(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
患者に輸液や輸血を行ったり、手術において体外血液循環を行ったりする場合、薬液や血液などの液状物を輸送するための経路(輸送ライン)を形成する必要がある。輸送ラインは、一般に、容器、各種器具、及びチューブなどを接続することにより形成される。異なる部材同士を接続するためにコネクタが使用される。
【0003】
特許文献1には、
図16Aおよび
図16Bに示されるように、雄ルアー806と、雄ルアー806の
周りに回転可能に設けられたロックナット803とを含む医療用コネクタ800が開示されている。ロックナット803の内周面にはネジ溝807が形成されている。医療用コネクタ800が接続される雌ルアー809の外周面には、ネジ溝807に係合可能な突起部810が形成されている。ネジ溝807は雌ネジであり、突起部810は雄ネジである場合もある。医療用コネクタ800は、雌ルアー809と「スリップ接続」がなされるスリップ型コネクタとしても機能するし、雌ルアー809と「ネジロック接続」がなされるロック型コネクタとしても機能する。すなわち、医療用コネクタ800は、ロックナット803を雄ルアー806に対して、その基端側に移動可能にすることにより、ロックナット803を使用しないスリップ接続と、ロックナット803を用いたネジロック接続との両方を可能としている。
【0004】
尚、「スリップ型」コネクタとは、外周面がテーパ面である雄ルアーを備え、その雄ルアーを、内周面がテーパ面である雌ルアーに挿入して両者のテーパ面を密着させることのみにより接続が行われる医療用コネクタであり、その接続方式は「スリップ接続」と呼ばれ、ISO594−1に定義されている。「ロック型」コネクタとは、外周面がテーパ面である雄ルアーを備え、雄ルアーと雌ルアーの両者のテーパ面を密着させ、且つ、ロックナットの内周面に形成された雌ネジと雌ルアーの外周面に形成された雄ネジとを螺合させ得る医療用コネクタであり、その接続方式は「ネジロック接続」と呼ばれ、ISO594−2に定義されている。ロック型コネクタは、雌ルアーの雄ネジと螺合可能であるので、スリップ型コネクタに比べて、雄ルアーのテーパ面と雌ルアーのテーパ面との密着性を高め、かつ、雄ルアーと雌ルアーとが意図せず分離する可能性を低減できる。
【0005】
尚、ISO594−1には、雄ルアーおよび雌ルアーの各テーパ面の形状が規定されている。ISO594−2には、ロックナットに形成される雌ネジの形状や雄ルアーの先端と雌ネジとの相対的位置関係の許容範囲、雌ルアーに形成される雄ネジの形状等が規定されている。
【0006】
一方、輸送ラインから液を採取し、又は、輸送ラインを流れる液とは異なる液(例えば、薬液)を輸送ラインに注入することが必要になる場合がある。液の採取や注入を可能とする輸送ラインの構成部品として、
図17に示されるような医療用ポートが知られている(特許文献2参照)。
【0007】
特許文献2に記載の医療用ポートには、
図17に示されるように、中央部に直線状のスリット1111(挿入孔)が形成されたゴム等の弾性部材からなるディスク状の弾性隔壁部材(弁)1011を備えたニードルレスポート1000が開示されている。弁1011の周縁上部はカバー1120により覆われている。弁1011の裏側には、弁1011の周縁下部を担持する台座(図示せず)が配置されている。カバー1120は、外方に突出
する
一対の係合突起1126を備えている。
【0008】
上記ニードルレスポート1000に接続される医療用コネクタ910は、
図18A〜
図19Cに示されるように、雄ルアー920と、雄ルアー920が内挿されたロックナット930とを含む。
図18B及び
図19Bに示されているように、雄ルアー920の先端部の外周面はISO594−1に準拠した6%のテーパ面922が形成され、その基端923側には柔軟なチューブ929が接続されている。雄ルアー920のテーパ面922よりも基端側には、周方向に連続する環状突起924(
図19B参照)が形成されている。環状突起924よりも基端側の外周面には、雄ルアー920の長手方向に平行に延びた一対の案内突起926が形成されている。
【0009】
図18A〜
図19Cに示されるように、ロックナット930は、略円筒形状の基部931と、基部931よりも大きな径を有する略円筒形状のロック部940とを有する。
