(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明に従うフィラメントの横断面のSEM顕微鏡写真を示している。
【
図2】
図2は、本発明に従うフィラメントの横断面の別のSEM顕微鏡写真を示している。
【
図3】
図3は、側面から見た本発明に従うフィラメントのSEM顕微鏡写真を示している。
【
図4】
図4は、種々の縫合糸の放射線写真画像を示している。
【0013】
[詳細な説明]
HPPEとは、本明細書において、少なくとも30GPaのヤング率(E−弾性率または単に弾性率とも称される)を有する延伸ポリエチレンである、高性能ポリエチレンと解釈される。HPPEは、例えば、溶融紡糸法(例えば、欧州特許第1445356号明細書に開示されているような溶融紡糸法)により、または固相法(例えば、欧州特許出願公開第1627719号明細書に開示されているような固相法)により、またはゲル紡糸(例えば、国際公開第2005/066401号パンフレットに開示されているようなゲル紡糸)により、調製され得る。典型的に、当該部材の延伸は、十分なヤング率および/または強度を実現することが要求される。好ましい種類のHPPEは、延伸されて少なくとも100GPaまでヤング率が高められた、溶融紡糸HPPEおよびゲル紡糸HPPEである。特に好ましい種類のHPPEは、少なくとも100GPaのヤング率を有するゲル紡糸超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)糸である。というのも、そのような糸は、非常に低い断面形状(例えば、非常に小さい大きさ(例えば、カテーテルもしくは(ステント)グラフトの肉厚または縫合糸もしくはケーブルの直径などの、HPPE要素の横断面の大きさ))を有する医療用デバイスの製造を可能にするからである。
【0014】
医療用デバイスについては、ポリエチレン部材は、多くの場合、(UHMW)ポリエチレン粉末の成形または押出、それに続くポリエチレン分子間に架橋を導入するための電離線での処理により、調製される。これは、より強靭な部材に繋がり得るが、部材の強度および剛性を大いに低減する。典型的に、架橋ポリエチレンのヤング率は、2GPa未満である(例えば、S.M.Kurtz,The UHMWPE handbook:ultra−high molecular weight polyethylene in total joint replacement,Academic Press,New York(2009)2nd editionまたはMedel,FJ;Pena,P;Cegonino,J;Gomez−Barrena,E;Puertolas,JA;Comparative Fatigue Behavior and Toughness of Remelted and Annealed Highly Crosslinked Polyethylenes;Inc.J Biomed Mater Res Part B:Appl Biomater 83B:380−390,2007参照)。したがって、例えば国際公開第2007/019874号パンフレットに記載されているような架橋された部材は、本発明を評価する際に問題とされるものではない。したがって、架橋は、照射が鎖の切断に繋がることから、また、延伸分子の崩壊、または少なくとも、部材強度のかなりの低下のため、本発明に従うHPPE部材(例えば、ゲル紡糸UHMWPE部材などの延伸高テナシティポリエチレン部材)には適していない。
【0015】
本発明に従うHPPE部材は、モノフィラメント、マルチフィラメント糸、シート、バンドまたはマルチフィラメント糸構造物であり得る。好ましい実施形態において、HPPE部材は、マルチフィラメント糸またはシート、テープもしくはフィルムである。なぜならこれは、本明細書の他のところに記載されるような幅広い範囲の医学的修復用製品、インプラントおよび医療用デバイスを製造することを可能にするからである。
【0016】
極めて好ましい実施形態において、HPPE部材は、少なくとも1.5GPa、より好ましくは少なくとも2.5GPa、より好ましくは少なくとも3.0GPa、より好ましくは少なくとも3.5GPa、最も好ましくは少なくとも4.0GPaの極限引張強さを有するHPPE糸である。少なくとも3.0GPa、3.5GPaおよび4.0GPaなどの非常に高い極限引張強さについては、高い強度と、非常に小さい大きさ(直径)、および放射線不透過性とを併せ持つ、極めて優れた医療用デバイス(例えば、縫合糸)が得られ得る。単に強度またはテナシティとも称される、そのような繊維の極限引張強さは、ASTM D885−85またはD2256−97に基づく公知の方法により測定される。HPPE繊維のテナシティの上限に根拠はないが、こうした繊維は、典型的に、最大約5GPa〜6GPaのテナシティのものである。当該HPPE部材はまた、高い引張弾性率(ヤング率とも称される)も有している。当該HPPE部材が、少なくとも70GPa、好ましくは少なくとも100GPaまたは少なくとも125GPaのヤング率を有することが好ましい。HPPE繊維はまた、場合によっては、高弾性ポリエチレン繊維と称されることもある。
