【実施例1】
【0014】
本発明の実施例1である電池システムについて、
図1を用いて説明する。
図1は、電池システムの構成を示す図である。本実施例の電池システムは、車両に搭載することができる。
【0015】
本実施例の電池システムは、組電池10を有する。組電池10は、直列に接続された複数の単電池11を有する。単電池11としては、リチウムイオン二次電池が用いられる。単電池11の数は、要求出力などに基づいて、適宜設定することができる。本実施例では、複数の単電池11が直列に接続されているが、並列に接続された複数の単電池11が、組電池10に含まれていてもよい。
【0016】
電圧センサ21は、組電池10の端子間電圧を検出し、検出結果をコントローラ30に出力する。一方、電圧センサを用いて、各単電池11の電圧を検出したり、少なくとも2つの単電池11を含む電池ブロックの電圧を検出したりすることができる。電流センサ22は、組電池10に流れる電流を検出し、検出結果をコントローラ30に出力する。
【0017】
温度センサ23は、組電池10(単電池11)の温度を検出し、検出結果をコントローラ30に出力する。温度センサ23の数は、適宜設定することができる。複数の温度センサ23を用いるときには、互いに異なる位置の単電池11に温度センサ23を配置することができる。
【0018】
コントローラ30は、メモリ30aを有する。メモリ30aは、コントローラ30が所定処理を行うための各種の情報を格納している。本実施例では、メモリ30aが、コントローラ30に内蔵されているが、コントローラ30の外部にメモリ30aを設けることもできる。
【0019】
組電池10の正極端子には、システムメインリレーSMR−Bが接続されている。システムメインリレーSMR−Bは、コントローラ30からの制御信号を受けることにより、オンおよびオフの間で切り替わる。組電池10の負極端子には、システムメインリレーSMR−Gが接続されている。システムメインリレーSMR−Gは、コントローラ30からの制御信号を受けることにより、オンおよびオフの間で切り替わる。
【0020】
システムメインリレーSMR−Gに対しては、システムメインリレーSMR−Pおよび制限抵抗24が並列に接続されている。システムメインリレーSMR−Pは、コントローラ30からの制御信号を受けることにより、オンおよびオフの間で切り替わる。制限抵抗24は、組電池10をインバータ31と接続するときに、突入電流が流れるのを抑制するために用いられる。
【0021】
組電池10をインバータ31と接続するとき、コントローラ30は、システムメインリレーSMR−Bをオフからオンに切り替えるとともに、システムメインリレーSMR−Pをオフからオンに切り替える。これにより、制限抵抗24に電流が流れることになる。次に、コントローラ30は、システムメインリレーSMR−Gをオフからオンに切り替えた後に、システムメインリレーSMR−Pをオンからオフに切り替える。
【0022】
これにより、組電池10およびインバータ31の接続が完了する。一方、組電池10およびインバータ31の接続を遮断するとき、コントローラ30は、システムメインリレーSMR−B,SMR−Gをオンからオフに切り替える。
【0023】
インバータ31は、組電池10からの直流電力を交流電力に変換し、交流電力をモータ・ジェネレータ32に出力する。モータ・ジェネレータ32としては、例えば、三相交流モータを用いることができる。モータ・ジェネレータ32は、インバータ31からの交流電力を受けて、車両を走行させるための運動エネルギを生成する。モータ・ジェネレータ32によって生成された運動エネルギは、車輪に伝達される。
【0024】
車両を減速させたり、停止させたりするとき、モータ・ジェネレータ32は、車両の制動時に発生する運動エネルギを電気エネルギ(交流電力)に変換する。インバータ31は、モータ・ジェネレータ32が生成した交流電力を直流電力に変換し、直流電力を組電池10に出力する。これにより、組電池10は、回生電力を蓄えることができる。本実施例の電池システムにおいて、組電池10およびインバータ31を接続する電流経路に、昇圧回路を設けることができる。昇圧回路を用いれば、組電池10の出力電圧を昇圧することができる。
【0025】
本実施例の電池システムにおいて、コントローラ30は、単電池11におけるリチウムの析出量を推定し、推定した析出量に応じて、単電池11で許容される温度の上限値(上限温度という)を設定する。
【0026】
