特許第5838563号(P5838563)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5838563
(24)【登録日】2015年11月20日
(45)【発行日】2016年1月6日
(54)【発明の名称】電子楽器及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G10H 1/00 20060101AFI20151210BHJP
【FI】
   G10H1/00 102Z
【請求項の数】5
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2011-37914(P2011-37914)
(22)【出願日】2011年2月24日
(65)【公開番号】特開2011-197663(P2011-197663A)
(43)【公開日】2011年10月6日
【審査請求日】2013年12月19日
(31)【優先権主張番号】特願2010-39463(P2010-39463)
(32)【優先日】2010年2月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102635
【弁理士】
【氏名又は名称】浅見 保男
(74)【代理人】
【識別番号】100197022
【弁理士】
【氏名又は名称】谷水 浩一
(72)【発明者】
【氏名】岡野 忠
(72)【発明者】
【氏名】駒野 岳志
【審査官】 安田 勇太
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−243952(JP,A)
【文献】 実開平04−003498(JP,U)
【文献】 特開2001−154671(JP,A)
【文献】 特開2008−065904(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H1/00−7/00
G10K15/00−15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
演奏操作に応じて演奏音声データを第1のダイナミックレンジにて生成する演奏音声生成手段と、
上記演奏音声生成手段による演奏音声データの生成と同時に、第1のダイナミックレンジより狭い第2のダイナミックレンジにて音声ファイルに記録された音声データを再生するファイル音声再生手段と、
上記ファイル音声再生手段により再生される音声データが記録された音声ファイルのファイル名から、該音声ファイルが演奏操作によって記録された演奏音声データであるか否かを識別するための演奏記録識別子を検出する識別子検出手段と、
上記識別子検出手段により演奏記録識別子が検出されない場合は、上記ファイル音声再生手段により再生される音声データの第2のダイナミックレンジを、第1のダイナミックレンジに合わせるよう広げるが、第1のダイナミックレンジより所定量狭くなるように第2のダイナミックレンジを広げ、上記識別子検出手段により演奏記録識別子が検出された場合は、上記ファイル音声再生手段により再生される音声データの第2のダイナミックレンジを、第1のダイナミックレンジと同じになるように広げる再生音量制御手段と
上記演奏音声生成手段が生成した演奏音声データと上記再生音量制御手段が再生した音声データとを加算してなる加算音声データを出力する加算出力手段と、
を具備することを特徴とする電子楽器。
【請求項2】
さらに、
第1のダイナミックレンジにて、上記演奏音声生成手段により生成された演奏音声データを、逐次、第2のダイナミックレンジにて記録すると共に、演奏記録識別子を付与して音声ファイルを作成する音声ファイル作成手段
を具備し、
上記ファイル音声再生手段は、上記音声ファイル作成手段により作成された音声ファイル或いは外部から取得された音声ファイルに記録された音声データを再生する
ことを特徴とする請求項1に記載の電子楽器。
【請求項3】
さらに、
演奏記録識別子が付与されていない音声ファイルについては新たに演奏記録識別子を付与し、演奏記録識別子が既に付与された音声ファイルについては該演奏記録識別子を変更する識別子付与手段
を具備することを特徴とする請求項1または2に記載の電子楽器。
【請求項4】
上記音声ファイルに付与される演奏記録識別子は、当該音声ファイルのファイル名に付与する1以上の文字から成ることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電子楽器。
【請求項5】
電子楽器として機能するコンピュータに、
演奏操作に応じて演奏音声データを第1のダイナミックレンジにて生成する演奏音声生成ステップと、
上記演奏音声生成ステップでの演奏音声データの生成と同時に、第1のダイナミックレンジより狭い第2のダイナミックレンジにて音声ファイルに記録された音声データを再生するファイル音声再生ステップと、
上記ファイル音声再生ステップで再生される音声データが記録された音声ファイルのファイル名から、該音声ファイルが演奏操作によって記録された演奏音声データであるか否かを識別するための演奏記録識別子を検出する識別子検出ステップと、
上記識別子検出ステップにより演奏記録識別子が検出されない場合は、上記ファイル音声再生ステップにより再生される音声データの第2のダイナミックレンジを、第1のダイナミックレンジに合わせるよう広げるが、第1のダイナミックレンジより所定量狭くなるように第2のダイナミックレンジを広げ、上記識別子検出ステップにより演奏記録識別子が検出された場合は、上記ファイル音声再生ステップにより再生される音声データの第2のダイナミックレンジを、第1のダイナミックレンジと同じになるように広げる再生音量制御ステップと
上記演奏音声生成ステップが生成した演奏音声データと上記再生音量制御ステップが再生した音声データとを加算してなる加算音声データを出力する加算出力ステップと、
から成る手順を実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、音声データの再生に合わせて演奏することができる電子楽器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、音声データ即ちオーディオデータを再生しながらこれに合わせて演奏することができるような電子楽器が提案されている。例えば、特許文献1の電子音楽装置では、再生されるオーディオデータに対応した楽曲の曲データを用いて演奏データが修正され、楽音が発生される。このように音声データの再生に合わせて演奏する際には、次のような典型的な場面があり得る:
(1)ユーザが、CD(コンパクトディスク)を個人的にリッピング(CDデータを音声データから成るファイルに変換すること)したり、或いは、プロの演奏から成る音声データをネットワーク経由で購入して取得し、得られた音声データを再生しながら演奏することでプロと一緒に演奏しているような気分を楽しむ。
(2)両手パートから成る曲について、ユーザ自身がまず左手パートを音声データとして録音し、その後、録音した左手パート音声データの再生に合わせて右手パートの演奏を練習する。或いは、伴奏パートとメロディパートとから成る曲につき、ユーザ自身がまず伴奏パートを弾いて音声データとして録音し、その後、録音した伴奏パート音声データの再生に合わせてメロディパートの演奏を練習したり楽しんだりする。
【0003】
(1)の場合、音声データは、十分なダイナミックレンジで鑑賞できるように、ノーマライズ処理がなされている。ここで、ノーマライズ処理とは、量子化ビット数(CDでは16bit)で採り得るダイナミックレンジを有効に使えるように、音響波形の振幅を、上限までぎりぎりに、曲全体で一定量増大させることである。また、(2)の場合は、録音するときに録音レベルが高すぎると、ダイナミックレンジの上限で音響波形の振幅がクリップしてしまうかもしれないので、録音レベルを下げ気味にして録音する。
【0004】
このように、演奏と一緒に再生する音声データは、(1)では上限までぎりぎりに上げており、(2)では録音レベルを下げている。従って、(1)の音声データと(2)の音声データとを切り替えて再生し、音声データの再生と一緒に電子楽器を演奏しようとすると、音声データを切り替える度に楽器演奏音とのバランスや全体の音量を調整をしなければならない。また、その調整を誤ると、過大な音量で音声データが放音されてしまい、電子楽器や人の耳に障害を与えかねない。