【0017】
HPPE繊維は、好適な溶媒中の超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)の溶液のゲル繊維への紡糸、ならびにその溶媒の一部または全部の除去前、除去中および/または除去後の繊維の延伸により、すなわち所謂ゲル紡糸法により、調製され得る。UHMWPEの溶液のゲル紡糸は、当業者にはよく知られており、欧州特許出願公開第0205960A号明細書、欧州特許出願公開第0213208A1号明細書、米国特許第4,413,110号明細書、英国特許出願公開第2042414A号明細書、欧州特許第0200547B1号明細書、欧州特許第0472114B1号明細書、国際公開第01/73173A1号パンフレットを含む多くの公報、ならびにAdvanced Fiber Spinning Technology,Ed.T.Nakajima,Woodhead Publ.Ltd(1994),ISBN 1−855−73182−7、およびその中で引用されている文献に記載されており、全て、参照により本明細書に援用される。
【0018】
UHMWPEは、少なくとも5dl/g、好ましくは約8〜40dl/gの間の固有粘度(IV、デカリン中の溶液について135℃で測定した場合)を有するポリエチレンであると理解される。固有粘度は、M
nおよびM
wなどの実際のモル質量パラメータよりも容易に測定され得るモル質量(分子量とも呼ばれる)の尺度である。IVとM
wとの間にはいくつかの経験的関係があるが、かかる関係は、モル質量分布に依存している。式M
w=5.37
*10
4[IV]
1.37(欧州特許出願公開第0504954A1号明細書参照)に基づけば、8dl/gのIVは、約930kg/molのM
wに相当することになる。好ましくは、UHMWPEは、炭素原子100個当たり1個未満の分枝、好ましくは炭素原子300個当たり1個未満の分枝を有する線状ポリエチレンであり、分枝または側鎖または鎖分枝は、通常少なくとも1個の炭素原子を含有している。線状ポリエチレンは、1種以上のコモノマー(例えば、プロピレン、ブテン、ペンテン、4−メチルペンテンまたはオクテンなどのアルケン)を5mol%までさらに含有し得る。
【0019】
放射線不透過性成分とは、本明細書において、ヒト軟組織よりも高いX線吸光度を有する物質を意味する。放射線不透過性成分は、当該技術分野において知られており、金属(例えば、金、銀、鋼、タンタル、タングステンなど);塩およびバイオセラミックス(例えば、BaSO
4、Bi
2O
3、ヒドロキシアパタイト、Ca
3PO
4、オキシ塩化ビスマスおよび次炭酸ビスマス)を含む。放射線不透過性成分の混合物もまた利用され得るが、好ましくはない。本発明によれば、放射線不透過性成分は、微粒子であり、本明細書において、微粒子とは、それが、ポリエチレンにも40℃未満の体液にも、溶解しないかまたは非常に低い溶解度を有する固体であることを意味する。最も好ましい放射線不透過性微粒子成分は、タンタルおよびBi
2O
3である。HPPE部材からの放射線不透過性成分の浸出または他の喪失を低減するために、放射線不透過性成分が、HPPE部材のHPPEフィラメント内に少なくとも部分的に配置されるべきであることが見出された。これが、放射線不透過性成分と身体との間の相互作用を低減するとともに、使用の間のHPPE部材から離れる放射線不透過性成分の移動によりHPPE部材のX線画像が不鮮明化されることを妨げるということが理論付けられ得るであろう。放射線不透過性成分の粒径は、HPPE部材の機械的性質にとって極めて重要であることが分かった。驚くべきことに、放射線不透過性成分が最大で1μmという粒径を有していれば、その場合は、非常に細いフィラメントを用いた糸であってもHPPE部材の引張強さは高いままであることが見出された。好ましくは、当該放射線不透過性成分は、最大0.5μmの粒径を有している。この粒径は、本明細書の他のところに記載されるようにして作られた一次粒子の直径である。国際公開第2009/115291号パンフレットは、UHMWPE糸および金属繊維を含み得るインプラントを開示しており、この金属繊維は、布構造物に組み込まれている。国際公開第2009/115291号パンフレットは、その金属が微粒子であり得ることは開示も示唆もしていない。金属繊維を用いた医療用インプラントは、屈曲疲労切断を起こしやすく、したがって、本発明に従うHPPE部材をベースにして調製された医療用インプラントより劣る。
