特許第5839085号(P5839085)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5839085
(24)【登録日】2015年11月20日
(45)【発行日】2016年1月6日
(54)【発明の名称】粘着剤およびそれ用いた粘着シート
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/04 20060101AFI20151210BHJP
   C09J 133/14 20060101ALI20151210BHJP
   C09J 7/02 20060101ALI20151210BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20151210BHJP
   C09J 175/04 20060101ALI20151210BHJP
【FI】
   C09J133/04
   C09J133/14
   C09J7/02 Z
   G02B5/30
   C09J175/04
【請求項の数】6
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-120562(P2014-120562)
(22)【出願日】2014年6月11日
(62)【分割の表示】特願2011-31666(P2011-31666)の分割
【原出願日】2011年2月17日
(65)【公開番号】特開2014-205843(P2014-205843A)
(43)【公開日】2014年10月30日
【審査請求日】2014年6月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】竹内 直樹
(72)【発明者】
【氏名】高橋 政勝
(72)【発明者】
【氏名】真下 幸文
(72)【発明者】
【氏名】吉田 光男
(72)【発明者】
【氏名】清水 格
【審査官】 磯貝 香苗
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−294378(JP,A)
【文献】 特開昭51−115542(JP,A)
【文献】 特開2001−131513(JP,A)
【文献】 特開2006−307197(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 133/04
C09J 7/02
C09J 133/14
C09J 175/04
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系共重合体(A)と、イソシアネート基を有する化合物(B)とを含有する粘着剤であって、
前記アクリル系共重合体(A)が、水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(a1)0.005〜0.25重量%と、その他のエチレン性不飽和モノマー(a2)との共重合体であり、
前記イソシアネート基を有する化合物(B)が、2官能イソシアネート化合物(b1)と、イソシアネート基と反応可能な官能基を2個以上有する数平均分子量500〜5000の化合物(b2)を反応させてなり、
前記化合物(b2)が、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、およびポリカーボネートジオール、ならびにこれらの共重合体からなる群より選択されるポリオール(b3)であることを特徴とする粘着剤。
【請求項2】
記アクリル系共重合体(A)の水酸基1モルに対して、イソシアネート基が1〜300モルになる比率でイソシアネート基を有する化合物(B)を含有することを特徴とする請求項1記載の粘着剤。
【請求項3】
さらに、イソシアネート基を有する化合物(B)以外の3官能イソシアネート化合物(C)を含有することを特徴とする請求項1または2記載の粘着剤。
【請求項4】
基材と、請求項1〜3いずれか1項に記載の粘着剤から形成されてなる粘着層とを有す
ることを特徴とする粘着フィルム。
【請求項5】
前記基材が、光学部材であることを特徴とする請求項4記載の粘着フィルム。
【請求項6】
前記光学部材が、偏光板である請求項5記載の粘着フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイ装置等のカラー表示装置を構成する部材、特に偏光板に用いられる光学用の粘着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラスやセラミックス、金属などの無機面に、粘着フィルム等を貼合した場合、経時変化により、フィルム端部分に剥がれが生じたり、貼合せ部に浮きが生じたりするなどの現象がしばしば見られる。
【0003】
このような現象を解決するために、一般的には、粘着フィルムに用いる重合体の分子量を上げたり、粘着層の架橋密度を高めたりするなどして、粘着特性を高めた粘着フィルムが用いられてきた。しかし、このような粘着フィルムを使用した場合、粘着力や凝集力は向上するものの、高温高湿環境下では、基材フィルムの収縮、膨潤によって発生する形状変化に粘着層が追従できず、浮きや剥がれ等の問題が解消できなかった。
【0004】
ところで、液晶ディスプレイ装置に用いられる光学部材の中には、その表面に偏光板を貼合せて使用するものがあり、代表的な例として液晶セルが挙げられる。液晶表示装置の部材である偏光板と液晶セルとの貼合せに用いる粘着剤に対しては、様々な環境下にあっても偏光板に剥がれや浮きが生じることのない耐久性と、液晶セルにおける光漏れを防止し得る性能が求められている。この光漏れは、特に高温高湿環境下において、偏光板の収縮・膨張といった寸法変化に伴う応力を粘着層で緩和することができない場合に、偏光板における残留応力が不均一になる結果が生じる。
【0005】
また、液晶ディスプレイ等の製造工程において、偏光板を液晶セルなどの光学部品に貼合せするに際し、貼合せ位置にずれが生じた場合など、貼合せからある時間が経過した後に偏光板を剥離し、高価な液晶セルを再利用することが必要となる場合がある。従って、偏光板に塗布されている粘着剤を介して貼合した後、ある時間経過後であっても液晶セルから比較的容易に剥離することができる、再剥離性能を保有した粘着剤が求められている。
【0006】
このような要求を満足する粘着剤として、様々な粘着剤が提案されている。例えば、光漏れの問題を解決するために、粘着剤に可塑剤などを添加することで、粘着層を適度に軟らかくして応力緩和性を付与する技術が開示されている(特許文献1参照)。
【0007】
また、応力緩和性を付与するために、アクリル系重合体の重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で割った値(Mw/Mn)を10〜50に調整し、分子量分布を広くすることで、塗膜の応力緩和性を高め、光漏れを防止する技術が開示されている(特許文献2参照)。
