特許第5837480号(P5837480)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5837480
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】複合半透膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/82 20060101AFI20151203BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20151203BHJP
   B01D 71/70 20060101ALI20151203BHJP
【FI】
   B01D71/82 500
   B01D69/12
   B01D71/70
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-512764(P2012-512764)
(86)(22)【出願日】2011年4月14日
(86)【国際出願番号】JP2011059236
(87)【国際公開番号】WO2011136029
(87)【国際公開日】20111103
【審査請求日】2014年3月3日
(31)【優先権主張番号】特願2010-103272(P2010-103272)
(32)【優先日】2010年4月28日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究に係る特許出願(平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、委託研究「省水型・環境調和型水循環プロジェクト/水循環要素技術研究開発/革新的膜分離技術の開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(74)【代理人】
【識別番号】100138287
【弁理士】
【氏名又は名称】平井 功
(72)【発明者】
【氏名】松山 秀人
(72)【発明者】
【氏名】大向 吉景
(72)【発明者】
【氏名】今西 真章
(72)【発明者】
【氏名】志村 晴季
(72)【発明者】
【氏名】辺見 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】富岡 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】中辻 宏治
【審査官】 宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−258706(JP,A)
【文献】 特表2001−513437(JP,A)
【文献】 特表2005−501758(JP,A)
【文献】 特開昭58−014926(JP,A)
【文献】 特開2003−225543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 71/82
B01D 71/70
B01D 69/12
H01M 2/16
B01D 39/16−39/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔性支持膜と高分子膜からなる複合半透膜であって、前記高分子膜は繰り返し単位の中に正電荷を有する少なくとも一種類の高分子(a)と、繰り返し単位の中に負電荷を有する少なくとも一種類の高分子(b)からなり、
前記高分子膜は、記高分子(a)および高分子(b)からなる正電荷を有する高分子層および負電荷を有する高分子層を交互に形成されたポリイオンコンプレックス膜であり、
前記高分子(a)と高分子(b)の間にシロキサン結合による架橋構造を有し、
前記高分子(a)は、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリエチレンイミン、ポリビニルイミダゾリン、ポリビニルピロリドン、キトサン、ポリリシン、ポリパラフェニレン(+)、ポリ(p−フェニレンビニレン)、およびそれらの塩、並びにポリ(4−スチリルメチル)トリメチルアンモニウム塩のうち一種類若しくは二種以上、またはこれらを含むコポリマーであり、
前記高分子(b)は、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリグルタミン酸、ポリアミック酸、ポリチオフェン−3−酢酸およびそれらの塩のうち一種類若しくは二種類以上、またはこれらを含むコポリマーである
ことを特徴とする複合半透膜。
【請求項2】
請求項1に記載された複合半透膜の製造方法であって、
