(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5838067
(24)【登録日】2015年11月13日
(45)【発行日】2015年12月24日
(54)【発明の名称】塗布方法および塗布装置
(51)【国際特許分類】
B05D 1/26 20060101AFI20151203BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20151203BHJP
H01L 21/027 20060101ALI20151203BHJP
B05C 5/00 20060101ALN20151203BHJP
B05C 11/06 20060101ALN20151203BHJP
【FI】
B05D1/26 Z
B05D3/00 F
H01L21/30 564Z
!B05C5/00 101
!B05C11/06
【請求項の数】17
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-221100(P2011-221100)
(22)【出願日】2011年10月5日
(65)【公開番号】特開2013-78748(P2013-78748A)
(43)【公開日】2013年5月2日
【審査請求日】2014年6月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】506322684
【氏名又は名称】株式会社SCREENセミコンダクターソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】100093056
【弁理士】
【氏名又は名称】杉谷 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100142930
【弁理士】
【氏名又は名称】戸高 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】後藤 友宏
【審査官】
横島 隆裕
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−010657(JP,A)
【文献】
特開2006−035044(JP,A)
【文献】
特開2006−341251(JP,A)
【文献】
特開2005−246312(JP,A)
【文献】
特開2002−066391(JP,A)
【文献】
特開2003−290686(JP,A)
【文献】
特開2010−179195(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00−7/26
B05C 5/00−21/00
H01L 21/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に塗布液の薄膜を形成するための塗布方法であって、
インクジェット方式の複数個のノズルを並べて配置して構成された塗布液供給機構から基板上に塗布液を供給する塗布液供給工程と、
気体噴出機構が基板上に供給された塗布液に気体を噴射して塗布液の薄膜表面を平滑化する平滑化工程と
を備え、
前記塗布液供給機構は塗布液を供給しながら進行方向に移動し、
前記気体噴出機構は、前記塗布液供給機構の前記進行方向の後側を前記塗布液供給機構と一体に移動しながら、前記進行方向に対して前側斜め方向に気体を噴射することを特徴とする塗布方法。
【請求項2】
請求項1に記載の塗布方法において、
前記平滑化工程では、前記気体噴出機構は、基板上に供給された塗布液の乾燥を抑制するために温度および湿度が調整された気体を噴射する塗布方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の塗布方法において、
前記平滑化工程では、前記気体に塗布液の溶剤の蒸気を含ませる塗布方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の塗布方法において、
前記塗布液供給工程の前に、溶剤供給機構が基板上に塗布液の溶剤を供給する溶剤供給工程を備えている塗布方法。
【請求項5】
請求項4に記載の塗布方法において、
前記溶剤供給機構は、前記塗布液供給機構の進行方向の前側を前記塗布液供給機構と一体に移動しながら、溶剤を供給することを特徴とする塗布方法。
