特許第5840105号(P5840105)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5840105
(24)【登録日】2015年11月20日
(45)【発行日】2016年1月6日
(54)【発明の名称】固体酸化物型燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/02 20160101AFI20151210BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20151210BHJP
【FI】
   H01M8/02 Z
   H01M8/12
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-238273(P2012-238273)
(22)【出願日】2012年10月29日
(65)【公開番号】特開2014-89847(P2014-89847A)
(43)【公開日】2014年5月15日
【審査請求日】2015年1月26日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「固体酸化物形燃料電池を用いた事業用発電システム要素技術開発」共同研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】誠真IP特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】松本 峰明
(72)【発明者】
【氏名】佃 洋
(72)【発明者】
【氏名】眞竹 徳久
(72)【発明者】
【氏名】吉田 慎
【審査官】 守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−144747(JP,A)
【文献】 特開平06−036782(JP,A)
【文献】 特開平07−130385(JP,A)
【文献】 特表2010−537390(JP,A)
【文献】 特開平07−034281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体管と、該基体管の上に燃料極、電解質、及び空気極を積層させて形成され、前記基体管の軸方向に沿って複数配置される発電素子と、隣り合う該発電素子を接続するインターコネクタとを備える固体酸化物型燃料電池であって、
前記基体管は、少なくともSrZrOを主成分として含むことを特徴とする固体酸化物型燃料電池。
【請求項2】
前記基体管は、Alが添加されていることを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項3】
前記基体管中における前記Alの含有率は15mol%以下であることを特徴とする請求項2に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項4】
前記基体管中における前記Alの含有率は、0.01〜5mol%の範囲であることを特徴とする請求項3に記載の固体酸化物型燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物型燃料電池(SOFC:solid oxide fuel cell)に係り、基体管上に発電素子が設けられた固体酸化物型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物型燃料電池は、酸化物を固体電解質として使用する燃料電池であり、高い効率が得られるという利点から、広く研究・開発が進められている。
固体酸化物型燃料電池の一態様として、円筒横縞型のSOFCセルがある。この円筒横縞型のSOFCセルは、筒形状をなす基体管の外周面に、燃料極、固体酸化物の電解質、空気極を積層して発電素子を形成し、この発電素子を基体管の軸方向に複数配置し、複数の発電素子をインターコネクタにより直列に接続して構成される。
【0003】
上記構成のSOFCセルでは、基体管内に燃料ガスが供給され、空気極に酸素が供給されると、空気極に供給された酸素がイオン化されて電解質膜を透過し、燃料極に達する。そして、燃料極に達した酸素と燃料ガスとの電気化学的反応により、燃料極と空気極との間に電位差が発生して、この電位差を外部に取り出すことで発電が行われる。
【0004】
円筒横縞型のSOFCセルの基体管の材料としては、漏洩電流の抑制の観点から電気抵抗が高いものが望まれる。また、焼結時における亀裂の発生等を防止する観点からは、基体管の熱膨張係数を発電素子やインターコネクタ等の他の部材の熱膨張係数に近づける必要がある。また、基体管は、燃料ガスを通過させる必要があることから、所定の気孔率が確保されることが望ましい。このように、SOFCセルの基体管には様々な要求特性があり、この要求特性を満足する基体管材料を採用する必要がある。
