【文献】
吉田 裕志,粘弾性体モデルによるネットワークの動特性解析,電子情報通信学会技術研究報告. IN, 情報ネットワーク,2010年 2月25日,109 巻449 号,p.349-354
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る、スループット推定装置、スループット推定方法、及び、スループット推定プログラム、の各実施形態について
図1〜
図27を参照しながら説明する。
【0022】
<第1実施形態>
(構成)
図2に示したように、第1実施形態に係る移動体通信システム1は、送信装置(スループット推定装置)100と、受信装置(移動局)200と、基地局BSと、を含む。送信装置100、及び、基地局BSは、通信回線(本例では、移動体通信網を構成する通信回線)NWを介して、互いに通信可能に接続されている。
【0023】
基地局BSは、受信装置200との間で無線リンクを確立する。無線リンクは、移動体通信網を構成する。基地局BSは、確立されている無線リンクを介して受信装置200との間で無線により通信を行う。
【0024】
送信装置100は、情報処理装置である。送信装置100は、図示しない、中央処理装置(CPU:Central Processing Unit)と、記憶装置(メモリ及びハードディスク駆動装置(HDD:Hard Disk Drive))と、を備える。送信装置100は、記憶装置に記憶されているプログラムをCPUが実行することにより、後述する機能を実現するように構成されている。
【0025】
受信装置200は、移動体端末である。例えば、受信装置200は、携帯電話端末、スマートフォン、パーソナル・コンピュータ、PHS(Personal Handyphone System)、PDA(Personal Data Assistance、Personal Digital Assistant)、カーナビゲーション端末、又は、ゲーム端末等である。
【0026】
受信装置200は、図示しない、CPU、記憶装置(メモリ及びHDD)、入力装置(例えば、タッチパネル、ボタン、キーボード及びマウス等)、及び、出力装置(ディスプレイ等)を備える。受信装置200は、記憶装置に記憶されているプログラムをCPUが実行することにより、後述する機能を実現するように構成されている。
【0027】
(機能)
図3は、移動体通信システム1の機能を表すブロック図である。
送信装置100の機能は、データ送信部101と、受信レート取得部(スループット取得手段)103と、無線リンク品質情報取得部(無線リンク品質情報取得手段)104と、モデルパラメータ推定部(モデルパラメータ推定手段)105と、スループット推定部(スループット推定手段)106と、を含む。
【0028】
また、受信装置200の機能は、データ受信部201と、受信情報送信部202と、無線リンク品質値取得部203と、無線リンク品質値送信部204と、を含む。
【0029】
データ送信部101は、受信装置200へデータを送信する。本例では、データ送信部101は、UDP(User Datagram Protocol)/IP(Internet Protocol)、又は、TCP(Transmission Control Protocol)/IPに従ってデータを送信する。
【0030】
データ受信部201は、送信装置100により送信されたデータを受信する。データ受信部201は、予め設定された演算周期hが経過する毎に、受信情報を算出(取得)する。受信情報は、受信装置200が送信装置100から単位時間あたりに受信したデータの量である受信レートを算出可能な情報を含む。
【0031】
受信情報送信部202は、データ受信部201により取得された受信情報を送信装置100へ送信する。
【0032】
受信レート取得部103は、受信情報送信部202により送信された受信情報を受信する。受信レート取得部103は、受信された受信情報に基づいて、受信装置200が送信装置100から単位時間あたりに受信したデータの量である受信レート(スループット)を算出(取得)する。
【0033】
無線リンク品質値取得部203は、移動体通信網において基地局BSと受信装置200との間で確立されている無線リンクの品質を表す無線リンク品質値を取得する。
【0034】
本例では、無線リンク品質値は、チャネル品質インジケータ(CQI:Channel Quality Indicator)である。なお、無線リンク品質値は、SINR(Signal to Interference and Noise Power Ratio)、SIR(Signal to Interference Power Ratio)、又は、SNR(Signal to Noise Ratio)等であってもよい。
【0035】
無線リンク品質値送信部204は、無線リンク品質値取得部203により取得された無線リンク品質値を送信装置100へ送信する。
【0036】
無線リンク品質情報取得部104は、無線リンク品質値送信部204により送信された無線リンク品質値を受信する。無線リンク品質情報取得部104は、受信された無線リンク品質値を平滑化処理し、平滑化処理された値を無線リンク品質情報として取得する。
【0037】
無線リンク品質情報は、移動体通信網において基地局BSと受信装置200との間で確立されている無線リンクの品質を表す情報である。本例では、平滑化処理は、無線リンク品質値を移動平均する処理である。即ち、無線リンク品質情報は、無線リンク品質値を移動平均した値である。
【0038】
なお、平滑化処理は、予め設定された処理期間毎に、当該処理期間において取得された無線リンク品質値を平均した値を算出する処理であってもよい。この場合、無線リンク品質情報は、各処理期間に対して算出された平均値である。また、平滑化処理は、無線リンク品質値をローパスフィルタ(LPF:Low−Pass Filter)に入力する処理であってもよい。この場合、無線リンク品質情報は、ローパスフィルタから出力された値である。
【0039】
なお、無線リンク品質情報取得部104は、受信された無線リンク品質値を無線リンク品質情報として取得するように構成されていてもよい。
【0040】
モデルパラメータ推定部105は、無線リンク品質情報取得部104により取得された無線リンク品質情報と、受信レート取得部103により取得された受信レート(スループット)と、後述する数理モデルと、に基づいてモデルパラメータを推定する。モデルパラメータは、上記数理モデルを特定するためのパラメータである。
【0041】
ここで、数理モデルについて説明する。数理モデルは、スループットと無線リンク品質情報との関係を表す。数理モデルは、無線リンク品質情報を変数とした多項式関数(本例では、一次関数(一次式))と、スループットと、が等しいと想定することによって構築されたモデルである。先ず、数理モデルの導出について説明する。
