(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
非接触加熱した前記層の一部に熱及び圧力を加えて、そこで、厚さ及び気孔率をより小さくすることを更に含んだ請求項4に記載の多孔質フレキシブルシートの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、同様又は類似した機能を発揮する構成要素には全ての図面を通じて同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。また、単独で取り扱うことが可能な層又は平面形状物を、その厚さに応じて「フィルム」又は「シート」と呼ぶことがあるが、ここでは、それら用語に厚さの概念は伴わないこととする。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態に係る多孔質フレキシブルシートを概略的に示す側面図である。
図2は、
図1に示す多孔質フレキシブルシートの一部を拡大して示す側面図である。
図1及び
図2に示す多孔質フレキシブルシートSは、多孔体を形成している熱可塑性樹脂Tと、多孔体に担持された無機粒子Eとを含んでいる。この多孔質フレキシブルシートSは、後述するように、粒子の形態の熱可塑性樹脂Tと無機粒子Eとを含んだ混合物からなる層を、それら粒子間の隙間Cの少なくとも一部を残したまま、熱可塑性樹脂Tからなる粒子を互いに及び無機粒子Eに熱融着させることにより得られる。この熱融着により、熱可塑性樹脂T及び無機粒子Eは一体化されている。なお、典型的には、多孔質フレキシブルシートSにおいて、熱可塑性樹脂Tは、粒子に近い形状を残しつつ、互いに融着している。
【0012】
多孔質フレキシブルシートSの気孔率は、例えば20%乃至70%の範囲内にあり、典型的には40%乃至60%の範囲内にある。気孔率が小さな多孔質フレキシブルシートSは、多孔質であることに由来する効果がはっきりとは現れないことがある。気孔率が大きな多孔質フレキシブルシートSは、強度が不十分となることがある。
【0013】
多孔質フレキシブルシートSの厚さは、例えば90μm乃至350μmの範囲内にあり、典型的には120μm乃至280μmの範囲内にある。多孔質フレキシブルシートSは、厚さを小さくすると、強度が不十分となることがある。また、多孔質フレキシブルシートSは、厚さを大きくすると、フレキシビリティが低下する。
【0014】
多孔質フレキシブルシートSにおいて、熱可塑性樹脂Tの体積V
Tに対する無機粒子Eの体積V
Eの比V
E/V
Tは、例えば1.6×10
-3乃至2.9×10
-2の範囲内にあり、典型的には5.7×10
-3乃至1.1×10
-2の範囲内にある。なお、ここで言う「体積」は、隙間Cを含んだ見掛け体積ではなく、隙間Cを含んでいない実体積である。比V
E/V
Tを小さくすると、フレキシブルシートSを多孔質とすることが難しくなる。比V
E/V
Tを大きくすると、フレキシビリティが低下する。
【0015】
熱可塑性樹脂Tは、一般的にフィルム用として用いられる熱可塑性樹脂である。そのような熱可塑性樹脂は、典型的にはガラス転移温度(Tg)が低い。ガラス転移温度は、例えば0℃未満である。なお、ガラス転移温度が低い熱可塑性樹脂の粉砕には、凍結粉砕を利用することが好ましい。
【0016】
この熱可塑性樹脂Tの軟化点は、ガラス転移温度が上記条件を満たしていれば特に制限されるものではないが、典型的には95℃乃至145℃である。
この熱可塑性樹脂Tとしては、例えば、ポリブチレンサクシネート系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、又は結晶性ポリエステル樹脂を使用することができる。