【0020】
HPPE部材が生体適合性であるということは、本明細書において、HPPE部材が100ppm未満の有機溶媒を含むということを意味する。好ましくは、HPPE部材は、60ppm未満の有機溶媒を含み、より好ましくは、HPPE部材は、50ppm未満の有機溶媒を含む。有機溶媒は、例えば、ゲル紡糸において使用される溶媒または延伸もしくは洗浄手順の間に使用される添加剤(例えば、紡糸仕上剤または押出剤(extrudant))であり得る。
【0021】
極めて好ましい実施形態において、HPPE部材は、ISO 10993−1:2009(医療機器の生物学的評価−第1部:リスクマネジメントプロセスにおける評価及び試験)に準じて選択され実施される、生物学的試験に合格する。
【0022】
非常に小さい粒径については、身体とその微粒子との間の相互作用において、特殊な作用が生じ得る。したがって、放射線不透過性成分が少なくとも0.05μmという粒径を有し、好ましくは、その粒径は少なくとも0.075μmであることが、有利であることが見出された。なぜならこれは、HPPE部材の好適な放射線不透過性を実現するための粒子の数を削減するとともに、微粒子の生物活性を低減するからである。放射線不透過性成分としてBi
2O
3またはタンタルを利用する場合、0.05μmより大きい粒径について、特に0.075μmより大きい粒径については、ゲル紡糸の混合工程の間に、凝集体微粒子の分離が容易に得られ得ることが見出された。
【0023】
サブミクロン粒子を用いた粉末は、通常、凝集してより大きなクラスターとなる。HPPE部材中の粒子の高い濃度を達成し得るためには、そのようなクラスターがかなりの程度まで個々の粒子に分かれることが重要である。これは、例えば、十分な(例えばディソルバーディスク、磨砕、または超音波振動による)機械的作用と組み合わせた安定剤(OLOAなど)の使用により達成され得る。さらに、HPPE部材を調製する方法自体(例えば、ゲル紡糸における混合工程および押出工程)もまた、凝集粒子を一次粒子に分離することにおいて非常に有効であることが見出された。粒径とは、本明細書において、1%のOLOA 1200を加えたデカリン中の放射線不透過性微粒子のソニックスバイブラセル(sonics vibracell)での超音波処理後にZetasizer nanoにより測定される場合の一次粒子の平均粒子直径を意味する。
【0024】
本発明に従うHPPE部材の好適なX線線形減衰係数は、HPPE部材の用途による。しかしながら、マルチフィラメント糸については、40keVのX線照射について少なくとも1cm
−1のX線線形減衰係数を有することが極めて有利であることが見出された。なぜならこれは、それほど高い構造物の厚さを要することなく軟組織の方に放射線を通さない、縫合糸、ケーブルおよび他の構造物を調製することを可能にするからである。これは、5mmの直径の医療用ケーブルであれば、およそ20mmの軟組織のX線吸光度と同程度のX線吸光度を有することになることを意味する。より好ましくは、40keVのX線照射について少なくとも5cm
−1のX線線形減衰係数を有するマルチフィラメント糸であり、これは、約30重量%のBi
2O
3を含有することに相当する。本発明に従うこのマルチフィラメント糸の場合、0.5mmの直径を有する医療用縫合糸であれば、およそ9mmの軟組織のX線吸光度と同程度のX線吸光度を有することになる。さらにより好ましくは、50keVのX線照射について少なくとも10cm
−1のX線線形減衰係数を有するマルチフィラメント糸であり、これは、約62重量%のBi
2O
3を含有することに相当する。本発明に従うこのマルチフィラメント糸の場合、直径がわずか0.1mmしかない医療用縫合糸で、およそ2mmの骨のX線吸光度と同程度のX線吸光度を有することになる。
【0025】
本発明に従う特に好ましい実施形態において、HPPE部材は、18μm未満のフィラメント直径を有するマルチフィラメント糸である。好ましくは、フィラメント直径は、15μm未満であり、より好ましくは、フィラメント直径は、12μm未満(例えば、9μm未満)である。より小さい直径は、同じ大きさのマルチフィラメント糸ついてマルチフィラメント糸1本につきより多くのフィラメントを可能にし、このことは、フィラメント切断に対する感受性の低減およびより一様なX線吸光度を実現することにおいて、より有利であることが分かった。好ましい実施形態において、フィラメント直径は、少なくとも5μmである。なぜなら、より細いフィラメントは、放射線不透過性粒子を含まないフィラメントと比べた実質的な強度の低下を妨げるためには非常に細かい放射線不透過性粒子を必要とするからである。別段の明記がない限り、本明細書において直径とは、フィラメント長さに直交するフィラメント横断面と同じ面積を有する円の直径を意味する。フィラメントの直径は、走査電子顕微鏡により測定される。
