特許第5835478号(P5835478)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5835478
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】触媒劣化判定システム
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20151203BHJP
   F02D 41/04 20060101ALI20151203BHJP
   F01N 3/20 20060101ALI20151203BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20151203BHJP
【FI】
   F02D45/00 314Z
   F02D45/00 368G
   F02D41/04 305A
   F01N3/20 C
   F01N3/24 U
【請求項の数】7
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-518110(P2014-518110)
(86)(22)【出願日】2012年5月28日
(86)【国際出願番号】JP2012063654
(87)【国際公開番号】WO2013179373
(87)【国際公開日】20131205
【審査請求日】2014年12月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100085006
【弁理士】
【氏名又は名称】世良 和信
(74)【代理人】
【識別番号】100113608
【弁理士】
【氏名又は名称】平川 明
(74)【代理人】
【識別番号】100123319
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 武彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123098
【弁理士】
【氏名又は名称】今堀 克彦
(74)【代理人】
【識別番号】100143797
【弁理士】
【氏名又は名称】宮下 文徳
(72)【発明者】
【氏名】青木 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】北浦 浩一
(72)【発明者】
【氏名】林下 剛
【審査官】 有賀 信
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−275007(JP,A)
【文献】 特開2009−167987(JP,A)
【文献】 特開2009−215924(JP,A)
【文献】 特開2001−152913(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 43/00―45/00
F02D 41/00―41/40
F01N 3/00― 3/02
F01N 3/04― 3/38
F01N 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に設けられ、酸素吸蔵能を有する排気浄化触媒の劣化判定を行う触媒劣化判定システムであって、
前記排気浄化触媒に流れ込む排気の空燃比を調整する排気空燃比調整手段と、
前記排気浄化触媒から流れ出る排気中の酸素濃度を検出するセンサであって、排気中のリッチガス成分が増加するに従い該排気における酸素濃度をよりリッチ空燃比側の酸素濃度として検出する所定の検出特性を有する酸素濃度センサと、
前記排気空燃比調整手段によって排気空燃比をリーン空燃比側からリッチ空燃比側へ移行させるリッチ移行モードと、該排気空燃比調整手段によって排気空燃比をリッチ空燃比側からリーン空燃比側へ移行させるリーン移行モードと、を前記酸素濃度センサによって検出される排気中の酸素濃度に基づいて切り替える空燃比移行手段であって、該リッチ移行モードと該リーン移行モードのうち少なくとも該リーン移行モードにおける排気空燃比の変化率が所定の変化率以下に制限され、且つ、該リッチ移行モードにおける排気空燃比の変化率が、該リーン移行モードにおける排気空燃比の変化率より大きく設定される、空燃比移行手段と、
前記空燃比移行手段によって前記リッチ移行モードと前記リーン移行モードが実行されるときの前記排気浄化触媒における酸素吸蔵能に基づいて、該排気浄化触媒の劣化を判定する劣化判定手段と、
を備える、触媒劣化判定システム。
【請求項2】
前記空燃比移行手段は、
前記リーン移行モード時および前記リッチ移行モード時で、前記排気空燃比の変化率が前記所定の変化率以下に制限されるように、前記排気空燃比調整手段による排気空燃比の調整を行う、
請求項1に記載の触媒劣化判定システム。
【請求項3】
前記空燃比移行手段は、
前記リーン移行モード時は、前記排気空燃比の変化率が前記所定の変化率以下に制限されるように、前記排気空燃比調整手段による排気空燃比の調整を行い、
前記リッチ移行モード時は、前記リーン移行モードから前記リッチ移行モードへの切り替え直後に、前記排気空燃比が、該リッチ移行モードにおける到達目的である所定のリッチ空燃比となるように、前記排気空燃比調整手段による排気空燃比の調整を行う、
請求項1に記載の触媒劣化判定システム。
【請求項4】
前記空燃比移行手段は、
前記リーン移行モードが行われる期間であって、前記リッチ移行モードから該リーン移行モードへの切り替え直後から、前記排気空燃比がストイキ近傍の空燃比に至るまでの所定期間においては、前記排気空燃比の変化率が前記所定の変化率以下に制限されるように、前記排気空燃比調整手段による排気空燃比の調整を行い、
前記リーン移行モード時において前記所定期間が終了すると、該所定期間の終了直後に、前記排気空燃比が、該リーン移行モードにおける到達目的である所定のリーン空燃比となるように、前記排気空燃比調整手段による排気空燃比の調整を行う、
請求項3に記載の触媒劣化判定システム。
【請求項5】
前記所定の変化率は、前記酸素濃度センサにおける排気中のリッチガス成分およびリーンガス成分との応答速度に基づいて設定される、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の触媒劣化判定システム。
【請求項6】
前記酸素濃度センサの温度が高くなるに従い、前記所定の変化率を大きく補正する補正手段を、
更に備える、請求項1から請求項5の何れか1項に記載の触媒劣化判定システム。
【請求項7】
前記排気浄化触媒に流れ込む排気の流量が多くなるに従い、前記所定の変化率を小さく補正する補正手段を、
更に備える、請求項1から請求項5の何れか1項に記載の触媒劣化判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気浄化触媒の劣化判定を行うシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、内燃機関では排気浄化のために排気通路に排気浄化触媒が設けられる。その中でも、酸素吸蔵能を有する触媒、例えば三元触媒等は、過剰酸素の吸蔵によるNOx浄化や、吸蔵している酸素の放出によるHC、COの酸化除去を可能とする。このように酸素吸蔵を有する排気浄化触媒では、触媒に流れ込む排気の空燃比を理論空燃比を中心として空燃比をリッチ側又はリーン側に交互に振らせることで、NOx、HC、COの同時浄化を実現しようとしている。
【0003】
ところで排気浄化触媒にいては、触媒が劣化すると排気浄化能力が低下するため、劣化がある程度進行すると、触媒の交換等のメンテナンスが必要となる。そして、三元触媒のように酸素吸蔵能を有する排気浄化触媒では、その酸素吸蔵能の低下を検出して触媒劣化判断を行う技術が開示されている(例えば、特許文献1を参照)。当該技術では、排気浄化触媒の下流に設けられた空燃比センサの検出値を基に、排気浄化触媒に流れ込む排気の空燃比について、リーン側からリッチ側への移行とリッチ側からリーン側への移行とが交互に繰り返される。そして、そのときの排気空燃比の偏差および排気浄化触媒を流れる排気流量とに基づいて、排気浄化触媒の酸素吸蔵能が算出され、当該酸素吸蔵能に基づいて触媒の劣化判定が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−133264号公報
【特許文献2】特開2009−215924号公報
【特許文献3】特開2009−36172号公報
【特許文献4】特開2008−298044号公報
【特許文献5】特開昭63−195351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
