(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記機関中負荷運転領域におけるベース空燃比は、上記機関低負荷運転領域におけるベース空燃比と理論空燃比との中間値である請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
上記機関中負荷運転領域において燃焼室内における空燃比がリッチにされたときの空燃比のリッチの度合は、上記機関低負荷運転領域において燃焼室内における空燃比がリッチにされたときの空燃比のリッチの度合に比べて小さい請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
機関の運転状態が上記機関低負荷運転領域から上記機関中負荷運転領域に移行したときには、燃焼室内における空燃比が一時的にリッチにされる請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
機関の運転状態が上記機関中負荷運転領域から上記機関高負荷運転領域に移行したときには、燃焼室内における空燃比が一時的にリッチにされる請求項1に記載の内燃機関の排気浄化装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に火花点火式内燃機関の全体図を示す。
図1を参照すると、1は機関本体、2はシリンダブロック、3はシリンダヘッド、4はピストン、5は燃焼室、6は点火栓、7は吸気弁、8は吸気ポート、9は排気弁、10は排気ポートを夫々示す。
図1に示されるように、各気筒は燃焼室2内に向けて燃料を噴射するための電子制御式燃料噴射弁11と、吸気ポート8内に向けて燃料を噴射するための電子制御式燃料噴射弁12からなる一対の燃料噴射弁を具備する。各気筒の吸気ポート8は吸気枝管13を介してサージタンク14に連結され、サージタンク14は吸気ダクト15を介してエアクリーナ16に連結される。吸気ダクト15内には吸入空気量検出器17と、アクチュエータ18aより駆動されるスロットル弁18とが配置される。
【0011】
一方、各気筒の排気ポート10は排気マニホルド19を介して三元触媒20の入口に連結され、三元触媒20の出口は排気管21を介してNO
x吸蔵触媒22の入口に連結される。NO
x吸蔵触媒22の出口はNO
x選択還元触媒23に連結される。一方、排気管21とサージタンク14とは排気ガス再循環(以下、EGRと称す)通路24を介して互いに連結される。EGR通路24内には電子制御式EGR制御弁25が配置され、更にEGR通路24周りにはEGR通路24内を流れる排気ガスを冷却するための冷却装置26が配置される。
図1に示される実施例では機関冷却水が冷却装置26内に導かれ、機関冷却水によって排気ガスが冷却される。
【0012】
電子制御ユニット30はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス31によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)32、RAM(ランダムアクセスメモリ)33、CPU(マイクロプロセッサ)34、入力ポート35および出力ポート36を具備する。三元触媒20の上流には機関から排出される排気ガスの空燃比を検出するための空燃比センサ27が取り付けられており、三元触媒20の下流には排気ガス中の酸素濃度を検出するための酸素濃度センサ28が取付けられている。これら空燃比センサ27、酸素濃度センサ28および吸入空気量検出器17の出力信号は夫々対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。また、アクセルペダル40にはアクセルペダル40の踏込み量Lに比例した出力電圧を発生する負荷センサ41が接続され、負荷センサ41の出力電圧は対応するAD変換器37を介して入力ポート35に入力される。更に入力ポート35にはクランクシャフトが例えば30°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ42が接続される。一方、出力ポート36は対応する駆動回路38を介して点火栓6、燃料噴射弁11,12、スロットル弁駆動用アクチュエータ18aおよびEGR制御弁25に接続される。
【0013】
図2は三元触媒20の基体50の表面部分を図解的に示している。
