特許第5835574号(P5835574)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ JFEスチール株式会社の特許一覧

特許5835574連続鋳造における鋳造鋳片の凝固完了位置検出方法および凝固完了位置制御方法
<>
  • 特許5835574-連続鋳造における鋳造鋳片の凝固完了位置検出方法および凝固完了位置制御方法 図000002
  • 特許5835574-連続鋳造における鋳造鋳片の凝固完了位置検出方法および凝固完了位置制御方法 図000003
  • 特許5835574-連続鋳造における鋳造鋳片の凝固完了位置検出方法および凝固完了位置制御方法 図000004
  • 特許5835574-連続鋳造における鋳造鋳片の凝固完了位置検出方法および凝固完了位置制御方法 図000005
  • 特許5835574-連続鋳造における鋳造鋳片の凝固完了位置検出方法および凝固完了位置制御方法 図000006
  • 特許5835574-連続鋳造における鋳造鋳片の凝固完了位置検出方法および凝固完了位置制御方法 図000007
  • 特許5835574-連続鋳造における鋳造鋳片の凝固完了位置検出方法および凝固完了位置制御方法 図000008
  • 特許5835574-連続鋳造における鋳造鋳片の凝固完了位置検出方法および凝固完了位置制御方法 図000009
  • 特許5835574-連続鋳造における鋳造鋳片の凝固完了位置検出方法および凝固完了位置制御方法 図000010
  • 特許5835574-連続鋳造における鋳造鋳片の凝固完了位置検出方法および凝固完了位置制御方法 図000011
  • 特許5835574-連続鋳造における鋳造鋳片の凝固完了位置検出方法および凝固完了位置制御方法 図000012
  • 特許5835574-連続鋳造における鋳造鋳片の凝固完了位置検出方法および凝固完了位置制御方法 図000013
  • 特許5835574-連続鋳造における鋳造鋳片の凝固完了位置検出方法および凝固完了位置制御方法 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5835574
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】連続鋳造における鋳造鋳片の凝固完了位置検出方法および凝固完了位置制御方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/16 20060101AFI20151203BHJP
   B22D 11/20 20060101ALI20151203BHJP
【FI】
   B22D11/16 104S
   B22D11/16 B
   B22D11/20 A
   B22D11/16 104T
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2011-274258(P2011-274258)
(22)【出願日】2011年12月15日
(65)【公開番号】特開2013-123739(P2013-123739A)
(43)【公開日】2013年6月24日
【審査請求日】2014年9月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】特許業務法人銀座マロニエ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080687
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 順三
(74)【代理人】
【識別番号】100077126
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 盛夫
(74)【代理人】
【識別番号】100107227
【弁理士】
【氏名又は名称】藤谷 史朗
(72)【発明者】
【氏名】大野 浩之
(72)【発明者】
【氏名】三木 祐司
(72)【発明者】
【氏名】荒牧 則親
(72)【発明者】
【氏名】堤 康一
(72)【発明者】
【氏名】藤田 斉彦
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭54−017327(JP,A)
【文献】 特開2006−289378(JP,A)
