特許第5835361号(P5835361)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5835361
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】トロイダル型無段変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 15/38 20060101AFI20151203BHJP
【FI】
   F16H15/38
【請求項の数】6
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2013-556529(P2013-556529)
(86)(22)【出願日】2013年2月4日
(86)【国際出願番号】JP2013052469
(87)【国際公開番号】WO2013115396
(87)【国際公開日】20130808
【審査請求日】2014年6月19日
(31)【優先権主張番号】特願2012-21944(P2012-21944)
(32)【優先日】2012年2月3日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-18001(P2013-18001)
(32)【優先日】2013年2月1日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-18003(P2013-18003)
(32)【優先日】2013年2月1日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-18005(P2013-18005)
(32)【優先日】2013年2月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】特許業務法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大黒 優也
(72)【発明者】
【氏名】西井 大樹
(72)【発明者】
【氏名】横山 将司
(72)【発明者】
【氏名】後藤 伸夫
(72)【発明者】
【氏名】豊田 俊郎
【審査官】 稲葉 大紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−174539(JP,A)
【文献】 特開2008−025821(JP,A)
【文献】 特開2001−012574(JP,A)
【文献】 特開2004−084803(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 15/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面円弧形のトロイド曲面である互いの軸方向片側面同士を対向させた状態で、互いに同心に、相対回転を可能に支持されている、少なくとも1対のディスクと、当該ディスクの軸方向側面同士の間で周方向の複数箇所に設けられた、複数のトラニオンとパワーローラとスラスト転がり軸受との組み合わせを備え、
それぞれの前記トラニオンと前記パワーローラと前記スラスト転がり軸受の組み合わせにおいて、
前記トラニオンは、その両端部に互いに同心に、かつ、軸方向に関して前記ディスクの中心軸に対し捩れの位置に設けられた1対の傾転軸と、これらの傾転軸同士の間に存在し、少なくとも前記ディスクの径方向に関する内側の側面を、当該傾転軸の中心軸と平行で当該傾転軸の中心軸よりも前記ディスクの径方向に関して外側に存在する中心軸を有する、円筒状凸面とした支持梁部とを備え、前記傾転軸を中心とする揺動変位が自在となっており、
前記パワーローラは、前記トラニオンの内側面に、前記スラスト転がり軸受を介して回転自在に支持され、球状凸面とした周面を、前記ディスクの両方の軸方向片側面に当接させており、
前記スラスト転がり軸受は、前記トラニオンの支持梁部と前記パワーローラの外側面との間に設けられ、前記支持梁部側に設けられた外輪と、当該外輪の内側面に設けられた外輪軌道と前記パワーローラの外側面に設けられた内輪軌道との間に転動自在に、複数個ずつ設けられた転動体とを備え、
前記スラスト転がり軸受の外輪は、当該外輪の外側面に設けられた凹部と前記支持梁部の円筒状凸面とを係合させることにより、前記トラニオンに対し、前記ディスクの軸方向に関する揺動変位を可能に支持されると共に、前記凹部の内面に、前記支持梁部を中心とする周方向に形成され、開口部の幅が広く底部の幅が狭いテーパ溝である凹溝と、前記支持梁部の外周面に形成され、基部の幅が広く先端部の幅が狭いテーパ突条との係合により、前記支持梁部の軸方向の変位を制限されている、
トロイダル型無段変速機。
【請求項2】
前記凹溝の内側面と前記突条の外側面とのうちの少なくとも一方の側面の断面形状が、他方の側面に向けて突出する方向に湾曲した部分円弧である、請求項1に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項3】
前記部分円弧の曲率半径が2mm以上である、請求項2に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項4】
前記パワーローラがトルクを伝達せず、前記支持梁部と前記外輪とが弾性変形していない状態で、当該支持梁部の軸方向に関して、前記凹溝の幅が前記突条の幅よりも、当該支持梁部の径方向に関する位置が互いに一致する部分で大きく、かつ、前記外輪が前記支持梁部に対して、当該支持梁部の軸方向に変位可能な量であるがたつきが、0.100mm以下である、請求項1に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項5】
前記がたつきを0.100mm以下に抑えるために、前記凹溝の内面と前記突条の外面とのうちの少なくとも一方の面に、当該面に沿った部分円弧状に形成されたスペーサが挟持されている、請求項4に記載のトロイダル型無段変速機。
【請求項6】
前記支持梁部の外周面の一部で前記突条を軸方向両側から挟む部分に、径方向に凹んだ逃げ凹部が形成されており、当該逃げ凹部の底面と前記凹部の内周面との間に弾性を有するシール材が充填されている、請求項1に記載のトロイダル型無段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両用の自動変速機、建設機械用の自動変速機、航空機などで使用される発電機用の自動変速機、およびポンプなどの各種産業機械の運転速度を調節するための自動変速機として利用される、ハーフトロイダル型のトロイダル型無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2003−214516号公報、特開2007−315595号公報、特開2008−25821号公報および特開2008−275088号公報などに記載されているように、自動車用変速装置としてハーフトロイダル型のトロイダル型無段変速機を使用することは、周知である。また、特開2004−169719号公報などには、トロイダル型無段変速機と遊星歯車機構とを組み合わせて、変速比の調整幅を広くする構造が記載されている。
