【実施例1】
【0031】
図1〜4において本発明に係る弾性補強支柱1は、老朽化した地下埋設のコンクリート製の貯水槽2の内部3に立設状態に収容されて該貯水槽2を該内部3で補強するものであり、支柱本体5の下部6に、該貯水槽2の底版部7に設置される下部支持部9が設けられると共に、該支柱本体5の上部10に、該貯水槽2の頂版部11を下方から支持する上部支持部12が設けられている。
【0032】
該上部支持部12及び/又は該下部支持部9は、前記支柱本体5の軸線方向で弾性伸縮可能な弾性伸縮部13を有している。本実施例においては
図1〜2に示すように、弾性伸縮するのは前記上部支持部12のみとされている。そして、前記下部支持部9は前記底版部7に固定される一方、前記上部支持部12の上端14が前記頂版部11の下面16に、該下面16に対して水平方向でスリップ可能の非固定状態で当接されるものとなされており、前記頂版部11に垂直荷重が作用したとき該頂版部11は、前記上部支持部12によって、前記弾性伸縮部13が稍弾性圧縮して下方から支持されるようになされている。そして、前記上部支持部12の上端部分15に、上面が水平なスリップ面24(前記上端14)とされたスリップ板(以下、下のスリップ板ともいう)18が設けられており、該スリップ面24は、前記頂版部11の下面に設けられた水平なスリップ面28と面接触状態を呈し得るようになされている。
【0033】
本実施例においては
図2〜4に示すように、前記上部支持部12の上端部分15 にスリップ板18が、貼着等によって固定状態に設けられている。該スリップ板18の前記スリップ面24は、前記頂版部11の下面16に貼着等によって固定状態に設けられたスリップ板(以下、上のスリップ板ともいう)19の水平な上面としてのスリップ面28と面接触状態を呈することができ、該上下のスリップ面28,24間で水平方向でのスリップが生ずるようになされている。前記非固定状態の当接は、本実施例においてはこのように、該上下のスリップ板19,18を介して行なわれている。
【0034】
以下、これをより具体的に説明する。前記貯水槽2は、例えば、構築後50年程度を経過して老朽化している、コンクリート現場打ち施工による防火水槽2aである。該貯水槽2は
図1、
図5〜6に示すように、その内空横断面部20が正方形状を呈し、底版部7と側壁部21と頂版部11とで構成された直方体函状を呈している。該内空横断面部20の上下方向F1の長さと左右方向F2の長さは共に例えば2800mm程度に設定され、該貯水槽2の延長方向F3の長さは例えば5200mm程度に設定されている。そして前記底版部7と前記頂版部11には、その隅角部分に位置させて、マンホール部22と集水ピット23とが上下対向状態で設けられている。
【0035】
該防火水槽2aは、構築当時の緩い設計基準や設定荷重で構築されていて、鉄筋量が少なく、又、径年変化による内部鉄筋の腐食もあって耐力低下が生じている。その頂版部11の配筋状態は、非破壊検査では正確に判定し難いものであるが、本実施例においては例えば
図1に示すように、その内側部分(下側部分)25には鉄筋26が必要量だけ配筋されているが、該頂版部11の外側部分27の内、前記中央部分27の外側部分(上側部分)27aについては全く鉄筋が配筋されていない状態のものとする。なお
図1においては、頂版部11以外の部分の配筋状態の図示を省略している。
【0036】
そして本実施例においては例えば
図5〜6に示すように、3本の弾性補強支柱1,1,1が、貯水槽2の左右方向F2の中央部位において且つ前記延長方向F3に略等間隔で立設状態に収容されている。
【0037】
該弾性補強支柱1は、
図1〜4に示すように、横断面円形状を呈する鋼製の支柱本体5の下部6に、前記底版部7に載置される下部支持部9が設けられると共に、該支柱本体5の上部10に、前記頂版部11を下方から支持する上部支持部12が設けられている。該弾性補強支柱1の上下長さは、前記貯水槽2の内空高さよりも100〜200mm程度短く設定されている。本実施例においては130mm程度短く設定されている。
