特許第5839229号(P5839229)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5839229
(24)【登録日】2015年11月20日
(45)【発行日】2016年1月6日
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/08 20060101AFI20151210BHJP
【FI】
   H01M10/08
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-279906(P2011-279906)
(22)【出願日】2011年12月21日
(65)【公開番号】特開2013-131377(P2013-131377A)
(43)【公開日】2013年7月4日
【審査請求日】2014年11月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100113468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】新井 勇貴
(72)【発明者】
【氏名】岡田 祐一
【審査官】 赤樫 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−064226(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/036979(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/08−10/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
10〜350mmol/Lのルビジウムイオンと2〜30mmol/Lのナトリウムイオンとを含有する電解液を備えていることを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項2】
前記電解液は、50〜100mmol/Lのルビジウムイオンと2〜10mmol/Lのナトリウムイオンとを含有している請求項1記載の鉛蓄電池。
【請求項3】
前記電解液は、満充電状態の硫酸濃度が35.1〜43.1質量%であるものである請求項1又は2記載の鉛蓄電池。
【請求項4】
前記電解液は、満充電状態の硫酸濃度が35.1〜38.6質量%であるものである請求項3記載の鉛蓄電池。
【請求項5】
前記電解液は、20時間率電流で1.75Vまで放電させたときの硫酸濃度が16質量%以上であるものである請求項1、2、3又は4記載の鉛蓄電池。
【請求項6】
前記ルビジウムイオンは、硫酸ルビジウムに由来するものである請求項1、2、3、4又は5記載の鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、充電受入性能に優れた鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の自動車用鉛蓄電池は、エンジンの始動時に大電流で放電が行われるが、エンジンの始動後はエンジンによって駆動される発電機によって各種の電装品への電力の供給や大電流放電後の鉛蓄電池に対する充電が行われるため、過充電状態で使用されることはあっても、放電状態で使用されることはほとんどなかった。そのため、従来の鉛蓄電池では、過充電による寿命性能の低下を抑制することが寿命性能向上のポイントであった。
【0003】
ところが、近時では、地球環境問題が注目されるのに伴って、自動車に対して燃費向上や排出ガス削減という課題が課せられ、自動車に搭載される鉛蓄電池の使用条件は大きく変化してきている。そのひとつに、充電制御システムを搭載した車両(充電制御車)の登場が挙げられる。充電制御車では、定められた充電レベルになると、オルタネーターの発電を停止させ、エンジンの負荷を低減し、燃費の向上を図っている。充電制御車において高燃費を実現するためには、効率的に高い充電レベルにできる鉛蓄電池、すなわち、高い充電受入性能を備えた鉛蓄電池が必要不可欠である。
【0004】
ところで、従来から鉛蓄電池では、負極活物質上に鉛が溶解析出(デンドライト析出)することに起因する浸透短絡を抑制するために、電解液にナトリウムイオンをはじめとするアルカリ金属イオンが含有されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−64226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、電解液中へのアルカリ金属イオンの添加は充電受入性能にも影響し、その影響はアルカリ金属イオンの種類によって大きく異なることが判明した。
【0007】