【文献】 特表2011−506101(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/000549(WO,A1)
【文献】 特開2007−245168(JP,A)
【文献】 特開平01−197051(JP,A)
【文献】 特表2007−518572(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00−11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続鋳造用鋳型より連続的に引き抜かれた鋳造鋳片を、複数対の支持ロールが組み込まれ、上フレームおよび下フレームをタイロッドを介して相互に連結した複数のロールセグメントにて支持しつつ鋳造を行う鋳造鋳片の連続鋳造において、
前記鋳造鋳片の引き抜き移動中に、前記ロールセグメントの入側および出側の少なくとも一方につき、前記上フレームの変位量を測定し、測定された変位量の振幅が0.1mm以上であり、
該変位量の周波数別強度のピークが、Vc/R/60(1/s)(Vc:鋳造鋳片の引き抜き速度(m/min)、R:支持ロールのピッチ(m))の±10%以内である場合に、該ロールセグメントの入側若しくは出側における鋳造鋳片の軸心の固相率が流動限界固相率以上であると判定し、この判定結果に基づいて伝熱計算により凝固完了までの鋳造長さを算出することにより、当該凝固完了位置におけるロールセグメントを特定することを特徴とする連続鋳造における鋳造鋳片の凝固完了位置検出方法。
【請求項2】
前記タイロッドは、ロールセグメント1基当たり、2本で1組になるロール対を、鋳造鋳片の引き抜き方向に沿い間隔をおいて2組配置した、合計で4本からなるものであることを特徴とする請求項1に記載した連続鋳造における鋳造鋳片の凝固完了位置検出方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載した方法により検出された鋳造鋳片の凝固完了位置に基づいて前記鋳造鋳片の引き抜き速度を変更することにより、該鋳造鋳片の凝固完了位置を目標とする範囲内に制御することを特徴とする連続鋳造における鋳造鋳片の凝固完了位置制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造用鋳型より引き抜かれた鋳造鋳片の凝固完了位置を検出する凝固完了位置検出方法と、この方法によって検出された凝固完了位置を、目標とする範囲内に収めるための凝固完了位置制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼の連続鋳造において、水冷鋳型内に注入された溶鋼は、該鋳型内で1次冷却され、これによって鋳型内壁で凝固殻が形成される。そして、該凝固殻をもつ鋳造鋳片は、鋳型の下方に設置した多数の支持ロールによって支持されながら下流に向けて連続的に引き抜かれる。
【0003】
前記引き抜きにかかる鋳造鋳片は、さらに、スプレー冷却水等によって2次冷却され、その厚さ中心部まで完全に凝固させた後に所定の長さに切断される。
【0004】
このような連続鋳造に用いられる連続鋳造機の最大鋳造能力は、鋳造鋳片の凝固完了位置を、連続鋳造機出側の最下流に設置される支持ロールの配置位置に一致させる引き抜き速度で鋳造鋳片を鋳造した場合に達成される。
【0005】
また、熱エネルギーの削減を目的として鋳造直後の鋳造鋳片を圧延工程に搬送して高温状態のままで圧延すべく、鋳造鋳片の温度を可能な限り高くするためにも、鋳造鋳片の凝固完了位置を、連続鋳造機出側の最下流に設置される支持ロールの位置とすることが好ましい。
【0006】
しかし、鋳造鋳片の凝固完了位置は、引き抜き速度を一定にしても、2次冷却用冷却水の水温や吹き付け圧力、あるいは鋳型注入時の溶鋼温度等の変化により常に変動しており、鋳造鋳片の凝固完了位置を、連続鋳造機出側の最下流に設置される支持ロールの位置に一致させるのが困難な状況にあった。
【0007】
とくに、鋳造鋳片の凝固完了位置が、連続鋳造機出側の最下流に設置される支持ロールよりもさらに下流側にある場合には、鋳造鋳片が溶鋼静圧によりバルジングを起こし鋳造鋳片の品質に悪影響を与えることが懸念される。
【0008】
また、鋳造鋳片を所定の長さに切断する際に、内部の溶鋼(未凝固層)が流出するというトラブルが発生するおそれもある。
【0009】
