(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5839467
(24)【登録日】2015年11月20日
(45)【発行日】2016年1月6日
(54)【発明の名称】癌を治療するための方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/33 20150101AFI20151210BHJP
A61K 35/32 20150101ALI20151210BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20151210BHJP
【FI】
A61K35/33
A61K35/32
A61P35/00
【請求項の数】10
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2011-552473(P2011-552473)
(86)(22)【出願日】2010年3月8日
(65)【公表番号】特表2012-519670(P2012-519670A)
(43)【公表日】2012年8月30日
(86)【国際出願番号】EP2010052901
(87)【国際公開番号】WO2010100282
(87)【国際公開日】20100910
【審査請求日】2013年2月20日
(31)【優先権主張番号】61/158,037
(32)【優先日】2009年3月6日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505138897
【氏名又は名称】ユニベルシテ パリ デカルト
(73)【特許権者】
【識別番号】505138886
【氏名又は名称】アシスタンス パブリク−オピトー ドゥ パリ
(73)【特許権者】
【識別番号】508021783
【氏名又は名称】アンスティテュ ナシオナル ドゥ ラ サントゥ エ ドゥ ラ ルシェルシェ メディカル(イーエヌエスエーエールエム)
(73)【特許権者】
【識別番号】512300953
【氏名又は名称】ミニステール ドゥ ラ デフェンス−セルビス ドゥ サンテ デ アルメ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(72)【発明者】
【氏名】ブルーノ ゴグリー
(72)【発明者】
【氏名】アントワーヌ ラフォン
(72)【発明者】
【氏名】ベルナール クロム
(72)【発明者】
【氏名】ジャン−ジャック ラテラード
【審査官】
六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】
特表2008−505164(JP,A)
【文献】
特表2004−503583(JP,A)
【文献】
日成人矯歯誌,2007年,14(2),p.42-47
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00−35/768
A61K 38/00−38/58
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
WPI
BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌細胞の侵襲の抑制による癌の予防又は治療のための医薬の製造のための、歯肉線維芽細胞由来の生成物の使用であって、
該歯肉線維芽細胞由来の生成物が、歯肉線維芽細胞の全細胞、歯肉線維芽細胞の培養物、及び歯肉線維芽細胞の条件培地から成る群から選択される、使用。
【請求項2】
腫瘍浸潤の予防又は治療のための医薬の製造のための、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記歯肉線維芽細胞由来の生成物が局所注射によって投与される、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記歯肉線維芽細胞由来の生成物が、経口経路、皮下経路、静脈内経路、及び筋肉内経路から成る群から選択される経路によって投与される、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項5】
前記歯肉線維芽細胞由来の生成物が、個体から採取された歯肉線維芽細胞から得られる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記歯肉線維芽細胞由来の生成物が、歯肉線維芽細胞の条件培地である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
前記癌が、転移性癌又は転移を形成する傾向のある癌である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記癌が、固形腫瘍である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
前記癌の転移が、予防又は治療される、請求項7に記載の使用。
【請求項10】
前記癌が、結合組織の癌である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、腫瘍浸潤を抑制することによって、癌を治療するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
