特許第5835497号(P5835497)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ マツダ株式会社の特許一覧
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5835497
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】火花点火式直噴エンジン
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/02 20060101AFI20151203BHJP
   F02D 41/38 20060101ALI20151203BHJP
   F02D 21/08 20060101ALI20151203BHJP
   F02P 5/15 20060101ALI20151203BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20151203BHJP
【FI】
   F02D41/02 351
   F02D41/02 395
   F02D41/02 385
   F02D41/38 A
   F02D21/08 301C
   F02P5/15 G
   F02D43/00 301J
   F02D43/00 301N
   F02D43/00 301B
【請求項の数】9
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2014-532786(P2014-532786)
(86)(22)【出願日】2013年8月26日
(86)【国際出願番号】JP2013005033
(87)【国際公開番号】WO2014034087
(87)【国際公開日】20140306
【審査請求日】2014年9月29日
(31)【優先権主張番号】特願2012-188738(P2012-188738)
(32)【優先日】2012年8月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩井 浩平
(72)【発明者】
【氏名】山川 正尚
(72)【発明者】
【氏名】長津 和弘
(72)【発明者】
【氏名】養祖 隆
(72)【発明者】
【氏名】荒木 啓二
【審査官】 藤村 泰智
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−163793(JP,A)
【文献】 特開2002−285844(JP,A)
【文献】 特表2006−523795(JP,A)
【文献】 特開2006−220155(JP,A)
【文献】 特開2012−211543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00 〜 41/40
F02D 43/00 〜 45/00
F02D 21/08
F02P 5/145 〜 5/155
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
幾何学的圧縮比が15以上に設定された気筒を有するよう構成されたエンジン本体と、
前記気筒内に燃料を噴射するように構成された燃料噴射弁と、
前記燃料噴射弁が噴射する前記燃料の圧力を設定するように構成された燃圧設定機構と、
前記気筒内に臨んで配設されかつ、前記気筒内の混合気に点火をするように構成された点火プラグと、
排気ガスを前記気筒内に導入するように構成された排気還流システムと、
少なくとも前記燃料噴射弁、前記燃圧設定機構、前記点火プラグ及び前記排気還流システムを制御することによって、前記エンジン本体を運転するように構成された制御器と、を備え、
前記制御器は、
前記エンジン本体の運転状態が所定の低負荷領域にあるときには、前記気筒内の混合気を圧縮着火させる圧縮着火燃焼によって前記エンジン本体を運転すると共に、
前記エンジン本体の運転状態が前記低負荷領域よりも負荷の高い高負荷領域にあるときには、火花点火燃焼によって前記エンジン本体を運転するように、所定のタイミングで前記点火プラグを作動させ、
前記制御器はまた、
前記エンジン本体の運転状態が前記低負荷領域内における、前記低負荷領域と前記高負荷領域との境界を含む所定の第1特定領域に、少なくともあるときには、前記燃圧設定機構によって前記燃料の圧力を30MPa以上の高燃圧にしかつ、少なくとも圧縮行程後期から膨張行程初期までの期間内で、前記気筒内に燃料噴射を行うように前記燃料噴射弁を駆動すると共に、
前記エンジン本体の運転状態が前記高負荷領域内における、全開負荷を含む所定の第2特定領域に、少なくともあるときには、前記燃圧設定機構によって前記燃料の圧力を30MPa以上の高燃圧にしかつ、少なくとも前記圧縮行程後期から前記膨張行程初期までの期間内で、前記気筒内に燃料噴射を行うように前記燃料噴射弁を駆動すると共に、当該燃料噴射の終了後に前記点火プラグを駆動して前記気筒内の混合気に火花点火を行い、
前記制御器はさらに、前記排気還流システムの制御を通じて、前記気筒内の全ガス量に対する前記排気ガス量の割合であるEGR率を、前記低負荷領域の前記第1特定領域内では、前記高負荷領域の前記第2特定領域内でのEGR率よりも高く設定すると共に、前記第1特定領域内での燃料噴射開始時期を、前記第2特定領域内での燃料噴射開始時期よりも進角させる火花点火式直噴エンジン。
【請求項2】
幾何学的圧縮比が15以上に設定された気筒、及び、当該気筒に往復動可能に内挿されかつ、その冠面に凹状のキャビティが形成されたピストンを有するよう構成されたエンジン本体と、
前記ピストンが圧縮上死点付近に位置しているときに、前記キャビティ内に燃料を噴射可能に構成された燃料噴射弁と、
前記燃料噴射弁が噴射する前記燃料の圧力を設定するように構成された燃圧設定機構と、
前記気筒内に臨んで配設されかつ、前記気筒内の混合気に点火をするように構成された点火プラグと、
排気ガスを前記気筒内に導入するように構成された排気還流システムと、
少なくとも前記燃料噴射弁、前記燃圧設定機構、前記点火プラグ及び前記排気還流システムを制御することによって、前記エンジン本体を運転するように構成された制御器と、を備え、
前記制御器は、
前記エンジン本体の運転状態が所定の低負荷領域にあるときには、前記気筒内の混合気を圧縮着火させる圧縮着火燃焼によって前記エンジン本体を運転すると共に、
前記エンジン本体の運転状態が前記圧縮着火燃焼を行う前記低負荷領域よりも負荷の高い高負荷領域にあるときには、火花点火燃焼によって前記エンジン本体を運転するように、所定のタイミングで前記点火プラグを作動させ、
前記制御器はまた、
前記エンジン本体の運転状態が前記低負荷領域内における、前記低負荷領域と前記高負荷領域との境界を含む所定の第1特定領域に、少なくともあるときには、前記燃圧設定機構によって前記燃料の圧力を30MPa以上の高燃圧にしかつ、前記ピストンの前記キャビティ内に前記燃料を噴射するタイミングで前記燃料噴射弁を駆動すると共に、
前記エンジン本体の運転状態が前記高負荷領域内における、全開負荷を含む所定の第2特定領域に、少なくともあるときには、前記燃圧設定機構によって前記燃料の圧力を30MPa以上の高燃圧にしかつ、前記ピストンの前記キャビティ内に前記燃料を噴射するタイミングで前記燃料噴射弁を駆動すると共に、当該燃料噴射の終了後に前記点火プラグを駆動して前記気筒内の混合気に火花点火を行い、
前記制御器はさらに、前記排気還流システムの制御を通じて、前記気筒内の全ガス量に対する前記排気ガス量の割合であるEGR率を、前記低負荷領域の前記第1特定領域内では、前記高負荷領域の前記第2特定領域内でのEGR率よりも高く設定すると共に、前記第1特定領域内での燃料噴射開始時期を、前記第2特定領域内での燃料噴射開始時期よりも進角させる火花点火式直噴エンジン。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の火花点火式直噴エンジンにおいて、
前記排気還流システムは、前記エンジン本体の排気通路と吸気通路とを連通するEGR通路を介して前記気筒内に前記排気ガスを還流させるよう構成された外部EGRシステムと、前記エンジン本体の吸気弁及び排気弁の開閉制御によって前記気筒内に前記排気ガスを還流させるよう構成された内部EGRシステムとを含み、
前記制御器は、前記低負荷領域の前記第1特定領域内では、前記外部EGRシステムのEGR通路を介して、冷却した前記排気ガスを前記気筒内に導入する火花点火式直噴エンジン。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の火花点火式直噴エンジンにおいて、
前記排気還流システムは、前記排気ガスを冷却したクールドEGRガス、及び、前記クールドEGRガスよりも高温のホットEGRガスをそれぞれ、前記気筒内に導入可能に構成され、
前記制御器は、前記低負荷領域の前記第1特定領域内では、前記排気還流システムを通じて、少なくとも前記クールドEGRガスを前記気筒内に導入し、前記低負荷領域において、前記第1特定領域よりも低負荷である所定の最低負荷領域内では、前記排気還流システムを通じて、前記ホットEGRガスのみを前記気筒内に導入する火花点火式直噴エンジン。
【請求項5】
請求項1、3及び4のいずれか1項に記載の火花点火式直噴エンジンにおいて、
前記制御器は、前記低負荷領域内における前記第1特定領域を除く領域、及び、前記高負荷領域内における所定回転数以上の高速域では、少なくとも吸気行程から前記圧縮行程中期までの期間内で燃料噴射を行うように、前記燃料噴射弁を駆動する火花点火式直噴エンジン。
【請求項6】
請求項2、3及び4のいずれか1項に記載の火花点火式直噴エンジンにおいて、
前記制御器は、前記低負荷領域内における前記第1特定領域を除く領域、及び、前記高負荷領域内における所定回転数以上の高速域では、前記気筒内に噴射する燃料の少なくとも一部が前記ピストンの前記キャビティ外に噴射されるタイミングで、前記燃料噴射弁を駆動する火花点火式直噴エンジン。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の火花点火式直噴エンジンにおいて、
前記制御器は、少なくとも前記低負荷領域内における前記第1特定領域を除く領域では、前記燃圧設定機構によって前記燃料の圧力を、30MPaよりも低い圧力に設定する火花点火式直噴エンジン。
【請求項8】
請求項7に記載の火花点火式直噴エンジンにおいて、
前記燃圧設定機構は、前記エンジン本体によって駆動されかつ、前記燃料の圧力を調整するよう構成された燃料ポンプを含んでいる火花点火式直噴エンジン。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の火花点火式直噴エンジンにおいて、
前記燃料噴射弁は、前記気筒の中心軸上に配置されていると共に、放射状に燃料を噴射可能となるように構成されている火花点火式直噴エンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、火花点火式直噴エンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
火花点火式ガソリンエンジンの理論熱効率を向上させる上では、その幾何学的圧縮比を高めることが有効である。例えば特許文献1には、幾何学的圧縮比を14以上に設定した、高圧縮比の火花点火式直噴エンジンが記載されている。高圧縮比のエンジンでは、その運転領域が、低速域でかつ全開負荷を含む高負荷域にあるときにノッキングが生じやすくなる。特許文献1にはまた、低速の高負荷域において有効圧縮比が下がるように吸気弁の閉弁時期を調整する技術が記載されている。ノッキングを回避することで点火時期をできるだけ進角させることが可能になり、エンジントルクが向上する。
【0003】
また、例えば特許文献2に記載されているように、排気エミッションの向上と熱効率の向上とを両立させる技術として、リーンな混合気を圧縮着火させる燃焼形態が知られている。圧縮着火燃焼を行うエンジンにおいて幾何学的圧縮比を高くすることは、圧縮端圧力及び圧縮端温度をそれぞれ高めるため、圧縮着火燃焼の安定化に有利になる。一方で、低負荷側の運転領域では圧縮着火燃焼が可能であるとしても、エンジンの負荷が高くなるにつれて、圧縮着火燃焼は、圧力上昇(dP/dt)の激しい過早着火の燃焼となってしまう。そのため、NVH(Noise Vibration Harshness)の制約から、圧縮着火燃焼を行う領域を高負荷側に拡大することは困難である。そこで、特許文献2にも記載されているように、圧縮着火燃焼を行うエンジンであっても、高負荷側の運転領域では、圧縮着火燃焼ではなく、点火プラグの駆動による火花点火燃焼を行うことが一般的である。
【0004】
特許文献3には、エンジンの運転状態に応じて、圧縮着火燃焼と火花点火燃焼とを切り替えるエンジンにおいて、圧縮着火燃焼から火花点火燃焼への切り替え過渡時に、EGRガスを気筒内に導入しかつ、空燃比を理論空燃比よりもリッチにすることによって、ノッキングを回避する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−292050号公報
【特許文献2】特開2007−154859号公報
【特許文献3】特開2009−91994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、高圧縮比の火花点火式ガソリンエンジンは、熱効率の向上で有利になる反面、エンジンの運転状態が、特に低速域でかつ中・高負荷域にあるときには、過早着火やノッキング(例えばエンドガスノック)といった異常燃焼を招きやすいという問題がある。
【0007】
また、圧縮着火燃焼を行うエンジンは、NVHの制約から、高負荷側の運転領域では火花点火燃焼を行うように燃焼形態が切り替えられるものの、排気エミッション性能や熱効率に優れた圧縮着火燃焼を、できるだけ高負荷側まで実行したいという要求もある。
【0008】
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、例えば15以上の、幾何学的圧縮比が比較的高く設定された火花点火式直噴エンジンにおいて、圧縮着火燃焼を行う領域を高負荷側に拡大すると共に、火花点火燃焼を行う領域における異常燃焼を回避することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
過早着火は、圧縮行程中に未燃混合気が圧縮されることに伴う自己着火反応であり、ノッキングは、混合気の燃焼中に、既燃部分の膨張によって、混合気の未燃部分が圧縮されることに伴う自己着火反応である。吸気行程中に燃料を噴射する従来のエンジンは、燃料の噴射開始から燃焼の終了までの時間である未燃混合気反応可能時間が長い。この長い未燃混合気反応可能時間が、過早着火及び/又はノッキングという異常燃焼を招く要因の一つである。本願発明者らは、火花点火燃焼を行う領域内の高負荷域においては、圧縮上死点付近のタイミングで、比較的高い燃料圧力でもって、気筒内に燃料を噴射することが、未燃混合気反応可能時間を短縮させ、それによって異常燃焼を回避する上で効果的であることを見出した。
