特許第5838524号(P5838524)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5838524-象牙質知覚過敏抑制材及びその製造方法 図000008
  • 特許5838524-象牙質知覚過敏抑制材及びその製造方法 図000009
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5838524
(24)【登録日】2015年11月20日
(45)【発行日】2016年1月6日
(54)【発明の名称】象牙質知覚過敏抑制材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/033 20060101AFI20151210BHJP
【FI】
   A61K6/033
【請求項の数】12
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2012-537685(P2012-537685)
(86)(22)【出願日】2011年9月30日
(86)【国際出願番号】JP2011072684
(87)【国際公開番号】WO2012046667
(87)【国際公開日】20120412
【審査請求日】2014年3月10日
(31)【優先権主張番号】特願2010-227058(P2010-227058)
(32)【優先日】2010年10月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113181
【弁理士】
【氏名又は名称】中務 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100180600
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】橋本 正
(72)【発明者】
【氏名】尾下 瑞子
(72)【発明者】
【氏名】石原 周明
【審査官】 石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】 特表平10−504467(JP,A)
【文献】 特開昭64−022257(JP,A)
【文献】 特開平03−151313(JP,A)
【文献】 自己硬化型水酸化カルシウム製剤の開発 第二報 リン酸水素カルシウムの添加量が自己硬化型水酸化カルシウム製剤の物性に及ぼす影響,日本歯科理工学会学術講演会講演集,2002年,Vol.39th,Page.110
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00− 6/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
難溶性リン酸カルシウム粒子(A)、リンを含まないカルシウム化合物(B)及び水(C)を含有する象牙細管封鎖剤からなる象牙質知覚過敏抑制材であって、
難溶性リン酸カルシウム粒子(A)が、無水リン酸一水素カルシウム[CaHPO]粒子β−リン酸三カルシウム[β−Ca(PO]粒子ピロリン酸カルシウム[Ca]粒子リン酸八カルシウム5水和物[Ca(PO・5HO]粒子及びリン酸一水素カルシウム2水和物[CaHPO・2HO]粒子からなる群から選択される少なくとも1種であり、
リンを含まないカルシウム化合物(B)が、水酸化カルシウム[Ca(OH)]、酸化カルシウム[CaO]、塩化カルシウム[CaCl]、硝酸カルシウム[Ca(NO・nHO]及びメタケイ酸カルシウム[CaSiO]からなる群から選択される少なくとも1種であり、
難溶性リン酸カルシウム粒子(A)を30〜76重量%、リンを含まないカルシウム化合物(B)を0.01〜2重量%、及び水(C)を23〜69重量%含有し、
象牙質表面にすり込むことにより象牙細管を封鎖させるために用いられるものであることを特徴とする象牙質知覚過敏抑制材
【請求項2】
リン酸のアルカリ金属塩(D)を0.1〜25重量%含有する請求項記載の象牙質知覚過敏抑制材
【請求項3】
難溶性リン酸カルシウム粒子(A)及びリンを含まないカルシウム化合物(B)の総和のCa/P比が0.9〜1.25である請求項1又は2記載の象牙質知覚過敏抑制材
【請求項4】
更にフッ素化合物(E)を含有する請求項1〜のいずれか記載の象牙質知覚過敏抑制材
【請求項5】
更にシリカ粒子(F)を含有する請求項1〜のいずれか記載の象牙質知覚過敏抑制材
【請求項6】
象牙質知覚過敏抑制材で厚さ700μmの牛歯ディスクの片面を処置した際の象牙質透過抑制率が下記式(I)を満たす請求項1〜のいずれか記載の象牙質知覚過敏抑制材
[1−(象牙細管を封鎖した牛歯ディスクの透過量)/(象牙細管の封鎖前の牛歯ディスクの透過量)]×100≧70・・・(I)
【請求項7】
難溶性リン酸カルシウム粒子(A)、リンを含まないカルシウム化合物(B)及び水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストを混合する象牙細管封鎖剤からなる象牙質知覚過敏抑制材の製造方法であって、
該象牙質知覚過敏抑制材が象牙質表面にすり込むことにより象牙細管を封鎖させるために用いられるものであり、
難溶性リン酸カルシウム粒子(A)が、無水リン酸一水素カルシウム[CaHPO]粒子β−リン酸三カルシウム[β−Ca(PO]粒子ピロリン酸カルシウム[Ca]粒子リン酸八カルシウム5水和物[Ca(PO・5HO]粒子及びリン酸一水素カルシウム2水和物[CaHPO・2HO]粒子からなる群から選択される少なくとも1種であり、
リンを含まないカルシウム化合物(B)が、水酸化カルシウム[Ca(OH)]、酸化カルシウム[CaO]、塩化カルシウム[CaCl]、硝酸カルシウム[Ca(NO・nHO]及びメタケイ酸カルシウム[CaSiO]からなる群から選択される少なくとも1種であり、
難溶性リン酸カルシウム粒子(A)を30〜76重量%、リンを含まないカルシウム化合物(B)を0.01〜2重量%、水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストを23〜69重量%配合することを特徴とする象牙質知覚過敏抑制材の製造方法。
【請求項8】
難溶性リン酸カルシウム粒子(A)及びリンを含まないカルシウム化合物(B)を含む粉体又は非水系ペーストに、水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストを加えて混合する請求項記載の象牙質知覚過敏抑制材の製造方法。
【請求項9】
難溶性リン酸カルシウム粒子(A)を含む粉体又は非水系ペーストに、水(C)を主成分としリンを含まないカルシウム化合物(B)を含む液体又は水系ペーストを加えて混合する請求項記載の象牙質知覚過敏抑制材の製造方法。
【請求項10】
リンを含まないカルシウム化合物(B)を含む粉体又は非水系ペーストに、水(C)を主成分とし難溶性リン酸カルシウム粒子(A)を含む液体又は水系ペーストを加えて混合する請求項記載の象牙質知覚過敏抑制材の製造方法。
【請求項11】
水(C)を主成分とし難溶性リン酸カルシウム粒子(A)を含む液体又は水系ペーストに、水(C)を主成分としリンを含まないカルシウム化合物(B)を含む液体又は水系ペーストを加えて混合する請求項記載の象牙質知覚過敏抑制材の製造方法。
【請求項12】
混合比(P/L)が0.5〜3である請求項7〜11のいずれか記載の象牙質知覚過敏抑制材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、露出した象牙質の象牙細管を封鎖することのできる象牙細管封鎖剤に関する。
【背景技術】
【0002】
80歳になっても20本以上自分の歯を保とうとする、いわゆる8020運動(口腔衛生の向上、歯質の保存(MI:Minimal Intervention))に伴い、う蝕に罹患する前の初期う蝕の段階で石灰化を行い健全な歯質に戻す石灰化治療が近年脚光を浴びている。この観点から、有効成分としてフッ素やカルシウム可溶化剤(CPP−ACP;Casein PhosphoPeptide−Amorphous Calcium Phosphate、POs−Ca(登録商標);リン酸化オリゴ糖カルシウム)が配合された機能性ガム、歯磨材、歯面処理材が各社より発売されている。しかしながら、フッ素は歯の耐酸性を向上させて、歯質のミネラル分を強化する機能があるとされているが、大量に摂取することによる副作用の問題があった。また、カルシウム可溶化剤を配合した材料は歯質付近に高濃度のミネラル分を供給できる反面、可溶性が高いためミネラル分の沈着能力は低いという問題もあった。
【0003】
特許文献1には、リン酸水素カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸八カルシウム、リン酸二水素カルシウムの群から選ばれた少なくとも一つとリン酸四カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウムの群から選ばれた少なくとも一つの混合物からなる粉末部と練和液を基本構成とする硬化性組成物において、練和時における練和液中のリン酸イオン濃度が30ミリモル濃度以上、あるいはpHが3以下あるいはpHが10以上となる硬化性組成物が記載されている。これによれば、生体親和性に優れ、形態付与性があり、かつ臨床応用可能な20分以内の硬化時間を持つ硬化性組成物が提供できるとされている。さらに、この硬化性組成物は、骨や歯などの硬組織の欠損部や空隙部に適応し、当該個所に所望の形態のリン酸カルシウム硬化体を形成させ、欠損空隙部の機能を補綴することと共に新生硬組織の発生を誘発するとされている。
【0004】
特許文献2には、カルシウム源が追加された、リンに対するカルシウムのモル比が5/3以下であるリン酸テトラカルシウム以外のリン酸カルシウム塩と、約12.5またはそれ以上のpHを維持する様に塩基を用いて調整し、固形の結晶リン酸の不存在下で、約0.2モル/Lまたはそれ以上のリン酸塩の濃度を有する水溶液とを混合し、周囲の温度で主要生成物としてヒドロキシアパタイトに自己硬化するリン酸カルシウムセメントの製造方法が記載されている。この自己硬化性リン酸カルシウムは、特に迅速に硬化する利点があり、歯科及び整形的欠損を修復する補綴物としての利用が期待できるとされている。
【0005】
