(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
広く認識されている様に、負性抵抗素子は、共振器を伴い、電磁波の発振器の応用分野で有用である。これまで、ミリ波帯からテラヘルツ波帯まで(30GHz以上30THz以下)の周波数帯域のうちの少なくとも一部の周波数成分を含む電磁波(以後、単にテラヘルツ波などとも呼ぶ)を発生させることで知られている。その一つとして、負性抵抗素子を基板上にモノリシック(monolithic)化した発振器が非特許文献1に開示されている。負性抵抗素子を有する半導体基板上にスロットアンテナを集積し、共振器構造と利得媒質がモノリシックに構成されている。
【0003】
図10は、非特許文献1の発振器を示す図である。この発振器において、負性抵抗素子としては、コレクタ側にショットキー障壁(Schottky barrier)を備えた共鳴トンネルダイオード(Resonant−Tunneling−Diode)S−RTD11を用いている。共振器としては、スロットアンテナを用いている。非特許文献1におけるスロットアンテナは、半導体基板上の金属パターン12で構成され、そのスロットの端部に容量13、14を備えている。非特許文献1の発振器は、更に、整流ダイオード15も備えている。ここで、整流ダイオード15は、負性抵抗素子を用いた発振器で問題となる寄生発振を抑制するための安定化回路をなしている。寄生発振とは、所望の周波数とは異なる低周波側の周波数帯における寄生的な発振のことを指す。こうした寄生発振は所望の周波数における発振出力を著しく低下させるため、負性抵抗素子を用いた発振器において安定化回路の存在は非常に重要といえる。その詳細については、次の通りである。発振器の発振波長をλ
osc、発振周波数をω
oscとすると、寄生発振を抑制するためには、DC以上ω
osc未満の周波数領域においてバイアス供給のための電源側のインピーダンスが低いことが必要である。そのための一つの方法として、S−RTDから見て電源側に向かってλ
osc/4以内の位置に低インピーダンス回路(例えば、シャント整流ダイオードなど)が配置されるべきである。それ故、
図10では、こうした低インピーダンス回路として、S−RTD11から見て電源16側に向かってλ
osc/4以内の位置に整流ダイオード15を集積している。17は、電源16の内部抵抗及び接続線が持つ抵抗を合計したものである。
【0004】
また、共振器における容量成分を変化させることによって発振器は発振周波数や振幅を可変にすることができる。特許文献1には、負性抵抗ダイオードと同一基板上に集積したショットキーダイオードをバラクタ(可変容量素子)として用いた可変発振器が開示されている。バラクタの容量は、負性抵抗ダイオードにバイアスするための電源とは独立な電源によって制御可能である。このため、特許文献1の可変発振器は電圧制御発振器(VCO)として、例えば、電源の制御バイアスで発振するミリ波を変調して送信する様な用途に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態の発振器において重要なことは、次の通りである。すなわち、安定化回路の抵抗成分Rとバイアス回路における寄生インダクタンス成分Lとが、LRローパスフィルタ回路を形成することに注意し、上述のろ過を避ける構成を採用することにある。故に、本発明の電圧変調部は、安定化回路より負性抵抗素子の側に配置している。電圧変調部は、負性抵抗素子の電圧を変調することができる構成なら何でもよい。しかしながら、新規に導入する電圧変調部による寄生発振には注意するべきであって、電圧変調部は外部回路からは孤立して構成することが望ましい。こうした考え方に基づき、本発明の発振器の基本的な構成は、上述した様になっている。
【0012】
以下、図を用いて本発明の実施形態ないし実施例を説明する。
【0013】
(実施形態1)
実施形態1に係る発振器について、
図1を用いて説明する。
図1は、本実施形態に係る発振器の回路構成を表す図である。
【0014】
