(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C:0.01〜0.10mass%、Si:2.0〜4.5mass%およびMn:0.01〜0.5mass%を含有し、さらに、AlN系インヒビター成分としてAl:0.01〜0.065mass%およびN:0.005〜0.012mass%、および/または、MnS・MnSe系インヒビター成分としてS:0.005〜0.03mass%および/またはSe:0.005〜0.03mass%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼スラブを熱間圧延して熱延板とし、熱延板焼鈍を施した後、1回の冷間圧延で圧下率85%以上の圧延をし、あるいは、中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延で最終冷延圧下率80%以上の圧延をして最終板厚の冷延板とし、その後、一次再結晶焼鈍および二次再結晶焼鈍を施す方向性電磁鋼板の製造方法において、
上記冷間圧延における総圧下率が50%以下の段階において、歪速度150s−1以下の低歪速度冷間圧延を最低1パス以上施すことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
C:0.01〜0.10mass%、Si:2.0〜4.5mass%およびMn:0.01〜0.5mass%を含有し、さらに、Al,N,SおよびSeをAl:0.0100mass%以下、N:0.0050mass%以下、S:0.0050mass%以下およびSe:0.0050mass%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼スラブを熱間圧延して熱延板とし、熱延板焼鈍を施した後、1回の冷間圧延で圧下率85%以上の圧延をし、あるいは、中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延で最終冷延圧下率80%以上の圧延をして最終板厚の冷延板とし、その後、一次再結晶焼鈍および二次再結晶焼鈍を施す方向性電磁鋼板の製造方法において、
上記冷間圧延における総圧下率が50%以下の段階において、歪速度150s−1以下の低歪速度冷間圧延を最低1パス以上施すことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
上記一次再結晶焼鈍において、500〜700℃間の昇温速度を50℃/sec以上とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
上記鋼スラブは、上記成分組成に加えてさらに、Ni:0.03〜1.50mass%、Sn:0.01〜1.50mass%、Sb:0.005〜1.50mass%、Cu:0.03〜3.0mass%、P:0.03〜0.50mass%、Mo:0.005〜0.10mass%、Nb:0.0005〜0.010mass%およびCr:0.03〜1.50mass%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、鉄の磁化容易軸である{110}<001>方位(Goss方位)を、鋼板の圧延方向に高度に集積させた結晶組織を有する磁気特性に優れた鋼板である。
【0003】
Goss方位への集積度をより高める方法としては、例えば、特許文献1には、冷間圧延中の冷延板を低温で熱処理し、時効処理を施す方法が開示されている。また、特許文献2には、熱延板焼鈍または最終冷間圧延前の中間焼鈍時の冷却速度を30℃/sec以上とし、さらに、最終冷間圧延中に、板温150〜300℃で2分間以上のパス間時効を2回以上行う技術が開示されている。さらに、特許文献3等には、圧延中の鋼板温度を高めて温間圧延することにより、圧延時に導入された転位を直ちにCやNで固着させる動的歪時効の効果を利用する技術が開示されている。
【0004】
これら特許文献1〜3の技術は、いずれも圧延中あるいは圧延のパス間で鋼板温度を適正温度に保持することによって、固溶元素である炭素(C)や窒素(N)を低温で拡散させ、冷間圧延で導入された転位を固着して、それ以降の圧延での転位の移動を妨げ、剪断変形をより起こさせて、圧延集合組織を改善しようとするものである。これらの技術の適用によって、冷間圧延後の一次再結晶集合組織におけるαファイバーと呼ばれる<110>繊維組織、特に、{001}<110>方位を低減し、また、γファイバーと呼ばれる<111>繊維組織を低減しつつ、Goss方位{110}<001>の存在頻度を高めることによって、二次再結晶後のGoss方位への集積度を高めることが可能となるとしている。
【0005】