腫瘍浸潤は、高い浸潤能を有する悪性細胞が基底層を通して拡散し転移を形成する、癌の進行における重要な段階である。従って、腫瘍浸潤は、転移癌の治療をデザインするための最も重要なターゲットの1つである。
【0003】
癌の進行の抑制で潜在的に有用である革新的戦略の中で、細胞由来の生成物、例えば条件培地を使用した治療法は有望のようであるが、未だに十分に評価されていない。そこで、癌はめったに骨格筋組織から生じないとの知見に従って、Bar−Yehuda等(1999)はClin.Exp.Metastasis 17:531〜535において、静脈内にメラノーマ又は肉腫細胞を接種したマウスへ投与した骨格筋細胞条件培地が、転移性肺病巣の統計上有意な抑制をもたらすことを示した。しかしながら、この治療は臨床状況においてさらに評価されていない。
【0004】
また、細胞型によっては、逆の結果が報告されている。この点について、Chen等(2005)は間質微小環境が腫瘍の進行にどのように影響を及ぼすかを決定しようとして、Surgery 138:382〜90において、正常な筋線維芽細胞又は正常な筋線維芽細胞由来の条件培地が大腸癌細胞の増殖を増強することを示した。
【0005】
歯肉線維芽細胞は、コラーゲン(例えば、I型, III型, V型, VI型, VII型, XII型)、弾性線維(オキシタラン, エラウニン及びエラスチン)、プロテオグリカン及びグリコサミノグリカン(例えば、デコリン, バイグリカン)、並びに糖タンパク質(例えば、フィブロネクチン, テネイシン)を合成する。同時に、歯肉線維芽細胞は、高分子化合物を分解することができる酵素(マトリックスメタロプロテアーゼ; MMP)だけでなく、MMPの活性型を抑制する酵素(メタロプロテイナーゼのインヒビター; TIMP)もまた合成する。従って、歯肉線維芽細胞は、細胞外マトリックスの再構築の重要な作用主であり、その合成又は分解に寄与している。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、歯肉線維芽細胞の条件培地が、生体外(ex vivo)において悪性細胞浸潤を抑制する、との発明者による予想外の発見に起因する。
【0007】
従って、本発明は個体において癌を予防又は治療するための方法に関し、歯肉線維芽細胞由来の生成物の予防的又は治療的に有効な量を個体に投与する工程を含んでなる。
【0008】
本発明はまた、個体における癌の予防又は治療における使用のための歯肉線維芽細胞由来の生成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、10%FCSのIMDM培地中で培養したHT1080細胞(HT1080 IMDM 10%)、10%FCSで培養したヒト皮膚線維芽細胞の条件培地を添加したIMDM培地中で培養したHT1080細胞(HT1080 IMDM+ DF 10%)、10%FCSで培養したヒト歯肉線維芽細胞の条件培地を添加したIMDM培地中で培養したHT1080細胞(HT1080 IMDM+ GF 10%)による、基底層抽出物の細胞浸潤を表す(縦軸, 単位はパーセント)。
【
図2】
図2は、10%FCSのIMDM培地中で培養したM4T1細胞(M4T1 IMDM 10%)、10%FCSで培養したヒト皮膚線維芽細胞の条件培地を添加したIMDM培地中で培養したM4T1細胞(M4T1 IMDM+ DF 10%)、10%FCSで培養したヒト歯肉線維芽細胞の条件培地を添加したIMDM培地中で培養したM4T1細胞(M4T1 IMDM+ GF 10%)による、基底層抽出物の細胞浸潤を表す(縦軸, 単位はパーセント)。
【
図3】
図3は、10%FCSのIMDM培地中で培養したHT1080細胞(HT1080 IMDM 10%)、10%FCSで培養したヒト皮膚線維芽細胞の条件培地を添加したIMDM培地中で培養したHT1080細胞(HT1080 IMDM+ DF 10%)、10%FCSで培養したヒト歯肉線維芽細胞の条件培地を添加したIMDM培地中で培養したHT1080細胞(HT1080 IMDM+ GF 10%)による、コラーゲンIの細胞浸潤を表す(縦軸, 単位はパーセント)。
【
図4】
図4は、10%FCSのIMDM培地中で培養したM4T1細胞(M4T1 IMDM 10%)、10%FCSで培養したヒト皮膚線維芽細胞の条件培地を添加したIMDM培地中で培養したM4T1細胞(M4T1 IMDM+ DF 10%)、10%FCSで培養したヒト歯肉線維芽細胞の条件培地を添加したIMDM培地中で培養したM4T1細胞(M4T1 IMDM+ GF 10%)による、コラーゲンIの細胞浸潤を表す(縦軸, 単位はパーセント)。
【0010】
発明の詳細な説明
本明細書中で意図する場合、発明に従って予防又は治療される癌は任意のタイプの癌とすることができる。好ましくは、転移性癌又は転移を形成する傾向のある癌である。従って、本発明の方法において、好ましくは癌細胞の浸潤が抑制される。さらに、癌が腫瘍、特に固形腫瘍を形成する場合、本発明の方法は、好ましくは腫瘍浸潤を予防又は治療する。言い換えれば、本発明の方法は、好ましくは癌の転移を予防又は治療する。
【0011】
本明細書中で意図する場合、癌は、好ましくは結合組織の癌である。より好ましくは、癌は、乳癌及び線維肉腫から成る群から選択される。
