【実施例1】
【0033】
図1は、本実施形態に係る触媒劣化判定システムの概略構成を示す図である。
図1に示す内燃機関1は、燃料噴射を行う燃料噴射弁6と点火プラグ(不図示)を有する火花点火式内燃機関である。内燃機関1の吸気通路2には、上流側から順に、吸入空気量を検出するためのエアフローメータ4と、電子制御式スロットルバルブ5とが組み込まれている。そして、スロットルバルブ5の下流側に、上記燃料噴射弁6が設置される。また、内燃機関1の排気通路3には、酸素吸蔵能を有する三元触媒7が取り付けられている。三元触媒7の上流側に三元触媒7に流れ込む排気の空燃比を検出するための空燃比センサ8と、三元触媒7の下流側に当該三元触媒7から流れ出る排気に含まれる酸素濃度を検出する酸素濃度センサ9が設けられている。空燃比センサ8は、いわゆる広域空燃比センサからなり、比較的広範囲にわたる空燃比を連続的に検出可能で、その検出レンジにおいて排気空燃比に比例した値の信号を出力する。一方で、酸素濃度センサ9は、理論空燃比(ストイキ近傍)を境に出力値が急変する特性(Z特性)を持つ。なお、酸素濃度センサ9の特性の詳細については、後述する。
【0034】
図1に示す触媒劣化判定システムには、上述のスロットルバルブ5及び燃料噴射弁6等の内燃機関1に関する構成を制御するための電子制御ユニット(以下、「ECU」と称す)20が設けられている。このECU20は、何れも図示されないCPU、ROM、RAM、入出力ポート、および記憶装置等を含むものである。ECU20には、図示されるように、エアフローメータ4、スロットルバルブ5、燃料噴射弁6、図示されない点火プラグ、空燃比センサ8、酸素濃度センサ9のほか、内燃機関1のクランク角を検出するクランク角センサ10、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ11、その他の各種センサが、電気的に接続されている。ECU20は、各種センサの検出値等に基づいて、所望の出力が得られるように、点火プラグ、スロットルバルブ5、燃料噴射弁6等を制御し、内燃機関1における点火時期、燃料噴射量、燃料噴射時期、スロットル開度等を制御する。
【0035】
ここで三元触媒7は、これに流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比(ストイキ、例えばA/F=14.6)のときにNOx、HC、COを同時に浄化する。そのため、ECU20は、内燃機関1の通常運転時には、三元触媒7に流入する排気の空燃比が概ねストイキとなるように、燃料噴射弁6から噴射される燃料噴射量をフィードバック制御する。これにより三元触媒7に流入する排気ガスの空燃比はストイキ近傍に保たれ、三元触媒7において最大の排気浄化性能が発揮されるようになる。
【0036】
一般に、三元触媒7は、担体基材の表面上にコート材が被覆され、このコート材に微粒子状のPt,Pd等の貴金属からなる触媒成分が分散配置された状態で保持されている。また、コート材は、排気と触媒成分との界面における反応を促進させる助触媒の役割を担うとともに、雰囲気ガスの空燃比に応じて酸素を吸蔵、放出可能な酸素吸蔵成分を含む。酸素吸蔵成分は例えば二酸化セリウムCe
O2やジルコニアからなる。そのため、三元触媒7は、自身に流入する排気の空燃比に応じて、排気中の酸素を吸蔵し、また、吸蔵している酸素を放出する。ここで、三元触媒7が、熱劣化等の不可逆的な劣化に冒されると、触媒成分と排気との接触効率が低下する等の理由により、排気浄化能が低下するとともに、触媒成分の周囲に存在するコート材の量、即ち酸素吸蔵成分の量が減少し、酸素吸蔵能自体も低下する。そのため、三元触媒7の劣化の程度は、自身が持つ酸素吸蔵能の低下度と相関関係を有することになり、以て、三元触媒7の酸素吸蔵能の程度(OSC:
O2 Strage Capacity)に基づいて、三元触媒7の劣化程度を判定することが可能である。