【0003】
図21および図22は、トロイダル型無段変速機の従来構造の第1例を示している。この従来構造の第1例では、入力回転軸1の両端寄り部分の周囲に、1対の入力ディスク2を、トロイド曲面である内側面同士を互いに対向させた状態で、入力回転軸1と同期した回転を可能に支持している。また、入力回転軸1の中間部周囲に出力筒3を、入力回転軸1に対する回転を可能に支持している。また、出力筒3の外周面の軸方向中央部に出力歯車4を固設し、かつ、出力筒3の外周面の軸方向両端部に1対の出力ディスク5を、スプライン係合により、出力筒3と同期した回転を可能に支持している。また、この状態で、トロイド曲面である、1対の出力ディスク5の内側面を、入力ディスク2の内側面に対向させている。
【0004】
また、入力ディスク2と出力ディスク5との間に、周面を球状凸面とした複数個のパワーローラ6を挟持している。パワーローラ6は、トラニオン7に回転自在に支持されており、トラニオン7は、入力ディスク2および出力ディスク5の中心軸に対し捩れの位置にある傾転軸8を中心とする揺動変位自在に支持されている。すなわち、トラニオン7は、その軸方向両端部に互いに同心に設けられた1対の傾転軸8と、傾転軸8同士の間に存在する支持梁部9とを備えており、傾転軸8が、支持板10に対し、ラジアルニードル軸受11を介して枢支されている。
【0005】
また、パワーローラ6は、トラニオン7の支持梁部9の内側面に、基半部と先半部とが互いに偏心した支持軸12と、複数の転がり軸受とを介して、支持軸12の先半部回りの回転、および、支持軸12の基半部を中心とする若干の揺動変位を可能に支持されている。すなわち、パワーローラ6の外側面と、トラニオン7の支持梁部9の内側面との間に、スラスト玉軸受13と、スラストニードル軸受14とを、パワーローラ6の側から順に設けている。スラスト玉軸受13は、パワーローラ6に加わるスラスト方向の荷重を支承しつつ、パワーローラ6の支持軸12の先半部回りの回転を許容するためのものである。スラスト玉軸受13は、パワーローラ6の外側面に形成された内輪軌道15と、外輪16の内側面に形成された外輪軌道17との間に複数個の玉18を、転動可能に設けることにより構成される。また、スラストニードル軸受14は、パワーローラ6からスラスト玉軸受13を構成する外輪16に加わるスラスト荷重を支承しつつ、外輪16および支持軸12の先半部が、支持軸12の基半部を中心に揺動することを許容するものである。
【0006】
このようなトロイダル型無段変速機の運転時には、駆動軸19により一方(図21の左方)の入力ディスク2を、押圧装置20を介して回転駆動する。この結果、入力回転軸1の両端部に支持された1対の入力ディスク2が、互いに近づく方向に押圧されつつ同期して回転する。そして、1対の入力ディスク2の回転は、パワーローラ6を介して1対の出力ディスク5に伝わり、出力歯車4から取り出される。入力回転軸1と出力歯車4との間の変速比を変える場合は、油圧式のアクチュエータ21によりトラニオン7を傾転軸8の軸方向に変位させる。この結果、パワーローラ6の周面と、入力ディスク2および出力ディスク5の内側面との転がり接触部(トラクション部)に作用する、接線方向の力の向きが変化する、換言すれば、転がり接触部にサイドスリップが発生する。そして、このような接線方向の力の向きの変化に伴ってトラニオン7が、傾転軸8を中心に揺動し、パワーローラ6の周面と、入力ディスク2および出力ディスク5の内側面との接触位置が変化する。パワーローラ6の周面を、入力ディスク2の内側面の径方向外寄り部分と、出力ディスク5の内側面の径方向内寄り部分とに転がり接触させれば、入力回転軸1と出力歯車4との間の変速比が増速側になる。これに対して、パワーローラ6の周面を、入力ディスク2の内側面の径方向内寄り部分と、出力ディスク5の内側面の径方向外寄り部分とに転がり接触させれば、入力回転軸1と出力歯車4との間の変速比が減速側になる。
【0007】
上述のようなトロイダル型無段変速機の運転時には、動力の伝達に供されるそれぞれの部材、すなわち、入力ディスク2および出力ディスク5とパワーローラ6とが、押圧装置20が発生する押圧力に基づいて弾性変形する。そして、この弾性変形に伴って、入力ディスク2および出力ディスク5が軸方向に変位する。また、押圧装置20が発生する押圧力は、トロイダル型無段変速機により伝達するトルクが大きくなる程大きくなり、それに伴ってこれらの部材2、5、6の弾性変形量も多くなる。したがって、トロイダル型無段変速機のトルクの変動にかかわらず、入力ディスク2および出力ディスク5の内側面とパワーローラ6の周面との接触状態を適正に維持するために、トラニオン7に対してパワーローラ6を、入力ディスク2および出力ディスク5の軸方向に変位させる機構が必要になる。
【0008】
従来構造の第1例の場合には、パワーローラ6を支持した支持軸12の先半部を、支持軸12の基半部を中心として揺動変位させることにより、パワーローラ6を入力ディスク2および出力ディスク5の軸方向に変位させるようにしている。しかしながら、パワーローラ6を入力ディスク2および出力ディスク5の軸方向に変位させるための構造が複雑となるため、部品製作、部品管理、組立作業が何れも面倒になり、コストが嵩むことが避けられない。
【0009】
これに対して、特開2003−214516号公報において、図23図28に示すような構造が提案されている。この従来構造の第2例は、トラニオン7aに対してパワーローラ6aを、入力ディスク2および出力ディスク5(図21参照)の軸方向の変位を可能に支持する部分の構造に特徴がある。従来構造の第2例のトラニオン7aは、両端部に互いに同心に設けられた1対の傾転軸8a、8bと、傾転軸8a、8b同士の間に存在し、少なくとも入力ディスク2および出力ディスク5(図21参照)の径方向(図24図27および図28の上下方向)に関する内側(図24図27および図28の上側)の側面を円筒状凸面22とした、支持梁部23とを備える。傾転軸8a、8bは、ラジアルニードル軸受11aを介して、支持板10(図22参照)に、揺動および軸方向の変位を可能に支持される。
【0010】
