(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1(a)は、本実施形態におけるガラス部材の平面図であり、
図1(b)は、ガラス部材を
図1(a)のA−A線に沿って切断し矢印方向から見た縦断面図であり、
図1(c)は、本実施形態における枠体の平面図であり、
図1(d)は、枠体を
図1(c)のB−B線に沿って切断し矢印方向から見た縦断面図、
図1(e)は、ガラス部材と枠体とを接着部材を介して接合したガラス複合体の縦断面図である。
図2は、
図1(e)に示すガラス複合体の部分拡大縦断面図である。
図3(a)は、ガラス複合体の裏面図であり、
図3(b)は、
図3(a)の変形例である。
【0020】
図1(e)に示すガラス複合体10は、入力装置1を構成する基材であり、携帯電話、携帯用のゲーム装置などに使用される。
【0021】
ガラス複合体10は、
図1(a)(b)に示すガラス部材11と、
図1(c)(d)に示すガラス部材11の周囲を囲む枠体20とを有して構成される。
図1(e)に示すように、ガラス部材11は枠体20に接着部材30を介して固定されている。
図1(e)に示すように、ガラス部材11と枠体20との間には接着部材30を充填可能な隙間40が設けられている。
【0022】
ガラス部材11は透光性であり、表示光を透過させることができる。ガラス複合体2は厚さ方向に表面10aと裏面10bとを有している。
【0023】
本明細書での透光性とは、透明または半透明など光を透過可能な状態を意味しており、透過率が50%以上で好ましくは80%以上であることを意味している。ガラス部材11は、通常ガラス、強化ガラス等、特に種類を限定するものではない。またガラス部材11の線膨張係数は、8ppm/K〜10ppm/K程度である。
【0024】
一方、枠体20は透光性部材を用いており、例えば、その一部が加飾領域として着色されている。例えば、枠体20は金型に熱可塑性樹脂を充填して成形したものである。例えば、枠体20は、ポリカーボネート(PC)やポリメタクリル酸メチル(PMMA)で形成される。なお枠体20には熱可塑性樹脂以外に、熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂を用いることが可能である。枠体20の線膨張係数は、10ppm/K〜100ppm/K程度である。また、枠体20を成形樹脂で形成することにより、ガラスよりも耐衝撃性に優れ、軽量且つ複雑な曲部や孔部を有する形状を容易に形成することができる。
【0025】
接着部材30は可視光を透過する透明樹脂であることが好ましい。接着部材30に可視光を透過する透明タイプの樹脂を用いれば、ガラス部材11との境界が目立たず、ほとんど一体化して透光性の領域を形成でき、目視で透明なガラス複合体とすることができる。さらに透明樹脂の枠体20と組み合わせたときは、全体が透明なガラス複合体10とすることができる。ただし、例えば加飾領域が、接着部材30の位置にまでかかる場合には、接着部材30が透光性でなくてもよく、材質としては透明樹脂に限定されない。加飾領域(非透光性領域)の形成は、印刷等によって行うことができる。
【0026】
また、接着部材30に1液性の常温硬化型接着剤である紫外線硬化型の樹脂を用いることが好ましい。紫外線硬化型の樹脂は短時間で硬化でき、接着時の温度変化や体積収縮が少ないため残留応力が小さい。また、ガラス部材11と枠体20とを接着する工程が簡単であり、量産性に優れている。また、常温硬化型のほか、熱硬化併用型の紫外線硬化樹脂を用いることができる。低収縮・低応力であれば接着時の残留応力が小さいので、ウレタン系、アクリル系、エポキシ系などの熱硬化併用型の紫外線硬化樹脂を使用できる。
【0027】
図1(a)(b)に示すようにガラス部材11は厚さ方向にて対向する平坦面の表面11aと裏面11bとを備え、厚さ方向(Z)に一定の厚みを有する。
【0028】
ガラス部材11には、表面11aと裏面11b間を繋ぐ4つの側面11c,11d,11e,11fが設けられている。
【0029】