【0038】
該下部支持部9は本実施例においては
図2、
図4、
図7に示すように、前記支柱本体5の外形よりも直径の大なる円板状を呈する鋼板製の下の基板29が、前記支柱本体5と同心状態で該支柱本体5の下端30に当接され溶接等により固定されている。そして、該下の基板29の上面31と前記支柱本体5の下端側の外周面32とは、周方向に例えば90度の角度ピッチで配設された補強リブ板33で連結されている。又、前記下の基板29には、隣り合う補強リブ板33,33間の夫々において、同一円周上で1個の下の挿通孔35が上下方向で貫設されている。該下の挿通孔35には、後述の支柱軸36が挿通する。
【0039】
又前記上部支持部12は、本実施例においては、
図2〜4、
図8に示すように、前記下の基板29と同径の円板状を呈する鋼板製の上の基板37が、前記支柱本体5と同心状態で該支柱本体5の上端38に当接され溶接等により固定されている。又、該上の基板37の下面39と前記支柱本体5の上端側の外周面40とは、補強リブ板41で連結されている。そして該上の基板37には、隣り合う補強リブ板41,41間の夫々において、同一円周上の両側に位置させて2個の上の挿通孔42,42が上下方向で貫設されている。
【0040】
又、
図2〜4、
図8〜10に示すように、該上の基板37の稍上方に位置させて、該上の基板37と同径に形成された円板状を呈する鋼板製の支持板43が配設されており、該支持板43の下面45には、
図9〜10に示すように、前記上の挿通孔42を上下方向で挿通するガイド軸46が下方向に突設されている。夫々のガイド軸46は、本実施例においてはネジ軸46aを以って構成されており、
図3に示すように、バネ部材48である緩衝バネ積重体47の連続挿通孔49に挿通され該ガイド軸46の下端部分50が前記上の基板37の前記上の挿通孔42を挿通して下方に突出せしめられ、該突出した下端ネジ軸部51にナット52が螺合されることにより、該緩衝バネ積重体47が、前記上の基板37と前記支持板43との間で所要の圧縮状態とされる。これによって上部支持部12に、前記支柱本体5の軸線方向で弾性伸縮可能な前記弾性伸縮部13が設けられた状態とされている。該支持板43は、該緩衝バネ積重体47の弾性圧縮を伴いながら更に下方向に移動可能(沈下可能)となされている。
【0041】
かかる構成を有する弾性補強支柱1の主要部の寸法を例示すれば、前記支柱本体5の外径は約102mmに設定される共に前記上下の基板37,29と前記支持板43の径は約350mmに設定されている。そして、前記下の挿通孔35の孔径と、前記上の挿通孔42の孔径は、共に約18mmに設定されている。又、前記支柱軸36の径は約16mmに設定される共に前記ガイド軸46の径は約16mmに設定され、前記上下の基板37,29及び前記支持板43の肉厚は約6mmに設定されている。
【0042】
前記緩衝バネ積重体47は本実施例においては
図3に示すように、所要枚数の皿状バネ53をその表裏を適宜逆にしながら積重して構成されたバネ部材48を以て構成されており、該緩衝バネ積重体47の上下厚さは例えば38mm程度に設定され、前記支持板43が該緩衝バネ積重体47の弾性圧縮を伴いながら前記上の基板37に向けて、最大で10mm程度沈下可能となされている。鉛直方向の作用荷重による前記頂版部11の下方向への最大変位量は、通常2mm程度であるため、前記支持板43がこの程度沈下できれば何ら問題がない。
【0043】
本実施例においては
図3〜4に示すように、前記円板状の支持板43の上面55に例えば3mm程度の厚さを有する前記下のスリップ板18が貼着等によって固定され、該下のスリップ板18の上面は水平なスリップ面24とされている。該下のスリップ板18は、摩擦係数が小さく腐食しにくい素材を以て構成されている。例えば、ステンレス板や、上面部56がフッ素樹脂で被覆されてなる樹脂板、全体がフッ素樹脂からなる樹脂板等を用いて構成されている。
【0044】
次に、かかる構成を有する弾性補強支柱1を貯水槽2の内部3に立設状態とし、前記上部支持部12で前記頂版部11を下方から支持する施工工程を説明する。そのために
