特許第5835345号(P5835345)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5835345
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/08 20060101AFI20151203BHJP
   B60W 20/00 20060101ALI20151203BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20151203BHJP
   B60K 6/54 20071001ALI20151203BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20151203BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20151203BHJP
   B60L 11/14 20060101ALI20151203BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20151203BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20151203BHJP
   F16D 48/02 20060101ALI20151203BHJP
【FI】
   B60K6/20 320
   B60K6/48ZHV
   B60K6/54
   B60K6/20 310
   B60K6/20 360
   B60L11/14
   F02D29/02 321B
   B60W10/08
   B60W10/02
   B60W10/00 102
   F16D25/14 640S
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-547968(P2013-547968)
(86)(22)【出願日】2011年12月9日
(86)【国際出願番号】JP2011006888
(87)【国際公開番号】WO2013084269
(87)【国際公開日】20130613
【審査請求日】2014年5月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100072604
【弁理士】
【氏名又は名称】有我 軍一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140501
【弁理士】
【氏名又は名称】有我 栄一郎
(72)【発明者】
【氏名】出塩 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 光史
(72)【発明者】
【氏名】井上 雄二
(72)【発明者】
【氏名】江藤 真吾
(72)【発明者】
【氏名】道越 洋裕
【審査官】 山村 秀政
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/092856(WO,A1)
【文献】 特開2000−071815(JP,A)
【文献】 特開平11−082260(JP,A)
【文献】 特開2002−089417(JP,A)
【文献】 特開2008−254725(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/084269(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/08
B60K 6/48
B60K 6/54
B60L 11/14
B60W 10/02
B60W 10/04
B60W 10/06
B60W 20/00
F02D 29/02
F16D 48/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、
車輪に連結された電動機と、
油圧により作動し、前記内燃機関と前記電動機とを切り離す解放状態と、前記内燃機関と前記電動機とを接続する係合状態との間で伝達状態を切り替えるクラッチと、前記油圧を供給するよう前記電動機により駆動可能な機械式のオイルポンプと、を備え、
前記クラッチを前記係合状態にして前記電動機により前記内燃機関を始動する車両の制御装置であって、
前記車両の停止時において前記電動機により前記内燃機関を始動する際に、
前記電動機を、前記オイルポンプの吐出油圧で前記クラッチを係合させるのに必要な最低回転数以上で、かつ、前記内燃機関の初爆時の目標回転数より低い同期回転数で回転させてから、
前記クラッチを前記解放状態から前記係合状態にして、前記電動機および前記内燃機関の回転を同期させる一方、前記電動機のトルクを前記電動機による前記内燃機関の押しがけ始動を補償するトルク値に高め、
前記電動機により前記内燃機関のクランキング回転数を前記初爆時の目標回転数に上昇させ、前記電動機および前記内燃機関の回転が前記目標回転数で同期している状態で、前記内燃機関を初爆させることを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記電動機と前記車輪とを切り離す解放状態と、前記電動機と前記車輪とを接続する係合状態との間で伝達状態を切り替える車輪接断クラッチを備えるとともに、
少なくとも前記同期後は前記車輪接断クラッチを前記解放状態にすることを特徴とする請求項1に記載の車両の制御装置。
【請求項3】
前記電動機の回転開始時から前記車輪接断クラッチを前記解放状態にすることを特徴とする請求項2に記載の車両の制御装置。
【請求項4】
前記内燃機関の初爆後に、前記電動機のトルクを低下させて前記クラッチの伝達トルクを上昇させることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の車両の制御装置。
【請求項5】
前記同期回転数は、前記オイルポンプにより前記クラッチを作動させる回転数より高いことを特徴とする請求項4に記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境に配慮した自動車などの車両として、ハイブリッド車両が注目されている。ハイブリッド車両は、駆動力源として、ガソリンなどを燃料として駆動する内燃機関(以下、エンジンという)と、バッテリからの電力により駆動する電動機(以下、モータという)とを備えている。
【0003】
この種のハイブリッド車両では、例えばエンジンと、モータと、エンジンおよびモータの間を接続あるいは切断するクラッチと、制御ユニットとを備えてなる車両の制御装置を搭載したものが開発されている(例えば、特許文献1参照)。この車両の制御装置においてエンジンを始動させる際は、クラッチを接続し、モータによりエンジンをクランキングする。
【0004】
