(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
実施形態にかかる非水電解質二次電池用正極材料は、コア粒子となるポリアニオン化合物の表面の少なくとも一部が被覆材料(活物質)で被覆されたものである。
【0009】
実施形態にかかるコア材料は、Li
aM
bPO
4(MはFe、Mn、CoとNiの中から選ばれる少なくとも1種類の元素であり、0<a≦1.1、0<b≦1を満たす。)で表されたポリアニオン化合物である。このコア材料は、結晶構造中にPO
4四面体を含み、電池が何らかの事故により高温状態になった場合でも酸素の放出が起きにくく、発火の危険性が低い。また、結晶構造が安定で、充放電の際の体積変化が少ないため、サイクル特性が高く、Liイオンをより多く引き出して高い電池容量が得られる。特にオリビン型リン酸鉄リチウム複合酸化物は充放電における体積変化が少ないことから、長寿命が期待され、定置型用電池の活物質として注目されている。
【0010】
オリビン型リン酸鉄リチウムに代表されるポリアニオン化合物は、結晶構造中にリン、硫黄、バナジウムなどの元素が酸素格子中に導入されたいわゆるポリアニオンが含まれることにより、酸素の放出が起こりにくくなり、高温時の安定性が増加する。しかし、これらの化合物(例えば、リン酸を含む化合物の場合)はP−O結合により電子が局在化し、電子伝導性が低下する。
【0011】
従って、ポリアニオン系化合物の電子伝導性は一般的なリチウムイオン二次電池の正極活物質と比べて低い。具体的にはLiFePO
4の電子伝導性は約1×10
−10S/cmである。このような絶縁性に近いポリアニオン系化合物が正極活物質として実用レベルの電子伝導性(10
−6S/cm以上)を確保するにはポリアニオン系化合物をコア粒子として、コア粒子の表面に導電性材料を被覆するなどの工夫が必要である。正極活物質(実施形態の正極材料)の電子伝導性が10
−6S/cmより低いと、レート特性が低い二次電池となることが好ましくない。なお、ここでいう電子伝導性とは活物質単体をペレット状に整形し、両端にイオンブロッキング電極を配置し、測定セルを構築し、セルに直流電流を流し、ペレット間電圧の測定から求められる値である。
【0012】
これまで、ポリアニオン系化合物の被覆材料として、カーボン系の材料が用いられてきた。しかし、カーボン系材料のLiイオンの吸蔵及び放出反応電位は0.1〜2V vs. Li/Li
+であるため、例えば2.5V〜4.5V vs. Li/Li
+の範囲に反応電位を持つコア粒子をカーボン系材料で被覆すると、カーボン系材料はコア粒子の充放電に寄与できない。そのため、カーボン材料で被覆をすれば、正極材料に必要な電子伝導性が得られるものの、被覆量が増えると、電池の電極重量あたりの充放電容量が低下する。また、カーボン系材料はLiイオン伝導性に乏しいため、多量のカーボン系材料でコーティングすると高速充放電時の容量が低下することも問題である。
【0013】
ポリアニオン系化合物の充放電時にLiイオンの吸蔵及び放出反応が行える正極活物質を、ポリアニオン系化合物の表面の少なくとも一部に被覆させることで、電子伝導性及び充放電容量に優れた正極材料を見出した。
【0014】
ポリアニオン系化合物の充放電時に、被覆材料が充放電を行える条件として、実施形態のコア粒子の充電終止電位と放電終止電位の間に、被覆材料のLiイオン吸蔵及び放出の電位が含まれていることが好ましい。
【0015】
このような条件を満たす実施形態の被覆材料は、Li(Ni
xCo
yMn
z)O
2、Li(Ni
xCo
yAl
z)O
2、LiMn
2O
4とLiVO
2(x≧0、y≧0、z≧0、x+y+z=1を満たす。)の中から選ばれる少なくとも1種以上の化合物が具体例として挙げられる。
一方、カーボンやSi系合金負極、Li
2.6Co
0.4Nの様なLiイオンの吸蔵及び放出電位がポリアニオン系化合物の充放電終止電位外の材料や、ZrO、Al
2O
3などのLiイオンの吸蔵及び放出を行わない材料は容量向上に寄与できないため被覆材料として用いることができない。
【0016】