【0037】
そこで、
図2に基づいて、三元触媒7の劣化判定のために、そのOSCを算出する方法(以下、「Cmax法」と称する)について説明するとともに、
図3〜
図6に基づいて、本出願人が新たに見出したCmax法における課題について説明する。
図2の上段(a)図は、三元触媒7に流入する排気の空燃比に関する推移を示す図であり、特に線L1は、燃料噴射弁6からの燃料噴射を介して調整される三元触媒7に流入する排気の空燃比に関する、ECU20からの指令(目標空燃比)の推移を表したものであり、線L2は、空燃比センサ8で検出される、実際に三元触媒7に流入した排気の空燃比の推移を表したものである。また、
図2の下段(b)図の線L3は、三元触媒7の下流側に設けられた酸素濃度センサ9の出力推移を表したものである。上記の通り、酸素濃度センサ7は、排気空燃比がストイキ近傍を境にその出力値が急変する特性を有している。
【0038】
ここで、Cmax法では、酸素濃度センサ9の出力がリッチ側出力となったとき、およびリーン側出力となったときに、三元触媒7に流入する排気の空燃比が、それぞれ所定のリーン空燃比AFL、所定のリッチ空燃比AFRとなるように調整が行われる。
図2に示す例では、酸素濃度センサ9の出力がストイキレベルを横切ったときに、その出力が、リッチ側出力又はリーン側出力となったことを意味する。具体的には、時間tRにおいて酸素濃度センサ9の出力推移がリーン側からリッチ側に横切ったことから、時間tRにて酸素濃度センサ9の出力がリッチ出力となったことになる。したがって、この時間tRにて、ECU20から燃料噴射弁6を介して、三元触媒7に流入する排気空燃比が所定のリーン空燃比AFLとなるように指令(目標空燃比)が出され、その結果、実際の排気空燃比が線L2の推移を辿る。
【0039】
更に、時間が経過すると、上記の通り三元触媒7の目標空燃比が所定のリーン空燃比AFLに設定されている結果、時間tLにおいて酸素濃度センサ9の出力推移がリッチ側からリーン側にストイキレベルを横切ることになる。そこで、時間tLにて酸素濃度センサ9の出力がリーン出力となったと判断し、この時間tLにて、ECU20から燃料噴射弁6を介して、三元触媒7に流入する排気空燃比が所定のリッチ空燃比AFRとなるように指令(目標空燃比)が出される。そのため、時間tLを経過した後、三元触媒7に流入する実際の排気空燃比も所定のリッチ空燃比AFRに近づくことになる。
【0040】
このようにCmax法では、酸素濃度センサ8の出力に応じて、三元触媒7に流入する排気空燃比の調整について、リーン側からリッチ側へ移行されるモードと、リッチ側からリーン側へ移行されるモードが行われる。そこで、前者を「リッチ移行モード」と称し、後者を「リーン移行モード」と称することとする。そして、Cmax法では、リーン移行モードにおいて、三元触媒7に流入する排気空燃比がストイキ〜リーン側の空燃比であるときには、排気中の酸素が三元触媒7に吸蔵され、その吸蔵量が限界値に到達したときに三元触媒7から酸素を多く含む排気(リーン排気)が漏れ出してくると考える。そのため、
図2(a)で示される斜線領域M1は、三元触媒7の酸素吸蔵量の最大値を表わすことになる。一方で、リッチ移行モードにおいて、三元触媒7に流入する排気空燃比がストイキ〜リッチ側の空燃比であるときには、三元触媒7に吸蔵されていた酸素が放出され、その放出が完了したときに三元触媒7から酸素量が少ない排気(リッチ排気)が漏れ出してくると考える。そのため、
図2(a)で示される斜線領域M2は、三元触媒7の酸素放出量の最大値を表わすことになる。
【0041】
原理的には、斜線領域M1で表わされる三元触媒7の酸素吸蔵量と、斜線領域M2で表わされる三元触媒7の酸素放出量とは同じになるが、算出誤差を低減させるために、当該酸素吸蔵量と当該酸素放出量との平均値を、三元触媒7のOSCとする。なお、酸素吸蔵量および酸素放出量の具体的な算出については、空燃比センサ8の検出値とストイキ空燃比との差分(空燃比差分)に燃料噴射弁6からの燃料噴射量、空気における酸素の割合等のパラメータを利用して算出でき、これらの算出方法は公知であるため、詳細な説明は割愛する。
