特許第5839758号(P5839758)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本碍子株式会社の特許一覧

<>
  • 特許5839758-燃料電池 図000004
  • 特許5839758-燃料電池 図000005
  • 特許5839758-燃料電池 図000006
  • 特許5839758-燃料電池 図000007
  • 特許5839758-燃料電池 図000008
  • 特許5839758-燃料電池 図000009
  • 特許5839758-燃料電池 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5839758
(24)【登録日】2015年11月20日
(45)【発行日】2016年1月6日
(54)【発明の名称】燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20151210BHJP
   H01M 8/02 20160101ALI20151210BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20151210BHJP
   H01M 8/0202 20160101ALI20151210BHJP
【FI】
   H01M4/86 U
   H01M8/02 E
   H01M8/12
   H01M8/02 Y
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-129538(P2015-129538)
(22)【出願日】2015年6月29日
【審査請求日】2015年6月30日
(31)【優先権主張番号】特願2015-13344(P2015-13344)
(32)【優先日】2015年1月27日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大森 誠
(72)【発明者】
【氏名】岡本 真理子
【審査官】 佐藤 知絵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−4422(JP,A)
【文献】 特開2002−175814(JP,A)
【文献】 特開2008−186798(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 8/02
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状のセルと、
燃料ガスが流通する燃料流路を前記セルとの間で区画・形成するよう前記セルの第1側に隣接する第1セパレータと、
酸素を含むガスが流通する空気流路を前記セルとの間で区画・形成するよう前記セルの第2側に隣接する第2セパレータと、
を備え、
記セルは、固体電解質層と、前記固体電解質層の前記第1側に積層された燃料極と、前記固体電解質層の前記第2側に積層された空気極と、を有し、
前記燃料極及び前記空気極の何れか一方である第1電極の気孔率は、15〜55%であり、
前記第1電極の内部の気孔として、20μm未満の気孔径を有する複数の第1気孔と、
20μm以上の気孔径を有する1つ又は複数の第2気孔と、が前記第1電極内に分散され
前記第1、第2気孔が占める体積の総和に対する、前記第2気孔が占める体積の総和の割合が0.1〜13%である、燃料電池。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池において、
前記第1電極における対応する前記流路に面する表面からの距離がT2以下の領域である流路近傍領域の内部の気孔として、前記第2気孔が存在せずに前記複数の第1気孔のみが存在し、前記第1電極における前記流路近傍領域以外の残りの領域の内部の気孔として、前記複数の第1気孔と、前記1つ又は複数の第2気孔と、が存在し、
前記第1電極の厚さをT1としたとき、
T2/T1が50%以下であり、T2が0.1mm以上である、燃料電池。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の燃料電池において、
記セルについて、
記セルを構成する部材のうち前記第1電極の厚さが最も大きい、燃料電池。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の燃料電池において、
記セルについて、
前記第1電極は前記燃料極である、燃料電池。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の燃料電池において、
前記燃料流路内に配置された第1集電部材をさらに備え、
