特許第5836391号(P5836391)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5836391
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】自動変速機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/08 20060101AFI20151203BHJP
【FI】
   F16H61/08
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-544213(P2013-544213)
(86)(22)【出願日】2012年11月5日
(86)【国際出願番号】JP2012078571
(87)【国際公開番号】WO2013073395
(87)【国際公開日】20130523
【審査請求日】2014年4月10日
(31)【優先権主張番号】特願2011-253030(P2011-253030)
(32)【優先日】2011年11月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100096459
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 剛
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 剛
【審査官】 小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−021461(JP,A)
【文献】 特開2007−170638(JP,A)
【文献】 特開2008−064240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00−61/12
F16H 61/16−61/24
F16H 61/66−61/70
F16H 63/40−63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1変速段で締結され、第2変速段で解放される第1摩擦締結要素を備えた自動変速機の制御装置であって、
前記第1摩擦締結要素の摩擦板を押圧するピストンの解放状態を検出するピストンストローク戻り判定手段と、
前記第1変速段から前記第2変速段への変速終了後、前記ピストンのストロークが完全締結状態から戻って前記ピストンが所定の解放状態であると判定するまで、前記第2変速段から前記第1変速段への変速の実行を制限する変速開始判断手段と、
自動変速機への入力トルクを推定する入力トルク推定手段と、
を備え、
前記変速開始判断手段は、前記入力トルクが所定値以上のときには、前記第2変速段から前記第1変速段への変速要求に応答して、前記第1変速段から前記第2変速段への変速終了後、前記ピストンが解放状態であると判定する前に、前記第2変速段から前記第1変速段への変速を実行する自動変速機の制御装置。
【請求項2】
第1変速段で締結され、第2変速段で解放される第1摩擦締結要素を備えた自動変速機の制御装置であって、
前記第1摩擦締結要素の摩擦板を押圧するピストンの解放状態を検出するピストンストローク戻り判定手段と、
前記第1変速段から前記第2変速段への変速終了後、前記ピストンのストロークが完全締結状態から戻って前記ピストンが所定の解放状態であると判定するまで、前記第2変速段から前記第1変速段への変速の実行を制限する変速開始判断手段と、
エンジンのスロットル開度を検出するスロットル開度検出手段と、
を備え、
前記変速開始判断手段は、前記スロットル開度が所定値以上のときには、前記第2変速段から前記第1変速段への変速要求に応答して、前記第1変速段から前記第2変速段への変速終了後、前記ピストンが解放状態であると判定する前に、前記第2変速段から前記第1変速段への変速を実行する自動変速機の制御装置。
【請求項3】
第1変速段で締結され、第2変速段で解放される第1摩擦締結要素を備えた自動変速機の制御装置であって、
前記第1摩擦締結要素の摩擦板を押圧するピストンの解放状態を検出するピストンストローク戻り判定手段と、
前記第1変速段から前記第2変速段への変速終了後、前記ピストンのストロークが完全締結状態から戻って前記ピストンが所定の解放状態であると判定するまで、前記第2変速段から前記第1変速段への変速の実行を制限する変速開始判断手段と、
を備え、
前記ピストンストローク戻り判定手段は、前記第1摩擦締結要素の解放制御における指令油圧値と指令時間とから前記ピストンのストローク率を求め、このストローク率に基づいて所定の解放状態であるか否かを判定する自動変速機の制御装置。
