特許第5835192号(P5835192)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5835192熱可塑性樹脂複合部材の製造方法と製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5835192
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂複合部材の製造方法と製造装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/20 20060101AFI20151203BHJP
【FI】
   B29C65/20
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-253529(P2012-253529)
(22)【出願日】2012年11月19日
(65)【公開番号】特開2014-100836(P2014-100836A)
(43)【公開日】2014年6月5日
【審査請求日】2015年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100105463
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100129861
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 滝治
(72)【発明者】
【氏名】浦山 裕司
(72)【発明者】
【氏名】水田 和裕
【審査官】 山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−181951(JP,A)
【文献】 特開昭55−111229(JP,A)
【文献】 特開2006−062436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 65/18−65/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平面と垂直面が直交した内面をともに備えた下治具と上治具の間に、水平部と垂直部が直交した直交構成を少なくとも備えた2以上の熱可塑性樹脂部材をそれらの間に水平面と垂直面が直交した直交構成を少なくとも備えた熱板を介在させた状態で配設し、下治具の直交する前記内面の劣角側に配設されている上治具にて2以上の熱可塑性樹脂部材を加圧して熱板との接触面を加熱溶融する第1のステップ、
上治具と下治具を開き、熱可塑性樹脂部材間にある熱板を取り除いた後に2以上の熱可塑性樹脂部材を接触させて下治具と上治具で挟み、上治具にて2以上の熱可塑性樹脂部材を再度加圧して加熱溶融されている前記接触面同士を溶着し、熱可塑性樹脂複合部材を製造する第2のステップからなり、
上治具は、少なくとも第1の分割体と第2の分割体から構成されており、
第1の分割体は熱可塑性樹脂部材の水平部を下方向に加圧する前記水平面と第2の分割体がスライドする傾斜面を備えており、
第2の分割体は第1の分割体の傾斜面に沿ってスライドする傾斜面と熱可塑性樹脂部材の垂直部を水平方向に加圧する前記垂直面を備えており、
第1、第2のステップにおける上治具による加圧の際には、第1の分割体の水平面で積層姿勢の2以上の熱可塑性樹脂部材の水平部を加圧し、かつ、第1の分割体の傾斜面を第2の分割体の傾斜面がスライドしてその垂直面が熱可塑性樹脂部材の垂直部を加圧する熱可塑性樹脂複合部材の製造方法。
【請求項2】
2以上の熱可塑性樹脂部材はいずれも、前記垂直部の頂点で連続する別途の水平部をさらに備えた鉤状を呈しており、
前記上治具は、前記下治具の上に載置された前記別途の水平部を下方向に加圧する第3の分割体をさらに備えており、
前記熱板は、前記垂直面の頂点で連続する別途の水平面をさらに備えた鉤状を呈している請求項1に記載の熱可塑性樹脂複合部材の製造方法。
【請求項3】
熱可塑性樹脂部材が、水平部に相当する分割体と、垂直部に相当する分割体から構成されている請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂複合部材の製造方法。
【請求項4】
熱板溶着にて2以上の熱可塑性樹脂部材を溶着して熱可塑性樹脂複合部材を製造する際に用いられる熱可塑性樹脂複合部材の製造装置であって、
