特許第5839198号(P5839198)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5839198
(24)【登録日】2015年11月20日
(45)【発行日】2016年1月6日
(54)【発明の名称】塗装方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/24 20060101AFI20151210BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20151210BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20151210BHJP
【FI】
   B05D1/24
   B05D7/00 N
   B05D7/24 301A
   B05D7/24 301P
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-97674(P2012-97674)
(22)【出願日】2012年4月23日
(65)【公開番号】特開2013-223843(P2013-223843A)
(43)【公開日】2013年10月31日
【審査請求日】2015年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】特許業務法人プロスペック特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100155767
【弁理士】
【氏名又は名称】金井 憲志
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 伸和
【審査官】 中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−359873(JP,A)
【文献】 特開昭60−090073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00−7/26
B32B1/00−43/00
C09D1/00−10/00;101/00−201/10
C09J1/00−201/10
C23C24/00−30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に粘着剤が付着した粘着媒体が内部に充填された粘着媒体充填槽に、被塗装物を埋没させ、前記粘着媒体充填槽内に充填された複数の粘着媒体からなる粘着媒体集合体を撹拌して、前記粘着媒体に付着している粘着剤を前記被塗装物の表面に付着させる第1粘着剤塗布工程と、
前記被塗装物の表面のうち前記第1粘着剤塗布工程で前記粘着剤が塗布されなかった部分に、前記粘着剤を塗布する第2粘着剤塗布工程と、
前記被塗装物の表面のうち前記第2粘着剤塗布工程で前記粘着剤を塗布した部分に粉体塗料を塗布する第1塗料塗布工程と、
表面に粉体塗料が付着した塗料媒体が内部に充填された塗料媒体充填槽に、前記第1塗料塗布工程を経た前記被塗装物を埋没させ、前記塗料媒体充填槽内に充填された複数の塗料媒体からなる塗料媒体集合体を撹拌して、前記塗料媒体に付着している粉体塗料を前記被塗装物の表面に付着させる第2塗料塗布工程と、
を含む、塗装方法。
【請求項2】
請求項1に記載の塗装方法において、
前記第2粘着剤塗布工程は、前記被塗装物の表面のうち前記第1粘着剤塗布工程で前記粘着剤が塗布されなかった部分に、前記粘着剤を吹き付ける工程を含み、
前記第1塗料塗布工程は、前記被塗装物の表面のうち前記第2粘着剤塗布工程で粘着剤を塗布した部分に、前記粉体塗料を吹き付ける工程を含む、塗装方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗装物を粉体塗料で塗装する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば下記特許文献1に記載されているように、表面に粘着剤が付着した粘着媒体を被塗装物の表面に衝突させて、被塗装物の表面に粘着膜を形成した後、表面に粉体塗料が付着した塗料媒体を被塗装物に衝突させて、粘着膜の粘着力で塗料媒体表面上の粉体塗料を被塗装物に付着させることにより、被塗装物を塗装する塗装方法は知られている。
【0003】