【0010】
基部931の内周面には、ISO594−2に準拠した雌ネジ932が形成されている。雌ネジ932よりも上側には、周方向に延びた位置規制突起933が形成されている、
図19Cに示されているように、位置規制突起933には一対の案内路934が略対称位置に形成されており、この一対の案内路934にて位置規制突起は周方向に分散されている。
【0011】
ロック部940の内周面には、周方向に延びた突起である一対の係合爪941が形成されている。
【0012】
図19Bに示されているように、雄ルアー920の外周面に形成された環状突起924と一対の案内突起926との間に位置規制突起933が位置するように、雄ルアー920をロックナット930に内挿する。このとき、ロックナット930は、雄ルアー920の
周りを自由に回転可能である。
【0013】
一方、突起924と位置規制突起933とが衝突するので、ロックナット930は雄ルアー920に対してその先端側へ移動するのが制限される。従って、雄ルアー920の先端部はロックナット930の基部931から所定長さだけ突き出ている。
【0014】
また、一対の案内突起926と位置規制突起933とが衝突するので、ロックナット930は雄ルアー920に対してその基端923側へ移動することが制限される。ただし、ロックナット930を雄ルアー920に対して回転させて、一対の案内突起926と一対の案内路934の位置が一致したときには、一対の案内突起926は一対の案内路934を通過することができる。従って、
図20に示すように、ロックナット930をチューブ929上に移動させることができる。
【0015】
図21Aは、医療用コネクタ910と
ニードルレスポート1000とを爪ロック接続した状態を上方から見た斜視図、
図21Bは、この断面図である。
図21A及び
図21Bに示されているように、医療用コネクタ910の雄ルアー920の先端をニードルレスポート1000の挿入孔1111(
図17参照)に挿入すると、雄ルアー920の押し込みによって弁1011が開放され、液が採取または注入できるようになる。挿入孔1111に挿入された雄ルアー920は、嵌合孔1012(
図17参照)を形成するカバー1120の縁端部に係止される。ロックナット930を雄ルアー920の
周りに回転させて、ニードルレスポート1000の
一対の係合突起1126(
図17参照)と、ロックナット930の
一対の係合爪941(
図18B等参照)とを係合させれば、医療用コネクタ910とニードルレスポート1000とを強固且つ確実接続できる。係合突起1126と係合爪941との係合を解除して、挿入孔1111から雄ルアー920を抜けば、弁1011は独りでに閉じる。このように、ロックナット930を回転させてロックナット930に形成された
一対の係合爪941をニードルレスポートの
一対の係合突起1126に係合させるコネクタを、本発明では、「爪ロック型コネクタ」と呼び、その接続方式を「爪ロック接続」と呼ぶこととする。
【0016】
医療用コネクタ910は、爪ロック接続のみならず、下記のとおり雌ルアー920に対してスリップ接続およびネジロック接続も可能とする。
【0017】
医療用コネクタ910とISO592−1に準拠したテーパ面を有する雌ルアーとのスリップ接続は、
図20に示すように、ロックナット930を退避させた状態で、雄ルアー920のテーパ面922を雌ルアー850(
図22参照)に挿入することにより行える。
【0018】
医療用コネクタ910とISO594−2に準拠した雄ネジを有する雌ルアーとのネジロック接続は、下記のとおり行われる。
図22はISO594−2に準拠した雌ルアー850の一例の概略斜視図である。この雌ルアー850は、略円筒形形状を有し、中央に貫通孔851(後述する
図23B参照)が形成されている。雌ルアー850の先端側の内周面には、ISO594−1に準拠したテーパ面852が形成されており、その外周面には、ISO594−2に準拠した雄ネジ853が形成されている。雄ネジ853と基端855との間の外周面上には、一対の翼状突起856が立設されている。雌ルアー850の基端855には柔軟なチューブ859が接続される(後述する
図23A、
図23B参照)。
【0019】
図23Aは、医療用コネクタ910と
図22に示した雌ルアー850とをネジロック接続した状態を上方から見た斜視図、