円筒状凸面22の中心軸αは、図24および図27に示すように、傾転軸8a、8bの中心軸βと平行で、傾転軸8a、8bの中心軸βよりも、入力ディスク2および出力ディスク5の径方向に関して外側(図24図27および図28の下側)に存在する。また、支持梁部23とパワーローラ6aの外側面との間に設けるスラスト玉軸受13aの外輪16aの外側面に、部分円筒面状の凹部24を、外輪16aの外側面を径方向に横切る状態で設けている。そして、凹部24と、支持梁部23の円筒状凸面22とを係合させ、トラニオン7aに対して外輪16aを、入力ディスク2および出力ディスク5の軸方向に関する揺動変位を可能に支持している。
【0011】
外輪16aの内側面中央部に支持軸12aを、外輪16aと一体に固設して、パワーローラ6aを支持軸12aの周囲に、ラジアルニードル軸受25を介して、回転自在に支持している。さらに、トラニオン7aの内側面のうち、支持梁部23の両端部と1対の傾転軸8a、8bとの連続部に、互いに対向する1対の段差面26を設けている。そして、1対の段差面26と、スラスト玉軸受13aを構成する外輪16aの外周面とを、当接もしくは近接対向させて、パワーローラ6aから外輪16aに加わるトラクション力を、何れかの段差面26で支承可能としている。
【0012】
従来構造の第2例は、パワーローラ6aを入力ディスク2および出力ディスク5の軸方向に変位させて、これらの部材2、5、6aの弾性変形量の変化にかかわらず、パワーローラ6aの周面と入力ディスク2および出力ディスク5の内側面との接触状態を適正に維持させる構造を、簡単かつ低コストで構成することを可能としている。
【0013】
すなわち、トロイダル型無段変速機の運転時に、これらの部材2、5、6aなどの弾性変形に基づき、パワーローラ6aを入力ディスク2および出力ディスク5の軸方向に変位させる必要が生じると、パワーローラ6aを回転自在に支持しているスラスト玉軸受13aの外輪16aが、外輪16aの凹部24と支持梁部23の円筒状凸面22との当接面を滑らせつつ、円筒状凸面22の中心軸αを中心として揺動変位する。そして、外輪16aの揺動変位に基づき、パワーローラ6aの周面のうちで、入力ディスク2および出力ディスク5の軸方向片側面と転がり接触する部分が、これらのディスク2、5の軸方向に変位し、パワーローラ6aの周面とこれらのディスク2、5の内側面との接触状態を適正に維持する。
【0014】
円筒状凸面22の中心軸αは、変速動作の際にトラニオン7aの揺動中心となる傾転軸8a、8bの中心軸βよりも、入力ディスク2および出力ディスク5の径方向に関して外側に存在する。したがって、円筒状凸面22の中心軸αを中心とする揺動変位の半径は、変速動作の際の揺動半径よりも大きく、入力ディスク2と出力ディスク5との間の変速比の変動に及ぼす影響は少なく、無視できるか、容易に修正できる範囲にとどまる。
【0015】
しかしながら、従来構造の第2例にも、変速動作を安定させる面からは、改良の余地がある。すなわち、支持梁部23を中心とする外輪16aの揺動変位を円滑に行わせるため、支持梁部23の両端部分に設けた、1対の段差面26同士の間隔Dを、外輪16aの外径dよりも少し大きく(D>d)する必要がある。したがって、外輪16aおよびこの外輪16aと同心に支持されたパワーローラ6aは、段差面26同士の間隔Dと外輪16aの外径dとの差(D−d)分だけ、支持梁部23の軸方向に変位可能である。
【0016】
一方、トロイダル型無段変速機を搭載した車両の運転時、パワーローラ6aには、入力ディスク2および出力ディスク5から、加速時と減速時(エンジンブレーキの作動時)とで逆方向の、トロイダル型無段変速機の技術分野で周知の「2Ft」と呼ばれる力が加わる。そして、この力「2Ft」により、パワーローラ6aが、外輪16aと共に、支持梁部23の軸方向に変位する。支持梁部23の変位の方向は、アクチュエータ21によるトラニオン7(図22参照)の変位方向と同じであり、変位量が0.1mm程度であっても、変速動作が開始される可能性が生じる。そして、このような原因で変速動作が開始された場合には、運転動作とは直接関連しない変速動作となり、何れ修正されるにしても、運転者に違和感を与える。特に、トロイダル型無段変速機が伝達するトルクが低い状態で、運転者が意図しない変速が行われると、運転者に与える違和感が大きくなりやすい。
【0017】
このような運転動作とは直接関連しない変速動作の発生を抑えるためには、1対の段差面26同士の間隔Dと外輪16aの外径dとの差(D−d)を僅少に、たとえば数十μm程度に、抑えることが考えられる。ただし、ハーフトロイダル型のトロイダル型無段変速機の運転時には、トラクション部からパワーローラ6a、外輪16aを介して支持梁部23に加わるスラスト荷重により、トラニオン7aが、図29に誇張して示すように、外輪16aを設置した側が凹となる方向に弾性変形する。そして、この弾性変形の結果、トラニオン7a毎に1対ずつ設けた段差面26同士の間隔が縮まる。このような状態でも、1対の段差面26同士の間隔Dが外輪16aの外径d以下にならないようにするためには、トラニオン7aが弾性変形していない通常状態での、間隔Dと外径dとの差をある程度確保する必要がある。この結果、特に違和感が大きくなりやすい、低トルクでの運転時に、運転動作とは直接関連しない変速動作が発生しやすくなる。特に、特開2004−169719号公報に記載されているように、トロイダル型無段変速機と、遊星歯車式の変速機と、クラッチ装置とを組み合わせ、クラッチ装置により低速モードと高速モードとを切り換える無段変速装置の場合、モードの切り換えに伴って、加速状態のまま、トロイダル型無段変速機を通過するトルクの方向が逆転する。このため、上述したような運転動作とは直接関連しない変速動作が発生して、運転者に違和感を与えやすい。
【0018】