前記燃料極は、前記固体電解質層の前記第1側に積層された燃料極本体部と、前記燃料極本体部と前記第1集電部材とを接合する導電性の燃料極接合部と、を有する、
燃料電池。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の燃料電池において、
前記空気流路内に配置された第2集電部材をさらに備え、
前記空気極は、前記固体電解質層の前記第2側に積層された空気極本体部と、前記空気極本体部と前記第2集電部材とを接合する導電性の空気極接合部と、を有する、
燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、「複数の平板状のセルと、複数のセパレータと、を備え、セルとセパレータとが1つずつ交互に積層された固体酸化物形燃料電池」が知られている(例えば、特許文献1を参照)。ここで、各セルは、固体電解質層と、固体電解質層の上側に積層された燃料極と、固体電解質層の下側に積層された空気極と、を備えている。各セルを構成する部材のうち燃料極の厚さが最も大きい。各セルについて、「セルと、セルの上側に隣接するセパレータとの間にて燃料ガスが流通する燃料流路」が区画・形成されるとともに、「セルと、セルの下側に隣接するセパレータとの間にて空気が流通する空気流路」が区画・形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許5280173号公報
【発明の概要】
【0004】
ところで、上述した燃料電池が熱応力的に過酷な環境下で稼働されると、「燃料極の燃料流路に面する表面を起点とする、燃料極の内部に向かうクラック」が発生する場合がある(後述する図4の矢印を参照)。これは、燃料極の表面に応力が集中し易いことに起因する、と考えられる。このクラックの成長によって、このクラックが「燃料極の燃料流路に面する表面」から「燃料極と固体電解質層との界面」まで貫通する場合がある(図4を参照)。以下、このように貫通するクラックを「貫通クラック」と呼ぶ。
【0005】
上述した燃料電池が通常の環境下で稼働される場合と異なり、上述した燃料電池が熱応力的に過酷な環境下で稼働される場合には、上述したクラックの発生を確実に回避することは非常に困難である。しかしながら、上述したクラックの僅かな発生が許容されたとしても、このクラックが成長して上記「貫通クラック」が形成される事態が発生する頻度を低減することは重要である、と考えられる。
【0006】
以上より、本発明は、セルとセパレータとが交互に積層された燃料電池であって、「燃料極(又は空気極)の燃料流路(又は空気流路)に面する表面を起点とする、前記表面から燃料極(又は空気極)と固体電解質層との界面まで貫通する貫通クラック」が形成され難いものを提供することを目的とする。
【0007】
本発明に係る燃料電池は、セルと、第1セパレータと、第2セパレータと、を備える。
【0008】
本発明に係る燃料電池の特徴は、前記燃料極及び前記空気極の何れか一方(第1電極)の気孔率が15〜55%であり、前記第1電極の内部の気孔として、20μm未満の気孔径を有する複数の第1気孔と、20μm以上の気孔径を有する1つ又は複数の第2気孔と、が存在し、前記第1、第2気孔が占める体積の総和に対する、前記第2気孔が占める体積の総和の割合(以下、「第2気孔割合」と呼ぶ)が0.1〜13%である、ことにある。
【0009】
ここで、前記第2気孔の気孔径は、20〜200μmであることが好適である。換言すれば、第1電極の内部に形成される気孔の径の最大値が200μmであることが好ましい。なお、前記各セルを構成する部材のうち前記第1電極の厚さが最も大きいことが好適である。また、前記各セルについて、前記第1電極が前記燃料極であることが好ましい。
【0010】
通常、係る燃料電池の燃料極(又は空気極)の気孔率は15〜55%であり、この燃料極(又は空気極)の内部には第1気孔(径が20μm未満)のみが形成される。この場合、上述した燃料電池が熱応力的に過酷な環境下で稼働されると、上述した「貫通クラック」が発生し易い。これに対し、本発明者は、燃料極(又は空気極)の内部に第1気孔のみならず第2気孔(径が20μm以上)が形成されると、上述した燃料電池が熱応力的に過酷な環境下で稼働された場合であっても上述した「貫通クラック」が発生し難いこと、を見出した(詳細は後述する)。
【0011】
ただし、本発明者は、「第2気孔割合」が0.1%未満であると、「上述した燃料電池が熱応力的に過酷な環境下で稼働された場合において上述した「貫通クラック」がなおも発生し易いこと」、並びに、「第2気孔割合」が13%より大きいと、「外力及び衝撃等に対して燃料極(又は空気極)全体の形状が維持され難くなること」をも見出した(詳細は後述する)。従って、燃料極(又は空気極)の気孔率が15〜55%であり、且つ、「第2気孔割合」が0.1〜13%である場合に、上述した燃料電池が熱応力的に過酷な環境下で稼働された場合においても上述した「貫通クラック」が発生し難くなる、といえる。
