【文献】
Solveig flock, Morten Lundquist and Lars Skattebol,Syntheses of some polyunsaturated sulfur- and oxygen-containing fatty acids related to eicosapentaenoic and docosahexaenoic acids,Acta Chemica Scandinavica,1999年,53(6),436-445
【文献】
Anne Kristin Holmeide and Lars Skattebol,Syntheses of some polyunsaturated trifluoromethyl ketones as potential phospholipase A2 inhibitors,Perkin 1,2000年 6月30日,14,2271-2276
【文献】
PAPANIKOLAOU,ALTERATION OF MERCURIC CHLORIDE-INDUCED AUTOIMMUNE GLOMERULONEPHRITIS IN BROWN-NORWAY RATS BY HERRING OIL, EVENING PRIMROSE OIL AND OKY-046 A SELECTIVE TXA-SYNTHETASE,PROSTAGLANDINS, LEUKOTRIENES AND MEDICINE,英国,CHURCHILL LIVINGSTONE,1987年 5月 1日,V27 N2-3,P129-149
【文献】
SHI Y,ATTENUATION OF MYCOTOXIN-INDUCED IGA NEPHROPATHY BY EICOSAPENTAENOIC ACID IN THE MOUSE: DOSE RESPONSE AND RELATION TO IL-6 EXPRESSION,JOURNAL OF NUTRITIONAL BIOCHEMISTRY,英国,BUTTERWORTH PUBLISHERS,2006年10月 1日,V17 N10,P697-706
【文献】
FLOCK S,SYNTHESES OF SOME SULFUR-CONTAINING POLYUNSATURATED FATTY ACIDS AS POTENTIAL LIPOXYGENASE INHIBITORS,SYNTHETIC COMMUNICATIONS,TAYLOR & FRANCIS GROUP,2007年 1月 1日,V37 N22,P4005-4015
【文献】
HANSEN T V,SYNTHESES OF TWO CYTOTOXIC POLYUNSATURATED PYRROLE METABOLITES OF THE MARINE SPONGE MYCALE MICRACANTHOXEA,TETRAHEDRON LETTERS,NL,ELSEVIER,2004年 3月22日,V45 N13,P2809-2811
【文献】
CYBULSKY ANDREY V,COMPLEMENT C5B-9 MEMBRANE ATTACK COMPLEX INCREASES EXPRESSION OF ENDOPLASMIC RETICULUM STRESS PROTEINS IN GLOMERULAR EPITHELIAL CELLS,JOURNAL OF BIOLOGICAL CHEMISTRY,2002年11月 1日,V277 N44,P41342-41351
【文献】
LARSEN L N,POLYUNSATURATED THIA- AND OXA-FATTY ACIDS: INCORPORATION INTO CELL-LIPIDS AND THEIR EFFECTS ON ARACHIDONIC ACID- AND EICOSANOID SYNTHESIS,BIOCHIMICA ET BIOPHYSICA ACTA,NL,ELSEVIER,1997年 1月 1日,V1348 N3,P346-354
【文献】
ALBRIGHTSON CHRISTINE R,SELECTIVE INHIBITION OF 5-LIPOXYGENASE ATTENUATES GLOMERULONEPHRITIS IN THE RAT,KIDNEY INTERNATIONAL,1994年,V45 N5,P1301-1310
【文献】