単電池11の劣化が進行すると、
図2に示すように、時間の経過とともに、リチウムの析出量が増加することがある。
図2において、横軸は時間であり、縦軸は、リチウムの析出量である。
図2の縦軸において、上側に進むほど、リチウムの析出量が増加する。例えば、単電池11を過充電すると、リチウムが析出して単電池11が劣化してしまうおそれがある。リチウムの析出量は、後述する方法によって推定することができる。
【0027】
図3に示すように、リチウムの析出は、単電池11の耐熱温度に影響を与える。
図3の横軸は、リチウムの析出量であり、右側に進むほど、リチウムの析出量が増加する。
図3の縦軸は、単電池11の耐熱温度であり、上側に進むほど、耐熱温度が高くなる。単電池11の温度が耐熱温度よりも高くなると、例えば、単電池11の内部において、ガスの発生が加速するおそれがある。
【0028】
図3に示すように、リチウムの析出量が増加するほど、単電池11の耐熱温度が低下してしまう。このため、単電池11の耐熱温度が低下するほど、上限温度を低下させる必要がある。
【0029】
本実施例において、コントローラ30は、
図4に示すように、時間の経過に応じて、上限温度を低下させている。
図4の縦軸は、上限温度であり、上側に進むほど、上限温度が高くなる。
図4の横軸は、時間である。
図4に示す上限温度の推移は、
図2に示すリチウムの析出量に対応している。
図2では、時間の経過とともに、リチウムの析出量が増加しているため、上限温度は、
図4に示すように、時間の経過とともに低下させている。
【0030】
リチウムの析出量および上限温度の対応関係は、実験を行うことにより、予め決定しておくことができる。具体的には、まず、リチウムの析出量および耐熱温度の関係を求めておく。単電池11に所定量のリチウムを析出させたときの単電池11の耐熱温度を測定し、リチウムの析出量を異ならせながら、耐熱温度を測定する。これにより、リチウムの析出量および耐熱温度の関係を求めることができる。次に、耐熱温度を考慮して、上限温度を決めることができる。上限温度は、耐熱温度よりも低い温度に設定することができる。上限温度が耐熱温度よりも低すぎると、後述するように、組電池10の入出力が制限されすぎてしまうことがある。この点を考慮して、上限温度および耐熱温度の差を決定することができる。
【0031】
リチウムの析出量および上限温度の対応関係は、マップ又は演算式として用意しておくことができる。リチウムの析出量および上限温度の対応関係を示すデータ(マップ又は演算式)は、メモリ30aに記憶しておくことができる。コントローラ30は、リチウムの析出量を推定した後、リチウムの析出量および上限温度の対応関係を示すデータを用いて、推定した析出量に対応する上限温度を特定することができる。コントローラ30は、上限温度に基づいて、組電池10の入出力を制御することができる。組電池10の入出力を制御する方法については、後述する。
【0032】
本実施例において、組電池10の充放電を制御する処理について、
図5に示すフローチャートを用いて説明する。
図5に示す処理は、コントローラ30によって実行される。
【0033】
ステップS101において、コントローラ30は、単電池11におけるリチウムの析出量を推定する。リチウムの析出量を推定する方法については、後述する。ステップS102において、コントローラ30は、ステップS101で推定したリチウムの析出量に基づいて、上限温度を設定する。ステップS103において、コントローラ30は、ステップS102で設定された上限温度に基づいて、組電池10の入出力を制御する。組電池10の入出力を制御する方法については、後述する。
【0034】
次に、リチウムの析出量を推定する方法(一例)について説明する。リチウムの析出量を推定する方法は、以下に説明する方法に限るものではない。すなわち、リチウムの析出量および上限温度の対応関係から上限温度を特定するために、リチウムの析出量を推定することができればよい。
【0035】
単電池11は、負極と、電解液を含むセパレータと、正極とで構成されている。セパレータの代わりに、固体電解質を用いることもできる。負極および正極のそれぞれは、球状の活物質の集合体で構成される。単電池11の放電時において、負極の活物質の界面上では、リチウムイオンLi
+および電子e
−を放出する化学反応が行われる。一方、正極の活物質の界面上では、リチウムイオンLi
+および電子e
−を吸収する化学反応が行われる。単電池11の充電時には、上述した反応と逆の反応が行われる。