【0012】
上記本発明に係る燃料電池において、前記第1電極における対応する前記流路に面する表面からの距離(最短距離)がT2以下の流路近傍領域では、前記第2気孔が形成されず前記複数の第1気孔のみが形成され、前記第1電極における前記流路近傍領域以外の残りの領域では、前記複数の第1気孔と、前記1つ又は複数の第2気孔と、が形成され、前記第1電極の厚さをT1としたとき、値「T2/T1」が50%以下であり、T2が0.1mm以上であることが好適である。ここで、値「T2/T1」が、5〜50%であることが好適である。
【0013】
本発明者は、燃料極(又は空気極)の気孔率が15〜55%であり、且つ、「第2気孔割合」が0.1〜13%である場合において、値「T2/T1」が50%以下であり、T2が0.1mm以上であると、上述した「貫通クラック」がより一層発生し難くなる、ことをも見出した(詳細は後述する)。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る燃料電池を示す破断斜視図である。
図2図1に示す燃料電池について、セルとセパレータとが交互に積層された様子を示した模式図である。
図3図1に示す燃料電池について、1つのセル及びその周囲を拡大して示した図である。
図4】燃料極に発生し得るクラックの様子を説明するための図である。
図5】燃料極にて、第2気孔が存在する様子を説明するための図である。
図6】燃料極における流路近傍領域を説明するための図である。
図7】変形例に係る燃料電池を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(構成)
図1図3は、本発明の実施形態に係る固体酸化物形燃料電池(SOFC)を示す。このSOFCは、セル100とセパレータ200とが交互に積層された構造を有している。この構造は、「平板スタック構造」とも呼ばれる。なお、図2に示すように、この燃料電池では、最も上方に位置するセル100の上側に位置するセパレータを特に上側蓋部材300と呼び、最も下方に位置するセル100の下側に位置するセパレータを特に下側蓋部材400と呼ぶ。
【0016】
図3に示すように、セル100は、固体電解質層120と、固体電解質層120の上面に積層された燃料極110と、固体電解質層120の下面に積層された空気極130と、からなる平板状の焼成体である。セル100の平面形状は、例えば、1辺の長さが10〜300mmの正方形である。
【0017】
セル100の厚さ(z軸方向の長さ)は全体に渡って均一であり、例えば、110〜2100μmである。燃料極110、固体電解質層120、及び、空気極130の厚さはそれぞれ、例えば、50〜2000μm、1〜50μm、及び、50〜2000μmである。図3に示す例では、セル100を構成する部材のうち燃料極110が最も厚く、従って、燃料極110がセル100全体を支持する構造となっている。
【0018】
燃料極110は、例えば、NiとYSZとを含む多孔質材料で構成される。固体電解質層120は、例えば、YSZを含む緻密質材料で構成される。空気極130は、例えば、LSM(La(Sr)MnO:ランタンストロンチウムマンガナイト)を含む多孔質材料で構成される。燃料極110、固体電解質層120、及び、空気極130の気孔率はそれぞれ、15〜55%、0〜10%、15〜55%である。燃料極110、固体電解質層120、及び、空気極130の常温から1000℃での平均熱膨張率はそれぞれ、およそ、12.5ppm/K、10.8ppm/K、及び、11(10.8)ppm/Kである。
【0019】
図2及び図3に示すように、セパレータ200は、平板部210と、枠体部220と、を備えている。セパレータ200の平面形状は、セル100の平面形状と同形である。枠体部220は、平板部210の周縁部をその全周に亘って囲むように位置している。枠体部220の厚さ(z軸方向の長さ)は、平板部210の厚さ(z軸方向の長さ)より大きい。枠体部220は、平板部210に対して、上方及び下方の両方に突出している。
【0020】
セパレータ200は、Ni系耐熱合金(例えば、フェライト系SUS、インコネル600及びハステロイ等)で構成されている。セパレータ200の常温から1000℃での平均熱膨張率は、例えばフェライト系SUSであるSUS430の場合、およそ12.5ppm/Kである。従って、セパレータ200の熱膨張率は、セル100の平均熱膨張率よりも大きい。
【0021】
