特許第5836791号(P5836791)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5836791オロト酸を含有する飲料およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5836791
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】オロト酸を含有する飲料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 2/52 20060101AFI20151203BHJP
   A23L 1/30 20060101ALN20151203BHJP
【FI】
   A23L2/00 F
   !A23L1/30 Z
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-283548(P2011-283548)
(22)【出願日】2011年12月26日
(65)【公開番号】特開2013-132225(P2013-132225A)
(43)【公開日】2013年7月8日
【審査請求日】2014年8月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000253503
【氏名又は名称】キリンホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100120905
【弁理士】
【氏名又は名称】深見 伸子
(72)【発明者】
【氏名】川地 康治
(72)【発明者】
【氏名】野澤 元
(72)【発明者】
【氏名】植山 孝恵
【審査官】 太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−125282(JP,A)
【文献】 国際公開第95/002407(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/023830(WO,A1)
【文献】 特開2011−136907(JP,A)
【文献】 特開2002−186425(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0219274(US,A1)
【文献】 トレンド・フォーカス 熱中症予防の新基準、スポーツドリンクの正しい選び方とは?,日経トレンディネット,2009年 7月 9日,[平成27年6月22日検索],URL,http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/pickup/20090709/1027661/?P=6&rt=nocnt
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 2/00
A23L 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
CiNii
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オロト酸のフリー体または水和物を0.02〜0.06重量%、ならびにナトリウムおよびカリウムのいずれか、または両方を0.005〜0.13重量%含有し、塩基性アミノ酸または塩基性ペプチドを含有しない飲料。
【請求項2】
飲料原料を含む液に、該飲料中のナトリウムおよびカリウムのいずれか、または両方の含有量が0.005〜0.13重量%となるように溶解させた後、該飲料中のオロト酸のフリー体または水和物の含有量が0.02〜0.06重量%となるように溶解させる工程を含む、オロト酸のフリー体または水和物を含有する飲料の製造方法。
【請求項3】
飲料中のオロト酸のフリー体または水和物の含有量を0.02〜0.06重量%とし、ナトリウムおよびカリウムのいずれか、または両方の含有量を0.005〜0.13重量%とすることを特徴とする、飲料におけるオロト酸のフリー体または水和物の溶解性および保存安定性を向上させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オロト酸を含有する飲料およびその製造方法に関する。より詳細には、本発明は、オロト酸を高濃度で含有してもオロト酸の溶解性や保存安定性に優れ、かつ飲料本来の食味や風味が損なわれない、オロト酸を含有する飲料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