基体管材料の一例として、特許文献1〜3には、熱膨張係数の調整や気孔率の確保のため、安定化ジルコニアに酸化ニッケルNiO等の鉄族金属の酸化物を含有させたものが開示されている。また、特許文献4には、高温時の割れ等の破損発生を抑制するために、NiCrAlYからなる多孔質合金溶射膜の上に、アルミナ−ジルコニア混合粉末からなる多孔質セラミック溶射膜を積層したものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3233807号公報
【特許文献2】特開2010−257947号公報
【特許文献3】特許第3631923号公報
【特許文献4】特許第4093321号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、基体管は、SOFCの運転時には、内部に燃料ガスを通すため還元雰囲気となるが、緊急時に燃料が遮断されたり、あるいは、空気側のシール構造が破損する場合には、空気側から酸素が浸入することがある。このように、基体管が酸素に直接曝される状況下においては、基体管にNiが含まれていると、そのNiが再酸化して例えば0.3%程度膨張してしまい、SOFCセルが破損することがある。
【0007】
また、基体管は、熱膨張係数が発電素子やインターコネクタ等の他の部材と大きく異なると、基体管と他の部材との熱伸び差によって、基体管自体や他の材料(発電素子等)を破損させることが問題となる。特に、円筒型のSOFCでは、一般的に他の部材の層よりも厚さが格段に大きいので、基体管と他の部材との熱膨張係数差の低減の必要性が高い。
【0008】
さらに、基体管材料として安定化ジルコニアを使用した場合に、SOFCの運転中に発熱して高温となった際に、基体管にイオン導電性が現れて発電素子(燃料極)から基体管に流れる漏洩電流が発生することがあった。発電素子(燃料極)から基体管に流れる漏洩電流が発生すると、その漏洩電流が発電方向と逆方向に隣接する発電素子に移動して、SOFCの発電効率を低下させることが問題となる。
【0009】
本発明に係る幾つかの実施形態は、基体管が酸素に直接曝されても基体管中Ni等の再酸化に起因したSOFCセルの破損が防止可能であり、かつ基体管と他の部材との熱膨張係数差を低減した上で、高温時における漏洩電流発生を抑制することが可能な固体酸化物型燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の実施形態に係る固体酸化物型燃料電池は、基体管と、該基体管の上に燃料極、電解質、及び空気極を積層させて形成され、前記基体管の軸方向に沿って複数配置される発電素子と、隣り合う該発電素子を接続するインターコネクタとを備える固体酸化物型燃料電池であって、前記基体管は、少なくともSrZrOを主成分として含むことを特徴とする。
【0011】
上記固体酸化物型燃料電池によれば、SrZrOを基体管の主成分とするようにしたので、SrZrOを基体管の主成分とすることで、基体管の熱膨張係数を他の部材(発電素子やインターコネクタ等)の一般的材料の熱膨張係数に近づけるとともに、高温時においても高い電気抵抗を維持できる。また、SrZrOを基体管の主成分にすることで、酸化ニッケルNiO等の鉄族金属の酸化物を添加しなくても、基体管に要求される物性を基本的に満たすことができるから、基体管にNiO等の酸化物を添加する必要がなくなる。よって、燃料電池の運転時に還元されていたNi等が、基体管が酸素に直接曝される状況下で再酸化膨張を起こしてSOFCセルを損傷するといった事象を回避できる。
【0012】
一実施形態では、前記基体管にはAlが添加される。
【0013】
発明者による鋭意検討の結果、AlはSrZrOよりも熱膨張係数が小さいにもかかわらず、Alの添加によってSrZrOを主成分とする基体管の全体としての熱膨張係数が増大することが分かった。よって、上述のようにSrZrOを主成分とする基体管にAlを添加すれば、SrZrOの熱膨張係数が他の部材に比べて小さい場合であっても、基体管の全体としての熱膨張係数を大きくして他の部材の熱膨張係数に近づけることができる。
【0014】
また、本発明の一実施形態では、前記基体管中における前記Alの含有率は、15mol%以下、例えば、0.01〜5mol%の範囲であることとしてもよい。
【0015】
