(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記混合溶液調製工程では、MnイオンおよびFeイオンの供給原料として、硫酸塩または塩化物塩から選択される1種以上の水溶性金属塩が用いられることを特徴とする請求項1に記載のリン酸アンモニウムマンガン鉄の製造方法。
前記混合溶液調製工程では、リン酸化物イオンの供給原料として、リン酸またはリン酸二水素アンモニウムから選択される1種以上の水溶性塩が用いられることを特徴とする請求項1に記載のリン酸アンモニウムマンガン鉄の製造方法。
前記混合溶液調製工程では、2価のMnイオンとリン酸化物イオンとの混合溶液、およびFeイオンとリン酸化物イオンとの混合溶液を、個別に調製するとともに、前記晶析工程でも、各混合溶液を個別にpH調整して共沈させ、それぞれ得られたリン酸アンモニウムマンガンおよびリン酸アンモニウム鉄を混合することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のリン酸アンモニウムマンガン鉄の製造方法。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池は、軽量でエネルギー密度が高いことから、携帯電話、ノート型パソコン、その他IT機器などの小型電池に幅広く使用されており、これらの用途には、主としてLiCoO
2、LiCo
1/3Ni
1/3Mn
1/3O
2、LiNiO
2などの層状岩塩化合物正極活物質が用いられている。
IT機器の発展、普及に伴い、現在もその需要が世界的な規模で伸びている。これらの小型電池に加えて、産業用の大型電池においても、ハイブリッド自動車(HEV)用、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)、電気自動車(EV)用、電力平準化用、電力貯蔵用など、さらに多方面にその需要の拡大が期待され、研究開発も盛んに行われている。
【0003】
このような状況下で産業用の大型電池が本格的に実用化されるための課題として、正極活物質には、高い安全性、高寿命、高出力、低価格が要求されている。その中で高い安全性と優れたサイクル性能を示す材料として、オリビン型正極活物質がLiCoO
2やLiCo
1/3Ni
1/3Mn
1/3O
2等の代替正極活物質として注目されている。
オリビン型正極活物質は、理論容量約170mAh/gという高容量を持ちながら、全てのOがPと共有結合しているため、電池が発熱しても、酸素放出せずに発火の危険性が低く、またリン酸の骨格により構造が安定なため、繰り返し充放電を行っても、電極が劣化しにくくサイクル寿命が長いといった特徴を持つ。
【0004】
代表的なオリビン型正極活物質として、リチウム鉄燐酸塩(LiFePO
4)が挙げられる。LiFePO
4は、構成元素がLiを除き全てクラーク数の上位にあるので資源的制約が少なく、低価格な原料から合成し得る材料であり、かつ理論容量に近い容量を高効率で実現し、サイクル寿命も長いという性質から、リチウム二次電池の正極活物質として工業的に生産され実用化されている。
しかしながら、LiFePO
4にも、いくつかのデメリットがある。1つは、電子伝導性、Liイオン伝導性が、従来の層状岩塩化合物正極活物質と比較して、低いという課題である。これについては、LiFePO
4粒子を数十〜数百nmに微細化し、さらに黒鉛などの導電性材料で被覆・複合化して導電性を付与することなどで改善が図られている。もう1つは、Li金属に対する電位が3.3Vと層状岩塩化合物正極活物質よりも低いため、重量エネルギー密度が低いという課題である。これについては、材料の本質的な性質であり、改善は難しい。
【0005】
ところで、同じオリビン型正極活物質に、リチウムマンガンリン酸塩(LiMnPO
4)がある。LiFePO
4のFeをMnで同型置換したものだが、これは、Li金属に対し4.1Vと層状岩塩化合物正極活物質と同等の電位を示し、高重量エネルギー密度が期待されるため、世界中の開発者の注目を集めている。
しかし、LiMnPO
4は、LiFePO
4よりもさらに電子伝導性とLiイオン伝導性が低いという問題がある。LiMnPO
4にLiFePO
4と同様な粒子の微細化および黒鉛などによる被覆等の処理を施しても、LiFePO
4とは異なり、ほとんど二次電池としての充放電容量を示さない。そのため、LiMnPO
4は、開発に多大な労力が割かれているにもかかわらず実用化に至っていない。
【0006】
このため、高容量、かつ高電位のオリビン系材料を実現するために、LiFePO
4とLiMnPO
4を複合化して、お互いの短所を補い合うことが検討されている。例えば、LiMn
0.6Fe
0.4PO
4、すなわちLiFePO
4のFeの60mol%をMnに置換したリチウムマンガン鉄複合リン酸塩を、正極活物質として用いることで初期放電容量約160mAh/gを得ており、その半分以上の容量で4Vでの放電を実現している(例えば、非特許文献1参照。)。
【0007】
Feを含有するオリビン型正極活物質の合成は、2価のFeが酸化されやすく不安定であるため、様々な方法が検討されている。また、上述のようにオリビン型正極活物質は、電子伝導性が低いため、数ミクロン以上の粒子では良好な電極特性を得られない。そのため、粒子を数十〜数百nmに微細化し、さらに、黒鉛などの導電性材料の被覆・複合化により、導電性を付与することが試みられ、良好な特性が得られることが知られている。
しかし、付加的な処理が加わることにより、オリビン型正極活物質の製造コストを押し上げ、材料的な優位性が失われる結果となっている。したがって、できる限り簡易な方法で微細なオリビン粒子を得るとともに導電材との複合化が可能であることが重要となっている。
