体層との少なくとも一方がIII 族窒化物系化合物半導体から成る半導体装置の製造方法において、
前記基板の主面に前記半導体層を形成する半導体層形成工程と、
前記基板と前記半導体層との少なくとも一方のIII 族窒化物系化合物半導体の窒素面にCl2 を用いたドライエッチングを行って前記窒素面にピットを形成するドライエッチング工程と、
ピットを形成された前記窒素面の電極形成領域に電極を形成する電極形成工程と、
を有し、
前記ドライエッチング工程では、
Cl2 の流量を10sccm以上50sccm以下とし、
ICP Powerを100W以上500W以下とし、
Bias Powerを30W以上150W以下とし、
処理時間を10秒以上3000秒以下とし、
平均ピット密度を5.0×106 個/cm2 より大きく2.0×108 個/cm2 以下とし、
ピットの外径を0.2μm以上1μm以下とし、
ドライエッチングにより除去する前記半導体層の厚みを50nm以上とすること
を特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置の製造方法において、
前記ドライエッチング工程では、
前記窒素面の前記電極形成領域に、
4.0×106 個/cm2 以上の平均ピット密度でピットを形成し、
前記電極形成工程では、
前記III 族窒化物系化合物半導体と前記電極との間の接触抵抗率を2.8×10-5Ωcm2 以上3.4×10-5Ωcm2 以下とすること
を特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の半導体装置の製造方法において、
前記ドライエッチング工程では、
ドライエッチングにより除去する半導体の厚みを
1mm以下とすること
を特徴とする半導体装置の製造方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の半導体装置の製造方法において、
前記電極形成工程の後に、
400℃以上650℃以下の温度範囲で熱処理を行う熱処理工程を有すること
を特徴とする半導体装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置の製造方法に関する。さらに詳細には、III 族窒化物系化合物半導体と電極との接触抵抗の低減を図った半導体装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体装置では、半導体と電極との間で良好なオーミックコンタクトをとることが好ましい。接触抵抗が小さくなるからである。これにより、発熱を抑制し、出力を高いものとすることができる。また、省エネルギー化を図ることができる。そこで、半導体と電極との間で好適なオーミックコンタクトをとるための技術が開発されてきている。
【0003】
例えば、特許文献1には、発光素子において、n型コンタクト層の上にTi層およびAl層から成る多層膜を形成する技術が開示されている(特許文献1の段落[0009]等参照)。これにより、良好なオーミックコンタクトが得られるとされている(特許文献1の段落[0012]および図1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−45867号公報
【特許文献2】特開2007−273844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、特許文献2には、GaN基板の窒素面にプラズマ処理を行う技術が開示されている(特許文献2の段落[0034]参照)。この場合には、接触抵抗率は低くて1.0×10-4Ωcm2 程度である(特許文献2の図5および図8参照)。しかし、接触抵抗率は、より低いことが好ましい。
【0006】
本発明は、前述した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは、III 族窒化物系化合物半導体と電極との間の接触抵抗の低減を図った半導体装置の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の態様における半導体装置の製造方法は、基板と半導体層とを有し、基板と半導体層との少なくとも一方がIII 族窒化物系化合物半導体から成る半導体装置の製造方法である。そして、基板の主面に半導体層を形成する半導体層形成工程と、基板と半導体層との少なくとも一方のIII 族窒化物系化合物半導体の窒素面にCl2 を用いたドライエッチングを行って窒素面にピットを形成するドライエッチング工程と、ピットを形成された窒素面の電極形成領域に電極を形成する電極形成工程と、を有する。ドライエッチング工程では、Cl2 の流量を10sccm以上50sccm以下とし、ICP Powerを100W以上500W以下とし、Bias Powerを30W以上150W以下とし、処理時間を10秒以上3000秒以下とし、平均ピット密度を5.0×106 個/cm2 より大きく2.0×108 個/cm2 以下とし、ピットの外径を0.2μm以上1μm以下とし、ドライエッチングにより除去する半導体層の厚みを50nm以上とする。
