(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
互いに離接する方向に相対振動を生じる制振対象の構造体である第1部材および第2部材の間に介装されて、前記第1部材および前記第2部材の間に生じる前記相対振動を低減するための回転慣性質量ダンパーであって、
第1ねじ軸に対して第1ナットを第1ボールねじを介して螺着した構成とされて前記第1部材に対して連結される第1ボールねじ機構と、第2ねじ軸に対して第2ナットを第2ボールねじを介して螺着した構成とされて前記第2部材に対して連結される第2ボールねじ機構とを有し、
前記第1ボールねじ機構における第1ねじ軸の基端を前記第1部材に対して回転不能に連結するとともに、前記第2ボールねじ機構における第2ねじ軸の基端を前記第2部材に対して回転不能に連結して、前記第1ボールねじ機構における第1ナットと前記第2ボールねじ機構における第2ナットとを間隔をおいて対向配置し、
前記第1ナットと前記第2ナットの双方に対して回転錘を一体に連結して、前記第1部材と前記第2部材との間で生じる前記相対振動によって前記第1ナットと前記第2ナットと前記回転錘との全体が前記第1ねじ軸および前記第2ねじ軸に対して軸方向に相対変位しつつ一体に回転可能とし、
かつ、前記第1ボールねじ機構における第1ボールねじと前記第2ボールねじ機構における第2ボールねじを同じ向きでリードが互いに異なるボールねじとして形成してなり、
前記回転錘に形成した中心孔に前記第1ねじ軸および前記第2ねじ軸の先端部がそれぞれ緩挿状態で挿入されており、前記中心孔内において前記第1ねじ軸と前記第2ねじ軸の先端部どうしが相対回転不能かつ軸方向相対変位可能に連結されていることを特徴とする回転慣性質量ダンパー。
【背景技術】
【0002】
回転慣性質量ダンパーとは、ダンパー両端の相対変位に比例して錘部材の回転量を生じる装置であり、錘部材の回転慣性モーメントと制動力の関係から「両端の相対加速度に比例した負担力」をもつ装置である。
【0003】
この種の回転慣性質量ダンパーの具体例としては、特許文献1に示すようにボールねじ機構と回転錘(フライホイール)を組み合わせた減衰コマと称される形式のものが知られており、これによれば実際の錘質量に比較して1000倍以上もの質量効果が得られる特徴がある。
【0004】
たとえば、1組のボールねじ機構によって回転錘(円盤状のフライホイール)を回転させる構成のダンパーでは、回転錘の回転慣性モーメントI
θと回転角加速度Aとによって回転錘に生じる角運動量の変化から軸方向の慣性抵抗力Pが得られる。その場合、ボールねじのリード(ねじ山ピッチ)L
d、ダンパーの軸方向変位x、錘の回転角θとした場合、
【0005】
【数1】
【0006】
の関係となり、ダンパーの負担力(制御力)Pは次式で表される。
【0007】
【数2】
【0008】
ここで、回転錘(フライホイール)を環状の円盤としてその外径D
1、内径D
2、厚さt、密度ρとすると、その回転錘の回転慣性質量モーメントI
θ、ダンパー負担力Pは、回転錘の質量mによりそれぞれ次式で表される。
【0009】
【数3】
【0010】
この種の大容量回転慣性質量ダンパーは D
1/L
d>15 としていることが一般的であり、その場合には
【0011】
【数4】
【0012】
となる。これは、実際の回転錘の質量mの1000倍以上の慣性質量効果(相対加速度に対する負担力の比)が得られることを表す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態を説明するに先立ち、まず本発明の基礎となった先行発明の回転慣性質量ダンパーについて
図3を参照して説明する。
これは、本出願人が先に特願2010−141838として提案したもので、ボールねじのリードが異なる2組のボールねじ機構20,30をケーシング10内に同軸状態で対向配置した状態で組み込んで、それら2組のボールねじ機構20,30によって1つの回転錘40を回転させることにより、それ自体で回転錘40に対する変位拡大機能および増速機能を有する構成としたものである。
【0022】
すなわち、