【0042】
図4は、送信装置100が無線リンクを介して受信装置200へデータを送信した場合における、送信レート、及び、スループットの時間に対する変化の一例を示したグラフである。この例においては、送信レートが一定である(固定レート(CBR:Constant Bit−Rate)である)にも関わらず、スループットは、比較的激しく変動している。
【0043】
図5は、上記例における、無線リンク品質値としてのCQIの時間に対する変化を示したグラフである。このように、CQIは、比較的激しく変動している。従って、CQI(無線リンクの品質)が比較的激しく変動することにより、スループットも比較的激しく変動することが分かる。
【0044】
図6は、CQIの変動とスループットの変動との相関関係を示したグラフである。
図6において、実線の三角形のそれぞれは、任意の時点にて測定された、スループット(スループットの測定値)、及び、CQI(CQIの測定値)を表す。CQIの測定値と、スループットの測定値と、の間の相関係数を算出すると、相関係数は、0.64であった。従って、CQIの測定値と、スループットの測定値と、の間には、やや相関があると言える。
【0045】
ところで、CQIは、スループットよりも激しく変動している。そこで、CQIを平滑化処理した値(平滑化されたCQI、即ち、無線リンク品質情報)と、スループットの測定値と、の間の関係についても調べる。
図6において、点線の円のそれぞれは、任意の時点における、スループットの測定値、及び、平滑化されたCQIを表す。
【0046】
そして、平滑化されたCQIと、スループットの測定値と、の間の相関係数を算出すると、相関係数は、0.93であった。このように、平滑化されたCQIと、スループットの測定値と、の間の相関関係は、CQIの測定値と、スループットの測定値と、の間の相関関係よりも高い(強い)と言える。
【0047】
従って、平滑化されたCQIと、スループットの測定値と、の間には線形関係があると言える。即ち、平滑化されたCQIを変数とした一次関数と、スループットと、が等しいと想定することによって構築された数理モデルにより、平滑化されたCQIと、スループットと、の関係を高い精度にて表すことができる。
【0048】
この数理モデルは、CQI線形モデルと呼ばれる。この数理モデルは、数式1により表される。ここで、vはスループットであり、qは平滑化されたCQI(即ち、無線リンク品質情報)であり、aは一次式の傾きであり、bは一次式の切片である。a、及び、bは、モデルパラメータを構成する。
【数1】
【0049】
本例では、モデルパラメータ推定部105は、平滑化されたCQIと、スループットの測定値と、数式1と、に基づいて、最小二乗推定法を用いることにより、モデルパラメータを算出(推定)する。
【0050】
スループット推定部106は、モデルパラメータ推定部105により推定されたモデルパラメータにより特定される数理モデルと、無線リンク品質情報取得部104により取得された無線リンク品質情報と、に基づいてスループットを推定する。
【0051】
(作動)
次に、上述した移動体通信システム1の作動について説明する。
先ず、送信装置100は、受信装置200へデータを送信する。これにより、受信装置200は、データを受信する。そして、受信装置200は、上記演算周期hが経過する毎に受信情報を取得する。更に、受信装置200は、取得された受信情報を送信装置100へ送信する。
【0052】
これにより、送信装置100は、受信情報を受信する。そして、送信装置100は、受信された受信情報に基づいてスループットを取得する。
【0053】
また、受信装置200は、無線リンク品質値を取得する。そして、受信装置200は、取得された無線リンク品質値を送信装置100へ送信する。これにより、送信装置100は、無線リンク品質値を受信する。そして、送信装置100は、受信された無線リンク品質値に基づいて無線リンク品質情報を取得する。
【0054】
次いで、送信装置100は、取得されたスループットと、取得された無線リンク品質情報と、に基づいてモデルパラメータを推定する。
【0055】
その後、受信装置200は、無線リンク品質値を再び取得する。そして、受信装置200は、取得された無線リンク品質値を送信装置100へ送信する。これにより、送信装置100は、無線リンク品質値を受信する。そして、送信装置100は、受信された無線リンク品質値に基づいて無線リンク品質情報を取得する。
【0056】
次いで、送信装置100は、推定されたモデルパラメータにより特定される数理モデルと、取得された無線リンク品質情報と、に基づいてスループットを推定する。
【0057】
図7は、送信装置100により推定されたスループット(スループットの推定値)、スループットの測定値、及び、平滑化されたCQIのそれぞれの時間に対する変化の一例を示したグラフである。
図7において、実線は、スループットの測定値を表し、点線は、スループットの推定値を表し、一点鎖線は、平滑化されたCQIを表す。
【0058】
このように、送信装置100は、CQI線形モデルを用いることにより、スループットを高い精度にて推定することができる。
【0059】
以上、説明したように、本発明の第1実施形態に係る送信装置(スループット推定装置)100によれば、無線リンクを介してデータが送信される際のスループットを高い精度にて推定することができる。
【0060】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態に係る移動体通信システムについて説明する。第2実施形態に係る移動体通信システムは、上記第1実施形態に係る移動体通信システムに対して、送信装置が用いる数理モデルが相違している。従って、以下、かかる相違点を中心として説明する。
【0061】
ところで、通信網においては、クロストラヒックが存在することが多い。ここで、クロストラヒックは、通信経路上のある区間を通過するトラヒックのうちの、着目するトラヒック(セルフトラヒック)以外のトラヒックである。ここでは、セルフトラヒックは、送信装置100から受信装置200へ送信されるデータである。
【0062】
図8を参照しながら、クロストラヒックがスループットに及ぼす影響について詳細に説明する。
図8において、パイプは、通信経路のうちの、クロストラヒックが存在している区間における通信帯域幅を表している。
【0063】
パイプに入る矢印は、送信レートを表している。
図8は、パイプに入る矢印の数が多くなるほど、送信レートが高くなることを表している。また、パイプから出る矢印は、スループットを表している。