特許文献3には、少なくとも1種の部分水溶性カルシウム塩を含有するカチオン性成分、水溶性のリン酸塩およびフッ化物塩を含有するアニオン性成分、及び水との混合水性組成物からなる歯の表面下病変部の再石灰化や露出象牙質細管の石灰化のための液状製品が記載されている。ここで、部分水溶性カルシウム塩とは、pH7.0、25℃の水溶液中で、リン酸二カルシウム二水和物(DCPD)の溶解度より大きいカルシウム塩であって、40ppmより多く、1400ppmより多くない量のカルシウムカチオンを遊離させることができるような溶解度を有するとされている。具体的には、硫酸カルシウム、無水硫酸カルシウム、硫酸カルシウム半水和物、硫酸カルシウム二水和物、リンゴ酸カルシウム、酒石酸カルシウム、マロン酸カルシウム、およびコハク酸カルシウムが例示されている。また、練り歯磨き、ゲル剤及びクリーム剤製品には研磨剤を含有してもよいことが記載されている。研磨剤の具体例としては、β相ピロリン酸カルシウム、リン酸二カルシウム二水和物、無水リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸ジルコニウム、及び熱硬化性樹脂が記載されている。
【0006】
上記先行特許文献に記載されているように、これまで、従来の技術では、水溶性カルシウム塩と水溶性のリン酸塩を主成分とする象牙質再石灰化剤、あるいは難溶性リン酸カルシウム、多量の水溶性カルシウム塩、並びに水溶性リン酸塩を主成分とする象牙質再石灰化剤が使用されてきた。これら成分は、水溶液中に溶解し、カルシウムイオンとリン酸イオンを生成し、ヒドロキシアパタイト(以下、HApと略すことがある)として沈着することにより、象牙質、あるいは露出した象牙質に開口している象牙細管を再石灰化するとされている。しかしながら、難溶性リン酸カルシウム粒子、リンを含まないカルシウム化合物、及び水を一定量含有することで、象牙細管封鎖抑制率の高い象牙細管封鎖剤が得られることについての記載はなかった。また、露出した象牙質に開口している象牙細管は、約2μmの直径を有しており、析出したHApが象牙細管を完全に封鎖するためには、長時間、あるいは材料を繰返し適応することを要し、実用性にも問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−172008号公報
【特許文献2】特表平10−504467号公報
【特許文献3】特表2000−504037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、露出した象牙質の象牙細管を封鎖することができるとともに、該封鎖後に周辺象牙質を再石灰化させることができる象牙細管封鎖剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、難溶性リン酸カルシウム粒子(A)、リンを含まないカルシウム化合物(B)及び水(C)を含有する象牙細管封鎖剤からなる象牙質知覚過敏抑制材であって、難溶性リン酸カルシウム粒子(A)が、無水リン酸一水素カルシウム[CaHPO]粒子β−リン酸三カルシウム[β−Ca(PO]粒子ピロリン酸カルシウム[Ca]粒子リン酸八カルシウム5水和物[Ca(PO・5HO]粒子及びリン酸一水素カルシウム2水和物[CaHPO・2HO]粒子からなる群から選択される少なくとも1種であり、リンを含まないカルシウム化合物(B)が、水酸化カルシウム[Ca(OH)]、酸化カルシウム[CaO]、塩化カルシウム[CaCl]、硝酸カルシウム[Ca(NO・nHO]及びメタケイ酸カルシウム[CaSiO]からなる群から選択される少なくとも1種であり、難溶性リン酸カルシウム粒子(A)を30〜76重量%、リンを含まないカルシウム化合物(B)を0.01〜2重量%、及び水(C)を23〜69重量%含有し、象牙質表面にすり込むことにより象牙細管を封鎖させるために用いられるものであることを特徴とする象牙質知覚過敏抑制材を提供することによって解決される。
【0010】
このときリン酸のアルカリ金属塩(D)を0.1〜25重量%含有することが好適であり、難溶性リン酸カルシウム粒子(A)及びリンを含まないカルシウム化合物(B)の総和のCa/P比が0.9〜1.25であることが好適である。更にフッ素化合物(E)を含有することが好適であり、更にシリカ粒子(F)を含有することが好適である。
【0011】
象牙質知覚過敏抑制材で厚さ700μmの牛歯ディスクの片面を処置した際の象牙質透過抑制率が下記式(I)を満たすことも好適である。
[1−(象牙細管を封鎖した牛歯ディスクの透過量)/(象牙細管の封鎖前の牛歯ディスクの透過量)]×100≧70・・・(I)
【0013】
上記課題は、難溶性リン酸カルシウム粒子(A)、リンを含まないカルシウム化合物(B)及び水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストを混合する象牙細管封鎖剤からなる象牙質知覚過敏抑制材の製造方法であって、該象牙質知覚過敏抑制材が象牙質表面にすり込むことにより象牙細管を封鎖させるために用いられるものであり、難溶性リン酸カルシウム粒子(A)が、無水リン酸一水素カルシウム[CaHPO]粒子β−リン酸三カルシウム[β−Ca(PO]粒子ピロリン酸カルシウム[Ca]粒子リン酸八カルシウム5水和物[Ca(PO・5HO]粒子及びリン酸一水素カルシウム2水和物[CaHPO・2HO]粒子からなる群から選択される少なくとも1種であり、リンを含まないカルシウム化合物(B)が、水酸化カルシウム[Ca(OH)]、酸化カルシウム[CaO]、塩化カルシウム[CaCl]、硝酸カルシウム[Ca(NO・nHO]及びメタケイ酸カルシウム[CaSiO]からなる群から選択される少なくとも1種であり、難溶性リン酸カルシウム粒子(A)を30〜76重量%、リンを含まないカルシウム化合物(B)を0.01〜2重量%、水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストを23〜69重量%配合することを特徴とする象牙質知覚過敏抑制材の製造方法を提供することによって解決される。
【0014】
このとき、難溶性リン酸カルシウム粒子(A)及びリンを含まないカルシウム化合物(B)を含む粉体又は非水系ペーストに、水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストを加えて混合することが好適である。難溶性リン酸カルシウム粒子(A)を含む粉体又は非水系ペーストに、水(C)を主成分としリンを含まないカルシウム化合物(B)を含む液体又は水系ペーストを加えて混合することが好適である。
【0015】
また、このとき、リンを含まないカルシウム化合物(B)を含む粉体又は非水系ペーストに、水(C)を主成分とし難溶性リン酸カルシウム粒子(A)を含む液体又は水系ペーストを加えて混合することが好適である。水(C)を主成分とし難溶性リン酸カルシウム粒子(A)を含む液体又は水系ペーストに、水(C)を主成分としリンを含まないカルシウム化合物(B)を含む液体又は水系ペーストを加えて混合することが好適である。このとき、混合比(P/L)が0.5〜3であることも好適である。
【発明の効果】
【0034】
本発明により、露出した象牙質の象牙細管を封鎖することができるとともに、該封鎖後に周辺象牙質を再石灰化させることができる象牙細管封鎖剤が提供される。このことにより、象牙細管の開口により生じていた知覚過敏症の治療が可能となり、また、象牙細管を封鎖した組成物が、周囲の象牙質の歯質を強化するため、耐う蝕性も付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】実施例8において、象牙細管が本発明の象牙細管封鎖剤で封鎖された牛歯象牙質断面のSEM写真である。
図2】実施例8において、象牙細管が露出された牛歯象牙質表面のSEM写真(a)と、象牙細管が本発明の象牙細管封鎖剤で封鎖された牛歯象牙質表面のSEM写真(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の象牙細管封鎖剤は、無水リン酸一水素カルシウム[CaHPO]粒子(以下、単にDCPAと略すことがある)、α−リン酸三カルシウム[α−Ca(PO]粒子、β−リン酸三カルシウム[β−Ca(PO]粒子(以下、単にβ-TCPと略すことがある)、非晶質リン酸カルシウム[Ca(PO・nHO]粒子、ピロリン酸カルシウム[Ca]粒子、ピロリン酸カルシウム2水和物[Ca・2HO]粒子、リン酸八カルシウム5水和物[Ca(PO・5HO]粒子(以下、単にOCPと略すことがある)、及びリン酸一水素カルシウム2水和物[CaHPO・2HO]粒子(以下、単にDCPDと略すことがある)からなる群から選択される少なくとも1種である難溶性リン酸カルシウム粒子(A)を30〜76重量%、リンを含まないカルシウム化合物(B)を0.001〜4重量%、及び水(C)を23〜69重量%含有する。これにより、露出した象牙質の象牙細管を封鎖することができるとともに、該封鎖後に周辺象牙質を再石灰化させることができる。その作用機序は必ずしも明らかではないが、以下のようなメカニズムが推定される。
【0037】
本発明で用いられる難溶性リン酸カルシウム粒子(A)は、pH7.0付近における溶解度がDCPD以下となるリン酸カルシウムより選択されており、水への溶解性は低い。そのため、本発明の象牙細管封鎖剤中の難溶性リン酸カルシウム粒子(A)は、ほとんど溶解せず粒子として存在する。リンを含まないカルシウム化合物(B)は、水(C)に溶解しカルシウムイオンを放出し、難溶性リン酸カルシウム粒子(A)の表面をわずかに溶解して、カルシウムイオンとリン酸イオンを放出させ、HApを生成する。本発明の象牙細管封鎖剤を露出した象牙質表面に適応すると、難溶性リン酸カルシウム粒子(A)はそのまま象牙細管内に侵入することが可能である。この時、リンを含まないカルシウム化合物(B)より供給されたカルシウムイオンと、難溶性リン酸カルシウム粒子(A)表面よりわずかに溶解したカルシウムイオンと、リン酸イオンが反応し、HApとして析出し、難溶性リン酸カルシウム粒子(A)同士を結合するようである。象牙細管に侵入した難溶性リン酸カルシウム粒子(A)は、前記析出したHApを介して象牙細管表面にも結合することにより、強固な塊状の封鎖物が生成するようである。この反応は、本発明の象牙細管封鎖剤を象牙質に適応後、数分の短時間の間に完了する。
【0038】
また、本発明の象牙細管封鎖剤は、口腔内のカルシウムイオン及びリン酸イオンにより数週間にわたり、該象牙細管封鎖剤の内部までHApに変化し、封鎖物を更に緻密化し、強固にすることができる。さらに、カルシウムイオン及びリン酸イオンの放出元となり、象牙細管の周囲の象牙質の歯質を強化するため、耐う蝕性も向上することができる。
【0039】