【請求項6】
請求項5に記載の塗布方法において、
前記溶剤供給機構は、前記進行方向に移動しながら、前記進行方向に対して後側斜め方向に溶剤を供給することを特徴とする塗布方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の塗布方法において、
前記溶剤供給工程における基板上への溶剤の供給位置と、前記塗布液供給工程における基板の溶剤被膜上への塗布液の供給位置と、前記平滑化工程におけるに基板上の塗布液への気体の噴射位置とは互いに隣り合っており、
前記溶剤供給機構と前記塗布液供給機構と前記気体噴出機構とは、移動しながら、前記溶剤の供給と前記塗布液の供給と前記気体の噴射とを同時並行しておこなう塗布方法。
【請求項8】
基板上に塗布液の薄膜を形成するための塗布装置であって、
基板を水平姿勢に保持する基板保持台と、
基板上に塗布液を供給するインクジェット方式の複数個のノズルを並べて配置して構成された塗布液供給機構と、
基板上に供給された塗布液に気体を噴射して塗布液の薄膜表面を平滑化する気体噴射機構と、
前記塗布液供給機構と前記気体噴射機構とを、前記基板保持台に保持された基板に対して相対的に移動させる移動機構と
を備え、
前記塗布液供給機構は塗布液を供給しながら進行方向に移動し、
前記気体噴出機構は、前記塗布液供給機構に対して前記進行方向の後側に設けられ、前記塗布液供給機構と一体に前記進行方向に移動しながら、前記進行方向に対して前側斜め方向に気体を噴射することを特徴とする塗布装置。
【請求項9】
請求項8に記載の塗布装置において、
前記気体噴射機構は、前記塗布液供給機構が有する複数個のノズルの配列長さと同等の長さのスリット状ノズルから気体を噴射する塗布装置。
【請求項10】
請求項8または9に記載の塗布装置において、
前記塗布液供給機構と前記気体噴射機構とは連結されて一体に構成されている塗布装置。
【請求項11】
請求項8〜10のいずれかに記載の塗布装置において、
前記塗布液供給機構に対して前記進行方向の前側に設けられ、基板上に塗布液の溶剤を供給する溶剤供給機構を備える塗布装置。
【請求項12】
請求項11に記載の塗布装置において、
前記溶剤供給機構は、前記進行方向に対して後側斜め方向に溶剤を供給する塗布装置。
【請求項13】
請求項11または12に記載の塗布装置において、
前記溶剤供給機構は、基板上に塗布液の溶剤を供給するインクジェット方式の複数個のノズルを並べて配置して構成されている塗布装置。
【請求項14】
請求項11または12に記載の塗布装置において、
前記溶剤供給機構は、多数の吐出孔が形成された筒状体の内部に塗布液の溶剤を供給し、この溶剤に振動を付与することによって、前記吐出孔から溶剤の液滴を吐出する液滴吐出機構で構成されている塗布装置。
【請求項15】
請求項11〜14のいずれかに記載の塗布装置において、
前記塗布液供給機構と前記気体噴射機構と前記溶剤供給機構とは連結されて一体に構成されている塗布装置。
【請求項16】
請求項15に記載の塗布装置において、
前記溶剤供給機構が基板上へ溶剤を供給する位置と、前記塗布液供給機構が基板の溶剤被膜上へ塗布液を供給する位置と、前記気体噴射機構が基板上の塗布液へ気体を噴射する位置とが互いに隣り合うように、前記溶剤供給機構と前記塗布液供給機構と前記気体噴射機構とが配置されている塗布装置。
【請求項17】
請求項15または16に記載の塗布装置において、
前記塗布液供給機構と前記気体噴射機構と前記溶剤供給機構とに、温度調節機構が付設されて一体に構成されている塗布装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハや液晶表示パネル用ガラス基板あるいは半導体製造装置用マスク基板等の基板の表面にフォトレジスト等の塗布液を均一に塗布する塗布方法および塗布装置に係り、特に、基板に対してインクジェット方式により塗布液を塗布する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基板上に塗布液を均一に塗布する塗布方法としてスピンコート法が知られている。スピンコート法とは、基板の表面中央部に塗布液を供給し、この基板を高速回転させることにより、遠心力を利用して塗布液を基板上に拡張して基板表面に塗布液の薄膜を形成する技術である。スピンコート法では、基板が高速回転される際に余剰の塗布液が基板の周縁から振り切られて無駄に捨てられるので、塗布液の利用効率が悪いという欠点がある。