【0017】
多孔体には、帯電制御剤、ワックス及び着色剤などの他の成分を更に含有させることができる。
帯電制御剤は、例えば、電子写真法を利用して多孔質フレキシブルシートSを製造する場合に使用する。即ち、多孔体がトナー粒子から形成された場合、このトナー粒子は、通常、熱可塑性樹脂Tに加え、帯電制御剤を更に含んでいる。
【0018】
帯電制御剤を使用すると、トナーの帯電量及び帯電速度を調節することができる。帯電制御剤としては、通常、電子写真用トナーに使用される任意のものを使用可能である。また、熱可塑性樹脂Tの量に対する帯電制御剤の量の比は、一般的なフィルム用トナーと同様とすることができる。
ワックスは、離型効果と熱特性の安定化のために使用することができる。ワックスとしては、エステル系のカルナバワックスやポリプロピレン、ポリエチレン、サゾールワックスなど特に制限されるものではない。
【0019】
着色剤を使用すると、多孔質フレキシブルシートSを着色することができる。従って、着色剤を使用すると、多孔質フレキシブルシートSに、単色画像、多色画像及び階調画像などを表示させることができる。熱可塑性樹脂Tの量に対する着色剤の量の比は、一般的なフィルム用トナーと同様とすることができる。
【0020】
着色剤としては、例えば、黒系であれば、カーボンブラックが最も適している。他には有機黒色染料・顔料などを使用することも可能である。白系であれば、白色顔料の酸化チタンを使用するのが好ましい。他の白色剤として、シリカや酸化セリウムなども使用可能であるが、着色力、コスト及び扱いやすさから酸化チタンが好ましい。
【0021】
マゼンタ色であれば、キナクリドン系、ナフトール系、カルシウムレーキ系の有機顔料や、ローダミン系の有機染料などが使用可能である。
シアン色であれば、銅フタロシアニンの有機顔料が適している。他には、銅以外のアルミニウムなどのフタロシアニン系顔料や青色染料なども使用可能である。
【0022】
イエロー色であれば、モノアゾ系、ジスアゾ系、イソインドリノン系、ベンツイミダゾロン系などの有機顔料や、有機染料、バナジン酸ビスマスのような無機顔料も使用可能である。
また、メタリック調の色であれば、金属光沢色の顔料を使用する。例えば、雲母、シリカ、アルミナ又はホウ珪酸ガラスに酸化チタンなどの金属酸化物をコーティングしたパール顔料などを使用することができる。
【0023】
蛍光発色する色であれば、例えば、メラミン系の有機蛍光剤や、各種セラミックスにユーロピウム、マンガン、テルビウム、亜鉛などの金属をドープさせた無機系の蛍光剤などを使用することが可能である。
電子写真法を利用して多孔質フレキシブルシートSを製造する場合、トナー粒子の平均粒径は、例えば20μm乃至60μmであり、典型的には25μm乃至50μmである。ここで、「平均粒径」は、フロー式画像解析法によって得られる体積平均粒径(D50)を意味している。トナー粒子の平均粒径を小さくすると、多孔体の隙間Cの平均径も小さくなる。そのため、トナー粒子の平均粒径を過剰に小さくすると、フレキシブルシートSを多孔質とすることが難しくなる。また、トナー粒子の平均粒径を過剰に大きくすると、電子写真法を利用すること自体が難しくなる。なお、電子写真法を利用して多孔質フレキシブルシートSを製造した場合であって、熱可塑性樹脂Tが粒子に近い形状を残しつつ、互いに融着しているときには、その平均粒径は、トナー粒子の平均粒径とほぼ等しい。
【0024】
