【実施例】
【0074】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。本実施例において難溶性リン酸カルシウム粒子(A)、リンを含まないカルシウム化合物(B)及びリン酸のアルカリ金属塩(D)粒子の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製「SALD−2100型」)を用いて測定し、測定の結果から算出されるメディアン径を平均粒径とした。
【0075】
[象牙質透過抑制率評価]
(1)象牙質透過抑制率評価用牛歯の作製
健全牛歯切歯の頬側象牙質から#80、#1000研磨紙を用いて回転研磨機によりトリミングし、直径約1.5cm、厚さ0.9mmの象牙質ディスクを作製した。この牛歯ディスク表面をさらにラッピングフィルム(#1200、#3000、#8000, 住友スリーエム社製)を用いて研磨し、厚さ0.7mmまで研磨し、平滑とした。この牛歯ディスクを、0.5M EDTA溶液(和光純薬工業株式会社製)を5倍に希釈した溶液に180秒間浸漬し、約30秒間蒸留水中で洗浄した。更に10%次亜塩素酸ナトリウム溶液(ネオクリーナー「セキネ」、ネオ製薬工業(株))を120秒間浸漬した後、約30分間蒸留水で洗浄することで象牙質透過抑制率評価に用いる牛歯ディスクを調製した。
【0076】
(2)象牙質透過抑制率評価(初期)試料の作製
上記牛歯ディスクの頬側象牙質表面に対して、スパーテルを用いて上記で調製した象牙細管封鎖剤約0.1gを付着させ、続いてマイクロブラシ(MICROBRUSH INTERNATIONAL製「REGULAR SIZE(2.0mm),MRB400」)を用いて、象牙質処理面中央部における直径5mmの象牙質に対して30秒間すり込みを行った。その後、象牙質表面のペーストを蒸留水で除去し、直ちに象牙質透過抑制率評価試験を実施した(n=5)。
【0077】
[擬似唾液の調製]
塩化ナトリウム(8.77g、150mmol)、リン酸二水素一カリウム(122mg、0.9mmol)、塩化カルシウム(166mg、1.5mmol)、Hepes(4.77g、20mmol)をそれぞれ秤量皿に量り取り、約800mlの蒸留水を入れた2000mlビーカーに攪拌下に順次加えた。溶質が完全に溶解したことを確認した後、この溶液の酸性度をpHメータ(F55、堀場製作所)で測定しながら、10%水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、pH7.0とした。次にこの溶液を1000mlメスフラスコに加えてメスアップし、擬似唾液1000mlを得た。
【0078】
(3)象牙質透過抑制率評価(長期)試料の作製
上記牛歯ディスクの頬側象牙質表面に対して、スパーテルを用いて上記で調製した象牙細管封鎖剤約0.1gを付着させ、続いてマイクロブラシ(MICROBRUSH INTERNATIONAL製「REGULAR SIZE(2.0mm),MRB400」)を用いて、象牙質処理面中央部における直径5mmの象牙質に対して30秒間すり込みを行った。その後、象牙質表面のペーストを蒸留水で除去し、擬似唾液中に2週間浸漬した後、象牙質透過抑制率評価試験を実施した(n=5)。
【0079】
(4)象牙質透過抑制率評価試験
象牙質透過抑制率の測定には、Pashleyらの方法(D.H.PASHLEY et al.,J.Dent.Res.65:417−420,1986.;K.C.Y.TAY et al.,J.Endod.33:1438−1443,2007.)に準じる方法を用いて実施した。同様の装置を設置し、上記で得た象牙細管封鎖処置を行った牛歯ディスクを歯髄からエナメル質の方向に液が透過する様に分割可能なチャンバー治具中に設置、固定した。Phosphate−buffered saline(Dulbecco’s PBS, Grand Island Biological Company, Grand Island, NY)の圧力を加える象牙質表面は、Oリングを用いて表面積を78.5mm
2(直径5mm)に規格化し、10psi(69kPa)で加圧し、24時間経過した際の透過量を測定した。また、同様の操作で上記の象牙細管封鎖処置を行う前の同一の牛歯ディスクの透過量測定結果から、下記式を用いて象牙質透過抑制率を算出した。
象牙質透過抑制率(%)=[1−(象牙細管封鎖した牛歯ディスクの透過量)/(象牙細管封鎖前の牛歯ディスクの透過量)]×100