【0005】
また、電子楽器によっては、例えば、電子オルガンのようにアタック感が弱く持続音を専門に鳴らすものなどでは、演奏による音声データの音量が全体的に大きく且つ時間的なばらつきが少なく、ダイナミックレンジの限界まで十分な音量レベルで発音すると共に、ユーザ自身の演奏を録音した音声データについては、十分大きな音量で生成するように設計される。このような電子楽器で、演奏による音声データとリッピングした音声データとの音量バランスが丁度よく調整されていると、演奏による音声データとユーザ演奏を録音した音声データとを同時に鳴らした場合、後者の音声データの音量が大き過ぎて音量バランスが悪く感じられることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−274851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、このような不都合を解消するために、音声データの再生に合わせて演奏する際、再生される音声データの音量を、楽器演奏音とのバランスが取れた適切なレベルに調整することができる電子楽器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の主たる特徴に従うと、演奏操作に応じて演奏音声データ(Da)を第1のダイナミックレンジにて生成する演奏音声生成手段(9A;A4,B6)と、演奏音声生成手段による演奏音声データ(Da)の生成(B6)と同時に、第1のダイナミックレンジより狭い第2のダイナミックレンジにて音声ファイル(F2、F1)に記録された音声データ(Df2、Df1)を再生するファイル音声再生手段(B5→B7)と、ファイル音声再生手段により再生される音声データ(Df2、Df1)が記録された音声ファイル(F2、F1)のファイル名から、該音声ファイルが演奏操作によって記録された演奏音声データであるか否かを識別するための演奏記録識別子(第1乃至第2形式の演奏記録識別子:例えば、“}{”、“.v116”)を検出する識別子検出手段(B2)と、識別子検出手段により演奏記録識別子(“}{”、“.v116”)が検出されない場合(B2=NO)は、上記ファイル音声再生手段により再生される音声データの第2のダイナミックレンジを、第1のダイナミックレンジに合わせるよう広げるが、第1のダイナミックレンジより所定量狭くなるように第2のダイナミックレンジを広げ、上記識別子検出手段により演奏記録識別子が検出された場合(B2=YES)は、上記ファイル音声再生手段により再生される音声データの第2のダイナミックレンジを、第1のダイナミックレンジと同じになるように広げる再生音量制御手段(9C;B3→B7)と、上記演奏音声生成手段が生成した演奏音声データと上記再生音量制御手段が再生した音声データとを加算してなる加算音声データを出力する加算出力手段とを具備する電子楽器〔請求項1〕、並びに、電子楽器として機能するコンピュータに、演奏操作に応じて演奏音声データ(Da)を第1のダイナミックレンジにて生成する演奏音声生成ステップ(A4,B6)と、演奏音声生成ステップでの演奏音声データ(Da)の生成(B6)と同時に、第1のダイナミックレンジより狭い第2のダイナミックレンジにて音声ファイル(F2、F1)に記録された音声データ(Df2、Df1)を再生するファイル音声再生ステップ(B5→B7)と、ファイル音声再生ステップで再生される音声データ(Df2、Df1)が記録された音声ファイル(F2、F1)のファイル名から、該音声ファイルが演奏操作によって記録された演奏音声データであるか否かを識別するための演奏記録識別子(“}{”、“.v116”)を検出する識別子検出ステップ(B2)と、識別子検出ステップで演奏記録識別子(“}{”、“.v116”)が検出されない場合(B2=NO)は、上記ファイル音声再生ステップにより再生される音声データの第2のダイナミックレンジを、第1のダイナミックレンジに合わせるよう広げるが、第1のダイナミックレンジより所定量狭くなるように第2のダイナミックレンジを広げ、上記識別子検出ステップにより演奏記録識別子が検出された場合(B2=YES)は、上記ファイル音声再生ステップにより再生される音声データの第2のダイナミックレンジを、第1のダイナミックレンジと同じになるように広げる再生音量制御ステップ(B3→B7)と、上記演奏音声生成ステップが生成した演奏音声データと上記再生音量制御ステップが再生した音声データとを加算してなる加算音声データを出力する加算出力ステップとから成る手順を実行させるプログラム〔請求項〕が提供される。なお、括弧書きは、理解の便のために付記した実施例の参照記号や用語等であり、以下においても同様である。
【0009】
この発明による電子楽器は、さらに、第1のダイナミックレンジにて、演奏音声生成手段(9A;A4,B6)により生成された演奏音声データ(Da→Df)を、逐次、第2のダイナミックレンジにて記録すると共に、演奏記録識別子(“}{”、“.v116”)を付与して音声ファイル(F2)を作成する音声ファイル作成手段(A1〜A5)を具備し、ファイル音声再生手段(B5→B7)は、音声ファイル作成手段(A1〜A5)により作成された音声ファイル(F2)或いは外部から取得された音声ファイル(F1)に記録された音声データ(Df2、Df1)を再生する〔請求項2〕ように構成することができる。
【0012】
この発明による電子楽器は、さらに、演奏記録識別子が付与されていない音声ファイル(F1)については新たに演奏記録識別子(“}{”、“.v116”)を付与し、演奏記録識別子(“}{”、“.v116”)が既に付与された音声ファイル(F2、F1)については該演奏記録識別子を変更する識別子付与手段(C12,C27)を具備する〔請求項〕ように構成することができる。
【0013】
この発明による電子楽器において、音声ファイル(F2、F1)に付与される演奏記録識別子(“}{”、“.v116”)は、当該音声ファイル(F2、F1)のファイル名に付与する1以上の文字から成る〔請求項〕ように構成することができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明の主たる特徴による電子楽器では(請求項1,)、演奏操作(6)に応じて演奏音声生成手段(9A)により演奏音声データ(Da)を生成する(B6)と同時に、音声ファイル(F2、F1)に記録された音声データ(Df2、Df1)を再生する際に(B5→B7)、再生される音声データ(Df2、Df1)を記録した音声ファイル(F2、F1)から演奏記録識別子(第1乃至第2形式の演奏記録識別子:例えば、“}{”、“.v116”)を検出し(B2)、演奏記録識別子(“}{”、“.v116”)が検出された場合は(B2=YES)、当該音声データ(Df2)の音量を検出されない場合(B2=NO)と異ならせる(9C;B3→B7)。例えば、第1形式と呼ばれる演奏記録識別子(“}{”)が存在し、電子楽器の演奏を録音した音声ファイルであることを識別すると、かかる音声ファイルについては、外部から取得した音声ファイルのように演奏記録識別子が存在しない場合よりも音量レベルを自動的に上げて補正した上で再生する。従って、この発明によれば、音声データの再生に合わせて演奏する際、再生される音声データの音量を、楽器演奏音とのバランスが取れた適切な音量に調整することができる。
【0015】
この発明による電子楽器では、さらに、演奏音声生成手段(9A)により生成された演奏音声データ(Da→Df)を逐次記録すると共に、演奏記録識別子(“}{”、“.v116”)を付与して音声ファイル(F2)を作成しておき(A1〜A5)、演奏音声データ(Da)を生成する(B6)と同時に音声データ(Df2、Df1)を再生する際には(B5→B7)、作成した音声ファイル(F2)或いは外部から取得した音声ファイル(F1)に記録された音声データ(Df2、Df1)を再生するように構成される(請求項2)。つまり、この電子楽器による演奏音(Da)を音声ファイル(F2)として記録することができ、記録の際には(A1〜A5)、演奏記録識別子(“}{”)を付与して、この電子楽器にて演奏音を記録した音声ファイル(F2)であると識別することができるようにしておく(A1)。また、外部から音声ファイル(F1)を取得することができ、演奏音を記録した音声ファイル(F2)或いは外部から取得した音声ファイル(F1)に記録された音声データ(Df2、Df1)を再生しながら(B7)、同時に電子楽器の演奏をすることができる(B6)。従って、この発明によれば、この電子楽器で作成された音声ファイル或いは外部から取得した音声ファイルに記録された音声データの再生に合わせて演奏する際、再生される音声データの音量を、楽器演奏音とのバランスが取れた適切な音量に調整することができる。
