(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態に係る非水系二次電池を図面に基づいて説明する。ここではまず、リチウムイオン二次電池を例に挙げて非水系二次電池の一構造例を説明する。その後、かかる構造例を適宜に参照しつつ、本発明の一実施形態に係る非水系二次電池を説明する。なお、同じ作用を奏する部材、部位には適宜に同じ符号を付している。また、各図面は模式的に描かれており、必ずしも実物を反映していない。各図面は、一例を示すのみであり、特に言及されない限りにおいて本発明を限定しない。
【0018】
≪リチウムイオン二次電池100≫
図1は、リチウムイオン二次電池100を示している。このリチウムイオン二次電池100は、
図1に示すように、捲回電極体200と電池ケース300とを備えている。
図2は、捲回電極体200を示す図である。
図3は、
図2中のIII−III断面を示している。
【0019】
捲回電極体200は、
図2に示すように、正極シート220、負極シート240およびセパレータ262、264を有している。正極シート220、負極シート240およびセパレータ262、264は、それぞれ帯状のシート材である。
【0020】
≪正極シート220≫
正極シート220は、帯状の正極集電体221と正極活物質層223とを備えている。正極集電体221には、正極に適する金属箔が好適に使用され得る。正極集電体221には、例えば、所定の幅を有し、厚さが凡そ15μmの帯状のアルミニウム箔を用いることができる。正極集電体221の幅方向片側の縁部に沿って未塗工部222が設定されている。図示例では、正極活物質層223は、
図3に示すように、正極集電体221に設定された未塗工部222を除いて、正極集電体221の両面に保持されている。正極活物質層223には、正極活物質が含まれている。正極活物質層223は、正極活物質を含む正極合剤を正極集電体221に塗工することによって形成されている。
【0021】
≪正極活物質層223および正極活物質粒子610≫
ここで、
図4は、正極シート220の断面図である。なお、
図4において、正極活物質層223の構造が明確になるように、正極活物質層223中の正極活物質粒子610と導電材620とバインダ630とを大きく模式的に表している。正極活物質層223には、
図4に示すように、正極活物質粒子610と導電材620とバインダ630が含まれている。
【0022】
正極活物質粒子610には、リチウムイオン二次電池の正極活物質として用いることができる物質を使用することができる。正極活物質粒子610の例を挙げると、LiNiCoMnO
2(リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物)、LiNiO
2(ニッケル酸リチウム)、LiCoO
2(コバルト酸リチウム)、LiMn
2O
4(マンガン酸リチウム)、LiFePO
4(リン酸鉄リチウム)などのリチウム遷移金属酸化物が挙げられる。ここで、LiMn
2O
4は、例えば、スピネル構造を有している。また、LiNiO
2或いはLiCoO
2は層状の岩塩構造を有している。また、LiFePO
4は、例えば、オリビン構造を有している。オリビン構造のLiFePO
4には、例えば、ナノメートルオーダーの粒子がある。また、オリビン構造のLiFePO
4は、さらにカーボン膜で被覆することができる。
【0023】
≪導電材620≫
導電材620としては、例えば、カーボン粉末、カーボンファイバーなどのカーボン材料が例示される。導電材620としては、このような導電材から選択される一種を単独で用いてもよく二種以上を併用してもよい。カーボン粉末としては、種々のカーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、黒鉛化カーボンブラック、カーボンブラック、黒鉛、ケッチェンブラック)、グラファイト粉末などのカーボン粉末を用いることができる。
【0024】
≪バインダ630≫
また、バインダ630は、正極活物質層223に含まれる正極活物質粒子610と導電材620の各粒子を結着させたり、これらの粒子と正極集電体221とを結着させたりする。かかるバインダ630としては、使用する溶媒に溶解または分散可能なポリマーを用いることができる。例えば、水性溶媒を用いた正極合剤組成物においては、セルロース系ポリマー(カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)など)、フッ素系樹脂(例えば、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)など)、ゴム類(酢酸ビニル共重合体、スチレンブタジエン共重合体(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)など)などの水溶性または水分散性ポリマーを好ましく採用することができる。また、非水溶媒を用いた正極合剤組成物においては、ポリマー(ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリアクリルニトリル(PAN)など)を好ましく採用することができる。
【0025】
≪増粘剤、溶媒≫
正極活物質層223は、例えば、上述した正極活物質粒子610と導電材620を溶媒にペースト状(スラリ状)に混ぜ合わせた正極合剤を作製し、正極集電体221に塗布し、乾燥させ、圧延することによって形成されている。この際、正極合剤の溶媒としては、水性溶媒および非水溶媒の何れも使用可能である。非水溶媒の好適な例としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)が挙げられる。上記バインダ630として例示したポリマー材料は、バインダとしての機能の他に、正極合剤の増粘剤その他の添加剤としての機能を発揮する目的で使用されることもあり得る。
【0026】
正極合剤全体に占める正極活物質の質量割合は、凡そ50wt%以上(典型的には50〜95wt%)であることが好ましく、通常は凡そ70〜95wt%(例えば75〜90wt%)であることがより好ましい。また、正極合剤全体に占める導電材の割合は、例えば凡そ2〜20wt%とすることができ、通常は凡そ2〜15wt%とすることが好ましい。バインダを使用する組成では、正極合剤全体に占めるバインダの割合を例えば凡そ1〜10wt%とすることができ、通常は凡そ2〜5wt%とすることが好ましい。
【0027】
≪負極シート240≫
負極シート240は、
図2に示すように、帯状の負極集電体241と、負極活物質層243とを備えている。負極集電体241には、負極に適する金属箔が好適に使用され得る。この負極集電体241には、所定の幅を有し、厚さが凡そ10μmの帯状の銅箔が用いられている。負極集電体241の幅方向片側には、縁部に沿って未塗工部242が設定されている。負極活物質層243は、負極集電体241に設定された未塗工部242を除いて、負極集電体241の両面に形成されている。負極活物質層243は、負極集電体241に保持され、少なくとも負極活物質が含まれている。負極活物質層243は、負極活物質を含む負極合剤が負極集電体241に塗工されている。
【0028】
≪負極活物質層243≫
図5は、リチウムイオン二次電池100の負極シート240の断面図である。負極活物質層243には、
図5に示すように、負極活物質粒子710、増粘剤(図示省略)、バインダ730などが含まれている。
図5では、負極活物質層243の構造が明確になるように、負極活物質層243中の負極活物質粒子710とバインダ730とを大きく模式的に表している。
【0029】
≪負極活物質粒子710≫
負極活物質粒子710としては、負極活物質として従来からリチウムイオン二次電池に用いられる材料の一種または二種以上を特に限定なく使用することができる。例えば、少なくとも一部にグラファイト構造(層状構造)を含む粒子状の炭素材料(カーボン粒子)が挙げられる。より具体的には、負極活物質は、例えば、天然黒鉛、非晶質の炭素材料でコートした天然黒鉛、黒鉛質(グラファイト)、難黒鉛化炭素質(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素質(ソフトカーボン)、または、これらを組み合わせた炭素材料でもよい。なお、ここでは、負極活物質粒子710は、いわゆる鱗片状黒鉛が用いられた場合を図示しているが、負極活物質粒子710は、図示例に限定されない。
