(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1実施形態)
図1は本発明の第1実施形態のディーゼルエンジンの制御装置の概略構成図である。
【0009】
可変ノズル型のターボチャージャー3は、吸気コンプレッサー3A、排気タービン3B、両者を連結する軸3Cを含む。
【0010】
吸入空気は、ディーゼルエンジン1の吸気通路2に備えられる吸気コンプレッサー3Aによって過給され、インタークーラー4で冷却され、吸気絞り弁5を通過した後、コレクター6を経て各気筒へ流入する。
【0011】
燃料は、高圧燃料ポンプ7によって高圧化されてコモンレール8に送られ、各気筒の燃料噴射弁9から筒内へ直接噴射される。高圧燃料ポンプ7、コモンレール8、燃料噴射弁9がコモンレール式燃料噴射装置を構成する。筒内に流入した空気と燃料噴射弁9から噴射された燃料は、圧縮されて着火し、燃焼する。燃焼後の排気は排気通路10へ流出する。
【0012】
排気通路10に流出した排気の一部は、EGR通路11により吸気側に再循環される。このガスがEGRガスと称される。EGR通路には、EGR弁12が設けられる。EGR弁12は、EGR通路11を流れるEGRガスの流量を制御する。
【0013】
排気の残りは、排気タービン3Bを通り、排気タービン3Bを駆動する。排気タービン3Bのスクロール入口には、可変ノズル3Dが備えられる。
【0014】
可変ノズル3Dを絞ると、すなわち、可変ノズル開度を小さくすると、排気の流速が増えて、排気タービン3Bの回転速度が上がる。すると、排気タービン3Bと同軸の吸気コンプレッサー3Aの回転速度が上昇して過給量が増える。
【0015】
可変ノズル3Dを開くと、すなわち、可変ノズル開度を大きくすると、排気の流速が減って、排気タービン3Bの回転速度が下がる。すると、吸気コンプレッサー3Aの回転速度が下降して過給量が減る。
【0016】
つまり、可変ノズル型のターボチャージャー3では、可変ノズル開度を小さくすると作動ガスが増加し、可変ノズル開度を大きくすると作動ガスが減少する。ここで、「作動ガス」とは、気筒に吸入される空気のことである。可変ノズル3Dは、アクチュエータ3Eで駆動される。アクチュエータ3Eは、油圧駆動タイプであっても、電気駆動タイプであってもよい。
【0017】
コントローラー21には、アクセルセンサー22からのアクセルペダル操作量APO、クランク角センサー23からのエンジン回転速度Neの各信号が入力されている。そしてコントローラー21では、エンジン負荷(アクセルペダル操作量など)及びエンジン回転速度に基づいて、メイン噴射の燃料噴射時期及び燃料噴射量を算出し、開弁指令信号を燃料噴射弁9に出力する。また、コントローラー21では、目標EGR率と目標吸入空気量とが得られるようにEGR制御と過給圧制御を協調して行う。なお、コントローラー21は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリー(ROM)、ランダムアクセスメモリー(RAM)及び入出力インターフェース(I/Oインターフェース)を備えたマイクロコンピューターで構成されている。
【0018】
排気タービン3Bの下流の排気通路10には、排気中のパティキュレートを捕集するディーゼルパティキュレートフィルター(Diesel Particulate Filter (以下「DPF」と称す))13が配置される。DPF13のパティキュレート堆積量が所定値(閾値)に達すると、メイン噴射直後の膨張行程又は排気行程でポスト噴射が行われる。これによって、DPF13に堆積するパティキュレートが燃焼除去されて、DPF13が再生される。すなわち、目標となる再生温度が得られるように、エンジンの運転条件(負荷及び回転速度)に応じて、ポスト噴射量とポスト噴射時期とが予め定められており、エンジンの運転条件に応じて適切なポスト噴射量・ポスト噴射時期になるようにポスト噴射が実行される。
【0019】
DPF13に堆積しているパティキュレートを全て燃焼除去するには、すなわち完全再生するには、再生処理時にDPF13の許容温度を超えない範囲で、少しでもパティキュレートの燃焼温度を高めることが必要である。このためDPF13の上流に、触媒14が配置される。触媒14は、たとえば、貴金属の酸化触媒である。なお触媒14は、酸化機能を備える触媒であればよく、たとえば三元触媒でもよい。DPF13の再生処理のためにポスト噴射された未燃燃料が触媒14で燃焼(酸化)することで、DPF13の温度が高められ、DPF13内のパティキュレートの燃焼が促進される。なお、触媒14をDPF13の手前に別体で設けるのでなくDPF13を構成する担体に酸化触媒をコーティングしてもよい。このようにすれば、パティキュレートが燃焼する際の酸化反応が促進されてDPF13の温度が実質的に上昇するので、DPF13の内部でパティキュレートの燃焼が促進される。
【0020】
さて、ディーゼルエンジン1は、冷間時に始動性がやや困難である。そこで、冷間始動用のグロープラグ31が各気筒に臨んで設けられる。グロープラグ31が筒内の温度を上昇させて、エンジン1の始動性を向上する。
【0021】
ここで、本実施形態に対する参照例が
図4に基づいて説明される。
図4は、エンジン1の冷間始動開始後のグロープラグ温度、作動ガス量、エンジン回転速度、燃料噴射量の変化を示すタイムチャートである。太実線が参照例を示す。細実線が後述する第1実施形態を示す。
【0022】
クランキングの開始タイミングが、時刻t1である。このとき、冷間時には、空気過剰率が1.0よりも小さなリッチ側の混合気が得られるように、燃料噴射量が増量補正される。また、グロープラグ31への通電が開始される。エンジン回転速度が急上昇して所定値(例えば500rpm)を超えたタイミングで、エンジン1の始動が判断される。冷間始動当初は可変ノズル3Dが全開である。燃料噴射量の増量補正量は、所定時間の経過後にゼロとなる。すなわち、燃料の増量補正が中止される。この後は、空気過剰率が1.0よりも大きなリーン側の混合気が得られるように、燃料が噴射される。時刻t2で冷間始動直後のアイドル運転となり、可変ノズル3Dが全開から全閉へと切り替えられて(