また、下記特許文献2に記載されているように、被塗装物及び粘着媒体に粘着剤を塗布するとともに、粘着媒体を被塗装物の表面に衝突させて、被塗装物の表面に形成される粘着膜の厚さを均一化した後、表面に粉体塗料が付着した塗料媒体を被塗装物に衝突させて、粘着膜の粘着力で塗料媒体表面上の粉体塗料を被塗装物に付着させることにより、被塗装物を塗装する塗装方法は知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−359873号公報
【特許文献2】特開平7−112160号公報
【発明の概要】
【0005】
上記特許文献1に記載の塗装方法によれば、粘着媒体が入り込むことが出来ない角部、隙間などが被塗装物の表面に形成されている場合、これらの角部、隙間などには粘着剤が付着しない。そのため、これらの角部、隙間などを粉体塗料によって塗装することが出来ない。したがって、これらの未塗装部分を、例えば液体塗料を用いて局所的に塗装する必要があるが、粉体塗料によって塗装された部分の質感と、液体塗料によって塗装された部分の質感を統一するには熟練を要する。
【0006】
また、上記特許文献2に記載の塗装方法によれば、粘着媒体が入り込むことが出来ない角部、隙間などが被塗装物の表面に形成されている場合、これらの角部、隙間などの部分に粘着剤が溜まって、角部、隙間などに形成された粘着膜の膜厚が他の部分に比べて厚くなり易い。そのため、その後の工程で被塗装物に衝突する塗料媒体が角部、隙間などに形成された粘着膜に埋もれ、塗料媒体自体が被塗装物に残ってしまう。したがって、角部、隙間などの平滑性が損なわれ、製品の外観品質が低下する。
【0007】
本発明は上記問題に対処するためになされたもので、その目的は、被塗装物を粉体塗料で塗装する塗装方法であって、製品の外観品質を向上させることができる塗装方法を提供することにある。なお、下記本発明の各構成要件の記載においては、本発明の理解を容易にするために、実施形態の対応箇所の符号を括弧内に記載しているが、本発明の各構成要件は、実施形態の符号によって示された対応箇所の構成に限定解釈されるべきものではない。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、表面に粘着剤が付着した粘着媒体が内部に充填された粘着媒体充填槽(21)に、被塗装物(10)を埋没させ、前記粘着媒体充填槽内に充填された複数の粘着媒体からなる粘着媒体集合体(27)を撹拌して、粘着媒体に付着している粘着剤を被塗装物の表面に付着させる第1粘着剤塗布工程と、被塗装物の表面のうち第1粘着剤塗布工程で粘着剤が塗布されなかった部分に粘着剤を塗布する第2粘着剤塗布工程と、被塗装物の表面のうち第2粘着剤塗布工程で粘着剤を塗布した部分に粉体塗料を塗布する第1塗料塗布工程と、表面に粉体塗料が付着した塗料媒体が内部に充填された塗料媒体充填槽(31)に、第1塗料塗布工程を経た被塗装物を埋没させ、前記塗料媒体充填槽内に充填された複数の塗料媒体からなる塗料媒体集合体(37)を撹拌して、塗料媒体に付着している粉体塗料を被塗装物の表面に付着させる第2塗料塗布工程とを含むことにある。
【0009】
この場合、第2粘着剤塗布工程は、被塗装物の表面のうち第1粘着剤塗布工程で粘着剤が塗布されなかった部分に、粘着剤を吹き付ける工程を含み、第1塗料塗布工程は、被塗装物の表面のうち第2粘着剤塗布工程で粘着剤を塗布した部分に、粉体塗料を吹き付ける工程を含むとよい。また、第1粘着剤塗布工程で粘着剤が塗布されなかった部分は、第1粘着剤塗布工程で粘着媒体が入り込むことができない部分であるのがよい。この場合、第1粘着剤塗布工程で粘着媒体が入り込むことができない部分として、被塗装物に形成されている角部、隙間、谷部、折り曲げ部など(以下、角部、隙間などと記載する)が挙げられる。
【0010】
粘着媒体が入り込むことが出来ない角部、隙間などが被塗装物の表面に形成されている場合、第1粘着剤塗布工程では、これらの角部、隙間などには粘着剤が付着しない。そこで、第2粘着剤塗布工程において、被塗装物の表面のうち第1粘着剤塗布工程で粘着剤が塗布されなかった部分に粘着剤を塗布するようにした。その後、第1塗料塗布工程において、被塗装物の表面のうち第2粘着剤塗布工程で粘着剤を塗布した部分に粉体塗料を塗布し、さらにその後の第2塗料塗布工程で、被塗装物の表面のうち第2粘着剤塗布工程で粘着剤を塗布した部分以外の部分に粉体塗料を塗布するようにした。これにより、被塗装物全体を粉体塗料で塗装できる。したがって、粘着媒体及び塗料媒体が入り込むことができない角部、隙間などを、例えば液体塗料を用いて局所的に塗装する必要がない。よって、角部、隙間などとその他の部分の質感を統一できる。