電子伝導性の高い被覆材料で、コア粒子を被覆した正極材料は擬似的に被覆材料の電子伝導性を持つ粒子として取り扱うことができるため、レート特性を向上することができる。また、実施形態の被覆材料は、コア粒子と同様にLiイオンの吸蔵及び放出をすることもでき容量向上に貢献できる。しかし、被覆材料の充電終止電位がコア粒子の充電プラトー電位と比べ低いと、容量の大部分を占めるコア粒子の充電時に、被覆部が過充電状態となり、安全性が低下するだけでなく、結晶構造が破壊されサイクル特性が悪化する。また、コア粒子は充電末期に急激に電位が上昇するため、被覆材料の充電終止電位がプラトー電位より大きければ被覆部への過充電がほとんど起こらない。従って、実施形態の被覆材料は安全性の観点から、過充電を引き起こす可能性が高い被覆材料を用いるのは好ましくないため、充電終止電位がコア粒子の充電プラトー電位以上の化合物を被覆材料に用いることが好ましい。
【0017】
実施形態において、電子伝導性の低いコア粒子表面に、電子伝導性の高い被覆材料が付着している正極材料を用いる。基本的に、被覆部(コア粒子表面の少なくとも一部を被覆する被覆材料)の周辺で電子伝導性の改善効果が見込める。被覆材料でコア粒子を被覆する効果は、被覆材料の被覆量がコア粒子に対して1質量%といった少量であっても生じる。被覆材料はコア粒子の表面に偏在しているよりも、コア粒子の表面全体に分散していると、コア粒子の表面が全体的に優れた電子伝導性を備えることができるために好ましい。従って、単にコア粒子材料と被覆材料とを混合し電極化しただけでは、被覆材料が十分に分散されず粒子として偏在してしまうため、電子伝導性の改善が不充分となるため好ましくない。コア粒子表面の10%以上90%以下を被覆材料が覆うことが好ましい。なお、コア粒子の表面を満遍なく被覆材料が覆ってしまうと、Liイオンの拡散が被覆材料によって阻害されることとなり好ましくない。
【0018】
ポリアニオン系正極材料は、高温貯蔵などにおいて電解液中にフッ化水素酸(HF)が存在すると遷移金属成分が電解液に溶出しやすく、その後負極表面上に金属として析出し、抵抗が上昇することが知られている。そのため加水分解によりフッ化水素酸を発生しやすい六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)などを支持塩として用いると高温貯蔵特性やサイクル特性が悪化しやすい。ポリアニオン系正極材料表面を被覆材料で覆うことにより、コア粒子からの金属イオン溶出を減少することができる。従って、被覆材料がコア粒子表面を広く覆うことで充放電容量とレート特性と貯蔵特性を同時に改善することができ好ましい、一方、単に2種類の活物質を混合したように、コア材料と被覆材料が混在しただけの電極構造では、覆われていない箇所からの金属イオン溶出を低減できず、電子伝導性だけでなく高温貯蔵特性またはサイクル特性の改善が不充分であり好ましくない。
【0019】
コア粒子の一次粒子径は300nm以上5μm以下である。
被覆材料の一次粒子径は10nm以上1μm以下である。
被覆粒子径とコア粒子径の大小関係は常にコア粒子>被覆粒子の関係を満たすことが好ましく、表面を均一に被覆する点から被覆粒子径はコア粒子径の1/10以下であることがより好ましい。
被覆後の正極材料の平均二次粒子径は500nm以上20μm以下である。
【0020】
被覆部の厚さは10nm以上1μm以下であることが好ましい。10nmより被覆部の厚さが少ないと正極粒子間や導電助材と被覆部との接触性が低下するため、レート特性の改善効果が少なくなり好ましくない。また、被覆部の厚さが1μmより厚いと正極材料の平均粒子径が増大するだけでなく、被覆部の充放電に伴う体積変化の影響が大きくなり、サイクル特性などが低下するため好ましくない。
【0021】