【0042】
このようにCmax法では、三元触媒7の下流側に設けられている酸素濃度センサ9の出力値に基づいて、三元触媒7に流入する排気空燃比の調整に関する、リッチ移行モードとリーン移行モードが実行される。ここで、酸素濃度センサ9には、上記の通り、いわゆるZ特性が存在する。このZ特性は、検出対象ガスの空燃比がストイキ近傍を境にセンサの出力値が急変する特性であるが、当該特性は、検出対象ガスに含まれるリーンガス成分(酸素濃度センサ9のリーン側出力に寄与するガス成分)の種類によって変動する。ここで、リッチガス成分(酸素濃度センサ9のリッチ側出力に寄与するガス成分)であるCOに対する二つのリーンガス成分(
O2、NO)をスイープしたときの酸素濃度センサ9の出力特性の違いを、
図3に示す。
図3の横軸は、各リーンガス成分での過剰率λを表し、縦軸は、酸素濃度センサ9の出力電圧を表わす。なお、酸素濃度センサ9においては、検出対象ガス中の酸素濃度が低くなるほど、すなわち当該ガスの空燃比がリッチ側であるほど、その出力電圧が高くなる。
【0043】
図3に示すように、リーンガス成分としてNOを含む方が、リーンガス成分として
O2を含む場合よりも、酸素濃度センサ9の出力の急変点が過剰率λが大きい方へ、すなわちリーン側にずれることになる。このことから、酸素濃度センサ9は、検査対象ガスに同量のリッチガス成分であるCOが含まれてもリーンガス成分の種類によって、その出力特性は変動し得るものであって、特に、検査対象ガスに含まれるNO等のNOx量が増えると、リーンガス成分に対する検出感度が低下する傾向が見出せる。
【0044】
また、酸素濃度センサ9の出力特性は、リッチガス成分濃度に対する依存性も有する。例えば、リッチガス成分であるCOに対するリーンガス成分としての
O2をスイープしたときの酸素濃度センサ9の出力特性の、COの含有量に関する違いを
図4に示す。
図4の横軸は、リーンガス成分としての
O2での過剰率λを表し、縦軸は、酸素濃度センサ9の出力電圧を表わす。そして、リッチガス成分COの含有量が200ppmのケースと、50ppmのケースごとに、酸素濃度センサ9の出力特性がそれぞれ
図4に表わされている。
【0045】
図4に示すように、リッチガス成分であるCOの含有量が多くなるほど、酸素濃度センサ9の出力電圧が高くなる。それとともに、過剰率λが小さくなる場合の出力特性(すなわち、リッチガス成分濃度が高くなる場合の出力特性)と、過剰率λが大きくなる場合の出力特性(すなわち、リッチガス成分濃度が低くなる場合の出力特性)とのずれ、すなわち出力特性のヒステリシスが、COの含有量が多くなるほど顕著となる。このことから、酸素濃度センサ9は、検査対象ガスにおけるリッチガス成分濃度に対して強い依存性が存在し、そのリッチガス成分濃度が高くなるほど、酸素濃度センサ9の出力電圧がより高く出る傾向、すなわちリッチガス成分に対する検出感度の顕著化が見出せる。
【0046】
そして、このような出力特性を有する酸素濃度センサ9を用いて、
図2に示すCmax法により三元触媒7のOSCを算出すると、当該OSCの算出が正確に行われない可能性があることを、本出願人は見出した。当該可能性について、
図5に基づいて説明する。
図5は、従来のCmax法により三元触媒7のOSCを算出しようとする際の、各パラメータの推移を示す。具体的には、
図5(a)は、三元触媒7に流入する排気空燃比の推移を示す図であり、特に、線L51は、燃料噴射弁6からの燃料噴射を介して調整される三元触媒7に流入する排気の空燃比に関する、ECU20からの指令(目標空燃比)の推移を表したものであり、線L52は、空燃比センサ8で検出される、実際に三元触媒7に流入した排気の空燃比の推移を表したものである。また、