【0010】
本願発明者らはまた、高い燃料圧力で、圧縮上死点付近のタイミングで、気筒内に燃料を噴射するという前記の噴射形態が、圧縮着火燃焼を行う領域内での負荷の高い領域においては、膨張行程期間において、圧縮着火燃焼を安定的に行うことを見出した。そして、本願発明者らは、膨張行程期間における圧縮着火燃焼が、気筒内の急激な圧力上昇を回避する上で有効であることを見出して、ここに開示する技術を完成するに至った。
【0011】
具体的に、ここに開示する火花点火式直噴エンジンは、幾何学的圧縮比が15以上に設定された気筒を有するよう構成されたエンジン本体と、前記気筒内に燃料を噴射するように構成された燃料噴射弁と、前記燃料噴射弁が噴射する前記燃料の圧力を設定するように構成された燃圧設定機構と、前記気筒内に臨んで配設されかつ、前記気筒内の混合気に点火をするように構成された点火プラグと、排気ガスを前記気筒内に導入するように構成された排気還流システムと、少なくとも前記燃料噴射弁、前記燃圧設定機構、前記点火プラグ及び前記排気還流システムを制御することによって、前記エンジン本体を運転するように構成された制御器と、を備える。
【0012】
前記制御器は、前記エンジン本体の運転状態が所定の低負荷領域にあるときには、前記気筒内の混合気を圧縮着火させる圧縮着火燃焼によって前記エンジン本体を運転すると共に、前記エンジン本体の運転状態が前記低負荷領域よりも負荷の高い高負荷領域にあるときには、火花点火燃焼によって前記エンジン本体を運転するように、所定のタイミングで前記点火プラグを作動させる。前記制御器はまた、前記エンジン本体の運転状態が前記低負荷領域内における、前記低負荷領域と前記高負荷領域との境界を含む所定の第1特定領域に、少なくともあるときには、前記燃圧設定機構によって前記燃料の圧力を30MPa以上の高燃圧にしかつ、少なくとも圧縮行程後期から膨張行程初期までの期間内で、前記気筒内に燃料噴射を行うように前記燃料噴射弁を駆動すると共に、前記エンジン本体の運転状態が前記高負荷領域内における、全開負荷を含む所定の第2特定領域に、少なくともあるときには、前記燃圧設定機構によって前記燃料の圧力を30MPa以上の高燃圧にしかつ、少なくとも前記圧縮行程後期から前記膨張行程初期までの期間内で、前記気筒内に燃料噴射を行うように前記燃料噴射弁を駆動すると共に、当該燃料噴射の終了後に前記点火プラグを駆動して前記気筒内の混合気に火花点火を行う。
【0013】
前記制御器はさらに、前記排気還流システムの制御を通じて、前記気筒内の全ガス量に対する前記排気ガス量の割合であるEGR率を、前記低負荷領域の前記第1特定領域内では、前記高負荷領域の前記第2特定領域内でのEGR率よりも高く設定すると共に、前記第1特定領域内での燃料噴射開始時期を、前記第2特定領域内での燃料噴射開始時期よりも進角させる。
【0014】
ここで、エンジン本体の幾何学的圧縮比は、15以上でかつ、例えば20以下に設定してもよい。
【0015】
「圧縮行程後期」は、圧縮行程を、初期、中期、及び後期の3つの期間に区分した場合の後期と定義してもよい。同様に、「膨張行程初期」は、膨張行程を、初期、中期、及び後期の3つの期間に区分した場合の初期と定義してもよい。
【0016】
また、排気還流システムは、EGR通路を通じて排気ガスを吸気側に還流させるよう構成された外部EGRシステム、及び、排気ガスを気筒内に閉じ込めるか、又は、吸気若しくは排気ポートに吐き出した排気ガスを気筒内に再吸入するよう構成された内部EGRシステムを含むものである。
【0017】
エンジン本体の運転領域が、相対的に低負荷の領域にあるときには、気筒内の混合気を圧縮着火させる圧縮着火燃焼によってエンジン本体を運転する。エンジン本体は幾何学的圧縮比が15以上の高圧縮比に設定されているため、圧縮端圧力及び圧縮端温度が高まる。高い圧縮端圧力及び高い圧縮端温度は、圧縮着火燃焼を安定化する。
【0018】
一方で、エンジン本体の負荷が高まるに従い、圧縮着火燃焼は圧力上昇の激しい燃焼になる。前記の構成では圧縮着火燃焼を行う低負荷領域内における第1特定領域では少なくとも、30MPa以上の高い燃料圧力でもって、少なくとも圧縮行程後期から膨張行程初期の期間内で、気筒内に燃料噴射を行う。第1特定領域は、低負荷領域と火花点火燃焼を行う高負荷領域との境界を含む、前記低負荷領域内でも高負荷側の領域である。
【0019】
燃料圧力を高めることは、単位時間当たりに噴射される燃料量を多くする。同一の燃料噴射量で比較した場合に、高い燃料圧力は、気筒内に燃料を噴射する期間、つまり噴射期間を、低い燃料圧力よりも短縮する。このことは、燃料噴射の開始から圧縮着火までの時間を短くする上で有利になる。
【0020】
また、高い燃料圧力は、気筒内に噴射する燃料噴霧の微粒化に有利になると共に、高い燃料圧力で気筒内に燃料を噴射することに伴いガスの乱れを強くし、圧縮上死点付近にある気筒内においてガスの乱れエネルギが高まる。これらの要因は、ピストンが圧縮上死点付近にあるときに、気筒内の燃料噴霧のミキシング性を高める。このことにより、比較的均質な可燃混合気が速やかに形成される。
【0021】
こうして、少なくとも圧縮行程後期から膨張行程初期までの時期に、気筒内に燃料を噴射することにより、圧縮行程期間内における過早着火が回避される。また、前述したように、燃料の噴射開始後、比較的均質な可燃混合気が速やかに形成されるから、その均質混合気は、圧縮上死点以降において確実に圧縮着火し、膨張行程期間において燃焼が安定的に行われる。膨張行程では、モータリングにより気筒内圧力が次第に低下することから、圧縮着火燃焼の圧力上昇は抑制され、比較的緩慢な燃焼となる。
【0022】
尚、第1特定領域での燃料噴射は分割して行うようにしてもよく、その場合、分割して行う複数回の燃料噴射の内の少なくとも1回は、圧縮行程後期から膨張行程初期までの比較的遅い時期に行えばよい。
【0023】
また、低負荷領域の第1特定領域では、排気還流システムの制御により気筒内に排気ガス(つまり、EGRガス)が導入される。膨張行程における圧縮着火燃焼は、さらに緩慢になり、急激な圧力上昇を回避する上でさらに有利になる。こうして、第1特定領域におけるNVHの制約が解消されて、圧縮着火燃焼を行う領域を高負荷側に拡大することが可能になる。
【0024】
一方、エンジン本体の運転領域が相対的に高負荷の領域にあるときには、気筒内の混合気を火花点火により燃焼させる火花点火燃焼によってエンジン本体を運転する。そして、高負荷領域における全開負荷を含む高負荷の第2特定領域においては少なくとも、前記の第1特定領域と同様に、30MPa以上の高い燃料圧力でもって、少なくとも圧縮行程後期から膨張行程初期の期間内で、気筒内に燃料噴射を行う。高い燃料圧力によって燃料の噴射期間が短くなると共に、微粒化した燃料噴霧のミキシング性が高まって可燃混合気が短時間で形成される。尚、第2特定領域以外の領域においても、この特徴的な燃料噴射を行ってもよい。
【0025】
そうして、燃料噴射終了後の所定のタイミングで点火プラグを駆動して気筒内の混合気に火花点火を行う。点火時期は、例えば圧縮上死点以降の所定時期としてもよい。
【0026】
前述したように、高い燃料圧力でもって気筒内に燃料噴射を行うことは、気筒内の乱れエネルギを高めるが、燃料の噴射時期を圧縮上死点付近にしていることで、噴射開始から火花点火までの期間が短くなり、高い乱れエネルギを維持した状態で火花点火燃焼を開始することが可能になる。このことは、火炎伝播を早くして火花点火燃焼の燃焼期間を短くする。
【0027】
このように、火花点火燃焼を行う高負荷領域の第2特定領域において、高い燃料圧力でかつ、圧縮上死点付近の比較的遅いタイミングで気筒内に燃料噴射を行うことは、噴射期間の短縮、混合気形成期間の短縮、及び、燃焼期間の短縮を可能にする。エンジン本体の幾何学的圧縮比が高いが故に、このエンジンでは、高負荷側の第2特定領域においては過早着火やノッキング等の異常燃焼が生じやすい。しかしながら前記の構成は、噴射期間、混合気形成期間、及び、燃焼期間を足し合わせた、混合気の反応可能期間を短縮させることで、過早着火やノッキング等の異常燃焼が有効に回避される。
【0028】
低負荷領域の第1特定領域における燃料噴射形態と、高負荷領域の第2特定領域における燃料噴射形態とを比較したときに、低負荷領域の第1特定領域における燃料噴射開始時期は、高負荷領域の第2特定領域における燃料噴射開始時期よりも進角している。これは主に、低負荷領域の第1特定領域でのEGR率と、高負荷領域の第2特定領域でのEGR率との相違に起因している。つまり、第1特定領域は、圧縮着火燃焼を行うと共に、相対的に負荷の低い低負荷領域であるため、大量のEGRガスを気筒内に導入することが可能である。大量のEGRガスにより燃焼を緩慢化させることが可能であるから、過早着火等の異常燃焼を回避し得る限度で燃料噴射の開始時期をより早めることができる。その結果、第1特定領域では、均質混合気の形成期間を、ある程度長く確保して着火性や燃焼安定性を向上させつつ、圧縮着火の時期を圧縮上死点以降に遅らせて、大量のEGRガスによる燃焼の緩慢化と共に、急激な圧力上昇を回避することが可能になる。
【0029】
逆に、第2特定領域は、火花点火燃焼を行うと共に、相対的に負荷の高い高負荷領域である。火花点火燃焼の安定性の観点から、大量のEGRガスを気筒内に導入することができないため、第2特定領域では、燃料噴射の開始時期をできるだけ遅らせることによって、異常燃焼を回避することが望ましい。
【0030】
ここに開示する技術はまた、幾何学的圧縮比が15以上に設定された気筒、及び、当該気筒に往復動可能に内挿されかつ、その冠面に凹状のキャビティが形成されたピストンを有するよう構成されたエンジン本体と、前記ピストンが圧縮上死点付近に位置しているときに、前記キャビティ内に燃料を噴射可能に構成された燃料噴射弁と、前記燃料噴射弁が噴射する前記燃料の圧力を設定するように構成された燃圧設定機構と、前記気筒内に臨んで配設されかつ、前記気筒内の混合気に点火をするように構成された点火プラグと、排気ガスを前記気筒内に導入するように構成された排気還流システムと、少なくとも前記燃料噴射弁、前記燃圧設定機構、前記点火プラグ及び前記排気還流システムを制御することによって、前記エンジン本体を運転するように構成された制御器と、を備えた火花点火式直噴エンジンに係る。
【0031】
そして、前記制御器は、前記エンジン本体の運転状態が所定の低負荷領域にあるときには、前記気筒内の混合気を圧縮着火させる圧縮着火燃焼によって前記エンジン本体を運転すると共に、前記エンジン本体の運転状態が前記低負荷領域よりも負荷の高い高負荷領域にあるときには、火花点火燃焼によって前記エンジン本体を運転するように、所定のタイミングで前記点火プラグを作動させ、前記制御器はまた、前記エンジン本体の運転状態が前記低負荷領域内における、前記低負荷領域と前記高負荷領域との境界を含む所定の第1特定領域に、少なくともあるときには、前記燃圧設定機構によって前記燃料の圧力を30MPa以上の高燃圧にしかつ、前記ピストンの前記キャビティ内に前記燃料を噴射するタイミングで前記燃料噴射弁を駆動する。また、前記エンジン本体の運転状態が前記高負荷領域内における、全開負荷を含む所定の第2特定領域に、少なくともあるときには、前記燃圧設定機構によって前記燃料の圧力を30MPa以上の高燃圧にしかつ、前記ピストンの前記キャビティ内に前記燃料を噴射するタイミングで前記燃料噴射弁を駆動すると共に、当該燃料噴射の終了後に前記点火プラグを駆動して前記気筒内の混合気に火花点火を行う。
【0032】
前記制御器はさらに、前記排気還流システムの制御を通じて、前記気筒内の全ガス量に対する前記排気ガス量の割合であるEGR率を、前記低負荷領域の前記第1特定領域内では、前記高負荷領域の前記第2特定領域内でのEGR率よりも高く設定すると共に、前記第1特定領域内での燃料噴射開始時期を、前記第2特定領域内での燃料噴射開始時期よりも進角させる。
【0033】
圧縮着火燃焼によってエンジン本体を運転する低負荷領域の第1特定領域では少なくとも、30MPa以上の高い燃料圧力でもって、ピストンの冠面に形成したキャビティ内に燃料を噴射するタイミングで、燃料噴射弁を駆動する。前述したように、高い燃料圧力は、燃料の噴射期間を短くすると共に、燃料噴霧の微粒化を促進する。また、高い燃料圧力でキャビティ内に燃料を噴射することによって、キャビティ内のガス流動を強めて、比較的均質な混合気を速やかに形成することが可能になる。さらにキャビティ内に燃料を噴射するタイミングは、ピストンが圧縮上死点付近に位置しているタイミングに相当するため、比較的均質な混合気は圧縮上死点以降において確実に圧縮着火し、膨張行程において安定して燃焼する。
【0034】
また、低負荷領域の第1特定領域では気筒内に排気ガスが導入されるため、膨張行程における圧縮着火燃焼がさらに緩慢になり、急激な圧力上昇を回避する上でさらに有利になる。
【0035】
こうして第1特定領域におけるNVHの制約が解消されるから、前記の構成は、圧縮着火燃焼を行う低負荷領域を、高負荷側に拡大する上で有利になる。
【0036】
特に、この構成では、エンジン本体の幾何学的圧縮が15以上の高圧縮比に設定されているため、ピストンが圧縮上死点付近に位置しているときの燃焼室の容積は、比較的小さくなり得る。このタイミングで、高燃圧の燃料をキャビティ内に噴射することは、キャビティ内の空気の利用率を高めて、均質な混合気を速やかに形成する上で有利になる。つまり、高い幾何学的圧縮比のエンジン本体において、圧縮着火燃焼の着火性及び安定性が向上する。
【0037】
また、火花点火燃焼によってエンジン本体の運転を行う高負荷領域の第2特定領域では少なくとも、30MPa以上の高い燃料圧力でもって、ピストンの冠面に形成したキャビティ内に燃料を噴射するタイミングで、燃料噴射弁を駆動する。これによって、燃料の噴射期間を短くすると共に、燃料噴霧の微粒化を促進し、さらに、キャビティ内のガス流動を強めて、可燃混合気を短時間で形成する。その上、キャビティ内の強い乱れエネルギを維持したまま、火花点火によって燃焼が開始するから、燃焼期間が短くなる。その結果、燃焼安定性を確保しつつ、過早着火やノッキング等の異常燃焼が有効に回避される。
【0038】
また、火花点火燃焼を行う高負荷領域の第2特定領域においても、キャビティ内に燃料を高燃圧で噴射することは、キャビティ内の空気の利用率を高めて、高い幾何学的圧縮比のエンジン本体において、火花点火燃焼の安定性に寄与する。
【0039】
さらに、この構成においても、低負荷領域の第1特定領域では、相対的に大量のEGRガスを気筒内に導入する。このことにより、燃料噴射の開始時期をより一層早めて、より一層均質な混合気の形成し、着火性や燃焼安定性の向上と、急激な圧力上昇の回避とが両立する。高負荷領域の第2特定領域では、相対的に少量のEGRガスを気筒内に導入する一方で、燃料噴射の開始時期をできるだけ遅らせることで、異常燃焼の回避が可能になる。