【0011】
また、第2粘着剤塗布工程において塗布された粘着剤の量が多い場合、角部、隙間などに粘着剤が溜まって角部、隙間などに形成された粘着膜の膜厚が他の部分より厚くなり易い。この状態で、被塗装物を塗料媒体充填槽内に埋没させ、塗料媒体集合体を撹拌すると、角部、隙間などに衝突した塗料媒体が粘着膜に埋もれ、塗料媒体自体が被塗装物に残ってしまう。しかし、本発明によれば、第1塗料塗布工程において局所的に塗布された粉体塗料によって、角部、隙間などの粘着剤がマスキングされる。したがって、第2塗料塗布工程において、角部、隙間などに溜まった粘着剤に塗料媒体が埋もれて、塗料媒体が被塗装物の角部、隙間などに付着したままになることを防止できる。すなわち、角部、隙間などの平滑性が損なわれることがない。よって、製品の外観品質を向上させることができる。
【0012】
なお、本発明において、「粘着媒体」は、被塗装物に粘着体を付着させるための媒体である。また、「塗料媒体」は、被塗装物に粉体塗料を付着させるための媒体である。粘着媒体及び塗料媒体は一般的には球形である。粘着媒体及び塗料媒体の径は被塗装物の大きさや形状により異なるが、0.5〜1mm程度であるのがよい。粘着媒体及び塗料媒体の材質は、被塗装物に衝突することにより被塗装物の表面を傷つけないものであればどのようなものでもよい。セラミックス製の粘着媒体及び塗料媒体が好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係る塗装方法によって塗装される被塗装物の一例を示す概略図である。
図2図1の被塗装物の端部を拡大した拡大図である。
図3】本発明の一実施形態に係る塗装方法において用いられる装置の概略を示す概略図である。
図4】第1粘着剤塗布工程を示す図である。
図5】第1粘着剤塗布工程により被塗装物の表面に形成された粘着膜を示す図である。
図6】第2粘着剤塗布工程を示す図である。
図7】第1塗料塗布工程を示す図である。
図8】第2塗料塗布工程を示す図である。
図9】第2塗料塗布工程により被塗装物の表面に形成された粉体塗料膜を示す図である。
図10】角部に溜まった粘着剤にビーズが埋もれた状態を示す図である。
図11】被塗装物に隙間が形成されている例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態に係る塗装方法について説明する。本実施形態においては、図1に示すような、車両のシートレールを被塗装物10とするが、本発明に係る塗装方法によって塗装される被塗装物は、どのような部品であってもよい。被塗装物10は、長尺状に形成されたレール本体部11と、レール本体部11を補強する板状のパッチ12からなる。パッチ12は、レール本体部11の端部に溶接されている。パッチ12の側面部12aは、レール本体部11の表面部11aに対して垂直である。すなわち、図2に示すように、レール本体部11とパッチ12との接合部には、角部Cが形成されている。
【0015】
次に、後述する第1粘着剤塗布工程及び第2塗料塗布工程で用いられる装置について説明する。図3に示す粘着剤塗布装置20は、第1粘着剤塗布工程において、被塗装物10の表面に粘着剤を塗布するための装置である。また、同図における、粉体塗料塗布装置30は、第2塗料塗布工程において、被塗装物10の表面に粉体塗料を塗布するための装置である。
【0016】
また、同図に示すように、粘着剤塗布装置20は、粘着媒体充填槽21、気体供給槽22、多孔質板23、ノズル24、及びエアシリンダ25を備える。粘着媒体充填槽21はその軸方向が上下方向(重力方向)に沿うように円筒状に形成されている。粘着媒体充填槽21の上面は開口している。この粘着媒体充填槽21の内部に、表面に粘着剤が付着したセラミックス製のビーズ(粘着媒体)が充填されている。ビーズの直径は0.5mmである。粘着媒体充填槽21内に充填されたビーズによりビーズ集合体27が形成される。
【0017】
粘着媒体充填槽21の上端開口縁の全周に亘りホッパー26が取り付けられている。このホッパー26は、粘着媒体充填槽21の上端から溢れ出たビーズを回収して再び粘着媒体充填槽21に落とし込む。
【0018】