図8は、パイプから出る矢印の数が多くなるほど、スループットが高くなることを表している。また、実線の矢印は、セルフトラヒックを表し、点線の矢印は、クロストラヒックを表している。
【0064】
上記区間において、セルフトラヒックが使用している通信帯域幅が増加すると(
図8の(a)に示した状態から
図8の(b)に示した状態へ変化すると)、クロストラヒックに係るデータロス率及び遅延時間は増加する。ここで、データロス率は、データ(例えば、パケット)が通信網において消失する割合である。また、遅延時間は、データが送信された時点から受信された時点までの時間である。
【0065】
一方、クロストラヒックがTCPに従って送信されている場合、データロス率及び遅延時間を低減するように送信レート制御が実行される。即ち、セルフトラヒックが使用している通信帯域幅が増加した場合、クロストラヒックに係る送信レートは小さくされる。これにより、セルフトラヒックに係るスループットは、より大きくなる(
図8の(c)に示した状態になる)。
このように、トラヒック間の相互作用により、セルフトラヒックに係るスループットが変動する。
【0066】
そこで、第2実施形態に係る送信装置100は、トラヒック間の相互作用がスループットに及ぼす影響を考慮に入れた数理モデルを用いる。この数理モデルは、スループットと無線リンク品質情報と送信レートとの関係を表すモデルである。
【0067】
ここで、第2実施形態に係る数理モデルについて、
図9を参照しながら詳細に説明する。
上述したように、送信装置100から受信装置200へ送信されたデータのスループットと、クロストラヒックの流量と、の間の定性的な関係は、相互に流量を押し退け合う(一方が増加した場合に他方を減少させ、一方が減少した場合に他方を増加させる)関係である、ということができる。
【0068】
そこで、
図9に示した、移動体M1と、弾性体(弾性要素)としてのバネM2と、粘性体(粘性要素)としてのダッシュポットM3と、を含む力学モデル(粘弾性体モデル)によって、無線リンク品質情報と、セルフトラヒックに係る、送信レート及びスループットと、の関係を表すことにより数理モデルを構築する。
【0069】
この力学モデルは、送信装置100から受信装置200へ送信されるデータを、第1の壁面W1と移動体M1とにより区画された通路を流れる流体により模擬したモデルである。移動体M1は、通路内に配置され、且つ、予め設定された移動方向(
図9における上下方向)にて移動可能な板状体である。
【0070】
バネM2は、バネ定数(弾性係数)Kを有するコイルバネである。バネM2は、一端が移動体M1に固定され、且つ、他端が第2の壁面W2に固定されている。このような構成により、バネM2は、移動体M1が移動方向にて移動した移動量だけ当該移動方向にて変形する。
【0071】
ダッシュポットM3は、粘性係数Dを有する。ダッシュポットM3は、一端が移動体M1に固定され、且つ、他端が第2の壁面W2に固定されている。このような構成により、ダッシュポットM3は、移動体M1に加えられる外力による移動体M1の移動方向における移動を遅延させる。
【0072】
本例では、バネ定数K及び粘性係数Dは、一定値である(線形特性を有する)。なお、バネ定数K、及び/又は、粘性係数Dは、非線形特性を有していてもよい。
【0073】
力学モデルは、送信装置100から受信装置200へ送信レートu(単位は、[bps])にて送信されるデータに対応する流体によって、移動方向にて移動体M1に加えられる外力が、送信レートuに応じた大きさf(u)を有すると想定したモデルである。更に、力学モデルは、予め設定された基準位置(本例では、第1の壁面W1の位置)p
refと、移動体M1の位置pと、の間の移動方向における距離がスループットv(単位は、[bps])であると想定したモデルである。即ち、この力学モデルは、スループットと送信レートとの関係を表すモデルである、と言うことができる。
【0074】
また、この力学モデルにおいて、移動体M1が、基準位置p
refから移動方向にて距離(無力距離)v
0だけ離れた位置(無力位置)p
0に位置している場合、バネM2は、弾性力(復元力)を発生しない。更に、バネM2が発生する弾性力は、無力位置p
0からの移動体M1の移動量v−v
0に、比例係数である弾性係数Kを乗じた値を大きさとして有し、且つ、移動体M1が無力位置p
0から移動した方向と逆方向へ働く。
【0075】
加えて、この力学モデルにおいて、移動体M1が移動方向にて静止している(速度が0である)場合、ダッシュポットM3は、抵抗力を発生しない。更に、ダッシュポットM3が発生する抵抗力は、移動体M1が移動方向にて移動する速度に、比例係数である粘性係数Dを乗じた値を大きさとして有し、且つ、移動体M1が移動する方向と逆方向へ働く。
【0076】
この力学モデルにおいて、移動体M1の運動を支配する方程式は、数式2のように記述される。なお、項dv/dtは、基準位置p
refと移動体M1の位置pとの間の移動方向における距離vの時間tに関する微分を表す。
【数2】
【0077】
この粘弾性体モデルにおけるバネ定数Kは、クロストラヒックの「押し退けにくさ」を表していると考えることがきる。また、粘性係数Dは、クロストラヒックの「粘り度合い」もしくは「応答の鈍さ」を表していると考えることができる。
【0078】
なお、力学モデルとして他のモデルを用いることもできる。例えば、移動体M1の慣性力も考慮に入れたモデルを力学モデルとして採用することができる。移動体M1の慣性力によって、クロストラヒックに係る送信レートがオーバーシュートする変化を表すことができる。この力学モデルにおいて、移動体M1の運動を支配する方程式は、数式3のように記述される。なお、Mは、移動体M1の質量である。また、d
2v/dt
2は、基準位置p
refと移動体M1の位置pとの間の移動方向における距離vの時間tに関する2階微分を表す。
【数3】
【0079】
なお、上述したように、バネM2及びダッシュポットM3が並列して移動体M1に接続された粘弾性体モデルは、ケルビン・フォークトモデルと呼ばれる。また、
図10に示したように、力学モデルは、バネM2及びダッシュポットM3が直列に移動体M1に接続された粘弾性体モデルであってもよい。この粘弾性体モデルは、マクスウェルモデルと呼ばれる。
【0080】
また、
図11に示したように、力学モデルは、複数(本例では、2つ)のバネM2,M4と、複数(本例では、2つ)のダッシュポットM3,M5と、を含む粘弾性体モデル(4要素モデル)であってもよい。本例では、バネM2及びダッシュポットM3が直列に移動体M1に接続され、且つ、バネM4及びダッシュポットM5が並列してダッシュポットM3に接続されている。
【0081】
また、力学モデルにおける、移動体M1の運動を支配する方程式は、基準位置p
