【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例の記載に限定されるものではない。
【0047】
図2、3は、サンプルS01〜S14、およびS21〜S34という28種類の酸素透過膜を作製し、安定性および耐還元性を調べた結果を表にして示す説明図である。以下に、各サンプルの構成および製造方法と、性能を評価した結果について説明する。
【0048】
A.各サンプルの作製:
[サンプルS01、S21]
サンプルS01、S21は、酸素イオン伝導体として、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)を含有する。また、サンプルS01、S21は、電子伝導体として、La
0.8Sr
0.2CrO
3−zを含有する。サンプルS01とサンプルS21とは、後述する焼成温度のみが異なっている。
【0049】
YSZは、東ソー株式会社製のTZ−8Y粉末を用いた。La
0.8Sr
0.2CrO
3−zは、以下のように作製した。原料粉末としては、酸化ランタン(La
2O
3、和光純薬工業製、純度99.9%)、炭酸ストロンチウム(SrCO
3、高純度化学研究所製、純度99.9%)、および酸化クロム(Cr
2O
3、高純度化学研究所製、純度99.99%)の粉末を用いた。これら原料粉末を、金属元素の割合が、既述した組成式の組成比になるように秤量した。そして、ZrO
2ボールと樹脂ポットを用いて、エタノールと共に、これらの原料粉末について湿式混合粉砕を15時間行なった。その後、湯煎乾燥してエタノールを除去し、得られた混合粉末を15℃/minの昇温速度で1500℃まで昇温させ、1500℃にて24時間仮焼成して、仮焼粉末であるLa
0.8Sr
0.2CrO
3−zの粉末を得た。
【0050】
さらに、この仮焼粉末に分散剤とバインダを加え、エタノールを用いて既述した仮焼粉末を作製するための条件と同様の条件で湿式混合粉砕を行ない、乾燥させて、仮焼粉末を含む粉末を得た。その後、YSZとLa
0.8Sr
0.2CrO
3−zとの混合物におけるLa
0.8Sr
0.2CrO
3−zの混合割合が50mol%となるように、上記仮焼粉末を含む粉末をYSZに混合し、YSZとLa
0.8Sr
0.2CrO
3−zの混合粉末を得た。この混合粉末に対して、油圧プレスにて15kNの力を加えて成形し、大気中において、1500℃(サンプルS01)あるいは1300℃(サンプルS21)にて24時間焼成し、サンプルS01あるいはS21として、YSZとLa
0.8Sr
0.2CrO
3−zの混合体のペレットを得た。なお、上記した混合粉末を得る際には、仮焼粉末において100%の効率でLa
0.8Sr
0.2CrO
3−zが形成されているものとして、仮焼粉末を含む粉末の混合量を設定した。
【0051】
[サンプルS02、S03、S09、S22、S23、S29]
サンプルS02、S03、S09、S22、S23、およびS29は、酸素イオン伝導体として、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)を含有する。また、サンプルS02およびS22は、電子伝導体として、La
0.9Sr
0.1CrO
3−zを含有し、サンプルS03およびS23は、電子伝導体として、La
0.85Sr
0.15CrO
3−zを含有し、サンプルS09およびS29は、電子伝導体として、La
0.6Sr
0.4CrO
3−zを含有する。サンプルS02とサンプルS12、サンプルS03とサンプルS23、およびサンプルS09とサンプルS29は、それぞれ、後述する焼成温度のみが異なっている。
【0052】
サンプルS02、S03、S09、S22、S23、およびS29の製造は、サンプルS01、S21と同様にして行なった。ただし、電子伝導体であるLa
0.9Sr
0.1CrO
3−z、La
0.85Sr
0.15CrO
3−z、およびLa
0.6Sr
0.4CrO
3−zを作製するために原料粉末を秤量する際には、金属元素の割合が、目的の電子伝導体の組成式の組成比になるように秤量した。なお、焼成温度は、サンプルS02、S03、およびS09は1500℃であり、サンプルS22、S23、およびS29は1300℃とした。
【0053】
[サンプルS04、S24]
サンプルS04、S24は、酸素イオン伝導体として、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)を含有する。また、サンプルS04、S24は、電子伝導体としてLa