酸素吸蔵能を有する排気浄化触媒の劣化判定を行うために、排気浄化触媒に流れ込む排気の空燃比について、リーン側からリッチ側への移行と、リッチ側からリーン側への移行とを交互に繰り返す制御(以下、「アクティブ空燃比制御」と称する)を行い、その際の排気空燃比の推移等から排気浄化触媒の酸素吸蔵能を算出するCmax法が、従来より利用されている。このアクティブ空燃比制御では、排気浄化触媒における酸素の吸蔵限度、および放出限度を迎えたタイミングで、上記の排気空燃比移行の切り替えを行うのが好ましく、そのため、通常、排気浄化触媒の下流側に、排気空燃比や排気中の酸素濃度を検出するセンサが配置される。
【0006】
ここで、Cmax法で排気浄化触媒の酸素吸蔵能を算出するために排気浄化触媒の下流側に酸素濃度センサを設ける場合、酸素濃度センサの出力が、実際のセンサ周囲の雰囲気の空燃比とずれる場合があり、アクティブ空燃比制御における移行モードの切り替えタイミングがずれてしまうおそれがある。酸素濃度センサは、検出のための電極近傍における水素分子の挙動やHC等のリッチガス成分の存在の影響を受けやすく、そのため、雰囲気中のリッチガス成分濃度が増加すると、酸素濃度センサの出力も過度にリッチ側の出力を行ってしまう「リッチ側過出力特性」が見出せる。そのため、正確なアクティブ空燃比制御の実施が困難となり、排気浄化触媒の正確な劣化判定に影響を及ぼし得る。
【0007】
また、昨今は、排気浄化触媒に使用されるPt等の貴金属量を低減させる傾向が強い。そのため、排気浄化触媒が本来的に発揮できる酸素吸蔵能は低下してしまい、劣化状態にある排気浄化触媒の酸素吸蔵能と、正常な排気浄化触媒の酸素吸蔵能との差が縮まった結果、排気浄化触媒の正確な劣化判定が困難な状況になっている。
【0008】
本発明は、上記した問題点に鑑みてなされたものであり、酸素吸蔵能を有する排気浄化触媒の劣化判定をより正確に行い得る触媒劣化判定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明において、上記課題を解決するべく、酸素吸蔵能を有する排気浄化触媒の劣化判定のためにアクティブ空燃比制御を行う際の、排気浄化触媒に流れ込む排気空燃比の変化率が所定の変化率以下となるように制限することとした。このように排気空燃比の変化率が制限されることで、当該排気空燃比は徐変することになり、排気浄化触媒において酸素吸蔵、酸素放出反応を行う時間を確保することができ、排気浄化触媒の下流側に設けられた酸素濃度センサの雰囲気改善が図られる。その結果、排気浄化触媒の劣化判定において、酸素濃度センサのリッチ側過出力特性の影響を軽減することができる。
【0010】
詳細には、本発明は、内燃機関の排気通路に設けられ、酸素吸蔵能を有する排気浄化触媒の劣化判定を行う触媒劣化判定システムであって、前記排気浄化触媒に流れ込む排気の空燃比を調整する排気空燃比調整手段と、前記排気浄化触媒から流れ出る排気中の酸素濃度を検出するセンサであって、排気中のリッチガス成分が増加するに従い該排気における酸素濃度をよりリッチ空燃比側の酸素濃度として検出する所定の検出特性を有する酸素濃度センサと、前記排気空燃比調整手段によって排気空燃比をリーン空燃比側からリッチ空燃比側へ移行させるリッチ移行モードと、該排気空燃比調整手段によって排気空燃比をリッチ空燃比側からリーン空燃比側へ移行させるリーン移行モードと、を前記酸素濃度センサによって検出される排気中の酸素濃度に基づいて切り替える空燃比移行手段であって、該リッチ移行モードと該リーン移行モードのうち少なくとも該リーン移行モードにおける排気空燃比の変化率が所定の変化率以下に制限され、且つ、該リッチ移行モードにおける排気空燃比の変化率が、該リーン移行モードにおける排気空燃比の変化率より大きく設定される、空燃比移行手段と、前記空燃比移行手段によって前記リッチ移行モードと前記リーン移行モードが実行されるときの前記排気浄化触媒における酸素吸蔵能に基づいて、該排気浄化触媒の劣化を判定する劣化判定手段と、を備える。
【0011】
本発明に係る触媒劣化判定システムでは、内燃機関の排気通路を流れる排気浄化を行う排気浄化触媒であって、酸素吸蔵能を有する排気浄化触媒の劣化判定を行う。酸素吸蔵能を有する排気浄化触媒としては、三元触媒を例示できる。三元触媒は、それに流れ込む排気空燃比がリーン状態であるときは排気中の酸素を吸蔵し、排気空燃比がリッチ状態であるときは吸蔵していた酸素の放出を行う。そのため、流れ込む排気空燃比がストイキ近傍であるときに、排気中のNOx、HC、COの浄化が可能となる。
【0012】
ここで、上記触媒劣化判定システムでは、従来のCmax法を改良した方法(以下、「改良したCmax法」と称する。)により、排気浄化触媒の酸素吸蔵能を算出する。この改良したCmax法は、アクティブ空燃比制御での移行モード切り替えを判断するための酸素濃度センサの上記所定の特性、すなわちリッチ側過出力特性の影響を軽減するものである。詳細には、空燃比移行手段によって、アクティブ空燃比制御で行われるリッチ移行モードとリーン移行モードのうち少なくともリーン移行モードにおいて、排気浄化触媒に流れ込む排気空燃比が緩やかに変動(目的とするリーン側の空燃比に緩やかに移行)するように、当該排気空燃比の変化率が所定の変化率に制限される。
【0013】
リーン移行モード時は、本来は、排気浄化触媒に流れ込む排気空燃比がリッチ側からリーン側に移行していく過程で、当初リッチガス成分が排気浄化触媒から漏れ出すとともに、次第に排気中の酸素の吸蔵が行われ最終的に排気浄化触媒での酸素吸蔵が最大限行われると、排気浄化触媒からリーンガス成分(酸素濃度が高い排気)が漏れ出してくることになる。ここで、従来のCmax法で行われているアクティブ空燃比制御では、排気浄化触媒に流れ込む排気空燃比をステップ状に急変(増加)させるため、排気浄化触媒における酸素吸蔵の反応を十分に行わせることが困難となり、排気中にリッチガス成分とリーンガス成分が混在して漏れ出す場合がある。そのような場合、排気浄化触媒の下流側に設けられた酸素濃度センサは、上記所定の特性の影響を受け、本来の排気空燃比よりもリッチ側の出力をしてしまい、Cmax法における適切な移行モードの切り替えが阻害されてしまう。
【0014】
しかしながら、本発明に係る劣化判定システムでは、リーン移行モード時には、空燃比移行手段によって、排気浄化触媒においては、流入する排気の空燃比の変化率が所定変化率以下に制限され、徐々に変動していくことによって、排気浄化触媒での酸素吸蔵を確実に行わせることができる。そのため、排気浄化触媒から流れ出る排気、すなわち酸素濃度センサが検出のために晒される排気において、上述したようにリッチガス成分とリーンガス成分の漏れ出すタイミングが本来あるべきタイミング、すなわち、両ガス成分が混在しにくいタイミングとされる。その結果、酸素濃度センサの上記所定の特性の影響を軽減した、排気浄化触媒の酸素吸蔵能の算出が、本発明に係る改良したCmax法では可能となる。
【0015】
そのため、劣化判定手段による排気浄化触媒の酸素吸蔵能に基づいた劣化判定を、より正確に行うことができる。なお、劣化判定手段による判定は、改良したCmax法により算出された酸素吸蔵能と、基準となる酸素吸蔵能とを比較することで行うようにしてもよい。
【0016】
また、上記空燃比移行手段は、リッチ移行モードにおいても、排気浄化触媒に流れ込む排気空燃比が緩やかに変動(目的とするリッチ側の空燃比に緩やかに移行)するように、当該排気空燃比の変化率が所定の変化率に制限されてもよい。リッチ移行モード時は、本来は、排気浄化触媒に流れ込む排気空燃比がリーン側からリッチ側に移行していく過程で、排気浄化触媒に吸蔵されている酸素が放出されるため、排気浄化触媒から流れ出る排気空燃比は、放出された酸素の分だけリーン側の空燃比となる。ここで、従来のCmax法で行われているアクティブ空燃比制御では、排気浄化触媒に流れ込む排気空燃比をステップ状に急変(減少)させるため、排気浄化触媒における酸素放出の反応を十分に行うことが困難となり、リッチ移行モードでの酸素放出が不十分となり、排気浄化触媒から流れ出る排気中のリッチガス成分の量が多くなる。そのような場合、排気浄化触媒の下流側に設けられた酸素濃度センサは、上記所定の特性の影響を受け、本来の排気空燃比よりもリッチ側の出力をしてしまい、Cmax法における適切な移行モードの切り替えが阻害されてしまう。
【0017】
しかしながら、空燃比移行手段によって、リッチ移行モードでも排気浄化触媒に流れ込む排気空燃比の変化率を所定変化率以下に制限し、徐々に変動させることで、排気浄化触媒での酸素放出を確実に行わせることができる。そのため、排気浄化触媒から流れ出る排気、すなわち酸素濃度センサが検出のために晒される排気において、いたずらにリッチガス成分量が増加することを回避できる。その結果、酸素濃度センサの上記所定の特性の影響を軽減した、排気浄化触媒の酸素吸蔵能の算出が、本発明に係る改良したCmax法では可能となる。
【0018】