本実施形態の発振器は、負性抵抗素子101と電磁波の発振周波数を規定する共振器102とを含み、ミリ波帯からテラヘルツ帯(30GHz以上30THz以下)の周波数帯域における電磁波を発振する。負性抵抗素子101と共振器102の配置関係は、
図1に示すものでもよいし、両者の位置を交換したものでもよい。また、共振器102のインダクタンスと容量の表記は、負性抵抗素子101のインダクタンス成分と容量成分も含んで表記されているものである。負性抵抗素子101は、典型的には、共鳴トンネルダイオード(RTD)やエサキダイオード、ガンダイオードが選ばれる。一端子を終端したトランジスタを用いてもよい。共振器102は、LC共振器でもよいし、非特許文献1に記載された様な分布定数型のアンテナを共振器として用いてもよい。同図で省略している共振器102の負荷抵抗は、負性抵抗素子101の負性抵抗領域における負性抵抗の絶対値より大きな値が与えられる。
【0015】
バイアス回路は、電源105と配線106とを含み、有限の長さの配線には必ず寄生的なインダクタンス成分106を伴う。電源105は、負性抵抗素子101の駆動に必要な電流を供給し、その静的な動作点電圧を調整する。動作点は、典型的には、負性抵抗領域から選択され、その電圧をVとする。寄生発振を防止ないし抑制するための安定化回路104は、本実施形態では単純に抵抗104によって構成する。勿論、非特許文献1の様に、シャント素子を用いてもよいし、抵抗104と並列に容量を伴ってもよい。ここで、抵抗104の値は、安定化条件のため、負性抵抗素子101の負性抵抗領域における負性抵抗の絶対値と等しいか少し小さい値をとるべきである。典型的には20Ω程度かそれ以下である。配線のインダクタンス106は例えば1nH以上であって、この数値例では、上述のローパスフィルタ回路のLRカットオフ周波数f
LRは3.2GHz以下となる(∵f
LR=1/(2πL/R)=3.2GHz)。
【0016】
LRローパスフィルタによるろ過を避けるため、負性抵抗素子101の電圧を変調する電圧変調部103は、安定化回路104を介在してバイアス回路105、106に接続される。勿論、変調すべき負性抵抗素子101にも接続される。この様に、電圧変調部103は、安定化回路104と負性抵抗素子101とにそれぞれ接続される。こうした電圧変調部103は、例えば、共振器102とは異なる別個の共振器で構成したり、フォトカプラで構成したりしてもよい(これらについては、後述の実施形態を参照)。トランスを用いてもよい。トランスは、例えば、交流電源に繋がった1次の巻線103aに対して2次の巻線103bが
図9に示す様に接続される。いずれにせよ、電圧変調部103より安定化回路側(
図1における右側)の電圧Vに対して、電圧変調部103より負性抵抗素子側(
図1における左側)の電圧をV+δV(ω
m)と変調する構成であれば、何でもよい。ここで、δV(ω
m)は時間的に変調された電圧を指し、変調(角)周波数ω
mはω
m>2πf
LRの様な超高速な周波数帯を用いても問題ないのが本発明の特徴である。
【0017】
負性抵抗素子101は動作点電圧Vの周りに非線形性(電圧Vと電流Iとの関係I(V)が線形ではないこと;負性抵抗素子は必ず非線形性を有している)を有しているため、発振周波数ω
0に変調周波数ω
mをミキシングすることができる。従って、本実施形態の発振器は、
図2の如く発振(角)周波数ω
0の周りに、差周波(ω
0−ω
m)ないし和周波(ω
0+ω
m)の周波数発生をすることができる。発振周波数ω
0と変調周波数ω
mとの関係は、一般に、変調度(modulation depth)と呼ばれる量で定義される。変調度が比較的小さい場合は、
図2(a)の様に、(ω
0±ω
m)の周波数が発生し、変調度が比較的大きい場合は、
図2(b)の様に、(ω
0±ω
m)、(ω
0±2ω
m)・・・の周波数が発生する。こうした理由で、本実施形態の発振器は発振型のミキサ装置でもあって、複数の周波数を発生できる。尚、電圧変調部は一つに限ることなく、複数個備えてもよい。この際、複数個の電圧変調部は負性抵抗素子101にそれぞれ接続される。また、それぞれにスイッチを付加すれば、変調周波数をスイッチングすることもできる。