このため、実際の操業においては、鋳造鋳片の凝固完了位置を、連続鋳造機の出側末端(機端)よりも十分に上流側とする条件で連続鋳造しているのが一般的であった。
【0010】
そこで、上記のような問題を解決して連続鋳造機の最大鋳造能力を安定して確保するべく、鋳造鋳片の凝固完了位置を検出する種々の方法がこれまでに提案されている。
【0011】
例えば、特許文献1には、連続鋳造機の機端に配置されたロール群の下部従動ロールまたは上部従動ロールのロールチョック基端にひずみゲージを貼付してロール負荷を検出し、鋳片の完全凝固前と完全凝固後の静鉄圧の有無に起因するロール負荷変動を検出して完全凝固位置を判定する方法が開示されている。
【0012】
また、特許文献2には、連続鋳造される鋳片に対して、送信子により厚さ方向に横波超音波を透入せしめ、該鋳片を透過した超音波を受信子で受信し、該横波超音波の透過強度から鋳片の凝固状態を検出する方法が開示されている。
【0013】
また、さらに、特許文献3には、連続鋳造中の鋳片を一対以上のロールにて圧下し、該鋼片を圧下しているそれぞれのロールの変位量を計測し、計測した変位量からロールによる鋳片の圧下量を求め、求めた圧下量に基づいて鋳片の凝固完了位置を判定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平9−225611号公報
【特許文献2】特開平11−83814号公報
【特許文献3】特開2002─66704号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上記の従来技術においては以下に述べるような問題があった。
【0016】
すなわち、特許文献1では、ロールチョック基端に貼付したひずみゲージによってロールの負荷変動を検出するが、連続鋳造を行うための設備は、本来、堅固で丈夫であり、溶鋼静圧の有無に起因して起こるロールチョック基端のひずみは極めて小さい。
【0017】
また、ひずみゲージが貼付されている位置は、高温雰囲気であり、温度によるロールのひずみも発生するので、該ひずみゲージでは、ロールの負荷変動を正確に測定することができない場合がある。
【0018】
一方、特許文献2では、鋳片の凝固完了位置を測定するには、横波超音波の発信子および受信子を、各ロール間に設置する必要がある(鋳片の引き抜き速度を一定にしても凝固完了位置は、その時の条件により常に変動するため)。
【0019】
また、上記文献2においては、鋳片の引き抜き速度が変化する場合においても凝固完了位置を測定しようとする場合には、多数の受信子を配置するのが不可欠であり、設備費の上昇が避けられない。
【0020】
さらに、特許文献3では、凝固完了位置の測定に際しては、鋳片の圧下が必要であり、鋳片を圧下しない場合には、凝固完了位置を判定することができない。
【0021】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、連続鋳造における鋳造鋳片の引き抜き過程で、該鋳造鋳片の凝固完了位置を、設備コストの上昇を伴うことなしに簡便、かつ、正確に検出するとともに、検出された結果に基づいて該凝固完了位置を目標とする範囲に収めることができる凝固完了位置検出方法および凝固完了位置制御方法を提案するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、連続鋳造用鋳型より連続的に引き抜かれた鋳造鋳片を、複数対の支持ロールが組み込まれ、上フレームおよび下フレームをタイロッドを介して相互に連結した複数のロールセグメントにて支持しつつ鋳造を行う鋳造鋳片の連続鋳造において、前記鋳造鋳片の引き抜き移動中に、前記ロールセグメントの入側および出側の少なくとも一方につき、前記上フレームの変位量を測定し、測定された変位量の振幅が0.1mm以上であり、該変位量の周波数別強度のピークが、Vc/R/60(1/s)(Vc:鋳造鋳片の引き抜き速度(m/min)、R:支持ロールのピッチ(m))の±10%以内である場合に、該ロールセグメントの入側若しくは出側における鋳造鋳片の軸心の固相率が流動限界固相率以上であると判定し、この判定結果に基づいて伝熱計算により凝固完了までの鋳造長さを算出することにより、当該凝固完了位置におけるロールセグメントを特定することを特徴とする連続鋳造における鋳造鋳片の凝固完了位置検出方法である。ここに上記流動限界固相率とは、鋳造鋳片の軸心における固相率が0.6〜0.8程度の範囲の固相率をいうものとする(固相率1.0で完全凝固の状態)。