トナー粒子として熱可塑性樹脂Tに帯電制御剤、ワックス及び着色剤などを添加する場合、前述の粉砕工程に凍結粉砕方式の粉砕機を用いるほかは、通常のトナーを得る設備が使用可能である。例えば、混合、外添にはヘンシェルミキサー、熱溶融混練には2軸の混練機(例えばPCM等)を用いることができるが、混練後のストランドダイ出口より水槽を通し冷却、ペレタイザー等でペレット化を行うことで、凍結粉砕が容易になる。粉砕後のトナーは目的のフィルムトナーが得られれば通常のトナーを得る設備について特にこだわるものではなく、必要に応じて気流式の分級設備を用いて目的の粒子径を制御する事も可能である。
無機粒子Eは、多孔質フレキシブルシートSの製造過程で、熱可塑性樹脂Tからなる粒子同士が完全に融着するのを防止する役割を果たす。つまり、無機粒子Eは、隙間Cが残るように、熱可塑性樹脂Tの融着を制限する役割を果たす。
無機粒子Eとしては、例えば、シリカ、アルミナ及びチタニアなどの無機酸化物からなる粒子を使用することができる。無機粒子Eは、例えば、シリコーンやシランカップリング剤で表面処理することによって疎水化してもよい。
【0025】
無機粒子Eの平均粒径は、例えば0.02μm乃至0.1μmであり、典型的には0.03μm乃至0.08μmである。ここで、「平均粒径」は、トナー粒子について上述した方法によって得られる体積平均粒径(D50)を意味している。無機粒子Eの平均粒径を過剰に小さくすると、フレキシブルシートSを多孔質とすることが難しくなる。また、無機粒子Eの平均粒径を過剰に大きくすると、フレキシブルシートSの強度が低下する。
無機粒子Eを熱可塑性樹脂Tからなる粒子表面に付着させる目的は、第一に前述の熱溶融時の気孔率を制御する耐熱性能を付与するためであり、更に、トナー印字時の帯電性能、流動性能を付与する2つの目的がある。無機粒子Eは熱可塑性樹脂Tからなる粒子表面に埋没、もしくは静電気力、ファンデルワールス力により樹脂粒子表面に強固に付着している構造のため、容易に脱離するものではない。
無機粒子Eを熱可塑性樹脂Tからなる粒子表面に付着させる手段としては、通常のトナー外添設備を用いる事が可能であり、例えばヘンシェルミキサーなどで熱可塑性樹脂Tからなる粒子と無機粒子Eを同時に混合し、熱可塑性樹脂Tからなる粒子の表面に無機粒子Eが強固に付着した状態を作成することが可能である。
【0026】
図3は、
図1の多孔質フレキシブルシートの一部に熱及び圧力を加えることによって得られる構造の一例を概略的に示す側面図である。
図3に示す多孔質フレキシブルシートSは、第1部分P1と第2部分P2とを含んでいる。この多孔質フレキシブルシートSは、例えば、
図1の多孔質フレキシブルシートSの一部に対して、型押しすること、即ち、熱及び圧力を加えることによって得られる。第1部分P1は型押しした部分に相当し、第2部分P2は型押ししていない部分に相当する。
【0027】
第1部分P1は、以下の点を除いて、第2部分P2と同様である。即ち、第1部分P1は、第2部分に対して凹んでおり、厚さ及び気孔率がより小さい。第1部分P1は、隙間を含んでいてもよく、隙間を含んでいなくてもよい。また、第2部分P2の表面は、粒子の形状を反映した形状を有しているのに対し、第1部分の表面は、型押しの結果、平坦であるか又は型に設けられた凹凸が転写されている。
【0028】
第2部分P2は、第1部分P1と比較して、厚さ及び気孔率がより大きい。第2部分P2は、
図1及び
図2を参照しながら説明した多孔質フレキシブルシートSと同様の構造を有している。
第1部分P1は、第2部分P2と比較して気孔率が小さい。それ故、第1部分P1は、第2部分P2と比較して光散乱能が低い。また、第1部分P1の表面は型押しによって付形されているのに対し、第2部分P2の表面は粒子の形状を反映した形状を有している。そして、第1部分P1は、第2部分P2と比較して、表面の高さが低い。即ち、上記の通り、第1部分P1は、第2部分に対して凹んでいる。それ故、第1部分P1と第2部分P2とは、肉眼で観察した場合に互いから区別することが可能である。従って、