【0026】
概して、HPPE部材がマルチフィラメント糸である場合、本発明に従うHPPE部材は、任意の線密度の糸を含み得るが、しかし、本発明に従うマルチフィラメント糸は、その線密度が比較的低い場合に特に有利である。好ましい実施形態において、糸のポリエチレン部分の線密度は、最大500dtex、より好ましくは最大120dtex、より好ましくは最大50dtexである。糸のポリエチレン部分の極端な低線密度(例えば、糸のポリエチレン部分の25dtex未満の線密度)もまた可能である。放射線不透過性成分は、糸のポリエチレン部分よりもはるかに高い密度を有しているので、ポリエチレンおよび放射線不透過性成分を含むそのようなHPPEマルチフィラメント糸の線密度は、例えば、最大2000dtex、より好ましくは最大1000dtex、より好ましくは最大500dtex(例えば、最大100dtex)であり得る。
【0027】
好ましい実施形態において、放射線不透過性成分の含有量は、HPPE部材の長手方向において2%未満偏差する。放射線不透過性成分における偏差は、後述の実験の部分で説明されるようにして測定された。放射線不透過性成分の含有量におけるそのような小さな変動は、特にモノフィラメントから調製された外科的修復用製品またはインプラントにとって極めて有利であるが、マルチフィラメント糸を含む外科的修復用製品、インプラントおよび医療用デバイスにとっても極めて有利であることが分かった。より好ましくは、放射線不透過性成分の含有量は、HPPE部材の長手方向において1%未満偏差する。
【0028】
本発明の別の態様は、溶媒中のポリエチレンの混合物を調製する工程を含む、HPPE部材を製造する方法に関する。当該混合物は、好ましくは、マイクロまたはマクロスケールで均一であるが、しかし、このことは、ほとんどの場合にその後の加工工程において混合が続くので、必須ではない。この溶媒は、例えば、デカリンベースまたはパラフィンベースであり得るが、ここで、デカリンベースの溶媒の方が、溶媒の除去がそのような系の方が容易であることから好ましい。
【0029】
溶媒およびポリエチレンに加えて、当該混合物はまた、そのようなプロセスにとって通例の添加剤(例えば、酸化防止剤、熱安定剤、帯電防止剤、着色剤など)を、15重量%まで、好ましくは0〜10重量%含有し得る。
【0030】
次いで、当該混合物は、押出機(例えば、二軸スクリュー押出機)に供給され、ポリエチレン部材がエアギャップ中に押出され、その後、そのポリエチレン部材はクエンチ浴中で冷却される。次いで、当該ポリエチレン部材は、そのポリエチレン部材から溶媒の少なくとも一部を除去する前、除去している間または除去した後に延伸される。溶媒は、例えば、溶媒の蒸発に至る加熱により、または押出溶媒を用いての押出、それに続くその押出溶媒の除去により、除去され得る。
【0031】
ポリエチレンの種類および特に分子量は様々であり得るが、最良の結果は、UHMWPEについて得られた。なぜならこれは、非常に高い強度を示すHPPEの製造を可能にするからである。X線吸光度、したがって放射線不透過性を導入するために、放射線不透過性微粒子成分は、ポリエチレンおよび放射線不透過性成分の組み合わせの少なくとも5重量%の量で、(必要に応じて、ポリエチレンおよび溶媒を含む混合物中の成分として)押出機中に添加された。放射線不透過性微粒子の量は、5重量%よりもかなり多い量(例えば、少なくとも15重量%、少なくとも25重量%、少なくとも35重量%またはさらには少なくとも50重量%)であり得る。放射線不透過性成分の濃度は、好ましくは約80重量%未満であるべきであることが見出された。なぜなら、機械的性質(例えば、極限引張強さ)が、それよりも高い含有率について急に低下したからである。1つの実施形態において、放射線不透過性成分の濃度は、約60重量%未満である。放射線不透過性成分の含有量は、熱重量測定により測定される。
【0032】
放射線不透過性成分は、最大1μmの粒径を有する微粒子であるべきであり、好ましくは、粒径は、本明細書の他のところで述べられるように、最大0.5μmの放射線不透過性成分である。
【0033】
