特許第5835243号(P5835243)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5835243
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】物標認識装置
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20151203BHJP
   G01S 13/34 20060101ALI20151203BHJP
   G01S 13/93 20060101ALI20151203BHJP
   G01S 13/86 20060101ALI20151203BHJP
【FI】
   G08G1/16 C
   G01S13/34
   G01S13/93 220
   G01S13/86
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-22384(P2013-22384)
(22)【出願日】2013年2月7日
(65)【公開番号】特開2014-153874(P2014-153874A)
(43)【公開日】2014年8月25日
【審査請求日】2014年8月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】野田 和広
【審査官】 白石 剛史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−263986(JP,A)
【文献】 特開2007−310741(JP,A)
【文献】 特開平06−150195(JP,A)
【文献】 特開2012−229948(JP,A)
【文献】 特開2003−270342(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/16
G01S 13/34
G01S 13/86
G01S 13/93
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信信号の位相差から一意に方位が決まる範囲を基本検知範囲、前記基本検知範囲に隣接した範囲であり該範囲内に物標が存在すると位相折返しによって前記基本検知範囲内で虚像が検出される範囲を付加検知範囲、前記虚像が現れる前記基本検知範囲内の領域を折返領域として、前記基本検知範囲及び前記付加検知範囲を探査範囲とするレーダセンサ(2)、及び前記レーダセンサの探査範囲より広い角度範囲を撮像範囲とする画像センサ(3)を用いて予め設定された測定サイクル毎に物体を認識する物体認識装置であって、
前記測定サイクル毎に、前記レーダセンサでの検出結果に基づき前記基本検知範囲内に物標が存在するものとして物標候補を検出する候補検出手段(2a)と、
前記候補検出手段により前記折返領域内で検出された物標候補のそれぞれについて、該物標候補は虚像であり実像が前記付加検知範囲内に存在するものとして求めた物標候補を追加する候補追加手段(2c)と、
前記候補検出手段及び前記候補追加手段により検出及び追加された前記物標候補のそれぞれについて、過去の測定サイクルで検出された物標候補との間で履歴接続の有無を判断する追跡手段(2d)と、
前記追跡手段により履歴接続の有無が判断された物標候補のそれぞれについて、前記画像センサで検出された物標である画像物標の中に前記物標候補に対応付けられるものが存在するか否かにより、前記画像物標との結合の有無を判断する結合判断手段(4,S140)と、
少なくとも前記結合判断手段での判断結果を用いて、前記物標候補の虚像らしさを表す尤度を、前記追跡手段により履歴接続が無いと判断された物標候補については設定し、前記追跡手段により履歴接続が有ると判断された物標候補については更新する尤度算出手段(4,S150)と、
を備えることを特徴とする物標認識装置。
【請求項2】
前記尤度算出手段は、
複数の判断基準を用い、該判断基準のそれぞれについて個別の尤度を求める個別尤度算出手段(4,S210〜S230)と、
前記個別尤度算出手段により算出された尤度を統合した統合尤度を求める統合尤度算出手段(4,S240)と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の物標認識装置。
【請求項3】