【0023】
上記の構成からなる連続鋳造における鋳造鋳片の凝固完了位置検出方法において、前記タイロッドとして、ロールセグメント1基当たり、2本で1組になるロール対を、鋳造鋳片の引き抜き方向に沿い間隔をおいて2組配置した、合計で4本からなるものを適用することが本発明の課題解決のための具体的手段として好ましい。
【0024】
また、本発明は、上記の構成からなる検出方法によって鋳造鋳片の凝固位置を検出し、この検出結果に基づいて前記鋳造鋳片の引き抜き速度を変更することにより、該鋳造鋳片の凝固完了位置を目標とする範囲内に制御することを特徴とする連続鋳造における鋳造鋳片の凝固完了位置制御方法である。
【発明の効果】
【0025】
上記のような構成を有する本発明によれば、記鋳造鋳片の引き抜き移動中に、前記ロールセグメントの上フレームの入側および出側の少なくとも1箇所の変位量を測定し、測定された変位量の振幅が0.1mm以上である場合に、該ロールセグメントの入側若しくは出側における鋳造鋳片の軸心の固相率が流動限界固相率以上であると判定し、この判定結果に基づいて該鋳造鋳片の凝固完了位置を検出するようにしたため、凝固完了位置のロールセグメントを、簡単かつ正確に特定できる。
【0026】
また、本発明による連続鋳造における鋳造鋳片の凝固完了位置検出方法によれば、ロールセグメントの入側および出側の少なくとも1箇所で上フレームの変位量を測定すればよいので、そのための機器が少なくて済む。
【0027】
また、本発明による連続鋳造における鋳造鋳片の凝固完了位置検出方法によれば、鋳造鋳片に対して圧下を施さずとも凝固完了位置を求めることができる。
【0028】
また、連続鋳造における鋳造鋳片の凝固完了位置検出方法にかかる本発明によれば、記鋳造鋳片の軸心の固相率が流動限界固相率以上であるとする判定条件として、前記変位量の周波数が、Vc/R/60(1/s)(Vc:鋳造鋳片の引き抜き速度(m/min)、R:支持ロールのピッチ(m))の±10%以内である場合を付加するようにしたため、計測誤差が除外され、凝固完了位置のより正確な検出が可能となる。
【0029】
なお、本発明による連続鋳造における鋳造鋳片の凝固完了位置検出方法によれば、ロールセグメントの上フレームと下フレームを連結するタイロッドとしてロールセグメント1基当たり、2本で1組みになるロール対を、該鋳造鋳片の引き抜き方向に沿い間隔をおいて2組配置した、合計で4本からなるものを適用したため、上フレームの変位量を正確に測定し得る。
【0030】
さらに、本発明による連続鋳造における鋳造鋳片の凝固完了位置制御方法によれば、上記検出方法によって検出された検出結果に基づいて鋳造鋳片の引き抜き速度を変更して、該鋳造鋳片の凝固完了位置を目標とする範囲(位置)に収まるように制御するようにしたため、該凝固完了位置を、連続鋳造機側の最下流に設置される支持ロールの位置に一致させることが可能であり、該連続鋳造機の鋳造能力を最大まで高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明を実施するのに用いて好適な連続鋳造機を模式的に示した図である。
図2】(a)(b)は、ロールセグメントを模式的に示した図であり、(a)は側面を示した図であり、(b)は、正面を示した図である。
図3】引き抜き移動中の鋳造鋳片と支持ロールの関係を説明した図である。
図4】引き抜き移動中の鋳造鋳片と支持ロールの関係を説明した図である。
図5】No.9セグメントにおけるフレームの変動量を示したグラフである。
図6】No.10セグメントにおけるフレームの変動量を示したグラフである。
図7】No.11セグメントにおけるフレームの変動量を示したグラフである。
図8】No.9セグメントについて、周波数と強度の関係を示したグラフである。
図9】No.10セグメントについて、周波数と強度の係を示したグラフである。
図10】No.11セグメントについて、周波数と強度の係を示したグラフである。
図11】伝熱計算によって求められたスラブ鋳片の軸心における温度とメニスカスからの距離の関係を示したグラフである。
図12】固相率と温度の関係を示したグラフである。
図13】伝熱計算によって求められたスラブ鋳片の軸心における固相率とメニスカスからの距離の関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を図面を用いてより具体的に説明する。