図2に示されるように、触媒担体50上には上部コート層51と下部コート層52とが積層状に形成されている。上部コート層51はロジウムRh とセリウムCe からなり、下部コート層52は白金Pt とセリウムCe からなる。なお、この場合、上部コート層51に含まれるセリウムCe の量は下部コート層52に含まれるセリウムCe の量よりも少ない。また、上部コート層51内にはジルコニアZr を含有せしめることができるし、下部コート層52内にはパラジウムPd を含有せしめることもできる。
【0014】
この三元触媒20は、燃焼室5内において理論空燃比のもとで燃焼が行われているとき、即ち機関から排出される排気ガスの空燃比が理論空燃比のときに、排気ガス中に含まれる有害成分HC、COおよびNO
xを同時に低減する機能を有している。従って、燃焼室5内において理論空燃比のもとで燃焼が行われているときには、排気ガス中に含まれる有害成分HC、COおよびNO
xは三元触媒20において浄化されることになる。
【0015】
なお、燃焼室5内における空燃比を完全に理論空燃比に保持し続けることは不可能であり、従って実際には、燃焼室5から排出された排気ガスの空燃比がほぼ理論空燃比となるように、即ち燃焼室5から排出される排気ガスの空燃比が理論空燃比を中心して振れるように、燃料噴射弁11,12からの噴射量が空燃比センサ27の検出信号に基づいてフィードバック制御される。また、この場合,排気ガスの空燃比の変動の中心が理論空燃比からずれたときには、酸素濃度センサ28の出力信号に基づいて排気ガスの空燃比の変動の中心が理論空燃比に戻るように調整される。このように燃焼室5から排出される排気ガスの空燃比が理論空燃比を中心して振れたとしても、セリウムCe による三元触媒20の酸素貯蔵能力により、排気ガス中に含まれる有害成分HC、COおよびNO
xは三元触媒20において良好に浄化される。
【0016】
図3AはNO
x吸蔵触媒22の基体55の表面部分を図解的に示している。
図3Aに示されるように、NO
x吸蔵触媒22においても基体55上にはコート層56が形成されている。このコート層56は例えば粉体の集合体からなり、
図3Bはこの粉体の拡大図を示している。
図3Bを参照すると、この粉体の例えばアルミナからなる触媒担体60上には貴金属触媒61,62が担持されており、更にこの触媒担体60上にはカリウムK、ナトリウムNa、セシウムCsのようなアルカリ金属、バリウムBa、カルシウムCaのようなアルカリ土類金属、ランタノイドのような希土類および銀Ag、銅Cu、鉄Fe、イリジウムIrのようなNO
xに電子を供与しうる金属から選ばれた少なくとも一つを含む塩基性層63が形成されている。
【0017】
一方、
図3Bにおいて貴金属触媒61は白金Pt からなり、貴金属触媒62はロジウムRh からなる。なおこの場合、いずれの貴金属触媒61,62も白金Pt から構成することができる。また、触媒担体60上には白金Pt およびロジウムRh に加えて更にパラジウムPd を担持させることができるし、或いはロジウムRh に代えてパラジウムPd を担持させることができる。即ち、触媒担体60に担持されている貴金属触媒61,62は白金Pt、ロジウムRh およびパラジウムPd の少なくとも一つにより構成される。
【0018】
次に、NO
x吸蔵触媒22のNO
xの吸放出作用について、
図3Bの拡大図を示す
図4Aおよび4Bを参照しつつ説明する。
さて、リーン空燃比のもとで燃焼が行われているときには、即ち排気ガスの空燃比がリーンのときには、排気ガス中の酸素濃度が高く、従ってこのとき排気ガス中に含まれるNOは
図4Aに示されるように、白金Pt 61上において酸化されてNO
2となり、次いで
塩基性層63内に吸収されて硝酸イオンNO
3-の形で塩基性層63内に拡散し、硝酸塩となる。このようにして排気ガス中のNO
xが硝酸塩の形で塩基性層63内に吸収されることになる。排気ガス中の酸素濃度が高い限り白金Pt 61の表面でNO
2が生成され、塩基性層63のNO
x吸収能力が飽和しない限りNO
xが塩基性層63内に吸収されて硝酸塩が生成される。
【0019】
これに対し、燃焼室5内における空燃比がリッチにされると、NO
x吸蔵触媒22に流入する排気ガス中の酸素濃度が低下するために、反応が逆方向(NO
3-→NO
2)に進み、斯くして塩基性層63内に吸収されている硝酸塩は順次硝酸イオンNO
3-となって
図4Bに示されるようにNO
2の形で塩基性層63から放出される。次いで放出されたNO
2は排気ガス中に含まれる炭化水素HCおよびCOによって還元される。
【0020】