図11(B)、
図3に示すように、前記頂版部11を下方から支持すべき支持部分57の下面16a(前記頂版部11の下面)に例えば2mm程度の厚さを有する上のスリップ板19を貼着等によって固定する。該スリップ板19は、摩擦係数が小さく腐食しにくい素材を以て構成され、例えば、ステンレス板や、下面部56がフッ素樹脂で被覆されてなる樹脂板、全体がフッ素樹脂からなる樹脂板等を用いて構成されている。そして、該上のスリップ板19の下面は水平なスリップ面28とされている。又
図11(A)に示すように、頂版部11に固定されている前記スリップ板19と対向する前記底版部7の上面59の対向部位をモルタル等を塗布して整正し、該整正された設置面60にアンカーネジ筒61を埋設する。前記下部支持部9は、
図2、
図13に示すように、該アンカーネジ筒61に螺合される固定ボルト62を用い、ベース部材63を介して前記底版部7に固定される。
【0045】
該ベース部材63は
図14に示すように、例えば円板状を呈する鋼板製のベースプレート65の上面66で、前記下の基板29に設けられている前記4個の下の挿通孔35,35,35,35を上下方向で挿通し得る前記支柱軸36,36,36,36を立設してなり、その外周縁部分67において、同心円上で4個の固定孔69,69,69,69が、隣り合う支柱軸69,69の夫々に関し、その中間に位置するように設けられている。該ベースプレート65の径は前記下の基板29の径よりも稍大きく形成されている。そして該ベース部材63は、
図2、
図13に示すように、そのベースプレート65を前記底版部7の上面59に設けた前記設置面60に設置して後、各固定孔69を挿通する前記固定ボルト62を前記アンカーネジ筒61に螺合し締め付けることによって前記底版部7に固定される。
【0046】
本実施例においては、前記下部支持部9を前記底版部7に固定するに先立って、
図11(A)、
図12に示すように、前記ベース部材63が前記下部支持部9に仮取り付けされている。この仮取り付けは、
図12に示すように、前記支柱軸36の夫々を、前記下の基板29に設けられている前記下の挿通孔35(
図14)の対応のものに挿通状態として行う。その際、前記支柱軸36には、該下の基板29を上下から挾むための締め付けナット(本実施例においては、緩み止め機能を有する二重ナット)70と高さ調整ナット71を螺合しておく。
図12においては、前記支柱軸36の下端側に該高さ調整ナット71を螺合状態にすると共に前記締め付けナット70を前記支柱軸36の上端側に螺合した状態が示されている。
【0047】
前記ベース部材63が仮取り付けされた弾性補強支柱1を、前記マンホール部22を通して前記貯水槽2の内部3に搬入し、
図13に示すように、前記支柱本体5が前記高さ調整ナット71で下方から支持された立設状態とし、前記ベースプレート65を前記底版部7の上面の前記設置面60に設置する。この状態で、前記底版部7に埋設されているアンカーネジ筒61に前記固定ボルト62を螺合し締め付けると、ベースプレート65が底版部7に固定される。そしてこの状態で、前記上部支持部12の前記下のスリップ板18の上面としての前記下のスリップ面24(前記上端14)は、前記頂版部11の下面16に設けた前記上のスリップ面28の稍下方に位置する。
【0048】
その後、
図15に示すように、前記高さ調整ナット71,71,71,71を上昇させて前記下の基板29を持ち上げ、前記上部支持部12を前記頂版部11の前記上のスリップ面28に接近させる。該上部支持部12の上昇は、前記上下のスリップ板19,18間の空隙74(
図13)がなくなるまで行ない、該上下のスリップ板19,18を面接触状態に当接させ、且つ、前記緩衝バネ積重体47の夫々を稍弾性圧縮した状態となす。
【0049】
図15、
図2は、各高さ調整ナット71による高さ調整が完了した状態を示しており、この状態で前記の各締め付けナット70が締め付けられ、前記下の基板29が、前記高さ調整ナット71と前記締め付けナット70とにより締め付けられて所要高さに固定状態とされている。その後、