【0018】
(実施形態2)
実施形態2に係る電磁波発生素子について、
図3を用いて説明する。
図3は、本実施形態に係る発振器の回路構成を表す図であって、実施形態1の変形例を示している。
【0019】
本実施形態が実施形態1と異なるのは、具体的に電圧変調部103を変調周波数ω
mの共振器203によって構成している点である。その他は、実施形態1と同様である。すなわち、201は負性抵抗素子、202は発振周波数ω
0の共振器、204は安定化回路(抵抗)、205、206はバイアス回路である。変調周波数ω
mの共振器203は、分布定数型の共振器が好適である。この場合、負性抵抗素子201は、第一の共振器202による発振周波数ω
0と第二の共振器203による変調周波数ω
mを同時に発振させることになる。
【0020】
発生周波数が等間隔であるコム状の周波数コム発生装置を構成する場合、203はω
mが一つのLC共振器が好ましい。この際、LC共振器203のインダクタンス成分Lと容量成分Cは、それぞれ、ストリップ導体やMIM(Metal−Insulator−Metal)容量などで構成してもよい。基板上にモノリシック化した発振器を構成することができるからである。ストリップによってインダクタンス成分Lを発生させるためには、変調周波数ω
mのストリップ上の等価波長をλ
mとしたとき、ストリップの長さはλ
m/4より十分に小さくするのが好ましい。これは、長さλ/4未満の伝送線は誘導性、長さλ/4を超えλ/2未満の伝送線は容量性となるからである。勿論、これに限ることはなく、メアンダ型の伝送線や比較的インダクタンスの大きいチップインダクタ等のコイルを用いてMIM容量のためにスペースを節減してもよい。
【0021】
LC共振器型の例として、
図4(a)の様な回路構成も考えられる。インダクタンスLの3031と容量Cの3033は変調周波数ω
m=1/√(LC)の共振器をなし、バイアス電源205からの電流が接地に直接流れ込まない様にDCカット用の容量3032を備えている。
【0022】
発生周波数が複数個のマルチ周波数発生装置を構成する場合、203はω
mが複数個出現する誘電体共振器などの分布定数型共振器が好ましい。この際、複数個の変調周波数ω
mは、分布定数型共振器203の形状によって決まり、基本共振モードω
m1からn次の共振モードω
mnまで様々である(ω
mnはω
m1の倍波とは限らない)。従って、多数(ω
0+ω
m1)、(ω
0−ω
m1)・・・(ω
0+ω
mn)、(ω
0−ω
mn)の周波数発生をすることができる。勿論、L、Cなどの集中定数要素とスタブなどの分布定数型を組み合わせたハイブリッド型共振器も考えられる。ハイブリッド型の例として、
図4(b)の回路構成が考えられる。インダクタンスLの4031と容量Cの4033は変調周波数ω
m=1/√(LC)の共振器をなし、バイアス電源205からの電流が接地に直接流れ込まない様にオープンスタブ4032を備えている。この場合、インダクタンスLはハイブリッド型である。Lが純インダクタンスとして機能するのはオープンスタブ4032がAC接地扱いのλ/4スタブ、3λ/4スタブ、5λ/4スタブ・・・となる様な場合である。この場合、複数個の変調周波数ω
mは、順に1/√(L
λ/4C)、1/√(L
3λ/4C)、1/√(L
5λ/4C)・・・の様に決まる。
【0023】
(実施形態3)
実施形態3に係る電磁波発生素子について、
図5を用いて説明する。
図5は、本実施形態に係る発振器の回路構成を表す図であって、実施形態1の変形例を示している。
【0024】
本実施形態が実施形態1と異なるのは、電圧変調部103を具体的に変調周波数ω
mを送受信するフォトカプラによって構成している点である。フォトカプラによれば、電気回路的に孤立しつつ電圧変調部の変調周波数を可変することができる。その他は、実施形態1と同様である。すなわち、501は負性抵抗素子、502は発振周波数ω
0の共振器、504は安定化回路(抵抗)、505、506はバイアス回路である。フォトカプラ(5031、5032)は、送信用光素子5032と受信用光素子5031とが電気回路的に孤立しているために、寄生発振の原因とならず好適である。また、本実施形態では、変調周波数ω