【0003】
一方、近年、インクジェット方式のノズルを利用して基板表面に塗布液を供給して基板表面に塗布液の薄膜を形成する技術が提案されている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。インクジェット方式では、基板とノズルとを相対的に移動させながら必要最小限の分量の塗布液を供給することによって基板表面に塗布液の薄膜を形成するので、スピンコート法よりも塗布液の利用効率を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−250389号公報(第4−5頁、
図1)
【特許文献2】特開2002−66391号公報(第3−6頁、
図1−
図7)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、インクジェット方式によれば、微細な塗布液の粒子が基板の表面に噴出されるので、基板表面に形成された塗布液の薄膜に粒子の凹凸が残存しやすく、その結果、薄膜の膜厚均一性が悪くなるという問題がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、インクジェット方式によって形成した塗布液の薄膜の膜厚均一性を向上させることができる塗布方法および塗布装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、本発明は、基板上に塗布液の薄膜を形成するための塗布方法であって、インクジェット方式の複数個のノズルを並べて配置して構成された塗布液供給機構から基板上に塗布液を供給する塗布液供給工程と、
気体噴出機構が基板上に供給された塗布液に気体を噴射して塗布液の薄膜表面を平滑化する平滑化工程とを
備え、前記塗布液供給機構は塗布液を供給しながら進行方向に移動し、前記気体噴出機構は、前記塗布液供給機構の前記進行方向の後側を前記塗布液供給機構と一体に移動しながら、前記進行方向に対して前側斜め方向に気体を噴射することを特徴とする。
【0008】
本発明方法によれば、塗布液供給工程でインクジェット方式の複数個のノズルから塗布液を基板上に供給しながら、基板上に供給された塗布液に向けて気体が噴射される。インクジェット方式のノズルから基板上に供給された塗布液は、その薄膜の表面が凹凸状になって膜厚が不均一である。しかし、塗布液の供給後、速やかに薄膜表面に気体が噴射され、その風圧によって薄膜表面が平滑化されるので、塗布液の薄膜の膜厚均一性を向上させることができる。
また、斜め方向からの気体の風圧によって、塗布液の薄膜の表面がより一層平滑化されやすくなる。
【0009】
本発明方法において、平滑化工程では、
前記気体噴出機構は、基板上に供給された塗布液の乾燥を抑制するために温度および湿度が調整された気体を噴射するのが好ましい。このようにすれば、塗布液の乾燥が抑制されて塗布液の流動性が長く維持されるので、塗布液の薄膜表面がより一層平滑化されやすくなる。
【0010】
本発明方法において、平滑化工程では、基板上に供給された塗布液に向けて噴射される気体に塗布液の溶剤の蒸気を含ませるのが好ましい。このようにすれば、溶剤蒸気の雰囲気によって塗布液が硬化するのが抑制されて塗布液の流動性が長く維持されるので、塗布液の薄膜表面がより一層平滑化されやすくなる。
【0011】
本発明方法において、塗布液供給工程の前に、
溶剤供給機構が基板上に塗布液の溶剤を供給する溶剤供給工程を備えていることが好ましい。基板上に形成した溶剤の薄膜の上に塗布液を供給すると、基板上での塗布液の濡れ性が向上して塗布液が広がりやすくなるので、塗布液の薄膜の表面がより一層平滑化されやすくなる。
【0012】
本発明において、
前記溶剤供給機構は、前記塗布液供給機構の進行方向の前側を前記塗布液供給機構と一体に移動しながら、溶剤を供給することが好ましい。
【0013】
本発明において、
前記溶剤供給機構は、前記進行方向に移動しながら、前記進行方向に対して後側斜め方向に溶剤を供給することが好ましい。
【0014】