KATAGIRI,TRIFLUOROMETHYLATED AMINO ALCOHOL AS CHIRAL AUXILIARY FOR HIGHLY DIASTEREOSELECTIVE AND FAST SIMMONS-SMITH CYCLOPROPANATION OF ALLYLIC AMINE,TETRAHEDRON ASYMMETRY,英国,PERGAMON PRESS LTD,2006年 4月18日,V17 N8,P1157-1160
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
別の態様によれば、本発明は、動物、好ましくは哺乳類、例えばヒト、に、有効量の上記の式(I)の化合物のまたはその塩を投与することを含む、糸球体腎炎の治療方法を提供する。
【0016】
別の態様によれば、本発明は、糸球体腎炎の治療用薬剤の製造に使用するための、上記式(I)の化合物またはその塩の使用を提供する。
【0017】
[詳細な説明]
本発明は、糸球体腎炎および関連する症状の治療における式(I)の化合物またはその塩の使用を伴う。糸球体腎炎は、糸球体の炎症を特徴とする腎臓病である。
【0018】
基Rは、好ましくは、二重結合を5〜9個、好ましくは二重結合を5〜8個、例えば、二重結合を5〜7個、例えば、二重結合を5個または6個含む。これらの結合は非共役結合であるのがよい。また、二重結合は、カルボニル官能基と共役していないことが好ましい。
【0019】
基Rにおける二重結合は、シスまたはトランス配置であってもよいが、存在する二重結合の大部分が(つまり、少なくとも50%)がシス配置であることが好ましい。さらに有利な実施形態では、基Rにおける二重結合がすべてシス配置であるか、またはカルボニル基に最も近い二重結合がトランス配置であってもよいことを除いてはすべての二重結合がシス配置である。
【0020】
基Rは、炭素原子を10〜24個、好ましくは炭素原子を12〜20個、特に炭素原子を17〜19個有してもよい。
【0021】
R基は、少なくとも1個のヘテロ原子またはヘテロ原子の群により割り込まれていてもよいが、これは好ましくなく、R基の主鎖は炭素原子のみを含むことが好ましい。
【0022】
R基は、例えば、ハロ、メチルなどのC
1-6アルキル、C
1-6アルコキシから選ばれる置換基を3個まで有していてもよい。存在している場合は、置換基は好ましくは無極性であり、メチル基などの小さい基である。しかしながら、R基は非置換のままであるのが好ましい。
【0023】
R基は好ましくは直鎖である。これは、好ましくは、長鎖脂肪酸またはエステルなどの自然源に由来することが好ましい。特に、R基は、AA、EHA、またはDHAに由来してもよい。
【0024】
連結基Lは、R基と前記カルボニルとの間に、主鎖原子が1〜5個の、好ましくは主鎖原子が2〜4個の橋掛け基を提供する。連結基の主鎖における原子は、炭素および/またはN、O、S、SO、SO
2などのヘテロ原子であってもよい。当該原子は、環の一部を形成してもよく、連結基の主鎖原子は側鎖、例えば、C
1-6アルキル、オキソ、アルコキシ、またはハロなどの基で置換されていてもよい。
【0025】
連結基の好ましい構成要素は、−CH
2−、−CH(C
1-6アルキル)−、−N(C
1-6アルキル)−、−NH−、−S−、−O−、−CH=CH−、−CO−、−SO−、−SO
2−であり、これらは、(化学的に意味のある)任意の順番で互いに組み合わされて連結基を形成してもよい。したがって、2個のメチレン基および1個の−S−基を使用することにより、連結基−SCH
2CH
2−が形成される。
【0026】
連結基Lは、主鎖に少なくとも1個のヘテロ原子を含むことが非常に好ましい。R基に結合した連結基の1個目の主鎖原子がヘテロ原子またはヘテロ原子の群であることも好ましい。
【0027】
連結基Lは、主鎖に少なくとも1個の−CH
2−リンクを含むことが非常に好ましい。理想的には、カルボニルに隣接する連結基の原子が、−CH
2−である。
【0028】
基Rまたは基L(L基の大きさによる)は、カルボニルに対してα、β、γ、またはδ、好ましくはカルボニルに対してβまたはγに位置するヘテロ原子またはヘテロ原子の群を提供することが好ましい。好ましくは、ヘテロ原子は、O、N、もしくはS、またはSOなどの硫黄誘導体である。
【0029】
したがって、連結基は、−NH
2CH
2、−NH(Me)CH
2−、−SCH
2−、−SOCH
2−、−COCH
2−であることが非常に好ましい。
【0030】