mを送信用光素子5032の側から高速に制御することができる。例えば、変調周波数ω
mを10GHzでスイッチングすることもできる。これは、実施形態2の基本的には固定されている変調周波数に対して、変調周波数が自由に制御にできる本実施形態の重要な特徴といえる。
【0025】
本実施形態では、フォトダイオード5031は、カソード(陰極)が負性抵抗素子501に接続され、アノード(陽極)が安定化回路504に接続されている。従って、電源505の電圧Vはフォトダイオード5031におけるターンオン電圧V
fだけ多く印加する。また、フォトダイオード5031が受光したときに素子抵抗を流れるフォトカレントが電位差δVを生成する。従って、安定化回路側(
図5における右側)の電圧V+V
fに対して、負性抵抗素子側(
図5における左側)の電圧をV+δV(ω
m)と変調する構成となる。変調周波数ω
mはフォトダイオード5032を不図示のシンセサイザなどによって変調すればよく、シンセサイザの発振周波数がそのまま変調周波数ω
mとなる。尚、この様な回路構成は、例えば、半導体基板上においてフォトダイオード層5031を負性抵抗素子層501上(或いはその逆)にスタックするなど、同一基板上にモノリシック化することもできる。
【0026】
更に具体的な発振器について、以下の実施例で説明する。
【0027】
(実施例1)
実施形態2に対応するより具体的な実施例1を説明する。本実施例に係る発振器について、
図6を用いて説明する。
図6(a)は、本実施例に係る発振器の回路構成を表す図である。
図6(b)は、回路構成の一部が集積された構造を表す図である。
【0028】
本実施例において、601は、共鳴トンネルダイオード(RTD)である。本実施例におけるRTD601は、InP基板上のInGaAs/InAlAs、InGaAs/AlAsによる多重量子井戸構造とn−InGaAsによる電気的接点層を伴って構成される。多重量子井戸構造としては、例えば三重障壁構造を用いる。より具体的には、AlAs(1.3nm)/InGaAs(7.6nm)/InAlAs(2.6nm)/InGaAs(5.6nm)/AlAs(1.3nm)の半導体多層膜構造で構成する。このうち、InGaAsは井戸層、格子整合するInAlAsや非整合のAlAsは障壁層である。これらの層はキャリアドープを意図的に行わないアンドープとしておく。この様な多重量子井戸構造は、電子濃度が2×10
18cm
−3のn−InGaAsによる電気的接点層に挟まれる。こうした電気的接点層間の構造の電流電圧I(V)特性において、ピーク電流密度は280kA/cm
2であり、約0.7Vから約0.9Vまでが負性抵抗領域となる。RTDが約3μmΦのメサ構造の場合、ピーク電流20mA、負性抵抗−10Ωが得られる。
【0029】
次に、602はパッチアンテナを利用したテラヘルツ波の共振回路である。パッチアンテナ602としては、ここでは、発振周波数が約0.4THzに設計されたl=200μmの正方形パターンの50Ω導体パッチを用いる。RTD601は、パッチの中央からはx=40μmだけ外側へ配置する。パッチアンテナ602はRTD601の一方の電極でもあり、誘電体(
図6(b)におけるBCB)によって隔てられている接地導体(
図6(b)におけるGround plane)はRTD601のもう一方の電極を兼ねている。従って、構造上、ミリ波帯の容量6033としての素子を兼ねている。
【0030】
6031は、幅12μm、長さl
strip=100μmの50Ωマイクロストリップラインである。本実施例では、パッチアンテナ602における接地導体とマイクロストリップライン6031における接地導体は共通の導体(
図6(b)におけるGround plane)を用いる。マイクロストリップライン6031は、バイアス回路605、606から負性抵抗素子601にバイアスを供給する役割を持ちつつ、変調周波数帯(例えばミリ波帯)付近のインダクタンスとしての役割も持つ。このため、
