(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
図11〜
図13に示すように、燃料電池は、電解質膜及びその両面に設けた不図示の触媒電極層からなるMEA(Membrane Electrode Assembly:膜−電極複合体)101を、厚さ方向両側からGDL102,103を介してセパレータ104,105で挟持することによって、発電の最小単位である燃料電池セル100が構成されている。GDL102,103の外周側には、それぞれゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)からなるガスケット106,107が、GDL102,103の縁部へゴム状弾性材料の一部が含浸された状態で一体的に成形されている。
【0003】
セパレータ104,105及びガスケット106,107にはそれぞれ複数のマニホールド孔104a,105a,106a,107aが開設されており、
図11及び
図12に示すように、セパレータ104,105におけるGDL102,103との対向面(
図13に示すMEA101によるガス反応領域100A)には燃料ガス反応用溝104b及び酸化剤ガス反応用溝105bが形成され、さらにセパレータ104,105におけるガスケット106,107との対向面にはマニホールド孔104a,105aとガス反応領域100A(燃料ガス反応用溝104b及び酸化剤ガス反応用溝105b)の間を連通するガス導入溝104c及びガス導入溝105cが形成されている。そして
図13に示す積層状態では、セパレータ104,105のマニホールド孔104a,105aとガスケット106,107のマニホールド孔106a,107aが互いに重合(連通)されることによって燃料ガス、酸化剤ガスや冷媒の供給通路及び排出通路(マニホールド孔)が形成される。
【0004】
すなわちこの種の燃料電池は、各燃料電池セル100において、マニホールド孔を流通する燃料ガス(水素)が、ガス導入溝104c、燃料ガス反応用溝104b及び一方のGDL102を介してMEA101の一方の触媒電極層(アノード)側に供給され、他のマニホールド孔を流通する酸化剤ガス(空気)が、ガス導入溝105c、酸化剤ガス反応用溝105b及び他方のGDL103を介してMEA101の他方の触媒電極層(カソード)側に供給され、水の電気分解の逆反応、すなわち水素と酸素から水を生成する反応によって電力を発生するものである。そして、各燃料電池セル100による起電力は低いものであるが、多数の燃料電池セル100を積層して電気的に直列に接続したスタックとすることにより、必要な起電力が得られるようになっている(例えば特許文献1,2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この種の燃料電池は、スタックのますますの小型化・低コスト化が求められており、上述のように、GDL102,103にガスケット106,107が一体化された構成としたものは、スタック組立等での作業性が向上し、コスト低減に有効である。しかしながら、マニホールド孔とガス反応領域100A(燃料ガス反応用溝104b及び酸化剤ガス反応用溝105b)の間のガス導入溝104c及びガス導入溝105cは、セパレータ104,105の加工により形成しており、加工コストが高いものとなっている。
【0007】
本発明は、以上のような点に鑑みてなされたものであって、その技術的課題は、燃料電池用ガスケットの改良によって、燃料電池スタックの一層の低コスト化を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した技術的課題を有効に解決するための手段として、請求項1の発明に係る燃料電池用ガスケットは、セパレータとMEAの間に介在されるGDLの外周にゴム状弾性材料で一体に成形され、前記セパレータと密接されるガスケットにおいて、
前記ガスケット及び前記ガスケットに一体に設けられた補強板の前記セパレータとの対向面に、このガスケットに開設されたマニホールド孔と前記MEAによるガス反応領域を互いに連通するように延びるガス導入溝が形成されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る燃料電池用ガスケットによれば、ガスケット