図5(b)は、
図5(a)の線L51で示される指令(目標空燃比)に基づいた排気空燃比の調整が行われているときの、酸素濃度センサ9による検出値の推移を示す図である。また、
図5(c)は、同じように、
図5(a)の線L51で示される指令(目標空燃比)に基づいた排気空燃比の調整が行われているときの、三元触媒7内の空燃比の推移を示す図である。また、
図5(d)は、同じように、
図5(a)の線L51で示される指令(目標空燃比)に基づいた排気空燃比の調整が行われているときの、三元触媒7から流れ出る排気に含まれるNOx、CO、HCの含有量推移を示す図である。
【0047】
図5に示すCmax法では、
図2に示すケースと同じように、酸素濃度センサ9の出力が、リッチ出力となったとき、又はリーン出力となったときに、線L51で示されるECU20からの目標空燃比が、ステップ状に変化する。したがって、この場合、三元触媒7に流入する排気空燃比の調整に関するリーン移行モードとリッチ移行モードがステップ状に交互に切り替わることになる。このような場合、三元触媒7が急激な排気空燃比の変動に晒されるため、三元触媒7内での酸素吸蔵、放出を十分に行い得る環境が形成されにくくなる。そのため、
図5(d)に示すように、三元触媒7から流出するガスに、リーンガス成分であるNOxと、リッチガス成分であるCO、HCが混在して存在することになり、上述した、酸素濃度センサ9の、リーンガス成分に対する検出感度の低下傾向と、リッチガス成分濃度に対する強い依存性により、酸素濃度センサ9において、実際の排気空燃比は弱リッチの空燃比であるにもかかわらず強リッチの空燃比に対応する出力電圧を示してしまう特性が現れる。この酸素濃度センサ9によるリッチ空燃比に対して過出力してしまう特性を、「リッチ側過出力特性」と称する。
【0048】
このリッチ側過出力特性により、Cmax法実行時に、三元触媒7の内部が十分なリッチ空燃比の状態(例えば、
図2に示す所定のリッチ空燃比AFRの状態)に至らなかったり、もしくは至ったとしてもその状態に留まる時間が比較的短くなったりする。
図5に示す例においても、
図5(c)で示すように、三元触媒7の内部の排気空燃比について、リッチ側の到達空燃比がリッチ側の到達空燃比より浅い状態、すなわちストイキ空燃比を基準としたときの排気空燃比のリッチ側へのシフト量が小さい状態となっている。
【0049】
このように、Cmax法において、酸素濃度センサ9が有する上記特性に起因して、三元触媒7の内部の排気空燃比が十分なリッチ状態に至らないと、結果として、三元触媒7の酸素放出量が小さく算出されることになり、以て、三元触媒7のOSC算出の精度低下を招くことになる。また、三元触媒7のOSCが本来のOSCより小さく算出されることで、三元触媒7が劣化していないにもかかわらず、劣化したものと誤って判定しかねない。そのため、三元触媒7のOSC算出に当たりCmax法を利用する場合には、酸素濃度センサ9の上記特性を十分に考慮する必要がある。
【0050】
また、排気中の硫黄成分(S成分)により三元触媒7が硫黄被毒(S被毒)した場合、結果として三元触媒7の排気浄化能が低下するため、三元触媒7から流れ出る排気中のリッチガス成分(HC等)の量が増え、酸素濃度センサ9のリッチ側過出力特性により、Cmax法でのリッチ移行モード実行時に、三元触媒7の内部の空燃比が浅い状態となってしまう。その結果、三元触媒7のOSCが小さく算出されてしまう。
【0051】
この三元触媒7のS被毒によるOSC算出精度の低下について、
図6に基づいて具体的に説明する。
図6は、従来のCmax法により三元触媒7のOSCを算出しようとする際の、S成分をほとんど含まない正常燃料を使用したケースと、S成分を200ppm程度含むS含有燃料を使用したケースにおける、各パラメータの推移を示す。なお、各パラメータの推移において、S含有燃料を使用したケースの推移には、参照番号に「S」を添付し、正常燃料を使用したケースの推移には、「S」の添付は行わないものとする。そして、