【0030】
≪増粘剤、溶媒≫
負極活物質層243は、例えば、上述した負極活物質粒子710とバインダ730を溶媒にペースト状(スラリ状)に混ぜ合わせた負極合剤を作製し、負極集電体241に塗布し、乾燥させ、圧延することによって形成されている。この際、負極合剤の溶媒としては、水性溶媒および非水溶媒の何れも使用可能である。非水溶媒の好適な例としてN−メチル−2−ピロリドン(NMP)が挙げられる。バインダ730には、上記正極活物質層223(
図4参照)のバインダ630として例示したポリマー材料を用いることができる。また、上記正極活物質層223のバインダ630として例示したポリマー材料は、バインダとしての機能の他に、正極合剤の増粘剤その他の添加剤としての機能を発揮する目的で使用されることもあり得る。
【0031】
≪セパレータ262、264≫
セパレータ262、264は、
図1または
図2に示すように、正極シート220と負極シート240とを隔てる部材である。この例では、セパレータ262、264は、微小な孔を複数有する所定幅の帯状のシート材で構成されている。セパレータ262、264には、例えば、多孔質ポリオレフィン系樹脂で構成された単層構造のセパレータ或いは積層構造のセパレータを用いることができる。この例では、
図2および
図3に示すように、負極活物質層243の幅b1は、正極活物質層223の幅a1よりも少し広い。さらにセパレータ262、264の幅c1、c2は、負極活物質層243の幅b1よりも少し広い(c1、c2>b1>a1)。
【0032】
なお、
図1および
図2に示す例では、セパレータ262、264は、シート状の部材で構成されている。セパレータ262、264は、正極活物質層223と負極活物質層243とを絶縁するとともに、電解質の移動を許容する部材であればよい。したがって、シート状の部材に限定されない。セパレータ262、264は、シート状の部材に代えて、例えば、正極活物質層223または負極活物質層243の表面に形成された絶縁性を有する粒子の層で構成してもよい。ここで、絶縁性を有する粒子としては、絶縁性を有する無機フィラー(例えば、金属酸化物、金属水酸化物などのフィラー)、或いは、絶縁性を有する樹脂粒子(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの粒子)で構成してもよい。
【0033】
この捲回電極体200では、
図2および
図3に示すように、正極シート220と負極シート240とは、セパレータ262、264を介在させた状態で、正極活物質層223と負極活物質層243とが対向するように重ねられている。より具体的には、捲回電極体200では、正極シート220と負極シート240とセパレータ262、264とは、正極シート220、セパレータ262、負極シート240、セパレータ264の順に重ねられている。
【0034】
また、この際、正極活物質層223と負極活物質層243とは、セパレータ262、264が介在した状態で対向している。そして、正極活物質層223と負極活物質層243とが対向した部分の片側に、正極集電体221のうち正極活物質層223が形成されていない部分(未塗工部222)がはみ出ている。当該未塗工部222がはみ出た側とは反対側には、負極集電体241のうち負極活物質層243が形成されていない部分(未塗工部242)がはみ出ている。また、正極シート220と負極シート240とセパレータ262、264とは、このように重ねられた状態で、正極シート220の幅方向に設定した捲回軸WLに沿って捲回されている。
【0035】
≪電池ケース300≫
また、この例では、電池ケース300は、
図1に示すように、いわゆる角型の電池ケースであり、容器本体320と、蓋体340とを備えている。容器本体320は、有底四角筒状を有しており、一側面(上面)が開口した扁平な箱型の容器である。蓋体340は、当該容器本体320の開口(上面の開口)に取り付けられて当該開口を塞ぐ部材である。
【0036】
車載用の二次電池では、車両の燃費を向上させるため、重量エネルギ効率(単位重量当りの電池の容量)を向上させることが望まれる。この実施形態では、電池ケース300を構成する容器本体320と蓋体340は、アルミニウム、アルミニウム合金などの軽量金属が採用されている。これにより重量エネルギ効率を向上させることができる。
【0037】
電池ケース300は、捲回電極体200を収容する空間として、扁平な矩形の内部空間を有している。また、
図1に示すように、電池ケース300の扁平な内部空間は、捲回電極体200よりも横幅が少し広い。この実施形態では、電池ケース300は、有底四角筒状の容器本体320と、容器本体320の開口を塞ぐ蓋体340とを備えている。また、電池ケース300の蓋体340には、電極端子420、440が取り付けられている。電極端子420、440は、電池ケース300(蓋体340)を貫通して電池ケース300の外部に出ている。また、蓋体340には注液孔350と安全弁360とが設けられている。
【0038】
捲回電極体200は、
図2に示すように、捲回軸WLに直交する一の方向において扁平に押し曲げられている。
図2に示す例では、正極集電体221の未塗工部222と負極集電体241の未塗工部242は、それぞれセパレータ262、264の両側において、らせん状に露出している。
図6に示すように、この実施形態では、未塗工部222、242の中間部分224、244を寄せ集め、電極端子420、440の先端部420a、440aに溶接している。この際、それぞれの材質の違いから、電極端子420と正極集電体221の溶接には、例えば、超音波溶接が用いられる。また、電極端子440と負極集電体241の溶接には、例えば、抵抗溶接が用いられる。ここで、
図6は、捲回電極体200の未塗工部222(242)の中間部分224(244)と電極端子420(440)との溶接箇所を示す側面図であり、
図1のVI−VI断面図である。
【0039】
捲回電極体200は、扁平に押し曲げられた状態で、蓋体340に固定された電極端子420、440に取り付けられる。かかる捲回電極体200は、
図1に示すように、容器本体320の扁平な内部空間に収容される。容器本体320は、捲回電極体200が収容された後、蓋体340によって塞がれる。蓋体340と容器本体320の合わせ目322(
図1参照)は、例えば、レーザ溶接によって溶接されて封止されている。このように、この例では、捲回電極体200は、蓋体340(電池ケース300)に固定された電極端子420、440によって、電池ケース300内に位置決めされている。
【0040】
≪電解液≫
その後、蓋体340に設けられた注液孔350から電池ケース300内に電解液が注入される。電解液は、水を溶媒としていない、いわゆる非水電解液が用いられている。この例では、電解液は、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒(例えば、体積比1:1程度の混合溶媒)にLiPF
6を約1mol/リットルの濃度で含有させた電解液が用いられている。その後、注液孔350に金属製の封止キャップ352を取り付けて(例えば溶接して)電池ケース300を封止する。なお、電解液は、ここで例示された電解液に限定されない。例えば、従来からリチウムイオン二次電池に用いられている非水電解液は適宜に使用することができる。
【0041】
≪空孔≫
ここで、正極活物質層223は、例えば、正極活物質粒子610と導電材620の粒子間などに、空洞とも称すべき微小な隙間225を有している(
図4参照)。かかる正極活物質層223の微小な隙間には電解液(図示省略)が浸み込み得る。また、負極活物質層243は、例えば、負極活物質粒子710の粒子間などに、空洞とも称すべき微小な隙間245を有している(
図5参照)。ここでは、かかる隙間225、245(空洞)を適宜に「空孔」と称する。また、捲回電極体200は、
図2に示すように、捲回軸WLに沿った両側において、未塗工部222、242が螺旋状に巻かれている。かかる捲回軸WLに沿った両側252、254において、未塗工部222、242の隙間から、電解液が浸み込みうる。このため、リチウムイオン二次電池100の内部では、正極活物質層223と負極活物質層243に電解液が浸み渡っている。
【0042】
≪ガス抜け経路≫