前記熱可塑性樹脂複合部材の製造装置は、
水平面と垂直面が直交した内面を備えた下治具と、
水平面と垂直面が直交した内面を備えるとともに下治具の直交する前記内面の劣角側に配設される上治具と、
下治具と上治具の間に収容される、水平部と垂直部が直交した直交構成を少なくとも備えた2以上の熱可塑性樹脂部材に対し、それらの間に介在される、水平面と垂直面が直交した直交構成を少なくとも備えた熱板と、を備えており、
上治具は、第1の分割体と第2の分割体から構成されており、
第1の分割体は熱可塑性樹脂部材の水平部を下方向に加圧する前記水平面と第2の分割体がスライドする傾斜面を備えており、
第2の分割体は第1の分割体の傾斜面に沿ってスライドする傾斜面と熱可塑性樹脂部材の垂直部を水平方向に加圧する前記垂直面を備えている熱可塑性樹脂複合部材の製造装置。
【請求項5】
2以上の熱可塑性樹脂部材がいずれも、前記垂直部の頂点で連続する別途の水平部をさらに備えた鉤状を呈している熱可塑性樹脂部材同士を熱板溶着して熱可塑性樹脂複合部材を製造する際に用いられる熱可塑性樹脂複合部材の製造装置であって、
前記上治具は、前記下治具の上に載置された前記別途の水平部を下方向に加圧する第3の分割体をさらに備えており、
前記熱板は、前記垂直面の頂点で連続する別途の水平面をさらに備えた鉤状を呈している請求項4に記載の熱可塑性樹脂複合部材の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水平部と垂直部が直交した直交構成を少なくとも備えた2以上の熱可塑性樹脂部材を熱板溶着にて溶着して熱可塑性樹脂複合部材を製造する熱可塑性樹脂複合部材の製造方法と製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂に強化用繊維材が混入されてなる繊維強化樹脂部材(繊維強化プラスチック(FRP))は、軽量かつ高強度であることから、自動車産業や建設産業、航空産業など、様々な産業分野で使用されている。
【0003】
たとえば自動車産業においては、ピラーやロッカー、床下フロアなどの車両の骨格構造部材や、ドアアウターパネルやフードなどの意匠性が要求される非構造部材に上記繊維強化樹脂材が適用され、車両の強度保証を図りながらその軽量化を実現し、低燃費で環境フレンドリーな車両を製造する試みがおこなわれている。
【0004】
上記する繊維強化樹脂部材には、マトリックス樹脂に熱可塑性樹脂が適用され、その内部に炭素繊維やガラス繊維等の繊維材であって、長さが50mm程度かそれ未満の長繊維やさらに繊維長の短い短繊維がたとえばランダムに配向した部材が適用されることが多い。
【0005】
製造される繊維強化樹脂部材は二次元的な平面状のもののみならず、湾曲状、2つの平面が直交した形状、3つの平面が直交した鉤状といった三次元的な形状のものなど、その形状形態は多様に存在している。
【0006】
ところで、たとえば上記する三次元的形状の繊維強化樹脂部材の製作に当たり、所望の三次元形状の繊維強化樹脂部材を一度に製造するには当該三次元形状に固有のキャビティを備えた成形型が必須となり、形状が異なるごとにそれぞれの形状固有のキャビティを備えた成形型を用意する必要があることから設備コストが高くならざるを得ない。
【0007】
そこで、設備コストの課題を解消する方策として、たとえば、2以上の平面が直交したり、傾斜した形状形態の繊維強化樹脂部材の製造に当たり、熱板溶着を適用した製造方法を挙げることができる。たとえば、所望の三次元形状を構成する各平面ごとの分割体を用意し、各分割体の端部同士を重ね合わせて所望の三次元形状の繊維強化樹脂部材を仮に組付けてこの組付け体を2組用意し、それらの間に加熱状態の熱板を介在させて繊維強化樹脂部材同士を加圧して熱板との接触面を加熱溶融させ、熱板を取り除いて双方の組付け体の溶融面同士を接触させ、再度加圧して繊維強化樹脂部材の複合部材を製造するものである。
【0008】
なお、上記する熱板溶着法を適用した技術として、上下の治具で支持された2つの樹脂部材をそれらの間に介在された熱板で予備加熱した後、上下の治具にて2つの樹脂部材を加圧して複合部材を製造する方法が特許文献1に開示されている。
【0009】