被覆材料の被覆量がコア粒子の質量に対して1質量%以上から、レート特性又は容量の明らかな向上を確認することができる。そして、被覆材料の被覆量がコア粒子の質量に対して3質量%以上から、著しくレート特性が向上する。これは、1質量%ではコア粒子を全体的に被覆するのに十分ではなく、未被覆部の影響も表れる一方、3質量%以上ではコア粒子の表面に分散していた被覆部同士が互いに接触し、連続的に繋がることで、正極材料−集電体間を電子が電子伝導性の高い部位を途切れること無く伝導できるようになったためと考えられる。また、被覆量が増えると、安全性が低下するおそれがあるため、被覆材料の被覆量はコア粒子の質量に対して15質量%以下、より好ましくは10質量%以下であることが好ましい。なお、被覆量とは、正極材料を製造する際のコア粒子に対する被覆材料の質量百分率である。
【0022】
発明の実施形態にかかる非水電解質二次電池は、非水電解質二次電池用の正極材料を活物質として含む正極、負極と、非水電解質を少なくとも備える。
【0023】
非水電解質二次電池用の正極材料は、実施形態にかかる被覆材料でコア粒子の表面の少なくとも一部を覆ったものである。
【0024】
非水電解質二次電池の正極は、例えば、実施形態の正極材料、導電剤及び結着剤を適当な溶媒に懸濁して混合し、塗液としたものを集電体の片面又は両面に塗布し、乾燥させたものである。
実施形態の正極の導電剤は、例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛等を挙げることができる。
実施形態の正極の結着剤は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素系ゴム、エチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロースなどを挙げることができる。
【0025】
正極材料、正極の導電剤と正極の結着剤の配合比は、正極材料が73質量%以上95質量%以下、導電剤が3質量%以上20質量%以下、結着剤が2質量%以上7質量%以下であることが好ましい。
【0026】
実施形態の正極材料の製造方法について説明する。
コア粒子となるポリアニオン系化合物の合成方法は特に限定されるものではない。この合成方法としては、例えば、固相法、液相法、ゾル−ゲル法と水熱法等が挙げられる。例えば、LiFePO
4の粒子は以下の様な方法によって製造することができる。
例えばLi源、Fe源、P源を概ねLi:Fe:P=1:1:1となるモル比で含有する前駆体水溶液を加熱下で撹拌し、乾燥、焼成すればよい。Li源として水酸化リチウム、Fe源として、硫酸鉄・7水和物、P源として、オルトリン酸など、従来公知のものを例えば用いることができる。
【0027】
実施形態の被覆材料となる粒子の合成方法は、特に限定されるものではない。この合成方法は、例えば、固相法、液相法、ゾル−ゲル法、水熱法、溶融塩法等が挙げられる。具体的には、ポリアニオン系コア粒子と被覆材料の前駆体とを混合させることと、混合体を反応させコア粒子表面上に被覆材料を作製することと、反応物から複合粒子を分離することとを含む。実施形態の被覆材料の粒径はコア粒子の粒径よりも小さい。
【0028】
コア粒子に被覆材料を被覆する実施形態の方法としては、例えば、LiCoO
2を被覆材料に用いる場合、例として湿式の被覆方法である水熱合成法が挙げられる。Li源、Co源を水に溶解し前駆体水溶液を作製する。Li源としては水酸化リチウム、炭酸リチウム、酢酸リチウム、硝酸リチウム、塩化リチウム等が挙げられる。Co源としては、塩化コバルト、硫酸コバルト、硝酸コバルト、酢酸コバルト等が挙げられる。前駆体水溶液中にコア粒子として作製したポリアニオン系化合物粒子を混合し、攪拌しながら加熱することで反応し、乾燥することにより被覆粒子が得られる。この時、水熱反応の温度、時間、Li源の比率によって合成されるLiCoO
