【0020】
(1)上記目的を達成するため、従来のトーショナルダンパに対し、以下の構造とする。
(1−1)振動リングにおけるマス部とプーリ部を別体とし(振動リングをマス部とプーリ部に分割し)、プーリ部は板金にて製作し、内周側に等間隔に板金の折り曲げで構成する凸部を設定する。相対するマス部の外周側にも等間隔に樹脂等の潤滑性の高い部材で構成するホルダが埋設されている。この樹脂等で構成される部材の中央部には穴(凹部)が設定されている。この穴にプーリ部の凸部が入る構成となる。
(1−2)上記(1−1)の構成により、プーリ部は軸方向に可動する。これによりミスアライメントが発生しても軸方向にプーリ部が動き、ミスアライメントがキャンセルされる。
(1−3)また、回転方向の入力に関してプーリ部とマス部はホルダに締め代をもって嵌まっているため、円周方向入力によるガタ音は発生しない。
(1−4)上記(1−1)〜(1−3)の構成によれば、プーリ部が軸方向に自由にスライドすることによりミスアライメントがキャンセルされ、TVDベルト鳴きを防止することができる。
(1−5)また、V溝(溝部)が軸方向に可動するため、V溝位置公差を大きく設定することができる。
【0021】
(2)上記目的を達成するため、従来のトーショナルダンパに対し、以下の構造とする。
(2−1)振動リングにおけるマス部とプーリ部を別体とし(振動リングをマス部とプーリ部に分割し)、その間にラジアルベアリングおよび軸方向一対のスプリングを設置する。また、スプリングのばね定数は、ミスアライメントにより発生するベルトの軸方向発生荷重に対し小さくなるように設定する。これによりミスアライメントが発生しても、軸方向にプーリ部が動き、ミスアライメントがキャンセルされる。
(2−2)円弧形状のラジアルベアリングと、マス部およびプーリ部に設けた突起により回転方向の荷重を受ける。尚、この突起の数は円周上等配であれば任意に設定可能とする。
(2−3)ラジアルベアリングの材料は樹脂系または非金属材料を使用することで、振動入力による突起とのメタルタッチを防止する。
(2−4)上記(2−1)〜(2−3)の構成によれば、プーリ部が軸方向に自由にスライドすることにより、ミスアライメントによるTVDベルト鳴きを防止することができる。
(2−5)マス部とプーリ部に設けた突起とラジアルベアリングにより、捩り方向の力の伝達機能を損なうことなく軸方向にのみ摺動することが可能となる。
【実施例】
【0022】
つぎに本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
【0023】
第一実施例・・・
図1ないし
図4は、本発明の第一実施例に係るトーショナルダンパを示している。
【0024】
図1および
図2に示すように、回転軸(図示せず)に固定されるハブ1の外周側にゴム状弾性体2を介して振動リング3が連結され、この振動リング3の外周面に、無端ベルト(図示せず)を巻架するための断面V字形の溝部5が設けられている。溝部5としては、V溝を複数備えるポリV溝が描かれているが、V溝を1つのみ備えるモノV溝であっても良い。
【0025】
振動リング3は、ハブ1およびゴム状弾性体2の外周側に配置されたマス(狭義の振動リングとも称する)31と、その更に外周側に配置されたプーリ41とよりなる金属材質のリング2つの組み合わせによって形成され、プーリ41の外周面に前記溝部5が設けられ、また、プーリ41はマス31に対して供回り(同時回転)するとともに所定幅に亙って軸方向変位可能に組み付けられている。
【0026】
マス31に対するプーリ41の供回りおよび軸方向変位は、以下の構造による。
【0027】
すなわち、
図3に示すようにマス31の外周面に円周上一部の凹部32が設けられるとともにこれに対応して
図4に示すようにプーリ41の内周面に同じく円周上一部の凸部42が設けられ、この凹部32および凸部42が係合することによってプーリ41がマス31に対して供回りするとともに所定幅に亙って軸方向変位可能に組み付けられている。係合は、円周方向については、あそびが設定されておらず、軸方向については、あそびが設定されている。凹部32および凸部42は複数が等配状に設けられている(図では12等配が想定されている)。
【0028】
また、凹部32は、金属材質のマス31の外周面に設けた凹み33に嵌め込まれたピース状を呈する樹脂材質のホルダ34に予め設けられた凹部によって形成され、一方、凸部42は、金属材質のプーリ41を板金プレス加工することによってプーリ内周面からV字状に突出する凸部によって形成されている。
【0029】
尚、プーリ41は、板金を断面横U字形に折り返して内周筒部43および外周筒部44を互いに接触するかたちにて一体に有するものであって、内周筒部43に前記プレス加工により前記凸部42が設けられるとともに外周筒部44に前記溝部5が設けられている。
【0030】
上記構成のトーショナルダンパは、ハブ1をもって回転軸に固定され、回転軸に生起する捩り振動を吸収減衰するとともに、溝部5に無端ベルトを巻架し、回転軸から各種の補機などへ回転トルクを伝達するものであって、上記構成により以下の作用効果を発揮する点に特徴を有している。
【0031】
すなわち先ず、振動リング3が内周側のマス31および外周側のプーリ41よりなるリング2つの組み合わせによって形成されるとともにマス31に対してプーリ41が供回りするとともに軸方向変位可能に組み付けられているために、上記
図9のようにプーリ41および無端ベルト間にミスアライメントが存在すると、プーリ41が無端ベルトの張力によって引っ張られるかたちにてマス31に対して軸方向変位し、これによりミスアライメントが吸収される。したがって従来のように溝部位置公差を厳しく管理しなくてもミスアライメントを低減させることができ、もってベルト鳴き現象が発生するのを抑制することができる。
【0032】