上記冷間圧延に用いられる圧延方法としては、リバース圧延(特許文献4等)とタンデム圧延(特許文献5等)とがあるが、後者のリバース圧延の方が、圧延と巻き取りを何回も繰り返して行うため、圧延中にコイル状態で適度な温度に保持され、いわゆる時効処理と同じ効果が得られるので、磁気特性上は有利とされている。
【0006】
ところで、上記方向性電磁鋼板は、Siを4.5mass%程度以下含有し、さらに、インヒビターと呼ばれるAlNやMnS,MnSeなどを形成する成分を含有する鋼素材(鋼スラブ)を、熱間圧延し、冷間圧延し、一次再結晶焼鈍し、仕上焼鈍において二次再結晶させることにより製造するのが一般的である。
【0007】
また、上記方法とは別に、インヒビター成分を含有させずに二次再結晶を起こさせる技術(インヒビターレス法)も提案されている(例えば、特許文献6等)。この技術は、インヒビター成分を固溶させるためのスラブ高温加熱が不要であり、仕上焼鈍での純化も不要なため、低コストで方向性電磁鋼板を製造することができるという利点を有する。しかし、この技術は、より高純度化した鋼を利用し、テクスチャー(集合組織)制御による正常粒成長抑制効果によって、二次再結晶を発現させる技術であるため、集合組織の作り込みには、より繊細な制御が必要とされる。
上記のように、インヒビターを利用する、しないに拘らず、磁気特性に優れる方向性電磁鋼板を製造する上では、冷間圧延時の集合組織制御は極めて重要である。
【0008】
また、特許文献7〜11には、脱炭焼鈍時に急速加熱や、脱炭焼鈍直前に急速加熱処理することで、一次再結晶集合組織を改善する技術が開示されており、これらの方法によっても、一次再結晶集合組織のγファイバーを低減させながら、Goss方位{110}<001>の存在頻度を高めることができる。例えば、特許文献8には、圧延中に温間圧延を実施した鋼板に対して、C:0.10wt%以下、Si:2.5〜7.0wt%ならびに通常のインヒビター成分を含有する冷延板を、一次再結晶焼鈍の昇温速度を50℃/secとして700℃以上まで加熱することで、良好な鉄損特性を有する一方向性電磁鋼板を製造する方法が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、熱延板に生じた{001}<110>組織は、その後の冷間圧延や、一次再結晶によっても残留し、また、Goss粒によっても蚕食され難い組織として知られている。従って、この組織は、特許文献6の技術を利用し、テクスチャー(集合組織)制御によって二次再結晶を発現させる上では、極めて不利な結晶方位といえる。そのため、この方位の低減は、特に、インヒビター成分を低減し、テクスチャー制御によって二次再結晶を発現させる場合には、極めて重要である。
【0011】
一次再結晶焼鈍後の鋼板における{001}<110>組織を低減し、Goss核を形成させるためには、冷間圧延で最終板厚とするまでの間に、上述したCやNによる時効効果を有効に活用する、つまり、冷間圧延でのロール噛込温度を高めるとともにパス間でも高温状態に保持する、いわゆる温間圧延技術を適用することが有効である。
【0012】
温間圧延技術を適用するには、前述したように、巻取時効が可能なリバース圧延が有利である。しかし、リバース圧延はバッチ処理であるため、生産性に劣るという欠点がある。一方、生産性において優れるタンデム圧延は、パス間温度を高温化したり、ロール噛込温度を高温化したりすることによって同様の効果を得ることができる。しかし、その効果は限定的であり、リバース圧延ほどの効果を得るのは難しいのが実情である。
【0013】
本発明は、従来技術が抱える上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、温間圧延と同様の集合組織改質効果が得られる方向性電磁鋼板の新規な製造方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記のように、良好な集合組織の形成に必要なCやNの転位固着効果(時効効果)を得るためには、それらの元素が拡散するための温度と時間が必要不可欠であり、この時効効果を、工業的に安定して実現するには問題が多い。そこで、発明者らは、CやNの時効効果と同じ効果、すなわち、熱延板で生じる{001}<110>組織の低減効果や、Goss核の形成効果が得られる他の冷間圧延条件について鋭意検討を重ねた。その結果、冷間圧延における総圧下率が50%以下の段階において、歪速度が150s
−1以下となる低歪速度の圧延を少なくとも1パス以上施すことによって、時効効果と同様の効果が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