さらに、上記空燃比移行手段は、リッチ移行モードにおける排気空燃比の変化率が、リーン移行モードにおける排気空燃比の変化率より大きく設定される。その結果、排気浄化触媒に流れ込む排気空燃比について、リッチ移行モード時の方がより早く目的とするリッチ側の空燃比に移行し、リーン移行モードの方がより遅く目的とするリーン側の空燃比に移行する。排気浄化触媒において、そこに流れ込む排気空燃比がストイキからリッチ側の空燃比となる場合には排気浄化触媒からのNOx放出量が増加するが、上記のようにリッチ移行モード時の移行をより速く行うことで、その際のNOx放出量を抑制することができる。
【0019】
また、リーン移行モードおよびリッチ移行モードにおける排気空燃比の変化率の上限となる所定の変化率は、排気浄化触媒における酸素吸蔵、酸素放出の反応時間を好適に確保できるように設定されるのが好ましい。
【0020】
ここで、上記触媒劣化判定システムにおいて、前記空燃比移行手段は、前記リーン移行モード時および前記リッチ移行モード時で、前記排気空燃比の変化率が前記所定の変化率以下に制限されるように、前記排気空燃比調整手段による排気空燃比の調整を行ってもよい。すなわち、アクティブ空燃比制御に含まれる両移行モードで、排気浄化触媒に流れ込む排気空燃比の変動が徐変されるように排気中の空燃比が調整される。
【0021】
また、上記の、両移行モードで排気空燃比を徐変する形態に代えて、本発明に係る触媒劣化判定システムにおいて、前記空燃比移行手段は、前記リーン移行モード時は、前記排気空燃比の変化率が前記所定の変化率以下に制限されるように、前記排気空燃比調整手段による排気空燃比の調整を行い、前記リッチ移行モード時は、前記リーン移行モードから前記リッチモードへの切り替え直後に、前記排気空燃比が、該リッチ移行モードにおける到達目的である所定のリッチ空燃比となるように、前記排気空燃比調整手段による排気空燃比の調整を行うようにしてもよい。すなわち、アクティブ制御において、リーン移行モードでは、排気浄化触媒に流れ込む排気空燃比を徐変させる一方で、リッチ移行モードでは、排気浄化触媒に流れ込む排気空燃比が所定のリッチ空燃比に直ちに至るように、排気中の空燃比が調整される。
【0022】
したがって、リッチ移行モードでは、排気浄化触媒に流れ込む排気空燃比が移行モード切り替え直後にステップ状に変化するように、排気中の空燃比が調整されることになる。このようにすることで、特に、リッチ移行モード時に排気浄化触媒の内部の排気空燃比を、比較的深いリッチ状態とすることができ、排気浄化触媒におけるS被毒の進行抑制、またはS被毒の解消促進が図られ、エミッション向上が期待できる。また、このように排気浄化触媒のS被毒状態を少なくとも小康状態とすることができるため、排気浄化触媒の排気浄化能が維持され、酸素濃度センサが、多くのリッチガス成分が含まれる排気に晒される可能性を軽減することにもなる。
【0023】
また、上記触媒劣化判定システムにおいて、前記空燃比移行手段は、前記リーン移行モードが行われる期間であって、前記リッチ移行モードから該リーンモードへの切り替え直後から、前記排気空燃比がストイキ近傍の空燃比に至るまでの所定期間においては、前記排気空燃比の変化率が前記所定の変化率以下に制限されるように、前記排気空燃比調整手段による排気空燃比の調整を行い、そして、前記リーン移行モード時において前記所定期間が終了すると、該所定期間の終了直後に、前記排気空燃比が、該リーン移行モードにおける到達目的である所定のリーン空燃比となるように、前記排気空燃比調整手段による排気空燃比の調整を行うようにしてもよい。すなわち、リーン移行モードに切り替えられてから排気空燃比がストイキ近傍となるまでの前半の過程においては、排気浄化触媒に流れ込む排気空燃比を徐変し、その後の過程においては、排気空燃比がステップ状に変動し、可及的速やかに排気空燃比の移行が行われる。
【0024】
このような構成を採用することで、リーン移行モードにおいても、排気浄化触媒に流れ込む排気空燃比がリーン状態となる時間を可及的に短くすることができる。したがって、特に内燃機関におけるNOxの発生を抑制することができる。
【0025】
ここで、上述までの触媒劣化判定システムにおいて、前記所定の変化率は、前記酸素濃度センサにおける排気中のリッチガス成分およびリーンガス成分との応答速度に基づいて設定されてもよい。これにより、排気浄化触媒に流れ込む排気空燃比の推移と、その推移を制御するための酸素濃度センサの出力推移との間の誤差を低減することができ、より正確な排気浄化触媒の酸素吸蔵能の算出が可能となる。
【0026】
また、上述までの触媒劣化判定システムにおいて、前記酸素濃度センサの温度が高くなるに従い、前記所定の変化率を大きく補正する補正手段を、更に備えるように構成してもよい。酸素濃度センサの温度が高くなるとその検出感度が高くなるため、排気浄化触媒に流れ込む排気空燃比の変化率が大きくなっても、好適な検出精度を保持しながら酸素濃度検出が可能となる。したがって、上記補正手段を備えることで、アクティブ空燃比制御における排気空燃比の変化率の値を適切なものとでき、以て、正確な排気浄化触媒の酸素吸蔵能の算出が可能となる。
【0027】
また、上述までの触媒劣化判定システムにおいて、前記排気浄化触媒に流れ込む排気の流量が多くなるに従い、前記所定の変化率を小さく補正する補正手段を、更に備えるように構成してもよい。排気流量が多くなると排気浄化触媒における酸素吸蔵、酸素放出の反応を十分に行えない場合がある。そこで、そのような場合には、アクティブ空燃比制御における排気空燃比の変化率をより小さくすることで、酸素濃度センサによる好適な検出精度を保持しながらの酸素濃度検出が可能となる。したがって、上記補正手段を備えることで、アクティブ空燃比制御における排気空燃比の変化率の値を適切なものとでき、以て、正確な排気浄化触媒の酸素吸蔵能の算出が可能となる。
【0028】
また、本発明に係る触媒劣化判定システムを、上述までのシステムとは異なり、以下のように構成してもよい。すなわち、本発明は、内燃機関の排気通路に設けられ、酸素吸蔵能を有する排気浄化触媒の劣化判定を行う触媒劣化判定システムであって、前記排気浄化触媒に流れ込む排気の空燃比を調整する排気空燃比調整手段と、前記排気浄化触媒から流れ出る排気中の酸素濃度を検出するセンサであって、排気中のリッチガス成分が増加するに従い該排気における酸素濃度をよりリッチ空燃比側の酸素濃度として検出する所定の検出特性を有する酸素濃度センサと、前記排気空燃比調整手段によって排気空燃比をリーン空燃比側からリッチ空燃比側へ移行させるリッチ移行モードと、該排気空燃比調整手段に
よって排気空燃比をリッチ空燃比側からリーン空燃比側へ移行させるリーン移行モードと、を前記酸素濃度センサによって検出される排気中の酸素濃度に基づいて切り替える空燃比移行手段であって、該リッチ移行モードと該リーン移行モードにおける排気空燃比の変化率が所定の変化率以下に制限される、空燃比移行手段と、前記空燃比移行手段によって前記リッチ移行モードと前記リーン移行モードが実行されるときの前記排気浄化触媒における酸素吸蔵能に基づいて、該排気浄化触媒の劣化を判定する劣化判定手段と、を備える。
【0029】
このように本発明を構成しても、先に述べた発明と同様に、リッチ移行モードおよびリーン移行モードにおいて、排気浄化触媒での酸素吸蔵、酸素放出を確実に行わせることができるため、酸素濃度センサの上記所定の特性の影響を軽減した、排気浄化触媒の酸素吸蔵能の算出が可能となる。また、先に述べた発明に関し適用された上述までの構成は、技術的な矛盾が生じない限りにおいて、上記発明にも適用することが可能である。
【発明の効果】
【0030】
酸素吸蔵能を有する排気浄化触媒の劣化判定をより正確に行い得る触媒劣化判定システムを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明に係る内燃機関の排気通路に設けられた触媒の劣化判定システムの概略構成を示す図である。
図2図1に触媒劣化判定システムにおいて、触媒の酸素吸蔵能(OSC)を算出するためのCmax法のモデルを示す図である。
図3】酸素濃度センサにおける、リーンガス成分の種類に応じた出力特性を示す図である。
図4】酸素濃度センサにおける、リッチガス成分の含有量に応じた出力特性を示す図である。
図5】従来技術に係る、Cmax法でアクティブ空燃比制御を行った際の、三元触媒に流入する排気空燃比の推移、酸素濃度センサの出力推移、三元触媒下流の空燃比推移、三元触媒から流れ出る排気中のNOx、CO、HCの含有量推移を示す図である。
図6】従来技術に係る、Cmax法でアクティブ空燃比制御を行った際の、三元触媒に流入する排気空燃比の推移、酸素濃度センサの出力推移、三元触媒下流の空燃比推移、三元触媒から流れ出る排気中のNOx、HCの含有量推移を、内燃機関で使用される燃料の硫黄含有分の有無ごとに示す図である。
図7】本発明の第一の実施例に係る触媒劣化判定制御のフローチャートである。