特開2008−25821号公報には、支持梁部側に設けた円筒状凸面の一部に係止したアンカ駒と、外輪側の凹部の内面に形成したアンカ溝とを係合させることにより、力「2Ft」を支承する構造が記載されている。この構造では、アンカ駒を支持梁部に、力「2Ft」を支承できる程度の強度および剛性を確保して支持固定することが難しく、低コスト化と十分な信頼性確保とを図りにくい。また、円筒状凸面と凹部との互いに整合する部分に形成された、断面円弧形である転動溝同士の間に複数個の玉を掛け渡して、力「2Ft」を支承する構造も記載されている。この構造では、力「2Ft」が大きくなり、玉の転動面と転動溝との転がり接触部の面圧が上昇すると、転動溝の内面に圧痕が形成され、トラニオンに対して内輪が揺動変位する際に振動が発生する可能性がある。さらに、支持梁部の外周面に形成した、軸方向両側面が互いに平行な突条と、外輪側の凹部の内面に形成した凹溝とを係合させることにより、力「2Ft」を支承する構造も記載されている。この構造では、突条と凹溝との係合部の隙間を小さくすべく、突条の側面同士の間隔を高精度に仕上げるための研磨加工時に、これらの側面に研磨焼けに伴う損傷が発生しやすい。すなわち、研磨加工は、回転させた砥石を、突条の側面に押し当てることにより行う。この時、加工面である突条の側面同士が平行、言い換えれば、これらの側面が砥石の回転軸に対し垂直であるため、これらの側面の温度が上昇し研磨焼けが発生しやすい。また、砥石の回転軸の軸方向と押し付け方向とが平行となるため、突条の側面および円筒状凸面に同時に研磨加工を施すことができず、加工効率が悪く、トラニオン全体の製造コストが上昇する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2003−214516号公報
【特許文献2】特開2007−315595号公報
【特許文献3】特開2008−25821号公報
【特許文献4】特開2008−275088号公報
【特許文献5】特開2004−169719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は、上述のような事情に鑑み、部品製作、部品管理、組立作業が何れも容易になり、コスト低廉化を図りやすく、しかも変速動作を安定させられ、かつ、加工が容易な構造を備えたトロイダル型無段変速機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明のトロイダル型無段変速機は、断面円弧形のトロイド曲面である互いの軸方向片側面同士を対向させた状態で、互いに同心に、相対回転を可能に支持されている、少なくとも1対のディスクと、当該ディスクの軸方向側面同士の間で周方向の複数箇所に設けられた、複数のトラニオンとパワーローラとスラスト転がり軸受との組み合わせを備える。
【0022】
それぞれの前記トラニオンと前記パワーローラと前記スラスト転がり軸受の組み合わせにおいて、前記トラニオンは、その両端部に互いに同心に、かつ、軸方向に関して前記ディスクの中心軸に対し捩れの位置に設けられた1対の傾転軸と、これらの傾転軸同士の間に存在し、少なくとも前記ディスクの径方向に関する内側の側面を、当該傾転軸の中心軸と平行で当該傾転軸の中心軸よりも前記ディスクの径方向に関して外側に存在する中心軸を有する、円筒状凸面とした支持梁部とを備える。当該トラニオンは、前記傾転軸を中心とする揺動変位が自在となっている。
【0023】
前記パワーローラは、前記トラニオンの内側面に、前記スラスト転がり軸受を介して回転自在に支持され、球状凸面とした周面を、前記ディスクの両方の軸方向片側面に当接させている。
【0024】
前記スラスト転がり軸受は、前記トラニオンの支持梁部と前記パワーローラの外側面との間に設けられ、前記支持梁部側に設けられた外輪と、当該外輪の内側面に設けられた外輪軌道と前記パワーローラの外側面に設けられた内輪軌道との間に転動自在に、複数個ずつ設けられた転動体とを備える。
【0025】
前記スラスト転がり軸受の外輪は、当該外輪の外側面に設けられた凹部と前記支持梁部の円筒状凸面とを係合させることにより、前記トラニオンに対し、前記ディスクの軸方向に関する揺動変位を可能に支持されると共に、前記凹部の内面に、前記支持梁部を中心とする周方向に形成され、開口部の幅が広く底部の幅が狭いテーパ溝である凹溝と、前記支持梁部の外周面に形成され、基部の幅が広く先端部の幅が狭いテーパ突条との係合により、前記支持梁部の軸方向の変位を制限されている。
【0026】
前記凹溝の内側面と前記突条の外側面とのうちの少なくとも一方の側面の断面形状を、他方の側面に向けて突出する方向に湾曲した部分円弧とすることが好ましい。
【0027】
この場合、前記部分円弧の曲率半径を好ましくは2mm以上、より好ましくは3mm以上、さらに好ましくは4mm以上、最も好ましくは5mm以上とする。
【0028】
代替的に、前記凹溝の内側面と前記突条の外側面とのうちの一方の側面の断面形状を、他方の側面に向けて突出する方向に湾曲した部分円弧とし、前記他方の側面を、前記一方の側面に沿って、当該一方の側面から離れる方向に湾曲した部分円弧とするもできる。
【0029】
なお、前記凹部と前記凹溝とを同時に加工し、かつ、前記円筒状凸面と前記突条とを同時に加工することが好ましい。
【0030】
好ましくは、前記パワーローラがトルクを伝達せず、前記支持梁部と前記外輪とが弾性変形していない状態で、当該支持梁部の軸方向に関して、前記凹溝の幅が前記突条の幅よりも、当該支持梁部の径方向に関する位置が互いに一致する部分で大きく、かつ、前記外輪が前記支持梁部に対して、当該支持梁部の軸方向に変位可能な量であるがたつき(径方向に関する位置が互いに一致する部分での幅の差)を0.100mm以下、より好ましくは0.050mm以下とする。
【0031】
前記がたつきを0.100mm以下に抑えるために、前記凹溝の内面と前記突条の外面とのうちの少なくとも一方の面に、当該面に沿った部分円弧状に形成されたスペーサを挟持するように構成することもできる。
【0032】
また、前記支持梁部の外周面の一部で前記突条を軸方向両側から挟む部分に、径方向に凹んだ逃げ凹部を形成し、当該逃げ凹部の底面と前記凹部の内周面との間に弾性を有するシール材が充填することが好ましい。
【0033】
換言すれば、本発明のトロイダル型無段変速機は、少なくとも1対のディスクと、複数のトラニオンとパワーローラとスラスト転がり軸受との組み合わせを備え、それぞれの組み合わせにおいて、前記スラスト転がり軸受の外輪の外側面に設けられた凹部と前記トラニオンの支持梁部の円筒状凸面とを係合させることにより、前記スラスト転がり軸受の外輪を、前記トラニオンに対し、前記ディスクの軸方向に関する揺動変位を可能に支持するものであり、前記スラスト転がり軸受の外輪を、前記支持梁部の軸方向の変位を制限するための部分の構造を、前記パワーローラが伝達するトルクが大きくなり、当該パワーローラから前記外輪に加わるスラスト荷重が大きくなって、前記支持梁部の弾性変形量が大きくなる程、当該支持梁部が軸方向の変位を許容する量を大きくするように構成し、かつ、一体型の総型砥石で研削可能な形状としている。
【発明の効果】
【0034】
本発明により、部品製作、部品管理、組立作業が何れも容易になり、コスト低廉化を図りやすく、しかも変速動作を安定させられ、かつ、加工が容易なトロイダル型無段変速機の構造が実現される。
【0035】