【0016】
また、この発明による電子楽器では、演奏記録識別子(第1形式の演奏記録識別子:例えば“}{”)の存在により、再生される音声データ(Df2)を記録したファイルが演奏音を記録した音声ファイル(F2)であることを識別すると(B2=YES)、当該音声データ(Df2)の再生音量を、演奏記録識別子が存在しない音声ファイル(F1)の場合(B2=NO)に比べて、この電子楽器の設計時に予め定められた所定量だけ変更する(B3→B7)ように構成され。例えば、電子楽器の演奏を録音した音声ファイルであることを識別すると、このような音声ファイルについては、外部から取得した音声ファイルの場合よりも音量レベルを自動的に上げて(+12dB)補正した上で再生する。従って、この発明によれば、演奏記録識別子を音量変更の目印として利用し、再生される音声データの音量を適切な所定の値に調整することができる。
【0017】
この発明による電子楽器では、音声ファイル(F2)に付与される演奏記録識別子(第2形式の演奏記録識別子:例えば“.v116”)には所定の音量調整量(例えば“116”)が含まれ(A1〜A5)、かかる演奏記録識別子(“.v116”)が検出された場合は、再生される音声データ(Df2)の音量を、検出されない場合(B2=NO)よりも音量調整量(“116”)だけ変更する(B3→B7)ように構成され。従って、この発明によれば、機種によって夫々のダイナミックレンジが異なっていたり、演奏音を録音する際にクリップしないように音量を調整する程度が異なっているような複数種類の電子楽器の間で演奏音を録音した音声データを交換した場合であっても、再生される音声データの音量を、演奏記録識別子が示す音量調整量に従った適切な値に調整することができる。また、この音量調整量には、電子楽器に備えられた音量操作子のユーザ操作によって音量を再調整した結果を反映することができる。
【0018】
この発明による電子楽器では、さらに、演奏記録識別子が付与されていない音声ファイル(F1)については新たに演奏記録識別子(“}{”、“.v116”)を付与したり、演奏記録識別子(“}{”、“.v116”)が既に付与された音声ファイル(F2、F1)については該演奏記録識別子を変更する(C12,C27)ように構成される(請求項)。例えば、他の録音機器(PCなど)で楽器演奏を録音して音声ファイル(F1)を作成した場合は、前述した(1)の場合と同様に、録音レベルを下げ気味に録音することになるが、この音声ファイル(F1)を電子楽器に取り込み、ファイル名に所定の文字を付与して演奏記録識別子(“}{”)を付けることで、演奏音を記録した音声ファイル(F2)と同等のものとして取り扱う。また、他機種の電子楽器にて楽器演奏を当該機種に対応して所定レベルで録音され演奏記録識別子が埋め込まれた音声ファイル(F1)を作成した場合は、この音声ファイル(F1)を電子楽器に取り込み、ファイルに埋め込まれた演奏記録識別子をこの電子楽器に対応した演奏記録識別子(“.v116”)に変更することで、この電子楽器のダイナミックレンジに合った再生音量でその音声データを再生する。従って、この発明によれば、このように他の録音機器や他機種の電子楽器で作成した音声ファイルについても、この電子楽器に対応した演奏記録識別子を付けることにより、適切な音量に補正することができる。
【0019】
この発明による電子楽器において、演奏記録識別子は、音声ファイルのファイル名に1以上の文字(“}{”、“.v116”)が付与されているか否かで判断する(請求項)。例えば、演奏音を音声ファイルに記録する際、演奏記録識別子として、音声ファイルの名前に所定の文字(「}{」、「.v11」)を入れることで、楽器演奏が録音された音声ファイル(F2)をファイル名で識別することができる。従って、この発明によれば、演奏記録識別子に視認性をもたせ、音声ファイルを別の再生機器(PCなど)にコピーして再生させた場合にも、楽器演奏を録音したファイルであるか、一般的なファイルであるかを視認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】この発明の一実施例による電子楽器のハードウエア構成図である。
図2】この発明の一実施例による音量調整例を説明するための模式図である。
図3】この発明の一実施例によるメイン処理のフローチャートである。
図4】この発明の一実施例によるファイル録音処理のフローチャートである。
図5】この発明の一実施例によるファイル再生演奏処理のフローチャートである。
図6】この発明の一実施例(第1実施形態)によるファイル識別子付与処理1のフローチャートである。
図7】この発明の一実施例(第2実施形態)によるファイル識別子付与処理2のフローチャートである。
図8】この発明の一実施例で用いられるファイル形式の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔ハードウエア構成例〕
図1は、この発明の一実施例による電子楽器のハードウエア構成例である。この発明の一実施例による電子楽器は、中央処理装置(CPU)1、タイマ2、ランダムアクセスメモリ(RAM)3、読出専用メモリ(ROM)4、外部記憶スロット5、演奏操作検出部6、設定操作検出部7、表示部8、音声データ処理部9、ネットワークインターフェース(I/F)10、MIDIインターフェース(I/F)11等の要素を備え、これら要素1〜11はバス12を介して互いに接続される。
【0022】
装置全体を制御するCPU1は、タイマ2、RAM3及びROM4と共に、各種制御プログラムに従って各種処理を実行する制御処理部を構成し、音声データ処理プログラムを含む各種制御プログラムに従い、タイマ2によるクロックを利用して音声データ処理を含む種々の処理を実行する。RAM3は、これらの処理に際して必要な各種データを一時的に記憶するためのワーク領域として用いられ、ROM4は、各種制御プログラムや必要な各種データが記憶されている。
【0023】
外部記憶スロット5は、可搬性の記憶媒体5Mが着脱可能であり、記憶媒体5Mと共に外部記憶装置として機能する。外部記憶スロット5及び記憶媒体5Mは、例えば、USBインターフェース(I/F)及びフラッシュメモリを内蔵したUSBメモリで構成することができる。この場合、USBメモリ5M内には、音声データを、例えばWAV形式で、音声ファイルとして記憶することができる。可搬性があるUSBメモリには、他の録音機器で生成した音声ファイルを記憶することができ、USBメモリに記憶された音声ファイルはこの電子楽器で利用することができ、また、この電子楽器で生成した音声ファイルはUSBメモリを介して他の再生機器で利用することもできる。もちろん、CD(コンパクトディスク)やDVD(デジタル多目的ディスク)などの可搬性記憶媒体を用いた他のタイプの記憶装置でもよいが、以下においては、記憶媒体5MとしてUSBメモリを用いるものとして説明する。
【0024】
演奏操作検出部6は、鍵盤などの演奏操作子の操作を検出し、検出された演奏操作に対応する演奏データを制御処理部に導入し、設定操作検出部7は、スイッチやノブ(音量操作子)等の設定操作子に対する操作内容を検出し、対応する各種設定情報を制御処理部に導入する。表示部8は、各種表示要素やLCD等のディスプレイ(表示器)の点灯/表示内容をCPU1からの指令に従って制御し、各種操作に対する表示援助を行う。
【0025】
音声データ処理部9は、音響信号処理部とも呼ばれ、音源効果部9A、記録音量調整部9B、再生音量調整部9C、加算部9Dなどから成る。音源効果部9Aは、CPU1からの指令に従い、演奏操作検出部6で検出された演奏操作に対応する演奏データ或いは所定の記憶手段に記憶された自動演奏データに基づいて、演奏楽音波形を表わすオーディオ形式の楽音データを生成し、更に、生成された楽音データに所定の効果を付与し演奏音声データDaとして記録音量調整部9B或いは加算部9Dに出力する。