オリビン型正極活物質の合成には、水熱合成法、噴霧熱分解法、ゾルゲル法などがあるが、一般的に用いられているのは固相反応法である。LiFePO
4の製造方法として、例えば、合成原料となる複数の物質を混合して前駆体とする混合工程と、前駆体を加熱して反応させる加熱工程とを有し、混合工程において、合成原料として少なくとも蓚酸鉄を用いる製造方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
しかし、原料の1つである蓚酸鉄は、毒性があり人体や環境面に好ましくなく、また、高価なため、大量生産が必要な電池正極活物質の原料として不適当である。LiMn
xFe
1−xPO
4を得るために、混合工程においてマンガン源を添加することが考えられるが、別々の鉄源とマンガン源を固相反応で均一なリチウムマンガン鉄複合リン酸塩(LiMn
xFe
1−xPO
4)を合成するには、焼成前の長時間の粉砕混合や高温の焼成温度が必要になる。そのため、粒子間の焼結が進行するので、微粉化するためには、これを再び強粉砕しなければならず非常にコストが高い製造プロセスとなる。
【0008】
また、蓚酸鉄の毒性については、無害な原料の使用よる改善も検討されている。例えば、燐酸アンモニウム鉄を硫酸第一鉄(FeSO
4)と、燐酸二水素アンモニウム(NH
4H
2PO
4)などの燐酸源と、アンモニア(NH
4OH)とから製造し、無毒性で2価の安定な燐酸アンモニウム鉄(NH
4FePO
4)の鉄原料兼燐酸原料と、水酸化リチウム(LiOH)又は炭酸リチウム(Li
2CO
3)などのリチウム原料とを、反応させて、正極材料のリチウム燐酸鉄(LiFePO
4)を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
NH
4FePO
4・H
2Oは、空気中で、安定で無毒であり、安価な硫酸鉄を原料に合成できるため、LiFePO
4の合成に有用である。また、FeとPが原子レベルで混合しているため、均一なLiFePO
4を合成するのに適していると考えられる。
しかし、上記非特許文献1の合成法で、鉄原料をNH
4FePO
4・H
2Oに置き換えてLiMn
xFe
1−xPO
4の合成を試みても、依然として、均一なLiMn
xFe
1−xPO
4を合成するには、焼成前の長時間の粉砕混合や高温の焼成温度が必要となる。
【0009】
また、リン酸リチウムとリン酸化物塩を原料として用いる製造方法が検討され、リン酸第一鉄含水塩(Fe
3(PO
4)
2・8H
2O)とリン酸リチウム(Li
3PO
4)及び炭素質物質前駆体とを含有する比容積が1.5ml/g以下の反応前駆体を得た後、該反応前駆体を焼成して、LiFePO
4の粒子表面を炭素質物質で被覆したリチウム鉄リン系複合酸化物炭素複合体を得る方法が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。この方法は、無害なリン酸塩を用い、焼成時に副生するものがH
2Oだけなので、工業的に有利である。
しかし、これらの原料は、生成する際には、Na化合物を使用するため、市販品にも多少のナトリウムが残留している。このため、これらを原料として生成したオリビン型正極活物質の中にも、ナトリウムが混入する。ナトリウムがオリビン型正極活物質に混入すると、オリビン構造中の1次元Liパスの一部をNaが占有し、Liイオンの移動を阻害するために、電極性能が低下することが知られている。よって、リン酸リチウムとリン酸化物塩を原料として、オリビン型正極活物質を合成するのは不適当といえる。
以上のように、これまでの製造方法では、上述のような問題があり、粒子径が微細で高性能なリチウムマンガン鉄複合リン酸塩を、工業的で安価に製造する方法は、開発されていないのが現状であった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、粒子径が微細で、正極活物質として用いた場合、高容量、かつ高出力の優れた電池特性を示すリチウムマンガン鉄複合リン酸塩からなるリチウム二次電池用正極活物質と、組成が均一で微細なリン酸アンモニウムマンガン鉄を前駆体として用いたリチウム二次電池用正極活物質の製造方法とを、さらに、その正極活物質を用いて良好な特性を有するリチウム二次電池を、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するために、均一に混合され粒子径が微細なリチウムマンガン鉄複合リン酸塩について鋭意検討した結果、NH
4FePO
4・H
2Oと類似の構造をもつNH
4MnPO
4・H
2Oという物質が存在し、それぞれを鉄原料、マンガン原料として混合し、低温で焼成することにより、上記リチウムマンガン鉄複合リン酸塩が得られるとの知見を得た。また、両者を共沈させて同時に合成することで、原子レベルでマンガンと鉄とリンが混合された上記リチウムマンガン鉄複合リン酸塩の前駆体が得られるとの知見を得た。本発明は、これらの知見により完成されたものである。
【0014】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、リチウム二次電池用正極活物質の前駆体の製造方法であって、
2価のMnイオンおよびFeイオンと、リン酸化物イオンとの混合溶液を調製する混合溶液調製工程と、アンモニアを添加して該混合溶液のpHを7〜9の範囲に調整
し、液温を25〜60℃に保持して共沈殿させ、一般式:NH
4Mn
xFe
1−xPO
4・H