なお、リーン空燃比のもとで燃焼が行われているときには、即ち排気ガスの空燃比がリーンのときには、NOが白金Pt 61の表面に吸着し、従って排気ガス中のNOはこの吸着作用によってもNO
x吸蔵触媒22に保持されることになる。この白金Pt 61の表面に吸着したNOは、燃焼室5内における空燃比がリッチにされると、白金Pt 61の表面から脱離せしめられる。従って吸収および吸着の双方を含む用語として吸蔵という用語を用いると、塩基性層63はNO
xを一時的に吸蔵するためのNO
x吸蔵剤の役目を果していることになる。従って、機関吸気通路、燃焼室5およびNO
x吸蔵触媒22上流の排気通路内に供給された空気および燃料(炭化水素)の比を排気ガスの空燃比と称すると、NO
x吸蔵触媒22は、NO
x吸蔵触媒22に流入する排気ガスの空燃比がリーンのときにはNO
xを吸蔵し、NO
x吸蔵触媒22に流入する排気ガスの空燃比がリッチになると吸蔵したNO
xを放出することになる。
【0021】
このように排気ガスの空燃比がリーンであるとき、即ちリーン空燃比のもとで燃焼が行われているときには、排気ガス中のNO
xがNO
x吸蔵触媒22に吸蔵される。しかしながら、リーン空燃比のもとでの燃焼が継続して行われると、その間にNO
x吸蔵触媒22のNO
x吸蔵能力が飽和してしまい、その結果NO
x吸蔵触媒22によりNO
xを吸蔵できなくなってしまう。従って、NO
x吸蔵触媒22のNO
x吸蔵能力が飽和する前に燃焼室5内における空燃比を一時的にリッチにし、それによってNO
x吸蔵触媒22からNO
xを放出させるようにしている。
【0022】
図5は、本発明による実施例において用いられているNO
x吸蔵触媒22からのNO
x放出制御を示している。
図5を参照すると、本発明による実施例では、NO
x吸蔵触媒22に吸蔵された吸蔵NO
x量ΣNOXが予め定められた第一の許容NO
x吸蔵量MAXIを越えたときに燃焼室5内における空燃比(A/F)が一時的にリッチにされる。燃焼室5内における空燃比(A/F)がリッチにされると、即ちNO
x吸蔵触媒22に流入する排気ガスの空燃比がリッチにされると、リーン空燃比のもとで燃焼が行われているときに、NO
x吸蔵触媒22に吸蔵されたNO
xがNO
x吸蔵触媒22から一気に放出されて還元される。それによってNO
xが浄化される。
【0023】
吸蔵NO
x量ΣNOXは例えば機関から排出されるNO
x量から算出される。本発明による実施例では機関から単位時間当り排出される排出NO
x量NOXAが要求負荷Lおよび機関回転数Nの関数として
図6に示すようなマップの形で予めROM32内に記憶されており、この排出NO
x量NOXAから吸蔵NO
x量ΣNOXが算出される。この場合、燃焼室5内における空燃比がリッチにされる周期は通常1分以上である。
【0024】
図7は、
図5に示すような、NO
x吸蔵触媒22のNO
xの吸蔵放出作用によりNO
xを浄化するようにした場合のNO
x浄化率を示している。なお、
図7の横軸はNO
x吸蔵触媒22の触媒温度TCを示している。この場合には、
図7からわかるように、触媒温度TCが300℃から400℃のときには極めて高いNO
x浄化率が得られるが触媒温度TCが400℃以上の高温になるとNO
x浄化率が低下する。このように触媒温度TCが400℃以上になるとNO
x浄化率が低下するのは、触媒温度TCが400℃以上になるとNO
xが吸蔵されづらくなり、また硝酸塩が熱分解してNO
2の形でNO
x吸蔵触媒22から放出されるからである。即ち、NO
xを硝酸塩の形で吸蔵している限り、触媒温度TCが高いときに高いNO
x浄化率を得るのは困難となる。
【0025】
さて、リーン空燃比のもとで燃焼が行われているときには、理論空燃比のもとで燃焼が行われているときに比べて、燃料消費量が少なくなる。従って、燃料消費量を低減するには、できる限り、リーン空燃比のもとで燃焼を行うことが好ましい。しかしながら、
図7からわかるように、NO
x吸蔵触媒22の温度TCが高くなると、NO
x浄化率が低下する。これに対し、理論空燃比のもとで燃焼が行われているときには、三元触媒20の温度TCが高くなっても、NO
x浄化率が低下しない。そこで、従来より、NO
x吸蔵触媒22の温度TCが低い機関低負荷運転時には、リーン空燃比のもとで燃焼を行い、NO
x吸蔵触媒22の温度TCが高くなる機関高負荷運転時には、理論空燃比のもとで燃焼を行うようにしている。
【0026】
さて、このような状況の中で、本発明者等は、NOの吸着作用に注目して検討を重ねた結果、NO