【請求項4】
請求項に記載された自動変速機の制御装置において、
前記ピストンストローク戻り判定手段は、指令油圧とピストンストローク速度との関係を定めた油圧−速度マップを有し、この油圧−速度マップを用いて前記ストローク率を求める自動変速機の制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載された自動変速機の制御装置において、
前記変速開始判断手段は、前記ピストンが所定の解放状態であると判定する前に、前記第2変速段から前記第1変速段への変速要求があったときには、
前記ピストンが所定の解放状態であると判定したときに、前記第2変速段から前記第1変速段への変速を実行する自動変速機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速制御により締結状態から解放状態へと制御される摩擦締結要素を備えた自動変速機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動変速機の多段化が進み、変速段数の増加に応じてクラッチやブレーキといった摩擦締結要素の数も増加している。また、変速段数の増加に伴い、シフトマップの変速線の間隔が非常に密となるため、若干の走行条件(例えばスロットル開度等)の変化によって変速が起こりやすくなっている。すなわち、変速頻度が増えることとなり、変速中であっても目標変速段の変更要求が発生するシーンが増加している。
このような変速中に目標変速段の変更要求があった場合の制御に関する従来技術として、変速判断から実変速の開始、つまりイナーシャフェーズ開始までに走行条件(例えば、スロットル開度等)の変化によって目標変速段の変更要求があった場合には目標変速段の変更を許可するが、イナーシャフェーズ開始後は目標変速段の変更を禁止して、変速中の変速を完了するようにした自動変速機の制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、上記従来の自動変速機の制御装置では、イナーシャフェーズが開始した後であれば、目標変速段の変更を禁止しているが、変速制御の終了後、どのタイミングで変速段を戻す変速制御の開始を許可するかが明確に示されていなかった。そのため、変速制御終了と同時に変速段を戻す変速制御を実行すると、先の変速制御において解放された摩擦締結要素の状態によっては、ショックやエンジンの吹け上がりが発生することがあった。
すなわち、先の変速制御で解放された摩擦締結要素は、変速段を戻す変速制御を実行すると締結制御される。ここで、先の変速制御で解放された摩擦締結要素では、変速終了時のピストンの解放状態にばらつきある。そのため、変速制御終了と同時に変速段を戻す変速制御を実行すると、推定したピストン解放状態よりも実際の解放量が小さいとき(ピストンストロークが想定よりも戻っていないとき)には、がた詰めのためのプリチャージ油圧の供給時に急締結となって締結ショックが生じてしまう。また、推定したピストン解放状態よりも実際の解放量が大きいとき(ピストンストロークが想定以上に戻りすぎているとき)には、プリチャージ油圧が小さすぎて締結遅れになりエンジンの吹け上がりが発生してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−346959号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明は、変速制御終了後に変速段を戻す変速を実行する際、ショックや吹け上がりの発生を防止することができる自動変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【0006】
本発明は、第1変速段で締結され、第2変速段で解放される第1摩擦締結要素を備えた自動変速機の制御装置であって、
前記第1摩擦締結要素の摩擦板を押圧するピストンの解放状態を検出するピストンストローク戻り判定手段と、
前記第1変速段から前記第2変速段への変速終了後、前記ピストンのストロークが完全締結状態から戻って前記ピストンが所定の解放状態であると判定するまで、前記第2変速段から前記第1変速段への変速の実行を制限する変速開始判断手段と、
を備える。
本発明の一つの態様では、自動変速機への入力トルクを推定する入力トルク推定手段をさらに備え、前記変速開始判断手段は、前記入力トルクが所定値以上のときには、前記第2変速段から前記第1変速段への変速要求に応答して、前記第1変速段から前記第2変速段への変速終了後、前記ピストンが解放状態であると判定する前に、前記第2変速段から前記第1変速段への変速を実行する。
