(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内燃エンジンと駆動輪との間の動力伝達経路に、該内燃エンジンにて駆動される機械式オイルポンプからの油により作動する摩擦係合要素を備えた自動変速機を有すると共に、前記内燃エンジンを停止して回転電機のみにより駆動輪を駆動するEV走行が可能なハイブリッド車両に用いられるハイブリッド車両用自動変速機の制御装置であって、
前記摩擦係合要素に油を供給する電動オイルポンプを駆動する電動オイルポンプ制御手段と、
前記EV走行中に、前記摩擦係合要素を解放制御して前記自動変速機をニュートラル状態とするニュートラル制御手段と、
前記ハイブリッド車両の車速を検知する車速検知手段と、
前記ハイブリッド車両が停車した状態からの前記EV走行中に、前記電動オイルポンプにより前記摩擦係合要素のキャンセル油室に対して供給される油量が不足することにより、前記摩擦係合要素に引き摺りが発生する条件が成立することを、前記車速が高いほど成立し易くなるように判定する引き摺り判定手段と、
前記引き摺り判定手段により前記引き摺りが発生する条件が成立することが判定された場合に、前記内燃エンジンの始動を指令して前記機械式オイルポンプを回転駆動する引き摺り解消制御手段と、を備えた、
ことを特徴とするハイブリッド車両用自動変速機の制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、EV走行で自動変速機内のクラッチの油圧サーボが連れ回される場合、意図しないクラッチの引き摺りが発生する虞がある。具体的には、車両が停車した状態からEV走行で急加速した場合が挙げられる。車両の停止中では、油圧サーボの作動油室の油圧はハード構成上所定圧に保たれるが、作動油室の遠心油圧をキャンセルするためのキャンセル油室の潤滑油は自動変速機内の回転が停止しているため抜け落ちてしまう。その状態からEV走行により急加速する場合、電動オイルポンプから供給される潤滑油量が少量であると、キャンセル油室に対する潤滑油の充満が不十分となり、作動油室とキャンセル油室との遠心油圧の違いから、ピストンが移動駆動されて摩擦板を押圧してしまい、意図しないクラッチの引き摺りが発生し、当該クラッチの耐久性に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0007】
このようなEV走行中の意図しないクラッチの引き摺りを防止するためには、電動オイルポンプを大型化して、キャンセル油室に潤滑油を多量に供給できるようにすることも考えられるが、電動オイルポンプの大型化は、車両搭載性向上の妨げになるばかりか、大型な電動オイルポンプが高価であるため、コストダウンの妨げにもなるという問題がある。
【0008】
そこで本発明は、EV走行中の摩擦係合要素の引き摺りの防止を図ることが可能でありながら、電動オイルポンプの小型化を図ることで、車両搭載性の向上やコストダウンを図ることが可能なハイブリッド車両用自動変速機の制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は(例えば
図1乃至
図7参照)、内燃エンジン(2)と駆動輪(80fl,80fr)との間の動力伝達経路(L)に、該内燃エンジン(2)にて駆動される機械式オイルポンプ(31)からの油により作動する摩擦係合要素(C−1,C−2,C−3,B−1,B−2)を備えた自動変速機(10)を有すると共に、前記内燃エンジン(2)を停止して回転電機(20)のみにより駆動輪(80rl,80rr)を駆動するEV走行が可能なハイブリッド車両(100)に用いられるハイブリッド車両用自動変速機の制御装置(1)であって、
前記摩擦係合要素(例えばC−1)に油を供給する電動オイルポンプ(32)を駆動する電動オイルポンプ制御手段(45)と、
前記EV走行中に、前記摩擦係合要素(C−1,C−2,C−3,B−1,B−2)を解放制御して前記自動変速機(10)をニュートラル状態とするニュートラル制御手段(46)と、
前記ハイブリッド車両(100)の車速(V)を検知する車速検知手段(42)と、
前記ハイブリッド車両が停車した状態からの前記EV走行中に、前記電動オイルポンプ(32)により前記摩擦係合要素(例えばC−1)のキャンセル油室(115)に対して供給される油量が不足することにより、前記摩擦係合要素(例えばC−1)に引き摺りが発生する条件(例えばTAc,TBc,TCc)が成立することを
、前記車速が高いほど成立し易くなるように判定する引き摺り判定手段(51)と、
前記引き摺り判定手段(51)により前記引き摺りが発生する条件が成立することが判定された場合に、前記内燃エンジン(2)の始動を指令して前記機械式オイルポンプ(31)を回転駆動する引き摺り解消制御手段(52)と、を備えたことを特徴とする。
【0010】
これにより、引き摺り判定手段によって、EV走行中に電動オイルポンプにより摩擦係合要素のキャンセル油室に対して供給される油量が不足することにより該摩擦係合要素に引き摺りが発生する条件が成立することが判定された場合に、引き摺り解消制御手段が、内燃エンジンの始動を指令して機械式オイルポンプを回転駆動するので、摩擦係合要素で引き摺りが発生する際(発生が予測される際)に、摩擦係合要素のキャンセル油室に対して機械式オイルポンプからの多量の油を供給することができ、摩擦係合要素における引き摺りの発生を防止することができる。このように引き摺りの発生が防止できるので、大型な電動オイルポンプで引き摺りの発生を防止する場合に比して、電動オイルポンプの小型化を図ることができ、車両搭載性の向上やコストダウンを図ることができる。
【0011】
また、本発明は(例えば
図4乃至
図6参照)、前記ハイブリッド車両が停車した状態からの前記EV走行を開始してからの経過時間(t)を計測する経過時間計測手段(41
)を備え、