本実施形態ではガラス部材11が平板状とされている。ただしガラス部材11の表面11aが加工により凸型の湾曲面状となっていたり、凹型の湾曲面状となっていてもよい。
【0030】
なお、ガラス部材11の表面11aは、入力装置1の入力操作面1aを構成する(
図1(e)参照)。
【0031】
図1(a)(b)に示すように、各側面11c,11d,11e,11fは、ガラス部材11の裏面11bから表面11a方向に向けて傾斜する第1の傾斜面13と、第1の傾斜面13とガラス部材11の表面11aとの間に形成された垂直面14とで形成される。
【0032】
垂直面とは、高さ方向(Z)と略平行な面であり、高さ方向に対して5°以下の傾き角度であれば垂直面に含まれる。
【0033】
図1(b)、
図2に示すように、第1の傾斜面13は、傾斜角θ1で形成される。ここで傾斜角θ1は、ガラス複合体10の水平面に対する傾き角度で示される。水平面とは、高さ方向(Z)に対して直交する面(X−Y平面)を指す。高さ方向(Z)はガラス複合体10の厚さ方向に一致している。
図1では、ガラス複合体10の表面10a及び裏面10bは、水平面と平行な面である。
【0034】
図1(c)(d)に示すように枠体20は厚さ方向(Z)に対向する表面20aと裏面20bとを備え、厚さ方向(Z)に一定の厚さ寸法を有する。
【0035】
枠体20には、その中央に表面20aから裏面20bに貫通する貫通孔21が形成されている。枠体20には、表面20aと裏面20b間を繋ぐ4つの内壁面20c,20d,20e,20fと、4つの外壁面20g,20h,20i,20jとを備える。貫通孔21は、4つの内壁面20c,20d,20e,20fに囲まれて形成される。
【0036】
図1(c)(d)、
図2に示すように、各内壁面20c,20d,20e,20fは傾斜角θ2を備える第2の傾斜面15を有して形成される。ここで傾斜角θ2は、ガラス複合体10の水平面に対する傾き角度で示される。
【0037】
図1(c)(d)、
図2に示すように第2の傾斜面15は、枠体20の表面20aから裏面20b方向に向けて形成される。第2の傾斜面15は厚さ方向の途中まで形成され、第2の傾斜面15と裏面20bとの間には、凹部16が形成されている。凹部16は、第2の傾斜面15の裏面側の基端15aから枠体20の外壁面20g,20h,20i,20j方向に向けて所定の深さで形成される。
図2では、その一部として凹部16は第2の傾斜面15の裏面側の基端15aから枠体20の外壁面20i方向に向けて所定の深さで形成されていることが図示されている。
【0038】
本実施形態では、傾斜角θ1と傾斜角θ2は異なる値であり、傾斜角θ1>傾斜角θ2となっている。すなわち傾斜角θ1のほうが急で、傾斜角θ2のほうが緩やかである。
【0039】
傾斜角θ1,θ2は限定されないが、例えば傾斜角θ1は、45°程度、傾斜角θ2は25°程度に調整される。
【0040】
ここで、
図1(a)(b)に示すガラス部材11の表面11aの大きさは、
図1(c)(d)に示す枠体20の貫通孔21の表面20a側の大きさよりもやや小さくされている。このため、
図2に示すように、ガラス部材11と枠体20との間には表面側にギャップGが形成されている。
【0041】
図2に示すように、ガラス部材11の垂直面14及び第1の傾斜面13と枠体20の第2の傾斜面15との間に隙間40が形成されている。隙間40は、表面側のギャップGから裏面方向に向けて徐々に広がっている。
【0042】
図1(c)(d)、
図2では、枠体20の貫通孔21の周囲に広がる表面20a及び裏面20bは共にX−Y平面に平行な面(水平面)となっているが、例えば表面20aを曲面状で形成することも可能である。
【0043】
また
図1では、ガラス部材11の隣り合う各側面11c〜11f間、及び枠体20の隣り合う各内壁面20c〜20f間を直角で図示したが、実際には、略円弧状とされる。
【0044】