【0040】
前記排気還流システムは、前記エンジン本体の排気通路と吸気通路とを連通するEGR通路を介して前記気筒内に前記排気ガスを還流させるよう構成された外部EGRシステムと、前記エンジン本体の吸気弁及び排気弁の開閉制御によって前記気筒内に前記排気ガスを還流させるよう構成された内部EGRシステムとを含み、前記制御器は、前記低負荷領域の前記第1特定領域内では、前記外部EGRシステムのEGR通路を介して、冷却した前記排気ガスを前記気筒内に導入する、としてもよい。
【0041】
第1特定領域は負荷が比較的高い領域であるため、気筒内の温度は比較的高くなり、圧縮着火燃焼の圧力上昇が急激になりやすい。そこで、この第1特定領域内では、外部EGRシステムのEGR通路を介して、冷却した前記排気ガスを前記気筒内に導入する。このことによって、気筒内の温度の上昇を抑制し、過早着火等の異常燃焼や、圧縮着火燃焼の急激な圧力上昇が回避される。
【0042】
前記排気還流システムは、前記排気ガスを冷却したクールドEGRガス、及び、前記クールドEGRガスよりも高温のホットEGRガスをそれぞれ、前記気筒内に導入可能に構成され、前記制御器は、前記低負荷領域の前記第1特定領域内では、前記排気還流システムを通じて、少なくとも前記クールドEGRガスを前記気筒内に導入し、前記低負荷領域において、前記第1特定領域よりも低負荷である所定の最低負荷領域内では、前記排気還流システムを通じて、前記ホットEGRガスのみを前記気筒内に導入する、としてもよい。
【0043】
これにより、前記と同様に、比較的負荷が高い第1特定領域においては、クールドEGRガスを気筒内に導入することによって、過早着火等の異常燃焼や、圧縮着火燃焼の急激な圧力上昇が回避される。これに対し、第1特定領域よりも低負荷である所定の最低負荷領域においては、ホットEGRガスのみを気筒内に導入する。このことは気筒内の温度を高め、圧縮着火の着火性を高める上で有利になる。
【0044】
前記制御器は、前記低負荷領域内における前記第1特定領域を除く領域、及び、前記高負荷領域内における所定回転数以上の高速域では、少なくとも吸気行程から前記圧縮行程中期までの期間内で燃料噴射を行うように、前記燃料噴射弁を駆動する、としてもよい。
【0045】
低負荷領域内における前記第1特定領域を除く領域は、低負荷領域内における比較的負荷の低い領域であり、この領域では、気筒内の温度が相対的に低いため、圧縮着火燃焼による圧力上昇が急激になってしまうことがそもそも回避可能である。そこで、この領域では、少なくとも吸気行程から圧縮行程中期までの期間内で、燃料噴射を行う。この場合、吸気流動が強い期間に燃料が噴射されると共に、混合気形成期間が十分に長く確保されることから、均質な混合気が形成される。また、ピストン位置が上死点から遠く離れているときに、燃料を噴射するため、気筒内の空気利用率も高まる。その結果、圧縮着火の着火性の向上、及び、圧縮着火燃焼の安定性の向上が図られる。
【0046】
また、火花点火燃焼を行う高負荷領域内における、所定回転数以上の高速域でも、少なくとも吸気行程から圧縮行程中期までの期間内で燃料噴射を行う。これは、次のような理由によるものである。つまり、燃料噴射タイミングを遅らせることは、クランク角変化に対する実時間が長い、エンジンの低速域において異常燃焼の回避に有効である。しかしながら、エンジンの高速域では、クランク角変化に対する実時間が短いため、燃料の噴射時期を遅らせることによる未燃混合気反応可能時間の短縮のメリットが少ない。また、燃料の噴射時期を圧縮上死点付近にまで遅らせると、圧縮行程中には、比熱比の高い空気を圧縮することになり、圧縮端温度が大幅に高くなってノッキングに不利になる。
【0047】
そこで、高負荷領域における所定回転数以上の高速域では、少なくとも吸気行程から圧縮行程中期までの期間内で燃料噴射を行う。こうすることで、圧縮行程中には、燃料を含むガスを圧縮することになる。このガスは比熱比が比較的低いため、気筒内のガスの圧縮に伴う温度上昇が抑制され、圧縮端温度を低く抑えることが可能になる。その結果、高負荷領域の高速域において、異常燃焼が有効に回避される。
【0048】
前記制御器は、前記低負荷領域内における前記第1特定領域を除く領域、及び、前記高負荷領域内における所定回転数以上の高速域では、前記気筒内に噴射する燃料の少なくとも一部が前記ピストンの前記キャビティ外に噴射されるタイミングで、前記燃料噴射弁を駆動する、としてもよい。
【0049】
気筒内に噴射する燃料の少なくとも一部がピストンのキャビティ外に噴射されるタイミングとは、ピストン位置が圧縮上死点から離れているタイミングであり、これは、吸気行程から圧縮行程中期までの期間内で燃料を噴射することと等価である。
【0050】
従って、燃料の少なくとも一部がピストンのキャビティ外に噴射されるタイミングで燃料を噴射することにより、低負荷領域内における第1特定領域を除く、比較的負荷の低い領域では、空気利用率を高めつつ、より均質な混合気が形成されて、圧縮着火の着火性及び圧縮着火燃焼の安定性が向上する。また、高負荷領域内における高速域では、圧縮端温度を低く抑えることで異常燃焼が有効に回避される。
【0051】
前記制御器は、少なくとも前記低負荷領域内における前記第1特定領域を除く領域では、前記燃圧設定機構によって前記燃料の圧力を、30MPaよりも低い圧力に設定する、としてもよい。
【0052】
燃焼噴射を吸気行程から圧縮行程中期までの期間内に行うときには、30MPa以上の高い燃料圧力は不要である。そこで、少なくとも低負荷領域内における第1特定領域を除く領域では、燃料圧力を低く設定する。このことは、燃料圧力を高めるためのエネルギ量を抑制し、燃費の向上に有利になる。
【0053】
前記燃圧設定機構は、前記エンジン本体によって駆動されかつ、前記燃料の圧力を調整するよう構成された燃料ポンプを含んでいる、としてもよい。
【0054】
こうすることで、前述したように、燃料圧力を低く設定する領域においては、燃料ポンプの駆動力を低減する分だけ、エンジン本体の駆動力を低減することが可能になり、燃費の向上が図られる。
【0055】
前記燃料噴射弁は、前記気筒の中心軸上に配置されていると共に、放射状に燃料を噴射可能となるように構成されている、としてもよい。
【0056】
多噴口型の燃料噴射弁は、燃料を気筒内に噴射した際に気筒内(又はキャビティ内)のガス流動の乱れエネルギを高めるから、幾何学的圧縮比が高く設定され、それに伴いピストンが圧縮上死点に位置しているときの燃焼室の容積が比較的小さいエンジン本体において、空気利用率を高めて、前述した各作用効果を十分に発揮する上で有利である。
【発明の効果】
【0057】
以上説明したように、この火花点火式直噴エンジンは、圧縮着火燃焼を行う低負荷領域の第1特定領域と、火花点火燃焼を行う高負荷領域の第2特定領域とのそれぞれにおいて、30MPa以上の高燃圧で、少なくとも圧縮行程後期から膨張行程初期までの期間内で気筒内に燃料を噴射することにより、第1特定領域では、圧縮着火燃焼による急激な圧力上昇が回避され、圧縮着火燃焼を行う領域を高負荷側に拡大することができる一方、第2特定領域では、異常燃焼等を回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1図1は、火花点火式直噴エンジンの構成を示す概略図である。
図2図2は、火花点火式直噴エンジンの制御に係るブロック図である。
図3図3は、燃焼室を拡大して示す断面図である。
図4図4は、エンジンの運転領域を例示する図である。
図5A図5A は、CIモードにおいて吸気行程噴射を行う場合の燃料噴射時期の一例と、それに伴うCI燃焼の熱発生率の例示である。
図5B図5Bは、CIモードにおいて高圧リタード噴射を行う場合の燃料噴射時期の一例と、それに伴うCI燃焼の熱発生率の例示である。
図5C図5Cは、SIモードにおいて高圧リタード噴射を行う場合の燃料噴射時期及び点火時期の一例と、それに伴うSI燃焼の熱発生率の例示である。
図5D図5Dは、SIモードにおいて吸気行程噴射と高圧リタード噴射との分割噴射を行う場合の燃料噴射時期及び点火時期の一例と、それに伴うSI燃焼の熱発生率の例示である。
図6図6は、高圧リタード噴射によるSI燃焼の状態と、従来のSI燃焼の状態とを比較する図である。
図7図7は、エンジン負荷の相違に対する(a)気筒内のガス組成、(b)圧縮開始温度、(c)酸素濃度、(d)吸気中の外部EGR割合の変化である。
図8図8は、エンジン負荷の相違に対する(a)気筒内のガス組成、(d)吸気中の外部EGR割合、(e)排気バルブタイミング、(f)吸気バルブタイミング、(g)吸気バルブリフト量の変化である。
図9図9は、エンジン負荷の相違に対する(a)気筒内のガス組成、(d)吸気中の外部EGR割合、(h)スロットル開度、(i)EGR弁開度、(j)EGRクーラバイパス弁開度の変化である。
図10図10は、エンジン負荷の相違に対する(a)気筒内のガス組成、(k)燃料の噴射開始時期、(l)燃料圧力、(m)点火時期の変化である。
図11図11は、吸排気弁の開閉時期と、内部EGR率との関係を示す図である。
図12図12は、所定回転数における、EGR率とエンジン負荷との関係を示す図である。
図13図13は、図1とは異なる構成の火花点火式直噴エンジンの構成を示す概略図である。
図14図14は、図13に示す火花点火式直噴エンジンの排気マニホールドの構成を示す側面図である。
図15図15は、図13に示す火花点火式直噴エンジンの排気マニホールドに備わる独立排気通路の構成を示す側面図である。
図16図16は、図13に示す火花点火式直噴エンジンの排気マニホールドに備わるバイパス通路の構成を示す側面図である。
図17図17は、図15のA−A線断面図である。
図18図18は、図13に示す火花点火式直噴エンジンの制御に係るブロック図である。
図19図19は、図13に示す火花点火式直噴エンジンにおいて、エンジン負荷の相違に対する(a)気筒内のガス組成、(b)圧縮開始温度、(c)酸素濃度、(d)吸気中の外部EGR割合の変化である。
図20図20は、図13に示す火花点火式直噴エンジンにおいて、エンジン負荷の相違に対する(a)気筒内のガス組成、(d)吸気中の外部EGR割合、(e)排気バルブタイミング、(f)吸気バルブタイミング、(g)吸気バルブリフト量の変化である。
図21図21は、図13に示す火花点火式直噴エンジンにおいて、エンジン負荷の相違に対する(a)気筒内のガス組成、(d)吸気中の外部EGR割合、(h)スロットル開度、(i)EGR弁開度、(j)流通切替弁開度の変化である。
図22図22は、図2及び図18とは異なる構成の、火花点火式直噴エンジンの制御に係るブロック図である。
図23図23は、図22に示す火花点火式直噴エンジンにおいて、エンジン負荷の相違に対する(a)気筒内のガス組成、(d)吸気中の外部EGR割合、(e)排気バルブタイミング、(f)吸気バルブタイミング、(g)吸気バルブリフト量の変化である。
図24A図24Aは、最低負荷から負荷T1までの負荷領域における吸気弁及び排気弁の開弁特性を例示する図である。
図24B図24Bは、負荷T1からT3までの負荷領域における吸気弁及び排気弁の開弁特性を例示する図である。
図24C図24Cは、負荷T3からT5までの負荷領域における吸気弁及び排気弁の開弁特性を例示する図である。
図24D図24Dは、負荷T5からT6までの負荷領域における吸気弁及び排気弁の開弁特性を例示する図である。
図24E図24Eは、負荷T6を超える高負荷領域における吸気弁及び排気弁の開弁特性を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
以下、火花点火式直噴エンジンの実施形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、例示である。図1,2は、エンジン(エンジン本体)1の概略構成を示す。このエンジン1は、車両に搭載されると共に、少なくともガソリンを含有する燃料が供給される火花点火式ガソリンエンジンである。エンジン1は、複数の気筒18が設けられたシリンダブロック11(尚、図1では、1つの気筒のみを図示するが、例えば4つの気筒が直列に設けられる)と、このシリンダブロック11上に配設されたシリンダヘッド12と、シリンダブロック11の下側に配設され、潤滑油が貯留されたオイルパン13とを有している。各気筒18内には、コンロッド142を介してクランクシャフト15と連結されているピストン14が往復動可能に嵌挿されている。ピストン14の頂面には、図3に拡大して示すように、ディーゼルエンジンでのリエントラント型のようなキャビティ141が形成されている。キャビティ141は、ピストン14が圧縮上死点付近に位置するときには、後述するインジェクタ67に相対する。シリンダヘッド12と、気筒18と、キャビティ141を有するピストン14とは、燃焼室19を区画する。尚、燃焼室19の形状は、図示する形状に限定されるものではない。例えばキャビティ141の形状、ピストン14の頂面形状、及び、燃焼室19の天井部の形状等は、適宜変更することが可能である。
【0060】
このエンジン1は、理論熱効率の向上や、後述する圧縮着火燃焼の安定化等を目的として、15以上の比較的高い幾何学的圧縮比に設定されている。尚、幾何学的圧縮比は15以上20以下程度の範囲で、適宜設定すればよい。
【0061】
シリンダヘッド12には、気筒18毎に、吸気ポート16及び排気ポート17が形成されていると共に、これら吸気ポート16及び排気ポート17には、燃焼室19側の開口を開閉する吸気弁21及び排気弁22がそれぞれ配設されている。
【0062】
吸気弁21及び排気弁22をそれぞれ駆動する動弁系の内、排気側には、排気弁22の作動モードを通常モードと特殊モードとに切り替える、例えば油圧作動式の可変機構(図2参照。以下、VVL(Variable Valve Lift)と称する)71が設けられている。VVL71は、その構成の詳細な図示は省略するが、カム山を一つ有する第1カムとカム山を2つ有する第2カムとの、カムプロファイルの異なる2種類のカム、及び、その第1及び第2カムのいずれか一方のカムの作動状態を選択的に排気弁に伝達するロストモーション機構を含んで構成されている。第1カムの作動状態を排気弁22に伝達しているときには、排気弁22は、排気行程中において一度だけ開弁される通常モードで作動するのに対し、第2カムの作動状態を排気弁22に伝達しているときには、排気弁22が、排気行程中において開弁すると共に、吸気行程中においても開弁するような、いわゆる排気の二度開きを行う特殊モードで作動する。VVL71の通常モードと特殊モードとは、エンジンの運転状態に応じて切り替えられる。具体的に、特殊モードは、内部EGRに係る制御の際に利用される。以下の説明においては、VVL71を通常モードで作動させ、排気二度開きを行わないことを、「VVL71をオフにする」といい、VVL71を特殊モードで作動させ、排気二度開きを行うことを、「VVL71をオンにする」という場合がある。尚、こうした通常モードと特殊モードとの切り替えを可能にする上で、排気弁22を電磁アクチュエータによって駆動する電磁駆動式の動弁系を採用してもよい。また、内部EGRの実行は、排気二度開きのみによって実現されるのではない。例えば吸気弁21を二回開く、吸気の二度開きによって内部EGR制御を行ってもよいし、排気行程乃至吸気行程において吸気弁21及び排気弁22の双方を閉じるネガティブオーバーラップ期間を設けて既燃ガスを気筒18内に残留させる内部EGR制御を行ってもよい。