図4(C)の太実線)、ターボチャージャー3による過給が開始される。すると、作動ガス量が増える(
図4(B)の太実線)。
【0023】
冷間始動直後のアイドル運転になった時刻t2で即座に作動ガス量が増えては、増加した作動ガスでグロープラグ31が冷やされ、グロープラグ31の温度が低下する(
図4(A)の太実線)。この結果、燃焼が不安定になって、時刻t2からエンジン回転速度(アイドル回転速度)の変動が大きい(
図4(D)の太実線)。なお、一部の気筒では燃焼の不安定が原因で失火が生じる可能性がある。
【0024】
そこで、冷間始動直後のアイドル運転で通常時制限燃料噴射量と冷間時制限燃料噴射量とを比較して大きい方を制限燃料噴射量として設定する従来装置がある。この装置は、冷間始動直後のアイドル運転において燃料噴射量を少し多めにしてエンジン回転速度を上昇させて、早期にエンジン回転速度を安定化させるのである。
【0025】
しかしながら、増量した燃料がグロープラグに付着すれば、グロープラグの温度上昇が妨げられる。またエンジン回転速度が上昇すれば、低温の外気(空気)の流入量が増え、これによってもグロープラグの温度上昇が抑制される。グロープラグの温度が上昇しなければ、燃焼安定性が悪い状態が継続する。また燃料を増量しては、燃費が悪化する。昨今、ディーゼルエンジンでは低圧縮比化が進められている。この低圧縮比化に伴い、冷間始動直後のアイドル運転での燃焼安定性が悪化する傾向にある。
【0026】
こうした冷間始動直後のアイドル安定性の悪さに鑑みて本発明者が実施した実機実験の結果が
図2に示される。横軸はクランキングの開始(エンジン始動)からの経過時間である。
図2において第2段目、第3段目、第4段目、第5段目には、次の〈1〉から〈4〉までの4つのケースのエンジン回転速度の変化及び可変ノズル3Dの動作変化が示される。
【0027】
〈1〉可変ノズルが全開のまま。
〈2〉可変ノズルがA秒後に全開から全閉される。
〈3〉可変ノズルがB秒後に全開から全閉される。
〈4〉可変ノズルがC秒後に全開から全閉される。
【0028】
ここで、上記ケース〈2〉〜〈4〉においてA>B>C>0である。
図2において第2段目〜第5段目において上下に小刻みに振れているのがエンジン回転速度、途中でステップ変化しているのが可変ノズルの動作状態を示すエンジン回転速度の上下の変動幅は、大きいほど筒内の燃焼が不安定であることを示す。また、可変ノズルはステップ変化したタイミングが、全開から全閉へと切り替えたタイミングである。
【0029】
図2の最上段には、上記ケース〈1〉及びケース〈2〉でのグロープラグ31の温度変化が示される。
【0030】
まず、筒内での燃焼安定性を良くするには、グロープラグ31を冷やさないことが望ましい。そこで、発明者は、可変ノズル3Dを冷間始動後のアイドル運転となっても全開のままにして(この状態では、作動ガス量が最小のまま)、様子を見た。これは上記ケース〈1〉である。
【0031】
図2の最上段に示されるように、本発明者の予想通り、冷間始動直後のアイドル運転でも作動ガス量が最小に維持されれば、グロープラグ31の温度が低下しない。グロープラグ31の温度の低下が抑制されれば、失火の発生が軽減され、燃焼が安定する。
【0032】
その一方で、ケース〈1〉においては、冷間始動直後のアイドル運転を暫く継続した後の時刻t0で可変ノズル3Dを全開から全閉するが、この切替後に、エンジン回転速度の変動量が小さくなっている(アイドル回転速度が安定している)ことを、発明者が初めて見い出した。
【0033】
そこで次には、可変ノズル3Dを全開から全閉へ切替えるタイミングをケース〈1〉よりも徐々に早めた。すなわち、A秒後に切替えたのがケース〈2〉である。B秒後に切替えたのがケース〈3〉である。C秒後に切替えたのがケース〈4〉である。ケース〈2〉及びケース〈3〉であれば、切替直後にアイドル回転速度が安定するものの、ケース〈4〉では、切替タイミングが早すぎ、切替直後にアイドル回転速度(つまり燃焼状態)が却って不安定になっている。このことは、冷間始動直後のアイドル運転において回転変動を招かない範囲で早期に回転変動を小さくすることができる最適な切替タイミングがB秒とC秒の間に存在することを暗示する。この最適な切替タイミングを「tM」秒後とすると、このtM秒後に可変ノズルを全開から全閉に切替えたときに早期に安定したアイドル運転への移行を実現できることとなる。
【0034】
図3は、
図2で示した実験結果について等間隔の8つのサンプリングタイムごとのエンジン回転速度の変動幅(図では「Max−Min」で表す)をプロットした図である。比較のため、冷間時に始動当初から可変ノズルを全閉に保持したときのケース(ケース〈5〉)も示されている。
図3では、縦軸の値が小さいほど、エンジン回転速度が安定している。
図3においても可変ノズルを全開から全閉へと切替えるタイミングをA秒からB秒へと早めたほうが、早期にアイドル回転速度が安定することがわかる。一方、切替タイミングをB秒からさらにC秒へ早めると、却ってアイドル回転速度が不安定になっていることがわかる。
【0035】
そこで第1実施形態は、冷間始動当初は、吸入空気量を相対的に低減しておき、冷間始動直後のアイドル運転であって予め定まった条件に到達したときに吸入空気量を相対的に増加するようにした。このようにすることで、冷間始動直後に過度のアイドル不安定を招かず、早期に安定したアイドル運転へ移行できる。
【0036】
これについて、
図4が参照されてさらに詳述される。
