特許第5836282号(P5836282)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5836282
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】眼内レンズの挿入器具
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/16 20060101AFI20151203BHJP
【FI】
   A61F2/16
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-549884(P2012-549884)
(86)(22)【出願日】2011年12月22日
(86)【国際出願番号】JP2011079902
(87)【国際公開番号】WO2012086797
(87)【国際公開日】20120628
【審査請求日】2014年12月16日
(31)【優先権主張番号】特願2010-286408(P2010-286408)
(32)【優先日】2010年12月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000163006
【氏名又は名称】興和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100123319
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 武彦
(74)【代理人】
【識別番号】100151596
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 俊明
(72)【発明者】
【氏名】名倉 雄二
【審査官】 石川 薫
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−544816(JP,A)
【文献】 特表2002−542884(JP,A)
【文献】 特表2002−514466(JP,A)
【文献】 特開2009−240728(JP,A)
【文献】 特開2003−070830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼内レンズを収容する筒形状または略筒形状を有する器具本体と、
前記器具本体内に軸方向後方から挿入されることで、前記眼内レンズを軸方向前方に移動させる押出部材と、を備え、
前記器具本体は、先端部に設けられ外径及び内径が減縮された挿入筒部と、該挿入筒部の先端で開口した先端開口部とを有し、
前記押出部材によって前記眼内レンズに前記挿入筒部を通過させることで小さく変形させた上で前記先端開口部より放出して眼内に挿入する眼内レンズの挿入器具であって、
前記器具本体は、
前記先端開口部から軸方向後側に延びるように前記挿入筒部に設けられたスリットと、
前記挿入筒部の先端から所定距離の部分に設けられ前記挿入筒部の眼内への挿入量を規制する段状の挿入規制部と、をさらに有し、
前記スリットの後端は、前記挿入規制部の段状の部分より軸方向後側に配置されることを特徴とする眼内レンズの挿入器具。
【請求項2】
前記先端開口部は、前記挿入筒部の中心軸に直交する面に対して傾斜した傾斜面を形成するように設けられ、
前記傾斜面は、前記先端開口部における前記眼内レンズの光軸方向前側が、光軸方向後側よりも前記挿入筒部の前側となるように傾斜していることを特徴とする請求項1に記載の眼内レンズの挿入器具。
【請求項3】
前記スリットは、前記挿入筒部の先端側から見て、前記先端開口部における最先端の部分の逆側に形成されていることを特徴とする請求項2に記載の眼内レンズの挿入器具。
【請求項4】
前記器具本体は、
前記押出部材によって前記眼内レンズを移動させ前記挿入筒部を通過させる際に、前記眼内レンズを、前記挿入筒部の先端側から見て、前記先端開口部における最先端の部分の側に凸になるように折りたたんで変形させる変形補助手段をさらに有することを特徴とする請求項3に記載の眼内レンズの挿入器具。
【請求項5】
前記器具本体は、前記挿入筒部の後方に設けられ前記器具本体の内径が先端側に行くほど略テ―パ状に縮径する縮径部を有し、
前記変形補助手段は、前記テ―パの傾斜角が、縮径部における後側より先端側の方が急峻である多段テ―パ構造であることを特徴とする請求項4に記載の眼内レンズの挿入器具。
【請求項6】
前記器具本体は、前記挿入筒部の後方に設けられ前記器具本体の内径が先端側に行くほど略テ―パ状に縮径する縮径部を有し、
前記変形補助手段は、前記縮径部において前記器具本体の内壁に設けられ、前記眼内レンズの周辺部を眼内レンズの光軸方向前側からから支持する周辺部支持ガイドであることを特徴とする請求項4に記載の眼内レンズの挿入器具。
【請求項7】
前記挿入規制部は、前記挿入筒部の後側であって、前記縮径部の先端側に設けられ、前記挿入筒部より大きい外径を有する筒状の大径部であり、
前記スリットの後端は、前記大径部の側面に配置され、前記大径部における、前記スリットの後端の周囲には、前記挿入筒部の側面を延長した面である小径部が形成されたことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の眼内レンズの挿入器具。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の眼内レンズの挿入器具に、眼内レンズを収容させた眼内レンズのプリセット型挿入システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼内レンズを患者の眼球内に挿入するための眼内レンズの挿入器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、白内障等の手術においては、眼球における角膜(鞏膜)や水晶体前嚢部分などの眼組織に切開創を設け、この切開創を介して、嚢内の水晶体を摘出、除去し、その後に、水晶体に代替する眼内レンズを、前記切開創より眼内に挿入して嚢内に配置させる処置が行われている。