0.8Sr
0.2CrO
3−zを含有する。サンプルS04とサンプルS24とは、後述する焼成温度のみが異なっている。
【0054】
サンプルS04、S24の製造は、酸素イオン伝導体としてScSZを用いたこと以外は、サンプルS01、S21と同様にして行なった。サンプルS04、S24では、ScSZとして、スカンジウム(Sc)およびセリウム(Ce)を含有するスカンジア安定化ジルコニア(第一希元素化学工業製、10Sc1CeSZ)を用いた。なお、焼成温度は、サンプルS04は1500℃であり、サンプルS24は1300℃とした。
【0055】
[サンプルS05〜S07、S10、S25〜S27、S30]
サンプルS05〜S07、S10、S25〜S27、およびS30は、酸素イオン伝導体として、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)を含有する。また、サンプルS05およびS25は、電子伝導体として、La
0.8Ca
0.2CrO
3−zを含有し、サンプルS06およびS26は、電子伝導体として、La
0.9Ca
0.1CrO
3−zを含有し、サンプルS07およびS27は、電子伝導体として、La
0.85Ca
0.15CrO
3−zを含有し、サンプルS10およびS30は、電子伝導体として、La
0.6Ca
0.4CrO
3−zを含有する。サンプルS05とサンプルS25、サンプルS06とサンプルS26、サンプルS07とサンプルS27、サンプルS10とサンプルS30は、それぞれ、後述する焼成温度のみが異なっている。
【0056】
サンプルS05〜S07、S10、S25〜S27、およびS30の製造は、サンプルS01、S21と同様にして行なった。ただし、電子伝導体であるLa
0.8Ca
0.2CrO
3−z、La
0.9Ca
0.1CrO
3−z、La
0.85Ca
0.15CrO
3−zおよび、La
0.6Ca
0.4CrO
3−zを作製するための原料粉末としては、炭酸ストロンチウムに代えて炭酸カルシウム(CaCO
3、和光純薬工業製、純度99.9%)を用いた。これらの原料粉末を、金属元素の割合が、目的の電子伝導体の組成式の組成比になるように秤量した。なお、焼成温度は、サンプルS05〜S07、およびS10は1500℃であり、サンプルS25〜S27、およびS30は1300℃とした。
【0057】
[サンプルS08、S28]
サンプルS08、S28は、酸素イオン伝導体として、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)を含有する。また、サンプルS08、S28は、電子伝導体としてLa
0.8Ca
0.2CrO
3−zを含有する。サンプルS08とサンプルS28とは、後述する焼成温度のみが異なっている。
【0058】
サンプルS08、S28の製造は、酸素イオン伝導体としてScSZを用いたこと以外は、サンプルS05、S25と同様にして行なった。サンプルS08、S28では、ScSZとして、スカンジウム(Sc)およびセリウム(Ce)を含有するスカンジア安定化ジルコニア(第一希元素化学工業製、10Sc1CeSZ)を用いた。なお、焼成温度は、サンプルS08は1500℃であり、サンプルS28は1300℃とした。
【0059】
[サンプルS11、S31]
サンプルS11、S31は、酸素イオン伝導体として、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)を含有する。また、サンプルS11、S31は、電子伝導体としてLa
0.6Sr
0.4CoO
3−zを含有する。サンプルS11とサンプルS31とは、後述する焼成温度のみが異なっている。
【0060】
サンプルS11、S31の製造は、サンプルS01、S21と同様にして行なった。ただし、電子伝導体であるLa
0.6Sr
0.4CoO
3−zを作製するための原料粉末としては、酸化ランタン(La
2O
3、和光純薬工業製、純度99.9%)、炭酸ストロンチウム(SrCO
3、高純度化学研究所製、純度99.9%)、および酸化コバルト(Co
3O
4、高純度化学研究所製、純度99.9%)の粉末を用いた。これらの原料粉末を、金属元素の割合が、目的の電子伝導体の組成式の組成比になるように秤量した。なお、焼成温度は、サンプルS11は1500℃であり、サンプルS31は1300℃とした。
【0061】
[サンプルS12、S32]