refと移動体M1の位置pとの間の移動方向における距離vの時間tに関する3階微分(加加速度、又は、躍度)を含む項を含んでいてもよく、3階以上の高階微分を含む項を含んでいてもよい。
【0082】
ところで、上述した第1実施形態に係る数理モデルであるCQI線形モデル(数式1)は、無線リンクの品質がスループットに及ぼす影響を考慮に入れたモデルである。一方、上記の力学モデル(数式2)は、クロストラヒックがスループットに及ぼす影響を考慮に入れたモデルである。
【0083】
実際の移動体通信網においては、無線リンクの品質、及び、クロストラヒックの両方が、スループットに影響を及ぼす。従って、無線リンクの品質がスループットに及ぼす影響、及び、クロストラヒックがスループットに及ぼす影響、の両方を考慮に入れた数理モデルを用いることが好適であると考えられる。
【0084】
そこで、第2実施形態に係る送信装置100は、CQI線形モデル、及び、力学モデルを融合したモデル(以降、ハイブリッドモデルと呼ぶ)を数理モデルとして用いる。
ここで、ハイブリッドモデルについて詳細に説明する。
【0085】
ハイブリッドモデルは、力学モデルを表す数式2の右辺のf(u)を、数式4のように定める。
【数4】
【0086】
即ち、ハイブリッドモデルは、送信装置100から受信装置200へ送信レートuにて送信されるデータに対応する流体によって、移動方向にて移動体M1に加えられる外力f(u)が、送信レートu、及び、無線リンク品質情報qの両方に応じた大きさを有すると想定することにより構築されたモデルである。
【0087】
より具体的に述べると、ハイブリッドモデルは、上記外力f(u)が、無線リンク品質情報qを変数とした多項式関数(本例では、一次関数(一次式))と、送信レートuと、の積であると想定することにより構築されたモデルである。
【0088】
ところで、数式2及び数式4により表される数理モデルにおいて、4つの未知の定数D、K、a、及び、bのうち、独立な定数は3つだけである(1つの定数は、他の3つの定数に従属する)。従って、K=1と置くことができる。即ち、ハイブリッドモデルは、数式5のように記述される。ここで、v
0=0と置いている。
【数5】
【0089】
このように、ハイブリッドモデルは、送信レートu、及び、無線リンク品質情報qのそれぞれを変数とした関数を非斉次項とする、スループットvに関する常微分方程式により表される、と言うことができる。ここで、非斉次項は、無線リンク品質情報qを変数とした多項式関数(本例では、一次関数(一次式))と、送信レートuと、の積である。また、ハイブリッドモデルは、非斉次項が外力f(u)を表すように構築されたモデルである、と言うこともできる。
【0090】
ここで、数式5の両辺を(aq+b)により除算すれば、ハイブリッドモデルは、数式6のようにも記述される。
【数6】
【0091】
数式6は、数式2において、Dに代えて(D/(aq+b))を用いるとともに、Kに代えて(1/(aq+b))を用い、且つ、f(u)=uと置いた数式である。即ち、ハイブリッドモデルは、力学モデルにおいて、粘性係数、及び、弾性係数のそれぞれが無線リンク品質情報を変数とした関数により表されるモデルであると考えることもできる。
【0092】
以上、第2実施形態に係る数理モデルであるハイブリッドモデルについて説明した。
次に、ハイブリッドモデルを特定するためのモデルパラメータである、D、a、及び、bを推定する方法について説明する。
【0093】
モデルパラメータD、a、及び、bを推定する方法は、最小二乗推定法のように解析的に最適解を算出する方法であってもよいし、最急降下法のように反復計算によってモデルパラメータを推定する方法であってもよい。
【0094】
ここでは、一例として、最小二乗推定法によりモデルパラメータD、a、及び、bを推定する方法について説明する。
【0095】
先ず、連続する時間に対する方程式である微分方程式により表された数式5を差分方程式に書き換える。本例では、数式7に示したように、演算周期(サンプリング間隔)hを時間間隔(タイムステップ)とし、且つ、後方(後退)差分を用いる。
【数7】
【0096】
ここで、数式7をv(k)について解くと、数式8が得られる。
【数8】
【0097】
数式8から、φ(k)、及び、θを、それぞれ、数式9、及び、数式10のように定義する。ここで、「X
T」は、行列Xの転置行列を表す。なお、φ(k)、及び、θのそれぞれは、3次元の列ベクトルである。
【数9】
【数10】
【0098】
差分方程式である数式8は、φ(k)、及び、θを用いて、数式11に示したように表すことができる。
【数11】
【0099】
数式11によれば、θに対して最小二乗推定法を適用することができる。最小二乗推定法により推定されるθをθ
eとおくと、θ
eを数式12により求めることができる。ここで、Σ(X)は、Xをkについて積算した値(即ち、演算周期h毎のXの総和)を表す。また、X
−1は、行列Xの逆行列を表す。
【数12】
【0100】
そして、推定されたθ
eをθ
e=[θ
1,θ
2,θ
3]とおくと、モデルパラメータD、a、及び、bは、それぞれ、数式13、数式14、及び、数式15により求められる。
【数13】
【数14】
【数15】
【0101】
なお、
図12に示したように、第2実施形態に係る送信装置100の機能は、第1実施形態に係る送信装置100の機能に加えて、送信レート取得部(送信レート取得手段)102を含む。
【0102】
送信レート取得部102は、上記演算周期hが経過する毎に、データ送信部101により、単位時間あたりに受信装置200へ送信されたデータの量(サイズ)である送信レートを算出(取得)する。
【0103】
そして、第2実施形態に係るモデルパラメータ推定部105は、無線リンク品質情報取得部104により取得された無線リンク品質情報(本例では、平滑化されたCQI)q(k)と、受信レート取得部103により取得されたスループット(スループットの測定値)v(k)と、送信レート取得部102により取得された送信レートu(k)と、上述したハイブリッドモデルと、に基づいて、上述したように最小二乗推定法を用いることにより、モデルパラメータを算出(推定)する。
【0104】
更に、第2実施形態に係るスループット推定部106は、モデルパラメータ推定部105により推定されたモデルパラメータにより特定される数理モデル(ハイブリッドモデル)と、無線リンク品質情報取得部104により取得された無線リンク品質情報と、送信レート取得部102により取得された送信レートと、に基づいてスループットを推定する。本例では、スループット推定部106は、数式8に基づいてスループットを推定する。
【0105】
以上、説明したように、本発明の第2実施形態に係る送信装置(スループット推定装置)100によれば、第1実施形態に係る送信装置100と同様の作用及び効果を奏することができる。