図3に示す多孔質フレキシブルシートSは、第1部分P1又は第2部分P2に対応した形状の像を表示することができる。
【0029】
これら多孔質フレキシブルシートSは、様々な用途への応用が可能である。例えば、これら多孔質フレキシブルシートSは、コースタ、包装シート、滑り止めシート、服飾材料、又はタグとして使用することができる。また、これら多孔質フレキシブルシートSの一方の面に粘着層を設ければ、これを粘着ラベルとして使用することも可能である。
【0030】
次に、
図1に示す多孔質フレキシブルシートSの製造方法を説明する。
図4は、
図1の多孔質フレキシブルシートの製造における一工程を概略的に示す側面図である。
多孔質フレキシブルシートSの製造に当っては、先ず、粒子状の熱可塑性樹脂Tと無機粒子Eとを含んだ混合物からなり、それら粒子間に隙間Cを有している層Lを形成する。層Lは、電子写真法以外の方法でも形成することはできるが、電子写真法を利用した場合、層Lを、オンデマンドで任意の形状に形成することが容易である。また、この場合、層Lとして、単色画像を表示するものだけでなく、多色画像及び階調画像などを表示するものを形成することも容易である。更に、電子写真法を利用した場合、層Lを、粒子間に隙間Cを有するように形成することも容易である。
【0031】
次に、先の隙間Cの少なくとも一部を残したまま、粒子状の熱可塑性樹脂Tが互いに及び無機粒子Eに熱融着するように、層Lを加熱、例えば非接触加熱する。ここで、「非接触加熱」は、層Lへの加圧を伴わず、放射、対流又はそれらの両方によって層Lへ熱伝達する加熱を意味している。非接触加熱には、例えば、セラミックヒータ、ハロゲンヒータ又はオーブンを利用することができる。
【0032】
この非接触加熱では、上記の熱融着が生じるように、層Lを、熱可塑性樹脂Tの軟化点とほぼ等しい温度又はそれよりも高い温度に加熱する。但し、熱融着が過剰に進行すると、粒子間の隙間が減少する。従って、加熱温度と熱可塑性樹脂Tの軟化点との差は50℃以下であることが好ましい。
【0033】
また、熱融着の進行には、加熱時間も影響を及ぼすことがある。加熱時間が短い場合には熱融着を十分に生じさせることは難しく、加熱時間が長い場合には、熱融着が過剰に進行し、粒子間の隙間Cが減少することがある。この加熱時間は、例えば、120秒乃至300秒の範囲内とする。
【0034】
なお、上記の通り、無機粒子Eは、熱可塑性樹脂Tからなる粒子同士が完全に融着するのを防止する役割を果たす。逆に言えば、無機粒子Eを省略すると、熱可塑性樹脂Tからなる粒子同士が完全に融着する可能性がある。
図5に、無機粒子を省略した場合に得られるフレキシブルシートの一例を概略的に示す。
図5に示すように、無機粒子Eを省略すると、隙間Cが殆どなくなり、熱可塑性樹脂Tからなる粒子同士がほぼ完全に融着する。
【0035】
次に、
図1の多孔質フレキシブルシートSの製造に利用可能な製造装置について説明する。
図6は、
図1の多孔質フレキシブルシートの製造に利用可能な製造装置の一例を概略的に示す図である。
図6に示す製造装置1は、剥離性シート供給部10と、搬送機構20A及び20Bと、作像ユニット30A乃至30Dと、加熱部40Aとで構成されている。
【0036】
剥離性シート供給部10からは、搬送機構20Aが備えるベルト22A上に剥離性シートPが供給される。