図2に示すように、前記下の基板29の下面73と前記底版部7の上面59との間にコンクリートやモルタル等の充填材75を充填し、該充填材75の硬化によって、該下の基板29を該底版部7に安定状態に固定する。
【0050】
この状態で前記頂版部11が下方に撓み変形した場合、前記支持板43は、
図2に矢印で示すように、前記緩衝バネ積重体47の弾性圧縮を伴って該頂版部11を支持したまま下方向に移動(沈下)できる。又本実施例においては、上下のスリップ面28,24間で、水平方向での滑りが生ずる。
【0051】
かかる施工工程を経て、
図1、
図5〜6に示す貯水槽の弾性補強構造76が構成されるのであるが、ここで、該弾性補強構造76を構成する弾性補強支柱1による貯水槽2の補強作用を、特許文献1記載の補強構造における支柱の補強作用との対比で、
図16〜18に基づいて、模式化して説明する。
【0052】
図16(A)は、貯水槽2が何ら補強されていない状態を示し、
図16(B)は、貯水槽2の頂版部11を、両端の支点77,78で支持された連続梁79で模式化した図である。該頂版部11には、繰り返しの自動車荷重や、地震時の大きな垂直荷重の作用によって
図16(C)に示すように、大きな正の曲げモーメントM1が発生している。かかる大きな曲げモーメントM1が繰り返して発生すると、該頂版部11が下に向けて円弧状に大きく撓んでその中央の内側部(下面側)にひび割れが生じて該頂版部11の破損を招く恐れがある。
【0053】
図17(A)は、特許文献1記載の補強構造における補強状態を示し、
図17(B)は、貯水槽2の頂版部11を連続梁79で模式化すると共に、その両端と中央部位が支点80,81,82で支持された状態を示しており、中央の支点82は、支柱83の上端85による支持状態を示している。該支柱83の上下長さが変わらないために、地震時の大きな垂直荷重の作用によって大きな突き上げ力が発生している。そして、頂版部11の、該支柱83の上端85による支持部分86に負の曲げモーメントM2が発生し(
図17(C))、該支持部分86の両側部分87,88には正の曲げモーメントM3,M4が発生している(
図17(C))。かかる負の曲げモーメントM2が繰り返して発生すると、頂版部11の外側部分(上側部分)に鉄筋が存在しないことから(
図36)、該頂版部11の外側部分(上側部分)にひび割れが入り易く、このようにひび割れが入ると、その部分から頂版部11の内部に水が浸入してコンクリートの中性化を招き、頂版部11の内側部分に配筋されている鉄筋(
図36)の腐食を招いて頂版部11を弱体化させ、頂版部の崩落を招く危険もある。
【0054】
図18(A)は、前記弾性補強支柱1による補強状態を示しており、
図18(B)は、貯水槽2の頂版部11を連続梁79で模式化している。そして、該連続梁79の両端が支点89,90で支持されると共に、中央部位が、前記上部支持部(前記弾性伸縮部13が設けられている)12からなる支点84で弾性的に支持されている。該頂版部11に、地震時の大きな垂直荷重が作用した場合、該頂版部11が、該弾性補強支柱1の前記弾性伸縮部13によって弾性的に所要の突き上げ力で支持される。該突き上げ力は、前記支持部分86の破壊を招かないように、施工現場に合わせて所要に調整されるものであり、前記弾性伸縮部13のバネ定数を変化させることによって調整できる。バネ定数を大きくすれば突き上げ力を大きくでき、バネ定数を小さくすれば突き上げ力を小さくできる。
【0055】
このように、前記弾性伸縮部13による突き上げ力が所要に設定されているため、前記頂版部11には、正の曲げモーメントM5及びM6は発生するが、負の曲げモーメントは発生しない。乃至、負の曲げモーメントが発生しても、できるだけ小さく抑えられた状態となし得る。そして、この正の曲げモーメントM5,M6は、補強されていない状態における最大曲げモーメントM1a(