本発明では、変速動作の安定化は、外輪の凹部の内面に周方向に設けた凹溝と、トラニオンの支持梁部の外周面に周方向に設けた突条との係合に基づき、外輪がトラニオンに対し、支持梁部の軸方向に変位することを防止することにより図られている。特に、開口部の幅が広く底部の幅が狭いテーパ溝である凹溝と、基部の幅が広く先端部の幅が狭いテーパ突条である前記突条との係合部の、支持梁部の軸方向に関する隙間は、パワーローラが伝達するトルクが大きくなり、パワーローラから外輪に加わるスラスト荷重が大きくなって、支持梁部の弾性変形量が多くなる程、大きくなる傾向になる。このため、スラスト荷重がゼロもしくは僅少で、支持梁部が弾性変形しない状態での凹溝と突条との係合部の軸方向に関する隙間を、加工可能な限り僅少に抑えられる。このため、特に違和感が大きくなりやすい、低トルクでの運転時に、運転動作とは直接関連しない変速動作の発生が防止される。
【0036】
本発明では、加工の容易化は、外輪に設けた凹溝を、開口部の幅が広く底部の幅が狭いテーパ溝とし、トラニオンに設けた突条を、基部の幅が広く先端部の幅が狭いテーパ突条としたことにより図られている。このようなテーパ溝およびテーパ突条は、幅寸法の精度を向上させるための研磨加工時に、側面に研磨焼けを発生しにくい。すなわち、当該側面を加工する際に、砥石の回転方向に対し側面が傾斜して、砥石の回転方向と当該側面とのなす角度が鋭角となるため、当該側面の温度が上昇しにくく、研磨焼けの発生が防止される。また、前記側面と支持梁部の円筒状凸面とを同時に研磨加工することができるため、従来構造の場合と比較して、加工効率が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1図1は、本発明の実施の形態の第1例のトラニオンとスラスト転がり軸受用外輪について、取り出した状態で示す断面図である。
図2図2は、第1例のトラニオンについて、取り出してディスクの径方向内側から見た状態で示す斜視図である。
図3図3は、第1例の外輪について、取り出してディスクの径方向外側から見た状態で示す斜視図である。
図4図4(A)は、第1例のトラニオン側に形成した突条の断面形状を示す図であり、図4(B)は、第1例の外輪側に形成した凹溝の断面形状を示す図である。
図5図5は、第1例における突条と凹溝との係合状態を示す断面図である。
図6図6は、第1例における突条と凹溝との係合部の隙間の概念を説明するための部分断面図である。
図7図7は、突条の側面の断面形状の曲率半径が、突条と凹溝との係合部の摩耗に及ぼす影響を示す線図である。
図8図8は、突条と凹溝との係合部の隙間の大きさが、トロイダル型無段変速機を通過するトルクが反転する瞬間に変速比の急激な変動に結び付く状況を説明するための線図である。
図9図9は、本発明の実施の形態の第2例のパワーローラと外輪とスペーサとトラニオンについて、取り出してディスクの径方向内側から見た状態で示す分解斜視図である。
図10図10は、第2例の外輪とスペーサとトラニオンについて、組み立てた状態で示す、図6と同様の断面図である。
図11図11(A)は、第2例のスペーサについて、取り出した状態で示す斜視図であり、図11(B)は、図11(A)と異なる方向から見た状態で示す斜視図である。
図12図12(A)は、第2例の支持梁部の軸方向から見た図であり、図12(B)は、図12(A)の上方から見た図であり、図12(C)は、図12(A)の側方から見た図である。
図13図13は、第2例に適用されるスペーサの構造の別例を示す、図12(A)と同様の図である。
図14図14(A)(B)は、第2例に適用されるスペーサの形状の別の2例を示す、図10と同様の図である。
図15図15(A)は、本発明の実施の形態の第3例の外輪とトラニオンについて、シール材を充填した後の状態で示す部分断面図であり、図15(B)は、シール材を充填する以前の状態で示す部分断面図である。
図16図16は、本発明の実施の形態の第3例の外輪とトラニオンについて、組み合わせた状態で示す断面図である。
図17図17(A)(B)は、本発明の実施の形態の第4例を示す、図4(A)(B)と同様の図である。
図18図18は、本発明の実施の形態の第5例を示す、図4(A)と同様の図である。
図19図19(A)(B)は、本発明の実施の形態の第6例を示す、図4(A)(B)と同様の図である。
図20図20は、本発明の実施の形態の第7例を示す、図4と同様の図である。
図21図21は、従来構造の第1例を示す断面図である。
図22図22は、図21のa−a断面図である。
図23図23は、従来構造の第2例のスラスト玉軸受を介してパワーローラを支持したトラニオンについて、ディスクの径方向外側から見た斜視図である。
図24図24は、従来構造の第2例のスラスト玉軸受を介してパワーローラを支持したトラニオンについて、ディスクの周方向から見た状態で示す正面図である。
図25図25は、図24の上方から見た平面図である。
図26図26は、図25の右方から見た側面図である。
図27図27は、図25のb−b断面図である。
図28図28は、図24のc−c断面図である。
図29図29は、パワーローラから加わるスラスト荷重に基づいてトラニオンが弾性変形した状態を誇張して示す、図27と同方向から見た断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
[実施の形態の第1例]
図1図8は、本発明の実施の形態の第1例を示している。なお、本例の特徴は、変速動作を安定させるために、トラニオン7bの支持梁部23aに対し、スラスト玉軸受13aを構成する外輪16bを、支持梁部23aに対する揺動変位を可能に支持しつつ、外輪16が支持梁部23aの軸方向に変位しないようにするための構造にある。その他の部分の構造および作用は、従来構造の第2例と同様である。
【0039】
外輪16bは、外輪16bの外側面に設けられた凹部24と支持梁部23aの円筒状凸面22とを係合させることにより、トラニオン7bに対し、入力ディスク2および出力ディスク5(図21参照)の軸方向に関する揺動変位を可能に支持される。また、外輪16bの凹部24の内面に、支持梁部23aを中心とする周方向に形成された凹溝27と、支持梁部23aの外周面に形成された突条28とを係合させることにより、支持梁部23aの軸方向の変位を制限している。パワーローラ6a(図27図28参照)がトルクを伝達する際に、凹溝27の内側面と凸状28の外側面とが互いに当接する。この構成は、特開2008−25821号公報に記載された構造と同様である。なお、本例に係る構造は、単独のトロイダル型無段変速機に適用できるほか、特開2004−169719号公報に記載されているような、遊星歯機構と組み合わせた無段変速装置に適用することもできる。
【0040】