オロト酸には、尿酸値低下作用、持久力向上(酸素消費量低減)、滋養強壮作用、などの健康の維持・増進に有効な様々な作用があることが知られている。
【0003】
オロト酸を効率的かつ簡便に摂取する上で、スポーツドリンクやビール類などの日常的に摂取する飲料に高濃度で配合することは有利である。しかしながら、オロト酸はそれ自体、水への溶解性が低い。例えば0.02重量%以上の濃度でオロト酸を含有する飲料を調製することは困難である。また、オロト酸は水に一且溶解しても、溶解性が極めて低いため、溶解後、保存している間に沈殿や析出が生じ易い。オロト酸コリン塩のような塩の状態では溶解性は向上するが、塩による風味の低下が懸念される。
【0004】
そのため、オロト酸を高濃度で配合しても、オロト酸が容易に溶解し、保存中に沈殿や析出がなく、しかも風味の良好なオロト酸含有飲料が求められている。
【0005】
オロト酸の溶解性や保存性を向上させる方法として、塩基性アミノ酸または塩基性ペプチドを用いる方法が知られている(特許文献1)。しかし、アミノ酸やペプチドの添加の好まれない飲料については、これらを用いない別の方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−125282号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、オロト酸を高濃度で配合しても、オロト酸が容易に溶解し、保存中に
沈殿や析出がなく、しかも飲料本来の食味や風味を損ねることのないオロト酸を含有する飲料、またはその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の(1)〜(6)に関する。
(1)オロト酸を0.02〜0.1重量%、ならびにナトリウムおよびカリウムのいずれか、または両方を0.005〜0.13重量%含有する飲料。
(2)飲料中のオロト酸の含有量を0.02〜0.1重量%とし、ナトリウムおよびカリウムのいずれか、または両方の含有量を0.005〜0.13重量%とする工程を含む、オロト酸を含有する飲料の製造方法。
(3)飲料原料を含む液に、ナトリウムおよびカリウムのいずれか、または両方の存在下でオロト酸を溶解させる工程を含む、上記(2)の方法。
(4)オロト酸が、フリー体または水和物である上記(2)または(3)の方法。
(5)飲料中のオロト酸の含有量を0.02〜0.1重量%とし、ナトリウムおよびカリウムのいずれか、または両方の含有量を0.005〜0.13重量%とすることを特徴とする、飲料におけるオロト酸の溶解性および保存安定性を向上させる方法。
(6)オロト酸が、フリー体または水和物である、上記(5)の方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、健康の維持増進のための機能成分として有用なオロト酸を高濃度で含有する飲料が提供される。本発明のオロト酸含有飲料では、長期間保存してもオロト酸が析出することなく、均一で安定な状態が保たれる。また、本発明によれば、オロト酸添加による飲料本来の食味の低下の少ない飲料が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の飲料は、オロト酸、ならびにナトリウムおよびカリウムのいずれか、または両方を含有する。
【0011】
本発明に用いられるオロト酸(ウラシル−4−カルボン酸)としては、オロト酸のフリー体(遊離体)、オロト酸の水和物、オロト酸の誘導体、それらの薬理学的に許容される塩があげられるが、飲料への風味の影響の少ないオロト酸のフリー体(遊離体)やその水和物が好ましく用いられる。また、オロト酸の薬理学的に許容される塩として、オロト酸のナトリウム塩またはカリウム塩を用いることができる。
【0012】
オロト酸は、微生物由来のもの、化学合成により得られるもの、乳清等食品から抽出したもの等のいずれを用いてもよい。微生物由来のオロト酸としては、例えばUS5,013,656記載の製造方法により取得されるオロト酸等があげられる。また市販のものを用いてもよい。
【0013】
本発明の飲料中のオロト酸の含有量は、オロト酸として0.02〜0.1重量%である。飲料中のオロト酸は、JOURNAL OF AOAC INTERNATIONAL, 87, 1, 116-122 (2004)等に記載の液体クロマトグラフィー等の常法により定量することができる。
【0014】
本発明の飲料には、ナトリウムおよびカリウムの両方が含有されてもよく、ナトリウムのみ、またはカリウムのみが含有されてもよい。
【0015】