前記引き摺りが発生する条件は、前記経過時間(t)が短く、かつ前記車速(V)が高いほど、成立し易くなるように設定されたことを特徴とする。
【0012】
これにより、引き摺りが発生する条件が、EV走行を開始してからの経過時間が短く、かつ車速が高いほど、成立し易くなるように設定されているので、電動オイルポンプによる摩擦係合要素のキャンセル油室に対する油の供給量に応じて、摩擦係合要素の引き摺りの発生(の予測)を精度良く判定することができる。これにより、不要な内燃エンジンの始動を防止することができるものでありながら、摩擦係合要素で引き摺りが発生する際(発生が予測される際)に、適宜に摩擦係合要素における引き摺りの発生を防止することができる。
【0013】
更に、本発明は(例えば
図4乃至
図6参照)、油温(T)を検知する油温検知手段(43)を備え、
前記引き摺りが発生する条件は、前記油温(T)が低いほど、成立し易くなるように設定されたことを特徴とする。
【0014】
これにより、引き摺りが発生する条件が、油温が低いほど、成立し易くなるように設定されているので、油温によって変化する電動オイルポンプによる摩擦係合要素のキャンセル油室に対する油の供給量に応じて、摩擦係合要素の引き摺りの発生(の予測)を精度良く判定することができる。これにより、不要な内燃エンジンの始動を防止することができるものでありながら、摩擦係合要素で引き摺りが発生する際(発生が予測される際)に、適宜に摩擦係合要素における引き摺りの発生を防止することができる。
【0015】
また、本発明は(例えば
図6参照)、前記引き摺りが発生する条件は、前記内燃エンジン(2)を始動してからアイドル回転数に到達する時間を安全マージン(M)として含めるように設定されたことを特徴とする。
【0016】
これにより、引き摺りが発生する条件が、内燃エンジンを始動してからアイドル回転数に到達する時間を安全マージンとして含めるように設定されているので、摩擦係合要素で引き摺りが発生するまでに、内燃エンジンの始動を完了することができ、摩擦係合要素での引き摺りの発生を確実に防止することができる。
【0017】
また、本発明は(例えば
図4乃至
図6参照)、前記電動オイルポンプ(32)に異常が発生したことを判定する異常判定手段(45a)と、
前記異常判定手段(45a)により前記電動オイルポンプ(32)の異常発生が判定されている間、前記経過時間計測手段(41)による経過時間の計測を停止する計時停止手段(41a)と、を備えたことを特徴とする。
【0018】
これにより、電動オイルポンプに異常が発生して、EV走行中に電動オイルポンプにより摩擦係合要素のキャンセル油室に対して油が供給されていない可能性のある間、経過時間の計測が停止されるので、該摩擦係合要素に引き摺りが発生する条件が電動オイルポンプの異常発生時間を加味して成立するようにすることができ、電動オイルポンプに異常発生が発生したとしても摩擦係合要素における引き摺りの発生を確実に防止することができる。
【0019】
また、本発明は(例えば
図4乃至
図6参照)、前記異常判定手段(45a)は、所定時間間隔毎に前記電動オイルポンプ(32)の異常発生を判定してなり、
前記異常判定手段(45a)による前記異常発生の判定の回数(N)をカウントして、所定回数(α)を超えた際に、前記電動オイルポンプ(32)に故障が発生したことを判定し、前記内燃エンジン(2)の始動を指令して前記機械式オイルポンプ(31)を回転駆動する故障判定手段(45b)を備えたことを特徴とする。
【0020】
これにより、電動オイルポンプの異常発生の判定回数が所定回数を越えて、電動オイルポンプに故障が発生したことを判定すると、内燃エンジンの始動を指令して機械式オイルポンプを回転駆動するので、電動オイルポンプが故障すると確実に機械式オイルポンプが駆動されて、摩擦係合要素における引き摺りの発生を確実に防止することができる。
【0021】
そして、本発明は(例えば
図4乃至
図6参照)、前記引き摺り解消制御手段(52)により前記内燃エンジン(2)の始動を指令してから所定時間後に前記内燃エンジン(2)の駆動状態を解除する解消終了制御手段(53)を備えたことを特徴とする。
【0022】
これにより、解消終了制御手段が、引き摺り解消制御手段により内燃エンジンの始動を指令してから所定時間後に内燃エンジンの駆動状態を解除するので、摩擦係合要素のキャンセル油室が油で満たされた後に無駄に内燃エンジンを駆動しておくことの防止を図ることができる。
【0023】
なお、上記カッコ内の符号は、図面と対照するためのものであるが、これは、発明の理解を容易にするための便宜的なものであり、特許請求の範囲の構成に何等影響を及ぼすものではない。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る実施の形態を
図1乃至
図7に沿って説明する。まず、
図1に沿って、本発明を提供し得るハイブリッド車両の一例を説明する。
【0026】
図1に示すように、本実施の形態に係るハイブリッド車両100は、リヤモータ式ハイブリッド車両であり、前方側に内燃エンジン(E/G)2を搭載し、該内燃エンジン2と前側の左右の車輪(駆動輪)80fl,80frとの間の伝達経路上にハイブリッド車両用自動変速機(以下、単に「自動変速機」という)10が搭載された、いわゆるFF(フロントエンジン、フロントドライブ)タイプの車両のように構成されていると共に、後側の左右の車輪(駆動輪)80rl,80rrに駆動連結されるリヤモータ(Rear Motor)(回転電機)20を備えており、つまりエンジン走行時には前輪駆動、EV走行時には後輪駆動、ハイブリッド走行時には四輪駆動が可能となるように構成されている。
【0027】