図5に示すように、制御ユニットは、停車時でエンジン停止中の例えばTにおいて、エンジン始動要求フラグがオンされると、エンジンをクランキングするためにモータを回転させ、モータ回転数Nを上昇させる。モータ回転数Nがエンジン始動のための目標回転数に達してから、例えばTにおいて、制御ユニットはクラッチのフラグをオンにし、クラッチを解放状態から係合状態に変更させる。
【0005】
エンジンを始動する際は、モータにおいて、クラッチが係合してエンジンを押し掛けする分だけモータの負荷となるトルクが増加する。このため、制御ユニットは、エンジンの押し掛けによりモータに増加すると見込まれる負荷の大きさを、クラッチの係合前に算出してモータの補償トルクTとして設定する。そして、制御ユニットは、クラッチの係合に合わせたタイミングで、モータの出力トルクを補償トルクTの分だけ増加するようにしている。
【0006】
図5に示すように、Tにおいてクラッチが解放状態から係合状態に変更されるのに伴って、クラッチトルクTが上昇する。制御ユニットは、モータの補償トルクTをクラッチトルクTより僅かに小さいままクラッチトルクTに追従するように上昇させる。
【0007】
また、クラッチが解放状態から係合状態に変更されるのに伴って、エンジンのクランク軸がクラッチを介してモータにより回転され、クランク軸の回転数、すなわちエンジン回転数Nが徐々に上昇する。例えばTにおいて、クラッチが完全係合すると、モータ回転数Nとエンジン回転数Nとがエンジン始動のための目標回転数で同期する。そして、エンジンがモータにより押し掛け始動されるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−201962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の車両の制御装置にあっては、クラッチのスリップによる摩擦損失が大きくなってしまうという問題があった。すなわち、図5に示すように、クラッチフラグがオンされてクラッチが解放状態から係合状態に変化し始めてスリップが始まる時Tからクラッチが完全係合するまでの間、図中斜線で示すクラッチによる摩擦損失であるクラッチロスが発生してしまう。
【0010】
ここで、モータが回転し始めてからクラッチフラグがオンされるまでの区間をA区間、クラッチが解放状態から係合状態にまで変化する区間をB区間、クラッチが完全係合してからエンジンの初爆までの区間をC区間とする。図6に示すように、A区間〜C区間の各区間でのモータの消費電力を比較すると、B区間では消費電力において図中斜線で示すクラッチロスの割合が大きくなった。
【0011】
また、本願発明者が鋭意研鑽を重ねた結果、B区間でのクラッチのスリップロスが大きい主な理由は、エンジン始動の際に、エンジン回転数Nとモータの回転数Nとをエンジン始動の目標回転数で同期させているからであると判明した。すなわち、エンジン回転数Nとモータの回転数Nとをエンジン始動の目標回転数で同期させることにより、クラッチのスリップは、エンジン回転数が0から目標回転数に達するまでの広い範囲で発生するので、クラッチロスが大きくなってしまうことが判明した。
【0012】
エンジン始動時のクラッチでのスリップによる摩擦損失が大きいことにより、エンジン始動時のモータの消費電力が大きくなってしまう。これにより、バッテリの小型化が困難になってしまうとともに、燃費も悪化するという問題があった。
【0013】
本発明は、このような問題を解決するためになされたもので、エンジンとモータとの間にクラッチを備えた車両におけるモータによるエンジン始動時に、クラッチでのスリップによる摩擦損失を低減できる車両の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る車両の制御装置は、上記目的達成のため、内燃機関と、車輪に連結された電動機と、前記内燃機関と前記電動機とを切り離す解放状態と、前記内燃機関と前記電動機とを接続する係合状態との間で伝達状態を切り替えるクラッチと、を備え、前記クラッチを前記係合状態にして前記電動機により前記内燃機関を始動する車両の制御装置であって、前記車両の停止時において前記電動機により前記内燃機関を始動する際に、前記内燃機関を始動する目標回転数より低い同期回転数で前記クラッチを前記解放状態から前記係合状態にして前記内燃機関の回転と前記電動機の回転とを同期させ、同期後に前記電動機により前記内燃機関の回転数を前記目標回転数にまで上昇させてから、前記内燃機関を始動することを特徴とする。
【0015】
この構成により、エンジンを始動する際は、エンジンを始動する目標回転数より低い同期回転数でエンジンの回転とモータの回転とを同期させる。そして、同期後にモータによりエンジンの回転数を目標回転数にまで上昇させてから、エンジンを始動する。
【0016】
このため、クラッチでのスリップによる摩擦損失は、エンジン回転数が0から目標回転数よりも低い同期回転数で同期するまでの範囲で発生するようになる。これにより、クラッチロスの発生する範囲が従来のようにエンジン回転数が0から目標回転数に達するまでの広い範囲である場合に比べて狭い範囲になるので、クラッチロスを小さくすることができる。エンジン始動時のクラッチロスが小さくなることにより、モータの消費電力が小さくなるので、バッテリの小型化および燃費の向上を図ることができる。また、エンジン始動時のモータの消費電力が小さくなるので、特に低温下のようにバッテリ出力が低下する状況であってもエンジンの始動性を向上することができる。
【0017】
ここで、本願明細書中では、エンジンとモータとの間のクラッチの解放状態とは、エンジンとモータとを完全に切断する状態を意味している。また、本願明細書中では、エンジンとモータとの間のクラッチの係合状態とは、エンジンとモータとを滑りなく接続する完全係合の他、半クラッチのようにエンジンとモータとの間で滑りを生ずる状態をも含む意味としている。
【0018】
また、本発明による車両の制御装置は、前記電動機と前記車輪とを切り離す解放状態と、前記電動機と前記車輪とを接続する係合状態との間で伝達状態を切り替える車輪接断クラッチを備えるとともに、少なくとも前記同期後は前記車輪接断クラッチを前記解放状態にすることを特徴とする。
【0019】
この構成により、エンジンの回転とモータの回転との同期後に車輪側の負荷を切り離すことができるので、モータの出力トルクを確保することができる。このため、エンジンの回転とモータの回転との同期後にエンジンを押し掛けるための負荷トルクがモータに対して作用した時に、モータは回転数を低下させることなくエンジンを押し掛けできる。
【0020】
また、本発明による車両の制御装置は、前記電動機の回転開始時から前記車輪接断クラッチを前記解放状態にすることを特徴とする。
【0021】
この構成により、エンジン始動の際にモータが回転を開始した時から、車輪側の負荷を切り離してモータの出力トルクを確保することができる。このため、モータを同期回転数にまで上昇させるための消費電力と、エンジンをモータに同期させるための消費電力とを低減することができる。よって、モータの消費電力が小さくなるので、バッテリの小型化および燃費の向上を図ることができる。