【0036】
負極には、単電池11の放電時に、電子を吸収する集電板が設けられる。正極には、単電池11の放電時に、電子を放出する集電板が設けられる。負極の集電板は、例えば、銅で形成され、負極端子に接続されている。正極の集電板は、例えば、アルミニウムで形成されており、正極端子に接続されている。セパレータを介して、正極および負極の間でリチウムイオンの授受が行われることにより、単電池11の充放電が行われる。
【0037】
単電池11の内部における充電状態は、正極および負極のそれぞれの活物質におけるリチウム濃度分布に応じて異なる。このリチウムは、単電池11の充放電時における反応に寄与する。
【0038】
単電池11の出力電圧V(CCV:Closed Circuit Voltage)は、下記式(1)によって表される。
【0039】
【数1】
【0040】
式(1)において、OCV(Open Circuit Voltage)は、単電池11の開放電圧であり、Rは、単電池11の内部抵抗であり、Iは、単電池11に流れる電流値である。抵抗Rには、複数の抵抗成分が含まれる。第1の抵抗成分は、負極および正極において、電子の移動に対する純電気的な抵抗成分である。第2の抵抗成分は、活物質の界面において反応電流が発生したとき、等価的に電気抵抗として作用する抵抗成分(電荷移動抵抗)である。
【0041】
θ
1は、正極活物質の表面における局所的SOC(State Of Charge)である。θ
2は、負極活物質の表面における局所的SOCである。抵抗Rは、局所的SOCθ
1,θ
2および電池温度の変化に応じて変化する。言い換えれば、抵抗Rは、局所的SOCθ
1,θ
2および電池温度の関数として表すことができる。
【0042】
局所的SOCθ
1,θ
2は、下記式(2)によって表される。
【0043】
【数2】
【0044】
式(2)において、C
se,iは、正極活物質(i=1)又は負極活物質(i=2)の界面におけるリチウム濃度(平均値)である。C
s,i,maxは、正極活物質(i=1)又は負極活物質(i=2)における限界リチウム濃度である。限界リチウム濃度とは、正極や負極におけるリチウム濃度の上限値である。
【0045】
単電池11の開放電圧OCVは、
図6に示すように、正極開放電位U
1および負極開放電位U
2の電位差として表される。正極開放電位U
1は、正極活物質の表面における局所的SOCθ
1に応じて変化する。負極開放電位U
2は、負極活物質の表面における局所的SOCθ
2に応じて変化する。
【0046】
単電池11が初期状態にあるときに、局所的SOCθ
1および正極開放電位U
1の関係を測定しておけば、局所的SOCθ
1および正極開放電位U
1の関係を示す特性(
図6に示すU
1の曲線)を得ることができる。初期状態とは、単電池11の劣化が発生していない状態をいい、例えば、単電池11を製造した直後の状態をいう。
【0047】
単電池11が初期状態にあるときに、局所的SOCθ
2および負極開放電位U
2の関係を測定しておけば、局所的SOCθ
2および負極開放電位U
2の関係を示す特性(
図6に示すU
2の曲線)を得ることができる。曲線U
1,U
2を示すデータは、マップとしてメモリ30aに予め格納しておくことができる。
【0048】
単電池11の開放電圧OCVは、放電が進むにつれて低下する。また、劣化後の単電池11においては、初期状態の単電池11と比べて、同じ放電時間に対する電圧降下量が大きくなる。これは、単電池11の劣化によって、満充電容量の低下と、開放電圧特性の変化とが生じているためである。本実施例では、単電池11の劣化に伴う開放電圧特性の変化を、劣化状態である単電池11の内部で起きると考えられる2つの現象としてモデル化している。
【0049】
2つの現象は、正極および負極における単極容量の減少と、正極および負極の間における組成の対応ずれである。
【0050】
単極容量の減少とは、正極および負極のそれぞれにおけるリチウムの受け入れ能力の減少を示す。リチウムの受け入れ能力が減少していることは、充放電に有効に機能する活物質等が減少していることを意味する。
【0051】
図7は、単極容量の減少による単極開放電位の変化を模式的に示している。
図7において、正極容量の軸におけるQ_L1は、単電池11の初期状態において、
図6の局所的SOCθ
L1に対応する容量である。Q_H11は、単電池11の初期状態において、
図6の局所的SOCθ