【0026】
記録音量調整部9Bは、音源効果部9Aで生成された演奏音声データDaをUSBメモリ5Mにファイル音声データDfとして記憶する際に、所定量だけ当該演奏音声データDaのダイナミクス(音量)を調整する。また、再生音量調整部9Cは、USBメモリ5Mから所望のファイル音声データDfを再生する際に、CPU1からバス12経由で指示される再生音量制御信号に従って当該ファイル音声データDfのダイナミクス(音量)を調整し、調整されたファイル音声データ(調整後ファイル音声データ)Dbを加算部9Dに供給する。
【0027】
加算部9Dは、音源効果部9Aからの演奏音声データDa及び再生音量調整部9Cからの調整後ファイル音声データDbを加算し、加算された出力音声データDcを、音声データ処理部9に接続されたサウンドシステム13に供給することができる。そして、サウンドシステム13は、D/A変換部やアンプ、スピーカを備え、音声データ処理部9からの出力音声データDcに基づく楽音を発生する。
【0028】
ネットワークI/F10には、インターネットやローカルエリアネットワーク(LAN)などのネットワークが接続され、設定データやMIDI演奏データ(自動演奏データ)などの各種データを外部からダウンロードし、外部記憶スロット5に装着されたUSBメモリなどの記憶媒体5Mに保存してこの電子楽器で利用することができる。また、MIDII/F11には、この電子楽器と同様にMIDI音楽情報処理機能を有する外部MIDI機器が接続され、I/F11を通じてMIDI演奏データを授受することができる。
【0029】
〔音声データ(オーディオデータ)の処理〕
この発明の一実施例による電子楽器は、音声データ処理プログラムに従って動作させることができる。例えば、パーソナルコンピュータ(PC)などの外部機器において、CDからリッピングしたり、一般的な楽曲音声データを記録した音声ファイルをネットワーク経由でダウンロードしたり、音声信号の録音などをしたりして作った音声ファイルをUSBメモリに収めた後、このUSBメモリをこの電子楽器の外部記憶スロット5に記憶媒体5Mとして装着することにより、この電子楽器は、当該USBメモリ5Mに収められた音声ファイルを読み出して再生することができる。また、この電子楽器において、音声データ処理部9の音源効果部9Aで生成される音声データ即ち演奏音声データDaは、記録音量調整機能9Bによりダイナミクスを調整した後、USBメモリ5M内に用意された音声ファイルに順に記録することができる。ここで、前者のように外部から取得した音声ファイルは第1タイプ(通常タイプ)の音声ファイルF1と呼ばれ、後者のようにこの電子楽器で演奏音を記録した音声ファイルは第2タイプ(演奏記録タイプ)の音声ファイルF2と呼ばれる。そして、USBメモリ内の音声ファイルに記録される音声データ(オーディオデータ)Dfは一般にファイル音声データと呼ばれ、第1及び第2タイプの音声ファイルF1,F2内のファイル音声データDfは、それぞれ、第1及び第2タイプのファイル音声データDf1,Df2と呼ばれる。
【0030】
ここで、演奏音声データDaをファイルに記録する際には、「演奏記録識別子」と呼ばれる識別子が音声ファイルのファイル名に付与され、音声ファイルの種類を識別するのに用いられる。つまり、演奏が記録された第2タイプの音声ファイルF2には演奏記録識別子が付与されており、再生時の音量調整に有用される。また、第1タイプの音声ファイルF1であっても、外部機器(PCなど)で記録された音声データのように、演奏音声データDaを記録する場合と同様の態様でダイナミクスが調整された音声データが記録されている音声ファイルについては、ユーザ操作によりファイル名を変更して演奏記録識別子を付与し、第2タイプの音声ファイルF2に変換することができる。
【0031】
なお、この電子楽器には、演奏記録識別子として、例えば、“}{”のように、固定された所定の文字又は文字列から成る第1形式の演奏記録識別子を用い、第1形式の演奏記録識別子の有無により再生音量調整部9Cでの再生音量を切り替えるように動作する第1実施形態と、演奏記録識別子として、例えば、“.v116”のように、音量変更すべき可変の値(例えば、“116”)を含む所定の文字列から成る第2形式の演奏記録識別子を用い、第2形式の演奏記録識別子に含まれる可変の音量変更値(“116”)に応じて再生音量調整部9Cでの再生音量を変更するように動作する第2実施形態とがある。また、以下において両実施形態で異なるところがある場合には、第1実施形態における動作を中心に説明するものとする。
【0032】
USBメモリ内の音声ファイルに記録されているファイル音声データDfは、これを再生し、再生音量調整機能9Cによりその音量を調整して調整後ファイル音声データDbを生成することができ、調整後ファイル音声データDbと音源効果部9Aで生成された楽音データ即ち演奏音声データDaとを加算し(9D)、サウンドシステム13を通じて放音することができる。ここで、再生されるファイル音声データDfのダイナミクス即ち音量は、演奏記録識別子の有無に応じたCPU1からの再生音量制御信号に従い、ファイル音声データDfのタイプ(Df1,Df2)に対応した適切な値に調整することができる。
【0033】
図2は、この発明の一実施例による音量調整例を説明するための模式図である。まず、図2(1)の「音量調整〔1〕」は、PCなどの外部機器においてCDからリッピングしたりネットワーク経由で購入した第1タイプの音声ファイルF1を再生しながら同時に演奏する場合に行われる音量調整の模式図を示している。この場合、CDからのリッピングやネットワーク経由の購入によりUSBメモリ5Mに記憶された第1タイプの音声ファイルF1には、ダイナミックレンジぎりぎりの音量で第1タイプのファイル音声データDf1が記録されている。このような第1タイプの音声ファイルF1を再生しながら同時に演奏する場合、CPU1は、音声ファイルF1に演奏記録識別子がないことを検知し、再生音量制御信号により音声データ処理部9の再生音量調整部9Cを制御して、音源効果部9Aからの演奏音声データDaとのバランスが適切になるように、この音声ファイルF1から読み出されるファイル音声データDf1の音量を調整する。
【0034】
例えば、音源効果部9Aから出力される音声データ即ち演奏音声データDaのダイナミックレンジは、22ビット、132dBで表わされ、第1タイプの音声ファイルF1から読み出された音声データ即ち第1タイプのファイル音声データDf1のダイナミックレンジは、16ビット、96dBで表わされる。再生音量調整部9Cによる音量調整の結果、第1タイプのファイル音声データDf1は、音量が上げられ、そのダイナミックレンジが、20ビット、120dBで表わされる音声データDb1に変換される。このように再生音量調整部9Cで第1タイプのファイル音声データDf1を音量調整した後の音声データDb1は、第1タイプの調整後ファイル音声データと呼ばれ、加算部9Dに供給される。
【0035】
このように、音量調整〔1〕では、再生音量調整部9Cにより、第1タイプの音声ファイルF1から読み出された16ビットのファイル音声データDf1を4ビットシフトアップし(下位に“0”を4ビット分付け足す)、ダイナミックレンジを16ビット(96dB)から20ビット(120dB)に広げる。なお、音量調整〔1〕におけるシフトアップは、通常の音量設定と呼ばれ、後述する(3)の音量調整〔3〕における第2タイプの音声ファイルF2の場合よりも2ビット(12dB)だけ音量レベルが小さい。
【0036】
加算部9Dは、音源効果部9Aからの演奏音声データDaと再生音量調整部9Cからの第1タイプの調整後ファイル音声データDb1との加算処理を行う。この加算処理では、演奏音声データDaの22ビットと第1タイプの調整後ファイル音声データDb1の20ビットとが、下位ビットから桁を揃えて加算され、加算結果は22ビットになる。つまり、調整後ファイル音声データDb1の20ビットを更に2ビットシフトアップして加算するものではない。演奏による演奏音声データDaと第1タイプのファイル再生による調整後ファイル音声データDb1が加算されたダイナミックレンジ=22ビット、132dBの出力音声データDcが加算部9Dからサウンドシステム13へと出力される。そして、サウンドシステム13は、出力音声データDcに基づいて演奏音声と第1タイプのファイル音声とをスピーカから放音し、ユーザにはこれら2つの音が混ざって聞こえる。