有利には、放射線不透過性成分は、少なくとも0.05μmの粒径を有し得、好ましくは、粒径は、少なくとも0.075μmである。
【0034】
放射線不透過性成分は、(乾燥)固体粉末としてまたは1種以上の溶媒の安定な混合物として添加され得、好ましくは、その1種以上の溶媒は、ポリエチレンと溶媒との混合物の調製のための溶媒でもある。安定な混合物とは、本明細書において、2時間以内にはその混合物において濃度の実質的な変化がないほど非常にゆっくりと放射線不透過性成分が沈降するということを意味する。これは、例えば界面活性剤を添加することによって実現され得、その場合、その界面活性剤は、界面活性剤が生体適合性でない危険性を低減するために、FDA承認のものであることが極めて好ましい。
【0035】
放射線不透過性成分は、UHMWPEおよび溶媒を含む混合物に入れることにより添加され得るか、またはそれは、押出機中に直接添加され得る。押出機中に(最初にポリエチレンと溶媒との混合物の中に入れることなく)直接添加される場合は、その時は、放射線不透過性成分は、上記のような安定な混合物として添加されることが好ましい。
【0036】
本発明のさらに別の実施形態において、HPPE部材は、シート、テープまたはフィルムである。そのようなシート、テープまたはフィルムは、例えば、(UHMW)PEおよび放射線不透過性成分を押出機に供給し、シート、テープまたはフィルムをPEの融点よりも高い温度で押出し、そしてその押出されたポリマーシート、テープまたはフィルムを一方向にまたは二軸で延伸することにより製造され得る。UHMWPEを用いる場合に好ましくはそうであるように、所望される場合は、PEを押出機に供給する前に、PEおよび放射線不透過性成分は、好適な液体有機化合物(例えば、デカリンまたはパラフィンなど)と混合されて、例えばゲルを形成し得る。そのようなシート、テープまたはフィルムを製造する別のやり方は、固相法によるものであり、これは、粉末PEおよび放射線不透過性成分を高温でカレンダー(calendar)して凝集性のシート、テープまたはフィルムを形成し、続いて、そのシート、テープまたはフィルムを一方向にまたは二軸で延伸する工程を含む。シート、テープおよびフィルムは、医学的修復用製品またはインプラント(例えば、ステントグラフトおよび(心臓)弁など)の製造に極めて好適である。
【0037】
本発明の別の実施形態において、HPPE部材テープまたはフィルムは、多孔質膜である。
【0038】
本発明の別の態様は、本発明の第1の態様に従うHPPE部材を含む医学的修復用製品またはインプラントに関する。医学的修復用製品またはインプラントは、好ましくは、医療用縫合糸、医療用ケーブル、積層ワイヤ、(側弯症用)テザー、(ステント)グラフト、心臓弁、椎間円板、遠位/塞栓保護デバイス、医療用メッシュまたはペーシングリードである。これらの用途について、高X線吸光度をも示す高強度部材に対する強い要望がある。
【0039】
好ましい実施形態において、医学的修復用製品またはインプラントは、少なくとも50重量%のHPPE部材、好ましくは本発明の第1の態様に従うHPPE部材を含む。別の好ましい実施形態において、細長い医学的修復用製品またはインプラントは、少なくとも80重量%のHPPE部材を含み、最も好ましくは、細長い医学的修復用製品またはインプラントは、少なくとも90重量%のHPPE部材を含む。医学的修復用製品またはインプラントの残部は、例えば、別のポリマー、金属(例えば、針または(電気)ケーブルまたはワイヤ)または被膜であり得る。
【0040】
1つの実施形態において、医学的修復用製品またはインプラントは、本発明に従うHPPE部材からなる。そのような医学的修復用製品は、例えば、整形外科用縫合糸またはケーブルであり得る。
【0041】
好ましい実施形態は、細長い医学的修復用製品である医学的修復用製品に関する。細長い医学的修復用製品の極めて好ましい例は、医療用縫合糸および医療用ケーブル(例えば、整形外科用途または心臓血管用途用のもの)、積層ワイヤ、(側弯症用)テザー、(ステント)グラフト、ならびにペーシングリードである。
【0042】
医学的修復用製品またはインプラントの少なくとも一部が、40keVのX線照射で少なくとも1cm
−1、好ましくは40keVのX線照射で少なくとも5cm
−1のX線線形減衰係数を有することが極めて有利であることが見出された。なぜならこれは、医学的修復用製品またはインプラントがX線画像上で観察できることを可能にするからである。
【0043】
本発明のさらなる態様は、本発明の第1の態様に従うHPPE部材を含む医療用デバイスに関する。そのような医療用デバイスの好ましい例は、医療用バルーン、(バルーン)カテーテル、ペーシングリード、遠位/塞栓保護デバイスおよび布(例えば、手術用手袋および(放射線)防護服)である。