【0022】
また、本発明による車両の制御装置は、前記電動機により駆動される機械式のオイルポンプを備えるとともに、前記クラッチは前記オイルポンプから吐出された作動油により作動されることを特徴とする。
【0023】
この構成により、電気式のオイルポンプを設ける必要が無いので、電気式のオイルポンプを用いる場合に比べて電気系統を簡素化することができる。また、変速段の切り替えのために機械式のオイルポンプを備えた例えば自動変速機を使用している場合は、そのオイルポンプを共用することができるので、部品点数の増加を抑制できる。
【0024】
また、本発明による車両の制御装置は、前記同期回転数は、前記オイルポンプにより前記クラッチを作動させる回転数より高いことを特徴とする。この構成により、オイルポンプを駆動してクラッチを作動させるための最低限の回転数を同期回転数として設定できるので、クラッチの作動を確保しながらもクラッチロスを極力小さくすることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、エンジンとモータとの間にクラッチを備えた車両におけるモータによるエンジン始動時に、クラッチでのスリップによる損失を低減できる車両の制御装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施の形態に係る車両の制御装置を搭載した駆動装置を示す概略のスケルトン図である。
図2】本発明の実施の形態に係る車両の制御装置の制御ユニットを示す概略図である。
図3】本発明の実施の形態に係る車両の制御装置の動作を示すフローチャートである。
図4】本発明の実施の形態に係る車両の制御装置の動作を示すタイムチャートである。
図5】従来の車両の制御装置の動作を示すタイムチャートである。
図6】従来の車両の制御装置の動作の図5に示すA区間〜C区間の各区間での消費電力を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本実施の形態は、本発明をハイブリッド車両用の駆動装置に適用したものである。
【0028】
まず、構成について説明する。
【0029】
図1および図2に示すように、駆動装置1は、エンジン10と、駆動ユニット20と、自動変速機30と、制御ユニット40とを備えている。本実施の形態では、駆動装置1のエンジン10の方向をエンジン側E、駆動装置1の自動変速機30の方向を自動変速機側Tとしている。
【0030】
エンジン10は、ガソリンあるいは軽油などの炭化水素系の燃料と空気との混合気を、図示しない燃焼室内で燃焼させることによって動力を出力する公知の動力装置により構成されている。エンジン10は、本発明の内燃機関を構成している。エンジン10は、燃焼室内で混合気の吸気と燃焼と排気とを繰り返すことにより図示しないシリンダブロック内の図示しないピストンを往復動させ、ピストンと動力伝達可能に連結されたクランクシャフト11を回転させるようになっている。エンジン10は、クランクシャフト11から駆動ユニット20にトルクを伝達するようになっている。
【0031】
クランクシャフト11には、エンジン回転数センサ19が設けられている。エンジン回転数センサ19は、クランクシャフト11の回転数を検出して制御ユニット40に入力するようになっている。
【0032】
駆動ユニット20は、入力部21と、クラッチ22と、ワンウェイクラッチ23と、モータジェネレータ24と、出力部27と、ケース部28とを備えている。モータジェネレータ24は、本発明における電動機を構成している。駆動ユニット20は、エンジン10と自動変速機30との間に介在されるとともに、エンジン10のクランクシャフト11からの動力を自動変速機30の後述する変速機入力軸31に伝達するようになっている。
【0033】
入力部21は、クラッチ入力軸212を備えている。クラッチ入力軸212は、クランクシャフト11と同軸に設けられている。クラッチ入力軸212は、クラッチ22およびワンウェイクラッチ23に一体回転可能に連結されるとともに、クラッチ22およびワンウェイクラッチ23に動力を伝達するようになっている。
【0034】
出力部27は、クラッチ出力軸270を備えている。クラッチ出力軸270は、クラッチ入力軸212と同軸に設けられている。クラッチ出力軸270は、クラッチ22およびワンウェイクラッチ23に一体回転可能に連結されるとともに、クラッチ22およびワンウェイクラッチ23の動力を外部に伝達するようになっている。クラッチ出力軸270は、自動変速機30の変速機入力軸31に一体回転可能に連結されるとともに、駆動ユニット20の出力を自動変速機30に伝達するようになっている。
【0035】
モータジェネレータ24は、ステータ240と、ロータ241とを備えている。モータジェネレータ24は、クランクシャフト11と変速機入力軸31との動力伝達経路に介在されている。
【0036】
ステータ240は、ステータコアと、ステータコアに巻回される三相コイルとを備えている。ステータコアは、例えば、電磁鋼板の薄板を積層して形成されるとともに、ケース部28に固定されている。ステータ240は、三相コイルへの通電により回転磁界を形成するようになっている。
【0037】
ロータ241は、ステータ240の内部に配置されるとともに、複数個の永久磁石が埋め込まれて形成されている。ロータ241には、モータ回転数センサ243が設けられている。モータ回転数センサ243は、ロータ241の回転数を検出することにより、モータジェネレータ24の回転数を検出して制御ユニット40に入力するようになっている。
【0038】
モータジェネレータ24は、ロータ241に埋め込まれた永久磁石による磁界と三相コイルによって形成される磁界との相互作用により、ロータ241を回転駆動する電動機として動作するようになっている。また、モータジェネレータ24は、ロータ241に埋め込まれた永久磁石による磁界とロータ241の回転との相互作用により、三相コイルの両端に起電力を生じさせる発電機としても動作するようになっている。
【0039】
モータジェネレータ24は、インバータ46に接続されている。インバータ46はバッテリ47に接続されている。このため、モータジェネレータ24は、インバータ46を介してバッテリ47との間で電力のやり取りを行うようになっている。バッテリ47は、ハイブリッド車両の運転状況に応じて、モータジェネレータ24から生じた電力を充電したり、あるいは放電したりするようになっている。
【0040】