各セル100の周縁部は、その上側及び下側に隣接するセパレータ200のそれぞれの枠体部220によって、接合材(ガラス材料等)を介して挟持されている。図3に示すように、セル100の上側に隣接するセパレータ(本発明の第1セパレータに相当)200は、セル100との間にて、燃料ガスが流通する燃料流路を区画・形成する。また、セル100の下側に隣接するセパレータ(本発明の第2セパレータに相当)200は、セル100との間にて、空気が流通する空気流路を区画・形成する。従って、セパレータ200は、燃料ガスと空気との混合を防止する機能を果たす。
【0022】
以上、図1図3に示した燃料電池に対して、各燃料流路に燃料ガス(水素ガス等)を流すとともに、各空気流路に空気を流し、この燃料電池を外部の負荷に接続することによって、下記の化学反応式(1)及び(2)に基づく発電が行われる。
(1/2)・O+2e→O (於:空気極130) …(1)
+O→HO+2e (於:燃料極110) …(2)
【0023】
(製造方法)
次に、図1図3に示す燃料電池の製造方法について簡単に説明する。先ず、セル100は、シート(燃料極110となる層)の下面にセラミックスシート(固体電解質層120となる層)を印刷法等によって形成し、その積層体を1400℃・1時間にて焼成し、その焼成体の下面にシート(空気極130となる層)を印刷法等によって形成し、その積層体を1200℃・1時間にて焼成することにより、形成される。セパレータ200は、Ni系耐熱合金の薄板材料に対して、切削加工、プレス加工等に施すことによって形成される。
【0024】
次に、完成したセル100とセパレータ200とを交互に、且つ、隣接するセル100の周縁部とセパレータ200の枠体部220との間にガラス材料が介在する状態で積層し、この積層体(のガラス材料)に対して熱処理(830℃/1hr)が施される。この結果、ガラス材料が固化することによってこの積層体が一体化されて、平板スタック構造を有する図1に示す燃料電池が完成する。
【0025】
なお、この時点では、酸素含有雰囲気での焼成により、燃料極110中のNi成分が、NiOとなっている。従って、燃料極110の電子伝導性を獲得するため、その後、燃料流路側から還元性の燃料ガスが流され、NiOが800〜1000℃で1〜10時間に亘って還元処理される。なお、この還元処理は発電時に行われてもよい。以上、図1に示したSOFCの製造方法の一例について説明した。
【0026】
(貫通クラックの発生の防止)
上記実施形態に係るSOFCが、通常の環境下とは異なり、熱応力的に過酷な環境下で稼働されると、図4に示すような「燃料極110の燃料流路に面する表面を起点とする、燃料極110の内部に向かうクラック」が発生し得る(図4の矢印を参照)。この現象は、燃料極110の表面に応力が集中し易いことに起因する、と考えられる。
【0027】
図4に示すように、クラックの成長によって、このクラックが「燃料極110の燃料流路に面する表面」から「燃料極110と固体電解質層120との界面」まで貫通する場合がある。以下、このように貫通するクラックを「貫通クラック」と呼ぶ。
【0028】
熱応力的に過酷な環境下では、このようなクラックの発生を確実に回避することは非常に困難である。しかしながら、上述したクラックの僅かな発生が許容されたとしても、このクラックが成長して上記「貫通クラック」が形成される事態が発生する頻度を低減することは重要である。
【0029】
以下、燃料極110の内部に形成される気孔について、20μm未満の気孔径を有する気孔を「第1気孔」と呼び、20μm以上の気孔径を有する気孔を「第2気孔」と呼ぶ。なお、或る断面上に存在する気孔の径とは、「その断面上にてその気孔が占める面積と同じ面積を有する等価円の直径」と定義される。加えて、「燃料極110の内部における第1、第2気孔が占める体積の総和(即ち、燃料極110の内部に存在する全ての気孔の体積の総和)」に対する「燃料極110の内部における第2気孔が占める体積の総和」の割合を、以下、「第2気孔割合」と呼ぶ。「第2気孔割合」は、「燃料極110の断面における第1、第2気孔が占める面積の総和」に対する「燃料極110の断面における第2気孔が占める面積の総和」の割合とも定義され得る。「第2気孔割合」の測定は、燃料極110の任意の10箇所の断面について行われ、それらの平均値が「第2気孔割合」として採用された。
【0030】
通常、係るSOFCの燃料極の内部には、第1気孔(径が20μm未満)のみが形成される。この場合、このSOFCが熱応力的に過酷な環境下で稼働されると、上述した「貫通クラック」が発生し易い。
【0031】
これに対し、上記実施形態に係るSOFCでは、燃料極110の内部に、第1気孔(径が20μm未満)のみならず第2気孔(径が20μm以上)も形成されている。なお、第2気孔の最大径は200μmであった。また、燃料極110内において、第1、第2気孔は、それぞれ、概ね均一に分布している。