本例では、凹溝27を、開口部の幅が広く底部の幅が狭いテーパ溝としている。また、凹溝27の両側の内側面の断面形状を、図4(B)および図6に示すように、直線としている。なお、凹溝27の内側面の延長線と凹部24とがなす角度θ(図4(B)参照)は、45度程度(40度〜50度)としている。凹溝27の底部は、図6に示すように、凹溝27の両側の内側面の延長線およびこれらの内側面同士を滑らかに連続させる円弧面よりも凹んだ逃げ凹部33として、これらの内側面の仕上げ加工の容易化を図っている。凹部24と凹溝27は、途中で加工装置を変更することなく、すなわち、途中でチャッキングを行わずに、同時に、切削加工および研削加工が施されている。特に、仕上げのための研削加工は、凹部24と凹溝27とを、一体型の総型砥石で研削することにより行われる。これにより、凹部24と凹溝27との位置精度を確保している。
【0041】
また、突条28を、基部の幅が広く先端部の幅が狭いテーパ突条としている。本例では、突条28の両側の外側面を、図4(A)および図6に示すように、凹溝27の両側の内側面に向けて突出する方向に湾曲した、部分円弧としている。本例では、当該部分円弧の曲率半径Rを2mm以上、より好ましくは3mm以上、さらに好ましくは4mm以上、最も好ましくは5mm以上としている。また、支持梁部23aの外周面のうちで突条28を軸方向両側から挟む部分は、支持梁部23aの円筒状凸面22よりも凹んだ逃げ凹部34として、突条28の外側面の仕上げ加工の容易化を図っている。突条28の外側面および円筒状凸面22も、同時に加工している。特に、仕上げのための研削加工は、突条28の外側面と円筒状凸面22とを、一体型の総型砥石で研削することにより行う。これにより、突条28の外側面と円筒状凸面22との位置精度を確保している。
【0042】
突条28の両側の外側面の断面形状を凸円弧とすることにより、突条28の外側面と凹溝27の両側の内側面との加工誤差にかかわらず、これらの側面同士の擦れ合い部の摩耗を抑えることができる。すなわち、突条28の外側面と凹溝27の内側面とを断面形状が直線状の平坦面とすれば、これらの側面同士の当接部の面圧を低く抑えられるが、この場合には、加工誤差により、互いに対向する突条28の外側面と凹溝27の内側面とを完全に平行とすることは難しい。突条28の外側面と凹溝27の内側面とが平行でないと、これらの側面同士の擦れ合い部での接触が不均一となって、突条28または凹溝27の端部に応力が集中し、かえって摩耗が発生しやすくなる。本例では、突条28の外側面の断面形状を凸円弧とするとともに、凸円弧である部分円弧の曲率半径Rを2mm以上確保している。
【0043】
表1および図7は、部分円弧の曲率半径Rが、突条28の両側の外側面と凹溝27の両側の内側面との擦れ合い部の摩耗量に及ぼす影響について示している。図7の縦軸は、摩耗による隙間の増加量(単位:mm)を曲率半径Rにより除して無次元化した値を示している。曲率半径Rは小さい程、許容できる突条28の外側面および凹溝27の内側面の加工誤差の大きさは大きくなる。ただし、表1と図7とから理解されるように、部分円弧の曲率半径Rを2mm未満とすると、擦れ合い部の摩耗量が急激に大きくなる。そこで、曲率半径Rを2mm以上確保すれば、擦れ合い部の摩耗を十分に低く抑えつつ、加工誤差をある程度許容することができる。さらに、曲率半径Rをより好ましくは3mm以上、さらに好ましくは4mm以上、最も好ましくは5mm以上確保すれば、擦れ合い部の摩耗量をより低減することができる。ただし、部分円弧の曲率半径Rを10mmを超えて大きくしても、擦れ合い部の摩耗量の低減効果は飽和し、ほとんど変わらない。
【0044】
【表1】
【0045】
突条28の幅寸法は、凹溝27の幅寸法よりも僅かに小さくしている。なお、この場合の幅寸法の大小関係は、支持梁部23aの径方向に関する位置が互いに一致し、円筒状凸面22と凹部24とを当接させた状態で互いに整合する部分同士の幅寸法を比較したものである。突条28および凹溝27の幅寸法の大小関係を上述のように規制することにより、円筒状凸面22と凹部24とを当接させた状態で、突条28が凹溝27に食い込まず、支持梁部23aに対する外輪16bの揺動変位が円滑に行われるようにしている。また、トラニオン7bに支持したパワーローラ6aがトルクを伝達せず、支持梁部23aと外輪16bとが弾性変形していない状態で、支持梁部23aの軸方向に関して、凹溝27の幅を突条28の幅よりも、支持梁部23aの径方向に関する位置が互いに一致する部分で、図6にΔWで示した分だけ大きくしている。換言すれば、支持梁部23aと外輪16bとが弾性変形していない状態で、外輪16bが支持梁部23aに対し、支持梁部23aの軸方向に変位できる量を、ΔWだけに制限している。
【0046】
ただし、凹溝27の幅を突条28の幅よりも大きくする程度(ΔW)は、製造誤差にかかわらず、これらの幅の大小関係が逆転しない範囲で、できる限り小さく抑えている。具体的には、外輪16bが支持梁部23aに対して、支持梁部23aの軸方向に変位可能な量であるがたつき(径方向に関する位置が互いに一致する部分での幅の差)を0.100mm以下、より好ましくは0.050mm以下とする。
【0047】
表2は、凹溝27の幅と突条28の幅との差ΔWが、運転者が意図しない変速動作が行われることにより、運転者に与える違和感に及ぼす影響について示している。表2から理解されるように、幅の差ΔWを0.100mm以下に抑えれば、アクチュエータ21(図22参照)の動きと関係なくパワーローラ6aがトラニオン7bの軸方向に変位する量を僅少に抑えられる。そして、トロイダル型無段変速機によるトルクの伝達方向が逆転する際に、意図しない変速動作が行われることで、運転者に与える違和感を小さく抑えられる。幅の差ΔWを0.050mm以下に抑えれば、トロイダル型無段変速機によるトルクの伝達方向が逆転する際に、意図しない変速動作が行われることを防止して、運転者に違和感を与えることを防止できる。このように、幅の差ΔWを小さくする程運転者に与える違和感を小さくすることができる。
【0048】
【表2】
【0049】
幅の差ΔWを小さくすることによる効果について、図8を参照しつつ説明する。図8は、特開2004−169719号公報に記載されているように、トロイダル型無段変速機と、遊星歯車式の変速機と、クラッチ装置とを組み合わせ、このクラッチ装置により低速モードと高速モードとを切り換える無段変速装置を搭載した車両の加速時における、各部の状態を示している。図8の横軸は経過時間を、左側の縦軸はエンジンの回転数(回転速度)を、右側の縦軸は車速を、それぞれ表している。図8中の鎖線δが車速を、実線εが凹溝27と突条28との幅の差ΔWを0.125mmとした場合のエンジン回転数を、破線ζがこの差ΔWを0.050mmとした場合のエンジン回転数を、それぞれ表している。なお、経過時間が41秒の時点で、クラッチ装置を低速モード状態から高速モード状態に切り換えており、その結果、トロイダル型無段変速機によるトルクの伝達方向が逆転している。