前記高分子膜は、前記多孔性支持膜を前記高分子(a)の溶液と前記高分子(b)の溶液とに交互に接触させることで形成された正電荷を有する高分子層と負電荷を有する高分子層とのポリイオンコンプレックス膜であり、
前記高分子(a)、高分子(b)の少なくとも一方がシロキサン結合の前駆体となる原子団を有さず、前記高分子(a)および高分子(b)を前記多孔性支持膜に接触させる工程中に、または工程後に、架橋試薬(c)を接触させ、さらに乾燥工程を行うことによって形成される複合半透膜の製造方法
【請求項3】
請求項1に記載された複合半透膜の製造方法であって、
前記高分子膜は、前記多孔性支持膜を前記高分子(a)の溶液と前記高分子(b)の溶液とに交互に接触させることで形成された正電荷を有する高分子層と負電荷を有する高分子層とのポリイオンコンプレックス膜であり、
前記高分子(a)、高分子(b)の少なくとも一方がシロキサン結合の前駆体となる原子団を有し、前記高分子(a)および高分子(b)を前記多孔性支持膜に接触させる工程を行い、その後、乾燥工程を行うことによって形成される複合半透膜の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状混合物の選択的分離に有用な複合半透膜に関する。
【背景技術】
【0002】
液状混合物の分離に関して、溶媒に溶解した物質を除くための技術には様々なものがあるが、近年、省エネルギーおよび省資源のためのプロセスとして膜分離法の利用が拡大している。なかでも逆浸透膜は、例えば海水、かん水、有害物を含んだ水などから飲料水を得る場合や、工業用超純水の製造などに用いられている。
【0003】
膜の製造法の一つとして、正電荷を有する高分子と負電荷を有する高分子を、基材上に接触させる方法がある(非特許文献1)。この膜は、ポリイオンコンプレックス膜であり、ナノメートルオーダーで正確に厚さが制御された、均一な薄膜となるメリットがある。このことから、ポリイオンコンプレックス膜を逆浸透膜に利用する試みが行われている(非特許文献2,3)。また、ポリイオンコンプレックス膜を用いた水処理装置も提案されている(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、ポリイオンコンプレックス膜は安定性・耐久性が低いことが欠点である。ポリイオンコンプレックス膜の使用とともに、その脱塩能力が低下してくることが指摘されている(特許文献2)。また、ポリイオンコンプレックス膜の脱塩性能を向上させる技術が提案されているが、正電荷を有する高分子と負電荷を有する高分子とが静電相互作用のみで吸着しているために、高分子の脱落による耐久性不足が懸念される(特許文献2,3,4)。
【0005】
これを克服するため、高分子を吸着する際にカップリング剤を共存させることで正電荷を有する高分子と負電荷を有する高分子とをアミド結合により架橋したポリイオンコンプレックス膜が提案されている(特許文献5)。しかし、この手法では高分子とカップリング剤との反応によって高分子の電荷が減少するために、静電相互作用を阻害してしまい、十分な溶質除去性を得られないことが懸念される。以上のように、従来の技術では高い分離膜性能(溶質除去性、水透過性)と高い耐久性を両立することが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
特許文献1:日本国特開2000−334229号公報(特許請求の範囲)
特許文献2:日本国特開2005−230692号公報(背景技術・特許請求の範囲)
特許文献3:日本国特開2005−161293号公報(特許請求の範囲)
特許文献4:日本国特開2005−246263号公報(特許請求の範囲)
特許文献5:日本国特表2005−501758号公報(特許請求の範囲)
【非特許文献】
【0007】
非特許文献1: G. Decher, 外2名, 「Thin Solid Films」210/211, 1992年, p. 831−835.
非特許文献2: R. von Klitzing, B. Tieke著, 「Advances in Polymer Science Vol. 165, Polyelectrolytes with Defined Molecular Architecture I」, Springer−Verlag Berlin, 2004年, p.177−210.
非特許文献3: B. Tieke, 外2名, 「Langmuir」19, 2003年, p. 2550−2553.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、高い耐久性と、高い溶質除去性・水透過性を両立した複合半透膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