x吸蔵触媒22の温度TCが高いときにリーン空燃比のもとで燃焼を行ったとしても、高いNO
x浄化率を得ることのできる新たなNO
x浄化方法を見出したのである。即ち、従来より、NO
x吸蔵触媒22にNOが吸着していることはわかっている。しかしながら、吸着NOの挙動については、これまでほとんど追求されることはなかった。そこで、本発明者等は、この吸着NOの挙動を追求し、この吸着NOの吸着特性を利用すると、NO
x吸蔵触媒22の温度TCが高いときにリーン空燃比のもとで燃焼を行ったとしても、高いNO
x浄化率を確保し得ることを突き止めたのである。この新たなNO
x浄化方法は、NOの吸着作用を利用しているので、以下この新たなNO
x浄化方法を、吸着NO利用のNO
x浄化方法と称する.そこで、まず初めに、この吸着NO利用のNO
x浄化方法について、
図8Aから
図13を参照しつつ説明する。
【0027】
図8Aおよび8Bは、
図3Bの拡大図、即ちNO
x吸蔵触媒22の触媒担体60の表面部分を示している。また、
図8Aは、リーン空燃比のもとで燃焼が行われているときを示しており、
図8Bは、燃焼室5内における空燃比がリッチにされたときを示している。リーン空燃比のもとで燃焼が行われているときには、即ち排気ガスの空燃比がリーンのときには、前述したように排気ガス中に含まれるNO
xは塩基性層63内に吸収されるが、排気ガス中に含まれるNOの一部は
図8Aに示されるように、白金Pt 61の表面に解離して吸着する。この白金Pt 61の表面へのNOの吸着量は時間の経過と共に増大し、従って時間の経過と共にNO
x吸蔵触媒22へのNO吸着量は増大することになる。
【0028】
一方、燃焼室5内における空燃比がリッチにされると、燃焼室5からは多量の一酸化炭素COが排出され、従ってNO
x吸蔵触媒22に流入する排気ガス中には多量の一酸化炭素COが含まれることになる。この一酸化炭素COは
図8Bに示されるように、白金Pt 61の表面上に解離吸着しているNOと反応し、このNOは、一方ではN
2となり、他方では還元性中間体NCOとなる。この還元性中間体NCOは生成後、暫らくの間、塩基性層63の表面上に保持又は吸着され続ける。従って、塩基性層63上の還元性中間体NCOの量は、時間の経過と共に次第に増大していくことになる。この還元性中間体NCOは排気ガス中に含まれるNO
xと反応し、それによって排気ガス中に含まれるNO
xが浄化される。
【0029】
このように、リーン空燃比のもとで燃焼が行われているときには、即ち排気ガスの空燃比がリーンのときには、一方では
図4Aに示されるように、排気ガス中に含まれるNO
xはNO
x吸蔵触媒22に吸収され、他方では
図8Aに示されるように、排気ガス中に含まれるNOはNO
x吸蔵触媒22に吸着される。即ち、このとき排気ガス中に含まれるNO
xはNO
x吸蔵触媒22に吸蔵されることになる。これに対し、燃焼室5内における空燃比がリッチにされると、NO
x吸蔵触媒22に吸収又は吸着されていたNO
x、即ちNO
x吸蔵触媒22に吸蔵されていたNO
xが NO
x吸蔵触媒22から放出されることになる。
【0030】
図9Aは、
図5に示す如く、NO
x吸蔵触媒22へのNO
xの吸蔵放出作用を利用してNO
xを浄化している場合におけるNO
x吸収能とNO吸着能とを示している。なお、
図9Aにおいて縦軸は、NO
x吸収能とNO吸着能の和であるNO
xの吸蔵能を示しており、横軸はNO
x吸蔵触媒22の温度TCを示している。
図9Aからわかるように、NO
x吸蔵触媒22の温度TCがほぼ400℃よりも低いときには、NO
x吸蔵触媒22の温度TCにかかわらずに、NO
x吸収能およびNO吸着能は一定であり、従って、NO
x吸収能とNO吸着能の和であるNO
xの吸蔵能も、NO
x吸蔵触媒22の温度TCにかかわらずに一定となる。
【0031】
一方、NO
x吸蔵触媒22の温度TCが高くなると、白金Pt 61の表面上におけるNO
xの酸化反応(NO→NO
2)は速くなる。しかしながら、NO
x吸蔵触媒22の温度TCが高くなると、NO
2が硝酸イオンNO
3-となる反応(NO
2+Ba(CO
3)
2→Ba(NO
3)
2+CO
2)が遅くなり、その結果、NO
xがNO
x吸蔵触媒22に吸蔵されづらくなる。また、NO
x吸蔵触媒22の温度TCが高くなると、硝酸塩が熱分解してNO
2の形でNO
x吸蔵触媒22から放出される。従って、
図9Aに示されるように、NO