更に、第2実施形態に係る送信装置100は、送信レートとスループットとの関係を力学モデルによって表すことにより構築された数理モデルに基づいてスループットを推定する。これによれば、クロストラヒックが存在する場合におけるスループットをより一層高い精度にて推定することができる。
【0106】
加えて、第2実施形態に係る送信装置100は、送信レートとスループットとの関係を、弾性体と粘性体とを含む力学モデルによって表すことにより構築された数理モデルに基づいてスループットを推定する。
【0107】
ところで、セルフトラヒックに係る送信レートの変化により生じる、クロストラヒックに係る送信レートの変化は、弾性体の弾性力によりよく表される。また、送信装置100がセルフトラヒックに係る送信レートを変化させてから、クロストラヒックに係る送信レートが変化するまでには、遅延時間を要する。この遅延時間は、粘性体の抵抗力によりよく表される。従って、第2実施形態に係る送信装置100によれば、クロストラヒックが存在する場合におけるスループットをより一層高い精度にて推定することができる。
【0108】
次に、第2実施形態に係る送信装置100の効果を、下記のシミュレーション(模擬実験)の結果を通じて、より具体的に説明する。
【0109】
図13は、シミュレーションの内容を概念的に示した説明図である。シミュレーションにおいて、複数(本例では、12)のユーザR1〜R4,C1〜C8は、互いに異なる受信装置200を1つずつ保持している。
【0110】
ユーザR1〜R4のそれぞれは、スループットを推定する対象となる受信装置200を保持するユーザである。ユーザR1は、基地局BSから100mだけ離れた位置にて歩行している。ユーザR2は、基地局BSから300mだけ離れた位置にて歩行している。ユーザR3は、基地局BSから300mだけ離れた位置にて走行している自動車に乗車している。ユーザR4は、基地局BSから500mだけ離れた位置にて走行している自動車に乗車している。
【0111】
また、ユーザC1〜C8のそれぞれは、クロストラヒックを受信する受信装置200を保持するユーザである。ユーザC1は、基地局BSから100mだけ離れた位置にて屋内に位置している。ユーザC2は、基地局BSから300mだけ離れた位置にて屋内に位置している。ユーザC3は、基地局BSから500mだけ離れた位置にて屋内に位置している。
【0112】
また、ユーザC4は、基地局BSから700mだけ離れた位置にて歩行している。ユーザC5は、基地局BSから700mだけ離れた位置にて走行している自動車に乗車している。ユーザC6は、基地局BSから700mだけ離れた位置にて走行している自動車に乗車している。ユーザC7は、基地局BSから1000mだけ離れた位置にて歩行している。ユーザC8は、基地局BSから1000mだけ離れた位置にて屋内に位置している。
【0113】
ところで、受信装置200と基地局BSとの間の距離が長くなるほど、無線リンクの品質は低く(悪く)なる。また、ユーザが歩行している場合よりも、ユーザが走行中の自動車に乗車している場合の方が、無線リンクの品質は低い。
【0114】
また、シミュレーションにおいては、送信装置100は、基地局BSを介して、ユーザR1〜R4が保持する受信装置200のそれぞれへ、予め設定されたパターンを有する送信レートにてデータを送信した。
【0115】
このパターンは、
図14に示したように、10秒毎に、0Mbpsと0.6Mbps(ユーザR2が保持する受信装置200へ送信する場合のみ、0.8Mbps)とを交互に繰り返した矩形波である。
【0116】
また、クロストラヒックは、FTP(File Transfer Protocol)/TCPに従って送信される。本例では、クロストラヒックは、ファイルのダウンロードに伴うトラヒックである。
【0117】
今回、4つのシミュレーションを実行した。
第1のシミュレーションにおいては、ユーザR1が保持する受信装置200が、スループットを推定する対象であり、ユーザC1〜C5が保持する受信装置200のそれぞれに対してのみ、クロストラヒックが送信される。
第2のシミュレーションにおいては、ユーザR2が保持する受信装置200が、スループットを推定する対象であり、ユーザC1〜C3が保持する受信装置200のそれぞれに対してのみ、クロストラヒックが送信される。
【0118】
第3のシミュレーションにおいては、ユーザR3が保持する受信装置200が、スループットを推定する対象であり、ユーザC1〜C3が保持する受信装置200のそれぞれに対してのみ、クロストラヒックが送信される。
第4のシミュレーションにおいては、ユーザR4が保持する受信装置200が、スループットを推定する対象であり、ユーザC1〜C3が保持する受信装置200のそれぞれに対してのみ、クロストラヒックが送信される。
【0119】
そして、送信装置100は、4つのシミュレーションのそれぞれに対して、取得されたスループット(スループットの測定値)と、取得された無線リンク品質情報(平滑化されたCQI)と、数理モデル(ハイブリッドモデル)と、に基づいてモデルパラメータを推定する。
【0120】
更に、送信装置100は、4つのシミュレーションのそれぞれに対して、推定されたモデルパラメータにより特定される数理モデル(ハイブリッドモデル)と、送信レートと、取得された無線リンク品質情報(平滑化されたCQI)と、に基づいてスループットを推定する。
【0121】
図15は、ユーザR1が保持する受信装置200と基地局BSとの間に確立されている無線リンクの品質を表す無線リンク品質値(本例では、CQI)の時間に対する変化を示したグラフである。ユーザR1が保持する受信装置200に係るCQIは、時間に対する変動が非常に小さく(非常に安定していて)、且つ、非常に高い。
【0122】
図16は、ユーザR2が保持する受信装置200と基地局BSとの間に確立されている無線リンクの品質を表す無線リンク品質値の時間に対する変化を示したグラフである。ユーザR2が保持する受信装置200に係るCQIは、時間に対する変動がやや小さく(やや安定していて)、且つ、やや高い。
【0123】
図17は、ユーザR3が保持する受信装置200と基地局BSとの間に確立されている無線リンクの品質を表す無線リンク品質値の時間に対する変化を示したグラフである。ユーザR3が保持する受信装置200に係るCQIは、時間に対する変動が非常に大きく(安定せず)、且つ、平均値が、ユーザR2が保持する受信装置200と同程度である。
【0124】
図18は、ユーザR4が保持する受信装置200と基地局BSとの間に確立されている無線リンクの品質を表す無線リンク品質値の時間に対する変化を示したグラフである。ユーザR4が保持する受信装置200に係るCQIは、時間に対する変動が非常に大きく(安定せず)、且つ、非常に低い。即ち、この無線リンクは、非常に不安定な無線リンクであると言える。