図1(e)に示すように、ガラス複合体10の裏面10bには、センサ部材3が設けられる。センサ部材3は、例えばフィルム状の静電容量型センサである。センサ部材3とガラス複合体10間は透明な粘着層を介して接合されている。センサ部材3の構成は特に限定されるものでなく、例えば透明基材の表面にITO等からなる電極が配置された構成である。入力装置1(電子機器2)の入力操作面1aを指等の操作体で操作すると、その操作位置(XY座標位置)は、センサ部材3の静電容量変化に基づいて、検出することが可能になっている。
【0045】
図1(e)に示すように、入力装置1の裏面側には、液晶ディスプレイ(LCD)や有機EL等の表示装置4が配置されており、表示装置4の表示形態を入力装置1の入力操作面1aから見ることができ、本実施形態では入力操作面1aに映し出された表示形態を見ながら入力操作を可能としている。
【0046】
枠体20の裏面などには加飾層が印刷されて加飾領域となっている。ガラス部材11の少なくとも中央部分は加飾領域でなく表示領域となっており、入力操作面1aに表示形態を映し出すことができる。
【0047】
物の形態として本実施形態では、ガラス複合体10、ガラス複合体10とセンサ部材3等とを組み合わせた入力装置1、入力装置1と表示装置4等とを組み合わせた電子機器2がある。
【0048】
本実施形態では、ガラス部材11の各側面11c,11d,11e,11fを第1の傾斜面13のみで形成せず、第1の傾斜面13と表面11aとの間に垂直面14を設けた。後述する実験結果によれば、垂直面14を形成せず第1の傾斜面13を表面11aにまで延長させた比較例に比べて、本実施形態では、ガラス部材11と接着部材30との剥離(界面応力;内部残留応力)を低減できる。
【0049】
図9は、比較例のガラス複合体の部分拡大縦断面図である。
図2と同じ部分には同じ符号を付した。
【0050】
図9に示すようにガラス部材11の側面は表面11aから裏面11bまで第1の傾斜面13で形成される。そして、枠体20の各内壁面(第2の傾斜面15で形成されている)との間で形成される隙間40は裏面から表面に向けて徐々に先細る形状になっている。ただし
図9の比較例には、ガラス部材11の側面に
図2と違って垂直面14は形成されていない。
【0051】
したがって
図9の比較例では、表面側の隙間40が非常に狭くなり、接着部材30が適切に充填されない未充填領域30aが形成されやすい。また仮に未充填領域40aの部分まで接着部材30を充填できても体積が非常に小さいために硬化収縮により表面側の接着部材30が裏面方向に引いてしまい、その結果、表面側に未充填領域30aが形成されてしまう問題があった。
【0052】
これに対して本実施形態によれば、ガラス部材11の第1の傾斜面13と表面11aとの間に垂直面14を設けたことで、先細る先端部分の隙間40の幅を比較例よりも広くできる。加えて、傾斜角θ1,θ2については最適な値から特に変更する必要がない。これにより、未充填領域30aの出現を比較例に対して抑制できかつ第1の傾斜面と第2の傾斜面間を適度な間隔で対向させることができるため、先端部分及び全体の剥離応力を適切に低減することができ、十分な接着強度を得ることができる。
【0053】
また
図2に示すように、ガラス部材11の厚さ寸法はH1であり、垂直面14の厚さ方向(Z)における長さ寸法はH2である。そして、(H2/H1)×100(%)は、0より大きく40%以下であることが好適である。また(H2/H1)×100(%)は、0より大きく20%以下であることがより好適である。これにより後述する実験結果によれば、相当ひずみの最大値を低く抑えることができ、耐荷重強度の低下を抑制できる。
【0054】
また
図1(c)(d)(e)、
図2に示すように、枠体20には、第2の傾斜面15と裏面20bとの間に、第2の傾斜面15の裏面側に位置する基端15aから枠体20の外壁面20g,20h,20i,20j方向に向けて凹部16が形成されている。例えば
図5に示すように、枠体20の内壁面を第2の傾斜面15で形成し、凹部16を形成しない構成とすることもできる。しかしながら凹部16を形成することで、隙間40内に接着部材30を充填する際に充填開口幅を見かけ上広げることができ、塗布不具合を大幅に改善できる。
【0055】
接着部材30を充填する際には、