本発明の象牙細管封鎖剤は、難溶性リン酸カルシウム粒子(A)を30〜76重量%含有することが必要である。難溶性リン酸カルシウム粒子(A)の含有量が30重量%未満の場合、組成物中の不溶成分が少なすぎるため、象牙細管を充分封鎖することができなくなるおそれがある。難溶性リン酸カルシウム粒子(A)の含有量は、40重量%以上であることが好ましく、50重量%以上であることが更に好ましい。一方、難溶性リン酸カルシウム粒子(A)の含有量が76重量%を超える場合、液材成分の含有量が少なくなり、組成物を充分ペースト化できなくなるため、操作性が悪くなり、象牙細管内へ組成物が充分侵入できなくなるおそれがある。また、短時間でのHApの析出が阻害され塊状封鎖物が得られず、象牙細管を封鎖できなくなるおそれがある。難溶性リン酸カルシウム粒子(A)の含有量は、70重量%以下であることが好ましく、63重量%以下であることが更に好ましい。
【0040】
本発明で用いられる難溶性リン酸カルシウム粒子(A)の平均粒径は、0.8〜7.5μmであることが好ましい。平均粒径が0.8μm未満の場合、液材へ溶解してしまうと共に、象牙細管内に留まり難く、封鎖性が低下するおそれがある。更には液材との混合により得られるペーストの粘度が高くなり過ぎるおそれがあり、塗布性が低下し、その結果象牙細管封鎖性が低下するおそれがある。難溶性リン酸カルシウム粒子(A)の平均粒径は、1μm以上がより好ましい。一方、平均粒径が7.5μmを超える場合、難溶性リン酸カルシウム粒子(A)が象牙細管内に侵入することができず、封鎖性が低下するおそれがある。難溶性リン酸カルシウムは、水に溶け難いが、わずかには溶解するため、象牙細管の直径より若干大きい平均粒径を有する方が好ましい。難溶性リン酸カルシウム粒子(A)の平均粒径は、7μm以下がより好ましく、6μm以下が更に好ましく、4μm以下が特に好ましい。難溶性リン酸カルシウム粒子(A)の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定し、算出したものである。
【0041】
このような平均粒径を有する難溶性リン酸カルシウム粒子(A)の製造方法は特に限定されず、市販品を入手できるのであればそれを使用してもよいが、市販品を更に粉砕することが好ましい場合が多い。その場合、ボールミル、ライカイ機、ジェットミルなどの粉砕装置を使用することができる。また、難溶性リン酸カルシウム原料粉体をアルコールなどの液体の媒体と共にライカイ機、ボールミル等を用いて粉砕してスラリーを調製し、得られたスラリーを乾燥させることにより難溶性リン酸カルシウム粒子(A)を得ることもできる。このときの粉砕装置としては、ボールミルを用いることが好ましく、そのポット及びボールの材質としては、好適にはアルミナやジルコニアが採用される。また、希薄な難溶性リン酸カルシウムの溶液をスプレードライすることでナノレベルの粒径を持つ難溶性リン酸カルシウム粒子(A)を得ることができる。
【0042】
本発明で用いられるリンを含まないカルシウム化合物(B)としては特に限定されず、水酸化カルシウム[Ca(OH)]、酸化カルシウム[CaO]、塩化カルシウム[CaCl]、硝酸カルシウム[Ca(NO・nHO]、酢酸カルシウム[Ca(CHCO・nHO]、乳酸カルシウム[C10CaO]、クエン酸カルシウム[Ca(C・nHO]、メタケイ酸カルシウム[CaSiO]、ケイ酸二カルシウム(CaSiO)、ケイ酸三カルシウム(CaSiO)、及び炭酸カルシウム[CaCO]等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上が用いられる。中でも、HAp析出能の観点より、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、メタケイ酸カルシウム、ケイ酸二カルシウム、ケイ酸三カルシウムが好ましく、水酸化カルシウムがより好ましい。
【0043】
本発明の象牙細管封鎖剤は、リンを含まないカルシウム化合物(B)を0.001〜4重量%含有することが必要である。リンを含まないカルシウム化合物(B)の含有量が0.001重量%未満の場合、難溶性リン酸カルシウム粒子(A)上で、HApの析出がほとんど起こらないため、象牙細管内に侵入した難溶性リン酸カルシウム粒子(A)同士が結合することができず、象牙細管内で塊状封鎖物を形成することができない。そのため、一旦象牙細管内に侵入した難溶性リン酸カルシウム粒子(A)は、徐々に溶解し、流失してしまうため、象牙細管は再び開口してしまう。リンを含まないカルシウム化合物(B)は、0.001重量%以上の場合、難溶性リン酸カルシウム粒子(A)の表面を溶解し、HApを析出することが可能である。リンを含まないカルシウム化合物(B)の含有量は、好ましくは0.005重量%以上、より好ましくは0.01重量%以上である。リンを含まないカルシウム化合物(B)の含有量が4.0重量%を超える場合、組成物中の可溶成分が多くなりすぎるため、生成した封鎖物内に空隙が生じ、象牙細管を充分封鎖することができなくなるおそれがある。リンを含まないカルシウム化合物(B)の含有量が、3.8重量%以下であることがより好ましく、2重量%以下であることが更に好ましい。
【0044】
さらに本発明で用いられるリンを含まないカルシウム化合物(B)は、粉体のまま加えて配合してもよいし、液材として加えて配合してもよく、いずれの場合であっても象牙細管封鎖効果を有する。ただし、リンを含まないカルシウム化合物(B)は、粉体のまま加えて配合した方が、象牙細管内に侵入した後溶解し、難溶性リン酸カルシウム粒子(A)周辺のカルシウムイオン濃度が高くなり、該難溶性リン酸カルシウム粒子(A)表面を溶解し、HApを析出させ塊状封鎖物を生成し易くなるため好ましい。
【0045】
本発明で用いられる難溶性リン酸カルシウム粒子(A)及びリンを含まないカルシウム化合物(B)の総和のCa/P比は、0.9〜1.25が好ましい。通常Ca/P比は、HAp中のCa/P比と同等である1.67とするのが好ましいとされている。しかし、本発明の象牙細管封鎖剤では、難溶性リン酸カルシウム粒子(A)の表面のみが溶解し、リン酸イオンとカルシウムイオンが放出される。次いで、リンを含まないカルシウム化合物(B)由来のカルシウムイオンとともに、カルシウムイオンとリン酸イオンとが反応し、HApを析出させ、塊状封鎖物を生成する。カルシウムイオンが多くなりすぎると、難溶性リン酸カルシウム粒子(A)の溶解量が多くなり、塊状封鎖物に空隙が生じ、象牙細管を充分封鎖することができなくなるおそれがある。Ca/P比は、1.2以下であることがより好ましい。一方、より緻密な塊状封鎖物を得るという観点から、Ca/P比は、1以上であることがより好ましい。
【0046】
リンを含まないカルシウム化合物(B)の平均粒径は、0.3〜12μmであることが好ましい。平均粒径が0.3μm未満の場合、液材への溶解が早すぎて、象牙細管侵入前に組成物中のカルシウムイオン濃度が高くなるため、難溶性リン酸カルシウム表面のヒドロキシアパタイトへの変性が、象牙細管侵入前に始まるため、塊状封鎖物を生成しにくくなる。より好適には0.7μm以上である。さらに好適には2μm以上である。一方、リンを含まないカルシウム化合物(B)の平均粒径が12μmを超える場合、リンを含まないカルシウム化合物(B)が、液材へ溶解しにくくなる。また、象牙細管内に侵入することができず、封鎖性が低下するおそれがある。リンを含まないカルシウム化合物(B)の平均粒径は、より好適には9.0μm以下である。リンを含まないカルシウム化合物(B)の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定し、算出したものである。
【0047】
このような平均粒径を有するリンを含まないカルシウム化合物(B)の製造方法は、上述した難溶性リン酸カルシウム粒子(A)と同様に行うことができる。
【0048】
本発明の象牙細管封鎖剤は、難溶性リン酸カルシウム粒子(A)及びリンを含まないカルシウム化合物(B)に加えて、更に水(C)を23〜69重量%含有することが必要である。水(C)の含有量が23重量%未満の場合、液材成分の含有量が少なくなり、組成物を充分ペースト化できなくなるため、操作性が悪くなり、象牙細管内へ組成物が充分に侵入できなくなるおそれがある。また、短時間でのHApの析出が阻害され塊状封鎖物が得られず、象牙細管を封鎖できなくなるおそれがある。水(C)の含有量は、25重量%以上であることが好ましく、28重量%以上であることがより好ましい。一方、水(C)の含有量が69重量%を超える場合、不溶成分が少なすぎるため象牙細管を封鎖することができなくなる。水(C)の含有量は、60重量%以下であることが好ましく、50重量%以下であることがより好ましい。
【0049】
更に本発明の象牙細管封鎖剤は、リン酸のアルカリ金属塩(D)を含有させることが好ましい。リン酸のアルカリ金属塩(D)は、HApが析出する際、リン酸イオンを与えHApの析出速度を向上させる。難溶性リン酸カルシウム粒子(A)とリンを含まないカルシウム化合物(B)が象牙細管内に侵入し、塊状封鎖物を生成する際、リン酸のアルカリ金属塩(D)により放出されたリン酸イオンが存在すると、HAp析出速度が向上するため、塊状封鎖物がより緻密に生成され、象牙細管封鎖率を向上させることができる。本発明で使用するリン酸のアルカリ金属塩(D)としては特に限定されず、リン酸一水素二ナトリウム、リン酸一水素二カリウム、リン酸二水素一リチウム、リン酸二水素一ナトリウム、リン酸二水素一カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸三カリウム、ならびにこれらの水和物等が挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上が用いられる。中でも、安全性や純度の高い原料が容易に入手できる観点から、リン酸のアルカリ金属塩(D)がリン酸一水素二ナトリウム及び/又はリン酸二水素一ナトリウムであることが好ましい。
【0050】
リン酸のアルカリ金属塩(D)の含有量は、0.1〜25重量%であることが好ましい。リン酸のアルカリ金属塩(D)の配合量が0.1重量%未満の場合、HAp析出速度が遅くなるため、塊状封鎖物は生成されるが、象牙細管封鎖率が若干低下するおそれがある。リン酸のアルカリ金属塩(D)の含有量は、0.3重量%以上がより好ましく、1重量%以上であることが更に好ましい。一方、リン酸のアルカリ金属塩(D)の含有量が25重量%を超える場合、組成物中の可溶成分が多くなりすぎるため、生成した象牙細管封鎖物内に空隙を生じ、象牙細管を充分封鎖することができなくなるおそれがある。リン酸のアルカリ金属塩(D)の含有量は、20重量%以下であることがより好ましく、15重量%以下であることが更に好ましく、8重量%以下であることが特に好ましい。
【0051】