ところで、特許文献1で開示の技術をはじめとして、三次元形状の樹脂部材同士を熱板溶着する技術は一般的であり、この三次元形状が水平面や傾斜面を含むもの、あるいは湾曲面を含むものを対象とした技術は存在するものの、三次元形状が水平部と垂直部が直交した直交構成を備えた形状のものを対象とし、特にこの垂直部を水平部と同様に十分に溶着することのできる熱板溶着方法やこの方法で適用される装置を開示したものはなく、水平部と垂直部を同時に、あるいは連続的に加圧して溶着する(圧着)技術は当然に存在していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−198143号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記する問題に鑑みてなされたものであり、水平部と垂直部が直交した直交構成を備えた2以上の熱可塑性樹脂部材同士を熱板溶着にて溶着し、水平部と垂直部がともに良好に溶着された熱可塑性樹脂複合部材を製造することのできる製造方法とこの製造方法で用いられる製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成すべく、本発明による熱可塑性樹脂複合部材の製造方法は、水平面と垂直面が直交した内面をともに備えた下治具と上治具の間に、水平部と垂直部が直交した直交構成を少なくとも備えた2以上の熱可塑性樹脂部材をそれらの間に水平面と垂直面が直交した直交構成を少なくとも備えた熱板を介在させた状態で配設し、下治具の直交する前記内面の劣角側に配設されている上治具にて2以上の熱可塑性樹脂部材を加圧して熱板との接触面を加熱溶融する第1のステップ、上治具と下治具を開き、熱可塑性樹脂部材間にある熱板を取り除いた後に2以上の熱可塑性樹脂部材を接触させて下治具と上治具で挟み、上治具にて2以上の熱可塑性樹脂部材を再度加圧して加熱溶融されている前記接触面同士を溶着し、熱可塑性樹脂複合部材を製造する第2のステップからなり、上治具は、少なくとも第1の分割体と第2の分割体から構成されており、第1の分割体は熱可塑性樹脂部材の水平部を下方向に加圧する前記水平面と第2の分割体がスライドする傾斜面を備えており、第2の分割体は第1の分割体の傾斜面に沿ってスライドする傾斜面と熱可塑性樹脂部材の垂直部を水平方向に加圧する前記垂直面を備えており、第1、第2のステップにおける上治具による加圧の際には、第1の分割体の水平面で積層姿勢の2以上の熱可塑性樹脂部材の水平部を加圧し、かつ、第1の分割体の傾斜面を第2の分割体の傾斜面がスライドしてその垂直面が熱可塑性樹脂部材の垂直部を加圧するものである。
【0013】
本発明の熱可塑性樹脂複合部材の製造方法は、水平面と垂直面が直交した内面をともに備えた下治具と上治具に関し、上治具が少なくとも第1の分割体と第2の分割体から構成されているものを使用し、水平部と垂直部が直交した直交構成を少なくとも備えた2以上の熱可塑性樹脂部材同士を加圧する際に、第1の分割体の水平面で積層姿勢の2以上の熱可塑性樹脂部材の水平部を加圧し、かつ、第1の分割体の傾斜面を第2の分割体の傾斜面がスライドしてその垂直面が熱可塑性樹脂部材の垂直部を加圧するようにしたことで、積層姿勢の熱可塑性樹脂部材の水平部は勿論のこと、垂直部もこの水平部と同時に、しかも十分に加圧することができ、接合強度の高い熱可塑性樹脂複合部材を製造することのできる方法である。
【0014】
熱板溶着を適用して繊維強化樹脂部材同士を溶着することから、加熱された熱板にて該熱板との接触面が加熱溶融する熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする部材同士を接続することになる。
【0015】
また、水平部と垂直部が直交した直交構成を少なくとも備えた2以上の熱可塑性樹脂部材の間に熱板を介在させてその接触面を加熱溶融することより、使用される熱板も水平面と垂直面が直交した直交構成を少なくとも備えた形状形態となっている。
【0016】
ここで、熱可塑性樹脂部材の構成に関し、「水平部と垂直部が直交した直交構成を少なくとも備えた」とは、平板からなる水平部と垂直部が直交した2平面から構成された形態のほかにも、2つの水平部が垂直部の両端で繋がっている鉤状(略Z形状)を呈した形態なども含む意味である。
【0017】