剥離性シートPとしては、表面エネルギが低く剥離性が良好なものを用い、一般的に剥離性シートとして使用される紙又は樹脂フィルム等のシートが使用可能である。剥離性シートPは繰り返し使用することが可能であり、典型的にはフィルムタイプのものを用いる。フィルムタイプの剥離性シートは、紙タイプのシートと比較して、耐久性が高いため、より多くの回数の繰り返し使用に耐え得る。
【0037】
搬送機構20Aは、複数の駆動ローラ21Aと、これら駆動ローラ21A及び後述する転写ローラ37に架け渡されたベルト(無端ベルト)22Aとを備えている。搬送機構20Aは、剥離性シート供給部10から剥離性シートPを供給され、これを作像ユニット30A乃至30Dの正面へと順次搬送し、その後、搬送機構20Bへ向けて送り出す。
【0038】
作像ユニット30A乃至30Dは、層形成部である。層形成部は、ベルト22Aによってその正面へと搬送された剥離性シートP上に、熱可塑性樹脂Tを主成分として含有したトナー粒子と無機粒子Eとを含んだ混合物からなり、それら粒子間に隙間Cを有している層を形成する。
【0039】
作像ユニット30A乃至30Dの各々は、表面に感光体層が形成された感光体ドラム31と、感光体ドラム31の周面を周方向に取り囲んで配置された、ドクターブレード(図示せず)と、帯電ローラ(図示せず)と、LEDヘッドからなる露光ヘッド(図示せず)と、現像ローラ(図示せず)と、トナー粒子と無機粒子との混合物が充填されると共に、この混合物を現像ローラに供給するタンク36と、感光体ドラム31との間に剥離性シートP及びベルト22を挟み、剥離性シートP上に上記混合物を転写する転写ローラ37とを備えている。
【0040】
典型的には、作像ユニット30A乃至30Dのタンク36には、トナー粒子の色が異なる混合物を充填する。例えば、作像ユニット30A、30B及び30Cのタンク36には、それぞれ、トナー粒子がマゼンタ色の混合物、トナー粒子がシアン色の混合物、及びトナー粒子がイエロー色の混合物を充填し、作像ユニット30Dのタンク36には、トナー粒子が無色透明又は無彩色の混合物を充填する。或いは、作像ユニット30Aに無色透明又は無彩色の混合物を充填し、作像ユニット30B、30C及び30Dのタンク36には、それぞれ、トナー粒子がマゼンタ色の混合物、トナー粒子がシアン色の混合物、及びトナー粒子がイエロー色の混合物を充填する。
【0041】
トナー粒子が無色透明又は無彩色の混合物からなる層と、トナー粒子がマゼンタ色の混合物からなる層、トナー粒子がシアン色の混合物からなる層、及びトナー粒子がイエロー色の混合物からなる層の各々とは、剥離性シートP上で重なり合うように転写することができる。即ち、層形成部において剥離性シートP上に形成する層は、単層構造を有していてもよく、多層構造を有していてもよい。
【0042】
搬送機構20Bは、複数の駆動ローラ21Bと、これら駆動ローラ21Bに架け渡されたベルト(無端ベルト)22Bとを備えている。搬送機構20Bは、搬送機構20Aから剥離性シートPを供給され、これを加熱部40A内で搬送する。
加熱部40Aは、隙間Cの少なくとも一部を残したまま、トナー粒子が互いに及び無機粒子Eに熱融着するように、層Lを非接触加熱する。これにより、多孔質フレキシブルシートSを得る。
【0043】
ここでは、加熱部40Aは、ヒータ41Aとしてセラミックヒータを備えている。ヒータ41Aは、搬送機構20Bによって搬送された剥離性シートPと向き合うように設置されている。
なお、
図3に示す多孔質フレキシブルシートSを製造する場合は、例えば、加熱部40Aの後段に、図示しない型押し部を設置し、そこで、多孔質フレキシブルシートSに対して型押しすればよい。
【0044】
型押し部は、層形成部と加熱部40Aとの間に設置してもよい。但し、この場合、押し型への熱可塑性樹脂粒子T等の付着を生じ易い。
