特許第5835238号(P5835238)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5835238補強型電解質膜の製造方法および補強型電解質膜の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5835238
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】補強型電解質膜の製造方法および補強型電解質膜の製造装置
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20151203BHJP
   H01M 8/02 20060101ALI20151203BHJP
   H01M 8/10 20060101ALI20151203BHJP
【FI】
   H01B13/00 Z
   H01M8/02 P
   H01M8/10
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-914(P2013-914)
(22)【出願日】2013年1月8日
(65)【公開番号】特開2014-135132(P2014-135132A)
(43)【公開日】2014年7月24日
【審査請求日】2015年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】特許業務法人明成国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100097146
【弁理士】
【氏名又は名称】下出 隆史
(72)【発明者】
【氏名】木藤 広樹
(72)【発明者】
【氏名】林 禎
【審査官】 北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−277288(JP,A)
【文献】 特開2006−252967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/00
H01M 8/02
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の多孔質補強膜を搬送して補強型電解質膜を製造する方法であって、
前記搬送に際し、前記多孔質補強膜に補強膜用バックシートを貼り合わせることによってバックシート付き補強膜を得るバックシート付き補強膜作製工程と、
前記バックシート付き補強膜の搬送途中で、前記バックシート付き補強膜の前記多孔質補強膜側の面に電解質膜を貼り合わせる貼合工程と、
前記電解質膜が貼り合わせ済のバックシート付き補強膜から、前記補強膜用バックシートを剥離する補強膜用バックシート剥離工程と、
を備える補強型電解質膜の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の補強型電解質膜の製造方法であって、
前記貼合工程は、
前記貼り合わせ部分の剥離強度が前記補強膜用バックシートと前記多孔質補強膜との間の剥離強度よりも強くなるように、前記貼り合わせを行う、補強型電解質膜の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の補強型電解質膜の製造方法であって、
帯状の電解質膜を搬送するに際し、前記電解質膜に電解質膜用バックシートを貼り合わせることによってバックシート付き電解質膜を得るバックシート付き電解質膜作製工程を備え、
前記貼合工程は、
前記バックシート付き補強膜に貼り合わせる前記電解質膜として前記バックシート付き電解質膜を用いて、前記バックシート付き電解質膜の前記電解質膜側の面に対して前記貼り合わせを行い、
前記貼り合わせ工程後のバックシート付き電解質膜から、前記電解質膜用バックシートを剥離する電解質膜用バックシート剥離工程をさらに備える、補強型電解質膜の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の補強型電解質膜の製造方法であって、
前記貼合工程は、
前記貼り合わせ部分の剥離強度が前記電解質膜用バックシートと前記電解質膜との間の剥離強度よりも強くなるように、前記貼り合わせを行う、補強型電解質膜の製造方法。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の補強型電解質膜の製造方法であって、
第1巻き取りロールによって前記帯状の多孔質補強膜を巻き取ることによって、前記帯状の多孔質補強膜の搬送を行い、