すなわち、本発明は、C:0.01〜0.10mass%、Si:2.0〜4.5mass%およびMn:0.01〜0.5mass%を含有し、さらに、AlN系インヒビター成分としてAl:0.01〜0.065mass%およびN:0.005〜0.012mass%、および/または、MnS・MnSe系インヒビター成分としてS:0.005〜0.03mass%および/またはSe:0.005〜0.03mass%を含有
し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼スラブを熱間圧延して熱延板とし、熱延板焼鈍を施した後、1回の冷間圧延で圧下率85%以上の圧延をし、あるいは、中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延で最終冷延圧下率80%以上の圧延をして最終板厚の冷延板とし、その後、一次再結晶焼鈍および二次再結晶焼鈍を施す方向性電磁鋼板の製造方法において、上記冷間圧延における総圧下率が50%以下の段階において、歪速度150s
−1以下の低歪速度冷間圧延を最低1パス以上施すことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法である。
また、本発明は、C:0.01〜0.10mass%、Si:2.0〜4.5mass%およびMn:0.01〜0.5mass%を含有し、さらに、Al,N,SおよびSeをAl:0.0100mass%以下、N:0.0050mass%以下、S:0.0050mass%以下およびSe:0.0050mass%以下を含有
し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有する鋼スラブを熱間圧延して熱延板とし、熱延板焼鈍を施した後、1回の冷間圧延で圧下率85%以上の圧延をし、あるいは、中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延で最終冷延圧下率80%以上の圧延をして最終板厚の冷延板とし、その後、一次再結晶焼鈍および二次再結晶焼鈍を施す方向性電磁鋼板の製造方法において、上記冷間圧延における総圧下率が50%以下の段階において、歪速度150s
−1以下の低歪速度冷間圧延を最低1パス以上施すことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法である。
【0016】
本発明の方向性電磁鋼板の製造方法は、上記歪速度を100s
−1以下とすることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の方向性電磁鋼板の製造方法は、上記低歪速度冷間圧延後の鋼板組織における{001}<110>強度を10以下とすることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の方向性電磁鋼板の製造方法は、上記冷間圧延における総圧下率が50%超え以降では、歪速度400s
−1以上で圧延することを特徴とする。
【0019】
また、本発明の方向性電磁鋼板の製造方法は、上記一次再結晶焼鈍において、500〜700℃間の昇温速度を50℃/sec以上とすることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の方向性電磁鋼板の製造方法における上記鋼スラブは、上記成分組成に加えてさらに、Ni:0.03〜1.50mass%、Sn:0.01〜1.50mass%、Sb:0.005〜1.50mass%、Cu:0.03〜3.0mass%、P:0.03〜0.50mass%、Mo:0.005〜0.10mass%、Nb:0.0005〜0.010mass%およびCr:0.03〜1.50mass%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、冷間圧延における総圧下率が50%以下の段階において、歪速度150s
−1以下の低歪速度圧延を最低1パス以上施すことで、温間圧延と同様の集合組織改質効果が得られるので、磁気特性に優れた方向性電磁鋼板を有利に製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
まず、本発明を開発するに至った実験について説明する。
C:0.042mass%、Si:3.32mass%およびMn:0.06mass%を含有し、S,Se,Oを各々0.0050mass%未満、Nを0.0025mass%未満に低減し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、インヒビター成分を含有しない鋼スラブを1210℃に加熱後、熱間圧延して板厚2.5mmの熱延板とした。
次いで、上記熱延板から採取した試験片に、1000℃×60秒の熱延板焼鈍を施した後、1パスの冷間圧延で、板厚2.0mm(圧下率20%)の冷延板とした。なお、上記冷間圧延は、圧延温度を25℃と100℃の2水準、圧延時の歪速度を100s−1と250s−1の2水準に振り分けて行なった。また、圧延時の歪速度は、下記のEkelundの式を用いて算出した。