【0008】
この半導体装置の製造方法では、III 族窒化物系化合物半導体の窒素面(N面)に、多数のピットを形成することができる。そのため、半導体層と、その半導体層に形成された電極との間の密着性はよい。したがって、半導体層と、その半導体層に形成した電極との間の接触抵抗は十分に小さい。
【0009】
第2の態様における半導体装置の製造方法は、ドライエッチング工程において、窒素面の電極形成領域に、4.0×106 個/cm2 以上の平均ピット密度でピットを形成するとともに、電極形成工程において、III 族窒化物系化合物半導体と電極との間の接触抵抗率を2.8×10-5Ωcm2 以上3.4×10-5Ωcm2 以下とする方法である。電極形成領域に十分な数のピットが形成されているため、半導体層と、その半導体層に形成した電極との間の接触抵抗は十分に小さい。
【0010】
【0011】
【0012】
第3の態様における半導体装置の製造方法は、ドライエッチング工程では、ドライエッチングにより除去する半導体の厚みを1mm以下とする。エッチング時間が長すぎると、ドライエッチング装置のチャンバーが汚れるおそれがある。そして、その汚れの影響により、製造されるパワーデバイス100の品質が悪くなるおそれがある。
【0013】
第4の態様における半導体装置の製造方法は、電極形成工程の後に、400℃以上650℃以下の温度範囲で熱処理を行う熱処理工程を有する。この熱処理温度で熱処理工程を行った場合に、好適なオーミックコンタクトをとることができる。400℃より低い温度で熱処理を行うと、良好なオーミックコンタクトをとることができない。650℃より高い温度では、半導体層の結晶が荒れるおそれがある。
【0014】
【0015】
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、III 族窒化物系化合物半導体と電極との間の接触抵抗の低減を図った半導体装置の製造方法が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1の実施形態に係るIII 族窒化物系化合物半導体装置(縦型パワーデバイス)の構造を説明するための概略構成図である。
図2】実施形態に係るIII 族窒化物系化合物半導体装置の電極の構造を説明するための図である。
図3】GaN基板の窒素面(N面)にCl2 を用いてエッチングした後の窒素面(N面)を示す顕微鏡写真である。
図4】GaN基板の窒素面(N面)にSiCl4 を用いてエッチングした後の窒素面(N面)を示す顕微鏡写真である。
図5】第2の実施形態に係るIII 族窒化物系化合物半導体装置(横型パワーデバイス)の構造を説明するための概略構成図である。
図6】第3の実施形態に係るIII 族窒化物系化合物半導体装置(発光素子)の構造を説明するための概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、具体的な実施形態について、半導体装置を例に挙げて図を参照しつつ説明する。しかし、これらの実施形態に限定されるものではない。また、後述する各半導体装置の各層の積層構造および電極構造は、例示である。実施形態とは異なる積層構造であってももちろん構わない。そして、それぞれの図における各層の厚みは、概念的に示したものであり、実際の厚みを示しているわけではない。また、各図の凹凸形状については、理解しやすいように大きく描いてある。しかし、実際には、これらの凹凸形状は非常に微細な形状である。
【0019】
(第1の実施形態)
1.縦型構造の半導体装置
本実施形態に係るパワーデバイス100を図1に示す。パワーデバイス100は、npnトランジスタ型の縦型構造の半導体装置である。パワーデバイス100には、図1中の下側に示すように、ドレイン電極D1が形成されている。そして、ドレイン電極D1の形成面の反対側の面に、図1中の上側に示すように、ゲート電極G1と、ソース電極S1とが形成されている。
【0020】
パワーデバイス100は、III 族窒化物系化合物半導体から成る複数の半導体層を有する。パワーデバイス100は、上記の電極の他に、図1に示すように、基板110と、n型層120と、p型層130と、n型層140と、絶縁膜150と、を有している。n型層120は、基板110の側から順に、n+ GaN層121と、n- GaN層122と、を有している。