気体供給槽22は粘着媒体充填槽21の下方に設けられている。気体供給槽22は、筒状の側面部及び底面部を有する有底円筒形状に形成されている。気体供給槽22の径は粘着媒体充填槽21の径と等しい。粘着媒体充填槽21と気体供給槽22との間に多孔質板23が配設される。したがって、多孔質板23は、粘着媒体充填槽21の底板を構成するとともに気体供給槽22の天板を構成する。多孔質板23には、粘着媒体充填槽21内の空間と気体供給槽22内の空間とを連通する複数の孔が形成されている。この孔の径は0.5mmよりも小さい。したがって、粘着媒体充填槽21内のビーズがこの孔を経由して気体供給槽22に落下することはない。本実施形態において多孔質板23は、径が0.5mmよりも小さい孔が均一に形成された金属メッシュ(金網)である。
【0019】
ノズル24は、その基端側にて図示しない加圧気体発生源に連通されている。ノズル24の先端には噴出口24aが形成されている。そして、噴出口24aが気体供給槽22の中心に位置するように、ノズル24が気体供給槽22内に挿入されている。本実施形態では、加圧気体発生源は、圧力が約2kgf/cmの工場エアー(加圧エアー)である。この工場エアーをドライヤーに通して乾燥させたドライエアーをノズル24に供給してもよい。また、噴出口24aは、加圧エアーが気体供給槽22の底面(下面)に向かって噴出されるように気体供給槽22内で下向きに配置されている。
【0020】
エアシリンダ25は粘着媒体充填槽21の上方に配設されている。エアシリンダ25はシリンダボディ251及びシリンダロッド252を備える。そして、シリンダロッド252の先端が粘着媒体充填槽21の上面に対面するように固定される。シリンダロッド252の先端に被塗装物10を固定することができるように、シリンダロッド252の先端部分の形状が工夫されている。
【0021】
図3に示すように、粉体塗料塗布装置30は、塗料媒体充填槽31、気体供給槽32、多孔質板33、ノズル34、及びエアシリンダ35を備える。
【0022】
塗料媒体充填槽31はその軸方向が上下方向(重力方向)に沿った円筒状に形成されている。塗料媒体充填槽31の上面は開口している。この塗料媒体充填槽31の内部に、表面に粉体塗料が付着したセラミックス製のビーズ(塗料媒体)が充填されている。ビーズの直径は0.5mmである。塗料媒体充填槽31内に充填されたビーズによりビーズ集合体37が形成される。
【0023】
塗料媒体充填槽31の上端開口縁の全周に亘りホッパー36が取り付けられている。このホッパー36は、塗料媒体充填槽31の上端から溢れ出たビーズを回収して再び塗料媒体充填槽31に落とし込む。
【0024】
気体供給槽32は塗料媒体充填槽31の下方に設けられている。気体供給槽32は、筒状の側面部及び底面部を有する有底円筒形状に形成されている。気体供給槽32の径は塗料媒体充填槽31の径と等しい。塗料媒体充填槽31と気体供給槽32との間に多孔質板33が配設される。したがって、多孔質板33は、塗料媒体充填槽31の底板を構成するとともに気体供給槽32の天板を構成する。多孔質板33には、塗料媒体充填槽31内の空間と気体供給槽32内の空間とを連通する複数の孔が形成されている。この孔の径は0.5mmよりも小さい。したがって、塗料媒体充填槽31内のビーズがこの孔を経由して気体供給槽32に落下することはない。本実施形態において多孔質板23は、径が0.5mmよりも小さい孔が均一に形成された金属メッシュ(金網)である。
【0025】
ノズル34は、その基端側にて図示しない加圧気体発生源に連通されている。ノズル34の先端には噴出口34aが形成されている。そして、噴出口34aが気体供給槽32の中心に位置するように、ノズル34が気体供給槽32内に挿入されている。本実施形態では、加圧気体発生源は、圧力が約2kgf/cmの工場エアー(加圧エアー)である。この工場エアーをドライヤーに通して乾燥させたドライエアーをノズル34に供給してもよい。また、噴出口34aは、加圧エアーが気体供給槽32の底面(下面)に向かって噴出されるように、気体供給槽32内で下向きに配置されている。
【0026】
エアシリンダ35は塗料媒体充填槽31の上方に配設されている。エアシリンダ35はシリンダボディ351及びシリンダロッド352を備える。そして、シリンダロッド352の先端が塗料媒体充填槽31の上面に対面するように固定される。シリンダロッド352の先端に被塗装物10を固定することができるように、シリンダロッド352の先端部分の形状が工夫されている。
【0027】