前記個別尤度算出手段は、前記候補検出手段により前記折返領域内で検出された物標候補、及び前記候補追加手段によって追加された物標候補を折返候補と呼ぶものとして、前記折返候補であり且つ前記画像物標との結合がない場合に値が増加し、それ以外の場合に値が減少する第1の個別尤度を少なくとも求めること(S210)を特徴とする請求項2に記載の物標認識装置。
【請求項4】
前記個別尤度算出手段は、履歴接続が無いと判断された物標候補は50%に設定され、履歴接続が有ると判断された物標候補は、前記画像物標との結合がある場合に値が減少し、前記画像物標との結合がない場合に値が維持される第2の個別尤度を少なくとも求めること(S220)を特徴とする請求項2又は請求項3に記載の物標認識装置。
【請求項5】
前記個別尤度算出手段は、前記付加検知範囲で検出対象となる物標がもつ平均的な特性を利用し、平均的な特性を満たしている場合に50%より低い値に設定され、平均的な特性から外れている場合に50%より高い値に設定される第3の個別尤度を少なくとも求めること(S230)を特徴とする請求項2乃至請求項4のいずれか1項に記載の物標認識装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダセンサ及び画像センサの情報を利用して物標を認識する物標認識装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の運転支援等に用いるために、レーダセンサや画像センサを利用して車両の周囲に存在する各種物標を認識する物標認識装置が各種用いられている。
ところで、レーダセンサの一つであるミリ波レーダでは、レーダ波を反射した物標からの反射波を複数のアンテナで受信し、各アンテナからの受信信号間に生じる位相差Δθを利用して、電波を反射した物標の方位を求めることが行われている。但し、位相の周期性からΔθ=θ0(|θ0|<π)と、Δθ=θ0±2nπ(n=1,2,…)とを区別することができない。
【0003】
従って、位相差Δθが−π<Δθ≦+π[rad]となる範囲に対応する方位角度領域(基本検知範囲)内に物標が存在すれば、その方位を正しく検出することができるが、基本検知範囲外、即ち、位相差Δθが、Δθ≦−π又はΔθ>πとなる範囲に物標が存在する場合には、その物標の方位を、基本検知エリア内にあるものとして誤検出してしまうことが知られている。
【0004】
このような位相折返しによる誤検出を防止する方法の一つとして、特許文献1には、レーダで検出した物標候補位置をカメラで認識し、レーダでの検出結果に対応する物標が認識できればミリ波レーダでの検出結果を真(実像である)とし、認識できなければ位相折返しによる虚像であると仮定し、実像が存在すると予想される基本検知エリア外の方位(位置)について、カメラによる物標認識を改めて実施する。その結果、物標が存在すれば、予想した位置を物標位置として採用することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−263986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の従来装置では、カメラ側で誤認識が発生すると、位相折返しによる虚像(ゴースト)を実像として誤認識してしまうため、安定した認識結果を得ることができないという問題があった。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するために、レーダセンサにおいて位相折返しが発生する角度範囲での物標の認識精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の物標認識装置は、レーダセンサ及び画像センサを用いて予め設定された測定サイクル毎に物体を認識する。但し、レーダセンサは、受信信号の位相差から一意に方位が決まる範囲を基本検知範囲、基本検知範囲に隣接した範囲であり該範囲内に物標が存在すると位相折返しによって基本検知範囲内で虚像が検出される範囲を付加検知範囲、虚像が現れる基本検知範囲内の領域を折返領域として、基本検知範囲及び付加検知範囲を探査範囲とする。また、画像センサは、レーダセンサの探査範囲より広い角度範囲を撮像するように設定されている。
【0009】
そして本発明の物標認識装置では、候補検出手段が、測定サイクル毎にレーダセンサでの検出結果に基づき基本検知範囲内に物標が存在するものとして物標候補を検出し、候補追加手段が、候補検出手段により折返領域内で検出された物標候補のそれぞれについて、該物標候補は虚像であり実像が付加検知範囲内に存在するものとして求めた物標候補を追加する。