【0037】
図2(2)の「音量調整〔2〕」は、この電子楽器による演奏音生成結果を音声ファイルに記録する場合に行われる音量調整の模式図を示している。この場合、音声データ処理部9の音源効果部9Aから出力される演奏音声データDaは、例えば、前述と同様に、ダイナミックレンジが22ビット、132dBであるが、記録音量調整部9Bによって、この演奏音声データDaのダイナミックレンジが、16ビット、96dBにシフトダウンされる。つまり、記録音量調整部9Bによる音量調整では、演奏音声データDaの下位6ビットが切り捨てられ、22ビット(132dB)あったダイナミックレンジが16ビット(96dB)に狭まる。
【0038】
そして、このように音量調整された演奏音声データDaは第2タイプのファイル音声データDf2としてファイルに記録され、このファイル音声データDf2を含むファイルは、ファイル名に演奏記録識別子が付記された上、USBメモリ5Mに第2タイプの音声ファイルF2として記憶される。このように演奏音声データDaの音量を調整したファイル音声データDf2が第2タイプの音声ファイルF2として記憶された場合、次の音量調整〔3〕で説明するように、この第2タイプのファイル音声データDf2を後で再生しながら同時に演奏をすることができる。
【0039】
図2(3)の「音量調整〔3〕」は、演奏音を記録した第2タイプの音声ファイルF2を再生しながら同時に演奏する場合、つまり、音量調整〔2〕で説明したように作成された音声ファイルF2を再生し、それと同時に演奏をする場合に行われる音量調整の模式図を示している。上述の説明のように、演奏音を記録したUSBメモリ5M内の第2タイプの音声ファイルF2には、ダイナミックレンジ対して低めの音量でファイル音声データDfが記録されている。CPU1は、この音声ファイルF2に演奏記録識別子があることを検知し、再生音量制御信号により音声データ処理部9の再生音量調整部9Cを制御して、音源効果部9Aからの演奏音声データDaとのバランスが適切になるように、音声ファイルF2から読み出される第2タイプのファイル音声データDf2の音量を調整する。
【0040】
既述のように、音源効果部から出力される演奏音声データDaのダイナミックレンジは、22ビット、132dBであるが、演奏音を記録した音声ファイルF2から読み出される第2タイプのファイル音声データDf2のダイナミックレンジは、16ビット、96dBである。ファイル音声データDf2は、再生音量調整部9cによる音量調整が行われ、ダイナミックレンジが、22ビット、132dBに変換されて音量レベルが上げられる。これにより、音量が上げらた第2タイプの調整後ファイル音声データDb2が生成され、加算部9Dに供給される。このように、音量調整〔3〕では、再生音量調整部9Cにより、第2タイプの音声ファイルF2から読み出された16ビットのファイル音声データDf2を6ビットシフトアップし(下位に“0”を6ビット分付け足す)、ダイナミックレンジが16ビット(96dB)から22ビット(132dB)に広がる。つまり、音量調整〔3〕におけるシフトアップは、音量調整〔2〕による通常の音量設定に比べて2ビット(12dB)だけ音量レベルが大きい。
【0041】
加算部9Dは、音源効果部9Aからの演奏音声データDaと再生音量調整部9Cからの第2タイプの調整後ファイル音声データDb2との加算処理を行い、この加算処理では、演奏音声データDaの22ビットと第2タイプの調整後ファイル音声データDb2の22ビットとが単純に加算される。そして、演奏による演奏音声データDaと第2タイプのファイル再生による調整後ファイル音声データDb2とを加算したダイナミックレンジ=22ビット、132dBの出力音声データDcが、加算部9Dからサウンドシステム13へと出力され、出力音声データDcに基づいて、演奏音声及び第2タイプのファイル音声がサウンドシステム13から放音され、ユーザにはこれら2つの音が混ざって聞こえる。
【0042】
以上の説明では、第2タイプのファイル音声データDf2の音量を所定量だけ上げる場合について説明したが、音量を下げる場合もある。つまり、電子楽器によっては、演奏音声データDaの音量が全体的に大きく且つ時間的なばらつきが少なく、ダイナミックレンジの限界まで十分な音量レベルで発音すると共に、十分大きな音量で第2タイプのファイル音声データDf2を生成するものがある。この種の電子楽器としては、例えば、電子オルガンのようにアタック感が弱く持続音を専門に鳴らすもの等が挙げられる。このような電子楽器では、演奏音声データDaとリッピングによる第1タイプのファイル音声データDf1の再生との音量バランスが再生音量調整部9Cにより丁度よく調整されていると、演奏音声データDaと第2タイプのファイル音声データDf2とを同時に鳴らした場合、第2タイプのファイル音声データDf2の音量が大きすぎて音量バランスが悪く感じられることがある。従って、このような場合には第2タイプのファイル音声データDf2の音量を所定量だけ下げる。
【0043】
また、図2において、演奏音声データDaの採り得るダイナミックレンジも出力音声データDcの採り得るダイナミックレンジも22bit(132dB)であるが、これらダイナミックレンジは、電子楽器の機種によって異なるかも知れない。また、それに伴い、再生音量調整部9Cの調整量やその調整結果である第1タイプの調整後ファイル音声データDb1のダイナミックレンジ、記録音量調整部9Bの調整量やその調整結果である第2タイプの調整後ファイル音声データDf2のダイナミックレンジも、電子楽器の機種によって異なるかも知れない。このように、複数種類の電子楽器が利用可能であり、夫々の電子楽器でダイナミックレンジが異なっていたり、演奏音を録音する際にクリップしないように音量を調整する程度が異なっているかも知れない場合には、異なる機種間でファイル音声データを交換しても破綻の無い音量調整を行うことが必要となる。
【0044】
このため、後で詳述する第2実施形態では、第2形式の演奏記録識別子(例えば、“.v116”)付与された音声ファイルに記録された第2タイプのファイル音声データDf2を再生する場合は、第1タイプの音声ファイルF1の場合(音量調整〔1〕)よりも、第2形式の演奏記録識別子に含まれる可変値(例えば、“116”)に応じた音量変更量(例えば、+12dB)だけ再生音量を変更するように構成される。これによって、上述のように、異なる機種間で演奏音を録音した音声データを交換した場合であっても、適切な音量調整を行うことができる。
【0045】
以上のように、この発明の一実施例による電子楽器では、演奏音声データDaをファイル音声データDf2として音声ファイルF2に記録することができ(音量調整〔2〕)、記録の際は、演奏音記録タイプの音声ファイルF2であることを示す演奏記録識別子を付与しておく。また、外部からは別タイプの音声ファイルF1を取得することができ、何れかのタイプの音声ファイルF1,F2内の音声データDf1,Df2を再生しながら、同時に演奏することができる。その際、演奏記録識別子により、再生対象が演奏音記録タイプの音声ファイルF2の音声データDf2であると識別された場合は(音量調整〔3〕)、音声データDf2の音量を別タイプの音声ファイルF1の場合(音量調整〔1〕)とは異ならせることにより(Df2→Db2)、再生音(Db2)と楽器演奏音(Da)との音量バランスを適切にする。例えば、第1実施形態では、第1形式の演奏記録識別子(“}{”)があると、音声データDf2の音量を別タイプの音声ファイルF1の場合(音量調整〔1〕)より所定量(例えば、+12dB)だけ変更し、第2実施形態では、第2形式の演奏記録識別子(例えば、“.v116”)があると、音声データDf2の音量を別タイプの音声ファイルF1の場合(音量調整〔1〕)よりも、当該識別子に含まれる可変値(例えば、“116”)に応じた音量変更量(例えば、+12dB)だけ変更する。
【0046】
〔処理フロー例〕