図23Bは、その断面図である。
図23A及び
図23Bに示されているように、雄ルアー920が雌ルアー850内に挿入されて雄ルアー920のテーパ面922が雌ルアー850のテーパ面852に密着しており、ロックナット930の雌ネジ932と雌ルアー850の雄ネジ853とが螺合している。このように、医療用コネクタ910と雌ルアー850との、ISO594−2に準拠したネジロック接続を行うことができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
上記のとおり、従来の医療用コネクタ910は、スリップ接続、ネジロック接続、および爪ロック接続の3方式の接続を行うことができる。
【0022】
しかしながら、医療用コネクタ910は、
図23Aおよび
図23Bに示されるように雌ルアー850とネジロック接続した場合に、以下の問題を有している。
【0023】
ロックナット930の雌ネジ932と雄ルアー850の雄ネジ853とが螺合する領域を大きくすることができない。この理由は以下のとおりである。
図21Aおよび
図21Bに示した爪ロック接続を行うためには、雄ルアー920の先端部が弁1011の挿入孔1111に挿入されて、弁1011を貫通する必要がある。そのためには、雄ルアー920の先端のロックナット930の基部931からの突き出し長さは長い方が有利である。
【0024】
一方、
図23Aおよび
図23Bに示したネジロック接続では、雄ルアー920のテーパ面922と雄ルアー850のテーパ面852とが密着するので、雌ルアー850に対する雄ルアー920の挿入可能な深さには上限がある。従って、爪ロック接続において雄ルアー920が弁1011を確実に貫通するように雄ルアー920のロックナット930の基部931からの突き出し長さを長くしていくと、ネジロック接続において雌ネジ932と雄ネジ853との螺合できる領域が小さくなってしまう。その結果、雌ネジ932と雄ネジ853との螺合が緩み易いという問題がある。
【0025】
本発明は、スリップ接続、ネジロック接続、及び、爪ロック接続の3方式の接続が可能であり、ネジロック接続をした場合には、ネジの螺合の緩みが生じにくい医療用コネクタを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明の医療用コネクタは、
長手方向に貫通孔が形成された雄ルアーと、
前記雄ルアーが内挿され前記雄ルアーの
周りに回転可能に設けられたロックナットと、を含み、
前記ロックナットが、前記雄ルアーに対して前記雄ルアーの長手方向に移動可能であり、
挿入孔が形成された弾性隔壁部材を備えたニードルレスポートに接続可能な医療用コネクタであって、
前記雄ルアーは、その外周面に形成され、
周方向に連続した環状突起である位置規制突起と、前記雄ルアーの前記位置規制突起よりも先端側の外周面としてテーパ面とを含み、
前記ロックナットは、
その内周面の一部に形成された雌ネジと、
前記雌ネジよりも前記雄ルアーの先端のより近くに設けられ、前記ニードルレスポートの外周面に形成された係合突起と係合可能な係合爪と、
前記雄ルアーの前記位置規制突起および前記雌ネジよりも前記雄ルアーの先端からより離れた箇所において前記雄ルアーの軸方向に沿って延在する
一対の揺動体と、
前記
一対の揺動体同士を連結し、前記
一対の揺動体に相互に接近させる向きの押圧力を加えると弾性変形する架橋部とを含み、
一対の前記揺動体の先端の前記ロックナットの中心軸に直交する直線上における相互間隔が、前記雄ルアーの前記位置規制突起を有する箇所における前記雄ルアーの中心軸に直交する直線上における最大長さよりも小さ
くて、前記一対の前記揺動体の先端側端面が、前記位置規制突起の前記先端側端面と向い合う面と衝突することにより、前記
一対の揺動体
と前記位置規制突起とが、前記ロックナットが前記雄ルアーに対して前記雄ルアーの前記先端側へ移動できる範囲を制限する移動制限機構を構成しており、
前記
一対の揺動体に対して相互に接近させる向きの押圧力を加えて前記架橋部を弾性変形させると、前記相互間隔が前記最大長さよりも大きくなるように広がり、前記移動制限機構による前記ロックナットの移動制限が解除される。
【発明の効果】
【0027】