【0003】
特に近年においては、眼内レンズを切開創より眼球内に挿入する際に、以下に示すような挿入器具が用いられる場合が多い。すなわち、器具本体の先端部に設けられた挿入筒部の先端開口部を、切開創を通じて眼球内に挿し入れると共に、眼内レンズを器具本体内で小さく変形せしめた状態で挿入筒部の先端開口部から棒状のプランジャによって押し出すことにより、眼内レンズを眼球内に挿入する。このような挿入器具を用いることにより、水晶体の摘出除去のために形成した切開創を利用して眼内レンズを簡単に眼球内に挿入できるので、手術を簡略化することができ、手術後の乱視の発生や感染症の発生を抑制することができる。
【0004】
なお、眼内レンズの挿入器具としては、挿入筒部の先端部における先端開口端面を挿入筒部の中心軸に直交する面に対して傾斜した傾斜面とすると共に、先端開口端面の挿入筒部の中心軸に直交する面に対する傾斜角度を先端部側よりも基端部側において大きく形成し、更に、先端開口端面の周縁部を、外周面テーパ形状による尖鋭エッジ形状としたものが公知である(例えば、特許文献1を参照)。これにより、眼内レンズの飛び出しを抑えて挿入筒部の先端縁部まで安定した押し出しを行なうことができるとともに、挿入筒部を切開創へ円滑に挿入することが可能となる。
【0005】
ところで、上記の眼内レンズの挿入作業においては、手術時の患者の負担を低減するために、切開創の大きさをより小径化することが求められており、挿入器具における挿入筒部の先端については、より小さくすることが求められている。その要求に対し、挿入筒部にスリットを設けておく提案がなされている。これによれば、眼内レンズを切開創に挿入する際には、当該スリットにより、挿入筒部の外径が一旦小さくなるとともに、眼内レンズが挿入筒部を通過する際には、眼内レンズの復元力により挿入筒部の径が大きくなることで、眼内レンズへの負担を軽減することができる。(例えば、特許文献2から6参照。)
【0006】
しかしながら、挿入筒部にスリットを設けた場合、切開創に挿入筒部を挿入した後に、眼内レンズが挿入筒部を通過する際に眼内レンズの復元力によってスリットが破断し、挿入筒部に予期せぬ変形が生じる場合があった。そうすると、挿入筒部を切開創から円滑に引き抜くことが困難になる場合があった。また、切開創への挿入筒部の挿入時においても、スリットの基端部が変形してしまい、変形した基端部が切開創を通過する際に眼球を損傷させてしまうおそれがあった。
【0007】
上記の不都合への対応としては、スリットの基端部が切開創を通過することを防止するために、スリットの長さを長くすることが考えられるが、この場合には、必然的に挿入筒部自体の長さが長くなり、その結果、必要量以上に挿入筒部を眼球内に挿入してしまうなどの不都合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−160153号公報
【特許文献2】特開2009−240728号公報
【特許文献3】国際公開第WO2005/070341号パンフレット
【特許文献4】特開昭63−197453号公報
【特許文献5】特許第3861138号公報
【特許文献6】欧州特許出願公開第0519282号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の従来技術の問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的は、眼内レンズの挿入作業に必要な切開創の大きさをより小さくすることが可能であるとともに、眼内レンズの挿入器具の挿入筒部の挿入作業及び引き抜き作業をより円滑にしまたは安定化させることができる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明においては、器具本体の挿入筒部に先端開口部から軸方向後側に延びるスリットを設けるとともに、挿入筒部の先端から所定距離の部分に挿入筒部の眼内への挿入量を規制する段状の挿入規制部を設け、スリットの後端が挿入規制部の段状の部分より軸方向後側に配置されることを最大の特徴とする。
【0011】
より詳しくは、眼内レンズを収容する筒形状(筒形状または、実質的に筒形状である略筒形状であればよい)を有する器具本体と、
前記器具本体内に軸方向後方から挿入されることで、前記眼内レンズを軸方向前方に移動させる押出部材と、を備え、
前記器具本体は、先端部に設けられ外径及び内径が減縮された挿入筒部と、該挿入筒部の先端で開口した先端開口部とを有し、
前記押出部材によって前記眼内レンズに前記挿入筒部を通過させることで小さく変形させた上で前記先端開口部より放出して眼内に挿入する眼内レンズの挿入器具であって、
前記器具本体は、
前記先端開口部から軸方向後側に延びるように前記挿入筒部に設けられたスリットと、
前記挿入筒部の先端から所定距離の部分に設けられ前記挿入筒部の眼内への挿入量を規制する段状の挿入規制部と、をさらに有し、
前記スリットの後端は、前記挿入規制部の段状の部分より軸方向後側に配置されることを特徴とする。
【0012】
これによれば、まず、挿入規制部の先端側、すなわち挿入筒部において眼球に挿入される部分の全域にスリットが形成されるので、挿入筒部の径を高い自由度で変化させることができる。従って、より小さい切開創から挿入筒部を眼球内に挿入することができる。また、眼内レンズが挿入筒部を通過する際には、眼内レンズの復元力により挿入筒部の径が適宜拡大するので、復元力によって眼内レンズが先端開口部から不用意に飛び出すことも抑制することができる。さらに、スリットの長さが長いことから、眼内レンズの挿入時に眼内レンズの復元力が局所的に作用することを抑制でき、スリット自体の損傷を抑制することができる。