本発明の他の一つの態様では、エンジンのスロットル開度を検出するスロットル開度検出手段をさらに備え、前記変速開始判断手段は、前記スロットル開度が所定値以上のときには、前記第2変速段から前記第1変速段への変速要求に応答して、前記第1変速段から前記第2変速段への変速終了後、前記ピストンが解放状態であると判定する前に、前記第2変速段から前記第1変速段への変速を実行する。
また本発明の一つの態様では、前記ピストンストローク戻り判定手段は、前記第1摩擦締結要素の解放制御における指令油圧値と指令時間とから前記ピストンのストローク率を求め、このストローク率に基づいて所定の解放状態であるか否かを判定する。
【0007】
本発明の自動変速機の制御装置にあっては、第1変速段から第2変速段への変速終了後、ピストンが所定の解放状態であると判定するまでは、第2変速段から第1変速段への変速の実行が制限される。
すなわち、第1変速段から第2変速段への変速において、第1変速段で締結され、第2変速段で解放される第1摩擦締結要素は、締結状態から解放状態へと制御される。一方、第2変速段から第1変速段への変速(つまり、変速段を元に戻す変速制御)では、第1摩擦締結要素は解放状態から締結状態へと制御される。
しかしながら、第1変速段から第2変速段への変速終了時、第1摩擦締結要素の摩擦板を押圧するピストンの解放状態にはバラツキが生じている。そのため、ピストンが所定の解放状態であると判定してから、第2変速段から第1変速段への変速(つまり、変速段を元に戻す変速制御)を実行することで、先の変速終了時に生じているピストン解放状態のバラツキを解消してから次の変速を実行することができる。
これにより、変速制御終了後に変速段を戻す変速を実行する際、第1摩擦締結要素のがた詰めのためのプリチャージ油圧の供給時に、供給油圧が大きすぎて締結ショックが発生したり、小さすぎて吹け上がりが発生したりする等を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例の自動変速機の制御装置が適用された車両のパワートレインの構成を示す全体システム図である。
図2】実施例のATコントローラにて実行される変速開始判断処理の流れを示すフローチャートである。
図3】指令油圧に対するピストンストローク速度を示す油圧-速度マップの一例を示す図である。
図4】実施例の変速開始判断処理を実行したときの、目標ギヤ段・実ギヤ段・スロットル開度・推定ストローク率・第1摩擦締結要素における指令油圧と実圧の各特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の自動変速機の制御装置を、図面に示す実施例に基づいて説明する。
【0010】
実施例の自動変速機の制御装置の構成を、「全体システム構成」、「変速開始判断処理の構成」、に分けて説明する。
【0011】
[全体システム構成]
図1は、実施例の自動変速機の制御装置が適用された車両のパワートレインの構成を示す全体システム図である。
【0012】
実施例における車両のパワートレインは、図1に示すように、エンジン1と、トルクコンバータ2と、自動変速機3と、を有する。
【0013】
前記エンジン1は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンであり、運転者が操作するアクセルペダルに連動してその踏み込みにつれ全閉から全開に向けて開度が増大するスロットルバルブにより出力を加減される。このエンジン1のエンジン出力軸1aは、トルクコンバータ2を介して自動変速機3の入力軸4に接続している。
【0014】
前記自動変速機3は、有段式の自動変速機である。この自動変速機3は、同軸に配置された入力軸4と出力軸5上に配置されたフロントプラネタリギヤ組(図示せず)及びリヤプラネタリギヤ組(図示せず)と、複数の摩擦締結要素6と、バルブボディ7と、を有する。
【0015】
前記複数の摩擦締結要素6は、油圧により作動し、締結・解放の組み合わせにより動力伝達経路を切り換えて、所望の変速段を実現する。各摩擦締結要素6は、ATコントローラ9からの制御指令に基づきバルブボディ7により作り出された制御油圧により、締結・スリップ締結・解放が制御される。
前記複数の摩擦締結要素6は、少なくとも第1変速段で締結され、第2変速段で解放される第1摩擦締結要素を備える。なお、「第1変速段」及び「第2変速段」とは任意の変速段であり、例えば1速段と2速段であったり、2速段と4速段であったり、2速段と1速段であったりする。
そして、各摩擦締結要素6としては、例えば、比例ソレノイドで油流量および油圧を連続的に制御できるノーマルオープンの湿式多板クラッチや湿式多板ブレーキが用いられる。
【0016】