【0044】
本発明に従う医療用デバイス(および医学的修復用製品およびインプラント)は、本発明に従うHPPE部材からなり得るか、または本発明に従うHPPE部材から実質的になり得る(例えば、製品の95重量%より多くを構成する)。しかしながら、別の極めて有利な実施形態において、本発明に従うHPPE部材は、例えばX線マーカーとして、医療用デバイス、医学的修復用製品またはインプラントの小部分(例えば、製品の10重量%未満など)を形成するにすぎない一方で、医療用デバイス、医学的修復用製品またはインプラントの他の部分は、他の材料(例えば、非放射線不透過性HPPEを含む)により構成され得る。そのような場合において、本発明に従うHPPE部材は、本発明に従うHPPEが製品を差別化するまたはさらには条件を満たす特徴を付与するものであるから、たとえ少量であっても、最終医療用デバイス、医学的修復用製品またはインプラントの本質的な特徴を構成するということに気付くべきである。
【0045】
多くの場合、溶媒および/または紡糸仕上剤のより少ない痕跡が非インプラント用途にとって許容可能であり得るが、防護服およびある程度までは手術用手袋に関しては、HPPE部材が医療用グレードであることが求められないことがあり得ることに気付くべきである。そうした布は、例えば、処置の間X線下で作業しなければならない外科医または永続的にX線装置を用いて作業する人員にとって極めて有利であり得る。
【0046】
好ましい実施形態において、本発明は、本発明に従うHPPE糸を含む布構造物に関し、当該布構造物は、金属糸を含有しない。
【0047】
[実施例]
[実施例1〜4:HPPE部材の調製]
50重量%のBi
2O
3を含有するデカリン中の放射線不透過性成分(三酸化ビスマス、Sigma−Aldrich、<100nm)の懸濁液を調製した。放射線不透過性成分の粒径は、1%のOLOA 1200を加えたデカリン中の放射線不透過性微粒子のソニックスバイブラセル(sonics vibracell)での超音波処理後にZetasizer nanoを用いて測定すると、0.082μmであった。異なる量のその放射線不透過性成分懸濁液を、デカリン、UHMWPE粉末を含有するスラリーに添加し、混合した。結果として生じた混合物は、全固体重量(すなわち、UHMWPEおよび放射線不透過性微粒子)を基準にして、それぞれ、2重量%、10重量%、30重量%および50重量%のBi
2O
3を含有していた。
【0048】
この混合物を、二軸スクリュー押出機に供給した。この押出機中で、UHMWPEをデカリンに溶解させ、そうして得られたデカリンに溶解したUHMWPEと均一に分布したBi
2O
3との混合物を、紡糸プレートを介してエアギャップ中に押出し、クエンチ浴中で冷却した。その後、溶媒を糸の多段延伸の間に除去し、それにより、本発明に従うHPPE部材を得た。製造後のHPPEマルチフィラメント糸中のデカリンの含有量は、40〜60ppmであった。
【0049】
その後、放射線不透過性成分の含有量を、熱重量測定により測定した。結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
Bi
2O
3(放射線不透過性成分)の含有量は、特に高濃度のBi
2O
3について、理論含有量よりもかなり少なかったことが認められる。Bi
2O
3のいくらかの沈降が混合の間に生じていたことが、後で分かった。各バッチの混合物の僅かな部分だけを紡糸実験において使用し、放射線不透過性成分の理論含有量と実際の含有量との間に大きな差異があったものの、実際の含有量は、後で実施例8において調べられるように、最終HPPE部材の長手方向に沿って非常に安定していることが分かった。
【0052】
[比較例5:放射線不透過性成分なしのHPPE部材の調製]
デカリン、UHMWPE粉末および界面活性剤を含有するスラリーを混合した。結果として生じた混合物を、二軸スクリュー押出機に供給した。この押出機中で、UHMWPEをデカリンに溶解させ、そうして得られたデカリンに溶解したUHMWPEの混合物を、紡糸プレートを介してエアギャップ中に押出し、クエンチ浴中で冷却した。その後、溶媒を糸の多段延伸の間に除去し、それにより、放射線不透過性成分を含まないHPPE部材を得た。
【0053】
[実施例6:機械的性質]
極限引張強さ、ヤング率および破断点伸びを、ASTM D 885、ASTM D 2256およびISO 2062から派生した、HPPE糸用に最適化された手順によって測定した。500mmの糸のゲージ長を用い、糸線密度(単位はdtex)の0.2%の事前張力(単位はニュートン)、毎分そのゲージ長の半分のクロスヘッド速度、およびInstron 1498Kステンレス鋼面を備えたInstron型CP103684からの空気圧式ヤーングリップを用いた。