図4の細実線が第1実施形態を示す。本実施形態では、エンジン1が冷間始動直後のアイドル運転に移行する時刻t2以降も可変ノズルを全開に保ち、作動ガス量がアイドル運転で最小のままとする(
図4(B)(C)の細実線)。このようにすると、冷間始動直後のアイドル運転でグロープラグ31の温度が参照例のように低下することがなく一定に維持される(
図4(A)の細実線)。このようにして、グロープラグの温度低下が防止されることで、圧縮端温度が上昇して作動ガス中の燃料が着火しやすくなる。そして、失火の発生が軽減され、燃焼が安定する。そのため、実施形態は、参照例よりも冷間始動直後のアイドル回転速度の変動量が小さくなる(
図4(D)の細実線)。
【0037】
時刻t3(=tM)は、冷間始動直後のアイドル運転において回転変動を招かない範囲で早期に回転変動を小さくすることができる最適な切替タイミングであり、本実施形態ではじめて導入されたものである。このタイミングは、適合によって予め求められる。本実施形態では時刻t3となったときに、予め定まった条件に到達したと判断されて、可変ノズル3Dが全開から全閉へ切り替えられる。これによって、作動ガス量が冷間始動直後のアイドル運転において最大となり、時刻t3以降には回転速度変動量がt3以前よりも小さくなっている(
図4(D)の細実線)。
【0038】
時刻t3となったか否か(つまり予め定まった条件に到達したか否か)は、次のようにして判断させればよい。
図4において冷間始動を開始する時刻t1から、冷間始動直後にアイドル運転となる時刻t2までの時間を「T0」とする。時刻t2から時刻t3までの時間を「T1」とする。時刻t1で第1タイマーが起動され、第1タイマー値がT0+T1に到達したら、時刻t3になった(予め定まった条件に到達した)と判断させることができる。別の手法としては、時刻t2で第2タイマーが起動され、第2タイマー値がT1に到達したら、時刻t3になった(予め定まった条件に到達した)と判断させることもできる。後述する
図5、
図7のフローチャートは後者の場合に対応する。なお、冷間始動から冷間始動直後のアイドル運転に移行するまでのグロープラグ31の制御がプリグローと呼ばれる。冷間始動直後のアイドル運転に移行してからグロープラグ31を非通電とする時刻t4までのグロープラグ31の制御がアフターグローと呼ばれる。
【0039】
本実施形態では、可変ノズル3Dを有するターボチャージャー3によって、冷間始動直後のアイドル運転で作動ガス量が調整されているが、これには限られない。吸気絞り弁5によって、調整されてもよい。例えば、可変ノズル4Dは冷間始動当初からアフターグローの終了タイミング(時刻t4)まで全開としておく。一方、冷間始動当初は、作動ガス量が減少するように吸気絞り弁5が閉じられて、
図4の時刻t3で吸気絞り弁5が全開されれば、作動ガス量が増える。このように、吸気絞り弁5によっても作動ガス量が調整される。
【0040】
次に、コントローラー21が実行する、冷間始動から、冷間始動直後のアイドル運転に移行しアフターグローを終了するまでの制御内容が、
図5、
図7のフローチャートに基づいて詳述される。
図5は、始動フラグの設定方法を示すフローチャートである。このフローチャートは、一定時間毎(例えば10ms毎)に実行される。
【0041】
ステップS1においてコントローラーは、エンジンの冷間始動に際して今回キースイッチがONであるか否かを判定する。コントローラーは、判定結果が肯であればステップS2へ処理を移行し、判定結果が否であれば処理を抜ける。
【0042】
ステップS2においてコントローラーは、始動フラグ(前回エンジンを運転した後のエンジン停止時にゼロに設定)がゼロであるか否かを判定する。コントローラーは、判定結果が肯であればステップS3へ処理を移行し、判定結果が否であれば処理を抜ける。ここでは始動フラグ=0であるとしてステップS3に進む。
【0043】
ステップS3においてコントローラーは、前回キースイッチがONであったか否かを判定する。コントローラーは、判定結果が否であればステップS4へ処理を移行し、判定結果が肯であればステップS9へ処理を移行する。今回キースイッチがONであり前回キースイッチがOFFであった、つまりキースイッチがOFFからONへ切り替えられたときは、コントローラーは、エンジンの始動要求があったと判断して、ステップS4へ処理を移行する。
【0044】
ステップS4においてコントローラーは、水温センサー32によって検出される水温Tw[℃]を始動時水温Twint[℃]に移す。
【0045】
ステップS5においてコントローラーは、
図6のテーブルを検索することによって、始動時水温Twintから、冷間始動直後のアイドル運転で可変ノズル3Dを全開する時間(以下「可変ノズル全開時間」という)T1[秒]を求める。時間T1は、
図4において、時刻t2から時刻t3(=tM)までの時間である。なおここでいう「冷間」とは特に零下の温度域である。可変ノズル全開時間T1は、
図6に示されるように、始動時水温Twintが零下の温度域(ゼロ℃よりも小さい温度域)で始動時水温Twintが低くなるほど長くなる。また、始動時水温Twintがゼロ℃よりも大きい温度域では、可変ノズル全開時間T1は一定である。零下の温度域で始動時水温Twintが低いほど可変ノズル全開時間T1が長いのは、始動時水温Twintが低いほど冷間始動直後のアイドル運転で回転変動が安定するまでの時間が長引くことの対策である。始動時水温Twintに代えて始動時油温を用いることができる。なお、簡単には可変ノズル全開時間T1を一定値としてもよい。
【0046】
ステップS6においてコントローラーは、作動ガス量が最小となるように可変ノズル3Dを全開する。
【0047】
ステップS7においてコントローラーは、グロープラグ31に通電する。
【0048】