また、この例では、当該電池ケース300の扁平な内部空間は、扁平に変形した捲回電極体200よりも少し広い。捲回電極体200の両側には、捲回電極体200と電池ケース300との間に隙間310、312が設けられている。当該隙間310、312は、ガス抜け経路になる。例えば、過充電が生じた場合などにおいて、リチウムイオン二次電池100の温度が異常に高くなると、電解液が分解されてガスが異常に発生する場合がある。この実施形態では、異常に発生したガスは、捲回電極体200の両側における捲回電極体200と電池ケース300との隙間310、312を通して安全弁360の方へ移動し、安全弁360から電池ケース300の外に排気される。
【0043】
かかるリチウムイオン二次電池100では、正極集電体221と負極集電体241は、電池ケース300を貫通した電極端子420、440を通じて外部の装置に電気的に接続される。以下、充電時と放電時のリチウムイオン二次電池100の動作を説明する。
【0044】
≪充電時の動作≫
図7は、かかるリチウムイオン二次電池100の充電時の状態を模式的に示している。充電時においては、
図7に示すように、リチウムイオン二次電池100の電極端子420、440(
図1参照)は、充電器290に接続される。充電器290の作用によって、充電時には、正極活物質層223中の正極活物質からリチウムイオン(Li)が電解液280に放出される。また、正極活物質層223からは電荷が放出される。放出された電荷は、導電材(図示省略)を通じて正極集電体221に送られ、さらに、充電器290を通じて負極シート240へ送られる。また、負極シート240では電荷が蓄えられるとともに、電解液280中のリチウムイオン(Li)が、負極活物質層243中の負極活物質に吸収され、かつ、貯蔵される。
【0045】
≪放電時の動作≫
図8は、かかるリチウムイオン二次電池100の放電時の状態を模式的に示している。放電時には、
図8に示すように、負極シート240から正極シート220に電荷が送られるとともに、負極活物質層243に貯蔵されたリチウムイオンが、電解液280に放出される。また、正極では、正極活物質層223中の正極活物質に電解液280中のリチウムイオンが取り込まれる。
【0046】
このようにリチウムイオン二次電池100の充放電において、電解液280を介して、正極活物質層223と負極活物質層243との間でリチウムイオンが行き来する。また、充電時においては、正極活物質から導電材を通じて正極集電体221に電荷が送られる。これに対して、放電時においては、正極集電体221から導電材を通じて正極活物質に電荷が戻される。
【0047】
充電時においては、リチウムイオンの移動および電子の移動がスムーズなほど、効率的で急速な充電が可能になると考えられる。放電時においては、リチウムイオンの移動および電子の移動がスムーズなほど、電池の抵抗が低下し、放電量が増加し、電池の出力が向上すると考えられる。
【0048】
≪他の電池形態≫
なお、上記はリチウムイオン二次電池の一例を示すものである。リチウムイオン二次電池は上記形態に限定されない。また、同様に金属箔に電極合剤が塗工された電極シートは、他にも種々の電池形態に用いられる。例えば、他の電池形態として、円筒型電池或いはラミネート型電池などが知られている。円筒型電池は、円筒型の電池ケースに捲回電極体を収容した電池である。また、ラミネート型電池は、正極シートと負極シートとをセパレータを介在させて積層した電池である。
【0049】
以下、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池を説明する。なお、ここで、上述したリチウムイオン二次電池100と同じ作用を奏する部材または部位には、適宜に同じ符号を用い、必要に応じて上述したリチウムイオン二次電池100の図を参照して説明する。また、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池100Aの部材または部位には、適宜、符号に「A」の文字を添えている。本発明では、主に、正極活物質として用いるリチウム遷移金属酸化物を工夫している。
【0050】
図9は、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池100Aを示す図である。
図10は、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池100Aの捲回電極体200Aを示す図である。
図11は、リチウムイオン二次電池100Aの正極活物質層223Aの構造を示す図である。
図12は、正極活物質層223A中の正極活物質粒子610Aの電子顕微鏡写真である。また、
図13は、正極活物質層223A中の正極活物質粒子610A(二次粒子)の断面SEM画像である。
図14は、正極活物質粒子610Aの一次粒子800を示す模式図である。
図15は、正極活物質粒子610Aの結晶子を示す模式図である。
【0051】
リチウムイオン二次電池100Aは、
図9および
図10に示すように、正極集電体221Aと、正極集電体221Aに保持された正極活物質層223Aとを備えている。この実施形態では、正極活物質層223Aは、
図11に示すように、正極活物質粒子610Aと、導電材620Aと、バインダ630Aとを含んでいる。このリチウムイオン二次電池100Aは、正極活物質層223中において、正極活物質粒子610Aの結晶子径f2がf2≦1200Åであり、かつ、導電材620Aの一次粒子径f3と正極活物質粒子610Aの結晶子径f2との比f3/f2が0.32≦(f3/f2)≦0.9である。さらに、正極活物質層223の密度f1が、2.20g/cm
3≦f1≦2.85g/cm
3である。
【0052】
発明者は、非水系二次電池について、かかる特徴を有する正極活物質粒子610Aを用いることによって、ハイレートでの充放電に対して低抵抗および高容量を維持することができることを見出した。以下、かかるリチウムイオン二次電池100Aについて、より具体的に説明する。ここではまず、正極活物質層223Aの密度f1について説明する。その後、正極活物質粒子610Aの結晶子径f2、および、導電材620Aの一次粒子径f3と正極活物質粒子610Aの結晶子径f2との比f3/f2を説明する。
【0053】
≪正極活物質層223Aの密度f1≫
正極活物質層223Aの密度f1は、単位面積当たりの正極活物質層223Aの質量(目付量)を、正極活物質層223Aの厚さで割ることによって算出できる。正極活物質層223Aの質量(目付量)は、所定の面積に切り取られた正極シート220Aの質量から正極集電体221Aの質量を引くとよい。また、「正極活物質層223Aの厚さ」は、正極活物質層223Aの厚さの平均値で評価するとよい。
「正極活物質層223Aの密度f1」=「単位面積当たりの正極活物質層223Aの質量(目付量)」÷「正極活物質層223Aの厚さ」;
「正極活物質層223Aの質量(目付量)」=「正極シート220Aの質量」−「正極集電体221Aの質量」;
【0054】
本発明者の知見では、小型軽量化および高容量化(エネルギ密度を高めること)が求められる場合、正極活物質粒子のタップ密度やプレス密度が高い正極活物質粒子を用い、正極活物質層の密度を高くするとよい。この場合、0.1C程度の低い出力で使用する分には、耐久性があり、容量を高く維持できる。
【0055】
しかし、車両駆動用の用途では、格段に高い出力が求められ、例えば、4C或いは5C程度のハイレートでの充放電サイクルに対する耐久性が求められる。本発明者の知見では、正極活物質層223Aの密度が高いと、4C或いは5C程度のハイレートでの充放電サイクルに対する耐久性(例えば、抵抗上昇率)が悪くなる。このような耐久性を考慮すると、正極活物質層223Aの密度f1は、例えば、f1≦2.85に小さいことが望ましい。ここで、1Cとは、セルを定電流放電してちょうど1時間で放電終了となる電流値のことであり、例えば、定格容量が2.22Ahのセルでは1C=2.2Aである。
【0056】
ここで、本発明者は、正極活物質層の密度が異なる評価用セルを作成し、所定の充放電サイクルに対して、所定サイクル毎にIV抵抗を測定して、IV抵抗の上昇傾向を調べた。
【0057】
≪評価用セル≫
ここで用意された評価用セルは、いわゆる18650型の電池(図示省略)で構成されている。なお、ここでは、評価用セルとして、18650型の電池が例示されているが、他のサイズの円筒型電池、角型やラミネート型などの他の形状の電池においても同じような傾向が得られうる。このため、評価用セルの形状や構造は、特段、本発明を限定しない。
【0058】
≪評価用セルの正極≫