【0050】
図8から明らかな通り、凹溝27と突条28との幅の差ΔWを0.125mmとした場合には、トロイダル型無段変速機の変速比が急変動し、その結果、エンジンの回転数が急上昇する。この理由は、トロイダル型無段変速機によるトルクの伝達方向の逆転に伴って、外輪16bを介して支持梁部23aに支持されたパワーローラ6aが、支持梁部23aの軸方向に変位し、その結果、パワーローラ6aの周面と入力ディスク2および出力ディスク5の軸方向側面(図21参照)とのトラクション部に作用する、接線方向の力の向きが変化するためである。このような原因で、エンジンの回転数が急上昇すると、運転者に違和感を与える。これに対して、本例のように、凹溝27と突条28との幅の差ΔWを0.050mmとすれば、トルクの伝達方向が逆転する際にも、トロイダル型無段変速機の変速比がアクチュエータ21の動きと関係なく変化することはなく、エンジンの回転数が急上昇することもないため、運転者に違和感を与えることもない。ただし、幅の差ΔWを0mmとすると、外輪16bの凹部24が、支持梁部23aに形成した突条28の先端面に乗り上げやすくなってしまい、外輪16bおよびトラニオン7bに損傷を生じたり、トロイダル型無段変速機の耐久性が損なわれたりする可能性がある。また、凹部24が突条28に対乗り上げると、トロイダル型無段変速機の組立性が損なわれる。
【0051】
トロイダル型無段変速機により伝達されるトルクが大きくなり、その結果、パワーローラ6aから外輪16bを介して支持梁部23aに加わるスラスト荷重が大きくなると、支持梁部23aが、外輪16bを設置した側が凹となる円弧状に弾性変形する。この結果、図5に矢印ηで示すように、突条28が凹溝27から抜け出る方向に変位し、突条28の両側の外側面と凹溝27の両側の内側面との間の隙間が広がる傾向になる。ただし、実際の広がり量は僅かである。そして、隙間が広がる傾向になることによって、パワーローラ6aがトルクを伝達せず、支持梁部23aと外輪16bとが弾性変形していない状態での、凹溝27と突条28との幅の差ΔWを0.100mm以下と僅少に抑えても、大きなトルクを伝達する際に、突条28が凹溝27の内側面同士の間で挟みこまれることはなく、支持梁部23aを中心とする外輪16bの揺動変位は、円滑に行われる。また、トロイダル型無段変速機が伝達するトルクが大きい状態では、多少の変速比の変動によりエンジンの回転数が変動した場合でも、運転者に与える違和感は、低トルク時に比べて低く抑えられるため、特に問題とはならない。
【0052】
また、本例の構造では、トラニオン7bの内部に形成した上流側潤滑油流路29と外輪16bの支持軸12aの内部に設けた下流側潤滑油流路30とを通じて、外輪16bとパワーローラ6aとの間に設けた、スラスト玉軸受13aおよびラジアルニードル軸受25(図27図28参照)に潤滑油(トラクションオイル)を供給するように構成している。支持梁部23aに対する外輪16bの揺動変位にかかわらず、上流側潤滑油流路29の下流端開口と下流側潤滑油流路30の上流端開口とが連通したままとなる。このため、流側潤滑油流路29流端開口に整合する、凹溝27の周方向中央部に、凹溝27の幅寸法よりも大きな開口径を有する、円形の中央凹部31を形成している。また、流側潤滑油流路30流端開口に整合する、突条28の周方向中央部に、切り欠き部32を形成している。トロイダル型無段変速機が伝達するトルクの変動に伴って、支持梁部23aに対して外輪16bが揺動変位した場合でも、上流側潤滑油流路29と下流側潤滑油流路30とは、切り欠き部32と中央凹部31とを介して連通したままとなる。このため、上流側潤滑油流路29および下流側潤滑油流路30を通じての、スラスト玉軸受13aおよびラジアルニードル軸受25への潤滑油供給を、支持梁部23aを中心とする外輪16bの揺動変位にかかわらず、安定して行うことができる。
【0053】
なお、力「2Ft」を支承するだけであれば、外輪の凹部の内面に突条を、支持梁部の円筒状凸面に凹溝をそれぞれ形成し、これらの突条と凹溝とを係合させるように構成することも可能である。
【0054】
[実施の形態の第2例]
図9図12は、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例では、外輪16bの凹部24に周方向に形成した凹溝27に、スペーサ35を装着している。スペーサ35は、断面V字形で全体を円弧状としたもので、十分な耐圧縮性および耐摩耗性、さらに好ましくは自己潤滑性を有する金属材料により、凹溝27の内面形状に合わせて形成している。具体的には、スペーサ35を、鉄鋼材料、セラミック材料、チタン合金、黄銅などの銅系合金、アルミニウム合金などにより造る。スペーサ35を鉄鋼材料により造る場合、浸炭処理、窒化処理、浸炭窒化処理などの熱処理を施してもよい。また、スペーサ35の表面に、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)などの、摩擦係数が低い、硬質のコーティング層を設けることもできる。特に、スペーサ35を金属材料により造る場合、硬さを354Hv以上とし、表面粗さを0.8μmRa以下とする。また、スペーサ35の周方向中央部に通孔36を形成している。スペーサ35を凹溝27内に装着した状態で、スペーサ35の外側面と凹溝27の内側面とが隙間なく当接すると共に、通孔36が、凹溝27の周方向中央部に存在する、下流側潤滑流路30上流端開口に整合する。
【0055】
トラニオン7b側の支持梁部23aの外周面に周方向に形成した突条28は、スペーサ35の内側に係合させる。言い換えれば、突条28と凹溝27とを、スペーサ35を介して、周方向の相対変位を可能に、かつ、支持梁部23aの軸方向の変位を抑えた状態で係合させる。このように、突条28と凹溝27とを係合させた状態で、トラニオン7bに対する外輪16bの、支持梁部23aの軸方向に関する移動可能距離(軸方向に関するがたつきΔW)を、0.100mm以下、より好ましくは0.050mm以下に抑えている。このため、本例では、スペーサ35として、支持梁部23aの軸方向に関する厚さが微妙に異なる種々のものを用意し、この中から選択した、適切な厚さ寸法を有するスペーサ35を、突条28と凹溝27との間に組み付けている。その他の部分の構成および作用に関しては、実施の形態の第1例と同様である。
【0056】
