特許第5840889号(P5840889)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5840889
(24)【登録日】2015年11月20日
(45)【発行日】2016年1月6日
(54)【発明の名称】RTM成形方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 39/22 20060101AFI20151210BHJP
   B29C 39/02 20060101ALI20151210BHJP
   B29C 39/42 20060101ALI20151210BHJP
   B29C 33/40 20060101ALI20151210BHJP
   B29C 39/34 20060101ALI20151210BHJP
   B29K 101/10 20060101ALN20151210BHJP
   B29K 105/08 20060101ALN20151210BHJP
   B29L 31/30 20060101ALN20151210BHJP
【FI】
   B29C39/22
   B29C39/02
   B29C39/42
   B29C33/40
   B29C39/34
   B29K101:10
   B29K105:08
   B29L31:30
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-172474(P2011-172474)
(22)【出願日】2011年8月8日
(65)【公開番号】特開2013-35194(P2013-35194A)
(43)【公開日】2013年2月21日
【審査請求日】2014年7月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】508359147
【氏名又は名称】株式会社ニューケミカル
(74)【代理人】
【識別番号】100122552
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 浩二郎
(72)【発明者】
【氏名】飯野 豊
【審査官】 大塚 徹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−028939(JP,A)
【文献】 特開平09−057760(JP,A)
【文献】 特開昭59−145116(JP,A)
【文献】 特開平01−105735(JP,A)
【文献】 特開昭59−006226(JP,A)
【文献】 特開2004−202980(JP,A)
【文献】 特開2009−137204(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 39/00−39/44
B29C 33/00−33/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下型にゲルコート塗装をしてから強化繊維シートを敷設するとともに所定の位置に置き駒を配し、その後上型を被せて上下両型の外周側重ね合わせ部分を所定の手段で密着させ、注入口から熱硬化性樹脂を注入して強化繊維シートに含浸させながら型内部総てに亘って充填した後、所定の温度で加熱し前記熱硬化性樹脂を硬化させてFRP成形品を得るRTM成形方法において、
前記熱硬化性樹脂はフェノール樹脂であり、前記置き駒は、軟質樹脂製の駒と硬質樹脂製の駒の組み合わせからなり前記型内部でアンダー部分を有した隙間空間を埋めるように配置されるものとされ、前記軟質樹脂製の駒はその一部を前記アンダー部分に挿入して適用され、前記硬質樹脂製の駒はその一部を前記軟質樹脂製の駒に密着した状態でこれに組み合わされるものとされ、且つ、前記上型の型内部中央位置には前記熱硬化性樹脂を注入するための注入口が開口し、前記上型の型内部両端側には注入作業による余分な空気や過剰な樹脂を排出するための排出口が開口しており、前記排出口に接続した吸引ラインの吸引圧力と前記注入口の注入圧力を変更させながら前記熱硬化性樹脂の充填を行い、脱型の際には、先に前記硬質樹脂製の駒を取り外してから前記軟質樹脂製の駒を弾性変形させながら取り外す、ことを特徴とするRTM成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RTM成形方法及びそれによるFRP成形品に関し、殊に、マトリックス樹脂にフェノール樹脂を用いたRTM成形方法、及びそれにより作成した軽量かつ難燃性のFRP成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