ヒータ41Aは、セラミックヒータでなくてもよい。例えば、
図7に示すハロゲンヒータ41Aであってもよい。また、ヒータ41Aを備えた加熱部40Aの代わりに、
図8に示すオーブン40Bを加熱部として使用してもよい。
【0045】
以上、電子写真法を利用した多孔質フレキシブルシートSの製造について説明したが、多孔質フレキシブルシートSは、他の方法で製造することも可能である。例えば、先ず、熱可塑性樹脂Tからなる粒子(以下、熱可塑性樹脂粒子という)と無機粒子Eとを含んだスラリーを調製する。次いで、このスラリーを、剥離性シートなどの支持体上に塗布して、塗膜を形成する。続いて、熱可塑性樹脂粒子の融着を生じないようにこの塗膜を乾燥させて、熱可塑性樹脂粒子と無機粒子Eとを含んだ混合物からなり、それら粒子間に隙間Cを有している層を形成する。その後、この隙間Cの少なくとも一部を残したまま、熱可塑性樹脂粒子が互いに及び無機粒子Eに熱融着するように、上記層を加熱、例えば非接触加熱する。
【実施例】
【0046】
(実施例1)
三菱化学社製ポリブチレンサクシネート系樹脂「GS Pla@」を液体窒素で凍結させ、これをホソカワミクロン社製リンレックスミルにより、75μmフィルタをパスする粒径になるまで粉砕した。以下、このようにして得られた粉末を「樹脂粉」と呼ぶ。
【0047】
この樹脂粉の体積平均粒径(D50)を測定した。具体的には、少量の樹脂粉を精製水及び界面活性剤とともにビーカに入れ、これを超音波撹拌してなる試料を調製し、この試料をシスメックス社製フロー式粒子像分析装置「FPIA−2100」で分析した。その結果、樹脂粉の体積平均粒径(D50)は48μmであった。
【0048】
また、樹脂粉の軟化点を測定した。具体的には、1gの樹脂粉を試料として用い、島津製作所社製フローテスタ「CFT−500D」により分析した。ここでは、昇温速度は6℃/分とし、荷重は20kgとし、直径が1mmであり、長さが1mmのノズルを使用した。そして、1/2法により軟化店を求めた。即ち、試料の半分が流出した温度を軟化点とした。その結果、樹脂粉の軟化点は125℃であった。
【0049】
次に、樹脂粉100質量部と、疎水性シリカである日本アエロジル社製シリカ「RY50」1.5質量部とを、ヘンシェルミキサで混合した。このようにして得られた粉体を、
図6に示す製造装置1の作像ユニット30Aのタンク36に充填し、剥離性シートP上に、先の粉体からなる層Lを形成した。なお、ここでは、加熱部40Aによる層Lの加熱は行わなかった。
次いで、層Lを、剥離性シートPとともに、
図8に示すオーブン40Bに入れ、105℃で3分間に亘って加熱した。
【0050】
この加熱後の層Lの厚さを、マイクロメータを用いて測定した。その結果、加熱後の層Lは、約180μmの厚さを有していた。
また、加熱後の層Lについて、溶融状態、多孔性及び強度を評価した。
溶融状態は、層Lを顕微鏡で観察し、観察結果を以下の基準に参照することにより評価した。
○:各熱可塑性樹脂粒子は、溶融して他の何れかの粒子と結合している。
△:一部の熱可塑性樹脂粒子のみが、溶融して他の何れかの粒子と結合している。
×:各熱可塑性樹脂粒子は、溶融していない。
【0051】
多孔性は、層Lを顕微鏡で観察し、観察結果を以下の基準に参照することにより評価した。
○:各熱可塑性樹脂粒子は、粒子の形状を保持している。
△:各熱可塑性樹脂粒子は、若干形が崩れ、隙間がやや埋まっている。
×:各熱可塑性樹脂粒子は粒子の形状を失い、層Lはソリッドなシートである。
【0052】
強度は、以下の基準で評価した。
○:層Lは、剥離性シートから剥離し、手で触れても、シートの形状を保持する。
