(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記回転支承部は、前記ラック本体を前記基部に対して水平方向に延びる全ての軸線回りに揺動可能に接続する球体を有することを特徴とする請求項1に記載の核燃料貯蔵用ラック。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所で発生した使用済み核燃料(使用済み核燃料棒)は、核燃料貯蔵施設に貯蔵して保管される。この際、使用済み核燃料は、核燃料集合体として角管内に収容された状態で核燃料貯蔵用ラックの鉛直セル中に収納され、核燃料貯蔵施設の貯蔵ピット内に貯蔵される。貯蔵ピットには水が貯留されており、核燃料貯蔵用ラック及び核燃料集合体を水中に貯蔵することにより、崩壊熱を冷却除去して臨界未満で保持し、また、放射線を遮蔽するようにしている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示されているように、核燃料貯蔵用ラックは、サポートを介して貯蔵ピットの側壁に固定され、サポート及び貯蔵ピットで支持した状態で貯蔵されている。このように核燃料貯蔵用ラックを貯蔵ピットに固設した場合には、地震発生時に水の流体付加減衰効果によってある程度の応答低減効果を得ることが可能である。しかしながら、大地震時においてサポート荷重が大きくなった場合は、核燃料貯蔵用ラックを支持しきれなくなるおそれがある。
【0004】
これに対し、例えば、特許文献2では貯蔵ピットの側壁や底盤に固定しない形態の核燃料貯蔵用ラックが提案され、また実用化されている。この核燃料貯蔵用ラックは、貯蔵ピットの底面に相対的に滑動可能に載置され、地震発生時に作用する水平力を水の流体付加減衰効果とともに核燃料貯蔵用ラックの滑動によって吸収するものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献2の核燃料貯蔵用ラックにおいては、大地震等の発生によってさらに大きな水平力が作用した際には、核燃料貯蔵用ラックの滑動範囲が大きくなり、貯蔵ピットの側壁等に衝突し、核燃料貯蔵用ラックが損傷してしまうおそれがあった。
【0007】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、水平方向の滑動量の抑制を図ることができる核燃料貯蔵用ラックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を採用している。
即ち、本発明に係る核燃料貯蔵用ラックは、核燃料の集合体を収納した状態で貯蔵ピット内の水中に設置される核燃料貯蔵用ラックであって、前記核燃料を収納するラック本体と、前記ラック本体の下方に設けられて、床面に対して水平方向に
滑動可能に配置された基部と、前記ラック本体と前記基部との間に
、前記ラック及び基部に対して水平方向に相対移動不能に介在され、前記ラック本体を前記基部に対して水平方向に延びる少なくとも一つの軸線回りに揺動可能に接続する回転支承部と、
前記基部と前記ラック本体との間に介在されてこれら前記基部と前記ラック本体とを接続し、前記軸線回りの揺動力を吸収する、弾性部材と、を備えることを特徴とする。
【0009】
このような核燃料貯蔵用ラックにおいては、地震等による水平力を受けた際に、基部が床面に対して水平方向に滑動する。また、滑動時には回転支承部が軸線回りに揺動することによって、回転支承部に接続されたラック本体が揺動する。従って、地震等による水平力を基部の滑動力と、ラック本体の揺動力の二つの力に変換することができる。換言すると、滑動力の一部を揺動力に移行することができ、基部の滑動力の低減を図ることができる。
【0010】
また、本発明に係る核燃料貯蔵用ラックの前記回転支承部は、前記ラック本体を前記基部に対して水平方向に延びる全ての軸線回りに揺動可能に接続する球体を有していてもよい。
【0011】
このような球体によって、水平方向全ての軸線回りにラック本体を揺動させることができるため、さらに効果的に地震等による水平力を揺動力に変換でき、基部へ作用する滑動力の低減によって、基部の滑動量の抑制を図ることができる。
【0012】
さらに、本発明に係る核燃料貯蔵用ラックの前記回転支承部は、前記ラック本体を前記基部に対して水平方向に延びる第一軸線回りに揺動可能に接続する第一軸部材と、
前記ラック本体を前記基部に対して、前記第一軸線に直交するとともに水平方向に延びる第二軸線回りに揺動可能に接続する第二軸部材とを有していてもよい。
【0013】
第一軸部材と第二軸部材とによって、第一軸線、第二軸線の直交する二つの軸線回りにラック本体が揺動可能となり、効果的に地震等による水平力を揺動力に変換でき、基部へ作用する滑動力の低減によって、基部の滑動量の抑制を図ることができる。
