特許第5835939号(P5835939)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5835939金属インサート成形品、それを備えた携帯端末及び金属インサート成形方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5835939
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】金属インサート成形品、それを備えた携帯端末及び金属インサート成形方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20151203BHJP
【FI】
   B29C45/14
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-106498(P2011-106498)
(22)【出願日】2011年5月11日
(65)【公開番号】特開2012-236325(P2012-236325A)
(43)【公開日】2012年12月6日
【審査請求日】2014年3月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077931
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100113262
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 祐二
(72)【発明者】
【氏名】衛藤 孝男
(72)【発明者】
【氏名】今井 公昭
【審査官】 増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−220420(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/00−45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板金の外周を樹脂で包み込んだ金属インサート成形品において、
上記板金の平坦面には、成形の際の上記金属インサート成形品の撓みを防止する直線状スリットが形成されている
ことを特徴とする金属インサート成形品。
【請求項2】
請求項1に記載の金属インサート成形品において、
上記直線状スリットは、少なくとも板金の長手方向に延びる第1直線部と、該板金の幅方向に延びる第2直線部とを備える
ことを特徴とする金属インサート成形品。
【請求項3】
板金の外周を樹脂で包み込んだ金属インサート成形品において、
上記板金には、成形の際の上記金属インサート成形品の撓みを防止する直線状スリットが形成されており、
上記直線状スリットは、少なくとも板金の長手方向に延びる第1直線部と、該板金の幅方向に延びる第2直線部とを備え、
上記第1直線部と上記第2直線部とは交わっている
ことを特徴とする金属インサート成形品。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1つに記載の金属インサート成形品において、
上記板金は、肉厚0.10以上0.15mm以下のステンレスシートである
ことを特徴とする金属インサート成形品。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1つに記載の金属インサート成形品を備え、
上記金属インサート成形品の裏側に金属製補強フレームが配置される
ことを特徴とする携帯端末。
【請求項6】
板金の外周を樹脂で包み込む金属インサート成形方法において、
上記板金の平坦面成形の際の上記板金の撓みを防止する直線状スリットを形成し、
上記直線状スリットを形成した板金を成形型のキャビティ内部に嵌め込み、
上記板金が嵌め込まれた上記キャビティ内部に溶融樹脂を流し込
ことを特徴とする金属インサート成形方法。
【請求項7】
板金の外周を樹脂で包み込む金属インサート成形方法において、
上記板金に少なくとも板金の長手方向に延びる第1直線部と、該板金の幅方向に延び、該第1直線部に交わる第2直線部とを備えた、成形の際の上記板金の撓みを防止する直線状スリットを形成し、
上記直線状スリットを形成した板金を成形型のキャビティ内部に嵌め込み、
上記板金が嵌め込まれた上記キャビティ内部に溶融樹脂を流し込む
ことを特徴とする金属インサート成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属インサート成形品、それを備えた携帯端末及び金属インサート成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、板金の外周を樹脂で包み込んだ金属インサート成形品が知られている。例えば、特許文献1では、金属構造体に樹脂製の外装体が一体成形されて、携帯機器の筐体が構成されている。この金属構造体に対して、その周囲を均一に樹脂外装体が占めるように一対成形されるため、金属と樹脂の熱膨張差により金属の方が収縮率が小さいので、樹脂成形後の樹脂部分の収縮によって箱型金属構造体と樹脂外装体とが密着されることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−117863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来の金属インサート成形品では、冷却時の収縮によって筺体全体に反りが発生する場合がある。上記特許文献1では有底凹部形状とすることで、収縮の応力に金属構造体が打ち勝つようにして成形後の変形を最小限に抑えるようにしている。
【0005】