【0008】
一方で、再剥離性を付与するために、重量平均分子量50万以上の高分子量アクリル系重合体に対し、酸価が高く、重量平均分子量0.2〜10万の低分子量アクリル系重合体をブレンドする技術が開示されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−87593号公報
【特許文献2】特開2007−169329号公報
【特許文献3】特開2010−100710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1の粘着剤では、可塑剤の添加は、偏光板を剥離した際に被着体を汚染するブリスターの原因となる上、凝集力を低下させるため、経時による浮きや剥がれが発生しやすくなる。
【0011】
また、特許文献2の粘着剤では、光漏れ評価において、白抜けが発生し、当該公報に記載されているような効果は見られなかった。
【0012】
また、特許文献3の粘着剤では、低分子量体の酸価が高く、硬化剤として使用しているイソシアネート化合物が低分子量体の近傍に存在している水分と優先的に反応し、失活するため十分な架橋構造を形成することができない。そのため、有機過酸化物の架橋剤を併用する必要があるが、乾燥時の熱によって有機過酸化物を分解しラジカルを発生させて架橋剤とするため、乾燥条件などに制限があった。
【0013】
本発明は、粘着テープに用いたときに、剥離性に優れ、高温環境や高温高湿環境にさらされた後でも被着体から浮きや剥がれを低減し、さらに光漏れ評価が良好な粘着層を作成できる粘着剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、直鎖状化合物を用いてイソシアネート基相互の間隔が長くなるように合成した2官能のイソシアネート架橋剤と、アクリル系共重合体の官能基を架橋させることで、架橋点間距離の長い架橋構造を有する粘着層を形成できる粘着剤を発明した。
【発明の効果】
【0015】
上記のように構成した本発明によれば、粘着層は、高温処理後のみならず高温高湿処理後の応力緩和性に優れている。そのため高温高湿環境下において寸法変化を起こす偏光板を基材として用いた場合でも、粘着層が長期間にわたり浮きや剥がれが生じる可能性を減らせる。加えてこの粘着層を用いた偏光フィルムを液晶表示装置に使用した場合には、偏光板の収縮により生じる応力集中を緩和するため、光漏れを抑制することができる。その結果、高温環境や高温高湿環境にさらされた後でも被着体から浮きや剥がれを低減し、さらに光漏れ評価が良好な粘着層を作成できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の粘着剤について詳細に説明する。本発明の粘着剤は、アクリル系共重合体(A)とイソシアネート基を有する化合物(B)とを含有するものである。イソシアネート基を有する化合物(B)は、2官能イソシアネート化合物(b1)と、イソシアネート基と反応可能な官能基を2個以上有する数平均分子量500〜5000の化合物(b2)〔以下、化合物(b2)ということもある。〕を反応させたものである。
【0017】
イソシアネート基を有する化合物(B)は、アクリル系共重合体(A)の架橋剤であるが、化合物(b2)を反応させたことでイソシアネート基を有する化合物(B)中のイソシアネート基間の距離を長くすることができる。イソシアネート基間にスペーサーとしての役割を果たす化合物(b2)化合物を導入することで、イソシアネート基とアクリル系共重合体(A)の官能基を架橋した際の架橋点間距離が長くすることができる。そのため、当該粘着剤から形成した粘着層は、高温処理後の応力緩和性に優れている。そこで、例えば、高温高湿環境下において寸法変化を起こす偏光板を基材として用いた場合でも、粘着層が長期間に亘り浮き、剥がれが生じる可能性を減らせるといった耐久性に優れている。また、本発明の粘着剤を粘着層に用いた偏光フィルムを液晶表示装置に用いた場合には、偏光板の収縮により生じる応力集中を緩和するため、光漏れを抑制することができる。
【0018】
本発明においてイソシアネート基を有する化合物(B)は、2官能イソシアネート化合物(b1)と、イソシアネート基と反応可能な官能基を2個以上有する数平均分子量500〜5000の化合物(b2)を反応させたものである。反応比率はイソシアネート基と反応可能な官能基を2個以上有する数平均分子量500〜5000の化合物(b2)の官能基に対して、2官能イソシアネート化合物(b1)のイソシアネート基が過剰となることが好ましく、具体的には、イソシアネート基と反応可能な官能基1.0モルに対して、イソシアネート基1.0モル以上の比率で反応させることが好ましく、2.0モル以上がより好ましい。1.0モルに満たない場合、イソシアネート基全てが反応してしまうため、イソシアネート基を有する化合物(B)が架橋剤として機能しないため好ましくない。
【0019】
2官能イソシアネート化合物(b1)としては、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート等のイソシアネートモノマー、これらイソシアネートモノマーのアダクト体、ビュレット体、及びヌレート体などの3官能イソシアネートに単官能アルコールを反応させ2官能イソシアネートとしたもの、更には、ヘキサメチレンジイソシアネートのアロファネート体(コロネート2770:日本ポリウレタン社製)などが挙げられる。中でも、ヘキサメチレンジイソシアネートのアロファネート体が、アクリル系共重合体(A)との相溶性の点から好ましい。
【0020】
3官能イソシアネートに単官能アルコールを反応させ2官能イソシアネートとしたものとしては、具体的には、トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体やイソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート体にドデシルアルコールやオクチルドデシルアルコールを反応させたものなどが挙げられ、反応条件としては、窒素雰囲気下、反応温度60〜100℃において2〜6時間反応することが好ましい。
化合物(b2)としては、ポリオール、ポリアミン、ポリカルボン酸などが挙げられ、中でも、ポリオール(b3)が好ましい。
【0021】
ポリオール(b3)としては、ポリエーテルポリオール類、ポリエステルポリオール類、ポリカーボネートジオール類及びこれらの共重合体などが好ましい。
【0022】
ポリエーテルポリオール類としては、公知のポリエーテルポリオールを用いることができる。例えば、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフラン、エチレンオキサイド、ブチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドの重合体、共重合体、及びグラフト共重合体;
