特許第5835269号(P5835269)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5835269
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】回転電機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/06 20060101AFI20151203BHJP
【FI】
   H02P5/41 302F
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-106823(P2013-106823)
(22)【出願日】2013年5月21日
(65)【公開番号】特開2014-230344(P2014-230344A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2014年5月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 貴史
(72)【発明者】
【氏名】山田 洋平
【審査官】 マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−092803(JP,A)
【文献】 特開昭58−201591(JP,A)
【文献】 特開2010−025042(JP,A)
【文献】 特開2013−081308(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転電機に対する駆動要求に応じた指令信号を出力する制御部と、
前記指令信号に基づいて電力の直交変換を行い、変換された交流電力を前記回転電機に供給するインバータと、
を備え、
前記指令信号の周波数は、前記回転電機のすべり周波数と、前記回転電機の回転周波数から算出され、
前記すべり周波数は、前記回転電機に対するトルク指令値と、前記回転電機に対する出力効率の目標値から算出され、
前記指令信号の周波数がインバータロック周波数帯に含まれるときに、前記制御部は、前記トルク指令値及び出力トルクを維持しつつ前記出力効率の目標値を変更することで前記すべり周波数を変更させて、前記指令信号の周波数を、インバータロック周波数帯外に切り替えることを特徴とする、回転電機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導型の回転電機を制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、バッテリ等の直流電源と、交流回転電機との間に、電力の直交変換を行うインバータが設けられている。インバータには、IGBT(絶縁ゲート形バイポーラトランジスタ)やMOSFET(金属酸化物半導体電界効果トランジスタ)等のスイッチング素子が複数設けられている。
【0003】
スイッチング素子は、回転電機を駆動させる指令信号に応じてオン/オフ動作を行う。ここで、指令信号の周波数が低周波数または0Hzであるとき、特定のスイッチング素子に、長時間に亘り電流が流れる、インバータロックが生じることが知られている。このとき、指令信号の振幅が大きいと、特定のスイッチング素子には、長時間に亘り大電流が流れることになり、スイッチング素子の過熱に繋がる。このため、従来から、インバータロックが発生し、かつ、大電流を検知したときに、スイッチング素子を保護するために電流や電圧を絞る、インバータ保護制御が行われている。
【0004】
例えば、特許文献1では、同期型回転電機のロック状態(回転数がほぼゼロになる状態)を検知すると、インバータに印加する電力を低減させている。特許文献2では、ロック状態を検知すると、回転電機のコイルの温度と、出力トルク値とに応じて、ロック状態を許容する、ロック可能時間を算出している。特許文献3では、ロック状態を検知すると、電流が集中していないスイッチング素子に電流を振り分けている。
【0005】
また、特許文献4では、誘導型の回転電機に対するすべり周波数の最大値を、電動機の温度に応じて変更させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−259631号公報
【特許文献2】特開2012−228131号公報
【特許文献3】特開2005−354785号公報
【特許文献4】特開平8−289405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、誘導型の回転電機を用いる場合、回転電機への指令信号の周波数は、回転子の回転周波数の測定値と、すべり周波数との和となる。このことから、回転周波数とすべり周波数が異符号となって、互いの値の一部または全部が相殺されるときに、指令信号の周波数が0Hzまたは低周波数となり、その結果、インバータロックが生じ得る。