第2巻き取りロールによって前記帯状の電解質膜を巻き取ることによって、前記帯状の電解質膜の搬送を行う、補強型電解質膜の製造方法。
【請求項6】
帯状の多孔質補強膜を搬送して補強型電解質膜を製造する装置であって、
前記搬送に際し、前記多孔質補強膜に補強膜用バックシートを貼り合わせることによってバックシート付き補強膜を得るバックシート付き補強膜作製部と、
前記バックシート付き補強膜の搬送途中で、前記バックシート付き補強膜の前記多孔質補強膜側の面に電解質膜を貼り合わせる貼合部と、
前記電解質膜が貼り合わせ済のバックシート付き補強膜から、前記補強膜用バックシートを剥離する補強膜用バックシート剥離部と、
を備える補強型電解質膜の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強型電解質膜の製造方法および補強型電解質膜の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池用電解質膜として、固体高分子型燃料電池で用いられる高分子電解質膜がある。高分子電解質膜は、それ自体の膜抵抗が低い必要があり、そのために膜厚はできるだけ薄い方が望ましい。一方、薄くすれば、耐久性が低下する。そこで、多孔質の補強膜(例えば、PTFEの薄膜)に電解質樹脂を含浸させて補強型電解質膜とすることが知られている(特許文献1参照)。この補強型電解質膜を製造する際には、巻取りロールによって巻き取ることで、帯状の多孔質補強膜を単体で連続搬送しながら、その製造がなされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−146256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、巻き取りロールによって巻き取り搬送する際に、帯状の多孔質補強膜の幅が狭くなるネックインと呼ばれる現象が発生する課題があった。多孔質補強膜は、軟薄膜であるため、設備の最低搬送張力でもネックインが発生した。そのほか、従来の補強型電解質膜の製造方法においては、電解質膜の機能向上や、低コスト化、省資源化等が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本発明の一形態は、帯状の多孔質補強膜を搬送して補強型電解質膜を製造する方法である。この方法は、前記搬送に際し、前記多孔質補強膜に補強膜用バックシートを貼り合わせることによってバックシート付き補強膜を得るバックシート付き補強膜作製工程と;前記バックシート付き補強膜の搬送途中で、前記バックシート付き補強膜の前記多孔質補強膜側の面に電解質膜を貼り合わせる貼合工程と;前記電解質膜が貼り合わせ済のバックシート付き補強膜から、前記補強膜用バックシートを剥離する補強膜用バックシート剥離工程と;を備える。
【0007】
前記補強型電解質膜の製造方法によれば、補強膜用バックシートを支えとして帯状の多孔質補強膜を搬送することができるから、多孔質補強膜単体で搬送を行う際に多孔質補強膜が変形することを防止することができる。
【0008】
(2)前記形態の補強型電解質膜の製造方法において、前記貼合工程は、前記貼り合わせ部分の剥離強度が前記補強膜用バックシートと前記多孔質補強膜との間の剥離強度よりも強くなるように、前記貼り合わせを行う構成としてもよい。
この構成によれば、補強膜用バックシートの剥離を容易に行うことができる。
【0009】
(3)前記形態の補強型電解質膜の製造方法において、帯状の電解質膜を搬送するに際し、前記電解質膜に電解質膜用バックシートを貼り合わせることによってバックシート付き電解質膜を得るバックシート付き電解質膜作製工程を備え;前記貼合工程は、前記バックシート付き補強膜に貼り合わせる前記電解質膜として前記バックシート付き電解質膜を用いて、前記バックシート付き電解質膜の前記電解質膜側の面に対して前記貼り合わせを行い;前記貼り合わせ工程後のバックシート付き電解質膜から、前記電解質膜用バックシートを剥離する電解質膜用バックシート剥離工程をさらに備える構成としてもよい。
この補強型電解質膜の製造方法によれば、電解質膜用バックシートを支えとして帯状の電解質膜を搬送することができるから、電解質膜単体で搬送を行う際に電解質膜が変形することを防止することもできる。
【0010】
(4)前記形態の補強型電解質膜の製造方法において、前記貼合工程は、前記貼り合わせ部分の剥離強度が前記電解質膜用バックシートと前記電解質膜との間の剥離強度よりも強くなるように、前記貼り合わせを行う構成としてもよい。