また、連結基が環であるかまたは環を含むことも本発明の範囲内である。したがって、例えば、連結基は、2、4−チオフェンなどのチオフェンであってもよく、この場合カルボニルに対して原子2個(最短経路で)の橋状結合が提供される。連結基が、フラン、テトラヒドロフラン、ピペリジン、シクロヘキサン、ベンゼン、またはピリジンなどの環であることも可能である。連結基が環を含む場合は、この環が5または6員環であることが好ましい。環が少なくとも1個のヘテロ原子またはヘテロ原子の群を含むことが好ましい。環は、不飽和であるか芳香性であることが好ましい。R基およびCOX基が、かかる環へ直接結合するときは、R基およびCOX基は、違う原子に結合することが好ましく、環の炭素原子に結合することが好ましい。
【0031】
置換パターンは、Rおよびカルボニルの置換基が互いに対してアルファ、ガンマ(つまり、1,3、または2,4、または3,5−スプリット)であるのが好ましい。
【0032】
誤解を避けるため、原子1〜5個の橋状結合が、連結基の最初からカルボニルまでの最短経路として数えられるべきであることを強調しておく。
【0033】
適切な環状連結基を下記に示し、ここでR基およびカルボニルは、これらの環上の任意の2個の炭素原子に結合することができる。
【0035】
また、連結基が環状および非環状部分、例えば、CH
2−チオフェンまたはNH
2−チオフェンなどを含むことも本発明の範囲内である。かかる連結基では、R基が環に直接結合し、カルボニル基が、非環状部分、例えば、−CH
2−結合に結合することが好ましい。当業者であれば、本発明での使用に適切な様々な連結基を何れも思いつくであろう。
【0036】
非常に好ましい連結基は、−CH
2−、−CH
2−CH
2−、−CH(Me)、−CH(Me)CH
2−、−CH(Me)−CH(Me)−、SCH
2、NHCH
2、N(Me)CH
2、2,4−チオフェン、および2,5−チオフェンである。
【0037】
基Xは、電子求引基である。この点において適切な基としては、O−C
1-6アルキル、CN、OCO
2−C
1-6アルキル、フェニル、CHal
3、CHal
2H、CHalH
2が挙げられ、ここでHalは、ハロゲン、例えばフッ素、塩素、臭素、またはヨウ素、好ましくはフッ素を表す。
【0038】
好ましい実施形態では、電子吸引基は、CHal
3、特にCF
3である。
【0039】
したがって、好ましい式(I)の化合物は、式(I’)の化合物である。
【0040】
R−Y1−Y2−CO−X
式中、RおよびXは、上に定義のとおりであり;
Y1は、O、S、NH、N(C
1-6−アルキル)、SO、またはSO
2から選ばれ、Y2は、(CH
2)
nまたはCH(C
1-6アルキル)であるか;あるいは、
Y1およびY2は、一緒になって5員または6員の単素または複素の、場合によって不飽和または芳香性であってもよい、環を形成するか;あるいは、
Y1は、5員または6員の単素または複素の、場合によって不飽和または芳香性であってもよい、環を形成し、Y2は(CH
2)
nであり;
ここでnは、1〜3、好ましくは1である。
【0041】
本発明での使用に非常に好ましい(公知の)化合物を下記に示す。
【0043】
いくつかの化合物は新規であり、本発明のさらなる態様を成す。
【0044】
したがって、別の態様から見ると、本発明は、式(I’’)の化合物を提供する。
【0045】
R−Y1−Y2−CO−X (I’’)
式中、RおよびXは、上に定義のとおりであり;
Y1およびY2は、一緒になって5員または6員の単素または複素の、場合によって不飽和または芳香性であってもよい、環を形成するか;あるいは、
Y1は、5員または6員の単素または複素の、場合によって不飽和または芳香性であってもよい、環を形成し、Y2は(CH
2)
nであり;
ここでnは、1〜3、好ましくは1である。
【0046】
新規のさらなる化合物としては、化合物RN(C
1-6アルキル)COXが挙げられる。
【0047】
したがって、別の態様から見ると、本発明は、式(II)の化合物を提供する。
【0048】
RN(C
1-6アルキル)(CH
2)
nCOX (II)
式中、R、n、およびXは、上に定義のとおりである。当該化合物は、特に次の化合物である。
【0050】
新規であるさらなる好ましい化合物は、L基が環であるかまたは環を含むものである。したがって、別の態様から見ると、本発明は、式(III)の化合物を提供する。
【0051】
R−L’−CO−X (III)