2O(0<x<1)で表されるリン酸アンモニウムマンガン鉄を得る晶析工程とを備えることを特徴とするリン酸アンモニウムマンガン鉄の製造方法が提供される。
【0015】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記混合溶液調製工程では、MnイオンおよびFeイオンの供給原料として、硫酸塩または塩化物塩から選択される1種以上の水溶性金属塩が用いられることを特徴とするリン酸アンモニウムマンガン鉄の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第3の発明によれば、第1の発明において、前記混合溶液調製工程では、リン酸化物イオンの供給原料として、リン酸またはリン酸二水素アンモニウムから選択される1種以上の水溶性塩が用いられることを特徴とするリン酸アンモニウムマンガン鉄の製造方法が提供される。
【0016】
本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、前記晶析工程が非酸化性雰囲気下で行われること特徴とするリン酸アンモニウムマンガン鉄の製造方法が提供される。
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4のいずれかの発明において、前記混合溶液調製工程では、2価のMnイオンとリン酸化物イオンとの混合溶液、およびFeイオンとリン酸化物イオンとの混合溶液を、個別に調製するとともに、前記晶析工程でも、各混合溶液を個別にpH調整して共沈させ、それぞれ得られたリン酸アンモニウムマンガンおよびリン酸アンモニウム鉄を混合することを特徴とするリン酸アンモニウムマンガン鉄の製造方法が提供される。
【0017】
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明
において、一般式:NH
4Mn
xFe
1−xPO
4・H
2O(0<x<1)で表され、ナトリウム含有量が0.01質量%以下である
リン酸アンモニウムマンガン鉄を得ることを特徴とするリン酸アンモニウムマンガン鉄
の製造方法が提供される。
【0018】
また、本発明の第7の発明によれば、第6の発明に係る
製造方法で得られたリン酸アンモニウムマンガン鉄とリチウム塩とを混合後、不活性または還元雰囲気下において、200〜500℃で熱処理する熱処理工程と、熱処理工程によって得られたLiMn
xFe
1−xPO
4(0<x<1)に、炭素源となる化合物を、焼成後に炭素含有率が1〜5質量%になるように、混合して炭素源混合物を得る炭素源混合工程と、該炭素源混合物を、不活性または還元雰囲気下において、500〜800℃で焼成する焼成工程とを、備えることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第8の発明によれば、第7の発明において、前記リン酸アンモニウムマンガン鉄とリチウム塩との混合時に、粉砕を同時に行うことを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質の製造方法が提供される。
【0019】
また、本発明の第
9の発明によれば、一般式:LiMn
xFe
1−xPO
4(0<x<1)で表されるオリビン型リチウムマンガン鉄複合リン酸塩からなるリチウム二次電池用正極活物質であって、X線回折における(131)面より求めた結晶子径が50nm以下であり、BET比表面積が15m
2/g以上であり、炭素含有率が1〜5質量%であることを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質が提供される。
さらに、本発明の第
10の発明によれば、第
9の発明において、C2023型コイン電池の正極活物質として用いた場合、初期放電容量が150mAh/g以上、エネルギー効率が85%以上の電池特性を示すことを特徴とするリチウム二次電池用正極活物質が提供される。
【0020】
また、本発明の第
11の発明によれば、第
9又は
10の発明に係るリチウム二次電池用正極活物質から構成される正極を備えることを特徴とするリチウム二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、MnとFeが原子レベルに均一に混合したオリビン型リチウム二次電池用正極活物質の前駆体を得ることができ、該前駆体を用いて得られる該正極活物質は、粒子径が微細で組成的にも均一であり、該正極活物質を用いたリチウム二次電池は、高容量かつ高出力の優れた電池特性を示すものである。さらに、その製造方法は、毒性のある化合物を用いることなく、容易で工業的規模の生産にも適したものであり、その工業的価値は、極めて大きい
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について、詳細に説明する。
(1)リン酸アンモニウムマンガン鉄の製造方法
リン酸アンモニウムマンガン鉄は、リチウム二次電池用正極活物質の前駆体となるものであり、本発明のリン酸アンモニウムマンガン鉄の製造方法は、2価のMnイオンおよびFeイオンとリン酸化物イオンとの混合溶液を調製する混合溶液調製工程と、アンモニアを添加して該混合溶液のpHを7〜9の範囲に調整して共沈殿させ、一般式:NH
4Mn
xFe
1−xPO
4・H
2O(0<x<1)で表されるリン酸マンガン鉄を得る晶析工程とを備えることを特徴とする。
【0023】
上記混合溶液調製工程においては、2価のMnイオンおよびFeイオンとリン酸化物イオンの混合溶液を調製する。次工程の晶析工程で得られるリン酸マンガン鉄の組成は、混合溶液の組成比に一致するため、混合溶液に含有されるMnイオンおよびFeイオンとリン酸化物イオンの比が下記一般式(1)の組成比となるように、2価のMn塩およびFe塩とリン酸化物を水に溶解させる。