そこで本発明は、上記現状に鑑み、充電受入性能に優れた鉛蓄電池を提供すべく図ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討の結果、電解液中のナトリウムイオンの濃度を低く抑えつつ、ルビジウムイオンを電解液中に含有させることにより、耐浸透短絡性能を維持したまま充電受入性能を良好な状態にできることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち本発明に係る鉛蓄電池は、10〜350mmol/Lのルビジウムイオンと2〜30mmol/Lのナトリウムイオンとを含有する電解液を備えていることを特徴とする。前記電解液は、好ましくは50〜100mmol/Lのルビジウムイオンと2〜10mmol/Lのナトリウムイオンとを含有する。
【0010】
前記電解液が、満充電状態の硫酸濃度が35.1〜43.1質量%であるものの場合に、本発明の効果はより顕著にみられる。なかでも本発明が有効な電解液は、満充電状態の硫酸濃度が35.1〜38.6質量%であるものである。
【0011】
また、前記電解液が、20時間率電流で1.75Vまで放電させたときの硫酸濃度が16質量%以上であるものがより好ましい。
【0012】
前記ルビジウムイオンは、硫酸ルビジウムに由来するものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、上述した構成よりなるので、充電制御車用に好適な充電受入性能に優れた鉛蓄電池を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明に係る鉛蓄電池の実施形態について説明する。
【0015】
本発明に係る鉛蓄電池は、例えば、二酸化鉛を活物質の主成分とする正極板と、鉛を活物質の主成分とする負極板と、これら極板の間に介在する多孔性又は不織布状のセパレータとからなる極板群を備えた液式又は制御弁式のものであり、当該極板群が希硫酸を主成分とする電解液に浸漬されてなるものである。
【0016】
前記負極板は、Pb−Sb系合金やPb−Ca系合金等からなる格子体を備えたものであり、当該格子体にペースト状の活物質を充填することにより形成される。一方、前記正極板は、ペースト式である場合は、負極板と同様にして形成されるが、クラッド式である場合は、ガラス繊維等からなるチューブと、鉛合金の芯金との間に活物質を充填することにより形成される。これらの各構成部材は、目的・用途に応じて適宜公知のものから選択して用いることができる。
【0017】
本発明における電解液は、10〜350mmol/Lのルビジウムイオンと2〜30mmol/Lのナトリウムイオンとを含有するものであり、好ましくは50〜100mmol/Lのルビジウムイオンと2〜10mmol/Lのナトリウムイオンとを含有するものである。この濃度範囲でルビジウムイオンとナトリウムイオンとを電解液に含有させることにより、高い充電受入性能を有する鉛蓄電池が得られる。
【0018】
そして、ナトリウムイオン濃度が2〜30mmol/Lであり、かつ、ルビジウムイオン濃度が10mmol/L未満であると、ルビジウムイオンの含有量が不充分で正極が大きく分極するので充分な充電受入性能が得られない。一方、ナトリウムイオン濃度が2〜30mmol/Lであり、かつ、ルビジウムイオン濃度が350mmol/Lを超えると、過剰なルビジウムイオンの存在によって負極の分極が大きくなり、充電受入性能が低くなる。
【0019】
また、ルビジウムイオン濃度が10〜350mmol/Lであり、かつ、ナトリウムイオン濃度が30mmol/Lを超えると、負極の分極が大きくなり、充電受入性能が低くなる。更に、鉛蓄電池の負極にはリグニンが添加されており、当該リグニンには通常ナトリウムが含まれているので、ナトリウムイオン濃度を2mmol/L未満とすることは、リグニン量を減らすことにつながり、鉛蓄電池の性能が著しく低下することになるので実質的に困難である。
【0020】
ルビジウムイオンとナトリウムイオンとはいずれもアルカリ金属イオンであるが、本発明者らが検討したところ、後述する表1に示すように、同じアルカリ金属イオンであっても充電受入性能に及ぼす影響は金属イオン種によって大きく異なることが明らかとなった。すなわち、アルカリ金属イオンの中で、ルビジウムイオンは充電時の正極の分極を抑える作用を有し、リチウム、ナトリウム及びセシウムイオンには正極の分極を抑える作用がなく、カリウムイオンは正極の分極を抑える作用を有するものの、負極の分極を大きくする作用が強すぎるため、結果的にルビジウムイオンだけが充電受入性能の向上作用を有し、リチウム、ナトリウム、カリウム及びセシウムイオンを電解液に含有させると、濃度によっては充電受入性能に悪影響を及ぼすことが分かった。なお、ここで述べる充電受入性能とは、回生充電のような数秒間程度の時間内における充電受入性能のことではなく、数分間以上の比較的長い時間内における充電受入性能のことを言う。
【0021】