【0080】
[難溶性リン酸カルシウム粒子(A)]
DCPA:10.3μm 無水リン酸一水素カルシウム〔CaHPO
4〕 和光純薬工業株式会社製
DCPD:5.1μm リン酸一水素カルシウム2水和物〔CaHPO
4・2H
2O〕 太平化学産業株式会社製
β−TCP:1.0μm β−リン酸三カルシウム〔β−Ca
3(PO
4)
2〕 太平化学産業株式会社製
OCP:4.8μm リン酸八カルシウム5水和物〔Ca
8H
2(PO
4)
6・5H
2O〕
ピロリン酸Ca:15.0μm ピロリン酸カルシウム〔Ca
2P
2O
7〕 太平化学産業株式会社製
[リンを含まないカルシウム化合物(B)]
Ca(OH)
2:14.5μm 水酸化カルシウム 河合石灰工業株式会社製
CaO:10.0μm 酸化カルシウム 和光純薬工業株式会社製
Ca(NO
3)
2:硝酸カルシウム 和光純薬工業株式会社製
CaCl
2:塩化カルシウム 和光純薬工業株式会社製
CaSiO
3:メタケイ酸カルシウム 和光純薬工業社製
[リン酸のアルカリ金属塩(D)]
Na
2HPO
4:リン酸一水素二ナトリウム 和光純薬工業株式会社製
NaH
2PO
4:リン酸二水素一ナトリウム 和光純薬工業株式会社製
[フッ素化合物(E)]
NaF:フッ化ナトリウム 和光純薬工業株式会社製
MFP:モノフルオロリン酸ナトリウム 和光純薬工業株式会社製
[シリカ粒子(F)]
Ar130:「アエロジル130(商品名)」日本アエロジル社製
[その他]
HAp:2.5μm ヒドロキシアパタイト(HAP−200) 太平化学産業株式会社製
MCPA:7.0μm 無水リン酸二水素カルシウム 太平化学産業株式会社製
【0081】
[各粉体の調製]
DCPA:平均粒径1.1μmの調製
DCPA:平均粒径1.1μmは、DCPA:10.3μm 50g、95%エタノール(和光純薬工業株式会社製「Ethanol(95)」)240g、及び直径が10mmのジルコニアボール480gを1000mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「HD−B−104 ポットミル」)中に加え、1500rpmの回転速度で15時間湿式振動粉砕を行うことで得られたスラリーを、ロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間乾燥させることで得た。平均粒径0.5μm、0.8μm、5.2μm、ならびに7.5μmのDCPAは、上記方法と同様にし、粉砕時間をそれぞれ、40時間、20時間、7時間、並びに3時間とすることにより得た。
【0082】
DCPD:平均粒径1.1μmの調製
DCPD:5.1μm50g、95%エタノール(和光純薬工業株式会社製「Ethanol(95)」)240g、及び直径が10mmのジルコニアボール480gを1000mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「HD−B−104 ポットミル」)中に加え、1500rpmの回転速度で10時間湿式振動粉砕を行うことで得られたスラリーを、ロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間乾燥させることで得た。
【0083】
OCP:1.5μmの調製
酢酸カルシウム(和光純薬工業株式会社製)の0.04M水溶液を250ml、0.04M NaH
2PO
4水溶液250mlを調製した。67.5℃の0.04M NaH
2PO
4水溶液を400rpmでマグネチックスターラーで撹拌しながら、0.04M酢酸カルシウム水溶液を250ml/時間で滴下し、OCPの結晶を得た。得られた結晶を、60℃で10時間真空乾燥後、約500μmの結晶を得た。上記で得たOCP 50g、99.5%エタノール(和光純薬工業株式会社製「Ethanol,Dehydrated(99.5)」)240g、及び直径が10mmのジルコニアボール480gを1000mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「HD−B−104 ポットミル」)中に加え、1500rpmの回転速度で15時間湿式振動粉砕を行うことで得られたスラリーを、ロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間真空乾燥することで、OCP:1.5μmを得た。
【0084】
ピロリン酸Ca:0.9μmの調製