ヘキサンジオール、メチルヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール若しくはこれらの混合物の縮合によるポリエーテルジオール類などの水酸基が2個以上のものを用いることができる。更にビスフェノールAやビスフェノールF等のビスフェノール類にエチレンオキサイド等のプロピレンオキサイドを除くアルキレンオキサイドを付加させたグリコール類を使用することができる。そして市販品のジオールとしては三洋化成工業社製のサンニックスPPシリーズ、保土谷化学社製のPTGシリーズ、トリオールとしては三洋化成工業社製のサンニックスGPシリーズなどを用いることができる。
【0023】
ポリエステルポリオール類としては、公知のポリエステルポリオールを用いることができる。ポリエステルポリオールとしては、例えば、多官能アルコール成分と二塩基酸成分とが縮合反応したポリエステルポリオールがある。多官能アルコール成分としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、3,3'−ジメチロールヘプタン、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、オクタンジオール、ブチルエチルペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、ビスフェノールA、ビスフェノールFなどの2個の水酸基を有する化合物が挙げられ、更にグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の3個以上の水酸基を有する化合物が挙げられる。そして市販品のジオールとしてはクラレ社製のクラレポリオールPシリーズ、トリオールとしてはクラレ社製のクラレポリオールFシリーズなどを用いることができる。
【0024】
二塩基酸成分としては、テレフタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸、無水フタル酸、イソフタル酸、トリメリット酸等の脂肪族あるいは芳香族二塩基酸が挙げられる。
【0025】
又、β−ブチロラクトン、β−プロピオラクトン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、γ−カプロラクトン、γ−ヘプタノラクトン、α−メチル−β−プロピオラクトン等のラクトン類等の環状エステル化合物の開環重合により得られるポリエステルポリオールも使用できる。
【0026】
ポリカーボネートジオール類とは、下記一般式[1]で示される構造を、その分子中に有するものであり、公知のポリカーボネートジオールを使用することができる。
【0027】
一般式[1]
−[−O−R1−O−CO−]m
(式中、R1は2価の有機残基、mは1以上の整数を表す。)
ポリカーボネートジオールは、例えば、(1)グリコール又はビスフェノールと炭酸エステルとの反応、(2)グリコール又はビスフェノールにアルカリの存在下でホスゲンを作用させる反応などで得られる。
【0028】
(1)の製法で用いられる炭酸エステルとして具体的には、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどが挙げられる。
【0029】
(1)及び(2)の製法で用いられるグリコール又はビスフェノールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ブチレングリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、3,3'−ジメチロールヘプタン、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、オクタンジオール、ブチルエチルペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、あるいはビスフェノールAやビスフェノールF等のビスフェノール類、ビスフェノール類にエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイドを付加させたビスフェノール類等も用いることができる。これらの化合物は1種又は2種以上の混合物として使用することができる。そして、市販品としてクラレ社製のクラレポリオールCシリーズなどを用いることができる。
【0030】
イソシアネート基を有する化合物(B)を合成する際に、応力緩和性を損ねない程度であれば、上記化合物(b2)と、数平均分子量500未満のイソシアネート基と反応可能な官能基を2つ以上有する化合物(b4)〔以下、化合物(b4)ということもある。〕を併用しても良い。
【0031】
化合物(b4)は、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ブチレングリコール、1,6−ヘキサングリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、3,3'−ジメチロールヘプタン、2−メチル−1,8−オクタンジオール、3,3'−ジメチロールヘプタン、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、ブチルエチルペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール,トリシクロデカンジメタノール、シクロペンタジエンジメタノール、1,3−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,2−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、4,4'−メチレンジフェノール、1,1,1−トリメチロールプロパン、1,1,1−トリメチロールブタン、1,1,1−トリメチロールペンタン、1,1,1−トリメチロールヘキサン、トリメチロールブテン、トリメチロールヘプテン、トリメチロールペンテン、トリメチロールヘキセン、トリメチロールヘプテン、トリメチロールオクテン、トリメチロールデセン、トリメチロールドデセン、トリメチロールトリデセン、トリメチロールペンタデセン、トリメチロールヘキサデセン、トリメトロールヘプタデセン、トリメチロールオクタデセン、1,2,6−ブタントリオール、1,2,4−ブタントリオール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、キシリトールなどが挙げられる。
【0032】