【0021】
基板110は、パワーデバイス100を支持して強度を高いものとするためのものである。また、パワーデバイス100を成長させるための成長基板をも兼ねている。基板110は、導電性のGaN基板である。基板110の裏面のSi濃度は、1×1018cm-3以上である。
【0022】
ソース電極S1は、n型層140とオーミック接触をしている。ソース電極S1は、n型層140の側からTi層、Al層、Ni層、Au層の順に形成されたものである。また、Ti層の代わりに、V層を形成してもよい。また、Al層の上に、Ni層、Au層を形成しないこととしてもよい。
【0023】
ドレイン電極D1は、基板110とオーミック接触をしている。ドレイン電極D1は、基板110の側からTi層、Al層、Ni層、Au層の順に形成されたものである。また、上記したソース電極S1に用いたその他の材質のものを用いてもよい。ドレイン電極D1は、基板110の窒素面(N面)の上に形成されている。この基板110の窒素面(N面)は、後述するように、Cl2 によるエッチング処理を施されている。
【0024】
ゲート電極G1は、絶縁膜150の上であって、トレンチ160の箇所に形成されている。トレンチ160は、矩形形状である。そのため、ゲート電極G1の断面形状も、矩形形状である。ゲート電極G1は、絶縁膜150の側からNi層と、そのNi層の上にAu層を形成したものである。また、Pd層、Au層の順に形成することとしてもよい。また、その他の金属および化合物を用いることができる。また、Auの代わりにAlを用いることもできる。
【0025】
+ GaN層121のn型不純物濃度は、n- GaN層122のn型不純物濃度よりも高い。n+ GaN層121のn型不純物濃度は、1×1018cm-3〜1×1020cm-3程度である。n- GaN層122のn型不純物濃度は、1×1016cm-3〜1×1017cm-3程度である。
【0026】
p型層130は、p型GaNから成る層である。p型層130のキャリア濃度は、1×1018cm-3〜1×1020cm-3程度である。n型層140は、n型GaNから成る層である。n型層140のキャリア濃度は、1×1016cm-3以上1×1020cm-3以下の範囲内である。
【0027】
絶縁膜150は、ゲート絶縁膜と保護膜とを兼ねているものである。絶縁膜150の材質はSiO2 である。また、SiNX 、Al2 3 、HfO2 、ZrO2 、AlNなどを用いてもよい。
【0028】
2.半導体装置の電極
2−1.電極の構造
本実施形態のパワーデバイス100は、ドレイン電極D1の製造方法に特徴を有している。図2に示すように、ドレイン電極D1は、第1金属層D11と、第2金属層D12と、第3金属層D13と、第4金属層D14と、を有している。各層の形成順序は、基板110から順に、第1金属層D11、第2金属層D12、第3金属層D13、第4金属層D14である。
【0029】
第1金属層D11は、基板110と好適に密着する第1の電極層である。第1金属層D11の材質は、Tiである。第2金属層D12の材質は、Alである。第3金属層D13の材質は、Niである。第4金属層D14の材質は、Auである。そして、これらの層の厚みは、10nm以上100nm以下の範囲内である。表1に、各金属層と、それらの材質の一例を示す。これらの材質および厚みは、例示であり、これ以外のものであってもよい。
【0030】
[表1]
金属層 材質 厚み
第4金属層 Au 10nm以上 100nm以下
第3金属層 Ni 10nm以上 100nm以下
第2金属層 Al 10nm以上 100nm以下
第1金属層 Ti 10nm以上 100nm以下
基板 GaN
【0031】
また、第3金属層D13および第4金属層D14を形成しないこととしてもよい。その場合には、基板110の窒素面(N面)の上にTi層を形成し、そのTi層の上にAl層を形成することとすればよい。また、これ以外の電極構造を有していてもよい。
【0032】
2−2.電極形成領域
図2に示すように、基板110の面110aには、複数のピットXが形成されている。面110aは、GaN層の窒素面(N面)である。また、面110aの全面にわたって電極が形成されることとなる。そのため、面110aは、電極が形成される電極形成領域である。
【0033】
2−3.ピット