詳細には、内燃エンジン2には、ベルト式統合型スタータ・ジェネレータ(Belt Integrated Starter Generator)3Aが接続されており、該内燃エンジン2が始動自在に構成されている。ベルト式統合型スタータ・ジェネレータ(BISG)3Aは、インバータ(Inverter)23を介して高電圧バッテリ(Hi−V Battery)24から電力が供給されることで、内燃エンジン2を高出力で始動し得ると共に、内燃エンジン2の始動中(駆動中)は、高電圧バッテリ24に対する充電も可能に構成されている。
【0028】
一方のスタータ(Starter)3Bは、一般的な低電圧バッテリ(Lo−V Battery)26(いわゆる12V型電源)で駆動するようなスタータである。本ハイブリッド車両100では、常温(例えば0度以上)ではベルト式統合型スタータ・ジェネレータ(BISG)3Aを用いてアイドル回転数よりも高い回転数まで内燃エンジン2の回転数を上昇した後に該内燃エンジン2の点火を行い、低温時(例えば0度未満)ではスタータ3Bを用いて内燃エンジン2の通常始動を行う。
【0029】
上記内燃エンジン2には、詳しくは後述する自動変速機10が接続されている。自動変速機10は、大まかに、トルクコンバータ(T/C)4、自動変速機構(T/M)5、油圧制御装置(V/B)6などを有して構成されており、内燃エンジン2にはトルクコンバータ4が駆動連結されている。該トルクコンバータ4には自動変速機構(T/M)5が駆動連結されており、該自動変速機構5は、詳しくは後述するようにディファレンシャル装置D(
図2参照)を介して左右車軸81l,81rに接続され、前側の左右の車輪80fl,80frに駆動連結されている。
【0030】
また、該自動変速機構5には、後述の摩擦係合要素(クラッチやブレーキ)を油圧制御するための油圧制御装置(V/B)6が付設されており、該油圧制御装置6は、制御部(TCU:Transmission Control Unit)(ハイブリッド車両用自動変速機の制御装置)1からの電子指令に基づき、内蔵されたソレノイドバルブ等が電子制御される。また、油圧制御装置6には、詳しくは後述するように、内燃エンジン2とは独立して駆動される電動オイルポンプ32が付設されており、該電動オイルポンプ32から油圧制御装置6に対して油圧供給し得るように構成されている。
【0031】
なお、電動オイルポンプ32や制御部1は、低電圧バッテリ26の電力を用いて駆動される。該低電圧バッテリ26は、DC/DCコンバータ(降圧回路)25を介して高電圧バッテリ24に接続されており、該高電圧バッテリ24から電力が供給されるように構成されている。
【0032】
一方、上記リヤモータ20は、インバータ23を介して高電圧バッテリ24に接続されており、力行・回生自在に構成されている。該リヤモータ20は、モータ切離しクラッチC−Mを介してギヤボックス(Gear Box)21に駆動連結されている。ギヤボックス21には、図示を省略した所定減速比の減速ギヤ機構及びディファレンシャル装置が内蔵されており、モータ切離しクラッチC−Mの係合時には、該リヤモータ20の回転を、ギヤボックス21の減速ギヤ機構で減速しつつ、かつディファレンシャル装置で左右車軸82l,82rの差回転を吸収しつつ、後側の左右の車輪80rl,80rrに伝達する。
【0033】
続いて、自動変速機10の構成について
図2に沿って説明する。本自動変速機10は、内燃エンジン2(
図1参照)と前側の左右の車輪80fl,80frとの間の動力伝達経路L上に配置されており、内燃エンジン2のクランク軸に接続し得る自動変速機の入力軸8を有していると共に、該入力軸8の軸方向を中心として上述のトルクコンバータ4と自動変速機構5とを備えている。
【0034】
トルクコンバータ4は、自動変速機10の入力軸8に接続されたポンプインペラ4aと、作動流体を介して該ポンプインペラ4aの回転が伝達されるタービンランナ4bと、タービンランナ4bからポンプインペラ4aに戻るオイルを整流しつつトルク増大作用を生じさせるステータ4cとを有していると共に、該タービンランナ4bは、上記入力軸8と同軸上に配設された上記自動変速機構5の入力軸12に接続されている。また、該トルクコンバータ4には、ロックアップクラッチ7が備えられており、該ロックアップクラッチ7が係合されると、上記自動変速機10の入力軸8の回転が自動変速機構5の入力軸12に直接伝達される。
【0035】
なお、ステータ4cは、ワンウェイクラッチFによって、ポンプインペラ4aの回転よりタービンランナ4bの回転が下回る状態で回転が固定されて、オイルの流れの反力を受圧してトルク増大作用を生じさせ、タービンランナ4bの回転が上回る状態になると空転して、オイルの流れが負方向に作用しないように構成されている。
【0036】
また、ポンプインペラ4aは、その自動変速機構5側の駆動軸4dが、ミッションケース9に固定された隔壁9a内に配設された機械式オイルポンプ31のドライブギヤ31aに駆動連結されており、ドライブギヤ31aは、それに噛合するドリブンギヤ31bとの間に伸縮空間を形成し、駆動回転時に不図示の吸入ポートから油を吸入すると共に不図示の排出ポートに油を圧縮して排出する。即ち、機械式オイルポンプ31は、入力軸8を介して内燃エンジン2に連動されるように駆動連結されている。そして、該機械式オイルポンプ31は、内燃エンジン2の駆動力による走行中、後述の摩擦係合要素(クラッチC−1,C−2,C−3,B−1,B−2)を作動するための油を油圧制御装置6に供給する。
【0037】
上記自動変速機構5には、入力軸12上において、プラネタリギヤSPと、プラネタリギヤユニットPUとが備えられている。上記プラネタリギヤSPは、サンギヤS1、キャリヤCR1、及びリングギヤR1を備えており、該キャリヤCR1に、サンギヤS1及びリングギヤR1に噛合するピニオンP1を有している、いわゆるシングルピニオンプラネタリギヤである。
【0038】