式中、RおよびXは、上に定義のとおりであり、L’は、R基とカルボニルCOとの間に原子を1〜5個有する橋状結合を形成する連結基を表し、ここで当該L’は、環構造を含む。
【0052】
式(III)の好ましい化合物を下記に示す。
【0054】
式中、nは1〜3、例えば1〜2である。
【0055】
特に好ましくは、上記基は、環の2位および4位に結合する(図中、原子1がS原子である)。
【0056】
別の態様から見ると、本発明は、少なくとも1種の薬学的に許容される賦形剤と組み合わせた、上に定義するような任意の新規の化合物を含む医薬組成物を提供する。
【0057】
下記の化合物が、本発明での使用に非常に好ましい。
【0059】
可能であれば、本発明の化合物は、塩、溶媒和物、プロドラッグ、またはエステルの形態、特に塩の形態で投与することができる。しかしながら、好ましくは、かかる形態は使用しない。
【0060】
典型的には、薬学的に許容される塩は、所望の酸を使うことにより容易に調製され得る。塩は、溶液から析出させ、ろ過により採取してもよいし、溶媒の蒸発により回収してもよい。例えば、塩酸などの酸の水溶液は、式(I)の化合物の水性懸濁液に加えてもよく、得られる混合物を蒸発乾固させ(凍結乾燥)、固形物として酸付加塩が得られる。あるいは、式(I)の化合物は、適切な溶媒、例えば、イソプロパノールなどのアルコールに溶解してもよく、酸は、同じ溶媒または別の適切な溶媒に加えてもよい。次いで、得られる酸付加塩を直接またはジイソプロピルエーテルもしくはヘキサンなどのより極性の低い溶媒を加えることにより析出させてもよく、ろ過により単離される。
【0061】
適切な付加塩は、非毒性の塩を形成する無機酸または有機酸から形成され、例としては、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、重硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、リン酸水素塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、リンゴ酸塩、フマル酸塩、乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、ギ酸塩、グルコン酸塩、コハク酸塩、ピルビン酸塩、シュウ酸塩、オキサロ酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、糖酸塩、安息香酸塩、アルキルもしくはアリールスルホン酸塩、(例えば、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、もしくはp−トルエンスルホン酸塩)、およびイセチオン酸塩が挙げられる。代表的な例としては、トリフルオロ酢酸塩ならびにギ酸塩、例えば、ビストリフルオロ酢酸塩もしくはトリストリフルオロ酢酸塩、およびモノギ酸塩もしくはジギ酸塩、特に、トリストリフルオロ酢酸塩もしくはビストリフルオロ酢酸塩およびモノギ酸塩が挙げられる。
【0062】
さらなる非常に好ましい実施形態では、本発明の化合物はスルホニウム塩である。かかる化合物では、分子の主鎖中(例えば、連結基中)の硫黄原子は、C
1-6−アルキル基を有するように官能化されている。これは、ハロゲン化アルキル、例えば、ヨウ化メチルを用いて反応させて達成することができる。ハロゲン化物イオンは、塩の対イオンを形成する。
【0063】
さらなる好ましい実施形態では、したがって、本発明は、式(I)の化合物のスルホニウム塩を提供する。好ましくは、当該化合物は、式(VI)のものである。
【0064】
RS(C
1-6アルキル)CH
2COX
+Z
- (VI)
式中、RおよびXは上に定義のとおりであり、Zは、例えば、ハロゲン化物などの対イオンである。当該化合物は、例えば、下記の化合物である。
【0066】
式(I)の化合物は、公知の化学合成経路を用いて製造されてもよい。市販の化合物であるアラキドン酸(AA)、EPA(all−Z−エイコサ−5,8,11,14,17−ペンタエン酸)、またはDHA(all−Z−ドコサ−4、7、10、13、16、19−ヘキサエン酸)から合成を開始することが都合がよい。これらの化合物の酸官能基の、例えば、−COCF
3基への変換は、例えば、カルボン酸をその対応する酸クロリドに変換し、それをピリジンの存在下で無水トリフルオロ酢酸と反応させることにより容易に達成することができる。
【0067】