x吸蔵触媒22の温度TCが高くなって400℃以上の高温になるとNO
x吸収能が急激に低下する。これに対し、白金Pt 61の表面へのNOの吸着量はNO
x吸蔵触媒22の温度TCの影響をほとんど受けない。従って、
図9Aに示されるように、NO吸着能はNO
x吸蔵触媒22の温度TCが高くなってもほとんど変化しない。
【0032】
次に、
図10Aおよび10Bを参照しつつ、リーン空燃比のもとで燃焼が行われているときの排気ガス中の酸素濃度と、NO吸着能、NO
x吸収能との関係について説明する。最初に、白金Pt 61の表面への吸着について考えてみると、白金Pt 61の表面にはNOとO
2とが競争吸着する。即ち、排気ガス中に含まれるNOの量がO
2の量に比べて多くなればなるほど白金Pt 61の表面に吸着するNOの量は O
2の量に比べて多くなり、これとは逆に、排気ガス中に含まれるO
2の量がNOの量に比べて多くなればなるほど白金Pt 61の表面に吸着するNOの量はO
2の量に比べて少なくなる。従って、NO
x吸蔵触媒22におけるNO吸着能は、
図10Aに示されるように、排気ガス中の酸素濃度が高くなるほど低下する。
【0033】
一方、排気ガス中の酸素濃度が高くなればなるほど、排気ガス中のNOの酸化作用が促進され、NO
x吸蔵触媒22へのNO
xの吸収が促進される。従って、
図10Bに示されるように、NO
x吸蔵触媒22におけるNO
x吸収能は、排気ガス中の酸素濃度が高くなればなるほど、高くなる。なお、
図10Aおよび10Bにおいて、領域Xは、
図5に示す如く、NO
x吸蔵触媒22へのNO
xの吸蔵放出作用を利用してNO
xを浄化している場合においてリーン空燃比のもとで燃焼が行われているときを示している。このときには、NO吸着能が低く、NO
x吸収能が高いことがわかる。前述した
図9Aは、このときのNO吸着能とNO
x吸収能を示している。
【0034】
さて、
図9Aを参照しつつ既に説明したように、NO
x吸蔵触媒22の温度TCが高くなって400℃以上の高温になるとNO
x吸収能が急激に低下する。これに対し、NO吸着能はNO
x吸蔵触媒22の温度TCが高くなってもほとんど変化しない。従って、NO
x吸蔵触媒22の温度TCが高くなって400℃以上の高温になったときには、NO
xの吸収作用を利用したNO
x浄化方法を取りやめ、それに代えてNOの吸着作用を利用したNO
x浄化方法を用いると、NO
xを浄化し得るのではないかということが推測される。しかしながら、
図9Aからわかるように、NO吸着能は低く、燃料消費量の増大を招くことなくNOの吸着作用を利用してNO
xを浄化するには、NO吸着能を増大させる必要がある。
【0035】
この場合、NO吸着能を増大させるには、
図10Aからわかるように、排気ガス中の酸素濃度を低下させればよいことになる。このときには、
図10Bに示されるように、NO
x吸収能は低下する。
図10Aおよび10Bにおいて排気ガス中の酸素濃度を領域Yまで低下させたときのNO
x吸収能およびNO吸着能が
図9Bに示されている。このように排気ガス中の酸素濃度を低下させることによって、NO吸着能を増大させることができる。排気ガス中の酸素濃度を低下させるということは、リーン空燃比のもとで燃焼が行われているときの空燃比(ベース空燃比と称す)を低下させることを意味しており、従ってベース空燃比を低下させることによってNO吸着能を増大させることができる。
【0036】
そこで本発明では、NOの吸着作用を利用してNO
xを浄化するときには、即ち吸着NO利用のNO
x浄化方法においては、ベース空燃比を低下させるようにしている。次に、このことについて、
図11Aから
図11Cを参照しつつ説明する。
図11Aは、
図5に示す場合と同様に、NO
x吸蔵触媒22へのNO
xの吸蔵放出作用を利用してNO
xを浄化している場合
の燃焼室5内における空燃比(A/F)の変化を示している。なお、
図11Aにおいて、(A/F)bはベース空燃比を示しており、Δ(A/F)rは空燃比のリッチ度合いを示しており、ΔTは空燃比のリッチ周期を示している。一方、
図11Bは、NOの吸着作用を利用してNO
xを浄化するようにした場合の燃焼室5内における空燃比(A/F)の変化を示している。なお、
図11Bにおいても、(A/F)bはベース空燃比を示しており、Δ(A/F)rは空燃比のリッチ度合いを示しており、ΔTは空燃比のリッチ周期を示している。
【0037】
図11Aと
図11Bとを比較するとわかるように、
図11Bに示される如く、NOの吸着作用を利用してNO