本発明方法において、前記溶剤供給工程における基板上への溶剤の供給位置と、前記塗布液供給工程における基板の溶剤被膜上への塗布液の供給位置と、前記平滑化工程におけるに基板上の塗布液への気体の噴射位置とは互いに
隣り合っており、前記溶剤供給機構と前記塗布液供給機構と前記気体噴出機構とは、移動しながら、前記溶剤の供給と前記塗布液の供給と前記気体の噴射とを同時並行しておこなうのが好ましい。このようにすれば、基板上への溶剤の供給と塗布液の供給との時間間隔が極力短くなる。その結果、基板上に供給した溶剤が蒸発する前に塗布液を溶剤の薄膜上に供給することができるので塗布液が基板上を広がりやすくなる。また、基板上への塗布液の供給と気体の噴射との時間間隔も短くなるので、基板上に供給した塗布液が充分に流動性がある間に気体を噴射して塗布液の薄膜表面をより一層平滑化することができる。
【0015】
また、本発明は、基板上に塗布液の薄膜を形成するための塗布装置であって、基板を水平姿勢に保持する基板保持台と、基板上に塗布液を供給するインクジェット方式の複数個のノズルを並べて配置して構成された塗布液供給機構と、基板上に供給された塗布液に気体を噴射して塗布液の薄膜表面を平滑化する気体噴射機構と、前記塗布液供給機構と前記気体噴射機構とを、前記基板保持台に保持された基板に対して相対的に移動させる移動機構とを
備え、前記塗布液供給機構は塗布液を供給しながら進行方向に移動し、前記気体噴出機構は、前記塗布液供給機構に対して前記進行方向の後側に設けられ、前記塗布液供給機構と一体に前記進行方向に移動しながら、前記進行方向に対して前側斜め方向に気体を噴射することを特徴とする。
【0016】
本発明装置によれば、基板保持機構が基板を水平に保持した状態で、移動機構が塗布液供給機構と気体噴射機構とを基板に対して相対的に移動させる。塗布液供給機構はインクジェット方式の複数個のノズルから塗布液を基板上に供給するので、基板上に塗布液の薄膜が形成される。塗布液供給機構によって基板上に塗布液を供給しながら、気体噴射機構が基板上に供給された塗布液に向けて気体を噴射する。その結果、塗布液の薄膜表面の凹凸が気体の風圧によって平滑化されるので、塗布液の薄膜の膜厚均一性を向上させることができる。
また、斜め方向からの気体の風圧によって、塗布液の薄膜の表面がより一層平滑化されやすくなる。
【0017】
本発明装置において、気体噴射機構は、塗布液供給機構が有する複数個のノズルの配列長さと同等の長さのスリット状ノズルから気体を噴射するのが好ましい。このようにすれば、ある幅をもって基板上に形成された塗布液の薄膜がスリット状ノズルから噴射される気体によって一挙に平滑化される。
【0018】
本発明装置において、塗布液供給機構と気体噴射機構とは連結されて一体に構成されていることが好ましい。このようにすれば、両機構を個々に移動させる必要がなくなるので移動機構の構成が簡単になる。
【0019】
本発明装置において、前記塗布液供給機構
に対して前記進行方向の前側に
設けられ、基板上に塗布液の溶剤を供給する溶剤供給機構を備えるのが好ましい。このようにすれば、まず、溶剤供給機構が基板上に溶剤の薄膜を形成し、続いて、塗布液供給機構が溶剤の薄膜の上に塗布液を供給する。そうすると、基板上での塗布液の濡れ性が向上して塗布液が広がりやすくなるので、塗布液の薄膜の表面がより一層平滑化されやすくなる。
【0020】
また、本発明装置において、
前記溶剤供給機構は、前記進行方向に対して後側斜め方向に溶剤を供給することが好ましい。
【0021】
本発明装置において、溶剤供給機構は、基板上に塗布液の溶剤を供給するインクジェット方式の複数個のノズルを並べて配置して構成されものが例示される。他の例として、多数の吐出孔が形成された筒状体の内部に塗布液の溶剤を供給し、この溶剤に振動を付与することによって、前記吐出孔から溶剤の液滴を吐出するものであってもよい。例示した溶剤供給機構によれば、基板上に溶剤の薄膜を比較的に簡単に形成することができる。
【0022】
本発明装置において、塗布液供給機構と気体噴射機構と溶剤供給機構とは連結されて一体に構成されているのが好ましい。このようにすれば、塗布液供給機構と気体噴射機構と溶剤供給機構両機構とを個々に移動させる必要がなくなるので移動機構の構成が簡単になる。
【0023】