正極における正極活物質層を形成するのに正極合剤を調製した。ここで、正極合剤は、正極活物質として三元系のリチウム遷移金属酸化物(LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2)、導電材としてアセチレンブラック(AB)、バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)をそれぞれ用いた。なお、アセチレンブラック(AB)としては、電気化学工業デンカブラック粉状を使用した。
【0059】
ここでは、正極活物質と、導電材と、バインダの質量比を、正極活物質:導電材:バインダ=91:6:3とした。これら正極活物質と、導電材と、バインダとを、イオン交換水と混合することによって正極合剤を調製した。次いで、正極合剤を正極集電体に塗布して乾燥させた。ここでは、正極集電体としてのアルミニウム箔(厚さ15μm)を用いた。正極活物質層は、正極集電体の両面に形成した。正極シートは、正極集電体への正極合剤の塗布量や、乾燥後、ローラプレス機にて圧延する際の圧延量などを調整することによって、正極活物質層の密度や正極活物質層の厚さを調整した。
【0060】
≪評価用セルの負極≫
ここではまず、負極合剤における負極活物質粒子としては、グラファイト(例えば、少なくとも一部が非晶質炭素膜で覆われた天然黒鉛の粒子)を用いた。また、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を用い、バインダとしてスチレン・ブタジエンゴム(SBR)を用いた。ここで、負極活物質粒子と、増粘剤(CMC)と、バインダ(SBR)の質量比を、負極活物質粒子:CMC:SBR=98:1:1とした。これら負極活物質粒子と、CMCと、SBRとを、イオン交換水と混合することによって負極合剤を調製した。次いで、負極合剤を負極集電体に塗布して乾燥させた。ここでは、負極集電体としての銅箔(厚さ10μm)を用いた。また、負極活物質層の乾燥後の目付量を17mg/cm
2にした。また、負極活物質層は、負極集電体の両面に形成した。負極シートは、負極集電体への負極合剤の塗布量や、乾燥後、ローラプレス機にて圧延する際の圧延量などを調整することによって、負極活物質層の密度や負極活物質層の厚さを調整した。ここでは、負極活物質層の密度は、1.4g/cm
3にした。
【0061】
≪評価用セルのセパレータ≫
セパレータとしては、ポリプロピレン(PP)と、ポリエチレン(PE)の三層構造(PP/PE/PP)の多孔質シートからなるセパレータを用いた。ここでは、ポリプロピレン(PP)とポリエチレン(PE)の質量比を、PP:PE:PP=3:4:3とした。
【0062】
≪評価用セルの組み立て≫
上記で作製した負極と、正極と、セパレータとを用いて、試験用の18650型セル(リチウムイオン二次電池)を構築した。ここでは、セパレータを介在させた状態で、正極シートと負極シートとを積層して捲回した捲回電極体を作製した。そして、捲回電極体を円筒型の電池ケースに収容し、非水電解液を注液して封口し、評価用セルを構築した。ここで、非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを、所定の体積比(EC:DMC=3:7)で混合溶媒に、リチウム塩としての1mol/LのLiPF
6を溶解させた電解液を用いた。ここでは、定格容量が凡そ1Ahとなるように評価用セルを作成した。
【0063】
ここでは、正極活物質層の密度または正極活物質粒子の一次粒子の形状が異なる評価用セルを得る。なお、ここでの各評価用セルはかかる正極が異なる点を除き、概ね同じ構成とした。そして、かかる評価用セルについて、所定のコンディショニングを施した後で、所定の充放電サイクルを施し、充放電サイクルによる抵抗上昇率や容量維持率を評価した。
【0064】
≪コンディショニング≫
ここでコンディショニングは、次の手順1、2によって行なわれる。
手順1:1Cの定電流充電にて4.1Vに到達した後、5分間休止する。
手順2:手順1の後、定電圧充電にて1.5時間充電し、5分間休止する。
かかるコンディショニングでは、初期充電によって所要の反応が生じてガスが発生する。また、負極活物質層などに所要の被膜形成が形成される。
【0065】
≪定格容量の測定≫
上記コンディショニングの後、評価用セルについて定格容量が測定される。定格容量の測定は、次の手順1〜3によって測定されている。なお、ここでは温度による影響を一定にするため、定格容量は25℃の温度環境において測定されている。また、ここでは、評価用セルについてSOC0%を3.0Vとし、SOC100%を4.1Vとした。
手順1:1Cの定電流放電によって3.0Vに到達後、定電圧放電にて2時間放電し、その後、10秒間休止する。
手順2:1Cの定電流充電によって4.1Vに到達後、定電圧充電にて2.5時間充電し、その後、10秒間休止する。
手順3:0.5Cの定電流放電によって3.0Vに到達後、定電圧放電にて2時間放電し、その後、10秒間停止する。
ここで、手順3における定電流放電から定電圧放電に至る放電における放電容量(CCCV放電容量)を「定格容量」とする。
【0066】
≪SOC調整≫
SOC調整は、次の1、2の手順によって調整される。ここで、SOC調整は、上記コンディショニング工程および定格容量の測定の後に行なうとよい。また、ここでは、温度による影響を一定にするため、25℃の温度環境下でSOC調整を行なっている。
手順1:3Vから1Cの定電流で充電し、定格容量の凡そ60%の充電状態にする(ここでは、SOC60%、3.66Vの電圧まで定電流で充電する)。
手順2:手順1の後、2.5時間、定電圧充電する(ここでは、3.66Vの定電圧で2.5時間充電する)。
これにより、評価用セルは、所定の充電状態に調整することができる。なお、ここでは、SOCを60%に調整する場合を記載しているが、手順1で充電状態を変更することによって、任意の充電状態に調整できる。例えば、SOC90%に調整する場合には、手順1において、評価用セルを定格容量の90%の充電状態(SOC90%)にするとよい。
【0067】
≪正極活物質層の密度と抵抗上昇率との関係≫
図16は、非水系二次電池(ここでは、リチウムイオン二次電池)について、正極活物質層の密度と抵抗上昇率との関係を示している。ここでは、評価用セルについて、上記コンディショニング後、所定のIV抵抗を測定し、初期抵抗とする。次に、所定の充放電サイクルを行い、所定サイクル毎に、初期抵抗と同様の方法にて所定のIV抵抗を測定した。これにより、正極活物質層の密度が異なる評価用セルについて、それぞれ抵抗が上昇する傾向を調べた。
【0068】
≪IV抵抗≫
ここで、かかるIV抵抗の測定は、25℃の温度環境で、それぞれ評価用セルをSOC30%に調整する。そして、10分間休止させた後で、評価用セルを20C(ここでは、約20A)の定電流で10秒間放電した(CC放電)。そして、10秒後の電圧ドロップ(電圧降下量ΔV)を求め、そこからIV抵抗(R=ΔV/I)を求めた。ここで、Iは、20C(約20A)とした。
【0069】
≪充放電サイクル≫
ここでは、まず評価用セルを25℃の温度環境においてSOC60%に調整する。次に、60℃の温度環境において、4Cの定電流で放電し、電圧が3.0Vに降下したら、10分間の休止、次に、4Cの定電流で充電し、電圧が4.1Vになったら、10分間の休止、これを1サイクルとし、3.0Vから4.1Vの範囲で、放電と充電を繰り返す。ここでは、100サイクル毎に、IV抵抗を測定するとともに、評価用セルを25℃の環境でSOC60%に調整しつつ、上記充放電サイクルを2000サイクル行なった。これにより、ハイレート充放電サイクルに対するIV抵抗の上昇傾向が得られる。
【0070】
例えば、
図16では、正極活物質層の密度が、3.24g/cm
3、2.85g/cm
3、2.52g/cm
3、2.21g/cm
3の評価用セルについて、上述したハイレート充放電サイクルによるIV抵抗の上昇傾向を測定した結果である。
【0071】
その結果、正極活物質層223Aの密度が3.24g/cm
3である場合には、所定のハイレートでの充放電サイクルに対して抵抗が格段に上昇する傾向が見られた。これに対して、正極活物質層223Aの密度が2.85g/cm
3、2.52g/cm
3、2.21g/cm