さらに本発明で用いられるリン酸のアルカリ金属塩(D)は、粉体のまま加えて配合してもよいし、液材として加えて配合してもよく、いずれの場合であっても象牙細管封鎖効果を有する。ただし、リン酸のアルカリ金属塩(D)は、粉体のまま加えて配合した方が、象牙細管内に侵入した後、溶解して、難溶性リン酸カルシウム粒子(A)周辺のリン酸イオン濃度が高くなる。その結果、HAp析出速度が向上するため、塊状封鎖物がより緻密となり、象牙質透過抑制率が向上するため好ましい。
【0052】
リン酸のアルカリ金属塩(D)の平均粒径は、1〜15μmであることが好ましい。平均粒径が1μm未満の場合、液材への溶解が早すぎて、象牙細管侵入前に組成物中のリン酸イオン濃度が高くなるため、難溶性リン酸カルシウム表面のヒドロキシアパタイトの変性が、象牙細管侵入前に始まるため、塊状封鎖物を生成しにくくなる。更には、リン酸のアルカリ金属塩粒子同士の二次凝集が発生し、同時に混合する他の粒子との分散性が低下する。より好適には2m以上である。一方、平均粒径が15μmを超える場合、リン酸のアルカリ金属塩(D)が液材へ溶解しにくくなり、また、象牙細管内に侵入することができず、封鎖性が低下する。リン酸のアルカリ金属塩は水に溶解するため、象牙細管の直径より大きい平均粒径を有する方が好ましい。リン酸のアルカリ金属塩(D)の平均粒径は、より好適には8μm以下である。リン酸のアルカリ金属塩(D)の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定し、算出したものである。
【0053】
このような平均粒径を有するリン酸のアルカリ金属塩(D)の製造方法は、上述した難溶性リン酸カルシウム粒子(A)と同様に行うことができる。
【0054】
本発明の象牙細管封鎖剤は、更にフッ素化合物(E)を含有することが好ましい。このことにより、生成した封鎖物に耐酸性を付与させるとともに周辺象牙質の再石灰化を促進させることが可能となる。本発明で用いられるフッ素化合物(E)としては特に限定されず、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化アンモニウム、フッ化リチウム、フッ化セシウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化銅、フッ化ジルコニウム、フッ化アルミニウム、フッ化スズ、モノフルオロリン酸ナトリウム、モノフルオロリン酸カリウム、フッ化水素酸、フッ化チタンナトリウム、フッ化チタンカリウム、ヘキシルアミンハイドロフルオライド、ラウリルアミンハイドロフルオライド、グリシンハイドロフルオライド、アラニンハイドロフルオライド、フルオロシラン類、フッ化ジアミン銀等が挙げられる。中でも耐酸性封鎖物生成効果が高い観点からフッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化スズが好適に用いられる。
【0055】
本発明で用いられるフッ素化合物(E)の使用量は特に限定されず、フッ素化合物(E)の換算フッ化物イオンを0.01〜3重量%含むことが好ましい。フッ素化合物(E)の換算フッ化物イオンの使用量が0.01重量%未満の場合、耐酸性封鎖物生成効果、並びに再石灰化を促進する効果が低下するおそれがあり、0.05重量%以上であることがより好ましい。一方、フッ素化合物(E)の換算フッ化物イオンの使用量が3重量%を超える場合、安全性が損なわれるおそれがあり、1重量%以下であることがより好ましい。
【0056】
本発明の象牙細管封鎖剤は、更にシリカ粒子(F)を含有することが好ましい。これにより、得られる本発明の象牙細管封鎖剤の操作性を向上させることができる。かかる操作性向上の観点から一次粒子径が0.001〜0.1μmのシリカ粒子(F)が好ましく使用される。市販品としては、「アエロジルOX50」、「アエロジル50」、「アエロジル200」、「アエロジル380」、「アエロジルR972」、「アエロジル130」(以上、いずれも日本アエロジル社製、商品名)が例示される。
【0057】
本発明で用いられるシリカ粒子(F)の使用量は特に限定されず、シリカ粒子(F)を0.1〜10重量%含むことが好ましい。シリカ粒子(F)の含有量が0.1重量%未満の場合、操作性が低下するおそれがあり、0.3重量%以上であることがより好ましい。一方、シリカ粒子(F)の含有量が10重量%を超える場合、粉体のかさ密度が低下しすぎることで操作性が低下するばかりか、ペーストとした際の粘度が上昇するおそれがあり、5重量%以下であることがより好ましい。
【0058】
本発明の象牙細管封鎖剤は、さらにシリカ粒子(F)以外のフィラーを配合してもよい。フィラーは、1種単独を配合してもよく、複数種類を組み合わせて配合してもよい。フィラーとしては、カオリン、クレー、雲母、マイカ等のシリカを基材とする鉱物;シリカを基材とし、Al23、B23、TiO2、ZrO2、BaO、La23、SrO、ZnO、CaO、P25、Li2O、Na2Oなどを含有するセラミックス及びガラス類が例示される。ガラス類としては、ランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス、ソーダガラス、リチウムボロシリケートガラス、亜鉛ガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、ホウ珪酸ガラス、バイオガラスが好適に用いられる。結晶石英、アルミナ、酸化チタン、酸化イットリウム、ジルコニア、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、フッ化イッテルビウムも好適に用いられる。
【0059】
本発明の象牙細管封鎖剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で難溶性リン酸カルシウム粒子(A)、リンを含まないカルシウム化合物(B)、水(C)、リン酸の金属塩(D)、フッ素化合物(E)、及びシリカ粒子(F)以外の成分を含有しても構わない。例えば、可溶性リン酸カルシウムも必要に応じて配合することができる。可溶性リン酸カルシウムの具体例としては、リン酸四カルシウム、無水リン酸二水素カルシウム、酸性ピロリン酸カルシウムが挙げられる。また他にも、増粘剤を配合することができる。増粘剤の具体例としては、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリグルタミン酸、ポリグルタミン酸塩、ポリアスパラギン酸、ポリアスパラギン酸塩、ポリLリジン、ポリLリジン塩、セルロース以外のデンプン、アルギン酸、アルギン酸塩、カラジーナン、グアーガム、キタンサンガム、セルロースガム、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩、ペクチン、ペクチン塩、キチン、キトサン等の多糖類、アルギン酸プロピレングリコールエステル等の酸性多糖類エステル、またコラーゲン、ゼラチン及びこれらの誘導体などのタンパク質類等の高分子などから選択される1つ又は2つ以上が挙げられるが、水への溶解性及び粘性の面からはカルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸、アルギン酸塩、キトサン、ポリグルタミン酸、ポリグルタミン酸塩から選択される少なくとも1つが好ましい。増粘剤は、粉体に配合してもよいし液材に配合してもよく、また混合中のペーストに配合してもよい。
【0060】
また、必要に応じて、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジグリセリン等の多価アルコール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール等の糖アルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテル、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、カンゾウ抽出液、サッカリン、サッカリンナトリウム等の人工甘味料などを加えてもよい。更に、薬理学的に許容できるあらゆる薬剤等を配合することができる。セチルピリジニウムクロリド等に代表される抗菌剤、消毒剤、抗癌剤、抗生物質、アクトシン、PEG1などの血行改善薬、bFGF、PDGF、BMPなどの増殖因子、骨芽細胞、象牙芽細胞、さらに未分化な骨髄由来幹細胞、胚性幹(ES)細胞、線維芽細胞等の分化細胞を遺伝子導入により脱分化・作製した人工多能性幹(iPS:induced Pluripotent Stem)細胞ならびにこれらを分化させた細胞など硬組織形成を促進させる細胞などを配合させることができる。
【0061】
本発明では、難溶性リン酸カルシウム粒子(A)、リンを含まないカルシウム化合物(B)、及び水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストを混合することにより、ペースト状の象牙細管封鎖剤を得ることができる。水(C)を含むこのペースト状の象牙細管封鎖剤は、直ちにHApに転化する反応が起こり始めるため、医療現場で使用する直前に混合して調製することが好ましい。混合操作としては特に限定されず、手混合、スタティックミキサーを用いた混合等が好ましく採用される。
【0062】
本発明において、象牙細管封鎖剤を得る方法は特に限定されない。難溶性リン酸カルシウム粒子(A)及びリンを含まないカルシウム化合物(B)を含む粉体又は非水系ペーストに、水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストを加えて混合することによってペースト状の象牙細管封鎖剤を得ることができる。難溶性リン酸カルシウム粒子(A)を含む粉体又は非水系ペーストと、リンを含まないカルシウム化合物(B)を含む粉体又は非水系ペーストと、水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストとを混合することによってもペースト状の象牙細管封鎖剤を得ることができる。リンを含まないカルシウム化合物(B)を含む粉体又は非水系ペーストに、水(C)を主成分とし難溶性リン酸カルシウム粒子(A)を含む液体又は水系ペーストとを混合することによってもペースト状の象牙細管封鎖剤を得ることができる。難溶性リン酸カルシウム粒子(A)を含む粉体又は非水系ペーストに、水(C)を主成分としリンを含まないカルシウム化合物(B)を含む液体又は水系ペーストとを混合することによってもペースト状の象牙細管封鎖剤を得ることができる。水(C)を主成分とし難溶性リン酸カルシウム粒子(A)を含む液体又は水系ペーストと、水(C)を主成分としリンを含まないカルシウム化合物(B)を含む液体又は水系ペーストとを混合することによってもペースト状の象牙細管封鎖剤を得ることができる。