H1に対応する容量である。負極容量の軸におけるQ_L2は、単電池11の初期状態において、
図6の局所的SOCθ
L2に対応する容量である。Q_H21は、単電池11の初期状態において、
図6の局所的SOCθ
H2に対応する容量である。
【0052】
正極において、リチウムの受け入れ能力が低下すると、局所的SOCθ
1に対応する容量は、Q_H11からQ_H12に変化する。負極において、リチウムの受け入れ能力が低下すると、局所的SOCθ
2に対応する容量は、Q_H21からQ_H22に変化する。
【0053】
単電池11が劣化しても、局所的SOCθ
1および正極開放電位U
1の関係(
図6に示す関係)は変化しない。このため、局所的SOCθ
1および正極開放電位U
1の関係を、正極容量および正極開放電位の関係に変換すると、
図7に示す関係となる。すなわち、正極容量および正極開放電位の関係を示す曲線は、単電池11が劣化した分だけ、単電池11が初期状態にあるときの曲線に対して縮んだ状態となる。
【0054】
局所的SOCθ
2および負極開放電位U
2の関係を、負極容量および負極開放電位の関係に変換すると、
図7に示す関係となる。すなわち、負極容量および負極開放電位の関係を示す曲線は、単電池11が劣化した分だけ、単電池11が初期状態にあるときの曲線に対して縮んだ状態となる。
【0055】
図8は、正極および負極の間における組成対応のずれを模式的に示す。組成対応のずれとは、正極および負極を用いて充放電を行うときに、正極の組成(θ
1)および負極の組成(θ
2)の組み合わせが、単電池11の初期状態に対してずれていることを示すものである。
【0056】
単極の組成θ
1,θ
2および開放電位U
1,U
2の関係を示す曲線は、
図6に示した曲線と同様である。単電池11が劣化すると、負極組成θ
2の軸は、正極組成θ
1が小さくなる方向にΔθ
2だけシフトする。これにより、負極組成θ
2および負極開放電位U
2の関係を示す曲線は、初期状態の曲線に対して、Δθ
2の分だけ、正極組成θ
1が小さくなる方向にシフトする。
【0057】
正極の組成θ
1fixに対応する負極の組成は、単電池11が初期状態にあるときには「θ
2fix_ini」となるが、単電池11が劣化した後には「θ
2fix」となる。
図8では、
図6に示す負極組成θ
L2を0としている。負極組成θ
L2が0であるとき、負極のリチウムがすべて抜けている。
【0058】
本実施例では、3つの劣化パラメータを電池モデルに導入することにより、上述した2つの劣化現象をモデル化している。3つの劣化パラメータとしては、正極容量維持率、負極容量維持率および正負極組成対応ずれ量を用いている。2つの劣化現象をモデル化する方法について、以下に説明する。
【0059】
正極容量維持率とは、初期状態の正極容量に対する劣化状態の正極容量の割合をいう。単電池11が劣化したとき、正極容量が初期状態の容量から任意の量だけ減少したとする。正極容量維持率k
1は、下記式(3)によって表される。
【0060】
【数3】
【0061】
式(3)において、Q
1_iniは、単電池11が初期状態にあるときの正極容量(
図7に示すQ_H11)を示し、ΔQ
1は、単電池11が劣化したときの正極容量の減少量を示している。正極容量Q
1_iniは、活物質の理論容量や仕込み量などから予め求めておくことができる。
【0062】
負極容量維持率とは、初期状態の負極容量に対する劣化状態の負極容量の割合をいう。単電池11が劣化したとき、負極容量が初期状態の容量から任意の量だけ減少したとする。負極容量維持率k
2は、下記式(4)によって表される。
【0063】
【数4】
【0064】
式(4)において、Q
2_iniは、単電池11が初期状態にあるときの負極容量(
図7に示すQ_H21)を示し、ΔQ
2は、単電池11が劣化したときの負極容量の減少量を示している。負極容量Q
2_iniは、活物質の理論容量や仕込み量によって予め求めておくことができる。
【0065】
図9は、正極および負極の間における組成対応のずれを説明する模式図である。
【0066】
単電池11が劣化したとき、負極組成θ
2が1であるときの容量は、(Q
2_ini−ΔQ
2)となる。正極および負極の間における組成対応ずれ容量ΔQ
sは、正極組成軸に対する負極組成軸のずれ量Δθ
2に対応する容量である。これにより、下記式(5)の関係が成り立つ。
【0067】
【数5】
【0068】