前記バルブボディ7内には、各摩擦締結要素6に油圧を供給する油路(図示せず)が形成されており、ATコントローラ9から入力される制御指令に基づいて駆動されるソレノイド8が、各油路に設けられた調圧弁(図示せず)を操作し、ATコントローラ9が設定した指令圧の油圧が所定の摩擦締結要素6に供給されるように制御される。また、車両の走行時には、所望の変速段を得るために必要な摩擦締結要素6のみに油圧を供給するように制御される。
【0017】
前記ATコントローラ9は、車速やアクセル開度、スロットル開度等から求められる走行状態に対応して、図示しない変速マップに基づいて自動的に設定される変速段への変速を実行する。すなわち、このATコントローラ9は、エンジン回転センサ10、スロットル開度センサ11、タービン回転センサ12、出力軸回転センサ13、インヒビタスイッチ14等の出力に基づいて、締結される摩擦締結要素6に供給する作動油圧の指令圧を決定する。そして、決定した指令圧の作動油圧が、締結される摩擦締結要素6に供給されるようにソレノイド8を駆動する指令を出力すると共に、解放される摩擦締結要素6から作動油を排出する排出指令を出力する。
【0018】
前記エンジン回転センサ10は、エンジン1の出力軸の回転を検出し、検出した出力軸の回転数(エンジン回転数Ne)を示す信号を、ATコントローラ9に出力する。
前記スロットル開度センサ11は、エンジン1のスロットルバルブの開度を検出し、検出したスロットルバルブの開度(スロットル開度Tvo)を示す信号を、ATコントローラ9に出力する。
前記タービン回転センサ12は、自動変速機3の入力軸4の回転を出力し、入力軸4の回転数(タービン回転数Nt)を示す信号を、ATコントローラ9に出力する。
前記出力軸回転センサ13は、自動変速機3の出力軸5の回転を出力し、出力軸5の回転数(出力軸回転数No)を示す信号を、ATコントローラ9に出力する。
前記インヒビタスイッチ14は、図示しないシフト選択機構の選択レンジを示す信号を、ATコントローラ9に出力する。
【0019】
さらに、このATコントローラ9では、ある変速制御中、又は、ある変速制御の完了後、目標変速段を元の変速段とする変速制御の要求があったときに、後者の変速制御の可否を判断する。
つまり、このATコントローラ9は、第1変速段から前記第2変速段への変速終了後、第1変速段で締結され、第2変速段で解放される第1摩擦締結要素の摩擦板を押圧するピストンが解放状態であると判定するまで、第2変速段から第1変速段への変速の実行を制限する。これにより、ピストンストロークが戻った状態になるまで、先の変速制御で変更した変速段を、元の変速段に戻す変速制御は実行されず、元の変速段とする変速制御の要求は保留される。
すなわち、このATコントローラ9では、ピストンストロークが戻ったと判断できるまでは、変速段を元に戻す変速制御の開始タイミングを遅らせる。
【0020】
[変速開始判断処理の構成]
図2は、実施例のATコントローラにて実行される変速開始判断処理の流れを示すフローチャートである。なお、この図2に示すフローチャートが、第1変速段から第2変速段への変速終了後、ピストンが解放状態であると判定するまで、第2変速段から第1変速段への変速の実行を制限する変速開始判断手段に相当する。以下、図2に示す各ステップについて説明する。
【0021】
ステップS1では、現在実行している第1変速段から第2変速段への変速制御(以下、「先の変速制御」という)が終了したか否かを判断する。YES(変速終了)の場合はステップS2へ移行し、NO(変速中)の場合はステップS1を繰り返す。
ここで、先の変速制御の終了判断は、実ギヤ段が変速の目標ギヤ段と一致していれば変速終了と判断し、実ギヤ段が変速の目標ギヤ段と一致していなかったら変速中と判断する。
【0022】
ステップS2では、ステップS1での先の変速終了との判断に続き、第2変速段から第1変速段とする変速制御(つまり、目標変速段を先の変速制御の際の元の変速段に戻す変速制御、以下、「変速段を戻す変速制御」という)の実行要求があったか否かを判断する。YES(変速要求あり)の場合はステップS3へ移行し、NO(変速要求なし)の場合は、変速開始判断処理のルーチンを終了する。
【0023】
ステップS3では、ステップS2での変速要求ありとの判断に続き、第1変速段で締結され、第2変速段で解放される第1摩擦締結要素の摩擦板を押圧するピストンのストローク率を算出し、ステップS4へ移行する。
ここで、「ストローク率」は、ピストンのストローク可能距離において、ピストンが移動した距離の割合を示す値であり、百分率で示す。全開状態(完全解放状態)をゼロ%とし、全閉状態(完全締結状態)を100%とする。本実施例では、このストローク率がゼロのとき、ピストンのストロークが戻った状態であると判断する。