第1の分割体が熱可塑性樹脂部材の水平部を下方向に加圧する水平面と第2の分割体がスライドする傾斜面を備えていて、第2の分割体が第1の分割体の傾斜面に沿ってスライドする傾斜面と熱可塑性樹脂部材の垂直部を水平方向に加圧する垂直面を備えている構成を適用したことで、熱可塑性樹脂部材の水平部と垂直部をともに十分に加圧することができる。なお、熱可塑性樹脂部材の水平部を加圧する際に第1の分割体を押し込む押し込み機構、さらに熱可塑性樹脂部材の垂直部を加圧する際に第2の分割体を押し込んで第1の分割体の傾斜面をスライドさせる押し込み機構はいずれも、適宜のエアシリンダ機構や油圧シリンダ機構、サーボモータをアクチュエータとした送りねじ機構などを適用することができる。
【0018】
また、熱可塑性樹脂部材が上記する2つの水平部が垂直部の両端で繋がっている鉤状を呈した形態の場合には、上治具も熱可塑性樹脂部材の水平部と垂直部を加圧する第1、第2の分割体に加えて、熱可塑性樹脂部材を構成するもう一つの水平部を加圧するための第3の分割体をさらに備えた構成のものが適用される。また、前記熱板も、前記垂直面の頂点で連続する別途の水平面をさらに備えた鉤状を呈したものが適用される。
【0019】
さらに、熱可塑性樹脂部材も、既述するように水平部に相当する分割体と、垂直部に相当する分割体から構成されているものを適用するのが望ましい。熱可塑性樹脂部材が分割体から構成されていることで本発明の製造方法を適用するメリット、すなわち、製作コストの高価な成形型を使用することなく、水平部と垂直部を少なくとも備えた2以上の熱可塑性樹脂部材の全ての溶着箇所を良好な溶着性をもって熱可塑性樹脂複合部材を製造できるというメリットを最大限享受することができるからである。
【0020】
なお、熱可塑性樹脂部材は、ポリスチレン(PS)等の非結晶性プラスチックやナイロン(PA:ナイロン6、ナイロン66など)等の結晶性プラスチックをマトリックス樹脂とし、このマトリックス樹脂内に、セラミック繊維や無機繊維、有機繊維、金属繊維のいずれか一種もしくは二種以上の長繊維、短繊維等からなる繊維材が含まれた材料から形成される。
【0021】
また、本発明は熱可塑性樹脂複合部材の製造装置にも及ぶものであり、この製造装置は、熱板溶着にて2以上の熱可塑性樹脂部材を溶着して熱可塑性樹脂複合部材を製造する際に用いられる製造装置であって、前記製造装置は、水平面と垂直面が直交した内面を備えた下治具と、水平面と垂直面が直交した内面を備えるとともに下治具の直交する前記内面の劣角側に配設される上治具と、下治具と上治具の間に収容される、水平部と垂直部が直交した直交構成を少なくとも備えた2以上の熱可塑性樹脂部材に対し、それらの間に介在される、水平面と垂直面が直交した直交構成を少なくとも備えた熱板と、を備えており、上治具は、第1の分割体と第2の分割体から構成されており、第1の分割体は熱可塑性樹脂部材の水平部を下方向に加圧する前記水平面と第2の分割体がスライドする傾斜面を備えており、第2の分割体は第1の分割体の傾斜面に沿ってスライドする傾斜面と熱可塑性樹脂部材の垂直部を水平方向に加圧する前記垂直面を備えているものである。
【0022】
既述するように、本発明の製造装置を構成する上治具が少なくとも第1の分割体と第2の分割体から構成されていることにより、水平部と垂直部が直交した直交構成を少なくとも備えた2以上の熱可塑性樹脂部材同士を加圧する際に、第1の分割体の水平面で積層姿勢の2以上の熱可塑性樹脂部材の水平部を加圧し、かつ、第1の分割体の傾斜面を第2の分割体の傾斜面がスライドしてその垂直面が熱可塑性樹脂部材の垂直部を加圧するようにしたことで、積層姿勢の熱可塑性樹脂部材の水平部は勿論のこと、垂直部もこの水平部と同時に、しかも十分に加圧することができ、接合強度の高い熱可塑性樹脂複合部材を製造することが可能となる。
【0023】
なお、2以上の熱可塑性樹脂部材がいずれも、垂直部の頂点で連続する別途の水平部をさらに備えた鉤状を呈している熱可塑性樹脂部材同士を熱板溶着して熱可塑性樹脂複合部材を製造する際に用いられる製造装置においては、下治具の上に載置された別途の水平部を下方向に加圧する第3の分割体を上治具がさらに備えており、熱板が垂直面の頂点で連続する別途の水平面をさらに備えた鉤状を呈している装置を適用するのが望ましい。
【発明の効果】
【0024】