ピロリン酸Ca:平均粒径0.9μmは、ピロリン酸Ca:15.0μm 50g、99.5%エタノール(和光純薬工業株式会社製「Ethanol,Dehydrated(99.5)」)240g、及び直径が10mmのジルコニアボール480gを1000mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「HD−B−104 ポットミル」)中に加え、1500rpmの回転速度で15時間湿式振動粉砕を行うことで得られたスラリーを、ロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間真空乾燥することで得た。
【0085】
Ca(OH)
2:平均粒径1.0μmの調製
Ca(OH)
2:平均粒径1.0μmは、Ca(OH)
2:14.5μm50g、99.5%エタノール(和光純薬工業株式会社製「Ethanol,Dehydrated(99.5)」)240g、及び直径が10mmのジルコニアボール480gを1000mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「HD−B−104 ポットミル」)中に加え、1500rpmの回転速度で15時間湿式振動粉砕を行うことで得られたスラリーを、ロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間乾燥させることで得た。平均粒径0.5μm、平均粒径5.2μm、並びに10.0μmのCa(OH)
2は、上記方法と同様にし、粉砕時間をそれぞれ、20時間、7時間、並びに3時間とすることにより得た。
【0086】
Ca(NO
3)
2:5.0μmの調製
Ca(NO
3)
2:平均粒径5.0μmは、Ca(NO
3)
2 50g、99.5%エタノール(和光純薬工業株式会社製「Ethanol,Dehydrated(99.5)」)240g、及び直径が10mmのジルコニアボール480gを1000mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「HD−B−104 ポットミル」)中に加え、1500rpmの回転速度で10時間湿式振動粉砕を行うことで得られたスラリーを、ロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間真空乾燥することで得た。
【0087】
CaCl
2:5.0μmの調製
CaCl
2:平均粒径5.0μmは、CaCl
2 50g、99.5%エタノール(和光純薬工業株式会社製「Ethanol,Dehydrated(99.5)」)240g、及び直径が10mmのジルコニアボール480gを1000mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「HD−B−104 ポットミル」)中に加え、1500rpmの回転速度で10時間湿式振動粉砕を行うことで得られたスラリーを、ロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間真空乾燥することで得た。
【0088】
CaSiO
3:5.0μmの調製
CaSiO
3:平均粒径5.0μmは、CaSiO
3 50g、99.5%エタノール(和光純薬工業株式会社製「Ethanol,Dehydrated(99.5)」)240g、及び直径が10mmのジルコニアボール480gを1000mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「HD−B−104 ポットミル」)中に加え、1500rpmの回転速度で15時間湿式振動粉砕を行うことで得られたスラリーを、ロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間真空乾燥することで得た。
【0089】
CaO:5.0μmの調製
CaO:平均粒径2.0μmは、CaO:10.0μm 50g、99.5%エタノール(和光純薬工業株式会社製「Ethanol,Dehydrated(99.5)」)240g、及び直径が10mmのジルコニアボール480gを1000mlのアルミナ製粉砕ポット(株式会社ニッカトー製「HD−B−104 ポットミル」)中に加え、1500rpmの回転速度で10時間湿式振動粉砕を行うことで得られたスラリーを、ロータリーエバポレータでエタノールを留去した後、60℃で6時間真空乾燥することで得た。