宇宙・航空機用部品の分野では、安全性確保の観点から耐熱性・難燃性に優れたものが求められており、内装等に用いられる樹脂成形品においてもポリエステル樹脂やビニールエステル樹脂に水酸化アルミニウム等の難燃物質を混入して耐熱性・難燃性を高めたものが一般に用いられている。
【0003】
斯かる難燃物質を混入した樹脂をRTM(Resin Transfer Molding)成形に用いた場合は、樹脂の粘度が高く強化繊維に含浸しにくいことでボイド等を生じて成形品の精度低下を招きやすくなるという問題がある。そのため、難燃性樹脂にはハンドレイアップ(手積み積層)成形が採用されるのが通常であるが、この成形方法では多数の手間を要して生産性の確保が困難となりやすい。また、特に軽さが要求される航空機用部品においては、難燃物質を混入することで比重が大きくなるデメリットも指摘されている。
【0004】
一方、比較的比重が小さく機械的強度と耐熱性・難燃性に優れた熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂が周知である。これをRTM成形のマトリックス樹脂に用いる場合は、前述の難燃物質を混入した樹脂と比べれば粘度は低いものの、成形品の形状によっては含浸不充分な部分が発生しやすく、またアンダー部分を含む複雑な形状を有した部品を少ない手間で精度高く成形することは困難とされている。
【0005】
これに対し、特開2001−260238号公報には、コア材の表面に溝を設けてその一面側からフェノール樹脂を注入することで溝を通して樹脂を拡散させるものとしながら、コア材樹脂注入側の面から反対側の面に貫通する貫通孔を設け、これを通してコア材反対側面に樹脂を拡散させる方式が提案されており、マトリックス樹脂にフェノール樹脂を用いた場合でも含浸不充分の部分が生じることを回避しやすくしたRTM成形方法として知られている。
【0006】
しかしながら、この成形方法は、コア材のない成形品には適用できないことに加え、アンダー部分等を含む複雑な形状を有したものを少ない手間で高精度に作成することは依然として難しいという難点がある。一方、近年では比較的低粘度のフェノール樹脂も普及しており、これをRTM成形方法に使用することで樹脂含浸性の改善が期待されるところ、これに加えて複雑な形状部分を有したものであってもフェノール樹脂を用いて精度高く成形可能とする技術の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−260238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題を解決しようとするものであり、樹脂成形品について、複雑な形状部分を有したものであってもマトリックス樹脂にフェノール樹脂を用いながら生産性の低下を伴うことなく高精度に成形できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明は、下型にゲルコート塗装をしてから強化繊維シートを敷設するとともに所定の位置に置き駒を配し、その後上型を被せて上下両型の外周側重ね合わせ部分を所定の手段で密着させ、注入口から熱硬化性樹脂を注入して強化繊維シートに含浸させながら型内部総てに亘って充填した後、所定の温度で加熱し熱硬化性樹脂を硬化させてFRP成形品を得るRTM成形方法において、前記熱硬化性樹脂をフェノール樹脂とし、前記置き駒が軟質樹脂製の駒と硬質樹脂製の駒の組み合わせからなり、型内部でアンダー部分を有した隙間空間を埋めるように配置されるものとされ、軟質樹脂製の駒はその一部を前記アンダー部分に挿入して適用され、硬質樹脂製の駒はその一部を軟質樹脂製の駒に密着した状態でこれに組み合わされるものとされ、且つ、上型の型内部中央位置には熱硬化性樹脂を注入するための注入口が開口し、その上型の型内部両端側には注入作業による余分な空気や過剰な樹脂を排出するための排出口が開口しており、この排出口に接続した吸引ラインの吸引圧力と前記注入口の注入圧力を変更させながら熱硬化性樹脂の充填を行い、脱型の際には、先に硬質樹脂製の駒を取り外してから前記軟質樹脂製の駒を弾性変形させながら取り外す、ことを特徴とするものとした。
【0010】
このように、フェノール樹脂をマトリックス樹脂として使用することで、軽量で機械的強度が高く耐熱性・難燃性に優れて宇宙・航空部品等に適したFRP成形品を得られるが、その置き駒に軟質製樹脂の駒と硬質性樹脂の駒を組み合わせからなるものを使用することにより、アンダー部分のある隙間空間に対応しながらフェノール樹脂によるRTM成形を実施しやすいものとなって、複雑な形状部分を有したものでも生産性を損なうことなく精度高く成形できるようになり、その硬質樹脂製の駒の一部を軟質製樹脂の駒に密着した状態で組み合わせて脱型の際に先に硬質樹脂製の駒を取り外してから軟質樹脂製の駒を弾性変形させて取り外す構成としたことで、アンダー部分を有した複雑な形状にも容易に対応可能なものとなり、中央部の注入口の注入圧力と両端側の排出口の吸引圧力を変更させながら樹脂の充填を行う方式としたことにより、注入圧力を低く設定することが可能なものとなる。