炭素鎖へのヘテロ原子の導入も容易に達成される。都合良くは、例えば、出発の酸を、アルコールに還元し、必要であれば、対応するチオールに変換する。次に、BrCH
2COCF
3などの基で求核性チオールを反応させてもよく、これによりカルボニルおよび電子求引性種が導入される。合成プロトコルの詳細は、J.Chem.Soc.,Perkin Trans 1、2000、2271〜2276またはJ.Immunol.,1998,161,3421に見出すことができる。
【0068】
分子の主鎖が窒素原子を含んでいる場合は、別の合成が必要である。ポリ不飽和アルコールの形成は、上記Perkin Transの論文中に記載のプロトコルを用いて達成することができる。その後、例えば、フタルイミドおよびその後のヒドラジン還元を用いたアルコール−OHの−NH
2への変換により、トリフルオロプロピレンオキシド(TFPO)との反応およびケトンへの水酸基の酸化による−NH
2CH
2COCF
3基の形成が可能になる。この反応を下記に示す。
【0069】
この反応の前に、N−BOC基の形成および、例えば水素化アルミニウムリチウムを用いた還元により窒素のメチル化を行ってもよい。TFPOとの反応および酸化により連結基であるNMe−CH
2が得られる。
【0071】
これは、本発明のさらなる態様を成し、したがって、本発明は、下記工程を含む式(I)の化合物の調製方法を提供する。
【0072】
(I)化合物R−OHをR−NH
2に変換すること;
(II)場合によってはN原子をメチル化すること;
(III)TFPOと反応させること;および
(IV)形成された水酸基をケトンまで酸化すること。
【0073】
本発明の化合物は、中でも糸球体腎炎の治療における使用を主として提案される。本発明の化合物は、一般に糸球体腎炎の治療に役立つが、増殖型の当該疾患の治療において特に有用である。
【0074】
治療すること、または治療により下記の少なくとも1つを意味する。
【0075】
(i).哺乳類において発症した疾患の臨床的な症状の出現を予防するかまたは遅延させること;
(ii).疾患を阻害すること、つまり、疾患の発症、またはその再発、またはその臨床的もしくは亜臨床的な症状の少なくとも1つを停止させる、減少させる、または遅延させること;あるいは
(iii).疾患の臨床的もしくは亜臨床的な症状の1つ以上を軽減させるかまたは減退させること。
【0076】
治療される被験者に対する利益は、統計的に有意なものであるか、または患者もしくは医師に少なくとも知覚可能であるものかのいずれかである。一般に、当業者であれば「治療」がいつ起こるかを理解することができる。
【0077】
本明細書において「治療」なる語はまた、予防的治療、つまり問題となる疾患を発症する危険性のある被験者を処置することを含む。
【0078】
本発明の化合物は、任意の動物被験体、特に哺乳類、より具体的にはヒトまたは疾患モデルとしての役割を果たす動物(例えば、マウス、サルなど)に対して使用できる。
【0079】
疾患を治療するため、有効量の活性物質を患者に投与する必要がある。「治療上有効な量」とは、状態、疾患、または症状を治療するための動物に投与された場合に、そのような治療をもたらすのに十分な化合物の量を意味する。「治療上有効な量」は、化合物、疾患およびその重症度、ならびに治療される被験者の年齢、体重、健康状態および応答性よって異なり、最終的には主治医の判断によることになる。
【0080】
本発明の方法での使用には、式Iの化合物を原薬として投与することが可能であるが、例えば、意図する投与経路および標準的な薬務に関連して選ばれた薬学的に許容される担体と活性成分とを混合した医薬製剤にて当該活性成分を提供することが好ましい。
【0081】
「担体」なる語は、活性化合物が共に投与される希釈剤、賦形剤、および/またはベヒクルを指す。本発明の医薬組成物は、1種を超える担体の組み合わせを含んでもよい。かかる医薬担体は、当技術分野において周知である。医薬組成物はまた、任意の適切な結合剤、滑沢剤、懸濁化剤、コーティング剤、および/または可溶化剤などを含んでもよい。当該組成物はまた、他の活性成分、例えば、糸球体腎炎の治療用の他の薬剤を含んでもよい。
【0082】
なお、本発明による使用のための医薬組成物は、経口、腸管外、経皮、吸入、舌下、局所、移植、経鼻、または腸内投与される(または他の粘膜投与される)懸濁剤、カプセル剤、または錠剤の形態でもよく、これらは、1種以上の薬学的に許容される担体または賦形剤を用いて、従来の方法で製剤化されてもよい。本発明の組成物はまた、ナノ粒子製剤として製剤化できる。