以上の説明から理解できるように、本発明の熱可塑性樹脂複合部材の製造方法と製造装置によれば、水平面と垂直面が直交した内面をともに備えた下治具と上治具に関し、上治具が少なくとも第1の分割体と第2の分割体から構成されているものを使用し、水平部と垂直部が直交した直交構成を少なくとも備えた2以上の熱可塑性樹脂部材同士を加圧する際に、第1の分割体の水平面で積層姿勢の2以上の熱可塑性樹脂部材の水平部を加圧し、かつ、第1の分割体の傾斜面を第2の分割体の傾斜面がスライドしてその垂直面が熱可塑性樹脂部材の垂直部を加圧するようにしたことで、水平部と垂直部が直交した直交構成を少なくとも備えた2以上の熱可塑性樹脂部材の加熱溶融した界面同士の水平部、垂直部を均等に加圧することができ、水平部と垂直部の直交する箇所も十分に加圧することができ、接合強度の高い熱可塑性樹脂複合部材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の製造装置の実施の形態1の縦断面図である。
図2図1の製造装置を用いて製造される熱可塑性樹脂複合部材を構成する2つの熱可塑性樹脂部材を示した斜視図である。
図3図1で示す製造装置に図2で示す2つの熱可塑性樹脂部材を適用した本発明の製造方法の実施の形態1の第1のステップを説明した図である。
図4図3に続き、製造方法の実施の形態1の第2のステップを説明した図である。
図5図3,4の製造方法で製造された熱可塑性樹脂複合部材を示した斜視図である。
図6】本発明の製造装置の実施の形態2の縦断面図である。
図7図6の製造装置を用いて製造される熱可塑性樹脂複合部材を構成する2つの熱可塑性樹脂部材を示した斜視図である。
図8図6で示す製造装置に図7で示す2つの熱可塑性樹脂部材を適用した本発明の製造方法の実施の形態2の第1のステップを説明した図である。
図9図8に続き、製造方法の実施の形態2の第2のステップを説明した図である。
図10図8,9の製造方法で製造された熱可塑性樹脂複合部材を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の熱可塑性樹脂複合部材の製造方法とこの製造方法で適用される製造装置の実施の形態1,2を説明する。なお、図示例は、水平部と垂直部が直交した直交構成を少なくとも備えた2つの熱可塑性樹脂部材を熱板溶着して熱可塑性樹脂複合部材を製造する方法を説明したものであるが、3つ以上の熱可塑性樹脂部材を熱板溶着して熱可塑性樹脂複合部材を製造する方法であってもよく、たとえば3つの熱可塑性樹脂部材を熱板溶着する場合には、各熱可塑性樹脂部材で形成される2つの界面にそれぞれ図示する熱板が配設されて熱板溶着が実行される。
【0027】
(製造装置と製造方法の実施の形態1)
図1は本発明の製造装置の実施の形態1の縦断面図であり、図2図1の製造装置を用いて製造される熱可塑性樹脂複合部材を構成する2つの熱可塑性樹脂部材を示した斜視図である。また、図3,4はその順で、図1で示す製造装置に図2で示す2つの熱可塑性樹脂部材を適用した本発明の製造方法の実施の形態1の第1のステップおよび第2のステップを説明した図であり、図5図3,4の製造方法で製造された熱可塑性樹脂複合部材を示した斜視図である。
【0028】
まず、製造装置10を説明する。図1で示す製造装置10は、熱板溶着にて図2で示す2つの熱可塑性樹脂部材WA,WBを溶着して図5で示す熱可塑性樹脂複合部材WCを製造する際に用いられる製造装置であり、水平面1aと垂直面1bが直交した内面を備えた下治具1と、第1の分割体2aと第2の分割体2bから構成されて下治具1の直交する内面の劣角側に配設される上治具2と、下治具1と上治具2の間に収容される熱可塑性樹脂部材WA,WBに対し、それらの間に介在される、水平面4aと垂直面4bが直交した直交構成を少なくとも備えた熱板4から大略構成されている。
【0029】
2つの熱可塑性樹脂部材WA,WBはそれぞれ、水平部W1,W3とこれらに直交する垂直部W2,W4からなる直交構成を備えている。すなわち、いずれの熱可塑性樹脂部材WA,WBも、その構成要素は分割された板状の部材を直交させるように組付けたものであり、複雑な三次元形状を呈していないことから、製作用の成形型も最小限の基数でよく、各分割体である水平部W1,W3や垂直部W2,W4の製作コストは安価となる。
【0030】
第1の分割体2aは、熱可塑性樹脂部材WA,WBの水平部W1,W3を下方向に加圧する水平面2a1と、第2の分割体2bがスライドする傾斜面2a2を備えており、その上端にエアシリンダ機構や油圧シリンダ機構、サーボモータをアクチュエータとした送りねじ機構などからなる押し込み機構3Aが設けてあり、この押し込み機構3Aにて第1の分割体2aを下方(X1方向)に押し込み自在となっている。