【0032】
本発明者は、上記実施形態の場合、このSOFCが熱応力的に過酷な環境下で稼働された場合であっても、上述した「貫通クラック」が発生し難いことを見出した。これは、図5に示すように、燃料極110の燃料流路に面する表面を起点として発生したクラックが燃料極110の内部に向かって成長していく過程において、移動していくクラックの先端が第2気孔に到達したことに起因してそのクラックの成長が止まることに基づく、と考えられる。「移動していくクラックの先端が第1気孔に到達してもクラックの成長が止まらない一方で、第2気孔に到達したときにはクラックの成長が止まる」のは、第1気孔より大きい第2気孔では、第1気孔と比べて気孔の内壁の曲率半径が大きいことに起因して応力が集中し難いことに基づく、と考えられる。なお、図5では、第2気孔のみが示され、(第2気孔より小さい)第1気孔は示されていない。
【0033】
しかしながら、燃料極110の内部に第1気孔のみならず第2気孔が形成される場合においても、SOFCが熱応力的に過酷な環境下で稼働されると、上述した「貫通クラック」が発生し易い場合があった。本発明者は、この「貫通クラック」の発生の有無が、上述した「第2気孔割合」と強い相関があることを見出した。以下、これらのことを確認した試験Aについて説明する。
【0034】
(試験A)
この試験Aでは、図1に示したSOFCについて、「燃料極110の内部における第1、第2気孔が占める体積の総和Sa(mm)」、及び「燃料極110の内部における第2気孔が占める体積の総和Sb(mm)」、従って、「第2気孔割合Sb/Sa」が異なる複数のサンプルが作製された。具体的には、表1に示すように、10種類の水準(組み合わせ)が準備された。各水準に対して10個のサンプル(N=10)が作製された。
【0035】
【表1】

【0036】
各サンプル(図1に示すSOFC)にて、セル100は、その平面形状が1辺の長さが10〜300mmの正方形であり、その厚さが110〜2100μmであった。燃料極110、固体電解質層120、及び、空気極130の厚さはそれぞれ、例えば、50〜2000μm、1〜50μm、及び、50〜2000μmであった。セル100を構成する部材のうち燃料極110が最も厚く、従って、燃料極110がセル100全体を支持する構造となっていた。
【0037】
燃料極110は、NiとYSZからなる多孔質材料で構成された。固体電解質層120は、YSZからなる緻密質材料で構成された。空気極130は、LSM(La(Sr)MnO)からなる多孔質材料で構成された。燃料極110、固体電解質層120、及び、空気極130の気孔率はそれぞれ、15〜55%、0〜10%、15〜55%であった。
【0038】
燃料極110について、気孔率の調整、及び、気孔の大きさの分布(従って、第2気孔割合)の調整は、燃料極用のシートの作製に使用されるスラリー内に含まれる造孔材の量及び径を調整すること等によってなされた。燃料極110の気孔率は15〜55%であった。第2気孔の気孔径は、20〜200μmの範囲内であった。燃料極110の焼成は、1400〜1500℃にて、1〜20時間に亘って行われた。各サンプルに対して施された上記還元処理は、800〜1000℃にて、1〜10時間に亘って行われた。
【0039】
この試験Aでは、各サンプルについて、「各燃料流路に還元性の燃料ガスを流通させながら、雰囲気温度を常温から750℃まで2時間で上げた後に750℃から常温まで4時間で下げるパターン」を10回繰り返す熱サイクル試験を行った。そして、各サンプルについて、燃料極における貫通クラックの発生の有無が確認された。この確認は、目視、並びに、顕微鏡を使用した観察によってなされた。この結果は表1に示すとおりである。
【0040】
表1から理解できるように、「第2気孔割合Sb/Sa」が0.1%未満であると、「貫通クラック」が発生し易い。これは、燃料極110内の第2気孔の数が少な過ぎて、燃料極110内にて成長していくクラックが第2気孔に到達する確率(従って、クラックの成長が止まる確率)が極端に小さくなることに基づく、と考えられる。
【0041】
加えて、表1から理解できるように、「第2気孔割合Sb/Sa」が13%より大きいと、外力及び衝撃等に対して燃料極110全体の形状が維持され難い。これは、燃料極110内の第2気孔の数(即ち、比較的大きい空洞の数)が多すぎて、燃料極110全体の強度が極端に低下することに基づく、と考えられる。
【0042】
以上より、燃料極110の気孔率が15〜55%であり、且つ、燃料極110の内部の「第2気孔割合」が0.1〜13%である場合に、上述したSOFCが熱応力的に過酷な環境下で稼働された場合においても、「貫通クラック」が発生し難くなる、ということができる。