イソシアネート基を有する化合物(B)の製造方法としては、2官能イソシアネート化合物(b1)と、化合物(b2)を窒素雰囲気下、加熱して反応させることで得ることができる。反応温度は60〜100℃の範囲、反応時間は6〜10時間が好ましい。反応温度が60℃よりも低い、または、反応時間が6時間よりも短いと、2官能イソシアネート化合物(b1)と、化合物(b2)との反応が完結しない場合がある。また、反応温度が100℃よりも高い、又は、反応時間が10時間より長いと、アロファネート反応やビュレット反応等の副反応を引き起こし、目的の2つのイソシアネート基を有する化合物(B)が得られない場合がある。
【0033】
本発明の粘着剤は、アクリル系共重合体(A)の水酸基1モルに対して、イソシアネート基が1〜300モルになる比率でイソシアネート基を有する化合物(B)を含有することが重要であり、2〜200モルになる比率でイソシアネート基を有する化合物(B)を含有することがさらに好ましい。水酸基1モルに対し、イソシアネート基が1モルに満たない場合には、粘着層の凝集力が低いため高温条件時に発泡が発生する恐れがある。一方、イソシアネート基が300モルを超える場合には、イソシアネート基を有する化合物(B)とアクリル系共重合体(A)の相溶性が低下することに粘着層の白化や、凝集力が過剰になり粘着力が低下し、浮き、剥がれや光漏れが発生する恐れがある。
【0034】
本発明の粘着剤は、粘着層の応力緩和性を損なわない程度であれば、イソシアネート基を有する化合物(B)以外の架橋剤を併用することができる。3官能イソシアネート化合物(C)や、分子内に官能基を2個以上有する、エポキシ化合物、アミン化合物、アジリジン化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物、メラミン化合物及び金属キレート化合物などが好ましく、中でも、3官能イソシアネート化合物(C)が特に好ましい。
【0035】
3官能イソシアネート化合物(C)は、イソシアネート基を有する化合物(B)以外のイソシアネート化合物を用いることができるが、2官能イソシアネート化合物(b1)と化合物(b4)の中で3官能であるもの(化合物(b5))〔以下、化合物(b5)ということもある。〕を反応させたアダクト体や、2官能イソシアネート化合物(b1)が水分を介して自己縮合して生じたビュレット結合を有するビュレット体、及び2官能イソシアネート化合物(b1)の3量体であるヌレート体などを用いることが好ましい。
【0036】
化合物(b5)は、例えば、1,1,1−トリメチロールプロパン、1,1,1−トリメチロールブタン、1,1,1−トリメチロールペンタン、1,1,1−トリメチロールヘキサン、トリメチロールブテン、トリメチロールヘプテン、トリメチロールペンテン、トリメチロールヘキセン、トリメチロールヘプテン、トリメチロールオクテン、トリメチロールデセン、トリメチロールドデセン、トリメチロールトリデセン、トリメチロールペンタデセン、トリメチロールヘキサデセン、トリメトロールヘプタデセン、トリメチロールオクタデセン、1,2,6−ブタントリオール、1,2,4−ブタントリオール、グリセリンなどが挙げられ、中でも1,1,1−トリメチロールプロパンが好ましい。
【0037】
3官能イソシアネート化合物(C)として具体的には、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート等のイソシアネートモノマーのアダクト体、ビュレット体、及びヌレート体などが挙げられ、架橋速度やアクリル系共重合体(A)との相溶性などを考慮すると、トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、イソホロンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、キシリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体、トリレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート体が好ましく、キシリレンジイソシアネートやトリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体が特に好ましい。3官能イソシアネート化合物(C)は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
3官能イソシアネート化合物(C)は、アクリル系共重合体(A)の水酸基1モルに対して、イソシアネート基が0.5〜100モルになる比率で含有することが好ましい。
【0039】
次に、本発明におけるアクリル系共重合体(A)について説明する。本発明においてアクリル系共重合体(A)は、(メタ)アクリル酸エステルモノマーを含むエチレン性不飽和モノマーの共重合体である。なお、本発明において、(メタ)アクリル酸エステルモノマーとは、アクリル酸エステルモノマー及びメタクリル酸エステルモノマーの両方を意味する。
【0040】
共重合に用いるモノマーとしては、水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(a1)とその他のエチレン性不飽和モノマー(a2)を用いることが好ましい。水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(a1)は、全モノマー中0.005〜0.25重量%用いることが好ましく、更には0.01〜0.15重量%がより好ましい。用いる量が0.005重量%に満たない場合、アクリル系共重合体(A)の架橋点が少なすぎるため粘着層の凝集力の不足や、高温環境下で粘着層が発泡する恐れがある。
【0041】
また、共重合には、カルボン酸含有エチレン性不飽和モノマーは使用しない方が好ましい。アクリル系共重合体(A)中に、カルボキシル基が存在すると粘着層中のイソシアネート基を有する化合物(B)と水分との反応が促進される傾向がある。そのため、イソシアネート基を有する化合物(B)のイソシアネート基と、アクリル系共重合体(A)の水酸基との反応性が低下し、所望の粘着特性を得にくくなる恐れがある。
【0042】
水酸基含有エチレン性不飽和モノマー(a1)としては、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8−ヒドロキシオクチルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルや、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリル酸エステルなどのグリコールモノ(メタ)アクリル酸エステル、カプロラクトン変性(メタ)アクリル酸エステル、ヒドロキシエチルアクリルアミドなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチルが好ましい。