【0010】
また、追跡手段が、候補検出手段及び候補追加手段により検出及び追加された物標候補のそれぞれについて、前回の測定サイクルでの検出結果との間で履歴接続の有無を判断する。結合判断手段が、追跡手段により履歴接続の有無が判断された物標候補のそれぞれについて、画像センサで検出された物標である画像物標の中に物標候補に対応付けられるものが存在するか否かにより、画像物標との結合の有無を判断する。そして、尤度算出手段が、少なくとも結合判断手段での判断結果を用いて、物標候補の虚像らしさを表す尤度を、追跡手段により履歴接続が無いと判断された物標候補については設定し、追跡手段により履歴接続が有ると判断された物標候補については更新する。
【0011】
このように構成された本発明の物標認識装置では、履歴接続が確認されている物標候補の虚像らしさを表す尤度が、時系列的に求められるため、瞬時的な誤認識(誤結合)によって、物標候補が実像であるか虚像であるかの判断を誤ってしまうことを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】運転支援システムの構成を示すブロック図である。
図2】探査範囲等を示す説明図である。
図3】物標認識処理の内容を示すフローチャートである。
図4】折返確率算出処理の内容を示すフローチャートである。
図5】個別尤度を設定,更新する処理の内容を示す説明図である。
図6】個別尤度及び統合尤度が変化する様子を例示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
<全体構成>
本発明が適用された運転支援システム1は、図1に示すように、自車両の前方に設定された探査領域に向けてレーダ波を照射し、その反射波を受信するレーダセンサ部2と、探査領域を撮像する画像センサ部3と、レーダセンサ部2及び画像センサ部3での検出結果に従って、探査領域内に存在する各種物標を検知する統合処理部4と、統合処理部4での処理結果に従い、各種車載機器を制御して所定の運転支援を実行する運転支援実行部5とを備えている。運転支援システム1において、統合処理部4は、レーダセンサ部2、画像センサ部3、及び運転支援実行部5のそれぞれと通信可能に接続されている。なお、通信を実現するための構成は、特に限定されない。
【0014】
<レーダセンサ部>
レーダセンサ部2は、車両の前端部に配置され、ミリ波を利用して所定の探査領域内に存在する物標を検知する周知のFMCW(Frequency Modulated Continuous Wave )レーダからなり、ミリ波を反射した反射点(物標候補)に関する情報を、レーダ物標情報として統合処理部4へ送信する。但し、レーダセンサ部2は、送信アンテナ及び受信アンテナのうち少なくとも一方がアレイアンテナによって構成され、送信アンテナと受信アンテナの組み合わせをチャンネルと呼ぶものとして、複数のチャンネルを用いてミリ波の送受信を行い、各チャンネルにて得られる受信信号の位相差を利用して、方位検出を行うことができるように構成されている。
【0015】
そして、レーダセンサ部2は、FMCWレーダにおける周知の手法により物標候補毎に、自車両との距離や相対速度を検出する候補検出処理部2a、反射波の受信信号の位相差を利用して物標候補が存在する方位を求める方位算出処理部2bを備える。また、レーダセンサ部2は、候補検知処理部2aによって検出された物標候補が、いわゆる位相折返しによって生じる虚像である可能性がある場合に、実像が存在すると推定される方位を求めて物標候補の一つ(距離,相対速度は元の物標候補と同じ)として追加する候補追加処理部2c、候補検出処理部2a及び候補追加処理部2cによって検出,追加された物標候補のそれぞれについて、これら物標候補が、過去の測定サイクルで検出された物標候補と履歴接続の関係にあるか否か(同一のものであると推定できるか否か)を判定するトラッキング処理部2dを備える。なお、これら各部2a〜2dは、CPUが実行する処理によって実現される。また、各部2a〜2dで実現される候補検出処理、方位算出処理、候補追加処理、トラッキング処理の個々の内容については、周知であるため詳細な説明は省略する。
【0016】