この構成によれば、電解質膜用バックシートの剥離を容易に行うことができる。
【0011】
(5)前記形態の補強型電解質膜の製造方法において、第1巻き取りロールによって前記帯状の多孔質補強膜を巻き取ることによって、前記帯状の多孔質補強膜の搬送を行い;第2巻き取りロールによって前記帯状の電解質膜を巻き取ることによって、前記帯状の電解質膜の搬送を行う構成としてもよい。
【0012】
巻取りロールによって巻き取ることで、帯状の多孔質補強膜を単体で搬送しようとすると、従来、帯状の多孔質補強膜にネックインが発生したが、この形態の補強型電解質膜の製造方法によれば、補強膜用バックシートが支えとなって、多孔質補強膜にネックインが発生することを防止することができる。一方、巻取りロールによって巻き取ることで、帯状の電解質膜を単体で搬送しようとすると、従来、帯状の電解質膜が破断する虞があったが、この形態の補強型電解質膜の製造方法によれば、電解質膜用バックシートが支えとなって、電解質膜が破断することを防止することができる。
【0013】
(6)本発明の他の形態によれば、帯状の多孔質補強膜を搬送して補強型電解質膜を製造する装置が提供される。この装置は、前記搬送に際し、前記多孔質補強膜に補強膜用バックシートを貼り合わせることによってバックシート付き補強膜を得るバックシート付き補強膜作製部と;前記バックシート付き補強膜の搬送途中で、前記バックシート付き補強膜の前記多孔質補強膜側の面に電解質膜を貼り合わせる貼合部と;前記電解質膜が貼り合わせ済のバックシート付き補強膜から、前記補強膜用バックシートを剥離する補強膜用バックシート剥離部と;を備える。
【0014】
この形態の補強型電解質膜の製造装置は、前記(1)の形態の補強型電解質膜の製造方法と同様に、多孔質補強膜単体で搬送を行う際に多孔質補強膜が変形することを防止することができる効果を奏する。
【0015】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能である。例えば、前記形態の補強型電解質膜の製造方法によって製造された補強型電解質膜、その補強型電解質膜を備える燃料電池、前記形態の補強型電解質膜の製造方法の各工程を備える燃料電池の製造方法、前記(2)から(5)までのいずれかの形態の補強型電解質膜の製造方法の各工程に対応した処理部を備える補強型電解質膜の製造装置等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態としての補強型電解質膜の製造方法を示す工程図である。
図2】工程1を行う装置を示す説明図である。
図3】工程2を行う装置を示す説明図である。
図4】工程3を行う装置を示す説明図である。
図5】工程4を行う装置を示す説明図である。
図6】工程5を行う装置を示す説明図である。
図7】工程6を行う装置を示す説明図である。
図8】従来の実施形態によって多孔質補強膜がネックインする様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態としての補強型電解質膜の製造方法を示す工程図である。この製造方法で製造する燃料電池用電解質膜は、固体高分子型燃料電池で用いられる高分子電解質膜であり、特に補強型の電解質膜である。図示するように、この製造方法は、工程1から工程7までの7つの工程によって構成される。各工程1〜7はこの順に実行される。各工程1〜7について、順に説明する。
【0018】
[工程1]
工程1は、バックフィルム付き補強膜/バックフィルム付き電解質膜作製工程である。このバックフィルム付き補強膜/バックフィルム付き電解質膜作製工程では、補強膜RMに補強膜用バックフィルムRSを貼り合わせると共に、電解質ポリマ単膜EMに電解質膜用バックフィルムESを貼り合わせる。
【0019】
補強膜RMは、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)ファインパウダーをビード押出しし、それをロール圧延してPTFEテープを得て、次いで、多軸延伸機を用いて、PTFEテープを昇温しながら延伸加工することによって製造されたもので、厚さが約3μmの多孔質膜である。補強膜用バックフィルムRSは、自己粘着性のOPP(=Oriented Polypropylene)フィルムで、厚さが約30μmである。電解質ポリマ単膜EMは、フッ素系電解質樹脂の前駆体高分子樹脂膜であり、例えば、デュポン社製ナフィオン(登録商標)を、押出成形機を用いて厚さ約10μmに成形したものである。電解質膜用バックフィルムESは、例えばポリプロピレンであり、厚さが約20μmである。補強膜RM、補強膜用バックフィルムRS、電解質ポリマ単膜EM、電解質膜用バックフィルムESは、それぞれ帯状である。