【0013】
また、これによれば、スリットの後端である基端部は、挿入規制部の段状の部分より後側に配置しているので、切開創から眼球の中に侵入することはない。従って、スリットの後端が変形などしたとしても、眼球を傷つけたり、挿入筒部の挿入と引き抜き動作を阻害したりすることを抑制できる。なお、上記において所定距離とは、眼内レンズの挿入作業時に切開創から眼球内に挿入されるべき長さまたは、その上限値を示している。
【0014】
また、本発明においては、前記先端開口部は、前記挿入筒部の中心軸に直交する面に対して傾斜した傾斜面を形成するように設けられ、
前記傾斜面は、前記先端開口部における前記眼内レンズの光軸方向前側が、光軸方向後側よりも前記挿入筒部の前側となるように傾斜させてもよい。また、本発明においては、前記スリットは、前記挿入筒部の先端側から見て、前記先端開口部における最先端の部分の逆側に形成されるようにしてもよい。
【0015】
ここで、通常は、眼内レンズを押出部材で移動させて挿入筒部を通過させた場合には、光軸方向前側に凸になるように折りたたまれて変形する。本発明においては、スリットは、挿入筒部の先端側から見て、先端開口部における最先端の部分の逆側に形成されるので、眼内レンズの中央部がスリットに接触しづらくなる。従って、眼内レンズの中央部がスリットで傷ついたり、スリットから眼内レンズがはみ出たりすることを抑制できる。
【0016】
また、本発明においては、前記器具本体は、
前記押出部材によって前記眼内レンズを移動させ前記挿入筒部を通過させる際に、前記眼内レンズを、前記挿入筒部の先端側から見て、前記先端開口部における最先端の部分の側に凸になるように折りたたんで変形させる変形補助手段をさらに有するようにしてもよい。
【0017】
すなわち、眼内レンズを単に押出部材で移動させて挿入筒部を通過させる方法では、状況により、眼内レンズが光軸方向後側に凸になるように折りたたまれて変形する場合がある。その場合、先端開口部から正常に眼内レンズを押し出すことが困難になるばかりか、スリットによって眼内レンズを傷つけてしまう場合がある。これに対し、本発明においては、変形補助手段が、挿入筒部の先端側から見て、先端開口部における最先端の部分の側、すなわち、光軸前側に凸になるように、眼内レンズを折りたたんで変形させる。
【0018】
従って、より確実に、眼内レンズを、光軸前側に凸になるように折りたたんで変形させることが可能となり、より確実に、眼内レンズの中心がスリットで傷ついたり、スリットから眼内レンズがはみ出たりすることを抑制できる。
【0019】
また、本発明においては、前記器具本体は、前記挿入筒部の後方に設けられ前記器具本体の内径が先端側に行くほど略テ―パ状に縮径する縮径部を有し、
前記変形補助手段は、前記テ―パの傾斜角が、縮径部における後側より先端側の方が急峻である多段テ―パ構造であるようにしてもよい。
【0020】
ここで、発明者の鋭意研究により、眼内レンズに挿入筒部を通過させる際に、器具本体の内径が先端側に行くほどテ―パ状に縮径するようにし、さらに、当該テ―パの傾斜角が、縮径部における後側より先端側の方が急峻である場合に、より確実に、眼内レンズを、光軸前側に凸になるように折りたたんで変形させることが可能となることが明らかになった。従って、本発明においては、器具本体は、挿入筒部の後方に設けられ器具本体の内径が先端側に行くほど略テ―パ状に縮径する縮径部を有し、変形補助手段は、テ―パの傾斜角が、縮径部における後側より先端側の方が急峻である多段テ―パ構造であるようにした。
【0021】
これにより、より確実に、眼内レンズを、光軸前側に凸になるように折りたたんで変形させることが可能となり、より確実に、眼内レンズの中心がスリットで傷ついたり、スリットから眼内レンズがはみ出たりすることを抑制できる。
【0022】
また、本発明においては、前記器具本体は、前記挿入筒部の後方に設けられ前記器具本体の内径が先端側に行くほど略テ―パ状に縮径する縮径部を有し、
前記変形補助手段は、前記縮径部において前記器具本体の内壁に設けられ、前記眼内レンズの周辺部を眼内レンズの光軸方向前側から支持する周辺部支持ガイドであるようにしてもよい。
【0023】
ここでも、発明者の鋭意研究により、眼内レンズに挿入筒部を通過させる際に、器具本体の内径が先端側に行くほどテ―パ状に縮径するようにし、さらに、その際に、眼内レンズの周辺部を光軸方向前側(先端開口部における最先端の部分の側)から支持することで、より確実に、眼内レンズを、光軸方向前側に凸になるように折りたたんで変形させることが可能となることが明らかになった。そこで、本発明では、器具本体は、挿入筒部の後方に設けられ器具本体の内径が先端側に行くほど略テ―パ状に縮径する縮径部を有し、変形補助手段は、縮径部において器具本体の内壁に設けられ、眼内レンズの周辺部を眼内レンズの光軸方向前側から支持する周辺部支持ガイドであるようにした。
【0024】
これによっても、より確実に、眼内レンズを、光軸方向前側に凸になるように折りたたんで変形させることが可能となり、より確実に、眼内レンズの中心がスリットで傷ついたり、スリットから眼内レンズがはみ出たりすることを抑制できる。
【0025】
また、本発明においては、前記挿入規制部は、前記挿入筒部の後側であって、前記縮径部の先端側に設けられ、前記挿入筒部より大きい外径を有する筒状の大径部であり、
前記スリットの後端は、前記大径部の側面に配置され、前記大径部における、前記スリットの後端の周囲には、前記挿入筒部の側面を延長した面である小径部が形成されるようにしてもよい。
【0026】
これによれば、挿入規制部においては、挿入筒部の略全周に亘って外径が増大する段部が形成されることとなり、より確実に、器具本体が眼球に挿入され過ぎることを抑制することが可能である。また、スリットの後端は、大径部の側面に配置され、大径部の側面においてスリットの後端の周囲には、挿入筒部の側面を延長した(すなわち、挿入筒部と同径の)小径部が形成されているので、スリットの後端における変形自由度を確保することができる。