図8に示すように、ガラス部材11及び枠体20の表面11a,20aを下側に、裏面11b,20bを上側に向ける。そしてディスペンサ50によりガラス部材11と枠体20との間の隙間40内に接着部材30を充填する。このとき
図5のように凹部16が形成されていない構成では、充填開口幅が狭いため接着部材30がガラス部材11の裏面11bに付着することがある。特にプラスチック製などの枠体20の外面にハードコート処理が施されている場合、接着部材30との濡れ性を阻害する傾向にある。このため充填された接着部材30が、枠体20に比べて濡れ性のよいガラス部材11の裏面11bに広がり吸い上げられてしまい、この結果、接着部材30の充填量が減少する恐れがある。
【0056】
このため
図8に示すように枠体20の裏面20bに凹部16を形成して、見かけ上の充填開口幅を広げることで、接着部材30の塗布不具合を大幅に減少することができ、安定した接着強度を得ることができる。
【0057】
図3(a)は、ガラス複合体10の裏面図である。
図3(a)には点線で第2の傾斜面15の裏面側に位置する基端15aを示した。点線で示したのは、基端15aは、接着部材30の充填により裏面から見えないからである。
図3(a)に示すように凹部16は、基端15aの全周囲にわたって形成されている。
図3(a)の構成であればディスペンサ50(
図8参照)を凹部16に沿って連続的に周回させて接着部材30を充填することができる。また
図3(a)では、ガラス部材11と枠体20との間の全周にわたって均一に接着部材30を充填でき、安定した接着強度を得ることができる。
【0058】
一方、
図3(b)では、第2の傾斜面15の裏面側に位置する基端15aの一部に凹部16を形成した。
図3(b)に示す実線の基端15aの部分には凹部16は形成されず、枠体20の裏面20bに実線の基端15aが現れている。一方、点線で示した基端15aの部分には凹部16が形成される。
【0059】
例えば接着部材30の粘度が十分に低く充填性に優れる場合には、
図3(b)のように部分的に凹部16を形成して充填開口幅を広げてもガラス部材11と枠体20との間の全周にわたって均一に接着部材30を充填できる。あるいは
図3(b)に示すように、枠体20に切欠や穴等の変形部22があり、凹部16を形成することが困難な加工不能領域となっている場合には、変形部22を避けるように部分的に凹部16を形成するとよい。また、
図3(b)に示すように複数の凹部16を分離して形成する場合には、枠体20の中点O(貫通孔21の幅方向(X)及び長さ方向(Y)の中心)に対して各凹部16を点対称に配置することが、接着部材30を全周にわたって均一に充填でき好適である。
【0060】
なお凹部16の形状は特に限定されるものでないが、ポイント塗布の場所では半円、楕円、正方形等で凹部16を形成し、ある長さに対して塗布する場所では、長方形や台形等で凹部16を形成する。
【0061】
また
図3(b)に示すように、接着部材30の充填形状の変位点であるコーナー部Cには凹部16を設けたほうが、接着部材30の均一な充填を行うことができ好適である。
【0062】
また
図3(b)に示すように、凹部16を設けた箇所と凹部16を設けていない箇所との境界部16aは、接着部材30の流動性を阻害しないようにするために、境界部16aに通ずる凹部16の端部16bに傾斜をつけたりR形状とするとよい。
【0063】
また
図2に示すように、ガラス部材の厚さ寸法をH1、凹部16の深さ寸法をH3としたとき、(H3/H1)×100(%)は、10%以上で35%以下であることが好適である。これにより後述する実験結果によれば、相当ひずみの最大値を低く抑えることができ、耐荷重強度の低下を抑制できる。なお凹部16の深さ寸法H3がX方向に変動する場合には、平均値をとってH3の値とする。
【0064】
また凹部16の深さ寸法H3は、0.05mm〜0.4mm程度であることが好適である。凹部16の深さ寸法H3があまり小さいと、後述の
図4(b)で説明する接着部材30の滴球31がガラス部材11の裏面11bに対して大きな接触角を持った状態になり裏面11bに接着部材30が付着しやすくなる。凹部16の深さ寸法H3は、上記した(H3/H1)×100(%)の数値範囲内となるように調整するが、薄型化の観点からしても、深さ寸法H3の上限はせいぜい、0.4mm程度とすることがよい。