ここで、vRはロール周速度(mm/s)、R´はロール半径(mm)、h1はロール入側板厚(mm)、rは圧下率(%)である。
【0026】
斯くして得られた冷延板から、30mm×30mmの試験片を切り出し、試験片の片面から板厚の1/5まで機械研削して減厚し、さらに表面を化学研磨した後、5mass%硝酸で10秒間エッチングしてからX線測定により正極点図を作成し、圧延前後の集合組織の変化を調査した。なお、集合組織は、ADC法によって解析し、Euler空間(φ2=45°断面)のODF(crystallite Orientation Distribution Function)とし、その結果を
図1に示した。
図1から、圧延温度が25℃、歪速度が250s−1を基準(ベース)とした場合、歪速度を100s−1とすることで、圧延温度を100℃まで高めたのと同様の集合組織の変化が得られていることがわかる。
【0027】
上記のような集合組織の変化が起こる原因について、発明者らは以下のように考えている。まず、集合組織の変化が、CやNによる時効効果によるものではないことは、圧延温度が25℃であることから明らかである。また、転位の移動にCやNが動的に作用する動的歪時効も、歪速度がCやNの拡散速度に比べて100倍以上速いことから考え難い。
しかし、歪速度が低下すると、CRSS(臨界分解剪断応力)は上昇する。これは、同じ応力条件下では、転位が動きにくい状況にあることを示しており、CやNによって転位が固着された状態と、現象としては近い状態となっていることが推測される。また、転位のすべり面によって、CRSSの歪速度依存性は異なるため、通常の圧延における歪速度とは異なるすべり面が活性化し、変形挙動が変化している可能性もある。これらの原因によって、歪速度を低減した場合には、冷間圧延後の鋼板の集合組織における{001}<110>組織が減少し、Goss方位への集積度が高まったものと考えられる。
【0028】
次に、{001}<110>強度が13.2である板厚2.5mmの熱延板に、25℃の温度で、様々な歪速度で1パスの圧延を施して板厚2.0mm(圧下率20%)の冷延板とし、上記実験と同様にして{001}<110>強度の変化を調査した。なお、{001}<110>方位の強度は、X線測定により正極点図を作成し、得られた正極点図を基に集合組織をADC法によって解析し、Euler空間(φ
2=45°断面)のODFにしたときのφ=0°、φ
1=0°の数値で表した。
図2は、上記実験の結果を示したものであり、歪速度が小さくなるのに従って{001}<110>強度が低下し、歪速度が150s
−1以下では、{001}<110>強度が10以下にまで低下していることがわかる。
【0029】
上記のように、冷間圧延における歪速度の低減は、集合組織の改善には有効な手段となり得る。しかし、歪速度の低減は、圧延速度の低下を招くことから、生産性の点からは好ましくない。そこで、発明者らは、歪速度低減による{001}<110>方位の減少効果と、Goss方位への集積度向上効果が発現する冷延圧下率の範囲について検討した。その結果、1回の冷間圧延で最終板厚とする場合、中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延で最終板厚とする場合のいずれの場合であっても、冷間圧延における総圧下率が50%以下の範囲で、低速圧延を実施することが有効であることを見出した。
【0030】
これは、冷延圧下率が高くなると、結晶粒内に多くの転位が存在する状態となり、転位のすべり面の活性度の差が得られ難くなるためと考えられる。従って、低歪速度の効果を得るためには、結晶粒内の転位が少ない状態、即ち、総圧下率が50%以下の段階で行なう必要がある。逆に、圧下率が50%を超えた段階では、生産性の観点から高歪速度圧延を行なった方が有利である。さらに、歪速度400s
−1以上の高速圧延では、ロール周速が高くなってロールバイト内への圧延油の引込量が増加して潤滑性が向上し、圧延荷重が低下するので、鋼板形状を制御する上でも有利となる。特に、形状制御の観点からは、圧延の最終パスで実施するのが好ましい。
本発明は、上記の知見に基づいて開発したものである。
【0031】
次に、本発明の方向性電磁鋼板の製造方法について説明する。
本発明は、従来、温間圧延により集合組織の制御を行っていた方向性電磁鋼板の製造方法において、温間圧延に代わる方法で、温間圧延と同等あるいはそれ以上の磁気特性の改善効果が得られる冷間圧延技術を提供しようとするものである。従って、本発明の方向性電磁鋼板の製造に用いる鋼スラブ(鋼素材)は、従来公知の方法で製造されたものであれば、特に制限はない。例えば、転炉や電気炉等で得た溶鋼を真空脱ガス等の二次精錬を経て所望の成分組成とする通常公知の精錬プロセスで鋼を溶製し、その後、連続鋳造法あるいは造塊−分塊圧延法で鋼スラブとする方法等である。