なお、本例のように、突条28と凹溝27との間にスペーサを組み付ける構造の場合、代替的に、図13図14に示したスペーサを使用することもできる。図13に示したスペーサ35aは、外周面の中央部に通油管37を、スペーサ35aの外周面に、径方向外方に突出するように結合固定している。突条28と凹溝27との間にスペーサ35aを組み付けた状態では、通油管37を、外輪16b側に形成した下流側潤滑油流路30(図1および図3参照)に内嵌する。このため、外輪16bとスペーサ35aとが同期して、トラニオン7bの支持梁部23aに対し揺動変位する。
【0057】
図14(A)に示したスペーサ35bは、両側の内側面の断面形状を凸円弧とすると共に、両側の外側面の断面形状を直線状としており、凹溝27の両側の内側面同士の間に隙間なく組み付けられるように構成されている。図14(B)に示したスペーサ35cは、両側の外側面の断面形状を凸円弧とすると共に、両側の内側面の断面形状を直線状としており、突条28に隙間なく外嵌して組み付けられるように構成されている。図14(A)および図14(B)に示したスペーサ35b、35cを使用すれば、凹溝27の内側面および突条28の外側面の断面形状を直線状として、凹溝27および突条28の加工の容易化を図りつつ、互いに対向する突条28の外側面と凹溝27の内側面が完全に平行でない場合であっても、これらの側面の擦れ合い部の摩耗を抑えることができる。
【0058】
[実施の形態の第3例]
図15および図16は、本発明の実施の形態の第3例を示している。本例では、トラニオン7bを構成する支持梁部23aの外周面の一部で突条28を軸方向両側から挟む部分に、径方向に凹んだ逃げ凹部34を形成している。また、外輪16bの凹部24の内面に形成した凹溝27の底部に逃げ凹部33を形成している。そして、逃げ凹部34、33と、逃げ凹部34、33が対向する相手面である、凹部24の内面および突条28の先端面との間に、液状ガスケット、ゴム、または、逃げ凹部34、33の形状に沿った形状に加工したナイロン、アクリル、PEEK、フッ素樹脂などのエンジニアリングプラスチックなどの、弾性を有するシール材38を充填している。
【0059】
本例では、逃げ凹部34、33と凹部24の内面および突条28の先端面との間に充填したシール材38により、トラニオン7bの内部に形成した上流側潤滑油流路29から、外輪16bの内部に設けた下流側潤滑油流路30に向けて、図16の矢印方向に流れる潤滑油が周囲に漏洩することを防止している。その他の部分の構成および作用は、実施の形態の第1例と同様である。
【0060】
[実施の形態の第4例]
図17(A)(B)は、本発明の実施の形態の第4例を示している。本例では、実施の形態の第1例の場合とは逆に、凹溝27aの両側の内側面の断面形状を凸円弧とし、突条28aの両側の外側面の断面形状を直線状としている。その他の部分の構成および作用は、実施の形態の第1例と同様である。
【0061】
[実施の形態の第5例]
図18は、本発明の実施の形態の第5例を示している。本例では、支持梁部23bの外周面の一部に周方向に形成した凹溝39に、十分な強度および剛性、並びに耐摩耗性を有する金属材料により、全体を部分円弧形に形成した係止ブラケット40の基端部を締り嵌めで内嵌固定している。そして、係止ブラケット40の径方向中間部から先端部までを、突条28bとしている。その他の部分の構成および作用は、実施の形態の第1例と同様である。
【0062】
[実施の形態の第6例]
図19(A)(B)は、本発明の実施の形態の第6例を示している。本例では、突条28の両側の外側面の断面形状を凸円弧とすると共に、凹溝27bの両側の内側面の断面形状を、突条28の外側面の断面形状に沿った、凹円弧としている。そして、凹溝27bの両内側面の断面形状である、凹円弧の曲率半径R27bを、突条28の断面形状である、凸円弧の曲率半径R28よりも大きくしている(R27b>R28)。この結果、本例では、突条28の外側面と凹溝27bの内側面との当接部の面圧を、実施の形態の第1例の構造と比較して、低く抑えられ、突条28の外側面と凹溝27bの内側面との擦れ合い部の摩耗をより抑えられる。また、突条28の外側面と凹溝27bの内側面との間の隙間のうち、突条28の外側面が、凹溝27bの内側面に向けて最も突出した部分から外れた部分の幅を、実施の形態の第1例に係る構造と比較して、小さく抑えられる。このため、凹溝27の周方向中央部に形成した中央凹部31(図3参照)から供給される潤滑油の、突条28の外側面と凹溝27bの内側面との間の隙間からの流出を抑えられる。その他の部分の構成および作用は、実施の形態の第1例と同様である。
【0063】
[実施の形態の第7例]
図20は、本発明の実施の形態の第7例を示している。本例では、突条28の両側の外側面の断面形状を凸円弧とすると共に、凹溝27aの両側の内側面の断面形状についても凸円弧としている。そして、突条28の外側面の断面形状および凹溝27aの内側面の断面形状の両方の凸円弧の曲率半径を、4mm以上としている。これにより、突条28の外側面と凹溝27aの内側面との間の隙間のうち、突条28の外側面が凹溝27aの内側面に向けて最も突出した部分(凹溝27aの内側面が突条28の外側面に向けて最も突出した部分)から外れた部分の幅が、実施の形態の第1例の構造と比較して大きくなる。この結果、凹溝27の周方向中央部に形成した中央凹部31(図3参照)から供給される潤滑油の、突条28の外側面と凹溝27bの内側面との間の隙間への流出量が増大し、これらの側面同士の当接部の潤滑性が向上して、これらの側面同士の擦れ合い部の摩耗をより抑えられる。その他の部分の構成および作用は、実施の形態の第1例と同様である。
【符号の説明】
【0064】
1 入力回転軸
2 入力ディスク
3 出力筒
4 出力歯車
5 出力ディスク
6、6a パワーローラ
7、7a、7b トラニオン
8、8a、8b 傾転軸
9 支持梁部
10 支持板
11、11a ラジアルニードル軸受
12、12a 支持軸
13、13a スラスト玉軸受
14 スラストニードル軸受
15 内輪軌道
16、16a、16b 外輪
17 外輪軌道
18 玉
19 駆動軸
20 押圧装置
21 アクチュエータ
22 円筒状凸面
23、23a、23b 支持梁部
24 凹部
25 ラジアルニードル軸受
26 段差面
27、27a 凹溝
28、28a、28b 突条
29 上流側潤滑油流路
30 下流側潤滑油流路
31 中央凹部
32 切り欠き部
33 逃げ凹部
34 逃げ凹部
35、35a、35b、35c スペーサ
36 通孔
37 通油管
38 シール材
39 凹溝
40 係止ブラケット
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