2粒径が変化するため、被覆部の厚さを制御することができる。被覆部の厚さが異なると、同質量であっても被覆範囲が異なるため、水熱条件の調整によって被覆率を制御することができる。例えば加熱温度であれば低温なほど、反応時間であれば短時間であるほど、Li源の比率であれば大きいほど作製される結晶粒子が小さくなるため、膜厚が小さくなり被覆率が増加する。従って少量の被覆材料であってもコア粒子への被覆率を増加させることができ、10%〜90%の被覆率に調整することができる。このような加熱は80℃〜250℃の範囲で行うことが好ましく、100℃〜170℃の範囲で行うことがさらに好ましい。また、反応時間は1時間〜24時間の範囲が好ましく、6時間〜12時間の範囲がさらに好ましい。また、Li源の比率はCo源に対し、モル比が0.1〜10の範囲にあることが好ましく、1〜5の範囲にあることがより好ましい。その後、得られた被覆粒子をろ過、洗浄し、乾燥を行い、複合粒子を合成する。乾燥は温度が80℃から250℃の範囲で、真空乾燥を行うことが好ましい。また、得られた複合粒子をさらに焼成してもよい。この場合、焼成雰囲気は窒素、アルゴンなどの不活性雰囲気下で行うことが好ましく、酸素ガスを0〜10%混合することが好ましい場合もある。焼成温度は400℃〜1000℃以下の範囲にあることが好ましく、500℃〜700℃の範囲にあることがより好ましい。
【0029】
以上のように、前駆体中にコア粒子を分散する手法であれば、コア粒子の表面上に、均一に、かつ膜厚と被覆率を制御した複合粒子を作製することができる。被覆方法としては、上記に説明した方法に限定される必要は無く、従来公知の方法を用いることもできる。
【0030】
コア粒子を被覆する被覆材料の厚さは、例えば、粒子表面をTEMで観察することで測定することができる。また、粒子の被覆率は以下の方法で測定される。TEM観察により複合粒子表面のうちコア粒子の表面長を求める。次に、被覆材料に覆われた部分の長さを求め、被覆部分のコア粒子表面に対する長さの百分比率を被覆率(%)とした。
【0031】
実施形態の負極は、負極活物質、導電剤及び結着剤を含む負極合剤を適当な溶媒に懸濁して、混合し、塗液としたものを集電帯の片面又は両面に塗布し、乾燥することにより作製される。
実施形態の負極活物質としては、例えば、リチウムチタン複合酸化物とリチウム複合酸化物の混合物が挙げられる。
実施形態の負極の導電剤としては、通常、炭素材料が使用される。この導電剤は、例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック等を挙げることができる。
実施形態の負極の結着剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素系ゴム、エチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロースなどを挙げることができる。
【0032】
負極活物質、負極の導電剤と負極の結着剤の配合比は、負極活物質が70質量%以上95質量%以下、導電剤が0質量%以上25質量%以下、結着剤が2質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0033】
実施形態の非水電解質は、非水溶媒に電解質を溶解することにより調整される液体状非水電解質(非水電解液)、高分子材料に非水溶媒と電解質を含有した高分子ゲル状電解質、高分子材料に電解質を含有した高分子固体電解質、リチウムイオン導電性を有する無機固体電解質が挙げられる。
【0034】
実施形態の液状非水電解質に用いられる非水溶媒としては、リチウム電池で公知の非水溶媒を用いることができ、例えば、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート、第1の溶媒として環状カーボネートと第2の溶媒として環状カーボネートより低粘度の非水溶媒との混合溶媒を主体とする非水溶媒などを挙げることができる。
【0035】
第2の溶媒としては、例えば、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの鎖状カーボネート、γ−ブチロラクトン、アセトニトリル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、環状エーテルとして、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなど、鎖状エーテルとしてジメトキシエタン、ジエトキシエタン等が挙げられる。
【0036】