【0032】
また、鋼スラブが有する成分組成についても、方向性電磁鋼板の製造に適したものであれば、基本的に特に制限はないが、優れた磁気特性を有する方向性電磁鋼板を得るためには、基本成分としてC,SiおよびMnを、下記の範囲で含有することが必要である。
C:0.01〜0.10mass%
Cは、熱延鋼板の集合組織の改善のために必要な元素であり、0.01mass%未満では、スラブ加熱時に組織が粗大化し、以後の工程での再結晶が起こり難くなる。一方、Cが0.10mass%を超えると、脱炭焼鈍で、磁気時効の起こらない0.0050mass%以下に低減することが困難となる。よって、Cは0.01〜0.10mass%の範囲とする。好ましくは、0.01〜0.08mass%の範囲である。
【0033】
Si:2.0〜4.5mass%
Siは、鋼の電気抵抗を高め、鉄損を改善するのに有効な元素であるが、含有量が2.0mass%未満では、十分な鉄損低減効果が得られない。一方、4.5mass%を超えると、加工性が著しく低下して圧延して製造することが難しくなる。よって、Siは2.0〜4.5mass%の範囲とする。
【0034】
Mn:0.01〜0.5mass%
Mnは、熱間加工性を改善するために必要な元素であるが、含有量が0.01mass%未満では、上記効果は得られず、一方、0.5mass%を超えると、一次再結晶集合組織が劣化し、Goss方位に高度に集積した二次再結晶粒が得難くなる。よって、Mnは0.01〜0.5mass%の範囲とする。好ましくは、0.01〜0.10mass%の範囲である。
【0035】
また、本発明の方向性電磁鋼板は、二次再結晶を起こさせるためにインヒビターを用いる場合には、例えば、AlN系インヒビターを利用するときには、AlおよびNをそれぞれAl:0.01〜0.065mass%、N:0.005〜0.012mass%の範囲で含有させることが好ましく、また、MnS・MnSe系インヒビターを利用するときには、Seおよび/またはSを、それぞれS:0.005〜0.03mass%、Se:0.005〜0.03mass%の範囲で含有させることが好ましい。
【0036】
一方、二次再結晶を起こさせるためにインヒビターを用いない場合には、インヒビター成分であるAl,N,SおよびSeは、それぞれAl:0.0100mass%以下、N:0.0050mass%以下、S:0.0050mass%以下、Se:0.0050mass%以下に低減するのが好ましい。
【0037】
また、本発明の方向性電磁鋼板は、磁気特性の改善を目的として、上記成分組成に加えてさらに、Ni:0.03〜1.50mass%、Sn:0.01〜1.50mass%、Sb:0.005〜1.50mass%、Cu:0.03〜3.0mass%、P:0.03〜0.50mass%、Mo:0.005〜0.10mass%、Nb:0.0005〜0.010mass%およびCr:0.03〜1.50mass%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有させてもよい。
Niは、熱延板組織を改善して磁気特性を向上させるのに有用な元素である。しかし、0.03mass%未満では上記効果が小さく、一方、1.50mass%を超えると二次再結晶が不安定となり磁気特性が劣化する。
また、Sn,Sb,Cu,P,Mo,NbおよびCrは、磁気特性の向上に有用な元素であるが、いずれも上記下限値未満では磁気特性向上効果が小さく、一方、上記した各上限値を超えると、二次再結晶粒の発達が阻害されるようになるため、それぞれ上記範囲で含有させることが好ましい。
なお、上記成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
【0038】
上記成分組成を有する鋼スラブは、その後、再加熱し、熱間圧延に供する。その際のスラブ加熱温度は、インヒビター成分を含有する場合には、インヒビター成分を完全に固溶させる必要性から1300℃以上とするのが好ましく、また、インヒビター成分を含有しない場合には、熱間圧延性を確保する観点から1050℃程度以上とするのが好ましい。なお、熱間圧延条件については、特に制限はなく、常法に準じて行うことができる。
【0039】