【0043】
ところで、図6に示すように、上記実施形態に係るSOFCにおいて、燃料極110の燃料流路に面する表面からの距離(最短距離)がT2(mm)以下の領域(図6において、微細なドットで示した領域、以下、「流路近傍領域」と呼ぶ)にて、第2気孔が形成されず複数の第1気孔のみが形成される態様を考える。図6に示す態様では、「流路近傍領域」は、厚さがT2mmの平板状の領域に対応する。即ち、図6に示す態様では、各「流路近傍領域」(図6において微細なドットで示した領域)では、第2気孔が形成されず複数の第1気孔のみが形成され、残りの領域(図6において白抜きで示した領域)では、第1、第2気孔が形成されている。図6に示すように、燃料極110の厚さをT1(mm)とする。
【0044】
本発明者は、燃料極110の気孔率が15〜55%であり、且つ、燃料極110全体の「第2気孔割合」が0.1〜13%である場合において、値「T2/T1」が50%以下であり、T2が0.1mm以上であると、上述した「貫通クラック」がより一層発生し難くなる、ことをも見出した。以下、このことを確認した試験Bについて説明する。
【0045】
(試験B)
試験Bでは、図1に示したSOFCについて、値T1、及び値T2、従って、値「T2/T1」が異なる複数のサンプルが作製された。具体的には、表2に示すように、8種類の水準(組み合わせ)が準備された。各水準に対して10個のサンプル(N=10)が作製された。
【0046】
【表2】

【0047】
各サンプル(図1に示すSOFC)について、表2に示した項目以外の寸法、材料等は、試験Aのものと同様である。「流路近傍領域」を含む燃料極110(焼成体)は、以下のように作製された。即ち、先ず、第1、第2気孔が形成されるように造孔材の量及び径が調整されたスラリーを用いて、「第1、第2気孔が内部に形成されるとともに厚さが「流路近傍領域」の厚さ分(=T2)だけ小さい燃料極用のシート」が作製される。その後、この燃料極用のシートの上に、第1気孔のみが形成されるように造孔材の量及び径が調整されたスラリーを用いて、厚さT2の膜がコーティングされる。このように膜がコーティングされた燃料極の成形体が焼成されることによって、「流路近傍領域」を含む燃料極110(焼成体)が形成される。
【0048】
この試験Bでは、試験Aで実行された熱サイクル試験より熱応力的に過酷な熱サイクル試験、即ち、「各燃料流路に還元性の燃料ガスを流通させながら、雰囲気温度を常温から750℃まで1時間で上げた後に750℃から常温まで2時間で下げるパターン」を20回繰り返す熱サイクル試験を行った。そして、各サンプルについて、貫通クラックの発生の有無が確認された。この結果は表2に示すとおりである。
【0049】
表2から理解できるように、T2が0.1mm未満であると、燃料極110の燃料流路に面する表面に欠けが発生し易い。これは、燃料極110の燃料流路に面する表面から近過ぎる位置に第2気孔が存在すること、並びに、燃料極110の燃料流路に面する表面に応力が集中し易いこと、に基づく、と考えられる。
【0050】
加えて、表2から理解できるように、値「T2/T1」が50%より大きいと、「貫通クラック」が発生し易い。これは、燃料極110内の第2気孔の数が少な過ぎて、燃料極110内にて成長していくクラックが第2気孔に到達する確率(従って、クラックの成長が止まる確率)が極端に小さくなることに基づく、と考えられる。
【0051】
以上、表1、及び表2の結果より、燃料極110の気孔率が15〜55%であり、且つ、燃料極110の内部の「第2気孔割合」が0.1〜13%である場合に「貫通クラック」が発生し難くなり、更に、この場合において、値「T2/T1」が50%以下であり、T2が0.1mm以上であると、「貫通クラック」がより一層発生し難くなる、ということができる。ここで、値「T2/T1」が、5〜50%であることが好適である。
【0052】
なお、セル100を構成する部材のうち燃料極110が最も厚い構造ではない場合(例えば、固体電解質膜120が最も厚い場合)においても、燃料極の内部の気孔の調整に関して、表3及び表4と全く同じ結果が得られることが別途判明している。
【0053】
更には、上記試験A及び試験B(表1及び表2)に示した結果は、セル100において燃料極110が最も厚い構造(従って、燃料極110がセル100全体を支持する構造)における燃料極の内部の気孔の調整に関するものであった。これに対し、セル100において空気極130が最も厚い構造(従って、空気極130がセル100全体を支持する構造)における空気極の内部の気孔の調整に関しても、上記試験A及び試験Bと同様の試験を行ったところ、上記表1及び表2と全く同じ結果が得られることが別途判明している。