本発明の飲料に用いるナトリウムまたはカリウムは、ナトリウム塩、カリウム塩等のナトリウムまたはカリウムを含む化合物であってもよい。ナトリウム塩またはカリウム塩としては、例えば、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、乳酸ナトリウム、乳酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、リンゴ酸ナトリウム、リンゴ酸カリウム、酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウム、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、コハク酸ナトリウム、コハク酸カリウム、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウム等があげられる。これらの化合物は、そのまま用いてもよいが、これらの化合物を含有する、一般的に飲料製造に使用される原材料や、麦汁、茶抽出液等の天然由来素材等を用いてもよい。上記のナトリウムまたはカリウムを含む化合物は、1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
ナトリウムまたはカリウムを含む化合物を用いる場合、これらの化合物は、飲料中で解離していなくてもよい。すなわち、本発明におけるナトリウムまたはカリウムは、ナトリウムイオンまたはカリウムイオンの状態になくてもよい。
【0017】
本発明の飲料中のナトリウムおよびカリウムの含有量は、0.005〜0.13重量%であり、好ましくは0.005〜0.1重量%である。該含有量は、ナトリウムおよびカリウムを合わせた含有量であり、ナトリウムまたはカリウムのいずれかが含有されていない場合、すなわちいずれかの含有量がゼロである場合も含まれる。
【0018】
飲料中のナトリウムおよびカリウムは、原子吸光光度法等の常法により定量することができる。
【0019】
本発明の飲料は、飲料中のオロト酸、ならびにナトリウムおよびカリウムの含有量を上記範囲となるように調製する以外は、飲料の通常の製造方法に準じて製造することができる。飲料の製造は、例えば、「改訂新版ソフトドリンクス」(株式会社光琳)を参考とすることができる。
【0020】
飲料中のオロト酸の含有量を0.02〜0.1重量%とする場合は、飲料中のナトリウムおよびカリウムの含有量を上記範囲となるように調整することにより、オロト酸を溶解させ、保存中の析出を低下させることができる。一方、飲料中のオロト酸の含有量を0.02重量%未満とする場合は、オロト酸単独で溶解させることができるため、ナトリウムおよびカリウムの含有量は上記範囲とする必要はない。
【0021】
オロト酸を飲料に溶解させる際には、飲料原料を含む液に、オロト酸をナトリウムおよびカリウムのいずれか、または両方の存在下で溶解させることが好ましい。飲料原料を含む液に、オロト酸をナトリウムおよびカリウムのいずれか、または両方の存在下で溶解させる方法としては、オロト酸と、ナトリウムまたはカリウムを含む化合物とを同時に添加してもよいが、より早くオロト酸を溶解させるために、ナトリウムまたはカリウムを含む化合物を溶解させた後に、オロト酸を添加して溶解させる方が好ましい。
【0022】
本発明の飲料のpHに特に限定はないが、通常pH7未満である。
【0023】
本発明の飲料の具体例としては、スポーツドリンク、ニア・ウォーター、ノンアルコール(ビアテイスト)飲料、果汁入り飲料、野菜汁入り飲料、果汁および野菜汁入り飲料、茶飲料、乳酸菌飲料、炭酸飲料などの非アルコール飲料、ウイスキー、バーボン、スピリッツ、リキュール、ワイン、果実酒、日本酒、中国酒、焼酎、ビール、アルコール度数1%未満のノンアルコールビール、発泡酒、酎ハイなどのアルコール飲料があげられるが、これらに限定されない。
【0024】
製造された本発明の飲料を充填する容器は、アルミ缶、スチール缶、PETボトル、紙
容器など飲料を充填できるものであればいずれであってもよく、また容量についても制限がない。
【実施例】
【0025】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものでない。なお、下記実施例において「%」は「重量%」をいう。
【0026】
(実施例1)
水にオロト酸のみ0.1%となるように添加した溶液と、水に食品添加物のクエン酸三ナトリウム二水和物を0.426%(ナトリウムの含有量は0.1%)となるように溶解した溶液にオロト酸を0.1%添加した溶液を調製し、各溶液をそれぞれ20℃にて30分間攪拌し、オロト酸の溶解性を調べた。
【0027】