実施形態の電解質としては、アルカリ塩、特にリチウム塩が挙げられる。リチウム塩として、6フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、六フッ化ヒ素リチウム、過塩素酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム等が挙げられる。特に、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウムが好ましい。実施形態の非水溶媒に対する実施形態の電解質の溶解量は0.5mol/l以上2.0mol/l以下とすることが好ましい。
【0037】
実施形態のゲル状電解質として、実施形態の溶媒と実施形態の電解質を高分子材料に溶解し、固体化したもので、高分子材料としては、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキシドなどのポリマーやこれらのコポリマーが挙げられる。
【0038】
実施形態の固体電解質としては、実施形態の電解質を実施形態の高分子材料に溶解し、固体化したものが挙げられる。また、無機固体電解質として、リチウムを含有したセラミック材料が挙げられる。実施形態の無機固体電解質として、例えば、Li
3N、Li
3PO
4−Li
2S−SiS
2ガラス等が挙げられる。
【0039】
実施形態の正極と負極の間にはセパレータを配置することができる。
実施形態のセパレータは、正極及び負極が接触するのを防止する為のものであり、絶縁性材料で構成される。さらに正極及び負極の間を電解質が移動可能な形状のものが使用される。具体的には、例えば、合成樹脂製不織布、ポリエチレン多孔質フィルム、ポリプロピレン多孔質フィルムあるいはセルロース系のセパレータが挙げられる。
また、このセパレータと併せて又はセパレータとして、実施形態のゲル状電解質又は固体電解質を層状にしたものを用いてもよい。
【0040】
実施形態の非水電解質二次電池の一例の概念図を
図1に示す。例えば、ステンレス製の有底円筒状の容器1内の底部には、絶縁体2が配置されている。電極群3は容器1内に配置されている。電極群3は、正極4、セパレータ5、負極6で構成されている。正極4と負極6はその間にセパレータ5を介在して、正極4と負極6が接触しないように渦巻き状に巻かれた構成になっている。
【実施例】
【0041】
以下、実施例について説明する。なお、実施例は本発明の実施形態の一例であり、本発明の趣旨を超えない実施形態、実施例が本発明に包含される。
【0042】
(実施例1)
正極材料としてまず、コア粒子となるリン酸鉄リチウム酸化物(LiFePO
4)を固相法により作製した。コア粒子の材料として、シュウ酸鉄・2水和物(FeC
2O
4・2H
2O)、リン酸2水素アンモニウム(NH
4H
2PO
4)、炭酸リチウム(Li
2CO
3)をそれぞれモル比で、1:1:0.5の比率で混合し、窒素雰囲気下、温度700度で2時間の焼成を行った。得られた化合物がリン酸鉄リチウム酸化物(LiFePO
4)であることをICP−OESで確認した。また、XRDにより、Fe
2P不純物相がリン酸鉄リチウム酸化物(LiFePO
4)に無いことを確認した。SEMで観察して平均一次粒子径が1μm程度であることを確認した。
【0043】
次に、コア粒子として作製したLiFePO
4の表面上に、被覆材料としてリチウムコバルト酸化物(LiCoO
2)を水熱法により作製した。合成後のLiFePO
4とLiCoO
2を質量費が100:1(LiFePO
4:LiCoO
2)になるようCo源の量を調整した。被覆材料の材料として硝酸リチウム(CoNO
3・6H
2O)を水酸化ナトリウム水溶液中で12時間攪拌し、80度の真空乾燥器で12時間乾燥し、前駆体を作製した。得られた前駆体と水酸化リチウム(LiOH・H
2O)をそれぞれモル比で1:1の比率となるよう水に溶解した。容器を攪拌しながら150度で12時間の水熱合成を行った。生成物をろ過し、100度で12時間真空乾燥を行い粉末の正極材料を得た。生成物を、XRDで測定して不純物相が無いことを確認した。正極材料をTEMで観察した結果、LiFePO
4の表面に平均厚さ20nmのLiCoO
2が被覆していることを確認した。LiFePO