ここで、MnとFeの合計量とリン酸化物のモル比は、化学量論では1:1であるが、晶析時の収率を考慮して、リン酸化物に対するMnとFeの合計量のモル比を0.9〜1.1までの範囲とすることができる。モル比が0.90以下では、リン酸イオンの収率が悪化し、一方、1.1以上では、Fe
2O
3やMnO
2といった不純物が生成しやすくなる。好ましくは0.95〜1.05となるように溶解する。MnとFeのモル比は、得ようとするリン酸アンモニウムマンガン鉄におけるモル比とすればよい。
一般式:NH
4Mn
xFe
1−xPO
4・H
2O(0<x<1) (1)
【0024】
2価のMn塩およびFe塩としては、水溶性の塩を広く用いることができるが、2価の無機塩が好ましい。具体的には、MnイオンおよびFeイオンの供給原料として、硫酸塩または塩化物塩から選択される1種以上の水溶性金属塩を用いることが好ましい。
リン酸化物としては、水溶性のものを用いることができ、具体的には、リン酸化物イオンの供給原料として、リン酸またはリン酸二水素アンモニウムから選択される1種以上の水溶性金属塩を用いることが好ましい。
【0025】
次工程である晶析工程では、酸性を示す混合溶液にアンモニアを添加し、該混合溶液のpHを7〜9の範囲に調整して、MnイオンおよびFeイオンとリン酸化物イオンを共沈殿させ、リン酸アンモニウムマンガン鉄を得る。リン酸アニオンと金属イオンは、溶液中での共存状態では、完全に均一に混合された状態となっており、これを共沈殿させることでMnおよびFeとリン酸が厳密に混合され均一な組成の共沈物を得ることができる。
【0026】
ここで、制御するpHの範囲とアンモニアを用いることが重要である。pHが7未満では、アンモニアと金属イオンとリン酸イオンが完全に反応せず、混合溶液中に残存し、収率が低下するとともに、組成ずれを起こす。また、pHが9以上では、MnおよびFeの酸化が起こりすくなり、Fe
3O
4やMnO
2といった不純物が生成し、リチウム塩と混合して熱処理した後も、異相として残り、特性を悪化させる。
pHを高pH側に制御して共沈殿させる目的のみであれば、アルカリ金属水酸化物等を用いることができるが、アルカリ金属水酸化物を用いると、アルカリ金属が共沈殿物に残留して不純物となる。特に、水酸化ナトリウムを用いると、残留する不純物としてナトリウムが多くなり、最終的に得られるリチウム二次電池用正極活物質中のナトリウムが高くなり、正極活物質の特性を悪化させる。
pHを7〜9に制御することで、組成ずれがなく、不純物を含まないリチウム二次電池用正極活物質の前駆体として適したリン酸アンモニウムマンガン鉄を得ることができる。
【0027】
上記晶析工程においては、不活性雰囲気下で共沈殿させることが好ましい。不活性雰囲気下とすることで、酸化によるFe
3O
4やMnO
2といった不純物の生成を抑制することができる。不活性雰囲気としては、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。
また、晶析中は、混合溶液の液温を25〜60℃に保持することが好ましい。該液温が25℃未満では、混合溶液中での金属イオンの溶解度が低く、MnとFeの析出速度に差が生じて組成ずれを起こすことがある。また、該液温が60℃を超えると、混合溶液中での金属イオンの溶解度が高くなり、析出速度が低下して得られるリン酸アンモニウムマンガン鉄の結晶性が高くなり過ぎ、最終的に得られる正極活物質が粗粒化する場合がある。
【0028】
上記晶析工程に用いられる装置としては、反応を均一に生じさせるため、撹拌装置付の反応槽が好ましく、晶析時の雰囲気制御を可能とするため、密閉構造を有するものとすることがより好ましい。
晶析反応終了後、ろ過、遠心分離などにより固液分離し、不純物を除去するため、上記晶析工程で得られたリン酸アンモニウムマンガン鉄を十分に水洗した後、乾燥させる。ここで、上記リン酸アンモニウムマンガン鉄は、微細な粒子構造を持っているため、水洗により、ナトリウム等の不純物が容易に除去可能である。
【0029】
晶析工程で得られたリン酸アンモニウムマンガン鉄は、乾燥時に酸化しやく、MnあるいはFeが酸化して、不純物としての異相が残ることがある。このため、洗浄後の乾燥は、非酸化性雰囲気中で行う。非酸化性雰囲気中であれば、特に限定されるものではないが、不活性雰囲気中または真空雰囲気中で行うこと好ましい。
また、乾燥温度は、酸化が抑制可能な範囲であればよく、250℃以下とすることが好ましく、150℃以下とすることがより好ましい。一方、60℃未満では、乾燥に時間がかかるため、好ましくない。
【0030】
上記製造方法では、2価のMnイオンおよびFeイオンとリン酸化物イオンの混合溶液を調製して、MnおよびFeとリン酸化物を同時に共沈殿させているが、2価のMnイオンとリン酸化物イオンの混合溶液、およびFeイオンとリン酸化物イオンの混合溶液を個別に調製するとともに、晶析工程においても、各混合溶液を個別にpH調整して共沈させ、MnとFeのモル比で混合して前駆体としてもよい。リン酸アンモニウムマンガンとリン酸アンモニウム鉄は、類似の構造を持つため、それぞれを十分に混合することで、低温の熱処理でも均一な組成のリチウムマンガン鉄複合リン酸塩を得ることができる。
【0031】
(2)リン酸アンモニウムマンガン鉄
本発明のリン酸アンモニウムマンガン鉄は、リチウム二次電池用正極活物質の前駆体であって、上記製造方法によって得られるものであり、上記一般式(1)で表され、ナトリウム含有量が0.01質量%以下であることを特徴とする。