高分子間の架橋方法として、シロキサン結合(Si−O−Si)は有用である。シロキサン結合は安定な結合であり、これを含むシリコーン樹脂などの高分子は一般的に高い熱的・化学的安定性を有する。そこで、ポリイオンコンプレックス膜を架橋させる手段としてシロキサン結合を用いることにより、分離膜に安定性・耐久性を付与することを着想し、以下の発明に到達した。
【0010】
(1)多孔性支持膜と高分子膜からなる複合半透膜であって、前記高分子膜は繰り返し単位の中に正電荷を有する少なくとも一種類の高分子(a)と、繰り返し単位の中に負電荷を有する少なくとも一種類の高分子(b)からなり、
前記高分子膜は、多孔性支持膜を前記高分子(a)の溶液と前記高分子(b)の溶液とに交互に接触させることで形成された正電荷を有する高分子層と負電荷を有する高分子層とのポリイオンコンプレックス膜であり、
分子(a)と高分子(b)の間にシロキサン結合による架橋構造を有し、
前記高分子(a)は、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリエチレンイミン、ポリビニルイミダゾリン、ポリビニルピロリドン、キトサン、ポリリシン、ポリパラフェニレン(+)、ポリ(p−フェニレンビニレン)、およびそれらの塩、並びにポリ(4−スチリルメチル)トリメチルアンモニウム塩のうち一種類若しくは二種以上、またはこれらを含むコポリマーであり、
前記高分子(b)は、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリグルタミン酸、ポリアミック酸、ポリチオフェン−3−酢酸およびそれらの塩のうち一種類若しくは二種類以上、またはこれらを含むコポリマーである
ことを特徴とする複合半透膜。
【0011】
(2)上記(1)に記載の複合半透膜の製造方法であって、前記高分子膜は、前記多孔性支持膜を前記高分子(a)の溶液と前記高分子(b)の溶液とに交互に接触させることで形成された正電荷を有する高分子層と負電荷を有する高分子層とのポリイオンコンプレックス膜であり、前記高分子(a)、高分子(b)の少なくとも一方がシロキサン結合の前駆体となる原子団を有さず、前記高分子(a)および高分子(b)を前記多孔性支持膜に接触させる工程中に、または工程後に、架橋試薬(c)を接触させ、さらに乾燥工程を行うことによって形成される複合半透膜の製造方法
【0012】
(3)上記(1)に記載の複合半透膜の製造方法であって、前記高分子膜は、前記多孔性支持膜を前記高分子(a)の溶液と前記高分子(b)の溶液とに交互に接触させることで形成された正電荷を有する高分子層と負電荷を有する高分子層とのポリイオンコンプレックス膜であり、前記高分子(a)、高分子(b)の少なくとも一方がシロキサン結合の前駆体となる原子団を有し、前記高分子(a)および高分子(b)を前記多孔性支持膜に接触させる工程を行い、その後、乾燥工程を行うことによって形成される複合半透膜の製造方法
【発明の効果】
【0013】
本発明の複合半透膜によれば、高分子膜を構成する高分子(a)高分子(b)間をシロキサン結合により架橋しているので高い耐久性と、高い溶質除去性・水透過性を両立することができる。この複合半透膜は、例えば海水やかん水の淡水化、硬水の軟水化などの逆浸透膜分離に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0015】
本発明の複合半透膜は、多孔性支持膜とポリイオンコンプレックス膜により構成される。ポリイオンコンプレックス膜は、正電荷を有する高分子と負電荷を有する高分子を吸着または結合した高分子膜である。
【0016】
本発明において多孔性支持膜は、実質的にイオン等の分離性能を有さず、実質的に分離性能を有するポリイオンコンプレックス膜に強度を与えるためのものである。多孔性支持膜における孔のサイズや分布は特に限定されないが、例えば、均一で微細な孔、あるいはポリイオンコンプレックス膜が形成される側の表面からもう一方の面まで徐々に大きな微細孔をもち、かつ、ポリイオンコンプレックス膜が形成される側の表面で微細孔の大きさが0.1nm以上1μm以下であるような支持膜が好ましい。
【0017】
多孔性支持膜に使用する材料やその形状は特に限定されないが、例えば支持体(基材)に樹脂をキャストして形成した薄膜を例示することができる。基材としては、ポリエステル、芳香族ポリアミドから選ばれる少なくとも一種を主成分とする布帛が例示される。基材にキャストする樹脂の種類としては、例えばポリスルホンや酢酸セルロースやポリ塩化ビニル、あるいはそれらを混合したものが好ましく使用され、化学的・機械的・熱的に安定性の高いポリスルホンを使用するのが特に好ましい。