【0043】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマーは、例えば(メタ)アクリル酸、フタル酸モノヒドロキシエチルアクリル酸エステル、p−カルボキシベンジルアクリル酸エステル、エチレンオキサイド変性(付加モル数:2〜18)フタル酸アクリル酸エステル、フタル酸モノヒドロキシプロピルアクリル酸エステル、コハク酸モノヒドロキシエチルアクリル酸エステル、アクリル酸β−カルボキシエチル、アクリル酸2−(4−ベンゾイル−3−ヒドロキシフェノキシ)エチル、マレイン酸、モノエチルマレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、及びフマル酸などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。使用量は、イソシアネート基を有する化合物(B)のイソシアネート基と、アクリル系共重合体(A)の水酸基との反応性を損ねない程度である必要があり0.2重量%以下が好ましい。
【0044】
その他のエチレン性不飽和モノマー(a2)は、カルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマー以外のモノマーであり、アミド結合含有エチレン性不飽和モノマー、エポキシ基含有エチレン性不飽和モノマー、アミノ基含有エチレン性不飽和モノマー、(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマー、アルコキシ(ポリ)アルキレンオキサイド(メタ)アクリル酸エステルモノマー、酢酸ビニル、クロトン酸ビニル、スチレン、アクリロニトリルなどが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0045】
アミド結合含有エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば(メタ)アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N、N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N−(ヒドロキシメチル)アクリルアミド、N−(ブトキシメチル)アクリルアミド、などの(メタ)アクリルアミド系の化合物、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、アクリロイルモルホリン、などの複素環を含有した化合物、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニル−N−メチルアセトアミドなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
エポキシ基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸メチルグリシジル、(メタ)アクリル酸3,4−エポキシシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸6−メチル−3,4−エポキシシクロヘキシルメチルなどが挙げられる。
【0047】
アミノ基含有エチレン性不飽和モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸モノメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸モノエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸モノメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸モノエチルアミノプロピルなどの(メタ)アクリル酸モノアルキルアミノエステルなどが挙げられる。
【0048】
アルコキシ(ポリ)アルキレンオキサイド(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、例えば、アクリル酸2−メトキシエチル、アクリル酸2−エトキシエチル、アクリル酸2−フェノキシエチル、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリル酸エステル、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリル酸エステル、メトキシポリプロピレングリコールメタアクリル酸エステル、エトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリル酸エステル、フェノキシポリエチレングリコールメタアクリル酸エステル、フェノキシポリプロピレングリコールメタアクリル酸エステルなどが挙げられる。
【0049】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシルなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、これらの化合物のうち、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルが、良好な粘着性能を得やすいという点から好ましい。
【0050】
アクリル系共重合体(A)は、エチレン性不飽和モノマーを、ラジカル重合開始剤を用いて共重合することで得ることができる。共重合は、溶液重合、塊状重合、乳化重合、懸濁重合等公知の重合方法でできるが分子量制御の観点から溶液重合が好ましい。また溶液重合は例えばアセトン、酢酸メチル、酢酸エチル、トルエン、キシレン、アニソール、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどの溶剤の存在下で重合させるのが好ましい。ラジカル重合温度は60〜120℃の範囲が好ましく、重合時間は5〜12時間が好ましい。
【0051】
本発明におけるアクリル系重合体(A)は、重量平均分子量40万〜150万が好ましい。重量平均分子量が40万に満たない場合は、高温高湿環境下での耐久性が不十分となり、被着体からの浮きや剥がれなどが生じる恐れがある。一方、重量平均分子量が150万を超えると、アクリル系共重合体(A)とイソシアネート基を有する化合物(B)との相溶性が低下する恐れがある。
【0052】
なお、本発明において重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定したポリスチレン換算の値である。
【0053】
本発明では、アクリル系共重合体(A)は1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