式(4)及び式(5)から下記式(6)が求められる。
【0069】
【数6】
【0070】
単電池11が初期状態にあるとき、正極組成θ
1fix_iniは、負極組成θ
2fix_iniに対応している。単電池11が劣化状態にあるとき、正極組成θ
1fixは、負極組成θ
2fixに対応している。また、組成対応のずれは、初期状態における正極組成θ
1fixを基準とする。すなわち、正極組成θ
1fixおよび正極組成θ
1fix_iniは、同じ値とする。
【0071】
単電池11の劣化により、正極および負極の間における組成対応のずれが生じた場合において、単電池11の劣化後における正極組成θ
1fixおよび負極組成θ
2fixは、下記式(7),(8)の関係を有する。
【0072】
【数7】
【0073】
【数8】
【0074】
式(8)の意味について説明する。単電池11の劣化によって、正極組成θ
1が1からθ
1fixまで変化(減少)したときに、正極から放出されるリチウムの量Aは、下記式(9)によって表される。
【0075】
【数9】
【0076】
式(9)において、(1−θ
1fix)の値は、単電池11の劣化による正極組成の変化分を示す。(k
1×Q
1_ini)の値は、単電池11の劣化後における正極容量を示す。
【0077】
正極から放出されたリチウムが負極にすべて取り込まれるとすると、負極組成θ
2fixは、下記式(10)で表される。
【0078】
【数10】
【0079】
式(10)において、(k
2×Q
2_ini)の値は、単電池11の劣化後における負極容量を示している。
【0080】
正極および負極の間における組成対応のずれ(Δθ
2)が存在するときには、負極組成θ
2fixは、下記式(11)で表される。
【0081】
【数11】
【0082】
組成対応のずれ量Δθ
2は、式(6)に示すように、組成対応のずれ容量ΔQ
sを用いて表すことができる。これにより、負極組成θ
2fixは、上記式(8)で表される。
【0083】
図9に示すように、単電池11が劣化状態にあるときの開放電圧OCVは、劣化状態における正極開放電位U
11および負極開放電位U
22の電位差として表される。すなわち、3つの劣化パラメータk
1,k
2,ΔQ
sを推定すれば、単電池11が劣化状態にあるときの負極開放電位U
22を特定できる。そして、負極開放電位U
22および正極開放電位U
11の電位差として、開放電圧OCVを算出することができる。
【0084】
本実施例では、3つの劣化パラメータを用いて、リチウムの析出を推定することができる。単電池11の劣化には、リチウムの析出による劣化と、摩耗による劣化とが含まれる。摩耗による劣化とは、単電池11の劣化のうち、リチウムの析出による劣化を除く劣化である。摩耗による劣化では、通電や放置等によって正極および負極の性能(リチウムの受け入れ能力)が低下する。摩耗による劣化としては、例えば、正極や負極の活物質が摩耗することが挙げられる。また、リチウムの析出による劣化では、電池反応に用いられるリチウムイオンが副生成物(主には金属リチウム)に変化して、リチウムイオンが電池反応に寄与しなくなる。
【0085】
リチウムが析出するということは、例えば、充電時において正極から放出されたリチウムイオンが負極に取り込まれない場合が考えられる。この場合には、正極および負極の間における組成対応がずれることになり、ずれ容量ΔQ
sが変化することになる。また、リチウムの析出だけが発生している状態では、正極および負極におけるリチウムの受け入れ能力は低下しないため、容量維持率k
1、k
2は「1」に維持される。
【0086】
一方、摩耗による劣化が発生しているときには、3つの劣化パラメータのすべてが、初期状態の値に対してずれることになる。すなわち、容量維持率k
1、k
2は「1」以外の値に変化し、ずれ容量ΔQ
sは、「0」以外の値に変化する。
【0087】
したがって、組成対応のずれ容量ΔQ
sだけが「0」以外の値に変化しているときには、単電池11の内部において、リチウムの析出による劣化だけが発生していると考えることができる。リチウムの析出量に応じて、ずれ容量ΔQ
sが変化することになるため、ずれ容量ΔQ
sおよびリチウムの析出量の対応関係を予め実験によって求めておけば、ずれ容量ΔQ
sに基づいて、リチウムの析出量を推定することができる。
【0088】
次に、本実施例において、リチウムの析出量を推定する処理について、
図10に示すフローチャートを用いて説明する。