【0063】
VVL71を備えた排気側の動弁系に対し、吸気側には、図2に示すように、クランクシャフト15に対する吸気カムシャフトの回転位相を変更することが可能な位相可変機構(以下、VVT(Variable Valve Timing)と称する)72と、吸気弁21のリフト量を連続的に変更することが可能なリフト量可変機構(以下、CVVL(Continuously VariableValve Lift)と称する)73とが設けられている。VVT72は、液圧式、電磁式又は機械式の公知の構造を適宜採用すればよく、その詳細な構造についての図示は省略する。また、CVVL73も、公知の種々の構造を適宜採用することが可能であり、その詳細な構造についての図示は省略する。VVT72及びCVVL73によって、吸気弁21はその開弁タイミング及び閉弁タイミング、並びに、リフト量をそれぞれ変更することが可能である。
【0064】
シリンダヘッド12にはまた、気筒18毎に、気筒18内に燃料を直接噴射するインジェクタ67が取り付けられている。インジェクタ67は、図3に拡大して示すように、その噴口が燃焼室19の天井面の中央部分から、その燃焼室19内に臨むように配設されている。インジェクタ67は、エンジン1の運転状態に応じて設定された噴射タイミングでかつ、エンジン1の運転状態に応じた量の燃料を、燃焼室19内に直接噴射する。この例において、インジェクタ67は、詳細な図示は省略するが、複数の噴口を有する多噴口型のインジェクタである。これによって、インジェクタ67は、燃料噴霧が、燃焼室19の中心位置から放射状に広がるように、燃料を噴射する。図3に矢印で示すように、ピストン14が圧縮上死点付近に位置するタイミングで、燃焼室19の中央部分から放射状に広がるように噴射された燃料噴霧は、ピストン頂面に形成されたキャビティ141の壁面に沿って流動する。キャビティ141は、ピストン14が圧縮上死点付近に位置するタイミングで噴射された燃料噴霧を、その内部に収めるように形成されている、と言い換えることが可能である。この多噴口型のインジェクタ67とキャビティ141との組み合わせは、燃料の噴射後、混合気形成期間を短くすると共に、燃焼期間を短くする上で有利な構成である。尚、インジェクタ67は、多噴口型のインジェクタに限定されず、外開弁タイプのインジェクタを採用してもよい。
【0065】
図外の燃料タンクとインジェクタ67との間は、燃料供給経路によって互いに連結されている。この燃料供給経路上には、燃料ポンプ63とコモンレール64とを含みかつ、インジェクタ67に、比較的高い燃料圧力で燃料を供給することが可能な燃料供給システム62が介設されている。燃料ポンプ63は、燃料タンクからコモンレール64に燃料を圧送し、コモンレール64は圧送された燃料を、比較的高い燃料圧力で蓄えることが可能である。インジェクタ67が開弁することによって、コモンレール64に蓄えられている燃料がインジェクタ67の噴口から噴射される。ここで、燃料ポンプ63は、図示は省略するが、プランジャー式のポンプであり、エンジン1によって駆動される。このエンジン駆動のポンプを含む構成の燃料供給システム62は、30MPa以上の高い燃料圧力の燃料を、インジェクタ67に供給することを可能にする。燃料圧力は、最大で120MPa程度に設定してもよい。インジェクタ67に供給される燃料の圧力は、後述するように、エンジン1の運転状態に応じて変更される。尚、燃料供給システム62は、この構成に限定されるものではない。
【0066】
シリンダヘッド12にはまた、図3に示すように、燃焼室19内の混合気に点火する点火プラグ25が取り付けられている。点火プラグ25は、この例では、エンジン1の排気側から斜め下向きに延びるように、シリンダヘッド12内を貫通して配置されている。図3に示すように、点火プラグ25の先端は、圧縮上死点に位置するピストン14のキャビティ141内に臨んで配置される。
【0067】
エンジン1の一側面には、図1に示すように、各気筒18の吸気ポート16に連通するように吸気通路30が接続されている。一方、エンジン1の他側面には、各気筒18の燃焼室19からの既燃ガス(排気ガス)を排出する排気通路40が接続されている。
【0068】
吸気通路30の上流端部には、吸入空気を濾過するエアクリーナ31が配設されている。また、吸気通路30における下流端近傍には、サージタンク33が配設されている。このサージタンク33よりも下流側の吸気通路30は、気筒18毎に分岐する独立通路とされ、これら各独立通路の下流端が各気筒18の吸気ポート16にそれぞれ接続されている。
【0069】
吸気通路30におけるエアクリーナ31とサージタンク33との間には、空気を冷却又は加熱する、水冷式のインタークーラ/ウォーマ34と、各気筒18への吸入空気量を調節するスロットル弁36とが配設されている。吸気通路30にはまた、インタークーラ/ウォーマ34をバイパスするインタークーラバイパス通路35が接続されており、このインタークーラバイパス通路35には、当該通路35を通過する空気流量を調整するためのインタークーラバイパス弁351が配設されている。インタークーラバイパス弁351の開度調整を通じて、インタークーラバイパス通路35の通過流量とインタークーラ/ウォーマ34の通過流量との割合を調整することにより、気筒18に導入する新気の温度を調整することが可能である。
【0070】
排気通路40の上流側の部分は、気筒18毎に分岐して排気ポート17の外側端に接続された独立通路と該各独立通路が集合する集合部とを有する排気マニホールドによって構成されている。この排気通路40における排気マニホールドよりも下流側には、排気ガス中の有害成分を浄化する排気浄化装置として、直キャタリスト41とアンダーフットキャタリスト42とがそれぞれ接続されている。直キャタリスト41及びアンダーフットキャタリスト42はそれぞれ、筒状ケースと、そのケース内の流路に配置した、例えば三元触媒とを備えて構成されている。
【0071】
吸気通路30におけるサージタンク33とスロットル弁36との間の部分と、排気通路40における直キャタリスト41よりも上流側の部分とは、排気ガスの一部を吸気通路30に還流するためのEGR通路50を介して接続されている。このEGR通路50は、排気ガスをエンジン冷却水によって冷却するためのEGRクーラ52が配設された主通路51と、EGRクーラ52をバイパスするためのEGRクーラバイパス通路53と、を含んで構成されている。主通路51には、排気ガスの吸気通路30への還流量を調整するためのEGR弁511が配設され、EGRクーラバイパス通路53には、EGRクーラバイパス通路53を流通する排気ガスの流量を調整するためのEGRクーラバイパス弁531が配設されている。
【0072】
このように構成されたエンジン1は、パワートレイン・コントロール・モジュール(以下、PCMという)10によって制御される。PCM10は、CPU、メモリ、カウンタタイマ群、インターフェース及びこれらのユニットを接続するパスを有するマイクロプロセッサで構成されている。このPCM10が制御器を構成する。
【0073】
PCM10には、図1,2に示すように、各種のセンサSW1〜SW16の検出信号が入力される。この各種のセンサには、次のセンサが含まれる。すなわち、エアクリーナ31の下流側で、新気の流量を検出するエアフローセンサSW1及び新気の温度を検出する吸気温度センサSW2、インタークーラ/ウォーマ34の下流側に配置されかつ、インタークーラ/ウォーマ34を通過した後の新気の温度を検出する、第2吸気温度センサSW3、EGR通路50における吸気通路30との接続部近傍に配置されかつ、外部EGRガスの温度を検出するEGRガス温センサSW4、吸気ポート16に取り付けられかつ、気筒18内に流入する直前の吸気の温度を検出する吸気ポート温度センサSW5、シリンダヘッド12に取り付けられかつ、気筒18内の圧力を検出する筒内圧センサSW6、排気通路40におけるEGR通路50の接続部近傍に配置されかつ、それぞれ排気温度及び排気圧力を検出する排気温センサSW7及び排気圧センサSW8、直キャタリスト41の上流側に配置されかつ、排気中の酸素濃度を検出するリニアOセンサSW9、直キャタリスト41とアンダーフットキャタリスト42との間に配置されかつ、排気中の酸素濃度を検出するラムダOセンサSW10、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサSW11、クランクシャフト15の回転角を検出するクランク角センサSW12、車両のアクセルペダル(図示省略)の操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサSW13、吸気側及び排気側のカム角センサSW14,SW15、及び、燃料供給システム62のコモンレール64に取り付けられかつ、インジェクタ67に供給する燃料圧力を検出する燃圧センサSW16である。
【0074】
PCM10は、これらの検出信号に基づいて種々の演算を行うことによってエンジン1や車両の状態を判定し、これに応じてインジェクタ67、点火プラグ25、吸気弁側のVVT72及びCVVL73、排気弁側のVVL71、燃料供給システム62、並びに、各種の弁(スロットル弁36、インタークーラバイパス弁351、EGR弁511、及びEGRクーラバイパス弁531)のアクチュエータへ制御信号を出力する。こうしてPCM10は、エンジン1を運転する。
【0075】
図4は、エンジン1の運転領域の一例を示している。このエンジン1は、燃費の向上や排気エミッション性能の向上を目的として、エンジン負荷が相対的に低い低負荷域では、点火プラグ25による点火を行わずに、圧縮自己着火によって燃焼を行う圧縮着火燃焼を行う。しかしながら、エンジン1の負荷が高くなるに従って、圧縮着火燃焼では、燃焼が急峻になりすぎてしまい、例えば燃焼騒音等の問題を引き起こすことになる。そのため、このエンジン1では、エンジン負荷が相対的に高い高負荷域では、圧縮着火燃焼を止めて、点火プラグ25を利用した火花点火燃焼に切り替える。このように、このエンジン1は、エンジン1の運転状態、特にエンジン1の負荷に応じて、圧縮着火燃焼を行うCI(Compression Ignition)モードと、火花点火燃焼を行うSI(Spark Ignition)モードとを切り替えるように構成されている。但し、モード切り替えの境界線は、図例に限定されるものではない。
【0076】
CIモードはさらに、エンジン負荷の高低に応じて3つの領域に分けられている。具体的に、CIモードにおいて負荷が最も低い領域(1)では、圧縮着火燃焼の着火性及び安定性を高めるために、相対的に温度の高いホットEGRガスを気筒18内に導入する。これは、詳しくは後述するが、VVL71をオンにして、排気弁22を吸気行程中に開弁する排気の二度開きを行うことによる。ホットEGRガスの導入は、気筒18内の圧縮端温度を高め、軽負荷である領域(1)において、圧縮着火燃焼の着火性及び安定性を高める上で有利になる。領域(1)ではまた、図5Aに示すように、少なくとも吸気行程から圧縮行程中期までの期間内において、インジェクタ67が気筒18内に燃料を噴射することにより、均質なリーン混合気を形成する。混合気の空気過剰率λは、例えば2.4以上に設定してもよく、こうすることで、RawNOxの生成を抑制して、排気エミッション性能を高めることが可能になる。そうして、そのリーン混合気は、図5Aに示すように、圧縮上死点付近において圧縮自己着火する。
【0077】
詳細は後述するが、領域(1)における負荷の高い領域、具体的には、領域(1)と領域(2)との境界を含む領域では、少なくとも吸気行程から圧縮行程中期までの期間内において、気筒18内に燃料を噴射するものの、混合気の空燃比を理論空燃比(λ≒1)に設定する。理論空燃比にすることにより、三元触媒が利用可能になると共に、後述するように、SIモードとCIモードとの間の切り替え時の制御が簡素化し、さらに、CIモードを高負荷側へ拡大可能にすることにも寄与する。
【0078】
CIモードにおいて、領域(1)よりも負荷の高い領域(2)では、領域(1)の高負荷側と同様に、少なくとも吸気行程から圧縮行程中期までの期間内において、気筒18内に燃料を噴射し(図5A参照)、均質な理論空燃比(λ≒1)の混合気を形成する。
【0079】
領域(2)ではまた、エンジン負荷の上昇に伴い気筒18内の温度が自然と高まることから、過早着火を回避するためにホットEGRガス量を低下させる。これは、詳しくは後述するが、気筒18内に導入する内部EGRガス量の調整による。また、EGRクーラ52をバイパスした外部EGRガス量を調整することによって、ホットEGRガス量が調整されることもある。
【0080】
領域(2)ではさらに、相対的に温度の低いクールドEGRガスを気筒18内に導入する。こうして高温のホットEGRガスと低温のクールドEGRガスとを適宜の割合で気筒18内に導入することにより、気筒18内の圧縮端温度を適切にし、圧縮着火の着火性を確保しつつも急激な燃焼を回避して、圧縮着火燃焼の安定化を図る。尚、ホットEGRガス及びクールドEGRガスを合わせた、気筒18内に導入されるEGRガスの割合としてのEGR率は、混合気の空燃比をλ≒1に設定する条件下で可能な限り高いEGR率に設定される。従って、領域(2)においては、エンジン負荷の増大に伴い燃料噴射量が増大するから、EGR率は次第に低下するようになる。
【0081】
CIモードとSIモードとの切り替え境界線を含む、CIモードにおいて最も負荷の高い領域(3)では、気筒18内の圧縮端温度がさらに高くなるため、領域(1)や領域(2)のように、吸気行程から圧縮行程中期までの期間内で気筒18内に燃料を噴射してしまうと、過早着火等の異常燃焼が生じるようになる。一方、温度の低いクールドEGRガスを大量に導入して気筒内の圧縮端温度を低下させようとすると、今度は、圧縮着火の着火性が悪化してしまう。つまり、気筒18内の温度制御だけでは、圧縮着火燃焼を安定して行い得ないため、この領域(3)では、気筒18内の温度制御に加えて、燃料噴射形態を工夫することによって過早着火等の異常燃焼を回避しつつ、圧縮着火燃焼の安定化を図る。具体的に、この燃料噴射形態は、従来と比較して大幅に高圧化した燃料圧力でもって、図5Bに示すように、少なくとも圧縮行程後期から膨張行程初期までの期間(以下、この期間をリタード期間と呼ぶ)内で、気筒18内に燃料噴射を実行するものである。この特徴的な燃料噴射形態を、以下においては「高圧リタード噴射」又は単に「リタード噴射」と呼ぶ。このような高圧リタード噴射により、領域(3)での異常燃焼を回避しつつ、圧縮着火燃焼の安定化が図られる。この高圧リタード噴射に詳細については、後述する。