但し、ここでは、図2に示すように、受信信号の位相差Δθから一意に方位を決定することができる範囲(−π<Δθ≦π)に相当する角度範囲を基本検知範囲、基本検知範囲の左右両側に隣接した範囲であり、その範囲内に物標(実像)が存在すると位相折返しによって基本検知範囲内で虚像が検出される範囲を付加検知範囲、その虚像が現れる基本検知範囲内の領域を折返領域と呼ぶものとする。
【0017】
つまり、レーダセンサ部2は、基本検知範囲及び付加検知範囲の全体を探査範囲として物標候補を検出し、レーダセンサ部2によって検出される物標候補には、基本検知範囲の折返領域外で検出されるものと、基本検知範囲の折返領域内で検出されるものと、折返領域内での検出結果が虚像であり付加検知範囲に実像が存在するとして付加されるものとが存在する。以下では、折返領域内で検出される物標候補、及びその物標候補に対応して付加される物標候補を折返候補とも呼び、折返候補と基本検知範囲の折返領域外で検出された物標候補を総称してレーダ物標と呼び、レーダ物標のそれぞれについてレーダ物標情報が生成される。
【0018】
そして、レーダ物標情報には、自車両からの物標候補までの距離、自車両に対する物標候補の相対速度、自車両から見て物標候補が存在する方位、折返候補であるか否かを示す折返フラグ(折返候補であればオン)、トラッキング処理によって得られる履歴接続情報が含まれる。
【0019】
折返フラグは、候補追加処理により、物標候補が折返候補であればオンに設定され、折返候補でなければオフに設定される。履歴接続情報には、過去に検出された物標候補との履歴接続の有無を表す新規フラグ(履歴接続が無ければオン)、過去に履歴接続が確認された回数を表す接続回数が少なくとも含まれている。なお、新規フラグがオフである物標候補は、接続関係にある過去の物標候補の履歴接続情報を受け継ぐ。
【0020】
<画像センサ部>
画像センサ部3は、自車両の前側における中央付近に配置されCCDカメラからなる。画像センサ部3は、レーダセンサの探査範囲(基本検知範囲+付加検知範囲:図2参照)より広い角度範囲を撮像範囲とするCCDカメラを備える。そして、画像センサ部3は、CCDカメラで撮像した画像の画像データに対して、テンプレートマッチング等の周知の画像処理を行うことにより、撮像範囲内に存在する所定の物標(車両、歩行者等)を検出する。画像センサ部3は、この処理により検出された物標(以下、画像物標という)の情報を画像物標情報として統合処理部4へ送信する。なお、画像物標情報には、検出した画像物標の種類、大きさ、位置についての情報が少なくとも含まれている。
【0021】
<運転支援実行部>
運転支援実行部5の制御対象となる車載機器には、各種画像を表示するモニタや、警報音や案内音声を出力するスピーカが少なくとも含まれている。更に、制御対象となる車載機器には、自車両に搭載された内燃機関,パワートレイン機構,ブレーキ機構等を制御する各種制御装置が含まれていてもよい。
【0022】
<統合処理部>
統合処理部4は、CPU,ROM,RAMからなるマイクロコンピュータを中心に構成され、レーダセンサ部2及び画像センサ部3から取得するレーダ物標情報及び画像物標情報に基づいて運転支援実行部5に提供するための物標情報を生成する物標認識処理を少なくとも実行する。
【0023】
以下、物標認識処理を、図3に示すフローチャートに沿って説明する。本処理は、エンジンが始動すると、所定の測定サイクル毎に繰り返し実行される。
まず、S110では、レーダセンサ部2で生成されたレーダ物標情報を取得し、続くS120では、画像センサ部3で生成された画像物標情報を取得する。
【0024】
続くS130では、個別センサ基本処理を実行する。この処理では、レーダ物標情報に基づき、レーダ物標に対応する画像物標が検出されることが予測される探索範囲(撮像画像上の領域)を設定したり、逆に、画像物標情報に基づき、画像物標に対応するレーダ物標が検出されることが予測される探索範囲(距離、方位)を設定したりする処理を行う他、レーダ物標情報や画像物標情報に加えて、車両の各部から取得(図示せず)する車両の挙動情報(車速、加速度、ヨーレート等)を用いて各種演算を実行することにより、レーダ物標や画像物標に関する様々な基本情報を生成する。
【0025】