本発明の医療用コネクタは、スリップ接続、ネジロック接続、及び、爪ロック接続の3方式の接続が可能であり、ネジロック接続をした場合には、ネジの螺合の緩みが生じにくい。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の医療用コネクタの好ましい一例では、各揺動体が、グリップアームとグリップアームの操作により揺動する揺動片とを含む。ロックナットは、雌ネジと係合爪と架橋部と揺動片とを含むロックナット本体部と、ロックナット本体部の揺動片に連結されたグリップアームとを含む。そして、ロックナット本体部は、雄ルアーを内挿させるための空間を形成し、
一対の所定形状の切り欠き部が形成された側壁を含み、各揺動片は、側壁に切り欠き部が形成されていることで形成されている。この場合、ロックナット本体部は、側壁の切り欠き部が形成されている箇所以外は、周方向に連続しているので、ロックナット
本体部は、高い機械的強度を有する。
【0030】
本発明の医療用コネクタの好ましい一例では、ロックナットは、側壁のグリップアームに近い端部側に配置され、上記空間と連通する開口が形成された上板を架橋部として含む。切り欠き部の両端部は、側壁の上板の近傍において、側壁の周方向に延在している。そのため、揺動片の揺動および架橋部の弾性変形が容易に行える。
【0031】
本発明の医療用コネクタの好ましい一例では、
一対の揺動体の先端側端面と、位置規制突起の
一対の揺動体のうちの少なくとも一方の揺動体の先端側端面と向い合う面とが、ともに、雄ルアーの中心軸と直交する平面を含む。この場合、ロックナットを雄ルアーの先端側へ移動させた際に、揺動体と位置規制突起との接触面積が広いので、ロックナットの雄ルアーの先端側への移動の制限が、より確実に行え、好ましい。
【0032】
本発明の医療用コネクタの好ましい一例では、雄ルアーの位置規制突起が環状突起である。この場合、ロックナットを雄ルアーの先端側へ移動させた際に、雄ルアーの位置規制突起と、両方の揺動片の先端側端面とが常に衝突するので、ロックナットの雄ルアーの先端側への移動の制限が、より確実に行え、好ましい。
【0033】
本発明の医療用コネクタの好ましい一例では、ロックナットの内周面に形成された雌ネジが、ISO594−2に準拠しているので、ISO594−2に準拠した雄ネジが形成された雌ルアーとISO594−2に準拠したネジロック接続が行える。
【0034】
本発明の医療用コネクタの好ましい一例では、雄ルアーのテーパ面がISO594−1に準拠しているので、ISO594−1に準拠したテーパ面を有する雌ルアーと、ISO594−1に準拠したスリップ接続が行える。
【0035】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0036】
(実施形態1)
図1Aは、本発明の実施形態1にかかる医療用コネクタ(以下、単に「コネクタ」と称する場合もある。)1を下方から見た斜視図、
図1Bはその上方からみた斜視図、
図2Aおよび
図2Bは、各々コネクタ1の断面図である。コネクタ1は、雄ルアー20およびロックナット30とを含む。
図3は、雄ルアー20とロックナット30とに分解されたコネクタ1を下方から見た分解斜視図、
図4Aおよび
図4Bは、各々コネクタ1の分解断面図である。以下、説明の便宜のため、
図1の紙面の上側をコネクタ1の「上側」とよび、
図1の紙面の下側(雄ルアー20の先端側)をコネクタ1の「下側」と呼ぶ。尚、コネクタ1のこの上下方向は、必ずしも、コネクタ1が実際に使用される状況での姿勢を意味するものではない。
【0037】
図5Aは、雄ルアー20を示した拡大斜視図である。雄ルアー20は、その長手方向に沿った貫通孔21が形成された、全体として略円筒形状を有する。雄ルアー20の一端側(先端側)の外周面は、ISO594−1に準拠した6%のテーパ面22であり、その他端側(基端23側)には、柔軟なチューブ29が接続される(
図2A,
図2B等参照)。雄ルアー20のテーパ面22よりも基端23側には周方向に連続する環状突起24が位置規制突起として形成されている。雄ルアー20の、環状突起24よりも基端23側の部分の外周面は、外径が一定の円筒面である。
【0038】
図6Aは、ロックナット30の斜視図、
図6Bは、ロックナット30の側面図である。
図7Aは、ロックナット30の他の側面図であり、
図7Bは、
図7Aの7B−7B線を含む面に沿った拡大矢視断面図である。
図8は、
図7Aの8A−8A線を含む面に沿った拡