本発明装置において、溶剤供給機構が基板上へ溶剤を供給する位置と、塗布液供給機構が基板の溶剤被膜上へ塗布液を供給する位置と、気体噴射機構が基板上の塗布液へ気体を噴射する位置とが互いに隣り合うように、溶剤供給機構と塗布液供給機構と気体噴射機構とが配置されているのが好ましい。このようにすれば、溶剤供給機構と塗布液供給機構と気体噴射機構とを一体に移動させることにより、基板上への溶剤の供給と塗布液の供給との時間間隔が極力短くなる。その結果、基板上に供給した溶剤が蒸発する前に塗布液を溶剤の薄膜上に供給することができるので塗布液が基板上を広がりやすくなる。また、基板上への塗布液の供給と気体の噴射との時間間隔も短くなるので、基板上に供給した塗布液が充分に流動性がある間に気体を噴射して塗布液の薄膜表面をより一層平滑化することができる。
【0024】
本発明装置において、塗布液供給機構と気体噴射機構と溶剤供給機構とに、温度調節機構が付設されて一体に構成されていることが好ましい。このようにすれば、塗布液、気体、及び溶剤の各温度を均一に保持することができる。その結果、塗布液を安定した温度条件で塗布することができ、もって塗布液の薄膜の膜厚均一性を一層高めることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、インクジェット方式の複数個のノズルから塗布液を基板上に供給しながら、基板上に供給された塗布液に向けて気体が噴射されるので、基板上に供給された塗布液の薄膜表面の凹凸が噴射された気体の風圧によって平滑化され、塗布液の薄膜の膜厚均一性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施例に係る塗布装置の要部側面図である。
【
図2】実施例装置の塗布液供給機構のノズル配列を示した図である。
【
図3】本発明の一実施例に係る塗布装置の全体平面図である。
【
図4】本発明の一実施例に係る塗布装置の全体正面図である。
【
図5】本発明の一実施例に係る塗布方法の説明図である。
【
図6】実施例に係る塗布装置を用いた塗布手順を示す図である。
【実施例1】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の実施例1を説明する。
図1は、実施例1に係る塗布装置の要部側面図である。
【0028】
<塗布ヘッド10の概略構成>
ここでは半導体ウエハにフォトレジストを塗布する塗布装置を例に採って説明する。この塗布装置は、半導体ウエハである基板Wにフォトレジストである塗布液を塗布するための塗布ヘッド10を備えている。塗布ヘッド10は、基板Wに対向した状態で、基板Wに対して相対移動可能に構成され、
図1では矢印で示すように右方向に移動する。
【0029】
塗布ヘッド10は、インクジェット方式の複数個のノズルを並べて配置して構成された塗布液供給機構12を備えている。塗布液供給機構12に隣接して、具体的には塗布ヘッド10の進行方向の後側にあたる側面位置に気体噴射機構14が連結して一体に設けられている。気体噴射機構14は、基板Wの上に供給された塗布液に気体(本実施例では、空気)を噴射して塗布液の薄膜表面を平滑化するためのものである。塗布液供給機構12の進行方向の前側にあたる側面位置に温度調節機構16を介して溶剤供給機構18が連結して一体に設けられている。温度調節機構16は恒温水を流通させて塗布ヘッド10、特に塗布液供給機構12の塗布液の温度を一定に維持するために設けられている。溶剤供給機構18は、基板W上に塗布液の溶剤を供給するために設けられている。以下、各部の構成を詳細に説明する。
【0030】
<塗布液供給機構12の構成>
塗布液供給機構12は、
図2の(a)に示すように、インクジェット方式のノズル20を千鳥状に配列して構成されている。なお、
図2の(a)は塗布液供給機構12を下側から見た図である。一列のノズル20の配列ピッチPは0.1〜0.2mm程度である。塗布液供給機構12は、数10〜数100個のノズル20で構成されている。
図1に示すように、各ノズル20は、塗布液を一時的に貯留する貯留部22を備えている。貯留部22の上壁にピエゾ素子24が設けられている。このピエゾ素子24へ電圧印加すると、ピエゾ素子24が凹形状に撓んで、貯留部22内の塗布液が底面の吐出孔26から吐出される。千鳥配列の各列のノズル20は吐出タイミグが調整されて、基板W上では