熱間圧延して得た熱延板は、その後、熱延板焼鈍を施した後、1回の冷間圧延あるいは中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延により最終板厚の冷延板とする。この際の冷間圧延は、1回の冷間圧延の場合には総圧下率85%以上、中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延の場合には、最終冷延の圧下率を80%以上とすることが必要である。冷延圧下率が、これらの値未満では、一次再結晶集合組織のテクスチャーの先鋭性(Goss方位に蚕食させる組織;{111}<112>や{12 4 1}<014>等の集積度)が低下し、良好な二次再結晶を起こさせることが難しくなる。
【0040】
また、本発明の上記冷間圧延では、1回の冷間圧延あるいは中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延に拘わらず、熱延板の板厚を基準として、総圧下率が50%を超えるまでの間、即ち、下記式;
総圧下率={(熱延板板厚−冷延板板厚)/熱延板板厚}×100(%)
で表される総圧下率が50%以下の段階において、歪速度が150s
−1以下の低歪速度冷間圧延を最低1パス以上行うことが必要である。
【0041】
本発明では、{001}<110>方位は、熱延で形成され、冷間圧延前の主方位に当たるため、冷間圧延の総圧下率が50%以下で低歪速度圧延を実施することで、{001}<110>方位を低減し、Goss方位の強度を効果的に高めることができる。すなわち、上記総圧下率が50%を超える段階で低歪速度冷間圧延を行うと、導入された転位密度が高いため、歪速度の低下による転位のすべり面の変化が起こらず、{001}<110>組織の低減やGoss核の増加等の集合組織の改善効果が得られなくなる。上記観点から、歪速度が150s
−1以下の低歪速度冷間圧延は、転位が存在していない1パス目に行うのが最も効果的である。
【0042】
また、歪速度が150s
−1を超えると、
図1や
図2に示したように、{001}<110>の低減効果や、Goss核の形成効果が十分に得られない。上記効果をさらに高めるには、歪速度を100s
−1以下とするのがより好ましい。ただし、歪速度が20s
−1未満では、集合組織改善効果が飽和し、却って生産性を低下させるだけであるので、下限は20s
−1程度とするのが好ましい。さらに、歪速度が150s
−1以下の低歪速度冷間圧延では、1パスの圧下率を10%以上として行うのが好ましい。圧下率が10%未満では、結晶回転が十分ではなく、Goss核の強度増加が十分に得られないおそれがあるからである。
【0043】
また、150s
−1以下あるいは100s
−1以下の低歪速度で冷間圧延された鋼板の圧延集合組織は、二次再結晶に不利に働く{001}<110>方位の強度(X線測定により正極点図を作成し、得られた集合組織をADC法によって解析し、Euler空間(φ
2=45°断面)のODFとしたφ=0°、φ
1=0°の値)が10以下であることが好ましい。{001}<110>方位の強度が10以上では、二次再結晶後の結晶方位が劣化するからでる。
なお、冷間圧延における圧延温度は、特に限定されるものではないが、温間圧延が可能な場合には、それを実施することで、本発明の効果と相乗されるので好ましい。
【0044】
上記条件を満たして最終板厚まで圧延した冷延板は、その後、通常の一次再結晶焼鈍を施しても、集合組織の改善効果が得られる。しかし、500〜700℃間の昇温速度を50℃/sec以上とする一次再結晶焼鈍を施すことによって、さらにGoss方位の存在量を高め、二次再結晶後の結晶粒径を微細化し、鉄損特性を改善することが可能となる。
【0045】
本発明は、上記のように、冷間圧延を適正に制御することによって、効果的に{001}<110>組織を低減し、Goss方位の強度を高める技術であるが、一次再結晶焼鈍の昇温過程において500〜700℃間の昇温速度を50℃/sec以上で急速加熱した場合には、γファイバー(<111>繊維組織)をやや低減しながら、Goss方位の存在割合を高めることができる。一次再結晶焼鈍の昇温速度を50℃/sec以上に高めることは、{001}<110>組織の低減には寄与しないが、Goss方位の存在割合を高める効果があるため、最終製品の二次再結晶粒径を微細化し、低鉄損を得ることが可能となる。なお、上記急速加熱は、冷間圧延後の組織の回復に相当する温度域を急熱し、再結晶させることが目的であるため、その温度域は、組織の回復域である500〜700℃間とする。しかし、昇温速度が50℃/sec未満では、上記温度域での回復を十分に抑制することができない。
【0046】
一次再結晶焼鈍は、一般に脱炭焼鈍を兼ねることが多く、この場合は、焼鈍時の雰囲気は適正な酸化雰囲気(例えば、PH
2O/PH
2>0.1)とするのが好ましい。なお、高い昇温速度が求められる500〜700℃間については、設備などの制約により酸化雰囲気とすることが困難な場合が考えられるが、当該温度範囲における雰囲気はPH
2O/PH
2≦0.1であってもよく、また、一次再結晶焼鈍とは別に、改めて脱炭焼鈍を実施してもよい。