ステップS8においてコントローラーは、混合気の空気過剰率が1.0よりも小さなリッチ側となるように、燃料噴射量を増量補正する。この増量補正量は時間と共に漸減させて最終的にゼロとなる。
【0049】
今回、前回ともキースイッチがONである、つまりキースイッチのON継続時にはステップS1→S2→S3→S9に進む。
【0050】
ステップS9においてコントローラーは、クランク角センサー23によって検出されるエンジン回転速度Ne[rpm]が所定値(例えば500rpm)よりも大きいか否かを判定する。コントローラーは、判定結果が肯であればステップS10へ処理を移行し、判定結果が否であれば、エンジン1がまだ始動しておらずステップS6へ処理を移行する。
【0051】
ステップS9の判定結果が肯であれば、エンジン1が始動(冷間始動)している。そこで、ステップS10においてコントローラーは、始動フラグ=1とする。この始動フラグ=1によって次回以降はステップS2からステップS3に進まなくなる。
【0052】
図7は、冷間始動直後に可変ノズル3D、グロープラグ31、燃料噴射量を制御するフローチャートである。
図7のフローチャートは、
図5のフローチャートに続いて一定時間毎(例えば10ms毎)に実行される。
【0053】
ステップS11においてコントローラーは、始動フラグ=1であるか否かを判定する。なお始動フラグは
図5のフローチャートで設定されている。コントローラーは、判定結果が肯であればステップS12へ処理を移行し、判定結果が否であれば処理を抜ける。
【0054】
ステップS12においてコントローラーは、アイドルフラグ(エンジン始動時にゼロに初期設定)=0であるか否かを判定する。コントローラーは、判定結果が肯であればステップS13へ処理を移行し、判定結果が否であればステップS19へ処理を移行する。ここではアイドルフラグ=0であるとしてステップS13に進む。
【0055】
ステップS13においてコントローラーは、車速センサー33で検出される車速VSP[km/h]がゼロでかつアクセルセンサー22で検出されるアクセルペダル操作量APO[無名数]がゼロであるか否かを判定する。コントローラーは、判定結果が肯であればステップS14へ処理を移行し、判定結果が否であればステップS16へ処理を移行する。
【0056】
ステップS13の判定結果が肯であれば、車速VSPがゼロでかつアクセルペダル操作量APOがゼロである冷間始動直後のアイドル運転に移行した状態である。そこで、ステップS14においてコントローラーは、アイドルフラグ=1とする。
【0057】
ステップS15においてコントローラーは、タイマー値tm1[秒]=0として、タイマーを起動する。タイマーは、冷間始動直後のアイドル運転に移行してからの経過時間を計測する。
【0058】
ステップS13の判定結果が否であれば、車速VSPがゼロでなかったりアクセルペダル操作量APOがゼロでない。すなわち冷間始動直後にまだアイドル運転に移行していない。そこでこのときは、ステップS14及びステップS15がスキップされて、ステップS16へ処理が移行される。
【0059】
ステップS16においてコントローラーは、可変ノズル3Dを全開として、作動ガス量が最小であることを継続する。
【0060】
ステップS17においてコントローラーは、グロープラグ31に通電する(通電を継続する)。
【0061】
ステップS18においてコントローラーは、通常の燃料噴射量を供給する。「通常の燃料噴射量」とは、燃料増量補正量がゼロとなった後に燃料噴射弁9に与える燃料噴射量のことである。通常の燃料噴射量によって得られる混合気の空気過剰率は、1.0より大きなリーン側の値である。
【0062】
ステップ14でアイドルフラグ=1となったら、次回からはステップS12からステップS19へ処理が移行される。
【0063】
ステップS19においてコントローラーは、タイマー値tm1が可変ノズル全開時間T1(
図5のステップ5で算出済み)よりも小さいか否かを判定する。コントローラーは、判定結果が肯であればステップS16へ処理を移行し、判定結果が否であればステップS20へ処理を移行する。
【0064】
ステップS19の判定結果が否であれば、最適な切替タイミング(tM)になったと判定できる。そこでこのときは、ステップS20においてコントローラーは、タイマー値tm1が、可変ノズル全開時間T1に一定時間T2を加算した値よりも小さいか否かを判定する。コントローラーは、判定結果が肯であればステップS21へ処理を移行し、判定結果が否であればステップS22へ処理を移行する。時間T2は、
図4において、最適な切替タイミングt3(=tM)から、アフターグローを終了する時刻t4までの時間である。この時間T2も適合によって予め定められる。タイマー値tm1がT1+T2の時間よりも小さければ、最適な切替タイミング(tM)に到達している。そこでコントローラーは、ステップS21において、作動ガス量が冷間始動直後のアイドル運転において最大となるように、可変ノズル3Dを全閉する。これによって、冷間始動直後のアイドル運転において回転速度の変動が小さくなり、アイドル回転が安定する。その後はステップS17及びステップS18が実行される。
【0065】
ステップS22においてコントローラーは、グロープラグ31を非通電として、アフターグローを終了する。
【0066】
ステップS23においてコントローラーは、可変ノズルを運転条件に応じた開度とする。
【0067】
次に、本実施形態の作用効果が説明される。
【0068】
本実施形態によれば、冷間始動直後にアイドル運転に移行した当初は作動ガス量が少ないので(
図4(B)の時刻t2〜t3)、グロープラグ31が作動ガス(吸入空気)によって冷やされにくい。そのため、燃料噴射弁9から噴射された燃料が、グロープラグ31によって着火されやすく、失火の発生が軽減される。
【0069】