大矢視断面図である。
図9Aは、ロックナット30の拡大平面図であり、
図9Bは、ロックナット30の拡大底面図である。ロックナット30は、ロックナット本体部32と、ロックナット本体部32に連結された
一対のグリップアーム33とを含む。ロックナット本体部32の側部は、下側部分(雄ルアー20の先端に近い部分)がそれよりも上側部分よりも外径が大きくなった、略円筒形形状をしており、ロックナット本体部32は、雄ルアーを内挿させるための空間31(
図7B参照)を形成する側壁321を含む。また、ロックナット本体部32は、側壁321のグリップアーム33に近い端部側に上板34(
図9等参照)を含む。上板34は側壁321に連結されている。上板34は、一対のグリップアーム33の間に配置され、これらを相互に連結する。ロックナット30の中心軸50は、ロックナット本体部32の中心軸および雄ルアー20の中心軸と一致する(
図3、
図5等参照)。
【0039】
図7Aおよび
図7B等に示されるように、ロックナット本体部32は、
一対の揺動片36を含む。各揺動片36はグリップアーム33の長手方向に延在しており、揺動片36とグリップアーム33とからなる揺動体37を構成している。
図9等に示されるように、上板34には、上記空間31と連通し雄ルアー20が挿入される開口35が形成されている。上板34は、
一対の揺動体37同士を相互に連結する架橋部であり、弾性的に湾曲可能である。よって、
一対のグリップアーム33のうちのロックナット本体部32から遠い部分を相互に近接させる向きの力を各グリップアーム33に付与すると、上板34(架橋部)が湾曲することにより
一対の揺動片36は弾性的に揺動する。すなわち、
一対のグリップアーム33が互いに接近するように変異すると、揺動片36が互いに離れるように変異し、その後、互いに近接した
一対のグリップアーム33が互いに離れるように変異すると、揺動片36が互いに接近するように変異する。コネクタ1では、上板34のうちの、グリップアーム33と開口35との間ではない、開口35の両側部341(
図9参照)が特に弾性変形する。
【0040】
また、ロックナット本体部32は、
図6A等に示されるように、中心軸50に対向する内周面の形状の相違により、下側(雄ルアー20の先端に近い側)から、爪ロック部38とネジロック部39とをこの順で含む。また、ロックナット本体部32は、外径形状の相違により、雄ルアー20の先端側から、径大部41と径小部40とをこの順で含む。径小部40の外径は、上板34側から径大部41側へ向って徐々に大きくなっている。
【0041】
径小部40における側壁321に略U字状の切り欠き部42が形成されることにより、略U字状の揺動片36が形成されている。すなわち、径小部40には
一対の切り欠き部が形成されている。したがって、径小部40の、切り欠き部42が形成されている箇所以外は、周方向に連続した側壁321を備えているので、ロックナット本体部32は、高い機械的強度を有する。尚、径大部41における側壁321には、後述する凹部48に対応する箇所に貫通孔48aが形成されているが、貫通孔48aは形成されていなくてもよい。貫通孔48aが形成されていない場合、ロックナット本体部32の側壁321は、切り欠き部42が形成されている箇所以外は、周方向に連続している。
【0042】
各切り欠き部42の両端部(周方向延在部421)は、側壁321の上板34の近傍において、径小部40の周方向に延在している。隣接する周方向延在部421間の距離L
1(
図7A参照)、すなわち、
一対の切り欠き部42間の最短距離は、ロックナット本体部32の強度確保と、揺動片36の揺動および上板34の弾性変形の容易化とが両立されるように設定される。
【0043】
尚、揺動体37の揺動片36が移動制限機構の一部として機能する限り、切り欠き部42の形状および揺動片36の形状は、略U字状に限定されない。
【0044】
図6Aに示されるように、ロックナット本体部32の内周面の一部には、ISO594−2に準拠した雌ネジ44が形成されることにより、ネジロック部39が形成されている。
【0045】
ロックナット本体部32のうちのネジロック部39よりも下側(雄ルアー20の先端により近い)部分の中心軸50に対向する面(内周面)の中心軸50からの距離は、ネジロック部39の内周面のそれよりも大きい。したがって、ロックナット本体部32は、ネジロック部39とネジロック部39よりも下側部分とを連結する環状の底板46を有する。