しかしながら、収縮応力に打ち勝つために金属構造体の剛性を高くすると、その分だけ質量が重くなり、携帯端末全体の質量が重くなって携帯性が低下するという問題があった。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、成形収縮による板金の変形を防止することができる、軽量なインサート成形品を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明では、板金に成形収縮を緩和する直線状スリットを設けた。
【0008】
具体的には、第1の発明では、
板金の外周を樹脂で包み込んだ金属インサート成形品を前提とし、
上記板金には、金型のキャビティ内部に充填された溶融樹脂が冷却されて固化する際に収縮する成形収縮を緩和する直線状スリットが形成されている。
【0009】
上記の構成によると、成形収縮により板金に生じる反りを、剛性を高めることなく直線状スリットによって逃がすことができる。このため、板金を薄くすることができ、金属インサート成形品の質量が従来に比べて軽くなる。
【0010】
第2の発明では、第1の発明において、
上記直線状スリットは、少なくとも板金の長手方向に延びる第1直線部と、該板金の幅方向に延びる第2直線部とを備える構成とする。
【0011】
上記の構成によると、第1直線部により幅方向の撓みが緩和され、第2直線部により長手方向の撓みが緩和されるので、板金の長手方向及び幅方向の成形収縮による反りが効果的に防止される。
【0012】
第3の発明では、第2の発明において、
上記第1直線部と上記第2直線部とは交わっている。
【0013】
上記の構成によると、第1直線部と第2直線部とで連携して板金の長手方向及び幅方向の成形収縮による反りをさらに効果的に防止することができる。
【0014】
第4の発明では、第1乃至第3のいずれか1つの発明において、
上記板金は、肉厚0.10以上0.15mm以下のステンレスシートである。
【0015】
上記の構成によると、従来では不可能であった成形収縮による反りの生じやすい0.15mm以下のステンレスシートでも成形が可能となる。一方、0.10mmよりも薄くすると、金属インサート成形品自体の剛性が下がりすぎて好ましくない。
【0016】
第5の発明の携帯端末は、第1乃至第4のいずれか1つの発明の金属インサート成形品を備え、
上記金属インサート成形品の裏側に金属製補強フレームが配置される構成とする。
【0017】
上記の構成によると、直線状スリットを設けることで低下した板金部分の剛性を金属製補強フレームが補うので、携帯端末全体として剛性が低下することはない。
【0018】
第6の発明では、板金の外周を樹脂で包み込む金属インサート成形方法を前提とし、
上記成形方法は、
上記板金に直線状スリットを形成し、
上記直線状スリットを形成した板金を成形型のキャビティ内部に嵌め込み、
上記板金が嵌め込まれた上記キャビティ内部に溶融樹脂を流し込み、
上記溶融樹脂が冷却されて固化する際に収縮する成形収縮を上記直線状スリットによって逃がす構成とする。
【0019】
上記の構成によると、板金に従来よりある貫通孔と共に直線状スリットを成形するので、工程が増えず、また、この直線状スリットを設けておくことで、成形収縮による板金に生じる歪みを解消するので、板金を薄くすることができ、軽量な金属インサート成形品が得られる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明によれば、板金に直線状スリットを設けることで成形収縮を緩和するようにしたことにより、成形収縮による板金の変形を防止することができる軽量なインサート成形品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施形態に係る第1キャビネットを示す斜視図である。
図2】閉じ状態のスライド式携帯電話機を正面から見た斜視図である。
図3】開き状態のスライド式携帯電話機を正面から見た斜視図である。
図4】開き状態のスライド式携帯電話機を背面から見た斜視図である。
図5図2のV−V線拡大断面図である。
図6】第1の筐体側の主要部品を示す分解斜視図である。
図7図1のVII−VII線断面図である。
図8】ステンレスシートを示す斜視図である。
図9】その他の実施形態に係る図1相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
図2図4は、本発明の実施形態の金属インサート成形品を備えた携帯端末としてのスライド式携帯電話機1を示し、このスライド式携帯電話機1は、表面側に表示部2を有する第1の筐体3が、表面下側に操作部4を有する第2の筐体5に重なる閉じ状態(図2に示す)と、第1の筐体3が第2の筐体5上をスライドして第2の筐体5の操作部4が露出する開き状態(図3及び図4に示す)とで切り換え可能に構成されている。なお、説明の都合上、第1の筐体3の長手方向(スライド方向)を上下方向とし、幅方向を左右方向とする。
【0024】
図5及び図6に示すように、第1の筐体3は、第2の筐体5に対してスライド機構10を介してスライド自在に連結されている。スライド機構10は、第2の筐体5の正面側に取り付けられた、例えばステンレス鋼板のプレス成形品等よりなるスライダ11を備えている。スライダ11は、矩形板金状のもので、図5に示すように、左右端部が正面側に折り曲げられて断面L字状となった係合部12を備えている。
【0025】
一方、図6に示すように、第1の筐体3は、後述する金属インサート成形品である第1キャビネット30を有し、この第1キャビネット30の表面側に、例えば表示部2を構成するLCDパネル2a、LCDクッション2b及びLCDユニット2cが嵌め込まれている。第1キャビネット30の背面には、マグネシウム合金の成型品等よりなる金属製補強フレームとしての矩形板金状の背面プレート20がネジ20aにより締結されている。背面プレート20の上下には、第1基板6等を隠すための樹脂製カバー20b,20cがそれぞれ取り付けられている。背面プレート20の左右端部は、図5に示すように、外側に断面L字状に折り曲げられてレール部21が形成されている。レール部21は、スライド機構10の一部を構成し、このレール部21にスライダ11の係合部12が係合し、スライダ11がレール部21に沿って上下にスライド可能となっている。