【発明の効果】
【0014】
マトリックス樹脂にフェノール樹脂を使用して軟質樹脂製の駒と硬質樹脂製の駒の組み合わせによる置き駒を使用するものとした本発明によると、複雑な形状部分を有したFRP成形品であってもマトリックス樹脂にフェノール樹脂を用いながら生産性の低下を伴うことなく高精度に成形できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明における実施の形態のRTM成形方法の手順を説明するためのフローチャートである。
図2図1のRTM成形方法に使用する下型及び表面駒・置き駒の構成を示す斜視図である。
図3図2の下型に表面駒と置き駒を配した状態を示す斜視図である。
図4図1のRTM成形方法に使用する上型の構成を説明するために型内部を上に向けて置いた状態を示す斜視図である。
図5図1のRTM成形方法において下型にゲルコート塗装を施した状態を示す斜視図である。
図6図1のRTM成形方法において下型にゲルコート塗装、プライマー処理を施してから強化繊維シート、置き駒の順に配した際のアンダー部分を有する隙間空間の状態を示す部分縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を説明する。
【0017】
図1は本実施の形態による成形方法をフローチャートで示したものであるが、本実施の形態はFRP成形品をRTM成形により作成する場合に関するものであり、その一例として旅客機のラバトリー内装部品を作成する際の成形方法の手順を示している。
【0018】
先ず、下型の型内部に所定の厚さでゲルコート塗装を施し(S1)、塗装が乾燥してからマトリックス樹脂とゲルコート塗装層との親和性を高める目的でプライマー処理を施した(S2)後、グラスファイバー等をシート状に織った強化繊維シートをまんべんなく敷設し(S3)、アンダー部分等の型抜きが困難な形状位置に置き駒を配設する(S4)。
【0019】
そして、上型を下型に被せて、上下両型の外周側のフランジが重なっている部分から吸引口を介し空気を吸引して上下両型を真空密着させるとともにクランプで固定して(S5)、上型の注入口から熱硬化性樹脂を注入し(S6)、強化繊維シートに含浸させながら型内部の全体に行き渡るように充填させた後、所定の温度で所定時間加熱して熱硬化性樹脂を硬化させ(S7)、上下の型を開いて脱型させることで(S8)成形作業が完了し、目的のFRP成形品を得る。
【0020】
このRTM成形方法の手順自体は従来例にも見られる周知のものであるが、本実施の形態のRTM成形方法では、そのマトリックス樹脂にフェノール樹脂を用いており、且つ、その置き駒が軟質樹脂製の駒と硬質樹脂製の駒の組み合わせからなり軟質樹脂製の駒がその一部をアンダー部分に一致する形状とされてこれに挿入した状態で適用され、硬質樹脂製の駒がその一部を軟質樹脂製の駒に密着した状態で組み合わされて置き駒としてアンダー部分を有した隙間空間を充填するものとされ、脱型の際に先に硬質樹脂製の駒を取り外してから軟質樹脂製の駒を弾性変形させながら取り外す構成とした点を特徴としている。
【0021】
即ち、フェノール樹脂を用いてRTM成形を行う場合、アンダー部分を有した隙間空間等の複雑な形状を含んで成形するケースでは、FRP成形品の剛性が強く変形しにくいこともあって脱型が容易ではない部分を生じることから、多数の駒を複雑に組み合わせた置き駒を配して実施する必要があり、多数の手間とコストを要して高い生産性を確保しにくいのが通常であった。そこで本発明では、弾性変形容易な軟質樹脂製の駒と剛性のある硬質樹脂製の駒を組み合わせてなる置き駒を用いることで、最小限の駒数による簡易な手順により複雑な形状部分であっても精度高く成形可能としたものである。
【0022】
この軟質樹脂製の駒としては、耐熱性及び適度な弾性変形能確保の観点からシリコン樹脂によるものが好適であり、硬質樹脂製の駒としては耐熱性と剛性確保の観点からベークライトによるものが好適である。また、ゲルコート塗装へのプライマー処理は、マトリックス樹脂にフェノールを用いている本実施の形態では必須である。
【0023】
また、フェノール樹脂を使用するメリットとしては、耐熱性・難燃性が求められる航空機用部品の成形の際に難燃物質を混入する必要がなくなるため、樹脂の粘度上昇が抑えられて型内部の複雑な形状部分まで行き渡り易くなり、ハンドレイアップ成形方法ではなくRTM成形方法を採用することが可能となり、かつ、RTM成形により成形品裏面側も平滑に仕上げられるとともに、高い機械的強度を確保しつつ比重を軽く抑えることが可能になるという点が挙げられる。