【0125】
図19は、第1のシミュレーションにおける、送信レート、スループットの測定値、及び、スループットの推定値(送信装置100により推定されたスループット)のそれぞれの時間に対する変化を示したグラフである。
図15に示したように、無線リンク品質値が高い値にて安定しているため、スループットは、主にクロストラヒックの影響を受ける。
【0126】
階段状に(即ち、不連続に)送信レートを増加させた場合、送信レートの変化に対して、スループットの変化は、クロストラヒックを押し退けるために要する時間だけ遅延する。即ち、
図19に示したように、スループットの立ち上がりは、カーブを描いている。スループットの推定値は、スループットの測定値が描くこのカーブをよく再現している。
【0127】
また、階段状に送信レートを増加させた場合、遅延時間が経過した後であっても、クロストラヒックのすべてを押し退けることはできない。即ち、
図19に示したように、スループットの最大値は、送信レートの最大値よりも小さい値となる。スループットの推定値は、スループットの測定値の最大値が送信レートの最大値よりも小さい値となることをよく再現している。
【0128】
このように、送信装置100は、ハイブリッドモデルを用いることにより、高い精度にてスループットを推定することができる。
【0129】
図20は、第1のシミュレーションにおける、ロス率(パケットロス率)の測定値、及び、ロス率の推定値(送信装置100により推定されたスループットに基づいて算出されたロス率)のそれぞれの時間に対する変化を示したグラフである。このように、送信装置100は、ハイブリッドモデルを用いることにより、高い精度にてロス率を推定することもできる。
【0130】
図21は、第2のシミュレーションにおける、送信レート、スループットの測定値、及び、スループットの推定値のそれぞれの時間に対する変化を示したグラフである。
図16に示したように、無線リンク品質値がやや変動するため、スループットは、クロストラヒックに加えて、無線リンクの品質の影響も比較的大きく受ける。
【0131】
無線リンクの品質がスループットに及ぼす影響は、特に、10秒〜20秒の期間において強く見られる。10秒〜20秒の期間においては、無線リンク品質値が比較的低いため、スループットも比較的低くなっている。一方、30秒以降の期間においては、無線リンク品質値が比較的高い値にて安定するため、スループットは、第1のシミュレーションと同様に変化する。
【0132】
このように、第2のシミュレーションにおいては、スループットは、無線リンクの品質、及び、クロストラヒックの両方の影響を比較的大きく受ける。
図21に示したように、このような場合においても、送信装置100は、ハイブリッドモデルを用いることにより、高い精度にてスループットを推定することができる。
【0133】
図22は、第2のシミュレーションにおける、ロス率の測定値、及び、ロス率の推定値のそれぞれの時間に対する変化を示したグラフである。このように、送信装置100は、ハイブリッドモデルを用いることにより、10秒〜20秒の期間における急激なロス率の増加も含めて、高い精度にてロス率を推定することができる。
【0134】
図23は、第3のシミュレーションにおける、送信レート、スループットの測定値、及び、スループットの推定値のそれぞれの時間に対する変化を示したグラフである。
図17に示したように、無線リンク品質値が非常に大きく変動するため、スループットは、無線リンクの品質の影響を比較的大きく受ける。
【0135】
10秒〜20秒の期間、及び、50秒〜60秒の期間においては、無線リンクの品質が比較的大きく低下する時がある。この影響により、スループットも比較的大きく低下する時がある。一方、30秒〜40秒の期間においては、無線リンクの品質が比較的高いため、スループットは、主にクロストラヒックの影響を受けている。
【0136】
このように、第3のシミュレーションにおいても、スループットは、無線リンクの品質、及び、クロストラヒックの両方の影響を比較的大きく受ける。
図23に示したように、このような場合においても、送信装置100は、ハイブリッドモデルを用いることにより、高い精度にてスループットを推定することができる。
【0137】
図24は、第3のシミュレーションにおける、ロス率の測定値、及び、ロス率の推定値のそれぞれの時間に対する変化を示したグラフである。このように、送信装置100は、ハイブリッドモデルを用いることにより、無線リンクの品質が大きく低下するときに生じたパケットロスも含めて、高い精度にてロス率を推定することができる。
【0138】
図25は、第4のシミュレーションにおける、送信レート、スループットの測定値、及び、スループットの推定値のそれぞれの時間に対する変化を示したグラフである。
図18に示したように、無線リンク品質値が非常に大きく変動するため、スループットは、無線リンクの品質の影響を比較的大きく受ける。
【0139】
スループットは、無線リンクの品質が低い期間においては、低くなっている。このように、第4のシミュレーションにおいても、スループットは、無線リンクの品質、及び、クロストラヒックの両方の影響を比較的大きく受ける。
図25に示したように、このような場合においても、送信装置100は、ハイブリッドモデルを用いることにより、高い精度にてスループットを推定することができる。
【0140】
図26は、第4のシミュレーションにおける、ロス率の測定値、及び、ロス率の推定値のそれぞれの時間に対する変化を示したグラフである。このように、送信装置100は、ハイブリッドモデルを用いることにより、無線リンクの品質が大きく低下するときに生じたパケットロスも含めて、高い精度にてロス率を推定することができる。
【0141】
以上のように、シミュレーションの結果からも、第2実施形態に係るスループット推定装置100が、クロストラヒックが存在する場合において、無線リンクを介してデータが送信される際のスループットを高い精度にて推定することができる、ことが明らかとなった。
【0142】
なお、第2実施形態においては、数理モデルは、スループットと無線リンク品質情報と送信レートとの関係を力学モデルによって表すことにより構築されていたが、当該関係を他のモデル(例えば、熱伝導モデル、流体モデル、又は、回路モデル等)によって表すことにより構築されていてもよい。
【0143】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態に係るスループット推定装置について
図27を参照しながら説明する。
第3実施形態に係るスループット推定装置500は、