【0063】
また、リン酸のアルカリ金属塩(D)の混合方法については特に限定されない。難溶性リン酸カルシウム粒子(A)、リンを含まないカルシウム化合物(B)及びリン酸のアルカリ金属塩(D)を含む粉体又は非水系ペーストに、水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストを加えて混合することによってペースト状の象牙細管封鎖剤を得ることができる。難溶性リン酸カルシウム粒子(A)及びリンを含まないカルシウム化合物(B)を含む粉体又は非水系ペーストに、水(C)を主成分としリン酸のアルカリ金属塩(D)を含む液体又は水系ペーストを加えて混合することによってペースト状の象牙細管封鎖剤を得ることができる。難溶性リン酸カルシウム粒子(A)及びリン酸のアルカリ金属塩(D)を含む粉体又は非水系ペーストと、リンを含まないカルシウム化合物(B)を含む粉体又は非水系ペーストと、水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストとを混合することによってもペースト状の象牙細管封鎖剤を得ることができる。難溶性リン酸カルシウム粒子(A)を含む粉体又は非水系ペーストと、リンを含まないカルシウム化合物(B)及びリン酸のアルカリ金属塩(D)を含む粉体又は非水系ペーストと、水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストとを混合することによってもペースト状の象牙細管封鎖剤を得ることができる。難溶性リン酸カルシウム粒子(A)を含む粉体又は非水系ペーストと、リンを含まないカルシウム化合物(B)を含む粉体又は非水系ペーストと、水(C)を主成分としリン酸のアルカリ金属塩(D)を含む液体又は水系ペーストとを混合することによってもペースト状の象牙細管封鎖剤を得ることができる。リンを含まないカルシウム化合物(B)及びリン酸のアルカリ金属塩(D)を含む粉体又は非水系ペーストに、水(C)を主成分とし難溶性リン酸カルシウム粒子(A)を含む液体又は水系ペーストとを混合することによってもペースト状の象牙細管封鎖剤を得ることができる。リンを含まないカルシウム化合物(B)を含む粉体又は非水系ペーストに、水(C)を主成分とし、難溶性リン酸カルシウム粒子(A)とリン酸のアルカリ金属塩(D)を含む液体又は水系ペーストとを混合することによってもペースト状の象牙細管封鎖剤を得ることができる。難溶性リン酸カルシウム粒子(A)及びリン酸のアルカリ金属塩(D)を含む粉体又は非水系ペーストに、水(C)を主成分としリンを含まないカルシウム化合物(B)を含む液体又は水系ペーストとを混合することによってもペースト状の象牙細管封鎖剤を得ることができる。難溶性リン酸カルシウム粒子(A)を含む粉体又は非水系ペーストに、水(C)を主成分とし、リンを含まないカルシウム化合物(B)及びリン酸のアルカリ金属塩(D)を含む液体又は水系ペーストとを混合することによってもペースト状の象牙細管封鎖剤を得ることができる。水(C)を主成分とし難溶性リン酸カルシウム粒子(A)を含む液体又は水系ペーストと、水(C)を主成分としリンを含まないカルシウム化合物(B)を含む液体又は水系ペーストと、リン酸のアルカリ金属塩(D)を含む粉体又は非水系ペーストとを混合することによってもペースト状の象牙細管封鎖剤を得ることができる。水(C)を主成分とし難溶性リン酸カルシウム粒子(A)及びリン酸のアルカリ金属塩(D)を含む液体又は水系ペーストと、水(C)を主成分としリンを含まないカルシウム化合物(B)を含む液体又は水系ペーストとを混合することによってもペースト状の象牙細管封鎖剤を得ることができる。水(C)を主成分とし難溶性リン酸カルシウム粒子(A)を含む液体又は水系ペーストと、水(C)を主成分としリンを含まないカルシウム化合物(B)及びリン酸のアルカリ金属塩(D)を含む液体又は水系ペーストとを混合することによってもペースト状の象牙細管封鎖剤を得ることができる。
【0064】
ここで、良好な操作性及びより緻密な塊状封鎖物を得る観点から、難溶性リン酸カルシウム粒子(A)及びリンを含まないカルシウム化合物(B)を含む粉体又は非水系ペーストに、水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストを加えて混合することが好ましい。難溶性リン酸カルシウム粒子(A)を含む粉体又は非水系ペーストに、水(C)を主成分としリンを含まないカルシウム化合物(B)を含む液体又は水系ペーストを加えて混合することが好ましい。リンを含まないカルシウム化合物(B)を含む粉体又は非水系ペーストに、水(C)を主成分とし難溶性リン酸カルシウム粒子(A)を含む液体又は水系ペーストを加えて混合することが好ましい。水(C)を主成分とし難溶性リン酸カルシウム粒子(A)を含む液体又は水系ペーストに、水(C)を主成分としリンを含まないカルシウム化合物(B)を含む液体又は水系ペーストを加えて混合することが好ましい。
【0065】
これらの方法は、使用直前に混合して調製する際の操作が簡便である。非水系ペーストに使用される水以外の溶媒としては特に限定されず、例えば、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジグリセリン等の多価アルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテルなどが例示される。また、上記説明した象牙細管封鎖剤の製造方法において、リンを含まないカルシウム化合物(B)が粉体又は非水系ペーストに含まれる場合、リンを含まないカルシウム化合物(B)としては、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、メタケイ酸カルシウム、ケイ酸二カルシウム、並びにケイ酸三カルシウムが好適に用いられる。
【0066】
ここで、水(C)の存在下では、難溶性リン酸カルシウム粒子(A)及びリンを含まないカルシウム化合物(B)を含有する象牙細管封鎖剤が速やかにHApに転化する反応が起こるため、難溶性リン酸カルシウム粒子(A)及びリンを含まないカルシウム化合物(B)と、水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストとを予め混合して保存しておくことができない。難溶性リン酸カルシウム粒子(A)及びリンを含まないカルシウム化合物(B)を含む粉体又は非水系ペーストと、水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストとからなる象牙細管封鎖剤キットであることが本発明の実施態様の一つである。難溶性リン酸カルシウム粒子(A)を含む粉体又は非水系ペーストと、リンを含まないカルシウム化合物(B)を含む粉体又は非水系ペーストと、水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストとからなる象牙細管封鎖剤キットであることが本発明の実施態様の一つである。難溶性リン酸カルシウム粒子(A)を含む粉体又は非水系ペーストと、水(C)を主成分としリンを含まないカルシウム化合物(B)を含む液体又は水系ペーストとからなる象牙細管封鎖剤キットであることが本発明の実施態様の一つである。水(C)を主成分とし難溶性リン酸カルシウム粒子(A)を含む液体又は水系ペーストと、水(C)を主成分としリンを含まないカルシウム化合物(B)を含む液体又は水系ペーストとからなる象牙細管封鎖剤キットであることが本発明の実施態様の一つである。リンを含まないカルシウム化合物(B)を含む粉体又は非水系ペーストと、水(C)を主成分とし難溶性リン酸カルシウム粒子(A)を含む液体又は水系ペーストとからなる象牙細管封鎖剤キットであることが本発明の実施態様の一つである。
【0067】
本発明の象牙細管封鎖剤において、リン酸のアルカリ金属塩(D)を含有する場合、難溶性リン酸カルシウム粒子(A)、リンを含まないカルシウム化合物(B)、及びリン酸のアルカリ金属塩(D)を含む粉体又は非水系ペーストと、水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストとからなる象牙細管封鎖剤キットであることが本発明の実施態様の一つである。難溶性リン酸カルシウム粒子(A)及びリン酸のアルカリ金属塩(D)を含む粉体又は非水系ペーストと、リンを含まないカルシウム化合物(B)を含む粉体又は非水系ペーストと、水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストとからなる象牙細管封鎖剤キットであることが本発明の実施態様の一つである。難溶性リン酸カルシウム粒子(A)を含む粉体又は非水系ペーストと、リンを含まないカルシウム化合物(B)及びリン酸のアルカリ金属塩(D)を含む粉体又は非水系ペーストと、水(C)を主成分とする液体又は水系ペーストとからなる象牙細管封鎖剤キットであることが本発明の実施態様の一つである。難溶性リン酸カルシウム粒子(A)及びリン酸のアルカリ金属塩(D)を含む粉体又は非水系ペーストと、水(C)を主成分としリンを含まないカルシウム化合物(B)を含む液体又は水系ペーストとからなる象牙細管封鎖剤キットであることが本発明の実施態様の一つである。水(C)を主成分とし難溶性リン酸カルシウム粒子(A)を含む液体又は水系ペーストと、水(C)を主成分としリンを含まないカルシウム化合物(B)を含む液体又は水系ペーストと、リン酸のアルカリ金属塩(D)を含む粉体又は非水系ペーストとからなる象牙細管封鎖剤キットであることが本発明の実施態様の一つである。リンを含まないカルシウム化合物(B)及びリン酸のアルカリ金属塩(D)を含む粉体又は非水系ペーストと、水(C)を主成分とし難溶性リン酸カルシウム粒子(A)を含む液体又は水系ペーストとからなる象牙細管封鎖剤キットであることが本発明の実施態様の一つである。
【0068】
これらの方法は、使用直前に混合して調製する際の操作が簡便である。非水系ペーストに使用される水(C)以外の溶媒としては特に限定されず、例えば、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジグリセリン等の多価アルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテルなどが例示される。また、上記説明した象牙細管封鎖剤キットにおいて、リンを含まないカルシウム化合物(B)が粉体又は非水系ペーストに含まれる場合、リンを含まないカルシウム化合物(B)としては、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、メタケイ酸カルシウム、ケイ酸二カルシウム、並びにケイ酸三カルシウムが好適に用いられる。