3の評価用セルでは、所定のハイレートでの充放電サイクルに対して抵抗上昇が低く抑えられた。このため、放電電圧が4V以上になりうるリチウムイオン二次電池のような非水系二次電池では、4C程度のハイレートでの充放電サイクルに対しては、正極活物質層223Aの密度が3.24g/cm
3であると、抵抗が上昇する傾向があり、所要のサイクル耐久性が得られない。これに対して、2.85g/cm
3以下であると、抵抗上昇が抑えられる傾向があり、4C程度のハイレートでの充放電サイクルに対して所要のサイクル耐久性が得られ得る。
【0072】
このため、4C程度のハイレートでの充放電サイクルに対して所要のサイクル耐久性が求められる用途(例えば、車両駆動用電池)では、正極活物質層の密度は、2.85g/cm
3以下であるとよい。また、より好ましくは、正極活物質層の密度は、2.80g/cm
3以下、さらに好ましくは正極活物質層の密度は、2.75g/cm
3以下であるとよい。これにより、4C程度のハイレートでの充放電サイクルに対して、より安定したサイクル耐久性が得られ得る。
【0073】
本発明者の推察するところでは、正極活物質層の密度が高い場合、4C程度のハイレートでの充放電サイクルに対して、正極活物質層中で電解液の塩濃度が偏りやすい。これに対して、正極活物質層の密度は2.85g/cm
3以下と小さく設定するとよい。この場合、正極活物質層中に所要の空隙が確保されており、正極活物質層に十分な電解液が浸み渡る。このため4C程度のハイレートでの充放電サイクルに対して、抵抗上昇を抑えられると考えられる。
【0074】
このリチウムイオン二次電池100Aでは、正極活物質層223Aの密度f1がf1≦2.85g/cm
3と小さい。このため、4C程度のハイレートでの充放電サイクルに対して、抵抗上昇を抑えられる。さらに、正極活物質層223Aの密度f1は、小さすぎると充放電の膨張収縮に対して所要の剛性が確保されない可能性がある。この場合、正極活物質層223Aの密度f1は、凡そ2.20g/cm
3以上であるとよい(2.20g/cm
3≦f1)。これにより、正極活物質層223Aは所要の剛性が確保される。
【0075】
このように、正極活物質層の密度f1をf1≦2.85g/cm
3とし、正極活物質層の密度f1を小さくした。これによって、4C程度のハイレートでの充放電サイクルに対して、リチウムイオン二次電池100Aの抵抗上昇を抑えることができる。ところが、正極活物質層223Aの密度f1を、2.85g/cm
3以下に小さくした場合でも、4C程度のハイレートでの充放電サイクルに対して、サイクル後に容量が低下する場合がある。
【0076】
本発明者は、正極活物質粒子610Aについてより詳しく調べた。その結果、4C程度のハイレートでの充放電サイクルに対して容量が低下する事象について、さらに正極活物質粒子610Aが一次粒子800(
図13参照)のレベルにおいて割れが生じていることが見出された。そして、かかる一次粒子800のレベルでの割れによって導電経路が断たれ、電池反応に寄与しない部分が正極活物質粒子610Aに生じている、と推察された。かかる推察を基に、本発明者は、正極活物質粒子610Aの一次粒子800について、4C程度のハイレートでの充放電サイクルに対して容量を高く維持できる条件を見出した。
【0077】
本発明者の得た知見によれば、例えば、正極活物質層223A中において、正極活物質粒子610Aの結晶子径f2(
図15)がf2≦1200Åであり、かつ、導電材620Aの一次粒子径f3と正極活物質粒子610Aの結晶子径f2との比f3/f2が0.32≦(f3/f2)≦0.9であるとよい。本発明者は、かかる構成によって、4C程度のハイレートでの充放電サイクルに対して、サイクル後に容量が低下するのを小さく抑えることができることを見出した。
【0078】
≪正極活物質粒子610Aの一次粒子≫
ここで正極活物質粒子610Aを二次粒子とする。正極活物質粒子610Aの一次粒子800は、かかる二次粒子としての正極活物質粒子610Aを形成し、かつ、外見上の幾何学的形態から判断して、単位粒子(ultimate particle)と考えられる粒子形態を一次粒子800としている。さらに一次粒子800は、
図14に示すように、正極活物質(例えば、リチウム遷移金属酸化物)の結晶子810の集合物である。なお、
図14中、L1は、一次粒子800の長径を示しており、L2は一次粒子800の短径を示している。
【0079】
≪正極活物質粒子610Aの結晶子≫
ここで、正極活物質(例えば、リチウム遷移金属酸化物)の結晶子とは、リチウム遷移金属酸化物の単結晶とみなせる最大の集まりをいう。この実施形態では、リチウム遷移金属酸化物の結晶子810は、
図15に示すように、層構造(層状岩塩構造)であり、充放電時には、リチウムイオンは当該層間に沿って、正極活物質粒子610A中を移動すると考えられる。結晶子810の各層は、
図15に示すように、CuKα線によるX線回折分析から得られる003面方向に沿って積層されている。
【0080】
ここで、003面結晶子径f2(Å)の方向は、
図15に示すように、リチウム遷移金属酸化物の各層の法線方向に関係するところ、003面結晶子径f2(Å)の方向に直交する方向は、かかる法線方向に直交しており、層構造のリチウム遷移金属酸化物の層間に沿った一方向を示している。リチウムイオンは、層構造のリチウム遷移金属酸化物において層間に沿って移動すると考えられる。
【0081】
≪正極活物質粒子610Aの結晶子径≫
本発明者は、CuKα線によるX線回折分析から得られる003面方向に沿った正極活物質粒子610Aの結晶子径を測定した。ここで、結晶子径f2は、以下の式によって、算出される。
f2=(0.9×λ)/(β×COSθ);
f2、λ、βおよびθは、それぞれ以下の内容を意味する。
f2:結晶子径
λ:X線の波長(CuKα)[Å]
β:結晶子由来の回析ピークの広がり[rad]
θ:回析線のブラック角
正極活物質粒子610Aは、CuKα線によるX線回折分析から得られる003面方向に沿った003結晶子を有している。このため、回析線のブラック角θとして、17.9°〜19.9°の半価幅βを上記の式に当てはめる。
【0082】
ここで、正極活物質粒子610Aの一次粒子800は、例えば、正極活物質粒子610Aの粒子表面のTEM画像やSEM画像などを基に観察することが可能である。正極活物質粒子610Aの電子顕微鏡写真や正極活物質粒子610Aの粒子表面のTEM画像やSEM画像などは、例えば、キーエンス製VE−9800によって得ることができる。この場合、例えば、画像解析ソフト(例えば、日機装Viewtrac)によって、濃淡や色調の差を利用して、一次粒子800を自動判別することができる。さらに、一次粒子800の周囲長や面積、同時に短径や長径、さらには一次粒子800のアスペクト比や円形度Mについても、予めプログラムしておくことによって自動的に測定可能である。
【0083】
また、正極活物質粒子610Aの結晶子径は、上述したようにX線回折を基に算出される。この場合、正極活物質粒子610AのX線回析装置としては、例えば、正極活物質粒子610Aの結晶子径を捉えうる公知のX線回析装置から適当なX線回析装置を用いることができる。
【0084】
かかる正極活物質粒子610Aの結晶子径は、正極シート220Aを作成するのに用意される正極活物質粒子610Aの粉末を基に測定するとよい。また、非水系二次電池の正極シート220Aから正極活物質粒子610Aを取り出し、取り出された正極活物質粒子610Aを基に測定してもよい。
【0085】
≪導電材620Aの一次粒子径≫
これに対して導電材620Aの一次粒子は、導電剤材料の単一粒子とみなせる最大の集まりをいう。この実施形態では、導電材材料は、例えば、アセチレンブラック(AB)などの導電材料粉末である。導電材620Aの一次粒子径は、例えば、動的光散乱法によって測定することができ、平均粒径(D50)で評価するとよい。動的光散乱法によって導電材620Aの一次粒子径を測定する装置としては、例えば、動的光散乱法を実施し得る公知の装置から適当な装置を用いることができる。
【0086】
かかる導電材620Aの一次粒子径は、正極シート220Aを作成するのに用意される導電材620Aの粉末を基に測定するとよい。また、非水系二次電池の正極シート220Aから導電材620Aを取り出し、取り出された導電材620Aを基に測定してもよい。
【0087】