移動体通信網において移動局と基地局との間で確立されている無線リンクの品質を表す無線リンク品質情報を取得する無線リンク品質情報取得部(無線リンク品質情報取得手段)501と、
上記移動局と上記無線リンクを介して通信可能に接続された送信装置により送信されたデータを、当該移動局が単位時間あたりに受信する量であるスループットを、上記取得された無線リンク品質情報に基づいて推定するスループット推定部(スループット推定手段)502と、
を備える。
【0144】
これによれば、無線リンクを介してデータが送信される際のスループットを高い精度にて推定することができる。
【0145】
以上、上記実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は、上述した実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成及び詳細に、本願発明の範囲内において当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0146】
例えば、上記実施形態においては、受信装置へデータを送信する送信装置が、スループット推定装置を構成していたが、受信装置がスループット推定装置を構成していてもよい。また、受信装置、及び、送信装置以外の装置(例えば、基地局、又は、サーバ装置等)がスループット推定装置を構成していてもよい。
【0147】
なお、上記各実施形態において移動体通信システム1の各機能は、CPUがプログラム(ソフトウェア)を実行することにより実現されていたが、回路等のハードウェアにより実現されていてもよい。
【0148】
また、上記各実施形態においてプログラムは、記憶装置に記憶されていたが、コンピュータが読み取り可能な記録媒体に記憶されていてもよい。例えば、記録媒体は、フレキシブルディスク、光ディスク、光磁気ディスク、及び、半導体メモリ等の可搬性を有する媒体である。
【0149】
また、上記実施形態の他の変形例として、上述した実施形態及び変形例の任意の組み合わせが採用されてもよい。
【0150】
<付記>
上記実施形態の一部又は全部は、以下の付記のように記載され得るが、以下には限られない。
【0151】
(付記1)
移動体通信網において移動局と基地局との間で確立されている無線リンクの品質を表す無線リンク品質情報を取得する無線リンク品質情報取得手段と、
前記移動局と前記無線リンクを介して通信可能に接続された送信装置により送信されたデータを、当該移動局が単位時間あたりに受信する量であるスループットを、前記取得された無線リンク品質情報に基づいて推定するスループット推定手段と、
を備えるスループット推定装置。
【0152】
これによれば、無線リンクを介してデータが送信される際のスループットを高い精度にて推定することができる。
【0153】
(付記2)
付記1に記載のスループット推定装置であって、
前記スループット推定手段は、前記スループットと前記無線リンク品質情報との関係を表す数理モデルと、前記取得された無線リンク品質情報と、に基づいて前記スループットを推定するように構成されたスループット推定装置。
【0154】
(付記3)
付記2に記載のスループット推定装置であって、
前記数理モデルは、前記無線リンク品質情報を変数とした多項式関数と、前記スループットと、が等しいと想定することによって構築されたスループット推定装置。
【0155】
ところで、無線リンク品質情報を変数とした多項式関数と、スループットと、は、比較的強い相関関係を有する。従って、上記のようにスループット推定装置を構成することにより、無線リンクを介してデータが送信される際のスループットをより一層高い精度にて推定することができる。
【0156】
(付記4)
付記3に記載のスループット推定装置であって、
前記数理モデルは、前記無線リンク品質情報を変数とした一次関数と、前記スループットと、が等しいと想定することによって構築されたスループット推定装置。
【0157】
ところで、無線リンク品質情報を変数とした一次関数と、スループットと、は、比較的強い相関関係を有する。従って、上記のようにスループット推定装置を構成することにより、無線リンクを介してデータが送信される際のスループットをより一層高い精度にて推定することができる。
【0158】
(付記5)
付記2に記載のスループット推定装置であって、
前記送信装置が前記移動局へ単位時間あたりに送信する前記データの量である送信レートを取得する送信レート取得手段を備え、
前記スループット推定手段は、前記スループットと前記無線リンク品質情報と前記送信レートとの関係を表す前記数理モデルと、前記取得された送信レートと、前記取得された無線リンク品質情報と、に基づいて前記スループットを推定するように構成されたスループット推定装置。
【0159】
セルフトラヒックが使用している通信帯域幅が変化すると、クロストラヒックに係る送信レートが変化する。ここで、セルフトラヒックは、送信装置から移動局へ送信されるデータである。また、クロストラヒックは、送信装置から移動局までの通信経路と少なくとも一部の経路を共有する通信経路を用いて送信されるデータである。
【0160】
ところで、セルフトラヒックに係る、スループットと無線リンク品質情報と送信レートとは、比較的強い相関関係を有する。従って、上記のようにスループット推定装置を構成することにより、クロストラヒックが存在する場合におけるスループットをより一層高い精度にて推定することができる。
【0161】
(付記6)
付記5に記載のスループット推定装置であって、
前記数理モデルは、前記送信レート、及び、前記無線リンク品質情報のそれぞれを変数とした関数を非斉次項とする、前記スループットに関する常微分方程式により表されるスループット推定装置。
【0162】
(付記7)
付記6に記載のスループット推定装置であって、
前記非斉次項は、前記無線リンク品質情報を変数とした多項式関数と、前記送信レートと、の積であるスループット推定装置。
【0163】
(付記8)
付記7に記載のスループット推定装置であって、
前記非斉次項は、前記無線リンク品質情報を変数とした一次関数と、前記送信レートと、の積であるスループット推定装置。
【0164】
(付記9)
付記5乃至付記8のいずれかに記載のスループット推定装置であって、
前記数理モデルは、前記スループットと前記無線リンク品質情報と前記送信レートとの関係を力学モデルによって表すことにより構築されたスループット推定装置。
【0165】
ところで、セルフトラヒックに係る、スループットと無線リンク品質情報と送信レートとの関係は、力学モデルによってよく表される。従って、上記のようにスループット推定装置を構成することにより、クロストラヒックが存在する場合におけるスループットをより一層高い精度にて推定することができる。