【0024】
図2は、本実施の形態のRTM成形方法に使用する下型2及び表面駒4、駒5a,5bの組み合わせによる置き駒5の構成を示している。この場合、下型2の上面から側面に亘って凹んだ部分が型内部20であり、その周囲は平坦なフランジ23となっているが、この型内部20の一端側に表面駒4を配置することで、アンダー部分25aを有した隙間空間25を形成するようになっている(図6参照)。
【0025】
図3は、下型2に表面駒4を配することで形成されたアンダー部分25a(図6参照)を有する隙間空間25に駒5a,5bの組み合わせによる置き駒5を配した状態を示している。駒5aはシリコン樹脂を用いてスキー板状に形成した軟質樹脂製のものであり、比較的容易に弾性変形するためアンダー部分25aへの装着・取り外しが容易である点を特徴としている。一方、駒5bはベークライトを駒5aの5分の2程度の長さの短冊状に形成した硬質樹脂製のものであり、一面側を駒5aの湾曲した側面部分に密着した状態で一体に組み合わされており、これらで置き駒5を構成しながら、表面駒4側面と下型2に形成した突出部分21との間に形成される隙間空間25を埋めるように配設されている。
【0026】
図4は、下型2に被せて用いる上型3を示しており、型内部30側の構成を説明するために成形作業時とは上下逆にして置いた状態としている。この上型3の型内部30は、前述した下型2の型内部20の凹形状に対応した凸形状となっており、その周囲のフランジ33には外周側と内周側にシール部材31,32が配設され、これが下型3のフランジ23に密着して重ね合わせ部の内側をシールした状態で吸引口33aから吸引することで下型2と上型3が真空密着するようになっている。
【0027】
また、この上型3の型内部30には注入口30aが開口しており、ここからフェノール樹脂が注入されるようになっている。また、その両端側には排出口30b,30cが開口しており、注入作業による余分な空気や過剰な樹脂がこれを介して外部に排出されるようになっている。尚、本実施の形態では、フェノール樹脂を注入口30aから所定の圧力で注入しながら大気側との差圧により排出口30b,30cから排出する方式としたが、排出口30b,30cに吸引ラインを接続して注入圧力と吸引圧力を調整しながら樹脂の充填を行う方式も可能であり、これにより注入圧力を低く設定することも可能となる。また、図のように必要に応じて上型3の一部に置き駒を配してもよい。
【0028】
図5は、下型3に表面駒4を配した状態でゲルコート塗装層20を設けた状態を示している。ゲルコート塗装層20はFRP成形品使用時に外部に露出する表面部分を覆うように設けるものであるが、その表面(マトリックス樹脂側)には、他の樹脂に対する接着性に乏しいフェノール樹脂との間の親和性を高める目的で所定のプライマー処理を施すことが必要となる。このプライマー処理としては、半硬化状態の所定のエポキシアクリレート等、現在普及している種々の手段を用いることができる。
【0029】
図6は、上述したRTM成形方法において、下型2にゲルコート塗装層50を設けてプライマー処理を施してから、強化繊維シート60、置き駒5の順に配した際のアンダー部分25aを有する隙間空間25の状態を示している。本実施の形態では、図のようにアンダー部分25aに適用する形状を有した弾性変形可能な軟質樹脂製の駒5aを表面駒4の側面側からアンダー部分25aに亘って挿入し、硬質樹脂製の駒5bを駒5aの側面側に密着しながら型内部30の突出部分21との間に挿入することで組み合わせられて、置き駒5を構成したものとなっている。
【0030】
このような置き駒5の構成としたことで、駒5aが配置および取り外しの際に容易に弾性変形してアンダー部分25aの形状に対応可能なものとなり、このような軟質の駒5aに、剛性を備えた駒5bを組み合わせることで、アンダー部分25aを有した隙間空間25を適度に充填し型抜きしやすい状態として、最小限の駒数と手間で精度高い成形を可能としており、高い生産性を確保できるようになっている。
【0031】
以上、述べたように、樹脂成形品について、本発明により、複雑な形状部分を有したものであっても、マトリックス樹脂にフェノール樹脂を用いながら生産性の低下を伴うことなく高精度に成形できるようになった。
【符号の説明】
【0032】
2 下型、3 上型、4 表面駒、5 置き駒、5a,5b 駒、20,30 型内部、23,33 フランジ、25 隙間空間、25a アンダー部分、30a 注入口、30b,30c 排出口、33a 吸引口、50 ゲルコート塗装層、60 強化繊維シート
図1
図2
図3
図4
図5
図6