【0054】
測定した応力−歪曲線に基づき、0.3〜1%の歪の間の勾配として、弾性率を測定する。弾性率および強度の計算については、測定した引張力を、ASTM D 1907により測定される場合の糸線密度で除する。UHMWPEについては0.97g/cm
3、およびBi
2O
3については8.9g/cm
3の密度を想定して、GPa単位の値を算出する。結果を表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
[実施例7:放射線不透過性成分における偏差]
放射線不透過性成分における偏差を、4つの1gの試料について熱重量測定により放射線不透過性成分の含有量を測定することによって測定した。ここで、これらの試料は、HPPE部材の長手方向において100m間隔でサンプリングしたものである。熱重量分析を、ヘリウム下において20℃/分で800℃まで糸を加熱し、糸中のBi
2O
3質量に相当する残留重量を測定することによって行った。その後、放射線不透過性成分の平均含有量を計算し、各試料について、平均含有量に対する偏差を、平均含有量に対する百分率として計算した。
【0057】
【表3】
【0058】
[実施例8:横断面における放射線不透過性成分の分布]
HPPE部材の横断面における放射線不透過性成分の微視的な分布を、走査電子顕微鏡により調べた。
図1において、マルチフィラメント糸の4つのフィラメントの横断面が観察される。放射線不透過性成分(ここではBi
2O
3)が、明るい点として観察される。
図2には、別のフィラメントの拡大画像が示されている。放射線不透過性成分は、大部分が、暗い(ほとんど散乱していない)色のポリエチレン相で隔てられ完全に囲まれた個々の粒子として、フィラメント内に一様に分布していることが観察される。
図3には、側面から見た同様のフィラメントの図を示している。ここでもまた、放射線不透過性成分が、縦断方向にも横断方向にもフィラメントの全体にわたって分布していることが観察される。ここで使用した後方散乱法は、深さ(dept)に対して限られた感受性しかなく、したがって、フィラメント内部の放射線不透過性粒子からの後方散乱もまた観察されることに注意されるべきである。これはまた、
図1、図2および
図3を比較した場合にも認められる。これは、それが放射線不透過性成分と身体との間の相互作用を低減するとともに、身体との接触を増加させることになりかつX線画像の不鮮明化(blurring)を導入し得るまたはさらには本発明に従うHPPEを含む医学的修復用製品、インプラントまたは医療用デバイスの画像のための総X線吸光度を経時的に低下させ得る、使用の間のHPPE部材からの放射線不透過性成分の移動を妨げもするので、極めて望ましい。
【0059】
[実施例9Aおよび9B:浸出実験]
本発明に従うマルチフィラメント糸からのBi
2O
3の浸出は、棒に実施例4bのマルチフィラメント糸を巻き取り、試験流体中にマルチフィラメント糸を浸すことによって調べた。その後、その試験流体を、50℃にて72時間にわたり600rpmで撹拌し、Biの濃度を、ICP−MS(誘導結合プラズマ質量分析法)を用いて確かめた。2種類の試験流体、すなわち、綿実油および生理的食塩水を使用した。
【0060】
【表4】
【0061】
この表4の結果は、両方の試験流体中のHPPE部材からの浸出が非常に限られていることを明確に示している。
【0062】
[実施例10:放射線不透過性性能]
放射線不透過性は、Siemens Axiom Aristos FX Plusを用い、50kV、2.5mAsで測定した。様々の試料片には、単一のマルチフィラメント糸(試料4)からおよび複数のマルチフィラメント糸を撚り合わせた線密度が増大している構造物からの、様々なHPPE部材が含まれた。
・試料1(不可視)は、110dtexの線密度を有する、実験1の糸(2.2重量%Bi
2O
3)である。
・試料4は、110dtexの線密度を有する、単一の実験4のマルチフィラメント糸(20.6重量%Bi
2O
3)である。
・試料6−1は、各々が110dtexの線密度を有する、2本の実験3のマルチフィラメント糸(7.5重量%Bi
2O
3)である。
・試料6−2は、各々が110dtexの線密度を有する、2本の実験4のマルチフィラメント糸(20.6重量%Bi
2O
3)である。
・試料7−1(不可視)は、各々が110dtexの線密度を有する、4本の実験1のマルチフィラメント糸(2.2重量%Bi