【0018】
具体的には、次の構造式に示す繰り返し単位からなるポリスルホンを用いると、孔径が制御しやすく、寸法安定性が高いため好ましい。
【0019】
【化1】
【0020】
例えば、上記ポリスルホンのN,N−ジメチルホルムアミド(以下「DMF」と記載する。)溶液を、密に織ったポリエステル布あるいは不織布の上に一定の厚さに注型し、それを水中で湿式凝固させることによって、表面の大部分が直径数十nm以下の微細な孔を有する多孔性支持膜を得ることができる。
【0021】
多孔性支持膜の形態は、走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡、原子間力顕微鏡により観察することが出来る。たとえば走査型電子顕微鏡で観察するのであれば、基材からキャストした樹脂を剥がしたあと、これを凍結割断法で切断して断面観察のサンプルとする。このサンプルに白金または白金−パラジウム、または四塩化ルテニウム、好ましくは四塩化ルテニウムを薄くコーティングし、3〜6kVの加速電圧で高分解能電界放射型走査型電子顕微鏡(UHR−FE−SEM)を用いて観察する。高分解能電界放射型走査型電子顕微鏡は、日立製S−900型電子顕微鏡などが使用できる。得られた電子顕微鏡写真からは、多孔性支持膜の膜厚や表面孔径を決定する。なお、本発明における厚みや孔径は平均値を意味するものである。
【0022】
本発明において、ポリイオンコンプレックス膜を構成する高分子膜は、繰り返し単位の中に正電荷を有する高分子(a)と繰り返し単位の中に負電荷を有する高分子(b)により形成される。
【0023】
ここで、繰り返し単位の中に正電荷を有する高分子(a)とは、分子の繰り返し単位の中にカチオン性官能基を有する高分子物質をいう。高分子(a)は、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリエチレンイミン、ポリビニルイミダゾリン、ポリビニルピロリドン、キトサン、ポリリシン、ポリパラフェニレン(+)、ポリ(p−フェニレンビニレン)およびそれらの塩、並びにポリ(4−スチリルメチル)トリメチルアンモニウム塩のうち一種類若しくは二種以上、またはこれらを含むコポリマーである。高分子(a)は単独で用いても、二種以上を同時に用いてもよく、また、高分子(a)を含むコポリマーを用いても良い。中でも、膜の選択分離性や水透過性、耐熱性を考慮すると、ポリ(4−スチリルメチル)トリメチルアンモニウム塩を含むコポリマーを用いることがより好ましい。
【0024】
繰り返し単位の中に負電荷を有する高分子(b)とは、分子の繰り返し単位の中にアニオン性官能基を有する高分子物質をいう。高分子(b)は、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸、ポリグルタミン酸、ポリアミック酸、ポリチオフェン−3−酢酸およびそれらの塩のうち一種類若しくは二種類以上、またはこれらを含むコポリマーである。高分子(b)は、単独で用いても、二種以上を同時に用いてもよく、また、高分子(b)を含むコポリマーを用いても良い。なかでも、膜の選択分離性や水透過性、耐熱性を考慮すると、ポリメタクリル酸ナトリウム、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、ポリスチレンスルホン酸カリウムを含むコポリマーを用いることがより好ましい。
【0025】
高分子(a)および高分子(b)の分子量は1〜1000kDaの範囲内であることが好ましく、均一な高分子層を形成し、複合半透膜の溶質除去性を確保するためには5〜500kDaの範囲内であるとさらに好ましい。
【0026】
そして本発明では、高分子(a)高分子(b)の間にシロキサン結合を用いた架橋構造を有することが重要である。静電相互作用のみで吸着した高分子の間を安定なシロキサン結合で化学的に架橋することにより、ポリイオンコンプレックス膜に、高イオン濃度の水溶液や塩素洗浄等に対する耐久性を付与することができる。このためには、高分子にシロキサン結合の前駆体となる原子団を導入するか、またはシロキサン結合を形成する架橋試薬を用いる必要がある。
【0027】
すなわち、繰り返し単位の中に正電荷を有する高分子(a)および/または繰り返し単位の中に負電荷を有する高分子(b)は、シロキサン結合の前駆体となる原子団を含んでもよい。シロキサン結合の前駆体となる原子団としては、たとえばケイ素原子上に一つ以上のアルコキシ基、アセチルオキシ基、アルキルシリルオキシ基、アミノ基、ハロゲノ基を有する原子団を挙げることができる。これらの原子団は加水分解によりシラノール基を生じるが、シラノール基は後に述べる架橋反応により容易に縮合してシロキサン結合を形成する。