【0090】
Na
2HPO
4:4.6μmの調製
Na
2HPO
4:平均粒径4.6μmは、Na
2HPO
4をナノジェットマイザー(NJ−100型 アイシンナノテクノロジー社製)で、粉砕圧力条件を原料供給圧:0.7MPa/粉砕圧:0.7MPa、処理量条件を8kg/hrとし、1回処理することにより得た。
【0091】
Na
2HPO
4:9.7μmの調製
Na
2HPO
4:平均粒径9.7μmは、Na
2HPO
4をナノジェットマイザー(NJ−100型 アイシンナノテクノロジー社製)で、粉砕圧力条件を原料供給圧:0.3MPa/粉砕圧:0.3MPa、処理量条件を8kg/hrとし、1回処理することにより得た。
【0092】
Na
2HPO
4:19.7μmの調製
Na
2HPO
4:平均粒径19.7μmは、Na
2HPO
4をナノジェットマイザー(NJ−100型 アイシンナノテクノロジー社製)で、粉砕圧力条件を原料供給圧:0.2MPa/粉砕圧:0.1MPa、処理量条件を20kg/hrとし、1回処理することにより得た。
【0093】
Na
2HPO
4:1.45μmの調製
Na
2HPO
4:平均粒径1.45μmは、Na
2HPO
4をナノジェットマイザー(NJ−100型 アイシンナノテクノロジー社製)で、粉砕圧力条件を原料供給圧:1.3MPa/粉砕圧:1.3MPa、処理量条件を1kg/hrとし、4回処理することにより得た。
【0094】
Na
2HPO
4:0.65μmの調製
Na
2HPO
4:平均粒径0.65μmは、Na
2HPO
4:1.45μmをナノジェットマイザー(NJ−100型 アイシンナノテクノロジー社製)で、粉砕圧力条件を原料供給圧:1.3MPa/粉砕圧:1.3MPa、処理量条件を1kg/hrとし、5回処理することにより得た。
【0095】
NaH
2PO
4:4.8μmの調製
NaH
2PO
4:平均粒径4.8μmは、NaH
2PO
4をナノジェットマイザー(NJ−100型 アイシンナノテクノロジー社製)で、粉砕圧力条件を原料供給圧:0.7MPa/粉砕圧:0.7MPa、処理量条件を8kg/hrとし、1回処理することにより得た。
【0096】
[象牙細管封鎖剤の調製]
(1)象牙細管封鎖剤用粉体の調製
表1に示す組成で秤量した各粉体成分を高速回転ミル(アズワン株式会社「SM−1」)中に加え、1000rpmの回転速度で3分間混合することで象牙細管封鎖剤の粉体を調製した。混合の必要ない粉体は、そのまま象牙細管封鎖剤の粉体として使用した。
【0097】
(2)象牙細管封鎖剤用液材の調製
表1及び表2に示す組成で秤量した各液材成分を蒸留水に溶解させることで象牙細管封鎖剤用の液材を得た。液材成分を含有しない組成の場合は、蒸留水をそのまま象牙細管封鎖剤用の液材として使用した。
【0098】
(3)象牙細管封鎖剤の調製
表1及び表2に示す組成の上記(1)で得た粉体と、上記(2)で得た液材をを加え混合することで象牙細管封鎖剤を調製した。
【0099】
実施例1〜
3、6〜11及び13〜45、比較例8〜10
上記(1)〜(3)の手順で象牙細管封鎖剤を調製し、初期、並びに長期象牙質透過抑制率評価試験を行った。得られた評価結果を表1及び表2にまとめて示す。
【0100】
(1)形態学的評価用牛歯の作製
健全牛歯切歯の頬側中央を#80、#1000研磨紙を用いて回転研磨機により研磨してトリミングし、頬側象牙質が露出した厚さ2mmの象牙質板を作製した。この頬側象牙質面をさらにラッピングフィルム(#1200、#3000、#8000、住友スリーエム社製)を用いて研磨し、平滑とした。この頬側象牙質部分に歯に対して縦軸方向及び横軸方向に各7mm試験部分の窓を残し、周りをマニキュアでマスキングし、1時間風乾した。この牛歯に対して、0.5M EDTA溶液(和光製薬製)を5倍に希釈した溶液を30秒間象牙質窓に作用させ脱灰を行った後、30分以上水洗した。更に10%次亜塩素酸ナトリウム溶液(ネオクリーナー「セキネ」、ネオ製薬工業(株))を2分間作用させ清掃した後、約30分以上水洗することで象牙細管封鎖評価に用いる牛歯を調製した。上記歯面処理の後、歯の縦軸方向に半分をマニキュアでマスキングし、未処理の状態を保持した。上記牛歯の頬側象牙質表面に対して、スパーテルを用いて実施例8の象牙質知覚過敏抑制剤約0.1gを付着させ、続いてマイクロブラシ(MICROBRUSH INTERNATIONAL製「REGULAR SIZE(2.0mm),MRB400」)を用いて象牙質窓全面に対して30秒間すり込みを行った。その後、象牙質表面のペーストを蒸留水で除去した。