及び前記ガスケットに一体に設けられた補強板に形成されたガス導入溝によって、マニホールド孔とガス反応領域の間で反応ガス(燃料ガス及び酸化剤ガス)を流通させる流路が形成され、
セパレータ側にガス導入溝を加工する必要がないので、コストを低減することができる。
【0013】
また、ガス導入溝がガスケットに一体に埋設された補強板に形成されることによって、ガスケットの圧縮によるガス導入溝の変形が防止され、しかもガス導入溝の形成部分の機械的強度が補償されるので、燃料電池スタックの組立を容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る燃料電池用ガスケットの第一の実施の形態を、MEA及びセパレータと共に積層方向から見た分離状態の平面図である。
【
図2】本発明に係る燃料電池用ガスケットの第一の実施の形態を、MEA及びセパレータと共に
図1のI−I線位置で切断して示す分離状態の部分断面図である。
【
図3】本発明に係る燃料電池用ガスケットの第一の実施の形態を、MEA及びセパレータと共に
図1のI−I線位置で切断して示す積層状態の部分断面図である。
【
図4】燃料電池セルにおける発電のメカニズムを概略的に示す説明図である。
【
図5】本発明に係る燃料電池用ガスケットの第二の実施の形態を、MEA及びセパレータと共に積層方向から見た分離状態の平面図である。
【
図6】本発明に係る燃料電池用ガスケットの第二の実施の形態を、MEA及びセパレータと共に
図5のV−V線位置で切断して示す分離状態の部分断面図である。
【
図7】本発明に係る燃料電池用ガスケットの第二の実施の形態の他の例を、MEA及びセパレータと共に
図5のV−V線位置で切断して示す分離状態の部分断面図である。
【
図8】本発明に係る燃料電池用ガスケットの第三の実施の形態を、MEA及びセパレータと共に積層方向から見た分離状態の平面図である。
【
図9】本発明に係る燃料電池用ガスケットの第三の実施の形態を、MEA及びセパレータと共に
図8のVIII−VIII線位置で切断して示す分離状態の部分断面図である。
【
図10】本発明に係る燃料電池用ガスケットの第三の実施の形態を、MEA及びセパレータと共に
図8のVIII−VIII線位置で切断して示す積層状態の部分断面図である。
【
図11】従来技術に係る燃料電池用ガスケットの一例を、MEA及びセパレータと共に積層方向から見た分離状態の平面図である。
【
図12】従来技術に係る燃料電池用ガスケットの一例を、MEA及びセパレータと共に
図11のXI−XI位置で切断して示す分離状態の部分断面図である。
【
図13】従来技術に係る燃料電池用ガスケットの一例を、MEA及びセパレータと共に
図11のXI−XI線位置で切断して示す積層状態の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る燃料電池用ガスケットの好ましい実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
まず
図1は、本発明に係る燃料電池用ガスケットの第一の実施の形態を、MEA及びセパレータと共に積層方向から見た分離状態の平面図、
図2は、
図1のI−I線位置で切断して示す分離状態の部分断面図、
図3は、
図1のI−I線位置で切断して示す積層状態の部分断面図である。
【0017】
これらの図における参照符号1,2は本発明に係るガスケットであって、ゴム状弾性材料(ゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料)、好ましくはエチレンプロピレンゴム(EPDM)、シリコーンゴム(VMQ)、フッ素ゴム(FKM)、パーフルオロゴム(FFKM)などから選択された材料で板状又はシート状に成形されている。
【0018】
GDL(Gas Diffusion Layer:ガス拡散層)3,4は、金属製の多孔体やカーボン繊維など、ガスの流通を許容する無数の微細貫通空隙を有する多孔質の導電性材料からなる同形同大の板状又はシート状のものであって、ガスケット1,2は、そのゴム状弾性材料の一部がGDL3,4の端縁部に浸透して硬化することによって、GDL3,4の外周を包囲するように、このGDL3,4に一体に成形されている。
【0019】