インバータ46からモータジェネレータ24への電力ラインには、MG電流センサ461が取り付けられている。MG電流センサ461は、相電流を検出して制御ユニット40に入力するようになっている。バッテリ47の出力端子間にはバッテリ電圧センサ471が取り付けられている。バッテリ電圧センサ471は、バッテリ47の出力電圧を検出して制御ユニット40に入力するようになっている。バッテリ47の出力端子には、バッテリ電流センサ472が取り付けられている。バッテリ電流センサ472は、バッテリ47の充放電電流を検出して制御ユニット40に入力するようになっている。バッテリ47には、バッテリ温度センサ473が取り付けられている。バッテリ温度センサ473は、バッテリ温度を検出して制御ユニット40に入力するようになっている。
【0041】
クラッチ22は、図示しない多板部と、図示しないピストン部とを備えている。クラッチ22は、入力部21と出力部27との間に設けられている。クラッチ22は、クランクシャフト11と変速機入力軸31との間に設けられるとともに、クランクシャフト11と変速機入力軸31との間を接続したり切断したりするようになっている。すなわち、クラッチ22は、エンジン10とモータジェネレータ24とを切り離す解放状態と、エンジン10とモータジェネレータ24とを接続する係合状態との間で伝達状態が切り替わるようになっている。
【0042】
クラッチ22は、ノーマリーオープン型となっている。クラッチ22は、通常は解放されていてエンジン10とモータジェネレータ24との接続を切断している。また、クラッチ22は、自動変速機30の後述するオイルポンプ34から高圧の作動油が供給されることにより作動して、エンジン10とモータジェネレータ24とを接続するようになっている。クラッチ22は、モータジェネレータ24の内周部に設けられている。
【0043】
クラッチ22の多板部は、複数の摩擦プレートを備えている。ピストン部による押圧力が強い場合は、隣接する摩擦プレート同士が互いに強く押し付けられる。これにより、クラッチ22は、互いの摩擦プレート間の摩擦力により自由な回転が規制されるようになり、完全係合の状態になる。また、ピストン部による押圧力が余り強くない場合は、隣接する摩擦プレート同士が互いにスリップする程度に押し付けられる。これにより、クラッチ22は、摩擦プレート同士が接して摩擦抵抗を有しながらも回転可能になり、半クラッチの状態になる。クラッチ22は、半クラッチの状態である場合は、摩擦プレート同士が接して摩擦抵抗を有しながらも回転して発熱する。この摩擦プレート同士の摩擦による発熱分は、クラッチ22の熱損失、すなわちクラッチロスとなる。
【0044】
ワンウェイクラッチ23は、クランクシャフト11と変速機入力軸31との間に設けられるとともに、クランクシャフト11から変速機入力軸31を介してモータジェネレータ24に正転方向の動力のみを伝達可能に接続されている。ここで、正転方向とは、クランクシャフト11の回転方向を意味する。また、ワンウェイクラッチ23は、モータジェネレータ24の内周部に設けられている。ワンウェイクラッチ23は、モータジェネレータ24の内周部でクラッチ22に対して軸方向に隣接して配置されている。
【0045】
クラッチ入力軸212には、入力軸回転数センサ29が取り付けられている。入力軸回転数センサ29は、クラッチ入力軸212の回転速度を検出して制御ユニット40に入力するようになっている。入力軸回転数センサ29は、例えばレゾルバである。
【0046】
自動変速機30は、変速機入力軸31と、トルクコンバータ32と、変速機構入力軸33と、オイルポンプ34と、変速機構35と、油圧制御装置36と、出力軸37と、ケース38とを備えている。自動変速機30は、モータジェネレータ24が連結されている。
【0047】
トルクコンバータ32は、循環する作動油の作用を利用する流体式で、駆動ユニット20のクラッチ出力軸270から伝達される駆動力を、変速機構入力軸33を介して変速機構35に伝達するようになっている。トルクコンバータ32は、タービンランナ90と、ポンプインペラ91と、フロントカバー92と、ステータ93と、ワンウェイクラッチ94と、中空軸95と、ロックアップクラッチ96とを備えている。
【0048】
タービンランナ90およびポンプインペラ91は、タービンランナ90がエンジン側Eに位置するように互いに対向して配置されている。タービンランナ90は、変速機構入力軸33に一体回転するように連結されている。ポンプインペラ91は、フロントカバー92を介して変速機入力軸31に一体回転するように連結されている。ケース38の内部には、作動油が供給されている。
【0049】
タービンランナ90およびポンプインペラ91の間の内周側には、ステータ93が設けられている。ステータ93には、ワンウェイクラッチ94を介して中空軸95が接続されている。中空軸95は、ケース38に固定されるとともに、内部に変速機構入力軸33を回転可能に収容している。
【0050】
ロックアップクラッチ96は、ロックアップピストン96aと、ロックアップピストン96aに接合された摩擦材96bとを備えている。車速が一定以上になって、ポンプインペラ91とタービンランナ90との回転数が近づくと、作動油が図1中に点線矢印で示すようにエンジン側Eに流れるようになっている。作動油は、ロックアップピストン96aをエンジン側Eに移動させ、摩擦材96bをフロントカバー92に押し当てるようになっている。
【0051】
ロックアップクラッチ96は、ロックアップピストン96aのエンジン側Eへの摺動により、係合状態に切り替わるようになっている。係合状態では、摩擦材96bがフロントカバー92に押し当てられて、摩擦材96bとフロントカバー92とが摩擦により結合するようになる。これにより、タービンランナ90とフロントカバー92とが一体回転するようになっている。ロックアップクラッチ96は、変速機入力軸31と変速機構入力軸33とを一体的に回転させることにより作動油のスリップを発生させないため、燃費を向上させることができる。
【0052】
また、ロックアップクラッチ96は、ロックアップピストン96aの自動変速機側Tへの摺動により、解放状態に切り替わるようになっている。解放状態では、摩擦材96bがフロントカバー92から離隔して、摩擦材96bとフロントカバー92とが別個に回転可能になる。これにより、タービンランナ90とフロントカバー92とが別個に回転するようになっている。
【0053】
オイルポンプ34は、ロータ340と、ハブ341と、ボデー342とを備えている。ハブ341は、円筒形状で、ロータ340とポンプインペラ91とを一体回転するように連結している。ボデー342は、ケース38に固定されている。このため、駆動ユニット20からの動力が、フロントカバー92からポンプインペラ91を介してロータ340に伝達され、オイルポンプ34が駆動されるようになっている。
【0054】
オイルポンプ34から吐出される作動油は、変速機構35に供給されるとともに、駆動ユニット20のクラッチ22にも供給されるようになっている(図1中、一点鎖線で示す)。オイルポンプ34は、油圧の供給により、変速機構35の変速段もしくは変速比の切り替えや、クラッチ22の締結を行うようになっている。