【0065】
図4(a)は、
図2の形態と一部で異なっている。
図4(a)において
図2と同じ部分には同じ符号を付した。
【0066】
図2では凹部16の内奥面(天井面)16cが、枠体20の裏面20b(水平面;X−Y平面)と平行な平面となっているが、
図4(a)では、内奥面16cが、第2の傾斜面15の基端15aの位置から枠体20の外壁面に向けて徐々に深さ寸法が小さくなるように斜めに傾いている。
図4(a)において、内奥面16cの水平面(X−Y平面)に対する傾斜角θ3は、第2の傾斜面15の傾斜角θ2よりも小さくなっている。傾斜角θ3は、30°以下とすることが好適である。
【0067】
図4(b)は、
図4(a)に示すガラス部材11と枠体20との間の隙間40内に接着部材30を充填する際の工程を示す。
【0068】
図4(b)では、ガラス部材11の表面11a及び枠体20の表面20aを下向きとし、ガラス部材11の裏面11b及び枠体20の裏面20bを上向きに設定している。これにより、ガラス部材11と枠体20との間の隙間40の開口側が上を向くので接着部材30の充填が可能になる。
図4(b)は、
図8に示したディスペンサ50を用いて接着部材30を隙間40内に充填する工程を示している。UV接着剤などのように接着部材30の粘度が高い場合、滴下された接着部材30の流動性が悪く、接着部材30が、凹部16から隙間40内へとスムースに流れないことがある。またプラスチック製の枠体20の表面にはハードコート処理が施されていることが多く、接着部材30との濡れ性を阻害する傾向にある。
【0069】
この結果、凹部16内に滴下された接着部材30は
図4(b)に示すような滴球31となる。このとき、凹部16の内奥面16c(
図4(b)の状態では内奥面16cは底面になるので、以下、底面16cと称する)が点線で示すように、X−Y平面と平行な水平面であるとすると、点線で示した滴球31が隙間40内に入る寸前にガラス部材11の第1の傾斜面13における裏面11b側の基端(エッジ)13aに被さるように接触し(接触角が大きい)、濡れ性のよいガラス部材11の裏面11bに接着部材30が付着する不具合を起こしやすい。
【0070】
これに対して凹部16の底面16cを斜めに傾けることで、凹部16に充填された接着部材30の滴球31はガラス部材11の裏面11bに対して接着角が小さくなり、滴球31は隙間40内にスムースに入り込みやすく、ガラス部材11の裏面11bに接着部材30が付着する不具合を抑制することができる。
【0071】
また、枠体20の第2の傾斜面15と凹部16の内奥面(底面)16cとの境界(第2の傾斜面15の基端15a)は、断面形状において2つの直線が交わる交点であるよりもR形状として第2の傾斜面15と凹部16の内奥面(底面)16cとを繋ぐことで凹部16の底面16cから第2の傾斜面15に至る接触角の変化が緩やかになり、より滴球31が隙間40内に入り込みやすくなる。これにより隙間40内を適切かつ容易に接着部材30により充填することが可能になる。
【0072】
本実施形態では、ガラス部材11の側面11c,11d,11e,11fを第1の傾斜面13と、第1の傾斜面13と表面11aとの間を繋ぐ垂直面14とで構成した。これにより
図6(a)に示すように、ガラス部材11の厚さ寸法H1の調整工程時、ガラス部材11の表面11aを研磨しても、垂直面14の範囲内で研磨を実行可能なように垂直面14の厚さ方向への長さ寸法を予め確保することで、表面11aの幅寸法T1に変化が生じることがない。
【0073】
一方、
図6(b)に示すように垂直面14が形成されておらず、第1の傾斜面13が表面11aにまで及んでいる構成では、
図6(b)に示すように表面11aを研磨加工すると、表面11aの幅寸法がT2分、変動してしまう。また幅寸法の変化量T2は、研磨量や第1の傾斜面13の傾斜角θ1によっても変動してしまうため、表面11aの幅寸法を高精度に調整できない問題があった。
【0074】