【0031】
一方、第2の分割体2bは、第1の分割体2aの傾斜面2a2に沿ってスライドする傾斜面2b2と、熱可塑性樹脂部材WA,WBの垂直部W2,W4を水平方向に加圧する垂直面2b1を備えており、その隅角部に押し込み機構3Bが設けてあり、この押し込み機構3Bにて第2の分割体2bを傾斜面に沿う方向(X2方向)に押し込み自在となっている。
【0032】
このように製造装置10を構成する上治具2が熱可塑性樹脂部材の水平部を加圧する第1の分割体2aと熱可塑性樹脂部材の垂直部を加圧する第2の分割体2bから構成され、第2の分割体2bが第1の分割体2aの傾斜面2a2上をスライドしながら垂直部の加圧を実行可能としたことによって、三次元形状の熱可塑性樹脂部材を構成する垂直部を所望の加圧力にて十分に加圧することが可能となり、水平部、垂直部ともに溶着界面全体の接続強度の高い熱可塑性樹脂複合部材を製造することができる。
【0033】
なお、熱可塑性樹脂部材WA,WBを構成する水平部W1,W3、垂直部W2,W4はいずれも、それらのマトリックス樹脂として、分子鎖が規則正しく配列された結晶領域の量の比率が高く、結晶化度の高い結晶性プラスチックである、ポリエチレン(PE)やポリプロピレン(PP)、ナイロン(PA:ナイロン6、ナイロン66など)、ポリアセタール(POM)、ポリエチレンテレフタレート(PET)や、結晶化度が極めて低いか、結晶化状態にならない非結晶性プラスチックである、ポリスチレン(PS)やポリ塩化ビニル(PVC)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ABS樹脂、熱可塑性エポキシなどのうちのいずれか一種を適用することができる。また、マトリックス樹脂内には、長繊維、短繊維、連続繊維のいずれか一種もしくは複数種の繊維材が混合されており、この繊維材としては、ボロンやアルミナ、炭化ケイ素、窒化ケイ素、ジルコニアなどのセラミック繊維、ガラス繊維や炭素繊維といった無機繊維、銅や鋼、アルミニウム、ステンレス等の金属繊維、ポリアミドやポリエステルなどの有機繊維のいずれか一種もしくは二種以上の混合材を挙げることができる。
【0034】
次に、製造装置10を使用して熱可塑性樹脂複合部材WCを製造する製造方法を説明する。
【0035】
まず、下治具1の内面に熱可塑性樹脂部材WBを載置し、上治具2を構成する第1、第2の分割体2a,2bから構成される内面に別途の熱可塑性樹脂部材WAを仮に取付け、加熱された熱板4を熱可塑性樹脂部材WA,WBの間に介在させた状態で図3で示すように下治具1と上治具2を閉じる。
【0036】
次に、押し込み機構3Aで第1の分割体2aを加圧力P1で押し込み、第1の分割体2aの水平面2a1を介して積層された2つの水平部W1,W3を分布荷重Q1で加圧する。
【0037】
この水平部W1,W3の加圧と同時に、別途の押し込み機構3Bで第2の分割体2bを加圧力P2で押し込み、この押し込みによって第2の分割体2bはその傾斜面2b2が第1の分割体2aの傾斜面2a2の上をスライドしながら2つの垂直部W2,W4を分布荷重Q3で加圧する。より詳細には、押し込み機構3Bによる押し込み方向が傾斜方向となっていることから、加圧力P2はその水平成分に起因する分布荷重Q3で2つの垂直部W2,W4を加圧すると同時に、その垂直成分に起因する分布荷重Q2で2つの水平部W1,W3の端部領域を分布荷重Q1と同じ方向で加圧する。これらの分布荷重Q1,Q2,Q3による熱可塑性樹脂部材WA,WBの水平部W1,W3および垂直部W2,W4の同時加圧により、加熱状態の熱板4と接触する各部の接触面は加熱溶融される(第1のステップ)。
【0038】
また、図示例の製造装置10では、図3で示すように、第2の分割体2bの傾斜面2b2と第1の分割体2aの傾斜面2a2の傾斜方向に沿うラインLが、熱可塑性樹脂部材WAの水平部W1と垂直部W2の交点X1,熱可塑性樹脂部材WBの水平部W3と垂直部W4の交点X2を通るように設定されている。そのため、熱可塑性樹脂部材WA,WBの板厚が異なる場合でも、それぞれの部材の直交箇所も十分に加圧することができる。
【0039】