【0083】
本発明の化合物は、即時放出性か、遅延放出性か、調節放出性、徐放性、パルス放出性、または制御放出性用途のために投与することができる。
【0084】
本発明の医薬組成物は、活性物質を体積当たり0.01〜99%重量含んでもよい。
【0085】
治療上有効な量の本発明の化合物は、当技術分野で公知の方法により決定することができる。治療上有効な量は、患者の年齢および全身の生理的状態、投与経路、ならびに使用する医薬製剤によって決まる。治療用量は、一般に、約10〜2000mg/日の間、好ましくは約30〜1500mg/日の間である。使用し得る他の範囲としては、例えば、50〜500mg/日、50〜300mg/日、100〜200mg/日が挙げられる。
【0086】
投与は、1日1回、1日2回、またはより頻繁に行われてもよく、疾患または疾病の維持期においては減らしてもよく、例えば、毎日または1日2回に代わって2日または3日に1回でもよい。用量および投与頻度は、当業者に分かる少なくとも1つ、好ましくは1つを超える急性期の臨床徴候の減少や消失によって寛解期が持続していることが確認される臨床徴候によって決まる。
【0087】
本発明の薬剤を経口的に服用することが有利である。
【0088】
本発明の化合物は、糸球体腎炎および関連する疾患の治療に使用してもよい。特に、本発明の化合物は、メサンギウム増殖性糸球体腎炎、ネフローゼ症候群、慢性もしくは急性腎不全、タンパク尿、血尿症、IgA腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、ループス腎炎、糖尿病性腎症、および糸球体硬化を治療するために使用してもよい。
【0089】
本発明の化合物は、糸球体腎炎の治療目的のための他の公知の薬剤と組み合わせて糸球体腎炎を治療するために使用されてもよく、これは本発明のさらなる態様を成す。他の有用な薬剤としては、コルチコステロイド、免疫抑制剤、降圧薬、および利尿剤が挙げられる。
【0090】
本発明を、次の非限定的な実施例および図を参照して下記にさらに記載する。
【0091】
[図面の簡単な説明]
図1は、メサンギウム細胞におけるサイトカイン刺激性PGE
2形成に対する実施例の阻害剤の効果を示す。休止細胞を、表示の濃度のAKH−217およびAVX002の非存在下(−)または存在下で、DMEM(−)またはIL−1β(1nM)のいずれかで刺激した。上清を採取し、ELISAを用いたPGE2の定量に利用した。データは、最大のIL−1β刺激性PGE2に対する%として表し、平均±S.D.(n=3)である。
【0092】
図2は、メサンギウム細胞におけるサイトカイン刺激性sPLA
2タンパク質(A)およびmRNA(B)発現ならびにプロモーター活性に対する実施例の阻害剤の効果を示す。休止細胞を、AKH−217(etOH)、ビヒクル対照の非存在下(−)または存在下で、DMEM(−)またはIL−1β(1nM)のいずれかで刺激した。
【0093】
(A)上清をタンパク質の析出に利用し、析出したタンパク質を、SDS−PAGEにより分離し、ラットsPLA
2に対するモノクローナル抗体を用いたウエスタンブロット分析に供した。データは、デュプリケートで行った代表的な実験の結果を示す。
【0094】
(B)細胞をRNA抽出に利用し、ラットIIA−sPLA
2および18 S RNAの定量PCR分析に供した。ΔΔCt値を算出し、結果は最大のIL−1β刺激性の応答に対する%として表し、平均+S.D.(n=3)である。
【0095】
(C)細胞を、レニラルシフェラーゼをコードするプラスミドを加えたsPLA2プロモーターコンストラクトでトランスフェクトした。トランスフェクトした後、細胞を、ビヒクル(−)、IL−1β(1nM)、または10μMのAKH−217を加えたIL−1βで24時間刺激した。sPLA2プロモーター活性を算出し、結果は相対ルシフェラーゼ単位(RLU)として表し、平均±S.D.(n=3)である。
【0096】
図3は、メサンギウム細胞におけるサイトカイン刺激性NO形成に対する実施例の阻害剤の効果を示す。休止細胞を、表示の濃度のAKH−217、AVX002、またはAACOCF3の非存在下または存在下で、DMEM(−)またはIL−1β(1nM;+)のいずれかで刺激した。上清を採取し、Griess反応アッセイを用いた酸化炭素(NO)の定量に利用した。データは、上清中のNOをμMで表し、平均±S.D.(n=3)である。