このようにすれば、基体管の熱膨張係数を他の部材により近い好適な値に調整することができる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように本発明の実施形態によれば、SrZrOを基体管の主成分とするようにしたので、SrZrOを基体管の主成分とすることで、基体管の熱膨張係数を他の部材の熱膨張係数に近づけるとともに、高温時においても高い電気抵抗を維持できる。また、SrZrOを基体管の主成分にすることで、酸化ニッケルNiO等の鉄族金属の酸化物を添加しなくても、基体管に要求される物性を基本的に満たすことができるから、基体管にNiO等の酸化物を添加する必要がなくなる。よって、燃料電池の運転時に還元されていたNi等が、基体管が酸素に直接曝される状況下で再酸化膨張を起こしてSOFCセルを損傷するといった事象を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1の実施形態の固体酸化物型燃料電池の外観図である。
図2】同実施の形態の固体酸化物型燃料電池における部分断面図である。
図3】本発明の基体管材質に係る要素試験の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態における固体酸化物型燃料電池100の外観図である。本実施形態では、固体酸化物型燃料電池100は、円筒横縞型の燃料電池であり、発電を行う素子部(電池部分)102と、該素子部102で発電された電力を集電し、固体酸化物型燃料電池100の外部へ取り出すリード部(通電部)104とから構成されている。
【0020】
次に、本実施形態の固体酸化物型燃料電池の要部の構成について説明する。図2は、本実施形態の固体酸化物型燃料電池における部分断面図である。本実施形態では、固体酸化物型燃料電池100は、略円筒形状のSOFCであり、基材として使用される略円筒形状の基体管106上に、基体管106側から順に燃料極110、電解質112、空気極114を積層された発電素子108が形成されている。発電素子108は、基体管106上に基体管106の長手方向に沿って複数形成されており、隣接する発電素子108同士がインターコネクタ116で連結されている。インターコネクタ116は、一つの発電素子108の燃料極110と、隣接する発電素子108の空気極114とを電気的に接続する。また、基体管106は、図1に示した素子部102だけでなくリード部104まで延びており、リード部104は、基体管106の外表面に形成されている。
【0021】
基体管106の空気極114が設けられた側(外周側)は、酸素を含む気体雰囲気118となっている。例えば、基体雰囲気118として空気が挙げられる。
一方、基体管106の内側(内周側)には、SOFC100の運転中に燃料ガス(水素)が流れるようになっており、還元雰囲気になっている。
【0022】
本実施形態において、基体管106は、燃料ガスや酸素を通過させる必要があることから、所定の気孔率を確保した多孔質材料から形成される。本実施形態では、基体管106の材料として、少なくともストロンチウムジルコネート(SrZrO)を主成分として含むものを使用している。なお、本実施形態の基体管106の材質については、後ほど詳細に説明する。
【0023】
燃料極110は、Niとジルコニア系電解質材料との複合材で構成され、例えば、Ni/YSZが用いられている。
【0024】
電解質112は、電子絶縁性であり、ガスを通さない気密性と高温での高いイオン透過性とを有することが求められる。このため、電解質112には、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)等が用いられている。
【0025】
空気極114は、例えば、La1−xSrxMnOで表される導電性ペロブスカイト型酸化物とジルコニア系電解質材料とを混合した材料等のランタン(La)系化合物で構成される。
【0026】
インターコネクタ116は、例えば、SrTiO系等のM1−xLxTiO(Mはアルカリ土類金属元素、Lはランタノイド元素)で表される導電性ペロブスカイト型酸化物から構成され、燃料ガスと空気とが混合しないように緻密な膜となっている。また、インターコネクタ116は、一つの発電素子108の空気極114とその発電素子108と隣接する発電素子108の燃料極110とを電気的に繋ぐことにより、隣接する発電素子108同士を電気的に直列に接続している。
【0027】
SOFC100は、基体管106の内側に水素等の燃料を供給し、基体管106の外側となる空気極114側に空気、酸素等の酸化剤を供給すると、作動温度約700〜1000℃で酸素イオン(O)が電解質112中を移動する。この際、燃料極110と空気極114との間に電位差が発生し、SOFC100によって電力が生成される。