また、該プラネタリギヤユニットPUは、4つの回転要素としてサンギヤS2、サンギヤS3、キャリヤCR2、及びリングギヤR2を有し、該キャリヤCR2に、サンギヤS2及びリングギヤR2に噛合するロングピニオンPLと、サンギヤS3に噛合するショートピニオンPSとを互いに噛合する形で有している、いわゆるラビニヨ型プラネタリギヤである。
【0039】
上記プラネタリギヤSPのサンギヤS1は、ミッションケース9に一体的に固定されている隔壁9aのボス部に接続されて回転が固定されている。また、上記リングギヤR1は、上記入力軸12の回転と同回転(以下「入力回転」という。)になっている。更に上記キャリヤCR1は、該固定されたサンギヤS1と該入力回転するリングギヤR1とにより、入力回転が減速された減速回転になると共に、クラッチ(摩擦係合要素)C−1及びクラッチ(摩擦係合要素)C−3に接続されている。
【0040】
上記プラネタリギヤユニットPUのサンギヤS2は、バンドブレーキからなるブレーキ(摩擦係合要素)B−1に接続されてミッションケース9に対して固定自在となっていると共に、上記クラッチC−3に接続され、該クラッチC−3を介して上記キャリヤCR1の減速回転が入力自在となっている。また、上記サンギヤS3は、クラッチC−1に接続されており、上記キャリヤCR1の減速回転が入力自在となっている。
【0041】
更に、上記キャリヤCR2は、入力軸12の回転が入力されるクラッチ(摩擦係合要素)C−2に接続され、該クラッチC−2を介して入力回転が入力自在となっており、また、ワンウェイクラッチF−1及びブレーキ(摩擦係合要素)B−2に接続されて、該ワンウェイクラッチF−1を介してミッションケースに対して一方向の回転が規制されると共に、該ブレーキB−2を介して回転が固定自在となっている。そして、上記リングギヤR2は、カウンタギヤ11に接続されており、該カウンタギヤ11は、カウンタシャフト15、ディファレンシャル装置Dを介して車輪80fl,80frに接続されている。
【0042】
また、上記クラッチC−1は、摩擦板111と、該摩擦板111を係合・解放させる油圧サーボ110とを有して構成されている。油圧サーボ110は、内部にシリンダ部が形成されたクラッチドラム112と、該クラッチドラム112のシリンダ部に対向配置されると共に該クラッチドラム112に対して軸方向移動自在に配置されたピストン113と、スナップリング119によりクラッチドラム112に対して軸方向移動不能に配置されたリターンプレート117と、該ピストン113とリターンプレート117との間に縮設されたリターンスプリング116とを有して構成されており、クラッチドラム112のシリンダ部とピストン113との間に作動油室114が形成されていると共に、ピストン113とリターンプレート117との間に遠心油圧をキャンセルするためのキャンセル油室115が形成されている。
【0043】
なお、クラッチC−3を係合・解放させる油圧サーボ130、クラッチC−2を係合・解放させる油圧サーボ120は、上記クラッチC−1の油圧サーボ110と同様の構成であるので、その説明を省略する。また、ブレーキB−2を係合・解放させる油圧サーボ150も、キャンセル油室が形成されていない部分を除き、上記クラッチC−1の油圧サーボ110と同様の構成であるので、その説明を省略する。バンドブレーキであるブレーキB−1の油圧サーボは、図示を省略したが、クラッチドラム132の外周側に配置されて、該クラッチドラム132のドラム部分にバンドブレーキを巻き付け(引き締め)自在に構成されている。
【0044】
以上のように構成されたハイブリッド車両100は、内燃エンジン2の駆動力を用いたエンジン走行にあっては、
図1に示すモータ切離しクラッチC−Mが解放されて、リヤモータ20が車輪80rl,80rrから切離された状態にされる。そして、自動変速機10において、車速やアクセル開度に応じて制御部1により最適な変速段が判断されることで油圧制御装置6が電子制御され、その変速判断に基づき形成される前進1速段〜前進6速段及び後進段で内燃エンジン2の駆動力を変速して、車輪80fl,80frに該内燃エンジン2の駆動力を伝達する。なお、自動変速機10の前進1速段〜前進6速段及び後進段は、
図3に示す作動表のように、各クラッチC−1〜C−3、ブレーキB−1〜B−2、ワンウェイクラッチF−1が作動(係合制御)されるように、各油圧サーボ110,120,130,150等が動作すること(即ち、各油圧サーボの作動油室に供給される係合圧の供給状態)により達成される。
【0045】
また、上記エンジン走行モードからハイブリッド走行に移行する際は、
図1に示すモータ切離しクラッチC−Mが係合されて、リヤモータ20が車輪80rl,80rrに駆動連結される。これにより、上記内燃エンジン2の駆動力に加え、アクセル開度(運転者の駆動力要求)に基づき、リヤモータ20の駆動力が適宜にアシスト或いは回生され、つまり内燃エンジン2の駆動力とリヤモータ20の駆動力とを用いてハイブリッド車両100が走行される。
【0046】
なお、上記内燃エンジン2の駆動力によるエンジン走行モード時の加速時などにあっては、モータ切離しクラッチC−Mを解放し、リヤモータ20を車輪80rl,80rrから切離して走行抵抗にならないようにしてもよい。また、エンジン走行時であっても、減速時にはモータ切離しクラッチC−Mを係合し、リヤモータ20で回生ブレーキを実行する方が燃費向上に対して好ましい。
【0047】
そして、EV走行にあっては、
図1に示すモータ切離しクラッチC−Mが係合されて、リヤモータ20が車輪80rl,80rrに駆動連結され、かつ内燃エンジン2が停止されると共に後述のニュートラル制御手段46(
図4参照)による油圧制御装置6の制御によって自動変速機10における各クラッチC−2〜C−3、ブレーキB−1〜B−2が解放制御されて、該自動変速機10が空転可能状態(ニュートラル状態)にされる。これにより、アクセル開度(運転者の駆動力要求)に基づき、リヤモータ20の駆動力が適宜に力行或いは回生され、つまりリヤモータ20の駆動力のみを用いてハイブリッド車両100が走行される。