図8図7に示す触媒劣化判定制御が行われた際の、三元触媒に流入する排気空燃比の推移、酸素濃度センサの出力推移、三元触媒下流の空燃比推移、三元触媒から流れ出る排気中のNOx、CO、HCの含有量推移を示す図である。
図9】本発明の第二の実施例に係る触媒劣化判定制御のフローチャートである。
図10】本発明の第三の実施例に係る触媒劣化判定制御のフローチャートである。
図11図10に示す触媒劣化判定制御が行われた際の、三元触媒に流入する排気空燃比の推移、酸素濃度センサの出力推移、三元触媒下流の空燃比推移、三元触媒から流れ出る排気中のNOx、CO、HCの含有量推移を示す図である。
図12】本発明の第四の実施例に係る触媒劣化判定制御のフローチャートである。
図13】本発明の第五の実施例に係る触媒劣化判定制御のフローチャートである。
図14図13に示す触媒劣化判定制御で行われる補正処理のための補正係数と、内燃機関の吸気流量、酸素濃度センサのセンサ温度との相関を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の具体的な実施形態について図面に基づいて説明する。本実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置等は、特に記載がない限りは発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【実施例1】
【0033】
図1は、本実施形態に係る触媒劣化判定システムの概略構成を示す図である。図1に示す内燃機関1は、燃料噴射を行う燃料噴射弁6と点火プラグ(不図示)を有する火花点火式内燃機関である。内燃機関1の吸気通路2には、上流側から順に、吸入空気量を検出するためのエアフローメータ4と、電子制御式スロットルバルブ5とが組み込まれている。そして、スロットルバルブ5の下流側に、上記燃料噴射弁6が設置される。また、内燃機関1の排気通路3には、酸素吸蔵能を有する三元触媒7が取り付けられている。三元触媒7の上流側に三元触媒7に流れ込む排気の空燃比を検出するための空燃比センサ8と、三元触媒7の下流側に当該三元触媒7から流れ出る排気に含まれる酸素濃度を検出する酸素濃度センサ9が設けられている。空燃比センサ8は、いわゆる広域空燃比センサからなり、比較的広範囲にわたる空燃比を連続的に検出可能で、その検出レンジにおいて排気空燃比に比例した値の信号を出力する。一方で、酸素濃度センサ9は、理論空燃比(ストイキ近傍)を境に出力値が急変する特性(Z特性)を持つ。なお、酸素濃度センサ9の特性の詳細については、後述する。
【0034】
図1に示す触媒劣化判定システムには、上述のスロットルバルブ5及び燃料噴射弁6等の内燃機関1に関する構成を制御するための電子制御ユニット(以下、「ECU」と称す)20が設けられている。このECU20は、何れも図示されないCPU、ROM、RAM、入出力ポート、および記憶装置等を含むものである。ECU20には、図示されるように、エアフローメータ4、スロットルバルブ5、燃料噴射弁6、図示されない点火プラグ、空燃比センサ8、酸素濃度センサ9のほか、内燃機関1のクランク角を検出するクランク角センサ10、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ11、その他の各種センサが、電気的に接続されている。ECU20は、各種センサの検出値等に基づいて、所望の出力が得られるように、点火プラグ、スロットルバルブ5、燃料噴射弁6等を制御し、内燃機関1における点火時期、燃料噴射量、燃料噴射時期、スロットル開度等を制御する。
【0035】
ここで三元触媒7は、これに流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比(ストイキ、例えばA/F=14.6)のときにNOx、HC、COを同時に浄化する。そのため、ECU20は、内燃機関1の通常運転時には、三元触媒7に流入する排気の空燃比が概ねストイキとなるように、燃料噴射弁6から噴射される燃料噴射量をフィードバック制御する。これにより三元触媒7に流入する排気ガスの空燃比はストイキ近傍に保たれ、三元触媒7において最大の排気浄化性能が発揮されるようになる。
【0036】
一般に、三元触媒7は、担体基材の表面上にコート材が被覆され、このコート材に微粒子状のPt,Pd等の貴金属からなる触媒成分が分散配置された状態で保持されている。また、コート材は、排気と触媒成分との界面における反応を促進させる助触媒の役割を担うとともに、雰囲気ガスの空燃比に応じて酸素を吸蔵、放出可能な酸素吸蔵成分を含む。酸素吸蔵成分は例えば二酸化セリウムCeやジルコニアからなる。そのため、三元触媒7は、自身に流入する排気の空燃比に応じて、排気中の酸素を吸蔵し、また、吸蔵している酸素を放出する。ここで、三元触媒7が、熱劣化等の不可逆的な劣化に冒されると、触媒成分と排気との接触効率が低下する等の理由により、排気浄化能が低下するとともに、触媒成分の周囲に存在するコート材の量、即ち酸素吸蔵成分の量が減少し、酸素吸蔵能自体も低下する。そのため、三元触媒7の劣化の程度は、自身が持つ酸素吸蔵能の低下度と相関関係を有することになり、以て、三元触媒7の酸素吸蔵能の程度(OSC: Strage Capacity)に基づいて、三元触媒7の劣化程度を判定することが可能である。
【0037】
そこで、図2に基づいて、三元触媒7の劣化判定のために、そのOSCを算出する方法(以下、「Cmax法」と称する)について説明するとともに、図3図6に基づいて、本出願人が新たに見出したCmax法における課題について説明する。図2の上段(a)図は、三元触媒7に流入する排気の空燃比に関する推移を示す図であり、特に線L1は、燃料噴射弁6からの燃料噴射を介して調整される三元触媒7に流入する排気の空燃比に関する、ECU20からの指令(目標空燃比)の推移を表したものであり、線L2は、空燃比センサ8で検出される、実際に三元触媒7に流入した排気の空燃比の推移を表したものである。また、図2の下段(b)図の線L3は、三元触媒7の下流側に設けられた酸素濃度センサ9の出力推移を表したものである。上記の通り、酸素濃度センサ7は、排気空燃比がストイキ近傍を境にその出力値が急変する特性を有している。
【0038】
ここで、Cmax法では、酸素濃度センサ9の出力がリッチ側出力となったとき、およびリーン側出力となったときに、三元触媒7に流入する排気の空燃比が、それぞれ所定のリーン空燃比AFL、所定のリッチ空燃比AFRとなるように調整が行われる。図2に示す例では、酸素濃度センサ9の出力がストイキレベルを横切ったときに、その出力が、リッチ側出力又はリーン側出力となったことを意味する。具体的には、時間tRにおいて酸素濃度センサ9の出力推移がリーン側からリッチ側に横切ったことから、時間tRにて酸素濃度センサ9の出力がリッチ出力となったことになる。したがって、この時間tRにて、ECU20から燃料噴射弁6を介して、三元触媒7に流入する排気空燃比が所定のリーン空燃比AFLとなるように指令(目標空燃比)が出され、その結果、実際の排気空燃比が線L2の推移を辿る。
【0039】
更に、時間が経過すると、上記の通り三元触媒7の目標空燃比が所定のリーン空燃比AFLに設定されている結果、時間tLにおいて酸素濃度センサ9の出力推移がリッチ側からリーン側にストイキレベルを横切ることになる。そこで、時間tLにて酸素濃度センサ9の出力がリーン出力となったと判断し、この時間tLにて、ECU20から燃料噴射弁6を介して、三元触媒7に流入する排気空燃比が所定のリッチ空燃比AFRとなるように指令(目標空燃比)が出される。そのため、時間tLを経過した後、三元触媒7に流入する実際の排気空燃比も所定のリッチ空燃比AFRに近づくことになる。
【0040】
このようにCmax法では、酸素濃度センサ8の出力に応じて、三元触媒7に流入する排気空燃比の調整について、リーン側からリッチ側へ移行されるモードと、リッチ側からリーン側へ移行されるモードが行われる。そこで、前者を「リッチ移行モード」と称し、後者を「リーン移行モード」と称することとする。そして、Cmax法では、リーン移行モードにおいて、三元触媒7に流入する排気空燃比がストイキ〜リーン側の空燃比であるときには、排気中の酸素が三元触媒7に吸蔵され、その吸蔵量が限界値に到達したときに三元触媒7から酸素を多く含む排気(リーン排気)が漏れ出してくると考える。そのため、図2(a)で示される斜線領域M1は、三元触媒7の酸素吸蔵量の最大値を表わすことになる。一方で、リッチ移行モードにおいて、三元触媒7に流入する排気空燃比がストイキ〜リッチ側の空燃比であるときには、三元触媒7に吸蔵されていた酸素が放出され、その放出が完了したときに三元触媒7から酸素量が少ない排気(リッチ排気)が漏れ出してくると考える。そのため、図2(a)で示される斜線領域M2は、三元触媒7の酸素放出量の最大値を表わすことになる。
【0041】