【0069】
本発明では、粉体及び/又は非水系ペーストと、液体及び/又は水系ペーストを混合し、象牙細管封鎖剤を得ることができる。粉体及び/又は非水系ペーストと、液体及び/又は水系ペーストの混合比(P/L)は、0.5〜3であることが好ましい。P/L比が、0.5未満の場合、粉体成分の含有量が少なくなり、象牙細管を封鎖することができなくなるおそれがある。P/L比は、0.6以上であることがより好ましく、0.8以上であることがさらに好ましい。一方、P/L比が3を超える場合、液体成分が少なすぎるため、組成物を充分ペースト化できなくなるため、操作性が悪くなり、象牙細管内へ組成物が充分侵入できなくなるおそれがある。また、短時間でのHApの析出が阻害され塊状封鎖物が得られず、象牙細管を封鎖できなくなるおそれがある。P/L比は、2.2以下であることがより好ましく、2以下であることがさらに好ましい。難溶性リン酸カルシウム粒子(A)は、液体や水系ペーストに配合されても、ほとんど溶解せず粉体として存在するため、難溶性リン酸カルシウム粒子(A)は、常に粉体(P)として算出する。
【0070】
本発明の象牙細管封鎖剤は、該象牙細管封鎖剤で厚さ700μmの牛歯ディスクの片面を処置した際の象牙質透過抑制率が下記式(I)を満たすことが好ましい。下記式(I)を満たす本発明の象牙細管封鎖剤は、露出した象牙質の象牙細管を封鎖することができるとともに、周辺象牙質を再石灰化させることができる。このことにより、象牙細管の開口により生じていた知覚過敏症の治療が可能となり、また、象牙細管を封鎖した象牙細管封鎖剤が、周囲の象牙質の歯質を強化するため、耐う蝕性を付与することもできる。
[1−(象牙細管を封鎖した牛歯ディスクの透過量)/(象牙細管の封鎖前の牛歯ディスクの透過量)]×100≧70・・・(I)
上記象牙質透過抑制率は75%以上であることがより好ましく、80%以上であることが更に好ましく、85%以上であることが特に好ましい。
【0071】
本発明の象牙細管封鎖剤は、歯面処理材及び歯磨材等の各種用途に好ましく用いられる。すなわち、本発明の好適な実施態様は、象牙細管封鎖剤からなる歯面処理材、及び象牙細管封鎖剤からなる歯磨材である。また、本発明の象牙細管封鎖剤によって、上記説明したように、象牙細管の開口により生じていた知覚過敏症の治療が可能であり、かかる観点から、象牙細管封鎖剤からなる象牙質知覚過敏抑制材が本発明の好適な実施態様である。水の存在下では、難溶性リン酸カルシウム粒子(A)及びリンを含まないカルシウム化合物(B)が速やかにHApに転化する反応が起こるため、歯面処理材などのように使用直前に液剤と適宜混合するような態様であることが好ましい。したがって、象牙細管封鎖剤からなる歯面処理材が本発明のより好適な実施態様である。
【0072】
本発明の象牙細管封鎖剤は、象牙細管内へ組成物を到達させるために、露出象牙質に組成物を塗布した後、マイクロブラシ、綿棒、あるいはラバーカップ等で塗布した組成物を象牙細管内へすり込む操作を行うことが好ましい。すり込む操作は、マイクロブラシ等で象牙質表面を30秒程度擦るだけでよく、それにより象牙細管内に約10μmの深さで、塊状封鎖物が生成される。露出象牙質に組成物を塗布した後、数分間静置しただけでは、直径約2μmの象牙細管内に組成物が侵入することは無く、象牙質表面に薄くヒドロキシアパタイト層が形成されるのみであり、形成されたヒドロキシアパタイト層も、歯質との結合が弱いため、簡単にはがれてしまうことを本発明者らは確認している。したがって、象牙細管内にすり込むことにより象牙細管を封鎖させるために用いられるものである象牙細管封鎖剤であることが本発明の好適な実施態様である。また、このような象牙細管封鎖剤を象牙質表面にすり込むことによる象牙質知覚過敏抑制方法も本発明の好適な実施態様である。
【0073】
本発明は、象牙質表面に歯科用接着材組成物を塗布する前に、予め象牙細管封鎖剤により象牙細管が封鎖されるため、疼痛、知覚過敏等を抑制することが可能になるとともに、水を用いた擦り洗いにより象牙質表面に付着した固体成分を除去することができるため、象牙質表面に対する歯科用接着材組成物の接着性も良好となる。したがって、象牙細管封鎖剤を象牙質表面にすり込んだ後に、水を用いて該象牙質表面を擦り洗うことを特徴とする歯科処置方法を提供することができる。好適には、象牙質表面にすり込んで象牙細管内に塊状封鎖物を形成する象牙細管封鎖剤を用いた歯科処置方法であって、前記象牙細管封鎖剤を象牙質表面にすり込んで象牙細管内に塊状封鎖物を形成させた後に、水を用いて擦り洗うことにより象牙質表面に付着した固体成分を除去することを特徴とする歯科処置方法を提供することができる。また、本発明は、象牙細管封鎖剤を象牙質表面にすり込んだ後に、水を用いて該象牙質表面を擦り洗ってから歯科用接着材組成物を塗布して硬化させることを特徴とする歯科処置方法を提供することができる。好適には、象牙質表面に塗布して象牙細管内に塊状封鎖物を形成させる象牙細管封鎖剤を用いた歯科処置方法であって、前記象牙細管封鎖剤を象牙質表面にすり込んで象牙細管内に塊状封鎖物を形成させた後に、水を用いて擦り洗うことにより象牙質表面に付着した固体成分を除去してから、固体成分が除去された該象牙質表面に歯科用接着材組成物を塗布して硬化させることを特徴とする歯科処置方法を提供することができる。本発明の象牙細管封鎖剤は、水を用いて象牙質表面に付着した固体成分を除去し易いことが必要である。象牙細管封鎖剤の速硬性が高くなりすぎると、象牙質表面に強固に固着し、水を用いた擦り洗いにより除去し難くなるため好ましくない。
【実施例】
【0074】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。本実施例において難溶性リン酸カルシウム粒子(A)、リンを含まないカルシウム化合物(B)及びリン酸のアルカリ金属塩(D)粒子の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製「SALD−2100型」)を用いて測定し、測定の結果から算出されるメディアン径を平均粒径とした。
【0075】
[象牙質透過抑制率評価]
(1)象牙質透過抑制率評価用牛歯の作製
健全牛歯切歯の頬側象牙質から#80、#1000研磨紙を用いて回転研磨機によりトリミングし、直径約1.5cm、厚さ0.9mmの象牙質ディスクを作製した。この牛歯ディスク表面をさらにラッピングフィルム(#1200、#3000、#8000, 住友スリーエム社製)を用いて研磨し、厚さ0.7mmまで研磨し、平滑とした。この牛歯ディスクを、0.5M EDTA溶液(和光純薬工業株式会社製)を5倍に希釈した溶液に180秒間浸漬し、約30秒間蒸留水中で洗浄した。更に10%次亜塩素酸ナトリウム溶液(ネオクリーナー「セキネ」、ネオ製薬工業(株))を120秒間浸漬した後、約30分間蒸留水で洗浄することで象牙質透過抑制率評価に用いる牛歯ディスクを調製した。
【0076】
(2)象牙質透過抑制率評価(初期)試料の作製
上記牛歯ディスクの頬側象牙質表面に対して、スパーテルを用いて上記で調製した象牙細管封鎖剤約0.1gを付着させ、続いてマイクロブラシ(MICROBRUSH INTERNATIONAL製「REGULAR SIZE(2.0mm),MRB400」)を用いて、象牙質処理面中央部における直径5mmの象牙質に対して30秒間すり込みを行った。その後、象牙質表面のペーストを蒸留水で除去し、直ちに象牙質透過抑制率評価試験を実施した(n=5)。
【0077】
[擬似唾液の調製]
塩化ナトリウム(8.77g、150mmol)、リン酸二水素一カリウム(122mg、0.9mmol)、塩化カルシウム(166mg、1.5mmol)、Hepes(4.77g、20mmol)をそれぞれ秤量皿に量り取り、約800mlの蒸留水を入れた2000mlビーカーに攪拌下に順次加えた。溶質が完全に溶解したことを確認した後、この溶液の酸性度をpHメータ(F55、堀場製作所)で測定しながら、10%水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、pH7.0とした。次にこの溶液を1000mlメスフラスコに加えてメスアップし、擬似唾液1000mlを得た。
【0078】
(3)象牙質透過抑制率評価(長期)試料の作製
上記牛歯ディスクの頬側象牙質表面に対して、スパーテルを用いて上記で調製した象牙細管封鎖剤約0.1gを付着させ、続いてマイクロブラシ(MICROBRUSH INTERNATIONAL製「REGULAR SIZE(2.0mm),MRB400」)を用いて、象牙質処理面中央部における直径5mmの象牙質に対して30秒間すり込みを行った。その後、象牙質表面のペーストを蒸留水で除去し、擬似唾液中に2週間浸漬した後、象牙質透過抑制率評価試験を実施した(n=5)。
【0079】
(4)象牙質透過抑制率評価試験
象牙質透過抑制率の測定には、Pashleyらの方法(D.H.PASHLEY et al.,J.Dent.Res.65:417−420,1986.;K.C.Y.TAY et al.,J.Endod.33:1438−1443,2007.)に準じる方法を用いて実施した。同様の装置を設置し、上記で得た象牙細管封鎖処置を行った牛歯ディスクを歯髄からエナメル質の方向に液が透過する様に分割可能なチャンバー治具中に設置、固定した。Phosphate−buffered saline(Dulbecco’s PBS, Grand Island Biological Company, Grand Island, NY)の圧力を加える象牙質表面は、Oリングを用いて表面積を78.5mm(直径5mm)に規格化し、10psi(69kPa)で加圧し、24時間経過した際の透過量を測定した。また、同様の操作で上記の象牙細管封鎖処置を行う前の同一の牛歯ディスクの透過量測定結果から、下記式を用いて象牙質透過抑制率を算出した。
象牙質透過抑制率(%)=[1−(象牙細管封鎖した牛歯ディスクの透過量)/(象牙細管封鎖前の牛歯ディスクの透過量)]×100
【0080】
[難溶性リン酸カルシウム粒子(A)]
DCPA:10.3μm 無水リン酸一水素カルシウム〔CaHPO〕 和光純薬工業株式会社製
DCPD:5.1μm リン酸一水素カルシウム2水和物〔CaHPO・2HO〕 太平化学産業株式会社製
β−TCP:1.0μm β−リン酸三カルシウム〔β−Ca(PO〕 太平化学産業株式会社製
OCP:4.8μm リン酸八カルシウム5水和物〔Ca(PO・5HO〕
ピロリン酸Ca:15.0μm ピロリン酸カルシウム〔Ca〕 太平化学産業株式会社製