本発明者の得た知見によれば、例えば、正極活物質層223A中において、正極活物質粒子610Aの結晶子径f2(図示省略)がf2≦1200Åであり、かつ、導電材620Aの一次粒子径f3と正極活物質粒子610Aの結晶子径f2との比f3/f2が0.32≦(f3/f2)≦0.9であるとよい。かかる構成によって、4C程度のハイレートでの充放電サイクルに対して、サイクル後に容量が低下するのを小さく抑えることができる。これにより、リチウムイオン二次電池100Aは、高容量を維持できる。
【0088】
上述したように、4C程度のハイレートでの充放電サイクルに対してサイクル後にリチウムイオン二次電池の容量が低下する場合がある。この理由について、本発明者は、4C程度のハイレートでの充放電サイクルによって一次粒子のレベルで正極活物質粒子が割れて、正極活物質粒子内で導電経路が部分的に断たれるからと推察している。
【0089】
これに対して、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池100Aでは、正極活物質粒子610Aの結晶子径f2(図示省略)がf2≦1200Åであり、かつ、導電材620Aの一次粒子径f3と正極活物質粒子610Aの結晶子径f2との比f3/f2が0.32≦(f3/f2)≦0.9である。このリチウムイオン二次電池100Aでは、正極活物質粒子610Aの結晶子径f2(図示省略)がf2≦1200Åであり、正極活物質粒子610Aの結晶子径f2が小さく、正極活物質粒子610Aが割れてもリチウムイオンの出入り口となり得るポイントが多く存在する。
【0090】
さらに、このリチウムイオン二次電池100Aでは、導電材620Aの一次粒子径f3と正極活物質粒子610Aの結晶子径f2との比f3/f2が0.32≦(f3/f2)≦0.9である。この場合、正極活物質粒子610Aの結晶子径f2に比べて導電材620Aの一次粒子径f3が適当に小さい。このため、正極活物質粒子610Aは、一次粒子800レベルで見た場合においても導電パスが細かく多点に形成されている。
【0091】
このように、このリチウムイオン二次電池100Aでは、上述したように、正極活物質層223Aの密度f1がf1≦2.85g/cm
3と適当に小さい。このため、正極活物質層223Aに電解液が浸み渡りやすい。また、正極活物質粒子610Aの結晶子径f2がf2≦1200Åと適当に小さい。このため、リチウムイオンの出入り口となり得るポイントが多い。さらに、導電材620Aの一次粒子径f3と正極活物質粒子610Aの結晶子径f2との比f3/f2が0.32≦(f3/f2)≦0.9と、正極活物質粒子610Aの結晶子径f2に比べて導電材620Aの一次粒子径f3が適当に小さい。このため、正極活物質粒子610Aの一次粒子800の大きさに応じた細かい導電経路が、正極活物質粒子610Aに形成される。
【0092】
なお、かかる観点において、正極活物質粒子610Aの結晶子径f2は、例えば、f2≦1100Åであるとよく、より好ましくは、f2≦1000Åであるとよい。また、導電材620Aの一次粒子径f3と正極活物質粒子610Aの結晶子径f2との比f3/f2は、例えば、0.4≦(f3/f2)であってもよく、また、(f3/f2)≦0.8であってもよい。これにより、4C程度のハイレートでの充放電サイクルに対して低抵抗かつ高容量をより確実に維持できる。
【0093】
このような構成によって、4C程度のハイレートでの充放電サイクルによって、正極活物質粒子610Aが一次粒子800レベルで割れた場合でも、正極活物質層223A内では正極活物質粒子610Aの機能が維持される(性能が劣化し難い)。このため、リチウムイオン二次電池100Aは、4C程度のハイレートでの充放電サイクルに対して低抵抗かつ高容量を維持できる。
【0094】
≪初期充電工程≫
また、この実施形態では、リチウムイオン二次電池100Aは、電極体(捲回電極体200A)を電池ケース300Aに収容する工程の後で、正極集電体221Aと、負極集電体241とに電位差を付与する最初の工程である初期充電工程を含んでいる。この際、当該初期充電工程では1C以上の充電速度で充電するとよい。これにより、初期充電工程において、正極活物質粒子610Aが一次粒子800レベルで割れる。この際、正極活物質粒子610Aの割れた部分に、電解液が浸入する。これにより、正極活物質粒子610Aの導電性をより確実に確保できる。
【0095】
かかる事象について、本発明者の推察では、初期充電工程において、1C以上のハイレートでの充電を行なうことによって、正極活物質層223A中の正極活物質粒子610Aのうち、一次粒子800レベルで割れる箇所が予め割れる。かかる工程において割れた部位には、電解液が浸み込む。これにより、正極活物質粒子610Aは、一次粒子800レベルで割れた箇所においても機能が維持される。このため、低抵抗、かつ、高容量をより安定して維持できるリチウムイオン二次電池100Aが得られる。かかる初期充電工程は、例えば、上述したコンディショニングにおいて具現化するとよい。
【0096】
≪正極活物質層223Aの面圧f4≫
さらに、このリチウムイオン二次電池100Aは、正極活物質層223Aに、0.05MPa≦f4≦10MPaの面圧f4が作用しているとよい。すなわち、正極活物質層223Aが、0.05MPa≦f4の所定の面圧で押さえられていると良い。これにより、4C程度のハイレートでの充放電サイクルにおいて、正極活物質層223Aの過度の膨張が防止できる。この場合、正極活物質層223Aに作用する面圧f4は、より好ましくは、0.1MPa以上(0.1MPa≦f4)、さらに好ましくは0.5MPa以上(0.5MPa≦f4)であるとよい。また、かかる面圧f4は、あまりに大きいとリチウムイオン二次電池100Aの抵抗が高くなる。これは、正極活物質層223Aと負極活物質層243との間に介在させるセパレータ262、264に起因する抵抗が高くなるためと考えられる。このため、かかる面圧f4はf4≦10MPaであるとよく、より好ましくは5MPa以下(f4≦5MPa)、さらには、1MPa以下(f4≦1MPa)であるとよい。
【0097】
このような正極活物質層223Aに対する面圧f4は、例えば、
図17に示すように、扁平に押し曲げられた捲回電極体200Aが収容された角型電池では、扁平に押し曲げられた捲回電極体200Aの平らな部分が押当たる電池ケース300Aの側面に拘束圧Pを付与するとよい。
【0098】
ここで、
図17は、非水系二次電池について作用する拘束圧Pの模式図である。また、
図18は、拘束圧Pを作用させることができる組電池60の構成例を示す斜視図である。ここで、組電池60は、
図9に示すような電池100Aの複数個(典型的には10個以上、好ましくは10〜30個程度、例えば20個)を用いて構築されている。これらの電池(単電池)100Aは、それぞれの正極端子420及び負極端子440が交互に配置されるように一つずつ反転させつつ、電池ケース300Aの幅広な面320a、320b(
図17参照)が対向する方向に配列されている。
【0099】
換言すれば、電池ケース300A内に収容される捲回電極体200Aの扁平面に対応する面320a、320bを重ね合わせるように配列されている。また、このように配列された各単電池100A間及び当該配列された両外側には、スペーサ61が配置されている。スペーサ61は電池ケース300Aの幅広な面320a、320bよりも一回り小さく、各単電池100Aの電池ケース300Aに密接した状態で配置されている。
図18に示す例では、隣接する単電池100A間において、一方の正極端子420と他方の負極端子440とが接続具67によって電気的に接続されている。このように各単電池20を直列に接続することにより、所望する電圧の組電池60が構築されている。
【0100】
そして、上記のように配列された単電池100A及びスペーサ61(以下、これらを総称して「単電池群」ともいう。)の両アウトサイドに配置されたスペーサ61のさらに外側には、一対のエンドプレート68,69が配置されている。このように単電池100Aの積層方向に配列された単電池群及びエンドプレート68,69を含む全体(以下「被拘束体」ともいう。)が、両エンドプレート68,69間を架橋するように取り付けられた締め付け用の拘束バンド71によって、当該被拘束体の積層方向に、規定の拘束圧で拘束されている。より詳しくは、拘束バンド71の端部をビス72によりエンドプレート68,69に締め付け且つ固定することによって、上記積層方向に規定の拘束圧が加わるように拘束されている。これにより、例えば、この際、電池ケース300Aの幅広面320a、320b(
図17参照)には、スペーサ61によって所定の拘束圧Pが作用する。電池ケース300Aの幅広面320a、320b(