【0026】
図1に示すように、第1キャビネット30は、板金としてのステンレスシート31の外周を繊維強化ポリアミド樹脂等の樹脂フレーム32で包み込むようにインサート成形されている。ステンレスシート31は、例えば肉厚0.10以上0.15mm以下のステンレスよりなるが、必ずしもステンレス製でなくてもよく、高張力鋼板等でもよい。なお、ステンレスシート31の厚さを0.10mmよりも薄くすると、第1キャビネット30自体の剛性が下がりすぎて好ましくない。ステンレスシート31には、金型のキャビティ(図示省略)の内部に充填された溶融樹脂が冷却されて固化する際に収縮する成形収縮を緩和する直線状スリット33が形成されている。なお、ステンレスシート31は、直線状スリット33の他に多数の貫通孔31bを有するが、この貫通孔31bは、直線状スリット33のように連続したものではなく、その長さは直線状スリット33よりも短くなっている。
【0027】
本実施形態では、直線状スリット33は、ステンレスシート31の長手方向(上下方向)に延びる第1直線部33aと、ステンレスシート31の幅方向(左右方向)に延びる第2直線部33bとを備え、第1直線部33aと第2直線部33bとは垂直に交わっている。なお、図6に示すように、直線状スリット33を設けることで低下したステンレスシート31の部分の剛性を重ね合わされる背面プレート20が補うので、スライド式携帯電話機1全体として剛性が低下することはない。
【0028】
−第1キャビネットの成形方法−
次に、本実施形態に係る第1キャビネット30の成形方法について説明する。
【0029】
まず、例えば0.15mmの平らなステンレスシート31を用意し、図8に示すように、周縁の折曲部31aと他の貫通孔31bと共に、直線状スリット33をプレスにより形成する。このとき、直線状スリット33や他の貫通孔31bをレーザにて切り欠き、その後、プレスにてバリを取りながら曲げ加工をするようにプレス加工してもよい。このようにステンレスシート31に従来よりある貫通孔31bと共に直線状スリット33を成形するようにすれば、別途工程が増えることはない。
【0030】
次いで、詳しくは図示しないが、直線状スリット33を形成したステンレスシート31を成形型のキャビティ内部に嵌め込む。
【0031】
次いで、ステンレスシート31が嵌め込まれたキャビティ内部に強化繊維が含有されたポリアミドなどの溶融樹脂を流し込む。
【0032】
次いで、溶融樹脂を冷却して固化する。このとき、溶融樹脂が固化する際に収縮する成形収縮が直線状スリット33によって逃がされる。第1直線部33aと第2直線部33bとがつながっているので、両者で連携してステンレスシート31の長手方向及び幅方向の成形収縮による反りをさらに効果的に防止することができる。
【0033】
最後に、金型から第1キャビネット30を取り出して溶融樹脂が完全に冷却されて樹脂フレーム32となり、成形収縮による撓みのない第1キャビネット30が得られる。
【0034】
この直線状スリット33を設けておくことで、成形収縮によるステンレスシート31に生じる歪みを解消するので、ステンレスシート31を薄くすることができ、軽量な第1キャビネット30が得られる。
【0035】
このように、本実施形態では、成形収縮によりステンレスシート31に生じる反りを、剛性を高めることなく直線状スリット33によって逃がすことができる。このため、従来では不可能であった成形収縮による反りの生じやすい肉厚0.15mm以下のステンレスシートでもインサート成形が可能となるので、第1キャビネット30の質量が従来に比べて軽くなる。したがって、本実施形態によると、成形収縮によるステンレスシート31の変形を防止して軽量な第1キャビネット30を得ることができる。
【0036】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0037】
すなわち、上記実施形態では、第1直線部33aと第2直線部33bとは垂直に交わっているが、例えば、図9に示すように、第1キャビネット130において、第1直線部133aと第2直線部133bとを交わらせることなく、中央でそれぞれ分割するように配置してもよい。この場合には、中央部分で必要以上に強度を低下させないので、背面プレート20のような金属製補強フレームをすぐ近くに配置できないような場合にも適している。第1直線部133aにより幅方向の撓みが緩和され、第2直線部133bにより長手方向の撓みが緩和されるので、ステンレスシート131の長手方向及び幅方向の成形収縮による反りが効果的に防止される。
【0038】
上記実施形態では、携帯端末は、スライド式携帯電話機1としたが、スライド式に限定されず、第1の筐体と第2の筐体とを折り畳む、折畳み式携帯電話機や、第1の筐体のみからなる携帯電話機でもよい。また、携帯端末は、PHS(Personal Handy-phone System )、PDA(Personal Digital Assistant)、スマートフォン、パソコン、モバイルツール、電子辞書、電卓、ゲーム機等であってもよい。
【0039】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【符号の説明】
【0040】
1 スライド式携帯電話機(携帯端末)
20 背面プレート(金属製補強フレーム)
30 第1キャビネット(金属インサート成形品)
31 ステンレスシート
33 直線状スリット
33a 第1直線部
33b 第2直線部
133 直線状スリット
133a 第1直線部
133b 第2直線部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9