【0015】
このような弾性部材によって、地震等による水平力が作用してラック本体が揺動した際には、基部の滑動量を維持したまま揺動力を吸収し、ラック本体と基部とが接触して衝撃が発生することを防止できる。また、揺動の復元を行ない、ラック本体が傾いた状態で静止することを回避できる。従って、ラック本体に収容された核燃料をさらに安定的に保持することができる。
【0016】
さらに、前記基部と前記ラック本体との間に介在されてこれら基部とラック本体とを接続する減衰部材を備えていてもよい。
【0017】
このような減衰部材によって、ラック本体が揺動した際には、基部の滑動量を維持したまま揺動力を吸収し、揺動量の減衰を行なうことができる。従って、ラック本体に収容された核燃料をさらに安定的に保持することができる。
【0018】
前記基部と前記ラック本体との間に介在される緩衝材を備えていてもよい。
【0019】
このような緩衝材によって、ラック本体が揺動した際には、基部の滑動量を維持したままラック本体と基部との間で発生する衝撃を緩衝するとともに、揺動量を抑制することが可能となる。従って、ラック本体に収容された核燃料をさらに安定的に保持することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の核燃料貯蔵用ラックによれば、地震等による水平力を滑動力と揺動力に変換することによって、滑動量の抑制を図ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の第一実施形態に係る核燃料貯蔵用ラック1Aについて説明する。
図1に示すように、核燃料貯蔵用ラック1Aは、例えば原子力発電所で発生した使用済み核燃料Wを核燃料貯蔵施設の貯蔵ピット100内の水中に貯蔵して保管するものである。
【0023】
図2に示すように、核燃料貯蔵用ラック1Aは、核燃料Wを収容するラック本体11と、ラック本体11の下部に設けられ、ラック本体11の揺動を制御する制振装置12とを備えている。
【0024】
ラック本体11は、外形が直方体をなす箱状の鋼製容器であり、内部に核燃料Wを収容した状態で水中に配置されるものである。
【0025】
次に制振装置12について説明する。
制振装置12は、ラック本体11の下部に設置される上台板13と、上台板13の下部に設置される自在継手(回転支承部)16Aと、自在継手16Aの水平方向外側に設けられるバネ(弾性部材)15と、自在継手16A及びバネ15の下方に設けられる下台板17と、下台板17の下方に設けられる支持脚部18とを備えている。
【0026】
上台板13は、水平方向を長手方向とする四角形の平板状をなす部材であり、ラック本体11を下方から支持するものである。そして、上台板13の水平方向の寸法は、ラック本体底面11aの水平方向の寸法に一致している。
また、この上台板13及びラック本体11の水平方向を向く面側には複数の連結板14が設けられ、この連結板14によって上台板13とラック本体11とが結合されている。
【0027】
自在継手16Aは、球体21と、この球体21を回転自在に上方から挟み込む上側保持部材22と、下方から挟み込む下側保持部材23とを有している。そしてこの自在継手16Aは、上台板13の中央部に配置されるとともに、上側保持部材22の上方を向く面は、上台板13の下方を向く面に結合されており、下側保持部材23の下方を向く面は、下台板17の上方を向く面に結合されている。このような自在継手16Aによって、下台板17を基準として上台板13及びラック本体11が水平方向に延びる全ての軸線回りに揺動可能とされている。
【0028】
バネ15は、核燃料Wを収容したラック本体11の重量等に応じて、所定の弾性係数に設定されたコイルバネであり、自在継手16Aの周囲に複数(本実施形態では、上台板13及び下台板17のコーナー部に4つ)設けられ、上端部は上台板13に結合されて、下端部は下台板17に結合されている。
【0029】
下台板17は、上台板13同様に水平方向を長手方向とする四角形の平板状をなす部材であり、本実施形態では、この下台板17の水平方向の寸法は、上台板13及びラック本体底面11aの水平方向の寸法に一致している。
【0030】
支持脚部18は、下台板17の下方を向く面から突出するように複数(本実施形態では、下台板17のコーナー部に4つ)設けられる鉛直方向を軸線とする略円柱状の部材である。そしてこの支持脚部18は、貯蔵ピット底面(床面)100aに対して水平方向に滑動可能な状態に載置されている。
【0031】