図2の(b)に示すように塗布液のドットdが隙間なく一列状に並ぶ。各ドットdの直径は0.05〜0.1mm程度で、各ドットdの塗布液量は10〜50ピコリットル程度である。なお、ノズル20から供給される塗布液量は、ピエゾ素子24へ印加されるパルス電圧の大きさとパルス間隔により制御される。各ノズル20の貯留部22には、配管28を介して塗布液タンク30から塗布液が供給されるようになっている。
【0031】
<気体噴射機構14の構成>
気体噴射機構14は、塗布液供給機構12が有する複数個のノズル20の配列長さと同等の長さを有するスリット状ノズルで構成されている。
図1及び
図5に示すように、気体噴射機構14は、基板W上に供給された塗布液(特に、基板Wに塗布液のドットdが被着した直後で、塗布液の表面が凹凸状になっている部分領域)dEに対して気体Gを斜め方向から噴射するように取り付け配置されている。気体噴射機構14には基板W上に供給された塗布液(特に上述した塗布液の部分領域)dEの乾燥を抑制するために温度および湿度が調整された気体が導入される。上述した気体の温度および湿度は、一般のスピンコータでの塗布環境と同程度の温度及び湿度で、例えば、温度が23±0.2°C程度、相対湿度が45±0.2%に管理されていることが好ましい。
【0032】
<溶剤供給機構18の構成>
溶剤供給機構18は、塗布液供給機構12と同様にインクジェット方式の複数個のノズルを並べて配置して構成されている。塗布液供給機構12によって基板W上に供給される塗布液の領域に溶剤Sを行き渡らすために、ノズルの配列長さは塗布液供給機構12と同程度に設定されている。溶剤は塗布液の種類に応じて適宜に選択される。例えば、塗布液がフォトレジストである場合、通常フォトレジストに含まれるPGMEAや乳化エチル等を用いるのが好ましい。なお、溶剤はこれらに限定されるものでなく、揮発性の溶剤であれば、例えばIPAであってもよい。
【0033】
<塗布ヘッド10の構成>
塗布ヘッド10は、上述した塗布液供給機構12、気体噴出機構14、温度調節機構16、溶剤供給機構18が連結されて一体となって構成されている。そして、塗布ヘッド10が基板Wに対向して相対移動するとき、塗布ヘッド10の進行方向に対して溶剤供給機構18が前側になり、その次に塗布液供給機構12が続き、最後に気体噴出機構14がくるように一体となって移動する。塗布ヘッド10と基板Wとの間隔は概ね1mm程度である。
【0034】
<塗布装置の全体構成>
次に上述した塗布ヘッド10を備えた塗布装置の構成例を
図3および
図4を参照して説明する。
図3は塗布装置の全体平面図、
図4は塗布装置の全体正面図である。
この塗布装置は、塗布液が塗布される基板Wを水平姿勢で保持する基板保持台32を備えている。
図3に示すように平面視で基板保持台32に並んで、塗布ヘッド10を一方向(X方向)に往復移動させるための第1移動機構34が配置されている。さらに
図4に示すよう基板保持台32の下側に、基板保持台32を塗布ヘッド10の移動方向とは直交する方向(Y方向)に往復移動させるための第2移動機構35が配置されている。第1移動機構34および第2移動機構35は、本発明装置における移動機構に相当する。以下、各移動機構34、35の構成を説明する。
【0035】
<第1移動機構34の構成>
第1移動機構34は、塗布ヘッド10を片持ち支持して水平移動する移動台36を備えている。移動台36は、ガイド部材38に挿通されてX方向に案内されている。さらに移動台36にはガイド部材38と平行してボールネジ40が螺合されている。ガイド部材38およびボールネジ40は各々の両端部が支持板42、44で支持されている。ボールネジ40の一端部に電動モータ46が連結されている。電動モータ46が正逆に回転駆動されることによって、ボールネジ40が正逆に回転し、その結果、移動台36と共に塗布ヘッド10がX方向に往復移動される。
【0036】
<第2移動機構35の構成>
第2移動機構35は第1移動機構34と同様の構成を備えている。即ち、第2移動機構35は、基板保持台32を支持する移動台48と、この移動台48をY方向に案内するガイド部材50と、移動台48に螺合されたボールネジ52と、ガイド部材50およびボールネジ52の各両端部を支持する支持板54、56と、ボールネジ52の一端部に連結された電動モータ58とを備えている。電動モータ58が正逆に回転駆動されることによって、ボールネジ52が正逆に回転し、その結果、移動台48と共に基板保持台32がY方向に往復移動される。