その結果、オロト酸のみを添加した溶液はオロト酸の溶け残りが多かったが、クエン酸三ナトリウム二水和物を溶解させた溶液にオロト酸を添加した溶液ではオロト酸はすべて溶解していた。さらに、オロト酸をナトリウムと共に添加した溶液を20℃にて6ヶ月間保存したが、溶液状態に変化は認められなかった。
【0028】
(実施例2)
スポーツドリンク(キリンビバレッジ社製) の製造中に、ナトリウムの含有量が0.1%となるようにクエン酸ナトリウムを溶解させた後、オロト酸を、それぞれ、0.02%、0.05%、0.10%、0.15%となるように添加してオロト酸を含有するスポーツドリンクを調製した。これらのスポーツドリンクのオロト酸の溶解性と保存安定性(保存後の溶液状態の変化)を調べた。
【0029】
オロト酸の溶解性の評価は、溶液を20℃にて30分間攪拌した後、溶け残りの有無を観察することによって行なった。
【0030】
また、保存安定性の評価は、溶液を20℃で6ヶ月保存し、オロト酸の析出の有無を確認することによって行なった。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】
溶解性 :○は溶解したことを示し、×は溶け残りが見られたことを示す。
保存安定性:○は析出が認められなかったことを示し、×は析出が認められたことを示す。
【0032】
表1に示したとおり、オロト酸を、含有量が0.02〜0.10%となるように添加したスポーツドリンクでは、いずれもオロト酸は良好に溶解し、保存中の析出も認められなかった。また、オロト酸を溶解した溶液の風味は、いずれもスポーツドリンクとして良好なものであった。
【0033】
(実施例3)
水に、カリウムの含有量がそれぞれ、0.005、0.010、0.050、0.100、0.130、0.150%となるように食品添加物のクエン酸三カリウム一水和物を溶解した。その後、それぞれの溶液にオロト酸を含有量が0.05%となるように添加し、実施例2記載の方法に準じて、オロト酸の溶解性と保存安定性(保存後の溶液状態の変化)を調べた。結果を表2に示す。
【0034】
【表2】
溶解性 :○は溶解したことを示し、×は溶け残りが見られたことを示す。
保存安定性:○は析出が認められなかったことを示し、×は析出が認められたことを示す。
【0035】
表2に示したとおり、カリウムの含有量を0.005〜0.130%としたミネラルウォーターでは、いずれもオロト酸は良好に溶解し、保存中の析出もほぼ認められなかった。
【0036】
(実施例4)
水に、ナトリウムの含有量が0.1%となるように炭酸水素ナトリウムを添加した後、オロト酸を含有量が0.1%となるように添加し、溶解させて試験液1を得た。また、試験液1の調製において炭酸水素ナトリウムを添加せず、また、オロト酸のかわりにオロト酸コリン塩を用いる以外は同様の操作を行って試験液2を得た。
【0037】
また、試験液1の調製において水のかわりにスポーツドリンク(キリンビバレッジ社製)を用いる以外は同様の操作を行って試験液3を得た。また、試験液2の調製において、水の代わりにスポーツドリンク(キリンビバレッジ社製)を用いる以外は同様の操作を行って試験液4を得た。
なお、試験液1〜4のいずれにおいても、オロト酸およびオロト酸コリン塩は良好に溶解した。
【0038】
試験液1〜4の、臭いおよび味について、6名のパネラーにより官能評価した。
評価基準は以下のとおりである。
快適に摂取できる:2点
快適まではいかないが自然に飲める:1点
飲むのに問題ない:0点
飲めるがにおいや味が悪い:−1点
摂取できない:−2点
評価の平均点を表3に示す。
【表3】
【0039】
表3に示すとおり、オロト酸コリン塩を用いて得られた溶液(試験液2および4)は、オロト酸コリン塩に由来する魚臭のような臭いが強く、官能評価の点数は低かった。
【0040】
(実施例5)
ビール(キリンビール社製)およびノンアルコールビアテイスト飲料(キリンビール社製)の製造中の麦汁に、オロト酸を添加し、オロト酸の含有量が0.06%、ナトリウムとカリウムを合わせた含有量が0.08%のビールおよびノンアルコールビアテイスト飲料を作成した。
【0041】
ビール、ノンアルコールビアテイスト飲料におけるオロト酸の溶解性および保存安定性について、実施例2記載の方法に準じて調べた。その結果、いずれも、オロト酸の溶解性および保存安定性は良好であり、風味は摂取するのに問題なくおいしく飲めるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、健康の維持増進に有効なオロト酸を利用する飲料の製造分野において利用できる。