このような核燃料貯蔵用ラック1Aにおいては、地震等によって大きな水平力を受けた際には、支持脚部18が貯蔵ピット底面100aに対して水平方向に滑動する。さらに自在継手16Aによって、下台板17に対して上台板13及びラック本体11が揺動する。即ち、地震等による水平力が支持脚部18の滑動力と上台板13及びラック本体11の揺動力の二つの力に変換される。そして、この際、上記水平力の全てを滑動力に変換する場合と比較して、水平力の一部を揺動力に変換することができ、支持脚部18に作用する滑動力の低減を図ることができる。
【0032】
また、支持脚部18の滑動によって、支持脚部18の下方を向く面と貯蔵ピット底面100aとの間には摩擦力が作用して滑動力は消費される。さらに、バネ15によって揺動力が吸収され、揺動が復元されるため、揺動によってラック本体11と下台板17との接触による衝撃を回避でき、また、ラック本体が傾いた状態で静止することも回避できる。
【0033】
さらに、上台板13とラック本体11とは連結板14によって結合されており、貯蔵ピット100に核燃料貯蔵用ラック1Aを設置する場合には、ラック本体11と制振装置12とを一体で設置することができる。
【0034】
本実施形態の核燃料貯蔵用ラック1Aにおいては、地震等による水平力を支持脚部18の滑動力と上台板13及びラック本体11の揺動力に変換することができるため、滑動力低減による滑動量の抑制を図ることが可能となる。また滑動力は摩擦力によって消費される。この結果、核燃料貯蔵用ラック1Aが貯蔵ピット100の側壁に衝突し、損傷することを防止できる。
さらに、バネ15によって揺動の吸収と復元が可能となり、内部の核燃料Wを安定的に保持することができる。
また、ラック本体11と制振装置12とを一体で設置することによって核燃料貯蔵用ラック1Aを貯蔵ピット100に設置する際の手間を省くことができる。
【0035】
なお、本実施形態の自在継手16Aについては、球体21によって水平方向に延びる全ての軸線回りに揺動可能とされているが、球体21に限られず、例えば半球状の部材を用いて上台板13側か下台板17側のいずれか一方が固定され、他方が揺動可能な状態とされてもよい。また、上台板13及び下台板17から突出するよう単なる凸部が設けられ、揺動可能とされていてもよい。
【0036】
次に
図3を参照して、第二実施形態に係る核燃料貯蔵用ラック1Bについて説明する。
なお、第一実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
自在継手16Bは水平方向に延びる第一軸線回りに揺動可能な第一ピン(第一軸部材)31と、水平方向に延びるとともに第一軸線に直交する第二軸線回りに揺動可能な第二ピン(第二軸部材)32とを有している。
【0037】
さらに、自在継手16Bは、第一ピン31を上方から挟み込む上側保持部材33と、第一ピン31を下方から挟み込むとともに第二ピン32を上方から挟み込む中間保持部材34と、第二ピン32を下方から挟み込む下側保持部材35とを有している。
【0038】
即ち、自在継手16Bは、上方から上側保持部材33、第一ピン31、中間保持部材34、第二ピン32、下側保持部材35の順に構成されている。
また、上側保持部材33の上方を向く面は上台板13の下方を向く面に結合されており、下側保持部材35の下方を向く面は、下台板17の上方を向く面に結合されている。
【0039】
このような核燃料貯蔵用ラック1Bにおいては、第一実施形態と同様に、地震等によって大きな水平力を受けた際には、支持脚部18が貯蔵ピット底面100aに対して水平方向に滑動する。さらに自在継手16Bによって、下台板17に対して上台板13及びラック本体11が第一軸線回り及び第二軸線回りに揺動する。即ち、地震等による水平力が支持脚部18の滑動力と上台板13及びラック本体11の揺動力の二つの力に変換されるため、上記水平力の全てを滑動力に変換する場合と比較して、その一部を揺動力に変換することができ、支持脚部18に作用する滑動力の低減を図ることができる。
【0040】
そして、支持脚部18の滑動によって、支持脚部18の下方を向く面と貯蔵ピット底面100aとの間には摩擦力が作用して滑動力は消費される。
【0041】
本実施形態の核燃料貯蔵用ラック1Bにおいては、地震による水平力を滑動力と揺動力に変換することができ、滑動力の低減による滑動量の抑制を図ることが可能となる。また滑動力は摩擦力によって消費される。この結果、核燃料貯蔵用ラック1Bが貯蔵ピット100の側壁に衝突し、損傷することを防止できる。
また、第一実施形態同様に、バネ15によって内部の核燃料Wを安定的に保持することができ、ラック本体11と制振装置12とを一体で設置することによって核燃料貯蔵用ラック1Bを貯蔵ピット100に設置する際の手間を省くことができる。
【0042】
なお、第一ピン31及び第二ピン32の上下の順序は本実施形態の場合に限定されず、第二ピン32の下に第一ピン31が設けられてもよい。
さらに第一ピン31の軸線及び第二ピン32の軸線は直交する場合に限定されず、これらが同一軸線でなければよい。