原理的には、斜線領域M1で表わされる三元触媒7の酸素吸蔵量と、斜線領域M2で表わされる三元触媒7の酸素放出量とは同じになるが、算出誤差を低減させるために、当該酸素吸蔵量と当該酸素放出量との平均値を、三元触媒7のOSCとする。なお、酸素吸蔵量および酸素放出量の具体的な算出については、空燃比センサ8の検出値とストイキ空燃比との差分(空燃比差分)に燃料噴射弁6からの燃料噴射量、空気における酸素の割合等のパラメータを利用して算出でき、これらの算出方法は公知であるため、詳細な説明は割愛する。
【0042】
このようにCmax法では、三元触媒7の下流側に設けられている酸素濃度センサ9の出力値に基づいて、三元触媒7に流入する排気空燃比の調整に関する、リッチ移行モードとリーン移行モードが実行される。ここで、酸素濃度センサ9には、上記の通り、いわゆるZ特性が存在する。このZ特性は、検出対象ガスの空燃比がストイキ近傍を境にセンサの出力値が急変する特性であるが、当該特性は、検出対象ガスに含まれるリーンガス成分(酸素濃度センサ9のリーン側出力に寄与するガス成分)の種類によって変動する。ここで、リッチガス成分(酸素濃度センサ9のリッチ側出力に寄与するガス成分)であるCOに対する二つのリーンガス成分(、NO)をスイープしたときの酸素濃度センサ9の出力特性の違いを、図3に示す。図3の横軸は、各リーンガス成分での過剰率λを表し、縦軸は、酸素濃度センサ9の出力電圧を表わす。なお、酸素濃度センサ9においては、検出対象ガス中の酸素濃度が低くなるほど、すなわち当該ガスの空燃比がリッチ側であるほど、その出力電圧が高くなる。
【0043】
図3に示すように、リーンガス成分としてNOを含む方が、リーンガス成分としてを含む場合よりも、酸素濃度センサ9の出力の急変点が過剰率λが大きい方へ、すなわちリーン側にずれることになる。このことから、酸素濃度センサ9は、検査対象ガスに同量のリッチガス成分であるCOが含まれてもリーンガス成分の種類によって、その出力特性は変動し得るものであって、特に、検査対象ガスに含まれるNO等のNOx量が増えると、リーンガス成分に対する検出感度が低下する傾向が見出せる。
【0044】
また、酸素濃度センサ9の出力特性は、リッチガス成分濃度に対する依存性も有する。例えば、リッチガス成分であるCOに対するリーンガス成分としてのをスイープしたときの酸素濃度センサ9の出力特性の、COの含有量に関する違いを図4に示す。図4の横軸は、リーンガス成分としてのでの過剰率λを表し、縦軸は、酸素濃度センサ9の出力電圧を表わす。そして、リッチガス成分COの含有量が200ppmのケースと、50ppmのケースごとに、酸素濃度センサ9の出力特性がそれぞれ図4に表わされている。
【0045】
図4に示すように、リッチガス成分であるCOの含有量が多くなるほど、酸素濃度センサ9の出力電圧が高くなる。それとともに、過剰率λが小さくなる場合の出力特性(すなわち、リッチガス成分濃度が高くなる場合の出力特性)と、過剰率λが大きくなる場合の出力特性(すなわち、リッチガス成分濃度が低くなる場合の出力特性)とのずれ、すなわち出力特性のヒステリシスが、COの含有量が多くなるほど顕著となる。このことから、酸素濃度センサ9は、検査対象ガスにおけるリッチガス成分濃度に対して強い依存性が存在し、そのリッチガス成分濃度が高くなるほど、酸素濃度センサ9の出力電圧がより高く出る傾向、すなわちリッチガス成分に対する検出感度の顕著化が見出せる。
【0046】
そして、このような出力特性を有する酸素濃度センサ9を用いて、図2に示すCmax法により三元触媒7のOSCを算出すると、当該OSCの算出が正確に行われない可能性があることを、本出願人は見出した。当該可能性について、図5に基づいて説明する。図5は、従来のCmax法により三元触媒7のOSCを算出しようとする際の、各パラメータの推移を示す。具体的には、図5(a)は、三元触媒7に流入する排気空燃比の推移を示す図であり、特に、線L51は、燃料噴射弁6からの燃料噴射を介して調整される三元触媒7に流入する排気の空燃比に関する、ECU20からの指令(目標空燃比)の推移を表したものであり、線L52は、空燃比センサ8で検出される、実際に三元触媒7に流入した排気の空燃比の推移を表したものである。また、図5(b)は、図5(a)の線L51で示される指令(目標空燃比)に基づいた排気空燃比の調整が行われているときの、酸素濃度センサ9による検出値の推移を示す図である。また、図5(c)は、同じように、図5(a)の線L51で示される指令(目標空燃比)に基づいた排気空燃比の調整が行われているときの、三元触媒7内の空燃比の推移を示す図である。また、図5(d)は、同じように、図5(a)の線L51で示される指令(目標空燃比)に基づいた排気空燃比の調整が行われているときの、三元触媒7から流れ出る排気に含まれるNOx、CO、HCの含有量推移を示す図である。
【0047】
図5に示すCmax法では、図2に示すケースと同じように、酸素濃度センサ9の出力が、リッチ出力となったとき、又はリーン出力となったときに、線L51で示されるECU20からの目標空燃比が、ステップ状に変化する。したがって、この場合、三元触媒7に流入する排気空燃比の調整に関するリーン移行モードとリッチ移行モードがステップ状に交互に切り替わることになる。このような場合、三元触媒7が急激な排気空燃比の変動に晒されるため、三元触媒7内での酸素吸蔵、放出を十分に行い得る環境が形成されにくくなる。そのため、図5(d)に示すように、三元触媒7から流出するガスに、リーンガス成分であるNOxと、リッチガス成分であるCO、HCが混在して存在することになり、上述した、酸素濃度センサ9の、リーンガス成分に対する検出感度の低下傾向と、リッチガス成分濃度に対する強い依存性により、酸素濃度センサ9において、実際の排気空燃比は弱リッチの空燃比であるにもかかわらず強リッチの空燃比に対応する出力電圧を示してしまう特性が現れる。この酸素濃度センサ9によるリッチ空燃比に対して過出力してしまう特性を、「リッチ側過出力特性」と称する。
【0048】
このリッチ側過出力特性により、Cmax法実行時に、三元触媒7の内部が十分なリッチ空燃比の状態(例えば、図2に示す所定のリッチ空燃比AFRの状態)に至らなかったり、もしくは至ったとしてもその状態に留まる時間が比較的短くなったりする。図5に示す例においても、図5(c)で示すように、三元触媒7の内部の排気空燃比について、リッチ側の到達空燃比がリッチ側の到達空燃比より浅い状態、すなわちストイキ空燃比を基準としたときの排気空燃比のリッチ側へのシフト量が小さい状態となっている。
【0049】
このように、Cmax法において、酸素濃度センサ9が有する上記特性に起因して、三元触媒7の内部の排気空燃比が十分なリッチ状態に至らないと、結果として、三元触媒7の酸素放出量が小さく算出されることになり、以て、三元触媒7のOSC算出の精度低下を招くことになる。また、三元触媒7のOSCが本来のOSCより小さく算出されることで、三元触媒7が劣化していないにもかかわらず、劣化したものと誤って判定しかねない。そのため、三元触媒7のOSC算出に当たりCmax法を利用する場合には、酸素濃度センサ9の上記特性を十分に考慮する必要がある。
【0050】
また、排気中の硫黄成分(S成分)により三元触媒7が硫黄被毒(S被毒)した場合、結果として三元触媒7の排気浄化能が低下するため、三元触媒7から流れ出る排気中のリッチガス成分(HC等)の量が増え、酸素濃度センサ9のリッチ側過出力特性により、Cmax法でのリッチ移行モード実行時に、三元触媒7の内部の空燃比が浅い状態となってしまう。その結果、三元触媒7のOSCが小さく算出されてしまう。
【0051】
この三元触媒7のS被毒によるOSC算出精度の低下について、図6に基づいて具体的に説明する。図6は、従来のCmax法により三元触媒7のOSCを算出しようとする際の、S成分をほとんど含まない正常燃料を使用したケースと、S成分を200ppm程度含むS含有燃料を使用したケースにおける、各パラメータの推移を示す。なお、各パラメータの推移において、S含有燃料を使用したケースの推移には、参照番号に「S」を添付し、正常燃料を使用したケースの推移には、「S」の添付は行わないものとする。そして、図6(a)は、三元触媒7に流入する排気空燃比の推移を示す図であり、特に、線L61は、燃料噴射弁6からの燃料噴射を介して調整される三元触媒7に流入する排気の空燃比に関する、ECU20からの指令(目標空燃比)の推移を表したものであり、線L62は、空燃比センサ8で検出される、実際に三元触媒7に流入した排気の空燃比の推移を表したものである。また、図6(b)の推移線L63は、図6(a)の線L61で示される指令(目標空燃比)に基づいた排気空燃比の調整が行われているときの、酸素濃度センサ9による検出値の推移を示す図である。また、図6(c)の推移線L64は、同じように、図6(a)の線L61で示される指令(目標空燃比)に基づいた排気空燃比の調整が行われているときの、三元触媒7内の空燃比の推移を示す図である。また、図6(d)の推移線L65、L66は、同じように、図6(a)の線L61で示される指令(目標空燃比)に基づいた排気空燃比の調整が行われているときの、三元触媒7から流れ出る排気に含まれるNOx、HCの含有量推移を示す図である。そして、線L61S、線L62S、線L63S、線L64S、線L65Sで示される推移は、線L61、L62、L63.L64、L65で示される各パラメータ推移の、S含有燃料使用時の推移に対応するものである。