図1は、本発明を実施するのに用いて好適な連続鋳造機を模式的に示した図である。
【0033】
図1に示すように、連続鋳造機には、溶鋼を注入して凝固させ、鋳片の外殻形状を形成するための鋳型1が設置される。また、この鋳型1の上方所定位置には、取鍋から供給される溶鋼を鋳型1に中継供給するためのタンディッシュ2が設置されている。
【0034】
タンディッシュ2の底部には、溶鋼の流量を調整するためのスライディングノズル3が設置され、このスライディングノズル3の下面には、浸漬ノズル4が設置されている。
【0035】
一方、前記鋳型1の下方には、鋳造鋳片Sの引き抜き方向に沿ってサポートロール、ガイドロール、及びピンチロールからなる複数対の鋳片支持ロール5(以下、単に支持ロール5と表記する)が、ロールセグメント6に組み込まれた状態で配置されている。
【0036】
また、鋳型1の下方には、支持ロール5の間を通して冷却水あるいはエアーを吹きつけるための、水スプレーノズル、エアーミストノズルなどのスプレーノズルから構成された2次冷却帯7が配置されている(この領域のロールセグメント6の図示は省略してある)。
【0037】
鋳型1から引き抜かれた鋳造鋳片Sは、その引き抜き移動中に、上記2次冷却帯7のスプレーノズルから噴霧される冷却水(これを、「2次冷却水」ともいう)あるいはエアーミストによって冷却される。
【0038】
2次冷却帯7は、通常、幾つかの冷却ゾーンに分かれている。冷却媒体として2次冷却水を適用するものにあっては、それを送り出すポンプは各冷却ゾーンで共通になっており、該ポンプの前後に温度を調整するためのヒーターやクーラーを設置することにより、2次冷却水の温度を調整して、鋳造鋳片Sを冷却することができるようになっている。
【0039】
また、鋳造方向最終の支痔ロール5の下流側には、鋳造鋳片Sを搬送するための複数の搬送ロール8が設置されており、この搬送ロール8の上方には、鋳造鋳片Sから所定の長さの鋳片を切り出すための鋳片切断機9が配置されている。
【0040】
図2(a)(b)は、ロールセグメント6の側面および正面を模式的に示した図である。かかるロールセグメント6は、支持ロール5を複数本まとめて回転可能に保持する単一のフレームを上下に相対配置して構成されるものであり、上フレーム6aと、下フレーム6bと、これら上下フレーム6a、6bを相互に連結するタイロッド6cからなる。ロールセグメント6は、一般的な連続鋳造機においては、15〜20基程度設けられている。
【0041】
図示のロールセグメント6は、支持ロール5を8対組み入れた例として示してあるが、該支持ロール5は、2対以上配置されたものであればよく、この点についてはとくに限定されない。
【0042】
一般的に、2次冷却帯7における鋳造鋳片Sは、溶鋼静圧によって鋳片支持ロール5のロール間で膨れるように撓む。この現象は、通常、ロール間バルジングと呼ばれている。
【0043】
また、凝固が進行する前のバルジングは、鋳造鋳片Sの引き抜きにより、該鋳片支持ロール5を通過することによって解消される一方、別の支持ロール5のロール間に当たる部分でバルジングを起こす。つまり、支持ロール5のロール間においては、常に鋳造鋳片Sが膨らんでいることになり、これが、定常バルジングと呼ばれるものである。
【0044】
上記のようなバルジングを起こした状態で鋳造鋳片Sの凝固が進行すると、バルジング部分は、ロール間を通過しても解消不能となり、ロール間においては、膨らんでいる部分と膨らんでいない部分が交互に表れることとなる。
【0045】
これは、非定常バルジングと呼ばれるものであり、膨らんでいる部分と膨らんでいない部分が交互に表れる周期は、ロールの鋳造方向の間隔と、鋳造鋳片Sの引き抜き速度で決まる。
【0046】
支持ロール5は、鋳造鋳片Sをその上下から押え込んでいるため、該圧下の有無に係わらず、該支持ロール5には、鋳造鋳片Sからの反力が作用する。
【0047】
この反力は、鋳造鋳片Sの厚さ方向の中心部(軸心)に液相が残留しているかどうかで大きく変わる。
【0048】
すなわち、鋳造鋳片Sの凝固が完了している場合は、変形抵抗が大きくなるので、反力は非常に大きくなる。しかし、液相が残留している場合には、該液相の抵抗はほぼ0なので、反力は小さくて済む。
【0049】