図16(C))よりも小さい。かかることから前記補強構造によるときは、地震時の大きな垂直荷重が作用した場合にも、支柱の上端が頂版部11を突き上げて頂版部の外側部に有害なひび割れを発生させたり該頂版部11を破壊してしまう等の、頂版部11の損傷を防止できる。これによって、貯水槽2が適切に補強されることとなる。
【0056】
図16、
図17、
図18から分かることは、要するに、老朽化した貯水槽2を支柱で補強するに際しては、頂版部11の撓みを、該頂版部11に元々存在している鉄筋やコンクリートで抵抗できる弾性域での撓みに規制する必要があるということである。そのためには、特許文献1におけるように頂版部11を支柱で単に支持すればよいというものではなく、該弾性域を超える撓みを阻止できるように、頂版部11を、その破損を招かない所要の突き上げ力で弾性的に支持して、該頂版部11に作用する負荷を底版部7に分散させる必要があるということである。
【0057】
又地震時には、大きな水平力に伴う水平方向の変位も生ずるが、前記上部支持部12の有する前記弾性伸縮部13が水平方向である程度弾性変形できることや、前記支柱本体5が水平方向である程度弾性変形できることから、前記弾性補強支柱
1は、これらの弾性変形によって該水平方向の変位にある程度は追随できる。特に本実施例においては、上下のスリップ面28,24間で水平方向でのスリップが生ずる構成が採用されているため、該スリップによって、該水平方向での変位に無理なく追随でき、地震時の水平方向の振動による支柱損傷を効果的に防止できることとなる。
【0058】
図19、
図20、
図21は前記弾性補強支柱1を用いる弾性補強構造76の他の態様を示すものであり、補強せんとする貯水槽2の構成と、その内部3で立設される弾性補強支柱1の配置状態が異なっている。
図19に示す弾性補強構造76にあっては、貯水槽2が、平面視で正方形状を呈する直方体函状を呈している。その内部3には、4本の弾性補強支柱1,1,1,1が、頂版部11の中央部分に位置させて、且つ、正方形の各頂点に位置させて立設されている。これによって頂版部11は、弾性伸縮部13を有する上部支持部12で下方から支持された状態にある。
図20に示す弾性補強構造76にあっては、貯水槽2が、直方体函状を呈すると共にその内部3が、中間の隔壁部91によって左右の貯水槽部92,93に二分割されている。各貯水槽部92,93において、その内部の中央部で前記弾性補強支柱1,1が立設されている。これによって頂版部11は、弾性伸縮部13を有する上部支持部12で下方から支持された状態にある。又、
図21に示す弾性補強構造76にあっては、貯水槽2が円筒状に構成されている。その内部3の、頂版部11の中央部分に位置させて、同心円上で4本の弾性補強支柱1,1,1,1が90度の角度ピッチで立設されている。これによって頂版部11は、弾性伸縮部13を有する上部支持部12で下方から支持されている。
【実施例2】
【0059】
本発明は、前記実施例で示したものに限定されるものでは決してなく、「特許請求の範囲」の記載内で種々の設計変更が可能であることはいうまでもない。その一例を挙げれば次のようである。
【0060】
(1)
図22〜23は、弾性伸縮部13が設けられた上部支持部12の他の態様を示すものであり、前記と同様構成の上の基板37と支持板43との間の中央部分に、バネ部材48である、軸線が上下方向のコイルバネ95が介装されている。本実施例においては、該コイルバネ95の上下方向に延長する孔部96の上下の端部分97,99に、前記支持板43の下面45の中央部で下方に突設された円柱状支持軸100と、前記上の基板37の上面101の中央部で立設された円柱状支持軸102が挿通されることによって該コイルバネ95が位置固定されている。又前記支持板43の下面45には、前記コイルバネ95を取り囲むように、例えば4本のガイド軸103が同一円周上で下方向に突設されている。
【0061】