【0008】
すべり周波数は、回転電機へのトルク指令値に応じて定められる。例えば力行時など回転電機から正トルクを出力させたいときは、すべり周波数を正に設定する。このことから、トルク指令値が(したがってすべり周波数も)正となり、一方で、回転電機の回転数が(したがって回転周波数も)負となる場合には、インバータロックが生じ得ることになる。
【0009】
上記の具体例として、登坂路での発進時の状態が挙げられる。回転電機を車両の駆動源として用いる場合であって、登坂路にて停止中の車両を発進させようとする際に、ブレーキペダルを放してアクセルペダルに踏み替える。このとき、ブレーキペダルの解放により車両がわずかに登坂路をずり下がりながら、アクセルペダルの踏み込みにより、正のトルク指令が出力される。そうなると、回転電機の回転数は負であり、すべり周波数は正となる。また、このような登坂路の発進時には、アクセルペダルの踏み込みが比較的強くなることがあり、これに伴って、大電流がスイッチング素子に流れ込む。
【0010】
このような場合に、従来のように、インバータへの電圧や電流を絞るようなインバータ保護制御が実行されると、回転電機の出力トルクが低下する。登坂路の発進時に駆動源のトルクが低下することで、ドライバビリティが低下するおそれがある。一方で、指令信号の周波数がインバータロック周波数帯に含まれ、かつ、大電流が流れているにも関わらず、インバータ保護制御を無効にすると、インバータの過熱のおそれがある。そこで、本発明は、インバータの過熱を抑制しつつ、登坂路での発進時などにおける、回転電機のトルク低下を防止することの可能な、回転電機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、回転電機に対する駆動要求に応じた指令信号を出力する制御部と、前記指令信号に基づいて電力の直交変換を行い、変換された交流電力を前記回転電機に供給するインバータと、を備える、回転電機の制御装置に関するものである。前記指令信号の周波数は、前記回転電機のすべり周波数と、前記回転電機の回転周波数から算出され、また、前記すべり周波数は、前記回転電機に対するトルク指令値と、前記回転電機に対する出力効率の目標値から算出される。前記指令信号の周波数がインバータロック周波数帯に含まれるときに、前記制御部は、前記トルク指令値を維持しつつ前記出力効率の目標値を変更することで前記すべり周波数を変更させて、前記指令信号の周波数を、インバータロック周波数帯外に切り替える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、インバータの過熱を抑制しつつ、回転電機のトルク低下を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本実施形態に係る回転電機の制御装置を含むブロック図である。
図2】通常マップ及びインバータロック回避マップについて説明する図である。
図3】通常マップ及びインバータロック回避マップについて説明する図である。
図4】インバータロック回避制御について説明する図である。
図5】インバータロック回避制御について説明する図である。
図6】インバータロック回避制御の判定フローについて説明するフローチャートである。
図7】インバータロック回避制御について説明する図である。
図8】インバータロック回避制御の判定フローについて説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1に、本実施の形態に係る、回転電機の制御装置10と、その制御対象である回転電機12を含むブロック図を示す。回転電機12は、三相誘導電動機などの、誘導型の回転電機である。また、回転電機12は、例えばハイブリッド車両や電気自動車などの、車両の駆動源として用いられる。
【0015】
制御装置10は、制御部14、インバータ16、電流センサ18、及び回転位相検出器20を備えている。インバータ16は、回転電機12に対する指令信号に基づいて電力の直交変換を行い、変換された交流電力を回転電機12に供給する、電力変換器である。インバータ16は、図示しないバッテリ等の直流電源から直流電力を受け、これを、指令信号に応じた交流電力に変換する。インバータ16は、例えば三相電圧形のインバータであって、各相のスイッチングアームにてオン/オフ駆動されるスイッチング素子を備えている。
【0016】