【0032】
本発明のリン酸アンモニウムマンガン鉄は、リチウム二次電池用正極活物質の前駆体であって、上記製造方法によって得られるため、MnとFeが原子レベルで均一に混合されたものとなっている。このため、リチウム塩と混合後に低温の熱処理によっても、組成の均一化が可能であり、粒子径が微細なリチウムマンガン鉄複合リン酸塩が得られる。
また、ナトリウム含有量が0.01質量%以下であり、得られる正極活物質で十分な特性が得られる。ナトリウム含有量が0.01質量%を超えると、オリビン構造中のLiイオンの移動がNaで阻害されるために、得られた正極活物質を用いた正極性能が低下する。
【0033】
(3)リチウム二次電池用正極活物質の製造方法
本発明のリチウム二次電池用正極活物質の製造方法は、リチウム二次電池用正極活物質(以下、単に正極活物質ということがある)の前駆体である上記リン酸アンモニウムマンガン鉄とリチウム塩を混合後、不活性または還元雰囲気下において、200〜500℃で熱処理する熱処理工程と、炭素源となる化合物を焼成後に炭素含有率が1〜5質量%になるように混合して炭素源混合物を得る炭素源混合工程と、該炭素源混合物を不活性または還元雰囲気下において、500〜800℃で焼成する焼成工程とを備えることを特徴とする。
【0034】
(3−1)熱処理工程
熱処理工程においては、まず、上記リン酸アンモニウムマンガン鉄とリチウム塩を混合する。リチウム塩との混合は、リン酸アンモニウムマンガン鉄とリチウム塩を、下記一般式(2)で表されるリチウムマンガン鉄複合リン酸塩が得られるように、混合するものであり、モル比でMnとFeの合計(Me)に対するLiの比(Li/Me)を0.95〜1.05とすることが好ましい。
一般式:LiMn
xFe
1−xPO
4(0<x<1) (2)
【0035】
リチウム塩としては、特に限定されるものではなく、水酸化リチウム、炭酸リチウム、酢酸リチウムなど一般的なリチウム塩を用いることができる。
混合方法は、リン酸アンモニウムマンガン鉄とリチウム塩を十分に混合できる混合機を用いればよく、具体的には、シェイカーミキサー、あるいはアルミナ、ジルコニア球を用いた乾式、湿式ミルなどを用いることができる。特に、最終的に得られる正極活物質を微粒化するためには、リン酸アンモニウムマンガン鉄を予め粉砕しておくことが好ましく、リチウム塩との混合時に、粉砕を同時にすることが好ましい。この場合には、ボールミル、遊星ミル、振動ミル、ビーズミル等などのミルを用いることで、混合と同時に粉砕を行うことも可能となり、好ましい。
【0036】
リチウム塩との混合後、該混合物を不活性または還元雰囲気下で、200〜500℃、好ましくは300〜500℃で熱処理する。本発明のリン酸アンモニウムマンガン鉄は、原子レベルでMnとFeが均一に混合された状態となっていることから、上記温度範囲による熱処理でも、MnとFeが均一に混合され、良好な結晶性を有するLiMn
xFe
1−xPO
4(0<x<1)を得ることができる。熱処理温度が200℃未満では、反応原料である炭酸リチウムなどが残存することがあり、また、500℃を超えると、粒子の焼結が進行して粗大粒子が生成され、最終的に得られる正極活物質の導電性が低下する。
上記還元雰囲気としては、不純物の混入を抑制するため、不活性ガスと水素ガスの混合ガスが好ましく、混合ガス中の水素ガス含有量としては1〜20容量%とすることが好ましい。
【0037】
(3−2)炭素源混合工程
炭素源混合工程は、熱処理工程によって得られたLiMn
xFe
1−xPO
4(0<x<1)に、導電性を付与するために炭素源となる化合物(以下、単に炭素源ということがある)を、焼成後に炭素含有率が1〜5質量%になるように混合する工程である。
炭素源としては、焼成によって黒鉛化して導電性炭素質材料となるものであれば、特に限定されるものではなく、天然黒鉛、人工黒鉛等の黒鉛、アセチレンブラックやケッチェンブラックなど等のカーボンブラック類、炭素繊維、ショ糖などの一般的な炭化水素類、アスコルビン酸その他、分解によって炭素質を生じる有機化合物等を幅広く用いることができる。
また、炭素源に含まれる炭素原子の量は、焼成により、炭素源より減少する傾向がある。このため、炭素源の配合量は、焼成後に含有される炭素量に対して、質量比で40〜120%多くすることが好ましく、50〜120%多くすることがより好ましい。
【0038】
上記混合は、上記LiMn
xFe
1−xPO
4(0<x<1)と炭素源が均一に混合されるように、シェイカーミキサー、あるいはアルミナ、ジルコニア球を用いた乾式、湿式ミルなどを用いて十分に行うことが好ましい。
炭素源混合工程においても、熱処理工程によって得られたLiMn
xFe
1−xPO
4(0<x<1)を粉砕することで、最終的に得られる正極活物質を微粒化するとともに均一に粒子を導電性炭素質材料で被覆することができるため、混合と同時に粉砕しておくことが好ましい。このため、ボールミル、遊星ミル、振動ミル、ビーズミル等などのミルを用いることが好ましい。
【0039】
(3−3)焼成工程
炭素源混合工程で、炭素源を混合したLiMn
xFe
1−xPO
4(0<x<1)を、不活性または還元雰囲気下で600〜800℃、好ましくは600〜700℃で焼成することにより、炭素質材料と複合化され導電性が良好なLiMn
xFe
1−xPO
4(0<x<1)、すなわち、リチウム二次電池用正極活物質を得ることができる。
焼成温度が600℃未満では、炭素の黒鉛化が進行せず、正極活物質に十分な導電性が得られない。また、焼成温度が800℃を超えると、粒子の焼結が進行して粗大化し、正極活物質の導電性が低下する。