また、参照符号5はMEA(Membrane Electrode Assembly:膜−電極複合体)で、電解質膜及びその両面に設けた不図示の触媒電極層からなり、参照符号6,7は、カーボンあるいは導電性金属からなるセパレータである。
【0020】
そして
図3に示す積層状態では、MEA5を、その厚さ方向両側からGDL3,4を介してセパレータ6,7で挟持することによって、発電の最小単位である燃料電池セル10が構成される。このとき、MEA5の外周部は、その両側のガスケット1,2によって密接挟持され、このガスケット1,2におけるMEA5と反対側の面は、セパレータ6,7に密接される。
【0021】
ガスケット1,2には、それぞれ複数対のマニホールド孔1a,2aが開設されており、セパレータ6,7にもガスケット1,2のマニホールド孔1a,2aと対応する位置にマニホールド孔6a,7aが開設されている。したがって
図3に示す積層状態では、マニホールド孔1a,2aと6a,7aが互いに重合(連通)されることによって燃料ガス、酸化剤ガスや冷媒の供給通路及び排出通路(マニホールド孔)が形成される。
【0022】
一方のセパレータ6におけるGDL3との対向面には複数の燃料ガス反応用溝6bが形成されており、他方のセパレータ7におけるGDL4との対向面には複数の酸化剤ガス反応用溝7bが形成されており、
図3に示す積層状態では、MEA5と、GDL3,4と、燃料ガス反応用溝6b及び酸化剤ガス反応用溝7bが互いに重合した領域がガス反応領域10A、すなわち発電領域となっており、このガス反応領域10Aの周囲がガスケット1,2によってシールされる。
【0023】
ガスケット1におけるセパレータ6との対向面には、マニホールド孔1aとガス反応領域10Aにおける燃料ガス反応用溝6bを互いに連通するように延びるガス導入溝1bが形成されており、同様に、ガスケット2におけるセパレータ7との対向面には、マニホールド孔2aとガス反応領域10Aにおける酸化剤ガス反応用溝7bを互いに連通するように延びるガス導入溝2bが形成されている(
図2及び
図3にはガス導入溝2bは不図示)。なお、ガスケット1のガス導入溝1bは、
図2に符号3aで示すように、GDL3の端部へ達するように延在されており、ガスケット2のガス導入溝2bも同様に、GDL4の端部へ達するように延在されている。
【0024】
上述のように構成された燃料電池セル10は、
図4に示すように、水素H
2を含む燃料ガスが燃料ガス流路(ガス導入溝1b及び燃料ガス反応用溝6b)及び一方のGDL3を介してMEA5における一方の触媒電極層(アノード)52に供給され、酸素O
2を含む酸化剤ガス(空気)が酸化剤ガス流路(ガス導入溝2b及び酸化剤ガス反応用溝7b)及び他方のGDL4を介してMEA5における他方の触媒電極層(カソード)53に供給され、水素H
2と酸素O
2から水H
2Oを生成する電気化学反応によって電力を発生するものである。
【0025】
すなわち、MEA5におけるアノード52に供給された燃料ガス中の水素H
2は、このアノード52の触媒作用によって電子e
-と水素イオンH
+に分解され、電子e
-は、電流として外部負荷Rを通ってMEA5におけるカソード53へ向けて流れる。そして水素H
2から電子e
-が分離されることによって生じた水素イオンH
+は、カソード53の電子e
-に引き付けられるので、MEA5における電解質膜51を介してカソード53へ移動する。
【0026】
一方、MEA5におけるカソード53に供給された酸化剤ガス中の酸素O
2は、このカソード53の触媒作用により電子e
-を受け取って、酸素イオンO
-となる。そしてこの酸素イオンO
-が、アノード52から電解質膜51を介して移動して来た水素イオンH
+と結びつくことによって水H
2Oが生成されるのである。
【0027】
このとき、
図3に示すようにマニホールド孔1a,2aと6a,7aが互いに重合(連通)されることによって形成された流路と、ガス反応領域10Aにおける燃料ガス反応用溝6bや酸化剤ガス反応用溝7bとの間での燃料ガスや酸化剤ガスなどの流通は、ガス導入溝1b又は2bを介して行われる。そしてガス導入溝1b,2bは、GDL3,4の端部へ達するように延在されているため、燃料ガス反応用溝6b及び酸化剤ガス反応用溝7bとの間での流通が円滑に行われる。
【0028】