このピットXは、後述するドライエッチング工程により形成されたものである。ピットの外径は、0.2μm以上1μm以下の程度である。また、ピットXは、基板110の窒素面(N面)の反対側の面(Ga面)まで貫通していない。平均ピット密度は、例えば、4.0×106 個/cm2 以上3.0×107 個/cm2 以下の範囲内である。また、後述するように、2.0×108 個/cm2 以下の平均ピット密度でピットを形成することもできる。
【0034】
ここで、平均ピット密度とは、基板110の窒素面(N面)の電極形成領域における単位体積当たりのピットXの数、すなわち電極形成領域の面積に占める電極形成領域のピット数のことをいう。このように、多数のピットが形成されているため、基板110と、第1金属層D11との密着性は高い。したがって、基板110と、第1金属層D11との間の接触抵抗は低い。
【0035】
3.ドライエッチング方法
接触抵抗率の上昇の原因である加工変質層を取り除くために、基板110の窒素面(N面)にドライエッチングを行う。エッチングガスはCl2 である。このエッチングによりピットXが形成される。そのエッチング条件を次の表2に示す。ただし、これらはあくまで例示であり、表2に示した数値以外の数値を用いてもよい。このエッチングにより除去する基板110の層、すなわち半導体の厚みを50nm以上とする。この除去層の厚みが50nmより薄いと、十分な大きさのピットXが得られない。後述する実施例1では、除去層の厚みを600nmとした。前述のとおり、このドライエッチングは、加工変質層を取り除くまで行う。そのため、除去層の厚みは、加工変質層の厚みによって変わる。そこで、除去層の厚みを1mm以下とする。エッチング時間が長すぎると、ドライエッチング装置のチャンバーが汚れるおそれがある。そして、その汚れの影響により、製造されるパワーデバイス100の品質が悪くなるおそれがある。
【0036】
[表2]
Cl2 の流量 10sccm以上50sccm以下
ICP Power 100W以上500W以下
Bias Power 30W以上150W以下
処理時間 10秒以上3000秒以下
【0037】
このドライエッチング処理により、基板110の窒素面(N面)を粗面化する。そして、粗面化された窒素面(N面)には多数のピットXが形成される。ここでは、ドライエッチング処理後の基板110の窒素面を平均した面から深さ5nm以上の凹みをピットということとする。したがって、電極形成後の基板110とドレイン電極D1との間の接触抵抗は、小さい。この接触抵抗の低減効果において、ピットによる寄与は大きい。
【0038】
4.半導体装置の製造方法
ここで、半導体装置の製造方法について説明する。
【0039】
4−1.半導体層形成工程
まず、有機金属気相成長法(MOCVD法)により、III 族窒化物系化合物半導体の結晶をエピタキシャル成長させる半導体層形成工程を行う。具体的には、基板110の主面の上に、n型層120と、p型層130と、n型層140とを、この順序で形成する。これにより、基板110に各半導体層の形成された積層体が形成される。
【0040】
4−2.凹凸形状形成工程
次に、ドライエッチングにより、半導体層に凹凸形状を形成する。これにより、図1に示した台形形状およびトレンチ160がストライプ状に形成される。このエッチングには、例えば、Cl2 を用いることができる。または、SiCl4 等の他のガスを用いてもよい。または、その他のドライエッチングもしくはウェットエッチングを用いてもよい。
【0041】
4−3.ソース電極形成工程
続いて、電極形成工程を行う。ここでは、n型層140の上にソース電極S1を形成する。
【0042】
4−4.絶縁膜形成工程
次に、絶縁膜150を形成する。その形成箇所は、図1の上側の面である。具体的には、n型層120の側面と、p型層130の側面と、n型層140の側面および表面と、ソース電極S1の側面および表面と、トレンチ160の箇所を覆うように、絶縁膜150を形成する。ドレイン電極D1を形成する側の面には、絶縁膜を形成しない。ただし、ドレイン電極D1の側にも絶縁膜を部分的に形成してもよい。
【0043】
4−5.ドライエッチング工程
続いて、Cl2 を用いて基板110の窒素面(N面)にドライエッチングを行う。ここで、ドライエッチングを図2の面110aの全面にわたって行う。ドレイン電極D1を形成するための電極形成領域は、面110aの全面にわたっているからである。これにより、基板110の窒素面に図2に示したようなピットXが形成される。もちろん、この段階では、ドレイン電極D1は、未だ形成されていない。
【0044】
4−6.ドレイン電極形成工程
次に、ドライエッチング処理を施された基板110の面110a、すなわちピットが形成された窒素面(N面)の電極形成領域に、ドレイン電極D1を形成する。そのためにまず、GaN基板110の窒素面の上に第1金属層D11を形成する。次に、第1金属層D11の上に第2金属層D12を形成する。そして、第2金属層D12の上に第3金属層D13を形成する。第3金属層D13の上に第4金属層D14を形成する。これにより、図2に示した電極構造が形成される。