次に、冷間始動直後のアイドル運転に移行した後は、グロープラグ31によるアシストよって、壁温等の筒内温度環境が改善されて、圧縮端温度が上昇する。圧縮端温度が上昇し、グロープラグ31の燃焼への寄与が低減した環境になったら、作動ガス量が増やされる(
図4(B)の時刻t3〜t4)。作動ガス量が増えた状態で燃焼すれば、燃焼温度が上がり、早期に燃焼安定性が向上する。冷間始動直後に過度のアイドルが不安定にならずに早期に安定したアイドル運転へ移行される。
【0070】
また本実施形態によれば、始動時冷却水温Twint(冷間始動時のエンジン温度)が低いほど、可変ノズル全開時間T1が長い(
図6)。これによって、冷間時に始動時冷却水温Twintが相違しても、冷間始動直後に過度のアイドル不安定を招くことなく早期に安定したアイドル運転が実現される。
【0071】
また本実施形態によれば、ターボチャージャー3の可変ノズル3Dで吸入空気量が調整される。すなわち、冷間始動当初は、可変ノズル3Dが全開である。そして、切替タイミングtMで全閉される。このように、可変ノズル3Dで吸入空気量が調整されるので、可変ノズルタイプのターボチャージャー3を用いるディーゼルエンジン1であれば、新たなデバイスが追加されなくても、適用可能であり、コストアップが抑えられる。
【0072】
なお実施形態では、可変ノズルの開度が、冷間始動当初は全開し、その後全閉する場合で説明されたが、これには限られない。冷間始動当初は相対的に小さく、その後相対的に大きくなればよい。
【0073】
(第2実施形態)
図8は、第2実施形態のフローチャートである。第1実施形態の
図7と同一部分には同一のステップ番号が付される。
【0074】
第2実施形態は、ステップS31が第1実施形態と相違する。
【0075】
ステップS31においてコントローラーは、冷間始動直後のアイドル運転での冷却水温Twが所定値[℃]よりも小さいか否かを判定する。この所定値は、冷間始動直後のアイドル運転において回転変動を招かない範囲で早期に回転変動を小さくできる冷却水温の下限値である。この所定値は適合によって予め定められる。コントローラーは、判定結果が肯であればステップS16へ処理を移行し、判定結果が否であればステップS20へ処理を移行する。
【0076】
この第2実施形態においても、第1実施形態と同様に、冷間始動直後に過度のアイドル不安定が引き起こされることなく早期に安定したアイドル運転へ移行される。
【0077】
(第3実施形態)
上述したように、従来よりも圧縮比が低いディーゼルエンジンについて研究されている。圧縮比が低くなれば、圧縮端温度が下がるので、特に低温始動時の着火性や低温アイドルでの燃焼安定性が悪化する。そこで、アイドルアップすれば、早期に安定したアイドル運転へ移行しやすくなる。アイドルアップすれば、過給器を働かせることも可能である。過給器を働かせれば、後述のように燃料の貫徹力が小さくなり燃料がグロープラグへ付着しにくくなる。
【0078】
第1実施形態及び第2実施形態では、条件が成立したら、作動ガス量が増えるように、可変ノズルなどがステップ変化された。このようにすることで、冷間始動直後に過度のアイドル不安定が引き起こされることなく早期に安定したアイドル運転へ移行された。
【0079】
ところで発明者らは、さらなる研究を鋭意進めることで、
図2のケース〈2〉〈3〉又はタイミングtMで全開→全閉すれば安定度が増すが、
図2のケース〈4〉では却って安定度が悪化するメカズムを明らかにすることができた。そして、この知見に基づいて、さらに早期に安定したアイドル運転へ移行できる手法を開発したのである。この実施形態について理解を容易にするために、以下では発明者が得た知見について説明する。
【0080】
発明者は、着火性がグロープラグ近傍の当量比及び温度に相関があることに着目した。圧縮端温度を上げるには、過給して筒内圧を上げればよい。また筒内圧を上げることで、燃料の貫徹力も低下し、グロープラグ近傍での当量比が上がる。これについて
図9が参酌されて説明される。
【0081】
図9は、過給の有無による筒内の燃料分布をシミュレーションした結果を示す図である。色が濃いところほど、燃料分布が密である。
図9(A)及び
図9(C)は、シリンダーの右半分の縦断面図であり、
図9(A)及び
図9(C)の左端がエンジンの中心になる。そして
図9(A)は、過給なし、
図9(C)は、過給ありである。それ以外の燃料噴射量や燃料噴射タイミングなどの条件は同じである。
図9(B)及び
図9(D)は、シリンダーの上方から見た断面図であり、ピストン冠面のキャビティーのエッジまでの燃料分布が示されている。
図9(B)は過給なしで
図9(A)に対応する。
図9(D)は過給ありで
図9(C)に対応する。矢印は、スワールの方向を示す。また
図9(B)及び
図9(D)では、燃料噴射弁の8つの噴口のうち1つの噴口から噴射された燃料の分布が示されている。
【0082】
ピストン100の冠面には、キャビティーが形成されている。燃料噴射弁9から噴射された燃料は、グロープラグ61の近傍を通過して、キャビティーのエッジ部分に到達する。
【0083】
過給なしのときは、
図9(A)から判るように、燃料の貫徹力が高く、キャビティーのエッジの外側に到達する燃料が多い。そのためグロープラグ近傍の燃料も少なめである。また
図9(B)から判るように、キャビティー内の燃料分布が薄めになっている。
【0084】
過給ありのときは、
図9(C)から判るように、燃料の貫徹力が小さく、キャビティーのエッジの外側の燃料が、
図9(A)に比べて少ない。そのためグロープラグ近傍の燃料が、
図9(A)に比べて多めである。また
図9(D)から判るように、
図9(B)に比べてキャビティー内の燃料分布が濃いめになっている。
【0085】
このように、過給することで、グロープラグ近傍の当量比が上がることが判る。そこで、第1実施形態や、第2実施形態のように、可変ノズルをステップ変化させて過給することで、グロープラグ近傍の当量比が上がって、冷間始動性を向上できている。しかしながら、過給することで、低温の空気が多量に流入することとなる。その空気によってグロープラグが冷却されてしまうことが発明者の研究によって明らかにされた。