【0028】
すなわち、酸化剤の供給により空気極114で電子を得た酸素イオンは、電解質112を通過し、燃料極110で水素と反応し水(HO)を生成して電子を放出する。このとき、電流は、燃料極110、電解質112、空気極114を流れ、インターコネクタ116を流れて隣接する発電素子108の燃料極110へと流れる。このようにして、SOFC100の運転時に電流が発生する。
【0029】
次に、本実施形態の固体酸化物型燃料電池の基材で使用される材質の詳細について説明する。SOFCの基材となる基体管の材質に要求される特性として、所定の気孔率を確保した多孔質材料であることの他に、下記の3点が挙げられる。
1)高温時にイオン導電性が現れて漏洩電流の発生を抑制するために、高い絶縁性すなわち電気抵抗を有する。
2)発電素子やインターコネクタ等の他の部材との熱膨張係数差による割れを防止するために、熱膨張係数が他の部材(燃料極110、電解質112、空気極114及びインターコネクタ116)の一般的材料に近い値(例えば、9.5〜11.5ppm/K)である。
3)SOFCの製造容易性・安定性を確保するために、焼結収縮挙動が他の部材の材質に近い。
【0030】
従来では、CaO、Y等で安定化された安定化ジルコニアに20〜50wt%のNiOを添加した材料で形成した基体管が一般的に使用されていた。しかしながら、従来の材質では、基体管中のNiの再酸化による膨張(再酸化膨張)が0.3%程度あり、SOFCセルが損傷を受けるという問題が発生していた。また、従来のSOFCの使用温度900℃での電気抵抗が10Ω・cm程度であり、SOFCの基体管としての機能を確保するために必要とされる絶縁性を得るに至らず、漏洩電流の発生を十分に抑制できていなかった。
【0031】
本発明者は、前述のSOFCの基体管材質に要求される特性を満たす材質として、少なくともストロンチウムジルコネートSrZrOを主成分として含むことが好ましいことを見出した。
【0032】
すなわち、SrZrO系の材質は、電気抵抗が概ね10Ω・cm以上であり、基体管に要求される高い絶縁性を確保して、高温時に発生する漏洩電流を無視できる程度に小さくできる。また、SrZrOの熱膨張係数が9.6ppm/Kであるから、所望の熱膨張係数(例えば、9.5〜11.5ppm/Kの範囲)であることが要求される基体管の主成分として適切である。すなわち、SrZrO系の材質は、基本的には、発電素子との熱膨張係数差による割れを防止するのに必要な熱膨張係数を確保できる。
【0033】
なお、本発明者は、鋭意検討の結果、AlはSrZrOよりも熱膨張係数が小さいにもかかわらず、Alの添加によってSrZrOを主成分とする基体管の全体としての熱膨張係数が増大することを見出した。すなわち、SrZrOのみだと熱膨張係数が9.6ppm/K程度であるが、熱膨張係数が6.5〜8ppm/K程度であるAlを添加することにより、熱膨張係数を最大10.7ppm/K程度まで大きくなる。
よって、SrZrOを主成分とする基体管にAlを添加すれば、SrZrOの熱膨張係数が他の部材に比べて小さい場合であっても、基体管の全体としての熱膨張係数を大きくして他の部材の熱膨張係数に近づけることができる。
【0034】
Alの添加によってSrZrOを主成分とする基体管の全体としての熱膨張係数が増大する現象のメカニズムは十分に解明されていないが、次のような理由によるものと考えられる。
すなわち、SrZrOにAlを添加すると、下記反応式(1)に記載のように、ストロンチウムジルコネートSrZrOの一部がジルコニアZrOとストロンチウムアルミネートSrAl1219になる。Alの添加によってSrZrOを主成分とする基体管の熱膨張係数が増大することの原因として、下記反応式(1)で生成される化合物の固溶体が形成され、生成する空孔によって電気的反発力が生じることや、SrAl1219自身の熱膨張係数が大きいことが考えられる。
SrZrO3 + xAl2O3
→ (1−x/6)SrZrO3 + (x/6)ZrO2 + (X/6)SrAl12O19・・・(1)
【0035】
また、基体管中におけるAlの含有率は、特に限定されないが、第三相として析出するZrO(上記反応式(1)参照)の比率増大に起因する基体管の電気抵抗の劣化や相変態、周辺材料との反応等の問題が生じにくい15mol%以下としてもよい。特に、Alの含有率が5mol%以下であれば、基体管の電気抵抗の劣化や相変態の問題は実質的に生じない。一方、Alの添加による基体管の熱膨張係数の増大効果は、Alの含有率が0.01mol%以上から実質的に現れる。したがって、基体管中におけるAlの含有率は、15mol%以下が好ましく、0.01mol%以上5mol%以下がより好ましい。