夫々のガイド軸103の下端部分105は、前記上の基板37に設けられた挿通孔106に挿通されて該上の基板37の下方に突出せしめられ、該突出した下端ネジ軸部107にナット109が螺合されることにより、前記コイルバネ95が前記上の基板37と前記支持板43との間で所要の圧縮状態とされている。これによって上部支持部12に、前記支柱本体5の軸線方向で弾性伸縮可能な弾性伸縮部13が設けられている。かかる構成を有する弾性伸縮部13を構成する前記コイルバネ95の上下方向の長さは例えば30cmに設定され、コイルバネ95を構成する線材の径は20〜30mmに設定される。
【0062】
図23は、かかる構成を有する上部支持部12を具える弾性補強支柱1を貯水槽2の内部3に立設した状態を示しており、その下部支持部9は、前記と同様の施工工程を経て底版部7に固定されている。又前記と同様にして、頂版部11の下面16に固定された上のスリップ板19の下面である水平なスリップ面28と前記支持板43の上面55に固定された下のスリップ板18の上面である水平なスリップ面24とが面接触状態とされて、該上下のスリップ面28,24間で水平方向でのスリップが生ずるようになされている。これにより、該上下のスリップ板19,18を介して、前記上部支持部12の上端15が前記頂版部11の下面16に非固定状態に当接された状態にあり、前記上部支持部12が、前記弾性伸縮部13が稍弾性圧縮した状態で前記頂版部11を下方から支持している。
【0063】
(2)
図24〜26は、立設した弾性補強支柱1の高さ調整を行なう他の手段を示すものであり、前記支柱本体5を、下側支柱本体5aと上側支柱本体5bとに2分割すると共に、該下側支柱本体5aは、内側にネジ部110が設けられたネジ筒部111として構成し、該ネジ筒部111は、前記下の基板29の上面31の中央部で立設されている。そして、該上側支柱本体5bの下端部分は、外側にネジ部112が設けられたネジ軸部113とし、該ネジ軸部113を該ネジ筒部111に螺合して前記上側支柱本体5bを所要に回転させることにより前記上部支持部12の高さを調整可能となされている。
図25、
図26は、かかる高さ調整手段を具える弾性補強支柱1を立設して、頂版部11を上部支持部12で支持した状態を示しており、下部支持部9の下の基板29が前記底版部7の上面59に、固定ボルト62を用いて直接固定されている。
【0064】
その他、立設した弾性補強支柱1の高さ調整は、例えば前記下の基板29と前記ベースプレート65との間にライナープレートの所要枚数を積重して介在させたり、或いは、該下の基板29と該ベースプレート65との間に楔を打ち込むこと等によって調整することもできる。
【0065】
(3)
図27〜30は、弾性補強支柱1のその他の態様をその使用状態と共に示す説明図である。
【0066】
図27、
図28は、緩衝バネ積重体47を用いて構成された弾性伸縮部13を具える上部支持部を有する前記弾性補強支柱1(
図1〜2)を上下逆にして、貯水槽2の内部3で立設状態とし、該弾性補強支柱1で頂版部11を下方から支持した状態を示している。又
図29、
図30は、コイルバネ95を用いて構成された弾性伸縮部13を具える上部支持部が設けられてなる弾性補強支柱1(例えば
図23)を上下逆にして貯水槽2の内部3で立設状態とし、該弾性補強支柱1で頂版部11を下方から支持した状態を示している。この場合は、下部支持部9に弾性伸縮部13が設けられている。
【0067】
図27〜30においては、弾性補強支柱1の上部支持部12が頂版部11に固定されている。そして、該弾性補強支柱1の下部支持部9は、底版部7の上面59との間に介在された、例えば
図27(B)に示す上下のスリップ板19,18による上下のスリップ面28,24間で、水平方向でのスリップが生ずるようになされており、該下部支持部9の下端94が前記底版部7の上面59に非固定状態に当接されている。該下の滑り板18は、底版部7の上面59に固定される一方、該上の滑り板19は該下部支持部9の下面115に固定されている。このように上下のスリップ板19,18を底版部7側に設ける場合も、上下のスリップ面28,24間の水平方向でのスリップによって支柱損傷を防止できる。
【0068】
弾性補強支柱1をこのように上下逆にして立設する場合、前記高さ調整は、例えば