【0040】
上記熱処理工程および焼成工程における炉としては、例えば、バッチ炉、ローラーハースキルン、プッシャー炉、ロータリーキルン、流動床炉など一般的な熱処理炉・焼成炉を用いることができる。熱処理中は、鉄、マンガンの酸化を抑制するため、窒素、アルゴンなどの不活性ガス、または窒素と水素の混合ガスの還元雰囲気とすることから、雰囲気制御が可能な炉を用いることが好ましい。
上記、正極活物質は、均一微細な一次粒子で構成されているが、電池の電極作製工程の必要に応じて、これを粉砕、分級して用いることができる。
【0041】
(4)リチウム二次電池用正極活物質
本発明の正極活物質は、炭素質材料と複合化され、均一微細な一次粒子で構成された上記一般式(2)で表されるオリビン型リチウムマンガン鉄複合リン酸塩からなるものである。
上記一般式(2)において、xは、0.6≦x≦0.8とすることが好ましい。xが0.6より少ない場合、対Li電位が約3.45のFe
2+/Fe
3+の酸化還元が電池反応を占める割合が大きくなり、リチウム二次電池としたときの平均電位が低下して充放電効率が低下する。また、xが0.8より多い場合、複合リン酸塩中のマンガン量が高くなり、高抵抗な正極材となる。
上記一次粒子径の測定は、走査型電子顕微鏡観察による外観からの測定などの手段に限られており、正確な値を得ることが困難である。
したがって、本発明においては、定量的に評価が可能なX線回折プロファイルの結晶面ピーク半価幅よりシェラー式で求められる結晶子径を用いて、一次粒子径の評価を行った。結晶子径とは、単結晶から構成される粒子の構成単位であり、一次粒子は、その集合体である場合があるので、必ずしも同等ではないが、一次粒子が十分に微細であれば、結晶子径と一次粒子径は比例関係にあると考えられ、一次粒子径の評価が可能である。
【0042】
すなわち、本発明の正極活物質のX線回折における(131)面より求めた結晶子径が50nm以下である。結晶子径を50nm以下とすることで、LiMn
xFe
1−xPO
4(0<x<1)を正極活物質としたときに、十分な導電性が得られる。50nmを超えるような巨大な結晶子径では、電池反応の際のリチウムイオン及び電子伝導率が低く高抵抗なLiMn
xFe
1−xPO
4(0<x<1)粒子内部をリチウムイオン、電子が移動する距離が大きくなり、電池の反応速度が極めて遅くなり、電池抵抗が上昇するとともに十分な導電性が得られない。
上記結晶子径は10nm以上であることが好ましい。結晶子径が10nm未満になると、正極活物質のかさ密度が低下して、電池として構成した場合の単位容積あたりの電池容量が十分に得られない場合がある。
【0043】
また、本発明の正極活物質は、BET比表面積が15m
2/g以上であり、炭素含有率が1〜5質量%であり、電池の正極活物質として用いたときに良好な電池特性が得られる。BET比表面積が15m
2/g未満では、電池の正極を構成したときに、十分な電解液との接触が得られず、電池抵抗の上昇や導電性の低下が生じる。
BET比表面積の上限は、特に限定されるものではないが、40m
2/g以下であることが好ましい。40m
2/gを超えると、かさ密度が低くなり、容積のあたりの電池容量が低くなりすぎることがある。
【0044】
さらに、本発明の正極活物質は、炭素含有率が1質量%未満であると、十分な正極活物質の導電性が得られず、一方、5質量%を超えると、正極活物質中のLiMn
xFe
1−xPO
4(0<x<1)が少なくなり、電池容量が低下する。
本発明の正極活物質は、例えば、C2023型コイン電池の正極活物質として用いた場合、初期放電容量150mAh/g以上、エネルギー効率85%以上の良好な電池特性を示すものであり、リチウム二次電池用として好適である。
【0045】
(5)リチウム二次電池
本発明によるリチウム二次電池は、正極、負極、非水電解質など、一般のリチウム二次電池と同様の構成要素から構成される。
以下、本発明のリチウム二次電池の実施形態について、その構成要素、用途などの項目に分けて詳しく説明するが、以下の実施形態は、例示にすぎず、本発明のリチウム二次電池は、本明細書に記載の実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。
【0046】
(a)正極
正極は、本発明の正極活物質、導電材および結着剤を含んだ正極合材から形成される。
詳しくは、粉末状の正極活物質、導電材を混合し、それに結着剤を加え、必要に応じて、粘度調整などのための溶剤をさらに添加して、正極合材ペーストを調整し、その正極合材ペーストを、たとえば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布、乾燥、必要に応じて加圧することにより、シート状の正極を作製する。
【0047】
導電材は、正極の電気伝導性を確保するためのものであり、たとえば、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛などの炭素物質粉状体の1種または2種以上を混合したものを用いることができる。
結着剤は、活物質粒子を繋ぎ止める役割を果たすもので、たとえば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、フッ素ゴムなどの含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂、その他の適切な材料を用いることができる。
また、必要に応じて正極合材に添加する溶剤、つまり、活物質、導電材、活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