図3図7は、この発明の一実施例による電子楽器において実行される音声データ処理に関する種々のフローチャートであり、図3は、メイン処理を表わすフローチャート(第1・第2実施形態で共通)を示す。図3において、この電子楽器の電源投入によりメイン処理が開始すると、CPU1は、最初のステップM0で、設定操作検出部7に対するユーザの処理項目指定操作に応じて処理を振り分ける。この操作は、この電子楽器の設定操作検出部7に設定操作子として設けられたスイッチやロータリエンコーダ等で行なわれ、所定の処理項目を指定する操作が設定操作検出部7で検出され、バス12経由でCPU1に導入される。そして、CPU1は、導入された設定操作内容に基づいて処理を振り分け、その際、適宜、ユーザ操作に有用な操作援助情報を表示部8のディスプレイに表示する。
【0047】
ここで、処理項目として「ファイル録音」が指定されると、ステップMAに進んで(A)演奏をファイルに録音する処理(ファイル録音処理という)を行い、「ファイル再生演奏」が指定されると、ステップMBに進んで(B)ファイル再生と一緒に演奏する処理(ファイル再生演奏処理という)を行い、「ファイル名変更」が指定されると、ステップMCに進んで(C)識別子をファイルに付与する処理(ファイル識別子付与処理という)を行い、その他の処理項目が指定されると、ステップMDに進んで(D)その他の処理を行う。その他の処理には、単に演奏操作検出部6の演奏操作子を演奏して音源効果部9Aで楽音データを生成したり、自動演奏データに基づいて音源効果部9Aに自動演奏の楽音データを生成させたり、設定操作子を用いて設定された各種設定データを外部記憶装置に記憶したりRAM3に読み込んだり、音源効果部9Aにおける音色の設定やMIDII/F11の設定などを行うといった種々の処理が含まれる。そして、ステップMA〜MDの何れかにおいて、指定された何れかの処理が終了すると、ステップM0に戻ってユーザの処理項目指定操作を待機し、操作に応じて上述したステップM0〜MDの処理を繰り返す。
【0048】
図4は、メイン処理(図3)のステップMAで行われるファイル録音処理(演奏をファイルに録音する処理)を表わすフローチャート(第1・第2実施形態で共通)であり、この処理はメイン処理から呼び出されて実行される。図4において、ファイル録音処理がスタートすると、CPU1は、第1ステップA1で、USBメモリ5Mに既に記憶されている他のファイルのファイル名と重ならないファイル名を生成し、その際、ファイル名の拡張子の前に演奏記録識別子を含ませる。第1実施形態では、音量変更の目印となる所定の文字列:例えば、“}{”が演奏記録識別子に用いられ、例えば、まず、「Wav001}{.wav」をファイル名の候補とし、この名前のファイルが既にUSBメモリ内に記憶されていれば「Wav002}{.wav」を候補とし、それでも同じ名前のファイルがあれば「Wav003}{.wav」を候補とし、同名ファイルが記憶されていないときの候補を作成するファイルの名前に決定する。
【0049】
続くステップA2では、音声データ部分が空のファイルを生成する。例えば、WAV形式ファイル(図7参照)でいうならば、fmtチャンクには情報が入っているものの、dataチャンクは空のファイルを生成する。次のステップA3では、録音開始の処理をする。つまり、ユーザが所定の設定操作子(スイッチ)を操作して録音開始を指示すると、設定操作検出部7は、当該指示操作を検出しバス12経由でCPU1に導入する。CPU1は、それに基づいて演奏音声データDaの録音を開始する。
【0050】
次いで、ステップA4で、CPU1は、演奏操作検出部6における鍵盤などの演奏操作子に対するユーザの演奏操作に応じて、対応する演奏データをバス経由13で音声データ処理部9に送り、演奏音声生成を指示する。例えば、演奏データにより、音高を指定し、その音高で発音を開始したり、発音を停止するように指示する。これによって、音声データ処理部9では、音源効果部9Aにより、演奏データに従って、楽音データが生成されこれに適宜効果を付与した演奏音声データDaが生成されて加算部9Dに渡され、演奏データによる指示が演奏音声生成に反映される。また、演奏音声データDaを録音するために、音源効果部9Aにより、所定のサンプリング周期で次々に生成され演奏音声データDaは、CPU1からの記録音量制御の指示に従って、下位6ビットが切り捨てられ、順次、音声データ処理部9内に準備されたバッファ(図示せず)に溜められる。
【0051】
更に次のステップA5では、音声データ処理部9から、逐次、演奏音声データDaを読出し、USBメモリ5M内に生成されたファイルの音声データ部分に書き足す。つまり、CPU1は、所定周期(例えば、10msec)で音声データ処理部9内のバッファに溜まった演奏音声データDaをUSBメモリ内のファイルに書き足してゆく。なお、このような逐次録音を開始するための処理として、バッファの準備や、タイマ割込み或いはバッファが消費されたことを通知するハードウェア割込みの設定などが行われる。
【0052】
そして、ステップA6で、ファイル録音処理(演奏をファイルに録音する処理)の終了操作がなされたか否かを判定し、終了操作がなされないときは(A6=NO)、ステップA4に戻ってステップA4〜A5の処理を繰り返す。そして、終了操作がなされると(A6=YES)このファイル録音処理を終了しメイン処理のステップM0に戻る。つまり、ユーザが所定の設定操作子(スイッチ)を操作して録音終了を指示すると、設定操作検出部7は、この終了指示操作を検出してバス12経由でCPU1に導入し、CPU1はそれに基づいてファイル録音処理を終了する。
【0053】
図5は、メイン処理(図3)のステップMBで行われるファイル再生演奏処理(ファイル再生と一緒に演奏する処理)を表わすフローチャート(第1・第2実施形態共通)であり、この処理はメイン処理から呼び出されて実行される。図5において、ファイル再生演奏処理がスタートすると、CPU1は、最初のステップB1で、ユーザ操作に応じて、再生するファイルを選択する。例えば、CPU1は、USBメモリ内のファイルを調べ、演奏と一緒に再生することができる音声ファイルを表示器に表示してユーザに選択させる。ユーザが所定の設定操作子(スイッチ)を操作してファイルを順に表示させ所望の音声ファイルを選択すると、その操作は設定操作検出部7により検出され、バス12経由でCPU1に導入される。
【0054】
次のステップB2では、選択されたファイルのファイル名の拡張子の前に演奏記録識別子があるか否かを判定し、演奏記録識別子があったときは(B2=YES)、ステップB3に進み、音声データ処理部9の再生音量調整部9Cに対して、音量を通常の音量設定に比べて変更する設定を行う。ここで、第1実施形態において、演奏記録識別子:“}{”があると判定した場合は(B2=YES)、ステップB3で、この電子楽器の設計時に予め決められた所定の値の設定、例えば、通常の音量設定より12dBアップさせる設定をする。つまり、ステップB3では(演奏記録識別子がある場合)6ビットシフトアップする(下位に“0”を6ビット分付け足す)ように設定する。一方、演奏記録識別子がないたときには(B2=NO)ステップB4に進んで、再生音量調整部9Cに通常の音量設定をする。つまり、ステップB4では(演奏記録識別子がない場合)、4ビットシフトアップする(下位に“0”を4ビット分付け足す)ように設定する。
【0055】
ステップB3或いはステップB4の音量設定の後は、ステップB5で、再生開始の処理をする。つまり、ユーザが所定の設定操作子(スイッチ)を操作して、選択された音声ファイルの再生開始を指示すると、設定操作検出部7はその操作を検出し、バス12経由でCPU1に導入する。CPU1は、再生開始の指示操作に基づいてファイル音声データDfの再生を開始する。
【0056】
次のステップB6では、ファイル録音処理のステップA4と同様に、演奏操作検出部6における鍵盤などの演奏操作子に対するユーザの演奏操作に応じて、対応する演奏データを音声データ処理部9に送り、演奏音声生成を指示する。これによって、音声データ処理部9では、音源効果部9Aにより、演奏データに従い、オーディオ楽音データが生成され、これに適宜効果を付与した演奏音声データDaが生成されて加算部9Dに渡される。
【0057】