サンプルS12、S32は、酸素イオン伝導体として、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)を含有する。また、サンプルS12、S32は、電子伝導体としてLa
0.6Sr
0.4MnO
3−zを含有する。サンプルS12とサンプルS32とは、後述する焼成温度のみが異なっている。
【0062】
サンプルS12、S32の製造は、サンプルS01、S21と同様にして行なった。ただし、電子伝導体であるLa
0.6Sr
0.4MnO
3−zを作製するための原料粉末としては、酸化ランタン(La
2O
3、和光純薬工業製、純度99.9%)、炭酸ストロンチウム(SrCO
3、高純度化学研究所製、純度99.9%)、および酸化マンガン(Mn
2O
3、高純度化学研究所製、純度99.9%)の粉末を用いた。これらの原料粉末を、金属元素の割合が、目的の電子伝導体の組成式の組成比になるように秤量した。なお、焼成温度は、サンプルS12は1500℃であり、サンプルS32は1300℃とした。
【0063】
[サンプルS13、S33]
サンプルS13、S33は、酸素イオン伝導体として、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)を含有する。また、サンプルS13、S33は、電子伝導体としてLa
0.8Sr
0.2CoO
3−zを含有する。サンプルS13とサンプルS33とは、後述する焼成温度のみが異なっている。
【0064】
サンプルS13、S33の製造は、サンプルS11、S31と同様にして行なった。ただし、電子伝導体であるLa
0.8Sr
0.2CoO
3−zを作製するために原料粉末を秤量する際には、金属元素の割合が、目的の電子伝導体の組成式の組成比になるように秤量した。なお、焼成温度は、サンプルS13は1500℃であり、サンプルS33は1300℃とした。
【0065】
[サンプルS14、S34]
サンプルS14、S34は、酸素イオン伝導体として、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)を含有する。また、サンプルS14、S34は、電子伝導体としてLa
0.8Sr
0.2MnO
3−zを含有する。サンプルS14とサンプルS34とは、後述する焼成温度のみが異なっている。
【0066】
サンプルS14、S34の製造は、サンプルS12、S32と同様にして行なった。ただし、電子伝導体であるLa
0.8Sr
0.2MnO
3−zを作製するための原料粉末を秤量する際には、金属元素の割合が、目的の電子伝導体の組成式の組成比になるように秤量した。なお、焼成温度は、サンプルS14は1500℃であり、サンプルS34は1300℃とした。
【0067】
B.酸素イオン伝導体と電子伝導体の反応性について:
各サンプルを用いて、酸素透過膜を構成する酸素イオン伝導体と電子伝導体の反応性を評価した。すなわち、酸素イオン伝導体と電子伝導体とが反応することに起因する、酸素イオン伝導体および電子伝導体とは異なる異種相の生成の有無を評価した。反応性の評価は、株式会社リガク社製のMIniFlexを用いて、粉末X線回折法(CuKα)により行なった。
【0068】
図4は、サンプルS01のX線回折パターンであり、
図5は、サンプルS09のX線回折パターンである。各サンプルにおいて、酸素イオン伝導体と電子伝導体とが反応すると、X線回折パターンにおいて、酸素イオン伝導体と電子伝導体に対応するピークに加えて、反応により生じた物質に対応するピークが生じる。そこで、X線回折パターンに基づいて、酸素イオン伝導体と電子伝導体との反応により生じた物質のX線回折ピークの積分強度比を求めた。上記反応により生じた物質のX線回折ピークの積分強度比(以下、単に積分強度比とも呼ぶ)は、以下の(3)式で与えられる。
【0069】
積分強度比=c1/(a1+b1+c1) …(3)
【0070】
ここで、a1は、酸素イオン伝導体に由来するX線回折ピークの積分強度であり、b1は、電子伝導体に由来するX線回折ピークの積分強度であり、c1は、上記反応により生じた物質に由来するX線回折ピークの積分強度である。このような積分強度比が2%以下であるときに、酸素透過膜の製造のための焼成工程において、酸素イオン伝導体と電子伝導体とは異なる異種相が、実質的に生成していないと評価した。なお、各々の化合物に由来するX線回折ピークは、各化合物の結晶面毎に現われるが、各化合物のX線回折ピークの積分強度は、各々の化合物に由来のピークの内の最も強いピーク(ただし、最も強いピークが他のピークと重なる場合には2番目に強いピーク)について求めた。