このようにガラス部材11の表面11a側に垂直面14を設けた実施形態によれば、垂直面14の厚さ方向(Z方向)への長さ寸法内で研磨を実行することでガラス部材11の表面11aの幅寸法T1を高精度に決定することができ、
図2に示すギャップGの寸法及び隙間40内の体積を高精度に調整できる。したがって安定した接着強度を得ることができる。
【0075】
寸法について説明する。
図1(a)(b)に示すガラス部材11の幅寸法(X1−X2方向の寸法)は、50〜110mm程度であり、長さ寸法(Y1−Y2方向の寸法)は、40〜60mm程度である。また、ガラス部材11の厚さ寸法H1は、0.5〜1.5mm程度である。またガラス部材11の各側面11c,11d,11e,11fの傾斜角θ1は、30〜60°程度である。また垂直面14の深さ方向における長さ寸法H2は、0.1〜0.3mm程度である。
【0076】
また、枠体20の外周の幅寸法(X1−X2方向の寸法)は、60〜130mm程度であり、外周の長さ寸法(Y1−Y2方向の寸法)は、45〜70mm程度である。また、枠体20の厚さ寸法は、0.5〜1.5mm程度である。また枠体20に形成された表面側での貫通孔21の幅寸法(X1−X2方向の寸法)は、50〜130mm程度であり、長さ寸法(Y1−Y2方向の寸法)は、40〜70mm程度である。また、枠体20の各内壁面0c〜20fの傾斜角θ2は、20〜50°程度である。また、凹部16の深さ寸法H3は、0.05mm〜0.4mm程度である。また凹部16の内奥面16cの傾斜角θ3は0°〜30°程度である。
またギャップ寸法G(
図2参照)は、0μmより大きく150μm以下程度である。
【0077】
図1(e)に示すガラス複合体10は、その裏面10bが略平坦面であるが、
図7に示すように枠体20の側部には表面側から裏面方向に屈曲した延出部20kが設けられていてもよい。これにより、ガラス複合体10をケース状にでき、ガラス複合体10を携帯機器の上ケースなどして用いることができる。
【実施例】
【0078】
(垂直面の有無における剥離応力の実験)
図5に示す実施例(枠体に凹部が形成されていない実施形態)、
図9に示す比較例のガラス複合体を用いて剥離応力のシミュレーション実験を行った。
【0079】
シミュレーション実験に使用したガラス部材の裏面側の外形寸法は41.5mm×51.5mmであった。また、ガラス部材の表面側の外形寸法は40mm×50mmであった。また、ガラス部材の厚さ寸法は0.75mmであった。また第1の傾斜面の傾斜角θ1は45°であった。また垂直面の厚さ方向における長さ寸法は0.15mmであった。
【0080】
また、枠体の外形寸法は50mm×64mmであった。また枠体の貫通孔の表面側の平面寸法は、40.1mm×50.1mmであった。また貫通孔の裏面側の平面寸法は41.6mm×51.6mmであった。また枠体の厚さ寸法は、0.75mmであった。また第2の傾斜面の傾斜角θ2は25°であった。
【0081】
また、シミュレーションに使用したガラス部材11の線膨張係数は、8ppm/Kで、枠体20の線膨張係数は、70ppm/Kであった。また、接着部材30には硬化後の線膨張係数が180ppm/Kのアクリル系接着剤を用いた。
【0082】
シミュレーションでは、ガラス複合体10,70を85℃の環境下におき、実施例、比較例1、及び比較例2における接着部材とガラス部材との間で生じる剥離応力(内部残留応力)を解析した。ここで実施例1は
図5に示す構成であり隙間40内に接着部材30が隙間なく充填されているものとする。また比較例1は、
図9に示す構成であり隙間40内に接着部材30が隙間なく充填されているものとする。一方、比較例2は、
図9に示す構成であり隙間40内に接着部材30が充填されない未充填領域30aを有するものと仮定する。剥離応力(内部残留応力)の解析結果が
図10に示されている。なお
図10に示す比較例2の剥離応力は予想値である。
【0083】
図10に示す横軸は、各試料における厚さ方向の位置を示している。厚さ方向の位置が0%は裏面、100%は表面を示している。
【0084】