そして、このストローク率を求めるには、予め、指令油圧ごとに決まるピストンストローク速度を示すマップ(油圧-速度マップ;図3参照)を作成する。この油圧-速度マップを作成するには、まず、ピストンのストローク可能距離を把握する。次に、第1摩擦締結要素への指令油圧ごとの完全解放時間を測定する。そして、ストローク可能距離と指令油圧ごとの完全解放時間とから解放方向へのピストンストローク速度を算出し、油圧-速度マップを作成する。
そして、この油圧-速度マップと、指令油圧値と、指令時間とから、解放方向へピストンが移動した距離を算出する。最後に、ピストンのストローク可能距離に対する移動距離を百分率で算出し、ストローク率とする。
【0024】
ステップS4では、ステップS3でのストローク率の算出に続き、この算出したストローク率が、予め設定したストローク閾値より大きいか否かを判断する。YES(ストローク率>ストローク閾値)の場合はステップS5へ移行し、NO(ストローク率≦ストローク閾値)の場合はステップS10へ移行する。
ここで、「ストローク閾値」とは、ピストンが解放状態であると判定できるストローク率であり、ピストンストロークが戻ったとする値である。予め任意の値に設定するが、ここではゼロとする。なお、このステップS3が、第1摩擦締結要素の摩擦板を押圧するピストンの解放状態を検出するピストンストローク戻り判定手段に相当する。
【0025】
ステップS5では、ステップS4でのストローク率>ストローク閾値との判断に続き、エンジン1のスロットルバルブの開度(スロットル開度Tvo)を検出し、ステップS6へ移行する。
スロットル開度Tvoは、前述したように、スロットル開度センサ11により検出する。
【0026】
ステップS6では、ステップS5でのスロットル開度Tvoの検出に続き、この検出したスロットル開度Tvoがスロットル閾値未満であるか否かを判断する。YES(スロットル開度<スロットル閾値)の場合はステップS7へ移行し、NO(スロットル開度≧スロットル閾値)の場合はステップS10へ移行する。
ここで、「スロットル閾値」は、運転者の要求駆動力が比較的高いと判断できる値であり、予め任意の値に設定する。
【0027】
ステップS7では、ステップS6でのスロットル開度<スロットル閾値との判断に続き、自動変速機3に入力される入力トルクを推定し、ステップS8へ移行する。
ここで、「入力トルク」は、例えばアクセル開度やエンジン回転数、エンジン出力可能トルク等に基づいて推定する。なお、このステップS7が、自動変速機3への入力トルクを推定する入力トルク推定手段に相当する。
【0028】
ステップS8では、ステップS7での入力トルクの推定に続き、この推定した入力トルクがトルク閾値未満であるか否かを判断する。YES(入力トルク<トルク閾値)の場合はステップS9へ移行し、NO(入力トルク≧トルク閾値)の場合はステップS10へ移行する。
ここで、「トルク閾値」は、運転者の要求駆動力が比較的高いと判断できる値であり、予め任意の値に設定する。
【0029】
ステップS9では、ステップS8での入力トルク<トルク閾値との判断に続き、ステップS1において判断した先の変速制御が終了したタイミングから所定時間経過したか否かを判断する。YES(所定時間経過)の場合はステップS10へ移行し、NO(所定時間未経過)の場合はステップS3へ戻る。
ここで、「所定時間」とは、第1摩擦締結要素におけるピストンが確実に解放状態であると判定できる時間であり、予め任意の値に設定する。
【0030】
ステップS10では、ステップS4でのストローク率≦ストローク閾値との判断、又は、ステップS6でのスロットル開度≧スロットル閾値との判断、又は、ステップS8での入力トルク≧トルク閾値との判断、又は、ステップS9での所定時間経過との判断のいずれかに基づき、ステップS2において要求された変速段を戻す変速制御、つまり、第2変速段から第1変速段へとする変速制御を実行する。そして、ルーチンを終了する。
【0031】
次に、実施例の自動変速機の制御装置における「変速開始タイミング制限作用」を説明する。
【0032】
[変速開始タイミング制限作用]
図4は、実施例の変速開始判断処理を実行したときの、目標ギヤ段・実ギヤ段・スロットル開度・第1摩擦締結要素におけるストローク率・第1摩擦締結要素における指令油圧と実圧の各特性を示す図である。
【0033】
ここで、実施例の自動変速機の制御装置において、ダウンシフトの終了直前にアップシフト要求があった場合について説明する。
【0034】