図17参照)が受ける拘束圧Pを調整することによって、上記正極活物質層223Aに作用する面圧f4を調整することができる。ここでは、上記正極活物質層223Aに作用する面圧f4が0.05MPa≦f4≦10MPa程度になるように、電池ケース300Aの幅広面320a、320bに作用する拘束圧Pを調整するとよい。
【0101】
図19は、非水系二次電池について、結晶子径f2と容量維持率との関係を示すグラフである。ここで、本発明者は、非水系二次電池について、
図9に示すような試験用の角型電池を作成し、結晶子径f2と容量維持率との関係を調べた。特に、正極活物質層223Aの密度や初期充電工程での充電速度や拘束圧P(
図17参照)などが、容量維持率(サイクル後容量維持率)に与える影響を調べた。ここで用意された試験用の角型電池について以下に説明する。
【0102】
≪サンプル1≫
<正極シート220A、正極シートを用意する工程>
ここで、正極シート220Aを用意する工程は、正極活物質粒子610Aと導電材620Aとバインダ630Aとを少なくとも含む正極活物質層223Aが正極集電体221Aに形成された正極シート220Aを用意する工程である。ここで用意された角型電池のサンプル1は、正極活物質粒子610Aとして三元系のリチウム遷移金属酸化物(LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2)、導電材620Aとしてアセチレンブラック(AB)、バインダ630Aとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)をそれぞれ用いた。正極活物質粒子610Aとしてのリチウム遷移金属酸化物(LiNi
1/3Co
1/3Mn
1/3O
2)の結晶子径f2は凡そ580Åである。また、導電材620Aとして、アセチレンブラックの一次粒子径f3は35nmである。このため、比f3/f2は、凡そ0.60である。
【0103】
正極活物質層223Aの組成比(質量比(wt%))は、正極活物質粒子610A:導電材620A:バインダ630A=93:4:3にした(
図11参照)。負極シート240は、負極集電体241の両面に負極活物質層243が形成されている。負極活物質層243の乾燥後の目付量は、負極集電体241の両面を合わせて17mg/cm
2である。また、負極活物質層243のプレス後(圧延後)の密度は1.4g/cm
3である。
【0104】
<負極シート240、負極シート240を用意する工程>
また、負極シート240を用意する工程は、負極活物質粒子710とバインダ730を少なくとも含む負極活物質層243が、負極集電体241に形成された負極シート240を用意する工程である。ここで、負極シート240では、負極活物質粒子710としてのグラファイト、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)、バインダとしてスチレン・ブタジエンゴム(SBR)を用いた。正極活物質層223Aの組成比(質量比(wt%))は、グラファイト:CMC:SBR=98:1:1とした。負極シート240は、負極集電体241の両面に負極活物質層243が形成されている。負極活物質層243の乾燥後の目付量は、負極集電体241の両面を合わせて17mg/cm
2である。また、負極活物質層243のプレス後(圧延後)の密度は1.4g/cm
3である。
【0105】
<電極体を形成する工程>
電極体を形成する工程は、セパレータ262、264を介在させた状態で、正極活物質層223Aと負極活物質層243とが対向するように、正極シート220Aと負極シート240が重ねられた電極体(捲回電極体200A)を形成する工程である。ここでは、セパレータ262、264は、上述した評価用セルと同様のものを用いており、セパレータとしては、ポリプロピレン(PP)と、ポリエチレン(PE)の三層構造(PP/PE/PP)の多孔質シートからなるセパレータを用いた。
【0106】
≪組み立て≫
<電極体を電池ケースに収容する工程>
上記で作製した負極シート240と、正極シート220Aと、セパレータ262、264とを用い、セパレータ262、264を介在させた状態で、正極シート220Aと負極シート240とを積層して捲回した捲回電極体200Aを作製した。そして、捲回電極体200Aを扁平に押し曲げて角型の電池ケース300Aに収容し、非水電解液を注液して封口した。ここで、非水電解液としては、エチレンカーボネート(EC)と、ジメチルカーボネート(DMC)とを、所定の体積比(EC:DMC=3:7)で混合溶媒に、リチウム塩としての1mol/LのLiPF
6を溶解させた電解液を用いた。ここでは、定格容量が凡そ5Ahとなるように角型電池を構築した。
【0107】
≪初期充放電≫
ここでは、上記のように構築された角型電池に次の手順1、2による充放電を行なう。
手順1:1.5C(7.5A)の定電流充電にて4.1Vに到達するまで一気に充電する。その後、5分間休止する。
手順2:手順1の後、同じく1.5C(7.5A)の定電流充電にて3.0Vまで一気に放電する。
【0108】
≪容量維持率(サイクル後容量維持率)≫
ここで容量維持率(サイクル後容量維持率)は、所定の充放電サイクルの前後において、それぞれ所定の充電状態に調整された評価用セルを基に容量を評価する。ここでは、所定の充放電サイクル前の評価用セルの容量を「初期容量」とし、所定の充放電サイクル後の評価用セルの容量を「サイクル後容量」としている。「容量維持率」は、「サイクル後容量」を「初期容量」で割った値である。ここでは、60℃の温度環境において、3.0Vから4.1Vの範囲において4Cの定電流で放電と充電を所定のサイクル数繰り返した場合である。
「容量維持率」=「サイクル後容量」/「初期容量」;
【0109】
ここで、評価用セルの容量は、25℃の温度環境において、SOC100%(4.1V)に調整された評価用セルを基に測定した放電容量である。ここで、「放電容量」は、それぞれ25℃の温度環境において、4.1V(SOC100%)から3.0V(SOC0%)まで1Cの定電流で放電させ、続いて合計放電時間が2時間となるまで定電圧で放電させた際に測定される積算容量(積算放電量)である。
【0110】
図19では、かかるサンプル1について、結晶子径f2が約580Åの正極活物質粒子610Aを用いられ、比f3/f2が、凡そ0.6の場合をAとしている。さらに、ここでは、かかるサンプル1について、結晶子径f2が約580Åの正極活物質粒子610Aを用いる他、さらに結晶子径f2が異なる正極活物質粒子610Aを用いて正極シート220Aを形成し、それぞれ角型電池を構築した。そして、構築された角型電池について、上述した初期充放電の後で、それぞれ容量維持率を測定した。
図19では、かかるサンプル1の群に属する角型電池について、正極活物質粒子610Aの結晶子径f2と、容量維持率との関係を「△」でプロットした。
【0111】
この場合、正極活物質層223Aの密度が小さく、かつ、結晶子径f2が約580Åと小さく、さらに、結晶子径f2が約580Åに対して、導電材620の一次粒子径が相当程度と小さい。このため、Aのプロットで示されるように、極めて高い容量維持率を実現できる。かかるサンプル1の群では、正極活物質粒子610Aの結晶子径f2が大きくなるにつれて、徐々に容量維持率が低下するが、凡そ比f3/f2が、凡そ0.3程度となる領域でも、高い容量維持率を実現されている。
【0112】
≪サンプル2≫
サンプル2は、正極活物質層223Aの密度を2.52g/cm
3とし、正極活物質層223Aの導電材620Aとしてのアセチレンブラックの一次粒子径を48nmとした。また、角型電池は、特に拘束せず(拘束圧P=0)、また上述した初期充放電の充放電レートを、約1/3C(1.67A)とした。サンプル2では、特に言及しない他の構成についてサンプル1と同じとした。
【0113】
図19では、かかるサンプル2について、結晶子径f2が約580Åの正極活物質粒子610Aを用いられ、比f3/f2が、凡そ0.83の場合をBとしている。さらに、ここでは、かかるサンプル2について、結晶子径f2が約580Åの正極活物質粒子610Aを用いる他、さらに結晶子径f2が異なる正極活物質粒子610Aを用いて正極シート220Aを形成し、それぞれ角型電池を構築した。そして、構築された角型電池について、上述した初期充放電の後で、それぞれ容量維持率を測定した。