次に、上治具2と下治具1を開き、熱可塑性樹脂部材WA,WBの間にある熱板4を取り除き、図4で示すように熱可塑性樹脂部材WA,WBそれぞれの加熱溶融した接触面W1’,W3’、および接触面W2’,W4’をそれぞれ接触させて下治具1と上治具2で挟み、上治具2にて第1のステップの場合と同様に熱可塑性樹脂部材WA,WBを再度加圧する。なお、図4では加圧力や分布荷重の図示を省略している。
【0040】
この再加圧により、加熱溶融されている接触面W1’,W3’同士、および接触面W2’,W4’同士がそれぞれ溶着され、図5で示すような熱可塑性樹脂複合部材WCが製造される(第2のステップ)。
【0041】
図示する熱可塑性樹脂複合部材WCは、上治具2を構成する第1の分割体2aによって水平部W1,W3が十分に加圧され、第1の分割体2aの傾斜面2a2の上をスライドする第2の分割体2bによって垂直部W2,W4も十分に加圧され、したがって双方の溶着界面全域において良好な溶着が実行され、接続強度の高い熱可塑性樹脂複合部材となっている。
【0042】
(製造装置と製造方法の実施の形態2)
図6は本発明の製造装置の実施の形態2の縦断面図であり、図7図6の製造装置を用いて製造される熱可塑性樹脂複合部材を構成する2つの熱可塑性樹脂部材を示した斜視図である。また、図8,9はその順で、図6で示す製造装置に図7で示す2つの熱可塑性樹脂部材を適用した本発明の製造方法の実施の形態2の第1のステップおよび第2のステップを説明した図であり、図10図8,9の製造方法で製造された熱可塑性樹脂複合部材を示した斜視図である。
【0043】
図6で示す製造装置10Aと図1で示す製造装置10の違いは、製造対象である熱可塑性樹脂部材の形状形態の相違に起因するものであり、具体的には、第2の分割体2bの上端の水平面2b3の上に第3の分割体2cが載置され、第1、第2の分割体2a,2bとともに構成された新たな上治具2Aを有しており、この第3の分割体2cを押し込む(X3方向)押し込み機構3Cを有している点である。またさらに、使用される熱板4Aも、水平面4a、垂直面4bに加えて、この垂直面4bの頂部に別途の水平面4cが設けられて全体形状が鉤状を呈している点も相違点となっている。
【0044】
製造装置10Aによる製造対象の熱可塑性樹脂部材WD,WEはそれぞれ、図7で示すように、水平部W1,W3、垂直部W2,W4に加えて、垂直部W2,W4の頂点で連続する別途の水平部W5,W6をさらに備えた鉤状を呈している。
【0045】
図8で示すように、第1のステップでは、第1の分割体2aによる分布荷重Q1による加圧、第2の分割体2bによる分布荷重Q2,Q3による加圧に加えて、押し込み機構3Cによる加圧力P3に起因した分布荷重Q4によって第3の分割体2cの水平面2c1にて水平部W5,W6が加圧される。
【0046】
図9で示す第2のステップによって、加熱溶融されている接触面W1’,W3’同士、接触面W2’,W4’同士、および接触面W5’,W6’同士がそれぞれ溶着され、図10で示すような熱可塑性樹脂複合部材WFが製造される。
【0047】
このように、垂直部を備えて鉤状を呈した複雑形状の熱可塑性樹脂複合部材であっても、上治具2Aを構成する第1の分割体2aによって水平部W1,W3が十分に加圧され、第1の分割体2aの傾斜面2a2の上をスライドする第2の分割体2bによって垂直部W2,W4が十分に加圧され、さらに第2の分割体2bの上に載置された第3の分割体2cによって水平部W5,W6も十分に加圧されることから、双方の溶着界面全域において良好な溶着が実行され、接続強度の高い熱可塑性樹脂複合部材を製造することができる。
【0048】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0049】
1…下治具、1a…水平面、1b…垂直面、2,2A…上治具、2a…第1の分割体、2a1…水平面、2a2…傾斜面、2b…第2の分割体、2b1…垂直面、2b2…傾斜面、2b3…水平面、2c…第3の分割体、2c1…水平面、3A,3B,3C…押し込み機構、4,4A…熱板、4a…水平面、4b…垂直面、4c…水平面(別途の水平面)、10,10A…製造装置、W1、W3…水平部、W2、W4…垂直部、W1',W2',W3',W4',W5',W6'…接触面(溶着面)、WA,WB,WD,WE…熱可塑性樹脂部材、WC,WF…熱可塑性樹脂複合部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10