【0055】
オイルポンプ34とクラッチ22との間には、油圧調整バルブ39が設けられている。油圧調整バルブ39は、制御ユニット40からの信号に従い、オイルポンプ34からクラッチ22への作動油の供給量を調整するようになっている。
【0056】
オイルポンプ34と、油圧調整バルブ39とは、クラッチ切替手段を構成している。オイルポンプ34と、油圧調整バルブ39とは、クラッチ22を解放状態から係合状態に切り替えるようになっている。
【0057】
変速機構35は、複数のクラッチやブレーキを有している。図1では、変速機構入力軸33に直結して一体回転するC1クラッチ35aのみ図示する。このC1クラッチ35aは、本発明の車輪接断クラッチを構成する。
【0058】
変速機構35では、ハイブリッド車両の走行状況に応じて複数のクラッチやブレーキの係合および解放が、油圧制御装置36から供給される油圧によって切り替えられることで、所望のシフトレンジおよび変速段が形成される。変速機構35のシフトレンジとしては、例えば、N(ニュートラル)レンジ、D(ドライブ)レンジ、R(後進)レンジ、M(マニュアル)レンジ(シーケンシャルレンジ)、2(セカンド)レンジ、L(ロー)レンジ、B(ブレーキ)レンジ、S(スポーツ)レンジ、Ds(スポーツドライブ)レンジなどがある。
【0059】
変速機構35には、運転者がシフトレンジを切り替えるためのシフトレバー51が接続されている。シフトレバー51には、シフトポジションセンサ52が設けられている。シフトポジションセンサ52は、シフトレバー51のレンジ位置をシフトポジション信号として検出して制御ユニット40に入力するようになっている。
【0060】
変速機構入力軸33から伝達された駆動力は、変速機構35を経て出力軸37に伝達され、出力軸37から図示しないディファレンシャルを経て車輪に伝達されるようになっている。すなわち、モータジェネレータ24は車輪に連結されている。なお、本実施の形態の変速機構35は、有段式の変速機構で構成されているが、有段式に限られず、例えば無段式の変速機構で構成されるようにしてもよい。
【0061】
図2に示すように、制御ユニット40は、ハイブリッド用電子制御ユニット(Electronic Control Unit;以下、ECUという)41と、エンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)42と、モータ用電子制御ユニット(以下、モータECUという)43と、バッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)44と、トランスミッション用電子制御ユニット(以下、トランスミッションECUという)45とを備えている。制御ユニット40は、制御手段を構成している。
【0062】
ECU41は、CPU(Central processing unit)410と、処理プログラムなどを記憶するROM(Read only memory)411と、一時的にデータを記憶するRAM(Random access memory)412と、バックアップメモリ413と、入力ポート414と、出力ポート415と、通信ポート416とを備えている。ECU41は、ハイブリッド車両の制御を統括するようになっている。
【0063】
ECU41の入力ポート414には、冷却水温センサ18と、エンジン回転数センサ19と、入力軸回転数センサ29と、モータ回転数センサ243と、車速センサ50と、アクセルセンサ54と、シフトポジションセンサ52と、MG電流センサ461と、バッテリ電圧センサ471およびバッテリ電流センサ472と、バッテリ温度センサ473とが接続されている。
【0064】
冷却水温センサ18は、エンジン10の冷却水の温度を検出して制御ユニット40に入力するようになっている。エンジン10の停止時に冷却水温が所定の閾値より低い場合は、ECU41は、後述するバッテリ47の残容量(SOC:State of charge)が所定の閾値より低いことを検出するとともに、エンジン始動要求フラグをオンするようになっている。すなわち、冷却水温センサ18は、エンジン始動要求検出手段を構成している。
【0065】
車速センサ50は、車速信号を検出して制御ユニット40に入力するようになっている。アクセルセンサ54には、アクセルペダル53が接続されている。アクセルセンサ54は、アクセルペダル53が踏み込まれた踏み込み量を検出して、検出した踏み込み量に応じた検出信号をECU41に入力するようになっている。また、ECU41は、アクセルセンサ54から出力された検出信号が表すアクセルペダル53の踏み込み量から、アクセル開度Accを算出するようになっている。
【0066】
ECU41は、エンジンECU42と、モータECU43と、バッテリECU44と、トランスミッションECU45とに通信ポート416を介して接続されている。ECU41は、エンジンECU42と、モータECU43と、バッテリECU44と、トランスミッションECU45と各種制御信号やデータのやり取りを行うようになっている。
【0067】
エンジンECU42は、エンジン10およびECU41に接続されている。エンジンECU42は、エンジン10の運転状態を検出する各種センサから信号を入力するとともに、入力した信号に応じて燃料噴射制御や点火制御、吸入空気量調節制御などの運転制御を行うようになっている。
【0068】
エンジンECU42は、ECU41と通信するようになっている。エンジンECU42は、ECU41から入力される制御信号によりエンジン10を運転制御するとともに、必要に応じてエンジン10の運転状態に関するデータをECU41に出力するようになっている。
【0069】
モータECU43は、インバータ46およびECU41に接続されている。モータECU43は、モータジェネレータ24を駆動制御するようになっている。モータECU43は、モータジェネレータ24を駆動制御するために必要な信号を入力するようになっている。モータジェネレータ24を駆動制御するために必要な信号としては、例えば、モータジェネレータ24のモータ回転数センサ243から入力される信号や、MG電流センサ461により検出されるモータジェネレータ24に印加される相電流の信号などがある。モータECU43は、インバータ46へのスイッチング制御信号を出力するようになっている。
【0070】
モータECU43は、ECU41と通信するようになっている。モータECU43は、ECU41から入力される制御信号に応じてインバータ46を駆動制御することにより、モータジェネレータ24を駆動制御するようになっている。モータECU43は、必要に応じてモータジェネレータ24の運転状態に関するデータをECU41に出力するようになっている。
【0071】