【0048】
このEV走行中にあっては、自動変速機構5の車輪80fl,80frに駆動連結された部材(例えばディファレンシャル装置D,カウンタシャフト15、カウンタギヤ11、プラネタリギヤユニットPUの各ギヤなど)が連れ回されると共に、内燃エンジン2の停止によって機械式オイルポンプ31が停止される。従って、EV走行中は、後述の電動オイルポンプ制御手段45(
図4参照)の制御により駆動される電動オイルポンプ32によって、自動変速機構5の潤滑部位や各油圧サーボ110,120,130のキャンセル油室(115等)への潤滑油の供給を行う。
【0049】
ところで、本ハイブリッド車両100では、EV走行中において、特許文献1(特開2010−223399号公報)と同様に、制御部(TCU)1が例えば車速やアクセル開度に基づき前進1速段から前進3速段に相当すると判断する走行状態では、EV走行からハイブリッド走行への移行準備としてのクラッチC−1の係合制御しておく。このEV走行中にクラッチC−1を係合したとしても、自動変速機構5は、牽引状態であってエンジンブレーキ時と同様な状態であり、上記ワンウェイクラッチF−1が空転するため、空転可能状態に制御されていることになる。このようにクラッチC−1を係合制御しておくための油圧も、電動オイルポンプ32によって発生する。
【0050】
一方、EV走行中にあって、制御部1が例えば車速やアクセル開度に基づき前進4速段から前進6速段に相当すると判断する走行状態では、高速走行における各クラッチやブレーキの引き摺りを防止する目的で、クラッチC−1、クラッチC−2、クラッチC−3、ブレーキB−1、ブレーキB−2を解放制御するように指令し、自動変速機構5がニュートラル状態になるように制御する。なお、EV走行中のクラッチC−1の制御は、上記の変速段の判断に替えて、車速の判断に応じて係合制御及び解放制御を切り換えるようにしても良い。
【0051】
このニュートラル状態にあって、上記ブレーキB−1は、バンドブレーキである特性上、クラッチドラム132の周囲を囲むように配設されているので、高速回転時にクラッチドラム132のドラム部分に引き摺られ易いという特徴がある。ブレーキB−1が引き摺られると、
図7に示す速度線図のように、車輪80fl,80frの回転に連動するリングギヤR2の回転状態に対して、サンギヤS2の回転が矢印で示すように停止方向に抵抗を受ける形となる。すると、サンギヤS3は、矢印に示すように回転上昇する方向へ連れ回されることになる。
【0052】
サンギヤS3が回転すると、
図2に示すように、該サンギヤS3に駆動連結されたクラッチドラム112が連れ回されることになり、つまりクラッチC−1(摩擦係合要素)の油圧サーボ110が連れ回され、その作動油室114及びキャンセル油室115も連れ回される。従って、車速Vが高くなるほど、作動油室114及びキャンセル油室115の回転が高速にされていく。
【0053】
ここで、クラッチC−1が解放状態である場合に、上述のように、作動油室114及びキャンセル油室115が回転状態となっても、キャンセル油室115に油が満たされていれば、一般的に作動油で満たされている作動油室114と遠心油圧が釣り合って、ピストン113は何ら移動しない。しかしながら、例えばEV走行中にあって車両100が停車状態にあると、大気開放されているキャンセル油室115の油は、遠心力が働かないため、リターンプレート117とクラッチドラム112との隙間よりも上部(特に入力軸12よりも上方側)の油が抜け落ちる。
【0054】
このように半分以上の油が抜けたキャンセル油室115は、電動オイルポンプ32により発生される油圧に基づき供給される潤滑油量で徐々に満たされていくが、リヤモータ20の駆動力により急加速を行った場合などに、キャンセル油室115に対して供給される油量が足りず、キャンセル油室115が満たされる前に高回転となると、作動油室114及びキャンセル油室115の遠心油圧の差圧によって、ピストン113が摩擦板111を押圧する方向に押圧駆動される状況が生じることがある。
【0055】
なお、このようなキャンセル油室115の油の充填が間に合わない場合としては、停車状態後のEV走行開始からの経過時間が短いほど、油の充填が間に合わず、クラッチC−1の引き摺りが発生し易くなる。また、油温が低いほど、潤滑油の流れが悪くなるので、油の充填が間に合わず、クラッチC−1の引き摺りが発生し易くなる。そして、車速Vが高いほど、油圧サーボ110が高回転となるので、作動油室114及びキャンセル油室115の遠心油圧の差圧が大きくなって、クラッチC−1の引き摺りが発生し易くなる。
【0056】
以下、このようなクラッチC−1の引き摺りの発生を防止する引き摺り解消制御、及びその制御を行う制御部1の構成について、
図4乃至
図6に沿って説明する。
【0057】
制御部(TCU)1は、
図4に示すように、計時停止手段41aを有する経過時間計測手段41、車速検知手段42、油温検知手段43、異常判定手段45a及び故障判定手段45bを有する電動オイルポンプ制御手段45、ニュートラル制御手段46、引き摺り条件マップ55、引き摺り判定手段51、引き摺り解消制御手段52、解消終了制御手段53、等を備えて構成されており、また、該制御部1には、カウンタギヤ11(或いはカウンタシャフト15)の回転数を検出する出力軸回転(車速)センサ61と、例えば油圧制御装置6内に配置されて油温を検出する油温センサ62とが接続されている。
【0058】
図5に示すように、制御部1は、例えばイグニッションがオンされると本発明に係る引き摺り解消制御を開始し(S1)、まず、EV走行(EVモード)であるか否かを判定する(S2)。EV走行ではない場合(S2のNo)、つまりエンジンン走行やハイブリッド走行である場合は、内燃エンジン2が駆動されているため、上記機械式オイルポンプ31が回転駆動されており、上記キャンセル油室115に対する潤滑油の供給が充分にあるので、本引き摺り解消制御を行わず、そのまま終了する(S12)。