【0036】
なお、図1及び2に示すような円筒型のSOFC100の構成では、基体管106と発電素子108との熱伸び差によって、一般的に基体管106よりも厚さが小さい発電素子108の各層(110、112,114)が破損しやすい傾向にある。したがって、上述したSrZrOを主成分とする基体管106の採用によって、図1及び2に示す円筒型のSOFC100に対して顕著なセル破損防止効果を享受できる。
【実施例】
【0037】
次に、前述した本発明の効果を実証する要素試験の結果について説明する。なお、本発明は、これら試験結果に限定されるものでない。
【0038】
要素試験は、下記の条件で実施された。
1)基体管の主成分として、SrZrO用いて、Alの添加量を変えたサンプルを複数作製した。
2)各サンプルの電気抵抗、熱膨張係数、再酸化膨張量を測定した。
3)基体管を模した各サンプル上に燃料極、電解質、インターコネクタ、及び空気極を成膜して発電素子(セル)を作製して、共焼結の成立性を評価した。
【0039】
上記の条件による本発明の基体管材質に係る要素試験の結果を図3の表に示す。なお、図3における試験例1〜6は、Alの含有率がそれぞれ0mol%、1mol%、3mol%、5mol%、10mol%、15mol%である6種類のサンプルに関して、電気抵抗、熱膨張係数および再酸化膨張量の測定結果と、共焼結の成立性の評価結果とを示している。また、図3には、試験例1〜6との比較例として、安定化ジルコニアCSZに20〜50wt%のNiOを添加した従来例の試験結果も併せて示している。
【0040】
図3に示すように、比較例で示す従来の(CSZ+NiO)材料と比較して、SrZrOを使用することで、900℃における電気抵抗を200倍以上と大幅に増大できることが分かった。これにより、SrZrOを主成分とする基体管は、高温環境下においても十分な電気抵抗を有することが確認された。
【0041】
熱膨張係数に関しては、図3より、SrZrOが基体管の材質に求められる熱膨張係数の範囲(9.5〜11.5ppm/K)を満たすことが分かった。また、SrZrOにAlを添加することにより、基体管の熱膨張係数を増大させ、他の部材(発電素子やインターコネクタ)の熱膨張係数の値に近づけることができるので、共焼結が成立し易くなることが分かった。特に、試験例2〜4に示すように、Alの含有率が1〜5mol%となるように添加すると、より高い電気抵抗を示す。なお、試験例5及び6に示すように、Alの含有率を10mol%以上に増やしても、熱膨張係数のさらなる増大は見込めず、900℃における電気抵抗は低下し始めることも確認された。なお、図3の試験結果には含まれていないが、Alの添加による基体管の熱膨張係数の増大効果は、Alの含有率が0.01mol%以上から実質的に現れることが確認されている。
よって、SrZrOへのAlの添加量として、基体管中におけるAlの含有率が15mol%以下であることが好ましく、0.01〜5mol%がより好ましいことが確認された。
【0042】
また、SrZrOを主成分とする形成した基体管は、NiOを含まないニッケルフリーの材質としているため、酸化雰囲気でも再酸化膨張を起こさないことが見出された。このため、基体管の主成分としてSrZrOを採用することにより、基体管が酸素と直接接する環境下における基体管の破損リスクを低減できることが分かった。
【0043】
さらに、試験例1〜6の結果により、基体管の上に燃料極、電解質、インターコネクタを成膜し、共焼結を行った結果、良好な成膜性が確認されたので、SrZrOを主成分とする基体管がSOFCの製造に適用できることが分かった。
【0044】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。従って、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
【0045】
例えば、明細書または図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書または図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。
【符号の説明】
【0046】
100 固体酸化物型燃料電池(SOFC)
102 素子部
104 リード部(通電部)
106 基体管
108 発電素子
110 燃料極
112 電解質
114 空気極
116 インターコネクタ
図1
図2
図3