続くS140では、探索・結合処理を実行する。この処理では、S130で求めた探索範囲を探索することにより、レーダ物標に対応する画像物標が存在するか否かを表す結合情報を生成する。この結合情報は、レーダ物標に対応する画像物標が存在すれば「結合有」を表す値に設定され、レーダ物標に対応する画像物標が存在しなければ「結合無」を表す値に設定される。また、レーダ物標が「結合有」と判断された場合、そのレーダ物標の情報(レーダ物標情報)に、結合関係にある画像物標の情報(画像物標情報)をマージし、更に、結合情報を付加したものを結合物標情報として生成する。一方、レーダ物標が「結合無」と判断された場合、そのレーダ物標の情報(レーダ物標情報)に結合情報を付加しただけのものを結合物標情報として生成する。
【0026】
続くS150では、結合物標情報が表す物標候補のそれぞれについて、位相折返しに基づく虚像である確率を表す尤度を算出する折返し確率演算処理(後述する)を実行する。
続くS160では、折返フラグがオンに設定されている物標候補(即ち、折返物標)のうちS150で求められた尤度が所定値より低いもの、及び折返しフラグがオフに設定されている物標候補(即ち、非折返物標)の中から、予め設定された優先度に従って、上位所定個の物標候補を検出物標として抽出し、その抽出した検出物標についての物標情報(結合物標情報)を運転支援実行部5に送信して、本処理を終了する。
【0027】
次に、S150で実行する折返し確率演算処理の詳細を、図4に示すフローチャートに沿って説明する。
本処理が起動すると、まず、S210では、瞬時結合状態を表す個別尤度P1を算出する。具体的には、新規フラグがオンに設定されている物標候補については、個別尤度P1をP1=50[%]に初期化する。一方、新規フラグがオフに設定されている物標候補、即ち、履歴接続があると判断され過去の測定サイクルで検出された物標候補から個別尤度P1を受け継いでいる場合には、折返フラグの設定及び結合情報に従って、個別尤度P1を増減する。
【0028】
即ち、図5(a)に示すように、折返フラグがオンである場合、結合情報が「結合有」であれば、物標候補が折返し(虚像)である可能性は低いものとして個別尤度P1を所定値だけ減少させ、結合情報が「結合無」であれば、物標候補が折返し(虚像)である可能性は高いものとして個別尤度P1を所定値だけ増加させる。また、折返フラグがオフである場合、結合情報の内容に関わらず物標候補が折返し(虚像)である可能性は低いため個別尤度P1を所定値だけ減少させる。但し、個別尤度P1の減少幅は、結合情報が「結合有」である場合の方が「結合無」である場合より大きくしてもよい。また、ここでは、個別尤度P1の最大値を80[%]、最小値を50[%]に制限することにより、個別尤度P1が虚像らしさを評価する値となるように設定されている。
【0029】
続くS220では、レーダ物標が画像物標と結合が確認された回数の累積値である累積結合回数に応じた個別尤度P2を算出する。具体的には、新規フラグがオンに設定されている物標候補については、個別尤度P2をP2=50[%]に初期化する。一方、新規フラグがオフに設定されている物標候補については、結合情報が「結合有」であれば個別尤度P2を減少させ、結合情報が「結合無」であれば個別尤度P2の値を維持する。ここでは、個別尤度P2の最大値を50[%]、最小値を20[%]に制限することにより、個別尤度P2が実像らしさ(虚像らしくなさ)を評価する値となるように設定されている。
【0030】
続くS230では、物標移動状態を表す個別尤度P3を算出する。この個別尤度P3は、上述した個別尤度P1,P2とは異なり、新規フラグの設定に関わらず、測定サイクル毎に瞬時的に判断される。具体的には、物標候補の移動速度が、付加検知範囲での検出対象となる歩行者の平均的な特性に従って設定された許容範囲(ここでは5.0〜8.0[km/h])内であれば、個別尤度P3を50[%]より小さな値(ここでは20[%])に設定し、歩行者の平均的な特性から外れる不許容範囲(1.0[km/h]未満又は12.0[km/h]以上)内である場合は、個別尤度P3を50[%]に設定する。また、物標候補の移動速度が、許容範囲と不許容範囲との間である場合、個別尤度P3は、移動速度に応じて20[%]〜50[%]の間で線形補間した値に設定される。なお、個別尤度P3は、歩行者らしさを評価する値となるように設定されている。
【0031】
続くS240では、個別尤度P1〜P3に基づき(1)式を用いて統合尤度Pを算出し、本処理を終了する。
【0032】
【数1】