【0059】
また、EV走行である場合は(S2のYes)、クラッチC−1が解放中であるか否かを判定する(S3)。上述したように通常のEV走行中においては、例えば前進1速段から前進3速段を判断した場合、クラッチC−1が係合制御されるので(S3のNo)、本引き摺り解消制御を行わず、そのまま終了する(S12)。
【0060】
一方、制御部1は、例えば油温が所定温度(例えば0度)よりも低い低油温時などにあって、例えば前進1速段から前進3速段を判断してもクラッチC−1を係合せずにそのまま解放制御する。このような場合は、クラッチC−1が解放中であるので(S3のYes)、ステップS4に進み、ハイブリッド車両100が停止した状態からEV走行が開始されるまで待機する(S4のNo)。出力軸回転(車速)センサ61の検出信号に基づきハイブリッド車両100の車速Vを検知する車速検知手段42が、車速Vが0でないことを検知すると、EV走行の開始として判定し(S4のYes)、経過時間計測手段41が経過タイマの計測を開始する(S5)。つまり、経過時間計測手段41は、EV走行の開始からの経過時間を計測する。
【0061】
つづいて、EV走行中であると電動オイルポンプ制御手段45により電動オイルポンプ32が駆動中のはずであるが、異常判定手段45aにより電動オイルポンプ32に異常が発生しているか否かを判定する(S6)。なお、電動オイルポンプ32に異常が発生しているか否かは、例えば電動オイルポンプ32に備えられているコンピュータにインストールされているドライバの機能で、該ドライバからエラー信号が出力されていることに基づき異常と判定し、正常信号が出力されていることに基づき正常(異常ではない)と判定する。該ドライバは、電動オイルポンプ32に対する電流値や電圧値の変化などに基づき、回転がロック状態であったり空転状態にあったりすると判定すると、エラー信号を出力する。
【0062】
上記ステップS6において、異常判定手段45aにより電動オイルポンプ32に異常が発生していないと判定される場合は(S6のNo)、ステップS7に進み、そのまま経過時間計測手段41によるEV走行の開始からの経過時間の計測を継続する。
【0063】
一方、上記ステップS6において、異常判定手段45aにより電動オイルポンプ32に異常が発生したことを判定した場合は(S6のYes)、まず、故障判定手段45bが、電動オイルポンプ32の異常発生が判定された回数としてカウントNをN+1として1カウント増やし(S8)、該カウントNが所定回数αを越えたか(以上か)否かを判定する(S9)。ここで、電動オイルポンプ32の異常発生が判定された回数であるカウントNが所定回数α未満である場合は(S9のNo)は、上記ステップS5で開始した、EV走行の開始からの経過時間の計測を一時的に停止する(S10)。
【0064】
つづいて、油温検知手段43が、油温センサ62の検出信号に基づき潤滑油の油温Tを検知し(S11)、更に、上記車速検知手段42が車速Vを検知し(S12)、ステップS13に進む。
【0065】
そして、ステップS13において、引き摺り判定手段51は、上記ステップS5で計測開始した経過タイマの『経過時間t』(ステップS10で経過タイマが停止されている場合も含む)、上記ステップS6で検知した『油温T』、上記ステップS7で検知した『車速V』に基づき、引き摺り条件マップ55を参照し、引き摺りが発生する条件が成立するか否かを判定する。
【0066】
上記引き摺り条件マップ55は、
図6に示すように、上述の経過時間計測手段41で計測される経過タイマの『経過時間t』が短いほど、車速検知手段42で検知された『車速V』が高いほど、油温検知手段43で検知された『油温T』が低いほど(油温TA>油温TB>油温TC)、引き摺りが発生する条件が成立するように、例えば油温TA,TB,TCに対応した引き摺り開始境界線が記録されている。即ち、『経過時間t』、『車速V』、『油温T』に基づく引き摺り条件マップ55上の位置が、これら油温TA,TB,TCに対応した引き摺り開始境界線よりも図中上方かつ左方側に位置すると、引き摺り条件が成立したことになる。
【0067】
言い換えると、上述したように、EV走行開始からの経過時間が短いほど、電動オイルポンプ32による油の充填が間に合わずにクラッチC−1の引き摺りが発生し易く、また、油温が低いほど、潤滑油の流れが悪くなって、油の充填が間に合わずにクラッチC−1の引き摺りが発生し易く、更に、車速Vが高いほど、油圧サーボ110が高回転となるので、作動油室114及びキャンセル油室115の遠心油圧の差圧が大きくなって、クラッチC−1の引き摺りが発生し易くなるので、このような引き摺りが発生する条件としての油温TA,TB,TCに対応した引き摺り開始境界線が設定される。
【0068】
なお、ステップS10において経過タイマが停止された場合、「経過時間t」は、実際にEV走行を開始してからの経過時間ではないが、電動オイルポンプ32に異常が発生して当該電動オイルポンプ32からクラッチC−1のキャンセル油室115に油を供給できなかった時間が加算されていないので、つまり電動オイルポンプ32によりクラッチC−1のキャンセル油室115に油を供給した累積時間であると言える。
【0069】
ところで、上記油温TA,TB,TCに対応した引き摺り開始境界線よりも図中上方かつ左方側に位置する範囲は、クラッチC−1のキャンセル油室115の油量が不足して実際に引き摺りを発生させる境界線であるが、実際にクラッチC−1に引き摺りが発生してから機械式オイルポンプ31を駆動してキャンセル油室115に油を供給すると、その間はクラッチC−1に引き摺りが発生した状態となるので、『経過時間t』、『車速V』、『油温T』に基づく位置がこの引き摺り開始境界線の範囲内に入る前に、詳しくは後述する引き摺り解消制御を開始することが好ましい。