本発明の粘着剤は、シランカップリング剤を含むことが好ましい。シランカップリング剤を用いることで粘着層と被着体との密着性が良好となり、耐熱性、耐湿熱性を更に向上させることができる。シランカップリング剤の使用量は、アクリル系共重合体(A)100重量部に対して、0.01〜1重量部の範囲が好ましく、特に0.05〜0.5重量部の範囲が好ましい。
【0055】
上記シランカップリング剤は、例えば、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリプロポキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリブトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシランなどの(メタ)アクリロキシ基を有するアルコキシシラン化合物;
ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシランなどのビニル基を有するアルコキシシラン化合物;
3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリプロポキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基を有するアルコキシシラン化合物;
3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリプロポキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジエトキシシランなどのメルカプト基を有するアルコキシシラン化合物;
3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリブトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基を有するアルコキシシラン化合物;
テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシランなどのテトラアルコキシシラン化合物;
3−クロロプロピルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、n−デシルトリエトキシシラン、スチリルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチルブチリデン)プロピルアミン、1,3,5−トリス(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、分子内にアルコキシシリル基を有するシリコーンレジン(X−41−1056、信越化学工業社製、X−41−1810、信越化学工業社製)などが挙げられる。
【0056】
本発明の粘着剤は、アクリル系共重合体(A)の水酸基とイソシアネート基を有する化合物(B)の架橋反応を促進させるためにスズ触媒を含有することが好ましい。
【0057】
スズ触媒としては、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレートなど公知のスズ触媒を使用することができる。
【0058】
本発明の粘着剤には、本発明の効果を損なわない範囲であれば、各種樹脂、オイル、軟化剤、染料、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐候安定剤、タッキファイヤー、可塑剤、充填剤、老化防止剤及び帯電防止剤等を配合しても良い。
【0059】
本発明において粘着フィルムは、基材と、本発明の粘着剤から形成されてなる粘着層を有するものである。粘着フィルムは、例えば、基材上に粘着剤を塗工、乾燥することにより製造できる。粘着層は基材の少なくとも一方の面に設けられていれば良い。
【0060】
粘着剤を塗工するに際し、適当な液状媒体、例えば、トルエン、キシレン、ヘキサン、ヘプタン等の炭化水素系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素系溶剤;ジエチルエーテル、メトキシトルエン、ジオキサン等のエーテル系溶剤、その他の炭化水素系溶剤等の有機溶剤を添加して、粘度を調整することもできるし、粘着剤を加熱して粘度を低下させることもできる。ただし、水やアルコール等はアクリル系共重合体(A)と2つのイソシアネート基を有する化合物(B)との反応阻害を引き起こす可能性があるため、用いないことが好ましい。
【0061】
基材としては、例えばセロハン、プラスチックシート、ゴム、発泡体、布帛、ゴムびき布、樹脂含浸布、ガラス板、木材等が挙げられ、板状であってもフィルム状であっても良い。その中でも液晶ディスプレイ装置に用いる場合、基材はフィルムが好ましい。さらに基材は単独でも用いることもできるし、複数のものを積層してなる多層状態にあるものも用いることができる。更に基材の表面を剥離処理したもの(以下、剥離シートと呼ぶ)を用いることもできる。
【0062】
プラスチックシートとしては、プラスチックフィルムともいわれ、ポリビニルアルコールフィルムやトリアセチルセルロースフィルム、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリシクロオレフィン、エチレン−酢酸ビニル共重合体などのポリオレフィン系樹脂のフィルム、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂のフィルム、ポリカーボネート系樹脂のフィルム、ポリノルボルネン系樹脂のフィルム、ポリアリレート系樹脂のフィルム、アクリル系樹脂のフィルム、ポリフェニレンサルファイド樹脂のフィルム、ポリスチレン樹脂のフィルム、ビニル系樹脂のフィルム、ポリアミド系樹脂のフィルム、ポリイミド系樹脂のフィルム、エポキシ系樹脂のフィルムなどが挙げられる。
【0063】
本発明において粘着剤の塗工方法は、特に制限は無く、マイヤーバー、アプリケーター、刷毛、スプレー、ローラー、グラビアコーター、ダイコーター、リップコーター、コンマコーター、ナイフコーター、リバースコ−ター、スピンコーター等が挙げられる。乾燥方法には特に制限はなく、熱風乾燥、赤外線や減圧法を利用したものが挙げられる。乾燥条件としては粘着剤の硬化形態、膜厚や選択した溶剤にもよるが、通常60〜180℃程度の熱風加熱でよい。
【0064】
本発明の粘着フィルムは、(ア)剥離処理されたシートの剥離処理面に粘着剤を塗工、乾燥し、シート状の光学部材を粘着層の表面に積層したり、(イ)シート状の光学部材に粘着剤を塗工、乾燥し、粘着層の表面に剥離処理されたシートの剥離処理面を積層したりすることによって得ることができる。
【0065】
粘着層の厚さは、0.1〜200μmが好ましく、1〜100μmがより好ましい。0.1μmに満たない場合、十分な粘着力が得られないことがあり、200μmを超えても粘着力等の特性はそれ以上向上しない場合が多い。
【0066】