【0027】
これにより、挿入筒部をより高い自由度で円滑に変形させることができるので、必要な切開創の長さまたは径をより小さくすることができ、挿入筒部の挿入及び引き抜き作業をより円滑に行うことが可能になる。
【0028】
また、本発明は、上記のいずれかの眼内レンズの挿入器具に、眼内レンズを予め収容させた状態で流通する眼内レンズのプリセット型挿入システムとしても構わない。
【0029】
なお、上記した本発明の課題を解決する手段については、可能なかぎり組み合わせて用いることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、眼内レンズの挿入作業に必要な切開創の大きさをより小さくすることができるとともに、眼内レンズの挿入器具の挿入作業及び引き抜き作業をより円滑にしまたは安定化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の実施例における眼内レンズの挿入器具の概略構成を示す図である。
図2】本発明の実施例における眼内レンズの概略構成を示す図である。
図3】本発明の実施例におけるノズル本体の概略構成を示す図である。
図4】本発明の実施例における位置決め部材の概略構成を示す図である。
図5】本発明の実施例におけるプランジャの概略構成を示す図である。
図6】従来のノズル部付近を上下方向下側から見た図である。
図7】ノズル部のスリットの作用について説明するための図である。
図8】本発明の実施例1におけるノズル部付近を上下方向下側から見た図である。
図9】本発明の実施例1におけるノズル部付近の3箇所における後方向から見た断面図である。
図10】本発明の実施例2におけるノズル部付近を上下方向下側から見た図である。
図11】本発明の実施例3におけるノズル部付近を上下方向下側から見た図及び、スリットの作用を示す図である。
図12】本発明の実施例3におけるノズル部付近を上下方向下側から見た図の第2の態様である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0033】
<実施例1>
図1には、本実施例における眼内レンズの挿入器具1(以下、単に、挿入器具1ともいう。)の概略構成を示す。図1(a)は平面図、図1(b)は側面図を示している。挿入器具1は、断面略矩形の筒状に形成された器具本体としてのノズル本体10を備えている。ノズル本体10の片側は大きく開口し(以下、大きく開口した側を後端部10bという。)、別側の端部には径が細く絞られた挿入筒部としてのノズル部15が設けられており、ノズル部15の端部には斜めに開口した先端部10aが設けられている。また、挿入器具1は、ノズル本体10に挿入され往復運動可能な押出部材としてのプランジャ30を備えている。なお、以下において、ノズル本体10の先端部10aから後端部10bへ向かう方向を前後方向、図1(a)において紙面に垂直方向を上下方向、前後方向及び上下方向に垂直な方向を左右方向とする。
【0034】
ノズル本体10の後端部10b付近には、板状に迫り出し、使用者がプランジャ30をノズル本体10の先端側に押し込む際に指を掛けるホールド部11が一体的に設けられている。また、ノズル本体10におけるノズル部15の後端側には、眼内レンズ2をセットするステージ部12が設けられている。このステージ部12は、ステージ蓋部13を開蓋することでノズル本体10の上側(図1(a)における紙面垂直手前側)が開放されるようになっている。また、ステージ部12には、ノズル本体10の下側(図1(a)における紙面垂直奥側)から位置決め部材50が取り付けられている。この位置決め部材50によって、使用前(輸送中)において、ステージ部12内で眼内レンズ2が安定して保持されている。
【0035】
すなわち、挿入器具1においては、製造時に、ステージ蓋部13が開蓋し位置決め部材50がステージ部12に取り付けられた状態で、眼内レンズ2がステージ部12にセットされる。そして、ステージ蓋部13を閉蓋した後に、出荷、販売され、使用者はステージ蓋部13を閉蓋したままで位置決め部材50を取り外す。そして、ステージ蓋部13に設けられた不図示の注入口より粘弾性物質を注入し、その後プランジャ30をノズル本体10の先端側に押し込むことで、プランジャ30で眼内レンズ2を押圧し、先端部10aより眼内レンズ2を押し出す。なお、挿入器具1におけるノズル本体10、プランジャ30、位置決め部材50の素材はポリプロピレンなどの樹脂で形成される。ポリプロピレンは医療用機器において実績があり、耐薬品性などの信頼性も高い素材である。
【0036】
図2は、眼内レンズ2の概略構成を示した図である。図2(a)は平面図で、より具体的には光軸前側から見た図である。図2(b)は側面図で、より具体的には光軸と垂直方向から見た図である。眼内レンズ2は、所定の屈折力を有するレンズ本体2aと、レンズ本体2aに設けられ、レンズ本体2aを眼球内で保持するためのヒゲ状の2本の支持部2b、2bとから形成されている。レンズ本体2aは可撓性の樹脂材料から形成されている。
【0037】
図3にはノズル本体10の平面図を示す。前述のようにノズル本体10においては、眼内レンズ2はステージ部12にセットされる。そして、その状態でプランジャ30によって押圧されて先端部10aから眼内レンズ2が押し出される。なお、ノズル本体10にはノズル本体10の外形の変化に応じて断面形状が変化する貫通孔10cが設けられている。そして、眼内レンズ2が押し出される際は、眼内レンズ2は、ノズル本体10内の貫通孔10cの断面形状の変化に応じて変形し、患者の眼球に形成された切開創に入り易い形に変形した上で押し出されることになる。
【0038】