xを浄化するようにした場合には、
図11Aに示される如く、NO
x吸蔵触媒22へのNO
xの吸蔵放出作用を利用してNO
xを浄化している場合におけるベース空燃比(A/F)bよりも小さいベース空燃比(A/F)bのもとで燃焼室5内における燃焼が行われると共に、
図11Aに示される如く、NO
x吸蔵触媒22へのNO
xの吸蔵放出作用を利用してNO
xを浄化している場合におけるNO
x放出のための空燃比のリッチ周期ΔTよりも短い周期でもって燃焼室5内における空燃比がリッチとされる。一方、
図11Cは、燃焼室5内における空燃比が理論空燃比にフィードバック制御されている場合の燃焼室5内における空燃比の変化を示している。
【0038】
図12は、
図11Bに示される如く、NOの吸着作用を利用してNO
xを浄化するようにした場合の燃焼室5内における空燃比(A/F)の変化と、NO
x吸蔵触媒22に流入する排気ガスの空燃比(A/F)in の変化とを示している。この場合には、燃焼室5内における空燃比(A/F)がリッチにされると、三元触媒20では貯蔵されている酸素が放出されて時間t1の間、理論空燃比に維持され、それによって、HC、COおよびNO
xが同時に低減される。この間、
図12に示されるように、NO
x吸蔵触媒22に流入する排気ガスの空燃比(A/F)in は理論空燃比に維持される。次いで、三元触媒20の貯蔵酸素が消費されると、NO
x吸蔵触媒22に流入する排気ガスの空燃比(A/F)in が、時間t2の間、リッチとなる。このとき
図8Bに示されるように、白金Pt 61の表面上に解離吸着しているNOは、一方ではN
2となり、他方では還元性中間体NCOとなる。この還元性中間体NCOは生成後、暫らくの間、塩基性層63の表面上に保持又は吸着され続ける。
【0039】
次いで、燃焼室5内における空燃比(A/F)が再びリーンに戻されると、今度は三元触媒20に酸素が貯蔵される。このとき三元触媒20の触媒表面では空燃比が、時間t3の間、理論空燃比に維持され、それによりこのときも、HC、COおよびNO
xが同時に低減される。次いで、時間t4の間、排気ガス中に含まれているNO
xは、塩基性層63の表面上に保持又は吸着されている還元性中間体NCOと反応して還元性中間体NCOにより還元される。次いで、時間t5の間、排気ガス中に含まれるNOは、
図8Aに示されるように、白金Pt 61の表面に解離して吸着する。
【0040】
このように、
図11Bに示される如く、NOの吸着作用を利用してNO
xを浄化するようにした場合には、NOの吸着作用を利用したNO
xの浄化作用と、三元触媒20での酸素貯蔵機能を利用したNO
xの浄化作用との二つの浄化作用が行われる。このときのNO
x浄化率が
図13に示されている。
図13に示されるように、この場合には、NO
x吸蔵触媒22の温度TCが高くなって400 ℃以上の高温になっても、NO
x浄化率が低下しないことがわかる。
【0041】
次に、機関の運転制御の概要について説明する。本発明では、
図14に示されるように、機関低負荷運転側の機関低負荷運転領域Iと、機関高負荷運転側の機関高負荷運転領域IIIと、機関低負荷運転領域Iおよび機関高負荷運転領域IIIの間に位置する機関中負荷運転領域IIとが予め設定されている。なお、
図14の縦軸Lは要求負荷を示しており、横軸Nは機関回転数を示している。この場合、機関低負荷運転領域Iでは、
図11Aに示されるように、NO
x吸蔵触媒22へのNO
xの吸蔵放出作用を利用してNO
xを浄化するようにしたNO
xの浄化作用が行われ、機関中負荷運転領域IIでは、
図11Bに示されるように、NOの吸着作用を利用してNO
xを浄化するようにしたNO
xの浄化作用が行われる。なお、機関高負荷運転領域IIIでは、
図11Cに示されるように、燃焼室5内における空燃比が理論空燃比にフィードバック制御される。
【0042】
即ち、本発明では、機関排気通路内に三元触媒20と、流入する排気ガスの空燃比がリーンのときには排気ガス中のNO
xを吸蔵し、流入する排気ガスの空燃比がリッチにされると吸蔵したNO
xを放出するNO
x吸蔵触媒22とを配置した内燃機関の排気浄化装置において、機関の運転領域が、機関低負荷運転側の予め定められた機関低負荷運転領域Iと、機関高負荷運転側の予め定められた機関高負荷運転領域IIIと、機関低負荷運転領域Iおよび機関高負荷運転領域IIIの間に位置する予め定められた機関中負荷運転領域IIからなり、予め定められた機関低負荷運転領域Iでは燃焼室5内においてベース空燃比がリーンのもとで燃焼が行われると共にNO