更に次のステップB7では、選択された音声ファイルから逐次ファイル音声データDfを読出し、音声データ処理部に渡す。より具体的に説明すると、ファイル音声データDfを再生する際には、CPU1は、所定周期(例えば、10msec)でUSBメモリ5M内の当該ファイルからその周期分のファイル音声データDfを読み出し、図示しない音声データ処理部9内のバッファに書き込む。音声データ処理部9では、バッファに書き込まれたファイル音声データDfが所定のサンプリング周期で1サンプルずつ処理され、再生音量調整部9Cにより、ステップB3或いはステップB4での設定に応じて、ファイル音声データDfに音量レベルの変換が施されて調整後ファイル音声データDbが生成され、加算部9Dに渡される。なお、このようなファイル音声データの再生を開始するための処理として、バッファのタイマ割込み或いはバッファが消費されたことを通知するハードウェア割込みの設定などをする。
【0058】
そして、ステップB8で、ファイル再生演奏処理(ファイル再生と一緒に演奏する処理)の終了操作がなされたか否かを判定し、終了操作がなされないときは(B8=NO)、ステップB6に戻ってステップB6〜B8の処理を繰り返す。そして、終了操作がなされると(B8=YES)このファイル再生演奏処理を終了しメイン処理のステップM0に戻る。つまり、ユーザが所定の設定操作子(スイッチ)を操作して再生演奏の終了を指示すると、設定操作検出部7は、この終了指示操作を検出してバス12経由でCPU1に導入し、CPU1はそれに基づいてファイル再生演奏処理を終了する。
【0059】
図6は、第1実施形態に従ってメイン処理(図3)のステップMCで行われるファイル識別子付与処理(識別子をファイルに付与する処理)1を表わすフローチャート(第1実施形態で適用)であり、この処理はメイン処理から呼び出されて実行される。図6において、このファイル識別子付与処理1がスタートすると、CPU1は、最初のステップC11で、USBメモリ5Mから所望のファイルをユーザに選択させ、次のステップC12で、ユーザ操作に応じて、選択されたファイルのファイル名を変更する。例えば、第1タイプの音声ファイルF1について、ファイル名の拡張子の前に演奏記録識別子:“}{”を付加し、第2タイプの音声ファイルF2に変換することができる。
【0060】
さらに、ステップC13では、選択されたファイルが音声ファイルであり、元の(変更前の)ファイル名の拡張子の前に演奏記録識別子:“}{”がなく、かつ、編集された(変更後の)ファイル名の拡張子の前に演奏記録識別子:“}{”があるか否かを判定する。つまり、ファイル名を変更する対象となるファイルには、各種設定操作データを収めたファイルもあるので、音声ファイルに絞った上で演奏記録識別子の存否を確かめる。また、音声ファイルであるか否かは、ファイル拡張子が、例えば、“.wav”などのように、音声ファイルを表わすものであるか否かで判断する。ここで、変更前のファイル名拡張子の前に演奏記録識別子がなく、変更後のファイル名拡張子の前に演奏記録識別子がある音声ファイルが選択されたとき、例えば、変更前のファイル名が「xxxxxx.wav」で、変更後のファイル名が「xxxxxx}{.wav」の場合は(C13=YES)、ステップC14に進む。そして、ステップC14で、この音声ファイルが高い音量レベルで再生される旨の注意文を、所定時間(例えば、3.5秒)の間、表示部8のディスプレイに表示した後、このファイル識別子付与処理1を終了し、メイン処理のステップM0に戻る。
【0061】
逆に、選択されたファイルが音声ファイルでない、変更前のファイル名に演奏記録識別子がある、変更後のファイル名に演奏記録識別子がないなどの場合には(C13=NO)、注意文は出さず、直ちに、このファイル識別子付与処理1を終了し、メイン処理のステップM0に戻る。例えば、ステップC12で、演奏記録識別子:“}{”がファイル名から削除された場合は、音量が小さくなるように影響が出て、危険ではないから、注意文は出さない。
【0062】
なお、(B)のファイル再生演奏処理(図5)におけるステップB2では、ファイル名の拡張子の前に演奏記録識別子があるか否かを判断しているが、これに代えて、ファイル名の先頭からの所定の位置(例えば、7文字目と8文字目)に演奏記録識別子があるか否かを判断するようにしてもよい。あるいは、位置に係らずファイル名に、演奏記録識別子が含まれているか否かで判断するようにしてもよい。
【0063】
<第2実施形態>
第1実施形態では、音声ファイルに記録した第1形式の演奏記録識別子の有無により音量を切り替えるようにしているが、第2実施形態では、音量変更すべき可変の値を含む第2形式の演奏記録識別子を音声ファイルに埋め込んでおき、その値に基づいて音量を変更するように動作する。以下、このように音量変更値を含む第2形式の演奏記録識別子を用いる第2実施形態における特徴的な動作について説明する。
【0064】
図2の説明で既に述べたように、利用可能な複数種類の電子楽器があり、夫々のダイナミックレンジが異なっていたり、演奏音を録音する際にクリップしないように音量を調整する程度が異なっている場合がある。そこで、第2実施形態では、演奏記録識別子に可変の音量変更値を含ませることによって、このような異なる機種間で演奏音を録音した音声データを交換した場合であっても、破綻の無い適切な音量調整を行うことができる。
【0065】
第2実施形態では、特に、図4のファイル録音処理におけるステップA1の演奏記録識別子付きファイル名生成処理において、例えば“.v116”のように、ピリオド(“.”)と可変の3桁数字(例えば、“116”)を含む第2形式の演奏記録識別子がファイル名に埋め込まれる。この場合、生成されるファイル名は、例えば、「xxxxxx.v116.wav」となる。第2形式の演奏記録識別子において、3桁数字は、十進数の値を表わし、値“100”は、「調整なし」即ち「第1タイプのファイル音声データDf1と同量」を意味する。そして、0.75dB/ステップ(step)で、値“000”〜“127”の範囲で音量変更値を表わすことができる。
【0066】
例えば、ファイル名:「xxxxxx.v116.wav」の第2タイプのファイル音声データDf2を再生するときは、演奏記録識別子のない第1タイプのファイル音声データDf1と同量だけ音量調整される。つまり、図2(1)のように、再生音量調整9Cで4ビットのシフトアップをし、ダイナミックレンジは、16ビット(96dB)から20ビット(120dB)になる。
【0067】
ここで、第2形式の演奏記録識別子が“.v116”であるということは、第2タイプのファイル音声データDf2が再生されるときに、“.v116”に相当する分だけ音量を調整することを指示している。すなわち、0.75dB×(116−100)step=12dBだけ第1タイプのファイル音声データDf1よりも音量を上げることを意味する。つまり、シフトアップの量は、1ビットあたり6dBに相当するので、第1タイプのファイル音声データDf1のシフトアップ分4ビットに加え、更に2ビット(=12÷6)シフトアップし、合計6ビットのシフトアップとなる。
【0068】
また、第2実施形態では、図5のファイル再生処理において、識別子検出処理(B2)の結果第2形式の演奏記録識別子(例えば、“.v116”)があると判定した場合(B2=YES)、ステップB3の音量設定処理で、当該演奏記録識別子に含まれる音量変更値を表わす文字列から得られる音量変更の指定値に従って再生音量調整部9Cに音量設定をする。例えば、上述したように第2タイプのファイル音声データDf2の演奏記録識別子の文字列が“.v116”の場合、この文字列から12dBアップを読み取り、シフトアップの設定をする。この文字列の値は、ファイル名の書換えをしない限り維持される。
【0069】
第2実施形態では、さらに、メイン処理(図3)のステップMCにおいてファイル識別子付与処理(識別子をファイルに付与する処理)2が行われ、演奏記録識別子として所望の音量調整量がファイルに埋め込まれる。このファイル識別子付与処理では、以下に説明するように、再生音量調整部9Cに対する音量調整を演奏記録識別子に反映させることにより所望の演奏記録識別子をファイルに付与することができるが、単に、設定操作検出部7に設けられたパネル上の設定操作子を使って、ファイル名のテキストを一文字ずつ編集していくことも可能である。
【0070】
図7は、ファイル識別子付与処理2の一例を表わすフローチャート(第2実施形態で適用)である。このファイル識別子付与処理2は、メイン処理から呼び出されて実行され、ファイルを再生させながら演奏操作による発音と一緒に聞き、設定操作子中の音量変更用のノブで再生音量調整部9Cにおけるファイル音声データDfの音量値を決めることにより、演奏記録識別子を所望値に修正することができる。