【0020】
図2は、工程1を行う装置を示す説明図である。図2(a)にはバックフィルム付き補強膜を製造する装置10を示し、図2(b)にはバックフィルム付き電解質膜を製造する装置20を示す。
【0021】
図2(a)に示すように、装置10は、2つの繰り出しロール12、14と、一対のローラ部材16、16と、巻き取りロール18とを備える。一方の繰り出しロール12には補強膜用バックフィルムRSが巻回されており、他方の繰り出しロール14には補強膜RMが巻回されている。繰り出しロール12から繰り出した補強膜用バックフィルムRSと、繰り出しロール14から繰り出した補強膜RMとを、一対のローラ部材16、16の間に走行させることによって、補強膜RMに補強膜用バックフィルムRSを貼り合わせる。この貼り合わせは、補強膜用バックフィルムRSの粘着性によるものである。貼り合わせの結果、バックフィルム付き補強膜M1が得られる。なお、本実施形態では、この貼り合わせ部分の剥離強度は、0.05[N/cm]程度となる。この剥離強度は、補強膜用バックフィルムRSの材質、補強膜RMの材質、およびローラ部材16、16の押圧力によって決まる。バックフィルム付き補強膜M1は、走行されて、巻き取りロール18に巻き取られる。
【0022】
図2(b)に示すように、装置20は、2つの繰り出しロール22、24と、一対のローラ部材26、26と、巻き取りロール28とを備える。一方の繰り出しロール22には電解質ポリマ単膜EMが巻回されており、他方の繰り出しロール24には電解質膜用バックフィルムESが巻回されている。繰り出しロール22から繰り出した電解質ポリマ単膜EMと、繰り出しロール24から繰り出した電解質膜用バックフィルムESとを、一対のローラ部材26、26の間に走行させることによって、電解質ポリマ単膜EMに電解質膜用バックフィルムESを貼り合わせる。この貼り合わせは、電解質膜用バックフィルムESの粘着性によるものである。貼り合わせの結果、バックフィルム付き電解質膜M2が得られる。なお、本実施形態では、バックフィルム付き電解質膜M2の貼り合わせ部分の剥離強度は、0.02[N/cm]程度となる。この剥離強度は、電解質膜用バックフィルムESの材質、電解質ポリマ単膜EMの材質、およびローラ部材26、26の押圧力によって決まる。バックフィルム付き電解質膜M2は、走行されて、巻き取りロール28に巻き取られる。
【0023】
なお、本実施形態では、装置10によって製造される、巻き取りロール18に巻き取られたバックフィルム付き補強膜M1は、2つ製造するようにしている。以下、2つ目の巻き取りロール18を「巻き取りロール18X」と呼び、2つ目のバックフィルム付き補強膜M1を「バックフィルム付き補強膜M1X」と呼ぶ。
【0024】
[工程2]
図1に戻って、工程2は、貼り合わせ工程である。この貼り合わせ工程では、工程1によって得られた1つのバックフィルム付き補強膜M1を、同じく工程1によって得られたバックフィルム付き電解質膜M2の片面に貼り付ける。
【0025】
図3は、工程2を行う装置を示す説明図である。図3に示すように、工程2を行う装置30は、2つの繰り出しロール32、34と、一対のローラ部材36、36と、巻き取りロール38とを備える。一方の繰り出しロール32は、工程1において用いられた装置10から巻き取りロール18を取り外して流用したものである。他方の繰り出しロール34は、工程1において用いられた装置20から巻き取りロール28を取り外して流用したものである。このため、繰り出しロール32からバックフィルム付き補強膜M1が繰り出され、繰り出しロール34からバックフィルム付き電解質膜M2が繰り出される。
【0026】
前記繰り出されたバックフィルム付き補強膜M1と、前記繰り出されたバックフィルム付き電解質膜M2とを、一対のローラ部材36、36の間に走行させることによって、バックフィルム付き電解質膜M2にバックフィルム付き補強膜M1を貼り合わせる。この貼り合わせは、バックフィルム付き補強膜M1の補強膜RM側の面と、バックフィルム付き電解質膜M2の電解質ポリマ単膜EM側の面とを対向させて行う。貼り合わせの結果、電解質膜用バックフィルムES、電解質ポリマ単膜EM、補強膜RM、および補強膜用バックフィルムRSがこの順に積層された第1の中間積層膜M3が得られる。なお、本実施形態では、第1中間積層膜M3における電解質ポリマ単膜EMと補強膜RMとの間の剥離強度は、0.10[N/cm]程度となり、バックフィルム付き補強膜M1における貼り合わせ部分の剥離強度(=0.05[N/cm])や、バックフィルム付き電解質膜M2における貼り合わせ部分の剥離強度(=0.02[N/cm])よりも強くなっている。この電解質ポリマ単膜EMと補強膜RMとの間の剥離強度は、電解質ポリマ単膜EMの材質、補強膜RMの材質、およびローラ部材26、26の押圧力によって決まる。第1中間積層膜M3は、走行されて、巻き取りロール38に巻き取られる。