次に、被塗装物10を粉体塗料で塗装する手順を説明する。
【0028】
(準備工程)
まず、被塗装物10の表面を、脱脂処理及び防錆処理する。そして、粘着剤塗布装置20及び粉体塗料塗布装置30を作動させる。この場合、ノズル24の基端及びノズル34の基端に連通された加圧気体発生源から加圧エアーをノズル24及びノズル34に供給する。すると、ノズル24の噴出口24a及びノズル34の噴出口34aから加圧エアーが噴出される。ここで、ノズル24の噴出口24aが図3に示すように下方を向いているので、噴出口24aから噴出された加圧エアーは気体供給槽22の底面に衝突して径方向に一様に広がり、その後上昇する。そして、多孔質板23に形成されている孔部を経由して粘着媒体充填槽21内にその下部から加圧エアーが供給される。同様に、ノズル34の噴出口34aが図3に示すように下方を向いているので、噴出口34aから噴出された加圧エアーは気体供給槽32の底面に衝突して径方向に一様に広がり、その後上昇する。そして、多孔質板33に形成されている孔部を経由して塗料媒体充填槽31内にその下部から加圧エアーが供給される。
【0029】
粘着媒体充填槽21の下部から加圧エアーが供給されることにより、図3に示すように粘着媒体充填槽21内のビーズ集合体27中に気泡状の空洞部が発生する。発生した空洞部はビーズ集合体27中を上昇し、やがてビーズ集合体27の上面から放出される。空洞部がビーズ集合体27を上昇していく過程でビーズ集合体27が攪拌されるとともに、ビーズ集合体27を構成するビーズが空洞部に押しのけられることにより不規則に運動(流動)する。
【0030】
塗料媒体充填槽31の下部から加圧エアーが供給されることにより、図3に示すように塗料媒体充填槽31内のビーズ集合体37中に気泡状の空洞部が発生する。発生した空洞部はビーズ集合体37中を上昇し、やがてビーズ集合体37の上面から放出される。空洞部がビーズ集合体37を上昇していく過程でビーズ集合体37が攪拌されるとともに、ビーズ集合体37を構成するビーズが空洞部に押しのけられることにより不規則に運動(流動)する。
【0031】
(第1埋没工程)
準備工程によって粘着剤塗布装置20及び粉体塗料塗布装置30を作動させた後に、エアシリンダ25のシリンダロッド252の先端に、被塗装物10を固定する。このとき、被塗装物10の長手方向が上下方向(重力方向)に一致するように、すなわち被塗装物10の長手方向が粘着媒体充填槽21の軸方向に一致するように、被塗装物10をシリンダロッド252の先端に固定する。これにより被塗装物10が粘着媒体充填槽21の上方に配置される。続いて、エアシリンダ25を駆動して、シリンダロッド252を伸長させる。シリンダロッド252が伸長することにより、その先端に取り付けられた被塗装物10が粘着媒体充填槽21の上方から下降する。
【0032】
粘着媒体充填槽21の上面は開口しているので、図4に示すように、エアシリンダ25の駆動により下降する被塗装物10は粘着媒体充填槽21内にその上方から投入される。このとき粘着媒体充填槽21内にその下部から供給されている加圧エアーによって粘着媒体充填槽21内のビーズ集合体27中に気泡状の空洞部が発生しており、この空洞部の上昇によりビーズ集合体27が攪拌されている。つまり、粘着媒体充填槽21内のビーズ集合体27を攪拌しながら被塗装物10を粘着媒体充填槽21内に向けて下降させることにより、攪拌されているビーズ集合体27中に被塗装物10を埋没させる。そして、被塗装物10がビーズ集合体27内に埋もれる位置まで下降した時点でエアシリンダ25の駆動を停止させる。
【0033】
(第1粘着剤塗布工程)
次いで、図4に示した状態(空洞部の上昇により攪拌されているビーズ集合体27中に被塗装物10を埋没している状態)を、予め定めた時間(例えば5秒間)だけ維持する。ビーズ集合体27は攪拌されていて、この攪拌によりビーズ集合体27を構成するビーズは流動しているので、流動したビーズが被塗装物10に衝突する。ビーズの衝突によってビーズの表面に付着している粘着剤が被塗装物10の表面に移される。次々にビーズが被塗装物10に衝突することにより被塗装物10の表面に粘着剤が付着する。また、ビーズは空洞部に押しのけられるようにランダム(不規則)に流動しているので、被塗装物10の表面に均一に粘着剤が付着する。ただし、角部Cには、ビーズが入り込まないので、粘着剤が付着しない(図5参照)。
【0034】
(第1引き上げ工程)