図6(a)においては、インダクタンスの記号を使って表示してある。そして。インダクタンスの値は、ミリ波帯においてはおよそ0.02nHと近似的に扱える。
【0031】
6032は容量である。例えば、同じInP基板上のMIM容量を利用してもよい。本実施例では数pF程度を用いているが、容量の値は大きいほうが上述のインダクタンス値の近似のためには好ましい。例えば、30pF以上あれば、マイクロストリップライン6031のインダクタンスとしての機能は、低周波側に約30GHz付近まで拡張できる。より正確には、容量6032で終端されたマイクロストリップライン6031の次式の入力インピーダンスの虚数成分を参照するとよい。
Z
in=Z
0(Z
6032+jZ
0tan(βL))/(Z
0+jZ
6032tan(βL))ここで、βはマイクロストリップにおける2π/λ、Lはマイクロストリップにおける長さである。Z
0はマイクロストリップの特性インピーダンス、Z
6032=1/jωC
6032はキャパシタンスCの容量6032のインピーダンスである。尚、安定化回路604まで考慮する場合は、与式におけるZ
6032を1/(Y
604+jωC
6032)に置き換えればよい。Y
604は安定化回路604のアドミッタンスである。実部、虚部ともに正のY
604は上述の近似の精度を悪くするものにはならない。
【0032】
本実施例における電圧変調部は、インダクタンス6031が0.02nH、容量6033が0.28pFのLC共振器であるから、そのLC共振周波数は67GHzと計算される。これが、発振周波数約0.4THzを変調する。
【0033】
図7は、本実施例に係る発振器及び周波数コム発生装置の発生周波数を表す図である。本実施例の装置を動作点電圧約0.8Vで駆動すると、395GHzの発振周波数の周りに66GHzのコム状の周波数が発生した。繰り返し周波数300Hzのパルス駆動(Duty10%)を駆動条件として、FT−IR分光器を用いて発生周波数を分光した。
図7において、(ω
0−ω
m)=329GHz・・・(ω
0+ω
m)=461GHz、(ω
0+2ω
m)=527GHz、(ω
0+3ω
m)=593GHz、(ω
0+4ω
m)=659GHzの周波数が発生したことが確認できる。どの周波数間隔をとっても正確に66GHzである。ω
0より(ω
0+2ω
m)の出力が大きいことから変調度は比較的大きいものと予想される。また、791GHz、923GHzの周波数発生も確認されているが、791GHzは基本波発振395GHzの二倍高調波、923GHzはこれを66GHzで変調した成分と考えられる。この様に、本実施例は、動作点電圧を調整することで、発振器の発振周波数の周りに、電圧変調部の変調周波数もしくはその整数倍だけ離れた周波数の電磁波を複数個発生することができる周波数コム発生装置として構成することができる。
【0034】
本実施例の発振器は、複数の周波数における反射や透過を測定する様な工程検査装置などの用途に使用することができる好適な例を示すものである。
【0035】
(実施例2)
実施形態2に対応するより具体的な実施例2を説明する。本実施例に係る発振器について、
図8を用いて説明する。
図8(a)は、本実施例に係る発振器の回路構成を表す図である。
図8(b)、(c)は、それぞれ回路構成の一部が集積された構造を表す図である。
【0036】
本実施例は実施例1の変形例であって、容量6032の代わりにオープンスタブ7032とし、また、スタブをバイメタルによって構成した例を表している。その他は、実施例1と同様である。すなわち、701はRTD、702はパッチアンテナ、704は安定化回路(抵抗)、705、706はバイアス回路である。また、ミリ波帯の容量7033は実施例1と同様にパッチアンテナ702(l=200μm、x=40μm)が兼ねており、7031はマイクロストリップ(l
strip=100μm)である。
【0037】