2O
3)の構造物である。
・試料7−2(不可視)は、各々が110dtexの線密度を有する、4本の実験2のマルチフィラメント糸(3.3重量%Bi
2O
3)の構造物である。
・試料8−1(不可視)は、各々が110dtexの線密度を有する、4本の実験3のマルチフィラメント糸(7.5重量%Bi
2O
3)の構造物である。
・試料8−2(不可視)は、各々が110dtexの線密度を有する、4本の実験4のマルチフィラメント糸(20.6重量%Bi
2O
3)の構造物である。
・試料9−1は、各々が110dtexの線密度を有する、8本の実験1のマルチフィラメント糸(2.2重量%Bi
2O
3)の構造物である。
・試料9−2は、各々が110dtexの線密度を有する、8本の実験2のマルチフィラメント糸(3.3重量%Bi
2O
3)の構造物である。
・試料10−1は、各々が110dtexの線密度を有する、8本の実験3のマルチフィラメント糸(7.5重量%Bi
2O
3)の構造物である。
・試料10−2は、各々が110dtexの線密度を有する、8本の実験4のマルチフィラメント糸(20.6重量%Bi
2O
3)の構造物である。
・試料11−1は、各々が110dtexの線密度を有する、16本の実験1のマルチフィラメント糸(2.2重量%Bi
2O
3)の構造物である。
・試料11−2は、各々が110dtexの線密度を有する、16本の実験2のマルチフィラメント糸(3.3重量%Bi
2O
3)の構造物である。
・試料12−1は、各々が110dtexの線密度を有する、16本の実験3のマルチフィラメント糸(7.5重量%Bi
2O
3)の構造物である。
・試料12−2は、各々が110dtexの線密度を有する、16本の実験4のマルチフィラメント糸(20.6重量%Bi
2O
3)の構造物である。
【0063】
図4には、放射線写真が示されている。非常に細い糸および糸構造物であっても、放射線写真上で識別できることが認められる。
【0064】
[実施例11〜16:HPPE部材の調製]
放射線不透過性成分(BaSO
4、Sachtleben nano、一次粒径50〜100nm)を利用した。異なる量の放射線不透過性成分を、デカリン、UHMWPE粉末を含有するスラリーに添加し、混合した。結果として生じた混合物は、全固体重量(すなわち、UHMWPEおよび放射線不透過性微粒子)を基準にして、それぞれ、0重量%、10重量%、20重量%および30重量%のBaSO
4を含有していた。
【0065】
この混合物を、二軸スクリュー押出機に供給した。この押出機中で、UHMWPEをデカリンに溶解させ、そうして得られたデカリンに溶解したUHMWPEとBaSO
4との混合物を、紡糸プレートを介してエアギャップ中に押出し、クエンチ浴中で冷却した。その後、溶媒を糸の多段延伸の間に除去した。
【0066】
延伸の間の様々に変わる延伸力が、BaSO
4が糸に沿って均一に分布していないことを示していた。濃度は、いずれの濃度においても、初期に低く、紡糸期間の終わりにかけてより高くなった。結果として生じた糸は、滑らかに感じられず、BaSO
4の大きな塊を含有しているように見えた。
【0067】
[実施例17:機械的性質]
極限引張強さ、ヤング率および破断点伸びを、ASTM D 885、ASTM D 2256およびISO 2062から派生した、HPPE糸用に最適化された手順によって測定した。500mmの糸のゲージ長を用い、糸線密度(単位はdtex)の0.2%の事前張力(単位はニュートン)、毎分そのゲージ長の半分のクロスヘッド速度、およびInstron 1498Kステンレス鋼面を備えたInstron型CP103684からの空気圧式ヤーングリップを用いた。
【0068】
測定した応力−歪曲線に基づき、0.3〜1%の歪の間の勾配として、弾性率を測定する。弾性率および強度の計算については、測定した引張力を、ASTM D 1907により測定される場合の糸線密度で除する。結果を表5に示す。
【0069】
【表5】
【0070】
含有量は、各試料内でかなり変化するようであり、特により高い含有量のBaSO
4を含む糸中には、BaSO
4の凝集体が存在するように見えた。
【0071】
実施例11〜16の糸の放射線不透過性を調べたところ、その放射線不透過性は、Bi
2O
3を含む試料の放射線不透過性よりもはるかに低いようであった。
【0072】
本明細書に記載される本発明の実施形態およびその自明な変形からの個々の特徴または特徴の組み合わせを、本明細書に記載された他の実施形態の特徴と組み合わせることまたは交換することは、結果として生じる実施形態が物理的に可能でないことを当業者が直ちに認識するものでない限り、可能である。