図19では、かかるサンプル2の群に属する角型電池について、正極活物質粒子610Aの結晶子径f2と、容量維持率との関係を「◇」でプロットした。
【0114】
ここで、かかるサンプル2では、サンプル1に比べてアセチレンブラックの一次粒子径が大きいが、比f3/f2が、凡そ0.83程度である。この場合、ハイレートでの充放電サイクルに対して、サンプル1ほどではないが、85%以上の高い容量維持率が確保されている。特に、ここでは、導電材620A(アセチレンブラック)の一次粒子径f3が48nmであり、正極活物質粒子610Aの結晶子径f2が1000Åでも、比f3/f2が0.48である。このように、比f3/f2のバランスがよいと容量維持率が高くなると考えられる。
【0115】
しかしながら、サンプル1、サンプル2の何れでも、正極活物質粒子610Aの結晶子径f2がさらに大きくなると、比f3/f2が小さくなる。そして、比f3/f2がある程度小さくなり、導電材620A(アセチレンブラック)の一次粒子径f3と、正極活物質粒子610Aの結晶子径f2とのバランスが崩れると、ハイレート充放電にサイクルに対して、容量維持率が著しく低くなる。これは、正極活物質粒子610Aの一次粒子800レベルでの割れに対して、抵抗が著しく増加していることを意味している。
【0116】
また、サンプル3では、正極活物質層223Aの密度が、3.24g/cm
3と、サンプル2に比べて密度が大きい場合である。サンプル3は、他はサンプル2と概ね同じ条件で構築されている。
図19では、正極活物質粒子610Aの結晶子径f2が約580Åの正極活物質粒子610Aを用いられ、比f3/f2が凡そ0.83の場合をCとしている。この場合は、サンプル3では、正極活物質粒子610Aの結晶子径f2が580Åである場合に、容量維持率が低い。これは、正極活物質層223Aの密度が高く、正極活物質層223A中に含まれた電解液が少ない。このため、正極活物質層223Aにおいて、リチウムイオンの拡散抵抗が高く、ハイレートでの充放電では、抵抗が高くなるためだと考えられる。
【0117】
なお、
図19では、かかるサンプル3について、結晶子径f2が約580Åの正極活物質粒子610Aを用いる他、さらに結晶子径f2が異なる正極活物質粒子610Aを用いて正極シート220Aを形成し、それぞれ角型電池を構築した。そして、構築された角型電池について、上述した初期充放電の後で、それぞれ容量維持率を測定した。
図19では、かかるサンプル3の群に属する角型電池について、正極活物質粒子610Aの結晶子径f2と、容量維持率との関係を「○」でプロットした。
【0118】
以上、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池100Aを説明したが、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池100Aは、種々の変更が可能である。
【0119】
≪正極活物質粒子610A≫
例えば、正極活物質粒子610Aは、層状構造のリチウム遷移金属酸化物であるとよい。この場合、リチウム遷移金属酸化物は、Ni、CoおよびMnを含んでいるとよい。このようなリチウム遷移金属酸化物からなる正極活物質粒子610Aを用いることによって、上述した正極活物質層223Aの密度f1、前記正極活物質粒子の結晶子径f2がf2≦1200Åであり、かつ、前記導電材の一次粒子径f3と前記正極活物質粒子の結晶子径f2との比f3/f2についての傾向がより確実に得られる。
【0120】
より具体的には、リチウム遷移金属酸化物は、Li
1+xNi
yCo
zMn
(1−y−z)M
γO
2として含む層状構造の化合物であり、ここで、0≦x≦0.2、0.1<y<0.9、0.1<z<0.4であり、Mは、添加物であり、0≦γ≦0.01であり、Mは、Zr、W、Mg、Ca、Na、Fe、Cr、Zn、Si、Sn、Al、BおよびFからなる群より選ばれた少なくとも一種類の添加物であるとよい。
【0121】
また、上述した正極活物質層223Aの密度f1、前記正極活物質粒子の結晶子径f2がf2≦1000Åであり、かつ、前記導電材の一次粒子径f3と前記正極活物質粒子の結晶子径f2との比f3/f2についての傾向は、上述した18650型の電池、角型に限定されず、他のサイズの円筒型電池、角型電池、さらにラミネート型などの他の形状の電池においても、同じような傾向が得られうる。したがって、本発明は、18650型の評価用セルに限定されず、広く他のサイズの円筒型電池、角型やラミネート型などの他の形状の電池において適用できる。
【0122】
≪非水系二次電池の製造方法≫
以上のように、非水系二次電池の製造方法は、正極シートを用意する工程と、負極シートを用意する工程と、電極体を形成する工程と、電極体を電池ケースに収容する工程とを少なくとも含んでいるとよい。
【0123】
ここで、正極シートを用意する工程は、正極活物質粒子と導電材とバインダとを少なくとも含む正極活物質層が正極集電体に形成された正極シートを用意する工程である。負極シートを用意する工程は、負極活物質粒子とバインダを少なくとも含む負極活物質層が負極集電体に形成された負極シートを用意する工程である。電極体を形成する工程は、セパレータを介在させた状態で、正極活物質層と負極活物質層とが対向するように、正極シートと負極シートが重ねられた電極体を形成する工程である。
【0124】
この非水系二次電池の製造方法では、正極シートを用意する工程で用意される正極シートにおいて、正極活物質層の密度f1がf1≦2.85g/cm
3である。また、正極活物質層に含まれる正極活物質粒子の結晶子径f2がf2≦1200Åであり、かつ、導電材の一次粒子径f3と正極活物質粒子の結晶子径f2との比f3/f2が0.32≦(f3/f2)≦0.9である。これにより、特にハイレートでの充放電サイクルに対して、抵抗上昇を小さく抑えることができ、容量を高く維持することができる非水系二次電池を提供することができる。
【0125】
また、この場合、さらに正極シートを用意する工程で用意される正極シートは、正極活物質層の密度f1が2.20g/cm
3≦f1であるとよい。これにより、正極活物質層223Aは所要の剛性が確保される。ハイレートでの充放電サイクルに対して、より安定した性能が得られうる。
【0126】
さらに、電極体を電池ケースに収容する工程の後で、正極集電体と負極集電体とに電位差を付与する初期充電工程を含み、当該初期充電工程では1C以上の充電速度で充電するとよい。これにより、当該初期充電工程において、正極活物質粒子の一次粒子レベルに割れを予め生じさせることができる。そして、上述したように、正極活物質層の密度f1がf1≦2.85g/cm
3であり、また、正極活物質層に含まれる正極活物質粒子の結晶子径f2がf2≦1200Åであり、かつ、導電材の一次粒子径f3と正極活物質粒子の結晶子径f2との比f3/f2が0.32≦(f3/f2)≦0.9であることと合わせて、特にハイレートでの充放電サイクルに対して、より低抵抗かつ高容量を維持できる非水系二次電池が得られる。
【0127】
以上、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池を説明したが、本発明に係る非水系二次電池は、特に言及されない限りにおいて、上述したリチウムイオン二次電池に限定されない。
【0128】
ここで開示される非水系二次電池は、特に、4C程度のハイレートでの充放電サイクルに対して、抵抗上昇率を低く抑え、かつ、容量を高く維持することができる。このため、特にハイレートでの充放電が繰り返される用途、例えば、ハイブリッド車(プラグインハイブリッド車を含む)や電気自動車などにおいて、駆動輪を電動モータで駆動させる車両駆動用電池として好適である。かかる車両駆動用電池の用途においては、加速時には、高出力で放電することが求められ、減速時には回生されるエネルギを急速に充電することが求められる。ここで開示される非水系二次電池は、かかるハイレートで充放電が繰り返される用途において抵抗上昇を低く抑えることができ、さらに容量を高く維持できる。したがって、
図20に示されるように、かかる非水系二次電池10(当該非水系二次電池10を複数個直列に接続して形成される組電池の形態であり得る。)を電源(車両駆動用電池)として備える車両1000(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車のような電動機を備える自動車)を提供することができる。