【0071】
具体的には、サンプルS01やサンプルS09のように、酸素イオン伝導体としてYSZを用い、電子伝導体としてLa
1−xSr
xCrO
3−zを用いる場合には、異種相としてSrZrO
3が生じ得る。このような場合には、上記(3)式のa1は、YSZ相の(101)面のピークの積分強度であり、b1は、La
0.8Sr
0.2CrO
3−z相の(110)面のピークの積分強度であり、c1は、SrZrO
3相の(110)面のピークの積分強度である。
【0072】
サンプルS01(電子伝導体は、La
0.8Sr
0.2CrO
3−z)について導出された積分強度比は2%以下であり、サンプルS01の製造のための焼成を行なっても、実質的に異種相が生成しないことが確認された(
図4参照)。これに対して、サンプルS09(電子伝導体は、La
0.6Sr
0.4CrO
3−z)について導出された積分強度比は2%を超えており、異種相が生成していることが確認された(
図5参照)。
【0073】
図6は、サンプルS05のX線回折パターンである。酸素イオン伝導体としてYSZを用い、電子伝導体としてLa
1−xCa
xCrO
3−zを用いる場合には、異種相として、La
2Zr
2O
7が生じ得る。サンプルS05(電子伝導体は、La
0.8Ca
0.2CrO
3−z)について、上記(3)式の積分強度比を導出すると、積分強度比は2%以下であり、サンプルS05の製造のための焼成を行なっても、実質的に異種相が生成しないことが確認された。これに対して、サンプルS10(電子伝導体は、La
0.6Ca
0.4CrO
3−z)について導出された積分強度比は2%を超えており、異種相が生成していることが確認された(データ示さず)。
【0074】
図7は、サンプルS31のX線回折パターンである。
図7に示すように、酸素イオン伝導体としてYSZを用い、電子伝導体としてLa
1−xSr
xCoO
3−zを用いる場合には、異種相として、SrZrO
3、La
2Zr
2O
7、あるいはCo
3O
4等が生じ得る。そこで、サンプルS31について上記(3)式の積分強度比を導出すると、積分強度比は2%を超えており、異種相が生成していることが確認された(
図7参照)。より具体的には、サンプルS31のX線回折パターンでは、電子伝導体であるLa
0.6Sr
0.4CoO
3−zのピークはほとんど観察されなかった。すなわち、サンプル作製のための焼成工程において、電子伝導体のほとんどが酸素イオン伝導体と反応して異種相を形成していた。なお、サンプルS31と同じ組成であって、サンプルS31の製造時の焼成温度よりも低い1100℃にて焼成したサンプルを作製したところ、酸素イオン伝導体と電子伝導体とLa
2Zr
2O
7等の異種相が共存する状態であることが確認された(データ示さず)。
【0075】
図8は、サンプルS32のX線回折パターンである。
図8に示すように、酸素イオン伝導体としてYSZを用い、電子伝導体としてLa
1−xSr
xMnO
3−zを用いる場合には、異種相としてSrZrO
3が生じ得る。そこで、YSZ相の(101)面のピークの積分強度をa1、La
0.6Sr
0.4MnO
3−z相の(104)面のピークの積分強度をb1、SrZrO
3相の(110)面のピークの積分強度をc1として、サンプルS32の積分強度比を既述した(3)式により求めた。その結果、サンプルS32の積分強度比は2%を超えており、異種相が生成していることが確認された(
図8参照)。
【0076】
他のサンプルについても同様に、X線回折パターンに基づいて積分強度比を求め、積分強度比が2%以下であれば、製造工程における焼成時に異種相が生成していないと判断した。各サンプルについての異種相生成に係る評価結果を、
図2および
図3に示している。
【0077】
異種相は、一般的に、製造時の焼成温度が高いほど生成し易いが、電子伝導体としてLa
1−xSr
xCrO
3−z(ただしxは0.1〜0.2)、またはLa
1−xCa
xCrO
3−z(ただしxは0.1〜0.2)を用いる場合には、製造時の焼成温度が比較的高温の1500℃であっても、異種相は生成しなかった(
図2のサンプルS01〜S08および
図3のサンプルS21〜S28を参照)。これに対して、電子伝導体としてLa
1−xSr
xCrO
3−z(ただしxは0.4)を用いる場合、La