上述したように、凝固が進行すると定常バルジングから非定常バルジングに推移することになるが、鋳造鋳片Sの内部に液相が残留していると、図3に示すように、鋳造鋳片Sからの反力は小さいので、液相の厚さは変動するがロール開度はほとんど変動しない。
【0050】
一方で、鋳造鋳片Sの軸心の固相率が流動限界固相率を超える段階まで凝固が進行すると、軸心部のほとんどの固相部分がつながるため液相のみが変形することが不可能となり、固相も変形することになる。このときの変形抵抗が非常に大きく、支持ロール5にかかる反力も非常に大きくなる。
【0051】
その結果、図4に示すように、支持ロール5のロール開度は、鋳造鋳片Sの厚さの変動に同期して変動するようになる。
【0052】
連続鋳造時の定常部においては、ロールセグメント6の上側に位置するロールから上フレーム6aまでの距離は一定であるので、ロール開度の変動は、上フレーム6aの変動を測定することによって把握できる。
【0053】
本発明は、上記の知見に立脚するものであり、鋳造鋳片Sの連続鋳造中に、ロールセグメント6の上フレーム6aの変位量を監視することにより、どのロールセグメント6で凝固が完了したかを特定するようにしたものである。
【0054】
なお、鋳造鋳片Sの幅寸法が狭い等、鋳造条件によっては、鋳造鋳片Sからの反力が小さいため、鋳造鋳片Sが凝固完了した位置におけるロールセグメント6を正確に特定することができない。
【0055】
そこで、種々の実験を重ねた結果、ロールセグメント6の上フレーム6aの変位量の振幅(変位の山谷の差)が0.1mm以上である場合に、鋳造鋳片Sの軸心の固相率が流動限界固相率以上になっていることが判明し、これに基づいて凝固完了位置を検出することにより、鋳造鋳片Sが凝固完了した位置におけるロールセグメント6を正確に特定できることを初めて突き止めたものである。
【0056】
また、鋳造鋳片Sの固相率が、流動限界固相率段階まで凝固が進行した位置でのロールセグメント6においては、上フレーム6aの変位量(振動)の周波数が、Vc/R/60(1/s)(Vc:鋳造鋳片の引き抜き速度(m/min)、R:ロールピッチ(m))の±10%以内になることも判明した。
【0057】
上記周波数を、Vc/R/60(1/s)の±10%以内とするのは、上フレーム6aの変位量の測定においては、誤差を含むことがあるためであり、Vc/R/60(1/s)の±10%以内とすることにより、誤差を考慮に入れた測定が可能となる。
【0058】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、鋳造鋳片Sの軸心における固相率が流動限界固相率以上であると判定されたならば、その判定結果に基づいて伝熱計算により、該流動限界固相率から、固相率1.0、すなわち凝固完了までの鋳造長さを算出することにより鋳造鋳片Sの凝固完了位置を検出してその部位に当たるロールセグメント6を特定するものである。
【0059】
上フレーム6aの変位量を測定するに当たっては、図2に示すように、該上フレーム6aの入側、出側にそれぞれ、変位量を計測する、レーザー式距離計、渦電流式距離計、接触式距離計等の変位量計測器10を取付冶具を介して取付けておくことが好ましい。
【0060】
なお、変位量計測器10は、連続鋳造機の設備において、上フレーム6aから独立した箇所に設置する必要がある。というのは、上フレーム6aとつながっている箇所に設置すると、該上フレーム6aの変動に同期して計測器自体も変動し、正確な計測が困難となるからである。
【0061】
また、変位量計測器10は、上フレーム6aの幅方向に沿って複数個設置することができるが、該上フレーム6aは、幅方向において同様の変位挙動を示すので、該変位量計測器10は、1箇所に設けるだけでもとくに問題はない。
【0062】
さらに、変位量計測器10は、各ロールセグメント6の入側と出側以外に設置してもかまわず、また、計測精度が低くてもかまわない場合には、各セグメントの入側若しくは出側のいずれか1箇所に設けることができる。
【0063】
変位量計測器10の設置個数を削減しつつもより正確な計測を実現するために、伝熱計算等で鋳造鋳片Sの凝固完了位置を予め予測しておき、その近傍域に配設されたロールセグメント6の変位量を測定すればよい。なお、測定対象となるロールセグメント6においては、鋳造鋳片Sに圧下(軽圧下等)を加えることもできる。
【0064】