【0043】
また、本実施形態では、第一ピン31及び第二ピン32の二つのピンによってラック本体11及び上台板13を揺動可能としていたが、さらに複数のピンを設けて水平方向に延びる複数の軸線回りに揺動可能とすることもできる。
さらに、複数のピンに代えて、第一ピン31又は第二ピン32と同様の構成の単一のピンによってラック本体11及び上台板13を揺動可能としてもよく、即ち、少なくとも一つの軸線回りに揺動可能とされていればよい。
【0044】
次に
図4を参照して、第三実施形態に係る核燃料貯蔵用ラック1Cについて説明する。
なお、第一実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
核燃料貯蔵用ラック1Cは、上台板13と下台板17との間において、バネ15よりもさらに水平方向外側、即ち上台板13及び下台板17のコーナー寄りに複数(本実施形態では、上台板13及び下台板17のコーナー部に4つ)設けられるダンパ41(減衰部材)を備えている点で、第一実施形態と異なっている。
【0045】
ダンパ41は、例えばオイルダンパ等であり、上台板13及びラック本体11の揺動の減衰を行なうものである。
【0046】
このような核燃料貯蔵用ラック1Cにおいては、第一実施形態と同様に地震等による水平力を支持脚部18の滑動力と上台板13及びラック本体11の揺動力に変換することができるため、滑動力低減による滑動量の抑制を図ることが可能となる。
【0047】
さらに、バネ15が揺動力の吸収と揺動の復元を行なうとともに、ダンパ41が揺動の減衰を行なう。従って、支持脚部18の滑動量を増加させないまま揺動量の抑制を図ることが可能となり、より大きな水平力が作用したとしても、ラック本体11に収容された核燃料Wを保護することができる。
【0048】
本実施形態の核燃料貯蔵用ラック1Cにおいては、滑動量の抑制とともに、ダンパ41によって揺動量の抑制も可能となり、核燃料貯蔵用ラック1Cが貯蔵ピット100の側壁に衝突して、損傷することを防止できるとともに、収容された核燃料Wをさらに安定的に保持することができる。
【0049】
次に
図5を参照して、第四実施形態に係る核燃料貯蔵用ラック1Dについて説明する。
なお、第一実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付して詳細説明を省略する。
核燃料貯蔵用ラック1Dは、上台板13と下台板17との間において、バネ15よりもさらに水平方向外側、即ち、上台板13及び下台板17コーナー寄りに複数(本実施形態では、上台板13のコーナー部に4つ、下台板17のコーナー部に4つの合計8つ)設けられる緩衝材51を備えている点で、第一実施形態及び第三実施形態と異なっている。
【0050】
緩衝材51は、例えばゴム等の弾性部材であって、上台板13から台座50を介して下方に突出するように設けられる上側の緩衝材51と、下台板17から台座50を介して上方に突出するように設けられる下側の緩衝材51とを有している。そして、これら上側の緩衝材51と下側の緩衝材51とは対面している。
【0051】
このような核燃料貯蔵用ラック1Dにおいては、第一実施形態と同様に地震等による水平力を支持脚部18の滑動力と上台板13及びラック本体11の揺動力に変換することができるため、滑動力低減による滑動量の抑制を図ることが可能となる。この結果、核燃料貯蔵用ラック1Dが貯蔵ピット100の側壁に衝突し、損傷することを防止できる。
【0052】
さらに、バネ15が揺動力の吸収と揺動の復元とを行なうとともに、緩衝材51が揺動の際の衝撃吸収と揺動量の抑制とを行なう。従って、支持脚部18の滑動量を増加させないまま揺動量低減及び衝撃吸収を図ることが可能となり、より大きな水平力が作用したとしてもラック本体11に収容された核燃料Wを保護することができる。
【0053】
本実施形態の核燃料貯蔵用ラック1Dによれば、滑動量の抑制とともに、緩衝材51によって、揺動量の抑制及び揺動時の衝撃吸収が可能となる。従って、核燃料貯蔵用ラック1Dが貯蔵ピット100の側壁に衝突して損傷することを防止でき、また、収容された核燃料Wをさらに安定的に保持することができる。
【0054】
以上、本発明の実施形態についての詳細説明を行なったが、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内において、多少の設計変更も可能である。
例えば、バネ15はコイルバネに限定されず、板バネや空気バネ等、復元力のある他の部材を採用してもよい。
【0055】
さらに上記実施形態では、バネ15、ダンパ41及び緩衝材51の設置位置は上台板13及び下台板17のコーナー部としていたが、自在継手16Aの周囲であれば設置場所及び設置数量は上記実施形態の場合に限定されない。