【0047】
一次再結晶焼鈍を施した鋼板は、その後、鋼板表面に焼鈍分離剤を塗布した後、二次再結晶させる仕上焼鈍を施す。上記焼鈍分離剤としては、従来公知のものを用いることができ、例えば、MgOを主成分とし、必要に応じて、TiO
2などを添加したものや、SiO
2やAl
2O
3を主成分としたものを用いることができる。
【0048】
上記仕上焼鈍後の鋼板は、その後、鋼板表面に絶縁被膜を塗布し焼き付けた後、必要に応じて、平坦化焼鈍して鋼板形状を整えるのが好ましい。なお、上記絶縁被膜の種類については、特に制限はないが、鋼板表面に引張張力を付与する絶縁被膜を形成する場合には、特開昭50−79442号公報や特開昭48−39338号公報等に記載されているリン酸塩−クロム酸−コロイダルシリカを含有する塗布液を用いて、800℃程度で焼き付けるのが好ましい。また、上記焼鈍分離剤としてSiO
2やAl
2O
3を主成分とするものを用いる場合には、仕上焼鈍後の鋼板表面にはフォルステライト被膜が形成されないので、改めてMgOを主成分とする水スラリーを塗布し、フォルステライト被膜を形成する焼鈍を施してもから、絶縁被膜を被成してもよい。
【実施例1】
【0049】
C:0.050mass%、Si:3.3mass%およびMn:0.04mass%を含有し、さらに、S,SeおよびOを各々0.0050mass%未満、Nを0.0025mass%未満含有し、残部がFeおよび不可避的不純物の成分組成からなる、インヒビター成分を含有しない鋼スラブを1100℃に加熱後、熱間圧延して板厚:2.0mmの熱延板とした。次いで、上記熱延板に1000℃×70秒の熱延板焼鈍を施した後、ロール径:300mmφの4スタンドのタンデム圧延機で冷間圧延し、最終板厚が0.29mm(総圧下率86%)の冷延板とした。上記冷間圧延では、表1に示したように、最初の1スタンドの圧延を圧下率35%とし、歪速度を80s
−1、120s
−1、160s
−1および200s
−1の4水準に変化させた。なお、2スタンド以降の歪速度は、1スタンドの歪速度と2スタンド以降の圧下率配分が決まれば、自ずと決まる。
【0050】
【表1】
【0051】
上記冷延板は、その後、均熱温度を840℃、均熱時間を100秒とする脱炭焼鈍を兼ねた一次再結晶焼鈍を施してから、鋼板表面にMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布した後、仕上焼鈍を施して二次再結晶させ、次いで、上記二次再結晶焼鈍後の鋼板表面に、リン酸塩−クロム酸塩−コロイダルシリカを重量比3:1:2で含有する塗布液を塗布し、800℃×30秒の平坦化焼鈍を施し、製品コイルとした。
【0052】
その後、上記各製品コイルの長さ方向中央部かつ幅方向中央部より幅30mm×長さ280mmのエプスタイン試験片を総重量で500g以上を切り出し、エプスタイン試験によりGoss方位への集積度の指標となる磁束密度B
8を測定した。
上記測定の結果を
図3に示した。
図3から、1スタンド、即ち、総圧下率が50%以下の段階において、歪速度150s
−1以下の圧延を施すことにより、磁束密度B
8が大きく向上していることがわかる。
【実施例2】
【0053】
実施例1で製造した冷延コイルから、試料を切り出し、500〜700℃間の昇温速度を30℃/secと100℃/secの2水準に振り分けて加熱し、PH
2O/PH
2=0.32の雰囲気下で、900℃×50秒の均熱処理する一次再結晶焼鈍を施した。なお、一部の試料については、PH
2O/PH
2=0.01の雰囲気で900℃×50秒の一次再結晶焼鈍を施したが、この場合には、一次再結晶焼鈍の後、別途、PH
2O/PH
2=0.30で、820℃×30秒の脱炭焼鈍を施した。
その後、上記試料(鋼板)表面にMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布した後、仕上焼鈍を施して二次再結晶させ、次いで、上記二次再結晶焼鈍後の鋼板表面に、リン酸塩−クロム酸塩−コロイダルシリカを重量比3:1:2で含有する塗布液を塗布し、800℃×30秒の平坦化焼鈍を施し、製品コイルとした。
その後、上記各製品コイルの長さ方向中央部かつ幅方向中央部より幅30mm×長さ280mmのエプスタイン試験片を総重量で500g以上を切り出し、エプスタイン試験により磁束密度B
8および鉄損W
17/50を測定し、その結果を表2に示した。
【0054】
表2から、総圧下率50%以下に相当する圧延スタンドで150s
−1以下の低歪速度圧延を実施した本発明に適合する条件では、磁束密度B
8が良好であり、特に、一次再結晶焼鈍の昇温速度を50℃/sec以上とした条件では、鉄損W
17/50も極めて良好となることがわかる。
【0055】
【表2】
【実施例3】
【0056】