【0101】
(2)SEM観察用サンプルの作製
上記処理後、牛歯サンプルをバイアル中の70%エタノール水溶液中に浸漬した。浸漬後、直ちにバイアルをデシケータ内に移し、10分間減圧条件下に置いた。この後、バイアルをデシケータから取り出し、低速攪拌機(TR−118、AS−ONE社製)に取り付け、約4rpmの回転速度で1時間攪拌した。同様の操作を、80%エタノール水溶液、90%エタノール水溶液、99%エタノール水溶液、100%エタノール(2回)を用いて行い、2回目の100%エタノールにはそのまま1晩浸漬した。翌日、プロピレンオキサイドとエタノールの1:1混合溶媒、プロピレンオキサイド100%(2回)についても順次同様の作業を行い、2回目のプロピレンオキサイドにそのまま1晩浸漬することで脱水、ならびにマニキュアの除去を行った。プロピレンオキサイドを留去したサンプルを牛歯ディスクの象牙細管封鎖処理表面の形態観察用サンプルとした。また、プロピレンオキサイド留去後2本のプライヤーを用いて象牙細管封鎖処置を行った象牙質を脆性的に破壊し、象牙質断面の形態観察用サンプルとした。
【0102】
(3)SEM観察
SEM観察にはS-3500N(日立ハイテク社製)を使用した。加速電圧は15kVの条件で、破壊前の牛歯ディスクの象牙細管封鎖処理−未処理境界付近の表面形態、並びに象牙質断面の象牙細管封鎖処理表面付近の形態を観察し、象牙質表面から象牙細管方向に知覚過敏抑制剤により封鎖が観察される最も深い距離(以下、「象牙細管封鎖深さ」ということがある)の測定を行った。実施例8の知覚過敏抑制剤による象牙細管封鎖深さの平均は10μmであった。得られたSEM写真を
図1及び
図2(
図1中の矢印はHApで封鎖された象牙細管である)に示す。
【0103】
比較例1〜6
上記(1)〜(3)の手順で象牙細管封鎖剤を調製し、初期、並びに長期象牙質透過抑制率評価試験を行った。得られた評価結果を表3にまとめて示す。
【0104】
実施例46
DCPA:1.1μm 20.5g、Ca(OH)
2:5.2μm 0.5g、Na
2HPO
4:4.6μm 4g、NaF 0.22g、Ar130 0.5g、グリセリン(和光純薬工業株式会社製)13.78gを混合し、非水系ペーストを調製した。DCPA:1.1μm 20.0g、サッカリン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)0.5g、ポリエチレングリコール(マクロゴール400、三洋化成工業株式会社製)3g、グリセリン5g、プロピレングリコール(和光純薬工業株式会社製)5.0g、セチルピリジニウムクロリド1水和物(和光純薬工業株式会社製)0.05g、Ar130 3.5g、蒸留水23.45gを混合し、水系ペーストを調製した。上記で作製した非水系ペースト39.5gと水系ペースト60.5gを加え混合することで象牙細管封鎖剤を調製した。実施例1と同様にして、初期、並びに長期象牙質透過抑制率評価試験を行った。得られた評価結果を表4にまとめて示す。
【0105】
実施例47〜49
実施例46と同様にして象牙細管封鎖剤を調製し、初期、並びに長期象牙質透過抑制率評価試験を行った。得られた評価結果を表3にまとめて示す。
【0106】
実施例50
DCPA:1.1μm 40.5g、Na
2HPO
4:4.6μm 4g、NaF 0.22g、Ar130 0.5g、グリセリン(和光純薬工業株式会社製)13.78g、蒸留水23.0gを混合し、水系ペースト1を調製した。Ca(OH)
2:5.2μm 0.5g、サッカリン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社製)0.5g、ポリエチレングリコール(マクロゴール400、三洋化成工業株式会社製)3g、プロピレングリコール(和光純薬工業株式会社製)5.0g、セチルピリジニウムクロリド1水和物(和光純薬工業株式会社製)0.05g、Ar130 3.5g、蒸留水5.45gを混合し、水系ペースト2を調製した。上記で作製した水系ペースト1 82.0gと水系ペースト2 18.0gを加え混合することで象牙細管封鎖剤を調製した。実施例1と同様にして、初期、並びに長期象牙質透過抑制率評価試験を行った。得られた評価結果を表5にまとめて示す。
【0107】
【表1】
【0108】
【表2】
【0109】