図6(a)は、三元触媒7に流入する排気空燃比の推移を示す図であり、特に、線L61は、燃料噴射弁6からの燃料噴射を介して調整される三元触媒7に流入する排気の空燃比に関する、ECU20からの指令(目標空燃比)の推移を表したものであり、線L62は、空燃比センサ8で検出される、実際に三元触媒7に流入した排気の空燃比の推移を表したものである。また、
図6(b)の推移線L63は、
図6(a)の線L61で示される指令(目標空燃比)に基づいた排気空燃比の調整が行われているときの、酸素濃度センサ9による検出値の推移を示す図である。また、
図6(c)の推移線L64は、同じように、
図6(a)の線L61で示される指令(目標空燃比)に基づいた排気空燃比の調整が行われているときの、三元触媒7内の空燃比の推移を示す図である。また、
図6(d)の推移線L65、L66は、同じように、
図6(a)の線L61で示される指令(目標空燃比)に基づいた排気空燃比の調整が行われているときの、三元触媒7から流れ出る排気に含まれるNOx、HCの含有量推移を示す図である。そして、線L61S、線L62S、線L63S、線L64S、線L65Sで示される推移は、線L61、L62、L63.L64、L65で示される各パラメータ推移の、S含有燃料使用時の推移に対応するものである。
【0052】
図6(d)に示すように、S含有燃料では燃料中にS成分が比較的高く含まれることから、三元触媒7がS被毒し、その排気浄化能が低下することで、三元触媒7から流出する排気中のNOx濃度やHC濃度が高くなる。その結果、酸素濃度センサ9のリッチ側過出力特性により、
図6(b)に示すように、リーン移行モードが開始されると、S含有燃料を使用したケースでは酸素濃度センサ9のリッチ出力が、正常燃料を使用したケースよりも長く続かず、以て、
図6(c)に示すように、S含有燃料を使用したケースでは、三元触媒7の内部の空燃比が、正常燃料を使用したケースよりも浅い状態となる。そのため、
図6(a)で示される排気空燃比の推移から算出される三元触媒7のOSCが、本来のOSCよりも低い値に算出されることになる。
【0053】
更に、酸素濃度センサ9のリッチ側過出力特性の結果、
図6(c)に示すように三元触媒7の内部を十分なリッチ空燃比の状態に至らしめることが難しくなることから、Cmax法を行っている過程において、S被毒が生じている三元触媒7の当該S被毒の解消を図ることが難しくなる。そのため、更に三元触媒7から流れ出る排気中のリッチガス成分が増え、酸素濃度センサ9のリッチ側過出力特性がより顕著となる悪循環に陥る可能性がある。
【0054】
このように、
図2や
図5等に示す従来のCmax法では、酸素濃度センサ9のリッチ側過出力特性により、三元触媒7のOSCを本来のOSCより小さく算出するおそれがある。本出願人は、この従来のCmax法による課題を解決し、より正確な三元触媒7のOSC算出を可能とする制御を発明した。正確なOSC算出は、適切な三元触媒7の劣化判定に資するものであるため、極めて有用なものと考えられる。そこで、本発明に係るOSCの算出、および当該算出OSCに基づいた三元触媒7の劣化判定制御の具体的な実施例について、
図7に基づいて説明する。
図7は、ECU20によって行われる触媒劣化判定制御のフローチャートであり、当該制御は、ECU20によって所定の時間毎に繰り返し実行される。このECU20は、実質的にはCPU、メモリ等を含むコンピュータに相当し、そこで制御プログラムが実行されることで
図7に示すフローチャートに係る制御や後述の各種の制御が実行される。
【0055】
また、
図8は、