【0027】
工程1から工程2までで使用する装置10、20、30は、別個の装置であったが、これらほぼ同じ構成であるから、1台の装置で、順次、各工程1、2の処理を行う構成としてもよい。
【0028】
[工程3]
図1に戻って、工程3は、電解質膜用バックフィルム剥離工程である。この電解質膜用バックフィルム剥離工程では、工程2によって得られた第1中間積層膜M3から、電解質膜用バックフィルムESを剥離する。
【0029】
図4は、工程3を行う装置を示す説明図である。図4に示すように、工程3を行う装置40は、繰り出しロール42と、剥離バー44と、巻き取りロール46、48とを備える。繰り出しロール42は、工程2において用いられた装置30から巻き取りロール38を取り外して流用したものである。このため、繰り出しロール42から第1中間積層膜M3が繰り出される。剥離バー44は、第1中間積層膜M3の搬送路の途中に設けられ、その搬送方向に進むに連れて徐々に先細りとなるテーパ形状を有する。繰り出しロール42から繰り出された第1中間積層膜M3が、剥離バー44の底面に沿うように進行し、第1中間積層膜M3の外側に位置する電解質膜用バックフィルムESが進行方向から折り返されて、剥離バー44の斜面に沿って、一方の巻き取りロール46によって巻き取られる。これによって、第1中間積層膜M3から、外側の電解質膜用バックフィルムESが剥離される。なお、第1中間積層膜M3に備えられる電解質ポリマ単膜EMと電解質膜用バックフィルムESとの間の剥離強度は、補強膜RMと電解質ポリマ単膜EMとの間の剥離強度よりも弱いことから、第1中間積層膜M3から電解質膜用バックフィルムESを剥離することは容易である。この剥離された後の中間積層膜を、第2中間積層膜M4と呼ぶ。
【0030】
[工程4]
図1に戻って、工程4は、バックフィルム付き補強膜貼り合わせ工程である。このバックフィルム付き補強膜貼り合わせ工程では、工程1によって得られた残りの1つのバックフィルム付き補強膜M1を、工程3によって得られた第2中間積層膜M4に貼り付ける。
【0031】
図5は、工程4を行う装置を示す説明図である。図5に示すように、工程4を行う装置50は、繰り出しロール52、54と、一対のローラ部材56、56と、巻き取りロール58とを備える。一方の繰り出しロール52は、工程3において用いられた装置40から巻き取りロール48を取り外して流用したものである。他方の繰り出しロール54は、工程1において用いられた装置から巻き取りロール18Xを取り外して流用したものである。このため、繰り出しロール52から第2中間積層膜M4が繰り出され、繰り出しロール34からバックフィルム付き補強膜M1が繰り出される。
【0032】
前記繰り出された第2中間積層膜M4と、前記繰り出されたバックフィルム付き補強膜M1とを、一対のローラ部材56、56の間に走行させることによって、第2中間積層膜M4にバックフィルム付き補強膜M1を貼り合わせる。この貼り合わせは、バックフィルム付き補強膜M1の補強膜RM側の面と、補強膜M1の電解質ポリマ単膜EM側の面とを対向させて行う。貼り合わせの結果、補強膜用バックフィルムRS、補強膜RM、電解質ポリマ単膜EM、補強膜RM、および補強膜用バックフィルムRSがこの順に積層された第3中間積層膜M5が得られる。すなわち、第2中間積層膜M4は、電解質ポリマ単膜EMの一方側の表面に補強膜RMと補強膜用バックフィルムRSとが積層された構成であるが、この工程4によって、電解質ポリマ単膜EMの他方側の表面にも補強膜RMと補強膜用バックフィルムRSとが積層された第3中間積層膜M5が得られることになる。
【0033】
なお、本実施形態では、第3中間積層膜M5における電解質ポリマ単膜EMと新たに追加した補強膜RMとの間の剥離強度は、0.10[N/cm]程度となり、バックフィルム付き補強膜M1における貼り合わせ部分の剥離強度(=0.05[N/cm])よりも強くなっている。この電解質ポリマ単膜EMと補強膜RMとの間の剥離強度は、電解質ポリマ単膜EMの材質、補強膜RMの材質、およびローラ部材56、56の押圧力によって決まる。第3中間積層膜M5は、走行されて、巻き取りロール58に巻き取られる。