電流センサ18は、インバータ16から回転電機12に供給される電流値を測定する。回転電機12が三相型である場合、電流センサ18は二相分の電流を測定するように構成されてよい。三相電流i、i、iの瞬時値の和はゼロであるので、二相分の電流値が検出できれば、残りの相の電流値も算出することができる。図1では、V相の電流測定値iv-r及びW相の電流測定値iw-rを電流センサ18にて取得している。
【0017】
回転位相検出器20は、回転電機12の回転位相θを検出する。回転位相θの検出は、例えば以下のようにして行う。回転電機12の回転子の回転数ωを取得するとともに、(回転数/60)×(極数/2)の演算により、電気角周波数fを取得する。この電気角周波数fを積分することで、回転位相θ(=2πft+θ、但しθは初期位相)を得ることができる。回転位相検出器20は、例えば、レゾルバやホール素子と、これらの測定値を演算する演算器から構成される。
【0018】
制御部14は、回転電機12に対する駆動要求に応じた指令信号を出力して、回転電機12の動作を制御する。制御部14は、マイクロコンピュータ等の演算回路や、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)などの記憶手段を含んで構成される。制御部14は、指令値演算器22、二相/三相変換器24、PWM信号発生器26、三相/二相変換器28、及び積分器32を備える。
【0019】
二相/三相変換器24は、指令値演算器22から出力されたd軸電流及びq軸電流の指令値(いずれも振幅)id-com及びiq-comと、電流センサ18から三相/二相変換器28を経由して送られた、d軸電流及びq軸電流の測定値(いずれも振幅)id-r及びiq-rとの差分値を、三相の指令信号に変換する。この変換に当たり、二相/三相変換器24は、後述する回転電機12の磁束の位相θcomを取得し、これに基づいて、dq座標系から静止座標系である三相座標系に指令値を変換する。
【0020】
また、インバータ16が電圧形である場合には、d軸電流及びq軸電流の指令値と測定値との差分値を、二相/三相変換器24への入力前に、比例積分処理(PI制御処理)により電圧値とする。この電圧値が、二相/三相変換器24によって、三相の電圧値に変換される。
【0021】
PWM信号発生器26は、二相/三相変換器24から出力され、三相の指令信号に応じたPWM指令信号を、インバータ16に対して出力する。例えば、三相の指令信号と、図示しない発振器から出力された搬送波とを比較することで、インバータ16のスイッチング素子のオン/オフのタイミング(デューティ比)が定められたPWM指令信号が出力される。
【0022】
三相/二相変換器28は、電流センサ18により取得された三相電流測定値iv-r、iw-r及びこれらから算出されたU相電流値iu-rを、二相電流測定値id-r及びiq-rに変換する。ここで、三相/二相変換器28は、二相/三相変換器24と同様に、回転電機12の磁束の位相θcomを取得し、これに基づいて、静止座標系である三相座標系からdq座標系への変換を行う。
【0023】
積分器32は、指令値演算器22から出力された、すべり周波数指令値fs-comを積分して、すべり角位相の指令値θs-com(=2πfs-comt+θ、但しθは初期位相)を出力する。ここで、すべり周波数指令値fs-comは、電気角周波数(=機械角周波数×(極数/2))であるものとする。すべり角位相の指令値θs-comと、回転位相検出器20により取得された回転位相θとが足し合わされて、回転電機12の磁束の位相θcomが算出される。
【0024】
指令値演算器22は、回転電機12へのトルク指令値Trqcomに応じた指令信号を出力する。トルク指令値Trqcomは、例えば、図示しない車両のアクセルペダルの踏み込み量(駆動要求)等から、図示しない電子制御ユニット(ECU)によって演算される。
【0025】
指令値演算器22は、受信したトルク指令値Trqcomと、「通常マップ」または「インバータロック回避マップ」とに基づいて、d軸電流及びq軸電流の指令値id-com及びiq-com、並びに、すべり周波数指令値fs-comを求める。
【0026】
「通常マップ」または「インバータロック回避マップ」について説明する。図2には、回転電機12のトルク−すべり特性が、電流値ごとに示されている。電流値が等しい点を結んだカーブを、ここでは「等電流ライン」と呼ぶ。誘導型の回転電機12では、すべり周波数に応じて回転電機12の出力効率が変化することが知られている。つまり、等電流ライン上では、回転電機12の出力効率が、そのライン上の位置で異なる。
【0027】
ここで、複数の等電流ライン上の、所定の出力効率点を結んだカーブを作成する。例えば、それぞれの等電流ライン上の、最大出力効率ηを結んだカーブを作成する。本実施形態では、出力効率が等しい点を結んだカーブを「マップ」と呼ぶ。出力効率が等しい点を結んでできることから、マップは、出力効率ごとに、複数作成することができる。