また、活性炭を、電気二重層容量を増加させるために添加することができる。
【0048】
このような正極活物質、導電材、および結着剤を混合し、必要に応じて、活性炭、溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペーストを調製する。
正極合材中のそれぞれの混合比も、リチウムイオン二次電池の性能を決定する重要な要素となりうる。正極合材の固形分の全体(溶剤を除く意味)を100質量%とした場合、一般のリチウム二次電池の正極と同様、それぞれ、正極活物質は60〜95質量%、導電材は1〜20質量%、結着剤は1〜20質量%とすることが望ましい。
たとえば、アルミニウムなどの金属箔集電体の表面に、充分に混練した上記の正極合材ペーストを塗布し、乾燥して溶剤を飛散させ、必要に応じて、その後に電極密度を高めるべくロールプレスなどにより圧縮することにより、正極をシート状に形成することができる。シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断などを行い、電池の作製に供することができる。
【0049】
(b)負極
負極には、金属リチウム、リチウム合金など、また、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅などの金属箔集電体の表面に塗布、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して、形成したものを使用する。このとき、負極活物質として、たとえば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂などの有機化合物焼成体、コークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極と同様に、ポリフッ化ビニリデンなどの含フッ素樹脂などを、これら負極活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0050】
(c)セパレータ
正極と負極の間には、セパレータを挟み装填する。セパレータは、正極と負極とを分離し電解質を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの薄い微多孔膜を用いることができる。
【0051】
(d)非水系電解質
非水系電解質は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
支持塩としては、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiASF
6、LiN(CF
3SO
2)
2など、およびそれらの複合塩を用いることができる。さらに、非水電解質は、ラジカル補足剤、界面活性剤や難燃剤などを含んでいてもよい。
【0052】
以上のように構成される本発明のリチウム二次電池であるが、その形状は、円筒型、積層型など、種々のものとすることができる。いずれの形状を採る場合であっても、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、正極集電体および負極集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リードなどを用いて接続し、この電極体に上記の非水電解質を含浸させ、電池ケースに密閉して電池を完成させる。
【0053】
本発明のリチウム二次電池においては、本発明のリチウム二次電池用正極活物質を正極材料として用いた正極を備えており、3.0〜4.5Vの電位で充放電を行なうことで、従来のリチウム金属複合酸化物よりも、安全性がきわめて高く、さらに高容量を兼ね備えたリチウム二次電池を工業的に実現できる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に具体的に説明する。なお、実施例で用いた金属の化学分析方法、X線回折及び比表面積の測定方法、電池容量の評価方法は、以下の通りである。
(1)金属の分析:
ICP発光分析装置(VARIAN社製、725ES)を用いて、ICP発光分析法で行った。
(2)X線回折:
粉末X線回折装置(PANalytical社製、X‘Prt PRO)を用いて、得られた正極活物質について、Cu−Kα線による粉末X線回折で測定した。
(3)比表面積の測定:
BET法測定機(ユアサアイオニックス株式会社製、カンタソーブQS−10)を用いて、窒素ガス吸着によるBET法で行った。
(4)電池容量の評価:
得られた正極活物質について、以下の手順でコイン型電池を作製し、電池の充放電容量を測定して評価した。
正極活物質に導電材としてアセチレンブラック33wt%、結着材としてポリビニリデンフルオライド(PVDF)17wt%、N−メチルピロリドン(NMP)溶液を添加混合し、上記正極活物質50wt%−導電材33wt%−PVDF17wt%の混合物を得た。
この混合物をアルミ箔上に塗布し、80℃で乾燥後、電極寸法の直径11mmφに打ち抜き、プレス圧98MPa(1.0tonf/cm
2)でプレスして電極を作製した。
この電極を正極とし、グローブボックス内で負極として金属Li、電解液として電解質LiPF
61モル/Lを含んだエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DEC)の混合液(容積比でEC:DEC=7:3)、セパレータとしてガラスセパレータを用いてC2023コイン電池を作製した。
電池の充放電を、充電0.2mA/cm
2、4.5V、休止60分、放電0.2mA/cm