【0034】
[工程5]
図1に戻って、工程5は、補強膜用バックフィルム剥離工程である。この補強膜用バックフィルム剥離工程では、工程4によって得られた第3中間積層膜M5から、一方側の補強膜用バックフィルムRSを剥離する。
【0035】
図6は、工程5を行う装置を示す説明図である。図6に示すように、工程5を行う装置60は、繰り出しロール62と、剥離バー64と、巻き取りロール66、68とを備える。繰り出しロール62は、工程4において用いられた装置50から巻き取りロール58を取り外して流用したものである。このため、繰り出しロール62から第3中間積層膜M5が繰り出される。剥離バー64は、第3中間積層膜M5の搬送路の途中に設けられ、その搬送方向に進むに連れて徐々に先細りとなるテーパ形状を有する。繰り出しロール62から繰り出された第3中間積層膜M5が、剥離バー64の底面に沿うように進行し、第3中間積層膜M5の一方の外側に位置する補強膜用バックフィルムRSが進行方向から折り返されて、剥離バー64の斜面に沿って、一方の巻き取りロール66によって巻き取られる。これによって、第3中間積層膜M5から、一方側の補強膜用バックフィルムRSが剥離される。なお、第3中間積層膜M5に備えられる補強膜RMと補強膜用バックフィルムRSとの間の剥離強度は、補強膜RMと電解質ポリマ単膜EMとの間の剥離強度よりも弱いことから、第3中間積層膜M5から補強膜用バックフィルムRSを剥離することは容易である。この剥離された後の中間積層膜を、第4中間積層膜M6と呼ぶ。
【0036】
[工程6]
図1に戻って、工程6は、補強膜用バックフィルム剥離/フッ素系フィルム挟み込み工程である。この補強膜用バックフィルム剥離/フッ素系フィルム挟み込み工程では、工程5によって得られた第4中間積層膜M6から他方側の補強膜用バックフィルムRSを剥離し、フッ素系フィルムを挟み込む。フッ素系フィルムは、例えば、FEP(テトラフルオロエチレンヘキサフルオロプロピレン共重合体)である。
【0037】
図7は、工程6を行う装置を示す説明図である。図7に示すように、工程6を行う装置70は、繰り出しロール71、72、73と、送りローラ74、75、76と、巻き取りロール77とを備える。繰り出しロール71は、工程6において用いられた装置60から巻き取りロール68を取り外して流用したものである。このため、繰り出しロール71から第4中間積層膜M6が繰り出される。送りローラ74、75、76は、所定の間隙を開けて一直線状に順に並べられており、繰り出しロール71から繰り出された第4中間積層膜M6は、第1送りローラ74と第2送りローラ75の間、第2送りローラ75と第3送りローラ76の間を縫って進行する。繰り出しロール72、73には、それぞれ帯状のフッ素系フィルムFLが巻回されている。
【0038】
第4中間積層膜M6は、第1送りローラ74と第2送りローラ75の間を抜けた後、第4中間積層膜M6から補強膜用バックフィルムRSが外側に引き剥がされて、補強膜用バックフィルムRSは巻き取りロール77に巻き取られる。一方の繰り出しロール72から繰り出したフッ素系フィルムFLは、第1送りローラ74と第2送りローラ75の間の間を進行することによって、第4中間積層膜M6における補強膜用バックフィルムRSと反対側の面に貼り合わされる。その後、フッ素系フィルムFLが貼り合わされた中間積層膜は、第2送りローラ75と第3送りローラ76の間に進行し、この間でも、他方の繰り出しロール72から繰り出したフッ素系フィルムFLが貼り合わされる。このフッ素系フィルムFLを貼り合わせる面は、第1送りローラ74と第2送りローラ75の間で貼り合わされたフッ素系フィルムFLとは反対側の面である。第2送りローラ75と第3送りローラ76の間を抜けた積層膜M7は、フッ素系フィルムFL、補強膜RM、電解質ポリマ単膜EM、補強膜RM、およびフッ素系フィルムFLがこの順に積層されたものとなる。
【0039】
[工程7]
図1に戻って、工程7は、溶融含浸工程である。この溶融含浸工程では、工程6によって得られた積層体M7を、加熱・加圧することによって、電解質ポリマ単膜EMと各補強膜RMとの間を溶融含浸させる。すなわち、電解質ポリマ単膜EMが溶融して補強膜RMに入り込むことによって、電解質ポリマ単膜EMと各補強膜RMとの間が固着される。その後、積層体M7からフッ素系フィルムFLを剥がす工程(図示せず)を経る等して、補強型電解質膜が完成する。
【0040】