【0086】
図10は、−25℃の環境におけるグロープラグ近傍温度と過給圧とに対するエンジン回転変動を測定した実験の結果を示す図である。横軸がグロープラグ近傍の推定温度、縦軸が過給圧である。なお、グロープラグ近傍の推定温度TGAは、グロープラグの表面温度TGに、冷却水温TWに係数K1を乗じたものと、吸気温TIに係数K2を乗じたものと、を加算して求めている。すなわち次式の関係がある。なお係数K1,K2は適宜設定されている。
【0088】
グロープラグの表面温度TGは、グロープラグに取り付けられた温度センサーで検出される。またグロープラグの表面温度は、予め目標温度が設定されており、その目標温度になるようにデューティー制御されている。そこでグロープラグ表面の目標温度を用いてもよい。冷却水温TWは、冷却水経路に取り付けられた温度センサーで検出される。吸気温TIは、コレクター6に取り付けられた温度センサーで検出される。各係数は適合によって定められる。黒円は回転変動が小さく、以下、白四角→黒三角→バツとなるにつれて、回転変動が大きい、すなわち燃焼安定性が悪い。
【0089】
各ポイントの分布を見ると、全くバラバラに存在するのではなく、ある程度特定の領域に集まっていることが判る。
【0090】
すなわち、黒円は右上のエリアに集まっている。そこで黒円が集まる領域を、右下がりのラインL1で区切る。ラインL1の右の領域が、回転変動の少ない安定領域である。
【0091】
また、白三角、黒三角、バツもある程度特定の領域に集まっているそこで、これらの領域をラインL2及びラインL3で区切った。
【0092】
各ラインで区切られた領域は、回転変動が同程度の等変動回転領域である。等変動回転領域では、燃焼安定度が同レベルである。
【0093】
図9で説明したように、過給されているほうが、グロープラグ近傍の当量比が上がり、燃焼安定度が向上しそうであるが、過給することで、低温の空気が多量に流入することとなる。その空気によってグロープラグが冷却される。したがって、単純に過給圧を上げても、燃焼が安定しないということが、
図10の実験結果から明らかになったのである。
【0094】
図11Aは、可変ノズルの開度の制御パターンを示す図である。
図11Bは、可変ノズルの開度を制御したときのグロープラグ近傍温度及び過給圧の変化を示す図である。
【0095】
次に、
図11A及び
図11Bを参酌して、可変ノズルの開度を制御したときのグロープラグ近傍温度及び過給圧の変化について説明される。
【0096】
図11AのパターンP1は、早期に可変ノズルが全開→全閉されるパターンである。これは
図2のケース〈4〉に相当する。このパターンP1のように可変ノズルの開度が制御されると、
図11Bに示されるように、過給圧の上昇に伴うグロープラグ近傍の温度の低下が大きかった。すなわち、グロープラグ近傍温度は、グロープラグ表面温度のみならず、冷却水温の影響も受けるが、冷却水温が低い状態で過給圧を上げてしまうパターンP1では、過給圧の上昇に伴うグロープラグ近傍の温度の低下が大きかったのである。そのため、一旦、現在よりもエンジンの回転変動が大きい領域(ラインL3の左の領域)に入ってしまい、その後、安定していくのである。
【0097】
図11AのパターンP2は、所定時間をおいて可変ノズルがステップ的に全開→全閉されるパターンである。これは
図2のケース〈2〉〈3〉又はタイミングtMで全開→全閉される実施形態に相当する。このパターンP2のように可変ノズルの開度が制御されると、
図11Bに示されるように、過給圧の上昇に伴ってグロープラグ近傍の温度の低下するものの、エンジン回転変動領域は現在と同じラインL2及びラインL3の間の領域のままである。そのため、可変ノズルの開度を変更直後は、現在と同程度のエンジン回転変動が生じ、その後、安定していくのである。
【0098】
このように、可変ノズルがステップ的に全開→全閉されると、低温の空気が流入してグロープラグ近傍の温度が低下することを避けられない。可変ノズルが早期に制御されれば、却って安定性が悪化し、時間をおいて制御されても、比較的長い時間、現在と同程度のエンジン回転変動が生じる。
【0099】
なお
図11AのパターンP5のように、可変ノズルが全開のままであれば、
図11Bに示されるように、グロープラグ近傍温度が下がらず、安定度が増していくものの、安定領域に移行するまでに時間がかかる。
【0100】
このように、グロープラグ近傍温度というパラメーターを導入することで、
図2のように、可変ノズルの制御タイミングによって、燃焼安定性が変わる理由が明らかになったのである。
【0101】
グロープラグ近傍温度は、冷却水温の他にも、吸気温(筒内に吸入される空気の温度)の影響も受ける。過給圧が上がって筒内に導入される空気量が増えれば、圧縮端温度も上昇し、グロープラグ近傍温度も上昇する。
【0102】
そこで発明者は、
図11AのパターンP3のように、所定時間をおいて可変ノズルを徐々に閉じて、徐々に過給圧を上げた。この場合は、
図11Bに示されるように、過給圧の上昇に伴ってグロープラグ近傍の温度の低下するものの、パターンP2に比べて低下度合いが少ない。そのため、パターンP2よりも早期にエンジン回転を安定させることができたのである。
【0103】
また
図11AのパターンP4のように最初はゆっくりと可変ノズルを閉じた。この場合は、
図11Bに示されるように、ラインL2及びラインL3の間の領域では、グロープラグ近傍温度が低下しなかった。そのため、早期にエンジン回転を安定させることができたのである。
【0104】
可変ノズルがステップ的に全開→全閉されるのではなく、パターンP3やパターンP4のように、徐々に可変ノズルが制御されることで、エンジン回転の早期安定化が可能であることが判った。