【0052】
図6(d)に示すように、S含有燃料では燃料中にS成分が比較的高く含まれることから、三元触媒7がS被毒し、その排気浄化能が低下することで、三元触媒7から流出する排気中のNOx濃度やHC濃度が高くなる。その結果、酸素濃度センサ9のリッチ側過出力特性により、図6(b)に示すように、リーン移行モードが開始されると、S含有燃料を使用したケースでは酸素濃度センサ9のリッチ出力が、正常燃料を使用したケースよりも長く続かず、以て、図6(c)に示すように、S含有燃料を使用したケースでは、三元触媒7の内部の空燃比が、正常燃料を使用したケースよりも浅い状態となる。そのため、図6(a)で示される排気空燃比の推移から算出される三元触媒7のOSCが、本来のOSCよりも低い値に算出されることになる。
【0053】
更に、酸素濃度センサ9のリッチ側過出力特性の結果、図6(c)に示すように三元触媒7の内部を十分なリッチ空燃比の状態に至らしめることが難しくなることから、Cmax法を行っている過程において、S被毒が生じている三元触媒7の当該S被毒の解消を図ることが難しくなる。そのため、更に三元触媒7から流れ出る排気中のリッチガス成分が増え、酸素濃度センサ9のリッチ側過出力特性がより顕著となる悪循環に陥る可能性がある。
【0054】
このように、図2図5等に示す従来のCmax法では、酸素濃度センサ9のリッチ側過出力特性により、三元触媒7のOSCを本来のOSCより小さく算出するおそれがある。本出願人は、この従来のCmax法による課題を解決し、より正確な三元触媒7のOSC算出を可能とする制御を発明した。正確なOSC算出は、適切な三元触媒7の劣化判定に資するものであるため、極めて有用なものと考えられる。そこで、本発明に係るOSCの算出、および当該算出OSCに基づいた三元触媒7の劣化判定制御の具体的な実施例について、図7に基づいて説明する。図7は、ECU20によって行われる触媒劣化判定制御のフローチャートであり、当該制御は、ECU20によって所定の時間毎に繰り返し実行される。このECU20は、実質的にはCPU、メモリ等を含むコンピュータに相当し、そこで制御プログラムが実行されることで図7に示すフローチャートに係る制御や後述の各種の制御が実行される。
【0055】
また、図8は、図7に示す触媒劣化判定制御が行われているときの、本発明に係る改良したCmax法により三元触媒7のOSCを算出しようとする際の、各パラメータの推移を示す。なお、図8に示す各パラメータの表示形態は、図5に示す各パラメータの表示形態と同じである。したがって、図8(a)に示す線L81は、燃料噴射弁6からの燃料噴射を介して調整される三元触媒7に流入する排気の空燃比に関する、ECU20からの指令(目標空燃比)の推移を表したものであり、線L82は、空燃比センサ8で検出される、実際に三元触媒7に流入した排気の空燃比の推移を表したものである。また、図8(b)は、図5(b)と同じように酸素濃度センサ9による検出値の推移を示す図である。また、図8(c)は、図5(c)と同じように、三元触媒7内の空燃比の推移を示す図である。また、図8(d)は、図5(d)と同じように、三元触媒7から流れ出る排気に含まれるNOx、CO、HCの含有量推移を示す図である。
【0056】
先ず、S101では、アクティブ空燃比制御が開始される。当該アクティブ空燃比制御は、三元触媒7のOSCをCmax法にて算出するために、三元触媒7に流れ込む排気空燃比を、ストイキ空燃比(14.6)を中心として、積極的に所定のリーン空燃比AFL(例えば、15)と所定のリッチ空燃比AFR(例えば、14)との間で変動させる制御である。そして、アクティブ空燃比制御において、排気空燃比をリーン側からリッチ側に移行させる移行モードを「リッチ移行モード」と称し、反対に、排気空燃比をリッチ側からリーン側に移行させる移行モードを「リーン移行モード」と称する。なお、本実施例では、後述するように、アクティブ空燃比制御における排気空燃比の変化は、いわゆる徐変であり、そのため図8(a)の線L81で示されるように、ECU20から出される指令(目標空燃比)も、リーン移行モードおよびリッチ移行モードにおいて、緩やかに変化することになる。この排気空燃比の徐変が、本発明に係る「排気空燃比の変化率が所定の変化率に制限された状態」に相当する。S101の処理が終了すると、S102へ進む。
【0057】
S102では、アクティブ空燃比制御における移行モードが、リッチ移行モードか否かが判定される。S102で肯定判定されるとS103〜S107の処理が行われ、S102で否定判定されるとS108〜S112の処理が行われる。なお、前者は、リッチ移行モードの際の排気空燃比の徐変および三元触媒7の酸素放出量の算出に関する一連の処理であり、後者は、リーン移行モードの際の排気空燃比の徐変および三元触媒7の酸素吸蔵量の算出に関する一連の処理である。
【0058】
そこで、先ず、S103〜S107の処理について説明する。S103では、リッチ移行モード時において、三元触媒7における酸素放出量が積算される。酸素放出量の積算については、図2に基づいて説明したように、実際に三元触媒7に流入する排気空燃比の推移および排気流量等に基づいて行われる。次に、S104では、リッチ移行モードからリーン移行モードに切り替えられるタイミングか否かが判定される。具体的には、酸素濃度センサ9の出力電圧が、切替閾値のリッチ出力VR(例えば、0.7V)を超えた場合には、切替タイミングに到達したと判定される。そこで、S104で肯定判定されるとS107へ進み、リーン移行モードへの切り替えが行われる。
【0059】
一方で、S104で否定判定されると、リッチ移行モードが継続されることを意味し、S105へ進む。そして、S105では、アクティブ空燃比制御に関しECU20から燃料噴射弁6に対して出される指令である目標空燃比が、ΔAFRだけ減少される。ΔAFRとしては、例えば0.002が設定され、本実施例のアクティブ空燃比制御では空燃比の変動幅が1であるから、S105では目標空燃比を0.2%減少されることになる。後述するように、S105の処理は目標空燃比が所定のリッチ空燃比AFRに到達するまで繰り返されるため、その結果、図8(a)の線L81で示すように、目標空燃比は徐変(減少)することになる。このように目標空燃比が徐変されることで、リッチ移行モードにおいて、三元触媒7に流れ込む排気空燃比の変化率が所定の変化率以下に制限された状態、換言すると、三元触媒7に流れ込む排気空燃比が、所定のリッチ空燃比AFRに向かって緩やかに減少していく状態が形成されることになる。S105の処理が終了すると、S106へ進む。S106では、アクティブ空燃比制御に関しECU20から出される目標空燃比が、所定のリッチ空燃比AFRに到達したか否かが判定される。S106で肯定判定されるとS107へ進み、リーン移行モードへの切り替えが行われ、一方でS106で否定判定されるとS113へ進む。
【0060】
次に、S108〜S112の処理について説明する。S108では、リーン移行モード時において、三元触媒7における酸素吸蔵量が積算される。酸素吸蔵量の積算については、S103の酸素放出量の積算処理と同様である。次に、S109では、リーン移行モードからリッチ移行モードに切り替えられるタイミングか否かが判定される。具体的には、酸素濃度センサ9の出力電圧が、切替閾値のリッチ出力VL(例えば、0.2V)を下回った場合には、切替タイミングに到達したと判定される。そこで、S109で肯定判定されるとS112へ進み、リッチ移行モードへの切り替えが行われる。
【0061】
一方で、S109で否定判定されると、リーン移行モードが継続されることを意味し、
S110へ進む。そして、S110では、アクティブ空燃比制御に関しECU20から出される目標空燃比が、ΔAFLだけ増加される。ΔAFLとしては、例えばS105で示したΔAFRと同じように、0.002が設定される。これにより、S110の処理は目標空燃比が所定のリーン空燃比AFLに到達するまで繰り返されるため、その結果、図8(a)の線L81で示すように、目標空燃比は徐変(増加)することになる。このように目標空燃比が徐変されることで、リーン移行モードにおいて、三元触媒7に流れ込む排気空燃比の変化率が所定の変化率以下に制限された状態、換言すると、三元触媒7に流れ込む排気空燃比が、所定のリーン空燃比AFLに向かって緩やかに増加していく状態が形成されることになる。S110の処理が終了すると、S111へ進む。S111では、アクティブ空燃比制御に関しECU20から出される目標空燃比が、所定のリーン空燃比AFLに到達したか否かが判定される。S111で肯定判定されるとS112へ進み、リッチ移行モードへの切り替えが行われ、一方でS111で否定判定されるとS113へ進む。