【0045】
4−7.ゲート電極
次に、ゲート電極G1を形成する。その形成箇所は、絶縁膜150の上であって、トレンチ160の形成されている箇所である。
【0046】
4−8.熱処理工程
次に、熱処理工程を行う。この熱処理工程は、基板110とドレイン電極D1との間の接触抵抗を小さくするためのオーミックアロイ工程である。熱処理工程での熱処理温度は、400℃以上650℃以下の範囲内である。この熱処理工程は、電極を形成した後であれば、いつ行ってもよい。熱処理温度が、それほど高くないため、その後の他の工程と入れ換えてもよい。なお、この熱処理工程により、他の電極と半導体層とのオーミックコンタクトをとることとしてもよい。また、別途熱処理工程を設けてもよい。もちろん、一度に複数の電極についてオーミックコンタクトをとるようにすれば、サイクルタイムは短くて済む。
【0047】
この熱処理の条件を表3に示す。供給するガスとして、窒素ガスを用いる。そして、処理時間は、5秒以上2000秒以下の範囲内である。これらは例示であり、これ以外の範囲の値を用いてもよい。
【0048】
[表3]
供給ガスの種類 窒素ガス
基板温度 400℃以上650℃以下
処理時間 5秒以上2000秒以下
【0049】
4−9.ウェットエッチング工程
そして、最後にBHF溶液(NH4 F/HF/H2 0)を用いて、パワーデバイス100にウェットエッチングを実施する。これにより、パワーデバイス100の表面に残留している絶縁膜等を除去する。なお、BHF溶液の代わりに、DHF溶液(希フッ酸)やHCl溶液を用いてもよい。
【0050】
以上により、パワーデバイス100が製造された。なお、これらの工程は、あくまで例示である。したがって、上記の工程以外の工程を行ってもよい。また、各工程を行う順序も適宜変えてよい。
【0051】
5.実験
5−1.表面写真
図3は、Cl2 を用いてドライエッチングした後の導電性GaN基板の窒素面を示す顕微鏡写真である。エッチング条件は、表4のとおりである。直径1μm以下のピットが多数形成されている。この平均ピット密度は、1.3×107 個/cm2 である。ただし、エッチング条件を変えることで、これ以外のピット密度でピットを形成することができる。
【0052】
図4は、SiCl4 を用いてドライエッチングした後の導電性GaN基板の窒素面を示す顕微鏡写真である。エッチング条件は、表4のとおりである。この場合にも1μm以下のピットが形成されているが、しかし、その数は、図3に比べて少ない。平均ピット密度は、3×106 個/cm2 である。このように、Cl2 を用いてエッチングした場合の平均ピット密度は、SiCl4 を用いてエッチングした場合のピット密度の4倍以上である。
【0053】
[表4]
エッチング対象 GaN基板(窒素面)
Cl2 の流量 30sccm
【0054】
5−2.接触抵抗率
次に、導電性GaN基板の窒素面(N面)にドライエッチング工程およびオーミックアロイ工程を施した後に接触抵抗率を測定した。そのときのドライエッチング工程およびオーミックアロイ工程における条件を表5に示す。ここで、ドライエッチングにおける除去層の厚みを80nmまたは600nmとした。除去層とは、ドライエッチングにより除去される半導体の表面層のことである。
【0055】
表5に示すように、除去層の厚みを80nmとしたときには、Bias Powerを45Wとした。除去層の厚みを600nmとしたときには、Bias Powerを100Wとした。そして、除去層の厚みに応じて、エッチング処理を行う時間も変更した。Cl2 で除去層の厚みを80nmとしたときには、処理時間を50秒とした。Cl2 で除去層の厚みを600nmとしたときには、処理時間を100秒とした。SiCl4 で除去層の厚みを600nmとしたときには、処理時間を495秒とした。
【0056】
[表5]
ドライエッチング工程
エッチング対象 GaN基板(窒素面)
ガスの流量 30sccm
除去層の厚み 80nmまたは600nm
ICP Power 300W
Bias Power 45W(80nm)100W(600nm)
オーミックアロイ工程
オーミックアロイ温度 400℃
オーミックアロイ時間 1800秒
【0057】
そして、電極およびドライエッチングに用いるガスの種類およびその他のエッチング条件を変えて実験を行った。実施例1、2および比較例1の場合におけるエッチング条件を表6に示す。また、実施例1、2および比較例1で形成した電極は、GaN基板の窒素面(N面)にTi層、Al層をこの順序で形成したものである。そして、実施例1、2および比較例1の場合における平均ピット密度および接触抵抗率を表7に示す。