【0105】
次に、可変ノズルの具体的な制御内容について、説明する。
【0106】
図12は、第3実施形態の制御フローチャートである。
【0107】
ステップS101においてコントローラーは、水温TW,吸気温TI,過給圧QA,外気温TAをセンサー信号に基づいて検出する。
【0108】
ステップS102においてコントローラーは、過給しないときのグロープラグ近傍温度TGA0を次式に基づいて算出する。なおブロープラグ表面目標温度TGTは、上述のように予め設定されており、その目標温度になるようにデューティー制御されているので、その値を用いる。
【0110】
ステップS103においてコントローラーは、グロープラグ近傍温度TGA0が、過給なし時の燃焼安定グロープラグ近傍温度TGA1よりも小さいか否かを判定する。コントローラーは、判定結果が肯であればステップS103へ処理を移行し、判定結果が否であればステップS107へ処理を移行する。判定結果が否というのは、過給なしで燃焼が安定することを意味する。そこで、このときは、ステップS107へ処理を移行して、目標過給圧QATをゼロに設定し、過給しない。それ以外は、過給しなければ燃焼が安定しないので、ステップS103へ処理を移行して、目標過給圧QATを設定する。
【0111】
ステップS104においてコントローラーは、次式に基づいてグロープラグ近傍温度TGAを算出する。
【0113】
ステップS105においてコントローラーは、グロープラグ近傍温度TGA及び過給圧QAから、マップ索によって、目標過給圧QATを設定する。なお具体的な内容は後述される。
【0114】
ステップS106においてコントローラーは、過給圧QAが目標過給圧QATになるようにフィードバック制御する。
【0116】
初期状態がA1であるとする。そして、所定時間後の予測ラインがLC1のように求められる。このラインLC1上であれば、いずれに制御することもできる。しかしながら、燃焼安定性を向上させるには、回転変動のエリアを区切るラインL4よりも右にしたい。またできるだけ過給圧を大きくしたい。過給圧を上げたほうがグロープラグ近傍温度が上昇するので、燃焼が早期に安定するからである。そこで、ラインL4とラインLC1との交点を目標過給圧として設定する。なお精度バラツキなどを考慮して、ラインL4とラインLC1との交点ではなく、ラインL4の右にしたり、ラインLC1の上にしてもよい。
【0117】
そして、A2になったら、再度、そのときから所定時間後の予測ラインがLC2のように求められる。そして、同様に、ラインL3とラインLC2との交点(又はその近傍)を目標過給圧として設定する。
【0118】
以上を逐次繰り返すことで、
図14のように、目標過給圧が繰り返し設定される。
【0119】
以上説明したように、本実施形態によれば、過給圧をステップ的に上げるのではなく、グロープラグ近傍温度が下がらないように制御する。このようにすることで、グロープラグ近傍の温度低下を抑制しつつ、グロープラグ近傍の当量比を高めることができ、早期に安定したアイドル運転へ移行できるようになったのである。
【0120】
(第4実施形態)
図15は、第4実施形態の制御フローチャートである。
【0121】
第3実施形態では、逐次、所定時間後の状態を予測しながら、目標過給圧を設定する。すなわちマップの詳細を逐次決定しながら、目標過給圧を設定する。しかしながらこのような手法には限定されない。この第4実施形態では、予め固定されたマップを用いる手法について説明する。
【0122】
ステップS201においてコントローラーは、水温TW,吸気温TIをセンサー信号に基づいて検出する。
【0123】
ステップS202においてコントローラーは、水温TW及び吸気温TIが、予め設定されている所定値よりも大きいか否かを判定する。コントローラーは、判定結果が否であればステップS203へ処理を移行し、判定結果が肯であればステップS204へ処理を移行する。
【0124】
ステップS203においてコントローラーは、水温TW及び吸気温TIから、マップ索によって、目標可変ノズル開度TVNTを設定する。なお具体的な内容は後述される。
【0125】
ステップS204においてコントローラーは、目標可変ノズル開度TVNTをゼロに設定し、過給しない。
【0126】
図16は、ステップS203のマップ索について説明する図である。
【0127】
初期の水温及び吸気温が−20℃であるとする。このときは、
図16に基づき、目標可変ノズル開度をゼロ(全開)にする。
【0128】
水温が−15℃に上昇したが、吸気温は依然として−20℃のままであれば、目標可変ノズル開度をVNT1に設定する。
【0129】
水温が−10℃になって、吸気温が−15℃になったら、目標可変ノズル開度をVNT2に設定する。
【0130】
水温が0℃になって、吸気温が−10℃になったら、目標可変ノズル開度をVNT3に設定する。
【0131】
このように、この第4実施形態では、予め固定されたマップを用いて、可変ノズルの開度を制御する。
【0132】
以上説明したように、本実施形態によっても、早期に安定したアイドル運転へ移行でき、しかも、予め固定されたマップを用いるので、制御を簡易に行える。
【0133】
(第5実施形態)
図17A〜17Cは、第5実施形態の基本的なコンセプトを説明する図である。
【0134】
はじめに、この第5実施形態の理解を容易にするために、
図17A〜17Cが参照されて、基本的なコンセプトが説明される。
【0135】
図17Aに示されるように、実施形態では、過給圧が時間の経過とともに上げられ、目標過給圧に達したら、その過給圧が維持される。このとき、水温及び吸気温も時間の経過とともに上昇する。
【0136】
グロープラグは、予め目標温度が設定されている。たとえば1200℃などに設定されている。そして、それが達成されるように、通常は、