図4に示す時刻t1において、目標ギヤ段が第1変速段(例えば2速段)から第2変速段(例えば1速段)に変更し、ダウンシフト変速要求が出力される。これにより、複数の摩擦締結要素6のうち、第1変速段で締結され、第2変速段で解放される第1摩擦締結要素は締結制御から解放制御へと制御変更される。
【0035】
時刻t2において、解放制御するため、第1摩擦締結要素への供給油圧を低下する指令油圧が出力され、この指令油圧に応じて実圧が低下する。なお、このとき第1摩擦締結要素におけるストローク率に変化はない。
【0036】
時刻t3において、スロットル開度Tvoが低減すると、第1摩擦締結要素への供給油圧をさらに低下する指令油圧が出力され、この指令油圧に応じて実圧がさらに低下する。なお、このとき第1摩擦締結要素におけるストローク率に変化はない。
【0037】
時刻t4において、第1摩擦締結要素への供給油圧の実圧が下げ止まり、時刻t5において、第1摩擦締結要素におけるストローク率が次第に低下し始める。
【0038】
時刻t6において、走行条件(例えばスロットル開度等)の変化が生じ、目標ギヤ段を第2変速段(例えば1速段)から第1変速段(例えば2速段)に変更するアップシフト変速要求、つまり変速段を戻す変速要求が出力される。このとき、先の変速制御(ダウンシフト変速)は実行中である。そのため、図2に示すフローチャートでは、ステップS1を繰り返し、このアップシフト変速要求は制限されて、アップシフト変速は実行されない。
【0039】
そして、時刻t7において、実ギヤ段が第1変速段(例えば2速段)から第2変速段(例えば1速段)へと変化し、先の変速制御(ダウンシフト変速)が終了すると、図2に示すフローチャートでステップS1→ステップS2へと進む。このとき、時刻t6時点で、すでに変速段を戻すアップシフト変速要求が出力されているので、ステップS2→ステップS3へと進み、第1摩擦締結要素におけるストローク率が算出される。
【0040】
ここで、時刻t7時点(先の変速制御の終了時点)では、図4に示すように、第1摩擦締結要素におけるストローク率は、ストローク閾値(ここでは、ゼロ)を上回っている。そのため、ステップS4→ステップS5へと進み、スロットル開度が検出される。ここで、時刻t7時点では、図4に示すように、スロットル開度はスロットル閾値を下回っている。そのため、ステップS6→ステップS7へと進み、自動変速機3への入力トルクが推定される。そして、時刻t7時点でアクセル開度等から推定された入力トルクが、トルク閾値を下回っていれば、ステップS8→ステップS9へと進む。そして、時刻t7時点では、先の変速制御(ダウンシフト変速)が終了したタイミングであるため、この先の変速制御(ダウンシフト変速)の終了から所定時間は経過していない。これにより、ステップS9→ステップS3へと戻り、変速段を戻すアップシフト変速の実行が制限される。すなわち、時刻t7時点では、先の変速制御(ダウンシフト変速)は終了しているが、次の変速段を戻すアップシフト変速の実行は保留され、変速段を戻す変速の実行開始のタイミングを先の変速制御終了のタイミングより遅らせる。
【0041】
一方、時刻t7時点の先の変速制御(ダウンシフト変速)の終了と同時に、次の変速段を戻すアップシフト変速を行った場合では、図4において二点鎖線で示すように、時刻t7において第1摩擦締結要素が締結制御となり、この第1摩擦締結要素のがた詰めのためのプリチャージ油圧を供給する指令油圧が出力される。
【0042】
このとき、第1摩擦締結要素におけるストローク率はゼロではない。このため、図4において二点鎖線で示すように、ストローク率がすぐに高くなって、ピストンストロークが戻りすぎてしまう。このため、プリチャージ油圧の供給時に急締結となって締結ショックが生じるおそれがある。
また、第1摩擦締結要素におけるストローク率がゼロではないことを見込んでプリチャージ時間を短くしたり、又は、プリチャージ油圧を低い値に設定した場合では、ストローク率の上昇速度が遅くなって締結遅れになりエンジンの吹け上がりが発生してしまうことが考えられる。
【0043】
これに対し、実施例の自動変速機の制御装置では、実線で示すように、時刻t8において、第1摩擦締結要素におけるストローク率がストローク閾値(ここでは、ゼロ)に達したことで、ステップS3→ステップS10へと進む。これにより、時刻t8時点で、変速段を戻すアップシフト変速が実行される。
【0044】
そして、このアップシフト変速の実行に伴って、複数の摩擦締結要素6のうち、第1変速段で締結され、第2変速段で解放される第1摩擦締結要素は解放制御から締結制御へと制御変更される。これにより、第1摩擦締結要素のがた詰めのためのプリチャージ油圧を供給する指令油圧が出力され、この指令油圧に応じて実圧が上昇し始める。