【0028】
繰り返し単位の中に正電荷を有する高分子(a)および繰り返し単位の中に負電荷を有する高分子(b)の両方が、シロキサン結合の前駆体となる原子団を有しない場合は、これらに加えて架橋試薬(c)を用いる。高分子(a)および高分子(b)の一方がシロキサン結合の前駆体となる原子団を有しない場合も、架橋試薬(c)を用いることができる。架橋試薬(c)は、ヒドロキシ基やカルボキシ基、アミノ基等のプロトンを有する化合物二分子以上と反応してシロキサン結合による架橋を生じうるケイ素化合物であり、たとえば、ケイ素原子上に二つ以上のイソシアネート基、アルコキシ基、アセチルオキシ基、アルキルシリルオキシ基、アミノ基、ハロゲノ基を有する化合物を挙げることができる。
【0029】
すなわち、架橋試薬(c)としては、例えばテトライソシアネートシラン、モノメチルトリイソシアネートシラン、ジメチルジイソシアネートシラン、エチルトリイソシアネートシラン、ジエチルジイソシアネートシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラキス(ジメチルシリルオキシ)シラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−シアノエチルトリエトキシシラン、2−シアノエチルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−ブロモプロピルトリエトキシシラン、3−ブロモプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、クロロメチルトリエトキシシラン、クロロメチルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、トリエトキシ(3,3,3−トリフルオロプロピル)シラン、トリエトキシ(3−イソシアナトプロピル)シラン、トリエトキシ(3−イソシアナトプロピル)シラン、トリメトキシ(3,3,3−トリフルオロプロピル)シラン、ビス[3−(トリエトキシシリル)プロピル]アミン、ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アミン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、トリメトキシメチルシラン、トリエトキシエチルシラン、トリエトキシメチルシラン、トリエトキシプロピルシラン、トリメトキシプロピルシラン、ブチルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、トリエトキシペンチルシラン、トリメトキシペンチルシラン、トリエトキシヘキシルシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、トリエトキシヘプチルシラン、ヘプチルトリメトキシシラン、トリエトキシオクチルシラン、トリメトキシオクチルシラン、トリエトキシノニルシラン、トリメトキシノニルシラン、トリエトキシドデシルシラン、ドデシルトリメトキシシラン、ベンジルトリエトキシシラン、ベンジルトリメトキシシラン、1,2−ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,2−ビス(トリメトキシシリル)エタン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルジエトキシメチルシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルジメトキシメチルシラン、3−アミノプロピルジエトキシメチルシラン、3−アミノプロピルジメトキシメチルシラン、3−クロロプロピルジエトキシメチルシラン、3−クロロプロピルジメトキシメチルシラン、3−グリシジルオキシプロピル(ジエトキシ)メチルシラン、3−グリシジルオキシプロピル(ジメトキシ)メチルシラン、3−メルカプトプロピル(ジエトキシ)メチルシラン、3−メルカプトプロピル(ジメトキシ)メチルシラン、シクロヘキシル(ジエトキシ)メチルシラン、シクロヘキシル(ジメトキシ)メチルシラン、ジエトキシ(3−グリシジルオキシプロピル)メチルシラン、ジエトキシ(3−グリシジルオキシプロピル)メチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジエトキシメチルビニルシラン、ジメトキシジメチルシラン、ジメトキシメチルビニルシランなどを挙げることができる。中でも、反応速度を考慮すると、テトライソシアネートシランやモノメチルトリイソシアネートシランを用いることがより好ましい。