【0046】
ネジロック部39よりも下側のロックナット本体部32の内周面には、その長手方向が周方向に延びた係合爪45と、係合爪45の周方向の一端から底板46側へ延びたストップ部47とが形成されている。係合爪45およびストップ部47はいずれも、内方(中心軸50へ向う方向)に突出している。また、ネジロック部39よりも下側のロックナット本体部32の内周面は、係合爪45が設けられることによって係合爪45よりも中心軸50に対して後退した部分を有している。よって、ネジロック部39よりも下側のロックナット本体部32の内周面のうちの、係合爪45よりもネジロック部39側の一部が、
図17に示したニードルレスポート1000の係合突起1126が収納される凹部48を構成している。したがって、例えば、コネクタ1の雄ルアー20の先端部を、
図17に示されたニードルレスポートの挿入孔1111(例えばスリット)内に挿入し、ロックナット30を雄ルアー20に対して回転して、係合爪45を、係合突起1126上を摺動させ、係合突起1126を上記凹部48内に収納させれば、コネクタ1と
ニードルレスポート1000とを爪ロック接続できる。
【0047】
尚、係合爪45の形態については特に制限はなく、例えば、
図18Bに示した従来のロックナット930を構成する係合爪941と同じであってもよい。例えば、
図17に示されるように、ニードルレスポート1000の係合突起1126が、係合爪45(
図6A参照)と向い合う面にロック突起1125(
図17参照)を有する場合、係合爪45の係合突起1126と向い合う面は、当該面を摺動した上記ロック突起1125が収納されるロック凹部49(
図6A参照)を含んでいると好ましい。この場合、係合爪45と係合突起1126とが十分に係合したことが、ロック突起1125がロック凹部49内に収納された瞬間に手に伝わる振動によって、確認できる。
【0048】
各揺動体37は、ネジロック部39よりも雄ルアー20の先端からより離れた箇所に配置されている。各揺動体37は、雄ルアー20の軸方向に沿って延在しており、雄ルアー20の両側部に配置されている。
【0049】
図7Bは、
図7Aに示したロックナット30を、7B−7B線を含む面に沿った矢視拡大断面図である。
図7Bに示されるように、揺動片36が存在する箇所では、径小部40の側壁321に
一対の切り欠き部42が形成されることにより、当該側壁321は周方向に分断されている。7B−7B線を含む面において
一対の揺動片36を含む径小部40の外径は、直径D
3の円筒面内にある。揺動片36の厚みは、径小部40のうちの
一対の揺動片36間に配置された部分401の厚みよりも厚い。
【0050】
図8は、
図7Aの8A−8A線を含む面に沿った拡大矢視断面図であり、
一対の揺動片36の先端側端面を含む面に沿った拡大矢視断面図である。
図8に示されるように、
一対の揺動片36の内面362は直径D
1円筒面内にある。上記部分401間の距離D
2が雄ルアー20の環状突起24の外径D
4(
図5B参照)よりも大きいのに対して、直径D
1は雄ルアー20の環状突起24の外径D
4よりも小さい。直径D
1は、
一対の揺動体37を相互に接近させる向きの押圧力を
一対の揺動体37に加えていないときの、
一対の揺動体37の先端のロックナット30の中心軸50に直交する直線上における相互間隔である。すなわち、
一対の揺動体37を相互に接近させる向きの押圧力を
一対の揺動体37に加えていないときの、
一対の揺動体37の上記相互間隔は、環状突起24の
一対の揺動片36に面する面241(
図5B参照)の外径よりも小さい。上記面241の外径は、雄ルアー20の位置規制突起を有する箇所における雄ルアー20の中心軸50に直交する直線上における最大長さである。そのため、ロックナット30を雄ルアー20の先端側へ移動させると、環状突起24の
一対の揺動片36の先端側端面361(
図2A参照)と向い合う面241(
図5B参照)と、上記先端側端面361とが衝突するので、ロックナット30は、雄ルアー20に対してその先端側へ移動する範囲が制限されている。したがって、位置規制突起である環状突起24と、
一対の揺動片36とは、ロックナット30が雄ルアー20に対して雄ルアー20の先端側へ移動できる範囲を制限する移動制限機構を構成する。
【0051】