図10に示す処理は、コントローラ30によって実行される。
【0089】
ステップS201において、コントローラ30は、電圧センサ21の出力に基づいて、単電池11の開放電圧(実測値)OCVを測定する。電圧センサ21は、組電池10の電圧を検出しているため、組電池10の電圧を、単電池11の数で除算すれば、単電池11の開放電圧(実測値)OCVを取得できる。各単電池11に対して電圧センサ21を配置すれば、コントローラ30は、電圧センサ21の出力に基づいて、単電池11の開放電圧(実測値)OCVを取得できる。
【0090】
単電池11を充電しながら、開放電圧(実測値)OCVを測定することにより、開放電圧曲線(実測値)を得ることができる。開放電圧曲線とは、単電池11の容量の変化に対する開放電圧の変化を示す曲線である。単電池11では、リチウム析出による劣化および摩耗劣化が混在して発生しているものと仮定する。
【0091】
本実施例の電池システムにおいて、外部電源からの電力を組電池10に供給するようにすれば、単電池11を充電しながら、開放電圧(実測値)OCVを測定しやすくなる。外部電源とは、電池システムとは別に設けられた電源である。外部電源としては、例えば、商用電源を用いることができる。外部電源の電力を組電池10に供給するときには、本実施例の電池システムに、充電器を加えることができる。外部電源が交流電力を供給するとき、充電器は、外部電源からの交流電力を直流電力に変換し、直流電力を組電池10に供給する。
【0092】
ステップS202において、コントローラ30は、3つの劣化パラメータ(容量維持率k
1,k
2およびずれ容量ΔQ
s)を適宜変更しながら、3つの劣化パラメータによって特定される開放電圧(推定値)OCVが、ステップS201で得られた開放電圧(実測値)OCVに一致するか否かを判断する。
【0093】
具体的には、コントローラ30は、3つの劣化パラメータの任意の組み合わせを設定し、設定した劣化パラメータに基づいて、開放電圧(推定値)OCVを算出する。
図11は、開放電圧(推定値)OCVおよび開放電圧(実測値)OCVの関係を示す。
図11では、開放電圧(推定値)OCVを点線として示し、開放電圧(実測値)OCVを実線として示している。
【0094】
図11において、推定値1の開放電圧曲線が得られたときには、開放電圧(推定値)OCVが開放電圧(実測値)OCVよりも高くなっている。この場合、コントローラ30は、実測値の開放電圧曲線に近づくように、劣化パラメータを設定し直す。推定値2の開放電圧曲線が得られたときには、開放電圧(推定値)OCVが開放電圧(実測値)OCVよりも低くなっている。この場合、コントローラ30は、実測値の開放電圧曲線に近づくように、劣化パラメータを設定し直す。
【0095】
コントローラ30は、劣化パラメータの設定を繰り返して行うことにより、開放電圧(推定値)OCVを開放電圧(実測値)OCVに一致させる。開放電圧(推定値)OCVが開放電圧(実測値)OCVと完全に一致していなくても、一致していると見なせる範囲(許容誤差)を設定することができる。
【0096】
コントローラ30は、開放電圧(推定値)OCVを開放電圧(実測値)OCVに一致させたときの劣化パラメータを特定する。特定されたずれ容量ΔQ
sは、リチウム析出の劣化および摩耗劣化が混在しているときのずれ容量ΔQ
s(混在)である。
【0097】
ステップS203において、コントローラ30は、摩耗劣化だけに起因したずれ容量ΔQ
s(摩耗)を特定する。
図12に示すマップ(摩耗劣化マップ)を予め用意しておけば、ステップS202で特定された容量維持率k
1,k
2から、ずれ容量ΔQ
s(摩耗)を特定できる。単電池11に摩耗劣化だけを発生させた状態において、ステップS202で説明した方法によって、容量維持率およびずれ容量Δを算出すれば、
図12に示す摩耗劣化マップを取得することができる。単電池11を高温状態に維持すれば、リチウムの析出を抑制でき、摩耗による劣化だけを発生させることができる。単電池11を高温状態とするときの温度は、例えば、50℃に設定することができる。
【0098】
容量維持率k
1,k
2は、リチウム析出による劣化だけでは変化せず、摩耗劣化が発生しているときに変化する。したがって、ステップS202で得られた容量維持率k
1,k
2が1よりも小さいときには、容量維持率k
1,k
2は、摩耗劣化に起因した値であることが分かる。摩耗劣化マップは、摩耗劣化だけが発生しているときの容量維持率k
1,k