【0030】
次に、本発明の複合半透膜の製造方法について説明する。
【0031】
本発明の複合半透膜におけるポリイオンコンプレックス膜は、繰り返し単位の中に正電荷を有する高分子(a)と繰り返し単位の中に負電荷を有する高分子(b)により形成される。例えば、多孔性支持膜を、それぞれの高分子の溶液に接触させることで、正電荷を有する高分子層と負電荷を有する高分子層とのポリイオンコンプレックス膜を形成することができる。
【0032】
ここで、それぞれの高分子溶液の濃度は0.01〜100mg/mLの範囲内であることが好ましく、より好ましくは0.1〜10mg/mLの範囲内である。この範囲内であると、十分な溶質除去性および水透過性を有するポリイオンコンプレックス膜を得ることができる。
【0033】
多孔性支持膜は、必要に応じて正または負の電荷を有するように常法によって事前に化学的に処理される。多孔性支持膜が正電荷を有する場合には、最初に負電荷を有する高分子(b)と接触させ、多孔性支持体が負電荷を有する場合には、最初に正電荷を有する高分子(a)と接触させて、ポリイオンコンプレックス膜の第一層を形成させる。この接触方法としては、多孔性支持膜を高分子溶液に浸漬してもよく、高分子溶液を多孔性支持膜表面に塗布してもよい。接触時間は、均一な表面被覆と生産効率を両立するためには1秒〜1時間が好ましく、10秒〜30分間がさらに好ましい。
【0034】
高分子溶液と接触させた膜表面は、必要に応じて溶媒による洗浄を行う。
【0035】
このようにしてポリイオンコンプレックス膜の第一層を形成させた後、二層目の高分子溶液を接触させ、同様に洗浄を行う。この接触、洗浄の工程を、正電荷を有する高分子(a)と負電荷を有する高分子(b)とで交互に行うことにより、ポリイオンコンプレックス膜を形成することができる。
【0036】
繰り返し単位の中に正電荷を有する高分子(a)および繰り返し単位の中に負電荷を有する高分子(b)の少なくとも一方が、シロキサン結合の前駆体となる原子団を有しない場合は、これらに加えて架橋試薬(c)を用いることができる。ここでは、高分子溶液の接触と同時に架橋試薬(c)を高分子溶液に加えてもよく、高分子溶液の接触後に架橋試薬(c)をポリイオンコンプレックス膜に接触させてもよい。高分子溶液の接触後にポリイオンコンプレックス膜を架橋試薬(c)と接触させる方法は、浸漬、塗布などのいずれの方法でもよい。接触時間は1秒〜1時間が好ましい。接触時間を1秒〜1時間とすることで、十分な架橋反応が進行する。
【0037】
本発明では、このようにして得られるポリイオンコンプレックス膜を架橋反応させ、高分子(a)高分子(b)の間、すなわち正電荷を有する高分子(a)と負電荷を有する高分子(b)を共有結合によって架橋させる。このことにより、ポリイオンコンプレックス膜に高イオン濃度の水溶液や塩素洗浄等に対する耐久性を付与する。
【0038】
本発明において、シロキサン結合による架橋反応を進行させるための乾燥工程としては、室温〜150℃の範囲内で1分〜48時間、乾燥させる工程が好適に用いられる。150℃以上の場合はポリスルホンからなる多孔性支持膜の性能が低下すると考えられる。1分〜48時間の範囲内であれば、生産効率を落とさずに架橋反応を進行させることができる。また、乾燥は常圧で行ってもよいし、真空下で行ってもよい。
【0039】
このように形成される本発明の複合半透膜は、プラスチックネットなどの原水流路材と、トリコットなどの透過水流路材と、必要に応じて耐圧性を高めるためのフィルムと共に、多数の孔を穿設した筒状の集水管の周囲に巻回され、スパイラル型の複合半透膜エレメントとして好適に用いられる。さらに、このエレメントを直列または並列に接続して圧力容器に収納した複合半透膜モジュールとすることもできる。
【0040】
また、上記の複合半透膜やそのエレメント、モジュールは、それらに原水を供給するポンプや、その原水を前処理する装置などと組み合わせて、流体分離装置を構成することがきる。この分離装置を用いることにより、原水を飲料水などの透過水と膜を透過しなかった濃縮水とに分割して、目的にあった水を得ることができる。
【0041】