ステージ部12には、眼内レンズ2のレンズ本体2aの径より僅かに大きな幅を有するステージ溝12aが形成されている。ステージ溝12aの前後方向の寸法は、眼内レンズ2の両側に延びる支持部2b、2bを含む最大幅寸法よりも大きく設定されている。また、ステージ溝12aの底面によってセット面12bが形成されている。セット面12bの上下方向位置(図3の紙面に垂直方向の位置)は、ノズル本体10におけるステージ部12より後側の貫通孔10cの底面の高さ位置よりも上方(図3の紙面に垂直方向手前側)に設定されており、セット面12bと貫通孔10cの底面とは底部斜面10dによって連結されている。
【0039】
ステージ部12とステージ蓋部13とは一体に形成されている。ステージ蓋部13はステージ部12と同等の前後方向寸法を有している。ステージ蓋部13は、ステージ部12の側面がステージ蓋部13側に延出して形成された薄板状の連結部14によって連結されている。連結部14は中央部で屈曲可能に形成されており、ステージ蓋部13は、連結部14を屈曲させることでステージ部12に上側から重なり閉蓋することが可能となっている。
【0040】
ステージ蓋部13において、閉蓋時にセット面12bと対向する面には、ステージ蓋部13を補強し、眼内レンズ2の位置を安定させるためにリブ13a及び13bが設けられている。また、プランジャ30のガイドとして案内突起13cが設けられている。
【0041】
ステージ部12のセット面12bの下側には、位置決め部材50が取外し可能に設けられている。図4に、位置決め部材50の概略構成を示す。図4(a)は平面図を示し、図4(b)は側面図を示している。図4において左右方向が本実施例の前後方向、図4(a)における上下方向が本実施例の左右方向、図4(b)における上下方向は本実施例の上下方向に相当する。位置決め部材50はノズル本体10と別体として構成されており、一対の側壁部51、51が連結部52で連結された構造になっている。それぞれの側壁部51の下端には、外側に向けて延出して広がる保持部53、53が形成されている。
【0042】
そして、それぞれの側壁部51、51の上端部には、上方から見た形状が円弧形状であり上側に突出した一対の第一載置部54、54が形成されている。さらに、第一載置部54の上端面における外周側には、第一位置決め部55、55が突出して形成されている。第一位置決め部55の内径どうしの距離は、眼内レンズ2のレンズ本体2aの径寸法よりも僅かに大きく設定されている。
【0043】
また、連結部52の前後方向の両端には、上方から見た形状が矩形状であり上側に突出した一対の第二載置部56、56が形成されている。第二載置部56の上面の高さは、第一載置部54の上端面の高さと同等になっている。更に、第二載置部56、56の上面において外側の部分には、第二載置部56、56の左右方向の全体に亘って上側にさらに突出する第二位置決め部57、57が形成されている。第二位置決め部57内側どうしの離隔は、眼内レンズ2のレンズ本体2aの径寸法よりも僅かに大きく設定されている。加えて、図4(b)に示すように、第二載置部56の上端部には左右方向の全体に亘り、前後方向に僅かに突出した係止爪58、58が形成されている。
【0044】
本実施例では、上記の位置決め部材50が、ノズル本体10のセット面12bの下側から組み付けられる。ノズル本体10のセット面12bには、厚さ方向にセット面12bを貫通するセット面貫通孔12cが4箇所形成されている。セット面貫通孔12cの外形は、位置決め部材50の第一載置部54および第二載置部56を上側から見た形状に対し僅かに大きな略相似形状とされている。そして、位置決め部材50がノズル本体10に取り付けられる際には、第一載置部54、54および第二載置部56、56が、セット面12bの下側からセット面貫通孔12cに挿入され、セット面12bの上側に突出する。
【0045】
その際、第二載置部56、56に設けられた係止爪58、58がセット面貫通孔12cを介してセット面12bに突出し、セット面12bの上面に係止される。このことによって、位置決め部材50がノズル本体10の下側から組み付けられ、第一載置部54、54および第二載置部56、56がセット面12bから突出した状態で固定される。そして、眼内レンズ2がセット面12bにセットされる際には、レンズ本体2aの外周部底面が、第一載置部54、54および第二載置部56、56の上面に載置される。また、レンズ本体2aは第一位置決め部55、55及び第二位置決め部57、57によって前後左右方向に対して位置規制される。
【0046】
図5にはプランジャ30の概略構成を示す。図5(a)は平面図、図5(b)は側面図である。プランジャ30は、ノズル本体10よりもやや大きな前後方向長さを有している。そして、円柱形状を基本とした先端側の作用部31と、矩形ロッド形状を基本とした後端側の挿通部32とから形成されている。そして、作用部31は、円柱状に形成された円柱部31aと、円柱部31aの左右方向に広がる薄板状の扁平部31bとを含んで構成されている。
【0047】
作用部31の先端部分には、切欠部31cが形成されている。この切欠部31cは、図5(a)から分かるように、作用部31の上方向に開口し左右方向に貫通する溝状に形成されている。また、図5(b)から分かるように、切欠部31cの先端側の端面は作用部31の先端側に行くに連れて上方に向かう傾斜面で形成されている。
【0048】
一方、挿通部32は、全体的に概略H字状の断面を有しており、その左右方向および上下方向の寸法は、ノズル本体10の貫通孔10cよりも僅かに小さく設定されている。また、挿通部32の後端には、上下左右方向に広がる円板状の押圧板部33が形成されている。
【0049】