【0082】
領域(3)では、領域(2)と同様に、高温のホットEGRガスと低温のクールドEGRガスとを適宜の割合で気筒18内に導入する。このことにより、気筒18内の圧縮端温度を適切にして圧縮着火燃焼の安定化を図る。
【0083】
エンジン負荷の高低に応じて3つの領域に分けられたCIモードに対して、SIモードは、エンジン回転数の高低に応じて、領域(4)と領域(5)との2つの領域に分けられている。領域(4)は、図例においては、エンジン1の運転領域を低速、高速の2つに区分したときの低速域に相当し、領域(5)は高速域に相当する。領域(4)と領域(5)との境界はまた、図4に示す運転領域において、負荷の高低に対して回転数方向に傾いているが、領域(4)と領域(5)との境界は図例に限定されるものではない。
【0084】
領域(4)及び領域(5)のそれぞれにおいて、混合気は、領域(2)及び領域(3)と同等に、理論空燃比(λ≒1)に設定される。従って、混合気の空燃比は、CIモードとSIモードとの境界を跨って理論空燃比(λ≒1)で一定にされる。これは、三元触媒の利用を可能にする。また、領域(4)及び領域(5)では、詳細は後述するが、基本的にはスロットル弁36を全開にする一方で、EGR弁511の開度調整により、気筒18内に導入する新気量及び外部EGRガス量を調整する。こうして気筒18内に導入するガス割合を調整することは、ポンプ損失の低減と共に、大量のEGRガスを気筒18内に導入することにより、火花点火燃焼の燃焼温度が低く抑えられ冷却損失の低減も図られる。領域(4)及び領域(5)では、主にEGRクーラ52を通じて冷却した外部EGRガスを、気筒18に導入する。このことによって、異常燃焼の回避に有利になると共に、Raw NOxの生成を抑制するという利点もある。尚、全開負荷域では、EGR弁511を閉弁することにより、外部EGRをゼロにする。
【0085】
このエンジン1の幾何学的圧縮比は、前述の通り、15以上(例えば18)に設定されている。高い圧縮比は、圧縮端温度及び圧縮端圧力を高くするため、CIモードの、特に低負荷の領域(例えば領域(1))では、圧縮着火燃焼の安定化に有利になる。一方で、この高圧縮比エンジン1は、高負荷域であるSIモードにおいては、過早着火やノッキングといった異常燃焼が生じやすくなるという問題がある。
【0086】
そこでこのエンジン1では、SIモードの領域(4)や領域(5)においては、前述した高圧リタード噴射を行うことにより、異常燃焼を回避するようにしている。より詳細には、領域(4)においては、30MPa以上の高い燃料圧力でもって、図5Cに示すように、圧縮行程後期から膨張行程初期にかけてリタード期間内で、気筒18内に燃料噴射を実行する高圧リタード噴射のみを行う。これに対し、領域(5)においては、図5Dに示すように、噴射する燃料の一部を、吸気弁21が開弁している吸気行程期間内で気筒18内に噴射すると共に、残りの燃料をリタード期間内で気筒18内に噴射する。つまり、領域(5)では、燃料の分割噴射を行う。ここで、吸気弁21が開弁している吸気行程期間とは、ピストン位置に基づいて定義した期間ではなく、吸気弁の開閉に基づいて定義した期間であり、ここで言う吸気行程は、CVVL73やVVT72によって変更される吸気弁21の閉弁時期によって、ピストンが吸気下死点に到達した時点に対しずれる場合がある。
【0087】
次に、図6を参照しながら、SIモードにおける高圧リタード噴射について説明する。図6は、前述した高圧リタード噴射によるSI燃焼(実線)と、吸気行程中に燃料噴射を実行する従来のSI燃焼(破線)とにおける、熱発生率(上図)及び未燃混合気反応進行度(下図)の違いを比較する図である。図6の横軸はクランク角である。この比較の前提として、エンジン1の運転状態は共に高負荷の低速域(つまり、領域(4))であり、噴射する燃料量は、高圧リタード噴射によるSI燃焼と従来のSI燃焼との場合で互いに同じである。
【0088】
先ず、従来のSI燃焼では、吸気行程中に気筒18内に所定量の燃料噴射を実行する(上図の破線)。気筒18内では、その燃料の噴射後、ピストン14が圧縮上死点に至るまでの間に、比較的均質な混合気が形成される。そして、この例では、圧縮上死点以降の、白丸で示す所定タイミングで点火が実行され、それによって燃焼が開始する。燃焼の開始後は、図6の上図に破線で示すように、熱発生率のピークを経て燃焼が終了する。燃料噴射の開始から燃焼の終了までの間が未燃混合気の反応可能時間(以下、単に反応可能時間という場合がある)に相当し、図6の下図に破線で示すように、この間に未燃混合気の反応は次第に進行する。同図における点線は、未燃混合気が着火に至る反応度である、着火しきい値を示しており、従来のSI燃焼は、低速域であることと相俟って、反応可能時間が非常に長く、その間、未燃混合気の反応が進行し続けてしまうことから、点火の前後に未燃混合気の反応度が着火しきい値を超えてしまい、過早着火又はノッキングといった異常燃焼を引き起こす。
【0089】
これに対し、高圧リタード噴射は反応可能時間の短縮を図り、そのことによって異常燃焼を回避することを目的とする。すなわち、反応可能時間は、図6にも示しているように、インジェクタ67が燃料を噴射する期間((1)噴射期間)と、噴射終了後、点火プラグ25の周りに可燃混合気が形成されるまでの期間((2)混合気形成期間)と、点火によって開始された燃焼が終了するまでの期間((3)燃焼期間)と、を足し合わせた時間、つまり、(1)+(2)+(3)である。高圧リタード噴射は、噴射期間、混合気形成期間及び燃焼期間をそれぞれ短縮し、それによって、反応可能時間を短くする。このことについて、順に説明する。
【0090】
先ず、高い燃料圧力は、単位時間当たりにインジェクタ67から噴射される燃料量を相対的に多くする。このため、燃料噴射量を一定とした場合に、燃料圧力と燃料の噴射期間との関係は概ね、燃料圧力が低いほど噴射期間は長くなり、燃料圧力が高いほど噴射期間は短くなる。従って、燃料圧力が従来に比べて大幅に高く設定された高圧リタード噴射は、噴射期間を短縮する。
【0091】
また、高い燃料圧力は、気筒18内に噴射する燃料噴霧の微粒化に有利になると共に、燃料噴霧の飛翔距離を、より長くする。このため、燃料圧力と燃料蒸発時間との関係は概ね、燃料圧力が低いほど燃料蒸発時間は長くなり、燃料圧力が高いほど燃料蒸発時間は短くなる。また、燃料圧力と点火プラグ25の周りに燃料噴霧が到達するまでの時間は概ね、燃料圧力が低いほど到達までの時間は長くなり、燃料圧力が高いほど到達までの時間は短くなる。混合気形成期間は、燃料蒸発時間と、点火プラグ25の周りへの燃料噴霧到達時間とを足し合わせた時間であるから、燃料圧力が高いほど混合気形成期間は短くなる。従って、燃料圧力が従来に比べて大幅に高く設定された高圧リタード噴射は、燃料蒸発時間及び点火プラグ25の周りへの燃料噴霧到達時間がそれぞれ短くなる結果、混合気形成期間を短縮する。これに対し、同図に白丸で示すように、従来の、低い燃料圧力での吸気行程噴射は、混合気形成期間が大幅に長くなる。尚、多噴口型のインジェクタ67とキャビティ141との組み合わせは、SIモードにおいては、燃料の噴射後、点火プラグ25の周りに燃料噴霧が到達するまでの時間を短くする結果、混合気形成期間の短縮に有効である。
【0092】
このように、噴射期間及び混合気形成期間を短縮することは、燃料の噴射タイミング、より正確には、噴射開始タイミングを、比較的遅いタイミングにすることを可能にする。そこで、高圧リタード噴射では、図6の上図に示すように、圧縮行程後期から膨張行程初期にかけてのリタード期間内に燃料噴射を行う。高い燃料圧力で気筒18内に燃料を噴射することに伴い、その気筒内の乱れが強くなり、気筒18内の乱れエネルギが高まるが、この高い乱れエネルギは、燃料噴射のタイミングが比較的遅いタイミングに設定されることと相俟って、燃焼期間の短縮に有利になる。
【0093】
すなわち、燃料噴射をリタード期間内に行った場合、燃料圧力と燃焼期間内での乱流エネルギとの関係は概ね、燃料圧力が低いほど乱流エネルギが低くなり、燃料圧力が高いほど乱流エネルギは高くなる。ここで、仮に高い燃料圧力で気筒18内に燃料を噴射するとしても、その噴射タイミングが吸気行程中にある場合は、点火タイミングまでの時間が長いことや、吸気行程後の圧縮行程において気筒18内が圧縮されることに起因して、気筒18内の乱れは減衰してしまう。その結果、吸気行程中に燃料噴射を行った場合、燃焼期間内での乱流エネルギは、燃料圧力の高低に拘わらず比較的低くなってしまう。
【0094】
燃焼期間での乱流エネルギと燃焼期間との関係は概ね、乱流エネルギが低いほど燃焼期間が長くなり、乱流エネルギが高いほど燃焼期間が短くなる。従って、燃料圧力と燃焼期間との関係は、燃料圧力が低いほど燃焼期間は長くなり、燃料圧力が高いほど燃焼期間は短くなる。すなわち、高圧リタード噴射は、燃焼期間を短縮する。これに対し、従来の、低い燃料圧力での吸気行程噴射は、燃焼期間が長くなる。尚、多噴口型のインジェクタ67は、気筒18内の乱れエネルギの向上に有利であって、燃焼期間の短縮に有効であると共に、その多噴口型のインジェクタ67とキャビティ141との組み合わせによって、燃料噴霧をキャビティ141内に収めることもまた、燃焼期間の短縮に有効である。
【0095】
このように高圧リタード噴射は、噴射期間、混合気形成期間、及び、燃焼期間をそれぞれ短縮し、その結果、図6に示すように、燃料の噴射開始タイミングSOIから燃焼終了時期θendまでの、未燃混合気の反応可能時間を、従来の吸気行程中での燃料噴射の場合と比較して大幅に短くすることを可能にする。この反応可能時間を短縮する結果、図6の上段に示す図のように、従来の低い燃料圧力での吸気行程噴射では、白丸で示すように、燃焼終了時における未燃混合気の反応進行度が、着火しきい値を超えてしまい、異常燃焼が発生してしまうところ、高圧リタード噴射は、黒丸で示すように、燃焼終了時における未燃混合気の反応の進行を抑制し、異常燃焼を回避することが可能になる。尚、図6の上図における白丸と黒丸とで、点火タイミングは互いに同じタイミングに設定している。
【0096】
燃料圧力は、例えば30MPa以上に設定することによって、燃焼期間を効果的に短縮化することが可能である。また、30MPa以上の燃料圧力は、噴射期間及び混合気形成期間も、それぞれ有効に短縮化することが可能である。尚、燃料圧力は、少なくともガソリンを含有する、使用燃料の性状に応じて適宜設定するのが好ましい。その上限値は、一例として、120MPaとしてもよい。
【0097】
高圧リタード噴射は、気筒18内への燃料噴射の形態を工夫することによってSIモードにおける異常燃焼の発生を回避する。これとは異なり、異常燃焼の回避を目的として点火タイミングを遅角することが、従来から知られている。点火タイミングの遅角化は、未燃混合気の温度及び圧力の上昇を抑制することによって、その反応の進行を抑制する。しかしながら、点火タイミングの遅角化は熱効率及びトルクの低下を招くのに対し、高圧リタード噴射を行う場合は、燃料噴射の形態の工夫によって異常燃焼を回避する分、点火タイミングを進角させることが可能であるから、熱効率及びトルクが向上する。つまり、高圧リタード噴射は、異常燃焼を回避するだけでなく、その回避可能な分だけ、点火タイミングを進角することを可能にして、燃費の向上に有利になる。
【0098】
以上説明したように、SIモードでの高圧リタード噴射は、噴射期間、混合気形成期間及び燃焼期間をそれぞれ短縮することが可能であるが、CIモードの領域(3)で行う高圧リタード噴射は、噴射期間及び混合気形成期間をそれぞれ短縮することが可能である。つまり、気筒18内に高い燃料圧力で燃料を噴射することにより気筒18内の乱れが強くなることで、微粒化した燃料のミキシング性が高まり、圧縮上死点付近の遅いタイミングで燃料を噴射しても、比較的均質な混合気を速やかに形成することが可能になるのである。
【0099】
CIモードでの高圧リタード噴射は、比較的負荷の高い領域において、圧縮上死点付近の遅いタイミングで燃料を噴射することにより、例えば圧縮行程期間中の過早着火を防止しつつ、前述の通り、概ね均質な混合気が速やかに形成されるため、圧縮上死点以降において、確実に圧縮着火させることが可能になる。そうして、モータリングにより気筒18内の圧力が次第に低下する膨張行程期間において、圧縮着火燃焼が行われることで、燃焼が緩慢になり、圧縮着火燃焼に伴う気筒18内の圧力上昇(dP/dt)が急峻になってしまうことが回避される。こうして、NVHの制約が解消される結果、CIモードの領域が高負荷側に拡大する。
【0100】
SIモードの説明に戻り、前述の通り、SIモードの高圧リタード噴射は、燃料噴射をリタード期間内に行うことによって未燃混合気の反応可能時間を短縮させるものの、この反応可能時間の短縮は、エンジン1の回転数が比較的低い低速域においては、クランク角変化に対する実時間が長いため、有効であるのに対し、エンジン1の回転数が比較的高い高速域においては、クランク角変化に対する実時間が短いため、それほど有効でない。逆に、リタード噴射では、燃料噴射時期を圧縮上死点付近に設定するため、圧縮行程においては、燃料を含まない筒内ガス、言い換えると比熱比の高い空気が圧縮されるようになる。その結果、高速域においては、気筒18内の圧縮端温度が高くなり、この高い圧縮端温度がノッキングを招くようになる。そのため、領域(5)においてリタード噴射のみを行うときには、点火タイミングを遅角化して、ノッキングを回避しなければならない場合も起き得る。
【0101】
そこで、図4に示すように、SIモードにおいて相対的に回転数の高い領域(5)では、図5Dに示すように、噴射する燃料の一部を、吸気行程期間内で気筒18内に噴射すると共に、残りの燃料をリタード期間内で気筒18内に噴射をする。吸気行程噴射では、圧縮行程中の筒内ガス(つまり、燃料を含む混合気)の比熱比を下げ、それによって圧縮端温度を低く抑えることが可能である。こうして、圧縮端温度が低くなることで、ノッキングを抑制することが可能になるから、点火タイミングを進角させることが可能になる。
【0102】
また、高圧リタード噴射を行うことにより、前述の通り、圧縮上死点付近の気筒18内(燃焼室19内)において乱れが強くなり、燃焼期間が短くなる。このこともまた、ノッキングの抑制に有利になり、点火タイミングをさらに進角させることが可能になる。そうして、領域(5)においては、吸気行程噴射と高圧リタード噴射との分割噴射を行うことにより、異常燃焼を回避しつつ、熱効率を向上させることが可能になる。
【0103】