[リンを含まないカルシウム化合物(B)]
Ca(OH):14.5μm 水酸化カルシウム 河合石灰工業株式会社製
CaO:10.0μm 酸化カルシウム 和光純薬工業株式会社製
Ca(NO:硝酸カルシウム 和光純薬工業株式会社製
CaCl:塩化カルシウム 和光純薬工業株式会社製
CaSiO:メタケイ酸カルシウム 和光純薬工業社製
[リン酸のアルカリ金属塩(D)]
NaHPO:リン酸一水素二ナトリウム 和光純薬工業株式会社製
NaHPO:リン酸二水素一ナトリウム 和光純薬工業株式会社製
[フッ素化合物(E)]
NaF:フッ化ナトリウム 和光純薬工業株式会社製
MFP:モノフルオロリン酸ナトリウム 和光純薬工業株式会社製
[シリカ粒子(F)]
Ar130:「アエロジル130(商品名)」日本アエロジル社製
[その他]
HAp:2.5μm ヒドロキシアパタイト(HAP−200) 太平化学産業株式会社製
MCPA:7.0μm 無水リン酸二水素カルシウム 太平化学産業株式会社製
【0081】
[各粉体の調製]
DCPA:平均粒径1.1μmの調製
DCPA:平均粒径1.1μmは、DCPA:10.3μm 50g、95%エタノール(和光純薬工業株式会社製「Ethanol(95)」)240g、及び直径が10mmのジルコニアボール480gを1000mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「HD−B−104 ポットミル」)中に加え、1500rpmの回転速度で15時間湿式振動粉砕を行うことで得られたスラリーを、ロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間乾燥させることで得た。平均粒径0.5μm、0.8μm、5.2μm、ならびに7.5μmのDCPAは、上記方法と同様にし、粉砕時間をそれぞれ、40時間、20時間、7時間、並びに3時間とすることにより得た。
【0082】
DCPD:平均粒径1.1μmの調製
DCPD:5.1μm50g、95%エタノール(和光純薬工業株式会社製「Ethanol(95)」)240g、及び直径が10mmのジルコニアボール480gを1000mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「HD−B−104 ポットミル」)中に加え、1500rpmの回転速度で10時間湿式振動粉砕を行うことで得られたスラリーを、ロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間乾燥させることで得た。
【0083】
OCP:1.5μmの調製
酢酸カルシウム(和光純薬工業株式会社製)の0.04M水溶液を250ml、0.04M NaHPO水溶液250mlを調製した。67.5℃の0.04M NaHPO水溶液を400rpmでマグネチックスターラーで撹拌しながら、0.04M酢酸カルシウム水溶液を250ml/時間で滴下し、OCPの結晶を得た。得られた結晶を、60℃で10時間真空乾燥後、約500μmの結晶を得た。上記で得たOCP 50g、99.5%エタノール(和光純薬工業株式会社製「Ethanol,Dehydrated(99.5)」)240g、及び直径が10mmのジルコニアボール480gを1000mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「HD−B−104 ポットミル」)中に加え、1500rpmの回転速度で15時間湿式振動粉砕を行うことで得られたスラリーを、ロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間真空乾燥することで、OCP:1.5μmを得た。
【0084】
ピロリン酸Ca:0.9μmの調製
ピロリン酸Ca:平均粒径0.9μmは、ピロリン酸Ca:15.0μm 50g、99.5%エタノール(和光純薬工業株式会社製「Ethanol,Dehydrated(99.5)」)240g、及び直径が10mmのジルコニアボール480gを1000mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「HD−B−104 ポットミル」)中に加え、1500rpmの回転速度で15時間湿式振動粉砕を行うことで得られたスラリーを、ロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間真空乾燥することで得た。
【0085】
Ca(OH):平均粒径1.0μmの調製
Ca(OH):平均粒径1.0μmは、Ca(OH):14.5μm50g、99.5%エタノール(和光純薬工業株式会社製「Ethanol,Dehydrated(99.5)」)240g、及び直径が10mmのジルコニアボール480gを1000mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「HD−B−104 ポットミル」)中に加え、1500rpmの回転速度で15時間湿式振動粉砕を行うことで得られたスラリーを、ロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間乾燥させることで得た。平均粒径0.5μm、平均粒径5.2μm、並びに10.0μmのCa(OH)は、上記方法と同様にし、粉砕時間をそれぞれ、20時間、7時間、並びに3時間とすることにより得た。
【0086】
Ca(NO:5.0μmの調製
Ca(NO:平均粒径5.0μmは、Ca(NO 50g、99.5%エタノール(和光純薬工業株式会社製「Ethanol,Dehydrated(99.5)」)240g、及び直径が10mmのジルコニアボール480gを1000mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「HD−B−104 ポットミル」)中に加え、1500rpmの回転速度で10時間湿式振動粉砕を行うことで得られたスラリーを、ロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間真空乾燥することで得た。
【0087】
CaCl:5.0μmの調製
CaCl:平均粒径5.0μmは、CaCl 50g、99.5%エタノール(和光純薬工業株式会社製「Ethanol,Dehydrated(99.5)」)240g、及び直径が10mmのジルコニアボール480gを1000mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「HD−B−104 ポットミル」)中に加え、1500rpmの回転速度で10時間湿式振動粉砕を行うことで得られたスラリーを、ロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間真空乾燥することで得た。
【0088】
CaSiO:5.0μmの調製
CaSiO:平均粒径5.0μmは、CaSiO 50g、99.5%エタノール(和光純薬工業株式会社製「Ethanol,Dehydrated(99.5)」)240g、及び直径が10mmのジルコニアボール480gを1000mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「HD−B−104 ポットミル」)中に加え、1500rpmの回転速度で15時間湿式振動粉砕を行うことで得られたスラリーを、ロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間真空乾燥することで得た。
【0089】
CaO:5.0μmの調製
CaO:平均粒径2.0μmは、CaO:10.0μm 50g、99.5%エタノール(和光純薬工業株式会社製「Ethanol,Dehydrated(99.5)」)240g、及び直径が10mmのジルコニアボール480gを1000mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「HD−B−104 ポットミル」)中に加え、1500rpmの回転速度で10時間湿式振動粉砕を行うことで得られたスラリーを、ロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間真空乾燥することで得た。
【0090】
NaHPO:4.6μmの調製
NaHPO:平均粒径4.6μmは、NaHPOをナノジェットマイザー(NJ−100型 アイシンナノテクノロジー社製)で、粉砕圧力条件を原料供給圧:0.7MPa/粉砕圧:0.7MPa、処理量条件を8kg/hrとし、1回処理することにより得た。
【0091】
NaHPO:9.7μmの調製
NaHPO:平均粒径9.7μmは、NaHPOをナノジェットマイザー(NJ−100型 アイシンナノテクノロジー社製)で、粉砕圧力条件を原料供給圧:0.3MPa/粉砕圧:0.3MPa、処理量条件を8kg/hrとし、1回処理することにより得た。
【0092】
NaHPO:19.7μmの調製
NaHPO:平均粒径19.7μmは、NaHPOをナノジェットマイザー(NJ−100型 アイシンナノテクノロジー社製)で、粉砕圧力条件を原料供給圧:0.2MPa/粉砕圧:0.1MPa、処理量条件を20kg/hrとし、1回処理することにより得た。
【0093】
NaHPO:1.45μmの調製
NaHPO:平均粒径1.45μmは、NaHPOをナノジェットマイザー(NJ−100型 アイシンナノテクノロジー社製)で、粉砕圧力条件を原料供給圧:1.3MPa/粉砕圧:1.3MPa、処理量条件を1kg/hrとし、4回処理することにより得た。
【0094】
NaHPO:0.65μmの調製
NaHPO:平均粒径0.65μmは、NaHPO:1.45μmをナノジェットマイザー(NJ−100型 アイシンナノテクノロジー社製)で、粉砕圧力条件を原料供給圧:1.3MPa/粉砕圧:1.3MPa、処理量条件を1kg/hrとし、5回処理することにより得た。
【0095】
NaHPO:4.8μmの調製
NaHPO:平均粒径4.8μmは、NaHPOをナノジェットマイザー(NJ−100型 アイシンナノテクノロジー社製)で、粉砕圧力条件を原料供給圧:0.7MPa/粉砕圧:0.7MPa、処理量条件を8kg/hrとし、1回処理することにより得た。
【0096】
[象牙細管封鎖剤の調製]
(1)象牙細管封鎖剤用粉体の調製
表1に示す組成で秤量した各粉体成分を高速回転ミル(アズワン株式会社「SM−1」)中に加え、1000rpmの回転速度で3分間混合することで象牙細管封鎖剤の粉体を調製した。混合の必要ない粉体は、そのまま象牙細管封鎖剤の粉体として使用した。
【0097】
(2)象牙細管封鎖剤用液材の調製