オープンスタブ7032は、67GHzのλ/4の長さに設計される。例えば、マイクロストリップ7033と同様の幅12μmとすると、長さ1mmがλ/4に相当する。この場合、67GHzは、オープンスタブ7032の付け根(マイクロストリップ7033と交差する部分)がAC短絡扱いになるため、マイクロストリップ7031が、67GHz付近のインダクタンスとしての役割を持つ。ただし、オープンスタブ7032は3λ/4に相当する200GHzなどにも同様に作用するため、分布定数型の共振器の共振周波数は67GHz、200GHzなどと計算される。それぞれを、ω
m1、ω
m2とすると、例えば、(ω
0−ω
m1)は勿論、(ω
0−ω
m2)=(395−200)GHz=195GHzの周波数発生も行うことができる。
【0038】
また、本実施例では、オープンスタブ7032が、電気回路的に孤立しつつ電圧変調部の変調周波数を可変する制御手段である熱制御手段7034による熱印加によって変形する。
図8(b)、(c)は熱変形の前後を表しており、
図8(b)はスタブが変形していないとき、
図8(c)は、熱印加によって変形してスタブの半分程度の先端部が誘電体表面から浮き上がったときを表す。そのとき、スタブと接地導体(
図8(c)におけるGroundplane)の間には誘電体(
図8(c)におけるBCB)の他に間隙(空気)7035が加わることとなる。故に、同じ1mmのスタブ7032の等価波長は短縮し、共振周波数ω
m1、ω
m2は高周波側にシフトする。この際、ω
m1よりω
m2の様な高次の共振モードのほうが、シフト量が大きくなる。典型的には、n次の共振モードは基本共振モードのn倍シフトするため、発振周波数と高次の共振モードとをミキシングした周波数発生は、比較的大きなシフト量が必要なアプリケーションに利用することができる。
【0039】
以上では、バイメタルを利用する手段によって変調周波数ω
mnを可変としているが、勿論これに限ることはなく、誘電体部分において電気泳動を利用する方法、液晶を利用する方法も考えられる。しかしながら、電圧変調部は外部回路から電気回路的に孤立して構成することが望ましい。
【0040】
また、変調周波数ω
mnだけでなく発振周波数ω
0を可変とする様なRTD部分に応力を印加する方法など、いくつかの手段も考えられる。本実施例の発振器は、複数の周波数帯における吸収スペクトラムを観察する様な分光装置などの用途に使用することができる好適な例を示すものである。
【0041】
(実施例3)
実施形態3に対応するより具体的な実施例3を説明する。本実施例に係る発振器について、
図11を用いて説明する。
図11は、負性抵抗素子とフォトダイオードが同一基板上に集積された構造を表す断面図である。
【0042】
負性抵抗素子層1101には実施例1と同じ、RTDを用いる。その各層は実施例1に示した通りであって、メサ構造に加工され、パッチアンテナと接地導体とに接する。パッチアンテナは実施例1と同様のものでよい。本実施例ではさらに、負性抵抗素子層1101の下に、400nmのn−InGaAs層1102と400nmのn−InP層1103が配されている。n−InP層1103は表面が露出しており、その表面部にショットキー電極1104が配置されている。すなわち、実施例2では、RTDとショットキーダイオードとが同一基板1100上に集積された構造を示すものである。ショットキーダイオードは、フォトダイオードとしても用いることが可能であり、単一キャリア(本実施例では電子)のダイオードゆえ、10GHz以上の超高速応答が可能である。これよりは比較的遅いpnダイオード(pinダイオード)を用いてももちろんよい。図のように表面、あるいは1.5μm帯であれば裏面から光を入射すると特性が変化し、RTDの動作点を変調することができる。ゆえに、出射するテラヘルツ波を変調することができる。本構造では、RTDの接地電極とショットキーダイオードのカソード(陰極)とがn−InGaAs層1102を介して隣接して接続されているため、超高速動作に問題となる直列抵抗や浮遊容量を低減される。不図示であるバイアス回路や安定化回路を伴って、実施形態3のように用いることもできる。
【0043】
本実施例の発振器は、パッチアンテナの発振周波数ω
0の周りのサイドバンドにおける超高速通信などの用途に使用することができる好適な例を示すものである。