【0028】
本実施形態では、最大出力効率点(η=η)を結んだマップを作成するとともに、これを「通常マップ」と呼ぶ。また、通常マップよりも低い、所定の出力効率点(η=η<η)を結んだマップを、「インバータロック回避マップ」と呼ぶ。なお、誘導型の回転電機においては、すべり周波数が増加するほど出力効率が低下する特性を備えていることが知られており、この特性を反映して、インバータロック回避マップは、通常マップよりも、すべり周波数が高い側にシフトしている。「通常マップ」及び「インバータロック回避マップ」は、例えば、数式または表(テーブル)の形式で、図示しないROMなどの記憶手段に格納される。
【0029】
通常マップを用いる場合、回転電機12に対するトルク指令値Trqcom図2の縦軸にプロットして横軸と平行に延ばし、通常マップ(出力効率η)との交点を求める。この交点を求めることで、トルク指令値Trqcomを、出力効率ηで出力するための、すべり周波数fs-com=fs-com1と電流指令値i1-com=iとを求めることができる。つまり、指令値演算器22は、トルク指令値と、回転電機12に対する出力効率の目標値から、すべり周波数の指令値fs-com及び電流指令値i1-comを求める。
【0030】
電流指令値i1-comは、回転電機12の固定子側(一次側)の電流値であって、所定の変換処理を経て、d軸電流及びq軸電流の指令値id-com及びiq-comに変換される。例えば、回転電機12をベクトル制御する場合には、すべり周波数の指令値fs-comを用いて、電流指令値i1-comをトルク電流成分と励磁電流成分とに分解し、前者をq軸電流の指令値iq-com、後者をd軸電流の指令値id-comとする。また、これに代えて、id-com=i1-com、及びiq-com=0と設定してもよい。
【0031】
また、指令値演算器22は、すべり周波数の指令値fs-comと回転電機12の回転周波数fの和からなる、指令信号の周波数fcomが、インバータロック周波数帯に含まれ、かつ、大電流が供給されているとき、つまり、インバータ保護制御が実行されそうなときに、インバータロック回避制御を行う。インバータロック回避制御では、すべり周波数の指令値fs-comを変更することで、指令信号の周波数fcom(=fs-com+f)を変更し、これにより、指令信号の周波数fcomをインバータロック周波数帯外に切り替える。なお、ここでは、すべり周波数の指令値fs-com、回転電機12の回転周波数f、及び、指令信号の周波数fcomは、いずれも電気角周波数であるものとする。また、指令信号の周波数fcomを、以下では、「電気周波数fcom」と呼ぶ。
【0032】
インバータロックとは、電気周波数fcomが低周波数又は0Hzであって、特定のスイッチング素子に長時間に亘り電流が流れる状態を指す。インバータロック周波数帯は、インバータロックが生じる周波数帯を指しており、例えば、±10Hz以内の範囲を指す。
【0033】
電気周波数fcomは、回転電機12の磁束の位相θcom(=2πfcomt+θ)を微分することで得ることができる。指令値演算器22は、微分器30から出力された電気周波数fcomを取得するとともに、電気周波数fcomの値に応じて、インバータロック回避制御を行う。
【0034】
本実施形態では、インバータロック回避制御における、すべり周波数の指令値fs-comの変更を、マップを切り替えることによって行う。上述したように、インバータロック回避マップは、通常マップよりも、すべり周波数が高い側にシフトしている。したがって、図3に示すように、トルク指令値Trqcomを固定した条件下において、インバータロック回避マップに基づくすべり周波数fs-com2は、通常マップに基づくすべり周波数fs-com1よりも、高周波側にシフトする。この高周波側のシフトにより、電気周波数fcomが高周波側にシフトされ、その結果、インバータロック周波数帯を抜けることが可能となる。
【0035】
このような、周波数がシフトする性質を考慮して、インバータロック回避マップを設定することが好適である。例えば、通常マップからのシフト幅が、インバータロック周波数帯幅以上となるように、インバータロック回避マップを定めてもよい。
【0036】
また、インバータロック回避制御の実行中は、インバータ保護制御が実行される電流値未満の等電流ラインのみを残し、インバータ保護制御の実行を確実に回避できるようにしてもよい。
【0037】