1−xCa
xCrO
3−z(ただしxは0.4)を用いる場合、La
1−xSr
xCoO
3−zを用いる場合、あるいはLa
1−xSr
xMnO
3−zを用いる場合には、製造時の焼成温度が比較的低温の1300℃であっても、異種相が生成した(
図2のサンプルS09〜S14および
図3のサンプルS29〜S34を参照)。
【0078】
図9は、サンプルS01等と同様に、酸素イオン伝導体としてYSZを用い、電子伝導体としてLa
1−xSr
xCrO
3−zを用いたサンプルであって、xの値(Srの置換量)を変更した複数のサンプルを作製し、積分強度比を求めた結果を示す説明図である。ここでは、xの値を、0.10〜0.40の範囲で変更したサンプルを用いた。
図9におけるx=0.10のサンプルは、
図2のサンプルS02に相当し、x=0.15のサンプルは、
図2のサンプルS03に相当し、x=0.20のサンプルは、
図2のサンプルS01に相当し、x=0.40のサンプルは、
図2のサンプルS09に相当する。
図9に示すように、電子伝導体としてLa
1−xSr
xCrO
3−zを用いる場合には、xの値を0.30以下にすることで、異種相が実質的に生成していない酸素透過膜が得られることが確認できた。
【0079】
また、
図10は、サンプルS05等と同様に、酸素イオン伝導体としてYSZを用い、電子伝導体としてLa
1−xCa
xCrO
3−zを用いたサンプルであって、xの値(Caの置換量)を変更した複数のサンプルを作製し、積分強度比を求めた結果を示す説明図である。ここでは、xの値を、0.10〜0.40の範囲で変更したサンプルを用いた。
図10におけるx=0.10のサンプルは、
図2のサンプルS06に相当し、x=0.15のサンプルは、
図2のサンプルS07に相当し、x=0.20のサンプルは、
図2のサンプルS05に相当し、x=0.40のサンプルは、
図2のサンプルS10に相当する。
図10に示すように、電子伝導体としてLa
1−xCa
xCrO
3−zを用いる場合には、xの値を0.30以下にすることで、異種相が実質的に生成していない酸素透過膜が得られることが確認できた。
【0080】
C.酸素透過膜の耐還元性について:
サンプルS01〜S14、S21〜S34について、耐還元性の評価を行なった。耐還元性の評価は、各サンプルを還元雰囲気下で熱処理することによって行なった。具体的には、各サンプルとして作製したペレットを、水素濃度10%、窒素濃度90%の雰囲気下において、5℃/minの速度で1000℃まで昇温させ、1000℃にて24時間加熱処理して、その後、既述したX線回折法による測定を行ない、異種相のピークの積分強度比を求めた。還元雰囲気下での加熱処理では、金属用雰囲気制御焼成炉(ネムス株式会社製、FD−20×20×30−1Z2−20)を用いた。異種相に由来するX線回折ピークの積分強度の割合が2%以下であり、実質的に異種相が生成していない場合には、酸素イオン伝導体と電子伝導体とが反応しておらず、耐還元性に優れていると判断した。
【0081】
各サンプルについて耐還元性を評価した結果を、
図2および3にまとめて示す。サンプルS01〜S08およびS21〜S28では、酸素イオン伝導体と電子伝導体とが反応せず、耐還元性に優れると判断された。これに対して、サンプルS09〜S14およびS29〜S34では、還元雰囲気下での加熱処理によって異種相が生成され、酸素イオン伝導体および/または電子伝導体の分解が進行した。なお、
図2および
図3では、製造時の焼成によって異種相が生成せず、かつ、耐還元性の試験で酸素イオン伝導体と電子伝導体とが反応しない場合には、「○」と判定し、それ以外の場合には「×」と判定している。
【0082】
図11および
図12は、還元雰囲気下で熱処理した前後のX線回折パターンの例を示す説明図である。
図11は、サンプルS01についてのX線回折パターンを示し、
図12は、サンプルS31についてのX線回折パターンを示す。
図11に示すように、サンプルS01は、還元雰囲気下での熱処理の前と後とでX線回折パターンはほとんど変化しなかった。これに対してサンプルS31は、還元雰囲気下での熱処理の前と後とでX線回折パターンは大きく変化した。既述したように、サンプルS31では、製造時における1300℃の焼成工程によって電子伝導体のほとんどが酸素イオン伝導体と反応して異種相を形成するが、このようなサンプルS31を還元雰囲気下で1000℃で熱処理すると、Co等の異種相が生じ、さらに分解が進むことが確認された。なお、サンプルS32を還元雰囲気下で加熱処理したところ、ペレットが割れてしまった。これは、還元雰囲気下での加熱処理により異種相が生成して、サンプルが還元膨張することにより割れたものと考えられる。