また、凹部32および凸部42の係合について、凹部32は樹脂材質のホルダ34によって形成され、この凹部32に対して金属材質の凸部42が軸方向変位可能に組み付けられている。したがって樹脂と金属とが摺接もしくは衝接する構造であるために、メタルタッチによる異音の発生を抑制することができる。
【0033】
また、凸部42がプレス加工によってプーリ内周面からV字状に突出する凸部として形成されているために、マス31に対してプーリ41が軸方向変位したとき、このV字状の凸部42は、そのV字の一方の斜面が凹部32の肩部に乗り上げるようにして軸方向変位し、あるいはV字の一方の斜面が凹部32の肩部に押し付けられて弾性変形しながら軸方向変位し、このとき、凸部42を初動位置へ復帰される方向に弾性復帰力が作用することがある。したがってこのように弾性復帰力が作用する場合には、自動で凸部42すなわちプーリ41を初動位置へ復帰動させることができる。ホルダ34における凹部32の開口周縁部には、凸部42を軸方向変位しやすくするため、或いは凸部42を復帰動しやすくするために、面取り状の斜面を設けるようにしても良い。
【0034】
第二実施例・・・
図5ないし
図7は、本発明の第二実施例に係るトーショナルダンパを示している。
【0035】
図5に示すように、回転軸(図示せず)に固定されるハブ1の外周側にゴム状弾性体2を介して振動リング3が連結され、この振動リング3の外周面に、無端ベルト(図示せず)を巻架するための断面V字形の溝部5が設けられている。溝部5としては、V溝を複数備えるポリV溝が描かれているが、V溝を1つのみ備えるモノV溝であっても良い。
【0036】
振動リング3は、ハブ1およびゴム状弾性体2の外周側に配置されたマス(狭義の振動リングとも称する)31と、その更に外周側に配置されたプーリ41とよりなる金属材質のリング2つの組み合わせによって形成され、プーリ41の外周面に前記溝部5が設けられ、また、プーリ41はマス31に対して供回り(同時回転)するとともに所定幅に亙って軸方向変位可能に組み付けられている。
【0037】
また、マス31とプーリ41の間に、所定の樹脂材質よりなるラジアルベアリング6が介装されている。
【0038】
また、マス31の軸方向一方の端部外周に外向きフランジ部35が設けられるとともにマス31の軸方向他方の端部外周にストッパ7が設けられ(フランジ部35は一体成形による、ストッパ7は嵌合による)、このフランジ部35とプーリ41の間およびストッパ7とプーリ41の間にそれぞれ、軸方向変位したプーリ41を軸方向初動位置に復帰させるためのコイルスプリングよりなる復帰スプリング8が設けられている。
【0039】
マス31に対するプーリ41の供回りおよび軸方向変位は、以下の構造による。
【0040】
すなわち、
図7に示すようにマス31の外周面に円周上1箇所の突起(外向き突起)36が設けられるとともに180度変位してプーリ41の内周面にも円周上1箇所の突起(内向き突起)45が設けられ、これらの突起36,45がそれぞれラジアルベアリング6に係合することによってプーリ41がマス31に対して供回りするとともに所定幅に亙って軸方向変位可能に組み付けられている。したがってラジアルベアリング6は円周上2分割されているが、2分割する代わりとして、環状のラジアルベアリング6の外周面に各突起36,45に対応する軸方向に延びる溝状の凹部を設けるようにしても良い。いずれにしても係合は、円周方向について、あそびが設定されておらず、軸方向について、あそびが設定されている。
【0041】
尚、プーリ41は、その内周にラジアルベアリング6、フランジ部35、ストッパ7および軸方向一対のスプリング8を配置する都合上、溝部5を設けた軸方向中央のプーリ本体部46の軸方向両端にそれぞれ比較的内径寸法の大きな庇状の筒状部47が一体成形された形状とされており、軸方向中央のプーリ本体部46の内周側にラジアルベアリング6が配置され、軸方向一方の筒状部47の内周側にフランジ部35および一方のスプリング8が配置され、軸方向他方の筒状部47の内周側にストッパ7および他方のスプリング8が配置されている。したがって各スプリング8はプーリ本体部46を押圧することになる。
【0042】
上記構成のトーショナルダンパは、ハブ1をもって回転軸に固定され、回転軸に生起する捩り振動を吸収減衰するとともに、溝部5に無端ベルトを巻架し、回転軸から各種の補機などへ回転トルクを伝達するものであって、上記構成により以下の作用効果を発揮する点に特徴を有している。
【0043】
すなわち先ず、振動リング3が内周側のマス31および外周側のプーリ41よりなるリング2つの組み合わせによって形成されるとともにマス31に対してプーリ41が供回りするとともに軸方向変位可能に組み付けられているために、上記
図9のようにプーリ41および無端ベルト間にミスアライメントが存在すると、プーリ41が無端ベルトの張力によって引っ張られるかたちにてマス31に対して軸方向変位し、これによりミスアライメントが吸収される。したがって従来のように溝部位置公差を厳しく管理しなくてもミスアライメントを低減させることができ、もってベルト鳴き現象が発生するのを抑制することができる。
【0044】
また、マス31およびプーリ41間にラジアルベアリング6が介装されているために、マス31およびプーリ41間の径方向ガタの発生を抑制することができる。
【0045】
また、軸方向変位したプーリ41を初動位置に復帰させるための復帰スプリング8が設けられているために、自動でプーリ41を初動位置へ復帰動させることができる。尚、スプリング8には予圧縮を設定しておくことが好ましく、これにより各部品の軸方向ガタを抑制することができる。
【0046】
また、マス31およびプーリ41間にラジアルベアリング6が介装されていてマス31およびプーリ41が直接接触しないために、メタルタッチによる異音の発生を抑制することができる。