【0037】
<塗布装置の動作>
以下、
図5および
図6も参照して本実施例に係る塗布装置の動作を説明する。
図5は実施例に係る塗布方法の説明図、
図6は実施例に係る塗布装置を用いた塗布手順を示す図である。
【0038】
まず、基板Wが基板保持台32の上に水平姿勢で保持される(
図3、
図4および
図6(1a)、(1b)を参照)。続いて第1移動機構34および第2移動機構35が適宜に駆動されることにより、塗布ヘッド10が塗布開始位置P1に移動する(
図6(1a)参照)。
【0039】
塗布ヘッド10が塗布開始位置P1から−X方向に移動しながら、塗布ヘッド10の溶剤供給機構18が基板W上に塗布液の溶剤を供給し(溶剤供給工程)、溶剤供給工程と並行して塗布液供給機構12が基板Wの溶剤被膜上へ塗布液を供給し(塗布液供給工程)、さらに溶剤供給工程と塗布液供給工程とに並行して気体噴射機構14が基板W上に供給された塗布液に気体を噴射して塗布液の薄膜表面を平滑化する(平滑化工程)。なお、各工程ついては後に詳しく説明する。
【0040】
上述した溶剤供給工程、塗布液供給工程および平滑化工程を同時並行して実施しながら基板W上に塗布液を塗布してゆく。具体的には、
図6(1a)の塗布開始位置P1から塗布ヘッド10が第1移動機構34によって−X方向に走査されることにより、基板Wの端部領域である第1領域A1に塗布液が塗布される。第1領域A1の塗布が終わると塗布ヘッド10がX方向に移動すると共に、基板保持台32が第2駆動機構35によって−Y方向に走査されることにより、塗布ヘッド10が隣接する第2領域A2の塗布開始位置P2に移動する。続いて溶剤供給工程、塗布液供給工程および平滑化工程を同時並行して実施しながら第2領域A2に塗布液を塗布してゆく(
図6(2a)、(2b)参照)。第2領域A2への塗布が終わると塗布ヘッド10を隣接する第3領域A3の塗布開始位置P3に移動させて、同様にして第3領域A3に塗布液を塗布してゆく(
図6(3a)、(3b)参照)。以上の動作を繰り返して基板Wの全面に塗布液を塗布する(
図6(4a)、(4b)参照)。
【0041】
なお、本実施例では、基板Wの周端付近の領域Eに対して塗布液を塗布していない(
図6(4a)、(4b)参照)。その理由は次のとおりである。フォトレジスト等の塗布液が基板Wの端縁に塗布された場合には、この塗布液が基板搬送機構や基板収納カセットの収納溝等に当接して基板Wから剥離し、パーティクル発生の原因となる。このため、従来、このようなパーティクルの発生を防止するため、端縁洗浄装置を使用して、基板Wの端縁から一定の領域にのみ洗浄液を供給することにより、基板Wの端縁付近に塗布された塗布液を洗浄除去するようにしている。
【0042】
しかし、本実施例に係る塗布装置を使用した場合においては、塗布ヘッド10の各ノズル20が基板Wの周縁付近にある領域E以外の領域と対向する位置に配置されたときに基板Wの表面に向けて塗布液を供給する構成を採用することにより、基板Wの周縁付近の領域Eに塗布液が塗布されることを防止することができ、端縁洗浄装置による端縁洗浄工程を省略することが可能となる。なお、この場合においては、各ノズル20におけるピエゾ素子24は個別にオンオフ制御される。
【0043】
<溶剤供給工程、塗布液供給工程および平滑化工程の詳細>
次に、塗布ヘッド10を用いた溶剤供給工程、塗布液供給工程および平滑化工程を、
図5を参照して説明する。
図5(a)は基板W上への溶剤の供給位置、塗布液の供給位置、および気体の噴射位置を示した平面図、(b)はその正面図である。基板W上への溶剤の供給位置、塗布液の供給位置、および気体の噴射位置は互いに隣り合っている。具体的には、塗布液供給機構12が塗布液のドットdを基板Wに対してほぼ鉛直下向きに供給するのに対して、溶剤供給機構18は溶剤を塗布液供給機構12が配置された側へ(塗布ヘッド10の進行方向に対して後側へ)斜め方向に供給することにより、塗布液の供給位置に対して溶剤の供給位置を隣り合うようにしている。一方、気体噴射機構14は気体を同様に塗布液供給機構12が配置された側へ(塗布ヘッド10の進行方向に対して前側へ)斜め方向に供給することにより、塗布液の供給位置に対して気体の噴射位置を隣り合うようにしている。