尚、領域(5)において燃焼期間を短縮させるために、高圧リタード噴射を行う代わりに多点点火構成を採用してもよい。つまり、複数の点火プラグを燃焼室内に臨んで配置し、領域(5)においては、吸気行程噴射を実行すると共に、その複数の点火プラグのそれぞれを駆動することにより、多点点火を行う。こうすることで、燃焼室19内の複数の火種のそれぞれから火炎が広がるため、火炎の広がりが早くて燃焼期間が短くなる。その結果、高圧リタード噴射を採用した場合と同様に燃焼期間を短くして、熱効率の向上に有利になる。多点点火構成の採用によって領域(5)において高圧リタード噴射を行わないときには、燃料圧力を下げることが可能になる。これは、エンジン1駆動の燃料ポンプ63の駆動力が減ることになるため、燃費の向上に有利になる。
【0104】
図7〜10は、低速域内におけるエンジン負荷の高低に対するエンジン1の各パラメータの制御例を示しており、低負荷から高負荷に向かう方向の負荷の変化は、図4に示すエンジンの運転マップにおいては、一点鎖線の矢印で例示される。
【0105】
図7(a)〜(d)は、気筒18内の状態に係り、同図(a)は気筒18内のガス組成(ガス割合)、同図(b)は、圧縮開始時の気筒18内の温度、同図(c)は酸素濃度をそれぞれ示している。また、図7(d)は、吸気中の外部EGR割合を示し、これは、気筒18内に導入されるEGRガスから、内部EGRガスを除いた分ということができる。
【0106】
図8(a)及び(d)は、図7(a)及び(d)と同じであり、それぞれ気筒18内のガス組成、及び、吸気中の外部EGR割合を示している。また、図8(e)〜(g)は、動弁系の制御に係り、同図(e)は排気弁22の開閉時期、同図(f)は吸気弁21の開閉時期、同図(g)は吸気弁のリフト量である。
【0107】
図9(a)及び(d)は、図7(a)及び(d)と同じである。また、図9(h)〜(j)は、吸排気系の制御に係り、同図(h)はスロットル弁36の開度、同図(i)はEGR弁511の開度、同図(j)はEGRクーラバイパス弁531の開度を示している。
【0108】
さらに、図10(a)もまた、図7(a)と同じであり、気筒18内のガス組成を示している。また、図10(k)〜(m)は、燃料噴射及び点火系の制御に係り、同図(k)は噴射開始時期、同図(l)は燃料圧力、同図(m)は点火時期をそれぞれ示している。
【0109】
図7(a)は、前述の通り、気筒18内の状態を示しており、相対的に負荷の低い、図の左側の領域はCIモードとなり、所定負荷よりも負荷が高い、図の右側の領域はSIモードとなる。図示していないが、気筒18内に噴射される燃料量(総括燃料量)は、CIモード及びSIモードに拘わらず、負荷の増大に従って増量される。
【0110】
(所定負荷T1まで)
CIモードにおいて、所定負荷T1よりも負荷の低い領域(これは、図4における運転マップにおいては領域(1)に相当する)では、リーン混合気となるように新気及び内部EGRガスが導入される。具体的には、スロットル弁36の開度は、図9(h)に示すように全開に設定される一方で、図8(e)に示すように、排気VVL71をオンにして、排気弁22を吸気行程中に開弁する排気の二度開きを行う。また、図8(g)に示すように、吸気弁21のリフト量は最小に設定されることで、内部EGR率(気筒18内に導入される内部EGRガス量の比率)は、最も高くなる(図11のS1も参照)。前述したように、領域(1)では、例えば空気過剰率λ≧2.4程度のリーン混合気とすればよく、このことにより、大量のEGRガスを気筒18内に導入することと相俟って、RawNOxの生成が抑制される。また、大量のEGRガスを気筒18内に導入することは、ポンプ損失の低減にも有利である。尚、図10(k)(l)に示すように、領域(1)では、相対的に低い燃圧で、吸気行程期間内で、燃料噴射が実行される。低い燃圧は燃費の向上に有利である。但し、燃圧は、エンジン負荷の増大に従って、次第に高くなる。
【0111】
所定負荷T1まで(より正確には、所定負荷T2まで)は、大量の内部EGRガスが気筒18内に導入されることで、図7(b)に示すように、気筒18内の温度、特に圧縮端温度が高くなり、圧縮着火の着火性の向上及び圧縮着火燃焼の安定性の向上に有利になる。酸素濃度は、図7(c)に示すように、負荷の増大に従い次第に低下する。尚、図示は省略するが、ホットEGRガスを気筒18内に導入する、所定負荷T6までの低負荷乃至中負荷の領域では、インタークーラバイパス弁351を閉じることによって、インタークーラ/ウォーマ34によって温められた新気を、気筒18内に導入してもよい。
【0112】
(所定負荷T1からT2まで)
所定負荷T1以上のエンジン負荷においては、混合気の空燃比は、理論空燃比(λ≒1)に設定される。従って、噴射される燃料量が増大するに従い、気筒18内に導入される新気量も増大し、それに応じてEGR率は減少する(図7(a)参照)。所定負荷T1からT2においても、相対的に低い燃圧で、吸気行程期間内に燃料噴射が実行される(図10(k)(l)参照)。
【0113】
また、所定負荷T1からT2においても、図9(h)に示すように、スロットル開度は、基本的には全開である。一方で、図8(e)に示すように、排気VVL71をオンにした状態で、図8(g)に示すように、吸気弁21のリフト量を調整することにより、気筒18内に導入する新気量及び内部EGRガス量が調整される。
【0114】
具体的には、図11に示すように、排気VVL71をオンにして排気二度開きを行っている状態で、吸気弁21のリフト量を最小にすれば(同図のS1参照)、内部EGR率が最大になりかつ、気筒18内に導入される新気が最も少なくなる。これは、図8(e)(f)(g)に示すように、所定負荷T1までの、吸排気弁21、22の制御に相当する。
【0115】
図11のS2に示すように、排気二度開きを行っている状態で、吸気弁21のリフト量を大きくすれば、吸気弁21の開弁期間と排気弁22の二度開き時の開弁期間との重なりが変わるため、内部EGR率が低下する。尚、吸気弁21の閉弁時期は、吸気弁21のリフト量が変化しても、ほぼ一定となるようにしている。CVVL73及びVVT72の制御により吸気弁21のリフト量を連続的に変更すれば、内部EGR率を連続的に低下させることが可能である。所定負荷T1からT2の間では、理論空燃比λ≒1を維持しながらEGR率が最大となるように、言い換えると可能な限りの内部EGRガスが気筒18内に導入されるように、吸気弁21のリフト量が制御される。具体的には、図8(e)(f)(g)に示すように、吸気弁21のリフト量を次第に増大させ、それに伴い、吸気弁21の開弁時期(IVO)も次第に進角させる。
【0116】
(所定負荷T2からT3)
所定負荷T2以上のエンジン負荷は、図4における運転マップにおいては領域(2)に相当し、気筒18内の温度が高くなって過早着火が生じる虞がある。そこで、所定負荷T2以上のエンジン負荷では、内部EGRガス量を減らし、代わりに冷却された外部EGRガスを気筒18内に導入する。つまり、図9(i)に示すように、EGR弁511の開度が閉弁状態から次第に大きくされ、それによってEGRクーラ52を通過することによって冷却された外部EGRガス量が、エンジン1の負荷の増大に伴い次第に増量される。尚、図9(j)に示すように、EGRクーラバイパス弁531は、閉じたままである。こうして、冷却された外部EGRガス(つまり、クールドEGRガス)は、エンジン負荷の増大に従って次第に増量される(図7(d)も参照)。
【0117】
一方、図7(a)に示すように、内部EGRガス及び外部EGRガスを含むEGR率は、所定負荷T2以上の高負荷側においても、混合気の空燃比を理論空燃比(λ≒1)に設定すべく、負荷の増大に対して所定割合で低下している。このため、所定負荷T2以上の高負荷側においては、内部EGRガスは、より高い低下率で、負荷の増大に従って減量される(つまり、図7(a)における傾きが大きくなる)。具体的には、図8(e)(f)(g)に示すように、吸気弁21のリフト量が、所定負荷T2までの低負荷側よりも高い増大率で、負荷の増大に従って次第に増大させられ、それに応じて吸気弁21の開弁時期(IVO)が次第に進角する。
【0118】
こうして、図7(b)に示すように、気筒18内の温度は、所定負荷T2以上の高負荷側においては、負荷の増大に従って次第に低下するようになる。
【0119】
(所定負荷T3からT4)
内部EGRガスの導入量の調整は、前述したように、吸気行程期間内で開弁される排気弁22の開弁期間に対する、吸気弁21の開弁期間の重なり具合を調整することによって行われ、基本的には吸気のCVVL73の制御による。図11に実線の矢印で示すように、内部EGRガスの導入量は、所定量までは連続的に減少させることができるものの(同図のS1、S2参照)、排気弁22の開弁期間は調整できないため、その所定量よりも導入量を減少させようとすれば、排気VVL71をオフにして、排気二度開きを停止させなければならない。このため、同図のS3、S4に示すように、排気VVL71のオン・オフの切り替えに伴い、内部EGRガスの導入量は不連続的に減少してしまう(図11の一点鎖線の矢印参照)。
【0120】
このように、気筒18内に導入する内部EGRガスを連続的に減少させることができなくなることから、領域(2)における所定負荷T3において、内部EGRガスを気筒18内に導入することを止め、その代わりのホットEGRガスとして、EGRクーラ52をバイパスした冷却しない外部EGRガスを気筒18内に導入する。
【0121】
つまり、図8(e)に示すように、排気VVL71をオフにして排気二度開きを停止する一方で、吸気弁21のリフト量を不連続的に、大きく変更し、それに伴い吸気弁21の開弁時期も、吸気上死点付近に大きく進角させる。尚、少なくともCIモード内での所定負荷T3以上の高負荷側においては、吸気弁21及び排気弁22の開弁時期及び閉弁時期はそれぞれ、負荷の増大に拘わらず一定に保持される。
【0122】
また、図9(i)に示すように、EGR弁511の開度を全開に変更すると共に、同図(j)に示すように、EGRクーラバイパス弁531の開度もまた全開に変更する。また、図9(h)に示すように、スロットル弁36の開度は一時的に絞られ、これによってEGR率を50%よりも高くなるようにする。こうして、図9(d)に示すように、所定負荷T3において、必要量のホットEGRガス(つまり、冷却しない外部EGRガス)を気筒18内に導入する。ホットEGRガスを、エンジン負荷の増大に伴い減少させるため、図9(j)に示すように、EGRクーラバイパス弁531の開度は、所定負荷T3以上の高負荷側において、全開から次第に閉じられる一方で、クールドEGRガス量は、エンジン負荷の増大に従い増量させるため、EGR弁511は全開を維持しながら、スロットル弁36の開度を次第に全開へと変更する。
【0123】
(所定負荷T4からT5)
CIモードの所定負荷T4以上のエンジン負荷においては、クールドEGRガスとホットEGRガスとの導入割合を調整することだけでは、圧縮着火の着火性確保と、過早着火等の異常燃焼の回避とを両立させることが困難になることから、前述したように、高圧リタード噴射を行う。これは、図4の運転マップにおいては領域(3)に相当する。
【0124】
図10(k)に示すように、燃料の噴射開始時期は、領域(1)(2)における吸気行程中の時期から、圧縮上死点付近の時期へと大きく変更される。また、燃料圧力も、図10(l)に示すように、領域(1)(2)における低燃圧から、30MPa以上の高燃圧へと大きく変更される。このように、領域(2)と領域(3)との間では燃料の噴射形態が大きく変更されるものの、気筒18内のガス組成は連続的に変化しているため、吸気弁21及び排気弁22の開弁期間や閉弁期間、スロットル弁36の開度、EGR弁511の開度及びEGRクーラバイパス弁531の開度はそれぞれ急変することはない(図8(e)(f)(g)、図9(h)(i)(j)を参照)。このことは、領域(2)と領域(3)との間の移行に際しトルクショック等が発生することを抑制する上で有利であり、制御の簡素化が図られる。
【0125】
所定負荷T4以上の高負荷側において、高圧リタード噴射としての燃料噴射の開始時期は、図10(k)に示すように、エンジン負荷の増大に従って、次第に遅角される。また、燃料圧力も、同図(l)に示すように、エンジン負荷の増大に従って高く設定される。エンジン負荷の増大に伴い、過早着火等が、より発生し易くなると共に、圧力上昇もより激しくなり得る。そこで、燃焼の噴射開始時期をより遅らせると共に、燃料圧力をより高く設定することで、これらを有効に回避する。
【0126】
また、所定負荷T4から所定負荷T5においては、スロットル弁36の開度は全開で一定にされる(図9の(h)参照)一方で、EGR弁511の開度及びEGRクーラバイパス弁531の開度はそれぞれ、エンジン負荷の増大に従って減少する(図9(i)(j)参照)。尚、EGR弁511の開度とEGRクーラバイパス弁531の開度と比較したときに、EGRクーラバイパス弁531の開度の方が、その低下率は高い。
【0127】
(所定負荷T5からT6)
所定負荷T5はCIモードとSIモードとの切り替えに係り、所定負荷T5を超える高負荷側においては、SIモードとなる。CIモードとSIモードとの切り替えに係る境界を挟んだ低負荷側と高負荷側とのそれぞれにおいて、混合気の空燃比を、理論空燃比(λ≒1)に設定しているため、EGR率は、CIモードからSIモードにかけて連続的に減少するように設定される。このことは、燃焼形態の切り替えが行われるCIモードからSIモードへの移行に際しては、火花点火を開始すること以外に大きな変化はなく、CIモードからSIモードへの切り替え、又は、その逆の切り替えをそれぞれスムースにし、トルクショック等の発生を抑制することが可能になる。特にEGR通路50を通じた排気ガスの還流に係る制御応答性は比較的低いため、EGR率を急変させないような制御は、制御性の向上に有利である。
【0128】
また、前述したようにCIモードにおいては、EGR率をできるだけ高く設定していることに伴い、SIモード内における、CIモードとの境界付近の低負荷領域では、EGR率が高くなってしまう。高いEGR率は、ポンプ損失の低減には有利であるものの、SIモードにおいては、燃焼安定性に不利になる場合がある。
【0129】
そこで、SIモードにおける低負荷の領域、具体的には所定負荷T6よりも低負荷側においては、ホットEGRガスを気筒18内に導入する。つまり、EGRクーラバイパス通路53を通過した、冷却しない外部EGRガスを気筒18内に導入する。このことで、図7(b)に示すように、気筒18内の温度を高めに設定し、着火遅れ時間を短くして、高EGR率の環境下における火花点火燃焼の安定性を高めるようにしている。
【0130】