粘着剤塗布工程にて粘着媒体充填槽21内のビーズ集合体27中に被塗装物10を予め定められた時間だけ埋没させた後に、エアシリンダ25を駆動してシリンダロッド252を収縮させ、ビーズ集合体27に埋没した被塗装物10を上昇させることにより、被塗装物10をビーズ集合体27中から引き上げる。被塗装物10の引き上げ時にも粘着媒体充填槽21内にその下部から加圧された気体が供給されているので、粘着媒体充填槽21内のビーズ集合体27中に気泡状の空洞部が発生しており、この空洞部によりビーズ集合体27が攪拌されている。つまり、第1引き上げ工程では、粘着媒体充填槽21内のビーズ集合体27を攪拌しながら、ビーズ集合体27中に埋設されている被塗装物10を上昇させて、被塗装物10をビーズ集合体27中から引き上げる。図5に示すように、引き上げられた被塗装物10の表面には、角部Cを除いて均一に粘着剤が付着し、粘着膜LRが形成されている。角部Cには粘着媒体が入り込まないので、粘着膜LRが形成されていない。
【0035】
(第2粘着剤塗布工程)
次に、図6に示すように、第1粘着剤塗布工程において粘着剤が塗布されなかった角部Cに、スプレーガンS1を用いて、粘着剤を霧状にして吹き付ける。これにより、角部Cにも粘着膜LRが形成される。
【0036】
(第1塗料塗布工程)
次に、図7に示すように、第2粘着剤塗布工程において粘着剤を塗布した角部Cに、スプレーガンS2を用いて、粉体塗料を吹き付ける。これにより、角部Cに、粉体塗料膜PCが形成される。
【0037】
(第2埋設工程)
次に、第1塗料塗布工程を経た被塗装物10をエアシリンダ35のシリンダロッド352の先端に固定する。この場合、被塗装物10の長手方向が上下方向(重力方向)に一致するように、すなわち被塗装物10の長手方向が塗料媒体充填槽31の軸方向に一致するように、被塗装物10をシリンダロッド352の先端に固定する。これにより被塗装物10が塗料媒体充填槽31の上方に配置される。続いて、エアシリンダ35を駆動してシリンダロッド352を伸長させる。シリンダロッド352が伸長することにより、その先端に取り付けられた被塗装物10が塗料媒体充填槽31の上方から下降する。
【0038】
塗料媒体充填槽31の上面は開口しているので、図8に示すように、エアシリンダ35の駆動により下降する被塗装物10は塗料媒体充填槽31内にその上方から投入される。このとき塗料媒体充填槽31内にその下部から供給されている加圧エアーによって塗料媒体充填槽31内のビーズ集合体37中に気泡状の空洞部が発生しており、この空洞部の上昇によりビーズ集合体37が攪拌されている。このようにして塗料媒体充填槽31内のビーズ集合体37を攪拌しながら被塗装物10を塗料媒体充填槽31内に向けて下降させることにより、被塗装物10を攪拌されているビーズ集合体37中に埋没させる。そして、被塗装物10がビーズ集合体37内に埋もれる位置まで下降した時点でエアシリンダ35の駆動を停止させる。
【0039】
(第2塗料塗布工程)
次いで、図8に示した状態(空洞部の発生により攪拌されているビーズ集合体37に被塗装物10が埋没している状態)を、予め定めた時間(例えば5秒間)だけ維持する。ビーズ集合体37は攪拌されていて、この攪拌によりビーズ集合体37を構成するビーズは流動しているので、流動するビーズが被塗装物10に衝突する。ビーズの衝突によってビーズの表面に付着している粉体塗料が被塗装物10に移される。次々にビーズが被塗装物10に衝突することにより被塗装物10の表面に粉体塗料が塗布される。また、ビーズは空洞部に押しのけられるようにランダム(不規則)に流動しているので、被塗装物10の表面に均一に粉体塗料が塗布される。ただし、角部Cには、上記の第1塗料塗布工程において粉体塗料が塗布され、角部Cが粉体塗料によってマスキングされている。すなわち、角部Cの表面には、粘着剤が露出していない。したがって、第2塗料塗布工程において、ビーズは、角部Cに衝突すると跳ね返される。
【0040】
(第2引き上げ工程)