図25、
図26に基づいて説明したところと同様に、支柱本体5を適宜回転操作して行なうこともできる(
図28、
図30)。
【0069】
(4)
図31〜32、
図33〜34は、弾性補強支柱1の上部支持部12及び下部支持部9が共に、支柱本体5の軸線方向で弾性伸縮可能な弾性伸縮部13,13を有する如く構成された場合を示すものである。
図31〜32においては、弾性伸縮部13が前記緩衝バネ積重体47を用いて構成されており、
図33〜34においては、前記コイルバネ95を用いて構成されている。このように構成する場合は、弾性補強支柱1の前記弾性補強支柱13を、全体として小さなバネ定数を有するにも関わらず大きな耐荷重を有したものとして構成でき、該弾性伸縮部13の破損を極力防止できる利点がある。
【0070】
そして、前記上部支持部12又は前記下部支持部9の何れか一方が底版部7又は頂版部11に固定され、他方は、好ましくは、例えば
図31(B)に示すように、上下のスリップ板19,18を介在させて該上下のスリップ板19,18間で水平方向のスリップが生ずるように構成するのがよい。又、前記弾性補強支柱1の高さ調整は、例えば、
図24〜26に基づいて説明したところと同様に、前記支柱本体5を適宜回転操作して行なう。
【0071】
(5) 前記上部支持部12や前記下部支持部9に弾性伸縮部13を設ける場合、該弾性伸縮部13を構成するバネ部材48としては、前記頂版部11を所要に弾性的に支持できるものであれば、前記したものに特定されない。又、前記上部支持部12と前記下部支持部9が共に弾性伸縮部13を有する場合、上下の弾性伸縮部13,13を構成するバネ部材48,48は、異なる構成のものであってもよい。
【0072】
(6)
図35は、前記上部支持部12の上端部分116に、前記頂版部11の下面16に設けられた水平転動面114を転動し得る転がり球体117の多数個を、分散状態に設けた場合を示している。該水平転動面114は、本実施例においては
図35に示すように、前記頂版部11の下面16に硬質水平板119を貼着等によって固定して設けられている。該硬質水平板119は、例えばステンレス板を以て構成できる。かかる構成は、前記底版部7に対しても応用できる。転がり球体117が水平転動面114を転動し得るようにしたかかる構成も、本発明においては、前記した、水平方向でスリップ可能の非固定状態で当接すること、に該当する。
【0073】
(7) 本発明に係る弾性伸縮構造において、前記した上下のスリップ板19,18は、その何れか一方が省略されることがある。その他、地震時の水平方向の振動によって弾性補強支柱が損傷しにくいものであれば、かかる上下のスリップ板19,18(即ち、上下のスリップ面28,24)が省略されることもある。
【0074】
(8) 前記支柱本体5は、コンクリート製とされることもある。
【0075】
(9) 前記老朽化した貯水槽は、前記弾性補強支柱1を用いて補強すると、前記のように効果的に貯水槽を補強できるのであるが、元々貯水槽に存していた部分的な初期欠陥等に起因して、地震時等において、漏水の原因となるひび割れや欠損が発生する場合が考えられる。このようなことが予想される場合は、頂版部を除く貯水槽内部に、弾性伸縮性を有する防水膜層を形成すると、漏水の恐れをより一層効果的に防止できることになる。かかる防水膜層は、例えばシリコン系やアスファルト系等の樹脂を吹き付けたり、こて塗りすることによって、或いは、ゴムシートを貼着すること等によって構成できる。
【0076】
(10)本発明において、前記上下のスリップ面28,24間で水平方向でのスリップが生ずるように構成する場合、前記弾性伸縮部13が存する側に該上下のスリップ面を設けることの他、弾性伸縮部を有さない上部支持部12側、又は下部支持部9側に該上下のスリップ面を設けることとしてもよい。
【0077】
(11)本発明が補強の対象とする老朽化貯水槽は、プレキャストコンクリートブロックを組み立てて構築したものであってもよい。又、頂版部11に正常に配筋されている老朽化貯水槽であってもよい。