図3に示す先行発明の回転慣性質量ダンパーは、制振対象の構造体である二部材(第1部材および第2部材。いずれも図示せず)の間に介装されてそれらの間で生じる離接する方向の相対振動を低減させるためのものであって、一方(図示左側)の第1部材に対してクレビス11を介して回転不能に連結される第1ケーシング12と、他方(図示右側)の第2部材に対してクレビス13を介して回転不能に連結される第2ケーシング14と、それら第1ケーシング12および第2ケーシング14に対してスライド機構15を介して軸方向に相対変位可能かつ相対回転不能に装着された第3ケーシング16とによって全体の外殻をなすケーシング10が構成されている。
そして、そのケーシング10の内部に、第1ケーシング12に対して連結された第1ボールねじ機構20と、第2ケーシング14に対して連結された第2ボールねじ機構30とが収容され、それら第1ボールねじ機構20と第2ボールねじ機構30に対して回転錘40が連結された構成とされている。
【0023】
第1ボールねじ機構20は、第1ねじ軸21と、その第1ねじ軸21に対して第1ボールねじ22を介して螺着された第1ナット23とからなり、第1ねじ軸21の基端が第1ケーシング12の内面に対して回転不能に(したがって制振対象の構造体である第1部材に対して回転不能に)固着され、それに螺着されている第1ナット23はベアリング24を介して第3ケーシング16に対して回転可能かつ軸方向変位不能に支持されている。
同様に、第2ボールねじ機構30は、第2ねじ軸31と、その第2ねじ軸31に対して第2ボールねじ32を介して螺着された第2ナット33とからなり、第2ねじ軸31の基端が第2ケーシング14の内面に対して回転不能に(したがって制振対象の構造体である第2部材に対して回転不能に)固着され、それに螺着されている第2ナット33はベアリング34を介して第3ケーシング16に対して回転可能かつ軸方向変位不能に支持されている。
【0024】
そして、第1ボールねじ機構20における第1ナット23と第2ボールねじ機構30における第2ナット33とは第3ケーシング16の中央部において互いに間隔をおいて対向配置され、それら第1ナット23と第2ナット33の間には円筒状の回転錘40が配置されてその両端がそれぞれ第1ナット23と第2ナット33の先端面に対して相対回転不能に連結され、同時に第1ねじ軸21の先端部および第2ねじ軸31の先端部がそれぞれ回転錘40の中心孔40aに対して相対回転可能かつ軸方向相対変位可能に挿入されている。
【0025】
これにより、制振対象の構造体である第1部材と第2部材との間で離接する方向の相対振動が生じた際には、ケーシング10の全長が伸縮するように変化し、第1ねじ軸21と第2ねじ軸31とは同軸状態を維持したまま離接するように軸方向に相対変位し、それに伴い、第1ナット23と第2ナット33およびそれらを連結している回転錘40の全体が第1ねじ軸21と第2ねじ軸31に対して軸方向に相対変位しつつ回転せしめられるようになっている。
なお、第1ナット23と回転錘40と第2ナット33の全体がケーシング10に接触することなくその内部において支障なく軸方向に変位可能であるためには、第1ナット23と第1ケーシング12との間に少なくとも第1ボールねじ機構20の作動量に相当するクリアランス(後述する相対変位量S
1)を確保し、第2ナット33と第2ケーシング14との間に少なくとも第2ボールねじ機構30の作動量(同、相対変位量S
2)に相当するクリアランスを確保する必要がある。さらに、第1ねじ軸21および第2ねじ軸31の先端部を回転錘40の中心孔40aに対してそれぞれ少なくとも上記の寸法(相対変位量S
1、S
2)相当分は挿入するとともに、それらの間には後述するダンパーストロークS相当分のクリアランスを確保する必要がある。
【0026】
そして、第1ボールねじ機構20における第1ボールねじ22と第2ボールねじ機構30における第2ボールねじ32は互いに同じ向き(図示例ではいずれも右ねじ)で形成されているが、第1ボールねじ22のリードL
d1と、第2ボールねじ32のリード
Ld2とは互いに異なるものとされ(図示例ではL
d1>L
d2)、これによりこの慣性慣性質量ダンパーはそれ自体で変位拡大機能と増速機構を有するものとされている。
【0027】
すなわち、このダンパーの両端に変位xが生じて、第1ねじ軸21が第3ケーシング16に対して1リード分のL
d1だけ右方に変位した場合、第1ナット23と回転錘40と第2ナット33の全体が1回転し、それに応じて第2ねじ軸31は1リード分のL
d2だけ右方に変位し、したがってダンパー全長はL
d1−L
d2だけ変化する。