【0083】
D.相対密度と酸素透過流速密度について:
図13は、酸素透過膜における相対密度と酸素透過特性との関係を調べた結果を示す説明図である。具体的には、
図13では、用いたサンプルの材料(組成)と、各々のサンプルについて求めた相対密度および酸素透過流速密度(酸素透過速度)とをまとめている。ここでは、サンプルS04およびS24と同様に、酸素イオン伝導体としてのScSZと、電子伝導体としてのLa
0.8Sr
0.2CrO
3−zとを混合して成る酸素透過膜であって、互いに相対密度が異なる酸素透過膜であるサンプルS41〜S46を用いた。また、サンプルS08およびS28と同様に、酸素イオン伝導体としてのScSZと、電子伝導体としてのLa
0.8Ca
0.2CrO
3−zとを混合して成る酸素透過膜であって、互いに相対密度が異なる酸素透過膜であるサンプルS51〜S56を用いた。
【0084】
サンプルS41〜S45の酸素透過膜は、サンプルS04およびS24と同様にして製造した。ただし、ScSZとLa
0.8Sr
0.2CrO
3−zとの混合物中におけるLa
0.8Sr
0.2CrO
3−zの混合割合は、20mol%とした。そして、酸素透過膜の製造時の焼成温度を1100℃〜1500℃の間で異ならせることによって、得られる酸素透過膜の相対密度を異ならせた。
【0085】
サンプルS46の酸素透過膜は、焼成の工程を除いて、サンプルS41〜S45と同様にして製造した。サンプルS46の焼成は、まず、1回目の焼成をN
2雰囲気において1500℃で24時間行ない、その後2回目の焼成を大気雰囲気において1500℃で24時間行なった。
【0086】
サンプルS51〜S55の酸素透過膜は、サンプルS08およびS28と同様にして製造した。ただし、ScSZとLa
0.8Ca
0.2CrO
3−zとの混合物中におけるLa
0.8Ca
0.2CrO
3−zの混合割合は、20mol%とした。そして、酸素透過膜の製造時の焼成温度を1100℃〜1500℃の間で異ならせることによって、得られる酸素透過膜の相対密度を異ならせた。なお、サンプルS41とS51、サンプルS42とS52、サンプルS43とS53、サンプルS44とS54、サンプルS45とS55は、それぞれ、焼成温度を同じにした。
【0087】
サンプルS56の酸素透過膜は、焼成の工程を除いて、サンプルS51〜S55と同様にして製造した。サンプルS56の焼成は、サンプルS46と同様の条件で行なった。
【0088】
各サンプルの相対密度は、試料の理論密度に対する、試料の実測された密度の割合として求められる。各サンプルの理論密度は、単位格子当たりに含まれる元素の原子量と格子定数から求めた。各サンプルの格子定数は、株式会社リガク社製のRINT−TTRIIIを用いて、X線回折法(XRD測定)により求めた。各サンプルの密度の実測は、アルキメデス法により行なった。具体的には、液体として水を用い、電子天秤(株式会社島津製作所製、AW220)を用いて水中および空気中での各サンプルの重量測定を行ない、測定時の温度における水の比重を用いて各サンプルの密度を算出した。
【0089】
図13に示すように、サンプルS46およびS56は、既述した焼成方法を採用したことにより、相対密度が95%以上の緻密な酸素透過膜であった。また、
図16において、サンプルS41とS51、サンプルS42とS52、サンプルS43とS53、サンプルS44とS54、サンプルS45とS55、サンプルS46とS56を比較することにより、焼成条件が同じである場合には、既述した(1)式におけるアルカリ土類金属MをSrとするよりもCaとする方が、相対密度が高い酸素透過膜が得られることが確認された。
【0090】