2、2.0V、25℃の条件で実施し、1サイクル目の放電容量を、評価値として用いた。
【0055】
[実施例1]
硫酸鉄7水和物(和光社製試薬特級:純度99.5質量%)0.375モル(104.8g)と硫酸マンガンn水和物(中央電工製:99.9質量%)1.125mol(191.9g)とリン酸(和光社製:純度85.0質量%以上)1.5モル(172.9g)を蒸留水で3Lにメスアップし、攪拌機で1時間攪拌し、原料溶液とした。また、25質量%アンモニア水溶液をpH調整溶液とした。
撹拌機付5Lのセパラブルフラスコに1Lの純水をいれ、内部を窒素で置換しながら、30分攪拌した。pH調整溶液をpHコントローラにつなぎ、pHを8.0〜8.2に制御しながら、原料溶液を毎分10mLの速度で添加した。滴下終了後、セパラブルフラスコを窒素で置換しながら30分撹拌を継続して反応を完全に進行させた。反応後のスラリーを吸引濾過で固液分離した後、純水で2回レパルプ水洗浄を行った。
水洗後、120℃真空下で24時間乾燥して、リン酸アンモニウムマンガン鉄を得た。得られたリン酸アンモニウムマンガン鉄のナトリウム含有量は、0.005質量%であった。
【0056】
上記リン酸アンモニウムマンガン鉄30g、炭酸リチウム(関東化学社製鹿特級:99.0質量%)5.94gおよびエタノール60mlを、φ1.0mmジルコニアボール650gの入った内容積500mlジルコニア製ポットに入れ、遊星ボールミル(フリッチュジャパン製)により350rpmで10分間混合するとともに粉砕した。処理後、スラリーとジルコニアボールを篩い分けし、常温、真空下で24時間乾燥してエタノールを除去した。
電気炉を用いて得られた混合物を、98容量%窒素と2容量%水素の混合ガスを1L/分の流量で炉内にパージしながら10℃/分で昇温した後、350℃5時間焼成した。
焼成物をX線回折で分析すると、LiMn
0.75Fe
0.25PO
4と同定され、リチウムマンガン鉄複合リン酸塩が得られたことが確認された。
【0057】
上記リチウムマンガン鉄複合リン酸塩30gとスクロース3.00gを、φ5mmジルコニアボール350gの入った内容積500mlジルコニア製ポットに入れ、遊星ボールミル(フリッチュジャパン製)により250rpmで10分間混合した。
処理後、ジルコニアボールを篩い分けした後、この混合物を、電気炉を用いて98容量%窒素+2容量%水素の混合ガスを1L/分の流量で炉内にパージしながら昇温速度10℃/分で190℃まで昇温後、2時間保持し、さらに昇温して650℃で5時間の焼成を行い、正極活物質を得た。
【0058】
この正極活物質のLi:Fe:Mn:Pの組成は、モル比で1.00:0.75:0.25:1.00であり、炭素量は2.2質量%であった。X線回折分析から、オリビン型リチウムマンガン鉄複合リン酸塩単相であることが確認され、X線回折分析プロファイルからシェラー式を用いて(131)面の結晶子径を求めると、49nmであった。また、走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行うと、一次粒子径は100〜200nmであった。また、BET法により求めた正極活物質の比表面積は、24.3m
2/gであった。
さらに、正極活物質の電池評価を実施したところ、初期充電容量は156mAh/g、初期放電容量は152mAh/g、初期効率は97%であった。
【0059】
[実施例2]
実施例1と同様の方法により、モル比で1:1となるように、MnとP、FeとPの共沈物を別々に調製し、遊星ボールミルによる炭酸リチウムとの混合時に、LiMn
0.75Fe
0.25PO
4の組成比になるように、混合した以外、実施例1と同様にして、正極活物質を得た。
実施例1と同様に評価したところ、得られた正極活物質は、オリビン型リチウムマンガン鉄複合リン酸塩単相であり、Li:Mn:Fe:Pのモル比は1.00:0.75:0.25:1.00であり、炭素量は2.2質量%であった。また、(131)面の結晶子径は49nmであり、一次粒子径は100〜200nmであり、BET法比表面積は23.8m
2/gであった。また、電池評価による初期充電容量は155mAh/g、初期放電容量は150mAh/g、初期効率は97%であった。
【0060】
[比較例1]
晶析工程でpHを6〜6.2に制御した以外、実施例1と同様にして、晶析工程を行った。晶析反応後に固液分離した、ろ液中のFe、Mn、P量を測定すると、Fe、Mn、Pのモル比で10%以上のそれぞれ反応原料が未反応で残存していたため、熱処理工程以降を中断した。
【0061】
[比較例2]
晶析工程でpHを9.1〜9.3に制御した以外、実施例1と同様にして、晶析工程を行った。晶析工程で得られたリン酸アンモニウムマンガン鉄をX線回折で分析すると、Fe
3O
4、Fe
2O
3、MnO
2などの異相が多く検出されたため、熱処理工程以降を中断した。
【0062】
[比較例3]
晶析工程で得られるリン酸アンモニウムマンガン鉄に替えて、MnCO
2と(NH
4)
2HPO
4を原料とした以外、実施例1と同様にして、正極活物質を得た。
熱処理工程で得たれたリチウムマンガン鉄複合リン酸塩をX線回折で分析すると、LiMn
0.75Fe
0.25PO
4の他に、Li
3PO
4、MnO
2、Fe
3O
4といった異相が観察された。
これらの異相は、正極活物質まで残ったが、Li:Fe:Mn:Pのモル比は1.00:0.75:0.25:1.00であり、炭素量は2.4質量%であった。また、一次粒子径は100〜200nmであり、BET比表面積は24.1m
2/gであった。電池評価による初期充電容量は112mAh/g、初期放電容量は98mAh/g、初期効率は88%であった。