バッテリECU44は、バッテリ47およびECU41に接続されている。バッテリECU44は、バッテリ47を管理している。バッテリECU44は、バッテリ47を管理するのに必要な信号を入力するようになっている。バッテリ47を管理するのに必要な信号としては、例えば、バッテリ電圧センサ471からの端子間電圧の信号や、バッテリ電流センサ472からの充放電電流の信号や、バッテリ温度センサ473からの電池温度の信号などがある。
【0072】
バッテリECU44は、ECU41と通信するようになっている。バッテリECU44は、必要に応じてバッテリ47の状態に関するデータをECU41に出力するようになっている。バッテリECU44は、バッテリ47を管理するために、バッテリ電流センサ472により検出された充放電電流の積算値に基づいて、SOCを演算するようになっている。
【0073】
バッテリECU44は、エンジン10の停止時にSOCが所定の閾値より低い場合は、SOCが所定の閾値より低いことを検出してECU41に出力する。そして、ECU41はエンジン始動要求フラグをオンするようになっている。すなわち、バッテリECU44は、冷却水温センサ18とともにエンジン始動要求検出手段を構成している。
【0074】
トランスミッションECU45は、自動変速機30およびECU41に接続されている。トランスミッションECU45は、トルクコンバータ32のロックアップクラッチ96を駆動制御したり、変速機構35の変速段を変更したりするようになっている。
【0075】
トランスミッションECU45は、ECU41と通信するようになっている。トランスミッションECU45は、ECU41からの信号に基づいて変速機構35の変速段を変更する変速制御を実行するようになっている。トランスミッションECU45は、必要に応じて変速機構35やトルクコンバータ32の運転状態に関するデータをECU41に出力するようになっている。
【0076】
上述したエンジン10と、モータジェネレータ24と、クラッチ22とは、クラッチ22を係合状態にしてモータジェネレータ24によりエンジン10を始動する車両の制御装置であって、本発明における車両の制御装置を構成している。本発明の車両の制御装置は、車両の停止時においてモータジェネレータ24によりエンジン10を始動する際に、エンジン10を始動する目標回転数より低い同期回転数でエンジン10の回転とモータジェネレータ24の回転とを同期させ、同期後にモータジェネレータ24によりエンジン10の回転数を目標回転数にまで上昇させてから、エンジン10を始動するようになっている。
【0077】
ECU41は、目標回転数および同期回転数を予め設定してRAM412に記録している。エンジン10を始動する目標回転数としては、例えば、1000rpm程度とすることができる。同期回転数は、目標回転数より低く、かつオイルポンプ34によりクラッチ22を作動させる回転数より高く設定されている。同期回転数としては、例えば、400rpm程度とすることができる。
【0078】
同期回転数は小さい方がクラッチロスを小さくできるとともにモータジェネレータ24の消費電力を小さくできるので好ましいが、クラッチ22を作動可能なだけの回転数は最低限必要となる。また、目標回転数の1000rpm、および同期回転数の400rmpは、それらに限定されないのは勿論である。ここでは、目標回転数および同期回転数を予め設定しているが、これには限られず、エンジン10を始動する時点での温度やSOCなどに応じてエンジン10を始動する度に適宜設定するようにしてもよい。
【0079】
また、本発明の車両の制御装置は、エンジン回転数センサ19と、モータ回転数センサ243と、エンジン10の始動要求を検出するエンジン始動要求検出手段と、モータジェネレータ24の回転数および出力トルクを制御するモータECU43と、クラッチ22を解放状態から係合状態に切り替えるクラッチ切替手段と、ECU41とを備えている。ECU41は、クラッチフラグを有するとともに、クラッチフラグをオンオフすることにより、クラッチ切替手段を制御するようになっている。
【0080】
ECU41は、エンジン始動要求検出手段からエンジン始動要求が入力された場合に、モータECU43を制御してモータ回転数Nを同期回転数まで上昇させ、クラッチ切替手段を制御してクラッチ22を係合状態に切り替えるようになっている。さらに、ECU41は、モータECU43を制御してモータジェネレータ24の補償トルクTを上昇させ、エンジン回転数Nを上昇させ、モータ回転数Nとエンジン回転数Nとを一致させて同期させるようになっている。ECU41は、モータ回転数Nとエンジン回転数Nとの同期後に、モータ回転数Nを目標回転数まで上昇させ、エンジン10に初爆させ押し掛け始動するようになっている。
【0081】
また、本発明の車両の制御装置は、モータジェネレータ24と車輪とを切り離す解放状態と、モータジェネレータ24と車輪とを接続する係合状態との間で伝達状態を切り替えるC1クラッチ35aと、C1クラッチ35aを解放状態と係合状態とに切り替えるATクラッチ切替手段とを備えている。ECU41は、ATクラッチフラグを有するとともに、ATクラッチフラグをオンオフすることにより、ATクラッチ切替手段を制御するようになっている。
【0082】
本発明の車両の制御装置では、少なくともモータ回転数Nとエンジン回転数Nとの同期後は、ECU41はATクラッチ切替手段を制御して、C1クラッチ35aを解放状態にするようになっている。また、本発明の車両の制御装置では、ECU41はクラッチ切替手段を制御して、モータジェネレータ24の回転開始時からC1クラッチ35aを解放状態にするようになっている。
【0083】
また、本発明の車両の制御装置は、モータジェネレータ24により駆動される機械式のオイルポンプ34を備えている。クラッチ22は、オイルポンプ34から吐出された作動油により作動されるようになっている。オイルポンプ34からの作動油の供給量は、ECU41により制御される油圧調整バルブ39によって調整されるようになっている。
【0084】
次に、作用について説明する。
【0085】
ここでは、ハイブリッド車両は停止している状態で、エンジン10およびモータジェネレータ24はいずれも停止しているとともに、イグニションスイッチはオンされている。
【0086】
図3に示すように、ECU41は、エンジン10の始動要求があるか否かを判断する(ステップS1)。エンジン10の始動要求がある場合としては、例えば、バッテリECU44によりSOCが不足していることが検出された場合や、冷却水温センサ18により検出された冷却水が所定の閾値より低温である場合などがある。
【0087】
ECU41は、バッテリECU44によりSOCが不足していることが検出された場合は、バッテリ47の充電量を高めるためにエンジン10を始動する。ECU41は、冷却水温センサ18により検出された冷却水が所定の閾値より低温である場合は、低温下でバッテリ47の性能が低下することを補うためにエンジン10を始動する。
【0088】