具体的には、図9(i)(j)に示すように、EGR弁511の開度及びEGRクーラバイパス弁531の開度をそれぞれ、CIモード時から連続するように、負荷の増大に従い次第に減少させる。これにより、エンジン負荷の増大に対してクールドEGRガスは増量し、ホットEGRガスは減量し、クールドEGRガス及びホットEGRガスを含むEGR率は、エンジン負荷の増大に対して次第に低下する。従って、新気量は増大する。そうして、所定負荷T6以上のエンジン負荷においては、気筒18内の温度が高まることにより燃焼安定性が高まるため、EGRクーラバイパス弁531を閉じてホットEGRガス量をゼロにする。尚、このときにEGR弁511は開いている。また、所定負荷T5からT6の間において、スロットル弁の開度は全開に維持されると共に(図9(h)参照)、吸気弁21及び排気弁22の開弁時期及び閉弁時期も、一定にされる(図8(e)(f)(g)参照)。
【0131】
一方、燃料噴射の開始時期は、図10(k)に示すように、エンジン負荷の増大に従って、次第に遅角すると共に、燃圧も、同図(l)に示すように、エンジン負荷の増大に従って、次第に高くする。また、点火時期は、同図(m)に示すように、燃料噴射の開始時期と共に、エンジン負荷の増大に従って、次第に遅角する。尚、SIモードにおいて、所定負荷T5からT6の低負荷側の領域では、所定の点火時期に点火プラグ25を作動させることで火花点火を行うものの、その燃焼形態は、火花点火により火炎核が生成されて、火炎が伝播する形態とは限らず、火花点火により低温酸化反応が促進されて自着火するような形態もあり得る。
【0132】
(所定負荷T6以上)
SIモードにおいて、所定負荷T6以上の高負荷側においては、図7(a)(d)に示すように、ホットEGRガス量はゼロになり、クールドEGRガスのみが気筒18内に導入される。尚、図示は省略するが、所定負荷T6以上の高負荷側では、インタークーラバイパス弁351を開ける(例えばエンジン負荷の増大に応じてその開度を次第に大きくする)ことによって、インタークーラ/ウォーマ34をバイパスする新気量を増やすようにし、気筒18内に導入する新気の温度を低くしてもよい。これは、高負荷側の領域において、気筒18内の温度を低下させて過早着火やノッキング等の異常燃焼を回避する上で有利になる。
【0133】
また、図9(h)に示すようにスロットル弁36の開度は全開に維持されると共に、同図(i)に示すように、EGR弁511は、エンジン負荷の増大に従い次第に閉じて、全開負荷で閉弁する。従って、全開負荷ではEGR率はゼロになる(図7(a)(d)参照)。一方で、図8(f)(g)に示すように、エンジン負荷の増大に従い、吸気弁21のリフト量を次第に大きくし、全開負荷で最大リフト量にする。こうして気筒18内に導入する新気量を、エンジン負荷の増大に従って増量させることで、エンジン1の運転領域における高負荷側でのトルクの向上を図る。
【0134】
さらに、図10(k)(l)(m)に示すように、燃料噴射開始時期は、エンジン負荷の増大に従って次第に遅角されると共に、燃料圧力も、エンジン負荷の増大に従って次第に高く設定される。そうして、点火時期も、エンジン負荷の増大に従って次第に遅角される。エンジン負荷の増大に伴い異常燃焼等が生じやすくなるものの、噴火開始時期の遅角化及び燃料圧力の高圧化によって、それが、効果的に回避される。
【0135】
以上、図7〜10を参照しながら、エンジン負荷の高低に対する各パラメータの変化を説明したが、図12は、EGR率とエンジン負荷との関係を示している。前述の通り、エンジン負荷の低い軽負荷の領域では、空燃比をリーンに設定している一方で、その軽負荷の領域よりも負荷の高い領域では、エンジン負荷の高低や、燃焼形態の相違に拘わらず、空燃比を理論空燃比(λ≒1)で一定に設定している。エンジン1は、図12に太実線の矢印で示す制御ラインに沿って制御され、空燃比を理論空燃比(λ≒1)に設定する条件下で、EGR率を最大に設定している。従って、エンジン負荷の高低に対し、また、燃焼形態の切り替えに拘わらず、EGR率は連続的に変化する。このことは、エンジン負荷が連続的に変化するようなときには、気筒18内のガス組成が連続的に変化することになるから、制御性の向上に有利である。
【0136】
また、大量のEGRガスを気筒18内に導入しつつ、吸気行程中に燃料噴射を行うことで圧縮着火燃焼を行う燃焼形態(つまり、領域(1)(2)に相当)では、図12に一点鎖線で示すように、dP/dtの制約から、所定以上のエンジン負荷を実現することができないものの、ここにおいては、30MPa以上の高い燃料圧力でかつ、圧縮上死点付近において燃料を噴射する高圧リタード噴射を行うことと、比較的多量のEGRガスを気筒18内に導入することによって、燃焼を緩慢にしてdP/dtの制約を解消しつつ、圧縮着火燃焼を安定して行うことが可能になる。これは、図4においては領域(3)の燃焼形態に相当し、CIモードを高負荷側に拡大することが可能になる。また、この領域(3)を設けることによって、エンジン負荷の高低に対するEGR率の連続的な変化が実現する、ということもできる。
【0137】
エンジン1の幾何学的圧縮比が高いことに起因して、過早着火(プリイグニッション)等の異常燃焼が生じ得るSI燃焼の領域(図12における一点鎖線を参照)においては、高圧リタード噴射を行うことにより、そうした異常燃焼を回避して、安定した火花点火燃焼を実行することが可能になる。高圧リタード噴射はまた、燃焼安定性を高めることから、CIモードからSIモードへの切り替え直後の負荷において、高いEGR率が設定されても、所定の燃焼安定性を確保する上で有利である。このこともまた、エンジン負荷の高低に対して、EGR率を連続的に変化させることを可能にしている要因である。
【0138】
こうして、エンジン負荷の高低に対して、気筒18内の状態量の連続性を確保することは、SIモード及びCIモードの切り替えを伴うエンジン1において、モードの切り替え時のトルクショック等を抑制する上で有利になる。
【0139】
また、幾何学的圧縮比が高く設定されたエンジン1においては、高圧リタード噴射で燃料を噴射するようなタイミングでは、燃焼室19の容積が比較的小さくなる。これは、燃焼室19内の空気利用率の点では不利になり得るものの、高圧リタード噴射は、高い燃圧で、キャビティ141内に燃料を噴射することで、キャビティ141内の流動を強めて空気の利用率を高める。特にインジェクタ67は、多噴口型であるため、キャビティ141内のガスの乱れエネルギを効果的に高め、空気利用率の向上に有利になる。
【0140】
その結果、CIモードにおける領域(3)では、比較的均質な混合気が速やかに形成されるようになり、圧縮着火燃焼の着火性及び安定性が向上する。同様に、SIモードにおける領域(4)でも、異常燃焼が回避される。
【0141】
ここで、CIモードにおける高圧リタード噴射と、SIモードにおける高圧リタード噴射とを比較すると、図10(k)に示すように、CIモードにおける高圧リタード噴射の方が、燃料の噴射開始時期が進角側に設定される。これは、CIモードにおいて高圧リタード噴射を行う領域(3)は、圧縮着火燃焼を行うこととエンジン1の負荷が相対的に低いことにより大量のEGRガスを気筒内に導入することが可能であって、大量のEGRガスにより燃焼を緩慢化させることが可能である。そこで、燃料噴射の開始時期を、異常燃焼を回避し得る限度で、より早めることで、均質混合気の形成期間を、ある程度長く確保して着火性や燃焼安定性を向上させつつ、圧縮着火の時期を圧縮上死点以降に遅らせて、大量のEGRガスによる燃焼の緩慢化と共に、急激な圧力上昇を回避することが可能になる。
【0142】
これに対し、SIモードにおける高圧リタード噴射を行う領域(4)(又は領域(5))は、燃焼安定性の観点から大量のEGRガスを気筒18内に導入することができないため、燃料噴射の開始時期をできるだけ遅らせることによって、リタード噴射の作用効果により、異常燃焼を回避することが望ましい。
【0143】
(ホットEGRガスの制御に係る別構成)
前述したように、排気VVL71と吸気CVVL73との制御を組み合わせることにより、内部EGRガス量を調整しようとした場合には、所定量においてEGR率の不連続が発生することになる(図11参照)。図13図18に示すエンジン100は、動圧排気を利用して内部EGRガス量を、最大量からゼロまで、連続的に変更可能にするものである。
【0144】
具体的に、このエンジン100では、その排気側の構成に特徴があり、図14図17は、排気マニホールド400の構造を詳細に示すための図である。これら図14図17に示すように、排気マニホールド400は、第1〜第4の各気筒18A〜18Dの排気ポート17に上流端部が接続される3つの独立排気通路401,402,403と、各独立排気通路401,402,403の下流端部(エンジン本体100から遠ざかる側の端部)が独立状態を維持したまま互いに近接するように束ねられた集約部404と、集約部404の下流側に設けられ、独立排気通路401,402,403の全てと連通する共通の空間が内部に形成された負圧発生装置405とを有しており、負圧発生装置405の下流側に単一の排気管40が接続されている。図示の都合上、図16では、各独立排気通路401,402,403等を想像線で示しており、図15では、後述するバイパス通路411,412,413及びバイパス下流部414を省略している。
【0145】
このようにこのエンジン100では、4つの気筒18A,18B,18C,18Dに対し3つの独立排気通路401,402,403が用意されている。これは、中央側の独立排気通路402が、2番気筒18B及び3番気筒18Cに対し共通に使用可能なようにY字状に分岐した形状とされているからである。すなわち、独立排気通路402は、2番気筒18B及び3番気筒18Cの各排気ポート17から延びて下流側で合流する2つの分岐通路部4021,4022と、各分岐通路部4021,4022が合流した部分からさらに下流側に延びる単一の共通通路部4023とを有している。一方、1番気筒18A及び4番気筒18Dの各排気ポート17に接続される独立排気通路401,403については、分岐のない単管状に形成されている。尚、以下では、単管状の独立排気通路401,403を、それぞれ「第1独立排気通路401」及び「第3独立排気通路403」といい、二股状に分岐した独立排気通路402を「第2独立排気通路402」という場合がある。
【0146】
4サイクルの4気筒エンジンであるエンジン100では、1番気筒18A→3番気筒18C→4番気筒18D→2番気筒18Bの順に点火が行われるので、二股状に形成された第2独立排気通路402の上流端部が接続される2番気筒18B及び3番気筒18Cは、排気順序(排気行程が実施される順序)が連続しない関係にある。このため、2番気筒18B及び3番気筒18Cに共通の独立排気通路402を接続した場合でも、これら両気筒18B,18Cからの排気ガスが同時に独立排気通路402に流れることはない。
【0147】
単管状に形成された第1、第3独立排気通路401,403は、その各下流端部の位置が第2独立排気通路402の下流端部と一致するように、気筒列方向の中央側を指向して延びている。すなわち、特に図15に示すように、第1独立排気通路401の下流端部と、第2独立排気通路402の共通通路部4023の下流端部と、第3独立排気通路403の下流端部とが、それぞれ、エンジン本体1の排気側の壁面中央(上面視で2番気筒18Bと3番気筒18Cの間に対応する位置)から下流側に離れた位置において1箇所に束ねられている。そして、束ねられた3つの独立排気通路401,402,403の各下流端部と、これらを束ねた状態に保持する保持部材等により、集約部404が形成されている。
【0148】
図17に示すように、各独立排気通路401,402,403の各下流端部、つまり、第1独立排気通路401の下流端部と、第2独立排気通路402の共通通路部4023の下流端部と、第3独立排気通路403の下流端部とは、それぞれ、円を3等分したような扇型の断面を有しており、このような断面を有する各下流端部が3つ集まることにより、全体としてほぼ円形の集約部404が形成されている。
【0149】
集約部404において近接配置された各独立排気通路401,402,403の下流端部は、下流側に至るほど通路断面積が小さくなるノズル状に形成されている(例えば図14図15参照)。このため、各独立排気通路401,402,403の下流端部を通過した排気ガスは、そこで加速した後に(流速を高めた後に)、負圧発生装置405へと噴出される。
【0150】
また、各独立排気通路401,402,403の下流端部は、集約部404において、比較的平行に近い角度で束ねられている。具体的に、各独立排気通路401,402,403の下流端部は、それぞれの軸心同士がなす角度が例えば10度前後の浅い角度となるように配置されている。
【0151】
図14及び図15に示すように、負圧発生装置405は、下流側ほど通路断面積が小さくなるように形成されたノズル部406と、ほぼ一様の通路断面積を有するように形成されたストレート部407と、下流側ほど通路断面積が大きくなるように形成されたディフューザ部408とを、上流側から順に有している。このため、各独立排気通路401,402,403のいずれかの下流端部から噴出された排気ガスは、まずノズル部406へと流入し、そこでさらに加速する(このとき排気ガスの圧力は低下する)。また、ノズル部406で加速された排気ガスは、ストレート部407及びディフューザ部408を通過するにつれて減速され、これに伴って排気ガスの圧力が回復させられる。
【0152】
各独立排気通路401,402,403のいずれかの下流端部から負圧発生装置405のノズル部406に向けて高速で排気ガスが噴出されると、その噴出ガスの周囲に、相対的に圧力の低い負圧部が生成される。したがって、ある気筒の独立排気通路(401,402,403のいずれか)から負圧発生装置405に排気ガスが噴出されたときには、他の気筒の独立排気通路等に負圧が作用して、そこから排気ガスが下流側へと吸い出されることになる。これは、エゼクタ効果として知られている。
【0153】
尚、エゼクタ効果は、ノズル部406の下流端部の面積(ストレート部407の面積に同じ)の等価円直径をD、独立排気通路401,402,403の各下流端部の等価円直径をaとしたときに、a/D≧0.5であれば充分なエゼクタ効果が得られることが分かっている。このため、当実施形態でも、a/Dは0.5以上(例えば0.65)に設定される。ここで、等価円直径とは、ある形状をもった断面を面積が同じ真円に置き換えたときの直径のことである。
【0154】
図14及び図16に示すように、この排気マニホールド400は、独立排気通路401,402,403や負圧発生装置405等に加えて、各独立排気通路401,402,403の途中部から分岐して延びかつ下流側で合流する3つのバイパス通路411,412,413と、各バイパス通路411,412,413が合流した部分から下流側に延びるバイパス下流部414とをさらに有している。バイパス下流部414は、その下流端部が、負圧発生装置405より下流側の排気通路である排気管40に接続されている。すなわち、バイパス通路411,412,413は、バイパス下流部414を介して、各独立排気通路401,402,403の途中部(負圧発生装置405よりも上流側の部分)と排気管40とを連結している。尚、バイパス通路411,412,413が合流する角度は、比較的広い角度に設定されており、例えば、バイパス通路411と412の各軸心どうしの交差角度、及びバイパス通路412と413の各軸心どうしの交差角度が、それぞれ30度以上に設定されている。