x吸蔵触媒22からNO
xを放出すべきときには燃焼室5内における空燃比がリッチとされ、予め定められた機関高負荷運転領域IIIでは燃焼室5内における空燃比が理論空燃比にフィードバック制御され、予め定められた機関中負荷運転領域IIでは、機関低負荷運転領域Iにおけるベース空燃比よりも小さいベース空燃比のもとで燃焼室5内における燃焼が行われると共に、機関低負荷運転領域IにおけるNO
x放出のための空燃比のリッチ周期よりも短い周期でもって燃焼室5内における空燃比がリッチとされる。
【0043】
なお、
図11Aから
図11Cからわかるように、機関中負荷運転領域IIにおけるベース空燃比は、機関低負荷運転領域Iにおけるベース空燃比と理論空燃比との中間値であり、機関中負荷運転領域IIにおいて燃焼室5内における空燃比がリッチにされたときの空燃比のリッチの度合は、機関低負荷運転領域Iにおいて燃焼室5内における空燃比がリッチにされたときの空燃比のリッチの度合に比べて小さい。
【0044】
次に、低負荷運転から高負荷運転に移行するときを示す
図15を参照しつつ、NO
x浄化方法について説明する。なお、
図15には、燃焼室5内への燃料噴射量の変化と、燃焼室5内における空燃比(A/F)の変化と、吸蔵NO
x量ΣNOXの変化を示している。また、
図15において、MAXIは第一の許容NO
x吸蔵量を示しており、MAXIIは第二の許容NO
x吸蔵量を示している。
図15から明らかなように、第二の許容NO
x吸蔵量MAXIIは第一の許容NO
x吸蔵量MAXIに比べて小さな値とされている。
【0045】
さて、
図15において、機関低負荷運転領域Iにおいては、吸蔵NO
x量ΣNOXが第一の許容NO
x吸蔵量MAXIを超えると、燃焼室5内における空燃比が一時的にリッチにされる。一方、NO
x吸蔵触媒22にNO
xが吸蔵されている状態で、
図11Bに示される、NOの吸着作用を利用したNO
xの浄化方法に切替えられると、NOの吸着作用を利用したNO
xの浄化に切替えられた直後に、NO
x吸蔵触媒22に吸蔵されているNO
xの一部が還元されることなく放出される。そこで本発明による実施例では、
図15に示されているように、機関の運転状態が機関低負荷運転領域Iから機関中負荷運転領域IIに移行したときには、燃焼室5内における空燃比(A/F)が一時的にリッチにされる。
【0046】
機関中負荷運転領域IIでは
図15に示されるように、吸蔵NO
x量ΣNOXが第二の許容NO
x吸蔵量MAXIIを超えると、燃焼室5内における空燃比が一時的にリッチにされる。この機関中負荷運転領域IIではNO
x吸蔵触媒22の温度が高いために、NO
x吸蔵触媒22にNO
xがほとんど吸収されず、大部分のNO
xは吸着NOからなる。従って、別の言い方をすると、NO
x吸蔵触媒22に吸着されているNO吸着量が算出されており、機関中負荷運転領域IIにおいて機関の運転が行われているときに、NO吸着量ΣNOXが予め定められた許容NO吸着量MAXIIを超えたときに燃焼室5内における空燃比(A/F)がリッチとされる。
【0047】
このように本発明による実施例では、 NO
x吸蔵触媒22に吸蔵されているNO
x吸蔵量ΣNOXが算出されており、機関低負荷運転領域Iにおいて機関の運転が行われているときに、NO
x吸蔵量ΣNOXが予め定められた第一の許容NO
x吸蔵量MAXIを超えたときに燃焼室5内における空燃比(A/F)がリッチとされ、機関中負荷運転領域IIにおいて機関の運転が行われているときに、NO
x吸蔵量ΣNOXが予め定められた第二の許容NO
x吸蔵量MAXIIを超えたときに燃焼室5内における空燃比(A/F)がリッチとされ、第二の許容NO
x吸蔵量MAXIIは第一の許容NO
x吸蔵量MAXIに比べて小さな値とされている。
【0048】
一方、NO
x吸蔵触媒22にNO
xが吸蔵されている状態で、
図11Cに示される、理論空燃比へのフィードバック制御によるNO
xの浄化方法に切替えられると、理論空燃比へのフィードバック制御によるNO
xの浄化方法に切替えられた直後に、NO
x吸蔵触媒22に吸蔵されているNO
xの一部が還元されることなく放出される。そこで本発明による実施例では、
図15に示されているように、機関の運転状態が機関中負荷運転領域IIから機関高負荷運転領域IIIに移行したときには、燃焼室5内における空燃比(A/F)が一時的にリッチにされる。
【0049】