挿通部32の前後方向の中央より先端側の部分には、挿通部32の上側に向けて突出し、プランジャ30の素材の弾性により上下に移動可能な爪部32aが形成されている。そして、プランジャ30がノズル本体10に挿入された際には、ノズル本体10の上面において厚さ方向に設けられた係止孔10eと爪部32aとが係合し、このことにより初期状態におけるノズル本体10とプランジャ30との相対位置が決定される。なお、爪部32aと係止孔10eの形成位置は、係合状態において、作用部31の先端が、ステージ部12にセットされた眼内レンズ2のレンズ本体2aの後方に位置し、レンズ本体2aの後方の支持部2bを切欠部31cが下方から支持することが可能な場所となるよう設定されている。
【0050】
上記のように構成された挿入器具1の使用前においては、プランジャ30がノズル本体10に挿入されて初期位置に配置される。また、位置決め部材50が、前述のように、セット面12bの下方からステージ部12に取り付けられる。これにより、位置決め部材50の第一載置部54および第二載置部56がセット面12bに突出した状態に保持される。
【0051】
また、眼内レンズ2のレンズ本体2aが支持部2b、2bをノズル本体10の前後方向に向けた状態で第一載置部54および第二載置部56の上端面に載置され位置決めされる。この状態において、眼内レンズ2は、レンズ本体2aの外周部分が第一載置部54および第二載置部56に接触しているので、中央部分は非負荷状態で支持されている。また、この状態において、眼内レンズ2の支持部2bは、プランジャ30の切欠部31cの底面によって支持されている。
【0052】
また、この状態においては、第二載置部56によって、プランジャ30の前進を阻止するストッパが構成されており、プランジャ30は、位置決め部材50がノズル本体10から取り外されない限り前進が不可能な状態となっている。
【0053】
挿入器具1を用いて眼内レンズ2を患者の眼球内に挿入する場合には、先ず、位置決め部材50をノズル本体10から取り外す。これにより、眼内レンズ2のレンズ本体2aを支持していた第一載置部54および第二載置部56がセット面12bから後退し、眼内レンズ2がセット面12b上に載置される。セット面12bは平坦面とされていることから、眼内レンズ2を安定して載置せしめることが出来ると共に、ステージ溝12aの幅寸法が眼内レンズ2のレンズ本体2aの径寸法より僅かに大きい程度とされていることから、セット面12b上での眼内レンズ2の周方向の回転も抑制されるようになっている。
【0054】
続いて、眼組織に設けた切開創にノズル本体10の先端部10a側からノズル部15を挿入する。そして、その状態で、プランジャ30の押圧板部33をノズル本体10の先端側に押し込む。これにより、セット面12aにセットされた眼内レンズ2のレンズ本体2a外周にプランジャ30の作用部31の先端が当接し、プランジャ30によって眼内レンズ2が先端部10aに向けて案内される。
【0055】
次に、従来のノズル本体10のノズル部15付近の構成について図6を用いて詳しく説明する。図6(b)に、従来のノズル本体10におけるノズル部15付近を上下方向下側から見た図を示す。また、図6(a)は、ノズル部15を先端側から見た図である。ノズル本体10の外形は、全体としてステージ部12側からノズル部15側に行くに連れて次第に先細となる形状を有している。貫通孔10cには、断面積が次第に小さくされた縮径部としてのテ―パ部10fが形成されている。テ―パ部10fは、ノズル部15側に行くに連れて底面および上面の幅寸法が小さくされることによって断面積が小さくなるように構成されている。ここにおいて、テ―パ部10fの後端部分における底面は、先端側に行くに従って上方に上がるよう傾斜した傾斜面10gが形成されており、この傾斜面10gによって段差が設けられている。
【0056】
貫通孔10cの底面におけるテ―パ部10f近傍には、底面の左右方向中央を挟んでノズル本体10の前後方向に延びる一対の導入突部10hが形成されている。導入突部10hは、軸方向の傾斜面10gの前後方向に亘って設けられており、テ―パ部10fの後端側の底面から僅かに上方に突出して互いに平行に延びる線状に形成されている。ここにおいて、傾斜面10g上に形成された導入突部10hの前端部分は、傾斜面10gが先端側に行くに連れて次第に高くなることによって、傾斜面10gの前端部において等しい高さとなるように形成されている。また、導入突部10hどうしの離隔距離は、プランジャ30の作用部31の幅寸法よりも僅かに大きい寸法とされている。
【0057】
そして、貫通孔10cにおけるテ―パ部10fの先端側には、ノズル部15が形成されているが、ノズル部15においては、貫通孔10cは略一定の断面積をもってストレートに延びるように形成されている。先端部10aにおいて貫通孔10cは開口され、先端開口部10jが形成されている。先端開口部10jは、ノズル本体10におけるノズル部15を下側(図6において紙面手前方向)に行くほど後側に行くよう斜めに切断することで形成されている。すなわち、先端部10aにおいて上端の先端上側部100が下端の先端下側部101よりも前方に延び出された形となっている。
【0058】
また、ノズル部15には、先端開口部10jの先端下端部101から後側に延びるスリット10mが形成されている。本実施例におけるスリット10mは、先端開口部10jから略同一の幅で後側に延びるように形成されている。
【0059】
図7には、スリット10mの作用について示す。まず、眼内レンズの挿入作業前の状態は、図7(a)に示すように、ノズル部15には特に負荷が作用しておらず、ノズル部15は前述のようにストレートに延びた略円柱状の形状を有している。次に、図7(b)には、ノズル部15を眼球3に形成された切開創3aに挿入した状態を示す。ここで、切開創3aの径は、ノズル部15の径より、若干小さめに設定されている。この状態では、ノズル部15を切開創3aに挿入した際に、ノズル部15に切開創3aを小さくする方向への負荷が眼球3によって作用する。従って、スリット10mの特に先端側の幅が狭くなるように、ノズル部15が変形する。このような作用のため、より小さい切開創3aにノズル部15を挿入することが可能となる。