流体分離装置の操作圧力は、高い方がその塩阻止率は向上する。しかし、流体分離装置の運転に必要なエネルギーも増加すること、また、複合半透膜の耐久性を考慮すると、複合半透膜に被処理水を透過する際の操作圧力としては、0.1MPa以上、10MPa以下が好ましい。被処理水の温度は、高くなると塩阻止率が低下するが、低くなるにしたがい膜透過流束も減少する。このため、被処理水の温度としては、5℃以上、45℃以下が好ましい。また、供給水(被処理水)のpHは高くなると、供給水が高塩濃度の海水などである場合、マグネシウムなどのスケールが発生する恐れがあり、また、高pH運転による複合半透膜の劣化が懸念されるため、中性領域での運転が好ましい。
【0042】
本発明の複合半透膜によって処理される原水(被処理水)としては、海水、かん水、廃水等の500mg/L〜100g/Lの塩を含有する液状混合物が挙げられる。
【0043】
実施例
以下において、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0044】
実施例および比較例における膜の特性は、複合半透膜に、濃度1000ppm、温度25℃、pH6.5に調整した塩化ナトリウム水溶液または硫酸マグネシウム水溶液を操作圧力0.5MPaで供給して膜ろ過処理を行い、透過水、供給水の水質を測定することにより求めた。
【0045】
(塩阻止率)
塩阻止率(%)=100×{1−(透過水中の塩濃度/供給水中の塩濃度)}
【0046】
(膜透過流束)
供給水が膜透過した水量を、膜面1平方メートル当たり、1時間当たり、単位圧力当たりの透水量(リットル)でもって表した(L/m2/h/bar)。
【0047】
(実施例1)
繰り返し単位の中に正電荷を有する高分子(a)として、ポリ(4−スチリルメチル)トリメチルアンモニウムとポリ(3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)の重量比95:5のコポリマーを合成した。クロロメチルスチレン20gと3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1.05gを脱水トルエン30mLに溶解し、アゾビスイソブチロニトリル65mgを加えて窒素雰囲気下、70℃で24時間撹拌した。この溶液1mLをメタノール50mL中に滴下して再沈殿させたのち、テトラヒドロフラン50mLに溶解させ、トリメチルアミンを滴下した。沈殿として、目的とするコポリマーを得た。
【0048】
繰り返し単位の中に負電荷を有する高分子(b)としてポリ(p−スチレンスルホン酸ナトリウム)とポリ(4−ヒドロキシブチルアクリル酸)の重量比95:5のコポリマーを合成した。p−スチレンスルホン酸ナトリウム12gと4−ヒドロキシブチルアクリル酸0.63gを蒸留水30mLに溶解し、過硫酸アンモニウム0.48gを加えて70℃で24時間撹拌した。この溶液1mLをメタノール50mL中に滴下して再沈殿させ、目的とするコポリマーを得た。
【0049】
室温(25℃)において、ポリエステル不織布(通気度0.5−1mL/cm2/sec)上にポリスルホンの15.7wt%DMF溶液を200μmの厚みでキャストし、ただちに純水中に浸漬し5分間静置することによって多孔性支持膜を作製した。
【0050】
このようにして得られた多孔性支持膜(厚さ210〜215μm)を、10mg/mLの高分子(a)水溶液を50mMのNaCl−イミダゾール溶液で10倍に希釈した高分子溶液に30分間浸漬した後、純水で洗浄した。つづいて、10mg/mLの高分子(b)水溶液を50mMのNaCl−イミダゾール溶液で10倍に希釈し、テトライソシアネートシラン50μLを加えた高分子溶液に30分間浸漬した後、純水で洗浄した。上記の二つの高分子溶液への浸漬の操作を交互に合計8回繰り返し、ポリイオンコンプレックス膜を得た。これを室温、真空下で24時間乾燥させ、架橋反応を行った。その後、10wt%イソプロピルアルコール水溶液に3時間浸漬させ、続いて純水で洗浄した。
【0051】
塩に対する安定性を評価するために、膜を3MのNaCl水溶液に室温で6時間浸漬した。その後純水で洗浄した。
【0052】
これとは別に、塩素に対する安定性を評価するために、膜を次亜塩素酸溶液(200ppm NaClO, 500ppm CaCl2,pH7)に室温で24時間浸漬した。その後純水で洗浄した。
【0053】
架橋反応後のベース膜、NaCl水溶液浸漬後の膜、次亜塩素酸溶液浸漬後の膜の塩阻止率および透水性を評価した結果を表1に示す。
【0054】
(比較例1)
実施例1において、テトライソシアネートシランを添加せず、24時間の乾燥による架橋反応を行わずに、製膜を行った。同様にNaCl溶液または次亜塩素酸溶液への浸漬を行った場合の、塩阻止率および透水性の評価結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