【0166】
(付記10)
付記9に記載のスループット推定装置であって、
前記力学モデルは、
予め設定された移動方向にて移動可能な移動体と、
前記移動体が前記移動方向にて移動した移動量だけ当該移動方向にて変形する弾性体、及び、当該移動体の当該移動方向における移動を遅延させる粘性体の少なくとも一方と、
を含むスループット推定装置。
【0167】
ところで、セルフトラヒックに係る送信レートの変化により生じる、クロストラヒックに係る送信レートの変化は、弾性体の弾性力によりよく表される。従って、上記のようにスループット推定装置を構成することにより、クロストラヒックが存在する場合におけるスループットをより一層高い精度にて推定することができる。
【0168】
また、送信装置がセルフトラヒックに係る送信レートを変化させてから、クロストラヒックに係る送信レートが変化するまでには、遅延時間を要する。この遅延時間は、粘性体の抵抗力によりよく表される。従って、上記のようにスループット推定装置を構成することにより、クロストラヒックが存在する場合におけるスループットをより一層高い精度にて推定することができる。
【0169】
(付記11)
付記10に記載のスループット推定装置であって、
前記数理モデルは、前記移動方向にて前記移動体に加えられる外力が、前記送信レート及び前記無線リンク品質情報に応じた大きさを有すると想定し、且つ、予め設定された基準位置と、前記移動体の位置と、の間の前記移動方向における距離が前記スループットであると想定することにより構築されたスループット推定装置。
【0170】
(付記12)
付記11に記載のスループット推定装置であって、
前記数理モデルは、前記非斉次項が前記外力を表すように構築されたスループット推定装置。
【0171】
(付記13)
付記10乃至付記12のいずれかに記載のスループット推定装置であって、
前記数理モデルは、前記弾性体が発生する弾性力が、当該弾性力が0となる前記移動体の位置である無力位置からの当該移動体の移動量に、比例係数である弾性係数を乗じた値を大きさとして有し、且つ、当該移動体が当該無力位置から移動した方向と逆方向へ働くと想定することによって構築されたスループット推定装置。
【0172】
(付記14)
付記10乃至付記13のいずれかに記載のスループット推定装置であって、
前記数理モデルは、前記粘性体が発生する抵抗力が、前記移動体が前記移動方向にて移動する速度に、比例係数である粘性係数を乗じた値を大きさとして有し、且つ、当該移動体が移動する方向と逆方向へ働くと想定することによって構築されたスループット推定装置。
【0173】
(付記15)
付記1乃至付記14のいずれかに記載のスループット推定装置であって、
前記スループットを取得するスループット取得手段と、
前記数理モデルを特定するためのモデルパラメータを、前記取得されたスループットと、前記取得された無線リンク品質情報と、に基づいて推定するモデルパラメータ推定手段と、
を備えるスループット推定装置。
【0174】
(付記16)
付記1乃至付記15のいずれかに記載のスループット推定装置であって、
前記無線リンク品質情報は、チャネル品質インジケータ(CQI:Channel Quality Indicator)に基づく値であるスループット推定装置。
【0175】
(付記17)
付記16に記載のスループット推定装置であって、
前記無線リンク品質情報は、チャネル品質インジケータを平滑化処理した値であるスループット推定装置。
【0176】
(付記18)
移動体通信網において移動局と基地局との間で確立されている無線リンクの品質を表す無線リンク品質情報を取得し、
前記移動局と前記無線リンクを介して通信可能に接続された送信装置により送信されたデータを、当該移動局が単位時間あたりに受信する量であるスループットを、前記取得された無線リンク品質情報に基づいて推定する、スループット推定方法。
【0177】
(付記19)
付記18に記載のスループット推定方法であって、
前記スループットと前記無線リンク品質情報との関係を表す数理モデルと、前記取得された無線リンク品質情報と、に基づいて前記スループットを推定する、スループット推定方法。
【0178】
(付記20)
付記19に記載のスループット推定方法であって、
前記数理モデルは、前記無線リンク品質情報を変数とした多項式関数と、前記スループットと、が等しいと想定することによって構築されたスループット推定方法。
【0179】
(付記21)
付記19に記載のスループット推定方法であって、
前記送信装置が前記移動局へ単位時間あたりに送信する前記データの量である送信レートを取得し、
前記スループットと前記無線リンク品質情報と前記送信レートとの関係を表す前記数理モデルと、前記取得された送信レートと、前記取得された無線リンク品質情報と、に基づいて前記スループットを推定する、スループット推定方法。
【0180】
(付記22)
情報処理装置に、
移動体通信網において移動局と基地局との間で確立されている無線リンクの品質を表す無線リンク品質情報を取得し、
前記移動局と前記無線リンクを介して通信可能に接続された送信装置により送信されたデータを、当該移動局が単位時間あたりに受信する量であるスループットを、前記取得された無線リンク品質情報に基づいて推定する、処理を実行させるためのスループット推定プログラム。
【0181】
(付記23)
付記22に記載のスループット推定プログラムであって、
前記情報処理装置に、
前記スループットと前記無線リンク品質情報との関係を表す数理モデルと、前記取得された無線リンク品質情報と、に基づいて前記スループットを推定する、処理を実行させるように構成されたスループット推定プログラム。
【0182】
(付記24)
付記23に記載のスループット推定プログラムであって、
前記数理モデルは、前記無線リンク品質情報を変数とした多項式関数と、前記スループットと、が等しいと想定することによって構築されたスループット推定プログラム。
【0183】
(付記25)
付記23に記載のスループット推定プログラムであって、
前記情報処理装置に、
前記送信装置が前記移動局へ単位時間あたりに送信する前記データの量である送信レートを取得し、
前記スループットと前記無線リンク品質情報と前記送信レートとの関係を表す前記数理モデルと、前記取得された送信レートと、前記取得された無線リンク品質情報と、に基づいて前記スループットを推定する、処理を実行させるように構成されたスループット推定プログラム。
【0184】
なお、本発明は、日本国にて2011年1月28日に出願された特願2011−016232の特許出願に基づく優先権主張の利益を享受するものであり、当該特許出願にて開示された内容のすべてが本明細書に含まれるものとする。