このように、本実施形態では、マップを切り替えることで、言い換えると、回転電機12に対する出力効率の目標値を変更することで、すべり周波数を変更することができる。すべり周波数の変更により、電気周波数fcomを、インバータロック周波数帯外に切り替えることができる。その結果、インバータ保護制御の作動を回避することが可能となり、登坂路の発進時等における、回転電機のトルク低下を防止することが可能となる。
【0038】
加えて、本実施形態では、図3に示すように、トルク指令値Trqcomは維持したまま、すべり周波数が変更される。したがって、電気周波数fcomの切り替えの際に、回転電機12のトルクが落ち込むことは避けられる。
【0039】
図4には、インバータロック回避制御の具体例が示されている。図4には、上段から順に、車速、トルク指令、すべり周波数、及び電気周波数の時間変化(タイムチャート)が示されている。電気周波数のタイムチャートでは、インバータロック周波数帯を斜線のハッチングにて示している。また、インバータロック周波数帯の下限値を−A[Hz]、上限値をA[Hz]で示している。
【0040】
図4で示した例では、車速が負の値から、徐々に0側に上昇する運転状態が示されている。これは例えば、登坂路にて車両がずり下がったときに、アクセルペダルを踏み込んでずり下がりを解消するような状態に当たる。
【0041】
また、図4で示す例では、説明を簡易にするために、トルク指令は所定の正の値に保たれているものとする。また、3段目の、選択されたマップを示すタイムチャートでは、初期設定として通常マップが選択されているものとする。トルク指令が一定である場合、通常マップから得られるすべり周波数も一定となる。
【0042】
4段目のタイムチャートに示されているように、ずり下がりの解消に伴い、回転電機12の回転数は負の値から0に向かうように徐々に上昇し、これに伴って、回転電機12の回転周波数fの値も負の値から0に向かうように徐々に上昇する。一方で、トルク指令は一定の正の値が出力されているので、通常マップから得られるすべり周波数fs-com1は正の値の一定値となる。そうなると、回転周波数fとすべり周波数fs-com1の和からなる電気周波数fcomは徐々に0に近づき、時刻t1にてインバータロック周波数帯に含まれる。
【0043】
このとき、指令値演算器22は、使用するマップを、通常マップからインバータロック回避マップに切り替えるとともに、トルク指令値Trqcomとインバータロック回避マップに基づいてすべり周波数fs-com2-を求める。すべり周波数fs-com2-を用いることで、電気周波数fcomは嵩上げされ、インバータロック周波数帯を抜けるようになる。なお、図4以降、インバータロック回避マップを、単に「回避マップ」と表示する。
【0044】
図5には、図4とは別の、インバータロック回避制御の具体例が示されている。この例では、時刻t2までは図4と同様であるが、時刻t2以降にずり下がり車速(負の車速)が増加する場合を示している。この場合は、例えば、トルク指令は一定であるのに対して、登坂路の勾配が変化した(急になった)場合が考えられる。
【0045】
時刻t2以降、ずり下がり車速の増加に伴って、電気周波数fcomが低減し(負側に増加し)、時刻t3において、電気周波数fcomは再びインバータロック周波数帯に含まれるようになる。このとき、指令値演算器22は、使用するマップを、インバータロック回避マップから、通常マップに切り替えるとともに、トルク指令値Trqcomと通常マップに基づいてすべり周波数fs-com1-を求める。これにより、電気周波数fcomは嵩下げ(目減り)され、インバータロック周波数帯を抜けるようになる。
【0046】
次に、インバータロック回避制御の実行可否を判定する判定フローを、図6に例示する。なお、図6にて示すフローチャートでは、マップの切り替え条件として、電気周波数fcomがインバータロック周波数帯に含まれるか否かとの条件に加えて、相電流が閾値以上であるか否かとの条件、及び、切り替え禁止時間でないか否かとの条件を設けている。なお、フローを簡略化する目的で、上記2つの条件を省略してもよい。
【0047】
インバータロック時には、特定のスイッチング素子に、長時間に亘り電流が流れる。このとき、そのスイッチング素子に、大電流が流れると、スイッチング素子の過熱に繋がるので、インバータ保護制御が実行される。つまり、特定のスイッチング素子に、(1)長時間に亘り、(2)大電流が流れると、インバータ保護制御が実行される。このことから、(1)特定のスイッチング素子に長時間に亘り電流が流れていても、(2)’その電流値が小さければ、インバータ保護制御は実行されない。そこで、図6に示す実施形態では、スイッチング素子に流れる電流値が、過熱には至らないような低い値である場合、マップの切り替え、つまり、インバータロック回避制御を行わないこととしている。具体的には、指令値演算器22は、電流センサ18から取得した電流測定値iv-r及びiw-r、並びに、これらの測定値から算出したU相の電流測定値iu-rのいずれか一つが、予め定めた閾値以上であるか否かを判定している。