【0062】
S113では、三元触媒7のOSC算出が完了したか否かが判定される。例えば、S103の酸素放出量の積算によるリッチ移行モード時の三元触媒7の酸素放出量の算出と、S108の酸素吸蔵量の積算によるリーン移行モード時の三元触媒7の酸素吸蔵量の算出がそれぞれ所定回数行われた場合、S113では肯定判定される。S113で肯定判定されるとS114へ進み、否定判定されるとS102以降の処理が繰り返される。
【0063】
S114では、三元触媒7のOSCに基づいて、その劣化判定が行われる。三元触媒7のOSCには、上記のようにそれぞれ所定回数算出された三元触媒7の酸素放出量と酸素吸蔵量の平均値を利用する。そして、三元触媒7のOSCが、劣化基準となる所定のOSCより低い場合には、三元触媒7は劣化していると判定される。なお、三元触媒7が劣化判定された場合には、ユーザに対してそのことを知らせることが望ましい。
【0064】
このように図7に示す触媒劣化判定制御では、三元触媒7のOSCを算出するに当たって、アクティブ空燃比制御でのリッチ移行モードおよびリーン移行モードにおいて、三元触媒7に流入する排気空燃比は徐変減少、徐変増加される。その結果、各移行モードで以下に示すように、より正確な三元触媒7のOSC算出が可能となる。
【0065】
(1)リッチ移行モード時
三元触媒7から流出する排気においては、流入する排気の空燃比が徐変減少されることによって、三元触媒7に吸蔵されている酸素を放出するための反応時間を十分に確保することができる。そのため、流出排気において、リッチガス成分が急激に増加することを避け、その増加速度が緩和される。このように三元触媒7内の空燃比を徐々に減少(リッチ移行)させることで、三元触媒7がある程度、硫黄被毒していたとしても、そこに吸蔵されている酸素を放出するのに必要な時間は確保し得る。
【0066】
上記のように、三元触媒7からの流出排気においてリッチガス成分の増加を緩和させることで、三元触媒7の下流側に設けられている酸素濃度センサ9のリッチ側過出力特性の影響は軽減される。そのため、酸素濃度センサ9が晒される雰囲気において、本来はリッチガス成分が少ないにもかかわらずリッチ成分が多いと誤って判断してリーン移行モードへの切り替えが過度に早く行われてしまうことを回避することができる。この結果、本実施例では図8(c)に示すように、リッチ移行モードにより三元触媒7の内部の空燃比状態を、十分に且つ比較的長い時間にわたってリッチ状態とすることができ、従来技術に係る図5(c)に示す空燃比推移と比べても、その違いは明確である。そして、酸素濃度センサ9のリッチ側過出力特性にかかわらず三元触媒7の内部を十分にリッチ状態に到達させることで、三元触媒7の正確なOSC算出が期待される。
【0067】
(2)リーン移行モード時
三元触媒7においては、流入する排気の空燃比が徐変増加されることによって、三元触媒7への酸素の吸蔵が徐々に進行する。このとき、三元触媒7からの流出排気に含まれるリッチガス成分濃度は、図8(d)に示すように一時的に増加するが、直ちに減少に転じる。そして、三元触媒7で酸素吸蔵の飽和を迎えた頃に、リッチガス成分濃度は極めて低くなるとともに、三元触媒7からの流出排気中の酸素濃度が増加し始め、図8(c)に示すように、酸素濃度センサ9がリーン出力をすることになる。
【0068】
このように、三元触媒7からの流出排気におけるリッチガス成分とリーンガス成分(酸素濃度が高い排気)の出現タイミングが、図5に示すケースよりも明確になる。酸素濃度センサ9においては、上記のリッチ側過出力特性により、センサ雰囲気がある程度明確なリーン状態とならないと、実際のリーン空燃比に近い出力を出すことができないが、上記の通り、流入排気の空燃比の徐変増加によって、流出排気においてリッチガス成分とリーンガス成分の出現の区切りが明確になるため、実際の排気空燃比に近いリーン出力を行うことが可能となる。この結果、三元触媒7における酸素吸蔵の飽和タイミングを、的確に酸素濃度センサ9が捉えることができるため、三元触媒7の正確なOSC算出が期待される。
【0069】
なお、上記実施例では、アクティブ空燃比制御において、リッチ移行モードでは排気空燃比をΔAFRで減少させ、リーン移行モードでは排気空燃比をΔAFLで増加させている。これらの徐変減少量ΔAFR、徐変増加量ΔAFLは、それぞれ、酸素濃度センサ9におけるリッチガス成分に対する応答時間、酸素濃度センサ9におけるリーンガス成分に対する応答時間に基づいて設定すればよい。すなわち、酸素濃度センサ9のリッチガス成分に対する応答時間、又はリーンガス成分に対する応答時間よりも緩やかに三元触媒7に流入する排気空燃比をΔAFR又はΔAFLで徐変させることで、三元触媒7に流入する排気空燃比の推移と、当該推移を制御することになる酸素濃度センサ9の出力推移との間の誤差を低減することができ、以て改良されたCmax法に基づいた三元触媒7の正確なOSC算出、および正確な三元触媒7の劣化判定が可能となる。
【0070】
なお、実用的には、酸素濃度センサ9の固体差を考慮して、酸素濃度センサ9のリッチガス成分およびリーンガス成分に対する応答時間に関する公差の範囲において、最も遅い応答時間に基づいて、徐変減少量ΔAFR、徐変増加量ΔAFLを設定すればよい。
【実施例2】
【0071】
本発明の第二の実施例について、図9に基づいて説明する。図9は、第二の実施例に係る触媒劣化判定制御のフローチャートであり、図7に示す触媒劣化判定制御に含まれる処理と同一の処理については、それと同一の参照番号を付すことでその詳細な説明は割愛する。ここで、図9に示す触媒劣化判定制御では、図7に示す触媒劣化判定制御におけるS105の処理に代えて、S201の処理が行われ、同じく図7に示す触媒劣化判定制御におけるS110の処理に代えて、S202の処理が行われる。
【0072】
具体的には、リッチ移行モード時において、S104で否定判定されるとS201へ進み、S201では、アクティブ空燃比制御に関しECU20から燃料噴射弁6に対して出される指令である目標空燃比が、ΔAFRだけ減少される。なお、S201の処理が終了すると、S106へ進む。また、リーン移行モード時においては、S109で否定判定されるとS202へ進み、S202では、アクティブ空燃比制御に関しECU20から燃料噴射弁6に対して出される指令である目標空燃比が、ΔAFLだけ増加される。なお、S202の処理が終了すると、S111へ進む。そして、ΔAFRとΔAFLの相関については、ΔAFR>ΔAFLとされ、例えば、ΔAFR=0.005、ΔAFL=0.002とすることができる。
【0073】
以上より、図9に示す触媒劣化判定制御が行われると、アクティブ空燃比制御において三元触媒7に流入する排気空燃比は、図7に示す触媒劣化判定制御と同じように徐変減少、徐変増加される。しかし、上記の通り、アクティブ空燃比制御に関しΔAFR>ΔAFLという相関が設定されるため、リッチ移行モード時の排気空燃比の変化率(変化速度の絶対値)は、リーン移行モード時の排気空燃比の変化率(変化速度の絶対値)よりも速く設定されることになる。酸素濃度センサ9は上記のリッチ側過出力特性を有しているため、リッチ空燃比の排気に対する応答速度はリーン空燃比の排気に対する応答速度よりも速い。そのためΔAFRをΔAFLよりも大きく設定しても、図8(c)に示す三元触媒7の内部の空燃比推移と同程度の空燃比推移を実現することが可能である。また、ΔAFRの値をより大きく設定することで、リッチ移行モードに要する時間を短縮でき、三元触媒7の内部の空燃比がストイキ近傍からリッチ空燃比となることによるNOxの放出量を抑制することができる。
【実施例3】
【0074】
本発明の第三の実施例について、図10に基づいて説明する。図10は、第三の実施例に係る触媒劣化判定制御のフローチャートであり、図7に示す触媒劣化判定制御に含まれる処理と同一の処理については、それと同一の参照番号を付すことでその詳細な説明は割愛する。ここで、図10に示す触媒劣化判定制御では、図7に示す触媒劣化判定制御におけるS105、S106の処理に代えて、S301の処理が行われ、同じく図7に示す触媒劣化判定制御におけるS110の処理に代えて、S302の処理が行われる。
【0075】