【0044】
上記のように塗布液の供給位置に対して溶剤の供給位置を隣り合うようにして近づけることにより、基板上に供給された溶剤が蒸発乾燥する前に、溶剤の被膜上に塗布液を供給することができる。その結果、基板Wに対する塗布液の濡れ性が向上し、塗布液が拡張しやすくなるので、塗布液の膜厚均一性を向上させることができる。また、塗布液の供給位置に対して気体の噴射位置を近づけることにより、供給された塗布液が蒸発乾燥して硬化する前に、塗布液の凹凸状表面を気体の風圧によって平滑化するので、塗布液の膜厚均一性を一層向上させることができる。
【0045】
図5(b)に模式的に示すように、塗布ヘッド10と基板Wとが対向した状態で相対移動することにより、溶剤供給機構12から供給された溶剤Sによって基板W上に溶剤の薄膜SFが生成される。続いて、溶剤の薄膜SF上に塗布液供給機構12から塗布液のドットdが供給されることにより、溶剤の薄膜SF上に塗布液の薄膜の凹凸領域dEが形成される。そして、噴射された気体Gの風圧によって塗布液の薄膜の凹凸領域dEが平滑化される。
【0046】
以上のような溶剤供給工程、塗布液供給工程および平滑化工程が同時並行して実施されることにより、基板Wに塗布液を均一に塗布形成することができる。しかも、塗布液はインクジェット方式で供給されているので、塗布液の利用効率を高めることができる。また、塗布液の膜厚を均一にするために基板Wを高速度で回転させる必要がないので、飛散した塗布液でカップ内面が汚れることもないので、装置の維持管理が容易である。
【0047】
本発明は上述した実施例に限らず次のように変形実施することができる。
(1)実施例では、塗布液供給工程の前に溶剤供給工程を設けたが、基板に対する塗布液の濡れ性が充分に確保される場合は、溶剤供給工程を省いてもよい。
【0048】
(2)実施例では、平滑化工程では基板上に供給された塗布液に空気を噴射したが、この空気に塗布液の溶剤の蒸気を含ませるようにしてもよい。溶剤の蒸気を含む空気を用いると基板上の塗布液の乾燥硬化が抑制されるので、基板上で塗布液が一層拡散しやすくなり、結果として、塗布液の膜厚を一層均一にすることができる。また、空気に代えて、窒素ガスを用いても良い。
【0049】
(3)実施例では、塗布ヘッドに溶剤供給機構を一体に連結することより、塗布液供給工程の直前に溶剤供給工程を実施するようにしたが、まず、基板全体に溶剤を塗布し、その後で、塗布液供給工程を行いながら平滑化工程を行うようにしてもよい。
【0050】
(4)実施例では、塗布ヘッド10をX方向に移動させる第1移動機構34と、基板保持台32をY方向に移動させる第2移動機構35とによって、本発明の移動機構を構成したが、本発明の移動機構は、基板保持台を固定する一方、塗布ヘッドをX方向およびY方向に移動させる機構、あるいは、塗布ヘッドを固定する一方、基板保持台をX方向およびY方向に移動させる機構などであってもよい。
【0051】
(5)実施例では、気体噴射機構は1個のスリット状ノズルで構成したが、気体噴射機構は複数個の通常の小孔ノズルで構成してもよい。また、複数個のノズルから噴射する気体の噴射方向を異ならせて、塗布液の平滑化を複数方向にわたって行うようにしてもよい。
【0052】
(6)また、気体噴射機構は必ずしも塗布液供給機構と連結して一体に構成する必要はなく、これらを別体に構成して各機構を個別に移動させるようにしてもよい。
【0053】
(7)実施例おいて、溶剤供給機構は、塗布液供給機構と同様に、インクジェット方式の複数個のノズルを並べて構成されているが、溶剤供給機構は別の構成、例えばスプレーノズルからスプレー状に溶剤を供給するような構成であってもよい。その他、例えば、多数の吐出孔が形成された筒状体の内部に塗布液の溶剤を供給し、この溶剤に振動を付与することによって、前記吐出孔から溶剤の液滴を吐出するような液滴吐出機構で構成してもよい。このような液滴吐出機構は、円筒の筒状体に軸方向に一列に小孔を形成し、これらの小孔が開けられた側とは反対側の筒状体の表面にピエゾ素子を貼り付けて構成される。
【符号の説明】
【0054】
W … 基板
10 … 塗布ヘッド
12 … 塗布液供給機構
14 … 気体噴射機構
15 … 温度調節機構
18 … 溶剤供給機構
20 … ノズル
34 … 第1移動機構
35 … 第2移動機構