【表3】
【0110】
【表4】
【0111】
【表5】
【0112】
実施例51
[重合性組成物の各成分]
MDP:10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
BisGMA:2,2−ビス[4−(3−メタクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル]プロパン
HEMA:2−ヒドロキシエチルメタクリレート
TMDPO:2,4,6−トリメチルベンソイルジフェニルホスフィンオキサイド
無機フィラー1:日本アエロジル社製 R972
【0113】
[歯科用接着材組成物の調製]
下記の各成分を常温下で混合して1液セルフエッチング型ボンドを調製した。
1液型ボンディング材組成物:
MDP 10重量部
BisGMA 30重量部
HEMA 30重量部
TMDPO 3重量部
水 15重量部
エタノール 15重量部
無機フィラー1 5重量部
【0114】
[接着性の評価]
ウシ下顎前歯の唇面を流水下にて#80シリコン・カーバイド紙(日本研紙株式会社製)で研磨して、象牙質の平坦面を露出させた。次いで、流水下にて#1000のシリコン・カーバイド紙(日本研紙株式会社製)でさらに研磨した。研磨終了後、表面の水をエアブローして除去し、被着体サンプルを得た。
【0115】
得られた被着体サンプルの象牙質表面のうち4mm×4mmの範囲に、マイクロブラシ(マイクロブラシ社製 マイクロブラシスーパーファイン)を用いて象牙細管封鎖剤を30秒間擦り塗った。次いで、蒸留水で湿らせた綿球(リッチモンド社製 コットンペリット#3)で、象牙質表面を擦り洗いし、象牙質表面に付着した固体成分を清掃した。
【0116】
被着体サンプルの封鎖剤処理面に、直径3mmの丸穴を有する厚さ約150μmの粘着テープを貼着し、接着面積を規定した。1液型ボンディング材組成物を上記の丸穴内に筆を用いて塗布し、20秒間放置した後、表面をエアブローすることで、塗布した1液型ボンディング材組成物の流動性が無くなるまで乾燥した。次いで、歯科用可視光線照射器「JETライト3000」(J.Morita USA製)にて20秒間光照射することにより、塗布した1液型ボンディング材組成物を硬化させた。
【0117】
得られた1液型ボンディング材組成物の硬化物の表面に歯科充填用コンポジットレジン(クラレメディカル株式会社製、商品名「クリアフィルAP−X」(登録商標))を塗布し、離型フィルム(ポリエステル)で被覆した。次いで、その離型フィルムの上にスライドガラスを載置して押しつけることで、前記コンポジットレジンの塗布面を平滑にした。続いて、前記離型フィルムを介して、前記コンポジットレジンに対して前記照射器「JETライト3000」を用いて20秒間光照射を行い、前記コンポジットレジンを硬化させた。
【0118】
得られた歯科充填用コンポジットレジンの硬化物の表面に対して、市販の歯科用レジンセメント(クラレメディカル株式会社製、商品名「パナビア21」)を用いてステンレス製円柱棒(直径7mm、長さ2.5cm)の一方の端面(円形断面)を接着した。接着後、当該サンプルを30分間室温で静置した後、蒸留水に浸漬した。得られた蒸留水に浸漬したサンプルを、37℃に保持した恒温器内に24時間静置することで、接着試験供試サンプルを作製した。
【0119】
5個の接着試験供試サンプルの引張接着強度を、万能試験機(株式会社島津製作所製)にてクロスヘッドスピードを2mm/分に設定して測定し、平均値を引張接着強さとした。試験後の破断面を観察し、象牙質側が破壊しているサンプルの数を被着体破壊数とした。なお、象牙細管封鎖剤を使用せずに象牙細管表面に歯科用接着材組成物を塗布した場合の引張接着強さは17.7(MPa)であり、また、象牙細管封鎖剤を使用したが、象牙質表面に付着した固体成分清掃のための擦り洗いをしなかった場合の引張接着強さは8.2(MPa)であった。
【0120】
【表6】
【0121】
実施例51における引張接着強さの結果から分かるように、象牙細管封鎖剤を使用せずに象牙細管表面に歯科用接着材組成物を塗布した場合と同等の接着強さが得られた。したがって、象牙細管が固体粒子で充填されて封鎖されるため、疼痛、知覚過敏等を抑制することが可能になるとともに、水を用いた擦り洗いにより象牙質表面に付着した固体成分を除去することができるため、象牙細管表面に対する歯科用接着材組成物の接着性が良好となることが明らかとなった。