【0071】
図7において、このファイル識別子付与処理2がスタートすると、CPU1は、最初のステップC21で、USBメモリ5Mから所望のファイルをユーザに選択させ、次のステップC22で、再生開始の処理をする。つまり、別タスクに、ファイルを順次繰り返し再生させる処理の開始を指示し、その後、別タスクは再生をし続ける。次いで、ステップC23で、設定操作子(ノブ)の操作値を取得し、次のステップC24では、取得したノブ操作値に応じて、再生音量調整部9Cに音量変更を指示する。さらに、ステップC25にて、音源効果部9Aに対しユーザの演奏操作に応じて楽音生成を行うように指示した後、ステップC26に進む。
【0072】
ステップC26では、パネル上の所定の設定操作子で音量値決定の操作がなされたか否かを判定し、決定操作がなされないときは(C26=NO)、ステップC23に戻り、ステップC23〜C26の処理を繰り返す。ここで、ファイル音声データDfについて所望の音量設定値が得られ、ユーザにより音量値決定の操作がなされると(C26=YES)、ステップC27に進んで、決定操作がなされたときの音量設定値に応じた文字列をもつ演奏記録識別子を生成し、選択されたファイルに新規に付与する。或いは、選択されたファイルに既に演奏記録識別子が記録されている場合は、生成した演奏記録識別子を既存の演奏記録識別子と置き換える。そして、ステップC27における新規演奏記録識別子の付与処理の後、このファイル識別子付与処理2を終了しメイン処理のステップM0に戻る。
【0073】
〔音声ファイル形式と別の実施形態〕
以上説明した第1及び第2形式の実施形態では、電子楽器の演奏音を記録して作成した第2タイプの音声ファイルF2であるか否かを識別し音量変更を指示するための識別子(演奏記録識別子)として、ファイル名に特定の文字、例えば、“}{”や“.v116”などを付与するようにしているが、これに替えて、このようなタイプを識別し音量変更を指示するためのデータを演奏記録識別子としてファイル内に埋め込むように構成することができる。この場合は、PCなどで、ファイル名で視認することができず、また、ファイル名を変更することで演奏記録識別子を付ける或いは取るということもできない。ファイルに演奏記録識別子が付いているか否かを確かめたり、演奏記録識別子を付けたり取ったりすることは、そのための専用の機能を備えた電子楽器で行われる。以下、このように演奏記録識別子をファイル内に埋め込む場合の実施形態について、より具体的に説明する。なお、以下の説明では、典型的なファイル形式として、WAV形式を想定しているが、もちろん他の形式でもよい。
【0074】
図8は、この場合に用いられるファイル形式の説明図であり、第2タイプの音声ファイルF2を例にしている。WAV形式では、図8に示すように、各種データが複数のチャンクに分けられて格納されており、各チャンクの先頭には、そのチャンクの種類を表わすタグ(短い文字列)が配置される。ここで、fmtチャンクCHf及びdataチャンクCHdが必須であり、dataチャンクCHdには、dataチャンクであることを表わすタグの後に、音声データ(Df2)そのものが収められる。fmtチャンクCHfには、fmtチャンクであることを表わすタグに続いて、チャンネル数、サンプリングレート、1サンプルあたりのビット数、…というように、dataチャンクCHdに収められた音声データDf2の形式に関する情報がfmtチャンクに収められる。なお、前述した第1及び第2形式の実施形態では、演奏音を記録する音声ファイルF2は、fmtチャンクCHfとdataチャンクCHdとからなるWAV形式ファイルとし、そのファイル名に演奏記録識別子として特定の文字:“}{”や“.v116”などを付与するようにして実現することができる。
【0075】
これに対して、演奏記録識別子をファイル内に埋め込む場合には、図8に破線で示すように、メーカ固有の情報を収めるためのメーカ固有チャンクCHmが設けられ、メーカ固有チャンクCHmには、先頭に、メーカ固有チャンクであることを表わすタグが配置され、さらに、第1乃至第2形式の演奏記録識別子が記録され、演奏音(Df2)を記録して作成したことを表わし音量変更を指示するのに用いられる。なお、メーカ固有チャンクCHmを参照する必要のない再生装置では、このチャンクを無視することができる。
【0076】
このように実施した場合も、前述した第1形式の実施形態と同様に演奏記録識別子の有無により再生音量を切り替えることができる。ただし、前述した第1形式の実施形態と次の点が異なる。
(A)ファイル録音処理:外部記憶メディア(USBメモリ)にあるファイルと重ならないファイル名を生成する際(A1)、ファイル名の拡張子の前に演奏記録識別子:“}{”を含ませることはしない。音声ファイルを作成する際は(A3,A5)、fmtチャンク、空のdataチャンク及びメーカ固有チャンクから成るファイルを生成し、メーカ固有チャンクには、演奏音を記録して作成したことを表わす演奏記録識別子を書き込んでおく。
(B)ファイル再生演奏処理:ステップB2では、「選択されたファイルのファイル名の拡張子の前に識別子はあるか?」という判断をするのに替えて、「選択されたファイル内に識別子はあるか?」という判断をする。
(C)ファイル識別子付与処理1:ステップC12では、「ユーザ操作に応じてファイル名を変更する」のに替えて、「ユーザ操作に応じて演奏記録識別子を含むメーカ固有チャンクの演奏記録識別子の挿入或いは削除をする」という処理をする。そして、ステップC13では、「演奏記録識別子が新規に挿入されたか?」という判断をする。
【0077】
或いは、前述した第2形式の実施形態と同様に、演奏記録識別子に含まれる可変の音量
変更値に応じて再生音量を切り替えることができる。ただし、前述した第2形式の実施形態と次の点が異なる。
(A)ファイル録音処理:外部記憶メディア(USBメモリ)にあるファイルと重ならないファイル名を生成する際(A1)、ファイル名の拡張子の前に演奏記録識別子:“.v116”を含ませることはしない。音声ファイルを作成する際は(A3,A5)、fmtチャンク、空のdataチャンク及びメーカ固有チャンクから成るファイルを生成し、メーカ固有チャンクには、音量の調整量を表わす演奏記録識別子(例えば、12dB音量を上げることを意味する“v116”という文字列型データ)を書き込んでおく。
(B)ファイル再生演奏処理:ステップB2では、「選択されたファイルのファイル名の拡張子の前に識別子はあるか?」という判断をするのに替えて、「選択されたファイル内に識別子はあるか?」という判断をする。
(C)ファイル識別子付与処理2:ステップC27では、ファイル名に識別子の付与或いは置換えをするのに替えて、ファイル内のメーカ固有チャンクに識別子の付与或いは置換えをする。
【0078】
〔種々の実施態様〕
以上、図面を参照しつつこの発明の好適な実施の形態について説明したが、これは単なる一例であって、この発明は、発明の精神を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。例えば、実施例では、リッピングやネットワークからの音声ファイルのダウンロードはパーソナルコンピュータ(PC)などの外部機器において行なうように説明をしたが、それに代えて、電子楽器自身がリッピングや音声ファイルのダンロードをする機能を備え、電子楽器自身で行ない、音声ファイルを外部記憶スロット5に装着されたUSBメモリ(5M)に記憶するようにしてもよい。
【0079】
実施例では、1つの装置でファイル生成と再生との両方の機能を備えるようにしているが、片方ずつの機能を備える装置があってもよい。
【符号の説明】
【0080】
Da 演奏音声データ(音源効果部9Aで生成されるオーディオ形式の楽音データ)、
F1,F2 第1及び第2タイプの音声ファイル、
Df:Df1,Df2 ファイル音声データ(数字は第1、第2タイプを示す)、
Db:Db1,Db2 調整後ファイル音声データ(数字は第1、第2タイプを示す)、Dc 加算部9Dからサウンドシステム13に出力される出力音声データ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8