上記の要領に従って鋳造鋳片Sの凝固完了位置が検出された場合においては、該凝固完了位置に基づいて鋳造鋳片Sの引き抜き速度を変更し、例えば、該凝固完了位置を、連続鋳造機側の最下流に設置される支持ロールの位置に一致させる制御を行うことにより、熱エネルギーの有効活用が可能となるとともに、連続鋳造機の鋳造能力を最大まで高められる。
【実施例】
【0065】
連続鋳造用鋳型の出側から鋳造鋳片の引き抜き方向に沿って11基(No.1〜No.11)のロールセグメント6を配設した上掲図1に示したような連続鋳造機を使用して、幅2100mm、厚さ250mmのサイズになる低炭素アルミキルド鋼のスラブ鋳片を、引き抜き速度:1.4m/min、2次冷却水の比水量:1.61リットル/kg-steel(一定値)の条件下で鋳造する操業を実施し、その際に、No.9セグメント(メニスカスから23〜25m)、No.10セグメント(メニスカスから25〜27m)、No.11セグメント(メニスカスから27〜29m)の各入側、出側の上フレームにおいて、レーザー距離計により変位量を計測して、該上フレームの変形量と、スラブ鋳片の凝固完了位置との関係についての調査を行った。
【0066】
なお、No.9〜11セグメントとしては、直径が230mmになる支持ロールを、280mmのロールピッチRで8対組み込んだものを使用した。
【0067】
図5〜7に、No.9〜11セグメントの入側と出側における上フレームの変動量を示し、図8〜10に、図5〜7の変動量の周波数別強度を算出した結果をそれぞれ示す。
【0068】
図5〜7、図8〜10から、No.10セグメントの出側以降については、上フレームの振幅が0.1mmを超えており、同じ周波数の箇所にピークが発生していることが分かる。
【0069】
また、セグメントに配置された支持ロールのロールピッチRは、0.28m、であるので、Vc/R/60(1/s)は、0.083(1/s)であって、図8〜10においてピークが発生している周波数がVc/R/60(1/s)の±10%以内となっていることも明らかである。
【0070】
かかる連続鋳造においては、No.10セグメントの出側においてスラブ鋳片の軸心の固相率が流動限界固相率以上になっていることを示しており、伝熱計算により、流動限界固相率0.7〜完全凝固(固相率1.0)の鋳造長さを求めたところ、その長さは0.9mであり、スラブ鋳片が凝固完了する位置のセグメントは、No.11セグメントとなる(No.11のセグメントの長さ:1.89m)。
【0071】
上記の凝固完了位置を確認すべく、No.11セグメントに予め配置しておいた超音波の送受信子によって横波超音波をスラブ鋳片に透過させたところ、伝播強度から凝固完了位置がNo.11セグメントに存在していることが判明し、本発明による検知、制御方法が有効であることが確認された。
【0072】
なお、図11は、伝熱計算によって算出したスラブ鋳片の軸心の温度とメニスカスからの距離との関係を示したグラフであり、図12は、実施例で使用した低炭素アルミキルド鋼の固相率と温度との関係を計算により求めた結果を示したグラフであり、図13は、図11に示したスラブ鋳片の軸心温度に図12に示した固相率を当てはめて、メニスカスからの距離に応じたスラブ鋳片の軸心の固相率を求めた結果を示したグラフである。
【0073】
本実施例においては、流動限界固相率0.7〜完全凝固の領域の鋳造長さを0.9mとして求めたが、その値は、上掲図11図13に示された結果に基づくものである。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によれば、設備コストの上昇を伴うことなしに簡便かつ正確に鋳造鋳片の凝固完了位置を特定することができる。
【0075】
また、本発明によれば、鋳造鋳片の引き抜き速度を変更して凝固完了位置を目標とする範囲(位置)に収めることができるので、該凝固完了位置を、連続鋳造機の出側の最下流に位置する支持ロールに一致させることで連続鋳造機の鋳造能力を最大まで高めることが可能であるとともに、熱エネルギーの削減を図り得る。
【符号の説明】
【0076】
1 連続鋳造用鋳型
2 タンディッシュ
3 スライディングノズル
4 浸漬ノズル
5 支持ロール
6 ロールセグメント
6a 上フレーム
6b 下フレーム
6c タイロッド
7 2次冷却帯
8 搬送ロール
9 鋼片切断機
10 変位量計測器
S 鋳造鋳片
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13