【0060】
次に、図7(c)には、眼内レンズ2をノズル部15を通過させて眼球3内に挿入する際の状態を示す。図7(c)に示すように、眼内レンズ2がノズル部15を通過する際には、貫通孔10cのテ―パ部10fによって小さく変形した眼内レンズ2の復元力によって、ノズル部15の形状は、切開創3aからの負荷に抗して変形前の方向に戻る。
【0061】
このように、ノズル部15にスリット10mを形成することで、より小さい切開創を用いて眼内レンズ2の挿入作業が可能となり、また、眼内レンズ2がノズル部15を通過する際には、ノズル部15が広がる方向に変形するために、眼内レンズ2が自らの復元力で先端開口部10jから飛び出すことを抑制でき、眼内レンズ2の挿入作業をより円滑に行うことができる。
【0062】
しかしながら、ノズル部15に上記のようなスリット10mを形成した場合、挿入動作時に、変形した眼内レンズ2の復元力によりスリット10m自体が破断し、ノズル部15に予期せぬ変形を生じさせて、眼内レンズ2の挿入作業の終了後、ノズル部15を眼球3から円滑に引き抜くことが困難となる場合があった。また、ノズル部15の切開創3aへの挿入時においては、図7(b)からも分かるように、スリット10mの後端としての基端部10nが変形し、ノズル部15を、スリット10mの基端部10nまで眼球3内に挿入すると、変形した基端部10nによって眼球を傷つけるおそれがあった。さらに、このような不都合を抑制するためにスリット10mの長さを長くした場合には、必然的にノズル部15の長さが長くなり、その結果、必要量以上に、眼球3にノズル部15を挿入してしまう不都合があった。
【0063】
これに対し、図8には本実施例に係るノズル部15付近の図を示す。図8からも判るように、本実施例では、スリット10mを、ノズル部15における先端から、眼球3内に挿入させる最大長さに相当する部分(以下、挿入限界点ともいう。)10pより後方まで形成するとともに、ノズル部15における挿入限界点10pより後側の部分の外形を大きくすることで挿入禁止部10qを形成した。
【0064】
これによれば、まず、ノズル部15を眼球3内に過剰に挿入してしまうことを、より確実に抑制できる。また、切開創3aへのノズル部15の挿入時や、眼内レンズ2の通過時におけるノズル部15の変形により、スリット10mの基端部10nが変形したとしても、この変形によってノズル部15の切開創3aからの抜き取りに支障が生じたり、眼球3を傷つけたりする不都合を抑制できる。この挿入禁止部10qは、本実施例において挿入規制部及び大径部に相当する。
【0065】
なお、本実施例における挿入禁止部10qは、先端側にテ―パ状の段部10lを有している。これにより、ノズル部15を切開創3aに挿入した際に、挿入禁止部10qが眼球3に強く干渉し、眼球3を傷つけてしまうことを抑制できる。なお、挿入禁止部10qの径は、切開創3aの長さ(または径)より大きくすることが望ましい。これにより、より確実に、ノズル部15を眼球3内に過剰に挿入してしまうことを抑制できる。また、段部10lのテ―パ角度は例えば45度以上の急峻な角度とすることが望ましい。これにより、より確実に、ノズル部15が切開創3a内に過剰に挿入されてしまうことを抑制できる。
【0066】
また、本実施例における貫通孔10cには、図8に示すように、ステージ部12側からノズル部15側に行くに連れて底面および上面の幅寸法が緩やかに小さくされる第一テ―パ部10rと、ステージ部12側からノズル部15側に行くに連れて、底面および上面の幅寸法が第一テ―パ部10rよりも急峻に小さくされる第二テ―パ部10sとが設けられている。このように、テ―パ部を2段階にし、まず緩やかなテ―パ部に、その後急峻なテ―パ部に眼内レンズ2を通過させることで、眼内レンズ2のレンズ本体2aを、始めは緩やかに、その後に急峻に変形させることができる。これによって、より確実に、眼内レンズ2を図8(a)に示す方向、すなわちスリット10mと反対側に眼内レンズ本体2aが凸となる方向に折りたたんで変形させることができる。また眼内レンズ2の前側の支持部2bが第二テーパ部10sの作用により、確実に後方向へ曲げられる。よって眼内レンズ2の変形がレンズ本体2a、支持部2bとも、より確実に行なわれるので、眼内レンズ2をノズル部15から放出する際の操作が安定し、容易に眼球3内に眼内レンズ2を挿入することができる。
【0067】
そうすれば、眼内レンズ2が変形した際にその外周部をスリット10m側に配置することが可能となり、スリット10mにより眼内レンズ2に傷がついたり、眼内レンズ2がスリット10mからはみ出るなどの不都合を抑制することができる。この第一テ―パ部10rと第二テ―パ部10sは、本実施例において多段テ―パ構造及び、変形補助手段に相当する。
【0068】
図9には、本実施例におけるシリンジ10の断面図を示す。図9(a)は、図8におけるA−A断面を、図9(b)は、図8におけるB−B断面を、図9(c)は、図9におけるC−C断面を示す。また、各断面図には当該断面を通過する際の眼内レンズ2のレンズ本体2aの形状を併せて示している。図9(a)を見て分かるように、本実施例において少なくとも第一テ―パ部10rに相当する貫通孔10cには、レンズ本体2aの左右の外周部分に上側から接触するガイド10t、10tが形成されている。
【0069】
少なくとも眼内レンズ2が第一テ―パ部10rを通過する際に、ガイド10t、10tが、レンズ本体2aの左右の外周部分が上側に変位しないようにガイドすることで、眼内レンズ2が、図9における下側に凸になるように変形することを抑制できる。すなわち、レンズ本体2aをさらに確実に、図9(b)及び図9(c)に示すように、図9における上側に凸になるように変形させることができる。このガイド10t、10tは、本実施例において周辺部支持ガイド及び、変形補助手段に相当する。