【0070】
そこで、本引き摺り条件マップ55には、上記油温TA,TB,TCに対応した引き摺り開始境界線に対し、内燃エンジン2をベルト式統合型スタータ・ジェネレータ3Aでアイドル回転数まで上昇させるための安全マージンMを含めたエンジン始動境界線TAc,TBc,TCcがそれぞれ設定されている。本実施の形態において引き摺り判定手段51は、このエンジン始動境界線TAc,TBc,TCcを『引き摺りの発生が予測される条件が成立すること』として判定する。
【0071】
なお、
図6に示す引き摺り条件マップ55には、3段階の油温TA,TB,TCに対応した引き摺り開始境界線や、安全マージンMを含めた3段階のエンジン始動境界線TAc,TBc,TCcを記録しているものを説明したが、油温TAと油温TBとの間の油温や、油温TBと油温TCとの間の油温などの場合は、適宜にこれら境界線を線形補完した値で引き摺り発生の条件の成立とするように判定することが好ましい。
【0072】
また、
図6に示す引き摺り条件マップ55において、油温TAよりも高い油温の場合は、電動オイルポンプ32による潤滑油のキャンセル油室115に対する供給量が、リヤモータ20によるハイブリッド車両100の加速性能に対して、不足する状況にならないので、油温TAよりも高い油温の場合は、引き摺りが発生しないものとして扱うことができ、引き摺り条件マップ55に条件を記録しておくことが不要である。
【0073】
また反対に、
図6に示す引き摺り条件マップ55において、油温TCよりも低い油温の場合は、経過時間tに拘らず、電動オイルポンプ32の発生する圧力では、キャンセル油室115に潤滑油が殆んど供給されないことが予測されるので、一定の車速Vよりも高い車速になった場合を成立条件として、引き摺り発生を判定するようにしてもよい。
【0074】
以上のように、引き摺り判定手段51が引き摺り条件マップ55を参照しつつ引き摺り発生条件の成立を判定し、引き摺り発生条件が成立していない場合は(S13のNo)、
図5に示すように、再度ステップS6に戻る。このステップS6からステップS13までのルーチンは、所定時間間隔で行われ、つまりステップS6における電動オイルポンプ32の異常発生の判定は、所定時間間隔毎に行われる。
【0075】
そして、ステップS6において、電動オイルポンプ32の異常発生が判定されない場合は(S6のNo)、引き続き経過タイマの計測を継続し(或いは前回のステップS10で経過タイマの計測を停止していた場合は、経過タイマの計測を再開し)(S7)、再度ステップS11,S12で油温T及び車速Vを再検知(再取得)する。
【0076】
一方、ステップS6において、電動オイルポンプ32の異常発生が判定される場合は(S6のYes)、上記カウントNを1カウント増やし(S8)、該カウントNが所定回数α未満であれば(S9のNo)、引き続き経過タイマの計測を停止状態にする(S10)。これにより、つまり計時停止手段41aは、異常判定手段45aにより電動オイルポンプ32の異常発生が判定されている間、経過時間計測手段41による経過時間の計測を停止していることになる。
【0077】
また、このステップS6からステップS13までのルーチンを繰り返している間に、上記カウントNが所定回数αを越えた場合は(S9のYes)、つまり電動オイルポンプ32の故障が確定した状態であるので、電動オイルポンプ32からクラッチC−1のキャンセル油室115への油の供給は見込めず、機械式オイルポンプ31による油の供給が無ければクラッチC−1の引き摺りが発生する可能性が高い。また、クラッチC−1の引き摺りの問題だけでなく、各部位への潤滑油の供給不足となる問題や油圧制御が制御不能となる問題も発生する虞があるので、この場合は、そのままステップS14に進む。なお、この場合は、後述するステップS17において内燃エンジン2の停止を行わず、機械式オイルポンプ31による油の供給を引き続き行うようにすることが好ましい。
【0078】
一方、上記ステップS6からステップS13までのルーチンを繰り返している間に、引き摺り判定手段51が引き摺り発生条件の成立(上述した引き摺りの発生が予測される条件の成立を含む)を判定した場合は(S13のYes)、
図4に示すように、引き摺り解消制御手段52によりベルト式統合型スタータ・ジェネレータ3Aに指令して内燃エンジン2を始動する(S14)。これにより、内燃エンジン2に連動する機械式オイルポンプ31(
図2参照)が回転駆動され、油圧制御装置6において電動オイルポンプ32の駆動時よりも大きな潤滑油圧が発生して、キャンセル油室115に対して潤滑油が多量に供給されて該キャンセル油室115に油が急速に充填される。
【0079】
このように内燃エンジン2が始動されると、解消終了制御手段53は、始動タイマの計測を開始し(S15)、つまり内燃エンジン2を駆動した時間の計測を開始する。そして、該解消終了制御手段53は、始動タイマが所定時間以上になるまで待機し(S16のNo)、所定時間以上となると(S16のYes)、内燃エンジン2の燃料噴射を停止するように指令して該内燃エンジン2の駆動状態を解除し(S17)、以上で本引き摺り解消制御を終了する(S18)。なお、この所定時間(始動タイマ)は、機械式オイルポンプ31の駆動によってキャンセル油室115が充分に充填されるまでの時間であり、数秒程度(例えば2〜3秒程度)である。
【0080】
なお、ステップS17の内燃エンジン2の駆動状態の解除は、上記の燃料噴射を停止する指示に替えて、内燃エンジン2の停止を許可するステータス信号を内燃エンジン2に送信し、内燃エンジン2において停止を判断するようにしてもよい。
【0081】