【0048】
また、通常マップとインバータロック回避マップの切り替えが頻繁に起こるハンチング(制御応答結果の振動)が生じると、制御が不安定となる。そこで、図6にて示す実施形態では、マップ切り替え直後、一定期間に亘ってマップの再切り替えを禁止する、切り替え禁止時間を設けている。
【0049】
指令値演算器22は、ステップS10にて、3つの判定処理を行う。第1の判定処理として、現在が切り替え禁止時間に含まれていないか否かを確認する。第2の判定処理として、電気周波数fcomが、インバータロック周波数帯に含まれているか否かを判定する。第3の判定処理として、電流測定値iv-r、iw-r、及びiu-rのいずれかが、上限値B[A]以上であるか否かを判定する。
【0050】
第1の判定処理結果が「no」である場合、切り替え禁止時間中であるので、マップの切り替えはできない。また、第2及び第3の判定処理結果の少なくともどちらか一方が「no」である場合、インバータ保護制御の実行には至らないと判断できる。したがって、指令値演算器22は、ステップS10の第1から第3の判定処理のうち、ひとつでも判定結果が「no」である場合には、現在選択されているマップを維持する(S12)。一方、3つの判定処理のすべての判定結果が「yes」である場合、指令値演算器22は、通常マップとインバータロック回避マップのうち、現在選択されていない方に、マップを切り替える(S14)。さらにマップ切り替え後、指令値演算器22は、切り替え禁止時間を設定する(S16)。
【0051】
なお、上述したように、インバータロック回避マップは、通常マップと比較して、回転電機12の出力効率が低い。このことから、マップ切り替えのハンチングが生じないような運転状態、つまり、電気周波数fcomが、インバータロック周波数帯から十分に離れた場合には、図7に示すように、切り替え禁止時間を待たずに、速やかに通常マップに切り替えることが好適である。
【0052】
このことから、図8のフローチャートのように、切り替え禁止時間の判定の前段に、通常マップの選択フローを設けてもよい。指令値演算器22は、インバータロック周波数帯の下限値−A[Hz]及び上限値A[Hz]から十分に離れた、下方閾値−C[Hz]及び上方閾値C[Hz]を設けるとともに、電気周波数fcomが、下方閾値−C以下または上方閾値C以上であるか否かを判定する(S20)。
【0053】
例えば、上方閾値Cは、インバータロック周波数帯の上限値Aから、インバータロック周波数帯分、大きい周波数であってよい。つまり、C=A+(A−(−A))[Hz]であってよい。同様に、下方閾値−C=−A−(A−(−A))であってよい。
【0054】
ステップS20において、指令値演算器22は、電気周波数fcomが、下方閾値−C以下または上方閾値C以上である場合に、切り替え禁止時間の経過有無に関わらず、通常マップを選択する(S22)。
【0055】
また、電気周波数fcomが、下方閾値−Cから上方閾値Cまでの範囲に含まれている場合、指令波演算部22は、電流測定値iu-r、iv-r、及びiw-rのいずれかが、上限値B[A]未満であるか否かを判定する(S24)。電流測定値iu-r、iv-r、及びiw-rのいずれも、上限値B[A]未満である場合、インバータ保護制御は実行されないため、指令値演算器22は、切り替え禁止時間の経過有無に関わらず、通常マップを選択する(S22)。
【0056】
ステップS24にて、電気周波数fcomが、電流測定値iu-r、iv-r、及びiw-rのいずれかが、上限値B[A]以上である場合、指令値演算器22は、切り替え禁止時間中でないか、及び、電気周波数fcomがインバータロック周波数帯に含まれるか否かを判定する(S26)。切り替え禁止期間が経過し、かつ、電気周波数fcomがインバータロック周波数帯に含まれている場合は、マップの切り替えを行う(S28)とともに、切り替え禁止時間を設定する(S30)。切り替え禁止期間中であるか、または、電気周波数fcomがインバータロック周波数帯外である場合には、現在のマップを維持する(S32)。
【符号の説明】
【0057】
10 制御装置、12 回転電機、14 制御部、16 インバータ、22 指令値演算器、24 二相/三相変換器、26 PWM信号発生器。
図1
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図7
図8