なお、Xは、その時々の状況を表し、Xi(i=1,2,3)は個別尤度Piの値を決定する状況を表す。つまり、X1は、現測定サイクルでの折返しフラグの設定値、結合情報の内容を表し、P1(X1)は、このX1と、過去の測定サイクルで検出された物標候補から引き継いだ個別尤度P1とに従って算出された現測定サイクルの個別尤度P1を表す。
【0033】
<動作例>
ここで、個別尤度P1〜P3と、これらを統合した統合尤度Pの算出例を、図6を参照して説明する。図6に示すように、最初、レーダ物標としてだけ検出され、画像物標との結合関係が確認されていない状態では、個別尤度P1,P2は50[%](P1は最大値と最小値との間の値、P2は最大値)に初期化される。その後、個別尤度P1は、「結合無(OFF)」が確認される毎に所定の割合で増加し、最大値(P1=80[%])に達すると、それ以上に増加することはなく最大値に保持される。また、個別尤度P1,P2は、「結合有(ON)」が確認される毎に所定の割合で減少し、最小値(P1では50[%],P2では20[%])に達すると、それ以上に減少することはなく最小値に保持される。
【0034】
つまり、個別尤度P1は、結合情報に従って最小値(50[%])から最大値(80[%])の間で増加方向にも減少方向にも変化し、一方、個別尤度P2は、最大値(50[%])に初期化され、結合情報に従って、時間の経過と共に減少方向にだけ変化する。
【0035】
また、個別尤度P3は、測定サイクル毎に、物標候補の移動速度の瞬時値に応じて最大値(50[%])から最小値(20[%])までの間のいずれかの値に決まる。
そして、(1)式に従って求められた統合尤度Pは、個別尤度P1〜P3のうち、50[%]から離れた値をもつものの影響を強く受けた値となる。
【0036】
<効果>
以上説明したように、本実施形態では、レーダセンサ部2で検出される物標候補であるレーダ物標と、画像センサ部3で検出される物標候補である画像物標との結合関係に基づいて虚像らしさを表す個別尤度P1と、実像らしさを表す個別尤度P2を求め、更に、物標候補の移動速度から歩行者らしさを表す個別尤度P3を求め、これらの個別尤度P1〜P3をから求めた統合尤度Pに基づいて、運転支援実行部5への情報提供の対象となる物標を選択している。
【0037】
特に、個別尤度P1,P2については、新規フラグがオフである物標候補、即ち、過去の測定サイクルで検出された物標候補との履歴接続が確認されている物標候補については、個別尤度P1,P2の値を受け継ぎ、今回の測定サイクルで得られた結合情報に従って個別尤度P1,P2を更新している。
【0038】
このように、本実施形態によれば、物標が実像であるか虚像であるかの判断を、異なる基準で求められた複数の個別尤度P1〜P3を使用し、しかも、個別尤度P1,P2については時系列的に求めているため、瞬時的な誤認識(誤結合)によって、判断を誤ってしまうことを抑制することができる。
【0039】
また、個別尤度の一つとして、検出対象の特徴(移動速度)に基づき、現測定サイクルで得られた情報だけを用いて求める個別尤度P3が含まれているため、物標候補が特に検出を要する対象物(ここでは歩行者)である場合に、正しい認識結果を速やかに得ること、即ち、認識の早期化を図ることができる。
【0040】
特に、運転支援実行部5が、認識された歩行者に対して衝突回避制御を行う場合、回避制御の対象となる歩行者は、車両の近くに存在し、付加検知範囲に存在する歩行者を正しくかつ速やかに検知できる必要がある。本実施形態は、このような用途において好適に利用することができる。
【0041】
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。例えば、一つの構成要素が有する機能を複数の構成要素に分散させたり、複数の構成要素が有する機能を一つの構成要素に統合したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、同様の機能を有する公知の構成に置き換えてもよい。
【0042】
上記実施形態では、統合尤度Pを、3種類の個別尤度P1〜P3から求めているが、いずれか2種類、又は4種類以上の個別尤度から求めるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0043】
1…運転支援システム 2…レーダセンサ部 3…画像センサ部 4…統合処理部 5…運転支援実行部
図1
図2
図3
図4
図5
図6