図14は、各酸素透過膜の酸素透過特性を測定するために用いた測定装置30の概略構成を表わす説明図である。酸素透過特性を測定する際には、焼成により得られた各酸素透過膜をさらに湿式研磨して、各サンプルの厚みを0.6mmに調整した。測定装置30は、2本の透明石英管31,32と、アルミナチューブ33,34と、電気炉35と、熱電対36と、を備える。2本の透明石英管31,32は、上下に配置され、その間に各サンプルを挟んで測定を行なう。透明石英管31とサンプルとを接合する際には、サンプル上に内径10mmの金の薄膜リングを載置し、その上に透明石英管31を押し付けて、1050℃に昇温して金を軟化させ、ガスシール性を確保した。透明石英管31,32の内側には、アルミナチューブ33,34を配置した。酸素透過特性の測定の際には、アルミナチューブ33には5%水素含有ガス(バランスガスはアルゴン)を流し、アルミナチューブ34には空気を流した。透明石英管31,32は、電気炉35内に配置されており、透明石英管31,32に挟まれたサンプルは、電気炉35内の均熱部分に配置した。また、アルミナチューブ34内には、サンプル温度を測定するために、サンプルの近傍に達するように熱電対36を配置した。酸素透過特性の測定の際には、サンプル温度が1000℃に維持されるように電気炉35による加熱を行なった。
【0091】
上記した測定装置30において、空気側(透明石英管32側)から5%水素含有ガス側(透明石英管31側)へと、サンプル内を酸素が透過すると、酸素含有ガス側では水(水蒸気)が生じる。測定装置30から排出される水素含有ガス中の水蒸気は、全て、透過した酸素由来であると考えられるため、排出された水素含有ガス中の水蒸気濃度を鏡面露点計(東洋テクニカ製)または質量分析計(日本ベル製)を用いて測定し、透過した酸素量を算出した。このようにして算出した透過酸素量と、サンプルの透過面積とに基づいて、酸素透過流速密度j(0
2)を算出した。このとき、アルミナチューブ33を介して供給する5%水素含有ガス量と、アルミナチューブ34を介して供給する空気量は、マスフロコントローラを用いて、300mL/minとした。
【0092】
図15は、横軸に相対密度をとり、縦軸に酸素透過流速密度をとり、
図13に示したサンプルS41〜S52に係るデータをプロットした説明図である。
図13および
図15に示すように、相対密度が80%以上である酸素透過膜は、相対密度が80%よりも小さい酸素透過膜に比べて、酸素透過特性が大きく向上することが確認された。また、相対密度が90%以上である酸素透過膜は、酸素透過性能がより向上し、相対密度が95%以上である酸素透過膜は、酸素透過性能がさらに大きく向上することが確認された。
【0093】
E.電子伝導体の組成と酸素透過流速密度について:
図16は、酸素イオン伝導体としてScSZを用い、電子伝導体としてLa
1−xSr
xCrO
3−zまたはLa
1−xCa
xCrO
3−zを用いた複数のサンプルについて、相対密度と酸素透過流速密度とを調べた結果を示す説明図である。具体的には、
図16では、電子伝導体としてLa
1−xSr
xCrO
3−zを用い、xの値(Srの置換量)を0.1〜0.4の範囲で異ならせたサンプルS61〜65、および、既述したサンプルS46の結果を示している。また、
図16では、電子伝導体としてLa
0.8Ca
0.2CrO
3−zを用いた既述したサンプル52の結果を併せて示している。
【0094】
サンプルS61〜S65は、サンプルS46と同様にして製造した。ただし、電子伝導体であるLa
1−xSr
xCrO
3−zを作製するために原料粉末を秤量する際には、金属元素の割合が、目的に電子伝導体の組成式の組成比になるように秤量した。また、ScSZとLa
1−xSr
xCrO
3−zとの混合物中におけるLa
1−xCa
xCrO
3−zの混合割合は、20mol%とした。各サンプルの酸素透過特性を測定する際には、焼成により得られた各酸素透過膜をさらに湿式研磨して、各サンプルの厚みを0.6mmに調整した。サンプルS61〜S65の相対密度および酸素透過流速密度は、サンプルS41〜S52と同様にして求めた。
図16に示すように、サンプルS46と同様の焼成方法を採用することで、サンプルS61〜S65として、相対密度が95%以上の緻密な酸素透過膜が得られた。
【0095】
図17は、横軸に、組成式La
1−xSr
xCrO
3−z中xの値(Srの置換量)をとり、縦軸に酸素透過流速密度をとり、
図16に示したサンプルS61〜S65およびS46に係るデータをプロットした説明図である。
図16および
図17に示すように、xの値が0.15〜0.3のときに酸素透過流速密度がより大きくなり、xの値が0.15〜0.25のときに酸素透過流速密度がさらに大きくなり、xの値が0.2のときに酸素透過流速密度が最も大きくなることが確認された。
【0096】
本発明は、上述の実施形態や実施例、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。