この場合、ダンパーストロークをSとすると、第1ボールねじ機構20の作動量(第1ねじ軸21に対する第1ナット23の相対変位量)S
1、および第2ボールねじ機構30の作動量(第2ねじ軸31に対する第2ナット33との相対変位量)S
2はそれぞれ次式で表され、いずれもダンパーストロークSに対して拡大されることになる。
換言すると、第1ボールねじ機構20と第2ボールねじ機構30はそれぞれのリードL
d1、L
d2に応じて大きく作動するが、ダンパー全体としての伸縮量であるダンパーストロークSは、第1ボールねじ機構20の作動量S
1と第2ボールねじ機構30の作動量S
2との差(絶対値)になる。
【0029】
そして、この場合における回転錘40の回転慣性モーメントI
θ(回転錘40と一体に回転する第1ナット23および第2ナット33による回転慣性モーメントも含む)、ダンパー変位xとすると、ダンパー負担力Pは
【0031】
となり、これは上述の(1)式におけるL
d(括弧内の分母)をL
d1−L
d2に読み替えたもの、つまりリードL
dをL
d1−L
d2とした単一のボールねじ機構によりダンパーを構成した場合と等価になり、それによりダンパー負担力Pが十分に拡大される効果が得られ、その効果はリード差L
d1−L
d2が小さいほど顕著に得られるものとなる。
【0032】
具体例として、たとえば、L
d1=25mm、L
d2=20mmとした場合には、リードL
d=L
d1−L
d2=5mmとした小リードの単一のボールねじ機構を用いた場合と等価になる。
その場合においてダンパーストロークS=60mmとした場合、上式より第1ねじ軸21に対する第1ナット23の相対変位量S
1=300mm、第2ねじ軸31に対する第2ナット33の相対変位量S
2=240mmとなり、回転錘40の所要長さはそれらS
1,S
2にダンパーストロークSを加えて少なくとも600mm以上とすれば良い。
そこで、回転錘40の長さを必要最少限の600mmとし、回転錘40の外径D
1=350mmφ、内径D
2=150mmφとすると、回転錘40の質量m=0.37ton、回転慣性モーメントI
θ=6.71×10
-3ton・m
2となるから、その場合の慣性質量ψは下式から10000ton以上にもなる。
【0034】
そのような大きな慣性質量ψを、リードL
dが16mm程度とされることが限界である従来一般的な単一のボールねじ機構による回転慣性質量ダンパーによって実現しようとすると、回転錘40の所要外径寸法は630mmφにもなるから、それに比べてかなりのコンパクト化と軽量化、コストダウンを実現し得るものである。
【0035】
以上のように、
図3に示す先行発明の回転慣性質量ダンパーは、ボールねじのリードが異なる2組のボールねじ機構20,30を組み合わせて使用して双方のリード差を小さく設定することにより、双方のボールねじ機構の作動量(それぞれのボールナットに対するそれぞれのボールねじ軸の相対変位量S
1,S
2)をダンパーストロークSに対して大幅に拡大できる変位
拡大機能を有するものであり、そのような変位拡大機能は同時に双方のボールねじの回転速度を増加させる増速機能でもある。したがって、双方のボールねじ機構のリードL
d1,L
d2を実際に小さくせずとも、また回転錘40の外径D
1やダンパー全長を過度に大きくせずとも、大きな慣性質量効果が得られるものであり、この点で十分に有効なものである。
【0036】
しかし、
図3に示したものは、第1ボールねじ機構20と第2ボールねじ機構30と回転錘40の全体をケーシング10内に収容した構成であることから、そのケーシング10の全体を第1ケーシング12と第2ケーシング14と第3ケーシング16とをスライド機構15を介して軸方向相対変位可能かつ相対回転不能に組み合わせた構成とする必要があり、さらに第1ナット23および第2ナット33を第3ケーシング16に対してベアリング24、34を介して回転可能かつ軸方向変位不能に支持する必要があり、それらの点でダンパーとしての構成がやや複雑に過ぎる嫌いがあるので、その点では改良の余地を残しているものでもあった。
【0037】
そこで本発明では、
図3に示した先行発明の回転慣性質量ダンパーの基本構成を踏襲しつつもその構成のさらなる簡略化を実現するべく、
図1〜
図2に示す実施形態のようにケーシングを省略したことを主眼とする。
【0038】
すなわち、