更に、本発明の粘着フィルムは、無アルカリガラスに貼合わせた後、23℃で1日後の粘着力が2〜15N/25mmであることが好ましく、3〜10N/25mmがより好ましい。粘着力が2N/25mm未満であると、粘着剤として不十分な粘着強度であり、浮きや剥がれなどが生じるおそれがある。粘着力が2N/25mm以上であると、粘着剤として十分な粘着強度であり、被着体に十分に固定することができる。また、該粘着力が15N/25mmよりも大きいと、粘着フィルムを被着体に貼合わせた後、再剥離した際に、被着体を破壊するおそれがある。
【0067】
本発明において粘着フィルムの粘着層のゲル分率は、40〜90重量%であることが好ましく、特に50〜80重量%が好ましい。ゲル分率が40重量%未満であると、十分な凝集力を得ることができない場合があり、90重量%以上であると応力緩和性が低下し、光漏れが発生する。なお、本発明でいうゲル分率は、粘着テープを酢酸エチル中で5時間還流抽出した後、粘着テープの重量を下記式(2)で算出した数値である。
【0068】
式(2) ゲル分率(重量%)=(M2/M1)×100
M1:酢酸エチルで抽出する前の粘着層の重量
M2:酢酸エチルで抽出・乾燥した後の粘着層の重量
【0069】
本発明の粘着剤は、光学部材の貼合わせに好適に用いることができる。すなわち、本発明の粘着フィルムにおいて、基材として光学部材を好ましく使用することができる。光学部材としては、具体的には、偏光フィルム、位相差フィルム、楕円偏光フィルム、反射防止フィルム、輝度向上フィルム等を挙げることができる。粘着層の他の面には、剥離シートを積層することができる。なお偏光フィルムは偏光板ということもある。
【0070】
このようにして得た粘着フィルムから粘着層の表面を覆っていた剥離シートを剥がし、例えば、粘着層を液晶セル用ガラス部材に貼着することによって、「シート状の光学部材/粘着層/液晶セル用ガラス部材」という構成の液晶セル部材を得ることができる。本発明では、光学部材が偏光板である場合、特に有用であり、加熱処理及び高湿処理により浮きや剥がれの生じない粘着フィルムを得ることができる。
【0071】
この偏光板としては、前述したように、偏光フィルム単独からなるものであってもよいが、偏光フィルムと視野角拡大フィルムとが一体化してなるものが好ましい。又、この場合、粘着層の厚さは、通常5〜100μm程度、好ましくは10〜50μmである。
【0072】
本発明の粘着剤は、光学部材用粘着剤として好適であるほか、一般ラベル・シール、塗料、弾性壁材、塗膜防水材、床材、粘着性付与剤、粘着剤、積層構造体用粘着剤、シーリング剤、成形材料、表面改質用コーティング剤、バインダー(磁気記録媒体、インキバインダー、鋳物バインダー、焼成レンガバインダー、グラフト材、マイクロカプセル、グラスファイバーサイジング等)、ウレタンフォーム(硬質、半硬質、軟質)、ウレタンRIM、UV・EB硬化樹脂、ハイソリッド塗料、熱硬化型エラストマー、マイクロセルラー、繊維加工剤、可塑剤、吸音材料、制振材料、界面活性剤、ゲルコート剤、人工大理石用樹脂、人工大理石用耐衝撃性付与剤、インキ用樹脂、フィルム(ラミネート粘着剤、保護フィルム等)、合わせガラス用樹脂、反応性希釈剤、各種成形材料、弾性繊維、人工皮革、合成皮革等の原料として、又、各種樹脂添加剤およびその原料等としても非常に有用に使用できる。
【実施例】
【0073】
以下に、この発明の具体的な実施例を比較例と併せて説明するが、この発明は、下記実施例に限定されない。また、下記実施例及び比較例中、「部」及び「%」は、それぞれ「重量部」及び「重量%」を表す。
【0074】
[アクリル系重合体(A)の合成]
(合成例1−1)
重合槽、攪拌機、温度計、還流冷却器、窒素導入管を備えた重合反応装置の反応槽に、アクリル酸ブチル69.9部、アクリル酸エチル30部、アクリル酸2−ヒドロキシエチル0.1部、酢酸エチル100部を仕込んだ。この反応槽を攪拌しながら85℃に加熱し、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル0.02部を添加し、2時間反応させた。更に、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル0.02部を添加し、6時間反応させた。反応終了後、反応槽を冷却し酢酸エチル110部を加え、アクリル系共重合体溶液を得た。
【0075】
(合成例1−2〜1−7)
表1の重量比率に従って各種原料を仕込み、合成例1と同様の方法でアクリル系共重合体を合成した。
【0076】
(合成例1−8)
反応槽、攪拌機、温度計、還流冷却器、窒素導入管を備えた反応装置の反応槽に、アクリル酸ブチル69.9部、アクリル酸エチル30部、アクリル酸2−ヒドロキシエチル0.1部、酢酸エチル30部、酢酸メチル70部を仕込んだ。この反応槽を攪拌しながら75℃に加熱し、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル0.02部を添加し、2時間反応させた。更に、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル0.02部、酢酸エチル30部を添加し、6時間反応させた。反応終了後、反応槽を冷却し酢酸エチル130部を加え、アクリル系共重合体溶液を得た。
【0077】
合成例1−1〜1−8により得られたアクリル系重合体溶液について、重量平均分子量(Mw)を以下の方法に従って求めた。その結果を表1に示す。
【0078】
<重量平均分子量(Mw)の測定>
Mw、Mnの測定は東ソー株式会社製GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)「HPC−8020」を用いた。GPCは溶媒(THF;テトラヒドロフラン)に溶解した物質をその分子サイズの差によって分離定量する液体クロマトグラフィーであり、重量平均分子量(Mw)との決定はポリスチレン換算で行った。
【0079】
【表1】
[イソシアネート基を有する化合物(B)の合成]
(合成例2−1)
反応槽、攪拌機、温度計、還流冷却器、窒素導入管を備えた反応装置の反応槽に、コロネート2770(ヘキサメチレンジイソシアネートのアロファネート体でイソシアネート基を2個有する、NCO価=19.4、不揮発分=100%、日本ポリウレタン工業社製)100部、PP−1000(ポリプロピレングリコール、OH価=112、三洋化成工業社製)を仕込んだ。この重合槽を攪拌しながら80℃に加熱し、更に8時間反応させた。反応溶液のNCO価を測定し、NCO価を確認して反応を終了した。このイソシアネート化合物は淡黄色透明な粘稠の液体であった。その結果を表2に示す。
【0080】
(合成例2−2〜2−10)
表2の重量比率に従って各種原料を仕込み、合成例2−1と同様の方法でイソシアネート基を有する化合物(B)を合成した。その結果を表2に示す。