以上のように構成された本実施形態の補強型電解質膜の製造方法によれば、電解質ポリマ単膜EMと補強膜RMとを貼り合わせるために、補強膜RMを搬送するに際し、補強膜用バックフィルムRSを支えとして補強膜RMを搬送することができるから、補強膜RMが変形することを防止することができる。
【0041】
図8は、従来の実施形態によって多孔質補強膜がどのように変形するかを示す説明図である。図示するように、繰り出しロール90から繰り出された多孔質補強膜XMを、ローラ部材92で引っ張って単体搬送しようとすると、帯状の多孔質補強膜XM膜の幅Wが、破線で囲った部分に示すように狭くなるネックインと呼ばれる現象が生じた。多孔質補強膜は、軟薄膜であるため、設備の最低搬送張力でも例えば14%を超えるネックインが発生した。これに対して、本実施形態では、前述したように、補強膜RMは搬送時に変形することがないことから、ネックインが生じることがない。
【0042】
さらに、電解質ポリマ単膜EMと補強膜RMとを貼り合わせるために、電解質ポリマ単膜EMを搬送するに際し、電解質膜用バックフィルムESを支えとして電解質ポリマ単膜EMを搬送することができるから、補強膜RMが変形することを防止することができる。従来、電解質ポリマ単膜を引っ張って単体搬送しようとすると、破断し易かった。電解質ポリマ単膜は軟薄膜であり、低延性のため、設備の最低搬送張力でも破断し易かった。これに対して、本実施形態では、前述したように、電解質ポリマ単膜EMは搬送時に変形することがないことから、破断し難い。実験によって効果を検証してみたが、従来の実施形態では、20mに1回程度の破断が発生したが、これに対して、本実施形態では、その10倍の距離である200mでも1回も破断がなかった。
【0043】
・変形例1:
前記実施形態では、工程1から工程6までの処理はバッチ処理を基本としていたが、これに替えて、連続した一連の工程で、作業者の手を借りることなく製造するようにしてもよい。
【0044】
・変形例2:
前記実施形態では、補強膜RM、電解質ポリマ単膜EM共にバックフィルムを貼り合わせる構成としたが、これに替えて、補強膜RMだけにバックフィルムを貼り合わせる構成としてもよい。
【0045】
・変形例3:
前記実施形態では、多孔質補強膜は、PTFEとしたが、これに換えて、高分子PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、ポリイミド等の他の多孔質の高分子樹脂としてもよい。また、多孔質補強膜や高分子電解質前駆体の薄膜の膜厚についても、第1実施形態と相違する厚さとしてもよい。補強膜用バックシートは、OPPとしたが、これに換えて、PET(ポリエチレンテレフタラート)、LDPE(低密度ポリエチレン)としてもよい。
【0046】
・変形例4:
前記実施形態では、補強膜用バックフィルムRSおよび電解質膜用バックフィルムESは、薄い膜状のフィルムとしたが、必ずしもフィルムと呼ばれるものでなくてもよく、シート状のものであればよい。
【0047】
・変形例5:
前記実施形態では、ローラによって引っ張ることで搬送を行う構成であったが、これに換えて、複数のローラを一列に配置し、その上に運搬物を載せて移動させることによって搬送を行う構成等の他の方法で搬送する構成としてもよい。
【0048】
本発明は、上述の実施形態や実施例、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0049】
10…装置
12、14…繰り出しロール
16…ローラ部材
18…巻き取りロール
20…装置
22、24…繰り出しロール
26…ローラ部材
28…巻き取りロール
30…装置
32、34…繰り出しロール
36…ローラ部材
38…巻き取りロール
40…装置
42…繰り出しロール
44…剥離バー
46、48…巻き取りロール
50…装置
52、54…繰り出しロール
56…ローラ部材
58…巻き取りロール
60…装置
62…繰り出しロール
64…剥離バー
66、68…巻き取りロール
70…装置
71、72、73…繰り出しロール
74、75、76…送りローラ
77…巻き取りロール
RM…補強膜
EM…電解質ポリマ単膜
RS…補強膜用バックフィルム
ES…電解質膜用バックフィルム
M1…バックフィルム付き補強膜
M2…バックフィルム付き電解質膜
M3…第1中間積層膜
M4…第2中間積層膜
M5…第3中間積層膜
M6…第4中間積層膜
M7…積層膜
FL…フッ素系フィルム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8