【0097】
図4は、メサンギウム細胞におけるサイトカイン刺激性iNOSタンパク質(A)およびmRNA(B)発現ならびにプロモーター活性に対する実施例の阻害剤の効果を示す。休止細胞を、表示の濃度(μM)のAVX001、AVX002、EtOH、ビヒクル対照の非存在下(−)または存在下で、ビヒクル(DMEM)またはIL−1β(1nM)のいずれかで刺激した。(A)細胞をタンパク質抽出に利用し、等量のタンパク質をSDS−PAGEにより分離し、iNOSに対するポリクローナル抗体を1:2000の希釈度で用いたウエスタンブロット分析に供した。データは少なくとも3つの別々の実験を表し、同様の結果が得られた。
【0098】
(B)細胞をRNA抽出に利用し、ラットiNOSおよび18 S RNAの定量PCR分析に供した。ΔΔCt値を算出し、結果は、最大のIL−1β応答に対する%として表し、平均±S.D.(n=3)である。
【0099】
(C)細胞を、レニラルシフェラーゼをコードするプラスミドを加えたラットiNOSプロモーターコンストラクトでトランスフェクトした。トランスフェクトした後、細胞を、ビヒクル(−)、IL−1β(1nM)、または10μMのAVX001を加えたIL−1βで刺激した。iNOSプロモーター活性を算出し、結果は、相対ルシフェラーゼ単位(RLU)として表し、平均±S.D.(n=3)である。
【0100】
図5は、メサンギウム細胞における[
3H]チミジン取り込みに対する実施例の阻害剤の効果を示す。休止細胞を、[
3H]チミジンの存在下、表示の濃度のAVX001またはAVX002の非存在下(−)または存在下で、ビヒクル(DMEM)または100μMのATPで24時間刺激した。
【0101】
(B)細胞を、[
3H]チミジンの存在下、10μMのAVX001またはAVX002の非存在下(−)または存在下で、インスリン(100ng/ml)またはIGF(50ng/ml)で24時間刺激した。DNAに取り込まれたチミジンを測定し、結果は、対照に対する%として表し、平均±S.D.(n=3)である。
【0102】
図6は、メサンギウム細胞におけるIL−1β刺激性NFkB活性化に対する実施例の阻害剤の効果を示す。休止細胞を、AVX001またはAVX002(10μM、2時間の前処理)の非存在下(−)または存在下(+)で、ビヒクル(DMEM)またはIL−1β(2nM)のいずれかで30分間刺激した。その後、細胞溶解物をSDS−PAGEにより分離し、ホスホ−p65(NFkB)(上側のパネル)、添加対照としてのHuR(中央のパネル)、およびIkB(下側のパネル)に対するポリクローナル抗体を用いたウエスタンブロット分析に供した。
図6Aのデータは、デュプリケートで行った代表的な実験の結果を示す。
図6Bおよび
図6Cは、NFkBおよびIkBバンドの濃度評価を示す。
【0103】
[実施例]
次の化合物を実験で使用した。
【0110】
AACOCF
3
これらの化合物は、Chem.Soc.,Perkin Trans 1、2000、2271〜2276に基づいて合成した。
【実施例1】
【0111】
ラット腎臓メサンギウム細胞におけるPGE2形成に対する阻害剤の効果
メサンギウム細胞におけるPGE2形成に対する阻害剤の効果を調査した。PGE2形成は、炎症誘発性サイトカインIL−1βによる細胞の刺激により高度に誘導される。このPGE2の誘導は、阻害剤の存在下で用量依存的に減少する。最も大きな効果は、3〜10μMのAKH−217(AVX001)および化合物B(AVX002)で見られた(
図1)。
【0112】
メサンギウム細胞におけるサイトカイン誘導性PGE2形成がsPLA2およびcPLA2両方の活性化を伴うことが過去に示されている(Pfeilschifterら、1993年)、次いで、我々は、sPLA2タンパク質およびmRNA発現に対する上記阻害剤の効果を調べた。
図2に見られるように、AKH−217は、IIA−sPLA2タンパク質発現および分泌(
図2A)、ならびにIIA−sPLA2 mRNA発現(
図2B)も減少させることができた。sPLA2 mRNAの発現に対するこの効果は、遺伝子転写に対する減少効果によるものであった。これは、sPLA2プロモーター活性を反映したルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイにより示された。
【0113】