実施例1の膜は、NaCl溶液および次亜塩素酸溶液に浸漬した後も、顕著な性能低下は見られなかった。これに対し、架橋処理を行っていない比較例1の膜は、NaClや次亜塩素酸の溶液に浸漬することにより、大幅に阻止率が低下する結果となった。このように、本発明により得られる複合半透膜は、既存のポリイオンコンプレックス膜では達成できなかった高い耐久性を有している。
【0057】
(実施例2)
繰り返し単位の中に正電荷を有する高分子(a)として、ポリ(4−スチリルメチル)トリメチルアンモニウムとポリ(3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)の重量比95:5のコポリマーを以下の通り合成した。クロロメチルスチレン20gと3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1.05gを脱水トルエン30mLに溶解し、アゾビスイソブチロニトリル65mgを加えて窒素雰囲気下、70℃で24時間撹拌した。この溶液1mLをメタノール50mL中に滴下して再沈殿させたのち、テトラヒドロフラン50mLに溶解させ、トリメチルアミンを滴下した。沈殿として、目的とするコポリマーを得た。
【0058】
繰り返し単位の中に負電荷を有する高分子(b)としてポリ(p−スチレンスルホン酸ナトリウム)とポリ(3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン)の重量比95:5のコポリマーを以下の通り合成した。p−スチレンスルホン酸ナトリウム12gと3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.63gを脱水ジメチルスルホキシド120mLに溶解し、過硫酸アンモニウム0.48gを加えて70℃で24時間撹拌した。この溶液4mLをメタノール200mL中に滴下して再沈殿させ、目的とするコポリマーを得た。
【0059】
室温(25℃)において、ポリエステル不織布(通気度0.5−1mL/cm2/sec)上にポリスルホンの15.7wt%DMF溶液を200μmの厚みでキャストし、ただちに純水中に浸漬し5分間静置することによって多孔性支持膜を作製した。
【0060】
このようにして得られた多孔性支持膜(厚さ210〜215μm)を、10mg/mLの高分子(a)水溶液を50mMのNaCl−イミダゾール溶液で10倍に希釈した高分子溶液に30分間浸漬した後、純水で洗浄した。つづいて、10mg/mLの高分子(b)水溶液を50mMのNaCl−イミダゾール溶液で10倍に希釈した高分子溶液に30分間浸漬した後、純水で洗浄した。上記の二つの高分子溶液への浸漬の操作を交互に合計8回繰り返し、ポリイオンコンプレックス膜を得た。これを室温、真空下で24時間乾燥させ、架橋反応を行った。その後、10wt%イソプロピルアルコール水溶液に3時間浸漬させ、続いて純水で洗浄した。
【0061】
塩に対する安定性を評価するために、膜を3MのNaCl水溶液に室温で6時間浸漬した。その後純水で洗浄した。
【0062】
これとは別に、塩素に対する安定性を評価するために、膜を次亜塩素酸溶液(200ppm NaClO,500ppm CaCl2,pH7)に室温で24時間浸漬した。その後純水で洗浄した。
【0063】
架橋反応後のベース膜、NaCl水溶液浸漬後の膜、次亜塩素酸溶液浸漬後の膜の塩阻止率および透水性を評価した結果を表2に示す。
【0064】
(比較例2)
実施例2において、繰り返し単位の中に正電荷を有する高分子(a)として、ポリ(4−スチリルメチル)トリメチルアンモニウムを、繰り返し単位の中に負電荷を有する高分子(b)としてポリ(p−スチレンスルホン酸ナトリウム)を、それぞれ用いて同様の製膜を行った。同様にNaCl溶液または次亜塩素酸溶液への浸漬を行った場合の、塩阻止率および透水性の評価結果を表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
実施例2の膜は、NaCl溶液および次亜塩素酸溶液に浸漬した後も、顕著な性能低下は見られなかった。これに対し、シロキサン結合を形成し得ない比較例2の膜は、NaClや次亜塩素酸の溶液に浸漬することにより、大幅に阻止率が低下する結果となった。このように、本発明により得られる複合半透膜は、既存のポリイオンコンプレックス膜では達成できなかった高い耐久性を有している。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、かん水や海水の脱塩や硬水の軟水化などに有用な半透膜、特に逆浸透膜に好適に用いることができる。