また、充電制御車における巡航走行中のエンジンの駆動による充電を模擬して、充電受入性能を、SOC(State of charge:満充電時の充電量に対する実際の充電量の割合)90%の鉛蓄電池を12時間放置し、2.33Vの制限電圧で最大1CAの電流で定電流−定電圧充電したときの3分間に入る充電電気量と定義した。この定義に基づいて充電受入性能を評価すると、満充電時の硫酸濃度が高い電解液を用いた方が充電受入性能は低く、硫酸濃度が43.1質量%を超えると、ルビジウムイオン及びナトリウムイオンが必要量含有されていても、充分な充電受入性能が得られなかった。そして、本発明の効果がより発現しやすい硫酸濃度は35.1〜38.6質量%であった。一方、硫酸濃度が35.1質量%未満であると、ルビジウムイオン及びナトリウムイオンを含有していなくても充分な充電受入性能を得ることが可能であった。
【0022】
従来の鉛蓄電池の電解液には、通常、浸透短絡を抑制するために、ナトリウムイオンをはじめとするアルカリ金属イオンが30mmol/Lよりも高い濃度で含有されており、アルカリ金属イオンの含有量が低いと、充分な耐浸透短絡性能が得られにくい。一方、浸透短絡の発生原因は、硫酸濃度の低下による鉛イオン濃度の上昇であるため、放電末の硫酸濃度が高い方が浸透短絡は起こりにくい。このため、20時間率電流で1.75Vまで放電させたときの硫酸濃度が16質量%以上である電解液を用いた場合は、浸透短絡が起こりにくく好ましい。
【0023】
また、浸透短絡を抑制するためには、電解液中のルビジウムイオンは、硫酸ルビジウムとして添加することが好ましい。ルビジウムイオンを硫酸ルビジウムとして電解液中に添加することにより、深放電により電解液中の希硫酸に由来する硫酸イオンが枯渇しかけても、硫酸ルビジウムに由来する硫酸イオンが電解液に導電性を付与するので、電解液の抵抗を低く抑えて充電回復性能の低下を抑制することができる。また、硫酸イオン濃度を高くすることより電解液中への硫酸鉛の溶解を抑制することができるので、浸透短絡を防ぐことができる。
【実施例】
【0024】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0025】
<試験1>各アルカリ金属イオン種の充電受入性能への影響
常法で作製される正極板1枚、負極板2枚を使用し、また、試験電池は、一般に使用されているポリエチレンセパレータ(厚み:0.65mm)で負極板を包装(セパレータの両端を熱溶着)し、正極板と負極板を交互に重ねて、圧迫のない状態で組み立てた構成とした。その後、31質量%(比重1.23相当、20℃)の希硫酸を加え正極活物質の理論電気量の300%を通電した。次いで、各アルカリ金属イオンの硫酸塩を電解液に添加し、電解液中のアルカリ金属イオン濃度が所定の値となるようにした。このときの硫酸濃度は38質量%(比重1.285相当、20℃)である。
【0026】
充電受入性試験は次の条件で実施した。
・放電:0.2CA×30min
・放置:12時間
・充電:最大電流:1CA
・制限電圧:2.33V
・充電受入性能の評価:3分間の充電電気量
【0027】
なお、ここでは、充電受入性能を、SOC90%の鉛蓄電池を12時間放置し、2.33Vの制限電圧で、最大1CAの電流で定電流−定電圧充電したときの3分間に入る充電電気量と定義し、この定義に基づいて、充電受入性能を評価した。得られた結果を表1に示す。なお、各サンプルの充電受入性能はアルカリ金属イオンを電解液に添加しないサンプルの充電電気量を100とする相対値で表した。
【0028】
【表1】
【0029】
表1に示すように、10〜350mmol/Lのルビジウムイオンだけが、充電受入性能の向上作用を有することが明らかとなった。
【0030】
<試験2>ルビジウムイオン濃度及びナトリウムイオン濃度の充電受入性能への影響
常法で作製される正極板1枚、負極板2枚を使用し、また、試験電池は、一般に使用されているPEセパレータ(厚み:0.65mm)で負極板をU字巻きで包装し、正極板と負極板を交互に重ねて、圧迫力をかけずに組み立てた構成とした。その後、31質量%(比重1.23相当、20℃)の希硫酸を加え正極活物質の理論電気量の300%を通電した。次いで、ルビジウムイオン、ナトリウムイオンの硫酸塩を電解液に添加し、電解液中のそれらの濃度が所定の値となるようにした。このときの硫酸濃度は38質量%(比重1.285相当、20℃)である。
【0031】
充電受入性試験はつぎの条件で行なった。
・放電:0.2CA×30min
・放置:12時間
・充電:最大電流:1CA
・制限電圧:2.33V
・温度:25℃
・充電受入性能の評価:3分間の充電電気量
【0032】
得られた結果を表2に示す。なお、表2中において、充電受入性能は、電解液中のルビジウムイオン濃度が0mmol/Lで、ナトリウムイオン濃度が2mmol/Lである場合の3分間の充電電気量を100とする相対値で表し、充電受入性能が100より大きいサンプルを合格とした。
【0033】
【表2】
【0034】
表2に示すように、電解液中のイオン濃度が、ルビジウムイオンが10〜350mmol/Lでナトリウムイオンが2〜30mmol/Lである場合においてのみ、充電受入性能が良好であることが明らかになった。