以上のように制御部1によると、引き摺り判定手段51によって、EV走行中に電動オイルポンプ32によりクラッチC−1のキャンセル油室115に対して供給される油量が不足することにより該クラッチC−1に引き摺りが発生する条件が成立することが判定された場合に、引き摺り解消制御手段52が、内燃エンジン2の始動を指令して機械式オイルポンプ31を回転駆動するので、クラッチC−1で引き摺りの発生する際(発生が予測される際)に、クラッチC−1のキャンセル油室115に対して機械式オイルポンプ31からの多量の油を供給することができ、クラッチC−1における引き摺りの発生を防止することができる。このように引き摺りの発生が防止できるので、大型な電動オイルポンプで引き摺りの発生を防止する場合に比して、電動オイルポンプ32の小型化を図ることができ、車両搭載性の向上やコストダウンを図ることができる。
【0082】
また、引き摺りが発生する条件が、EV走行を開始してからの経過時間tが短く、かつ車速Vが高いほど、成立し易くなるように設定されているので、電動オイルポンプ32によるクラッチC−1のキャンセル油室115に対する油の供給量に応じて、クラッチC−1の引き摺りの発生(の予測)を精度良く判定することができる。これにより、不要な内燃エンジン2の始動を防止することができるものでありながら、クラッチC−1で引き摺りが発生する際(発生が予測される際)に、適宜にクラッチC−1における引き摺りの発生を防止することができる。
【0083】
更に、引き摺りが発生する条件が、油温Tが低いほど、成立し易くなるように設定されているので、油温Tによって変化する電動オイルポンプ32によるクラッチC−1のキャンセル油室115に対する油の供給量に応じて、クラッチC−1の引き摺りの発生(の予測)を精度良く判定することができる。これにより、不要な内燃エンジン2の始動を防止することができるものでありながら、クラッチC−1で引き摺りが発生する際(発生が予測される際)に、適宜にクラッチC−1における引き摺りの発生を防止することができる。
【0084】
また特に、引き摺りが発生する条件が、内燃エンジン2を始動してからアイドル回転数に到達する時間を安全マージンMとして含めるように設定されているので、クラッチC−1で引き摺りが発生するまでに、内燃エンジン2の始動を完了することができ、クラッチC−1での引き摺りの発生を確実に防止することができる。
【0085】
さらに、電動オイルポンプ32に異常が発生して、EV走行中に電動オイルポンプ32によりクラッチC−1のキャンセル油室115に対して油が供給されていない可能性のある間、経過タイマの計測が停止されるので、該クラッチC−1に引き摺りが発生する条件が電動オイルポンプ32の異常発生時間を加味して成立するようにすることができ、電動オイルポンプ32に異常発生が発生したとしてもクラッチC−1における引き摺りの発生を確実に防止することができる。
【0086】
また、電動オイルポンプ32の異常発生の判定回数であるカウントNが所定回数αを越えて、電動オイルポンプ32に故障が発生したことを判定すると、内燃エンジン2の始動を指令して機械式オイルポンプ31を回転駆動するので、電動オイルポンプ32が故障すると確実に機械式オイルポンプ31が駆動されて、クラッチC−1における引き摺りの発生を確実に防止することができる。
【0087】
そして、解消終了制御手段53が、引き摺り解消制御手段52により内燃エンジン2の始動を指令してから所定時間後に内燃エンジン2の停止を指令するので、クラッチC−1のキャンセル油室115が油で満たされた後に無駄に内燃エンジン2を駆動しておくことの防止を図ることができる。
【0088】
なお、以上説明した本実施の形態においては、本自動変速機10をリヤモータ式のハイブリッド車両100に適用した場合を一例として説明したが、これに限らず、自動変速機を搭載し、EV走行中に電動オイルポンプにより摩擦係合要素のキャンセル油室に対して供給される油量が不足し得るようなハイブリッド車両であれば、どのような車両であっても、本発明を適用し得る。また勿論であるが、ハイブリッド車両とは、充電によりEV走行し得るプラグイン・ハイブリッド車両を含む概念である。
【0089】
また、本実施の形態では、自動変速機10が前進6速段及び後進段を達成する多段式自動変速機であるものを説明したが、これに限らず、例えば前進7速段以上や前進5速段以下の多段変速機、或いはベルト式、トロイダル式、リングコーン式の無段変速する無段変速機であっても、本発明を適用し得る。
【0090】
また、本実施の形態では、EV走行中にクラッチC−1の油圧サーボ110が回転されて引き摺りを発生するものを説明したが、クラッチC−1に限らず、他の摩擦係合要素でキャンセル油室の油の不足により引き摺りが発生する場合は、その摩擦係合要素に対しても本発明を適用し得る。
【0091】
更に、本実施の形態では、「引き摺りが発生する条件が成立することを判定する」という意味として、
図6に示す引き摺り条件マップのエンジン始動境界線TAc,TBc,TCcを車速Vないし経過時間tが越えたか否かによって判定しており、つまり内燃エンジン2をアイドル回転数まで上昇する時間の分だけ、「引き摺りの発生を予測して判定する」という意味となっているが、これに限らず、「実際に引き摺りが発生したことを判定する」という意味のものでもいい。即ち、
図6に示す「油温TA,TB,TCに対応した引き摺り開始境界線」で「引き摺りが発生したことを判定する」のでもよく、さらには、入力軸回転センサなどで入力軸12の回転加速度変化などを検知し、その結果、「実際に引き摺りが発生したことを判定する」というようなものでもよい。
【0092】
また、本実施の形態では、EV走行中において前進1速段ないし前進3速段が判定される際にクラッチC−1を係合しておくものを説明したが、EV走行中は、全てのクラッチやブレーキを完全に解放状態にして、自動変速機10を常にニュートラル状態にしておいてもよい。