このために、Scholz−Pedrettiら(2002年)の方法に従って、ラットIIA−sPLA2プロモーターの2.26kb断片をクローニングした。この断片を、ルシフェラーゼ含有ベクター(pGL3)にライゲーションし、メサンギウム細胞を形質転換するために使用した。
図2Cに見られるように、IL−1β刺激性プロモーター活性は、AKH−217により十分に減少した。
【0114】
これらのデータは、IL−1βにより活性化されsPLA2遺伝子転写にとって不可欠である転写因子のいくつかに本発明の阻害剤が影響を与え得ることを示唆している。有力な候補としては、NFkBおよびPPARが挙げられる。
【実施例2】
【0115】
ラット腎臓メサンギウム細胞における酸化窒素(NO)形成に対する阻害剤の効果
酸化窒素(NO)もまた、メサンギウム細胞のサイトカイン治療にて誘導型NO合成酵素(iNOS)により生じる炎症誘発性のメディエーターと考えられる。過去の様々な研究では、iNOS発現がsPLA2と同じ転写因子により調節されることが示されている。我々はまた、サイトカイン誘発性iNOS発現も阻害剤により影響されるかどうかを調査した。
【0116】
メサンギウム細胞におけるNO形成は、IL−1β治療により高度に誘導された。この刺激されたNO形成は、AKH−217およびAVX002の存在下で用量依存的に減少した(
図3)。さらに、IL−1βにより誘導される(
図4A)iNOSのタンパク質発現は、AKH−217およびAVX002の存在下でダウンレギュレートされる(
図4A)。定量リアルタイムPCR分析を行うと、iNOS mRNA発現に対して同様の減少効果も見られた(
図4B)。この効果がiNOSの改変遺伝子転写によるものかどうかを見るために、ルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイを行い、iNOSプロモーター活性を測定した。ラットiNOSプロモーターの4.5kb断片は、K.F.Beck博士(pharmazentrum frankfurt)の好意により提供していただいた。
図4Cに見られるように、メサンギウム細胞のIL−1β刺激は、iNOSプロモーターを10倍刺激した。AKH217の存在下では、プロモーター活性は完全に失われた。
【0117】
これらのデータは、iNOSの場合でも、AVX阻害剤が、遺伝子転写に対して減少効果を有し、恐らくsPLA2転写の場合と同じ転写因子に影響を与えているはずである、ということを示唆している。
【実施例3】
【0118】
メサンギウム細胞増殖に対する阻害剤の効果
糸球体腎炎は、第一段階では糸球体間質のアポトーシスの増加を特徴とし、第二段階では反対の事象、つまりメサンギウム細胞の過剰増殖と置き換わる。過去の様々な研究では、PDGF、インスリン、インスリン様成長因子(IGF)を含む様々な増殖因子あるいはATPおよびUTPなどの細胞外ヌクレオチドに曝露されると、培養下の静止メサンギウム細胞は、細胞周期に再び入り得ることが示されている。これらのデータはここでは、インスリン、IGF、およびATPが、DNAへの[
3H]チミジン取り込みの増加を引き起こすことにより確認された(
図5Aおよび
図5B)。AKH217またはAVX002のいずれかの存在下では、アゴニスト刺激性[
3H]チミジン取り込みは減少する(
図5Aおよび
図5B)。細胞をPDGFで刺激すると、同様のデータも得られた。これらのデータは、阻害剤の抗増殖能を示唆している。
【実施例4】
【0119】
メサンギウム細胞におけるNFkB活性に対する阻害剤の効果。
【0120】
実施例1および2ではiNOSおよびsPLA2の発現が、同じような様式で阻害剤により調節されることが分かったので、さらにこれら阻害剤がNFkB活性化に効果を有するかどうかを検討した。NFkB活性化は、ウエスタンブロット分析によって活性転写因子サブユニットを表すホスホ−p65の量を検出することにより測定した。IL−1β(3による細胞の短期の刺激によりホスホ−p65の小さいがはっきりとした増加が示され(
図6、上側のパネル)、これはサイトカインがNFkBを活性化するという過去の多くのレポートと一致している。この効果は、AKH217により減少した(
図6)。さらに、非刺激細胞において構成的に発現されるkB(IkB)の阻害剤は、IL−1β刺激によりダウンレギュレートされ、このダウンレギュレーションは、阻害剤により元に戻る(
図6、下側のパネル)。同等の添加量では、核HuR安定化因子が染色された(
図6、中央のパネル)。