図7に示す触媒劣化判定制御が行われているときの、本発明に係る改良したCmax法により三元触媒7のOSCを算出しようとする際の、各パラメータの推移を示す。なお、
図8に示す各パラメータの表示形態は、
図5に示す各パラメータの表示形態と同じである。したがって、
図8(a)に示す線L81は、燃料噴射弁6からの燃料噴射を介して調整される三元触媒7に流入する排気の空燃比に関する、ECU20からの指令(目標空燃比)の推移を表したものであり、線L82は、空燃比センサ8で検出される、実際に三元触媒7に流入した排気の空燃比の推移を表したものである。また、
図8(b)は、
図5(b)と同じように酸素濃度センサ9による検出値の推移を示す図である。また、
図8(c)は、
図5(c)と同じように、三元触媒7内の空燃比の推移を示す図である。また、
図8(d)は、
図5(d)と同じように、三元触媒7から流れ出る排気に含まれるNOx、CO、HCの含有量推移を示す図である。
【0056】
先ず、S101では、アクティブ空燃比制御が開始される。当該アクティブ空燃比制御は、三元触媒7のOSCをCmax法にて算出するために、三元触媒7に流れ込む排気空燃比を、ストイキ空燃比(14.6)を中心として、積極的に所定のリーン空燃比AFL(例えば、15)と所定の
リッチ空燃比AFR(例えば、14)との間で変動させる制御である。そして、アクティブ空燃比制御において、排気空燃比をリーン側からリッチ側に移行させる移行モードを「リッチ移行モード」と称し、反対に、排気空燃比をリッチ側からリーン側に移行させる移行モードを「リーン移行モード」と称する。なお、本実施例では、後述するように、アクティブ空燃比制御における排気空燃比の変化は、いわゆる徐変であり、そのため
図8(a)の線L81で示されるように、ECU20から出される指令(目標空燃比)も、リーン移行モードおよびリッチ移行モードにおいて、緩やかに変化することになる。この排気空燃比の徐変が、本発明に係る「排気空燃比の変化率が所定の変化率に制限された状態」に相当する。S101の処理が終了すると、S102へ進む。
【0057】
S102では、アクティブ空燃比制御における移行モードが、リッチ移行モードか否かが判定される。S102で肯定判定されるとS103〜S107の処理が行われ、S102で否定判定されるとS108〜S112の処理が行われる。なお、前者は、リッチ移行モードの際の排気空燃比の徐変および三元触媒7の酸素放出量の算出に関する一連の処理であり、後者は、リーン移行モードの際の排気空燃比の徐変および三元触媒7の酸素吸蔵量の算出に関する一連の処理である。
【0058】
そこで、先ず、S103〜S107の処理について説明する。S103では、リッチ移行モード時において、三元触媒7における酸素放出量が積算される。酸素放出量の積算については、
図2に基づいて説明したように、実際に三元触媒7に流入する排気空燃比の推移および排気流量等に基づいて行われる。次に、S104では、リッチ移行モードからリーン移行モードに切り替えられるタイミングか否かが判定される。具体的には、酸素濃度センサ9の出力電圧が、切替閾値のリッチ出力VR(例えば、0.7V)を超えた場合には、切替タイミングに到達したと判定される。そこで、S104で肯定判定されるとS107へ進み、リーン移行モードへの切り替えが行われる。
【0059】
一方で、S104で否定判定されると、リッチ移行モードが継続されることを意味し、S105へ進む。そして、S105では、アクティブ空燃比制御に関しECU20から燃料噴射弁6に対して出される指令である目標空燃比が、ΔAFRだけ減少される。ΔAFRとしては、例えば0.002が設定され、本実施例のアクティブ空燃比制御では空燃比の変動幅が1であるから、S105では目標空燃比を0.2%減少されることになる。後述するように、S105の処理は目標空燃比が所定のリッチ空燃比AFRに到達するまで繰り返されるため、その結果、