2およびずれ容量ΔQ
sの対応関係を示しているため、容量維持率k
1,k
2が分かれば、ずれ容量ΔQ
s(摩耗)を特定することができる。
【0099】
ステップS204において、コントローラ30は、ステップS202で得られたずれ容量ΔQ
s(混在)と、ステップS203で得られたずれ容量ΔQ
s(摩耗)との差分を求める。この差分は、リチウム析出の劣化によるずれ容量ΔQ
s(Li析出)となる。
【0100】
ステップS205において、コントローラ30は、ステップS204で得られたずれ容量ΔQ
s(Li析出)から、リチウムの析出量を特定する。ずれ容量ΔQ
s(Li析出)およびリチウムの析出量の対応関係を予め求めておけば、この対応関係を用いて、リチウムの析出量を特定することができる。
【0101】
次に、上限温度に基づいて、組電池10の入出力(充放電)を制御する方法について、
図13を用いて説明する。組電池10の入出力を制御するときには、上限温度に応じた上限電力が設定される。上限電力とは、組電池10の入出力を許容する電力の上限値である。
【0102】
図13は、組電池10(単電池11)の温度と、組電池10の入出力に対応した上限電力との関係を示す。上限電力は、組電池10の入力および出力のそれぞれに対して設けられている。
図13の縦軸は、入出力の電力を示し、0から離れるほど、電力が高くなる。
図13の横軸は、組電池10の温度を示し、右に進むほど、温度が高くなる。
【0103】
上限温度が温度Tlimに設定されているとき、単電池11の温度が上限温度Tlimになると、コントローラ30は、入出力の上限電力を0[kW]に設定する。これにより、組電池10の入出力が行われなくなり、組電池10の充放電に伴う単電池11の発熱を抑制することができる。単電池11の発熱を抑制することにより、単電池11の温度が上限温度Tlim以上になるのを防止することができる。
【0104】
上限電力は、単電池11の温度が上限温度Tlimに近づくにつれて、低下させることができる。
図13に示す例では、単電池11の温度が温度Tr以上であるときに、上限電力を低下させている。温度Trは、上限温度Tlimよりも低い温度である。上限電力を低下させるときの変化率は、適宜設定することができる。変化率とは、温度変化に対する上限電力の変化を示す割合であり、温度Trおよび上限温度Tlimの範囲内における上限電力の傾きを示す。一方、温度Trよりも低い温度範囲では、上限電力が制限されていない。
【0105】
上限温度が温度Tlimよりも低い温度に設定されたときには、上限電力のラインを、
図13の矢印D1で示す方向にシフトさせればよい。上限温度が温度Tlimよりも高い温度に設定されたときには、上限電力のラインを、
図13の矢印D2で示す方向にシフトさせればよい。
【0106】
図13では、組電池10の入力および出力において、温度変化に対する上限電力の変化を等しくしているが、これに限るものではない。すなわち、組電池10の入力時における上限電力と、組電池10の出力時における上限電力とを、互いに異なる挙動とすることができる。
【0107】
組電池10の入出力における上限電力を決定すると、コントローラ30は、組電池10の出力電力が上限電力(出力用)を超えないように、組電池10の出力を制御する。具体的には、コントローラ30は、上限電力よりも低い範囲内において、組電池10の出力電力を変化させる。一方、コントローラ30は、組電池10の入力電力が上限電力(入力用)を超えないように、組電池10の入力を制御する。具体的には、コントローラ30は、上限電力よりも低い範囲内において、組電池10の入力電力を変化させる。
【0108】
図14に示すフローチャートを用いて、組電池10の充放電を制御する方法について説明する。
図14に示す処理は、コントローラ30によって実行される。
【0109】
ステップS301において、コントローラ30は、リチウムの析出量に応じた上限温度を取得する。ステップS302において、コントローラ30は、上限温度に基づいて、入出力の上限電力を決定する。ステップS303において、コントローラ30は、温度センサ23の出力に基づいて、組電池10の温度を取得する。ステップS304において、コントローラ30は、ステップS303で取得した温度に対応した上限電力に基づいて、組電池10の充放電を制御する。すなわち、コントローラ30は、組電池10の入出力時における電力が上限電力よりも高くならないように、組電池10の充放電を制御する。