【0155】
各バイパス通路411,412,413及びバイパス下流部414は、その上流端から下流端に亘ってほぼ一定の断面積を有するように形成されており、その断面積は、各独立排気通路401,402,403の下流側部分の各断面積よりも大きく設定されている。当実施形態において、バイパス通路411,412,413及びバイパス下流部414の各断面積は、独立排気通路401,402,403の下流端部が集まった集約部404の円形の断面積(各通路401,402,403の下流端部の合計の面積)とほぼ同一に設定されている。
【0156】
各バイパス通路411,412,413の内部には、それぞれ、開閉可能な流通切替弁415が設けられている。各流通切替弁415は、共通のロッド416を中心に回動するように設けられ、ロッド416の一端はアクチュエータ417に連結されている。そして、アクチュエータ417の作動によってロッド416が回転すると、これに伴い各流通切替弁415が同時に駆動されてバイパス通路411,412,413が開閉されるようになっている。
【0157】
前記のように動作する流通切替弁415は、各気筒18A〜18Dから排出された排気ガスを負圧発生装置405に通すか否かを切り替えるために使用される。例えば、流通切替弁415が全閉にされると、各気筒18A〜18Dから排出された排気ガスは、全て独立排気通路401,402,403を通って負圧発生装置405に流入する。これにより、負圧発生装置405の内部に強い負圧(充分に圧力が低下した負圧)が発生し、充分な排気ガスの吸い出し作用(エゼクタ効果)が得られる。一方、流通切替弁415が全開にされた場合は、各気筒18A〜18Dから排出された排気ガスの大部分が、バイパス通路411,412,413を通って下流側に流れ、負圧発生装置405を通過することなくその下流側の排気管40に流入する。これにより、負圧発生装置405での負圧が生成されなくなるので、エゼクタ効果が大幅に低下する。尚、流通切替弁415を全開にしたときに排気ガスの大部分が(独立排気通路401,402,403ではなく)バイパス通路411,412,413を通過するのは、独立排気通路401,402,403の各下流端部の断面積に比べてバイパス通路411,412,413の断面積が大きく、流通抵抗が少ないからである。
【0158】
このようにエンジン100の排気系に負圧発生装置405等を設けていることで、詳しくは後述するが、内部EGR率をゼロになるまで連続的に変更することが可能になる。そのため、このエンジン100においては、ホットEGRガスとして、EGRクーラ52をバイパスする外部EGRガスが不要になる。そこで、図13に示すように、EGRクーラバイパス通路53及びEGRクーラバイパス弁531はそれぞれ省略されていて、EGR通路としては主通路51のみである。また、図18に示すように、PCM10は、EGRクーラバイパス弁531に制御信号を出力する代わりに、前記の流通切替弁315の開度を調整するアクチュエータ417に、制御信号を出力する。
【0159】
次に、このような構成のエンジン100の制御について、図19〜21を参照しながら説明する。図19〜21は、前述した図7〜9に対応しており、図19(a)は気筒18内のガス組成、図19(b)は、圧縮開始時の気筒内の温度、図19(c)は酸素濃度、図19(d)は、吸気中の外部EGR割合をそれぞれ示している。この内、図19(b)(c)は、図7(b)(c)と同一である。
【0160】
図20(a)及び(d)は、図19(a)及び(d)と同じであり、それぞれ気筒18内のガス組成、及び、吸気中の外部EGR割合を示している。また、図20(e)は排気弁22の開閉時期、同図(f)は吸気弁21の開閉時期、同図(g)は吸気弁のリフト量である。
【0161】
図21(a)及び(d)は、図19(a)及び(d)と同じである。また、図21(h)はスロットル弁36の開度、同図(i)はEGR弁511の開度、同図(j)は流通切替弁415の開度を示している。
【0162】
尚、エンジン100において、燃料噴射及び点火時期に関する制御は、エンジン1における制御と同じであり、図10(k)(l)(m)をそれぞれ参照する。
【0163】
先ず、図19(a)において、軽負荷から所定負荷T1まで、及び、所定負荷T1からT2までの間は、図7(a)と同じである。但し、図21(j)に示すように、流通切替弁415の開度は全開に設定されており、これにより、排気ガスはバイパス通路411,412,413を通って排出される。この場合、後述するように、排気ポート17に吐き出された排気ガスの吸引作用は生じないため、排気の二度開きにより、十分な量の内部EGRガスを気筒18内に導入することが可能である。
【0164】
図7(a)(e)においては、所定負荷T3において排気VVL71をオフにするが(図8(e)参照)、図20(a)(e)では、所定負荷T3においても排気VVL71をオフにしない(図20(e)参照)。排気VVL71は、SIモードにおける所定負荷T6まで、オンを継続させる。
【0165】
また、図20(f)(g)に示すように、所定負荷T2以上の高負荷側において、吸気弁21のリフト量は、エンジン負荷の増大に従って次第に大きくなり、それに伴い、吸気弁21の開弁時期が進角される。こうして、排気VVL71の制御と吸気CVVL73の制御とによって、内部EGRガスの導入量は、図20(a)に示すように、エンジン負荷の増大に従って次第に減少される。このように排気VVL71の作動を停止しないことにより、吸気弁21のリフト量を急変させる必要がなくなる(図8(g)を参照)。さらに、図21(i)に示すように、EGR弁511の開度を急変させる必要もなくなる(図9(i)も参照)。これは、エンジン負荷の増大に対する制御性を高める。尚、所定負荷T4以上のエンジン負荷で高圧リタード噴射を行う点は、前記と同様である(図9(k)(l)(m)参照)。
【0166】
エンジン負荷が所定負荷T5を超えれば、CIモードからSIモードへの切り替えが行われる。所定負荷T5を超える高負荷側においては、図21(j)に示すように、流通切替弁415が、全開から次第に閉じられる。これにより、バイパス通路411,412,413を流れる排気ガスの量が減り、独立排気通路401,402,403を通じて負圧発生装置405に流入する排気ガスの量が増える。このことは、負圧発生装置405内で生成される負圧を強くし、排気ポート17に吐出された排気ガスが吸引されることにより、排気二度開き時に気筒18内に戻される内部EGRガスの量を減少させることにつながる。つまり、負圧発生装置405内の負圧が強くなる(圧力が下がる)と、この負圧が独立排気通路401,402,403を通じて排気ポート17まで及び、排気ガスが下流側に吸引される結果、排気ポート17から気筒18内へ排気ガスが逆流する現象が起き難くなる。エンジン負荷が高くなるほど流通切替弁415の開度が低減されるので、負圧発生装置35で発生する負圧による排気ガスの吸引作用(エゼクタ効果)が徐々に強められ、その結果として、図21(a)に示すように、内部EGRガスの量が徐々に低減される。
【0167】
そうして、内部EGRガスの導入量がゼロに設定される所定負荷T6において、図21(j)に示すように、流通切替弁415の開度を全閉に設定すると共に、図20(e)に示すように、排気VVL71をオフにする。
【0168】
所定負荷T6以上の高負荷側は、基本的には図7等の制御と同じであるが、図21(j)に示すように、流通切替弁415の開度は、全開負荷まで全閉のままで維持される。これにより、前述したように、気筒18から排出された排気ガスの全量が負圧発生装置405に流入するようになり、そこで発生する負圧が強くなる。所定負荷T6以降の高負荷側では、排気二度開きが停止しているが、強い負圧は、排気弁22が開弁している排気行程中において、気筒18内の残留ガスの吸引(掃気)に利用され、新気の充填量の増大と気筒18内の温度低下とに寄与する。このことは、高負荷側の領域におけるトルクの増大に有利になる。
【0169】
(動弁機構の別構成)
図2に示す構成では、吸気弁21の動弁機構を、CVVL73を含んで構成している。これとは異なり、図22に示すように、吸気弁21の動弁機構は、CVVL73に代えて、排気側の動弁系と同様に、VVL74を備えて構成することが可能である。但し、吸気側のVVL74は、排気側のVVL71とは異なる。吸気側のVVL74は、吸気弁21のリフト量を相対的に大きくする大リフトカムと、吸気弁21のリフト量を相対的に小さくする小リフトカムとの、カムプロファイルの異なる2種類のカム、及び、大リフトカム及び小リフトカムのいずれか一方のカムの作動状態を選択的に吸気弁21に伝達するロストモーション機構を含んで構成されている。図24A〜24Cに示すように、VVL74が小リフトカムの作動状態を吸気弁21に伝達しているときには、吸気弁21は、相対的に小さいリフト量で開弁すると共に、その開弁期間も短くなる。これに対し、図24D、24Eに示すように、VVL74が大リフトカムの作動状態を吸気弁21に伝達しているときには、吸気弁21は、相対的に大きいリフト量で開弁すると共に、その開弁期間も長くなる。
【0170】
また、排気弁22の動弁機構は、VVL71に加えて、VVT75をさらに備えている。VVT75は、吸気弁21のVVT75と同様に、液圧式、電磁式又は機械式の公知の構造を適宜採用すればよい。
【0171】
図23は、吸気弁21の動弁機構がVVL74を含んだ構成での、エンジン負荷の高低に対するエンジン1の各パラメータの制御例を示しており、この図は、図8に対応する。
【0172】
CIモードにおいて、所定負荷T1よりも負荷の低い領域では、図23(e)に示すように、排気VVL71をオンにして排気弁22を吸気行程中に開弁する排気の二度開きを行う。また、図23(g)に示すように、吸気VVL74は、吸気弁21を小リフトカムで開閉する。吸気弁21の開弁時期は遅くする(図23(f)参照)。この状態での吸気弁21及び排気弁22のリフト特性は、図24Aに例示される。そうして、内部EGR率を、例えば80%程度の最も高い値に設定する。
【0173】
所定負荷T1からT3までの領域では、図23(e)に示すように、排気VVL71をオンのままにして、排気の二度開きを継続する。また、図23(g)に示すように、吸気VVL74は、吸気弁21を小リフトカムで開閉する。そうして、図23(e)に示すように、排気弁22の開弁時期を、エンジンの負荷が増大するに従い遅角させる一方で、図23(f)に示すように、吸気弁21の開弁時期を、エンジン負荷の増大に従い進角させる。この状態での吸気弁21及び排気弁22のリフト特性は、図24Bに例示される。こうして、エンジン負荷の増大に従い吸気弁21の開弁期間と排気弁22の開弁期間との重なりを変更することによって、内部EGR率を低下させる(図23(a)参照)。
【0174】
所定負荷T3からT5までの領域では、先ず、所定負荷T3において、排気VVL72をオフにして、排気の二度開きを停止する(図23(e)参照)。この状態での吸気弁21及び排気弁22のリフト特性は、図24Cに例示される。図22に示すエンジン構成では、吸気弁21及び排気弁22の双方の動弁機構がそれぞれ、VVT72及びVVT75を有していて、各弁21、22の開弁時期を調整することから、所定負荷T3において排気VVL72をオフにするときに、吸気弁21の開弁動作を急変させる必要がなくなる。吸気弁21は、小リフトカムのままで、その開弁時期を、エンジン負荷の増大に従い進角させる。排気弁222の開弁時期は進角させずに、一定のままである。そうして、前述したように、外部EGRガスを気筒18内に導入しつつ、エンジン負荷の増大に従い新気量を増大させる。尚、所定負荷T4以上においては、前記と同様に、高圧リタード噴射を実行する。
【0175】
所定負荷T5からT6までの領域では、所定負荷T5において、排気VVL72をオフのままで、吸気弁21のVVL74は、小リフトカムから大リフトカムへと切り替える(図23(g)参照)。この状態での吸気弁21及び排気弁22のリフト特性は、図24Dに例示される。これにより、図23(f)に示すように、吸気弁21の開弁時期を維持したまま、閉弁時期が遅角する。そうして、エンジン負荷の増大に従い、吸気弁21の開弁時期を進角させる。一方、排気弁22の開弁時期は進角させずに、一定のままである。これにより、外部EGRガスを気筒18内に導入しつつ、エンジン負荷の増大に従い新気量をさらに増大させる。
【0176】
所定負荷T6以上の高負荷領域では、排気VVL72はオフのままで、吸気弁21のVVL74は大リフトカムのままで、吸気弁21及び排気弁22の開弁時期を共に、エンジン負荷の増大に従い進角させる。この状態での吸気弁21及び排気弁22のリフト特性は、図24Eに例示される。そうして、外部EGRによるEGR率をゼロまで減少させつつ、新気量をさらに増大させる。
【0177】
尚、ここに開示する技術は、前述したエンジン構成への適用に限定されるものではない。例えば、吸気行程期間内における燃料噴射は、気筒18内に設けたインジェクタ67ではなく、別途、吸気ポート16に設けたポートインジェクタを通じて、吸気ポート16内に燃料を噴射してもよい。
【0178】
また、エンジン1は、直列4気筒エンジンに限らず、直列3気筒、直列2気筒、直列6気筒エンジン等に適用してもよい。また、V型6気筒、V型8気筒、水平対向4気筒等の各種のエンジンに適用可能である。
【0179】
さらに、前記の説明では、所定の運転領域において混合気の空燃比を理論空燃比(λ≒1)に設定しているが、混合気の空燃比をリーンに設定してもよい。但し、空燃比を理論空燃比に設定することは、三元触媒の利用が可能になるという利点がある。
【0180】
図4に示す運転領域は例示であり、これ以外にも様々な運転領域を設けることが可能である。
【0181】
また、高圧リタード噴射は、必要に応じて分割噴射にしてもよく、同様に、吸気行程噴射もまた、必要に応じて分割噴射にしてもよい。これらの分割噴射では、吸気行程と圧縮行程とのそれぞれにおいて燃料を噴射してもよい。
【符号の説明】
【0182】
1 エンジン(エンジン本体)
10 PCM(制御器)
18 気筒
25 点火プラグ
50 EGR通路(排気還流システム)
51 主通路(排気還流システム)
511 EGR弁(排気還流システム)
52 EGRクーラ(排気還流システム)
53 EGRクーラバイパス通路(排気還流システム)
531 EGRクーラバイパス弁(排気還流システム)
62 燃料供給システム(燃圧設定機構)
67 インジェクタ(燃料噴射弁)
71 VVL(排気還流システム)
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24A
図24B
図24C
図24D
図24E