C:0.030mass%、Si:3.34mass%およびMn:0.08mass%を含有し、Al:0.0250mass%およびN:0.0080mass%を含有し、さらに、インヒビター成分を含有する鋼スラブを1350℃に加熱後、熱間圧延して板厚2.4mmの熱延板とした後、1060℃×10秒の熱延板焼鈍を施した熱延コイルを6コイル用意した。次いで、上記熱延コイルを、表3に示したように、ロール径が60mmφのリバース圧延機と、ロール径が300mmφの4スタンドタンデム圧延機を用いて、1.2mm(圧下率50%)の中間板厚とする前半の冷間圧延を施した。なお、上記リバース圧延では、歪速度を150s
−1以上の2パスの圧延で、また、タンデム圧延では、各パスの歪速度を100s
−1以下として圧延した。
上記のようにして得た中間板厚のコイル幅中央部から100mm角の試料を切り出し、X線測定し、得られた正極点図からADC法によって解析を行い、Euler空間(φ
2=45°断面)のODFとしたφ=0°、φ
1=0°の値を、{001}<110>方位の強度とした。
【0057】
【表3】
【0058】
次いで、上記中間板厚の冷延板コイルに、1050℃×20秒の中間焼鈍を施した後、あるいは施すことなく、ロール径60mmφのリバース圧延機を用いて後半の冷間圧延(5パス)を施して最終板厚が0.22mm(圧下率82%)の冷延板とした。なお、この後半の冷間圧延は、歪速度を、400s
−1以上の高速圧延と、150s
−1以下の低速圧延の2水準に振り分けたて行った。
次いで、上記最終板厚とした冷延板に、均熱温度900℃、均熱時間20秒の一次再結晶焼鈍を施した後、鋼板表面にAl
2O
3を主成分とする焼鈍分離剤を塗布してから、仕上焼鈍して二次再結晶させた。なお、上記仕上焼鈍後の鋼板は、表面にフォルステライト被膜が形成されていないため、MgOを主成分とするスラリーを塗布し、被膜形成焼鈍を施した後、さらに、リン酸塩−クロム酸塩−コロイダルシリカを重量比3:1:2で含有する塗布液を塗布し、800℃×30秒の平坦化焼鈍を施して製品コイルとした。
【0059】
上記のようにして得た各製品コイルの長さ方向中央部かつ幅方向中央部から、幅30mm×長さ280mmのエプスタイン試験片を500g以上切り出し、エプスタイン試験により磁束密度B
8を測定した。
上記の結果を表3に併記した。表3から、総圧下率が50%以下の段階を低歪速度(<100s
−1)で冷間圧延したNo.1〜3の鋼板は、高歪速度(>150s
−1)で冷間圧延したNo.4〜6の鋼板と比較して、良好な磁束密度B
8を示していることがわかる。ただし、No.3の鋼板は、圧延途中の{001}<110>強度は低く、製品板の磁気特性(B
8)も良好であるが、後半の冷延速度が低いため、潤滑性が悪く、形状不良が発生した。
【実施例4】
【0060】
C:0.040mass%、Si:3.3mass%、Mn:0.05mass%、Se:0.02mass%を含有し、その他の成分として、Ni,Sn,Sb,Cu,P,Mo,NbおよびCrを、表4に示す組成で含有する鋼を溶製し、鋼スラブとし、1400℃に加熱後、熱間圧延して板厚2.2mmの熱延板とし、1000℃×60秒の熱延板焼鈍を施した。次いで、上記熱延板を、ロール径が280mmφの4スタンドタンデム圧延機を用いて、1スタンド目の歪速度を100s
−1未満として前半の冷間圧延を施し、1.5mm(圧下率32%)の中間板厚とした。この際、比較例として、Ni,Sn,Sb,Cu,P,Mo,NbおよびCrを含まないコイルのうちの1つを、2.2mmの熱延板から中間板厚0.8mmまで、ロール径100mmφのリバース圧延機で圧延した。
次いで、1050℃×20秒の中間焼鈍を施した後、ロール径が100mmφのリバース圧延機を用いて後半の冷間圧延を行い、最終板厚0.22mm(圧下率85%)の冷延板とした。なお、リバース圧延機の歪速度は、5パスで圧延し、いずれのパスも歪速度は400
−1以上とした。
その後、上記冷延板に850℃×40秒の一次再結晶焼鈍を施した後、鋼板表面にMgOを主体とする焼鈍分離剤を塗布し、仕上焼鈍を施し、得られた二次再結晶後の鋼板に、リン酸塩−クロム酸円塩−コロイダルシリカを質量比3:1:2で含有する塗布液を塗布し、850℃×30秒の焼付けと平坦化を兼ねた平坦化焼鈍を施し、製品コイルとした。
【0061】
【表4】
【0062】
上記のようにして得た各製品コイルの長さ方向中央部かつ幅方向中央部の位置から30mm×280mmの試験片を総重量が500gとなるよう切り出し、エプスタイン試験により磁束密度B
8を測定し、得られた結果を、表4に併記した。
表4から、補助インヒビターとして、Ni,Sn,Sb,Cu,P,Mo,NbおよびCrのいずれか1種以上を添加した鋼板は、添加しない鋼板より磁束密度が向上していることがわかる。