×:層Lは、手で触れると、千切れる又は粉状になる。
また、加熱温度を、110℃、115℃、120℃、125℃及び130℃としたこと以外は、上述したのと同様の方法により、層Lの形成、加熱及び評価を行った。
これらの結果を、以下の表1に纏める。
【0053】
なお、上記樹脂粉の代わりに、三菱化学社製ポリブチレンサクシネート系樹脂「GS Pla@」と、樹脂に対して1質量%の帯電制御剤と、樹脂に対して2質量%のワックスとを溶融混練し、これを樹脂粉と同様に凍結粉砕してなる粉体を使用したこと以外は、実施例1と同様に、層Lの形成及びオーブンにおける加熱を行い、加熱後の層Lについて、溶融状態、多孔性及び強度を評価した。その結果、実施例1と同様の結果が得られた。
【0054】
(実施例2)
樹脂粉100質量部と、疎水性シリカである日本アエロジル社製シリカ「RY50」1.5質量部とを、水とイソプロパノールとを70:30の体積比で含み、極微量の界面活性剤を更に含んだ分散媒中に分散させた。次に、剥離性シート上に枠を設置し、この枠内に上記の分散液を流し込んだ。なお、分散液の供給量は、単位面積当たりの樹脂粉及び疎水性シリカの量が実施例1と同様になるように調整した。次いで、これを、温度を60℃に設定したオーブンにおいて30分間に亘って加熱することにより乾燥させた。これにより、剥離性シート上に、先の粉体からなる層Lを形成した。
【0055】
このような方法で層Lを複数形成した後、これら層Lを、実施例1と同様に、異なる温度条件で加熱した。そして、加熱後の層Lについて、実施例1と同様に、溶融状態、多孔性及び強度を評価した。これらの結果を、以下の表1に纏める。
(実施例3)
樹脂粉100質量部に対する疎水性シリカの量を1.0質量部としたこと以外は、実施例2と同様に分散液の調製、枠内への供給及び乾燥を行って、それら粉体からなる層Lを複数形成した。次いで、これら層Lを、実施例1と同様に、異なる温度条件で加熱した。そして、加熱後の層Lについて、実施例1と同様に、溶融状態、多孔性及び強度を評価した。これらの結果を、以下の表1に纏める。
【0056】
(比較例1)
疎水性シリカを省略したこと以外は、実施例2と同様に、分散液の調製、枠内への供給及び乾燥を行って、それら粉体からなる層Lを複数形成した。次いで、これら層Lを、実施例1と同様に、異なる温度条件で加熱した。そして、加熱後の層Lについて、実施例1と同様に、溶融状態、多孔性及び強度を評価した。これらの結果を、以下の表1に纏める。
【0057】
(比較例2)
樹脂粉100質量部に対する疎水性シリカの量を0.5質量部としたこと以外は、実施例2と同様に分散液の調製、枠内への供給及び乾燥を行って、それら粉体からなる層Lを複数形成した。次いで、これら層Lを、実施例1と同様に、異なる温度条件で加熱した。そして、加熱後の層Lについて、実施例1と同様に、溶融状態、多孔性及び強度を評価した。これらの結果を、以下の表1に纏める。
【0058】
【表1】
【0059】
また、
図9に、実施例2において加熱温度を120℃以上とした場合に得られたシートの顕微鏡写真を示す。そして、
図10に、比較例1において加熱温度を120℃以上とした場合に得られたシートの顕微鏡写真を示す。
表1に示すように、実施例1及び2では、加熱温度を120℃以上とした場合に、溶融状態、多孔性及び強度の全てについて、特に優れた結果が得られた。なお、実施例1及び2で得られた加熱後の層L、即ち多孔質フレキシブルシートSは、高いフレキシビリティを有しており、また、肌触りも同様であった。
【0060】