【0054】
具体的には、空気極130の内部の気孔に関し、空気極130の気孔率が15〜55%であり、且つ、空気極130の内部の「第2気孔割合」が0.1〜13%である場合に「貫通クラック」が発生し難くなり、更に、この場合において、値「T2/T1」が50%以下であり、T2が0.1mm以上であると、「貫通クラック」がより一層発生し難くなる、ということができる。ここで、値「T2/T1」が、5〜50%であることが好適である。なお、この場合において、「流路近傍領域」とは、「空気極130における空気流路に面する表面からの距離がT2μm以下の領域」(厚さがT2μmの平板状の領域)を指す。また、T1(mm)は、空気極130の厚さである。
【0055】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0056】
例えば、図7に示すように、第1セパレータ200aの燃料流路内に第1集電部材201が配置されている。第1集電部材201は、燃料極110と第1セパレータ200aとを電気的に接続する。第1集電部材201は、例えば、メッシュ状である。また、第1集電部材201は、導電性を有しており、例えば、ニッケル、白金、銀、又はステンレス鋼などによって形成することができる。第1集電部材201は、第1セパレータ200aに溶接されていてもよいし、ニッケル系コンポジット材料などの接合材を介して第1セパレータ200aと接合されていてもよい。
【0057】
燃料極110は、燃料極本体部111と燃料極接合部112とを有していてもよい。燃料極本体部111は、固体電解質層120の一方面に積層されている。燃料極本体部111は、上述した燃料極110の材料によって形成されている。燃料極接合部112は、燃料極本体部111上に形成されている。具体的には、燃料極接合部112は、燃料極本体部111上の複数箇所に形成されている。燃料極接合部112は、燃料極本体部111と第1集電部材201とを接合する。燃料極接合部112は、導電性を有しており、例えば、ニッケルとジルコニアとのコンポジット材料によって形成される。そして、第2気孔は、燃料極110の一部である燃料極接合部112に存在していてもよい。
【0058】
また、第2セパレータ200bの空気流路内に第2集電部材202が配置されている。第2集電部材202は、空気極130と第2セパレータ200bとを電気的に接続する。第2集電部材202は、例えば、メッシュ状である。また、第2集電部材202は、導電性を有しており、例えば、ステンレス鋼、白金、又は銀などによって形成することができる。第2集電部材202は、第2セパレータ200bに溶接されていてもよいし、導電性セラミックス、又は上述した空気極130の材料からなる接合材を介して第2セパレータ200bと接合されていてもよい。
【0059】
空気極130は、空気極本体部131と空気極接合部132とを有していてもよい。空気極本体部131は、固体電解質層120の他方面に積層されている。空気極本体部131は、上述した空気極130の材料によって形成されている。空気極接合部132は、空気極本体部131上に形成されている。具体的には、空気極接合部132は、空気極本体部131上の複数箇所に形成されている。空気極接合部132は、空気極本体部131と第2集電部材202とを接合する。空気極接合部132は、導電性を有しており、例えば、(Mn,Co)、又は(La,Sr)(Co,Fe)Oなどによって形成される。そして、第2気孔は、空気極130の一部である空気極接合部132に存在していてもよい。
【符号の説明】
【0060】
100…セル、110…燃料極、120…固体電解質層、130…空気極、200…セパレータ、210…平板部、220…枠体部
【要約】
【課題】セルとセパレータとが交互に積層された燃料電池であって、「燃料極の燃料流路に面する表面を起点とする、前記表面から燃料極と固体電解質層との界面まで貫通する貫通クラック」が形成され難いものを提供すること。
【解決手段】この燃料電池は、セル100とセパレータ200とが1つずつ交互に積層された平板スタック構造を有する。各セル100は、120固体電解質層と、固体電解質層の上側に積層された燃料極110と、固体電解質層の下側に積層された空気極130と、を備える。各セル100について、燃料極110の気孔率が15〜55%であり、燃料極110の内部の気孔として、20μm未満の気孔径を有する複数の第1気孔と、20μm以上の気孔径を有する1つ又は複数の第2気孔と、が存在し、第1、第2気孔が占める体積の総和に対する、前記第2気孔が占める体積の総和の割合が0.1〜13%である。
【選択図】図3
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7