図10に示すように、厚さ方向の位置のどの位置においても実施例のほうが比較例1,2に比べて効果的に剥離応力(ガラス部材−接着部材間の界面応力)を低減できることがわかった。
図10に示すように比較例1では、隙間の先端付近(表面100%付近)での剥離応力が大きく跳ね上がることがわかったが、実施例では、ほぼゼロにすることができることがわかった。
【0085】
図10に示すように実施例では、厚み方向に向けて安定して剥離応力を低くでき、全体の接着強度を向上させることができるとわかった。
【0086】
(垂直面の寸法比率のシミュレーション実験)
図5に示す実施例を用いて垂直面14の寸法比率に対するシミュレーション実験を行った。各部材の寸法や各部材の熱膨張係数については、
図10のシミュレーション実験で使用したものと同様とした。
【0087】
実験では垂直面の厚さ方向における長さ寸法H2を変動させ、von mises応力平均値を求めた。von mises応力平均値は、85℃の耐環境下で第1の傾斜面13の基端13a(第1の傾斜面13とガラス部材11の裏面11bとの境界エッジ)にて熱膨張係数差により生じる接着部材30のvon mises応力平均値である。
【0088】
図11の横軸は、垂直面14の寸法比率を、(H2/H1)×100(%)(H1は、ガラス部材の厚さ寸法、H2は、垂直面の厚さ方向における長さ寸法)にて表している。
【0089】
図11に示すように、ガラス部材の表面と第1の傾斜面との間に垂直面を設けることで、耐環境下における接着界面での剥離不具合を抑制できることがわかった。
【0090】
続いて同じ試料を用いてガラス部材の表面中央を裏面方向に10Nの荷重を印加した際に生じる相当ひずみの最大値を求めた。
図12は、垂直面の寸法比率とガラス部材の変位量との関係を示すシミュレーション実験結果であり、
図13は、垂直面の寸法比率と相当ひずみの最大値との関係を示すシミュレーション実験結果である。相当ひずみの最大値は、ガラス部材の表面中央を10Nで押圧した状態で、第1の傾斜面13の基端13a(第1の傾斜面13とガラス部材11の裏面11bとの境界エッジ)にて生じる接着部材の相当ひずみの最大値である。相当ひずみが大きいほど破壊されやすくなる。
【0091】
図12における縦軸のガラス部材の変位量は厚さ方向への変位量である。
図12、
図13から示すように垂直面の寸法比率((H2/H1)×100(%))が大きくなるほど耐荷重強度が低下することがわかった。また
図13の実験結果から垂直面の寸法比率((H2/H1)×100(%))が40%を超えると相当ひずみの最大値が大きくなり強度低下が顕著化しやすいので垂直面の寸法比率((H2/H1)×100(%))を0%より大きく40%以下に設定した。
【0092】
(凹部の深さ寸法比率のシミュレーション実験)
図1,
図2に示すガラス複合体を用いて凹部の深さ寸法比率に対するシミュレーション実験を行った。
【0093】
図1,
図2に示すようにガラス複合体を構成するガラス部材11の側面は表面11aと裏面11bとを繋ぐ第1の傾斜面13で形成されている。一方、枠体20の内壁面は第2の傾斜面15と凹部16とで構成されている。なお各部材の寸法や各部材の熱膨張係数については、
図10のシミュレーション実験で使用したものと同様とした。
【0094】
シミュレーション実験では、凹部16の深さ寸法H3を変化させて、ガラス部材の表面中央を裏面方向に一定の荷重を印加した際に生じる相当ひずみの最大値を求めた。
図14は、凹部の深さ寸法比率とガラス部材の変位量との関係を示すシミュレーション実験結果であり、
図15は、凹部の深さ寸法比率と相当ひずみの最大値との関係を示すシミュレーション実験結果である。相当ひずみの最大値は、ガラス部材の表面中央を押圧した状態で、第1の傾斜面13の基端13a(第1の傾斜面13とガラス部材11の裏面11bとの境界エッジ)にて生じる接着部材の相当ひずみの最大値である。
【0095】
図14,
図15から示すように凹部の深さ寸法比率((H3/H1)×100%)を10%以上35%以下にすることで、相当ひずみの最大値を小さくでき、耐荷重強度への影響を最も小さくできることがわかった。