表1及び表2に示す組成で秤量した各液材成分を蒸留水に溶解させることで象牙細管封鎖剤用の液材を得た。液材成分を含有しない組成の場合は、蒸留水をそのまま象牙細管封鎖剤用の液材として使用した。
【0098】
(3)象牙細管封鎖剤の調製
表1及び表2に示す組成の上記(1)で得た粉体と、上記(2)で得た液材をを加え混合することで象牙細管封鎖剤を調製した。
【0099】
実施例1〜3、6〜11及び13〜45、比較例8〜10
上記(1)〜(3)の手順で象牙細管封鎖剤を調製し、初期、並びに長期象牙質透過抑制率評価試験を行った。得られた評価結果を表1及び表2にまとめて示す。
【0100】
(1)形態学的評価用牛歯の作製
健全牛歯切歯の頬側中央を#80、#1000研磨紙を用いて回転研磨機により研磨してトリミングし、頬側象牙質が露出した厚さ2mmの象牙質板を作製した。この頬側象牙質面をさらにラッピングフィルム(#1200、#3000、#8000、住友スリーエム社製)を用いて研磨し、平滑とした。この頬側象牙質部分に歯に対して縦軸方向及び横軸方向に各7mm試験部分の窓を残し、周りをマニキュアでマスキングし、1時間風乾した。この牛歯に対して、0.5M EDTA溶液(和光製薬製)を5倍に希釈した溶液を30秒間象牙質窓に作用させ脱灰を行った後、30分以上水洗した。更に10%次亜塩素酸ナトリウム溶液(ネオクリーナー「セキネ」、ネオ製薬工業(株))を2分間作用させ清掃した後、約30分以上水洗することで象牙細管封鎖評価に用いる牛歯を調製した。上記歯面処理の後、歯の縦軸方向に半分をマニキュアでマスキングし、未処理の状態を保持した。上記牛歯の頬側象牙質表面に対して、スパーテルを用いて実施例8の象牙質知覚過敏抑制剤約0.1gを付着させ、続いてマイクロブラシ(MICROBRUSH INTERNATIONAL製「REGULAR SIZE(2.0mm),MRB400」)を用いて象牙質窓全面に対して30秒間すり込みを行った。その後、象牙質表面のペーストを蒸留水で除去した。
【0101】
(2)SEM観察用サンプルの作製
上記処理後、牛歯サンプルをバイアル中の70%エタノール水溶液中に浸漬した。浸漬後、直ちにバイアルをデシケータ内に移し、10分間減圧条件下に置いた。この後、バイアルをデシケータから取り出し、低速攪拌機(TR−118、AS−ONE社製)に取り付け、約4rpmの回転速度で1時間攪拌した。同様の操作を、80%エタノール水溶液、90%エタノール水溶液、99%エタノール水溶液、100%エタノール(2回)を用いて行い、2回目の100%エタノールにはそのまま1晩浸漬した。翌日、プロピレンオキサイドとエタノールの1:1混合溶媒、プロピレンオキサイド100%(2回)についても順次同様の作業を行い、2回目のプロピレンオキサイドにそのまま1晩浸漬することで脱水、ならびにマニキュアの除去を行った。プロピレンオキサイドを留去したサンプルを牛歯ディスクの象牙細管封鎖処理表面の形態観察用サンプルとした。また、プロピレンオキサイド留去後2本のプライヤーを用いて象牙細管封鎖処置を行った象牙質を脆性的に破壊し、象牙質断面の形態観察用サンプルとした。
【0102】
(3)SEM観察
SEM観察にはS-3500N(日立ハイテク社製)を使用した。加速電圧は15kVの条件で、破壊前の牛歯ディスクの象牙細管封鎖処理−未処理境界付近の表面形態、並びに象牙質断面の象牙細管封鎖処理表面付近の形態を観察し、象牙質表面から象牙細管方向に知覚過敏抑制剤により封鎖が観察される最も深い距離(以下、「象牙細管封鎖深さ」ということがある)の測定を行った。実施例8の知覚過敏抑制剤による象牙細管封鎖深さの平均は10μmであった。得られたSEM写真を図1及び図2図1中の矢印はHApで封鎖された象牙細管である)に示す。
【0103】
比較例1〜6
上記(1)〜(3)の手順で象牙細管封鎖剤を調製し、初期、並びに長期象牙質透過抑制率評価試験を行った。得られた評価結果を表3にまとめて示す。
【0104】
実施例46
DCPA:1.1μm 20.5g、Ca(OH):5.2μm 0.5g、NaHPO:4.6μm 4g、NaF 0.22g、Ar130 0.5g、グリセリン(和光純薬工業株式会社製)13.78gを混合し、非水系ペーストを調製した。DCPA:1.1μm 20.0g、サッカリン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)0.5g、ポリエチレングリコール(マクロゴール400、三洋化成工業株式会社製)3g、グリセリン5g、プロピレングリコール(和光純薬工業株式会社製)5.0g、セチルピリジニウムクロリド1水和物(和光純薬工業株式会社製)0.05g、Ar130 3.5g、蒸留水23.45gを混合し、水系ペーストを調製した。上記で作製した非水系ペースト39.5gと水系ペースト60.5gを加え混合することで象牙細管封鎖剤を調製した。実施例1と同様にして、初期、並びに長期象牙質透過抑制率評価試験を行った。得られた評価結果を表4にまとめて示す。
【0105】
実施例47〜49
実施例46と同様にして象牙細管封鎖剤を調製し、初期、並びに長期象牙質透過抑制率評価試験を行った。得られた評価結果を表3にまとめて示す。
【0106】
実施例50
DCPA:1.1μm 40.5g、NaHPO:4.6μm 4g、NaF 0.22g、Ar130 0.5g、グリセリン(和光純薬工業株式会社製)13.78g、蒸留水23.0gを混合し、水系ペースト1を調製した。Ca(OH):5.2μm 0.5g、サッカリン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)0.5g、ポリエチレングリコール(マクロゴール400、三洋化成工業株式会社製)3g、プロピレングリコール(和光純薬工業株式会社製)5.0g、セチルピリジニウムクロリド1水和物(和光純薬工業株式会社製)0.05g、Ar130 3.5g、蒸留水5.45gを混合し、水系ペースト2を調製した。上記で作製した水系ペースト1 82.0gと水系ペースト2 18.0gを加え混合することで象牙細管封鎖剤を調製した。実施例1と同様にして、初期、並びに長期象牙質透過抑制率評価試験を行った。得られた評価結果を表5にまとめて示す。
【0107】
【表1】
【0108】
【表2】
【0109】
【表3】
【0110】
【表4】
【0111】
【表5】
【0112】
実施例51
[重合性組成物の各成分]
MDP:10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
BisGMA:2,2−ビス[4−(3−メタクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル]プロパン
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
TMDPO:2,4,6−トリメチルベンソイルジフェニルホスフィンオキサイド
無機フィラー1:日本アエロジル社製 R972
【0113】
[歯科用接着材組成物の調製]
下記の各成分を常温下で混合して1液セルフエッチング型ボンドを調製した。
1液型ボンディング材組成物:
MDP 10重量部
BisGMA 30重量部
HEMA 30重量部
TMDPO 3重量部
水 15重量部
エタノール 15重量部
無機フィラー1 5重量部
【0114】
[接着性の評価]
ウシ下顎前歯の唇面を流水下にて#80シリコン・カーバイド紙(日本研紙株式会社製)で研磨して、象牙質の平坦面を露出させた。次いで、流水下にて#1000のシリコン・カーバイド紙(日本研紙株式会社製)でさらに研磨した。研磨終了後、表面の水をエアブローして除去し、被着体サンプルを得た。
【0115】
得られた被着体サンプルの象牙質表面のうち4mm×4mmの範囲に、マイクロブラシ(マイクロブラシ社製 マイクロブラシスーパーファイン)を用いて象牙細管封鎖剤を30秒間擦り塗った。次いで、蒸留水で湿らせた綿球(リッチモンド社製 コットンペリット#3)で、象牙質表面を擦り洗いし、象牙質表面に付着した固体成分を清掃した。
【0116】
被着体サンプルの封鎖剤処理面に、直径3mmの丸穴を有する厚さ約150μmの粘着テープを貼着し、接着面積を規定した。1液型ボンディング材組成物を上記の丸穴内に筆を用いて塗布し、20秒間放置した後、表面をエアブローすることで、塗布した1液型ボンディング材組成物の流動性が無くなるまで乾燥した。次いで、歯科用可視光線照射器「JETライト3000」(J.Morita USA製)にて20秒間光照射することにより、塗布した1液型ボンディング材組成物を硬化させた。
【0117】
得られた1液型ボンディング材組成物の硬化物の表面に歯科充填用コンポジットレジン(クラレメディカル株式会社製、商品名「クリアフィルAP−X」(登録商標))を塗布し、離型フィルム(ポリエステル)で被覆した。次いで、その離型フィルムの上にスライドガラスを載置して押しつけることで、前記コンポジットレジンの塗布面を平滑にした。続いて、前記離型フィルムを介して、前記コンポジットレジンに対して前記照射器「JETライト3000」を用いて20秒間光照射を行い、前記コンポジットレジンを硬化させた。
【0118】
得られた歯科充填用コンポジットレジンの硬化物の表面に対して、市販の歯科用レジンセメント(クラレメディカル株式会社製、商品名「パナビア21」)を用いてステンレス製円柱棒(直径7mm、長さ2.5cm)の一方の端面(円形断面)を接着した。接着後、当該サンプルを30分間室温で静置した後、蒸留水に浸漬した。得られた蒸留水に浸漬したサンプルを、37℃に保持した恒温器内に24時間静置することで、接着試験供試サンプルを作製した。
【0119】
5個の接着試験供試サンプルの引張接着強度を、万能試験機(株式会社島津製作所製)にてクロスヘッドスピードを2mm/分に設定して測定し、平均値を引張接着強さとした。試験後の破断面を観察し、象牙質側が破壊しているサンプルの数を被着体破壊数とした。なお、象牙細管封鎖剤を使用せずに象牙細管表面に歯科用接着材組成物を塗布した場合の引張接着強さは17.7(MPa)であり、また、象牙細管封鎖剤を使用したが、象牙質表面に付着した固体成分清掃のための擦り洗いをしなかった場合の引張接着強さは8.2(MPa)であった。
【0120】
【表6】
【0121】
実施例51における引張接着強さの結果から分かるように、象牙細管封鎖剤を使用せずに象牙細管表面に歯科用接着材組成物を塗布した場合と同等の接着強さが得られた。したがって、象牙細管が固体粒子で充填されて封鎖されるため、疼痛、知覚過敏等を抑制することが可能になるとともに、水を用いた擦り洗いにより象牙質表面に付着した固体成分を除去することができるため、象牙細管表面に対する歯科用接着材組成物の接着性が良好となることが明らかとなった。
図1
図2