図1に示す実施形態の回転慣性質量ダンパーにおいては、第1ボールねじ機構20における第1ねじ軸21の基端にクレビス11を直接的に固定して、その第1ねじ軸21をクレビス11を介して制振対象の一方の構造体である第1部材(図示せず)に対して相対回転不能に直接的に連結するものとしている。
同様に、第2ボールねじ機構30における第2ねじ軸31の基端にクレビス13を直接的に固定して、その第2ねじ軸31をクレビス13を介して他方の構造体である第2部材(図示せず)に対して相対回転不能に直接的に連結するものとしている。
なお、必要であればクレビス11,13に代えてボールジョイントを用いることも可能であるが、いずれにしても第1部材や第2部材に対する第1ねじ軸21、第2ねじ軸31の相対回転は確実に拘束してそれら第1ねじ軸21、第2ねじ軸31からのトルクを制振対象の構造体に対して伝達する必要があるから、クレビス11,13あるいはそれに代わるボールジョイントとしてはそのような機能を備えたものを用いる必要がある。
【0039】
そして、本実施形態の回転慣性質量ダンパーにおいても、第1ナット23は第1ねじ軸21に対して第1ボールねじ22を介して螺着されていてそのリードL
d1に応じて軸方向に相対変位しつつ回転し、かつ第2ナット33は第2ねじ軸31に対して第2ボールねじ32を介して螺着されていてそのリードL
d2に応じて軸方向に相対変位しつつ回転し、それら第1ナット23と第2ナット33とそれらの間に連結されている回転錘40の全体が一体に回転するようにされている。
なお、
図3に示した先行発明の回転慣性質量ダンパーにおけるケーシング10は省略されていることから当然にベアリング24、34も省略されているが、第1ナット23および第2ナット33を回転させるうえでは特に支障がない。
【0040】
したがって
図1に示す本実施形態の回転慣性質量ダンパーによれば、
図3に示した先行発明の回転慣性質量ダンパーと同様に機能して上述したような効果が得られることはもとより、ケーシング10を省略したことで全体構成のさらなる簡略化と小形化、コストダウンを実現し得るものである。
【0041】
図2(a),(b)は本発明の他の実施形態を示す。
これは、回転錘40の中心孔40aの内径を
図1に示した実施形態の場合よりも大きくして、その中心孔40aに第1ねじ軸21および第2ねじ軸31の先端部をそれぞれ緩挿状態で挿入して、それらをスリーブ50を介して連結したものである。
具体的には、第2ねじ軸31の先端部にスリーブ50を同軸状態で固定して、そのスリーブ50内に第1ねじ軸21の先端部を軸方向変位可能に挿入するとともに、第1ねじ軸21の先端部外周面に形成した2本のキー51をスリーブ50内面に形成したキー溝に嵌合させてそれらスリーブ50と第1ねじ軸21との間の相対回転を拘束している。なお、第1ねじ軸21の先端部の周面には、スリーブ50の内面に摺接する2本の補強リング52が形成されている。
これにより、回転錘40の中心孔40a内において第1ねじ軸21と第2ねじ軸31の先端部どうしがスリーブ50を介して相対回転不能(一体回転可能)かつ軸方向相対変位可能な状態で連結されている。
【0042】
本実施形態のように、第1ボールねじ機構20における第1ねじ軸21と第2ボールねじ機構30における第2ねじ軸31どうしが相対回転しないように連結することにより、第1ボールねじ機構20における第1ボールねじ22と第2ボールねじ機構30における第2ボールねじ32はそれぞれ第1ナット23および第2ナット33の内部において軸方向のみに移動し、したがって第1ナット23や第2ナット33の端部でベアリングに部分的な大きな支圧力が生じることがなく、双方のボールねじ機構の回転抵抗が増してしまうこともない。
また、本実施形態のように第1ねじ軸21とスリーブ50との間の相対回転を2本のキー51によって拘束することにより、第1ねじ軸21とスリーブ50とは十分な曲げ剛性をもって連結されるため、自重による曲げモーメントに対しても第1ねじ軸21と第2ねじ軸31とが軸直交方向に相対回転せず、双方のボールねじ機構が円滑に稼働し得るものである。
【0043】
本実施形態の場合において、回転錘40の回転慣性モーメントI
θは、回転錘40の外径D
1、内径(中心孔40aの径)D
2、密度ρ、長さLとすると、次式で表される。回転慣性モーメントI
θは径の4乗に比例することから、内径を多少大きくしても回転慣性モーメントI
θはあまり変化せず、回転慣性モーメントI
θに比例する慣性質量もあまり低下しない。
【0045】