【0058】
実施例1では、GaN基板の窒素面(N面)にCl2 ガスを用いてドライエッチング行い、その後Ti層を形成し、Al層を形成してからオーミックアロイ工程を行った。このときの電極形成領域における平均ピット密度は、1.3×107 個/cm2 であった。この場合には、GaN基板と電極との間の接触抵抗率が2.8×10-5Ωcm2 であった。
【0059】
実施例2では、実施例1の場合に比べて、Bias Powerを下げるとともにドライエッチング処理の処理時間を半分にした。実施例2の場合には、電極形成領域における平均ピット密度は、5.0×106 個/cm2 であった。そして、GaN基板と電極との間の接触抵抗率が3.4×10-5Ωcm2 であった。実施例1との比較から、平均ピット密度が高いほど、接触抵抗率は小さい値となる。したがって、少なくとも平均ピット密度が5.0×106(個/cm2 )以上1.3×107(個/cm2 )以下の範囲内では、接触抵抗率は十分に低い。
【0060】
比較例1では、実施例で用いたCl2 ガスの代わりに、SiCl4 ガスを用いた。このときの電極形成領域における平均ピット密度は、3.0×106 個/cm2 であった。この場合には、接触抵抗率は、1.6×10-4Ωcm2 であった。なお、実施例1、2における接触抵抗率は、特許文献2の接触抵抗率と比べて非常に小さい。
【0061】
[表6]
エッチング条件
ガス 深さ 処理時間 Power
(nm) (秒) (W)
実施例1 Cl2 600 100 100
実施例2 Cl2 80 50 45
比較例1 SiCl4 80 495 100
【0062】
[表7]
実験結果
ガス 平均ピット密度 接触抵抗率
(個/cm2 ) (Ωcm2
実施例1 Cl2 1.3×107 2.8×10-5
実施例2 Cl2 5.0×106 3.4×10-5
比較例1 SiCl4 3.0×106 1.6×10-4
【0063】
6.変形例
6−1.電極形成領域
本実施形態では、ドレイン電極D1を形成する電極形成領域は、面110aの全面にわたっている。しかし、ドレイン電極D1を、面110aの一部に形成する場合には、その電極形成領域にのみドライエッチングを行えばよい。また、電極形成領域以外にドライエッチングを行ったとしても、パワーデバイス100の品質に影響がない場合もある。その場合には、電極形成領域とそれ以外の領域とに、ドライエッチングを行えばよい。
【0064】
6−2.ソース電極
本実施形態では、Cl2 を用いたドライエッチングをドレイン電極D1を形成する前の導電性GaN基板の窒素面(N面)に対して行うこととした。しかし、GaN層の窒素面(N面)が本実施形態とは反対向きであってもよい。例えば、n型層140の上面、すなわち、ソース電極S1と接触する側の面が窒素面(N面)である場合がある。その場合には、半導体層のうちのn型層140の窒素面(N面)にCl2 を用いたドライエッチングを行う。これにより、n型層140とソース電極S1との間の接触抵抗率は非常に小さいものとなる。このように、GaNの窒素面(N面)が電極形成面であれば、本実施形態を適用することができる。この場合、ピットはn型層140まで貫通していない。
【0065】
6−3.p型層
また、p型層の上に電極を形成する場合にも、本実施形態を適用することができる。もちろん、i−GaN層であってもよい。
【0066】
6−4.III 族窒化物系化合物半導体層
本実施形態では、GaN基板の窒素面(N面)にCl2 を用いたドライエッチングを行うこととした。しかし、GaN基板に限らず、AlGaNやInGaN、AlInGaN等、その他のIII 族窒化物系化合物半導体から成る層の窒素面(N面)にCl2 を用いたドライエッチングを行うこととしてもよい。
【0067】
6−5.ピット密度
ドライエッチング工程におけるエッチング条件を選ぶことにより、さらに大きいピット密度でピットを形成することができる。ピットの直径は1μm以下である。そのため、ピットの直径の最小値を0.5μmと見積もることができる。そして、このサイズのピットを10μm四方(10μm×10μm)の領域に隙間なく発生させた場合、400個のピットが形成される。この場合のピット密度は、4.0×108 個/cm2 である。そして、この半分程度を形成するとして、ドライエッチングにより形成可能な平均ピット密度の最大値を2.0×108 個/cm2 と見積もることができる。
【0068】
7.まとめ