実施例1に係る製造方法と実施例2に係る製造方法とは、前者が電子写真法を利用して層Lを形成したのに対し、後者は分散液から層Lを形成した点でのみ異なっている。以上から、層Lを電子写真法を利用して形成するか又は分散液から形成するかの選択は、最終製品の性能に大きな影響を及ぼさないことが分かる。
実施例2及び3の結果のうち加熱温度を120℃以上としたものを比較すると、実施例3では、実施例2と比較して、熱可塑性樹脂粒子の形が若干崩れ、隙間がやや埋まっていた。なお、実施例3で得られた多孔質フレキシブルシートSは、実施例1及び2で得られた多孔質フレキシブルシートSと比較してフレキシビリティが低く、その肌触りは、実施例1及び2で得られた多孔質フレキシブルシートSほど柔らかではなかった。これは、実施例3では、実施例2と比較して、疎水性シリカの量が少なかったことに起因して、熱可塑性樹脂粒子の融着を抑制する効果がより小さかったからであると考えられる。
【0061】
比較例1及び2では、加熱温度を120℃以上とした場合に、多孔質ではなく、ソリッドなシートが得られた。実施例2と比較例1との比較から、多孔質フレキシブルシートを得るには、十分な量の無機粒子が不可欠であることが分かる。
なお、実施例1乃至3並びに比較例1及び2で得られたシートについて、気孔率の測定を行った。その結果、多孔性の評価が「○」であったシートは気孔率が40%以上であり、多孔性の評価が「△」であったシートは気孔率が20%以上40%未満であり、多孔性の評価が「×」であったシートは気孔率が20%未満であった。
以上、本発明の幾つかの実施形態を説明したが、これらは何れも特許請求の範囲に記載した発明とその均等の範囲に含まれる。
【0062】
以下に、特許請求の範囲に記載した発明を付記する。
[1]
熱可塑性樹脂からなる多孔体と、前記多孔体に担持された無機粒子とを含んだ多孔質フレキシブルシート。
[2]
前記多孔質フレキシブルシートの一部分としての第1部分と、前記多孔質フレキシブルシートの他の部分としての第2部分とを備え、前記第1部分は、前記第2部分に対して凹んでおり、前記第2部分と比較して、気孔率がより小さい[1]に記載の多孔質フレキシブルシート。
[3]
複数の熱可塑性樹脂粒子と無機粒子とを含んだ混合物からなり、前記熱可塑性樹脂粒子間に隙間を有している層を形成することと、
前記隙間の少なくとも一部を残したまま、前記熱可塑性樹脂粒子が互いに及び前記無機粒子に熱融着するように、前記層を加熱することと
を含んだ多孔質フレキシブルシートの製造方法。
[4]
前記層の加熱は、前記層を非接触加熱することを含んだ[3]に記載の多孔質フレキシブルシートの製造方法。
[5]
非接触加熱した前記層の一部に熱及び圧力を加えて、そこで、厚さ及び気孔率をより小さくすることを更に含んだ[4]に記載の多孔質フレキシブルシートの製造方法。
[6]
電子写真法により前記層を形成する請求項[3]乃至[5]の何れかに記載の多孔質フレキシブルシートの製造方法。
[7]
複数の熱可塑性樹脂粒子と無機粒子とを含んだ混合物からなり、前記熱可塑性樹脂粒子間に隙間を有している層を形成する層形成部と、
前記隙間の少なくとも一部を残したまま、前記熱可塑性樹脂粒子が互いに及び前記無機粒子に熱融着するように、前記層を加熱する加熱部と
を具備した多孔質フレキシブルシートの製造装置。
[8]
前記加熱部は、前記層を非接触加熱する[7]に記載の多孔質フレキシブルシートの製造装置。
[9]
非接触加熱した前記層の一部に熱及び圧力を加えて、そこで、厚さ及び気孔率をより小さくする型押し部を更に具備した請求項[8]に記載の多孔質フレキシブルシートの製造装置。
[10]
前記層形成部は電子写真法により前記層を形成する請求項[7]乃至[9]の何れかに記載の多孔質フレキシブルシートの製造装置。