図8(a)の線L81で示すように、目標空燃比は徐変(減少)することになる。このように目標空燃比が徐変されることで、リッチ移行モードにおいて、三元触媒7に流れ込む排気空燃比の変化率が所定の変化率以下に制限された状態、換言すると、三元触媒7に流れ込む排気空燃比が、所定のリッチ空燃比AFRに向かって緩やかに減少していく状態が形成されることになる。S105の処理が終了すると、S106へ進む。S106では、アクティブ空燃比制御に関しECU20から出される目標空燃比が、所定のリッチ空燃比AFRに到達したか否かが判定される。S106で肯定判定されるとS107へ進み、リーン移行モードへの切り替えが行われ、一方でS106で否定判定されるとS113へ進む。
【0060】
次に、S108〜S112の処理について説明する。S108では、リーン移行モード時において、三元触媒7における酸素吸蔵量が積算される。酸素吸蔵量の積算については、S103の酸素放出量の積算処理と同様である。次に、S109では、リーン移行モードからリッチ移行モードに切り替えられるタイミングか否かが判定される。具体的には、酸素濃度センサ9の出力電圧が、切替閾値のリッチ出力VL(例えば、0.2V)を下回った場合には、切替タイミングに到達したと判定される。そこで、S109で肯定判定されるとS112へ進み、リッチ移行モードへの切り替えが行われる。
【0061】
一方で、S109で否定判定されると、リーン移行モードが継続されることを意味し、
S110へ進む。そして、S110では、アクティブ空燃比制御に関しECU20から出される目標空燃比が、ΔAFLだけ増加される。ΔAFLとしては、例えばS105で示したΔAFRと同じように、0.002が設定される。これにより、S110の処理は目標空燃比が所定のリーン空燃比AFLに到達するまで繰り返されるため、その結果、
図8(a)の線L81で示すように、目標空燃比は徐変(増加)することになる。このように目標空燃比が徐変されることで、リーン移行モードにおいて、三元触媒7に流れ込む排気空燃比の変化率が所定の変化率以下に制限された状態、換言すると、三元触媒7に流れ込む排気空燃比が、所定のリーン空燃比AFLに向かって緩やかに
増加していく状態が形成されることになる。S110の処理が終了すると、S111へ進む。S111では、アクティブ空燃比制御に関しECU20から出される目標空燃比が、所定のリーン空燃比AFLに到達したか否かが判定される。S111で肯定判定されるとS112へ進み、リッチ移行モードへの切り替えが行われ、一方でS111で否定判定されるとS113へ進む。
【0062】
S113では、三元触媒7のOSC算出が完了したか否かが判定される。例えば、S103の酸素放出量の積算によるリッチ移行モード時の三元触媒7の酸素放出量の算出と、S108の酸素吸蔵量の積算によるリーン移行モード時の三元触媒7の酸素吸蔵量の算出がそれぞれ所定回数行われた場合、S113では肯定判定される。S113で肯定判定されるとS114へ進み、否定判定されるとS102以降の処理が繰り返される。
【0063】
S114では、三元触媒7のOSCに基づいて、その劣化判定が行われる。三元触媒7のOSCには、上記のようにそれぞれ所定回数算出された三元触媒7の酸素放出量と酸素吸蔵量の平均値を利用する。そして、三元触媒7のOSCが、劣化基準となる所定のOSCより低い場合には、三元触媒7は劣化していると判定される。なお、三元触媒7が劣化判定された場合には、ユーザに対してそのことを知らせることが望ましい。
【0064】
このように
図7に示す触媒劣化判定制御では、三元触媒7のOSCを算出するに当たって、アクティブ空燃比制御でのリッチ移行モードおよびリーン移行モードにおいて、三元触媒7に流入する排気空燃比は徐変減少、徐変増加される。その結果、各移行モードで以下に示すように、より正確な三元触媒7のOSC算出が可能となる。
【0065】
(1)リッチ移行モード時