また、ダンパー負担力がPのとき、回転錘40の両側にある第1ボールねじ機構20および第2ボールねじ機構30で生じるトルクT
1、T
2はそれぞれ次式となる。
【0047】
第1ボールねじ22と第2ボールねじ32の向きが同じ(本例ではいずれも右ねじ)なので、双方のトルクT
1、T
2は逆向きとなる。そして、第1ねじ軸21と第2ねじ軸31をスリーブ50を介して相対回転を拘束して連結しているので、トルクT
1、T
2の大半は相殺され、ダンパー両端に生じるトルクの合計は次式となる。
【0049】
それに対し、従来型の慣性質量ダンパーでは、リードL
dのときのトルクTは次式となる。
【0051】
以上から、第1ボールねじ機構20のリードL
d1と第2ボールねじ機構30のリードL
d2のリード差が小さい本発明の回転慣性ダンパーでは、本体構造に作用する反力を小さくすることができる。たとえば、本発明においてL
d1=25mm、L
d2=20mmとすれば、それらのリード差を従来型のダンパーにおけるリードL
dと読み替えられることから、リードL
d=5mmのダンパーが実現できたこととなる。従来一般のダンパーのリードが16mmとすると、ダンパー負担力(軸力)が同じ場合の反力トルク合力は、本発明においてはリード比から従来型の5/16=0.31倍と大幅に低減されることがわかる。これは、構造体への負担が小さくなることを意味している。
【0052】
以下、本発明の効果を列挙する。
(1)リードの異なる2組のボールねじ機構を併用することで、ダンパー両端の相対変位に対する各ボールねじの変位(ボールナットに対するボールねじ軸の移動量)を大幅に拡大でき、このような拡大機構はボールねじの回転速度を増加させる増速機構でもあり、その拡大率(増速率)はリード差を小さくするほど大きくなる。
これにより、従来よりダンパー外径を大幅に縮小でき、そのための設置スペースの縮減が図れて建築計画の阻害要因になり難くなる。たとえば、この回転慣性質量ダンパーを壁内に設置する場合は壁厚を小さくして有効スペースを増大させることが可能であり、建物外周に設置する場合はブラインドボックスを室内側に寄せる寸法を小さくすることが可能であり、床貫通孔に隣接して設置する場合には床貫通孔の位置を梁に十分に接近させることが可能となる。
【0053】
(2)リードの異なる2組のボールねじ機構を併用して、ダンパー両端の相対変位に対するボールねじの変位(ボールナットに対する移動量)を大幅に拡大できる効果をもちつつ、ダンパー両端に生じるトルク反力を大幅に低減し、構造躯体への負担を軽減することができる。
たとえば、第1ボールねじ機構におけるリードL
d1=25mm、第2ボールねじ機構におけるリード
Ld2=20mmとした場合、ボールねじ間を連結しない場合と比較してダンパー両端に生じるトルク反力(合力)を1/9に軽減できることとなり、リードが単一の1組のボールねじ機構による従来型のダンパーと比較しても1/3以下に軽減できる。
【0054】
(3)リードの異なる2組のボールねじ機構における双方のねじ軸どうしを相対回転不能かつ軸方向相対変位可能に連結することにより、ねじ端部の撓み角(勾配)も一致するようになることから、回転錘の自重によるねじ軸の撓み(曲がり)を抑制し、ボールねじ機構におけるベアリングに部分的に大きな支圧力が生じず、ボールねじ機構が円滑に作動できる。
【0055】
(4)ダンパーを構成する部品として、従来はボールねじ機構の他に軸受けやシリンダー等が必要であったが、これらが不要であって構成部品が減り、メカニズムが大幅に簡略化される。そのため、大容量ダンパーをローコストに製造できる。
(5)ボールねじの実際のリードを小さくする必要がないので、ボールベアリングも過小な径とする必要はなく、そのため、ボールねじ径に合わせた適切なリードを確保できるので耐荷重性能の問題は生じない。
(6)制振対象の構造体に接合するためにダンパー両端にクレビスあるいはボールジョイントを設けてそれらによりねじ軸まわりの回転を拘束しトルク伝達する必要はあるが、伝達トルクは同じリードをもつ従来の慣性質量ダンパーと同じで拡大されることはないので、従来と同様に汎用のクレビスやボールジョイントをそのまま使用可能であり、その点においてもコスト増となることはない。
(7)この種の回転慣性質量ダンパーは静的な剛性を持たず復元力は保持しないし、手動で回転錘を回転させることも可能であるので、現場での設置工事の際に寸法調整を容易に実施することも可能である。