一対のグリップアーム33に、相互に接近させる向きの押圧力を加えて、上板34(架橋部)を弾性変形させることにより、
一対の揺動片36の上記相互間隔を広げることができる。
一対のグリップアーム33の操作により、上記相互間隔を環状突起24の上記外径より大きくすることができるので、環状突起24と
一対の揺動片36とからなる移動制限機構によるロックナット30の移動制限が解除される。このように、移動制限が解除されることにより、ロックナット30が雄ルアー20に対して雄ルアー20の先端側へ移動できる範囲が広くなる。換言すると、雄ルアー20の環状突起24が、揺動片36の先端側端面361を超え、ロックナット30の基端側(上側)へ移動することが許容され、さらに換言すると、位置規制突起である環状突起24が、揺動体37の先端側端面よりもロックナット30の基端側へ移動することか許容される。尚、環状突起24と
一対の揺動片36とが衝突した状態における、雄ルアー20の先端側のネジロック部39(
図6A参照)からの突き出し長さと、雄ルアー20の先端と雌ネジとの相対的位置関係はISO594−2に準拠している。
【0052】
図2Aに示されるように、
一対の揺動体37の先端側端面361と位置規制突起の一例である環状突起24の先端側端面361と向い合う面241(
図5B参照)は、ともに、実質的に雄ルアー20の中心軸50(
図3参照)と直交する平面からなると好ましく、雄ルアー20の中心軸50と直交する平面からなるとより好ましい。この場合、ロックナット30を雄ルアー20の先端側へ移動させたときの、揺動体37と位置規制突起である環状突起24との接触面積が広いので、ロックナット30の雄ルアー20の先端側への移動の制限が、より確実に行え、好ましい。
【0053】
以上のように構成されたコネクタ1を、スリップ接続、ネジロック接続、および爪ロック接続する方法を以下に説明する。
【0054】
コネクタ1と、ISO594−1に準拠したテーパ面を有する
図22に示した雌ルアー850とのスリップ接続を説明する。
図10に示すようにロックナット30をチューブ29上に移動させる。この状態で雄ルアー20の先端を雌ルアー850に挿入すればよい。テーパ面22はISO594−1に準拠しているので、雌ルアー850のテーパ面852と液密なシールを形成できる。
【0055】
コネクタ1と、ISO594−2に準拠した雄ネジを有する
図22に示した雌ルアー850とのネジロック接続を説明する。まず、雄ルアー20の先端を雌ルアー850に挿入する。すると、雄ルアー20の環状突起24が揺動片36の先端側端面361(
図2A参照)に突き当たるので、雌ルアー850は、これ以上ロックナット本体部32の基端側へは侵入できない。尚、雄ルアー20の雌ルアー850への挿入の際、雌ルアー850の外表面に形成された雄ネジ853がロックナット30の内周面に形成された雌ネジ44に、僅かに螺合する場合もある。
【0056】
次いで、
一対のグリップアーム33を相互に近接させる向きの力を各グリップアーム33に付与して上板(架橋部)34を湾曲させ、
一対の揺動片36の先端側の相互の間隔を、雄ルアー20の環状突起24の外径より大きくする。これにより、環状突起24と
一対の揺動片36とからなる移動制限機構によるロックナット30の雄ルアー20の先端側への移動制限が解除される。この状態を保ちながら、ロックナット30または雌ルアー850を回転させることが出来なくなるまで回転させて、ロックナット30の雌ネジ44と雌ルアー850の雄ネジ853とを螺合させる。螺合操作に伴い、雌ルアー850は、ロックナット30の基端側へ侵入する。
図11Aは、コネクタ1と雌ルアー850とがネジロック接続した状態の斜視図であり、
図11Bはその断面図である。ロックナット30の移動制限の解除により、雌ルアー850のロックナット30の基端側へのさらなる侵入が許容されているので、雌ネジ44と雄ネジ853との接触面積が増え、かつ、雄ルアー20のテーパ面22と雌ルアー850のテーパ面852がさらに密着する。よって、コネクタ1と雌ルアー850との間に液密なシールが形成されるとともに、螺合が緩む可能性が低減されるので、コネクタ1と雌ルアー850とをより強固に接続でき且つその状態の維持がより安定化される。ネジロック接続の解除は、雌ルアー850に対してロックナット30を上記とは逆方向に回転させれば行える。
【0057】