【0070】
なお、本実施例において貫通孔10cを縮径する際に、第一テ―パ部10rと第二テ―パ部10sの2段階のテ―パ構造を採用したが、このテ―パ構造については2段階に限定されるものではない。3段階以上のテ―パ部を用いてもよいし、滑らかに曲線状にテ―パ角度を変化させるような構造としてもよい。
【0071】
また、本実施例における挿入禁止部10qは、ノズル部15よりも大径の筒状形状としたが、挿入禁止部10qの形状はこれに限られない。ノズル部15が、挿入限界点を越えて切開創3aに挿入されることを抑制できる形状であれば他の形状でも構わない。例えば、ノズル部15の外周の一部が外周側に突出したストッパ形状としてもよい。また、段部101の形状も、テーパ形状である必要はなく、縦断面が円弧状の曲面としてもよいし、他の曲面形状を採用しても構わない。縦断面が矩形状の段部を採用しても構わない。
【0072】
<実施例2>
次に、本発明における実施例2について説明する。本実施例では、ノズル部のスリットの基端部が、ノズル部より径の大きい挿入禁止部の側面に位置するが、スリットの基端部の周囲には、ノズル部と同等の厚みの領域を設けた例について説明する。
【0073】
図10には、本実施例に係るノズル部15付近を上下方向下側から見た図を示す。本実施例におけるスリット20mは、実施例1におけるスリット10mよりも幅狭となっている。また、挿入禁止部10qにおける、スリット20mの基端部20nの周囲には、ノズル部15と同じ径を有する小径部としてのノズル延長部20tが形成されている。その他の構成は、実施例1と略同じである。
【0074】
この構成によれば、スリット20mの基端部20nにおける変形の自由度を比較的高く維持することができる。そのために、ノズル部15をより高い自由度で円滑に変形させることが可能となる。また、ノズル延長部20tの周囲には、実施例1と同じく挿入禁止部10qが設けられているため、ノズル部15が眼球内に過剰に深く挿入されることを防止できる。なお、本実施例におけるスリット20mは、実施例1におけるスリット10mより幅狭としたが、スリットの幅自体は、実施例1と同等以上であっても構わない。
【0075】
<実施例3>
次に、本発明における実施例3について説明する。本実施例では、ノズル部のスリットの形状が、先端側に行くほど幅が広くなるV字状である場合の例について説明する。
【0076】
図11には、本実施例に係るノズル部15付近を上下方向下側から見た図を示す。本実施例におけるスリット30mは、基端部30nにおいて幅が最も狭くなっており、先端開口部10jに向かうに従って、幅が広くなるV字状の形状を有している。挿入禁止部10qにおける、スリット30mの基端部30nの周囲には、ノズル部15と同じ径を有するノズル延長部30tが形成されている。
【0077】
この構成によれば、スリット30mの基端部30nにおける変形の自由度が比較的高くなるとともに、ノズル部15の先端側にいくに従って、ノズル部15の変形可能量が大きくなる。そうすると、図11(b)に示すように、眼球3の切開創3aにノズル部15を挿入する際に、ノズル部15の先端側を変形によって、より細くすることができ、より短いまたは小径の切開創3aで眼内レンズの挿入作業を行うことが可能となる。また、眼内レンズの挿入時にノズル部15を切開創3aに徐々に押し込んでいくと、ノズル部15も徐々に変形して細くなっていくため、短いまたは小径の切開創3aに無理なく対応できる。
【0078】
図12には、本実施例における第2の態様について示す。図12に示す態様においては、スリット40mは、先端開口部40jの略最大幅の部分から連続してV字状に形成されている。このような構成によっても、ノズル部15の先端側を変形によって、より細くすることができ、より短いまたは小径の切開創3aで眼内レンズの挿入作業を行うことが可能となる。なお、図12におけるノズル部15先端から挿入限界点10pまでの長さL1=4〜7mm、ノズル延長部40tの長さL2=0.5〜2mm、ノズル部15の径D1=2〜3mm、挿入禁止部10qの径D2=2.5〜3.5mm(=D1+0.5〜1mm)になっている。
【0079】
なお、本実施例におけるスリットの形状については、適宜変更することが可能で上述した形状に限定されるものではない。また、L1、L2、D1、D2の値について上記は一例であり、他の寸法を採用しても構わない。
【0080】
なお、各実施例は眼内レンズの挿入器具に予め眼内レンズが装填されたいわゆるプリセットシステムについて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、眼内レンズの挿入器具と眼内レンズを別々に保管しておき、眼球内への挿入作業の直前に眼内レンズを装填するためのいわゆるセパレートインサータについても適用され得る。また同様に、各実施例では、挿入する眼内レンズを、レンズ本体(光学部)と支持部が別の材料で作られるいわゆるスリーピース型を使用する例で説明したが、レンズ本体(光学部)と支持部が一体成型される、いわゆるワンピース型眼内レンズを挿入するための挿入器具にも、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0081】
1・・・挿入器具
2・・・眼内レンズ
10・・・器具本体
10a・・・先端部
10c・・・貫通孔
10j・・・先端開口部
10l・・・段部
10m、20m、30m、40m・・・スリット
10n、20n、30n、40n・・・基端部
10p・・・挿入限界点
10r・・・第一テ―パ部
10s・・・第二テ―パ部
10t・・・ガイド
15・・・ノズル部
20t、30t、40t・・・ノズル延長部
30・・・プランジャ
50・・・位置決め部材
100・・・先端上側部
101・・・先端下側部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12