【0081】
なお、合成例2−1〜2−10で得られたイソシアネート基を有する化合物(B)のNCO価は、以下に示す方法で求めた。
【0082】
[2つのイソシアネート基を有する化合物(B)のNCO価]
共栓三角フラスコ中に試料を精密に量り採り、クロロベンゼン25ml、ジ−n−ブチルアミン/オルトジクロロベンゼン(重量比:ジ−n−ブチルアミン/オルトジクロロベンゼン=1/24.8)混合液10mlを加えて溶解する。これに、メタノール80g、ブロムフェノールブルー試薬を指示薬として加え、0.1Nアルコール性塩酸溶液で滴定した。溶液が黄緑色を呈し、30秒間保持するまで滴定を続けた。NCO価は次式により求めた。
【0083】
NCO価(%)=[0.42×(B−C)×F]/W
ただし、W:試料の採取量(g)
B:試料滴定に要した0.1Nアルコール性塩酸溶液の消費量(ml)
C:空試験の滴定に要した0.1Nアルコール性塩酸溶液の消費量(ml)
F:0.1Nアルコール性塩酸溶液の力価
【0084】
【表2】
【0085】
(実施例1)
合成例1−1で得られたアクリル系共重合体溶液中のアクリル系共重合体100部に対して、合成例2−1のイソシアネート基を有する化合物3部を配合し、更に溶剤として酢酸エチルを加えて不揮発分を25%に調整して粘着剤を得た。
【0086】
前記粘着剤を、剥離処理がされた厚さ38μmのポリエチレンテレフタレート製剥離シートの剥離層上に、乾燥後の厚さが25μmになるように塗布したのち、100℃で2分間乾燥処理して粘着層を形成した。次いで、この粘着層に、ポリビニルアルコール(PVA)系偏光子の両面をトリアセチルセルロース系保護フィルム(以下、「TACフィルム」という)で挟んだ多層構造の偏光フィルムの片面を貼り合せ、「剥離フィルム/粘着層/TACフィルム/PVA/TACフィルム」という構成の粘着フィルムを得た。次いで、得られた粘着フィルムを温度35℃相対湿度55%の条件で1週間熟成させて、粘着層が剥離フィルムで被覆された粘着フィルムを得た。
【0087】
(実施例2〜23、比較例1〜5)
表3および表4の重量比率に従って、実施例1と同様にして粘着剤を得た。更に実施例1と同様にして粘着層が剥離フィルムで被覆された粘着フィルムを得た。なお、本明細書において実施例17は、参考例である。
【0088】
【表3】
【0089】
【表4】
【0090】
実施例1〜23及び比較例1〜5で得られた粘着フィルムを以下の方法で評価した。その結果を表5および表6に示す。
【0091】
(1)粘着力
上記粘着フィルムを25mm幅、150mm長の大きさにカットし、剥離シートを剥がして(粘着層の厚さ25μm)、無アルカリガラス[コーニング社製「1737」]にラミネータを用いて貼着した。続いて、オートクレーブにて、50℃、5気圧の条件で20分保持させてガラス板に密着させ、その後、23℃、相対湿度50%の環境下で1日間放置したのち、同環境下で、引張試験機を用いて、剥離速度300mm/分、剥離角度180°の条件で粘着力を測定し、下記の3段階の評価基準に基づいて評価を行った。
○:「粘着力が3〜10N/25mmで、実用上全く問題がない」
△:「粘着力が2〜3N/25mmまたは10〜15N/25mmであるが、実用上問題がない」
×:「粘着力が2〜15N/25mmの範囲外であり、実用不可である」
【0092】
(2)塗膜外観
粘着層の外観を目視にて評価した。粘着層の外観に関しては、下記の2段階の評価基準に基づいて評価を行った。
○:「塗膜は透明で実用上問題がない」
×:「塗膜が白化しており、実用不可である」
【0093】
(3)耐熱性および耐湿熱性
粘着フィルムを160mm幅、120mm長の大きさにカットし、剥離シートを剥がして無アルカリガラスに、ラミネータを用いて貼着した。続いて、この粘着フィルムが貼り付けられたガラス板を50℃、5気圧の条件のオートクレーブ内に20分保持させてガラス板に密着させ、粘着フィルムとガラス板との積層物を得た。
耐熱性の評価として、上記積層物を85℃で500時間放置した後の発泡、浮き、剥がれを目視で観察した。又、耐湿熱性の評価として、上記積層物を60℃、相対湿度95%で500時間放置した後の発泡、浮き、剥がれを目視で観察した。耐熱性、耐湿熱性について、下記の3段階の評価基準に基づいて評価を行った。
◎:「発泡、浮き、剥がれが全く認められず、実用上全く問題がない」
○:「0.5mm以下の発泡、浮き、剥がれのいずれかが認められるが、実用上問題がない」
×:「全面的に発泡、浮き、剥がれがあり、実用不可である」
【0094】
(4)光漏れ性(白抜け)
粘着フィルムを160mm幅、120mm長の大きさにカットし、剥離シートを剥がして無アルカリガラスの両面に2枚の粘着フィルムの偏光板の吸収軸が直交するようにラミネータを用いて貼着した。続いて、この粘着フィルムが貼り付けられたガラス板を50℃、5気圧の条件のオートクレーブ内に20分保持させてガラス板に密着させ、粘着フィルムとガラス板との積層物を得た。
この積層物を85℃で500時間放置した後、偏光板に光を透過させたときの光漏れ(白抜け)を目視で観察した。光漏れ性について、下記の4段階の評価基準に基づいて評価を行った。
◎:「白ぬけが認められず、実用上全く問題がない」
○:「わずかに白ぬけが認められるが、実用上問題がない」
△:「白ぬけが認められるが、実用上問題がない」
×:「全面的に白ぬけがあり、実用不可である」
【0095】
(5)再剥離性(リワーク性)
粘着フィルムを25mm幅、150mm長の大きさにカットし、剥離シートを剥がして無アルカリガラスにラミネータを用いて貼り付けた。続いて、50℃、5気圧の条件のオートクレーブ内に20分保持させてガラス板に密着させた。この試験片を85℃で3時間放置した後に、23℃、相対湿度50%の環境下で、引張試験機を用いて、180度方向に300mm/分の速度で引き剥がす180°ピール試験を実施し、剥離後のガラス表面の曇りを目視で観察し、下記の2段階の評価基準に基づいて評価を行った。
○:「糊残り、曇りが認められず、実用上問題がない」
×:「糊残り、曇りが認められ、実用不可である」
【0096】
【表5】
【0097】
【表6】
【0098】
表5および6の結果から実施例1〜23に示すように、本発明の粘着剤は、塗膜外観、耐熱性、耐湿熱性、再剥離性、光漏れ性に優れていることが分かる。これに対して、比較例1〜5では、いずれかの項目が不良となっているため、実用上問題があったり、実用不可であることが分かる。
本発明の粘着剤は、光学フィルムに要求される耐熱性、耐湿熱性、光学特性、再剥離性等に優れた特性を有している。特に、光学フィルムの用途では、光学特性である光漏れが重要視され、近年のディスプレイの大型化に伴い、その要求性能はますます厳しくなってきている。そこで、本発明の粘着剤は、上述のようにこれまでは困難であった粘着特性を発揮できるため、特に有用である。