また、図11は、図10に示す触媒劣化判定制御が行われているときの、本発明に係る改良したCmax法により三元触媒7のOSCを算出しようとする際の、各パラメータの推移を示す。なお、図11に示す各パラメータの表示形態は、図5および図8に示す各パラメータの表示形態と同じである。したがって、図11(a)に示す線L91は、燃料噴射弁6からの燃料噴射を介して調整される三元触媒7に流入する排気の空燃比に関する、ECU20からの指令(目標空燃比)の推移を表したものであり、線L92は、空燃比センサ8で検出される、実際に三元触媒7に流入した排気の空燃比の推移を表したものである。また、図11(b)は、図5(b)と同じように酸素濃度センサ9による検出値の推移を示す図である。また、図11(c)は、図5(c)と同じように、三元触媒7内の空燃比の推移を示す図である。また、図11(d)は、図5(d)と同じように、三元触媒7から流れ出る排気に含まれるNOx、CO、HCの含有量推移を示す図である。
【0076】
ここで、図10に示す触媒劣化判定制御では、リッチ移行モード時において、S104で否定判定されるとS301へ進み、S301では、アクティブ空燃比制御に関しECU20から燃料噴射弁6に対して出される指令である目標空燃比が、リッチ移行モードでの到達目標である所定のリッチ空燃比AFRに設定される。一方で、リーン移行モード時においては、S109で否定判定されるとS302へ進み、S302では、アクティブ空燃比制御に関しECU20から燃料噴射弁6に対して出される指令である目標空燃比が、ΔAFLだけ増加される。そして、S302の処理が終了すると、S111へ進む。
【0077】
以上より、図10に示す触媒劣化判定制御が行われると、図11(a)に示すように、アクティブ空燃比制御においてリーン移行モード時は、三元触媒7に流入する排気空燃比は徐変増加されるが、リッチ移行モード時では三元触媒7に流入する排気空燃比はステップ状に急変している。すなわち、アクティブ空燃比制御に関し、リーン移行モードとリッチ移行モードのうちリーン移行モードにおいてのみ、三元触媒7に流入する排気空燃比を徐変させている。酸素濃度センサ9は上記のリッチ側過出力特性を有しているため、リッチ空燃比の排気に対する応答速度はリーン空燃比の排気に対する応答速度よりも速い。したがって、リッチ移行モード時の三元触媒7への流入排気の空燃比をステップ状に変化させても、リーン移行モード時は当該排気空燃比を徐変増加しているため、図11(c)に示すように、三元触媒7の内部の空燃比を十分にリッチ空燃比状態としている。そのため、空燃比の徐変増加による三元触媒7のOSCのある程度正確な算出を可能としながら、エミッション悪化の抑制(特に、NOx抑制)や、三元触媒7のS被毒の進行抑制、もしくは三元触媒7のS被毒の解消等、内燃機関1のエミッション向上も同時に促進することが可能となる。
【実施例4】
【0078】
本発明の第四の実施例について、図12に基づいて説明する。図12は、第四の実施例に係る触媒劣化判定制御のフローチャートであり、図7図10に示す触媒劣化判定制御に含まれる処理と同一の処理については、それと同一の参照番号を付すことでその詳細な説明は割愛する。ここで、図12に示す触媒劣化判定制御では、図10に示す触媒劣化判定制御におけるS111の処理に代えて、S401、S402の処理が行われる。
【0079】
具体的には、S302の処理が終了するとS401へ進む。S401では、S302の処理により増加された、アクティブ空燃比制御に関しECU20から燃料噴射弁6に対して出される指令である目標空燃比が、ストイキ空燃比に到達しているか否かが判定される。S401で肯定判定されるとS402へ進み、S402では、当該目標空燃比が、リーン移行モードでの到達目標である所定のリーン空燃比AFLに、ステップ状に増加される。S402の処理が終了すると、S113へ進む。一方で、S40で否定判定されるとS402の処理は迂回され、S113へ進む。
【0080】
以上より、図11に示す触媒劣化判定制御が行われると、アクティブ空燃比制御に関し、リッチ移行モードでは、目標空燃比は、当初からステップ状に所定のリッチ空燃比AFRに設定され、リーン移行モードでは、目標空燃比は、リッチ側空燃比からストイキまでは、ΔAFLで徐変増加され、ストイキ到達以降は、ステップ状に所定のリーン空燃比AFLに増加される。すなわち、リーン移行モードにおいて、ストイキからリーン側空燃比までの領域において、目標空燃比は速やかに増加されることになる。この結果、図12に示す触媒劣化判定制御に従えば、第三の実施例と同じように、三元触媒7の正確なOSC算出と、内燃機関1のエミッション向上を実現しつつ、更に、排気空燃比がリーン状態となる時間を短縮できるため、よりNOxの発生を抑制することが可能となる。
【実施例5】
【0081】
本発明の第五の実施例について、図13に基づいて説明する。図13は、第五の実施例に係る触媒劣化判定制御のフローチャートであり、図7に示す触媒劣化判定制御に含まれる処理と同一の処理については、それと同一の参照番号を付すことでその詳細な説明は割愛する。ここで、図13に示す触媒劣化判定制御では、図7に示す触媒劣化判定制御におけるS105の処理に代えて、S501、S502の処理が行われ、同じく図7に示す触媒劣化判定制御におけるS110の処理に代えて、S503、S504の処理が行われる。
【0082】
具体的には、リッチ移行モード時において、S104で否定判定されるとS501へ進み、S501では、後述するS502で使用される目標空燃比の徐変減少量ΔAFRの補正が行われる。そして、その後S502へ進み、アクティブ空燃比制御に関しECU20から燃料噴射弁6に対して出される指令である目標空燃比が、ΔAFRだけ減少される。なお、S502の処理が終了すると、S106へ進む。また、リーン移行モード時においても、S109で否定判定されるとS503へ進み、S503では、後述するS504で使用される目標空燃比の徐変増加量ΔAFLの補正が行われる。そして、その後S504へ進み、アクティブ空燃比制御に関しECU20から燃料噴射弁6に対して出される指令である目標空燃比が、ΔAFLだけ増加される。なお、S504の処理が終了すると、S111へ進む。
【0083】
このように本実施例では、S501、S503で、目標空燃比を徐変減少又は徐変増加させるΔAFR、ΔAFLの値に関する補正処理が行われる。そしてS501、S503で行われる補正処理は、本質的には同一の処理であるから、図14に基づいてまとめて説明する。図14の上段(a)図は、三元触媒7に流れ込む排気流量に関連する、内燃機関1の吸入空気流量と、補正係数K1との相関を示す図である。当該補正係数K1は、補正前のΔAFR、ΔAFLに乗じることで、補正後のΔAFR、ΔAFLを算出するための係数である。三元触媒7に流れ込む排気流量が大きくなると、三元触媒7における酸素の吸蔵、放出反応をより確実に行えるように、その反応時間をより長く確保するのが好ましい。そこで、エアフローメータ4で検出される吸気流量が大きくなるほど、補正係数K1は小さくなるように設定され、この結果、目標空燃比の徐変減少および徐変増加が、より緩やかに行われることになる。
【0084】
次に、図14の下段(b)図は、酸素濃度センサ9のセンサ温度と、補正係数K2との相関を示す図である。当該補正係数K2は、補正前のΔAFR、ΔAFLに乗じることで、補正後のΔAFR、ΔAFLを算出するための係数である。酸素濃度センサ9のセンサ温度が高くなるほど、リッチガス成分、リーンガス成分に対する酸素濃度センサ9の応答性が高くなる。そこで、酸素濃度センサ9のセンサ温度が高くなるほど、補正係数K2は大きくなるように設定され、この結果、目標空燃比の徐変減少および徐変増加が、より速やかに行われることになる。
【0085】
以上より、図13に示す触媒劣化判定制御が行われると、アクティブ空燃比制御において三元触媒7に流入する排気空燃比は、図7に示す触媒劣化判定制御と同じように徐変減少、徐変増加され、三元触媒7の正確なOSC算出に寄与する。更に、その排気空燃比の徐変減少、徐変増加の程度が、吸気流量および/または酸素濃度センサ9のセンサ温度に基づいて補正されることで、アクティブ空燃比制御における排気空燃比の変化率がより適切な値となり、変化率が過度に早くなることで三元触媒7のOSCの算出精度が低下したり、変化率が過度に遅くなることで三元触媒7のOSC算出に要する時間が長期化したりするのを回避することができる。特に、OSC算出のために行われるアクティブ空燃比制御は、三元触媒7において、本来、効率よく排気浄化が行えるストイキ近傍の空燃比から積極的に排気空燃比を変動させるものであるため、本実施例による三元触媒7のOSC算出に要する時間の長期化回避は、実用的にも有用である。
【符号の説明】
【0086】
1・・・・内燃機関
2・・・・吸気通路
3・・・・排気通路
4・・・・エアフローメータ
6・・・・燃料噴射弁
7・・・・三元触媒
8・・・・空燃比センサ
9・・・・酸素濃度センサ
20・・・・ECU
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