三元触媒7から流出する排気においては、流入する排気の空燃比が徐変減少されることによって、三元触媒7に吸蔵されている酸素を放出するための反応時間を十分に確保することができる。そのため、流出排気において、リッチガス成分が急激に増加することを避け、その増加速度が緩和される。このように三元触媒7内の空燃比を徐々に減少(リッチ移行)させることで、三元触媒7がある程度、硫黄被毒していたとしても、そこに吸蔵されている酸素を放出するのに必要な時間は確保し得る。
【0066】
上記のように、三元触媒7からの流出排気においてリッチガス成分の増加を緩和させることで、三元触媒7の下流側に設けられている酸素濃度センサ9のリッチ側過出力特性の影響は軽減される。そのため、酸素濃度センサ9が晒される雰囲気において、本来はリッチガス成分が少ないにもかかわらずリッチ成分が多いと誤って判断してリーン移行モードへの切り替えが過度に早く行われてしまうことを回避することができる。この結果、本実施例では
図8(c)に示すように、リッチ移行モードにより三元触媒7の内部の空燃比状態を、十分に且つ比較的長い時間にわたってリッチ状態とすることができ、従来技術に係る
図5(c)に示す空燃比推移と比べても、その違いは明確である。そして、酸素濃度センサ9のリッチ側過出力特性にかかわらず三元触媒7の内部を十分にリッチ状態に到達させることで、三元触媒7の正確なOSC算出が期待される。
【0067】
(2)リーン移行モード時
三元触媒7においては、流入する排気の空燃比が徐変増加されることによって、三元触媒7への酸素の吸蔵が徐々に進行する。このとき、三元触媒7からの流出排気に含まれるリッチガス成分濃度は、
図8(d)に示すように一時的に増加するが、直ちに減少に転じる。そして、三元触媒7で酸素吸蔵の飽和を迎えた頃に、リッチガス成分濃度は極めて低くなるとともに、三元触媒7からの流出排気中の酸素濃度が増加し始め、
図8(c)に示すように、酸素濃度センサ9がリーン出力をすることになる。
【0068】
このように、三元触媒7からの流出排気におけるリッチガス成分とリーンガス成分(酸素濃度が高い排気)の出現タイミングが、
図5に示すケースよりも明確になる。酸素濃度センサ9においては、上記のリッチ側過出力特性により、センサ雰囲気がある程度明確なリーン状態とならないと、実際のリーン空燃比に近い出力を出すことができないが、上記の通り、流入排気の空燃比の徐変増加によって、流出排気においてリッチガス成分とリーンガス成分の出現の区切りが明確になるため、実際の排気空燃比に近いリーン出力を行うことが可能となる。この結果、三元触媒7における酸素吸蔵の飽和タイミングを、的確に酸素濃度センサ9が捉えることができるため、三元触媒7の正確なOSC算出が期待される。
【0069】
なお、上記実施例では、アクティブ空燃比制御において、リッチ移行モードでは排気空燃比をΔAFRで減少させ、リーン移行モードでは排気空燃比をΔAFLで増加させている。これらの徐変減少量ΔAFR、徐変増加量ΔAFLは、それぞれ、酸素濃度センサ9におけるリッチガス成分に対する応答時間、酸素濃度センサ9におけるリーンガス成分に対する応答時間に基づいて設定すればよい。すなわち、酸素濃度センサ9のリッチガス成分に対する応答時間、又はリーンガス成分に対する応答時間よりも緩やかに三元触媒7に流入する排気空燃比をΔAFR又はΔAFLで徐変させることで、三元触媒7に流入する排気空燃比の推移と、当該推移を制御することになる酸素濃度センサ9の出力推移との間の誤差を低減することができ、以て改良されたCmax法に基づいた三元触媒7の正確なOSC算出、および正確な三元触媒7の劣化判定が可能となる。
【0070】
なお、実用的には、酸素濃度センサ9の固体差を考慮して、酸素濃度センサ9のリッチガス成分およびリーンガス成分に対する応答時間に関する公差の範囲において、最も遅い応答時間に基づいて、徐変減少量ΔAFR、徐変増加量ΔAFLを設定すればよい。