このとき、時刻t8時点で第1摩擦締結要素におけるストローク率はゼロであり、第1摩擦締結要素におけるピストンが完全に解放した状態である。そのため、第1摩擦締結要素の締結制御は、ピストンストロークが完全に戻った状態から始めることができる。すなわち、ピストンの解放状態のバラツキがなくなり、供給油圧が大きすぎて締結ショックが発生したり、小さすぎて吹け上がりが発生したりする等を防止することができる。
【0045】
また、実施例の自動変速機の制御装置において、ストローク率がストローク閾値を上回る前に、スロットル開度Tvoがスロットル閾値を上回った場合には、図2に示すフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS6→ステップS10へと進む。これにより、第1摩擦締結要素のピストンストロークが戻り、第1摩擦締結要素が解放したと判定される前であっても、目標ギヤ段を第2変速段から第1変速段に変更する変速制御(変速段を戻す変速制御)が実行される。
このため、スロットル開度Tvoが大きく、運転者の要求駆動力が高いと判断される場合には、レスポンスよく運転者の要求に応えることができる。
【0046】
さらに、実施例の自動変速機の制御装置において、ストローク率がストローク閾値を上回る前に、自動変速機3への入力トルクがトルク閾値を上回った場合には、図2に示すフローチャートにおいて、ステップS1→ステップS2→ステップS3→ステップS4→ステップS5→ステップS6→ステップS7→ステップS8→ステップS10へと進む。これにより、第1摩擦締結要素のピストンストロークが戻り、第1摩擦締結要素が解放したと判定される前であっても、目標ギヤ段を第2変速段から第1変速段に変更する変速制御(変速段を戻す変速制御)が実行される。
このため、自動変速機3への入力トルクが大きく、運転者の要求駆動力が高いと判断される場合には、レスポンスよく運転者の要求に応えることができる。
【0047】
次に、効果を説明する。
実施例の自動変速機の制御装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0048】
(1)第1変速段で締結され、第2変速段で解放される第1摩擦締結要素を備えた自動変速機の制御装置であって、
前記第1摩擦締結要素の摩擦板を押圧するピストンの解放状態を検出するピストンストローク戻り判定手段(ステップS4)と、
前記第1変速段から前記第2変速段への変速終了後、前記ピストンが所定の解放状態であると判定するまで、前記第2変速段から前記第1変速段への変速の実行を制限する変速開始判断手段(図4)と、
を備える構成とした。
このため、変速制御終了後に変速段を戻す変速を実行する際、ショックや吹け上がりの発生を防止することができる。
【0049】
(2) 前記変速開始判断手段(図4)は、前記ピストンが所定の解放状態であると判定する前に、前記第2変速段から前記第1変速段への変速要求があったときには、
前記ピストンが所定の解放状態であると判定したときに、前記第2変速段から前記第1変速段への変速を実行する構成とした。
このため、変速制御終了後に変速段を戻す変速を実行する際、ショックや吹け上がりの発生を防止することができる。
【0050】
(3) 自動変速機3への入力トルクを推定する入力トルク推定手段(ステップS8)を備え、
前記変速開始判断手段(図4)は、前記入力トルクが所定値(入力閾値)以上のときには、前記第2変速段から前記第1変速段への変速要求に応答して、前記第1変速段から前記第2変速段への変速終了後、前記ピストンが解放状態であると判定する前に、前記第2変速段から前記第1変速段への変速を実行する構成とした。
このため、運転者の要求駆動力が大きいと判断できるときには、第1摩擦締結要素が解放したと判定される前であっても変速段を戻す変速制御を実行することで、運転者の要求にレスポンスよく応える変速制御を行うことができる。
【0051】
以上、本発明の自動変速機の制御装置を実施例に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0052】
実施例では、第1摩擦締結要素の解放状態を判定する際に、算出したストローク率を判定基準としているが、これに限らない。例えば、予め所定の指示油圧を供給した時間に対するストローク率のマップを有し、時間及び指示油圧を判定基準としてもよい。
【0053】
また、実施例では、エンジン1を走行駆動源とするエンジン車に自動変速機3を搭載した例を示したが、これに限らず、エンジンとモータを走行駆動源とするハイブリッド車やモータのみを走行駆動源とする電気自動車であっても適用することができる。
図1
図2
図3
図4