第2塗料塗布工程にて塗料媒体充填槽31内のビーズ集合体37中に被塗装物10を予め定められた時間だけ埋没させた後に、エアシリンダ35を駆動してシリンダロッド352を収縮させ、ビーズ集合体37に埋没した被塗装物10を上昇させることにより、被塗装物10をビーズ集合体37中から引き上げる。被塗装物10の引き上げ時にも塗料媒体充填槽31内にその下部から加圧された気体が供給されているので、塗料媒体充填槽31内のビーズ集合体37中に気泡状の空洞部が発生しており、この空洞部によりビーズ集合体37が攪拌されている。つまり、第2引き上げ工程では、塗料媒体充填槽31内のビーズ集合体37を攪拌しながら、ビーズ集合体37中に埋設されている被塗装物10を上昇させて、被塗装物10をビーズ集合体37中から引き上げる。図9に示すように、引き上げられた被塗装物10の表面には均一に粉体塗料が付着し、粉体塗料膜PCが形成されている。引き上げられた被塗装物10は、焼付処理及び乾燥処理され、塗装製品が製造される。
【0041】
上記の塗装方法によれば、第1粘着剤塗布工程では、角部Cにはビーズ(粘着媒体)が入り込まないので、角部Cには粘着剤が付着しない。そこで、第2粘着剤塗布工程において、角部Cに粘着剤を付着させるようにした。その後、第1塗料塗布工程において、角部Cに粉体塗料を塗布し、さらにその後の第2塗料塗布工程において、角部C以外の部分に粉体塗料を塗布するようにした。これにより、被塗装物10全体を粉体塗料で塗装できる。したがって、角部Cを、例えば液体塗料を用いて局所的に塗装する必要がない。よって、角部Cとその他の部分の質感を統一できる。
【0042】
また、第2粘着剤塗布工程において塗布された粘着剤の量が多い場合、角部Cに粘着剤が溜まって、角部Cに形成された粘着膜の膜厚が他の部分より厚くなる。この状態で、被塗装物10を塗料媒体充填槽31内に埋没させ、ビーズ集合体37を撹拌すると、図10に示すように、角部Cに衝突したビーズが粘着膜に埋もれ、ビーズ自体が被塗装物10に残ってしまう。しかし、本発明によれば、第1塗料塗布工程において角部Cに塗布された粉体塗料によって、角部Cの粘着剤がマスキングされる。したがって、第2塗料塗布工程において、角部Cに溜まった粘着剤にビーズが埋もれて、ビーズが角部Cに付着したままになることを防止できる。すなわち、角部Cの平滑性が損なわれることがない。よって、製品の外観品質を向上させることができる。
【0043】
なお、例えば図11に示すように、パッチ12の周縁部が曲面状に形成されており、パッチ12とレール本体部11の間に隙間Dが形成されていたとしても、第2粘着剤塗布工程において角部Cに向けて吹き付けられた粘着剤は、隙間Dに流れ込んでいき、隙間D内のパッチ12及びレール本体部11の表面に付着する。したがって、第1塗料塗布工程において角部Cに向けて吹き付けられた粉体塗料も、隙間D内のパッチ12及びレール本体部11の表面に付着する。このように、隙間D内のパッチ12及びレール本体の表面が粘着剤及び粉体塗料によって覆われるので、隙間D内の耐食性を向上させることができる。この場合、第1塗料塗布工程で用いる粉体塗料に、粘着剤を硬化させる硬化剤を混ぜておいてもよい。これによれば、第1塗料塗布工程において、粉体塗料に含まれた硬化剤が被塗装物10に表面に塗布された粘着剤へ染み込み、粘着剤が硬化する。これにより、隙間D内の耐食性をより向上させることができる。また、この場合、第1塗料塗布工程で用いる粉体塗料に、シリカを0.5〜5%添加しておいてもよい。これにより、粉体塗料の流動性を増加させ、隙間Dに粉体塗料を付着させ易くすることができる。
【0044】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0045】
上記第2粘着剤塗布工程においては、スプレーガンS1を用いて、粘着剤を霧状にして角部Cに吹き付けているが、第2粘着剤塗布工程における粘着剤の塗布方法としては、上述した方法に限定されず、例えばハケ塗りでもよい。
【0046】
また、上記実施形態においては、加圧エアーを用いてビーズ集合体27及びビーズ集合体37を撹拌することにより、被塗装物10の表面にビーズ(粘着媒体及び塗料媒体)を衝突させている(図4及び図8参照)。しかし、これに代えて、ビーズが充填された容器内に被塗装物10を投入し、加振装置を用いて、この容器を振動させることにより、被塗装物10の表面にビーズを衝突させてもよい。
【符号の説明】
【0047】
10・・・被塗装物、20・・・粘着剤塗布装置、21・・・粘着媒体充填槽、27・・・ビーズ層、30・・・粉体塗料塗布装置、31・・・塗料媒体充填槽、37・・・ビーズ層、C・・・角部、D・・・隙間、LR・・・粘着膜、PC・・・粉体塗料膜、S1,S2・・・スプレーガン
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11