図17Bに示されるように、初期にデューティー比が高く、徐々に小さくなるように、デューティー制御される。このようにしなければ、グロープラグの表面温度が上がりすぎて、グロープラグの寿命が縮められてしまうからである。
【0137】
しかしながら、通常のデューティー制御では、過給圧の変化が考慮されていない。そのため、実際は、
図17Cに示されるように、過給圧の上昇にともない、グロープラグの表面温度が低下する。グロープラグの温度が低下すれば、その分、燃焼が安定するまでに時間を要する。
【0138】
そこで、この第5実施形態では、グロープラグのデューティー制御についても工夫したのである。以下では、具体的な内容が説明される。
【0139】
図18は、第5実施形態の制御フローチャートである。
【0140】
ステップS301においてコントローラーは、水温TW,吸気温TI,過給圧QAをセンサー信号に基づいて検出する。
【0141】
ステップS302においてコントローラーは、次式に基づいてグロープラグ近傍温度TGAを算出する。なお、TGTは、ブロープラグ表面目標温度(たとえば1200℃)である。
【0143】
ステップS303においてコントローラーは、グロープラグ近傍温度TGAであるときの燃焼安定過給圧QATを求める。具体的には、予め設定されているテーブルを参照して求めるなどすればよい。
【0144】
ステップS304においてコントローラーは、燃焼が安定しているか否か、具体的には、過給圧QAが燃焼安定過給圧QATよりも大きいか否かを判定する。コントローラーは、判定結果が否であればステップS305へ処理を移行し、判定結果が肯であればステップS307へ処理を移行する。
【0145】
ステップS305においてコントローラーは、グロープラグ表面温度低下量TGLを求める。具体的には、たとえば次式に基づいて求める。なお係数K3,K4は適宜設定されている。
【0147】
ステップS306においてコントローラーは、ブロープラグ表面目標温度になるように予め設定されている通電量GL0に対して、グロープラグ表面温度低下量TGLで補正する。具体的には、たとえば次式のように、グロープラグ通電量GLを設定する。なお係数K5は適宜設定されている。
【0149】
ステップS307においてコントローラーは、過給圧QAから、燃焼安定するグロープラグ近傍温度の最低値TGAMINを求める。具体的には、予め設定されているテーブルを参照して求めるなどすればよい。
【0150】
ステップS308においてコントローラーは、ブロープラグ表面目標温度になるように予め設定されている通電量GL0に対して、最低温度TGAMINで補正する。具体的には、たとえば次式のように、グロープラグ通電量GLを設定する。なお係数K6は適宜設定されている。
【0152】
このようにすれば、燃焼が安定していない初期には、
図17Bに示されるように、グロープラグ通電量(デューティー比)が上げられて、過給されていても、グロープラグ表面温度の低下が抑制される(
図17C)。
【0153】
燃焼が安定した後は、
図17Bに示されるように、グロープラグ通電量(デューティー比)が下げられる。これによって、グロープラグ表面温度が低くなるが、燃焼安定するグロープラグ近傍温度は確保される。そして、燃焼安定後にグロープラグ通電量(デューティー比)が下げられるので、トータルとしてグロープラグ通電量が小さくなり、グロープラグの負担が減り、結果として、グロープラグの寿命が延びる。
【0154】
図19は、第5実施形態による作用効果を説明する図である。
【0155】
この第5実施形態によれば、燃焼が安定していない初期に、グロープラグ通電量(デューティー比)が上げられて、過給されていても、グロープラグ表面温度の低下が抑制される。そのため、
図19のルートR1のような実線経路を辿る。燃焼が安定した後、すなわち、ラインL1の右の燃焼安定領域に入った後は、ラインL1に沿うように制御する。このようにすることで、早期に安定したアイドル運転へ移行される。
【0156】
また燃焼安定後は、水温が上昇し、過給によって吸気温も上昇しているので、グロープラグ表面温度を下げてもグロープラグ近傍温度を維持でき、燃焼が安定する。そこで、本実施形態では、グロープラグ通電量(デューティー比)が下げられて、トータルとしてグロープラグ通電量が小さくなり、グロープラグの負担が減り、結果として、グロープラグの寿命が延びるのである。
【0157】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0158】
たとえば、上記においては、グロープラグの表面温度と、冷却水温TWと、吸気温TIとから、グロープラグ近傍温度が演算された。しかしこれには限られない。潤滑油の温度、シリンダー壁面温度、空気過剰率、吸入空気量、空気密度、過給圧を考慮してもよい。その場合は、係数を適宜定めて、式(1)にさらに加算すればよい。また簡易的には、いずれか1つのパラメーターに基づいて、グロープラグ近傍温度が演算されてもよい。要求される精度や、コントローラーのコストなどを考慮して、いずれのパラメーターを採用するかを適宜決定すればよい。
【0159】
また上記においては、可変ノズル型のターボチャージャーの可変ノズルを制御することで、過給圧を制御していた。しかしながら、他の過給器であってもよく、また可変動弁機構を用いて、バルブタイミングを調整することで過給圧(筒内圧)を制御してもよい。
【0160】
また上記した演算式も一例に過ぎない。
【0161】
上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。
【0162】
本願は、2012年3月14日に日本国特許庁に出願された特願2012−57713に基づく優先権を主張し、これらの出願の全ての内容は参照によって本明細書に組み込まれる。