機関高負荷運転領域IIIでは、燃焼室5内における空燃比が理論空燃比となるように、空燃比センサ27の出力信号に基づいて各燃料噴射弁11,12からの噴射量がフィードバック制御される。このときには、排気ガス中に含まれる有害成分HC、COおよびNO
xは三元触媒20において同時に浄化される。
【0050】
なお、
図15に示されるように空燃比がリッチにされると、このときアンモニアが発生する場合がある。しかしながら、本発明による実施例では、このアンモニアはNO
x選択還元触媒23に吸着される。このNO
x選択還元触媒23に吸着されたアンモニアは排気ガス中に含まれるNO
xと反応し、NO
xを還元するために使用される。
【0051】
図16に運転制御ルーチンを示す。このルーチンは一定時間毎の割込みによって実行される。
図16を参照すると、まず初めにステップ80において、機関の運転状態が
図14に示される機関高負荷運転領域IIIであるか否かが判別される。機関の運転状態が機関高負荷運転領域IIIでないときにはステップ81に進み、
図6に示すマップから単位時間当りの排出NO
x量NOXAが算出される。次いでステップ82ではΣNOXに排出NO
x量NOXAを加算することによって吸蔵NO
x量ΣNOXが算出される。次いで、ステップ83では、機関の運転状態が
図14に示される機関低負荷運転領域Iであるか否かが判別される。機関の運転状態が
図14に示される機関低負荷運転領域Iであるときにはステップ84に進む。
【0052】
ステップ84では、NO
x吸蔵量ΣNOXが第一の許容NO
x吸蔵量MAXIを超えたか否かが判別され、NO
x吸蔵量ΣNOXが第一の許容NO
x吸蔵量MAXIを超えていないときには、ステップ85に進んで、燃焼室5内における空燃比が、機関の運転状態に応じて予め定められているリーン空燃比とされる。このときには、ベース空燃比がリーンのもとで燃焼が行われる。これに対し、ステップ84において、NO
x吸蔵量ΣNOXが第一の許容NO
x吸蔵量MAXIを超えたと判断されたときには、ステップ86に進んで、燃焼室5内における空燃比が一時的にリッチとされ、ΣNOXがクリアされる。このとき、NO
x吸蔵触媒22に吸蔵されていたNO
xが NO
x吸蔵触媒22から放出される。
【0053】
一方、ステップ83において、機関の運転状態が
図14に示される機関低負荷運転領域Iではないと判断されたとき、即ち機関の運転状態が
図14に示される機関中負荷運転領域IIであると判断されたときには、ステップ87に進んで、今、機関の運転状態が機関低負荷運転領域Iから機関中負荷運転領域IIに移行したか否かが判別される。今、機関の運転状態が機関低負荷運転領域Iから機関中負荷運転領域IIに移行したときにはステップ88に進んで燃焼室5内における空燃比が一時的にリッチにされる。これに対し、既に、機関の運転状態が機関低負荷運転領域Iから機関中負荷運転領域IIに移行しているときには
ステップ89に進む。
【0054】
ステップ89では、NO
x吸蔵量ΣNOXが第二の許容NO
x吸蔵量MAXIIを超えたか否かが判別される。NO
x吸蔵量ΣNOXが第二の許容NO
x吸蔵量MAXIIを超えていないときには、ステップ90に進んで、燃焼室5内における空燃比が、機関の運転状態に応じて予め定められているリーン空燃比とされる。このとき、ベース空燃比がリーンのもとで燃焼が行われる。なお、このときのベース空燃比は機関低負荷運転領域Iにおけるベース空燃比よりも小さい。これに対し、ステップ89において、NO
x吸蔵量ΣNOXが第二の許容NO
x吸蔵量MAXIIを超えたと判断されたときには、ステップ91に進んで、燃焼室5内における空燃比が一時的にリッチとされ、ΣNOXがクリアされる。このとき、NO
x吸蔵触媒22に吸蔵されていたNO
xが NO
x吸蔵触媒22から放出される。
【0055】
一方、ステップ80において、機関の運転状態が
図14に示される機関高負荷運転領域IIIであると判断されたときには、ステップ92に進んで、今、機関の運転状態が機関中負荷運転領域IIから機関高負荷運転領域IIIに移行したか否かが判別される。今、機関の運転状態が機関中負荷運転領域IIから機関高負荷運転領域IIIに移行したときにはステップ93に進んで燃焼室5内における空燃比が一時的にリッチにされる。これに対し、既に、機関の運転状態が機関中負荷運転領域IIから機関高負荷運転領域IIIに移行しているときにはステップ94に進む。ステップ94では、燃焼室5内における空燃比が理論空燃比にフィードバック制御される。