【0012】
好ましくは、個体は哺乳類、より好ましくはヒトである。
【0013】
歯肉線維芽細胞を採取、培養及び保存するための手順は、当業者に周知であり、特にNaveau等(2006)J.Periodontol.77:238〜47及びGogly等(2007)Arterioscler.Thromb.Vase.Biol.27:1984〜90において記載される。
【0014】
好適には、歯肉線維芽細胞は容易に試料採取されそして培養される。さらに、歯肉線維芽細胞は高増殖率を有する。
【0015】
好ましくは、本発明の方法で使用される歯肉線維芽細胞は、歯肉線維芽細胞由来の生成物を投与することが意図される個体から採取される個体自身に由来するものである。
【0016】
好適には、歯肉線維芽細胞は、自己の線維芽細胞のほぼ無限のソ−スを提供する。さらに、老齢の皮膚の場合、培養コンピテントな自己の歯肉線維芽細胞は通常まだ入手可能であるが、一方で、培養コンピテントな自己の皮膚線維芽細胞のソースは欠乏している。
【0017】
しかしながら、歯肉線維芽細胞は、同種の他の個体から採取される同種異系間のもの又は他種の他の個体から採取される異種のものとすることもできる。
【0018】
本明細書中で意図する場合、「歯肉線維芽細胞由来の生成物」は、それらの中の歯肉線維芽細胞から得ることができる、又は歯肉線維芽細胞の分泌物を含む任意の生成物に関する。例えば、歯肉線維芽細胞由来の生成物が歯肉線維芽細胞の全細胞、歯肉線維芽細胞の培養物、歯肉線維芽細胞の抽出物、及び歯肉線維芽細胞の条件培地から成る群から選択されることが好適である。
【0019】
歯肉線維芽細胞の抽出物は、当技術分野で周知の任意の細胞断片化方法によって得ることができる。
【0020】
歯肉線維芽細胞の条件培地は、任意の培地、例えば、特に歯肉線維芽細胞が培地中で分泌されるのに十分な時間、歯肉線維芽細胞と接触させた液体細胞培養培地に関する。
【0021】
歯肉線維芽細胞由来の生成物の投与は、当技術分野で周知の任意の方法によって実施することができる。従って、歯肉線維芽細胞由来の生成物は、局所的に、すなわち、治療される腫瘍に近接する部位において、又は治療される腫瘍中に直接注射することができる。さらに、歯肉線維芽細胞由来の生成物は、経口経路、皮下経路、静脈内経路、及び筋肉内経路から成る群から選択される経路によって投与することができる。
【0022】
好ましくは、本発明の方法は、次の:
-個体から歯肉線維芽細胞を採取する工程;
-歯肉線維芽細胞を培養する工程;
-培養された歯肉線維芽細胞から歯肉線維芽細胞由来の生成物を得る工程;
-歯肉線維芽細胞由来の生成物を個体へ投与する工程、
を含んでなる。
【実施例】
【0023】
方法
1.細胞培養
マウス乳癌の4T1株化細胞(M4T1)又はヒト線維肉腫のHT1080株化細胞から悪性細胞を得た。
【0024】
5%CO
2中の37℃における、10%のウシ胎児血清(FCS)(GIBCO ref:1600-044)の5mlのIscove’s Modified Dulbecco’s培地(IMDM)(GIBCO ref:12440)中での、200万個の歯肉又は皮膚線維芽細胞の24時間の培養後に条件培地を得た。
【0025】
2.細胞浸潤テスト
基底層抽出物(R&D system ref: 3455-96-K)又はI型コラーゲン(R&D system ref: 3457-96-K)(50μl)の細胞浸潤キット中で、60000個の4T1又はHT1080細胞を10%FCSで培養し、任意に上記の通り得られた条件培地(150μl)と接触させた。製造者説明書に従って、24時間後に細胞浸潤を測定した。
【0026】
結果
1.ヒト歯肉線維芽細胞由来の条件培地は、基底層抽出物上の悪性細胞による細胞浸潤を抑制する。
同様の結果が、HT1080及びM4T1悪性細胞に関して得られた(
図1及び2)。
【0027】
無条件培地において、細胞浸潤が最大である(HT1080細胞で42%、そしてM4T1細胞で49%)。皮膚線維芽細胞による条件培地において、細胞浸潤は、HT1080細胞に関して42%、そしてM4T1細胞に関して53%である。歯肉線維芽細胞による条件培地において、細胞浸潤は、HT1080細胞に関して22%、そしてM4T1細胞に関して15%である。
【0028】
従って、皮膚線維芽細胞による条件培地又は無条件培地と比較して、歯肉線維芽細胞による条件培地は、基底層抽出物の細胞浸潤を抑制する。
【0029】
2.ヒト歯肉線維芽細胞由来の条件培地は、コラーゲンI中の悪性細胞による細胞浸潤を抑制する。
同様の結果が、HT1080及びM4T1悪性細胞に関して得られた(
図3及び4)。
【0030】
無条件培地において、細胞浸潤が最大である(HT1080細胞で38%、そしてM4T1細胞で48%)。皮膚線維芽細胞による条件培地において、細胞浸潤は、HT1080細胞に関して42%、そしてM4T1細胞に関して53%である。歯肉線維芽細胞による条件培地において、細胞浸潤は、HT1080細胞に関して21%、そしてM4T1細胞に関して15%である。
【0031】
従って、皮膚線維芽細胞による条件培地又は無条件培地と比較して、歯肉線維芽細胞による条件培地は、コラーゲンIの細胞浸潤を抑制する。
【0032】
引用文献は全て、明細書中で参照により組み込まれている。