そして上記構成によれば、ガス導入溝1b,2bはガスケット1,2に形成されたものであるため、金属又はカーボンからなるセパレータ6,7側にガス導入溝を加工する必要がない。しかもこのガス導入溝1b,2bは、GDL3,4へゴム状弾性材料でガスケット1,2を一体成形する際に、成形用金型内で同時に形成されるので、コストを低減することができる。
【0029】
また、ガス導入溝1b,2bの設計変更の際には、セパレータ6,7の設計を変更する必要がなく、ガスケット1,2の設計変更で対応することができ、したがってこのような設計変更の際のコスト低減にも寄与することができる。
【0030】
次に
図5は、本発明に係る燃料電池用ガスケットの第二の実施の形態を、MEA及びセパレータと共に積層方向から見た分離状態の平面図、
図6は、
図5のV−V線位置で切断して示す分離状態の部分断面図、
図7は、第二の実施の形態の他の例を、MEA及びセパレータと共に
図5のV−V線位置で切断して示す分離状態の部分断面図である。
【0031】
この第二の実施の形態において、上述した第一の実施の形態と異なるところは、ガスケット1,2が、ゴム状弾性材料からなるガスケット本体11,21と、このガスケット本体11,21に一体に設けられ、前記ゴム状弾性材料よりも剛性の高い材料、例えば合成樹脂又は金属等からなる補強板12,22からなることにある。補強板12,22の平面投影形状は、ガスケット本体11,21の平面投影形状と略相似となっている。その他の部分の構成は、基本的に第一の実施の形態と同様である。
【0032】
このうち
図6に示す例は、補強板12,22の材質が、燃料ガスや酸化剤ガスに対する化学的安定性が不足するような場合に、補強板12,22をガスケット本体11,21に埋設状態で一体成形することによって、補強板12,22が燃料ガスや酸化剤ガスに接触しないようにしたものである。また、
図7に示す例は、補強板12,22の材質が、燃料ガスや酸化剤ガスに対する化学的安定性に問題のない場合に、補強板12,22を半埋設状態、すなわちガスケット本体11,21から一部露出した埋設状態で一体成形したものである。なお、MEA5の外周部は、ガスケット本体11,21の密接によって密封されるようになっている。
【0033】
第二の実施の形態によれば、ガスケット本体11,21の全域に一体に設けられた補強板12,22によってガスケット1,2の機械的強度が補償され、すなわちガス導入溝1b,2bの形成によるガスケット1,2の強度低下が防止されるので、セル(スタック)の組立を容易にすることができる。
【0034】
次に
図8は、本発明に係る燃料電池用ガスケットの第三の実施の形態を、MEA及びセパレータと共に積層方向から見た分離状態の平面図、
図9は、
図8のVIII−VIII線位置で切断して示す分離状態の部分断面図、
図10は、
図8のVIII−VIII線位置で切断して示す積層状態の部分断面図である。
【0035】
この第三の実施の形態は、ガスケット1,2が、ゴム状弾性材料からなるガスケット本体11,21と、このガスケット本体11,21におけるマニホールド孔1a,2aとGDL3,4の間、すなわちガス導入溝1b,2bの形成領域に位置して一体に設けられた補強板13,23からなるものであって、補強板13,23は前記ゴム状弾性材料よりも剛性の高い材料、例えば燃料ガスや酸化剤ガスに対する化学的安定性に問題のない合成樹脂又は金属等からなり、ガスケット1,2のガス導入溝1b,2bが、補強板13,23に形成されている点にある。なお、MEA5の外周部は、ガスケット本体11,21の密接によって密封されるようになっている。その他の構成は、基本的に第一の形態と同様である。
【0036】
この第三の実施の形態によれば、ガスケット1,2におけるガス導入溝1b,2bの形成部分の機械的強度が補償されるので、セル(スタック)の組立を容易にすることができるのに加え、
図10に示す積層状態でのガスケット本体11,21の圧縮によるガス導入溝1b,2bの流路断面の縮小が防止される。
【0037】
またガスケット1,2は、ガス導入溝1b,2bが予め補強板13,23に形成され、この補強板13,23にガスケット本体11,21が一体成形されることによって得られたものであるため、ガス導入溝1b,2bの設計変更の際、この補強板13,23のみの設計変更で対応することができ、したがってこのような設計変更の際のコスト低減にも寄与することができる。