4粒子表面と被覆部の長さの比率から、被覆率は50%であることを確認した。
【0044】
得られた粉末の正極材料を85質量部と、導電剤としてグラファイトとアセチレンブラックをそれぞれ5質量部と、結着剤としてPVdFを5質量部とを混合した正極合剤をNMP(N−メチル−2−ピロリドン)に加え、厚さ15μmのアルミ箔(集電体)に塗布した。正極合剤を塗布したアルミ箔を乾燥後、プレス処理をして、電極密度2.2g/cm
3の正極を作製した。
【0045】
次に、負極を作製した。
負極活物質として粉末のスピネル型リチウムチタン酸化物(Li
4Ti
5O
12)を85質量部と、導電剤としてグラファイト5質量部とアセチレンブラック3質量部と、結着剤としてPVdFを5質量部とを混合した負極合剤をNMPに加え、厚さ15μmのアルミ箔(集電体)に塗布した。正極合剤を塗布したアルミ箔を乾燥後、プレス処理をして負極を作製した。
【0046】
作製した正極、セパレータと負極を記載順に積層し、負極が外周側になるように積層物を渦巻き状に巻いて電極群を作製した。
セパレータとして、ポリエチレン製多孔質フィルム及びセルロースからなるセパレータを用いた。
エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを体積比で1:2の割合で混合した混合溶媒に六フッ化リン酸リチウムを1.0mol/l溶解して非水電解溶液を調整した。
作製した電極群と調整した非水電解質溶液をステンレス製の有底円筒状容器内にそれぞれ収容して円筒型非水電解質二次電池を組み立てた。なお、組み立てた二次電池の全体の容量が1000mAhになるように、正極及び負極塗布量を調整した。
【0047】
組み立てた非水電解質二次電池の正極電極の単位質量あたりの初回容量(mAh/g)、レート特性(mAh/g)とサイクル特性(mAh/g)を下記の条件で測定した。測定環境温度を25℃と設定し、それぞれ1Cレートにて2.2Vまで定電流−定電圧充電し、0.2Cレートにて1.2Vまで定電流放電を行って初回容量を測定した。次に、1Cレートで定電流−定電圧充電後5Cレートにて、1.2Vまで定電流放電を行って放電容量をレート特性として測定した。1Cレートで定電流−定電圧充電後1Cレートにて、1.2Vまで定電流放電を10サイクル行って10サイクル目の放電容量をサイクル特性として測定した。
結果を表1に記載した。
【0048】
(実施例2−7)
正極材料の作製において、表1に記載の比率でLiFePO
4とLiCoO
2を調整して製造したこと以外は実施例1と同様である。
【0049】
(実施例8−
12、参考例1)
正極材料の作製において、LiFePO
4と表1に記載の被覆材料を質量比で100:6となるように調整して製造したこと以外は実施例1と同様である。
【0050】
(実施例
13−14)
正極材料の作製において、表1に記載のコア粒子を用いて、コア粒子と被覆材料の質量比が100:6となるようにして製造したこと以外は実施例1と同様である。
【0051】
(実施例
15−18)
正極材料の作製において、表1に記載のコア粒子を用いて、コア粒子と被覆材料の質量比が100:1〜4となるようにして製造したこと以外は実施例1と同様である。
【0052】
(比較例1−3)
正極材料の作製において、表1に記載したコア粒子を用い、被覆材料によるコア粒子への被覆工程を省略したこと以外は実施例1と同様である。
【0053】
(比較例4−12)
正極材料の作製において、表1に記載した被覆材料を用い、表1に記載した比率で製造したこと以外は実施例1と同様である。
【0054】
(比較例13)
正極材料の作製において、表1に記載したコア粒子と被覆材料を用い、表1に記載した比率で、被覆工程を省略し、混合して製造したこと以外は実施例1と同様である。
【0055】
【表1】
【0056】
実施例1−