コネクタ1と、
図17に示したニードルレスポート1000との爪ロック接続を説明する。まず、コネクタ1の雄ルアー20をニードルレスポート1000の弁1011の挿入孔1111に挿入し、雄ルアー20を、ニードルレスポート1111のカバー1120の嵌合孔1012に嵌合させる。この状態で、ロックナット30をニードルレスポート1000に対して回転させる。これにより、ロックナット30の内面に形成された係合爪45と、ニードルレスポート1000の係合突起1126とを係合させることができる。
図12は、コネクタ1とニードルレスポート1000とが爪ロック接続した状態の斜視図であり、
図13はその断面図であり、
図14は、
図13に示された状態のコネクタの別の断面図である。
図14に示されるように、コネクタ1とニードルレスポート1000とが爪ロック接続した状態では、環状突起24と
一対の揺動片36の先端側端面361とが衝突している。爪ロック接続の解除は、ロックナット30をニードルレスポート1000に対して上記とは逆方向に回転させて、係合突起1126と係合爪45との係合を解除した後、雄ルアー20をニードルレルポート1000から引き抜けば行える。
【0058】
以上のように、本実施形態のコネクタ1は、スリップ接続、ネジロック接続、および爪ロック接続のいずれをも可能とする。さらに、コネクタ1では、
一対の揺動体37の操作により、ロックナット30が雄ルアー20に対して雄ルアー20の先端側へ移動できる範囲が広がり、雌ルアー850のロックナット30の基端側へのさらなる侵入が許容される。その結果、ネジロック接続時にロックナット30の雌ネジ44と、雌ルアー850の雄ネジ853とが螺合する領域を十分に確保でき、雌ネジ44と雄ネジ853との螺合が緩む可能性を低減できる。
【0059】
尚、
図1〜
図14を用いて説明したコネクタ1において、雄ルアー20が、位置規制突起として環状突起24を含んでいるが、雄ルアー20は、環状突起24に代えて、
図15Aおよび
図15Bに示されるように、複数の突起242を含んでいてもよい。複数の突起242は、雄ルアー20の外周面に周方向に沿って形成されている。複数の突起242は、例えば、
図15に示されるように、互いに同一形状であり、且つ、周方向に沿って等間隔に形成される。隣り合う突起242間の距離は、揺動片36の周方向の長さよりも短い。
図8に示されるように、
一対の揺動片36の内面362は直径D
1円筒面内にあり、直径D
1が、雄ルアー20の位置規制突起を有する箇所における雄ルアー20の中心軸50に直交する直線上における最大長さD
4(図15B参照)、換言すると、突起242の雄ルアー20の中心軸50から径方向に最も離れた箇所を通る円周60の直径よりも小さいので、
一対の揺動体37と複数の突起242とが、ロックナット30が雄ルアー20に対して雄ルアー30の先端側へ移動できる範囲を制限する移動制限機構を構成する。
【0060】
図5又は
図15に示された雄ルアー20を用いたコネクタ1では、ロックナット30を雄ルアー20の先端側へ移動させた際に、一対の揺動体37の両方が上記突起242に衝突してロックナット30の移動制限がなされる。しかし、例えば、複数の突起242の数が
図15に示された雄ルアー20のそれよりも少なく、上記突起242間の距離が大きく、一対の揺動体37のうちの一方の揺動体37だけが、上記突起242に衝突してロックナット30の移動制限がなされる形態も本発明に包含される。
【0061】
位置規制突起が複数の突起242からなる場合も、
一対の揺動体37の先端側端面361(
図2A等参照)と、各突起242の少なくとも一方の揺動37体の先端側端面361と向い合う面が、ともに、実質的に雄ルアー20の中心軸50と直交する平面からなると好ましく、雄ルアー20の中心軸50と直交する平面からなるとより好ましい。この場合もロックナット30を雄ルアー20の先端側へ移動させた際に、揺動体37と突起242との接触面積が広いので、ロックナットの雄ルアーの先端側への移動の制限が、より確実に行える。
【0062】
コネクタ1を構成する、雄ルアー20、ロックナット30の材料について特に制限はないが、例えば、樹脂を用いて各々一体に作成できる。上記樹脂としては、例えば、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン等が挙げられる。