以上詳細に説明したように、本実施形態のパワーデバイス100の製造方法では、GaN基板110の窒素面(N面)にCl2 を用いたエッチングを行い、エッチングを施した後の窒素面(N面)にドレイン電極D1を形成することとした。そのため、GaN基板110とドレイン電極D1との間の接触抵抗率を2×10-5Ωcm2 以下とすることができる。これにより、窒素面の露出しているGaNとその窒素面に形成された電極との間の接触抵抗率の小さいパワーデバイス100が実現されている。
【0069】
なお、本実施形態は単なる例示にすぎない。したがって当然に、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能である。本実施形態では、エピタキシャル成長の方法として、有機金属気相成長法(MOCVD)を用いることとした。しかし、ハイドライド気相エピタキシー法(HVPE)などの気相成長法や、分子線エピタキシー法(MBE)、パルスドスパッタデポジション法(PSD)、そして、液相エピタキシー法などを用いてもよい。
【0070】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について説明する。本実施形態の半導体装置は、横型構造のパワーデバイス200である。ドライエッチング工程および電極形成工程および熱処理工程については、第1の実施形態と同様である。したがって、異なる箇所のみについて説明する。
【0071】
1.横型構造の半導体装置
パワーデバイス200を図5に示す。パワーデバイス200は、HFETである。パワーデバイス200は、基板210と、バッファ層220と、第1キャリア走行層230と、第2キャリア走行層240と、キャリア供給層250と、絶縁膜260と、ドレイン電極D2と、ソース電極S2と、ゲート電極G2と、を有している。
【0072】
本実施形態のパワーデバイス200についても、ソース電極S2およびドレイン電極D2を形成する面が窒素面(N面)であれば、第1の実施形態と同様に適用することができる。ピットの形成方法や平均ピット密度の数値範囲等は、第1の実施形態と同様である。また、第1の実施形態の各変形例についても、同様に適用することができる。
【0073】
(第3の実施形態)
第3の実施形態について説明する。本実施形態の半導体装置は、発光素子300である。ドライエッチング工程および電極形成工程および熱処理工程については、第1の実施形態と同様である。したがって、異なる箇所のみについて説明する。
【0074】
1.発光素子
本実施形態に係る発光素子300について説明する。図6は、本実施形態に係る発光素子300の構造を示す概略構成図である。発光素子300は、成長基板をレーザーにより除去するレーザーリフトオフ法により形成された半導体発光素子である。そのため、サファイア基板等の成長基板は、発光素子300には残っていない。そして、光取り出し面Zは、n層側にある。
【0075】
図6に示すように、発光素子300は、p電極P3と、支持基板310と、第1の導電性金属層311と、導電性接合材層320と、第2の導電性金属層321と、導電性反射膜330と、p型GaN層340と、GaN層350と、発光源であるMQW層360と、n型GaN層370と、透明膜371と、n電極N3とを、この順序で配置されるように形成されたものである。
【0076】
本実施形態の発光素子300についても、p電極P3やn電極N3を形成する面が窒素面(N面)であれば、第1の実施形態と同様に適用することができる。ピットの形成方法や平均ピット密度の数値範囲等は、第1の実施形態と同様である。また、第1の実施形態の各変形例についても、同様に適用することができる。
【0077】
以上、第1の実施形態から第3の実施形態までにおいて、パワーデバイス100、200および発光素子300について説明した。しかし、GaN系の半導体、すなわち、III 族窒化物系化合物半導体に電極を形成した半導体装置であれば、パワーデバイスや発光素子に限らず、その他の半導体装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0078】
100…パワーデバイス
110…基板
120…n型層
130…p型層
140…n型層
150…絶縁膜
G1…ゲート電極
D1…ドレイン電極
S1…ソース電極
D11…第1金属層
D12…第2金属層
D13…第3金属層
D14…第4金属層
D15…凹部
D16…導電部
200…パワーデバイス
250…キャリア供給層
G2…ゲート電極
D2…ドレイン電極
S2…ソース電極
300…発光素子
370…n型GaN層
N3…n電極
P3…p電極
図1
図2
図5
図6
図3
図4