ECU41は、エンジン10の始動要求が無いと判断した場合は(ステップS1;NO)、ECU41は、処理をメインルーチンに戻す。ECU41は、エンジン10の始動要求があると判断した場合は(ステップS1;YES)、ECU41は、C1クラッチ35aのフラグ、すなわちATクラッチフラグをオフにする(ステップS2)。そして、ECU41は、ATクラッチ切替手段を制御し、C1クラッチ35aを係合状態から解放状態にしてスリップさせる。
【0089】
ECU41は、モータECU43を制御して、モータ回転数Nを同期回転数にまで上昇させる(ステップS3)。モータ回転数Nはモータ回転数センサ243により常時監視されてECU41に入力されるとともに、ECU41はフィードバック制御によりモータ回転数Nを調整している。
【0090】
ECU41は、モータ回転数Nが同期回転数で安定してから、クラッチ22のフラグ、すなわちクラッチフラグをオンにする(ステップS4)。これにより、ECU41は、クラッチ切替手段によりクラッチ22を制御し、クラッチ22を解放状態から係合状態に徐々に切り替える。
【0091】
クラッチ22がECU41により解放状態から係合状態に徐々に切り替わると、クラッチトルクTが上昇する(ステップS5)。ECU41は、モータECU43によりモータジェネレータ24の補償トルクTを上昇させる(ステップS6)。ここでは、ECU41は、補償トルクTをクラッチトルクTの上昇に合わせて、クラッチトルクTよりも僅かに小さくなるよう制御している。
【0092】
エンジン10のクランクシャフト11は、クラッチ22が解放状態から係合状態に徐々に切り替わるに伴って、モータジェネレータ24により連れ回され、エンジン回転数Nが上昇する(ステップS7)。エンジン回転数Nは、エンジン回転数センサ19により常時監視されてECU41に入力されている。
【0093】
ECU41は、エンジン回転数Nとモータ回転数Nとが同期したか否かを判断する(ステップS8)。この判断は、ECU41によりエンジン回転数Nとモータ回転数Nとが一致しているか否かにより決定される。ECU41は、エンジン回転数Nとモータ回転数Nとが同期していないと判断した場合は(ステップS8;NO)、ECU41は、クラッチトルクTが上昇するのを再度待つ(ステップS5)。
【0094】
ECU41は、エンジン回転数Nとモータ回転数Nとが同期したと判断した場合は(ステップS8;YES)、ECU41は、モータECU43を制御して、モータ回転数Nを目標回転数にまで上昇させる(ステップS9)。エンジン回転数Nとモータ回転数Nとは同期しているため、モータ回転数Nが目標回転数にまで上昇することに伴い、エンジン回転数Nもまた目標回転数にまで上昇する。エンジン回転数Nもまた目標回転数にまで達して回転が安定してから、エンジン10の初爆がなされてエンジン10が始動される(ステップS10)。
【0095】
上述した停止中のハイブリッド車両において、エンジン10およびモータジェネレータ24はいずれも停止しているとともにイグニションスイッチはオンされている時に、エンジン10の始動要求があった場合の動作を、図4に示すタイムチャートに沿って説明する。
【0096】
図4に示すように、エンジン10およびモータジェネレータ24の停止中は、クラッチフラグがオフであるとともに、クラッチ22は解放状態になっている。また、エンジン10およびモータジェネレータ24の停止中は、ATクラッチフラグはオンであるとともに、C1クラッチ35aは係合状態になっている。モータ回転数Nおよびエンジン回転数Nは0である。
【0097】
において、ECU41は、エンジン始動要求があったと判断すると、エンジン始動要求フラグをオンにするとともに、ATクラッチフラグをオフにする。ECU41は、ATクラッチ切替手段を制御し、C1クラッチ35aを係合状態から解放状態にしてスリップさせる。
【0098】
ECU41は、モータECU43によりモータジェネレータ24を制御して始動させる。モータジェネレータ24の始動により、モータ回転数Nが上昇する。ECU41は、モータ回転数Nが同期回転数にまで上昇してから、回転が安定するまで待機する。
【0099】
ECU41は、Tにおいてクラッチフラグをオンにする。ECU41は、クラッチ22を制御し、クラッチ22を解放状態から係合状態に徐々に切り替える。クラッチ22の切り替わりに伴い、クラッチトルクTが上昇する。ECU41は、モータECU43によりモータジェネレータ24の補償トルクTを上昇させる。
【0100】
クラッチ22は、Tにおいてスリップを開始すると、図中斜線で示すクラッチロスが発生する。また、エンジン10のクランクシャフト11は、モータジェネレータ24によりクラッチ22を介して連れ回され、エンジン回転数Nが上昇する。
【0101】
クラッチ22は、Tにおいて完全係合すると、エンジン回転数Nとモータ回転数Nとが同期する。これにより、クラッチロスは0になる。ECU41は、モータECU43を制御して、モータ回転数Nを目標回転数にまで上昇させる。
【0102】
モータ回転数Nおよびエンジン回転数Nは、Tにおいて目標回転数にまで達する。エンジン10は、エンジン回転数Nが目標回転数で安定してから、初爆がなされて始動される。
【0103】
ハイブリッド車両が駐車などで停止するとともにエンジン10が停止している場合には、オイルポンプ34が停止しているため、クラッチ22のピストン部にはオイルポンプ34から作動油が供給されない。このため、戻りばねの付勢力によりピストンが多板部から離れており、クラッチ22は解放状態となっている。このとき、変速機構35のシフト位置はニュートラルであるようにしている。また、油圧調整バルブ39は開放しておく。
【0104】
ハイブリッド車両が駐車などで停止するとともにエンジン10が停止している場合にエンジン10を始動するには、モータジェネレータ24に電力を供給する。モータジェネレータ24への電力の供給により、モータジェネレータ24のロータ241が回転する。ロータ241の駆動力は、ロータケース→ドラム→スリーブ→クラッチ出力軸270→トルクコンバータ32という経路を経て、オイルポンプ34に伝達される。
【0105】
ここで、ロータケースが回転しても、クラッチ22およびワンウェイクラッチ23は、解放されているので、モータジェネレータ24の動力はエンジン10に伝わることはない。また、トルクコンバータ32の回転により変速機構35の変速機構入力軸33が回転するが、変速機構35のシフト位置がニュートラルであるので、変速機構35の出力軸37は回転しない。
【0106】
オイルポンプ34から吐出された作動油は、クラッチ22に供給される。ピストンが多板部側に摺動し、多板部が軸方向に押圧されて、クラッチ22が締結される。よって、ロータ241の駆動力が、ロータケース→多板部→ハブ部→入力部21という経路を経て、クランクシャフト11に伝達される。これにより、エンジン10が始動される。
【0107】