18、参考例1と比較例1−3を比較すると、ポリアニオン系化合物のコア粒子の表面に実施の形態の被覆材料で被覆させた正極材料を用いた実施例の非水電解質二次電池は、いずれの実施例においても、コア粒子表面を被覆しない比較例の非水電解質二次電池に対して、電池容量が向上していることを確認した。また、比較例4,5では、電子伝導性が低い化合物でコア粒子を被覆したため、初期容量が小さくなったと考えられる。つまり、実施の形態のような電子伝導性が高い被覆材料でコア粒子を被覆することで、正極材料のレート特性を改善することができることがわかった。
【0057】
実施例1−
12、参考例1と比較例1、7−9を比較した場合、いずれも比較例1に比べ放電容量、レート特性が向上していることが確認された。被覆を行っていないLiFePO
4では、電子伝導性が不充分なため放電中の抵抗が大きく、電気化学的に不活性な粒子も存在するため、低いレートであっても理論容量(170mAh/g)に対する放電容量比率(=放電効率)は6割程度となった。一方、実施例1、比較例7の結果から、導電性の高い材料でコア粒子表面を被覆すると、電子伝導性が向上し、各粒子間の電子伝導が行われるようになるため、放電容量が増加することが確認された。
比較例7−9に見られるように被覆量を増加させると、更に電子伝導性が改善し、理論容量に対する放電容量の比率が増加するが、カーボンが充放電に寄与しないため、理論容量そのものの減少が起こる。比較例9では、被覆されたカーボン込みの理論容量は160mAh/gまで減少する。結果、カーボン被覆量を増加させることで、放電容量が減少している。一方、実施例1−
12、参考例1においては、被覆部が充放電に寄与するため被覆量を増やしても、理論容量がほぼ減少せず、その結果高い放電容量が得られた。特に実施例
10に見られるようにコア粒子となるLiFePO
4よりも高い理論容量を持つ材料を被覆することで、電子伝導性の改善効果と共に理論容量も向上し、高い放電容量が得られることが分かった。
【0058】
実施例1−7と比較例1を比較すると、コア粒子に対する被覆材料が一定割合までは増加すればするほど、容量及びレート特性が向上する。これは、コア粒子の表面を覆う被覆材料の面積の割合が増えることで、正極材料の電子伝導性が改善したからである。しかし、実施例1に見られる様に被覆材料の導入量が不充分だと、コア粒子表面の被覆材料が分散し、孤立した状態となるため、電子伝導性のネットワーク形成が不充分となり、レート特性の改善効果が小さくなる。
【0059】
一方、実施例7に見られる様に被覆材料の割合が多くなると、被覆材料自体のサイクル特性劣化の影響が大きくなる。本実施の形態では安全性、サイクル性に優れるポリアニオン系化合物の特性を生かしたまま電極容量、レート特性を向上させることが目的なので、被覆材料はコア粒子の特性を損なわない範囲で用いることが好ましい。前述したとおり、コア粒子の質量に対して3質量%以上10質量%以下の範囲の被覆材料を用いることが好ましい。
【0060】
実施例1−7と比較例13を比較すると、いずれの実施例も被覆材料と混合しただけの比較例13に比べ、充放電容量、レート特性、サイクル特性いずれにおいても向上していることが分かった。実施例5では、被覆率が80%だったのに対し、比較例13では、同質量の被覆材料を用いていても被覆率が5%となった。これは、比較例13においてはコア粒子であるLiFePO
4上へLiCoO
2粒子が点状に接触しているだけであり、粒子の偏在も起きているため、コア粒子との接触箇所が少なくなったためである。このような状態では、被覆材料によるレート特性の改善効果が不充分であるため、レート特性だけでなく、充放電容量、サイクル特性に関しても、被覆を行わなかった場合と同程度か悪い特性となった。つまり、実施の形態のように電子伝導性の高い材料を表面に被覆することで、充放電容量、レート特性、サイクル特性に優れた正極材料が得られることが分かった。
【0061】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態そのままに限定解釈されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより種々の発明を形成することができる。例えば、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせても良い