エンジン10の始動後の車両発進時には、エンジン10の駆動力は、クランクシャフト11→入力部21→ハブ部→クラッチ22→ロータケース→ドラム→スリーブ→クラッチ出力軸270という経路を経て、自動変速機30に伝達される。動力が自動変速機30に伝達されることにより、オイルポンプ34が駆動されるので、作動油がクラッチ22に供給され続けて、クラッチ22の締結が維持される。そして、変速機構35のシフト位置を前進または後進とする。よって、クランクシャフト11の動力が自動変速機30から車輪に伝達されて、ハイブリッド車両が発進する。
【0108】
また、ハイブリッド車両が駐車などで停止するとともにエンジン10が停止している場合には、上述のようにクラッチ22のピストン部にはオイルポンプ34から作動油が導入されないので、クラッチ22は解放されている。
【0109】
ここで、モータジェネレータ24の駆動力のみで発進する場合には、モータジェネレータ24に電力を供給する。モータジェネレータ24への電力の供給により、モータジェネレータ24のロータ241が回転する。ロータ241の駆動力は、ロータケース→ドラム→クラッチ出力軸270→トルクコンバータ32という経路を経て、オイルポンプ34に伝達される。
【0110】
ロータケースが回転しても、クラッチ22およびワンウェイクラッチ23は、解放されているので、モータジェネレータ24の動力はエンジン10に伝わることはない。また、油圧調整バルブ39は閉塞しておく。これにより、オイルポンプ34からの作動油はクラッチ22に供給されることはない。
【0111】
トルクコンバータ32の回転に伴い変速機構35の変速機構入力軸33が回転する。そして、変速機構35のシフト位置を前進または後進とする。よって、クランクシャフト11の動力が自動変速機30から車輪に伝達されて、ハイブリッド車両が発進する。
【0112】
以上のように、本実施の形態に係る車両の制御装置によれば、エンジン10を始動する際は、目標回転数より低い同期回転数でエンジン回転数Nとモータ回転数Nとを同期させる。そして、同期後にモータジェネレータ24によりエンジン回転数Nを目標回転数にまで上昇させてから、エンジン10を始動する。
【0113】
これにより、クラッチ22でのスリップによる摩擦損失は、エンジン回転数が0でスリップが開始した時点Tから同期回転数で同期する時点Tまでの範囲で発生するようになる。このため、クラッチロスの発生する範囲が、図4中二点鎖線で示す従来のようにエンジン回転数が0でスリップが開始した時点Tから目標回転数に達する時点Tまでの広い範囲である場合に比べ、狭い範囲になる。
【0114】
これにより、クラッチロスを小さくすることができ、モータジェネレータ24の消費電力が小さくなるので、バッテリ47の小型化および燃費の向上を図ることができる。また、エンジン10の始動時のモータジェネレータ24の消費電力が小さくなるので、特に低温下のようにバッテリ47の出力が低下する状況であってもエンジン10の始動性を向上することができる。
【0115】
また、本実施の形態に係る車両の制御装置によれば、モータジェネレータ24の回転開始時TからC1クラッチ35aが解放状態にされる。このため、ECU41がモータジェネレータ24が回転を開始した時Tから車輪側の負荷を切り離すので、モータジェネレータ24の出力トルクを確保することができる。
【0116】
よって、モータジェネレータ24を同期回転数にまで上昇させる消費電力と、エンジン回転数Nを上昇させてモータ回転数Nに同期させる消費電力と、同期後にモータジェネレータ24によりエンジン10を押し掛けする消費電力とを低減することができる。モータジェネレータ24の消費電力が小さくなることにより、バッテリ47の小型化および燃費の向上を図ることができる。
【0117】
また、本実施の形態に係る車両の制御装置によれば、モータジェネレータ24により駆動される機械式のオイルポンプ34を備えるとともに、クラッチ22はオイルポンプ34から吐出された作動油により作動される。このため、電気式のオイルポンプを設ける必要が無いので、電気式のオイルポンプを用いる場合に比べて電気系統を簡素化することができる。また、自動変速機30に搭載された機械式のオイルポンプ34をクラッチ22の作動のために共用することができるので、部品点数の増加を抑制できる。
【0118】
また、本実施の形態に係る車両の制御装置によれば、同期回転数はオイルポンプ34によりクラッチ22を作動させる回転数より高いものとしている。このため、オイルポンプ34を駆動してクラッチ22を作動させるための最低限の回転数を同期回転数として設定できるので、クラッチ22の作動を確保しながらもクラッチロスを極力小さくすることができる。
【0119】
上述した本実施の形態の車両の制御装置においては、C1クラッチ35aを解放状態にするタイミングをモータジェネレータ24の回転開始時Tとしている。しかしながら、本発明に係る車両の制御装置においては、これに限られず、エンジン回転数Nとモータ回転数Nとを同期させた時点Tとしてもよい。この場合も、同期後にモータジェネレータ24によりエンジン10を押し掛けする消費電力を低減することができる。
【0120】
また、本実施の形態の車両の制御装置においては、車輪接断クラッチを、変速機構35の変速機構入力軸33に直結して一体回転するC1クラッチ35aとした。しかしながら、本発明に係る車両の制御装置においては、これに限られず、車輪接断クラッチを、変速機構35のC1クラッチ35aよりも車輪側、すなわち出力軸37側の他のクラッチとしてもよい。あるいは、車輪接断クラッチを、自動変速機30に搭載される他のクラッチとしてもよい。
【0121】
また、本実施の形態の車両の制御装置においては、車輪接断クラッチを所定のタイミングで解放状態にしている。しかしながら、本発明に係る車両の制御装置においては、これに限られず、車輪接断クラッチを解放状態にしなくてもよい。この場合、制御を簡素化することができる。
【0122】
また、本実施の形態の車両の制御装置においては、クラッチ22とワンウェイクラッチ23とはロータ241の内周部で並設した構成としている。しかしながら、本発明に係る車両の制御装置においては、これに限られず、クラッチ22とワンウェイクラッチ23とはロータ241の内周部で軸方向にオーバーラップした構成であってもよい。
【0123】
以上のように、本発明に係る車両の制御装置は、エンジンとモータとの間にクラッチを備えた車両におけるモータによるエンジン始動時に、クラッチでのスリップによる損失を低減できるという効果を奏するものであり、ハイブリッド車両の制御装置に有用である。
【符号の説明】
【0124】
1 駆動装置
10 エンジン
20 駆動ユニット
22 クラッチ
24 モータジェネレータ
30 自動変速機
32 トルクコンバータ
34 オイルポンプ
35 変速機構
35a C1クラッチ
40 制御ユニット
41 ECU

図1
図2
図3
図4
図5
図6